(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157265
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】ギヤダンパー
(51)【国際特許分類】
F16F 15/12 20060101AFI20241030BHJP
F16D 3/12 20060101ALI20241030BHJP
F16F 15/124 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
F16F15/12 S
F16D3/12 A
F16F15/124 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071519
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕貴
(57)【要約】
【課題】高トルクに対応可能なギヤダンパーを提供する。
【解決手段】ギヤダンパーは、外周面と、軸方向を向く第1面と、を有するインナースリーブと、内周面を有し、インナースリーブと同心に配置されるアウタースリーブと、第1面に対向する第2面を有し、アウタースリーブに対して固定されるキャップと、第1面と第2面との間に配置される弾性体と、を備え、当該外周面および当該内周面は、当該外周面および当該内周面のうちの一方に対して他方を周方向に対して傾斜した方向に案内するように、互いに変位可能に嵌め合う形状をなす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面と、軸方向を向く第1面と、を有するインナースリーブと、
内周面を有し、前記インナースリーブと同心に配置されるアウタースリーブと、
前記第1面に対向する第2面を有し、前記アウタースリーブに対して固定されるキャップと、
前記第1面と前記第2面との間に配置される弾性体と、を備え、
前記外周面および前記内周面は、前記外周面および前記内周面のうちの一方に対して他方を周方向に対して傾斜した方向に案内するように、互いに変位可能に嵌め合う形状をなす、
ギヤダンパー。
【請求項2】
前記外周面および前記内周面のうち、
一方には、周方向に対して傾斜する方向に延びる凹部が設けられ、
他方には、前記凹部に嵌め合う凸部が設けられる、
請求項1に記載のギヤダンパー。
【請求項3】
前記凹部は、螺旋状に延びる形状をなす、
請求項2に記載のギヤダンパー。
【請求項4】
前記凸部は、螺旋状に延びる形状をなす、
請求項3に記載のギヤダンパー。
【請求項5】
前記凸部は、前記外周面に設けられ、
前記凹部は、前記内周面に設けられる、
請求項2に記載のギヤダンパー。
【請求項6】
前記凸部は、前記内周面に設けられ、
前記凹部は、前記外周面に設けられる、
請求項2に記載のギヤダンパー。
【請求項7】
前記凹部および前記凸部の横断面形状は、互いに相補的な形状である、
請求項2に記載のギヤダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ギヤダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
四輪駆動車のトランスファー等の機構では、ギヤの歯打ち音の低減等を目的として、伝達するトルクの変動を低減するギヤダンパーを用いる場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のギヤダンパーは、シャフトの外周面に取り付けられるインナースリーブと、ギヤの内周面に取り付けられるアウタースリーブと、インナースリーブとアウタースリーブとの間に設けられるダンパー本体と、を備える。ここで、ダンパー本体は、ゴム弾性体からなり、インナースリーブの外周面とアウタースリーブの内周面との双方に加硫接着される。このようなギヤダンパーは、インナースリーブとアウタースリーブとの間で、ダンパー本体を介してトルクを伝達するとともに、このトルクの変動をダンパー本体の変形によって吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のギヤダンパーでは、ダンパー本体を構成するゴムがせん断方向に変形することにより荷重を受け止めるため、当該ゴムの受け止めるトルクに限界がある。このため、特許文献1に記載のギヤダンパーには、改善の余地がある。
【0006】
以上の事情を考慮して、本開示は、高トルクに対応可能なギヤダンパーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するために、本開示の一態様に係るギヤダンパーは、外周面と、軸方向を向く第1面と、を有するインナースリーブと、内周面を有し、前記インナースリーブと同心に配置されるアウタースリーブと、前記第1面に対向する第2面を有し、前記アウタースリーブに対して固定されるキャップと、前記第1面と前記第2面との間に配置される弾性体と、を備え、前記外周面および前記内周面は、前記外周面および前記内周面のうちの一方に対して他方を周方向に対して傾斜した方向に案内するように、互いに変位可能に嵌め合う形状をなす。
【発明の効果】
【0008】
本開示では、高トルクに対応可能なギヤダンパーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係るギヤダンパーの正面図である。
【
図2】第1実施形態に係るギヤダンパーの断面図である。
【
図3】第1実施形態に係るギヤダンパーの一部切欠き斜視図である。
【
図4】第1実施形態に係るギヤダンパーの作用を説明するための図である。
【
図5】第1実施形態に係るギヤダンパーの作用を説明するための図である。
【
図6】第2実施形態に係るギヤダンパーの断面図である。
【
図7】第2実施形態に係るギヤダンパーの一部切欠き斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本開示に係る好適な実施形態を説明する。なお、図面において各部の寸法および縮尺は実際と適宜に異なり、理解を容易にするために模式的に示す部分もある。また、本開示の範囲は、以下の説明において特に本開示を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
【0011】
1.第1実施形態
図1は、第1実施形態に係るギヤダンパー1の正面図である。
図2は、第1実施形態に係るギヤダンパー1の断面図である。
図3は、第1実施形態に係るギヤダンパー1の一部切欠き斜視図である。
図1に示すように、ギヤダンパー1は、四輪駆動車のトランスファー等の機構100に用いられ、シャフト101とギヤ102との間で軸線AXまわりのトルクの変動を低減しつつ当該トルクを伝達する構造体である。
【0012】
なお、以下では、軸線AXに沿う方向が「軸方向」と称され、軸線AXに対して直交する方向が「径方向」と称され、軸線AXまわりの方向が「周方向」と称される。ここで、軸線AXに沿う一方向が「X1方向」と称され、X1方向と反対の方向がX2方向と称される。また、軸線AXまわりの一方向が「C1方向」と称され、C1方向と反対の方向が「C2方向」と称される。
【0013】
図2および
図3に示すように、ギヤダンパー1は、インナースリーブ2とアウタースリーブ3とキャップ4-1、4-2と弾性体5-1、5-2とを備える。以下では、キャップ4-1およびキャップ4-2のそれぞれを区別せずにキャップ4という場合がある。また、弾性体5-1および弾性体5-2のそれぞれを区別せずに弾性体5という場合がある。
【0014】
ギヤダンパー1の各部の概略を説明すると、インナースリーブ2の外周面21とアウタースリーブ3の内周面31は、外周面21および内周面31のうちの一方に対して他方を周方向に対して傾斜した方向に案内するように、互いに変位可能に嵌め合う形状をなす。本実施形態では、インナースリーブ2の外周面21が軸線AXを中心軸とする雄ねじのような構成を有する一方で、アウタースリーブ3の内周面31が当該雄ねじに嵌め合う雌ねじのような構成を有する。このため、インナースリーブ2およびアウタースリーブ3のうちの一方に軸線AXまわりのトルクが入力されると、インナースリーブ2がアウタースリーブ3に対して軸方向に移動しようとする。
【0015】
ここで、キャップ4は、アウタースリーブ3に対するインナースリーブ2の軸方向での移動を所定範囲内に規制するストッパーとして機能する。この規制により、インナースリーブ2およびアウタースリーブ3のうちの一方から他方へ軸線AXまわりのトルクが伝達される。また、弾性体5は、インナースリーブ2とキャップ4との間に介在しており、アウタースリーブ3に対するインナースリーブ2の軸方向での移動に伴って軸方向に圧縮変形される。この圧縮変形により、当該トルクの変動が低減される。
【0016】
以下、ギヤダンパー1の各部を順に詳細に説明する。
【0017】
インナースリーブ2は、シャフト101に対して固定され、軸線AXを中心とする環状または筒状の部材である。インナースリーブ2は、例えば、機械構造用炭素鋼または機械構造用合金鋼等の金属材料で構成される。また、シャフト101に対するインナースリーブ2の固定方法としては、特に限定されないが、例えば、ネジ留めまたはキー溝を用いた締結等が挙げられる。なお、インナースリーブ2がシャフト101と一体で構成されてもよい。
【0018】
インナースリーブ2は、外周面21と第1面22-1、22-2とを有する。以下では、第1面22-1および第1面22-2のそれぞれを区別せずに第1面22という場合がある。
【0019】
外周面21は、軸線AXを中心として径方向での外方を向く面である。外周面12には、軸線AXまわりに螺旋状(helical)に延びる凸部21aが設けられる。凸部21aは、雄ねじのねじ山に相当する。
【0020】
図2および
図3に示す例では、凸部21aが径方向の外方に向かうに従い幅の狭くなる形状をなす。より具体的には、
図2に示すように、軸線AXを含む平面で切断した断面視で、凸部21aが半円状をなす。
【0021】
なお、凸部21aの断面形状は、
図2に示す例に限定されず、例えば、矩形、台形または三角形等であってもよい。また、凸部21aの螺旋のピッチ、凸部21aの軸方向での幅、凸部21aの高さ等の態様は、
図2および
図3に示す例に限定されず、任意である。
【0022】
ここで、凸部21aの延びる方向Dは、周方向に対して角度θで傾斜する。角度θは、特に限定されないが、5°以上45°以下であることが好ましく、5°以上30°以下であることがより好ましく、5°以上20°以下であることがさらに好ましい。角度θがこのような範囲内にあることにより、インナースリーブ2およびアウタースリーブ3のうちの一方に対する軸線AXまわりのトルクの入力によりインナースリーブ2をアウタースリーブ3に対して軸方向に円滑に移動させることができる。
【0023】
これに対し、角度θが小さすぎると、インナースリーブ2およびアウタースリーブ3のうちの一方に対する他方の軸線AXまわりの回転量が大きくなりすぎてしまい、この結果、ギヤダンパー1によるトルク伝達のロスが大きくなる傾向を示す。一方、角度θが大きすぎると、インナースリーブ2とアウタースリーブ3との間の摩擦力の大きさ等によっては、軸線AXまわりのトルクの入力によりインナースリーブ2をアウタースリーブ3に対して軸方向に円滑に移動させることが難しくなる傾向を示す。
【0024】
また、凸部21aの延びる方向Dにおける長さは、特に限定されないが、後述の凹部31aの延びる方向Dにおける長さよりも短いことが好ましい。これにより、インナースリーブ2がアウタースリーブ3に対して軸方向に移動したときに凸部21aがキャップ4に接触することが防止される。
【0025】
第1面21-1および第1面22-2のそれぞれは、軸方向を向く面である。より具体的には、第1面22-1は、外周面21のZ1方向での端に接続され、X1方向を向く面である。一方、第1面22-2は、外周面21のZ2方向での端に接続され、X2方向を向く面である。
【0026】
図2および
図3に示す例では、インナースリーブ2は、第1面22-1からX1方向に突出する環状の軸部23-1と、第1面22-2からX2方向に突出する環状の軸部23-2と、を有する。なお、軸部23-1、23-2は、必要に応じて設けられ、省略されてもよい。また、以下では、軸部23-1および軸部23-2のそれぞれを区別せずに軸部23という場合がある。
【0027】
アウタースリーブ3は、ギヤ102に対して固定され、軸線AXを中心とする環状または筒状の部材であり、インナースリーブ2と同心に配置される。ここで、アウタースリーブ3は、インナースリーブ2の外側に配置される。アウタースリーブ3は、例えば、機械構造用炭素鋼または機械構造用合金鋼等の金属材料で構成される。また、ギヤ102に対するアウタースリーブ3の固定方法としては、特に限定されないが、例えば、ネジ留めまたはキー溝を用いた締結等が挙げられる。なお、アウタースリーブ3がギヤ102と一体で構成されてもよい。
【0028】
アウタースリーブ3は、内周面31と端面32-1、32-2とを有する。以下では、端面32-1および端面32-2のそれぞれを区別せずに端面32という場合がある。
【0029】
内周面31は、軸線AXを中心として径方向での内方を向く面である。内周面31には、軸線AXまわりに螺旋状に延びる凹部31aが設けられる。凹部31aは、雌ねじのねじ溝に相当する。
【0030】
凹部31aは、前述のインナースリーブ2の凸部21aに微小な隙間を介して嵌め合う。これにより、凹部31aおよび凸部21aを互いの螺旋状に沿うように移動させることができる。すなわち、凸部21aおよび凹部31aのうちの一方は、他方を軸線AXまわりの螺旋状に沿って移動させるガイドとして機能する。このため、インナースリーブ2およびアウタースリーブ3のうちの一方に対する軸線AXまわりのトルクの入力によりインナースリーブ2をアウタースリーブ3に対して軸方向に移動させることができる。
【0031】
ここで、インナースリーブ2の外周面21とアウタースリーブ3の内周面31との間には、必要に応じて、グリースまたは潤滑油等の潤滑剤が介在してもよい。この場合、外周面21と内周面31との摩擦を低減することにより、インナースリーブ2およびアウタースリーブ3のうちの一方に対する軸線AXまわりのトルクの入力によりインナースリーブ2をアウタースリーブ3に対して軸方向に円滑に移動させることができる。
【0032】
図2および
図3に示す例では、凹部31aが凸部21aと相補的な形状をなす。ただし、前述のように凹部31aおよび凸部21aを互いの螺旋状に沿って移動し得る程度の隙間を外周面21と内周面31との間に確保するように、凹部31aが構成される。ここで、凹部31aが径方向での内方に向かうに従い幅の狭くなる形状をなす。より具体的には、
図2に示すように、軸線AXを含む平面で切断した断面視で、凹部31aが半円状をなす。
【0033】
なお、凹部31aの断面形状は、
図2に示す例に限定されず、例えば、矩形、台形または三角形等であってもよい。また、凹部31aの螺旋のピッチ、凹部31aの軸方向での幅、凹部31aの深さ等の態様は、
図2および
図3に示す例に限定されず、任意である。さらに、凹部31aの断面形状は、凸部21aと相補的な形状に限定されず、例えば、凸部21aの断面形状と異なってもよい。
【0034】
ここで、凹部31aの延びる方向は、前述の凸部21aの延びる方向と同様、周方向に対して角度θで傾斜する。
【0035】
図2に示す例では、凹部31aがアウタースリーブ3の軸方向での全域にわたり設けられる。このため、凹部31aがアウタースリーブ3の両端面に開放する。したがって、ギヤダンパー1の組立の際にアウタースリーブ3の内側にインナースリーブ2を軸方向から挿入することができる。
図2では、凹部31aの領域のうち、
図2中の紙面奥側に位置する領域が破線で示され、
図2中の紙面手前側に位置する領域が二点鎖線で示される。
【0036】
なお、凹部31aの延びる方向における長さは、
図2に示す例に限定されず、凸部21aの延びる方向における長さよりも長ければよい。この場合、凹部31aおよび凸部21aを互いの螺旋状に沿って移動させることができる。
【0037】
端面32-1は、内周面31のZ1方向での端に接続され、X1方向を向く面である。一方、端面32-2は、内周面31のZ2方向での端に接続され、X2方向を向く面である。
【0038】
図2および
図3に示すでは、端面32-1と端面32-2との間の距離、すなわち、アウタースリーブ3の軸方向での長さは、前述のインナースリーブ2の第1面22-1と第1面22-2との間の距離、すなわち、外周面21の軸方向での長さに等しい。なお、端面32-1と端面32-2との間の距離は、第1面22-1と第1面22-2との間の距離と異なってもよい。
【0039】
キャップ4は、アウタースリーブ3に対して固定され、アウタースリーブ3に対するインナースリーブ2の軸方向での移動を所定範囲内に規制する部材である。キャップ4の構成材料は、特に限定されず、エンジニアリングプラスチップ等の樹脂材料であってもよいし、機械構造用炭素鋼または機械構造用合金鋼等の金属材料であってもよい。また、アウタースリーブ3に対するキャップ4の固定方法としては、特に限定されないが、例えば、ネジ留め等が挙げられる。なお、アウタースリーブ3に対するキャップ4の位置関係が固定されていればよく、キャップ4が他の部材を介してアウタースリーブ3に固定されてもよい。
【0040】
ここで、キャップ4-1は、前述の第1面22-1に対向する第2面41-1を有する部材である。一方、キャップ4-2は、前述の第1面22-2に対向する第2面41-2を有する部材である。以下では、第2面41-1および第2面41-2のそれぞれを区別せずに第2面41という場合がある。
【0041】
第2面41-1は、X2方向を向く面であり、第1面22-1に対してX1方向の位置に配置される。一方、第2面41-2は、X1方向を向く面であり、第1面22-2に対してX2方向の位置に配置される。
【0042】
キャップ4-1は、第1面22-1と第2面41-1との間に弾性体5-1の配置スペースを確保する形状をなす。一方、キャップ4-2は、第1面22-2と第2面41-2との間に弾性体5-2の配置スペースを確保する形状をなす。
【0043】
図2に示す例では、キャップ4-1が第1面22-1と第2面41-1との間に弾性体5-1の配置スペースを確保するとともにアウタースリーブ3に対するインナースリーブ2のX1方向への移動を許容するように切り欠いた略L字の断面形状をなす。同様に、キャップ4-2が第1面22-2と第2面41-2との間に弾性体5-2の配置スペースを確保するとともにアウタースリーブ3に対するインナースリーブ2のX2方向への移動を許容するように切り欠いた略L字の断面形状をなす。
【0044】
なお、キャップ4の断面形状は、
図2に示す例に限定されず、例えば、軸方向での厚さが一定となる形状であってもよい。この場合、第1面22と第2面41との間に弾性体5の配置スペースを確保するとともにアウタースリーブ3に対するインナースリーブ2の軸方向への移動を許容するには、例えば、アウタースリーブ3の軸方向での長さをインナースリーブ2の外周面21の軸方向での長さよりも長くすればよい。
【0045】
図2に示す例では、キャップ4の内径は、前述のインナースリーブ2の軸部23の外径よりも大きい。このため、キャップ4と軸部23との接触が防止される。
【0046】
弾性体5-1は、第1面22-1と第2面41-1との間に配置される環状の弾性部材である。一方、弾性体5-2は、第1面22-2と第2面41-2との間に配置される環状の弾性部材である。弾性体5は、例えば、アクリル系ゴムまたはフッ素系ゴム等のエラストマーで構成される。なお、弾性体5の表面の少なくとも一部には、摩擦低減のためのコーティングが施されてもよい。
【0047】
弾性体5は、キャップ4およびインナースリーブ2のうちの一方に対して接着剤または加硫接着等により固定されるか、または、キャップ4およびインナースリーブ2のいずれにも固定されない。弾性体5がキャップ4に固定される場合、弾性体5の位置ずれによるインナースリーブ2との接触による片摩耗を防止することができる。同様に、弾性体5がインナースリーブ2に固定される場合、弾性体5の位置ずれによるキャップ4との接触による片摩耗を防止することができる。また、弾性体5がキャップ4およびインナースリーブ2のいずれにも固定されない場合、弾性体5の寿命等により所定の特性を維持できなくなっても、弾性体5の交換を容易に行うことができる。
【0048】
図2に示す例では、弾性体5の軸方向での厚さは、基準状態における第1面22と第2面41との間の距離よりも小さい。これにより、基準状態において弾性体5がインナースリーブ2との周方向での摩擦力の影響を受けない。ここで、「基準状態」とは、弾性体5-1および弾性体5-2の両方が第1面22と第2面41との間の圧縮力を受けない状態をいう。また、弾性体5の軸方向での厚さと、基準状態における第1面22と第2面41との間の距離と、の差は、トルク伝達の効率とトルク変動の低減との両立の観点から、微小であることが好ましい。
【0049】
なお、弾性体5の軸方向での厚さは、基準状態における第1面22と第2面41との間の距離と等しくてもよい。
【0050】
図2に示す例では、弾性体5の内径は、前述のインナースリーブ2の軸部23の外径よりも大きい。このため、弾性体5と軸部23との接触が防止される。なお、弾性体5の内径は、前述のインナースリーブ2の軸部23の外径と等しくてもよい。この場合、弾性体5を軸部23に固定することができる。
【0051】
以上のようにギヤダンパー1が構成される。
【0052】
図4および
図5は、第1実施形態に係るギヤダンパー1の作用を説明するための図である。
図4に示すように、C1方向のトルクがインナースリーブ2に入力される場合、当該トルクの一部によりインナースリーブ2の凸部21aがアウタースリーブ3の凹部31aに沿って移動することにより、インナースリーブ2がアウタースリーブ3に対してX1方向に移動する。これにより、インナースリーブ2の第1面22-1がキャップ4-1の第2面41-1に近づく方向に移動するので、弾性体5-1が第1面22-1と第2面41-2との間で圧縮変形される。このような弾性体5-1の圧縮変形により、当該トルクの変動が低減される。
【0053】
一方、
図5に示すように、C2方向のトルクがインナースリーブ2に入力される場合、当該トルクの一部によりインナースリーブ2の凸部21aがアウタースリーブ3の凹部31aに沿って移動することにより、インナースリーブ2がアウタースリーブ3に対してX2方向に移動する。これにより、インナースリーブ2の第1面22-2がキャップ4-2の第2面41-2に近づく方向に移動するので、弾性体5-2が第1面22-2と第2面41-2との間で圧縮変形される。このような弾性体5-2の圧縮変形により、当該トルクの変動が低減される。
【0054】
以上のように、ギヤダンパー1は、インナースリーブ2とアウタースリーブ3とキャップ4と弾性体5とを備える。ここで、前述のように、インナースリーブ2は、外周面21と、軸方向を向く第1面22と、を有する。アウタースリーブ3は、内周面31を有し、インナースリーブ2と同心に配置される。キャップ4は、第1面22に対向する第2面41を有し、アウタースリーブ3に対して固定される。弾性体5は、第1面22と第2面41との間に配置される。外周面21および内周面31は、外周面21および内周面31のうちの一方に対して他方を周方向に対して傾斜した方向に案内するように、互いに変位可能に嵌め合う形状をなす。
【0055】
以上のギヤダンパー1では、外周面21と内周面31との間でトルクを伝達する際に、外周面21および内周面31のうちの一方に対して他方を周方向に対して傾斜した方向に案内するように変位する。その変位により弾性体5が第1面22と第2面41との間に挟まれるので、弾性体5が軸方向に圧縮変形することにより、当該トルクの変動が低減される。ここで、一般にゴム等の弾性体の圧縮による耐荷重がせん断による耐荷重よりも大きいので、せん断による荷重をゴムで受ける従来構成に比べて、高トルクに対応することができる。
【0056】
また、前述のように、外周面21および内周面31のうち、一方には、周方向に対して傾斜する方向に延びる凹部31aが設けられ、他方には、凹部31aに嵌め合う凸部21aが設けられる。このため、外周面21および内周面31のうちの一方に対して他方を周方向に対して傾斜した方向に案内するように、外周面21および内周面31を互いに変位可能に嵌め合う形状とすることができる。
【0057】
ここで、本実施形態では、前述のように、凸部21aが外周面21に設けられ、かつ、凹部31aが内周面31に設けられる。このように内周面31に凹部31aを設ける態様では、後述の第2実施形態のような内周面31に凸部31bを設ける態様に比べて、アウタースリーブ3を製造しやすいという利点がある。
【0058】
また、前述のように、凹部31aは、螺旋状に延びる形状をなす。これにより、凸部21aを凹部31aに沿って周方向に対して傾斜する方向に案内することができる。
【0059】
さらに、前述のように、凸部21aは、螺旋状に延びる形状をなす。このため、凸部21aと凹部31aとの接触範囲を長くすることができる。この結果、凸部21aが凹部31aの延びる方向に点在する態様等に比べて、ギヤダンパー1の許容トルクを大きくすることができる。
【0060】
また、前述のように、凹部31aおよび凸部21aの横断面形状は、互いに相補的な形状である。このため、凹部31aおよび凸部21aの横断面形状が互いに異なる態様に比べて、凹部31aおよび凸部21aの接触面積を大きくすることができる。この結果、ギヤダンパー1の許容トルクを大きくすることができる。
【0061】
2.第2実施形態
以下、本開示の第2実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が前述の実施形態と同様である要素については、前述の実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0062】
図6は、第2実施形態に係るギヤダンパー1Aの断面図である。
図7は、第2実施形態に係るギヤダンパー1Aの一部切欠き斜視図である。ギヤダンパー1Aは、インナースリーブ2およびアウタースリーブ3に代えてインナースリーブ2Aおよびアウタースリーブ3Aを備えること以外は、第1実施形態のギヤダンパー1と同様に構成される。
【0063】
インナースリーブ2Aは、第1実施形態の凸部21aに代えて凹部21bを有すること以外は、第1実施形態のインナースリーブ2と同様に構成される。ここで、凹部21bは、軸線AXまわりに螺旋状に延びており、雄ねじのねじ溝に相当する。
【0064】
図6および
図7に示す例では、凹部21bが径方向の外方に向かうに従い幅の狭くなる形状をなす。より具体的には、
図6に示すように、軸線AXを含む平面で切断した断面視で、凹部21bが半円状をなす。なお、凹部21bの断面形状は、
図6に示す例に限定されず、例えば、矩形、台形または三角形等であってもよい。
【0065】
一方、アウタースリーブ3Aは、第1実施形態の凹部31aに代えて凸部31bを有すること以外は、第1実施形態のアウタースリーブ3と同様に構成される。ここで、凸部31bは、軸線AXまわりに螺旋状に延びており、雌ねじのねじ山に相当する。
【0066】
凸部31bは、前述のインナースリーブ2の凹部21bに微小な隙間を介して嵌め合う。これにより、凸部31bおよび凹部21bを互いの螺旋状に沿うように移動させることができる。このため、インナースリーブ2Aおよびアウタースリーブ3Aのうちの一方に対する軸線AXまわりの入力によりインナースリーブ2Aをアウタースリーブ3Aに対して軸方向に移動させることができる。
【0067】
図6および
図7に示す例では、凸部31bが凹部21bと相補的な形状をなす。ただし、ただし、前述の外周面21と内周面31との間の隙間を確保するように、凸部31bが構成される。ここで、凸部31bが径方向の内方に向かうに従い幅の狭くなる形状をなす。より具体的には、
図6に示すように、軸線AXを含む平面で切断した断面視で、凸部31bが半円状をなす。なお、凸部31bの断面形状は、
図6に示す例に限定されず、例えば、矩形、台形または三角形等であってもよい。また、凸部31bの断面形状は、凹部21bと相補的な形状に限定されず、例えば、凹部21bの断面形状と異なってもよい。
【0068】
以上の第2実施形態によっても、第1実施形態と同様、トルク変動を低減しつつトルクを伝達することができる。本実施形態では、前述のように、凸部31bが内周面31に設けられ、かつ、凹部21bが外周面21に設けられる。このように外周面21に凹部21bを設ける態様では、アウタースリーブ3Aに対するインナースリーブ2Aの軸方向での移動時におけるインナースリーブ2Aとキャップ4との接触を考慮する必要がない。このため、前述の第1実施形態のような外周面21に凸部21aを設ける態様に比べて、ギヤダンパー1Aの設計の自由度を高めることができる。
【0069】
3.変形例
以上に例示した各形態は多様に変形され得る。前述の各形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0070】
3-1.変形例1
前述の形態では、凸部21a、31bおよび凹部21b、31aのそれぞれが軸線AXを中心とする螺旋状に延びる態様が例示されるが、この態様に限定されず、例えば、例えば、凸部21aが凹部31aの延びる方向に沿って点在する複数の突起で構成されてもよいし、同様に、凸部31bが凹部21bの延びる方向に沿って点在する複数の突起で構成されてもよい。
【0071】
3-2.変形例2
インナースリーブ2、2Aの外周面21とアウタースリーブ3、3Aの内周面31とのそれぞれの形状は、外周面21および内周面31のうちの一方に対して他方を周方向に対して傾斜した方向に案内するように、互いに変位可能に嵌め合う形状であればよく、前述の実施形態の形状に限定されない。
【0072】
なお、前述の形態では、インナースリーブを雄ねじ、アウタースリーブを雌ねじとして捉えて説明したが、インナースリーブおよびアウタースリーブのうちの一方をカム、他方をフォロアとして捉えてもよい。
【0073】
3-3.変形例3
前述の形態では、キャップ4-1、4-2および弾性体5-1、5-2を用いる態様が例示されるが、この態様に限定されず、ギヤダンパー1、1Aの伝達すべきトルクの方向が一方向である場合、その方向に応じて、キャップ4-1および弾性体5-1を省略するか、または、キャップ4-2および弾性体5-2を省略してもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…ギヤダンパー、1A…ギヤダンパー、2…インナースリーブ、2A…インナースリーブ、3…アウタースリーブ、3A…アウタースリーブ、4…キャップ、4-1…キャップ、4-2…キャップ、5…弾性体、5-1…弾性体、5-2…弾性体、12…外周面、21…外周面、21-1…第1面、21a…凸部、21b…凹部、22…第1面、22-1…第1面、22-2…第1面、23…軸部、23-1…軸部、23-2…軸部、31…内周面、31a…凹部、31b…凸部、32…端面、32-1…端面、32-2…端面、41…第2面、41-1…第2面、41-2…第2面、100…機構、101…シャフト、102…ギヤ、AX…軸線、D…方向、θ…角度。