IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧

<>
  • 特開-磁性体の損失測定方法 図1
  • 特開-磁性体の損失測定方法 図2
  • 特開-磁性体の損失測定方法 図3
  • 特開-磁性体の損失測定方法 図4
  • 特開-磁性体の損失測定方法 図5
  • 特開-磁性体の損失測定方法 図6
  • 特開-磁性体の損失測定方法 図7
  • 特開-磁性体の損失測定方法 図8
  • 特開-磁性体の損失測定方法 図9
  • 特開-磁性体の損失測定方法 図10
  • 特開-磁性体の損失測定方法 図11
  • 特開-磁性体の損失測定方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157225
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】磁性体の損失測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/12 20060101AFI20241030BHJP
   G01R 27/26 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
G01R33/12 Z
G01R27/26 L
G01R27/26 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071455
(22)【出願日】2023-04-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度革新的パワーエレクトロニクス創出基盤技術研究開発事業「革新的パワーエレクトロニクスのための超低損失磁性材料の創成」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 聡
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 恭
(72)【発明者】
【氏名】吉田 栄吉
(72)【発明者】
【氏名】小野 暢久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】上原 裕二
【テーマコード(参考)】
2G017
2G028
【Fターム(参考)】
2G017BA05
2G017BA15
2G017CA09
2G017CA18
2G017CA19
2G017CB08
2G017CB16
2G017CB21
2G017CC02
2G028BB07
2G028CG06
2G028CG11
(57)【要約】
【課題】探索コイルの巻数の低減や、比透磁率の小さな磁性体に生じる、磁束の漏れによる損失測定の誤差を補正する損失測定方法を提供する。
【解決手段】磁性体の損失測定方法は、磁性体に励磁コイルと探索コイルを巻き付け、励磁コイルに励磁電流を印加することで探索コイルに誘起される誘起電圧と、励磁コイルの励磁電流を用いて磁性体の損失を測定する測定工程と、測定工程の際に測定される磁性体の比透磁率と、透磁率測定装置を用いてあらかじめ測定される磁性体の比透磁率との関係に基づいて、測定工程により測定された磁性体の損失の値を補正する補正工程とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体に励磁コイルと探索コイルを巻き付け、前記励磁コイルに励磁電流を印加することで前記探索コイルに誘起される誘起電圧と、前記励磁コイルの励磁電流を用いて磁性体の損失を測定する測定工程と、
前記測定工程の際に測定される前記磁性体の比透磁率と、透磁率測定装置を用いてあらかじめ測定される前記磁性体の比透磁率との関係に基づいて、前記測定工程により測定された前記磁性体の損失の値を補正する補正工程とを備えることを特徴とする磁性体の損失測定方法。
【請求項2】
前記補正工程において、
前記測定工程における損失測定の際に測定される磁性体の比透磁率の値と、前記透磁率測定装置を用いてあらかじめ測定される比透磁率との関係に基づいて、前記磁性体に印加される磁束密度の設定値に対応する前記磁性体の損失の値を求めることを特徴とする請求項1に記載の磁性体の損失測定方法。
【請求項3】
前記損失測定の際に測定される前記磁性体の比透磁率の値をμLOSSとし、
前記透磁率測定装置を用いてあらかじめ測定される比透磁率の値をμVNAとしたとき、
前記測定工程により測定される前記磁性体の損失に対応する磁束密度の実際値をμVNA/μLOSS倍して、前記磁性体に印加される磁束密度の設定値を求め、前記磁束密度の設定値に対応する前記磁性体の損失の値を求めることを特徴とする請求項2に記載の磁性体の損失測定方法。
【請求項4】
前記測定工程の際に測定される前記磁性体の比透磁率と、透磁率測定装置を用いてあらかじめ測定される前記磁性体の比透磁率との関係に基づいて、前記測定工程により測定される前記磁性体の損失に対応する磁束密度の実際値と、前記測定工程において印加される磁束密度の設定値との相違に起因する前記磁性体の損失の誤差を補正することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の磁性体の損失測定方法。
【請求項5】
前記測定工程の際に測定される前記磁性体の比透磁率と、透磁率測定装置を用いてあらかじめ測定される前記磁性体の比透磁率との関係に基づいて、前記探索コイルを測定器に接続するリード線の長さの相違に起因する前記磁性体の損失の誤差を補正することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の磁性体の損失測定方法。
【請求項6】
前記透磁率測定装置は、ネットワークアナライザ又はインピーダンスアナライザであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の磁性体の損失測定方法。
【請求項7】
前記測定工程は、2コイル法又は共振法により前記磁性体の損失を測定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の磁性体の損失測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体の損失測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
IT機器や車載部品には磁性体(磁性材料)を使用した電子部品が多用されている。また、モータや発電機といった電気機器においても、磁性体が用いられている。そのような電子部品・電気機器の高効率化、小型化のためには磁性体の損失を精度良く測定することが重要である。特に近年、電子部品・電気機器の小型化のため駆動周波数を上げることが検討されており、高い周波数での損失測定技術は非常に重要になっている。さらには、精度良く測定した磁性体の損失等の測定値を取り入れたシミュレーション手法は電子部品・電気機器の設計には欠かすことのできない技術となっている。
【0003】
磁性体を用いた電子部品・電気機器における電気的な損失は、コイルで発生する銅損(コイルで発生するジュール損失)と磁性体で発生する損失として磁性体の磁気ヒステリシス損失および渦電流損失等がある。銅損はコイルを流れる電流から解析的(数学的)に算出することができるが、磁性体の損失は実際の測定(計測)によって求める必要がある。近年の電子部品・電気機器の小型化に対応して、比透磁率の小さな磁性材料を高い周波数で使用することが多くなってきており、磁性体内の損失を正確に測定することはますます難しくなってきている。
【0004】
磁性体の損失を測定する手法としては、当該磁性体からなるリング状試料を用いる方法(2コイル法等)が広く用いられている(例えば、非特許文献1参照)。図1は磁性体の損失測定装置100の説明図であり、図1(a)は、損失測定装置100の回路構成図、図1(b)は磁性体部分の要部構成図である。同図に示す磁性体の損失測定方法は、測定しようとする磁性体からなるリング状試料101に励磁コイル(1次コイル)103および探索コイル(2次コイル)105を巻く2コイル法という手法であり、高周波信号を発生する信号発生器107と、高周波用のパワーアンプ109を介して励磁コイル103に高周波の交流電流を印加し、そのときに探索コイル105に誘起される電圧Vと、励磁コイル103側に配置した電流検出用抵抗Rで測定される電流値iを測定器であるオシロスコープ111で測定して磁性体の損失を求める方法である。
【0005】
上記2コイル法は現在でも広く用いられている優れた手法であるが、比透磁率の小さな磁性材料を測定する際には、磁性体からの磁束の漏れが大きくなり損失の測定精度が低下するという問題がある。
【0006】
図2は、図1(b)はリング状試料(磁性体)部分を拡大したもので、リング状試料101からの磁束の漏れを示した図である。図2はリング状試料101の水平断面を模式的に示しており、励磁コイル103および探索コイル105もリング状試料101の水平断面での、それぞれの断面を示している。磁性材料の比透磁率が大きい場合、励磁コイル103に励磁電流を流すことで生じる磁束aの大部分はリング状試料101の中を通る。すなわち図中の磁束aが支配的である。このような場合、励磁コイルによって生じる励磁磁界Haは(1)式で求められる。
【0007】
【数1】
【0008】
ここで、Nは励磁コイルの巻数、Iは励磁電流、Leはリング状試料の磁路長でリング状試料の外径、内径および厚みから求められる値である。このときのリング状試料内の磁束密度Bは(2)式で与えられる。
【0009】
【数2】
【0010】
ここで、μ0は真空の透磁率、μはリング状試料の比透磁率、Haは励磁磁界、Nは励磁コイルの巻数、Iは励磁電流である。リング状試料内の損失を測定するときは、(2)式の磁束密度Bが所望の磁束密度Bmとなるように、励磁電流Iを調節して測定する。
【0011】
リング状試料の比透磁率が小さくなってくると、磁束bのように探索コイルを通過した後、リング状試料の中を通らず試料の外に漏れる磁束が発生するようになる。このような状況になると、すべての磁束がリング状試料の中を通るとした(1)式が成立しなくなる。漏れた磁束bは磁路長Leより短い経路を通ることになるため、損失測定の際の実効的な磁路長Le’はLeより短くなり(Le’ < Le)、このときのリング状試料内の磁束密度B’は(3)式で表されるような値として測定される。
【0012】
【数3】
【0013】
ここで、Ha’は漏れ磁束bがあるときの励磁磁界である。
(3)式は漏れ磁束bがあることによって、リング状試料の比透磁率がμ(Le / Le’)になったかのように振る舞うことを示している。このため、磁束密度B’は(2)式から求められる磁束密度Bより大きくなる。損失測定の時を考えると、リング状試料内の損失を磁束密度Bmで測定しようとする場合、リング状試料からの漏れがない場合と同じ励磁電流Iを流すと(3)式の磁束密度B’は(2)式から求めた磁束密度Bより大きく見積もられるため、B’がBmと等しくなるように励磁電流Iを下げて測定される。すなわち、リング状試料の実際の比透磁率はμであるが、(Le/Le’)倍に大きく見積られてしまうため、励磁電流Iは小さく調整され測定される損失値も小さくなる。
【0014】
電子部品や電気機器の高周波化に伴い、比透磁率の小さな磁性材料が使用されるようになってきており、リング状試料のインダクタンスは小さくなる傾向にある。この結果、探索コイルを測定器(オシロスコープ)に接続するためのリード線のインダクタンスLleadの影響が損失測定に影響を与えるようになる。リード線のインダクタンスの影響を考慮した磁束密度は(4)式で与えられる。
【0015】
【数4】
【0016】
【数5】
【0017】
ここで、μleadはリード線のインダクタンスLleadを比透磁率換算した値で(5)式で与えられる。Aeはリング状試料の実効断面積、Nは探索コイルの巻数である。リード線のインダクタンスLleadもリング状試料からの漏れ磁束と同様にリング状試料の比透磁率μを見かけ上大きくするように働き、損失の測定誤差となる。
【0018】
高周波での損失測定のために、図3に示すように2コイル法を改良した共振法と呼ばれる手法が提案されている。図3は共振法の損失測定装置100’の概略図である。励磁コイル103,探索コイル105と直列にコンデンサCを挿入し、励磁コイル103,探索コイル105とコンデンサCによる共振状態で測定する共振法と呼ばれる改良技術が提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献2参照。)。この方法によれば、探索コイル105と直列に挿入されたコンデンサCが共振状態であるため、探索コイル105とコンデンサCRに発生するリアクタンス成分による電圧は大きさが同じで位相が180°異なっている。したがって、探索コイル105とコンデンサCの直列回路の電圧Vと測定回路に流れる電流iは同位相となり、電流検出用抵抗Rの寄生インダクタンス成分の影響を小さくできる。このため10MHzを超える高周波での損失の測定が可能になる。
【0019】
この手法においては、探索コイル105とコンデンサCの共振状態で損失測定をするため、高い周波数での測定のためには探索コイル105のインダクタンスを低減する必要がある。そのためには、探索コイル105の巻数を減らすことが行われるが、巻数を減らすことはリング状試料からの磁束の漏れを増大させ、損失測定の誤差を生じさせる原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平3-221886号公報
【非特許文献1】太田恵造著,「磁気工学の基礎I」,初版,共立出版株式会社,1973年6月,p.59
【非特許文献2】IEEE TRANSACTIONS ON POWER ELECTRONICS,(米), Vol.29, NO.8, p.4374-4381
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上記のように、従来の各磁性体の損失測定方法の課題としては、探索コイルの巻数を低減したことによって生ずるリング状試料からの磁束の漏れによる損失測定の誤差を補正することができないという問題があった。また、比透磁率の小さなリング状試料においては、探索コイルのリード線のインダクタンスによっても損失測定に誤差が発生するため、この誤差も同様に補正する必要がある。
【0022】
本願明細書に記載する技術は、上記課題に鑑み、探索コイルの巻数の低減や、比透磁率の小さなリング状試料(磁性体)に生じる、磁束の漏れによる損失測定の誤差を補正する損失測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の磁性体の損失測定方法は、磁性体に励磁コイルと探索コイルを巻き付け、前記励磁コイルに励磁電流を印加することで前記探索コイルに誘起される誘起電圧と、前記励磁コイルの励磁電流を用いて磁性体の損失を測定する測定工程と、前記測定工程の際に測定される前記磁性体の比透磁率と、透磁率測定装置を用いてあらかじめ測定される前記磁性体の比透磁率との関係に基づいて、前記測定工程により測定された前記磁性体の損失の値を補正する補正工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、比透磁率が小さな磁性体の損失を精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】従来の2コイル法による磁性体の損失測定方法の説明図である。
図2図1の磁性体からの磁束の漏れの説明図である。
図3】従来の改良された、コンデンサCrを用いた共振法による磁性体の損失測定方法の説明図である。
図4】本発明の実施の形態における磁性体の損失測定方法の処理フローを示す図である。
図5】ネットワークアナライザにより磁性体の比透磁率測定を示す図である。
図6】損失の補正方法の説明図である。
図7】比透磁率の測定結果を示す図である。
図8】励磁コイルおよび探索コイルの巻数と損失の補正前の関係を示す図である。
図9】励磁電流と磁性体内の損失の関係を示す図である。
図10】励磁コイルおよび探索コイルの巻数と損失の補正後の関係を示す。
図11】磁性体の探索コイルを測定器に接続するためのリード線の長さと測定される比透磁率との関係を説明する図である。
図12】磁性体の損失をリード線の長さを変えて測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態の一例について図面を参照して説明する。本実施形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の範囲をそれらに限定する趣旨のものではない。
【0027】
本発明は、測定対象のリング状試料である磁性体に励磁コイルと探索コイルを巻き付け、励磁コイルに励磁電流を印加することで探索コイルに誘起される誘起電圧と、励磁コイルの励磁電流とを用いて磁性体の損失を測定し、さらに、磁性体から漏れる磁束による損失測定への影響を損失測定時に測定される比透磁率の値を使って補正する。また、磁性体の探索コイルを測定器(オシロスコープ)に接続するためのリード線のインダクタンスの影響も漏れ磁束と同様に比透磁率の値に影響をあたえるため同様の手法で補正をする。
【0028】
即ち、リング状試料である磁性体(以下、単に磁性体と称する)の損失測定における課題である磁性体からの磁束の漏れおよびリード線のインダクタンスの影響による損失測定への影響を、ネットワークアナライザ又はインピーダンスアナライザ等である透磁率測定装置によって予め測定した比透磁率の値と、磁性体からの磁束の漏れやリード線のインダクタンスの影響がある状態で測定した比透磁率の値を使って損失の測定値を補正し、正しい磁性体の損失を求める。
【0029】
図4は、本発明の実施の形態における磁性体の損失測定方法の処理フローを示す図である。磁性体の損失及び比透磁率の測定処理は、上述の図1に示す2コイル法による損失測定装置100又は図3に示す共振法による損失測定装置100’を用いて測定し、測定した損失の値の補正処理は、コンピュータ装置などの演算装置による演算処理により実行されてもよい。
【0030】
まず、磁性体の比透磁率をネットワークアナライザ等の透磁率測定装置を用いて測定する(S100)。
【0031】
図5は、ネットワークアナライザによる磁性体の比透磁率測定を示す図である。図5に示すように、ここでは、磁性体に巻線を施すことなく測定できる治具を用いて測定するため、漏れ磁束やリード線のインダクタンスの影響がない状態での比透磁率の測定値が得られる。
【0032】
次に、励磁コイルおよび探索コイルの巻線を施した磁性体を用いて、損失測定および透磁率測定を2コイル法又は共振法を用いて測定する(S102)。このとき、比透磁率の測定は、ネットワークアナライザ(VNA)等の透磁率測定装置で測定した比透磁率と比較するため、非常に小さな磁束密度で測定するか、もしくは磁束密度を変えて測定し、磁束密度ゼロでの外挿値として求める。ネットワークアナライザ等で測定した比透磁率をμVNA、2コイル法又は共振法で測定される比透磁率をμLOSSとすると、磁性体から漏れ磁束がなくリード線のインダクタンスの影響も小さい場合は、理想的には両者の比透磁率の値は一致する。
【0033】
しかしながら、磁性体から漏れ磁束がある場合やリード線のインダクタンスの影響がある場合は2コイル法や共振法で測定される比透磁率μLOSSはネットワークアナライザ等の透磁率測定装置で測定された比透磁率μVNAより大きく測定される。このため、磁性体内の実際の磁束密度(磁束密度の実際値)は、測定の際に設定される磁束密度(磁束密度の設定値)よりμVNALOSSだけ過小に測定される。この過小に測定された磁束密度の実際値を、測定された比透磁率μLOSS及びμVNAとの関係に基づいて磁束密度の設定値となるように補正し、補正された磁束密度から磁性体の損失の誤差を補正し、正しい損失の値を求める(S104)。以下に、磁性体の損失の補正方法についてさらに詳しく説明する。
【0034】
図6は、磁性体の損失補正を説明する図であって、磁性体の磁束密度Bmとその損失Pcの関係を示す図である。2コイル法や共振法等の方法で磁性体の損失を測定するときに、あらかじめ、磁性体内の磁束密度Bmと磁性体内の損失Pcの関係を測定し、図6に示すような磁性体の磁束密度Bmとその損失Pcの相関関係データを取得しておく。磁性体からの磁束の漏れやリード線のインダクタンスの影響で比透磁率μLOSSが透磁率測定装置(ネットワークアナライザ等)で測定される比透磁率μVNAより大きく測定されるときは、磁性体には、損失測定時に設定する磁束密度Bm(磁束密度の設定値)より小さな磁束密度(μVNALOSS)Bm(磁束密度の実際値)しか印加されないため、図6に示すように磁性体の損失Pcは実際の損失値より小さく測定される。すなわち、測定の際に設定した磁束密度(磁束密度の設定値)Bmに対して、図中A点の値が損失として測定される。あらかじめ測定される磁束密度Bmと磁性体の損失Pcの相関関係(図6に示すデータ)から、磁束密度の実際値に対応するA点の損失値Pcを、磁束密度の設定値に対応するB点の正しい損失値Pcに補正する。具体的には、A点の磁束密度(磁束密度の実際値)に比透磁率の比μLOSSVNAを乗算することで、B点の磁束密度(磁束密度の設定値)が求められ、そのB点の磁束密度に対応する損失Pcを図6に示す相関関係から求めることで、磁性体の損失Pcを補正することができる。
【0035】
[実施例]
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。
比透磁率および損失の測定は、粒径約10μmの センダスト磁性粒からなる圧粉体のリング状試料(磁性体)を使用した。ネットワークアナライザ(透磁率測定装置)で測定した試料の比透磁率は約30で、寸法は外径13mm,内径8mm,厚み1mmである。損失の測定は図3に示す共振法を用いた。磁性体には、二本平行線を用いて励磁コイルおよび探索コイルを巻線した。二本平行線は励磁コイルと探索コイル間の間隔を小さくするために使用した。励磁コイルおよび探索コイルの巻数は、18ターン2並列、8ターン4並列、5ターン6並列、3ターンの4種類を施した。ここでの並列とは複数の巻線を同時に巻いて励磁コイルおよび探索コイルの巻始め、巻き終わりをそれぞれ接続した巻き方をいう。このように複数の巻線を並列にすることで、磁性体からの磁束の漏れを低減しているが、それでも巻数の低減とともに磁束の漏れは発生している。
【0036】
図7は、比透磁率の測定結果を示した結果である。図7にはネットワークアナライザ(VNA)による測定結果と上記4種類の巻線を施した結果を合わせてプロットしてあり、ネットワークアナライザによる比透磁率の測定値がμVNA、共振法によって磁束密度0.25mTで測定した比透磁率の測定値がμLOSSである。励磁コイルおよび探索コイルの巻数が少なくなるにしたがって、損失測定時の比透磁率μLOSSは増加しネットワークアナライザでの測定値μVNAからの乖離が大きくなっている。すなわち、磁性体からの磁束の漏れやリード線のインダクタンスがμLOSSに影響を与えていることが分かる。
【0037】
図8は、磁性体の損失を、共振法を用いて設定磁束密度3mTの条件で測定した結果である。損失の値はヒステリシス曲線1周期の損失 Pc(J/m)で表している。図8から明らかなように、磁性体の損失は巻数が減少するに従って小さくなっていることが分かる。
【0038】
図9は、磁束密度を変えて磁性体の損失を測定した一例である。図9では、3ターンの巻線を施した場合の損失測定の結果を示しており、測定周波数は約30MHzである。損失測定時の設定磁束密度Bmが3mTの場合、ネットワークアナライザで測定した比透磁率μVNAと2コイル法又は共振法による比透磁率の測定値がμLOSSは、図7からそれぞれ、おおよそ29、65の数値となっている。このため、実際に磁性体の印加されている磁束密度(磁束密度の実際値)は、3mT×μVNALOSS= 1.33mTとなり、磁束密度の設定値Bmが3mTであるにも関わらず1.33mTしか印加されておらず、損失は図中A点の0.0022 J/m3と過小評価される。ここで大きく測定される比透磁率は、磁性体からの磁束の漏れとリード線のインダクタンスの影響の両方を含んだ比透磁率となっている。
【0039】
この損失の過小評価は、実際に磁性体に印加されている磁束密度1.33mTを μLOSSVNA倍した3mTのB点の損失0.0115 J/m3とすることで補正できる。図10は、補正された損失の値を示す図である。図8のすべての測定点を補正した結果が図10である。図10では上記損失の補正によって、励磁コイルおよび探索コイルの巻数による損失の依存性がみられなくなっており、本損失の補正処理の効果が確認された。
【0040】
こうして、損失測定の際に測定される磁性体の比透磁率と、透磁率測定装置を用いてあらかじめ測定される磁性体の比透磁率との関係に基づいて、損失測定により測定される磁性体の損失に対応する磁束密度の実際値と、損失測定において印加される磁束密度の設定値との相違に起因する磁性体の損失の誤差が補正され、損失の値を精度良く求めることができる。
【0041】
図11は、磁性体の探索コイルを測定器に接続するためのリード線の長さと測定される比透磁率との関係を説明する図であり、図11(a)は磁性体から延びるリード線の長さ部分を示す図であり、図11(b)はリード線の長さに対応する比透磁率の測定値を示すグラフである。図11(b)に示されるように、リード線の長さに応じて、比透磁率の測定値が変化することを確認することができた。
【0042】
図12は、磁性体の損失をリード線の長さを変えて測定した結果であり、図12(a)はリード線の長さに対する補正処理を行う前の測定結果、図12(b)はリード線の長さに対する補正処理を行った後の測定結果を示す図である。図12(a)に示す補正前の各損失値に対して、上記の比透磁率の比μLOSSVNAを乗算することで、リード線の長さに依らないリード線のインダクタンスの影響を除いた測定結果を得ることができる。
【0043】
こうして、損失測定の際に測定される磁性体の比透磁率と、透磁率測定装置を用いてあらかじめ測定される磁性体の比透磁率との関係に基づいて、探索コイルを測定器に接続するリード線の長さの相違に起因する磁性体の損失の誤差が補正され、損失の値を精度良く求めることができる。
【符号の説明】
【0044】
100、100’ 損失測定装置
101 リング状試料(磁性体)
103 励磁コイル(1次コイル)
105 探索コイル(2次コイル)
107 信号発生器
109 パワーアンプ
111 オシロスコープ(測定器)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12