(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157240
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】調光部材、該調光部材を用いた防眩装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/23 20060101AFI20241030BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20241030BHJP
C07D 277/56 20060101ALI20241030BHJP
C07D 333/38 20060101ALI20241030BHJP
B60J 3/04 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
G02B5/23
C09K3/00 104C
C07D277/56
C07D333/38
B60J3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071485
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】島田 真紀
(72)【発明者】
【氏名】太田 最実
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文紀
(72)【発明者】
【氏名】鍋谷 俊太
(72)【発明者】
【氏名】深港 豪
(72)【発明者】
【氏名】栗原 清二
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148DA01
2H148DA04
2H148DA21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】消色時の黄変を防止した調光部材、該調光部材を用いた防眩装置を提供する。
【解決手段】本発明の調光部材は、フォトクロミック材料と樹脂とを含有する。そして、上記フォトクロミック材料が、下記構造式(1)で表される化合物を含有することとしたため、消色時の黄変を防止した、調光部材、該調光部材を用いた防眩装置を提供することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトクロミック材料と樹脂とを含有する調光部材であって、
上記フォトクロミック材料が、下記構造式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする調光部材。
【化14】
但し、構造式(1)中、X
1,X
2は、それぞれ独立して窒素原子又は置換基を有する炭素原子を表し、Y
1、Y
2は、炭化水素基又はシアノ基を表し、いずれか一方はシアノ基である。
R
1、R
2は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の炭化水素基、置換または非置換のシリル基、置換または非置換の複素環基、およびヘテロ原子を含む置換基からなる群から選択される基を表し、Aは、環構造、2つのメチル基又は2つのシアノ基が置換した構造を表す。
【請求項2】
上記構造式(1)のAが、下記構造式(2)で表される構造の化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の調光部材。
【化15】
【請求項3】
上記構造式(1)のX1とX2とが、アルキル基を有する炭素原子であることを特徴とする請求項1に記載の調光部材。
【請求項4】
運転者の目の位置及びその位置の明るさを検知するドライバモニタと、
フロントウィンドウから室内に入射する光の方向を検知する光方向検知部と、
上記フロントウィンドウに向けて室内側から制御光を照射する光照射部と、
これらを制御する制御装置と、を備える防眩装置であって、
上記フロントウィンドウが、室内側から調光層と紫外線遮蔽層とがこの順で積層され、
上記調光層が、上記請求項1~3のいずれか1つの項に記載の調光部材で形成されており、
上記制御装置が、上記ドライバモニタから得た運転者の目の位置の明るさが所定の明るさ以上であると判定したとき、上記光方向検知部が検知した光の光源から運転者の目の位置に向かう直線上の上記フロントウィンドウに向け、上記光照射部から制御光を照射して上記フロントウィンドウを部分的に着色させることを特徴とする防眩装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光部材に係り、更に詳細には、消色時の黄変を防止した調光部材、該調光部材を用いた防眩装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外光が照射されると着色し、可視光~赤外光によって消色し透明になる化合物が知られており、このような化合物は、フォトクロミック材料として用いられている。
【0003】
なかでも、下記反応式(1)中、Rがシアノ基であるジアリールエテン誘導体は、紫外光の照射を止め、可視光~赤外光を照射により着色状態から透明色状態に変化するときの消色速度が、Rがメチル基であるジアリールエテン誘導体に比して、およそ30倍も速いので、瞬時に透明状態に変化することが要求される防眩装置に有用である。
【0004】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chemistry Letters Vol.32, No.9 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献1に記載されるRがシアノ基であるジアリールエテン誘導体は、着色状態と消色状態とを繰り返すと、透明状態のときに黄色に着色するという、不可逆的な黄変が生じるという問題を有する。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、消色時の黄変を防止した調光部材、該調光部材を用いた防眩装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、フォトクロミック化合物として、チオフェン環に水素(H)が結合していないジアリールエテン誘導体を用いることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の調光部材は、フォトクロミック材料と樹脂とを含有する。
そして、上記フォトクロミック材料が、下記構造式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする;
【0010】
【化2】
但し、構造式(1)中、X
1,X
2は、それぞれ独立して窒素原子又は置換基を有する炭素原子を表し、Y
1、Y
2は、炭化水素基又はシアノ基を表し、いずれか一方はシアノ基である。
R
1、R
2は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の炭化水素基、置換または非置換のシリル基、置換または非置換の複素環基、およびヘテロ原子を含む置換基からなる群から選択される基を表し、Aは、環構造、2つのメチル基又は2つのシアノ基が置換した構造を表す。
【0011】
また、本発明の防眩装置は、運転者の目の位置及びその位置の明るさを検知するドライバモニタと、フロントウィンドウから室内に入射する光の方向を検知する光方向検知部と、上記フロントウィンドウに向けて室内側から制御光を照射する光照射部と、これらを制御する制御装置と、を備える。
上記フロントウィンドウが、室内側から調光層と紫外線遮蔽層とがこの順で積層され、
上記調光層が、上記調光部材で形成されており、
上記制御装置が、上記ドライバモニタから得た運転者の目の位置の明るさが所定の明るさ以上であると判定したとき、上記光方向検知部が検知した光の光源から運転者の目の位置に向かう直線上の上記フロントウィンドウに向け、上記光照射部から制御光を照射して上記フロントウィンドウを部分的に着色させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フォトクロミック材料として、チオフェン環に水素が結合していないジアリールエテン誘導体を使用することとしたため、消色時の黄変を防止した、調光部材、該調光部材を用いた防眩装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】防眩装置のフロントウィンドウの層構成の一例を示す断面図である。
【
図3】本発明の調光部材に用いるフォトクロミック材料の劣化試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のフォトクロミック材料について詳細に説明する。
まず、非特許文献1に記載されるRがシアノ基であるジアリールエテン誘導体の反応について説明する。
【0015】
上記ジアリールエテン誘導体は、下記反応式(2)に示す開環反応と閉環反応とが可逆的に起こり、光学状態が着色状態と透明状態との間で変化する。
【0016】
【0017】
上記ジアリールエテン誘導体が、着色状態と透明状態との光学状態の変化を繰り返すと、不可逆的な黄変が生じる理由は以下のように考えられる。
【0018】
上記ジアリールエテン誘導体は、チオフェン環が結合した箇所が回転可能であり、下記式(3)の右に示すような構造を取り得る。
【0019】
【0020】
上記式(3)の右に示す、上記チオフェン環が結合した箇所が回転した状態のときに、紫外光を受けて閉環したジアリールエテン誘導体は、下記反応式(4)の左に示すように、一方のチオフェン環の水素(H)と、他方のチオフェン環のシアノ基とが近接した構造をしている。このため、反応式(4)に示すようにシアン化水素(HCN)の脱離反応が生じ易く、元の構造に戻らなくなるためではないかと推察される。
【0021】
【0022】
本発明の調光部材は、フォトクロミック材料として、上記ジアリールエテン誘導体のチオフェン環がチアゾール環である化合物、または、上記チオフェン環の1位の水素が置換された、下記構造式(1)で表される化合物を含有する。
これらの化合物は、上記のような、シアノ基と反応する水素がなく、シアン化水素(HCN)の脱離反応が起こらない。
【0023】
【化6】
但し、構造式(1)中、X
1,X
2は、それぞれ独立して窒素原子又は置換基を有する炭素原子を表し、Y
1、Y
2は、炭化水素基又はシアノ基を表し、いずれか一方はシアノ基である。
R
1、R
2は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換の炭化水素基、置換または非置換のシリル基、置換または非置換の複素環基、およびヘテロ原子を含む置換基からなる群から選択される基を表し、Aは、環構造、2つのメチル基又は2つのシアノ基が置換した構造を表す。
【0024】
本発明が用いるジアリールエテン誘導体は、下記反応式(5)に示す可逆的な反応により、光学状態が着色状態と透明状態との間で変化し、X1,X2の部位に水素原子がないので、シアン化水素(HCN)の脱離反応が生じず、黄変が防止される。
なお、UVは、365nmの光を表し、Visは、550nmの光を表す。
【0025】
【0026】
構造式(1)のX1,X2が置換基を有する炭素原子であるときの置換基としては、炭素数1~20の炭化水素基を挙げることができ、上記炭化水素は、直鎖、分岐鎖または環状のいずれであってもよく、また飽和炭化水素であっても、不飽和炭化水素であってもよい。
【0027】
上記炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基などの炭素数1~20の直鎖のアルキル基や、
イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソアミル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、1-メチルペンチル基、4-メチル-2-ペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、1-メチルヘキシル基、tert-オクチル基、1-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、2-プロピルペンチル基、2,2-ジメチルヘプチル基、2,6-ジメチル-4-ヘプチル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、1-メチルデシル基、1-ヘキシルヘプチル基などの炭素数1~20の分岐鎖のアルキル基が挙げられる。
【0028】
また、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、3-メチル-1-プロピニル基、2-メチル-3-プロピニル基、ペンチニル基、1-ヘキシニル基、3-メチル-1-ブチニル基、3,3-ジメチル-1-ブチニル基などの炭素数2~20のアルキニル基や、
ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、ペンテニル基、1-ヘキセニル基、3,3-ジメチル-1-ブテニル基などの炭素数2~20のアルケニル基が挙げられる。
【0029】
さらに、フェニル基、ビフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、ナフタセニル基、インデニル基、アズレニル基、アントラセニル基、トリフェニレニル基、クリセニル基などの炭素数6~20の芳香族炭化水素基を挙げることができる。
【0030】
中でも、上記構造式(1)のX1,X2が、メチル基やエチル基などの炭化水素基を有する炭素原子であると、立体障害によりチオフェン環の回転が抑制され、光反応性が向上するので、調光フィルム中のジアリールエテン誘導体の含有量を減らすことが可能であり、透明性が高い調光フィルムの作製が可能である。
【0031】
上記構造式(1)中、Y1、Y2の炭化水素基としては、上記X1,X2位に置換基する炭化水素基と同様の炭化水素基を挙げることができる。
【0032】
また、構造式(1)中、R1、R2の炭化水素基としては、上記X1,X2位に置換基する炭化水素基と同様の炭化水素基を挙げることができる。
【0033】
構造式(1)中、R1、R2の複素環基としては、例えば、チエニル基、フラニル基、ピロリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、ピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、トリアジニル基、ベンゾチエニル基、ベンズイミダゾリル基、インドリル基、イソインドリル基、キノリニル基、イソキノリニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、ナフチリジニル基、アクリジニル基、カルバゾリル基、またはジベンゾチエニル基などの炭素数2~20の芳香族複素環基や、ピロリジニル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロチエニル基、ピぺリジニル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロチオピラニル基、ジオキサニル基、モルホニル基、ジオキソラニル基などの炭素数2~20の非芳香族複素環基を挙げることができる。
【0034】
構造式(1)中、R1、R2のヘテロ原子を含む置換基としては、例えば、炭素数1~4のアルコキシ基、アルキルアミノ基、アルキルエーテル基、ヒドロキシアルキル基、アルキルチオ基、アシロキシ基、アルキルカルボン酸エステル基、アルキルカルボン酸アミド基、N-アルキルカルバモイル基、N,N-ジアルキルカルバモイル基、アルキルスルホニル基、ハロゲン化アルキル基、ピロリル基、ピリジル基、ナフチル基、ピロリジニル基、ピペリジル基、パーヒドロインドリル基、パーヒドロイソインドリル基、パーヒドロキノリル基、パーヒドロイソキノリル基、パーヒドロカルバゾリル基、パーヒドロアクリジニル基、フリル基、ピラニル基、パーヒドロフリル基、チエニル基などが挙げられる。
【0035】
構造式(1)中、R1、R2の、炭化水素基、シリル基及び複素環基が、置換基を有する場合、導入される置換基としては、ハロゲノ基、非置換のアルキル基、非置換のアルコキシ基およびこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0036】
上記構造式(1)中、Aとしては、下記構造式(2)で表される環構造、2つのメチル基又は2つのシアノ基が置換した構造を挙げることができる。
【0037】
【0038】
これらの化合物の例を示す。
【0039】
【0040】
中でも、構造式(1)中、Aが、上記構造式(2)で表される構造であると、下記反応式(6)に示すような、5員環のチオフェン環の部分が6員環に構造が変化する副反応が抑制され、着色劣化が抑制されて高い透明性を維持することができる。
【0041】
【0042】
上記構造式(1)で表される化合物は、従来公知の合成方法により作製することができる。
例えば、構造式(1)中、X1,X2が、窒素原子である化合物は、チオベンズアミドを出発原料として合成することができる。
また、構造式(1)中、X1,X2が、置換基を有する炭素原子である化合物は、2-ブロモ-3-アルキルチオフェンなどを出発原料として合成することができる。
【0043】
上記構造式(1)で表される化合物は、単独又は他のフォトクロミック化合物と混合してフォトクロミック材料として使用できる。
【0044】
また、上記フォトクロミック材料は、樹脂と混合した調光部材としての使用可能である。上記調光部材としては、例えば、調光フィルム、調光ガラス、調光レンズなどを挙げることができる。
【0045】
調光部材中のフォトクロミック材料の含有量としては、1~20質量%であることが好ましい。
【0046】
上記調光部材は、フォトクロミック材料と樹脂とを有機溶媒に溶解し、上記有機溶媒を揮発させることで作製できる。
【0047】
上記樹脂としては、例えば、ポリブチラール、ポリオレフィン、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、スチロール樹脂などが挙げられる。
【0048】
また、上記有機溶媒としては、使用する樹脂の種類などにもよるが、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、イソオクタン、ベンゼン、ヘプタン、トルエン等を挙げることができる。
【0049】
上記構造式(1)で表される化合物を含有するフォトクロミック材料は、長期に亘り黄変劣化が抑制されるだけでなく、光学状態の変化速度が速いので、対向車のライトなど、急に照射される光源によるまぶしさを低減する防眩装置に好適に使用できる。
【0050】
上記防眩装置は、上記フォトクロミック材料を含有するフロントウィンドウに紫外光を照射し、瞬時に着色させることで、フロントウィンドウから室内に入射する光によって運転者の目が眩むことを防止する装置である(特開2022-176582号公報参照)。
【0051】
上記フロントウィンドウは、
図1に示すように、合わせガラスの中間膜として、室内側に調光層、室外側に紫外線遮蔽層が積層され、上記調光層として本発明の調光部材が使用される。
【0052】
上記紫外光遮蔽層は、紫外線吸収剤や、紫外光乱反射剤を含む層である。
上記紫外線吸収剤としては、波長400nm以下の紫外部の光を吸収し、可視部の光は吸収せず、着色性の少ない従来公知の紫外線吸収剤を使用でき、例えば、ベソゾフェノン誘導体、サリチル酸エステル誘導体、トリアゾール誘導体、アクリロニトリル誘導体を挙げることができる。また、紫外光乱反射剤としては、酸化チタンや酸化亜鉛などを挙げることができる。
【0053】
これにより、太陽光などの外光によってフロントウィンドウが着色することが防止され、室内側からフロントウィンドウに向けて制御光を照射することで、着色状態と透明状態とを切り替えることができる。
【0054】
防眩装置は、
図2に示すように、ドライバモニタ40と、光方向検知部50と、光照射部30と、これらを制御する(図示しない)制御装置と、を備える。
【0055】
ドライバモニタは、カメラで撮像された運転者の顔画像を取得し、取得した顔画像に基いて運転者の目位置及びその周囲の明るさを検知する。
【0056】
光源特定部は、室外を撮像するカメラを備え、その画像から運転者に対する光源の相対位置を検知する。光源特定部は、例えば、撮像した画像のうち、輝度値が所定の輝度値以上の画素部分に光源があると判断し、画像上の光源の位置、カメラの取り付け角度及び取り付け位置から光源の相対位置を検出する。
【0057】
光照射部は、紫外光光源と赤外光~可視光光源とを備え、室内側からフロントウィンドウに向けて制御光を照射する。この光照射部は局所的に照射を行うスポット型の照射器であることが好ましい。
【0058】
上記制御装置は、ドライバモニタから得た運転者の目の位置の明るさが所定の明るさ以上であるか否かの判定を行う。
【0059】
上記制御装置は、運転者が眩しい状態であると判定したとき、光源特定部から得た光源の相対位置と、ドライバモニタから得た運転者の目位置とから、室内に入射する光の光源から運転者の目の位置に向かう直線上の上記フロントウィンドウの位置を特定する。
【0060】
そして、特定したフロントウィンドウの位置に向けて上記光照射部から制御光を照射し、上記フロントウィンドウを部分的に着色させる。
【0061】
また、運転者の目の位置の明るさが所定の明るさ未満になったときは、上記光照射部から制御光を照射して上記フロントウィンドウを透明状態に戻す。これにより、運転者の視界を良好に保つことができる。
【実施例0062】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
構造式(1)のX1,X2が、窒素原子であるDAE-thiazoPh-CNを、チオベンズアミドを出発原料とし、以下のスキームに従って合成した。
【0064】
【0065】
<化合物(3)の合成>
チオベンズアミド(1)(10.0g,72.9mmol:東京化成工業社製)とブロモアセトアルデヒドジエチルアセタール(2)(15.8g,80.1mmol:東京化成工業社製)をエタノール(400mL)に溶解させた反応溶液に、p-トルエンスルホン酸一水和物(630mg,3.3mmol)とH2O(20mL)を加え、終夜還流した。
反応溶液を室温まで戻し、飽和炭酸ナトリウム水溶液を加え反応をクエンチした。
エバポレーターでエタノールを除去した後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を食塩水で洗浄した。
有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)によって精製を行い、化合物(3)を11.8g得た。
【0066】
3~5mgmの合成した化合物を1mLの重溶媒(重クロロホルムもしくは重ジクロロメタン)に溶解して、NMRスペクトル測定装置JNMEX400 spectrometer(日本電子株式会社製、磁場数:400MHz)を用いて行った。
【0067】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ:7.33-7.31(d,J=4.0Hz,1H),7.41-7.46(m,3H),7.85-7.86(d,J=4.0Hz,1H),7.95-7.98(m,2H).
【0068】
<化合物(4)の合成>
化合物(3)(13.0g,80.6mmol)をクロロホルム(200mL)に溶解させた反応溶液に、N-ブロモスクシンイミド(15.0g,84.3mmol)を4回に分けて加え、65℃で終夜加熱攪拌した。
TLC(薄層クロマトグラフィー)により反応の進行を確認した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液により反応溶液を中和した。その溶液をジクロロメタンで抽出し、有機層を食塩水で洗浄した。
有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)によって精製を行い、化合物(4)を14.5g(60.5mmol)得た。
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ:7.43-7.46(m,3H),7.75(s,1H),7.85-7.88(m,2H).
【0069】
<化合物(5)の合成>
アルゴン雰囲気下において無水テトラヒドロフラン(THF)溶液(65mL)に2MのLDA(ジイソプロピルアミドリチウム)溶液(8.5mL,17mmol)を加え、-78℃に冷却した。
その溶液に無水THF溶液(15mL)に化合物(4)(3.0g,12.5mmol)を溶解させた溶液をゆっくり滴下した後、-78℃で40分攪拌した。
その反応溶液に無水DMF(ジメチルホルムアミド)(1.6mL,21mmol)を滴下し、-78℃で1時間攪拌した。
TLCにより反応の進行を確認した後、その溶液を室温まで戻し、水を加えて反応をクエンチした。反応溶液を酢酸エチルで抽出し、有機層を食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=1:2→1:3)によって精製を行い、化合物(5)を2.9g(10.8mmol)得た。
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ:7.39-7.62(m,3H),8.00(d,J=8Hz,8H),10.00(s,1H).
【0070】
<化合物(6)の合成>
化合物(5)(2.0g,7.5mmol)をトルエン(25mL)に溶解させた反応溶液に、エチレングリコール(2.4mL,43mmol)、p-トルエンスルホン酸一水和物(26mg,0.14mmol)を加え、Dean-Stark装置を用いて終夜還流した。
反応溶液を室温に戻し、TLCにより反応の進行を確認した後、その溶液を酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。抽出した溶液を減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=1:3→1:4)によって精製を行い、化合物(6)を2.3g(7.4mmol)得た。
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ:3.98-4.22(m,4H),6.11(s,1H),7.35-7.53(m,3H),7.91(d,J=8Hz,2H).
【0071】
<化合物(8)の合成>
化合物(6)(1.0g,3.2mmol)を無水THF溶液(25mL)に溶解させた反応溶液に、アルゴン雰囲気下、-78℃で1.6Mのn-ブチルリチウムヘキサン溶液(2.2mL,3.5mmol)をゆっくりと滴下した。その温度で30分攪拌した後、オクタフルオロシクロペンテン(0.25mL,1.86mmol)を溶解させた無水THF溶液(5mL)を-78℃でゆっくりと滴下した。その温度で1時間攪拌した後、室温までゆっくりと昇温させた。
TLCにより反応の進行を確認した後、その溶液に水を加えて反応を停止した。酢酸エチルで抽出し、有機層を2N塩酸水溶液および食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した後、その残渣物をTHF(15mL)に溶解させ、濃塩酸(12N,1.5mL)を加え、65℃で3時間攪拌した。
TLCにより脱保護の進行を確認した後、反応溶液をジエチルエーテルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=1:4)によって精製を行い、化合物(8)を450mg得た。
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ:7.36-7.58(m,6H),7.90(d,J=8Hz,4H),9.96(s,2H);MS(MALDI)m/z=550.37[M]+(Exact Mass:550.02).
【0072】
<DAE-thiazoPh-CNの合成>
化合物(8)(160mg,0.29mmol)をジメチルスルホキシド(1.2mL)に溶解させた反応溶液に、ヒドロキシルアミン塩酸塩(44mg,0.64mmol)を加えた。その反応溶液をアルゴン雰囲気下、90℃で4時間加熱攪拌した後、室温まで戻した。
TLCにより反応の進行を確認した後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=1:3)によって精製を行い、薄黄色固体のDAE-thiazoPh-CNを120mg得た。
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ:7.36-7.61(m,6H),7.86(d,J=8Hz,4H);MS(MALDI)m/z=545.13[M+H]+(Exact Mass:544.03).
【0073】
[実施例2]
構造式(1)のX1,X2が、メチル基を有する炭素原子であるDAE-Me-thioPh-CNを、2-ブロモ-3-メチルチオフェンを出発原料とし、以下のスキームに従って合成した。
【0074】
【0075】
<化合物(2)の合成>
2-ブロモ-3-メチルチオフェン(1)(5.0g,28.2mmol)とフェニルボロン酸(3.5g,28.7mmol)をテトラヒドロフラン(THF)(100mL)に溶解させた反応溶液に、20wt%炭酸ナトリウム水溶液(72mL)とテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(500mg,0.43mmol)を加え、終夜還流した。
反応溶液を室温まで戻しTLCで反応の進行を確認した後、反応溶液を酢酸エチルで抽出し、有機層を食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)によって精製を行い、化合物(2)を4.9g得た。
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ:2.31(s,3H),6.91(d,J=4.0Hz,1H),7.18(d,J=4.0Hz,1H),7.28-7.43(m,3H),7.46(d,J=8Hz,2H).
【0076】
<化合物(3)の合成>
化合物(2)(4.9g,28.1mmol)をTHF(230mL)に溶解させた反応溶液に、N-ブロモスクシンイミド(6.0g,33.7mmol)を4回に分けて加え、室温で終夜攪拌した。
TLCにより反応の進行を確認した後、水を加えて反応をクエンチした。その溶液を酢酸エチルで抽出し、有機層を食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)によって精製を行い、化合物(3)を(7.0g,27.7mmol)得た。
【0077】
<化合物(4)の合成>
アルゴン雰囲気下において無水THF溶液(110mL)に2MのLDA溶液(16.6mL,33.2mmol)を加え、-78℃に冷却した。その溶液に無水THF溶液(15mL)に化合物(3)(7.0g,27.7mmol)を溶解させた溶液をゆっくり滴下した後、-78℃で30分攪拌した。その反応溶液に無水DMF(3.0mL,38.3mmol)を滴下し、-78℃で1時間攪拌した。
TLCにより反応の進行を確認した後、その溶液を室温まで戻し、水を加えて反応をクエンチした。反応溶液を酢酸エチルで抽出し、有機層を食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=1:1)によって精製を行い、化合物(4)を6.7g(23.8mmol)得た。
【0078】
<化合物(5)の合成>
化合物(4)(3.8g,13.5mmol)をトルエン(45mL)に溶解させた反応溶液に、エチレングリコール(2.0mL,35.7mmol)、p-トルエンスルホン酸一水和物(47mg,0.25mmol)を加え、Dean-Stark装置を用いて終夜還流した。
反応溶液を室温に戻し、TLCにより反応の進行を確認した後、その溶液を酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。抽出した溶液を減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=1:1)によって精製を行い、化合物(5)を(3.6g,7.4mmol)得た。
【0079】
<化合物(7)の合成>
化合物(5)(2.5g,7.7mmol)を無水THF溶液(50mL)に溶解させた反応溶液に、アルゴン雰囲気下、-78℃で1.6Mのn-ブチルリチウムヘキサン溶液(5.3mL,8.5mmol)をゆっくりと滴下した。その温度で30分攪拌した後、オクタフルオロシクロペンテン(0.54mL,4.0mmol)を溶解させた無水THF溶液(10mL)を-78℃でゆっくりと滴下した。その温度で1時間攪拌した後、室温までゆっくりと昇温させた。
TLCにより反応の進行を確認した後、その溶液に水を加えて反応を停止した。酢酸エチルで抽出し、有機層を2N塩酸水溶液および食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した後、その残渣物をTHF(15mL)に溶解させ、濃塩酸(12N,1.0mL)を加え、65℃で2時間攪拌した。
TLCにより脱保護の進行を確認した後、エバポレーターでTHFを除去した後、残渣物をジエチルエーテルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)によって精製を行い、化合物(7)を1.3g得た。
【0080】
<DAE-Me-thioPh-CNの合成>
化合物(7)(200mg,0.35mmol)をジメチルスルホキシド(1.5mL)に溶解させた反応溶液に、ヒドロキシルアミン塩酸塩(53mg,0.77mmol)を加えた。その反応溶液をアルゴン雰囲気下、90℃で4時間加熱攪拌した後、室温まで戻した。
TLCにより反応の進行を確認した後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=1:1)によって精製を行い、DAE-thioPh-CNを160mg得た。
【0081】
<評価>
実施例1,2で得たフォトクロミック化合物、及び、比較例として、下記構造の比較化合物を2wt%相当になるようにPMMA溶液に添加しフィルム化した。
【0082】
これらのフィルムに下記の条件で光を照射し、着色状態と消色状態とを50時間繰り返して耐久試験を実施し、紫外-可視分光光度計(CM-3600A コニカミノルタ製)を用い、耐久後のフィルムが透明状態のときの550nmの透過率を測定した。
着色時の照射光 UV光10mW/cm
2、Vis光45mW/cm
2 40秒間
消色時の照射光 Vis光45mW/cm
2 150秒間
測定結果を
図3に示す。
【0083】
【0084】
図3のグラフから、本発明のフォトクロミック材料は、長期に亘り、透明時の黄変が抑制されていることが分かる。