(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157277
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】演算プログラム、演算方法、および情報処理装置
(51)【国際特許分類】
G16C 20/20 20190101AFI20241030BHJP
G01J 3/28 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
G16C20/20
G01J3/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071539
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】片岡 祐治
(72)【発明者】
【氏名】山崎 一寿
(72)【発明者】
【氏名】滋野 真弓
【テーマコード(参考)】
2G020
【Fターム(参考)】
2G020BA02
2G020BA05
2G020CC01
2G020CD03
2G020CD33
2G020CD37
(57)【要約】
【課題】 プロセスを簡便化することができる演算プログラム、演算方法、および情報処理装置を提供する。
【解決手段】 演算プログラムは、コンピュータに、分析対象物質に含まれる複数の要素物質のそれぞれの単体のスペクトルデータを説明変数とし、前記分析対象物質に対する分析結果として得られたスペクトルデータを目的変数として正則化を行い、前記分析対象物質における前記複数の要素物質の組成比を特定する処理、を実行させることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
分析対象物質に含まれる複数の要素物質のそれぞれの単体のスペクトルデータを説明変数とし、前記分析対象物質に対する分析結果として得られたスペクトルデータを目的変数として正則化を行い、前記分析対象物質における前記複数の要素物質の組成比を特定する処理、を実行させることを特徴とする演算プログラム。
【請求項2】
前記組成比を特定する際に、回帰分析を用いることを特徴とする請求項1に記載の演算プログラム。
【請求項3】
前記コンピュータに、
前記回帰分析において、前記目的変数を前記単体のスペクトルデータの回帰係数から前記組成比を特定する、処理を実行させることを特徴とする請求項2に記載の演算プログラム。
【請求項4】
前記コンピュータに、
前記回帰分析の結果として得られる前記説明変数の回帰係数が閾値を下回る場合に当該説明変数を除外して前記回帰分析を実行する処理を、前記閾値を下回る前記回帰係数が無くなるまで繰り返し実行させることを特徴とする請求項3に記載の演算プログラム。
【請求項5】
前記コンピュータに、
前記正則化に用いる正則化項の重みを表すパラメータを変更しつつ、前記回帰分析を繰り返す処理を実行させることを特徴とする請求項2に記載の演算プログラム。
【請求項6】
前記複数の要素物質は、2種類以上の構成成分の化合物または前記2種類以上の構成成分の混合物を少なくとも含み、
前記単体のスペクトルデータは、前記2種類以上の構成成分または予想される構成成分の単体のスペクトルデータであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の演算プログラム。
【請求項7】
コンピュータが、
分析対象物質に含まれる複数の要素物質のそれぞれの単体のスペクトルデータを説明変数とし、前記分析対象物質に対する分析結果として得られたスペクトルデータを目的変数として正則化を行い、前記分析対象物質における前記複数の要素物質の組成比を特定する処理、を実行することを特徴とする演算方法。
【請求項8】
分析対象物質に含まれる複数の要素物質のそれぞれの単体のスペクトルデータを説明変数とし、前記分析対象物質に対する分析結果として得られたスペクトルデータを目的変数として正則化を行い、前記分析対象物質における前記複数の要素物質の組成比を特定する特定部を備えることを特徴とする情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、演算プログラム、演算方法、および情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分析対象物質を分析することによって得られるスペクトルデータから要素物質を定量する技術が開示されている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-215356号公報
【特許文献2】特開2020-201174号公報
【特許文献3】特開2021-9135号公報
【特許文献4】特表2010-520471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、スペクトルデータの解析を行うために、組成比が既知のサンプルを複数準備し、準備されたサンプルについてのスペクトルデータを取得し、検量線を作成することが行われる。しかしながら、この手法の場合、組成比を変化させた複数のサンプルを準備してスペクトルデータを取得する必要があり、要素物質が多くなると更に準備すべきサンプル数とスペクトル数が増加し、プロセスが煩雑になる。
【0005】
1つの側面では、本件は、プロセスを簡便化することができる演算プログラム、演算方法、および情報処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、演算プログラムは、コンピュータに、分析対象物質に含まれる複数の要素物質のそれぞれの単体のスペクトルデータを説明変数とし、前記分析対象物質に対する分析結果として得られたスペクトルデータを目的変数として正則化を行い、前記分析対象物質における前記複数の要素物質の組成比を特定する処理、を実行させる。
【発明の効果】
【0007】
プロセスを簡便化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】L2正則化における正則化項の等高線を例示する図である。
【
図3】L1正則化における正則化項の等高線を例示する図である。
【
図4】(a)~(d)はシミュレーションにより得られたIRスペクトルデータである。
【
図6】(a)~(e)は正則化を用いた回帰分析の結果を示す。
【
図7】(a)は情報処理装置の全体構成を例示する機能ブロック図であり、(b)は情報処理装置のハードウェア構成を例示するブロック図である。
【
図8】情報処理装置の動作の一例を表すフローチャートである。
【
図9】情報処理装置の動作の一例を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
組成・定量分析は、物質中の組成(構成元素の種類)とその存在比(組成比)を分析することであり、例えばスペクトルデータのピーク位置と、その強度や面積を利用する。予め、目的とする要素物質の量が異なる試料を複数用意し、要素物質量が変化したとき、それに対して変化するスペクトル位置を探し出して特定する。そして、目的とする要素物質の量と、特定した位置のスペクトル強度あるいは面積との関係から検量線式を求めておく。次に、組成・定量分析の分析対象物質である試料のスペクトル強度あるいは面積を検量線式に当てはめて目的とする要素物質の量を求める。この手法は、単一の変数を使って回帰直線を作成する単回帰分析である。しかしながら、使用するスペクトルデータが他の要素物質に影響される場合には良好な検量線が得られず、予め、目的とする要素物質を妨害する成分から分離する必要がある。
【0010】
このため、近年、複数の変数を使って回帰直線を作成する多変量回帰分析の利用が提案されている。多変量回帰分析には、重回帰分析、主成分分析、因子分析、クラスター分析など様々な手法がある。
【0011】
多変量回帰分析には、単回帰分析と比べて、(I)ピークの位置を決める必要がない、(II)ピークが複雑に重なっていても定量できる、(III)複数の要素物質を一度に定量できる、の3つの長所がある。ただし、(I)については、解析範囲をある程度は目的とする要素物質の情報に合わせて絞り込んだり、ノイズ成分を含まない任意の端数範囲に限定したりする方が精度の良い結果が得られる。
【0012】
多変量回帰分析では、上記の精度面から主成分分析および重回帰分析を利用したPLS(Partial Least Square:部分最小二乗法)回帰を用いる手法(PLS法)が推奨されている。PLS法は、2つのステップで行われる。最初のステップでは、多変量データを主成分分析して、全ての変数を「主成分」(1~20個程度の変数)に要約し、次のステップでは、重回帰分析で主成分のうちの複数を組み合わせて、最適な1つの変数を導き出す。重回帰分析では、目的とする要素物質の濃度が既知である試料のスペクトルデータを多数用意して母集団とし、母集団中のスペクトルデータを下記式(1)に当てはめたときの残差(既知の濃度値と、下記式(1)でスペクトルデータから計算した濃度値の差)が最小になるように、重み係数b
iを決めていく。この2ステップによる解析では中間段階の「主成分」をどのように組み合わせるかが、最も重要となる。
【数1】
【0013】
上記のように、多変量回帰分析は、単回帰分析に比べて上記(I)~(III)の3つの利点を有する一方、高精度を得るためには主成分分析を用いて変数(対象とするピーク)を絞り込む必要がある。また、単回帰分析でも同様であるが、目的変数は濃度(量)、説明変数はスペクトルデータであり、到達点は複数の濃度(量)に対応したスペクトルデータを用いることによって精度の高い検量線を得ることである。そのためには、既知濃度に対応した多数のスペクトルデータを用意しなければならず、例えば、単回帰分析では3~10本、多変量解析では20本以上が必要となる。多変量解析の利用は、単回帰分析に比べて複数の利点を持つ反面、そのプロセスは煩雑であり、プロセスの簡便化が課題である。
【0014】
そこで、以下の実施例では、煩雑なプロセスを簡便化することができる例について説明する。
【実施例0015】
まず、実施例1の原理について説明する。
【0016】
本実施例において、分析対象物質は複数の要素物質を含んでいる。複数の要素物質は、2種類以上の構成成分の化合物または2種類以上の構成成分の混合物を少なくとも含む。したがって、例えば、分析対象物質は、2種類以上の構成成分が反応して得られた化合物、2種類以上の構成成分が単純に混合された混合物などである。
【0017】
まず、分析対象物質に含まれる複数の要素物質のそれぞれの単体のスペクトルデータを準備する。これらの単体のスペクトルデータは、上記複数の要素物質のそれぞれの単体に対して分析することで、事前に得ることができる。次に、正則化を用いた重回帰分析によって、複数の要素物質の組成比を求める。正則化の際には、デジタルアニーラなどのような、組合せ最適化技術を用いることができる。ここで、正則化とは、機械学習で過学習防止に使われる手法である。機械学習では、あらかじめ用意しておいた学習データをコンピュータが学習し、モデルを作成する。一般に、学習データに対する損失関数を最小化するように学習するが、これだけでは細かくフィッティングした複雑なモデルが生成され、過学習が起こる。過学習とは、機械学習で、学習データに対してあまりに忠実に適合しすぎて、データが本来示唆する傾向から大きく外れてしまう現象を言う。正則化は、過学習に伴い複雑化してしまったモデルをより単純なモデルにしていく手法で、回帰や分類などの分析手法においても使える汎用性の高い過学習対策手法の1つである。損失関数とは、作成したモデルと実際のデータとの誤差を表す指標で、値が小さいほどデータに対してモデルがフィッティングしていることを表わす。線形回帰においては、例えば、平均二乗誤差(MAE)を使う。
【0018】
以下、正則化を用いた重回帰分析について説明する。説明変数、予測値、回帰係数をそれぞれ下記式(2)のように表す。xが説明変数であり、wが回帰係数である。説明変数、予測値、および回帰係数のいずれもベクトルで表される。
【数2】
【0019】
目的変数は、下記式(3)または下記式(4)で表すことができる。なお、w
0x
0は切片を表す。
【数3】
【数4】
【0020】
上記目的変数をベクトルで表すと、下記式(5)のようになる。
【数5】
【0021】
重回帰分析では、説明変数xは一つではなく、多数の学習データから、回帰係数を導出する。そのため、学習データの数だけ予測値も出てくる。サンプルサイズをnとすると下記式(6)のように表される。
【数6】
【0022】
予測値と実際のyとの間に乖離が無いように回帰係数wを特定していく。重回帰分析では、最小二乗法を使用し、下記式(7)で表される損失関数Lを最小化させるようにパラメータを決定する。
【数7】
【0023】
正則化では、損失関数Lに正則化項を足した関数を新たな最小化対象とする。代表的な正則化項としては、下記式(8)または下記式(9)が挙げられる。λは、自由に値を決めてもよいハイパーパラメータである。
【数8】
【数9】
【0024】
正則化項を加えた損失関数を最小化すると、正則化項を加えない場合と比べて、目的変数に寄与しない変数の回帰係数を小さくして実質的な説明変数の数を減らし、過学習を抑制する効果を得ることができる。
【0025】
図1は、2次元説明変数での例である。横軸は説明変数x
1の回帰係数w
1であり、縦軸は説明変数x
2の回帰係数w
2である。正則化項がゼロの場合は、最小二乗法に基づき損失関数を最小化するよう最適化すると、w=(w
1,w
2)の唯一の解が求まる。この唯一の解が、
図1の「最小二乗法の解」の点となる。正則化項がゼロでないとき、回帰係数w
1および回帰係数w
2がこの点から変化する。損失関数が同一値(等高線上)であれば、正則化項との和である損失関数Lを最小化するためには、「正則化項を最小化する(w
1,w
2)」、すなわち「正則化項の等高線との接線」が解となる。
【0026】
L2正則化における正則化項の等高線は、
図2で例示するように、(w
1,w
2)平面上では原点を中心とした円で表されるため、損失関数Lを最小化する解は、損失関数の等高線と原点を中心とした円との接線になる。
【0027】
正則化項の割合λを増やしていくと、正則化項を小さくした方が損失関数Lの最小化に寄与するので、解を作る正則化項および損失関数の等高線は、「正則化項の等高線は内側に」、「損失関数の等高線は外側に」移動する。ここで、
図2の例は、正則化項の等高線が各軸対象の真円であるのに対し、損失関数Lの等高線が寄与度の小さい回帰係数w
1側に横長である。この非対称性により、
図2のようにλを大きくすると、解すなわち接線の位置は回帰係数w
1方向に大きく変化し、回帰係数w
2方向にはあまり変化しないことが分かる。これによって、目的変数への寄与(≒回帰性能への寄与)が小さい回帰係数w
1を選択的に削減し、寄与が大きい回帰係数w
2の変化は小さい、という状況を実現することができる。
【0028】
目的変数への寄与が小さい回帰係数w1の削減により、過学習を減らし、目的変数への寄与が大きい回帰係数w2を減らさず、回帰性能低下を防ぐ、すなわち、正則化により性能低下を抑えつつ過学習を軽減することができる。
【0029】
L1正則化では、正則化項の等高線は、(w
1,w
2)平面上では
図3のようなひし形(45度傾いた正方形)となる。L1正則化の特徴として、正則化項の等高線の頂点が解となり、目的変数への寄与が小さい回帰係数w
1がゼロとなる場合が生じる。この場合、回帰係数がゼロである1つの説明変数を完全に削除できるため、L2正則化よりも強い過学習防止効果が得られる。
【0030】
本実施例においては、分析対象物質に対する分析結果として得られたスペクトルデータとし、説明変数を分析対象物質に含まれる複数の要素物質のそれぞれの単体のスペクトルデータとする。分析の手法は、例えば、ラマン分光、赤外吸収分光、X線光電子分光、X線吸収分光などである。回帰分析によって、分析対象物質のスペクトルデータが再現される(またはフィッティングされる)単体のスペクトルの組み合わせ比率(組成比)を求める。この際、上記の正則化によって過学習を防ぎ、精度の向上と効率化を図る。また、回帰係数に閾値を設定し、閾値以下の回帰係数があれば、当該回帰係数が表す要素物質を除外し、繰り返し回帰分析を行う。
【0031】
具体的には、分析対象物質に対する分析結果として得られたスペクトルデータと、分析対象物質に含まれる複数の要素物質のそれぞれの単体のスペクトルデータとから、表1の情報を得る。次に、得られた情報を上記式(2)~(9)に照らし合わせ、下記式(10)に示す回帰関数の最適化問題に帰着させる。そして、最適化されたβが、組成比となる。下記式(10)および下記式(11)において、右辺の第1項は損失関数であり、第2項は正則化項である。λは正則化パラメータである。λを用いて、正則化項の影響力を調整する。本実施例においては、λを、βが一定値を示すまで走査し、その一定値を最適値、すなわち組成比とする。
【表1】
【数10】
【数11】
【0032】
「n」は、入力サンプル数(スペクトル横軸x値の数)である。「p」は、説明変数の個数(成分単体のスペクトルの数)である。下記式(12)は、目的変数(化合物・混合物スペクトルの強度)ベクトルである。下記式(13)は、説明変数(成分単体のスペクトルの強度)行列である。下記式(14)は、回帰係数ベクトルである。
【数12】
【数13】
【数14】
【0033】
本実施例について、下記の手順で効果を検証した。
【0034】
(手順1)
シミュレーションによって、以下の4つの物質(物質番号EQ0,EQ1,EQ2,EQ3)について赤外線吸収スペクトル(IRスペクトル)を発生させた。
EQ0:Pentaprismane
EQ1:1-Phenylcyclobutene
EQ2:Vinyl-Cycolo-Octatetraen
EQ3:Annulene
【0035】
(手順2)
手順1で発生させたIRスペクトル4本を、以下の様に組成比を変えて合成した(5通り)。
サンプル1
EQ0:EQ1:EQ2:EQ3=0:60:30:10
サンプル2
EQ0:EQ1:EQ2:EQ3=0:30:60:10
サンプル3
EQ0:EQ1:EQ2:EQ3=0:10:20:70
サンプル4
EQ0:EQ1:EQ2:EQ3=0:0:20:80
サンプル5
EQ0:EQ1:EQ2:EQ3=0:0:10:90
【0036】
(手順3)
手順2で合成したスペクトルデータを目的変数とし、手順1のスペクトルデータを説明変数とし、本実施例に係る正則化を用いた回帰分析で説明変数に用いたスペクトルがどの様な比率であれば目的変数のスペクトルにフィッティングするかを特定した。正則化に際しては、λの値を走査し、それぞれの回帰係数が一定となったときまたは一定の値に収束した場合の値を最終的な組成比とした。
【0037】
図4(a)~
図4(d)は、シミュレーションにより得られたIRスペクトルデータである。
図4(a)は、EQ0のIRスペクトルデータである。
図4(b)は、EQ1のIRスペクトルデータである。
図4(c)は、EQ2のIRスペクトルデータである。
図4(d)は、EQ3のIRスペクトルデータである。表2のように、
図4(a)~
図4(d)のスペクトルデータの強度それぞれを説明変数、また、これらを上記のように合成したスペクトルデータの強度を目的変数として、上記式(10)、(11)に従って、正則化を用いた回帰分析を行った。この際、λは1×10
2から1×10
-2まで降順で走査した。
【表2】
【0038】
図5は、回帰分析を図に表したものである。
図6(a)~
図6(e)は、本実施例に係る正則化を用いた回帰分析の結果を示す。
図6(a)は、サンプル1の結果を示す。
図6(b)は、サンプル2の結果を示す。
図6(c)は、サンプル3の結果を示す。
図6(d)は、サンプル4の結果を示す。
図6(e)は、サンプル5の結果を示す。横軸のλの変化に対して、縦軸の係数βが一定となったまたは一定の値に収束した場合値を最適値とすると、いずれも当初の合成比率が正確に再現されている。
【0039】
上述したように、本実施例によれば、分析対象物質に含まれる複数の要素物質のそれぞれの単体のスペクトルデータを説明変数とし、分析対象物質に対する分析結果として得られたスペクトルデータを目的変数として正則化を行い、複数の要素物質の組成比を特定することで、煩雑なプロセスを簡便化することができる。
【0040】
続いて、本実施例の具体的な装置構成などについて説明する。
図7(a)は、実施例1に係る情報処理装置100の全体構成を例示する機能ブロック図である。
図7(a)で例示するように、情報処理装置100は、取得部10、ベクトル作成部20、パラメータ設定部30、推定部40、行列作成部50、分析部60、出力部70などとして機能する。
【0041】
図7(b)は、情報処理装置100のハードウェア構成を例示するブロック図である。
図7(b)で例示するように、情報処理装置100は、CPU101、RAM102、記憶装置103、入力装置104、表示装置105等を備える。
【0042】
CPU(Central Processing Unit)101は、中央演算処理装置である。CPU101は、1以上のコアを含む。RAM(Random Access Memory)102は、CPU101が実行するプログラム、CPU101が処理するデータなどを一時的に記憶する揮発性メモリである。記憶装置103は、不揮発性記憶装置である。記憶装置103として、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリなどのソリッド・ステート・ドライブ(SSD)、ハードディスクドライブに駆動されるハードディスクなどを用いることができる。記憶装置103は、演算プログラムを記憶している。入力装置104は、キーボード、マウスなどの入力装置である。表示装置105は、LCD(Liquid Crystal Display)などのディスプレイ装置である。CPU101が演算プログラムを実行することで、取得部10、ベクトル作成部20、パラメータ設定部30、推定部40、行列作成部50、分析部60、出力部70などが実現される。なお、取得部10、ベクトル作成部20、パラメータ設定部30、推定部40、行列作成部50、分析部60、出力部70などとして、専用の回路などのハードウェアを用いてもよい。
【0043】
図8および
図9は、情報処理装置100の動作の一例を表すフローチャートである。
図8および
図9で例示するように、取得部10は、分析対象物質に対する分析を行なった結果としてスペクトルデータを取得する(ステップS1)。
【0044】
次に、ベクトル作成部20は、ステップS1で取得したスペクトルについて、上記式(12)の強度ベクトルを作成する(ステップS2)。
【0045】
ステップS1~S2と並行して、パラメータ設定部30は、λminおよびλmaxを設定する(ステップS3)。λminは、パラメータλの最小値である。λmaxは、パラメータλの最大値である。λminおよびλmaxを設定することで、パラメータλの走査範囲を設定することができる。
【0046】
次に、パラメータ設定部30は、λtを設定する(ステップS4)。λtは、パラメータλの走査ステップのことであって、パラメータλの刻み値である。
【0047】
次に、パラメータ設定部30は、回帰係数βの閾値thを設定する(ステップS5)。
【0048】
次に、パラメータ設定部30は、パラメータλをλmaxとする(ステップS6)。
【0049】
ステップS1~S2およびステップS3~S6と並行して、推定部40は、分析対象物質の各要素物質を推定する(ステップS7)。ステップS7において、推定部40が分析対象物質の各要素物質を自動的に推定してもよいが、ユーザが入力装置104を用いて入力した各要素物質を取得してもよい。
【0050】
次に、行列作成部50は、ステップS7で得られた各要素物質について、単体のスペクトルデータを取得する(ステップS8)。ステップS8においては、ユーザが事前に分析するなどして得られた単体のスペクトルデータを、入力装置104などを介して取得する。
【0051】
次に、行列作成部50は、ステップS8で取得した各単体のスペクトルデータについて、上記式(13)の強度行列を作成する(ステップS9)。
【0052】
ステップS2、ステップS6、およびステップS9の実行後に、分析部60は、ステップS2で作成した強度ベクトルを目的変数とし、ステップS9で作成した強度行列を説明変数として、上記式(11)に従って正則化回帰分析を行う(ステップS10)。
【0053】
次に、分析部60は、全要素物質の回帰係数βが一定値を示しているか否かを判定する(ステップS11)。
【0054】
ステップS11で「No」と判定された場合、分析部60は、λをλ-λtとする(ステップS12)。これによって、λを刻み値だけ小さくすることができる。
【0055】
次に、分析部60は、λがλmin以上のままであるか否かを判定する(ステップS13)。ステップS13の実行によって、λの走査が終了したか否かを判定することができる。
【0056】
ステップS13で「Yes」と判定された場合、分析部60は、係数βが閾値thよりも小さくなる要素物質があるか否かを判定する(ステップS14)。
【0057】
ステップS14で「Yes」と判定された場合、分析部60は、回帰係数βが閾値th未満となる要素物質を除外する(ステップS15)。その後、ステップS10から再度実行される。ステップS14で「No」と判定された場合、ステップS15が実行されずにステップS10から再度実行される。
【0058】
ステップS13で「No」と判定された場合、ステップS3~S6が再度実行される。この場合において、λmin、λmax、λt、および閾値thの少なくともいずれかは前回の値と異なる値にする。
【0059】
ステップS11で「Yes」と判定された場合、出力部70は、ステップS10で算出された上記式(11)を組成比として出力する(ステップS16)。出力部70の出力結果は、表示装置105などが表示する。その後、フローチャートの実行が終了する。
【0060】
なお、上記例において、分析部60が、分析対象物質に含まれる複数の要素物質のそれぞれの単体のスペクトルデータを説明変数とし、前記分析対象物質に対する分析結果として得られたスペクトルデータを目的変数として正則化を行い、前記複数の要素物質の組成比を特定する特定部の一例である。
【0061】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
(付記1)
コンピュータに、
分析対象物質に含まれる複数の要素物質のそれぞれの単体のスペクトルデータを説明変数とし、前記分析対象物質に対する分析結果として得られたスペクトルデータを目的変数として正則化を行い、前記分析対象物質における前記複数の要素物質の組成比を特定する処理、を実行させることを特徴とする演算プログラム。
(付記2)
前記組成比を特定する際に、回帰分析を用いることを特徴とする付記1に記載の演算プログラム。
(付記3)
前記コンピュータに、
前記回帰分析において、前記目的変数を前記単体のスペクトルデータの回帰係数から前記組成比を特定する、処理を実行させることを特徴とする付記2に記載の演算プログラム。
(付記4)
前記コンピュータに、
前記回帰分析の結果として得られる前記説明変数の回帰係数が閾値を下回る場合に当該説明変数を除外して前記回帰分析を実行する処理を、前記閾値を下回る前記回帰係数が無くなるまで繰り返し実行させることを特徴とする付記3に記載の演算プログラム。
(付記5)
前記コンピュータに、
前記正則化に用いる正則化項の重みを表すパラメータを変更しつつ、前記回帰分析を繰り返す処理を実行させることを特徴とする付記2に記載の演算プログラム。
(付記6)
前記複数の要素物質は、2種類以上の構成成分の化合物または前記2種類以上の構成成分の混合物を少なくとも含み、
前記単体のスペクトルデータは、前記2種類以上の構成成分または予想される構成成分の単体のスペクトルデータであることを特徴とする付記1から付記4のいずれか一項に記載の演算プログラム。
(付記7)
コンピュータが、
分析対象物質に含まれる複数の要素物質のそれぞれの単体のスペクトルデータを説明変数とし、前記分析対象物質に対する分析結果として得られたスペクトルデータを目的変数として正則化を行い、前記分析対象物質における前記複数の要素物質の組成比を特定する処理、を実行することを特徴とする演算方法。
(付記8)
前記組成比を特定する際に、回帰分析を用いることを特徴とする付記7に記載の演算方法。
(付記9)
前記コンピュータが、
前記回帰分析において、前記目的変数を前記単体のスペクトルデータの回帰係数から前記組成比を特定する、処理を実行することを特徴とする付記8に記載の演算方法。
(付記10)
前記コンピュータが、
前記回帰分析の結果として得られる前記説明変数の回帰係数が閾値を下回る場合に当該説明変数を除外して前記回帰分析を実行する処理を、前記閾値を下回る前記回帰係数が無くなるまで繰り返し実行することを特徴とする付記9に記載の演算方法。
(付記11)
前記コンピュータが、
前記正則化に用いる正則化項の重みを表すパラメータを変更しつつ、前記回帰分析を繰り返す処理を実行することを特徴とする付記8に記載の演算方法。
(付記12)
前記複数の要素物質は、2種類以上の構成成分の化合物または前記2種類以上の構成成分の混合物を少なくとも含み、
前記単体のスペクトルデータは、前記2種類以上の構成成分または予想される構成成分の単体のスペクトルデータであることを特徴とする付記7から付記11のいずれか一項に記載の演算方法。
(付記13)
分析対象物質に含まれる複数の要素物質のそれぞれの単体のスペクトルデータを説明変数とし、前記分析対象物資に対する分析結果として得られたスペクトルデータを目的変数として正則化を行い、前記分析対象物質における前記複数の要素物質の組成比を特定する特定部を備えることを特徴とする情報処理装置。
(付記14)
前記特定部は、前記組成比を特定する際に、回帰分析を用いることを特徴とする付記13に記載の情報処理装置。
(付記15)
前記特定部は、前記回帰分析において、前記目的変数を前記単体のスペクトルデータの回帰係数から前記組成比を特定することを特徴とする付記14に記載の情報処理装置。
(付記16)
前記特定部は、前記回帰分析の結果として得られる前記説明変数の回帰係数が閾値を下回る場合に当該説明変数を除外して前記回帰分析を実行する処理を、前記閾値を下回る前記回帰係数が無くなるまで繰り返し実行することを特徴とする付記15に記載の情報処理装置。
(付記17)
前記特定部は、前記正則化に用いる正則化項の重みを表すパラメータを変更しつつ、前記回帰分析を繰り返す処理を実行することを特徴とする付記14に記載の情報処理装置。
(付記18)
前記複数の要素物質は、2種類以上の構成成分の化合物または前記2種類以上の構成成分の混合物を少なくとも含み、
前記単体のスペクトルデータは、前記2種類以上の構成成分または予想される構成成分の単体のスペクトルデータであることを特徴とする付記13から付記17のいずれか一項に記載の情報処理装置。