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特開2024-157221資本価値算出システム、並びに資本価値算出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157221
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】資本価値算出システム、並びに資本価値算出方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/06 20120101AFI20241030BHJP
【FI】
G06Q40/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071449
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田部 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】加藤 猛
(72)【発明者】
【氏名】嶺 竜治
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 康一
(72)【発明者】
【氏名】舟根 司
【テーマコード(参考)】
5L040
5L055
【Fターム(参考)】
5L040BB55
5L055BB55
(57)【要約】
【課題】選択した地域に応じた社会目標と制約条件に基づいて、社会課題を解決するための非市場財の資本価値を算出可能とする資本価値算出システム、並びに資本価値算出方法を提供する。
【解決手段】計算機を用いて資本価値を算出する資本価値算出システムであって、計算機は、ヒトの経済活動に関わり市場で取引可能な市場財パラメータと、ヒトの活動に関わり市場で取引不可能な非市場財パラメータとを得る入力部と、市場財パラメータと非市場財パラメータから、関心地域の経済効用、環境効用、社会効用の3つの効用を求め、3つの効用の重み付け合成値として関心地域の社会目標指標を算出し、市場財パラメータと非市場財パラメータの連関を表す制約条件関数との差の極値を与える制約条件関数の重み係数関数を算出し、市場財パラメータと、非市場財パラメータとを重み係数関数に入力して資本価値を算出する計算演算部と、資本価値を出力する出力部と、を有することを特徴とする資本価値算出システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計算機を用いて資本価値を算出する資本価値算出システムであって、
前記計算機は、
ヒトの経済活動に関わり市場で取引可能な市場財パラメータと、ヒトの活動に関わり市場で取引不可能な非市場財パラメータとを得る入力部と、
前記市場財パラメータと前記非市場財パラメータから、関心地域の経済効用、環境効用、社会効用の3つの効用を求め、前記3つの効用の重み付け合成値として関心地域の社会目標指標を算出し、前記市場財パラメータと前記非市場財パラメータの連関を表す制約条件関数との差の極値を与える前記制約条件関数の重み係数関数を算出し、前記市場財パラメータと、前記非市場財パラメータとを前記重み係数関数に入力して資本価値を算出する計算演算部と、
前記資本価値を出力する出力部と、
を有することを特徴とする資本価値算出システム。
【請求項2】
請求項1に記載の資本価値算出システムであって、
前記市場財パラメータは、人工資本、人的資本、希少資源のいずれか1つ以上を含むことを特徴とする資本価値算出システム。
【請求項3】
請求項1に記載の資本価値算出システムであって、
前記非市場財パラメータは、自然資本、社会資本、制度資本のいずれか1つ以上を含むことを特徴とする資本価値算出システム。
【請求項4】
請求項1に記載の資本価値算出システムであって、
前記入力部は、前記制約条件関数の下で取りうる、前記市場財パラメータと前記非市場財パラメータとの組み合わせとして表される、関心地域の予測シナリオと、関心地域の経済効用、環境効用、社会効用の前記3つの効用の重み付けの組み合わせとして表される、関心地域の予測社会目標関数と、を入力する予測シナリオ入力部を含み、
前記計算演算部は、前記関心地域の予測シナリオにおける前記資本価値を算出する、
ことを特徴とする資本価値算出システム。
【請求項5】
請求項1に記載の資本価値算出システムであって、
前記入力部は、前記市場財パラメータと前記非市場財パラメータとして、関心地域の市場財のセンシングや統計に基づく時変市場財パラメータ、及び、関心地域の非市場財のセンシングや統計に基づく時変非市場財パラメータとを得ることを特徴とする資本価値算出システム。
【請求項6】
請求項5に記載の資本価値算出システムであって、
前記計算演算部は、前記時変市場財パラメータと前記時変非市場財パラメータとから、時変資本価値を算出し、
前記出力部は、前記時変資本価値を、クレジット化し、或いはデリバティブ化し、或いは保険商品化して第三者機関に提示することを特徴とする資本価値算出システム。
【請求項7】
請求項6に記載の資本価値算出システムであって、
前記計算演算部は、前記時変市場財パラメータ、及び前記時変非市場財パラメータの過去パラメータとのパラメータ変化と、前記パラメータ変化の頻度を計算し、前記パラメータ変化と、前記頻度と、前記時変資本価値とを乗ずることで、前記時変資本価値の変化を計算することを特徴とする資本価値算出システム。
【請求項8】
請求項6に記載の資本価値算出システムであって、
前記計算演算部は、前記時変市場財パラメータと、前記時変非市場財パラメータと、から現時点社会目標関数と、前記現時点社会目標関数と前記社会目標関数とから、現時点社会目標差分を計算し、現時点社会目標差分と、過去の社会目標差分との目標差分値に比例する係数を、前記時変資本価値に乗ずることを特徴とする資本価値算出システム。
【請求項9】
計算機を用いて資本価値を算出する資本価値算出方法であって、
前記計算機は、
ヒトの経済活動に関わり市場で取引可能な市場財パラメータと、ヒトの活動に関わり市場で取引不可能な非市場財パラメータとを得、
前記市場財パラメータと前記非市場財パラメータから、関心地域の経済効用、環境効用、社会効用の3つの効用を求め、前記3つの効用の重み付け合成値として関心地域の社会目標指標を算出し、前記市場財パラメータと前記非市場財パラメータの連関を表す制約条件関数との差の極値を与える前記制約条件関数の重み係数関数を算出し、前記市場財パラメータと、前記非市場財パラメータとを前記重み係数関数に入力して資本価値を算出し、前記資本価値を出力することを有することを特徴とする資本価値算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、社会課題を解決する社会目標と社会の制約条件の下において、非市場財を含めた資本価値を算出する資本価値算出システム、並びに資本価値算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気、水、土壌、樹木、動物、微生物といった生態系からなる自然資本や、公共に用いられる道路、湾港、鉄道といったインフラストラクチャ―からなる社会資本や、教育、医療制度、司法・行政、金融といった制度からなる制度資本など、市場価値で測ることが難しい非市場財の価値を定量的に評価し、経済活動の内部に組み込むことで、持続的な社会を実現する取組が進められている(例えば非特許文献1)。
【0003】
これに関連して例えば特許文献1では、市場資産と非市場資産との相関から経済価値を算出する価値算出システムとして、「基礎となる非取引資産と市場資産との間の相関関係を説明する拡張ブラックショールズ式に基づき、金融資産としての価値を生成する」ことを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】USP07613646
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hirofumi Uzawa,Economic analysisof social common capital
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、市場資産と非市場資産との相関から経済価値を算出する価値算出システムとしているが、市場原理に基づいて決定された市場価格と対応する形で非取引資産(非市場財)の価値を評価するため、その価格で非市場財を金融デリバティブとして取引したとしても、持続的な社会という社会目標を実現する保証がない。具体的には例えば環境重視社会では自然資本の価値は高いものとされるが、経済重視社会では自然資本の価値は低いものとされがちである。また、様々な社会シナリオ、条件に応じて変化する自然資本ストックや、そこから得られる生態系サービスの価値を、統一した基準によって算出できていなかった。
【0007】
また、ダイナミック(動的な市場)なものに対応するという考え方もあるが、非市場資産と市場資産との相関分析であり、市場の経済価値を考慮した算出にとどまり、経済・環境・社会の価値を考慮した対価算出ができていなかった。なお、社会の現時点の状態に応じたダイナミックな価値変換においては、自然資本ストックが社会要求に対して不足していたら価値が高くなり、十分なら価値が低くなるという傾向がある。このため、持続可能な社会にとっての価値最大化となるものではない。
【0008】
以上のことから本発明の目的とするところは、選択した地域に応じた社会目標と制約条件に基づいて、社会課題を解決するための非市場財の資本価値を算出可能とする資本価値算出システム、並びに資本価値算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上のことから本発明においては、「計算機を用いて資本価値を算出する資本価値算出システムであって、計算機は、ヒトの経済活動に関わり市場で取引可能な市場財パラメータと、ヒトの活動に関わり市場で取引不可能な非市場財パラメータとを得る入力部と、市場財パラメータと非市場財パラメータから、関心地域の経済効用、環境効用、社会効用の3つの効用を求め、3つの効用の重み付け合成値として関心地域の社会目標指標を算出し、市場財パラメータと非市場財パラメータの連関を表す制約条件関数との差の極値を与える制約条件関数の重み係数関数を算出し、市場財パラメータと、非市場財パラメータとを重み係数関数に入力して資本価値を算出する計算演算部と、資本価値を出力する出力部と、を有することを特徴とする資本価値算出システム」としたものである。
【0010】
また本発明においては、「計算機を用いて資本価値を算出する資本価値算出方法であって、計算機は、ヒトの経済活動に関わり市場で取引可能な市場財パラメータと、ヒトの活動に関わり市場で取引不可能な非市場財パラメータとを得、市場財パラメータと非市場財パラメータから、関心地域の経済効用、環境効用、社会効用の3つの効用を求め、3つの効用の重み付け合成値として関心地域の社会目標指標を算出し、市場財パラメータと非市場財パラメータの連関を表す制約条件関数との差の極値を与える制約条件関数の重み係数関数を算出し、市場財パラメータと、非市場財パラメータとを重み係数関数に入力して資本価値を算出し、資本価値を出力することを有することを特徴とする資本価値算出方法」としたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、選択した地域に応じた社会目標と制約条件に基づいて、社会課題を解決するための非市場財の資本価値算出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例1に係る資本価値算出システムの概略構成例を示す図。
図2】非市場財の資本価値係数の一例を示す図。
図3】本発明の実施例1に係る資本価値算出プログラムの構成例を示す図。
図4】本発明の実施例2に係る資本価値算出システムの概略構成例を示す図。
図5】予測シナリオの一例を示す図。
図6】将来社会形態A、B、C毎のCO資本価値係数、森林資本価値係数を大小比較して示した図。
図7】本発明の実施例2に係る資本価値算出プログラムの構成例を示す図。
図8】本発明の実施例3に係る資本価値算出システムの概略構成例を示す図。
図9】時系列的な運用による試算結果を示す図。
図10】資本価値算出システム1により実現可能な社会構造、社会運用事例について説明する図。
図11】供給と価格の関係を縦横軸に示す図。
図12】(12)式の関係を示す特性図。
図13】社会的感度βを変数とし、社会目標を変化させたときの社会的ベクトルを示す図。
図14】パラメトリック保険システムの構成例を示す図。
図15】本発明の概念を総括的に示す図。
図16】市場財パラメータ、非市場財パラメータ及び社会効用の重みのデータ形式例を示す図。
図17】資本価値算出システム1の計算機アプリケーションのユーザインターフェース例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について、図面を用いて説明する。
【実施例0014】
図1は、本発明の実施例1に係る資本価値算出システムの概略構成例を示している。
【0015】
資本価値算出システム1は、計算機を用いて実現されており、入力部I、出力部O、計算演算部CPUを主たる構成要素としているが、適宜これら以外の構成要素を含んでいてもよい。これらは例えば各種データを予め保存し、あるいは中間生成的なデータ、最終成果物としてのデータを保存するデータベースであり、あるいはネットワークを介して適宜接続される外部機器などである。
【0016】
このうち、入力部Iは少なくとも市場財パラメータP1および非市場財パラメータP2を取り込む。ここで「取り込み」とは、ネットワークを介してクラウドから得ること、ユーザが手入力すること、あるいは計算機内外のデータベースから得ることのいずれの態様のものであってもよい。
【0017】
また入力部Iは、ユーザから資本価値算出システム1の各種処理メニューの選択指示を受け付け、あるいは地域条件の選択指示を受け付け、あるいは社会目標を受け付けるためなどに使用可能である。
【0018】
なおここで市場財パラメータP1とは、ヒトの経済活動に関わり市場で取引可能な、人工資本、人的資本、希少資源といった指標であり、これに対し非市場財パラメータP2とは、ヒトの活動に関わり市場で取引不可能な、生態系からなる自然資本、公共に用いられる社会資本、社会制度からなる制度資本といった指標であり、これら指標のいずれか1つ以上が市場財パラメータP1あるいは非市場財パラメータP2として取り込まれる。
【0019】
このように、入力部Iは、ヒトの経済活動に関わり市場で取引可能な、人工資本、人的資本、希少資源といった指標からなる市場財パラメータP1と、ヒトの活動に関わり市場で取引不可能な、自然資本、社会資本、制度資本といった指標からなる非市場財パラメータP2を入力するという機能を果たしている。
【0020】
計算演算部CPUでは、以下に詳細説明を行う手順に従って資本価値を算出し、求めた資本価値を出力部Oから出力する。出力される資本価値は、例えばモニタ画面上に可視化されて表示される。
【0021】
計算演算部CPUの処理では、まず入力した市場財および非市場財の個々のパラメータP(P1、P2)を経済、環境、社会の3元要因の少なくともいずれかに割り当てる。経済に影響を与えるパラメータPは経済に、環境に影響を与えるパラメータPは環境に、社会に影響を与えるパラメータPは社会に分類し、かつ各パラメータPが経済、環境、社会の各3元要因に対して与える影響の大きさ(効用)を、経済効用Ueco、環境効用Uenv、社会効用Usocとして数値化して求める。ここまでの処理が、経済効用算出部11a、環境効用算出部11b、社会効用算出部11cでそれぞれ行われる。
【0022】
次に経済効用重み部12a、環境効用重み部12b、社会効用重み部12cでは、経済効用算出部11a、環境効用算出部11b、社会効用算出部11cで求めた経済効用Ueco、環境効用Uenv、社会効用Usocに対して、解析を進める地域ごとに(以下、この地域を関心地域という)、地域の特性を反映した重みをそれぞれ付与し、重み付け経済効用Ueco、重み付け環境効用Uenv、重み付け社会効用Usocを算出する。地域の特性を反映した重みは、入力部Iを介して、ユーザから与えられる地域条件の選択指示に含まれている情報であり、あるいは地域ごとに予め準備されている情報である。
【0023】
合成部13では、重みづけされた経済効用Ueco、環境効用Uenv、社会効用Usocの積をもとめ、これを社会目標指標とする。合成部13までの演算処理は、社会目標関数を求めたものであって、これらにより社会目標関数部10を形成したものということができる。
【0024】
社会目標関数部10で求めた社会目標関数は、市場財あるいは非市場財のパラメータPが経済、環境、社会の各3元要因に対して与える影響の大きさを、地域事情に応じた重みづけをして求めた総合積である。この総合積は、経済、環境、社会の各3元要因に対して与える影響をまとめたものであり、その最大化が社会目標となる。
これに対してパラメータの中には3元要因に対する負の影響要因が存在する。あるいは3元要因の一方に対しては正の影響要因となるが、3元要因の他方に対しては負の影響要因となるという、例えばトレードオフの関係を有するパラメータが存在する。また、パラメータの間にも、比例や反比例といった連関が存在する。このため、制約条件関数算出部21では経済、環境、社会の各3元要因に対して影響度を有するパラメータを制約条件により抽出し、重み係数部22で重みづけし負号を掛け合わせたうえで、加算部31において社会目標関数部10で求めた社会目標関数に加算する処理を行う。ここで制約条件とは、市場財パラメータと非市場財パラメータの連関を表す指標ということができる。これにより、社会目標を最大化する条件が数値把握されて得られる。
【0025】
さらに計算演算部CPUの処理では、重み係数関数算出部41において重み係数を調整し、資本価値算出部42において市場財パラメータP1および非市場財パラメータP2を反映した資本価値を数値化して求める。これらの資本価値は、関心地域ごとに求められる。重み係数の調整では、市場財パラメータと非市場財パラメータの連関を表す制約条件関数との差の極値を与える制約条件関数の重み係数関数を算出するのがよい。
【0026】
以上により計算演算部CPUの処理では、市場財パラメータP1と非市場財パラメータP2から、関心地域の経済効用Ueco、環境効用Uenv、社会効用Usocの3つの効用を重みづけして求め、その合成値として関心地域の社会目標指標を算出する社会目標関数と、市場財パラメータP1と非市場財パラメータP2の連関を表す制約条件関数との差の極値を与える制約条件関数の重み係数関数を算出し、市場財パラメータP1と、非市場財パラメータP2とを重み係数関数に入力して資本価値を算出する。
【0027】
以下、計算演算部CPUの処理について、具体事例に即して詳細に説明する。まず社会目標関数を設定することについて説明する。
【0028】
なおここでは、市場財パラメータP1の例が生産活動Xtと保全活動Ytであり、非市場財パラメータP2の例が大気中CO量Vtと森林バイオマス量Rtであるものとする。また重みづけされた経済的効用をUeco、環境的効用をUenv、社会的効用をUsocと表記するものとする。
【0029】
この場合、図1の社会目標関数部10では、重みづけされた経済的効用Ueco、環境的効用Uenv、社会的効用Usocからなる3元価値に基づいた社会目標を設定する。なおこの社会目標は、3元価値に基づくものであり、XYZの3軸による3次元空間上において定義されたものである。
【0030】
まず、重みづけされた経済的効用Uecoは、生産活動Xtに係る総生産F(Xt)を指標に、重みをx=1としてUeco=F(Xt)で与える。
【0031】
つぎに、重みづけされた環境的効用Uenvと、社会的効用Usocを与える。ここでは環境に関連して、産業革命時の大気中CO量V0=6000億トンを基準値に、CO量Vtが増えるほど減少する指標V0―Vtを考え、この指標の社会的感度を重みβ(βは0と1の間の数値)で表すことで、最終的にUenv・Usoc=(V0―Vt)βで与える。ここで、Uenv・Usocは合成されており、β=y+zの関係がある。この関数は、社会的感度βが1に近いほど、CO量Vtの増大に伴う環境的、及び社会的効用の減少の度合いが大きくなる。
【0032】
以上により、この社会における社会目標は、重みづけされた経済的効用Ueco、環境的効用Uenv、社会的効用Usocからなる社会目標効用関数の最大化として以下の(1)式で与えることができる。
【0033】
【数1】
【0034】
次に制約条件関数の設定について説明する。図1の制約条件関数算出部21では、この社会の状態量である大気中CO量Vtと森林バイオマス量Rt、生産活動Xtと保全活動Ytに関する制約条件を設定する。
【0035】
まず、大気中CO量Vtの時間的変化は、生産活動Xtに比例した増加と、大気中CO量Vtに比例した表層海洋圏における吸収、森林バイオマスRtに比例した森林における吸収を考慮して以下の(2)式で与える。
【0036】
【数2】
【0037】
ここで、α、μ、γは、それぞれ生産活動CO排出係数、海洋CO吸収係数、森林CO吸収係数である。
【0038】
次に、森林バイオマスRtの時間的変化は、環境収容力が十分大きいと仮定した森林バイオマスRtに比例した増大と、生産活動Xtに比例した減少、森林保全活動Ytに比例した増大を考慮して以下の(3)式で与える。
【0039】
【数3】
【0040】
ここで、δ、b、cは、それぞれバイオマス増加係数、バイオマス利用係数、バイオマス保全係数である。
【0041】
最後に、生産活動Xtと森林保全活動Ytは、人的資本の総量Kの配分として以下で与える。
【0042】
【数4】
【0043】
次に資本価値の算出について説明する。図1の重み係数関数算出部41と資本価値算出部42では、社会目標を表す(1)式と、重み付けされた制約条件を表す(2)(3)(4)式との差より、以下の(5)式に示すLagrangian関数を得る。
【0044】
【数5】
【0045】
(5)式で、λ1、λ2、λ3はLagrange乗数であるが、数理経済的には、それぞれ大気中CO量Vtが限界的に1単位増加する際の価値、森林バイオマスRtが限界的に1単位増加する際の価値、人的資本が限界的に1単位増加する際の価値、即ち資本価値と解釈できる。なお、制約条件に関して、大気中CO量Vtの1単位の増加は、設定した社会目標を減少する方向に作用することを考慮して、適切に正負の向きが決められている。
【0046】
λ1、λ2、λ3は、(5)式の最大値を与える乗数として(6)式を用いてそれぞれ(7)(8)(9)式のように得ることができる。
【0047】
【数6】
【0048】
【数7】
【0049】
【数8】
【0050】
【数9】
【0051】
この(7)式によれば、大気中CO量Vtが限界的に一単位増加する際の資本価値λ1は、総生産F(Xt)に対して、(10)式の係数で比例し、負号が付いていることから、社会的に負の価値があることが分かる。
【0052】
【数10】
【0053】
一方(8)式によれば、森林バイオマスRtが限界的に一単位増加する際の帰属価値λ2は、CO資本価値λ1に対して(-γ/δ)で比例し、再び負号が付いていることから、CO資本価値λ1の負の価値が上がるほど、社会的な価値が上がることが分かる。
【0054】
これに伴い(9)式によれば、人的資本が限界的に1単位増加する際の資本価値λ3についても、森林バイオマス資本価値λ2に対してcに比例して社会的な価値が上がることが分かる。
【0055】
図2は、非市場財の資本価値係数の一例を示す図である。ここでは、横軸に産業革命時の大気中CO量V0=6000億トンを原点0とした大気中CO量、縦軸は総生産F(Xt)で正規化した資本価値係数を示している。
【0056】
図2の試算は、上記式を用いて、産業革命時の大気中CO量V0が6000億トン、社会的感度の重みβを0.05、海洋CO吸収係数μを0.04、森林CO吸収係数γを0.5、バイオマス増加係数δを0.01、バイオマス保全係数cを0.01、人的資本の総量Kを80億人として求めたものである。
【0057】
図2において実線は(7)式に基づくCO資本価値係数(-λ/F(Xt))、破線は(8)式に基づく森林資本価値係数(λ/F(Xt))、点線は(9)式に基づく人的資本価値係数(λ/F(Xt))を表す。なお、COは社会目標に対する負の寄与があるため、CO資本価値係数(-λ/F(Xt))は負号を乗じて表示している。
【0058】
図2によれば、全ての資本価値は、大気中CO量が産業革命時に比べて多くなるほど上昇することが分かる。
【0059】
具体的に実線で示すCO資本価値(-λ/F(Xt))についてみると、設定した社会目標において、環境的効用と社会的効用をUenv・Usoc=(V0―Vt)βのように、大気中CO量の増大に応じて減少するように設計したため、大気中CO量が多いほど、大気中CO量の1単位の排出に対する社会的コストが増大することがわかる。
【0060】
次に破線で示す森林資本価値(λ/F(Xt))についてみると、(8)式より、CO帰属価格に比例して上昇することが分かる。これは、(2)式で示すように森林が大気中COを吸収するため、結果として、環境及び社会的効用を増加するためである。
【0061】
最後に点線で示す人的資本価値(λ/F(Xt))についてみると、後述する(11)式より、森林資本価値(λ/F(Xt))に比例して上昇することが分かる。ここで人的資本はCOを排出する生産活動にも、森林を保全する保全活動にも振り分けることができるが、人的資本価値は森林保全係数に比例していることから分かるように、大気中CO量が多いほど、また森林保全係数が高いほど、人的資本の社会的価値が上昇することが分かる。
【0062】
以上詳細に説明した実施例1の資本価値算出システムによれば、選択した地域に応じた社会目標と制約条件に基づいて、社会課題を解決するための非市場財の資本価値算出が可能となる。市場財ばかりではなく、従来正確な価値把握ができなかった非市場財の資本価値算出を含めた総合的な判断が可能となった。
【0063】
この効果は、「ヒトの経済活動に関わり市場で取引可能な、人工資本、人的資本、希少資源などの指標からなる市場財パラメータと、ヒトの活動に関わり市場で取引不可能な、自由財、公共財、環境財などの指標からなる非市場財パラメータと、を入力する入力部と、市場財パラメータと非市場財パラメータから、関心地域の経済効用、環境効用、社会効用の3つの効用を求め、3つの効用の重み付け合成値として関心地域の社会目標指標を算出する社会目標関数と、市場財パラメータと非市場財パラメータの連関を表す制約条件関数との差の極値を与える制約条件関数の重み係数関数を算出し、市場財パラメータと、非市場財パラメータとを重み係数関数に入力して資本価値を算出する計算処理部と、資本価値を出力する出力部とを含む資本価値算出システム」を構成することで達成されている。
【0064】
次に、図1の計算機の計算演算部CPUがプログラムに従い実行する資本価値算出の方法について説明する。
【0065】
図3は資本価値算出プログラムの構成例を示す図である。図3の最初の処理ステップS11では、市場財パラメータP1および非市場財パラメータP2を入力部Iに入力し、処理ステップS12では、市場財パラメータP1および非市場財パラメータP2を計算処理部CPUに入力する。
【0066】
処理ステップS18では、市場財パラメータP1および非市場財パラメータP2を用いて関心地域の経済効用Ueco、環境効用Uenv、社会効用Usocの3つの効用を求め、3つの効用の重み付け合成値として関心地域の社会目標指標を算出し、処理ステップS13では、市場財パラメータP1と非市場財パラメータP2の連関を表す制約条件関数を算出する。
【0067】
処理ステップS14では、社会目標関数と制約条件関数との差の極値を与える制約条件関数の重み係数関数を算出し、処理ステップS15では、市場財パラメータと、非市場財パラメータとを前記重み係数関数に入力して資本価値を算出し、処理ステップS16では、資本価値を計算処理部から出力部に出力し、処理ステップS17では、出力部から資本価値算出システムの外部に資本価値を出力する。
【0068】
以上述べた実施例1によれば、選択した地域に応じた社会目標と制約条件に基づいて、社会課題を解決するための非市場財の資本価値算出が可能となる。
【実施例0069】
実施例1では、主に資本価値を求めることについて説明している。あるいは、図1の資本価値算出システムを過去の実績に照らし合わせて、図2のようなトレンドを示していたことを検証するために用いたものである。
【0070】
これに対し実施例2では、将来予測に好適な資本価値算出システムを図4において提案している。図4のシステム構成は基本的に図1と同じであるが、入力とする市場財パラメータP1および非市場財パラメータP2、及び経済効用、環境効用、社会効用の重みが、予測シナリオ入力部51から与えられる点において図1とは相違している。
【0071】
図5は、予測シナリオの一例を示す図である。実施例2における予測シナリオPSとは、図5に示すように将来社会の形態として例えば、環境軽視・環境悪化社会A、中庸社会B、環境重視社会・クリーン社会Cの3種類のパターン(シナリオ)を想定したものである。またシナリオ毎に大気中CO(産業革命比)、社会的感度、CO資本価値係数、森林資本価値係数を具体な数値として保持したものである。
【0072】
図6は、社会形態A、B、C毎のCO資本価値係数(-λ/F(Xt))、森林資本価値係数(λ/F(Xt))を大小比較して示した図である。なお、予測シナリオPSとしては複数準備すればよくここでは上記の3種類とした例で説明する。
【0073】
図5図6において、一つめの予測シナリオPS(A)は、社会が環境を軽視し、環境が悪化している社会である。大気中COは産業革命時に比較して、5000億トン増加している。一方で、環境に関する社会的感度は5%と低い。社会の総生産に比較したCO資本価値係数は0.17%程度であり、排出に対するコストはほぼ無視されている。また、森林資本価値係数も8.82%程度である。森林の価値は消費税程度に認められているものの、CO排出のコストが低すぎるため、社会を変革するドライバになり得ないと推測できる。
【0074】
二つ目の予測シナリオPS(B)は、大気中COが2500億トン増加し、これに伴う気候変動などで社会的感度が25%と上昇した中庸状態の社会である。CO資本価値係数は、1.37%であり、排出に対するコストは未だ低い。しかし、森林資本価値係数は68.6%であり、森林の社会的価値は高く、保全経済に移行する大きなインセンティブが働くと推測できる。
【0075】
三つ目の予測シナリオPS(C)は、大気中COは1000億トン増加しているが、これに対する社会感度が80%と非常に高い、環境重視社会である。C0資本価値係数は364%になり、CO排出に対するコスト意識が大変高い。また、森林資本価値係数は18205%であり、森林を保全育成することに、皆が取り組む社会構造であると推測できる。
【0076】
図4に戻り、予測シナリオPSはユーザにより事前作成されたものが例えばデータベースに記憶されており、ユーザが選択したシナリオPSが他の情報とともに予測シナリオ入力部51に送られる。
【0077】
予測シナリオ入力部51は、予測シナリオが10年後の社会である場合に、現在時点における市場財パラメータP1および非市場財パラメータP2を10年後のパラメータに推定する処理を行い、これらの予測パラメータを計算演算部CPUに出力する。またこの時に、重みづけされた経済効用Ueco、環境効用Uenv、社会効用Usocの重みも変化していると考えられることからシナリオ毎の重みを併せて設定しなおすのがよい。なおこの処理では、各年度の中間的な経緯を含めた予測とすることもできる。
【0078】
実施例2は要するに、実施例1においてさらに予測シナリオ入力部51を備え、制約条件関数の下で取りうる、市場財パラメータP1と非市場財パラメータP2との組み合わせとして表される、関心地域の予測シナリオと、3つの効用の重み付けの組み合わせとして表される、関心地域の予測社会目標関数と、を入力することで、関心地域の予測シナリオにおける資本価値を算出するものである。
【0079】
図7は実施例2に係る資本価値算出プログラムの構成例を示す図である。図7の最初の処理ステップS19では、市場財パラメータP1、非市場財パラメータP2、及び経済効用・環境効用・社会効用の重み付けの組み合わせで表される予測シナリオを予測シナリオ入力部51に入力し、処理ステップS20では、予測シナリオ入力部51は市場財パラメータ、非市場財パラメータの組み合わせと、経済効用・環境効用・社会効用の重み付けの組み合わせとを分離して計算処理部CPUに入力する。
【0080】
処理ステップS18では、市場財パラメータP1および非市場財パラメータP2を用いて関心地域の経済効用Ueco、環境効用Uenv、社会効用Usocの3つの効用を求め、3つの効用の重み付け合成値として関心地域の社会目標指標を算出し、処理ステップS13では、市場財パラメータP1と非市場財パラメータP2の連関を表す制約条件関数を算出する。
【0081】
処理ステップS14では、社会目標関数と制約条件関数との差の極値を与える制約条件関数の重み係数関数を算出し、処理ステップS15では、市場財パラメータと、非市場財パラメータとを前記重み係数関数に入力して資本価値を算出し、処理ステップS16では、資本価値を計算演算部から出力部に出力し、処理ステップS17では、出力部から資本価値算出システムの外部に資本価値を出力する。
【0082】
実施例2によれば、将来予測に好適な資本価値算出システムとすることができる。
【実施例0083】
実施例3では、資本価値算出システムを時間変化的に運用することについて説明する。図8は、本発明の実施例3に係る資本価値算出システムの概略構成例を示す図である。
【0084】
資本価値算出システムの時間変化な運用では、システム自体の構成は図1と同じであるが、入力の市場財パラメータP1と非市場財パラメータP2が時間変化なデータ群とされる。
【0085】
例えば市場財パラメータP1は例えば時間変化的な統計情報であり、非市場財パラメータP2は例えばリモートセンシングで時々刻々検知するセンサデータであり、地上局を介して入手する時間変化なセンサデータである。
【0086】
図9は、時系列的な運用による試算結果を示す図である。ここでは、左上に示す大気中CO量がリモートセンシングにて時系列入力され、かつ右上に示す社会的感度が社会統計にて時変パラメータとして入力された例を示す。図9横軸には基準時点から15年後までの各年における変化を示しており、COが減ることにより、徐々に社会的感度も下がっている。
【0087】
また図9には、市場財パラメータP1と非市場財パラメータP2の時間変化入力を得たときの資本価値係数(左下に示すCO資本価値係数や、右下に示す森林資本価値係数)が、これらの影響を受けて変化することが分かる。
【0088】
実施例3は要するに、関心地域の市場財のセンシングや統計に基づく時変市場財パラメータ、及び、非市場財のセンシングや統計に基づく時変非市場財パラメータを入力としたものであり、社会の現時点の状態に応じたダイナミックな資本価値変化を算出することができる。
【実施例0089】
実施例1、2、3においては、資本価値算出システム1の構成例、資本価値算出方法の構成例を説明している。これに対し、以降においては資本価値算出システム1により実現可能な社会構造、社会運用事例について説明する。
【0090】
まず実施例4では、図10を参照して、実施例3の時間変化入力による資本価値算出システム1により実現可能な社会構造、社会運用事例について説明する。
【0091】
図10によれば、資本価値算出システム1は、非市場財のセンシングや統計に基づく時変非市場財パラメータP2Tを入力とし、また関心地域における社会統計をセンシングした時変市場財パラメータP1Tを入力として、時間変化出力である時変資本価値を出力している。
【0092】
時間変化入力による資本価値算出システム1が与える時変資本価値は、関心地域Rにおいて以下のように利用されることで、新たな社会運用を可能とする。但し、関心地域Rは、消費者M1と生産者M2と非市場財保全者M3を含んで社会構成されている。
【0093】
図10では、関心地域Rのアクターである保全者M3、非市場財(例えば森林)、生産者M2、及び消費者M1について、それぞれの関係を矢印で表している。このうち点線で示された非市場財クレジットが、資本価値算出システム1により関心地域Rに実装されるフローで示されている。
【0094】
まず、非市場財クレジットがない状態について考える。この場合保全者M3は非市場財を保全・育成し、非市場財のストックを増やす役割を持つが、非市場財は適切な価格設定がされておらず、保全に対する対価は非常に低いか、或いは無償である。
【0095】
したがって、保全に対するインセンティブが働かず、非市場財、或いは社会が本来要求する保全需要と供給がバランスしていない。また、生産者M2は非市場財からのサービス(例えば生態系サービス)を一部消費して生産を行っている。しかし、ここでも非市場財は適切な価格設定がされていないため、生産者M2は生態系サービスを安価か、或いは無償で利用し、生産物を安価で提供する。結果として、消費者M1は本来の適正価格よりも安価に生産物を消費できる。
【0096】
次に、非市場財が本発明に基づく適正な資本価値で運用される場合について考える。保全者M3は、保全に対する対価として適正な非市場財クレジットを、第三者機関を通じて得るため、保全に対するインセンティブが働き、その供給量が増える。したがって、非市場財、或いは社会が本来要求する保全需要と供給がバランスするようになる。また、生産者M2は生態系サービスの利用に対する対価を非市場財クレジットの代金として支払うため、生産物にその分の価格を転嫁する。
【0097】
図11は、供給と価格の関係を縦横軸に示す図である。この図では、消費者の需要と生産者の供給と、非市場財クレジットの関係を示している。この図を参照して説明すると、まず非市場財クレジットが付与されていない場合には、消費者の需要と生産者の供給の間の関係は、反比例する関係で説明できる。
【0098】
これに対し、非市場財クレジットが付与された場合には、さらに非市場財クレジットを含む3者の関係として説明できる。この時は、結果として、消費者M1はこれまで生産物を量Q消費していたが、生産物が非市場財クレジットの分値上がりしたために、消費量をQに減らす。生産物が仮に弾力的で需要曲線が水平に近い場合は、消費者はより安価な、生態系サービスの資本価値分の価格転嫁が少ない代替財に乗り換える動きが見られるため、結果として非市場財を保全する方向に向かう。
【0099】
図10の社会構造の形成は、時変市場財パラメータP1Tと、前記時変非市場財パラメータP2Tとから時変資本価値を算出し、求めた時変資本価値を、クレジット化、或いはデリバティブ化、或いは保険商品化可能な第三者機関に提示することで実現可能である。
【実施例0100】
実施例5では、実施例4において非市場財クレジットの利用による社会的安定点を評価することについて説明する。ここでは、本発明の実施例3、4で得られた資本価値を用いてCOや森林バイオマスを取引することで、(1)式で設定した社会目標に近づいていくことを定性的に説明する。
【0101】
ここではまず、(2)(3)(4)式において定常状態を仮定しそれらをまとめることで、大気中CO量Vtと生産活動Xtとに関する以下の(11)式を得る。
【0102】
【数11】
【0103】
(11)式は、定常状態、つまりdVt/dt=0でCO量Vtと生産活動Xtとが均衡しており、CO量が時間変化しないときの関係式である。また図12は、(12)式の関係を示す特性図である。図12には、定常的な大気CO量となる生産活動との平衡線を点線で示しており、この点線は生産活動が増えるほどCOが増えることを表している。また図12には、定常的な生産活動となる大気CO量との平衡線を一点鎖線で示しており、この一点鎖線はCO増えるほど生産活動の供給が減ることを表している。
【0104】
横軸をCO量Vt、縦軸を生産活動Xtで示す図12の空間で見たとき、この直線を隔てて上側では生産活動Xtが均衡状態を上回るため、結果としてCO量Vtが増える右方向のベクトルが働き、下側では生産活動Xtが均衡状態を下回るため、結果としてCO量Vtが減る左方向のベクトルが働く。
【0105】
合わせて、図2のCO資本価値や森林資本価値を踏まえ、生産活動Xtの供給という観点についてみると、図11で示した通り、CO資本価値が生産者の生産物の価格に転嫁されると、消費者の購買意欲が下がり、生産活動Xtが低下するとともに、保全者へのインセンティブが高まるため、保全活動Ytが活性化する。つまり、生産活動Xtの供給量は(7)式のCO帰属価格に逆比例すると考えられる。そこでここでは、以下の(12)式のように生産活動Xtの供給量をモデル化できると仮定する。
【0106】
【数12】
【0107】
(12)式は、定常状態、つまりdVt/dt=0でCO量Vtと生産活動Xtの供給とが均衡しており、生産活動が時間変化しないときの関係式である。即ち、横軸をCO量Vt、縦軸を生産活動Xtの空間で見たとき、この曲線を隔てて上側では生産活動Xtが均衡状態を上回るため、結果として生産活動Xtが減る下方向のベクトルが働き、下側では生産活動Xtが均衡状態を下回るため、結果として生産活動Xtが増える上方向のベクトルが働く。
【0108】
以上により、資本価値を用いることで、図3に示すような社会的ベクトルが働くと考えられる。
【0109】
図12で、横軸はCO量Vtを、縦軸は生産活動Xtであり、右肩上がりの点線は(11)式のCO量に関する均衡を、右肩下がりの一点鎖線は(12)式の生産活動に関する均衡を示している。また、先に述べた、これらの線を隔てたCO量や生産活動の増減に関して、ベクトルで表している。ベクトルは時計回りに、(11)式と(12)式の交点に収束しており、これより、前節で得られた資本価値を用いることで、今回示した社会においては、経済活動が交点に向かうことが分かる。本例においては、CO量は産業革命時を基準として1808億トンとなり、生産活動Xtは38億人、結果として保全活動はYt=80-38=42億人へと収束していくと考えられる。このように、本発明に基づいた資本価値を利用することで、適当なアトラクタを社会目標実現に向けた制度システムとして社会に実装できる。
【0110】
図13は、社会的感度βを変数とし、社会目標を変化させたときの社会的ベクトルを示している。図13左には、環境重視の社会目標(β=0.15)を、図13右には環境軽視の社会目標(β=0)における社会的ベクトルを示している。図13より、社会的感度βが大きいほど、(11)式と(12)式の交点位置が左下に向かい、結果として生産活動人数や、大気中CO量が下がることがわかる。このように、社会目標に応じて妥当に収束点が変化することが理解できる。
【実施例0111】
実施例6では、パラメトリック保険として適用することについて説明する。図14は、パラメトリック保険システムの構成例を示している。
【0112】
図14のパラメトリック保険システムでは、時変市場財パラメータ、及び、時変非市場財パラメータを時間変化情報として入力(例えば衛星リモートセンサからの入力)し、これらについて過去パラメータとのパラメータ変化を検知(例えば自然資本指標の変化)する。またパラメータ変化の頻度を発生確率とともに把握する。そのうえで、パラメータ変化と、頻度と、時変資本価値とを乗ずることで、時変資本価値の変化を計算する。
【0113】
本発明に基づいて得られた資本価値の変化は、第三者機関を通じて、例えば、パラメトリック保険の保険金査定など社会に流通可能な形に変換することで社会実装することができる。
【0114】
このとき例えば自然資本保全者は自然資本を保全することで対価を得るが、安定した生活のため、異常気象や災害などで自然資本が減耗したときの損害補償を求めている。そこで、リモートセンシングで自然資本の増減や頻度を指標として観測し、観測結果と算出した資本価値とを掛け合わせることで、社会的な損失として保険金を査定し、損害補償する。このようにすることで、社会目標を踏まえた適正価格で自然資本が運用されるため、社会目標に向かうアトラクタが作用し、社会目標を実現できる。
【実施例0115】
実施例7では、資本価値算出システム1により実現可能な社会構造、社会運用事例について、このコンセプトを総括的に説明する。
【0116】
図15は、本発明の概念を総括的に示す図である。図15の上部には、図1に例示する資本価値算出システム1を機能的に表現している。また下部には図14に例示する社会適用事例を示している。
【0117】
資本価値算出システム1では、社会統計や企業財務情報、センシングといった手段により得られた関心地域における市場財パラメータP1と、リモートセンシングやグラウンドセンサといった手段により得られた非市場財パラメータP2とを入力とする。
【0118】
ここで、市場財パラメータとは、財務状況を示す貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書に記載された値や、家計消費支出、企業投資支出、政府及び自治体支出、輸出額及び輸入額からなる経済指標、労働人口といった人的資本指標、車両、船舶、工場といった人工資本指標、鉱物資源、海洋資源、農作物といった希少資源指標からなる。また、非市場財パラメータとは、海洋、山岳、平地の植生や生態系、微生物といった自然指標、大気や天候、気候といった気象指標、公共的な道路、港、橋、学校といった社会資本指標や、教育、医療、金融といった制度資本指標からなる。
【0119】
資本価値算出システム1は、これら市場財パラメータP1と、非市場財パラメータP2を引数とする経済効用、環境効用、社会効用の3つの効用の重み付け合成値で表される社会目標関数を備えている。ここで、経済効用とは経済的指標に基づく社会目標成分であり、例えば総支出と輸出額から輸入額を引いた国内総生産といったものである。次に、環境効用とは自然指標と気象指標に基づく社会目標成分であり、例えば大気中二酸化硫黄量や一酸化炭素量といった大気汚染に係るもの、音圧レベルといった騒音に係るもの、地下水カドミウムや硝酸性窒素、フッ素含油量といった水質汚染に係るもの、大気中COやメタン量といった温室効果に係るものといったものである。最後に、社会効用とは経済的指標、人的資本指標、人工資本指標、自然指標、気象指標、社会資本指標、制度資本指標すべてに基づく社会目標成分であり、域内経済循環率や、社会インフラ充実度、教育や医療制度の充実度、自然や植生、生態系の多様性といったもので測られる。
【0120】
次に資本価値算出システム1は、定められた社会における市場財パラメータP1、及び非市場財パラメータP2の制約条件関数の下で、前述の社会目標関数の出力を最大化する問題を解き、市場財パラメータP1及び非市場財パラメータP2の資本価値を求める。ここで、それぞれの市場財パラメータP1、非市場財パラメータP2は関心地域により異なり、また、社会目標関数における経済効用、環境効用、社会効用の3つの効用の重み付けも異なるため、非市場財の資本価値は関心地域により様々な値を取り得る。このようにして得られた非市場財の資本価値をシグナルとして、非市場財を運用することで、予め定められた社会目標に安定的に到達させることができる。
【0121】
これに対し、図14下部に例示する社会適用事例としては、例えば算出資本価値を利用した社会目標実現型パラメトリック保険、金融システムが想定できる。具体的にはここでは、算出した非市場財の資本価値を利用した運用案として、パラメトリック保険システムについて示している。尚、パラメトリック保険は一般にインデックス保険とも呼ばれるため、本文書中の「パラメトリック保険」を「インデックス保険」と置き換えてもよい。
【0122】
非市場財保全者は例えば森林や生態系といった自然指標で測られる非市場財を保全することで対価を得るが、安定した生活のため、異常気象や災害などで非市場財資本が減耗したときの損害補償を求めている。そこで、リモートセンシングで非市場財の増減や頻度を指標として観測し、観測結果と算出した資本価値とを掛け合わせることで、社会的な損失として保険金を査定し、損害補償する。このようにすることで、社会目標を踏まえた適正価格で非市場財が運用されるため、社会目標に安定的に漸近するアトラクタが作用し、社会目標を実現できる。本発明は、このようなシステム及び運用例を開示するものである。
【0123】
なお、資本価値算出システム1に必要な、市場財パラメータP1、非市場財パラメータ2、社会効用の重みといったデータは、例えば図16に例示されるような形式で与えられる。ここで、1行目、2行目、3行目、4行目はそれぞれ、データのカテゴリ、データの名称、データの単位、データの記号を表しており、それ以降にスカラー値データが続く。
【0124】
また、資本価値算出システム1は、必ずしもユーザが操作することを想定していないが、計算機アプリケーションとして実装した場合、例えば図17に示すようなユーザインターフェースを備える。本例は、図16に例示されるような形式で予めデータを与えた後のユーザインターフェースを示している。ユーザインターフェースは、まず、3元価値社会目標関数の設定部を備え、具体的には経済効用、環境効用、社会効用とを数式で記述する入力ボックスを備えている。ここで数式で使われる変数記号は、予め定められたデータの記号と対応する。また、予め外部に保存された効用読込みや、入力ボックスを介して記述した数式を外部に書出しするボタンを備えていても良い。
次に、例示するユーザインターフェースは、0から1の範囲のスカラー値を取る効用重み設定部を備えている。効用重みは、入力ボックスを介して入力しても、或いは社会における3元価値のトレードオフを視覚化する3角形内部のある一点として、マウス操作により設定しても良い。
【0125】
次に、例示するユーザインターフェースは、制約条件関数の設定のための、入力ボックスを備えている。ここで数式で使われる変数記号は、予め定められたデータ記号と対応する。また、予め外部に保存された条件読込みや、入力ボックスを介して記述した条件式を外部に書出しするボタンを備えていても良い。条件の追加には、条件追加ボタンを押すと、新しい制約条件を入力するボックスが表れる。
【0126】
最後に、例示するユーザインターフェースは、資本価値計算結果を棒グラフなど視覚的に分かり易い形で提示する。この提示部は、結果を書き出すための書出しボタンを備えていても良い。
【符号の説明】
【0127】
1:資本価値算出システム
10:社会目標関数部
11a:経済効用算出部
11b:環境効用算出部
11c:社会効用算出部
12a:経済効用重み部
12b:環境効用重み部
12c:社会効用重み部
21:制約条件関数算出部
22:重み係数部
31:加算部
41:重み係数関数算出部
42:資本価値算出部
I:入力部
O:出力部
CPU:計算演算部
P1:市場財パラメータ
P2:非市場財パラメータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17