(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157260
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】細胞培養方法および細胞培養装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20241030BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20241030BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20241030BHJP
C12N 5/074 20100101ALI20241030BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12N1/00 A
C12N5/0735
C12N5/074
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071514
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 竹晃
(72)【発明者】
【氏名】池田 周平
(72)【発明者】
【氏名】河井 敦
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC02
4B029DA01
4B029GB09
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065BC41
(57)【要約】
【課題】高い均一性で再現性良く足場材を担持体表面にコーティングできる細胞培養方法、細胞培養装置が期待されていた。
【解決手段】流路系と、前記流路系に着脱可能な培養容器と、足場材を含んだ足場材溶液を貯留し、前記流路系に接続された足場材溶液容器と、前記流路系を構成する流路各部の開閉及び/または接続の切り替えを行う流路制御部と、を備え、前記培養容器が前記流路系に装着された状態において、前記流路制御部は、前記足場材溶液容器と前記培養容器とが接続され、前記足場材溶液容器から前記培養容器に前記足場材溶液を供給することが可能な足場材溶液供給流路と、前記足場材溶液が前記培養容器の内外を循環することが可能な足場材溶液循環流路と、を構成することが可能な細胞培養装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路系と、
前記流路系に着脱可能な培養容器と、
足場材を含んだ足場材溶液を貯留し、前記流路系に接続された足場材溶液容器と、
前記流路系を構成する流路各部の開閉及び/または接続の切り替えを行う流路制御部と、を備え、
前記培養容器が前記流路系に装着された状態において、前記流路制御部は、
前記足場材溶液容器と前記培養容器とが接続され、前記足場材溶液容器から前記培養容器に前記足場材溶液を供給することが可能な足場材溶液供給流路と、
前記足場材溶液が前記培養容器の内外を循環することが可能な足場材溶液循環流路と、を構成することが可能である、
ことを特徴とする細胞培養装置。
【請求項2】
流路系と、
前記流路系に着脱可能な培養容器と、
足場材を含んだ足場材溶液を貯留し、前記流路系に接続された足場材溶液容器と、
細胞懸濁液を貯留し、前記流路系に接続された細胞懸濁液容器と、
前記流路系に接続された複数のポンプと、
前記流路系を構成する流路各部の開閉及び/または接続の切り替えを行う流路制御部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、前記培養容器が前記流路系に装着された状態において、
前記足場材溶液容器と前記培養容器が接続されるように前記流路制御部を制御し、前記足場材溶液容器から前記培養容器に前記足場材溶液が送液されるように前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させる足場材溶液供給工程と、
前記足場材溶液供給工程よりも後に、前記流路制御部を制御して前記培養容器が含まれた循環路を構成し、前記足場材溶液が前記循環路を循環するように前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させる足場材溶液循環工程と、を実行する、
ことを特徴とする細胞培養装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記足場材溶液循環工程よりも後に、前記細胞懸濁液容器と前記培養容器が接続されるように前記流路制御部を制御し、前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させて前記細胞懸濁液容器から前記培養容器に前記細胞懸濁液を送液する細胞懸濁液供給工程を実行する、
ことを特徴とする請求項2に記載の細胞培養装置。
【請求項4】
廃液を貯留可能な廃液タンクが前記流路系に接続されており、
前記制御部は、前記足場材溶液循環工程と前記細胞懸濁液供給工程の間に、前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させて前記培養容器に存する前記足場材溶液を前記廃液タンクに排出する排出工程を実行する、
ことを特徴とする請求項3に記載の細胞培養装置。
【請求項5】
前記足場材溶液循環工程において、前記循環路は、前記足場材溶液容器と前記培養容器とを含む環流路として構成される、
ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項6】
前記流路系に接続された足場材溶液サブタンクを備え、
前記足場材溶液供給工程において、前記足場材溶液は前記培養容器と前記足場材溶液サブタンクに送液され、
前記足場材溶液循環工程において、前記循環路は、前記足場材溶液サブタンクと前記培養容器とが接続された環流路として構成される、
ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項7】
前記流路系に接続された足場材溶液サブタンクを備え、
前記足場材溶液供給工程において、前記足場材溶液は前記培養容器と前記足場材溶液サブタンクに送液され、
前記足場材溶液循環工程において、前記循環路は、前記培養容器を挟んで前記足場材溶液容器と前記足場材溶液サブタンクとが接続された往復流路として構成される、
ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項8】
前記足場材溶液サブタンクの内容積は、前記培養容器の内容積以上である、
ことを特徴とする請求項6に記載の細胞培養装置。
【請求項9】
前記足場材溶液循環工程において、所定時間経過すると、前記循環路において前記足場材溶液が流れる方向を反転させる、
ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項10】
前記足場材が、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、アルブミン、ポリリジン、ポリオルニチン、およびそれらのフラグメントからなる群から選択された少なくとも1つを含む、
ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項11】
前記細胞懸濁液は、多能性幹細胞を含む、
ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項12】
流路系と、
前記流路系に着脱可能な培養容器と、
足場材を含んだ足場材溶液を貯留し、前記流路系に接続された足場材溶液容器と、
細胞懸濁液を貯留し、前記流路系に接続された細胞懸濁液容器と、
前記流路系に接続された複数のポンプと、
前記流路系を構成する流路各部の開閉及び/または接続の切り替えを行う流路制御部と、を備えた細胞培養装置を用いた細胞培養方法であって、
前記培養容器が前記流路系に装着された状態において、
前記流路制御部が前記足場材溶液容器と前記培養容器とを接続し、前記足場材溶液容器から前記培養容器に前記足場材溶液が送液されるように前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させる足場材溶液供給工程と、
前記足場材溶液供給工程よりも後に、前記流路制御部は前記培養容器が含まれた循環路を構成し、前記足場材溶液が前記循環路を循環するように前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させる足場材溶液循環工程と、を実行する、
ことを特徴とする細胞培養方法。
【請求項13】
前記足場材溶液循環工程よりも後に、前記流路制御部が前記細胞懸濁液容器と前記培養容器とを接続し、前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させて前記細胞懸濁液容器から前記培養容器に前記細胞懸濁液を送液する細胞懸濁液供給工程を実行する、
ことを特徴とする請求項12に記載の細胞培養方法。
【請求項14】
廃液を貯留可能な廃液タンクが前記流路系に接続されており、
前記足場材溶液循環工程と前記細胞懸濁液供給工程の間に、前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させて前記培養容器に存する前記足場材溶液を前記廃液タンクに排出する排出工程を実行する、
ことを特徴とする請求項13に記載の細胞培養方法。
【請求項15】
前記足場材溶液循環工程において、前記循環路は、前記足場材溶液容器と前記培養容器とを含む環流路として構成される、
ことを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項16】
前記流路系に接続された足場材溶液サブタンクを備え、
前記足場材溶液供給工程において、前記足場材溶液は前記培養容器と前記足場材溶液サブタンクに送液され、
前記足場材溶液循環工程において、前記循環路は、前記足場材溶液サブタンクと前記培養容器とが接続された環流路として構成される、
ことを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項17】
前記流路系に接続された足場材溶液サブタンクを備え、
前記足場材溶液供給工程において、前記足場材溶液は前記培養容器と前記足場材溶液サブタンクに送液され、
前記足場材溶液循環工程において、前記循環路は、前記培養容器を挟んで前記足場材溶液容器と前記足場材溶液サブタンクとが接続された往復流路として構成される、
ことを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項18】
前記足場材溶液サブタンクの内容積は、前記培養容器の内容積以上である、
ことを特徴とする請求項16に記載の細胞培養方法。
【請求項19】
前記足場材溶液循環工程において、所定時間経過すると、前記循環路において前記足場材溶液が流れる方向を反転させる、
ことを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項20】
前記足場材が、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、アルブミン、ポリリジン、ポリオルニチン、およびそれらのフラグメントからなる群から選択された少なくとも1つを含む、
ことを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【請求項21】
前記細胞懸濁液は、多能性幹細胞を含む、
ことを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養方法、細胞培養装置、等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ヒトiPS細胞に代表される接着細胞を培養する際は、担持体に細胞を接着させて培養を行う。培養の目的に応じて適宜の担持体が選択されるが、例えばシャーレや培養プレートは、使い捨てが可能でコスト的に有利であり、しかも取り扱いが容易であるため、広く利用されている。
【0003】
シャーレや培養プレートのような担持体を用いて接着培養を行う際には、担持体に接着細胞が接着しやすくなるように担持体の表面に足場材をコーティングすることが行われる。一つの方法としては、予め細胞培養装置とは別の場所で担持体の表面に足場材をコーティングし、その後に担持体を細胞培養装置にセットする方法がある。しかし、細胞培養装置とは異なる環境で足場材をコーティングする工程、コーティングした担持体を細胞培養装置まで搬送して細胞培養装置内にセットする工程、等において、担持体の表面が汚染されるリスクがある。
【0004】
こうした汚染のリスクを低減するためには、滅菌済みの担持体を細胞培養装置にセットし、細胞培養装置内で足場材をコートし、足場材がコートされた担持体を細胞培養装置の外に出すことなく培養を完了させることが望ましい。
【0005】
特許文献1には、培養装置内で担持体に足場材のコートを行うための装置構成が提案されている。すなわち、足場材溶液を貯留した足場材容器から培養容器に足場材を送液するための足場材溶液送液管と、培養容器から足場材溶液を排液容器に排出するための廃液送液管を備えた装置が記載されている。特許文献1の装置では、足場材容器から培養容器に所定の液量の足場材溶液が供給された時点で送液ポンプを停止し、培養容器を静置させて足場材をコーティングする。所定時間だけ静置させて培養容器へのコーティングが完了したら、培養容器から足場材溶液を排出し、細胞懸濁液を培養容器に注入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された装置によれば、培養装置内で培養容器に足場材のコートを行うことが可能であるため、培養装置外でコーティングされた培養容器を搬入してセットする場合に比べて、汚染のリスクを低減することができる。
【0008】
しかし、特許文献1に記載された培養装置では、所定の液量の足場材溶液を培養容器に供給してから所定時間だけ静置させてコーティングをしているが、コーティングの場所ムラ(不均一)が発生しがちであった。しかも、培養容器を取り替えるたびに場所ムラの発生の仕方が異なるため、目的とする細胞を安定して大量に培養することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、流路系と、前記流路系に着脱可能な培養容器と、足場材を含んだ足場材溶液を貯留し、前記流路系に接続された足場材溶液容器と、前記流路系を構成する流路各部の開閉及び/または接続の切り替えを行う流路制御部と、を備え、前記培養容器が前記流路系に装着された状態において、前記流路制御部は、前記足場材溶液容器と前記培養容器とが接続され、前記足場材溶液容器から前記培養容器に前記足場材溶液を供給することが可能な足場材溶液供給流路と、前記足場材溶液が前記培養容器の内外を循環することが可能な足場材溶液循環流路と、を構成することが可能である、ことを特徴とする細胞培養装置である。
【0010】
また、本発明の第2の態様は、流路系と、前記流路系に着脱可能な培養容器と、足場材を含んだ足場材溶液を貯留し、前記流路系に接続された足場材溶液容器と、細胞懸濁液を貯留し、前記流路系に接続された細胞懸濁液容器と、前記流路系に接続された複数のポンプと、前記流路系を構成する流路各部の開閉及び/または接続の切り替えを行う流路制御部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記培養容器が前記流路系に装着された状態において、前記足場材溶液容器と前記培養容器が接続されるように前記流路制御部を制御し、前記足場材溶液容器から前記培養容器に前記足場材溶液が送液されるように前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させる足場材溶液供給工程と、前記足場材溶液供給工程よりも後に、前記流路制御部を制御して前記培養容器が含まれた循環路を構成し、前記足場材溶液が前記循環路を循環するように前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させる足場材溶液循環工程と、を実行する、ことを特徴とする細胞培養装置である。
【0011】
また、本発明の第3の態様は、流路系と、前記流路系に着脱可能な培養容器と、足場材を含んだ足場材溶液を貯留し、前記流路系に接続された足場材溶液容器と、細胞懸濁液を貯留し、前記流路系に接続された細胞懸濁液容器と、前記流路系に接続された複数のポンプと、前記流路系を構成する流路各部の開閉及び/または接続の切り替えを行う流路制御部と、を備えた細胞培養装置を用いた細胞培養方法であって、前記培養容器が前記流路系に装着された状態において、前記流路制御部が前記足場材溶液容器と前記培養容器とを接続し、前記足場材溶液容器から前記培養容器に前記足場材溶液が送液されるように前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させる足場材溶液供給工程と、前記足場材溶液供給工程よりも後に、前記流路制御部は前記培養容器が含まれた循環路を構成し、前記足場材溶液が前記循環路を循環するように前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させる足場材溶液循環工程と、を実行する、ことを特徴とする細胞培養方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い均一性で再現性良く足場材を担持体表面にコーティングできるため、目的とする細胞を安定して大量に培養することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1に係る細胞培養装置が備える流路系の構成を説明するための模式図。
【
図2】実施形態に係る細胞培養方法の処理手順を説明するためのフローチャート。
【
図3】実施形態2に係る細胞培養装置が備える流路系の構成を説明するための模式図。
【
図4】実施形態3に係る細胞培養装置が備える流路系の構成を説明するための模式図。
【
図5】実施形態4に係る細胞培養装置が備える流路系の構成を説明するための模式図。
【
図6】実施形態5に係る細胞培養装置が備える流路系の構成を説明するための模式図。
【
図7】実施形態6に係る細胞培養装置が備える流路系の構成を説明するための模式図。
【
図8】実施形態8に係る細胞培養装置が備える流路系の構成を説明するための模式図。
【
図9】足場材の吸着挙動を測定するのに用いる実験系の模式図。
【
図13】実験例4で使用した実験系の流路の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態を具体的に説明する前に、本発明についての理解を容易にするため、足場材のコーティングに関して本発明者が行った実験と、それに基づいて見出した知見について説明する。本発明者は、特許文献1に記載された培養装置が、足場材溶液を培養容器に供給してから所定時間だけ静置させて足場材をコーティングしている点に着目した。そこで、足場材溶液を流動させながらコーティングすることを着想し、コーティングの場所ムラや再現性のなさを改善することができないかを検討するため、下記の実験を行なった。
【0015】
(実験系)
図9は、足場材の吸着挙動を測定するのに用いる実験系の模式図であり、足場材溶液を貯留したリザーバー容器12、分子吸着測定装置11、送液ポンプPE、タンク13が、点線で示す流路により接続されている。分子吸着測定装置11は、水晶振動子センサーを備え、吸着した分子の量を測定可能な装置であり、例えばBiolin Scientific社製のQCM-D測定装置を用いることができる。
【0016】
図9に示す実験系では、送液ポンプPEを作動させることにより、リザーバー容器12に貯留された足場材溶液が分子吸着測定装置11を経由してタンク13に排出されるように、矢印F1の向きに液体を流動させることができる。また、送液ポンプPEの回転方向を逆にすれば、矢印F2の向きに液体を流動させ、タンク13に貯留された液体を分子吸着測定装置11を経由してリザーバー容器12に還流させることができる。リザーバー容器12から所定量の足場材溶液を分子吸着測定装置11に注入した時点で送液ポンプPEを停止させれば、特許文献1に記載されたように足場材溶液を静置させた状態での吸着の進行状況を、分子吸着測定装置11を使ってモニターすることができる。また、送液ポンプPEを作動させ続ければ、足場材溶液を継続的に流動させた状態での吸着の進行状況を、分子吸着測定装置11を使ってモニターすることができる。
【0017】
(実験例1)
図9に示した実験系において、表面の材質が金である水晶振動子センサーを分子吸着測定装置11に装着し、金を担持体とした場合の足場材の吸着特性を測定した。足場材が水晶振動子センサーに吸着しやくなるように、無水エタノールと純水を用いて水晶振動子センサーを超音波洗浄した後、UVオゾン処理装置を用いて表面を親水化する処理を行った。足場材を吸着させる際の分子吸着測定装置11の温度は、37℃に設定した。図中、模式的に点線で示された流路は、テフロン(登録商標)を素材とするチューブを用いて構成した。
【0018】
以下に説明するように、足場材溶液の静置と流動を組み合わせた条件のもとで足場材の吸着を測定した。
図10は、測定結果を示すグラフであり、横軸は時間を、縦軸は吸着量を示している。
【0019】
・経過時間0~A:ベースライン測定
まず、足場材溶液を貯留したリザーバー容器12の代わりに、足場材の希釈液(溶媒)として用いるりん酸緩衝生理食塩水(以下の説明ではPBSと記す場合がある)を貯留したポリプロピレン製の容器を接続した。PBSとして、ナカライテスク株式会社製のKCl不含、pH7.4のりん酸緩衝生理食塩水を用いることができる。送液ポンプPEを作動させ、0.2ml/minの流速(単位時間あたりの流量)で矢印F1の向きで分子吸着測定装置11にPBSを送液する。PBSが水晶振動子センサーに触れるとセンサーの振動数が変化するが、一定時間の送液を続けると振動数の値が安定してくる。この安定した状態を、
図10のグラフの原点とした。原点が決まったタイミングから300秒が経過するまで(すなわち、
図10の時間0~Aの間)、PBSを流し続けたが、溶媒のみを流動させているので足場材が水晶振動子センサーに吸着することはなく、吸着量を測定するためのベースラインが確定する。
【0020】
・経過時間A~B:足場材コート液導入
送液ポンプPEを停止し、PBSを貯留した容器に代えて、足場材溶液を貯留したポリプロピレン製のリザーバー容器12を実験系に装着した。足場材溶液としては、足場材成分であるラミニンE8フラグメント(株式会社ニッピ製の製品名iMatrix-511)を、濃度が2.16μg/mlとなるようにPBSで希釈した液を用いた。送液ポンプPEを、0.2ml/minの流速で作動させ、足場材が分子吸着測定装置11に吸着し始めたことがモニターされたときから200秒間経過するまで(すなわち、
図10の時間Bまで)、送液を続けた。
【0021】
・経過時間B~C:静置吸着
送液ポンプPEを停止し、分子吸着測定装置11内の足場材溶液を静置させた。そのまま足場材の吸着量が飽和するタイミング(
図10の時間C)まで静置させた。
【0022】
・経過時間C~D:往復流動させながら吸着
再び送液ポンプPEを0.2ml/minの流速で作動させ、10秒ごとに送液方向を逆転させ、足場材溶液を矢印F1と矢印F2の方向に交互に流動させた。足場材の吸着量が飽和するタイミング(
図10の時間D)まで、繰り返し送液方向を逆転させながら足場材溶液を流動させ続けた。
【0023】
・経過時間D~終了:単方向に流動させながら吸着
送液ポンプPEによる送液方向を矢印F1の向きに固定し、0.2ml/minの流速(単位時間あたりの流量)で、フレッシュな足場材溶液をリザーバー容器12から連続して送液し続けた。足場材の吸着量が飽和するタイミングで送液と測定を停止した。
【0024】
図10のグラフが示す様に、足場材溶液を供給した後に静置させた場合(時間B~C)には、水晶振動子センサー表面に吸着する足場材成分が少ないことがわかる。時間A~Bの間に、0.66mlの足場材溶液を送液しているので、少なくとも1.44μgの足場材成分が分子吸着測定装置11内に送られている。水晶振動子センサーの表面積が0.98cm
2であることを考慮すると、単純計算では1.4μg/cm
2以上の吸着量が期待できる。しかし、吸着が飽和した時点(
図10の時間C)では吸着量は0.15μg/cm
2よりも少なく、静置状態での足場材の吸着の効率は非常に低いことが示唆される。静置した状態での自然対流や自然拡散では、水晶振動子センサー表面に十分な量の足場材が接触できないためと推測される。
【0025】
また、水晶振動子センサーを取り替えて同様の実験をすると、静置させた時点で到達する飽和吸着量(時間Cにおける吸着量)が異なる場合があり、静置では吸着状態の再現性が低いことが判った。これも、静置した時の条件により足場材の供給量に局所的なばらつきが発生し、自然対流や自然拡散では局所的なばらつきを十分に解消できないためと推測される。
【0026】
一方、静置状態での吸着が飽和した後であっても、所定量の足場材溶液を往復(循環)させながら流動させ続ければ(
図10の時間C~D)、吸着量が静置時に比べて大幅に上昇することがわかる。
【0027】
また、時間C~Dの往復送液のように所定量の足場材溶液を往復(循環)させ続けた状態での吸着が飽和した後であっても、フレッシュな足場材溶液を供給して流動させ続ければ、更に吸着量を増加させることができる。限られた量の足場材溶液を循環させ続けると、足場材が吸着するにしたがって足場材溶液中の足場材の濃度が低下するが、フレッシュな足場材溶液を供給して流動させ続ければ、吸着量をさらに増大させることができる。この関係性を利用すれば、使用する足場材溶液の量と循環(流動)させる時間を制御することによって、目的とする量の足場材を担持体に吸着させることができる。
【0028】
尚、最終的な飽和吸着量は、供給される足場材溶液の濃度、担持体である水晶振動子センサーの表面の材質、状態、温度等の条件に依存して決まるが、静置の場合とは異なり飽和吸着量の再現性が高かった。言い換えれば、流動させ続ければ吸着量の場所ムラが小さかった。
【0029】
以上より、足場材の吸着量を再現性良く増大させるためには、少なくとも担持体に吸着させるべき量以上の足場材を含んだ足場材溶液を準備し、担持体と接触させながら流動させて吸着させるのが効果的であると考えられる。担持体は、シャーレのようにそれ自身が容器を構成してよいし、容器内に載置された培養プレート(容器とは別体)であってもよい。培養装置には、例えば培養容器の内容積の2倍以上の体積の足場材溶液を保持し、足場材溶液を担持体と接触させながら流動させ続けることが可能な流路系を構成するのが望ましいと言える。
【0030】
(実験例2)
実験例1では、表面の材質が金である水晶振動子センサーを用いて、担持体が金である場合の足場材の吸着特性を測定したが、実験例2では、分子吸着測定装置11の水晶振動子センサーをポリスチレン製に変更した。また、足場材溶液に含まれる足場材の濃度を3倍(6.48μg/ml)に調整した。また、静置吸着の後は、往復流動させずに単方向のみに0.2ml/minの流速で流動させて吸着量の時間変化を測定した。
図11は、測定結果を示すグラフであり、横軸は時間を、縦軸は吸着量を示している。
【0031】
図11のグラフが示す様に、培養用シャーレの素材として一般的であるポリスチレンへの足場材の吸着は、実験例1における金への吸着と同様の傾向を有している。すなわち、足場材溶液を静置させると大きな吸着量を得られないことが判る。時間A~Bの間に、およそ4.32μgの足場材成分が分子吸着測定装置11内に送られている。水晶振動子センサーの表面積が0.98cm
2であることを考慮すると、単純計算では4.3μg/cm
2以上の吸着量が期待できる。しかし、静置状態での吸着が飽和した時点(
図11の時間C)では吸着量は1.11μg/cm
2よりも少なく、静置状態での足場材の吸着の効率は非常に低いことが示唆される。静置した状態での自然対流や自然拡散では、水晶振動子センサー表面に十分な量の足場材が接触できないためと推測される。
【0032】
また、水晶振動子センサーを取り替えて同様の実験をすると、静置させた時点で到達する飽和吸着量(時間Cにおける吸着量)が異なる場合があり、静置では吸着状態の再現性が低いことが判った。これも、静置した時の条件により足場材の供給量に局所的なばらつきが発生し、自然対流や自然拡散では局所的なばらつきを十分に解消できないためと推測される。
【0033】
静置状態で足場材の吸着が飽和した時間Cにおいて、フレッシュな足場材溶液を供給して単方向への流動を再開させると、吸着量が急激な上昇を見せている。最終的な飽和吸着量は、供給される足場材溶液の濃度、担持体である水晶振動子センサーの表面の材質、状態、温度等の条件に依存して決まるが、静置の場合とは異なり飽和吸着量の再現性が高かった。言い換えれば、吸着量の場所ムラが小さかった。
【0034】
以上より、担持体がポリスチレンの場合でも、足場材の吸着量を再現性良く増大させるためには、少なくとも担持体に吸着させるべき量以上の足場材を含んだ足場材溶液を準備し、担持体と接触させながら流動させて吸着させるのが効果的と考えられる。担持体は、シャーレのようにそれ自身が容器でもよいし、容器内に載置された培養プレートであってもよい。培養装置には、例えば培養容器の内容積の2倍以上の体積の足場材溶液を保持し、足場材溶液を担持体と接触させながら流動させ続けることが可能な流路システムを構成するのが望ましいと言える。
【0035】
(実験例3)
実験例3では、足場材溶液を接触させる前に担持体(水晶振動子センサー)に親水処理を行い、親水処理が吸着量に及ぼす影響を調べた。具体的には、実験例2と同様の手順で足場材溶液を流動させる際に、流動前に実施する水晶振動子センサーへのUVオゾン処理の時間を変更して、処理時間と吸着量の関係を測定した。
図12は、測定結果をプロットしたグラフであり、横軸はUVオゾン処理時間を、縦軸は吸着量を示している。
【0036】
図中に静置吸着として示すプロットは、UVオゾン処理時間を変更した場合に、
図11の時間Cにおける吸着量がどのように変化したかを示している。また、フロー吸着として示すプロットは、UVオゾン処理時間を変更した場合に、
図11において最終的に到達した飽和吸着量がどのように変化したかを示している。
【0037】
図12より、親水化処理の時間の長短にかかわらず、足場材溶液を静置させた状態で吸着させるよりも、足場材溶液を流動させて吸着させる方が、吸着量を大きくできることが判る。また、足場材溶液を流動させる場合には、一定時間(例えば2分)までは親水化処理の時間を増加させると吸着量が増大するが、処理時間をそれ以上長くしても吸着量がさらに増大することはないのが判る。
【0038】
(実験例4)
実験例4では、一定容積の足場材溶液を循環させながら連続的に流動させる場合に、足場材溶液の濃度によって吸着の挙動がどのように異なるかを測定した。
図13は、実験例4で使用した実験系の流路の模式図であるが、
図9の実験系とは異なり、単一のリザーバー容器12、分子吸着測定装置11、および送液ポンプPEを点線で示す流路で接続し、環流路(ループ状の流路)が構成されている。足場材溶液として、足場材成分であるラミニンE8フラグメント(株式会社ニッピ製の製品名iMatrix-511)をPBSで希釈した4種類の濃度の液を調製した。具体的には、濃度が0.72μg/mlの液、1.08μg/mlの液、1.44μg/mlの液、1.82μg/mlの液、の4種類を調製した。
【0039】
ベースライン測定は、実験例1と同様の手順で行った。ベースライン測定後にリザーバー容器12に足場材溶液を3mL充填してから、0.2ml/minの流速(単位時間当たりの流量)で送液ポンプPEを連続的に駆動し、環流路を循環させながら分子吸着測定装置11で足場材の吸着量を測定した。
【0040】
図14は、測定結果を示すグラフであり、横軸は時間を、縦軸は吸着量を示している。グラフから、一定容積の足場材溶液を循環させて吸着させる場合は、足場材溶液の濃度が高い方が、吸着量が飽和するまでに要する時間が短く、飽和した際に到達する吸着量が大きいことが理解できる。従って、この関係性を利用すれば、使用する足場材溶液の濃度と循環(流動)させる時間の組み合わせを適宜設定することによって、目的とする量の足場材を担持体に吸着させることができる。
【0041】
以上の実験例1~実験例4を、各種の足場材溶液(材料種や濃度)と、各種の担持体(材料や表面処理の有無)の組み合わせに対して行ない、データを蓄積しておくことが望ましい。係るデータを参照すれば、以下に説明する実施形態において、使用する足場材溶液や担持体に応じて細胞培養装置、細胞培養方法を最適化して、目的とする量の足場材を担持体にコーティングすることができる。
【0042】
[実施形態]
図面を参照して、本発明の実施形態に係る細胞培養装置、細胞培養方法、等について説明する。尚、以下に示す実施形態は例示であり、例えば細部の構成については本発明の趣旨を逸脱しない範囲において当業者が適宜変更して実施をすることができる。尚、以下の実施形態の説明において参照する図面では、特に但し書きがない限り、同一の符号を付して示す要素は、同様の機能を有するものとする。また、図示および説明の便宜のために図面を模式的に表現する場合があるため、図面に記載された要素の形状、大きさ、配置などは、現実の物と厳密に一致しているとは限らない場合があるものとする。
【0043】
[実施形態1]
(細胞培養装置が備える流路系)
図1は、実施形態1に係る細胞培養装置が備える流路系の構成を説明するための模式図である。細胞培養装置は、着脱可能な培養容器21、試薬等を貯留した容器22および容器23、細胞懸濁液を貯留した容器24、足場材溶液を貯留した容器25、廃液タンク26、開閉弁201~開閉弁207、送液ポンプPA、送液ポンプPB、送液ポンプPCを備える。各要素は、点線で示す管路によって接続され、液体の流路系を構成している。制御部200は細胞培養装置の各部の動作を制御するコンピュータである。
【0044】
図1には、本実施形態を説明するために最小限必要な構成要素を示しているが、本発明の意図が失われない限り、細胞培養装置は他の構成要素を備えていてもよい。例えば、培養容器を加熱する加温機構、湿度調整機構、装置内のCO
2ガス濃度を制御する機構、細胞剥離を行う際に必要な細胞回収容器などは図示していないが、必要に応じて設けることが可能である。
【0045】
制御部200は、細胞培養装置の動作を制御するためのコンピュータで、内部には、CPU、ROM、RAM、I/Oポート等を備えている。ROMには、細胞培養装置の動作プログラムが記憶されている。本実施形態の細胞培養方法にかかる各種処理を実行するためのプログラムは、他の動作プログラムと同様にROMに記憶させておいてもよいが、ネットワークを介して外部からRAMにロードしてもよい。あるいは、プログラムを記録したコンピュータにより読み取り可能な記録媒体を介して、RAMにロードしてもよい。
【0046】
I/Oポートは、外部機器やネットワークと接続され、たとえ細胞培養に必要なデータの入出力を、外部コンピュータ300との間で行うことができる。また、I/Oポートは、不図示のモニターや入力装置と接続され、細胞培養装置の動作状態情報を操作者に表示したり、操作者からの命令を受け付けたりすることができる。制御部200は、開閉弁201~開閉弁207の各々を独立して制御することが可能であり、開閉弁201~開閉弁207は制御部200の指令により流路の開閉を行う。また、制御部200は、送液ポンプPA~送液ポンプPCの各々を独立して制御することが可能である。
【0047】
細胞の培養を行うための培養容器21は、細胞培養装置に着脱可能な容器であり、細胞培養装置に装着されると、外気等の外部環境から実質的に隔離された流路系(閉鎖流路系)が構成される。実質的に隔離されるとは、完全な気密性をもって隔離された状態でなくても、培養処理中に問題となるような汚染が発生しない程度の隔離状態であればよい。培養容器21は、細胞培養装置に装着される前に、予め滅菌処理が施されている。これらの要件に適合する限り、培養容器21の形状、構造、材質などに制限はない。具体的には、例えばコーニング社製の、滅菌済みの細胞培養ディッシュを用いることができる。
【0048】
閉鎖流路系および適切な培養環境が実現できる限り、培養容器21の形状に制限はなく、凹凸を有していてもよい。培養容器21の内面が接着培養の担持体であってもよいし、培養容器21内に設置された部材(例えば培養プレート)が接着培養の担持体であってもよい。担持体(例えば、培養容器21、培養プレート)の材質は限定されないが、親水化しやすい材料が好ましく、さらに安価な選択肢となるためプラスチック製、特にポリスチレンやポリカーボネートが好適である。足場材が吸着しやすいように表面処理(親水化処理)が吸着面に施されていることが望ましいが、必須ではない。
【0049】
例えばシャーレのような容器をベースにして閉鎖系流路を構成にする場合には、例えばフタの構造を利用して液の出入りを可能とするようなアタッチメントを使用することが考えられる。代表的な例として、iP-TEC(R)灌流アタッチメントディッシュ用、マルチプレート用(株式会社サンプラテック製)が利用できるが、これに限定されない。
【0050】
尚、流路に設置する培養容器21は1つに限られるわけではなく、培養結果に影響がない限り複数個の培養容器21を流路内に直列または並列に設けてもよい。この場合、本実施形態の説明で培養容器21の内容積と言う場合は、複数個の培養容器の内容積の合計を意味するものとする。
【0051】
容器22および容器23は、細胞懸濁液および足場材コート液とは異なる薬液を流路に導入するために設けられた容器である。容器22、容器23には、例えば希釈液、培地、細胞剥離液などが貯留される。希釈液としては、前述のPBS、またはそれに類似する薬液を使用するのが一般的である。培地の種類は培養する細胞と培養目的に対して適切なものを選択する。例えばヒトiPS細胞の培地には、Stemspan(STEMCELL Tecnology社製)、StemFitシリーズ(味の素株式会社製)やNutriStemXF(コスモ・バイオ株式会社製)などが好適に利用できる。細胞剥離液としては、例えばトリプシンやEDTA(エチレンジアミン四酢酸)などを用いることができる。
【0052】
容器22および容器23の形態は限定されるものではなく、例えば、ポリタンク、バイアル、フラスコ、シリンジなど、閉鎖流路系に薬液を導入できる容器であれば、その形態は自由に選択することができる。尚、容器22、容器23に貯留される薬液の種類は、細胞培養にかかわる各種処理で用いられるものであれば前掲の例に限られるわけではない。また、薬液の容器は容器22と容器23の2個に限られるわけではなく、薬液の種類に応じて、より多数の容器を設けてもよい。
図1に示す例では、容器22にはPBSが、容器23には培地が貯留されているとする。
【0053】
容器24(細胞懸濁液容器)は、培養する細胞を含んだ細胞懸濁液を貯留しており、細胞懸濁液を閉鎖流路系に導入するために設けられている。一般的に、細胞懸濁液としては、前述の培地や希釈液に細胞が分散された状態の液体が使用される。細胞懸濁液には、少なくとも接着細胞が含まれている。接着細胞は、ヒトiPS細胞(ヒト人工多能性幹細胞)などの多能性幹細胞であってもよい。容器24の形態は限定されるものではなく、例えば、ポリタンク、バイアル、フラスコ、シリンジなど、閉鎖流路系に細胞懸濁液を導入できる容器であれば、その形態は自由に選択することができる。
【0054】
容器25(足場材溶液容器)は、足場材を希釈液で希釈した液体である足場材溶液を貯留するための容器である。足場材は、例えば、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、アルブミン、ポリリジン、ポリオルニチンや、それらのフラグメント(例えばラミニンフラグメント)から成る群から選択された1つ以上を含み得る。ただし、この例示に限定されるわけではなく、培養する接着細胞の種類に合わせて適宜の材料を選択することができる。細胞培養に利用する点から、足場材は水溶性成分であることが一般的であり、例えばPBSを用いて足場材を任意の濃度に希釈した足場材溶液が足場材コート液として用いられる。足場材溶液が培養容器21に送液されることにより、足場材成分が培養容器21内の培養面に吸着してコーティングされる。足場材溶液を貯留する容器25に足場材成分が吸着することを防ぐため、容器25は炭化水素系(例えばポリプロピレン)またはフッ素系(例えばテフロン)の素材で構成することが望ましい。容器25の形態は、特に限定されるものではなく、ポリタンク、バイアル、フラスコ、シリンジなど、閉鎖流路系に接続して足場材溶液を導入できる容器であれば、その形態は自由に選択することができる。
【0055】
廃液タンク26は、使用済みの液体を回収するための廃液タンクである。例えば、使用済の足場材溶液、細胞懸濁液、培地、希釈液、剥離液などが回収されるが、廃液タンク26に回収される使用済の液体はこれに限定されない。一連の細胞培養工程で使用された廃液を貯留可能な容量を有するものであれば、廃液タンクの形状や材質に特に制限はない。
【0056】
開閉弁201~開閉弁207の各々は、制御部200からの指令により流路を開閉することが可能な弁であり、流路各部の開閉及び/または接続の切り替えが可能な流路制御部を構成している。送液ポンプPA、送液ポンプPB、送液ポンプPCの各々は、制御部200からの指令により液体を送液可能な送液ポンプである。制御部200からの指令により、流速(単位時間当たりの送液量)や送液方向を変更可能なポンプであることが望ましい。
【0057】
各構成要素を接続する管路(
図1で点線で示す)については、メンテナンスを容易にするため、柔軟性を備えた交換可能なチューブを用いることが好ましい。管路内面に薬液成分や足場材成分が吸着するのを抑制するため、炭化水素系(例えばポリプロピレン)またはフッ素系(例えばテフロン)などの素材で形成された管路を用いるのが望ましい。
【0058】
(細胞培養方法)
実施形態1に係る細胞培養装置を用いた細胞培養方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る細胞培養方法の処理手順を説明するためのフローチャートである。
【0059】
細胞培養を開始(スタート)させる前に、制御部200は各部に指令を送り、開閉弁201~開閉弁207を全て閉じ、送液ポンプPA~送液ポンプPCを全て停止させる。その状態のもとで、作業者の手作業または自動装置により、PBSを貯留した容器22、培地を貯留した容器23、培地を含んだ細胞懸濁液を貯留した容器24、足場材溶液を貯留した容器25、等を細胞培養装置にセットしておく。
【0060】
細胞培養が開始(スタート)すると、ステップS1では、作業者の手作業または自動装置により、滅菌処理済の培養容器21が閉鎖流路系に接続される。培養容器21は、滅菌処理に加えて親水処理が施されたものを用いるのが好ましい。
【0061】
ステップS2(足場材溶液供給工程)では、足場材溶液を培養容器21に送液するための指令が、制御部200から各部に出される。具体的には、開閉弁204と開閉弁207を開いて足場材溶液供給流路を構成し、送液ポンプPBを作動させて所定の流速で容器25から培養容器21に足場材溶液を送液させる。その間、開閉弁201~開閉弁203と開閉弁205~開閉弁206は閉鎖状態を継続させ、送液ポンプPAと送液ポンプPCには停止状態を継続させる。
【0062】
培養容器21に必要量の足場材溶液が送液されたら、制御部200はステップS3の処理に移行する。必要量の足場材溶液が送液されたか否かは、例えば制御部200が内蔵タイマーを用いて送液時間を計測して判定してもよいし、培養容器21内の液面レベルを計測するセンサーを設けておき、制御部200が液面レベルをモニターして判定してもよい。
【0063】
ステップS3(足場材溶液循環工程)では、目的とする量の足場材を担持体に吸着させるため、制御部200は、足場材溶液が培養容器21内を継続的に流動し続けるように各部の動作を制御する。言い換えれば、足場材溶液が培養容器21の内外を循環することが可能な足場材溶液循環流路を構成する。具体的には、開閉弁204と開閉弁207を開き、容器25、培養容器21、送液ポンプPBがループ状に接続された環流路(循環路)を構成し、送液ポンプPBを継続的に作動させて、容器25と培養容器21との間で足場材溶液を循環させる。循環させる際に足場材溶液を流す方向は、ステップS2と同方向でもよいし、逆方向でもよい。また、流す方向は常に一定でなくともよく、例えば所定時間経過すると流動方向が逆転するように制御してもよい。流動方向を逆転させれば、培養容器21内で上流側と下流側が入れ替わるため、吸着量の場所的な均一性が向上する可能性がある。
【0064】
目的とする量の足場材を吸着させるため、足場材溶液(材料種や濃度)と担持体(材料や表面処理の有無)に応じて、送液ポンプPBの流速(単位時間当たりの流量)と循環継続時間が適宜設定され得る。
【0065】
担持体への吸着によりその付近の足場材成分の濃度が低下したとしても、本実施形態では閉鎖流路系内で足場材溶液を循環して流動させ続けているので、常にフレッシュな足場材溶液が培養容器21内に供給され続ける。このため、培養に適した量の足場材を、短時間で担持体に高い均一性でコート(吸着)させることができる。
【0066】
尚、吸着により足場材成分が消費されて濃度が低下した足場材溶液が容器25に還流するが、容器25から培養容器21に送液される足場材溶液の濃度は、循環を継続する間に大きく低下しないことが望ましい。そのためには、循環可能な足場材溶液の総量、つまり細胞培養装置にセットされた時点で容器25に貯留されている足場材溶液の液量を、培養容器21に収納され得る液量に比べて十分に大きくすることが望ましい。そのため、足場材溶液を貯留する容器25の容量は、培養容器21の容量よりも2倍以上大きくすることが望ましい。
【0067】
図11が示す様に、担持体への吸着量は足場材溶液の濃度と循環継続時間に依存して変化するため、制御部200は、目的とする細胞を培養するのに適した所定量の足場材が担持体に吸着されるように、循環継続時間を制御する。制御部200は、足場材溶液を循環させている時間を例えば内蔵タイマーを用いて計測し、所定量の足場材を担持体にコーティングするために必要な所定時間が経過したかを判定し、経過したらステップS3を終了させる。
【0068】
ステップS4(排出工程)では、培養容器21から足場材溶液を排出する。制御部200の指令により、送液ポンプPBは停止し、開閉弁204と開閉弁207は閉じられる。そして、開閉弁201、開閉弁205、および開閉弁206が開かれ、送液ポンプPAは容器22から培養容器21に送液する方向に駆動され、送液ポンプPCは培養容器21から廃液タンク26に送液する方向に駆動される。送液ポンプPAと送液ポンプPCは、同一の流速(単位時間当たりの送液量)で駆動される。これにより、PBSが容器22から培養容器21に注入されるとともに、使用済の足場材溶液が培養容器21から廃液タンク26に排出される。この操作を行うことにより、培養容器21の足場材溶液はPBSで置換され、更に送液を継続すれば培養容器21内はPBSで洗浄される。
【0069】
その際、吸着された足場材が過度に脱離あるいは剥離してしまわず、かつ液の置換完了までの時間が過度に長くならないように、送液ポンプPAと送液ポンプPCの流速(単位時間当たりの送液量)は適宜設定される。この例では、流速を0.5ml/minとしたが、それに限られるわけではない。
【0070】
制御部200は、足場材溶液を排出するのに十分な所定量のPBSが培養容器21に注入されるように、送液ポンプの駆動時間を制御する。制御部200は、PBSを送液している時間を例えば内蔵タイマーを用いて計測し、所定量のPBSを培養容器21に注入するのに必要な所定時間が経過したかを判定し、経過したらステップS4を終了させる。すなわち、制御部200の指令により、送液ポンプPAと送液ポンプPBは停止し、開閉弁201は閉じられる。
【0071】
尚、本実施形態では、ステップS4で培養容器21内の足場材溶液をPBSに置換してからステップS5に移行するが、PBSに置換しなくとも(あるいはPBSで培養容器21内を洗浄しなくとも)、細胞の培養をするのに特に問題がない場合もあり得る。その場合には、ステップS4を省略してステップS3からステップS5に直接移行してもよい。
【0072】
ステップS5(細胞懸濁液供給工程)では、培養容器21に細胞懸濁液を導入する。制御部200の指令により、開閉弁203、開閉弁205、および開閉弁206が開かれ、送液ポンプPAは容器24から培養容器21に送液する方向に駆動され、送液ポンプPCは培養容器21から廃液タンク26に送液する方向に駆動される。送液ポンプPAと送液ポンプPCは、同一の流速(単位時間当たりの送液量)で駆動される。これにより、細胞懸濁液が容器24から培養容器21に注入されるとともに、PBSが培養容器21から廃液タンク26に排出される。この操作を行うことにより、培養容器21のPBSは細胞懸濁液で置換される。
【0073】
その際、吸着された足場材が過度に脱離あるいは剥離してしまわず、かつ液の置換完了までに過度の時間を要しないように、送液ポンプPAと送液ポンプPCの流速(単位時間当たりの送液量)が適宜設定される。この例では、流速を0.5ml/minとしたが、それに限られるわけではない。
【0074】
制御部200は、所定量の細胞懸濁液が培養容器21に注入されるように、送液ポンプの駆動時間を制御する。制御部200は、細胞懸濁液を送液させている時間を例えば内蔵タイマーを用いて計測し、所定量の細胞懸濁液を培養容器21に注入するのに必要な所定時間が経過したかを判定する。所定時間が経過したら、制御部200は、送液ポンプPAと送液ポンプPCを停止し、開閉弁203、開閉弁205、開閉弁206を閉じて、ステップS5を終了する。
【0075】
ステップS6では、制御部200は、不図示の機構を制御して培養容器21の温度、湿度、CO2濃度を、細胞培養に適した所定の条件に保ち、接着培養を進行させる。培養された細胞は、足場材に接着する形で担持体に保持される。
【0076】
ステップS7では、制御部200は培地の交換が必要かを判定し、必要な場合には培地の交換を行う。目的とする培養を進行させるために培地の交換が必要か否かと、必要な場合の交換タイミングについては、予め制御プログラムに登録しておくことができる。制御部200は、実行中の培養に関して培地の交換が必要だと登録されていた場合には、培養を開始してからの経過時間を例えば内蔵タイマーを用いて計測し、経過時間が交換タイミングに達したら、培地の交換処理を実行する。すなわち、容器23から所定量の培地を培養容器21に導入する。具体的には、開閉弁202、開閉弁205、および開閉弁206が開かれた状態で、送液ポンプPAは容器23から培養容器21に送液する方向に駆動され、送液ポンプPCは培養容器21から廃液タンク26に送液する方向に駆動される。送液ポンプPAと送液ポンプPCは、同一の流速(単位時間当たりの送液量)で駆動される。これにより、新しい培地が容器23から培養容器21に注入されるとともに、古くなった培地が培養容器21から廃液タンク26に排出される。制御部200は、所定量の新しい培地が培養容器21に注入されるように、送液ポンプの駆動時間を制御する。制御部200は、培地を送液している時間を例えば内蔵タイマーを用いて計測し、所定量の培地を培養容器21に注入するのに必要な所定時間が経過したかを判定する。所定時間が経過したら、制御部200は、送液ポンプPAと送液ポンプPCを停止し、開閉弁202、開閉弁205、開閉弁206を閉じて、ステップS7を終了する。
【0077】
ステップS8では、制御部200は、目的とする培養が完了したかを判定する。目的とする培養が完了するまでの所要時間を予め制御プログラムに登録しておき、制御部200は、培養を開始してからの経過時間を例えば内蔵タイマーを用いて計測し、経過時間が登録されている所要時間に達したら、培養が完了したと判定する。培養が完了していないと判定した場合(ステップS8:NO)には、制御部200は、ステップS7の処理に戻り、培養を継続する。培養が完了したと判定した場合(ステップS8:YES)には、制御部200は、ステップS9に進む。
【0078】
ステップS9では、作業者の手作業または自動装置により、培養が完了した培養容器21が培養装置から取り出され、培養された細胞が回収される。場合によっては、培養装置から取り出される前に、培養容器21内の培地をPBSで置換してもよい。その場合は、ステップS4と同様の手順でPBSを培養容器21内に注入するが、接着培養された細胞が脱離することがないように、制御部200は送液ポンプの流速を制御する。
ステップS9が完了したら、本実施形態に係る細胞培養方法の一連の処理が終了する。
【0079】
以上説明した本実施形態によれば、足場材がコートされていない培養容器を閉鎖流路系に接続してから、足場材溶液を流動させながら培養容器内の担持体に接触させて足場材をコートする。閉鎖流路系にセットしてからコートするため、培養開始前に培養容器が不測の汚染を被るリスクが低減される。足場材溶液を流動させながらコートするため、目的とする接着培養に適した量の足場材を、高い均一性で再現性良く担持体表面にコートすることができる。このため、目的とする細胞を安定して大量に培養することが可能である。
【0080】
[実施形態2]
図面を参照して、実施形態1の変形例である実施形態2に係る細胞培養装置、細胞培養方法、等について説明する。尚、実施形態1と共通する要素については同一の参照符号を付して図示し、説明内容が共通する事項については、説明文章を簡略化または省略するものとする。
【0081】
(細胞培養装置が備える流路系)
図3は、実施形態2に係る細胞培養装置が備える流路系の構成を説明するための模式図である。細胞培養装置は、実施形態1と同様に、着脱可能な培養容器21、試薬等を貯留した容器22および容器23、細胞懸濁液を貯留した容器24、足場材溶液を貯留した容器25、廃液タンク26、送液ポンプPA~送液ポンプPC、制御部200を備えている。実施形態1は開閉弁201~開閉弁207を用いて流路制御部を構成していたが、本実施形態では開閉弁204に代えて三方弁301を用いて流路各部の開閉及び/または接続の切り替えが可能な流路制御部を構成している。三方弁301は、制御部200からの指令に応じて、点線で示す管路aと管路cを接続するか、管路bと管路cを接続するか、を選択することが可能な切り替え弁である。
【0082】
(細胞培養方法)
本実施形態では、実施形態1と同様に
図2に示す処理フローで細胞培養を行うが、実施形態1とは流路構成が異なる部分があるため、制御部200による弁の制御方法が異なる。ステップS2~ステップS3においては、三方弁301に管路bと管路cとを接続させる。一方、ステップS4~ステップS8において容器22~容器24のいずれかから培養容器21に液を注入する場合には、三方弁301は管路aと管路cを接続させる。
【0083】
本実施形態によれば、足場材がコートされていない培養容器を閉鎖流路系に接続してから、足場材溶液を流動させながら培養容器内の担持体に接触させて足場材をコートする。閉鎖流路系にセットしてからコートするため、培養開始前に培養容器が不測の汚染を被るリスクが低減される。足場材溶液を流動させながらコートするため、目的とする接着培養に適した量の足場材を、高い均一性で再現性良く担持体表面にコートすることができる。このため、目的とする細胞を安定して大量に培養することが可能である。
【0084】
[実施形態3]
図面を参照して、実施形態1の変形例である実施形態3に係る細胞培養装置、細胞培養方法、等について説明する。尚、実施形態1と共通する要素については同一の参照符号を付して図示し、説明内容が共通する事項については、説明文章を簡略化または省略するものとする。
【0085】
(細胞培養装置が備える流路系)
図4は、実施形態3に係る細胞培養装置が備える流路系の構成を説明するための模式図である。細胞培養装置は、実施形態1と同様に、着脱可能な培養容器21、試薬等を貯留した容器22および容器23、細胞懸濁液を貯留した容器24、足場材溶液を貯留した容器25、廃液タンク26、送液ポンプPA~送液ポンプPC、制御部200を備えている。実施形態1は開閉弁201~開閉弁207を用いて流路制御部を構成していたが、本実施形態では送液ポンプPAの上流側に、三方弁301を配置している。三方弁301は、制御部200からの指令に応じて、点線で示す管路aと管路cを接続するか、管路bと管路cを接続するか、を選択することが可能な切り替え弁である。
【0086】
さらに、本実施形態は、ステップS3において循環させるための足場材溶液を、予め容器25から導入して貯留することが可能な足場材溶液サブタンク31を備えている。本実施形態では、培養容器21に注入された足場材溶液を循環させる際に、培養容器21から容器25には還流させずに、足場材溶液サブタンク31を含む環流路を経由して循環させ続けることができる。足場材溶液サブタンク31の内容積は、培養容器21の内容積以上であることが望ましい。循環させながら足場材を吸着させる際に必要な液量の足場材溶液を貯留できるようにするためである。足場材成分が吸着することを防ぐため、足場材溶液サブタンク31の内面は、炭化水素系(例えばポリプロピレン)またはフッ素系(例えばテフロン)の素材で形成されていることが望ましい。
【0087】
本実施形態では、足場材溶液を循環させる際に、培養容器21での吸着により足場材成分が消費された足場材溶液を容器25に還流させないため、容器25に貯留されている足場材溶液は常に初期の濃度状態を保つことができる。複数の培養容器にコーティングできる量の足場材溶液を容器25に貯留させておけば、培養容器を取り替えた時に新しい培養容器のコーティングに必要な量だけを新しい培養容器と足場材溶液サブタンク31に供給すればよい。したがって、本実施形態によれば、培養容器を取り替えるたびに、容器25内の足場材溶液を取り替えなくてもよい。
【0088】
(細胞培養方法)
本実施形態では、実施形態1と同様に
図2に示す処理フローで細胞培養を行うが、実施形態1とは流路構成が異なる部分があるので、制御部200による弁の制御方法が異なる。
【0089】
ステップS2においては、開閉弁201~開閉弁203、および開閉弁206を閉じ、開閉弁204~開閉弁205、および開閉弁207を開き、三方弁301は管路bと管路cとを接続する。この状態で送液ポンプPAを駆動して、足場材溶液を容器25から培養容器21に注入する。足場材溶液が培養容器21の内容積の半分以上になるまで送液されたら、さらに送液ポンプPBを駆動し、培養容器21から足場材溶液サブタンク31に足場材溶液を流入させる。こうして、制御部200は、ステップS3において循環させながら足場材を吸着させる際に必要な液量の足場材溶液を、培養容器21と足場材溶液サブタンク31に注入させる。
【0090】
ステップS3においては、開閉弁201~開閉弁203、および開閉弁205~開閉弁206を閉じ、開閉弁204および開閉弁207を開いて環流路(ループ状の流路)を構成し、送液ポンプPBを駆動させて足場材溶液を循環させる。十分な時間が経過した後、送液ポンプPBを停止し、開閉弁204と開閉弁207を閉じる。
【0091】
ステップS4においては、開閉弁202~開閉弁204、および開閉弁207を閉じ、開閉弁201、および開閉弁205~開閉弁206を開き、三方弁301は管路aと管路cとを接続する。この状態で送液ポンプPAと送液ポンプPCを駆動して、容器22から培養容器21にPBSを注入して、培養容器21から廃液タンク26に使用済の足場材溶液を排出させる。
【0092】
ステップS5~ステップS8において、容器23または容器24から培養容器21に液を注入する場合には、その容器と接続する流路に配された開閉弁202または開閉弁203を開き、三方弁301は管路aと管路cを接続する。そして、開閉弁205~開閉弁206を開き、開閉弁204と開閉弁207を閉じて、送液ポンプPAと送液ポンプPCを駆動して、培養容器21に液を注入しながら、廃液を培養容器21から廃液タンク26に排出させる。
【0093】
本実施形態によれば、足場材がコートされていない培養容器を閉鎖流路系に接続してから、足場材溶液を流動させながら培養容器内の担持体に接触させて足場材をコートする。閉鎖流路系にセットしてからコートするため、培養開始前に培養容器が不測の汚染を被るリスクが低減される。足場材溶液を流動させながらコートするため、目的とする接着培養に適した量の足場材を、高い均一性で再現性良く持体表面にコートすることができる。このため、目的とする細胞を安定して大量に培養することが可能である。
【0094】
また、足場材溶液サブタンク31を備えた流路構成にすることにより、足場材溶液を循環させる際に培養容器21から容器25には還流させずに、足場材溶液サブタンク31を経由して循環させ続けることができる。このため、容器25に貯留されている足場材溶液は常にフレッシュな初期状態を保つことができ、培養容器21を取り替えて連続的に細胞培養を行う際に、培養容器を取り替えるたびに、容器25内の足場材溶液を取り替えなくてもよい。
【0095】
[実施形態4]
図面を参照して、実施形態3の変形例である実施形態4に係る細胞培養装置、細胞培養方法、等について説明する。尚、実施形態1あるいは実施形態3と共通する要素については同一の参照符号を付して図示し、説明内容が共通する事項については、説明文章を簡略化または省略するものとする。
【0096】
(細胞培養装置が備える流路系)
図5は、実施形態4に係る細胞培養装置が備える流路系の構成を説明するための模式図である。実施形態3(
図4)と異なるのは、開閉弁207を用いないで、三方弁302を配置した点である。三方弁302は、制御部200からの指令に応じて、点線で示す管路dと管路eを接続するか、管路dと管路fを接続するか、を選択することが可能な切り替え弁である。
【0097】
(細胞培養方法)
本実施形態では、実施形態3と同様に
図2に示す処理フローで細胞培養を行うが、実施形態3とは流路構成が異なる部分があるので、制御部200による弁の制御方法が異なる。本実施形態では、ステップS2においては、三方弁302は管路dと管路eを接続し、循環させながら足場材を吸着させる際に必要な液量の足場材溶液を、培養容器21と足場材溶液サブタンク31に注入させる。
【0098】
また、ステップS3においては、三方弁302が管路dと管路eを接続して環流路(ループ状の流路)を構成し、送液ポンプPBを駆動させて足場材溶液を循環させる。
ステップS4においては、三方弁302は管路dと管路fを接続し、足場材溶液を培養容器21から廃液タンク26に排出させる。
【0099】
ステップS5~ステップS8において、容器23または容器24から培養容器21に液を注入する場合には、三方弁302は管路dと管路fを接続し、培養容器21に液を注入しながら廃液を培養容器21から廃液タンク26に排出させる。
本実施形態によれば、実施形態3と同様の効果を得ることができる。
【0100】
[実施形態5]
図面を参照して、実施形態4の変形例である実施形態5に係る細胞培養装置、細胞培養方法、等について説明する。尚、実施形態1あるいは実施形態4と共通する要素については同一の参照符号を付して図示し、説明内容が共通する事項については、説明文章を簡略化または省略するものとする。
【0101】
(細胞培養装置が備える流路系)
図6は、実施形態5に係る細胞培養装置が備える流路系の構成を説明するための模式図である。実施形態4(
図5)と異なるのは、開閉弁204を用いないで、三方弁303を配置した点である。三方弁303は、制御部200からの指令に応じて、点線で示す管路gと管路iを接続するか、管路hと管路iを接続するか、を選択することが可能な弁である。
【0102】
(細胞培養方法)
本実施形態では、実施形態4と同様に
図2に示す処理フローで細胞培養を行うが、実施形態4とは流路構成が異なる部分があるので、制御部200による弁の制御方法が異なる。
【0103】
本実施形態では、ステップS2においては、三方弁303は管路gと管路iを接続し、循環させながら足場材を吸着させる際に必要な液量の足場材溶液を、容器25から培養容器21と足場材溶液サブタンク31に注入させる。
【0104】
また、ステップS3においては、三方弁303が管路hと管路iを接続して環流路(ループ状の流路)を構成し、送液ポンプPBを駆動させて足場材溶液を循環させる。
【0105】
ステップS4においては、三方弁302は管路gと管路iを接続し、PBSを培養容器21に注入しながら、足場材溶液を培養容器21から廃液タンク26に排出させる。
【0106】
ステップS5~ステップS8において、容器23または容器24から培養容器21に液を注入する場合には、三方弁303は管路gと管路iを接続し、培養容器21に液を注入しながら廃液を培養容器21から廃液タンク26に排出させる。
本実施形態によれば、実施形態3と同様の効果を得ることができる。
【0107】
[実施形態6]
【0108】
図面を参照して、実施形態1の変形例である実施形態6に係る細胞培養装置、細胞培養方法、等について説明する。尚、実施形態1と共通する要素については同一の参照符号を付して図示し、説明内容が共通する事項については、説明文章を簡略化または省略するものとする。
【0109】
(細胞培養装置が備える流路系)
図7は、実施形態6に係る細胞培養装置が備える流路系の構成を説明するための模式図である。実施形態1~実施形態5では、ステップS3において足場材溶液を循環させる際に、環流路(ループ状の流路)を構成して循環させたが、本実施形態では環流路は構成せずにリニアな循環路を構成し、リニアな循環路を往復させて足場材溶液を循環させる。図示のように、足場材溶液を貯留する容器25と培養容器21の間に送液ポンプPBを配置するとともに、開閉弁207と送液ポンプPDを接続し、送液ポンプPBには足場材溶液サブタンク41を接続している。
【0110】
足場材溶液サブタンク41は、往復循環させるための足場材溶液を容器25から導入して貯留する容器である。本実施形態では、足場材溶液を循環させる際には、送液ポンプPBと送液ポンプPDを駆動して、容器25と足場材溶液サブタンク41の間で足場材溶液を往復させる。足場材溶液サブタンク41の内容積は、培養容器21の内容積以上であることが望ましい。循環させながら足場材を吸着させる際に必要な液量の足場材溶液を貯留できるようにするためである。足場材成分が吸着することを防ぐため、足場材溶液サブタンク41の内面は、炭化水素系(例えばポリプロピレン)またはフッ素系(例えばテフロン)の素材で形成されていることが望ましい。
【0111】
(細胞培養方法)
本実施形態では、実施形態1と同様に
図2に示す処理フローで細胞培養を行うが、実施形態1とは流路構成が異なる部分があるので、制御部200による弁や送液ポンプの制御方法が異なる。
【0112】
ステップS2においては、開閉弁201~開閉弁203、および開閉弁205~開閉弁206を閉じ、開閉弁204および開閉弁207を開き、送液ポンプPBを駆動して、足場材溶液を容器25から培養容器21に注入する。足場材溶液が培養容器21の内容積の半分以上になるまで送液されたら、さらに送液ポンプPDを駆動し、培養容器21から足場材溶液サブタンク41に足場材溶液を流入させる。こうして、制御部200は、ステップS3において往復循環させながら足場材を吸着させる際に必要な液量の足場材溶液を、培養容器21と足場材溶液サブタンク41に注入させる。
【0113】
ステップS3においては、制御部200は、各開閉弁をステップS3と同じ状態にしたまま、送液ポンプPBと送液ポンプPDの送液方向を定期的に同時に反転させる。例えば、所定時間までは、送液ポンプPBを容器25から培養容器21に送液する向きに駆動し、送液ポンプPDを培養容器21から足場材溶液サブタンク41に送液する向きで駆動する。所定時間が経過したら送液ポンプPBと送液ポンプPDの送液方向を同時に反転させる。このような手順を繰り返すことにより、容器25と足場材溶液サブタンク41の間を足場材溶液が往復して循環する。制御部200は、所定量の足場材をコートするのに必要な時間が経過したら、送液ポンプPBと送液ポンプPDを停止させ、開閉弁204と開閉弁205を閉じる。
【0114】
ステップS4においては、制御部200は、開閉弁202~開閉弁204、および開閉弁207を閉じ、開閉弁201、および開閉弁205~開閉弁206を開く。この状態で送液ポンプPAと送液ポンプPCを駆動して、容器22から培養容器21にPBSを注入して、培養容器21から廃液タンク26に使用済の足場材溶液を排出させる。
【0115】
ステップS5~ステップS8において、容器23または容器24から培養容器21に液を注入する場合には、その容器と接続する流路に配された開閉弁202または開閉弁203と、開閉弁205~開閉弁206を開く。開閉弁201、開閉弁204、開閉弁207を閉じて、送液ポンプPAと送液ポンプPCを駆動して、培養容器21に液を注入しながら廃液を培養容器21から廃液タンク26に排出させる。
本実施形態によれば、実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0116】
[実施形態7]
図面を参照して、実施形態6の変形例である実施形態7に係る細胞培養装置、細胞培養方法、等について説明する。尚、実施形態6と共通する要素については同一の参照符号を付して図示し、説明内容が共通する事項については、説明文章を簡略化または省略するものとする。
【0117】
(細胞培養装置が備える流路系)
図8は、実施形態7に係る細胞培養装置が備える流路系の構成を説明するための模式図である。足場材溶液サブタンク41を備え、ステップS3において足場材溶液を循環させる際に、環流路は構成せずにリニアな流路を構成し、リニアな流路を往復させて足場材溶液を循環させる点は、実施形態6と共通している。実施形態6(
図7)と異なるのは、開閉弁207と送液ポンプPDを用いないで、三方弁304を配置した点である。三方弁304は、制御部200からの指令に応じて、点線で示す管路kと管路oを接続するか、管路kと管路pを接続するか、を選択することが可能な切り替え弁である。本実施形態は、実施形態6よりも1つ少ない数の送液ポンプで、同様の機能を達成することができる。
【0118】
(細胞培養方法)
本実施形態では、実施形態6と同様に
図2に示す処理フローで細胞培養を行うが、実施形態6とは流路構成が異なる部分があるので、制御部200による弁や送液ポンプの制御方法が異なる。
【0119】
ステップS2においては、開閉弁201~開閉弁203、および開閉弁205を閉じ、開閉弁204および開閉弁206を開き、送液ポンプPBを駆動して、足場材溶液を容器25から培養容器21に注入する。足場材溶液が培養容器21の内容積の半分以上になるまで送液されたら、三方弁304が管路kと管路oを接続し、送液ポンプPCを駆動し、培養容器21から足場材溶液サブタンク41に足場材溶液を流入させる。こうして、制御部200は、ステップS3において往復循環させながら足場材を吸着させる際に必要な液量の足場材溶液を、培養容器21と足場材溶液サブタンク41に注入させる。
【0120】
ステップS3においては、制御部200は、各開閉弁と三方弁304をステップS3と同じ状態にしたまま、送液ポンプPBと送液ポンプPCの送液方向を定期的に同時に反転させる。すなわち、足場材溶液が容器25と足場材溶液サブタンク41の間で往復するように制御する。制御部200は、所定量の足場材をコートするのに必要な時間が経過したら、送液ポンプPBと送液ポンプPCを停止させ、開閉弁204と開閉弁206を閉じる。
【0121】
ステップS4においては、制御部200は、開閉弁202~開閉弁204を閉じ、開閉弁201および開閉弁205~開閉弁206を開き、三方弁304は管路kと管路pを接続する。この状態で送液ポンプPAと送液ポンプPCを駆動して、容器22から培養容器21にPBSを注入して、培養容器21から廃液タンク26に使用済の足場材溶液を排出させる。
【0122】
ステップS5~ステップS8において、容器23または容器24から培養容器21に液を注入する場合には、その容器と接続する流路に配された開閉弁202または開閉弁203と、開閉弁205~開閉弁206を開く。また、開閉弁201と開閉弁204を閉じて、三方弁304は管路kと管路pを接続する。その状態で送液ポンプPAと送液ポンプPCを駆動して、培養容器21に液を注入しながら廃液を培養容器21から廃液タンク26に排出させる。
本実施形態によれば、少ない数の送液ポンプで実施形態6と同様の効果を得ることができる。
【0123】
[他の実施形態]
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。例えば、上述した異なる実施形態の全部または一部を組み合わせて実施しても差し支えない。
【0124】
例えば、
図4~
図8に示した例において、足場材溶液サブタンク31あるいは足場材溶液サブタンク41を設ける代わりに、内容積(例えば内径や長さ)が十分に大きな管路を配置すれば、足場材溶液サブタンクと同様の効果を奏することが可能である。
【0125】
また、流路の接続関係(ネットワーク)は、外気等の外部環境から実質的に隔離された流路系(閉鎖流路系)であって、かつ足場材溶液を循環させる循環路を形成できるものであれば、実施形態1~実施形態7の例に限定されるものではない。流路制御部は、例示したように開閉弁のみ、または開閉弁と三方弁の併用で構成することが可能である。また、流路制御部は、三方弁のみで構成してもよいし、開閉弁や三方弁以外の流路制御素子を用いて構成してもよい。
【0126】
また、細胞培養方法の各工程において、流路制御部の全ての動作が制御部の指令に基づいて行われなければならないわけではなく、開閉弁や切換え弁の操作の一部を作業者が手動で行うことも可能である。その場合には、作業者が手動で操作可能な開閉弁や切換え弁を設けておき、作業者が適切なタイミングで正確に開閉弁や切換え弁を操作できるように、制御部は操作ガイド情報を作業者に提供するのが望ましい。制御部は、操作ガイド情報を、例えば表示装置や、音声発生装置や、ランプなど、適宜のユーザインターフェース装置を用いて作業者に提供することができる。
【0127】
上記の実施形態においては、足場材をコーティングする際には環流路または往復流路を構成して足場材溶液を循環させたが、要はコーティングが完了するまでの間は足場材溶液が担持体と接触しながら流動することができればよい。例えば十分な量の足場材溶液を培養容器に注入した後で、担持体あるいは容器を揺動や回転させるなどして、担持体と接する足場材溶液が流動するようにしてもよい。
【0128】
本明細書は、少なくとも以下の事項を開示している。
[事項1]
流路系と、
前記流路系に着脱可能な培養容器と、
足場材を含んだ足場材溶液を貯留し、前記流路系に接続された足場材溶液容器と、
前記流路系を構成する流路各部の開閉及び/または接続の切り替えを行う流路制御部と、を備え、
前記培養容器が前記流路系に装着された状態において、前記流路制御部は、
前記足場材溶液容器と前記培養容器とが接続され、前記足場材溶液容器から前記培養容器に前記足場材溶液を供給することが可能な足場材溶液供給流路と、
前記足場材溶液が前記培養容器の内外を循環することが可能な足場材溶液循環流路と、を構成することが可能である、
ことを特徴とする細胞培養装置。
[事項2]
流路系と、
前記流路系に着脱可能な培養容器と、
足場材を含んだ足場材溶液を貯留し、前記流路系に接続された足場材溶液容器と、
細胞懸濁液を貯留し、前記流路系に接続された細胞懸濁液容器と、
前記流路系に接続された複数のポンプと、
前記流路系を構成する流路各部の開閉及び/または接続の切り替えを行う流路制御部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、前記培養容器が前記流路系に装着された状態において、
前記足場材溶液容器と前記培養容器が接続されるように前記流路制御部を制御し、前記足場材溶液容器から前記培養容器に前記足場材溶液が送液されるように前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させる足場材溶液供給工程と、
前記足場材溶液供給工程よりも後に、前記流路制御部を制御して前記培養容器が含まれた循環路を構成し、前記足場材溶液が前記循環路を循環するように前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させる足場材溶液循環工程と、を実行する、
ことを特徴とする細胞培養装置。
[事項3]
前記制御部は、前記足場材溶液循環工程よりも後に、前記細胞懸濁液容器と前記培養容器が接続されるように前記流路制御部を制御し、前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させて前記細胞懸濁液容器から前記培養容器に前記細胞懸濁液を送液する細胞懸濁液供給工程を実行する、
ことを特徴とする事項2に記載の細胞培養装置。
[事項4]
廃液を貯留可能な廃液タンクが前記流路系に接続されており、
前記制御部は、前記足場材溶液循環工程と前記細胞懸濁液供給工程の間に、前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させて前記培養容器に存する前記足場材溶液を前記廃液タンクに排出する排出工程を実行する、
ことを特徴とする事項3に記載の細胞培養装置。
[事項5]
前記足場材溶液循環工程において、前記循環路は、前記足場材溶液容器と前記培養容器とを含む環流路として構成される、
ことを特徴とする事項2乃至4のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
[事項6]
前記流路系に接続された足場材溶液サブタンクを備え、
前記足場材溶液供給工程において、前記足場材溶液は前記培養容器と前記足場材溶液サブタンクに送液され、
前記足場材溶液循環工程において、前記循環路は、前記足場材溶液サブタンクと前記培養容器とが接続された環流路として構成される、
ことを特徴とする事項2乃至4のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
[事項7]
前記流路系に接続された足場材溶液サブタンクを備え、
前記足場材溶液供給工程において、前記足場材溶液は前記培養容器と前記足場材溶液サブタンクに送液され、
前記足場材溶液循環工程において、前記循環路は、前記培養容器を挟んで前記足場材溶液容器と前記足場材溶液サブタンクとが接続された往復流路として構成される、
ことを特徴とする事項2乃至4のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
[事項8]
前記足場材溶液サブタンクの内容積は、前記培養容器の内容積以上である、
ことを特徴とする事項6または7に記載の細胞培養装置。
[事項9]
前記足場材溶液循環工程において、所定時間経過すると、前記循環路において前記足場材溶液が流れる方向を反転させる、
ことを特徴とする事項2乃至8のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
[事項10]
前記足場材が、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、アルブミン、ポリリジン、ポリオルニチン、およびそれらのフラグメントからなる群から選択された少なくとも1つを含む、
ことを特徴とする事項2乃至9のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
[事項11]
前記細胞懸濁液は、多能性幹細胞を含む、
ことを特徴とする事項2乃至10のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
[事項12]
流路系と、
前記流路系に着脱可能な培養容器と、
足場材を含んだ足場材溶液を貯留し、前記流路系に接続された足場材溶液容器と、
細胞懸濁液を貯留し、前記流路系に接続された細胞懸濁液容器と、
前記流路系に接続された複数のポンプと、
前記流路系を構成する流路各部の開閉及び/または接続の切り替えを行う流路制御部と、を備えた細胞培養装置を用いた細胞培養方法であって、
前記培養容器が前記流路系に装着された状態において、
前記流路制御部が前記足場材溶液容器と前記培養容器とを接続し、前記足場材溶液容器から前記培養容器に前記足場材溶液が送液されるように前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させる足場材溶液供給工程と、
前記足場材溶液供給工程よりも後に、前記流路制御部は前記培養容器が含まれた循環路を構成し、前記足場材溶液が前記循環路を循環するように前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させる足場材溶液循環工程と、を実行する、
ことを特徴とする細胞培養方法。
[事項13]
前記足場材溶液循環工程よりも後に、前記流路制御部が前記細胞懸濁液容器と前記培養容器とを接続し、前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させて前記細胞懸濁液容器から前記培養容器に前記細胞懸濁液を送液する細胞懸濁液供給工程を実行する、
ことを特徴とする事項12に記載の細胞培養方法。
[事項14]
廃液を貯留可能な廃液タンクが前記流路系に接続されており、
前記足場材溶液循環工程と前記細胞懸濁液供給工程の間に、前記複数のポンプのうちの少なくとも1つを駆動させて前記培養容器に存する前記足場材溶液を前記廃液タンクに排出する排出工程を実行する、
ことを特徴とする事項13に記載の細胞培養方法。
[事項15]
前記足場材溶液循環工程において、前記循環路は、前記足場材溶液容器と前記培養容器とを含む環流路として構成される、
ことを特徴とする事項12乃至14のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
[事項16]
前記流路系に接続された足場材溶液サブタンクを備え、
前記足場材溶液供給工程において、前記足場材溶液は前記培養容器と前記足場材溶液サブタンクに送液され、
前記足場材溶液循環工程において、前記循環路は、前記足場材溶液サブタンクと前記培養容器とが接続された環流路として構成される、
ことを特徴とする事項12乃至14のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
[事項17]
前記流路系に接続された足場材溶液サブタンクを備え、
前記足場材溶液供給工程において、前記足場材溶液は前記培養容器と前記足場材溶液サブタンクに送液され、
前記足場材溶液循環工程において、前記循環路は、前記培養容器を挟んで前記足場材溶液容器と前記足場材溶液サブタンクとが接続された往復流路として構成される、
ことを特徴とする事項12乃至14のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
[事項18]
前記足場材溶液サブタンクの内容積は、前記培養容器の内容積以上である、
ことを特徴とする事項16または17に記載の細胞培養方法。
[事項19]
前記足場材溶液循環工程において、所定時間経過すると、前記循環路において前記足場材溶液が流れる方向を反転させる、
ことを特徴とする事項12乃至18のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
[事項20]
前記足場材が、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、アルブミン、ポリリジン、ポリオルニチン、およびそれらのフラグメントからなる群から選択された少なくとも1つを含む、
ことを特徴とする事項12乃至19のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
[事項21]
前記細胞懸濁液は、多能性幹細胞を含む、
ことを特徴とする事項12乃至20のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【符号の説明】
【0129】
21・・・培養容器/22~25・・・容器/26・・・廃液タンク/31・・・足場材溶液サブタンク/41・・・足場材溶液サブタンク/200・・・制御部/201~207・・・開閉弁/300・・・外部コンピュータ/301~303・・・三方弁/PA~PD・・・送液ポンプ