IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 花王株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-抗アミラーゼ抗体 図1
  • 特開-抗アミラーゼ抗体 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157233
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】抗アミラーゼ抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20241030BHJP
   C07K 16/40 20060101ALI20241030BHJP
   G01N 33/573 20060101ALI20241030BHJP
   C12Q 1/40 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/40
G01N33/573 A
C12Q1/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071475
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西口 大貴
(72)【発明者】
【氏名】川原 彰人
【テーマコード(参考)】
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ35
4B063QR48
4B063QS02
4B063QS40
4B063QX01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA52
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】ヒト唾液アミラーゼに結合する抗体及びその利用法の提供。
【解決手段】特定のアミノ酸配列からなるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、ヒト唾液アミラーゼに結合する抗体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、(j)又は(k)で示されるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、ヒト唾液アミラーゼに結合する抗体。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(b)配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号5で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(c)配列番号7で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(d)配列番号10で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号11で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(e)配列番号13で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号15で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(f)配列番号16で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号17で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号18で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(g)配列番号19で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号20で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号21で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(h)配列番号22で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号23で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号24で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(i)配列番号25で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号26で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号27で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(j)配列番号28で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号29で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号30で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(k)配列番号31で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号32で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号33で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
【請求項2】
(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、(j)又は(k)におけるアミノ酸の置換が下記の置換である、請求項1記載の抗体。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、2番目のイソロイシン残基のロイシン残基への置換、4番目のアスパラギン酸残基のアラニン残基への置換、5番目のセリン残基のアルギニン残基への置換、及び7番目のアスパラギン酸残基のグリシン残基又はアラニン残基への置換からなる群より選択される1~4個の置換であり、配列番号2で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、7番目のアスパラギン酸残基のグリシン残基への置換及び8番目のアスパラギン残基のリジン残基への置換からなる群より選択される1又は2個の置換であり、配列番号3で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、3番目のアスパラギン残基のイソロイシン残基への置換及び11番目のアルギニン残基のリシン残基への置換からなる群より選択される1又は2個の置換である
(b)配列番号4で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、1番目のアルギニン残基のシステイン残基への置換、2番目のスレオニン残基のプロリン残基への置換、5番目のセリン残基のアスパラギン残基、スレオニン残基又はアルギニン残基への置換、6番目のセリン残基のプロリン残基への置換、及び7番目のアスパラギン酸残基のアラニン残基又はグリシン残基への置換からなる群より選択される1~5個の置換であり、配列番号5で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、4番目のセリン残基のプロリン残基への置換であり、配列番号6で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、3番目のセリン残基のアルギニン残基への置換、6番目のセリン残基のイソロイシン残基への置換、及び11番目のチロシン残基のアスパラギン酸残基への置換からなる群より選択される1~3個の置換である
(c)配列番号7で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、1番目のセリン残基のアルギニン残基への置換、3番目のセリン残基のロイシン残基への置換、4番目のセリン残基のアスパラギン酸残基への置換、及び5番目のアスパラギン残基のセリン残基への置換からなる群より選択される1~4個の置換であり、配列番号8で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、3番目のセリン残基のスレオニン残基への置換、4番目のトリプトファン残基のセリン残基への置換及び8番目のセリン残基のスレオニン残基への置換からなる群より選択される1~3個の置換である
(d)配列番号10で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、1番目のアルギニン残基のセリン残基又はシステイン残基への置換、2番目のイソロイシン残基のフェニルアラニン残基又はロイシン残基への置換、3番目のロイシン残基のフェニルアラニン残基への置換、4番目のアスパラギン酸残基のアラニン残基、バリン残基又はグリシン残基への置換、5番目のセリン残基のシステイン残基、アルギニン残基又はイソロイシン残基への置換、6番目のセリン残基のチロシン残基、スレオニン残基又はフェニルアラニン残基への置換、及び7番目のアラニン残基のバリン残基への置換からなる群より選択される1~7個の置換であり、配列番号11で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、1番目のグリシン残基のグルタミン酸残基への置換及び7番目のアスパラギン酸残基のバリン又はアスパラギン残基への置換からなる群より選択される1又は2個の置換であり、配列番号12で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、2番目のセリン残基のシステイン残基への置換、3番目のアスパラギン残基のリシン残基又はセリン残基への置換、5番目のスレオニン残基のアラニン残基又はシステイン残基への置換、6番目のチロシン残基のヒスチジン残基、フェニルアラニン残基又はアスパラギン酸残基への置換、8番目のグリシン残基のアルギニン残基への置換、9番目のスレオニン残基のアラニン残基、セリン残基又はプロリン残基への置換、及び10番目のアラニン残基のスレオニン残基への置換からなる群より選択される1~3個の置換である
(e)配列番号13で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、2番目のイソロイシン残基のスレオニン残基への置換、3番目のフェニルアラニン残基のロイシン残基への置換、4番目のセリン残基のアスパラギン酸残基又はアスパラギン残基への置換、5番目のイソロイシン残基のセリン残基への置換、6番目のセリン残基のチロシン残基への置換、及び7番目のアスパラギン酸残基のアラニン残基への置換からなる群より選択される1~6個の置換である
(f)配列番号16で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、1番目のセリン残基のシステイン残基又はアルギニン残基への置換、2番目のスレオニン残基のイソロイシン残基への置換、3番目のフェニルアラニン残基のロイシン残基又はセリン残基への置換、4番目のセリン残基のアスパラギン酸残基への置換、5番目のアスパラギン残基のセリン残基又はイソロイシン残基への置換、6番目のセリン残基のチロシン残基への置換、及び7番目のアラニン残基のアスパラギン酸残基への置換からなる群より選択される1~7個の置換であり、配列番号17で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、1番目のスレオニン残基のグリシン残基又はアラニン残基への置換、3番目のセリン残基のスレオニン残基又はアスパラギン残基への置換、4番目のアルギニン残基のセリン残基又はグリシン残基への置換、5番目のセリン残基のグリシン残基への置換、7番目のスレオニン残基のアスパラギン酸残基又はグリシン残基への置換、及び8番目のアスパラギン残基のスレオニン残基又はチロシン残基への置換からなる群より選択される1~6個の置換であり、配列番号18で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、3番目のヒスチジン残基のアスパラギン残基への置換及び7番目のチロシン残基のプロリン残基への置換からなる群より選択される1又は2個の置換である
(g)配列番号19で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、1番目のアルギニン残基のシステイン残基への置換及び6番目のセリン残基のフェニルアラニン残基への置換からなる群より選択される1又は2個の置換であり、配列番号21で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、9番目のスレオニン残基のアラニン残基への置換である
(h)配列番号22で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、3番目のセリン残基のフェニルアラニン残基への置換、5番目のイソロイシン残基のセリン残基への置換、及び7番目のアスパラギン酸残基のアラニン残基への置換からなる群より選択される1~3個の置換である
(i)配列番号25で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、1番目のセリン残基のアルギニン残基への置換であり、配列番号26で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、4番目のセリン残基のロイシン残基への置換である
(j)配列番号28で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、3残基目のセリン残基のロイシン残基への置換、4番目のアスパラギン酸残基のセリン残基への置換、5番目のイソロイシン残基のフェニルアラニン残基又はセリン残基への置換、6番目のチロシン残基のセリン残基への置換、及び7番目のアラニン残基のアスパラギン酸残基への置換からなる群より選択される1~5個の置換であり、配列番号29で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、3番目のアスパラギン残基のセリン残基への置換、4番目のスレオニン残基のセリン残基への置換、7番目のアスパラギン酸残基のグリシン残基への置換、及び8番目のアスパラギン残基のチロシン残基への置換からなる群より選択される1~4個の置換であり、配列番号30で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、8番目のスレオニン残基のアラニン残基への置換である
(k)配列番号33で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、6番目のセリン残基のアルギニン残基への置換である
【請求項3】
単一ドメイン抗体又は単一ドメイン抗体多量体である、請求項1又は2記載の抗体。
【請求項4】
VHH抗体又はVHH抗体多量体である、請求項1又は2記載の抗体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の抗体をコードする核酸。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項記載の抗体を被験試料に接触させる工程を含む、試料中のヒト唾液アミラーゼの検出方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項記載の抗体を含有するヒト唾液アミラーゼ検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒト唾液アミラーゼに結合する抗体及びその利用法に関する。
【背景技術】
【0002】
唾液は、耳下腺、顎下腺、舌下腺という3つの大きな唾液腺といくつかの小唾液腺から口腔内に分泌される分泌液で、健常な成人で1日に1000~1500mL程度分泌される。唾液は、ナトリウム、カリウム、カルシウムなどの様々な電解質やアミラーゼ、ヒスタチン、リゾチームなどのタンパク質やムチン等を含み、口腔組織の保護や抗菌活性、消化等の作用を有することが知られている(非特許文献1)。
【0003】
感染症は、ウイルスや細菌等の病原体が体内に侵入、増殖し、発熱や咳等の症状がでることをいう。主な感染経路は、手指や各種器具・部材を介した接触感染、咳やくしゃみ、会話によって発生した飛沫を直接吸入することによる飛沫感染、あるいは空気中を浮遊する飛沫核を吸入することによる空気感染である。感染症では病原体(感染源)、感染経路及び宿主の3要因が揃うことで感染が成立することから、感染症対策においてはこれらの要因のうち少なくとも1つを排除すること、すなわち病原体(感染源)の排除、感染経路の遮断及び宿主の抵抗力の向上が求められる。なかでも、感染経路の遮断は感染拡大防止のためにも重要である。
【0004】
接触感染では、感染者に触れることで病原体が直接伝播する直接接触感染と、病原体で汚染された物や人を介して病原体が伝播する間接接触感染がある。ここで、ある物が病原体で汚染されているか否かを判別することは必ずしも容易なケースばかりではなく、汚染の有無を簡便に判別することができる手法が求められている。
【0005】
一方、ラクダ科動物の血清中から見いだされた重鎖抗体の可変領域を利用した天然のシングルドメイン抗体であるVHH抗体は、その分子量がIgG抗体の10分の1と小さく、耐酸性や耐熱性に優れる。また、IgG抗体は培養細胞を用いて生産する必要があるが、VHH抗体は大腸菌や酵母で生産できる。また、VHH抗体は1本鎖のペプチドなので、蛋白質工学や化学修飾による機能の改変がしやすく、抗体薬物複合体(ADC)を作製しやすいという特徴を有する。その一方で、基質との親和性が高いVHH抗体を取得するのは難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S P Humphrey, R T Williamson, J Prosthet Dent. 2001, 85(2):162-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
感染症の感染者の唾液には、多くの場合、当該感染症の原因となるウイルス及び/又は細菌が含まれ、飛散した唾液が付着した物はウイルス及び/又は細菌で汚染され得る。よって、唾液を検出できれば、唾液が付着した物、すなわちウイルス及び/又は細菌で汚染された又は汚染され得る物を特定することができる。
ヒト唾液アミラーゼは唾液中に含まれる酵素であり、ヒト唾液アミラーゼの検出量が多い箇所は、アミラーゼないしアミラーゼを含む成分、例えば唾液が、様々な形態で付着しやすい箇所であると想定される。
よって、本発明は、ヒト唾液に含まれる唾液アミラーゼを検出可能なヒト唾液アミラーゼに結合する抗体及びその利用法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはヒト唾液アミラーゼに結合する抗体を得るべく検討した結果、VHH抗体ライブラリーからファージディスプレイ法によるスクリーニングにより、ヒト唾液アミラーゼに反応性の高いクローンを得ることに成功した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の1)~4)に係るものである。
1)以下の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、(j)又は(k)で示されるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、ヒト唾液アミラーゼに結合する抗体。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(b)配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号5で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(c)配列番号7で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(d)配列番号10で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号11で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(e)配列番号13で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号15で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(f)配列番号16で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号17で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号18で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(g)配列番号19で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号20で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号21で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(h)配列番号22で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号23で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号24で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(i)配列番号25で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号26で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号27で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(j)配列番号28で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号29で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号30で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(k)配列番号31で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号32で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号33で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3

2)1)の抗体をコードする核酸。
3)1)の抗体を被験試料に接触させる工程を含む、試料中のヒト唾液アミラーゼの検出方法。
4)1)の抗体を含有するヒト唾液アミラーゼ検出キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、反応性の高い抗ヒト唾液アミラーゼ抗体を提供することができる。当該抗体を用いることにより、ヒト唾液を検出でき、唾液が付着した物、すなわち感染症の原因となるウイルス及び/又は細菌で汚染された又は汚染され得る物の特定が可能となり、ひいては当該物を洗浄・消毒する等、感染症の感染予防又は感染拡大防止のための措置を効果的に講じることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】VHH抗体(配列番号34~44)をコードする遺伝子を組み込んだ枯草菌培養上清より精製したタンパク質の電気泳動像。
図2】ファージディスプレイ法によるスクリーニングで得られたCDR領域のアミノ酸配列。配列番号34~44は代表配列を示し、mは変異体であることを示し、変異体における灰色部は代表配列のCDR領域のアミノ酸配列と異なるアミノ酸残基を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のヒト唾液アミラーゼに結合する抗体(以下、「本発明の抗体」と称する)は、以下の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、(j)又は(k)で示されるCDR1~3を含む構造ドメインを1つ以上有する、抗ヒト唾液アミラーゼ抗体である。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(b)配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号5で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(c)配列番号7で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(d)配列番号10で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号11で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(e)配列番号13で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号15で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(f)配列番号16で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号17で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号18で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(g)配列番号19で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号20で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号21で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(h)配列番号22で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号23で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号24で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(i)配列番号25で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号26で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号27で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(j)配列番号28で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号29で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号30で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(k)配列番号31で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号32で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号33で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
【0013】
ヒト唾液アミラーゼは、ヒトの唾液に含まれ、デンプン並びに他の直鎖又は分岐1,4-グリコシドオリゴ糖若しくは多糖類の加水分解を触媒する酵素(α-アミラーゼ、EC3.2.1.1)を意味する。
【0014】
本発明の抗体の構造ドメインは、CDR1、CDR2及びCDR3の3つのCDRを有する。CDR(Complementarity Determining Region;相補性決定領域)とは、配列可変な抗原認識部位又はランダム配列領域を含み、超可変領域とも云われる。本発明の抗体の構造ドメインにおいて、3つのCDRは、N末端側からCDR1、CDR2、CDR3の順で存在する。
【0015】
下記表1に配列番号1~33で示されるアミノ酸配列を示す。
【0016】
【表1】
【0017】
上記配列番号1、4、7、10、13、16、19、22、25、28又は31で示されるアミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1は、配列番号1、4、7、10、13、16、19、22、25、28又は31で示されるアミノ酸配列からなるCDR1に変異が導入されたCDR1を意味する。上記配列番号2、5、8、11、14、17、20、23、26、29又は32で示されるアミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2は、配列番号2、5、8、11、14、17、20、23、26、29又は32で示されるアミノ酸配列からなるCDR2に変異が導入されたCDR2を意味する。上記配列番号3、6、9、12、15、18、21、24、27、30又は33で示されるアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3は、配列番号3、6、9、12、15、18、21、24、27、30又は33で示されるアミノ酸配列からなるCDR3に変異が導入されたCDR3を意味する。また、CDR1、CDR2、CDR3に変異が導入されていても、ヒト唾液アミラーゼに対する結合能を有している限り、本発明の抗体のCDRに包含される。
【0018】
上記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、(j)又は(k)において、置換されるアミノ酸の位置及び/又は欠失若しくは挿入されるアミノ酸の位置は限定されないが、好ましい置換位置として、以下の位置が挙げられる。
(a)CDR1においては配列番号1で示されるアミノ酸配列の2、4、5及び7番目の位置から選ばれる好ましくは1~4個、より好ましくは1個の位置が挙げられ、CDR2においては配列番号2で示されるアミノ酸配列の7及び8番目の位置から選ばれる好ましくは1又は2個、より好ましくは1個の位置が挙げられ、CDR3においては配列番号3で示されるアミノ酸配列の3及び11番目の位置から選ばれる好ましくは1又は2個、より好ましくは1個の位置が挙げられる。
(b)CDR1においては配列番号4で示されるアミノ酸配列の1、2、5、6及び7番目の位置から選ばれる好ましくは1~5個、より好ましくは1個の位置が挙げられ、CDR2においては配列番号5で示されるアミノ酸配列の4番目の位置が好ましく挙げられ、CDR3においては配列番号6で示されるアミノ酸配列の3、6及び11番目の位置から選ばれる好ましくは1~3個、より好ましくは1個の位置が挙げられる。
(c)CDR1においては配列番号7で示されるアミノ酸配列の1、3、4及び5番目の位置から選ばれる好ましくは1~4個、より好ましくは1個の位置が挙げられ、CDR2においては配列番号8で示されるアミノ酸配列の3、4及び8番目の位置から選ばれる好ましくは1~3個、より好ましくは1個の位置が挙げられる。
(d)CDR1においては配列番号10で示されるアミノ酸配列の1、2、3、4、5、6及び7番目の位置から選ばれる好ましくは1~7個、より好ましくは1個の位置が挙げられ、CDR2においては配列番号11で示されるアミノ酸配列の1及び7番目の位置から選ばれる好ましくは1又は2個、より好ましくは1個の位置が挙げられ、CDR3においては配列番号12で示されるアミノ酸配列の2、3、5、6、8、9及び10番目の位置から選ばれる好ましくは1~3個、より好ましくは1個の位置が挙げられる。
(e)CDR1においては配列番号13で示されるアミノ酸配列の2、3、4、5、6及び7番目の位置から選ばれる好ましくは1~6個、より好ましくは1個の位置が挙げられる。
(f)CDR1においては配列番号16で示されるアミノ酸配列の1、2、3、4、5、6及び7番目の位置から選ばれる好ましくは1~7個、より好ましくは1個の位置が挙げられ、CDR2においては配列番号17で示されるアミノ酸配列の1、3、4、5、7及び8番目の位置から選ばれる好ましくは1~6個、より好ましくは1個の位置が挙げられ、CDR3においては配列番号18で示されるアミノ酸配列の3及び7番目の位置から選ばれる好ましくは1又は2個、より好ましくは1個の位置が挙げられる。
(g)CDR1においては配列番号19で示されるアミノ酸配列の1及び6番目の位置から選ばれる好ましくは1又は2個、より好ましくは1個の位置が挙げられ、CDR3においては配列番号21で示されるアミノ酸配列の9番目の位置が好ましく挙げられる。
(h)CDR1においては配列番号22で示されるアミノ酸配列の3、5及び7番目の位置から選ばれる好ましくは1~3個、より好ましくは1個の位置が挙げられる。
(i)CDR1においては配列番号25で示されるアミノ酸配列の1番目の位置が好ましく挙げられ、CDR2においては配列番号26で示されるアミノ酸配列の4番目の位置が好ましく挙げられる。
(j)CDR1においては配列番号28で示されるアミノ酸配列の3、4、5、6及び7番目の位置から選ばれる好ましくは1~5個、より好ましくは1個の位置が挙げられ、CDR2においては配列番号29で示されるアミノ酸配列の3、4、7及び8番目の位置から選ばれる好ましくは1~4個、より好ましくは1個の位置が挙げられ、CDR3においては配列番号30で示されるアミノ酸配列の8番目の位置が好ましく挙げられる。
(k)CDR3においては配列番号33で示されるアミノ酸配列の6番目の位置が好ましく挙げられる。
【0019】
また、置換後のアミノ酸の種類は限定されないが、好ましい置換として、極性や大きさが類似のアミノ酸への置換が挙げられる。また、イソロイシン残基のロイシン残基、フェニルアラニン残基、スレオニン残基又はセリン残基への置換、アスパラギン酸残基のアラニン残基、グリシン残基、バリン残基、アスパラギン残基又はセリン残基への置換、セリン残基のアルギニン残基、アスパラギン残基、スレオニン残基、プロリン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基、アスパラギン酸残基、フェニルアラニン残基、システイン残基、チロシン残基又はグリシン残基への置換、アスパラギン残基のリシン残基、イソロイシン残基、セリン残基、スレオニン残基又はチロシン残基への置換、アルギニン残基のリシン残基、システイン残基、セリン残基、システイン残基又はグリシン残基への置換、スレオニン残基のプロリン残基、アラニン残基、システイン残基、セリン残基、イソロイシン残基、グリシン残基又はアスパラギン酸残基への置換、チロシン残基のアスパラギン酸残基へ、ヒスチジン残基、フェニルアラニン残基、プロリン残基又はセリン残基の置換、トリプトファン残基のセリン残基への置換、ロイシン残基のフェニルアラニン残基への置換、アラニン残基のバリン残基、スレオニン残基又はアスパラギン酸残基への置換、グリシン残基のグルタミン酸残基又はアルギニン残基への置換、フェニルアラニン残基のロイシン残基又はセリン残基への置換、ヒスチジン残基のアスパラギン残基への置換も好ましい置換として挙げられる。
【0020】
上記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、(j)又は(k)において、置換されるアミノ酸の位置及び置換後のアミノ酸の種類の好ましい組み合わせとしては、以下の組み合わせが挙げられる。
(a)CDR1においては配列番号1で示されるアミノ酸配列の2番目のイソロイシン残基のロイシン残基への置換、4番目のアスパラギン酸残基のアラニン残基への置換、5番目のセリン残基のアルギニン残基への置換、及び7番目のアスパラギン酸残基のグリシン残基又はアラニン残基への置換からなる群より選択される好ましくは1~4個、より好ましくは1個の置換が挙げられ、CDR2においては配列番号2で示されるアミノ酸配列の7番目のアスパラギン酸残基のグリシン残基への置換及び8番目のアスパラギン残基のリシン残基への置換からなる群より選択される好ましくは1又は2個、より好ましくは1個の置換が挙げられ、CDR3においては配列番号3で示されるアミノ酸配列の3番目のアスパラギン残基のイソロイシン残基への置換及び11番目のアルギニン残基のリシン残基への置換からなる群より選択される好ましくは1又は2個、より好ましくは1個の置換が挙げられる。
(b)CDR1においては配列番号4で示されるアミノ酸配列の1番目のアルギニン残基のシステイン残基への置換、2番目のスレオニン残基のプロリン残基への置換、5番目のセリン残基のアスパラギン残基、スレオニン残基又はアルギニン残基への置換、6番目のセリン残基のプロリン残基への置換、及び7番目のアスパラギン酸残基のアラニン残基又はグリシン残基への置換からなる群より選択される好ましくは1~5個、より好ましくは1個の置換が挙げられ、CDR2においては配列番号5で示されるアミノ酸配列の4番目のセリン残基のプロリン残基への置換が好ましく挙げられ、CDR3においては配列番号6で示されるアミノ酸配列の3番目のセリン残基のアルギニン残基への置換、6番目のセリン残基のイソロイシン残基への置換、及び11番目のチロシン残基のアスパラギン酸残基への置換からなる群より選択される好ましくは1~3個、より好ましくは1個の置換が挙げられる。
(c)CDR1においては配列番号7で示されるアミノ酸配列の1番目のセリン残基のアルギニン残基への置換、3番目のセリン残基のロイシン残基への置換、4番目のセリン残基のアスパラギン酸残基への置換、及び5番目のアスパラギン残基のセリン残基への置換からなる群より選択される好ましくは1~4個の置換、より好ましくは1個の置換が挙げられ、CDR2においては配列番号8で示されるアミノ酸配列の3番目のセリン残基のスレオニン残基への置換、4番目のトリプトファン残基のセリン残基への置換、及び8番目のセリン残基のスレオニン残基への置換からなる群より選択される好ましくは1~3個の置換、より好ましくは1個の置換が挙げられる。
(d)CDR1においては配列番号10で示されるアミノ酸配列の1番目のアルギニン残基のセリン残基又はシステイン残基への置換、2番目のイソロイシン残基のフェニルアラニン残基又はロイシン残基への置換、3番目のロイシン残基のフェニルアラニン残基への置換、4番目のアスパラギン酸残基のアラニン残基、バリン残基又はグリシン残基への置換、5番目のセリン残基のシステイン残基、アルギニン残基又はイソロイシン残基への置換、6番目のセリン残基のチロシン残基、スレオニン残基又はフェニルアラニン残基への置換、及び7番目のアラニン残基のバリン残基への置換からなる群より選択される好ましくは1~7個、より好ましくは1個の置換が挙げられ、CDR2においては配列番号11で示されるアミノ酸配列の1番目のグリシン残基のグルタミン酸残基への置換及び7番目のアスパラギン酸残基のバリン又はアスパラギン残基への置換からなる群より選択される好ましくは1又は2個、より好ましくは1個の置換が挙げられ、CDR3においては配列番号12で示されるアミノ酸配列の2番目のセリン残基のシステイン残基への置換、3番目のアスパラギン残基のリシン残基又はセリン残基への置換、5番目のスレオニン残基のアラニン残基又はシステイン残基への置換、6番目のチロシン残基のヒスチジン残基、フェニルアラニン残基又はアスパラギン酸残基への置換、8番目のグリシン残基のアルギニン残基への置換、9番目のスレオニン残基のアラニン残基、セリン残基又はプロリン残基への置換、及び10番目のアラニン残基のスレオニン残基への置換からなる群より選択される好ましくは1~3個、より好ましくは1個の置換が挙げられる。
(e)CDR1においては配列番号13で示されるアミノ酸配列の2番目のイソロイシン残基のスレオニン残基への置換、3番目のフェニルアラニン残基のロイシン残基への置換、4番目のセリン残基のアスパラギン酸残基又はアスパラギン残基への置換、5番目のイソロイシン残基のセリン残基への置換、6番目のセリン残基のチロシン残基への置換、及び7番目のアスパラギン酸残基のアラニン残基への置換からなる群より選択される好ましくは1~6個、より好ましくは1個の置換が挙げられる。
(f)CDR1においては配列番号16で示されるアミノ酸配列の1番目のセリン残基のシステイン残基又はアルギニン残基への置換、2番目のスレオニン残基のイソロイシン残基への置換、3番目のフェニルアラニン残基のロイシン残基又はセリン残基への置換、4番目のセリン残基のアスパラギン酸残基への置換、5番目のアスパラギン残基のセリン残基又はイソロイシン残基への置換、6番目のセリン残基のチロシン残基への置換、及び7番目のアラニン残基のアスパラギン酸残基への置換からなる群より選択される好ましくは1~7個、より好ましくは1個の置換が挙げられ、CDR2においては配列番号17で示されるアミノ酸配列の1番目のスレオニン残基のグリシン残基又はアラニン残基への置換、3番目のセリン残基のスレオニン残基又はアスパラギン残基への置換、4番目のアルギニン残基のセリン残基又はグリシン残基への置換、5番目のセリン残基のグリシン残基への置換、7番目のスレオニン残基のアスパラギン酸残基又はグリシン残基への置換、及び8番目のアスパラギン残基のスレオニン残基又はチロシン残基への置換からなる群より選択される好ましくは1~6個、より好ましくは1個の置換が挙げられ、CDR3においては配列番号18で示されるアミノ酸配列の3番目のヒスチジン残基のアスパラギン残基への置換及び7番目のチロシン残基のプロリン残基への置換からなる群より選択される好ましくは1又は2個、より好ましくは1個の置換が挙げられる。
(g)CDR1においては配列番号19で示されるアミノ酸配列の1番目のアルギニン残基のシステイン残基への置換及び6番目のセリン残基のフェニルアラニン残基への置換からなる群より選択される好ましくは1又は2個、より好ましくは1個の置換が挙げられ、CDR3においては配列番号21で示されるアミノ酸配列の9番目のスレオニン残基のアラニン残基への置換が好ましく挙げられる。
(h)CDR1においては配列番号22で示されるアミノ酸配列の3番目のセリン残基のフェニルアラニン残基への置換、5番目のイソロイシン残基のセリン残基への置換、及び7番目のアスパラギン酸残基のアラニン残基への置換からなる群より選択される好ましくは1~3個、より好ましくは1個の置換が挙げられる。
(i)CDR1においては配列番号25で示されるアミノ酸配列の1番目のセリン残基のアルギニン残基への置換が好ましく挙げられ、CDR2においては配列番号26で示されるアミノ酸配列の4番目のセリン残基のロイシン残基への置換が好ましく挙げられる。
(j)CDR1においては配列番号28で示されるアミノ酸配列の3残基目のセリン残基のロイシン残基への置換、4番目のアスパラギン酸残基のセリン残基への置換、5番目のイソロイシン残基のフェニルアラニン残基又はセリン残基への置換、6番目のチロシン残基のセリン残基への置換、及び7番目のアラニン残基のアスパラギン酸残基への置換からなる群より選択される好ましくは1~5個、より好ましくは1個の置換が挙げられ、CDR2においては配列番号29で示されるアミノ酸配列の3番目のアスパラギン残基のセリン残基への置換、4番目のスレオニン残基のセリン残基への置換、7番目のアスパラギン酸残基のグリシン残基への置換、及び8番目のアスパラギン残基のチロシン残基への置換からなる群より選択される好ましくは1~4個、より好ましくは1個の置換が挙げられ、CDR3においては配列番号30で示されるアミノ酸配列の8番目のスレオニン残基のアラニン残基への置換が好ましく挙げられる。
(k)CDR3においては配列番号33で示されるアミノ酸配列の6番目のセリン残基のアルギニン残基への置換が好ましく挙げられる。
【0021】
下記表2及び3に上記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、(j)又は(k)においてアミノ酸の置換を含むCDRのアミノ酸配列の具体例を示すが、置換の態様はこれらに限定されるものではない。
【0022】
【表2】
【0023】
【表3】
【0024】
なお、ヒト唾液アミラーゼに対する結合能は、当業者に公知の方法により評価できる。具体的には、後述する実施例に示すように、バイオレイヤー干渉法により、平衡乖離定数KDを求めることにより評価できる。また、例えば抗原を固定したELISA法、イムノクロマト法、等温滴定カロリメトリー法、表面プラズモン共鳴測定法等を用いた方法によっても評価できる。
【0025】
本発明の抗体の構造ドメインは、CDR1、CDR2、CDR3の両端にフレームワーク領域を有するものであってもよい。
フレームワーク領域とは、抗体分子の可変領域において相補性決定領域を除く領域であり、保存性の高い領域を指す。
すなわち、本発明の構造ドメインは、一態様として、第1フレームワーク領域(FR1)、CDR1、第2フレームワーク領域(FR2)、CDR2、第3フレームワーク領域(FR3)、CDR3及び第4フレームワーク領域(FR4)をこの順に有するものが挙げられる。
構造ドメインにおけるフレームワーク領域のアミノ酸配列としては以下のものが挙げられる。
FR1:配列番号67で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR2:配列番号68で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR3:配列番号69で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR4:配列番号70で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
【0026】
配列番号67~70で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるフレームワーク領域としては、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるフレームワーク領域が挙げられる。
【0027】
ここで、アミノ酸配列の同一性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときに両方の配列において同一のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。配列の同一性は、例えばNational Center for Biotechnology Information(NCBI)のBLAST(Basic Local Alignment Search Toolを用いて解析を行なうことにより算出できる。
【0028】
本発明の抗体のうち、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1、CDR2及びCDR3が上記表1に示すCDR1、CDR2及びCDR3であり、FR1が配列番号67で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号68で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号69で示されるアミノ酸配列、及びFR4が配列番号70で示されるアミノ酸配列からなる構造ドメイン(配列番号34~44)を有する抗体は、後述する実施例に示すように、ヒト唾液アミラーゼを抗原とするファージディスプレイ法によるスクリーニングで得られ、ヒト唾液アミラーゼに対し良好な結合性を示す、好適な抗ヒト唾液アミラーゼ抗体である。
【0029】
上記表1に示すCDR1、CDR2及びCDR3の少なくとも1つのアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸の置換を含む上記表2及び3に示すCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列は、後述する実施例に示すように、ヒト唾液アミラーゼを抗原とするファージディスプレイ法によるスクリーニングで抽出されたものであるから、斯かる置換はヒト唾液アミラーゼへの結合が維持される置換である。よって、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1、CDR2及びCDR3が上記表2及び3に示すCDR1、CDR2及びCDR3であり、FR1が配列番号67で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号68で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号69で示されるアミノ酸配列、及びFR4が配列番号70で示されるアミノ酸配列からなる構造ドメインを有する抗体も、好適な抗ヒト唾液アミラーゼ抗体である。
【0030】
本発明の抗体は、上記の構造ドメインを少なくとも1つ有するものであればその形態は限定されず、単一ドメイン抗体や、単一ドメイン抗体が複数結合した多量体(例えば二量体)であり得る。多量体には、本発明の構造ドメインが複数結合した多量体の他、当該構造ドメインの1又は複数と、該構造ドメインとは抗原特異性の異なる他の構造ドメインの1又は複数が連結した多量体が含まれる。
単一ドメイン抗体には、単一の可変領域(抗原結合ドメイン)で抗原に特異的に結合する性質を有する抗体を指す。単一ドメイン抗体には、可変領域が重鎖の可変領域のみからなる抗体(重鎖単一ドメイン抗体)、可変領域が軽鎖の可変領域のみからなる抗体(軽鎖単一ドメイン抗体)が含まれる。ラクダ科動物(例えば、ラクダ、ラマ、アルパカなど)で同定された重鎖抗体であるVHH、軟骨魚類(例えばサメ)由来の重鎖抗体であるVNAR等が単一ドメイン抗体の一種として知られており、本発明においてはVHH抗体が好ましい。また、本発明の抗体はヒト化されていてもよい。
【0031】
本発明の抗体の作製方法は特に限定されず、当該技術分野における公知技術により容易に作製することができる。例えば、ペプチド固相合成法とネイティブ・ケミカル・リゲーション(Native Chemical Ligation;NCL)法を組み合わせて作製することや遺伝子工学的に作製することができるが、本発明の抗体をコードする核酸を適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞に導入し、組換え抗体として産生させる方法が好ましい。
【0032】
組換え抗体として産生において使用される宿主細胞としては、例えば、大腸菌、枯草菌、カビ、動物細胞、植物細胞、バキュロウイルス/昆虫細胞または酵母細胞等が挙げられる。抗体を発現させるための発現用ベクターは、各種宿主細胞に適したベクターを用いることができる。発現ベクターとしては、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等の大腸菌由来のベクター;pUB110、pTP5、pC194等の枯草菌由来のベクター;pHY300PLK等の大腸菌と枯草菌で共用することができるシャトルベクター;pSH19、pSH15等の酵母由来ベクター;λファージ等のバクテリオファージ;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス等のウイルス;及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。
これらの発現ベクターは、各々のベクターに適した、複製開始点、選択マーカー及びプロモーターを有しており、必要に応じて、エンハンサー、転写集結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位及びポリアデニル化シグナル等を有していてもよい。さらに、発現ベクターには、発現したポリペプチドの精製を容易にするため、FLAGタグ、Hisタグ、HAタグ及びGSTタグなどを融合させて発現させるための塩基配列が挿入されていてもよい。
【0033】
発現させた本発明の抗体を培養菌体または培養細胞から抽出する際には、培養後、公知の方法で菌体または培養細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチーム及び/または凍結融解などによって菌体または細胞を破壊したのち、遠心分離や濾過により、可溶性抽出液を取得する。得られた抽出液から、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて目的の抗体を取得することができる。
公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、SDS-PAGE等の主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの電荷の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法または等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
【0034】
本発明の抗体は、ヒト唾液アミラーゼに結合することから、これを被験試料と接触させることによって、当該試料中にヒト唾液アミラーゼが存在すること、あるいは存在しないことを確認できる。
具体的には、本発明の抗体を用いたヒト唾液アミラーゼの検出は、本発明の抗体と、被験試料とを接触させ、本発明の抗体と前記被験試料中のヒト唾液アミラーゼとの結合体を形成させる工程と、前記結合体中のヒト唾液アミラーゼを検出する工程、を備えてなる。
【0035】
被験試料としては、唾液を含む可能性のある試料、唾液が付着している可能性のある対象物から採取された試料が挙げられ、好ましくは唾液が付着している可能性のある無生物対象物の表面から採取された試料が挙げられる。ここで、無生物対象物の表面としては、例えば、家庭や事業施設における、カウンタ、シンク、化粧室、トイレ、浴槽、シャワー台、床、窓、ドアノブ、壁、下水口、パイプ等の硬質表面;キッチン用品、家具、電話、玩具等の各種器具、道具、雑貨等の硬質表面;繊維製品(カーペット、エリアラグ、カーテン、布製家具、衣類、マスク等)等の軟質表面が挙げられる。斯かる試料の採取手段は、特に限定されないが、例えば、脱脂綿、不織布、スポンジ等を採取部として検出対象物の表面に接触させることで採取する手段を用いることできる。前記採取手段を用いる場合、検出対象物の表面に接触させた後の前記採取部を、ヒト唾液アミラーゼを抽出可能な抽出液と接触、例えば、適当な容器内に収容されたヒト唾液アミラーゼを抽出可能な抽出液に浸漬させ、得られた抽出液を本発明の抗体との接触に供することができる。
抗体は固相に固定されていてもよく、固相に固定されていなくてもよい。
上記の結合体中のヒト唾液アミラーゼを検出する工程は、例えば、上記の結合体に、別の本発明の抗体又は結合体中の本発明の抗体とは異なるエピトープを認識する抗ヒト唾液アミラーゼ抗体を反応させることにより行うことができる。或いは、ホモジニアスアッセイにより、液相中で上記の結合体中のヒト唾液アミラーゼを検出してもよい。
【0036】
また、本発明の抗体は、ヒト唾液アミラーゼ検出用キットの構成成分となり得る。当該キットは、ヒト唾液が付着した物、好ましくは当該物中のヒト唾液が付着した箇所を特定するためのツールとして使用可能である。感染症の感染者の唾液には、多くの場合、当該感染症の原因となるウイルス及び/又は細菌が含まれる。よって、ヒト唾液が付着した物を特定できれば、ウイルス及び/又は細菌で汚染された又は汚染され得る物の特定、すなわち感染症感染リスクの可視化が可能となり、当該物を洗浄・消毒すること等によって感染予防又は感染拡大防止のための措置を効果的に講じることができるようになる。
【0037】
当該検出キットは、本発明の抗ヒト唾液アミラーゼ抗体の他、検出に必要な試薬及び器具、例えば抗体、固相担体、緩衝液、酵素反応停止液、マイクロプレートリーダー等を含むことができる。
当該検出キットにおいて、本発明の抗体は固相に固定されていてもよい。固相としては、例えば、ビーズ、膜、反応容器の側面や底面、スライドガラス等の板状基板、イムノプレート等のウェル基板等が挙げられ、本発明の抗体が直接的又は間接的に固定される。
【0038】
本発明においては上述した実施形態に関し、さらに以下の態様が開示される。
<1>以下の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、(j)又は(k)で示されるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、ヒト唾液アミラーゼに結合する抗体。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(b)配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号5で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(c)配列番号7で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(d)配列番号10で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号11で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(e)配列番号13で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号15で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(f)配列番号16で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号17で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号18で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(g)配列番号19で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号20で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号21で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(h)配列番号22で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号23で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号24で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(i)配列番号25で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号26で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号27で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(j)配列番号28で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号29で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号30で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(k)配列番号31で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~7個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された及び/又は1~3個のアミノ酸が欠失若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号32で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号33で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
<2>(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、(j)又は(k)におけるアミノ酸の置換が下記の置換である、<1>の抗体。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、2番目のイソロイシン残基のロイシン残基への置換、4番目のアスパラギン酸残基のアラニン残基への置換、5番目のセリン残基のアルギニン残基への置換、及び7番目のアスパラギン酸残基のグリシン残基又はアラニン残基への置換からなる群より選択される1~4個、好ましくは1個の置換であり、配列番号2で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、7番目のアスパラギン酸残基のグリシン残基への置換及び8番目のアスパラギン残基のリジン残基への置換からなる群より選択される1又は2個、好ましくは1個の置換であり、配列番号3で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、3番目のアスパラギン残基のイソロイシン残基への置換及び11番目のアルギニン残基のリシン残基への置換からなる群より選択される1又は2個、好ましくは1個の置換である
(b)配列番号4で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、1番目のアルギニン残基のシステイン残基への置換、2番目のスレオニン残基のプロリン残基への置換、5番目のセリン残基のアスパラギン残基、スレオニン残基又はアルギニン残基への置換、6番目のセリン残基のプロリン残基への置換、及び7番目のアスパラギン酸残基のアラニン残基又はグリシン残基への置換からなる群より選択される1~5個、好ましくは1個の置換であり、配列番号5で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、4番目のセリン残基のプロリン残基への置換であり、配列番号6で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、3番目のセリン残基のアルギニン残基への置換、6番目のセリン残基のイソロイシン残基への置換、及び11番目のチロシン残基のアスパラギン酸残基への置換からなる群より選択される1~3個、好ましくは1個の置換である
(c)配列番号7で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、1番目のセリン残基のアルギニン残基への置換、3番目のセリン残基のロイシン残基への置換、4番目のセリン残基のアスパラギン酸残基への置換、及び5番目のアスパラギン残基のセリン残基への置換からなる群より選択される1~4個、好ましくは1個の置換であり、配列番号8で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、3番目のセリン残基のスレオニン残基への置換、4番目のトリプトファン残基のセリン残基への置換及び8番目のセリン残基のスレオニン残基への置換からなる群より選択される1~3個、好ましくは1個の置換である
(d)配列番号10で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、1番目のアルギニン残基のセリン残基又はシステイン残基への置換、2番目のイソロイシン残基のフェニルアラニン残基又はロイシン残基への置換、3番目のロイシン残基のフェニルアラニン残基への置換、4番目のアスパラギン酸残基のアラニン残基、バリン残基又はグリシン残基への置換、5番目のセリン残基のシステイン残基、アルギニン残基又はイソロイシン残基への置換、6番目のセリン残基のチロシン残基、スレオニン残基又はフェニルアラニン残基への置換、及び7番目のアラニン残基のバリン残基への置換からなる群より選択される1~7個、好ましくは1個の置換であり、配列番号11で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、1番目のグリシン残基のグルタミン酸残基への置換及び7番目のアスパラギン酸残基のバリン又はアスパラギン残基への置換からなる群より選択される1又は2個、好ましくは1個の置換であり、配列番号12で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、2番目のセリン残基のシステイン残基への置換、3番目のアスパラギン残基のリシン残基又はセリン残基への置換、5番目のスレオニン残基のアラニン残基又はシステイン残基への置換、6番目のチロシン残基のヒスチジン残基、フェニルアラニン残基又はアスパラギン酸残基への置換、8番目のグリシン残基のアルギニン残基への置換、9番目のスレオニン残基のアラニン残基、セリン残基又はプロリン残基への置換、及び10番目のアラニン残基のスレオニン残基への置換からなる群より選択される1~3個、好ましくは1個の置換である
(e)配列番号13で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、2番目のイソロイシン残基のスレオニン残基への置換、3番目のフェニルアラニン残基のロイシン残基への置換、4番目のセリン残基のアスパラギン酸残基又はアスパラギン残基への置換、5番目のイソロイシン残基のセリン残基への置換、6番目のセリン残基のチロシン残基への置換、及び7番目のアスパラギン酸残基のアラニン残基への置換からなる群より選択される1~6個、好ましくは1個の置換である
(f)配列番号16で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、1番目のセリン残基のシステイン残基又はアルギニン残基への置換、2番目のスレオニン残基のイソロイシン残基への置換、3番目のフェニルアラニン残基のロイシン残基又はセリン残基への置換、4番目のセリン残基のアスパラギン酸残基への置換、5番目のアスパラギン残基のセリン残基又はイソロイシン残基への置換、6番目のセリン残基のチロシン残基への置換、及び7番目のアラニン残基のアスパラギン酸残基への置換からなる群より選択される1~7個、好ましくは1個の置換であり、配列番号17で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、1番目のスレオニン残基のグリシン残基又はアラニン残基への置換、3番目のセリン残基のスレオニン残基又はアスパラギン残基への置換、4番目のアルギニン残基のセリン残基又はグリシン残基への置換、5番目のセリン残基のグリシン残基への置換、7番目のスレオニン残基のアスパラギン酸残基又はグリシン残基への置換、及び8番目のアスパラギン残基のスレオニン残基又はチロシン残基への置換からなる群より選択される1~6個、好ましくは1個の置換であり、配列番号18で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、3番目のヒスチジン残基のアスパラギン残基への置換及び7番目のチロシン残基のプロリン残基への置換からなる群より選択される1又は2個、好ましくは1個の置換である
(g)配列番号19で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、1番目のアルギニン残基のシステイン残基への置換及び6番目のセリン残基のフェニルアラニン残基への置換からなる群より選択される1又は2個、好ましくは1個の置換であり、配列番号21で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、9番目のスレオニン残基のアラニン残基への置換である
(h)配列番号22で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、3番目のセリン残基のフェニルアラニン残基への置換、5番目のイソロイシン残基のセリン残基への置換、及び7番目のアスパラギン酸残基のアラニン残基への置換からなる群より選択される1~3個、好ましくは1個の置換である
(i)配列番号25で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、1番目のセリン残基のアルギニン残基への置換であり、配列番号26で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、4番目のセリン残基のロイシン残基への置換である
(j)配列番号28で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、3残基目のセリン残基のロイシン残基への置換、4番目のアスパラギン酸残基のセリン残基への置換、5番目のイソロイシン残基のフェニルアラニン残基又はセリン残基への置換、6番目のチロシン残基のセリン残基への置換、及び7番目のアラニン残基のアスパラギン酸残基への置換からなる群より選択される1~5個、好ましくは1個の置換であり、配列番号29で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、3番目のアスパラギン残基のセリン残基への置換、4番目のスレオニン残基のセリン残基への置換、7番目のアスパラギン酸残基のグリシン残基への置換、及び8番目のアスパラギン残基のチロシン残基への置換からなる群より選択される1~4個、好ましくは1個の置換であり、配列番号30で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、8番目のスレオニン残基のアラニン残基への置換である
(k)配列番号33で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換が、6番目のセリン残基のアルギニン残基への置換である
<3>(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、(j)又は(k)で示されるCDRが以下のCDRである、<1>の抗体。
(a)配列番号1、79、80、81、82又は83で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2、84又は85で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号3、86又は87で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(b)配列番号4、88、89、90、91、92、93、94又は95で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号5又は96で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6、97、98又は99で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(c)配列番号7又は100で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8又は101で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(d)配列番号10、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115又は116で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号11、117、118又は119で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131又は132で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(e)配列番号13、133、134、135、136又は137で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(f)配列番号16、138、139、140、141、142、143、144又は145で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号17、146、147、148、149、150、151、152又は153で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号18又は154で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(g)配列番号19又は155で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号20で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号21又は156で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(h)配列番号22又は157で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号23で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号24で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(i)配列番号25又は158で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号26又は159で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号27で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(j)配列番号28、160又は161で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号29又は162で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号30又は163で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
(k)配列番号31で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号32で示されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号33又は164で示されるアミノ酸配列からなるCDR3
<4>単一ドメイン抗体又は単一ドメイン抗体多量体である、<1>~<3>のいずれかの抗体。
<5>単一ドメイン抗体多量体が、前記構造ドメインを複数連結した多量体である、<4>の抗体。
<6>単一ドメイン抗体多量体が、前記構造ドメインの1又は複数と、該構造ドメインとは抗原特異性の異なる構造ドメインの1又は複数を連結した多量体である、<4>の抗体。
<7>VHH抗体又はVHH抗体多量体である、<1>~<3>のいずれかの抗体。
<8>VHH抗体多量体が、前記構造ドメインを複数連結した多量体である、<7>の抗体。
<9>VHH抗体多量体が、前記構造ドメインの1又は複数と、該構造ドメインとは抗原特異性の異なる構造ドメインの1又は複数を連結した多量体である、<7>の抗体。
<10>構造ドメインが、第1フレームワーク領域(FR1)、CDR1、第2フレームワーク領域(FR2)、CDR2、第3フレームワーク領域(FR3)、CDR3及び第4フレームワーク領域(FR4)をこの順に有するものである、<1>~<9>のいずれかの抗体。
<11>FR1~FR4が以下のアミノ酸配列からなる、<10>の抗体。
FR1:配列番号67で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR2:配列番号68で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR3:配列番号69で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR4:配列番号70で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
<12>FR1~FR4が以下のアミノ酸配列からなる、<10>の抗体。
FR1:配列番号67で示されるアミノ酸配列
FR2:配列番号68で示されるアミノ酸配列
FR3:配列番号69で示されるアミノ酸配列
FR4:配列番号70で示されるアミノ酸配列
【0039】
<13><1>~<12>のいずれかの抗体をコードする核酸。
<14><1>~<12>のいずれかの抗体を被験試料に接触させる工程を含む、試料中のヒト唾液アミラーゼの検出方法。
<15><1>~<12>のいずれかの抗体を含有するヒト唾液アミラーゼ検出キット。
【実施例0040】
実施例1 ヒト唾液アミラーゼに結合するVHHのスクリーニング
抗原に結合する抗体配列は、多様な抗体配列を含む大規模なライブラリーからのスクリーニングによって取得することができる。ライブラリーから抗原に特異的な抗体をスクリーニングしてくる手法の代表的なものとしてファージディスプレイ法が挙げられる。本手法では、抗体断片を提示したファージを産生し、抗原への結合・洗浄及び大腸菌への再感染を繰り返し行うことで、抗原に結合する抗体断片を含むDNAを濃縮することができる。
ヒト唾液アミラーゼ(Sigma-Aldrich、A0521)を抗原として使用し、VHH抗体ライブラリーよりファージディスプレイ法によって、ヒト唾液アミラーゼに結合するVHH抗体として配列番号34~44のいずれかのアミノ酸配列からなる抗体を単離した。配列番号34、35、36、37、38、39、40、41、42、43又は44のアミノ酸配列からなる抗体のCDR1~3のアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号1~3、4~6、7~9、10~12、13~15、16~18、19~21、22~24、25~27、28~30又は31~33に示す。各VHH抗体のFR1~4は、共通であり、そのアミノ酸配列を配列番号67~70に示す。配列番号34~44のアミノ酸配列にHis-tagを付加した配列を配列番号45~55に示し、これらのアミノ酸配列をコードする塩基配列をそれぞれ配列番号56~66に示す。
【0041】
実施例2 枯草菌を用いたVHHサンプルの調製
(1)VHH発現用プラスミドの構築
pHY300PLKをベースとして作製された組換えプラスミドpHY-S237(特開2014-158430)をテンプレートとし、5’-GATCCCCGGGAATTCCTGTTATAAAAAAAGG-3’(配列番号71)と5’-ATGATGTTAAGAAAGAAAACAAAGCAG-3’(配列番号72)のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。Bacillus subtilis 168株のゲノムをテンプレートとし、5’-GAATTCCCGGGGATCTAAGAAAAGTGATTCTGGGAGAG-3’(配列番号73)と5’-CTTTCTTAACATCATAGTAGTTCACCACCTTTTCCC-3’(配列番号74)のプライマーセットを用いたPCRによりspoVG遺伝子由来のプロモーターDNAを増幅した。得られたプロモーターDNAを、In-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いてプラスミド配列に組み込み、spoVGプロモーターと連結されたVHH発現用プラスミドを構築した。
【0042】
(2)ヒト唾液アミラーゼに結合するVHH発現用プラスミドの設計
5’-TTGCAGCTGAACTTCTGCTGCAAGAGCTGCCGGAAATAAA-3’(配列番号75)及び5’-CACCATCATCATTAATCTATTAAACTAGTTATAGGG-3’(配列番号76)のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。得られたPCR断片に、配列番号56~66のいずれかの配列からなるDNA断片をIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いて組み込み、ヒト唾液アミラーゼに結合するVHH遺伝子の各々を含むVHH発現用プラスミドを構築した。
【0043】
(3)組換え枯草菌の作製
枯草菌Dpr9ΔsigF株へのプラスミド又はPCR産物の導入は以下に示すプロトプラスト法によって行った。Dpr9ΔsigFは、枯草菌168株から、特開2006-174707号に記載されている方法に従って、9種の細胞外プロテアーゼ遺伝子(epr、wprA、mpr、nprB、bpr、nprE、vpr、aprE及びaprX)を全て欠損させ、さらに特許第4336082に記載されている方法に従い、胞子形成に関与するsigF遺伝子を欠損させることにより得られた株である。1mLのLB液体培地にグリセロールストックした枯草菌を植菌し、30℃、210rpmで一晩振とう培養した。翌日、新たな1mLのLB液体培地にこの培養液を10μL植菌し、37℃、210rpmで約2時間振とう培養した。この培養液を1.5mLチューブに回収し、12,000rpmで5分間遠心し、上清を除去したペレットをLysozyme(SIGMA社製)4mg/mLを含むSMMP500μLに懸濁し、37℃で1時間インキュベートした。次いで、3,500rpmで10分間遠心し、上清を除去したペレットをSMMP400μLに懸濁した。この懸濁液33μLを各種プラスミドと混合し、さらに40%PEGを100μL添加してボルテックスした。この液にSMMPを350μL加えて転倒混和し、30℃、210rpmで1時間振とうした後、DM3寒天培地プレートに全量塗布し、30℃で2~3日間インキュベートした。
【0044】
(4)VHH産生
(3)で作製した組換え枯草菌を1mLの50ppmテトラサイクリンを含むLB培地に植菌し、32℃で一晩往復振とうし、前培養液とした。Dpr9ΔsigFは、前培養液をひだ付き三角フラスコに入れた20mLの2×L-mal培地に1%接種し、30℃で72時間振とう培養した。培養終了時に1mLの培養液をマイクロチューブにて4℃、15,000rpm、5分間遠心し、上清を回収した。その後、Ni-NTAアガロースビーズ(富士フィルム和光純薬)を用い、キットのプロトコルに従って精製した。
回収した精製サンプルとLaemmli Sample Buffer(BIO-RAD)を等量混和後、99℃で5分間熱処理してサンプルを調製した。ゲルはMini-PROTEIN TGX Stain-Free(BIO-RAD)を用いた。各ウェルに5μLのサンプルをアプライし、210Vで25分間泳動した。分子量マーカーにはPrecision Plus protein Unstained standard(BIO-RAD)を用いた。ChemiDoc MP Imaging Systemでタンパク質のバンドを検出した(図1)。その結果、いずれのVHHも高純度に精製されていることが確認された。
【0045】
実施例3 バイオレイヤー干渉法による結合活性測定
Octet(商標) R8 タンパク質解析システム(SARTORIUS)を用いてNi-NTA(NTA)Biosensors(SARTORIUS)に固相化した配列番号34~44のいずれかのアミノ酸配列からなるVHHのヒト唾液アミラーゼに対する結合活性を測定した。ラン毎の測定順は以下の通りである;1)Baseline step:PBST中で60秒間の測定、2)Loading step:PBSTで希釈調製した1-10μg/mL VHHで300秒間の測定、3)Baseline step:PBST中で90秒間の測定、4)Association step:PBSTで希釈し調製した0、2.23、4.45、8.9、17.8、35.6、71.2nM ヒト唾液アミラーゼ(Sigma-Aldrich、A0521)で300秒間の測定、5)Dissociation step:PBST中で300秒間の測定。Octet(商標) Analysis Studioソフトウェアバージョン(12.2.2.26)を用いてGlobal Fittingを行い、結合活性を算出した(表4)。その結果、配列番号34~44のいずれかのアミノ酸配列からなるVHHはヒト唾液アミラーゼに結合することが確認された。
【0046】
【表4】
【0047】
実施例4 ファージディスプレイ法によって得られるDNAのCDR領域アミノ酸配列の抽出
実施例1に記載のファージディスプレイ法によって得られたコロニー集団からNucleoSpin(登録商標) Plasmid EasyPure(Takara)を用いてプラスミドを抽出した。得られたプラスミド集団をテンプレートとし、5’-TAACCATGAAATACCTATTGCC-3’(配列番号77)と5’-CGCTGCTAACGGTAACCTGG-3’(配列番号78)のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりVHH領域を増幅し、NEBNext Ultra II DNA Library Prep Kit for Illumina(NEB)を用いてシーケンスライブラリーの調製を行った。得られたPCR産物をGenNext(登録商標) NGS Library Quantification Kit(TOYOBO)によって定量し、4nMに希釈したのちMiSeq(Illumina)とMiSeq Reagent Nano Kit v2 (500-cycles)(Illumina)を用いてシーケンスを行った。シーケンスデータからVHHがコードされている塩基配列領域を抜き出し、アミノ酸配列に翻訳したのち、配列番号34~44とアミノ酸配列が類似した変異体配列を抽出し、CDR領域の比較を行った(図2)。ファージディスプレイ法は抗原に結合するVHH配列を濃縮していく方法であることから、配列番号34~44のいずれかのアミノ酸配列からなるVHHにおいて、ヒト唾液アミラーゼへの結合が維持される複数の置換が同定された。図2の置換を含むCDRのアミノ酸配列を配列番号79~164に示す。
図1
図2
【配列表】
2024157233000001.xml