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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157268
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】シリンダブロックのめっき処理装置
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/00 20060101AFI20241030BHJP
   C25D 17/12 20060101ALI20241030BHJP
   C25D 21/10 20060101ALI20241030BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20241030BHJP
   C25D 7/04 20060101ALI20241030BHJP
   C25D 5/08 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C25D17/00 C
C25D17/12 J
C25D21/10 301
C25D7/00 C
C25D7/04
C25D5/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071526
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 春樹
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024BB04
4K024BB28
4K024BC04
4K024BC06
4K024CB02
4K024CB08
4K024CB13
4K024CB15
4K024CB26
(57)【要約】
【課題】より均一なめっき被膜を形成可能なシリンダブロックのめっき処理装置を提供する。
【解決手段】
めっき処理装置1は、載置部11および電極部21を備えるめっき処理装置本体Mと、めっき処理液を供給する処理液供給部31と、を備える。電極部21は、電極内流路P11を有するとともに、ボア内周面Cfbとの間に、ヘッド合わせ面Cf1側のボア開口縁からシリンダスカート端面Cf2側のボア開口縁に至る電極外流路P12を形成する。めっき処理装置本体Mは、ヘッド合わせ面Cf1に設置され、ボア内周面Cfbよりも径方向内方に突出する環状突出部411を有するシール部材41を備える。処理液供給部31は、電極内流路P11に対してその中心軸からずらして設置された送液ポンプ312を備え、環状突出部411と電極部21との間に定められる隙間gは、電極内流路P11に向かうめっき処理液の送液方向とは逆側の一側において他側よりも狭い。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドに対する合わせ面であるヘッド合わせ面を一側端に有するとともに、クランクケースに対する合わせ面であるケース合わせ面側のシリンダスカート端面を他側端に有するシリンダブロックのボア内周面にめっき処理を施すシリンダブロックのめっき処理装置であって、
前記シリンダブロックが載置される載置部と、前記載置部に載置された前記シリンダブロックのシリンダボアに挿入配置される電極部と、を備えるめっき処理装置本体と、
前記めっき処理装置本体にめっき処理液を供給する処理液供給部と、を備え、
前記電極部は、
前記シリンダボアの軸方向に貫通する電極内流路を有するとともに、
前記ボア内周面との間に、前記電極内流路に連通し、前記ヘッド合わせ面側のボア開口縁から前記シリンダスカート端面側のボア開口縁に至る前記めっき処理液の電極外流路を形成し、
前記めっき処理装置本体は、前記ヘッド合わせ面に設置され、前記シリンダボアの全周に亘って延在しかつ前記ボア内周面よりも前記シリンダボアの径方向内方に突出する環状突出部を有するシール部材をさらに備え、
前記処理液供給部は、前記電極内流路に対してその中心軸からずらして設置された送液ポンプを備え、前記送液ポンプにより、前記電極内流路に向けて径方向外方から内方に前記めっき処理液を送給し、
前記環状突出部と前記電極部との間に定められる隙間は、前記電極内流路に向かう前記めっき処理液の前記径方向に関する送液方向とは逆側の一側において他側よりも狭い、シリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項2】
シリンダヘッドに対する合わせ面であるヘッド合わせ面を一側端に有するとともに、クランクケースに対する合わせ面であるケース合わせ面側のシリンダスカート端面を他側端に有するシリンダブロックのボア内周面にめっき処理を施すシリンダブロックのめっき処理装置であって、
前記シリンダブロックが載置される載置部と、前記載置部に載置された前記シリンダブロックのシリンダボアに挿入配置される電極部と、を備えるめっき処理装置本体と、
前記めっき処理装置本体にめっき処理液を供給する処理液供給部と、を備え、
前記電極部は、
前記シリンダボアの軸方向に貫通する電極内流路を有するとともに、
前記ボア内周面との間に、前記電極内流路に連通し、前記ヘッド合わせ面側のボア開口縁から前記シリンダスカート端面のボア開口縁に至る前記めっき処理液の電極外流路を形成し、
前記めっき処理装置本体は、
前記ヘッド合わせ面に設置され、前記シリンダボアの全周に亘って延在しかつ前記ボア内周面よりも前記シリンダボアの径方向内方に突出する環状突出部を有するシール部材をさらに備えるとともに、
前記電極外流路から前記シリンダボアの軸方向に続くボア外流路と、前記シリンダボアの中心軸に対する一側において前記ボア外流路に開口し、前記ボア外流路に流れる前記めっき処理液を、前記ボア外流路から径方向外方へ導出する流出口と、を形成し、
前記環状突出部と前記電極部との間に定められる隙間は、前記シリンダボアの中心軸に対する前記一側において他側よりも狭い、シリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項3】
前記電極部は、前記シリンダボアと同軸に配置され、
前記シール部材は、前記環状突出部が前記シリンダボアに対して偏心して配置される、請求項1または2に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項4】
前記環状突出部は、前記シリンダボアと同軸に配置され、
前記電極部は、前記シリンダボアに対して偏心して配置される、請求項1または2に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項5】
前記シリンダブロックは、前記シリンダボアの中心軸が起立しかつ前記ヘッド合わせ面が上向きとなるように前記載置部に載置され、
前記電極部は、前記シリンダボアに挿入配置されて前記ボア内周面との間に上下方向に延びる前記電極外流路を形成し、
前記処理液供給部は、
前記載置部に対して水平方向の一側に配置された送液ポンプと、
前記電極内流路を前記送液ポンプの吐出口に繋ぐ供給配管と、
前記電極外流路を前記送液ポンプの吸入口に繋ぐ排出配管と、を備え、
前記供給配管は、
前記電極内流路に対して上下に連続する直進部と、
前記直進部に接続するとともに、径方向外方に湾曲して、前記径方向外方から内方へ向かう前記めっき処理液の供給を受ける湾曲部と、を有する、請求項1または2に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックのめっき処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダブロックのめっき処理装置として、シリンダブロックの載置台と、「陽極棒」と呼ばれる電極部と、を備え、シリンダブロックのシリンダボアに電極部を挿入配置し、ボア内周面と電極部との間に形成された環状の隙間(以下「処理液流路」という場合がある)にめっき処理液を流しながらシリンダブロックと電極部との間に電位差を形成することで、ボア内周面にめっき被膜を形成するものが存在する。
【0003】
このめっき処理装置は、シリンダブロック全体をめっき処理液に浸漬させるものと比較して、めっき処理に要する時間を短縮するとともに、手作業による負担を軽減することが可能である。さらに、めっき処理液の流路が外部に対して閉じた状況にあり、シリンダブロック全体をめっき処理液に浸漬させる必要もないことから、めっき処理液の持ち出しがなく、作業環境の改善およびめっき処理液の節減に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-122204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
処理液流路におけるめっき処理液の流れは、流路横断面全体に亘って均一であるのが好ましく、めっき処理液の流れに偏りがあると、流れが密である部分と疎である部分との間で金属イオンに濃淡が生じ、めっき被膜の形成に違いが生じる。めっき処理液を供給する送液ポンプが載置台に対して水平方向の一側に配置され、めっき処理液が載置台に対してこの一側の方向から供給され、処理液流路を通過した後、載置台から同じ一側の方向へ流出する場合等、めっき処理液の流出入に関わる経路に非対称性が存在する場合は、めっき処理液の流れに経路の非対称性に起因する偏りが生じる傾向にある。例えば、めっき処理液に流路横断面方向の慣性力が働く場合は、この慣性力の影響による偏りが生じる。シリンダボアの開口縁には電流が集中しやすく、ボア開口縁およびその近傍でめっき被膜が局部的に肥大化する、いわゆる「花咲き」と呼ばれるめっき不良が発生しやすい環境にあるところ、めっき処理液の流れに生じる偏りは、花咲きの局所的な発生ないし花咲きの偏在を助長する。
【0006】
そこで、本発明は、より均一なめっき被膜を形成可能なシリンダブロックのめっき処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため、本発明の一形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置は、シリンダヘッドに対する合わせ面であるヘッド合わせ面を一側端に有するとともに、クランクケースに対する合わせ面であるケース合わせ面側のシリンダスカート端面を他側端に有するシリンダブロックのボア内周面にめっき処理を施すシリンダブロックのめっき処理装置であって、前記シリンダブロックが載置される載置部と、前記載置部に載置された前記シリンダブロックのシリンダボアに挿入配置される電極部と、を備えるめっき処理装置本体と、前記めっき処理装置本体にめっき処理液を供給する処理液供給部と、を備える。前記電極部は、前記シリンダボアの軸方向に貫通する電極内流路を有するとともに、前記ボア内周面との間に、前記電極内流路に連通し、前記ヘッド合わせ面側のボア開口縁から前記シリンダスカート端面側のボア開口縁に至る前記めっき処理液の電極外流路を形成し、前記めっき処理装置本体は、前記ヘッド合わせ面に設置され、前記シリンダボアの全周に亘って延在しかつ前記ボア内周面よりも前記シリンダボアの径方向内方に突出する環状突出部を有するシール部材をさらに備える。そして、前記処理液供給部は、前記電極内流路に対してその中心軸からずらして設置された送液ポンプを備え、前記送液ポンプにより、前記電極内流路に向けて径方向外方から内方に前記めっき処理液を送給する。ここで、前記環状突出部と前記電極部との間に定められる隙間は、前記電極内流路に向かう前記めっき処理液の前記径方向に関する送液方向とは逆側の一側において他側よりも狭い。
【0008】
本発明の他の形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置は、シリンダヘッドに対する合わせ面であるヘッド合わせ面を一側端に有するとともに、クランクケースに対する合わせ面であるケース合わせ面側のシリンダスカート端面を他側端に有するシリンダブロックのボア内周面にめっき処理を施すシリンダブロックのめっき処理装置であって、前記シリンダブロックが載置される載置部と、前記載置部に載置された前記シリンダブロックのシリンダボアに挿入配置される電極部と、を備えるめっき処理装置本体と、前記めっき処理装置本体にめっき処理液を供給する処理液供給部と、を備える。前記電極部は、前記シリンダボアの軸方向に貫通する電極内流路を有するとともに、前記ボア内周面との間に、前記電極内流路に連通し、前記ヘッド合わせ面側のボア開口縁から前記シリンダスカート端面側のボア開口縁に至る前記めっき処理液の電極外流路を形成し、前記めっき処理装置本体は、前記ヘッド合わせ面に設置され、前記シリンダボアの全周に亘って延在しかつ前記ボア内周面よりも前記シリンダボアの径方向内方に突出する環状突出部を有するシール部材をさらに備えるとともに、前記電極外流路から前記シリンダボアの軸方向に続くボア外流路と、前記シリンダボアの中心軸に対する一側において前記ボア外流路に開口し、前記ボア外流路に流れる前記めっき処理液を、前記ボア外流路から径方向外方へ導出する流出口と、を形成する。ここで、前記環状突出部と前記電極部との間に定められる隙間は、前記シリンダボアの中心軸に対する前記一側において他側よりも狭い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シール部材の環状突出部と電極部との間の隙間を調整し、この隙間を介するめっき処理液の流れを周方向の一部において絞ることで、めっき処理液の流出入に関わる経路の非対称性がめっき処理液の流れに及ぼす影響を緩和し、めっき処理液の流れに生じる偏りを抑制することが可能となる。これにより、シリンダボアの開口縁およびその近傍における花咲きの局所的な発生ないし花咲きの偏在を抑制し、めっき被膜の均一形成を促すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係るめっき処理装置の全体的な構成を示す断面図である。
図2】同上実施形態に係るめっき処理装置の構成を模式的に示す概略図である。
図3】同上実施形態に係るシール部材(環状突出部)の構成を示す(a)平面図および(b)断面図である。
図4】同上実施形態の変形例に係るシール部材(環状突出部)の構成を示す(a)平面図および(b)断面図である。
図5】本発明の第2実施形態に係るめっき処理装置の構成を模式的に示す概略図である。
図6】同上実施形態に係るシール部材(環状突出部)の構成を示す(a)平面図および(b)断面図である。
図7】同上実施形態の変形例に係るシール部材(環状突出部)の構成を示す(a)平面図および(b)断面図である。
図8】比較例に係るシール部材(環状突出部)の構成を示す(a)平面図および(b)断面図である。
図9】比較例に係るめっき処理装置本体におけるめっき処理液の流れを示す数値計算結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
(めっき処理装置の全体構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係るめっき処理装置1の全体的な構成を示す断面図である。
【0013】
図2は、本実施形態に係るめっき処理装置1の構成を模式的に示す概略図である。
【0014】
本実施形態において、めっき処理装置1は、車両用の内燃エンジンを構成するシリンダブロックCのシリンダボアCbの内周面(以下「ボア内周面」という)Cfbにめっき処理を施すのに用いられる。具体的には、内燃エンジンのボア内周面Cfbに、ニッケルめっきによる被膜を形成する。シリンダボアCbの内径は、例えば、95mm以上である。内燃エンジンは、レシプロ型であり、単気筒であっても、多気筒であってもよい。シリンダブロックCは、例えば、アルミニウム合金の鋳物材またはダイキャスト材である。以下の説明では、1つの気筒を構成するシリンダブロックCを対象として、そのボア内周面Cfbにめっき被膜を形成するが、複数の気筒を構成するシリンダブロックCのそれぞれを対象とすることも可能であり、その場合は、以下に示すのと同様に構成されるめっき処理装置1により、他のシリンダブロックCのボア内周面Cfbについてもめっき被膜を形成する。
【0015】
めっき処理装置1による処理対象であるシリンダブロックCは、シリンダヘッドおよびクランクケースに対して分割して形成され、互いに結合されることにより、内燃エンジンの本体部を構成する。シリンダブロックCは、シリンダヘッドに対する合わせ面であるヘッド合わせ面Cf1を一側端に有するとともに、シリンダスカート端面Cf2を他側端に有する。組立後のエンジン本体において、シリンダブロックCは、ヘッド合わせ面Cf1においてシリンダヘッドに接合し、ケース合わせ面Cf3においてクランクケースに接合する。そして、シリンダスカート端面Cf2を含むシリンダブロックCのスカート部分(「シリンダスカート」と呼ばれる)は、クランクケースの内部に挿入される。
【0016】
(めっき処理装置本体の構成)
図2に示すように、めっき処理装置1は、シリンダブロックCが載置される載置部11と、載置部11に載置されたシリンダブロックCに挿入配置される電極部21と、を備える。載置部11および電極部21は、このめっき処理装置1の本体部(つまり、めっき処理装置本体M)を構成する。めっき処理装置1は、めっき処理装置本体Mにめっき処理液を供給する処理液供給部31をさらに備える。
【0017】
載置部11は、載置部本体111と、台座部112と、上蓋部113と、を備える。載置部本体111は、シリンダブロックCの重量を支える支持部となるものである。シリンダブロックCは、シリンダボアCbの中心軸Acが起立し、ヘッド合わせ面Cf1を上向きに、シリンダスカート端面Cf2およびケース合わせ面Cf3を下向きにした状態で配置される。台座部112および上蓋部113は、いずれも樹脂製であり、シリンダブロックCを上下から挟み込むように配置される。ここに、台座部112が樹脂製であることにより、載置部本体111と台座部112との間、さらに、台座部112とシリンダブロックCとの間が液密に封止される。
【0018】
めっき処理装置本体Mは、シリンダブロックCと載置部11の上蓋部113との間に挟持されるシール部材41をさらに備える。シール部材41は、シリコンゴム等の樹脂材により薄い板状に形成され、シリンダブロックCのヘッド合わせ面Cf1に当接した状態で配置される。シール部材41が樹脂製であることにより、シリンダブロックCと上蓋部113との間が液密に封止される。
【0019】
シール部材41は、めっき処理装置本体Mに設置された状態、換言すれば、シリンダブロックCと上蓋部113との間に挟持された状態で、ボア内周面CfbよりもシリンダボアCbの径方向内方に突出する環状突出部411を有する。環状突出部411は、シール部材41をその厚さ方向に貫通する円形の開口部を形成し、その内径は、シリンダボアCbの内径よりも小さく設定されている。
【0020】
以下の説明では、特に言及しない限り、シリンダボアCbの中心軸Acに沿った方向、つまり、紙面に対する上下方向を「軸方向」Daとし、これに垂直な方向、つまり、紙面に対する左右方向を「径方向」Drとする。
【0021】
電極部21は、電極部本体211と、電極支持部212と、を備える。電極部本体211は、導電性を有し、めっき処理に際してその外周面がシリンダブロックCのボア内周面Cfbと対向して配置され、ボア内周面Cfbとの間に所定の電位差を形成する。電極支持部212は、電極部本体211に対して分離自在に構成され、載置部本体111に固定されている。電極支持部212は、めっき処理に際して電極部本体211が装着され、電極部本体211を載置部本体111に対して支持する。電極支持部212は、電極部本体211と同様に導電材により形成されている。
【0022】
電極部21は、電極部本体211がシリンダボアCbに挿入された状態で載置部11に設置される。載置部本体111および台座部112は、上蓋部113に対して下方に相対移動可能であり、載置部本体111を上蓋部113に対して下方に移動させ、載置部本体111と上蓋部113とを上下に離間させることで、載置部本体111に固定された電極支持部212に電極部本体211を装着することが可能である。この状態で、載置部本体111を上方へ移動させ、載置部本体111と上蓋部113とを、シリンダブロックCを挟み込むように互いに近付けることで、電極部本体211がシリンダボアCbに挿入配置され、電極部21の設置が完了する。
【0023】
ここに、電極部本体211は、その長さがシリンダボアCbの軸方向寸法よりも大きく設定され、電極部21の設置後の状態において、シリンダボアCbを上下に貫通し、シリンダボアCbへの挿入方向の先端部(図3に示す上端部211a)がシリンダブロックCのヘッド合わせ面Cf1、つまり、ヘッド合わせ面Cf1側のボア開口縁よりも上方に位置し、基端部がシリンダスカート端面Cf2側のボア開口縁よりも下方に位置する。
【0024】
電極部21は、設置後の状態において、電極部本体211とボア内周面Cfbとの間に環状の処理液流路(以下「電極外流路」という)P12を形成する。電極部本体211および電極支持部212には、それらの内部をシリンダボアCbの軸方向Daに貫通する処理液流路(以下「電極内流路」という)P11が形成され、電極外流路P12と電極内流路P11とは、互いに連続しかつ連通する。
【0025】
めっき処理に際し、めっき処理液は、電極内流路P11を下方から上方へ、換言すれば、シリンダブロックCのシリンダスカート端面Cf2からヘッド合わせ面Cf1へ向かう方向に通過する。そして、めっき処理液は、上蓋部113の下面による制御を受けて流れの向きを180°反転させ、シール部材41と電極部21との間でシリンダボアCbの径方向Drに定められる隙間、具体的には、環状突出部411と電極部本体211との隙間gを介して電極外流路P12に流入する。めっき処理液は、電極外流路P12を上方から下方へ、換言すれば、シリンダブロックCのヘッド合わせ面Cf1からシリンダスカート端面Cf2へ向かう方向に通過する。このように、本実施形態では、電極部本体211の管壁部を介してその内外に処理液流路P11、P12が形成され、電極部21の本体内に形成される流路(電極内流路)P11と本体外に形成される流路(電極外流路)P12とは、めっき処理液の流れる向きが互いに逆である。
【0026】
(めっき処理液の給排に関わる構成)
処理液供給部31は、めっき液槽311と、送液ポンプ312と、を備える。めっき液槽311および送液ポンプ312は、載置部11に対して水平方向の一側に配置され、電極部21の電極内流路P11に対してその中心軸から水平方向にずらして配置される。後に説明するように、本実施形態において、電極内流路P11の中心軸は、シリンダボアCbの中心軸Acに一致する。以下の説明では、図2および図5において、紙面に対して右側を一側とし、左側を他側とする。処理液供給部31は、めっき処理装置本体Mに対し、電極内流路P11に向けて径方向外方から内方にめっき処理液を送給する。ここに、径方向外方から内方へ向かう方向は、紙面に対して右側から左側、つまり、一側から他側へ向かう方向であり、この方向を「めっき処理液の送液方向」とする。
【0027】
処理液供給部31は、供給配管313と、排出配管314と、を備える。供給配管313は、電極内流路P11とめっき液槽311とを接続し、排出配管314は、電極外流路P12とめっき液槽311とを接続する。送液ポンプ312は、供給配管313に介装され、めっき液槽311に蓄えられているめっき処理液は、送液ポンプ312によりめっき処理装置本体Mに供給される。そして、めっき処理液は、装置本体内部の処理液流路、つまり、電極内流路P11、環状突出部411と電極部本体211との隙間g、電極外流路P12を順に通過した後、めっき処理装置本体Mから排出配管314を介してめっき液槽311に排出される。ここに、めっき処理液の排液方向は、紙面に対して左側から右側、つまり、他側から一側へ向かう方向であり、本実施形態では、めっき処理液の送液方向と排液方向とは、互いに逆向きである。
【0028】
本実施形態において、供給配管313は、一端において電極支持部212に接続され、この一端から鉛直下向きに延びる直進部313aと、直進部313aに接続され、直進部313aに対して90°に亘って湾曲するとともに、径方向外方へ延びるL字状の湾曲部313bと、を備える。送液ポンプ312により圧送されためっき処理液は、湾曲部313bに流入し、流れの向きを水平方向から鉛直方向へ90°に亘って変更する。その後、めっき処理液は、直進部313aを通過し、電極支持部212を介して電極部本体211の電極内流路P11に流入する。ここに、直進部313aは、電極内流路P11に対して上下に連続する直線的な流路を形成する。
【0029】
図2に示すように、載置部本体111および台座部112には、電極外流路P12に対してシリンダボアCbの軸方向下方に続くボア外流路P2が形成されている。ボア外流路P2の内径は、シリンダボアCbの内径よりも大きく、シリンダボアCbからボア外流路P2にかけて開口断面積が拡大されている。ただし、シリンダボアCbの開口断面積とボア外流路P2の開口断面積とは、互いに同じであってもよいし、ボア外流路P2の開口断面積を全体または一部でシリンダボアCbよりも縮小し、めっき処理液の流れをボア外流路P2への流入時に絞るようにしてもよい。
【0030】
載置部本体111には、さらに、シリンダボアCbの中心軸Acに対する一側においてボア外流路P2に開口する流出口111aが形成され、電極外流路P12を通過しためっき処理液は、ボア外流路P2からこの流出口111aを介して径方向外方へ導出される。
【0031】
排出配管314は、載置部本体111の流出口111aに接続されている。
【0032】
このような構成のもと、シリンダブロックCと電極部21とに電源装置101が接続され(図1)、めっき処理の際には、シリンダブロックCを陰極とし、電極部21を陽極とする電位差が形成される。めっき条件は、例えば、電流密度が10~100A/dmであり、めっき処理液の流速が100~200cm/sである。
【0033】
図3は、本実施形態に係るシール部材41(環状突出部411)の構成を、シリンダボアCbとの関係のもとに示す概略図であり、図3(a)は、シール部材41を上方、つまり、ヘッド合わせ面Cf1側から見た平面図であり、図3(b)は、図3(a)に直線a3-a3により示す断面図である。図3は、電極部21(電極部本体211)の外形を二点鎖線により示す。
【0034】
本実施形態では、シール部材41の開口部をシリンダボアCbよりも小径として、シール部材41に、ボア内周面CfbよりもシリンダボアCbの径方向内方に突出する環状突起部411を形成する。そして、環状突起部411と電極部本体211とを、互いに偏心した位置関係で配置する。具体的には、電極部本体211をシリンダボアCbと同軸に配置する一方、シール部材41を、環状突出部411がシリンダボアCbに対して他側の方向に偏心するように配置する。図3中、符号Acは、シリンダボアCbの中心軸を、符号Asは、環状突出部411の中心軸を示す。これにより、環状突出部411と電極部本体211との隙間gを、シリンダボアCbの中心軸Acに対する一側(隙間g1)において他側(隙間g2)よりも狭く形成する。
【0035】
(作用および効果の説明)
処理液流路、特に電極外流路P12におけるめっき処理液の流れは、流路横断面全体に亘って均一であるのが好ましく、めっき処理液の流れに偏りがあると、流れが密である部分と疎である部分との間で金属イオンに濃淡が生じ、めっき被膜の形成に違いが生じる。
【0036】
図8は、比較例に係るシール部材41’の構成を、シリンダボアCbとの関係のもとに示す概略図であり、図8(a)は、平面図であり、図8(b)は、図8(a)に直線a8-a8により示す断面図である。
【0037】
図9は、比較例に係るめっき処理装置本体におけるめっき処理液の流れを示す数値計算結果である。
【0038】
図8に示すように、比較例では、シール部材41’に環状突出部またはそれに相当する構成、つまり、ボア内周面CfbよりもシリンダボアCbの径方向内方に突出する部分が形成されておらず、シール部材41’の開口部は、シリンダボアCbと同径であり、電極部21’(電極部本体211’)とシール部材41’の開口部とは、いずれもシリンダボアCbに対して同軸に配置されている。
【0039】
このような構成のもと、比較例では、送液ポンプが載置部11’に対して水平方向の一側に配置され、めっき処理液が載置部11’に対してこの一側の方向から供給され、電極内流路P11’および電極外流路P12’を通過した後、載置部11’から載置部本体111’の流出口111a’を介して同じ一側の方向へ流出する。これにより、めっき処理液に流路横断面方向の慣性力が働き、その影響により、図9に示すように、処理液流路P11’、P12’、P2’におけるめっき処理液の流れに偏りが生じる。
【0040】
具体的には、送液ポンプから電極内流路P11’へ向かうめっき処理液の、径方向Drにおける送液方向、図9に示す例では、電極内流路P11’の中心軸に対する径方向外方から内方に向かう矢印A1の方向を「送液方向」として、電極支持部212’の内部では、送液方向とは逆側の一側において他側よりも速い流れが形成される。図9は、電極支持部212’の内部におけるこの一側の領域を、符号R1により示す。この流速分布の傾向は、電極部本体211’の電極内流路P11’においても維持され、電極内流路P11’から流出するめっき処理液の流れに同じ一側への偏りを生じさせる(領域R2)。これにより、シール部材41’と電極部本体211’との隙間g’(図8)、さらに、電極外流路P12’における流れに偏りが生じ、図9に矢印A31、A32により示すように、電極外流路P12’における流速が一側(矢印A31)において他側(矢印A32)よりも高くなる。
【0041】
ボア内周面Cfbと電極部本体211’の外周面とが互いに近接した位置関係にあると、シリンダボアCbの開口縁にめっき処理時の電流が集中しやすく、ボア開口縁およびその近傍でめっき被膜が局部的に肥大化する、いわゆる「花咲き」と呼ばれるめっき不良が発生しやすい環境にある。めっき処理液の流れに生じる偏りは、花咲きの局所的な発生ないし花咲きの偏在を助長する。
【0042】
これに対し、図3に示すように、シール部材41に環状突出部411を形成するとともに、環状突出部411と電極部本体211との隙間gを調整し、シリンダボアCbの中心軸Acに対する一側(隙間g1)において他側(隙間g2)よりも狭くしたこと、換言すれば、シリンダボアCbの中心軸Acに対する一側において他側よりも流路断面積を縮小し、めっき処理液の流れを絞るようにしたことで、めっき処理液の流出入に関わる経路の非対称性がめっき処理液の流れに及ぼす影響、本実施形態では、めっき処理液に対して流路横断面方向に働く慣性力が及ぼす影響を緩和し、めっき処理液の流れに生じる偏りを抑制することが可能となる。これにより、シリンダボアCbの開口縁およびその近傍における花咲きの局所的な発生ないし花咲きの偏在を抑制し、めっき被膜の均一形成を促すことが可能となる。
【0043】
さらに、本実施形態では、電極部本体211をシリンダボアCbと同軸に配置する一方、シール部材41を環状突出部411がシリンダボアCbに対して他側の方向に偏心するように配置したことで、めっき処理装置本体1の主要部、つまり、載置部11および電極部21を既存構成のままに維持し、シール部材41の変更のみにより実施することが可能となる。
【0044】
そして、電極部21についてはシリンダボアCbと同軸に配置したことで、電極外流路P12の径方向寸法、つまり、ボア内周面Cfbと電極部本体211の外周面との間隔をシリンダボアCbの周方向に亘って均一にし、環状突出部411と電極部本体211との隙間g(g1、g2)を通過しためっき処理液の流れにおいて、電極外流路P12の流路横断面の非対称性により偏りが助長される事態を回避することが可能となる。
【0045】
さらに、送液ポンプ312が載置部11に対して一側に配置され、めっき処理液が載置部11に対してこの一側の方向から供給され、電極外流路P12を通過した後、流出口111aを介して同じ一側の方向に排出されるものにおいて、めっき処理液の流れに生じる偏りを良好に抑制し、めっき被膜の均一形成を促すことが可能となる。
【0046】
シール部材41は、単に薄板形状に形成されるものに限らず、環状突出部411の内周端縁部にリブ部412を有するものであってもよい。図4は、本実施形態の変形例に係るシール部材41として、環状突出部411にリブ部412が形成されたシール部材41の構成を示し、図4(a)は、シール部材41を上方から見た平面図であり、図4(b)は、図4(a)に直線a4-a4により示す断面図である。
【0047】
シール部材41の開口部をシリンダボアCbよりも小径として、シール部材41に、ボア内周面CfbよりもシリンダボアCbの径方向内方に突出する環状突起部411を形成し、環状突起部411と電極部本体211とを互いに偏心させ、電極部本体211をシリンダボアCbと同軸に配置する一方、シール部材41を、環状突出部411がシリンダボアCbに対して他側の方向に偏心するように配置することは、図3に示す例と同様である。
【0048】
変形例では、以上に加え、環状突出部411に、シリンダボアCbの内方に向けて軸方向Daに延出するリブ部412を形成する。リブ部412の径方向寸法、つまり、リブ部412の幅は、その全周に亘って一定であってもよいが、周方向に異なっていてもよい。具体的には、シリンダボアCbの中心軸Acに対する一側において、リブ部412の幅を他側よりも大きく設定する。図4(b)は、リブ部412のうち、一側の部分を符号412aにより、他側の部分を符号412bにより示す。
【0049】
さらに、リブ部412の軸方向寸法、換言すれば、シリンダボアCbの軸方向Daに定められるリブ部412の高さは、シリンダボアCbの開口縁に形成される面取りCcについて同じ軸方向Daに定められる高さよりも小さく設定されている。面取りCcは、C面取りであっても、R面取りであってもよい。
【0050】
このように、環状突出部411にリブ部412を形成することで、シリンダボアCbの開口縁およびその近傍における花咲きの発生を抑制するうえで必要となる環状突出部411の突出量(ボア内周面Cfbから径方向内方に突出する幅)を短縮することが可能となる。換言すれば、リブ部412の形成により、より小さい突出量であってもボア開口部近傍における花咲きの発生を抑制することが可能となる。
【0051】
(他の実施形態の説明)
以上の説明では、電極部本体211をシリンダボアCbと同軸に配置する一方、環状突出部411をシリンダボアCbに対して他側の方向に偏心させて配置することで、環状突起部411と電極部本体211とを偏心させた。環状突出部411と電極部本体211とを偏心させる形態は、これに限定されるものではない。
【0052】
図5は、本発明の第2実施形態に係るめっき処理装置1の構成を模式的に示す概略図である。
【0053】
図6は、本実施形態に係るシール部材41(環状突出部411)の構成を、シリンダボアCbとの関係のもとに示す概略図であり、図6(a)は、シール部材41を上方から見た平面図であり、図6(b)は、図6(a)に直線a6-a6により示す断面図である。図3と同様に、電極部21(電極部本体211)の外形を二点鎖線により示す。
【0054】
シール部材41の開口部をシリンダボアCbよりも小径として、ボア内周面CfbよりもシリンダボアCbの径方向内方に突出する環状突起部411をシール部材41に形成することは、先の実施形態におけると同様である。本実施形態では、環状突出部411をシリンダボアCbと同軸に配置する一方、電極部本体211をシリンダボアCbに対して一側の方向に偏心させて配置することで、環状突出部411と電極部本体211との隙間gを、シリンダボアCbの中心軸Acに対する一側(隙間g1)において他側(隙間g2)よりも狭く形成する。図6中、符号Aeは、電極部本体211の中心軸を示す。
【0055】
このように、環状突出部411をシリンダボアCbと同軸に配置する一方、電極部本体211をシリンダボアCbに対して一側の方向に偏心させて配置したことで、電極部21を除き、めっき処理装置本体Mの構成に大きな変更を加えず、既存構成を維持することが可能となる。
【0056】
さらに、環状突出部411と電極部本体211との隙間gだけでなく、その下流に続く電極外流路P12についても一側で他側よりも狭く形成することが可能となり、慣性力の影響をより確実に減殺して、めっき処理液の流れに生じる偏りを抑制することが可能となる。
【0057】
シール部材41は、本実施形態においても単に薄板形状に形成するだけでなく、環状突出部411の内周端縁部にリブ部412を有するものであってもよい。図7は、本実施形態の変形例に係るシール部材41として、環状突出部411にリブ部412が形成されたシール部材41の構成を示し、図7(a)は、シール部材41を上方から見た平面図であり、図7(b)は、図7(a)に直線a7-a7により示す断面図である。
【0058】
リブ部412は、環状突出部411からシリンダボアCbの内方に向けて軸方向Daに延出する。リブ部412の径方向寸法、つまり、リブ部412の幅は、その全周に亘って一定である。環状突出部411の突出量(ボア内周面Cfbから径方向内方に突出する幅)に応じ、リブ部412の幅を周方向で異ならせることも可能である。
【0059】
さらに、図4に示す例と同様に、リブ部412の軸方向寸法、換言すれば、シリンダボアCbの軸方向Daに定められるリブ部412の高さは、シリンダボアCbの面取りCcについて同じ軸方向Daに定められる高さよりも小さく設定されている。
【0060】
以上の説明では、ニッケルめっきによるめっき処理を施すこととしたが、めっき処理の種類は、これに限定されるものではなく、銅めっきまたはクロムめっきによるめっき処理に適用することも可能である。
【0061】
さらに、以上の説明では、シリンダブロックのボア内周面にめっき処理を施すこととしたが、めっき処理の対象は、これに限定されるものではなく、円筒形状をなす適宜の被めっき物の内周面を対象とし、めっき被膜を形成することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…めっき処理装置、11…載置部、111…載置部本体、112…台座部、113…上蓋部、21…電極部、211…電極部本体、212…電極支持部、31…処理液供給部、311…めっき液槽、312…送液ポンプ、313…供給配管、314…排出配管、41…シール部材、411…環状突出部、412…リブ部、M…めっき処理装置本体、C…シリンダブロック、Cb…シリンダボア、Cf1…ヘッド合わせ面、Cf2…シリンダスカート端面、Cf3…ケース合わせ面、Cfb…ボア内周面、Cc…面取り、P11…電極内流路、P12…電極外流路、P2…ボア外流路、g…環状突出部と電極部本体との隙間。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9