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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157267
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】シリンダブロックのめっき処理装置
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/00 20060101AFI20241030BHJP
   F02F 1/00 20060101ALI20241030BHJP
   C25D 21/10 20060101ALI20241030BHJP
   C25D 17/12 20060101ALI20241030BHJP
   C25D 5/08 20060101ALI20241030BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20241030BHJP
   C25D 7/04 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C25D17/00 Z
F02F1/00 G
C25D21/10 301
C25D17/12 J
C25D5/08
C25D7/00 C
C25D7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071525
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 春樹
【テーマコード(参考)】
3G024
4K024
【Fターム(参考)】
3G024AA22
3G024FA14
3G024GA01
3G024GA06
3G024GA18
3G024HA01
3G024HA07
4K024BB04
4K024BB28
4K024BC04
4K024BC06
4K024CB08
4K024CB13
4K024CB15
4K024CB26
(57)【要約】
【課題】より均一なめっき被膜を形成可能なシリンダブロックのめっき処理装置を提供する。
【解決手段】
シリンダブロックのめっき処理装置1は、めっき処理装置本体Mと、処理液供給部31と、を備え、めっき処理装置本体Mは、シリンダブロックCが載置される載置部11と、シリンダボアCbに挿入配置される電極部21と、を備える。電極部21は、電極内流路P11を有するとともに、ボア内周面との間に、ヘッド合わせ面Cf1側の第1ボア開口縁からシリンダスカート端面Cf2側の第2ボア開口縁に至る電極外流路P12を形成する。ヘッド合わせ面Cf1に設置され、シリンダボアCbの全周に亘って延在しかつボア内周面Cfbよりも径方向内方に突出する環状突出部411を有するシール部材41をさらに備える。めっき処理液は、電極内流路P11を介して電極外流路P12に流入し、電極外流路P12を第1ボア開口縁から第2ボア開口縁へ向けて通過する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドに対する合わせ面であるヘッド合わせ面を一側端に有するとともに、クランクケースに対する合わせ面であるケース合わせ面側のシリンダスカート端面を他側端に有するシリンダブロックのボア内周面にめっき処理を施すシリンダブロックのめっき処理装置であって、
前記シリンダブロックが載置される載置部と、前記載置部に載置された前記シリンダブロックのシリンダボアに挿入配置される電極部と、を備えるめっき処理装置本体と、
前記めっき処理装置本体にめっき処理液を供給する処理液供給部と、を備え、
前記電極部は、
前記シリンダボアの軸方向に貫通する電極内流路を有するとともに、
前記ボア内周面との間に、前記電極内流路に連通し、前記ヘッド合わせ面側の第1ボア開口縁から前記シリンダスカート端面側の第2ボア開口縁に至る前記めっき処理液の電極外流路を形成し、
前記めっき処理装置本体は、前記ヘッド合わせ面に設置され、前記シリンダボアの全周に亘って延在しかつ前記ボア内周面よりも前記シリンダボアの径方向内方に突出する環状突出部を有するシール部材をさらに備え、
前記めっき処理装置本体において、前記めっき処理液は、前記電極内流路を介して前記電極外流路に流入し、前記電極外流路を前記第1ボア開口縁から前記第2ボア開口縁へ向けて通過する、シリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項2】
前記環状突出部は、その全周に亘って形成され、前記第1ボア開口縁よりも前記シリンダボアの内方に延出するリブ部を有する、請求項1に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項3】
前記環状突出部と前記ボア内周面との内径差が2mm以上4mm以下である、請求項2に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項4】
前記シリンダブロックは、前記第1ボア開口縁に面取りが形成され、
前記シリンダボアの軸方向に定められる前記面取りの高さは、前記軸方向に定められる前記リブ部の高さよりも大きい、請求項2または3に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックのめっき処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダブロックのめっき処理装置として、シリンダブロックの載置台と、「陽極棒」と呼ばれる電極部と、を備え、シリンダブロックのシリンダボアに電極部を挿入配置し、ボア内周面と電極部との間に形成された環状の隙間(以下「処理液流路」という場合がある)にめっき処理液を流しながらシリンダブロックと電極部との間に電位差を形成することで、ボア内周面にめっき被膜を形成するものが存在する。
【0003】
このめっき処理装置は、シリンダブロック全体をめっき処理液に浸漬させるものと比較して、めっき処理に要する時間を短縮するとともに、手作業による負担を軽減することが可能である。さらに、めっき処理液の流路が外部に対して閉じた状況にあり、シリンダブロック全体をめっき処理液に浸漬させる必要もないことから、めっき処理液の持ち出しがなく、作業環境の改善およびめっき処理液の節減に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-122204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ボア内周面と電極部とが互いに近接した位置関係にあると、シリンダボアの開口縁に電流が集中しやすく、ボア開口縁およびその近傍でめっき被膜が局部的に肥大化する、いわゆる「花咲き」と呼ばれるめっき不良が発生する。花咲きによる不良めっき部分は、その後のホーニング工程への移行前に除去する必要がある。ボア開口縁に二次電極を設置することによりボア開口縁近傍における花咲きの発生を抑制する技術も存在するが、二次電極にめっき被膜が付着し、これを使用の都度除去することが必要となるため、根本的な解決には至らないのが実情である。
【0006】
そこで、本発明は、花咲きの発生を抑制し、より均一なめっき被膜を形成可能なシリンダブロックのめっき処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため、本発明の一形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置は、シリンダヘッドに対する合わせ面であるヘッド合わせ面を一側端に有するとともに、クランクケースに対する合わせ面であるケース合わせ面側のシリンダスカート端面を他側端に有するシリンダブロックのボア内周面にめっき処理を施すシリンダブロックのめっき処理装置であって、めっき処理装置本体と、前記めっき処理装置本体にめっき処理液を供給する処理液供給部と、を備え、めっき処理装置本体は、前記シリンダブロックが載置される載置部と、前記載置部に載置された前記シリンダブロックのシリンダボアに挿入配置される電極部と、を備える。前記電極部は、前記シリンダボアの軸方向に貫通する電極内流路を有するとともに、前記ボア内周面との間に、前記電極内流路に連通し、前記ヘッド合わせ面側の第1ボア開口縁から前記シリンダスカート端面側の第2ボア開口縁に至る前記めっき処理液の電極外流路を形成する。前記めっき処理装置本体は、前記ヘッド合わせ面に設置され、前記シリンダボアの全周に亘って延在しかつ前記ボア内周面よりもシリンダボアの径方向内方に突出する環状突出部を有するシール部材をさらに備え、前記めっき処理液は、前記電極内流路を介して前記電極外流路に流入し、前記電極外流路を前記第1ボア開口縁から前記第2ボア開口縁へ向けて通過する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電極内流路を通過しためっき処理液は、環状突出部と電極部との隙間を介して電極外流路に流入するため、シリンダブロックのヘッド合わせ面側のボア開口縁(第1ボア開口縁)は、電極外流路に流入するめっき処理液の流れに対して環状突出部の後方ないし背後に位置することとなる。これにより、第1ボア開口縁およびその近傍におい電極外流路を流れるめっき処理液とボア内周面との接触を適度に制限し、めっき被膜の過度な成長を回避し、花咲きの発生を抑制することが可能となる。よって、めっき被膜の均一形成を促すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るめっき処理装置の全体的な構成を示す断面図である。
図2】同上実施形態に係るめっき処理装置の構成を模式的に示す概略図である。
図3】同上実施形態に係るシール部材(環状突出部)の構成をシリンダブロックとの関係のもとに示す(a)平面図および(b)断面図である。
図4】同上実施形態に係る環状突起部の具体的な構成を示す断面図である。
図5】同上実施形態の変形例に係るシール部材(環状突出部)の構成を示す(a)平面図および(b)断面図である。
図6】比較例に係るシール部材の構成を示す(a)平面図および(b)断面図である。
図7】環状突起部の効果を複数の異なるシリンダボアとの内径差およびリブ部の突出高さについて示す説明図である。
図8】花咲きが生じたボア開口縁およびその近傍を拡大視により示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
(めっき処理装置の全体構成)
図1は、本発明の一実施形態に係るめっき処理装置1の全体的な構成を示す断面図である。
【0012】
図2は、本実施形態に係るめっき処理装置1の構成を模式的に示す概略図である。
【0013】
本実施形態において、めっき処理装置1は、車両用の内燃エンジンを構成するシリンダブロックCのシリンダボアCbの内周面(以下「ボア内周面」という)Cfbにめっき処理を施すのに用いられる。具体的には、内燃エンジンのボア内周面Cfbにニッケルめっきによる被膜を形成する。内燃エンジンは、レシプロ型であり、単気筒であっても、多気筒であってもよい。シリンダブロックCは、例えば、アルミニウム合金の鋳物材またはダイキャスト材である。以下の説明では、1つの気筒を構成するシリンダブロックCを対象として、そのボア内周面Cfbにめっき被膜を形成するが、複数の気筒を構成するシリンダブロックCのそれぞれを対象とすることも可能である。その場合は、以下に示すのと同様に構成されるめっき処理装置1により、他のシリンダブロックCのボア内周面Cfbについてもめっき被膜を形成する。
【0014】
めっき処理装置1による処理対象であるシリンダブロックCは、シリンダヘッドおよびクランクケースに対して分割して形成され、互いに結合されることにより、内燃エンジンの本体部を構成する。シリンダブロックCは、シリンダヘッドに対する合わせ面であるヘッド合わせ面Cf1を一側端に有するとともに、シリンダスカート端面Cf2を他側端に有する。組立後のエンジン本体において、シリンダブロックCは、ヘッド合わせ面Cf1においてシリンダヘッドに接合し、ケース合わせ面Cf3においてクランクケースに接合する。そして、シリンダスカート端面Cf2を含むシリンダブロックCのスカート部分(「シリンダスカート」と呼ばれる)は、クランクケースの内部に挿入される。
【0015】
(めっき処理装置本体の構成)
図2に示すように、めっき処理装置1は、シリンダブロックCが載置される載置部11と、載置部11に載置されたシリンダブロックCのシリンダボアCbに挿入配置される電極部21と、を備える。載置部11および電極部21は、このめっき処理装置1の本体部(つまり、めっき処理装置本体M)を構成する。めっき処理装置1は、めっき処理装置本体Mにめっき処理液を供給する処理液供給部31をさらに備える。
【0016】
載置部11は、載置部本体111と、台座部112と、上蓋部113と、を備える。載置部本体111は、シリンダブロックCの重量を支える支持部となるものである。シリンダブロックCは、シリンダボアCbの中心軸Acが起立し、ヘッド合わせ面Cf1を上向きに、シリンダスカート端面Cf2およびケース合わせ面Cf3を下向きにした状態で配置される。台座部112および上蓋部113は、いずれも樹脂製であり、シリンダブロックCを上下から挟み込むように配置される。ここに、台座部112が樹脂製であることにより、載置部本体111と台座部112との間、さらに、台座部112とシリンダブロックCとの間が液密に封止される。
【0017】
めっき処理装置本体Mは、シリンダブロックCと載置部11の上蓋部113との間に挟持されるシール部材41をさらに備える。シール部材41は、シリコンゴム等の樹脂材により薄い板状に形成され、シリンダブロックCのヘッド合わせ面Cf1に当接した状態で配置される。シール部材41が樹脂製であることにより、シリンダブロックCと上蓋部113との間が液密に封止される。
【0018】
シール部材41は、めっき処理装置本体Mに設置された状態、つまり、シリンダブロックCと上蓋部113との間に挟持された状態で、ボア内周面CfbよりもシリンダボアCbの径方向内方に突出する環状突出部411を有する。環状突出部411は、シール部材41をその厚さ方向に貫通する円形の開口部を形成し、その内径は、シリンダボアCbの内径よりも小さく設定されている。
【0019】
以下の説明では、特に言及しない限り、シリンダボアCbの中心軸Acに沿った方向、つまり、紙面に対する上下方向を「軸方向」Daとし、これに垂直な方向、つまり、紙面に対する左右方向を「径方向」Drとする。
【0020】
電極部21は、電極部本体211と、電極支持部212と、を備える。電極部本体211は、導電性を有し、めっき処理に際してその外周面がシリンダブロックCのボア内周面Cfbと対向して配置され、ボア内周面Cfbとの間に所定の電位差を形成する。電極支持部212は、電極部本体211に対して分離自在に構成され、載置部本体111に固定されている。電極支持部212は、めっき処理に際して電極部本体211が装着され、電極部本体211を載置部本体111に対して支持する。電極支持部212は、電極部本体211と同様に導電材により形成されている。
【0021】
電極部21は、電極部本体211がシリンダボアCbに挿入された状態で載置部11に設置される。載置部本体111および台座部112は、上蓋部113に対して下方に相対移動可能であり、載置部本体111を上蓋部113に対して下方に移動させ、載置部本体111と上蓋部113とを上下に離間させることで、載置部本体111に固定された電極支持部212に電極部本体211を装着することが可能である。この状態で、載置部本体111を上方へ移動させ、載置部本体111と上蓋部113とを、シリンダブロックCを挟み込むように互いに近付けることで、電極部本体211がシリンダボアCbに挿入配置され、電極部21の設置が完了する。
【0022】
ここに、電極部本体211は、その長さがシリンダボアCbの軸方向寸法よりも大きく設定され、電極部21の設置後の状態において、シリンダボアCbを上下に貫通し、シリンダボアCbへの挿入方向の先端部(図3に示す上端部211a)がシリンダブロックCのヘッド合わせ面Cf1、つまり、ヘッド合わせ面Cf1側のボア開口縁よりも上方に位置し、基端部がシリンダスカート端面Cf2側のボア開口縁よりも下方に位置する。
【0023】
ここに、シリンダブロックCのうち、ヘッド合わせ面Cf1側のボア開口縁は、本実施形態に係る「第1ボア開口縁」に相当し、シリンダスカート端面Cf2側のボア開口縁は、本実施形態に係る「第2ボア開口縁」に相当する。
【0024】
電極部21は、設置後の状態において、電極部本体211とボア内周面Cfbとの間に環状の処理液流路(以下「電極外流路」という)P12を形成する。電極部本体211および電極支持部212には、それらの内部を軸方向Daに貫通する処理液流路(以下「電極内流路」という)P11が形成され、電極内流路P11と電極外流路P12とは、互いに連続しかつ連通する。
【0025】
めっき処理に際し、めっき処理液は、電極内流路P11を下方から上方へ、換言すれば、シリンダブロックCのシリンダスカート端面Cf2からヘッド合わせ面Cf1へ向かう方向に通過する。そして、めっき処理液は、上蓋部113の下面による制御を受けて流れの向きを180°反転させ、シール部材41と電極部21との間でシリンダボアCbの径方向Drに定められる隙間、具体的には、環状突出部411と電極部本体211との隙間gを介して電極外流路P12に流入する。めっき処理液は、電極外流路P12を上方から下方へ、換言すれば、シリンダブロックCのヘッド合わせ面Cf1からシリンダスカート端面Cf2へ向かう方向に通過する。このように、本実施形態では、電極部本体211の管壁部を介してその内外に処理液流路P11、P12が形成され、電極部21の本体内に形成される流路(電極内流路)P11と本体外に形成される流路(電極外流路)P12とは、めっき処理液の流れる向きが互いに逆である。
【0026】
(シール部材周辺の詳細構成)
図3は、本実施形態に係るめっき処理装置1におけるシール部材41(環状突出部411)の構成をシリンダブロックCとの関係のもとに示す(a)平面図および(b)断面図である。図3(a)は、シール部材41を上方、つまり、ヘッド合わせ面Cf1側から見た平面図であり、図3(b)は、図3(a)に示す直線a3-a3による断面図である。図3は、電極部21(電極部本体211)の外形を二点鎖線により示す。
【0027】
本実施形態では、シール部材41の開口部をシリンダボアCbよりも小径として、シール部材41に、シリンダボアCbの全周に亘って延在しかつボア内周面CfbよりもシリンダボアCbの径方向内方に突出する環状突起部411を形成する。環状突起部411および電極部本体211は、シリンダボアCbと同軸に配置され、よって、環状突起部411と電極部本体211とは、互いに同軸の関係にある。先に述べたように、電極部本体211は、シリンダボアCbを上下に貫通する。ここで、電極部本体211は、その先端部211aがシール部材41の上端面よりも下方で終結し、環状突出部411により包囲されている。
【0028】
本実施形態では、さらに、環状突出部411に、シリンダボアCbの軸方向Daに延びるリブ部412を形成する。リブ部412は、シリンダブロックCのヘッド合わせ面Cf1にシール部材41を設置した状態で、このヘッド合わせ面Cf1よりもシリンダボアCbの内方に延出する。リブ部412は、環状突出部411の全周に亘って形成され、図3(a)に点線で示すように、シール部材41を上方から見た平面視において環状をなす。
【0029】
図4は、本実施形態に係る環状突起部411の具体的な構成を示す断面図であり、環状突出部41に設けられたシール部材412の主要な寸法を、ボア内周面Cfbおよびヘッド合わせ面Cf1との関係のもとに示す。
【0030】
図4中、シリンダボアCbの内径をd1とし、環状突出部411の内径、換言すれば、シール部材41に形成された開口部の内径をd2とする。さらに、シリンダブロックCのヘッド合わせ面Cf1側の開口縁に形成された面取りCcについて、シリンダボアCbの軸方向Daに定められる寸法(つまり、高さ)をh1とし、リブ部411について、同じ軸方向Daに定められる高さをh2とする。面取りCcは、C面取りであっても、R面取りであってもよい。
【0031】
本実施形態において、環状突出部411とボア内周面Cfbとの内径差(=d1-d2)は、2mm以上4mm以下である。つまり、環状突出部411がボア内周面Cfbから径方向内方に突出する長さl1は、1mmから2mmである。ボア内周面Cfbと電極部本体211の外周面との間隔s1が5mmである場合に、環状突出部411と電極部本体211との隙間gの径方向寸法s2は、3mmから4mmである。リブ部412とボア内周面Cfbとの隙間について同じ径方向Drに定められる寸法s3は、例えば、0.1mm以上である。さらに、面取りCcの高さh1は、リブ部412の高さh2よりも大きい。リブ部412の高さh2は、例えば、0.5mmである。
【0032】
(めっき処理液の給排に関わる構成)
図2に戻り、処理液供給部31は、めっき液槽311と、送液ポンプ312と、を備える。めっき液槽311および送液ポンプ312は、載置部11に対して水平方向の一側に配置され、電極部21の電極内流路P11に対してその中心軸から水平方向にずらして配置される。本実施形態において、電極内流路P11の中心軸は、シリンダボアCbの中心軸Acに一致する。
【0033】
処理液供給部31は、供給配管313と、排出配管314と、を備える。供給配管313は、電極内流路P11とめっき液槽311とを接続し、排出配管314は、電極外流路P12とめっき液槽311とを接続する。送液ポンプ312は、供給配管313に介装され、めっき液槽311に蓄えられているめっき処理液は、送液ポンプ312により供給配管313を介してめっき処理装置本体Mに供給される。そして、めっき処理液は、装置本体内部の処理液流路、具体的には、電極内流路P11、環状突出部411と電極部本体211との隙間g、電極外流路P12を順に通過した後、めっき処理装置本体Mから排出配管314を介してめっき液槽311に排出される。
【0034】
本実施形態において、供給配管313は、一端において電極支持部212に接続され、この一端から鉛直下向きに延びる直進部313aと、直進部313aに接続され、直進部313aに対して90°に亘って湾曲するとともに、径方向外方へ延びるL字状の湾曲部313bと、を備える。送液ポンプ312により圧送されためっき処理液は、湾曲部313bに流入し、流れの向きを水平方向から鉛直方向へ90°に亘って変更する。その後、めっき処理液は、直進部313aを通過し、電極支持部212を介して電極部本体211の電極内流路P11に流入する。ここに、直進部313aは、電極内流路P11に対して上下に連続する直線的な流路を形成する。
【0035】
載置部本体111および台座部112には、電極外流路P12に対してシリンダボアCbの軸方向下方に続くボア外流路P2が形成されている。ボア外流路P2の内径は、シリンダボアCbの内径よりも大きく、シリンダボアCbからボア外流路P2にかけて開口断面積が拡大されている。ただし、シリンダボアCbの開口断面積とボア外流路P2の開口断面積とは、互いに同じであってもよいし、ボア外流路P2の開口断面積を全体または一部でシリンダボアCbよりも縮小し、めっき処理液の流れをボア外流路P2への流入時に絞るようにしてもよい。
【0036】
載置部本体111には、さらに、シリンダボアCbの中心軸Acに対する一側においてボア外流路P2に開口する流出口111aが形成され、電極外流路P12を通過しためっき処理液は、ボア外流路P2からこの流出口111aを介して径方向外方へ導出される。
【0037】
排出配管314は、載置部本体111の流出口111aに接続されている。
【0038】
このような構成のもと、シリンダブロックCと電極部21とに電源装置101が接続され(図1)、めっき処理の際には、シリンダブロックCを陰極とし、電極部21を陽極とする電位差が形成される。めっき条件は、例えば、電流密度が10~100A/dmであり、めっき処理液の流速が100~200cm/sである。
【0039】
(作用および効果の説明)
処理液供給部31からめっき処理装置本体Mに供給されためっき処理液は、電極部本体211および電極支持部212に形成された電極内流路P11を通過した後、シール部材41の環状突出部411と電極部本体211との隙間gを介して電極部本体211とボア内周面Cfbとの間の電極外流路P12に流入する。
【0040】
ここで、環状突出部411がボア内周面CfbよりもシリンダボアCbの径方向内方に突出し、電極内流路P11を通過しためっき処理液は、環状突出部411と電極部本体211との隙間gを介して電極外流路P12に流入するため、シリンダブロックBのヘッド合わせ面Cf1側のボア開口縁(つまり、第1ボア開口縁)は、電極外流路P12に流入するめっき処理液の流れ、つまり、図2に示す例において、シリンダブロックCbのヘッド合わせ面Cf1と上蓋部113の下面とに包囲された空間から電極外流路P12へ向かう下向きの流れに対し、環状突出部411の後方ないし背後に位置することとなる。
【0041】
これにより、第1ボア開口縁およびその近傍において電極外流路P12を流れるめっき処理液とボア内周面Cfbとの接触を適度に制限し、めっき被膜の形成に寄与する金属イオンのボア内周面Cfbへの供給を適度に抑制して、めっき被膜の過度な成長を回避し、花咲きの発生を抑制することが可能となる。
【0042】
このように、本実施形態によれば、第1ボア開口縁およびその近傍におけるめっき被膜の過剰生成を回避し、ボア内周面Cfb全体におけるめっき被膜の均一形成を促すことが可能となる。
【0043】
さらに、シリンダブロックCbと電極部21(電極部本体211)との間における電流密度を、花咲きの発生を抑制可能な範囲で高く設定することが可能となる。これにより、めっき処理時間を短縮したり、一定のめっき処理時間のもとでより厚いめっき被膜を形成したりすることができる。
【0044】
シリンダブロックCのヘッド合わせ面Cf1側の開口縁、つまり、第1ボア開口縁よりもシリンダボアCbの内方に延出するリブ部412を形成したことで、花咲きの発生を抑制しながら、ボア内周面Cfbと電極部本体211との間により広い隙間を確保することが可能となる。これにより、シリンダボアCbに電極部21を挿入する際に、シール部材41が電極部21に接触することにより、電極部21、特に電極部本体211に破損が生じる事態を抑制することができる。
【0045】
さらに、環状に形成されたリブ部412によりシール部材41を構造的に補強して、樹脂製であるシール部材41の変形を抑制し、シール部材41本来の機能、つまり、シリンダブロックCと載置部11(本実施形態では、上蓋部113)との間の液密性を確保し、シリンダブロックCのヘッド合わせ面Cf1または上蓋部113の下面を伝って生じるめっき処理液の漏れを抑制することが可能となる。
【0046】
環状突出部411とボア内周面Cfbとの内径差を2mm以上とすることで、花咲きの発生を良好に抑制することが可能となる。
【0047】
ここで、環状突起部411とボア内周面Cfbとの内径差が過度に大きく、環状突出部411がボア内周面CfbからシリンダボアCbの径方向内方に過剰に突出する場合は、シリンダボアCbに電極部21を挿入する際の邪魔になるだけでなく、第1ボア開口縁およびその近傍におけるめっき被膜の成長が不充分となり、めっき被膜が機能確保上必要となる厚さに対して不足する事態が生じる。
【0048】
これに対し、内径差を4mm以下とすることで、めっき被膜の成長を適度に促し、必要な厚さのめっき被膜を形成することが可能となる。
【0049】
第1ボア開口縁に形成される面取りCcの高さh1を、シリンダボアCbの軸方向Daに定められるリブ部412の高さ、つまり、リブ部412の突出高さh2よりも大きくすること、換言すれば、リブ部412の突出高さh2を面取りCcの高さh1よりも小さくすることで、面取りCcの周辺にめっき被膜を適度な厚さで形成することが可能となる。
【0050】
シール部材41は、リブ部412を有するものに限らず、リブ部412を有していないものであってもよい。図5は、本実施形態の変形例に係るシール部材41(環状突出部411)の構成をシリンダブロックCとの関係のもとに示す(a)平面図および(b)断面図である。図3と同様に、図5(a)は、シール部材41を上方から見た平面図であり、図5(b)は、図5(a)に直線a5-a5により示す断面図である。
【0051】
変形例に係るシール部材41は、図3に示す例に対し、リブ部412を有していない点のみにおいて相違する。シール部材41の開口部をシリンダボアCbよりも小径として、ボア内周面CfbよりもシリンダボアCbの径方向内方に突出する環状突起部411をシール部材41に形成し、環状突起部411と電極部本体211とをいずれもシリンダボアCbと同軸に配置することは、図3に示す例と同様である。さらに、電極部本体211がシリンダボアCbを上下に貫通し、その先端部211aがシール部材41の上端面よりも下方で終結し、環状突出部411により包囲されていることも同様である。
【0052】
図7は、本実施形態に係る環状突起部412の効果を、異なる複数のシリンダボアCbとの内径差Δd12(=d1-d2)およびリブ部412の突出高さh2について示す説明図である。内径差Δd12は、0mmから8mmまでの間で2mmずつ変更し、リブ部412の突出高さh2は、0mmから1.5mmまでの間で0.5mmずつ変更した。
【0053】
ここで、図6は、比較例として、環状突出部に相当する構成、つまり、ボア内周面CfbからシリンダボアCbの径方向内方に突出する部分を有さず(よって、リブ部に相当する構成も有さず)、開口部がシリンダボアCbと同径に形成されたシール部材41’の構成を、シリンダブロックCとの関係のもとに示す。図6(a)は、シール部材41’を上方からみた平面図であり、図6(b)は、図6(a)に直線a6-a6により示す断面図である。比較例では、シール部材41’の開口部とシリンダボアCbとが、円筒側面形状をなす一続きの内周面を形成する。
【0054】
図8は、シリンダブロックCのうち、花咲きが生じたボア開口縁およびその近傍を拡大視により示す断面図である。
【0055】
図8中、符号501は、シリンダブロックCの基材部を示し、符号502は、シリンダブロックCのボア内周面Cfbに形成されためっき被膜を示す。基材部は、アルミニウム合金の鋳物材またはダイキャスト材により形成されている。符号503は、めっき被膜の過剰生成により形成された花咲きを示す。寸法t1は、ボア内周面Cfbのうち、面取りCcを除く周面部におけるめっき被膜の最小厚さを示し、ボア内周面Cfbから、めっき被膜のうち、最も深い谷の底部までの寸法として規定する。めっき被膜の最小厚さt1は、完成後のシリンダブロックCにおいて確保可能なめっき被膜の最大厚さに相当する。寸法tlimは、めっき被膜の機能確保上必要な最小めっき膜厚(以下「下限膜厚」という)を示す。寸法t2は、めっき被膜の厚さ(以下「めっき膜厚」という)を示す。花咲きを含むめっき被膜の厚さt2は、ボア内周面Cfbから、花咲きを形成する不良めっき被膜のうち、径方向Drにおいて最も内側に位置する部分、つまり、最も高い山の頂部までの寸法として規定する。
【0056】
ここで、図7中、×印は、めっき膜厚t2が後工程において工具と干渉する可能性が高くなる寸法、例えば、250μmよりも大きくなったか、めっき被膜の最小厚さt1が下限膜厚tlimよりも小さくなったことを示す。本実施形態では、めっき膜厚t2が250μmを超える結果となった部分について、花咲きが生じたものと判定する。○印は、めっき膜厚t2が250μmよりも小さくかつ下限膜厚tlim以上となったことを示す。さらに、△印は、めっき膜厚t2が下限膜厚tlimよりも小さくなったことを示す。
【0057】
図8を参照しながら図7をみると、比較例(内径差Δd12=0、リブ部の突出高さh2=0)では、めっき膜厚t2が250μmよりも大きく、花咲きが生じる結果であった。これに対し、内径差Δd12を2mm以上とした場合に、全体的な傾向として、花咲きの発生が抑制される結果が得られた。
【0058】
ただし、内径差Δd12が2mmのもとでは、リブ部412の突出高さh2が0mmである場合、つまり、リブ部412がない場合に、比較例と同様に、めっき膜厚t2が250μmよりも大きくなる結果であった。これは、環状突出部411の径方向内方の突出が不足し、ボア開口縁およびその近傍において電極外流路P12を流れるめっき処理液とボア内周面Cfbとの一定程度の接触が保たれ、金属イオンのボア内周面Cfbへの供給を充分に抑制することができなかったためであると推察される。
【0059】
これに対し、環状突出部411にリブ部412を形成することにより、花咲きの発生が抑えられ、めっき膜厚t2が250μmよりも小さくなる結果が得られた。ただし、内径差Δd12の増大に対してめっき膜厚が減少する傾向がみられ、例えば、リブ部412の突出高さh2が0.5mmである場合に、2mmおよび4mmの内径差Δd12に対してめっき膜厚t2が250μmよりも小さく、花咲きの発生が抑えられる一方、6mm以上の内径差Δd12に対してめっき膜厚t2が下限膜厚tlimよりも小さくなる結果であった。
【0060】
このような結果から、リブ部412を形成する効果として、より小さな内径差Δd12にあっても花咲きの発生を良好に抑制し、めっき膜厚t2を250μmよりも小さく抑えられることが分かる。
【0061】
以上の説明では、ニッケルめっきによるめっき処理を施すこととしたが、めっき処理の種類は、これに限定されるものではなく、銅めっきまたはクロムめっきによるめっき処理に適用することも可能である。
【0062】
さらに、以上の説明では、シリンダブロックのボア内周面にめっき処理を施すこととしたが、めっき処理の対象は、これに限定されるものではなく、円筒形状をなす適宜の被めっき物の内周面を対象とし、めっき被膜を形成することが可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…めっき処理装置、11…載置部、111…載置部本体、112…台座部、113…上蓋部、21…電極部、211…電極部本体、212…電極支持部、31…処理液供給部、311…めっき液槽、312…送液ポンプ、313…供給配管、314…排出配管、41…シール部材、411…環状突出部、412…リブ部、501…シリンダブロックの基材部、502…めっき被膜、503a、503b…花咲き、C…シリンダブロック、M…めっき処理装置本体、Cb…シリンダボア、Cf1…ヘッド合わせ面、Cf2…シリンダスカート端面、Cf3…ケース合わせ面、Cfb…ボア内周面、Cc…面取り、P11…電極内流路、P12…電極外流路、P2…ボア外流路、g…環状突出部と電極部本体との隙間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8