(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157278
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】発酵状態管理システム、発酵状態管理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20241030BHJP
C12M 1/38 20060101ALI20241030BHJP
C12P 7/06 20060101ALI20241030BHJP
C12P 7/62 20220101ALI20241030BHJP
C12P 7/22 20060101ALI20241030BHJP
C12P 11/00 20060101ALI20241030BHJP
C12P 7/26 20060101ALI20241030BHJP
C12N 1/16 20060101ALN20241030BHJP
【FI】
C12M1/34 D
C12M1/38
C12P7/06
C12P7/62
C12P7/22
C12P11/00
C12P7/26
C12N1/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071543
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】坂本 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】田島 準也
(72)【発明者】
【氏名】平嶋 大樹
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA07
4B029BB07
4B029CC01
4B029DD00
4B029DF04
4B029FA12
4B064AC03
4B064AC16
4B064AC24
4B064AD64
4B064AE61
4B065AA72X
4B065AC14
4B065BC03
4B065BD50
4B065CA42
(57)【要約】
【課題】発酵によって作られる清酒や食品等の発酵製品の発酵工程で発生する香気成分を含む複数のガスから発酵中の物質の状態(酵母の働き)を可視化し発酵製品の設計・制御及び管理を容易にすることが可能な発酵状態管理システム、発酵状態管理方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】発酵物質の発酵状態を管理する発酵状態管理システムであって、複数のガスセンサチャネルを有し複数のガスセンサチャネルの少なくとも一つは複数のターゲットガスのうち2種類以上のガスの濃度に対する感度を有するガス信号取得部と、発酵物質から発生したガスに応じてガスセンサチャネルから出力された測定信号を含む測定信号群、複数のターゲットガスのそれぞれに対するガスセンサチャネルの感度情報を含む感度情報群、測定信号群に含まれる各測定信号の強度及び各測定信号間の強度比、感度情報群、を用いて複数のターゲットガスの少なくとも一つのガスの濃度を示す予測ガス濃度を出力する予測部と、を有する発酵状態管理システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵物質の発酵状態を管理する発酵状態管理システムであって、
複数のガスセンサチャネルを有し、前記複数のガスセンサチャネルの少なくとも一つは複数のターゲットガスのうち2種類以上のガスの濃度に対する感度を有するガス信号取得部と、
前記発酵物質から発生したガスに応じて前記ガスセンサチャネルから出力された測定信号を含む測定信号群と、
前記複数のターゲットガスのそれぞれに対する前記ガスセンサチャネルの感度情報を含む感度情報群と、
前記測定信号群に含まれる各測定信号の強度及び各測定信号間の強度比と、前記感度情報群と、を用いて前記複数のターゲットガスの少なくとも一つのガスの濃度を示す予測ガス濃度を出力する予測部と、
を有する発酵状態管理システム。
【請求項2】
前記予測部は、前記予測ガス濃度に基づいて前記発酵物質の発酵状態を示す発酵状態情報を出力する、
請求項1に記載の発酵状態管理システム。
【請求項3】
前記複数のガスセンサチャネルの少なくとも一つは、全ての前記ターゲットガスの濃度に対して感度を有する、
請求項1に記載の発酵状態管理システム。
【請求項4】
前記複数のガスセンサチャネルの全てが、前記ターゲットガスのうち2種類以上のガスの濃度に対して感度を有する、
請求項1に記載の発酵状態管理システム。
【請求項5】
前記複数のターゲットガスの少なくとも一つは、前記複数のガスセンサチャネルのうち2つ以上のガスセンサチャネルに応答する、
請求項1に記載の発酵状態管理システム。
【請求項6】
前記複数のターゲットガスの少なくとも一つは、前記複数のガスセンサチャネルの全てに応答する、
請求項1に記載の発酵状態管理システム。
【請求項7】
前記複数のターゲットガスの全てが、前記複数のガスセンサチャネルのうち2つ以上のガスセンサチャネルに応答する、
請求項1に記載の発酵状態管理システム。
【請求項8】
前記ガス信号取得部が存在する外部環境の温度、又は、前記ガス信号取得部の内部環境の温度を取得する環境温度取得部を有し、
前記予測部は、前記測定信号群を、前記外部環境の温度又は前記内部環境の温度を用いて補正する、
請求項1に記載の発酵状態管理システム。
【請求項9】
前記発酵物質の温度に変換可能な発酵物質温度情報を取得する発酵物質温度取得部を有し、
前記予測部は、前記複数のターゲットガスの少なくとも一つである対象ガスの前記予測ガス濃度と、前記発酵物質温度情報とから、前記対象ガスと同一成分物質の前記発酵物質内における濃度を予測する、
請求項1に記載の発酵状態管理システム。
【請求項10】
前記予測部は、複数の前記測定信号のうちの少なくとも一つを参照信号とし、前記参照信号を用いて、複数の前記測定信号のうちの他の測定信号、前記複数のターゲットガスの少なくとも一つのガスの前記予測ガス濃度、前記対象ガスと同一成分物質の前記発酵物質内における濃度、のうちの少なくとも一つを補正する、
請求項9に記載の発酵状態管理システム。
【請求項11】
前記参照信号は、前記複数のターゲットガスのうち1種類のガスの濃度のみに対して感度を有するガスセンサチャネルから出力された測定信号である、
請求項10に記載の発酵状態管理システム。
【請求項12】
前記予測部は、前記ガスセンサチャネルからの測定信号に由来しない他の情報を用いて、前記測定信号群、前記複数のターゲットガスの少なくとも一つのガスの前記予測ガス濃度、前記複数のターゲットガスの少なくとも一つである対象ガスと同一成分物質の前記発酵物質内における濃度、のうちの少なくとも一つを校正する、
請求項1に記載の発酵状態管理システム。
【請求項13】
前記ガス信号取得部は、前記測定信号群を、前記発酵物質に非接触の状態で取得する、
請求項1に記載の発酵状態管理システム。
【請求項14】
前記発酵物質温度取得部は、前記発酵物質温度情報を、前記発酵物質に非接触の状態で取得する、
請求項9に記載の発酵状態管理システム。
【請求項15】
前記予測部は、測定値及び予測値のうちの少なくとも一つに対し、事前に設定された範囲からずれがある場合に当該ずれに関する情報を通知する、
請求項1に記載の発酵状態管理システム。
【請求項16】
前記ガス信号取得部は、前記測定信号群を取得した時刻と紐づく時刻情報をさらに取得し、
前記複数のターゲットガスの少なくとも一つのガスの前記予測ガス濃度又は前記複数のターゲットガスの少なくとも一つである対象ガスと同一成分物質の前記発酵物質内における濃度と、前記時刻情報と、に基づき、利用者に推奨する行動の情報を通知する、
請求項1に記載の発酵状態管理システム。
【請求項17】
前記複数のターゲットガスの少なくとも一つは、前記発酵物質内に存在する酵母の働きによって発生する香気成分である、
請求項1に記載の発酵状態管理システム。
【請求項18】
前記発酵物質は醪であり、
前記ターゲットガスは、水、エタノール、カプロン酸エチル、酢酸イソアミル、酢酸イソブチル、酢酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチル、ラウリン酸エチル、酢酸フェニルエチル、乳酸エチル、アセトアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ジアセチル、イソアミルアルコール、フェネチルアルコール、4-ビニルグアイアコール、及び、4-メルカプト-4-メチル-2ペンタノンのうち、少なくとも一つを含む、
請求項1に記載の発酵状態管理システム。
【請求項19】
発酵物質の発酵状態を管理する発酵状態管理方法であって、
複数のターゲットガスのそれぞれに対するガスセンサチャネルの感度情報を含む感度情報群を得る工程と、
複数のガスセンサチャネルであって、前記複数のガスセンサチャネルの少なくとも一つが前記複数のターゲットガスのうち2種類以上のガスの濃度に対する感度を有しており、前記複数のガスセンサチャネルから、前記発酵物質から発生したガスに応じて前記ガスセンサチャネルから出力された測定信号を含む測定信号群を取得する工程と、
前記測定信号群に含まれる各測定信号の強度及び各測定信号間の強度比と、前記感度情報群と、を用いて、前記複数のターゲットガスのうちの少なくとも一つのガスの濃度を示す予測ガス濃度を予測し、前記予測ガス濃度を出力する工程と、
を含む発酵状態管理方法。
【請求項20】
装置に、
複数のターゲットガスのそれぞれに対するガスセンサチャネルの感度情報を含む感度情報群と、
複数のガスセンサチャネルであって、前記複数のガスセンサチャネルの少なくとも一つが前記複数のターゲットガスのうち2種類以上のガスの濃度に対する感度を有しており、前記複数のガスセンサチャネルから取得した、発酵物質から発生したガスに応じて前記ガスセンサチャネルから出力された測定信号を含む測定信号群と、
を入力し、
前記測定信号群に含まれる各測定信号の強度及び各測定信号間の強度比と、前記感度情報群と、を用いて、前記複数のターゲットガスのうちの少なくとも一つのガスの濃度を示す予測ガス濃度を予測し、前記予測ガス濃度を出力する工程を、実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵によって作られる清酒や食品等の発酵状態を管理するための発酵状態管理システム、発酵状態管理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、清酒や食品等(以下、「発酵製品」と称することがある)の発酵工程における状態管理は、専門家の勘や経験によるところが大きく、発酵状態の定量化や可視化が難しいものであった。そのため、発酵製品の品質管理を適正に行うには多くのリソース(作業工数、原材料費、分析費など)を要していた。例えば、清酒の発酵(醸造)においては、休日や深夜早朝にも状態管理を行う必要があり、作業者の労働環境の改善が求められていた。また、発酵製品は発酵工程における状態管理の定量化や可視化が難しいことで技術伝承が難しいという課題もあった。このような課題を解決するために、近年ではIoT(Internet of Things)技術を活用した、発酵状態管理システムが開発されている。
【0003】
特許文献1には、清酒の醸造工程における品質管理の指標を算出するシステムが提案されている。センサなどを用いて炭酸ガス及びブリックス値を直接的又は間接的に測定することで、醪の発酵中におけるアルコール分、日本酒度、エキス分を算出し、利用者がリアルタイムでそれらの指標を確認することが可能なシステムとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、管理対象が、日本酒のアルコール分、日本酒度、エキス分等の管理に限られる。一方、発酵状態の正確な管理は酵母の働きをいかに管理するかが重要であり、そのためには酵母の働きによって発生する香気成分を管理しなければならない。例えば、清酒の醸造では、主に杜氏の鼻で香気成分の管理を行っている。また、生産者が最終的に作りたい清酒の状態に向けて香りを設計・制御する必要があるが、清酒の醸造では膨大な種類の香気成分が発生しており、専門家(杜氏)であってもその管理は難しい。このため、酵母の働きを容易に管理できるように、発酵製品の発酵状態に応じて発生する香気成分等に応じた発酵状態を可視化できる技術の開発が求められている。また、同じ清酒であっても使用する原料や酵母によっても発生する香気成分は異なるため、清酒や食品等の発酵製品の発酵状態を管理するという目的に対しては、特定のガスのみを検出できるだけでは、それが仮に複数のガスに対応していたとしても、汎用的なシステムとしては不十分である。種々の発酵製品に対応できる汎用的な発酵状態の管理システムとしては、管理対象となるガスが変わっても一つのシステムで検出できるようなものが好まれる。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決すべく、発酵によって作られる清酒や食品等の発酵製品の発酵工程で発生する香気成分を含む複数のガスから、発酵中の物質の状態(酵母の働き)を可視化し、発酵製品の設計・制御及び管理を容易にすることが可能な発酵状態管理システム、発酵状態管理方法及びプログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1> 発酵物質の発酵状態を管理する発酵状態管理システムであって、
複数のガスセンサチャネルを有し、前記複数のガスセンサチャネルの少なくとも一つは複数のターゲットガスのうち2種類以上のガスの濃度に対する感度を有するガス信号取得部と、
前記発酵物質から発生したガスに応じて前記ガスセンサチャネルから出力された測定信号を含む測定信号群と、
前記複数のターゲットガスのそれぞれに対する前記ガスセンサチャネルの感度情報を含む感度情報群と、
前記測定信号群に含まれる各測定信号の強度及び各測定信号間の強度比と、前記感度情報群と、を用いて前記複数のターゲットガスの少なくとも一つのガスの濃度を示す予測ガス濃度を出力する予測部と、
を有する発酵状態管理システム。
<2> 前記予測部は、前記予測ガス濃度に基づいて前記発酵物質の発酵状態を示す発酵状態情報を出力する、
前記<1>に記載の発酵状態管理システム。
<3> 前記複数のガスセンサチャネルの少なくとも一つは、全ての前記ターゲットガスの濃度に対して感度を有する、
前記<1>又は<2>に記載の発酵状態管理システム。
<4> 前記複数のガスセンサチャネルの全てが、前記ターゲットガスのうち2種類以上のガスの濃度に対して感度を有する、
前記<1>又は<2>に記載の発酵状態管理システム。
<5> 前記複数のターゲットガスの少なくとも一つは、前記複数のガスセンサチャネルのうち2つ以上のガスセンサチャネルに応答する、
前記<1>又は<2>に記載の発酵状態管理システム。
<6> 前記複数のターゲットガスの少なくとも一つは、前記複数のガスセンサチャネルの全てに応答する、
前記<1>又は<2>に記載の発酵状態管理システム。
<7> 前記複数のターゲットガスの全てが、前記複数のガスセンサチャネルのうち2つ以上のガスセンサチャネルに応答する、
前記<1>又は<2>に記載の発酵状態管理システム。
<8> 前記ガス信号取得部が存在する外部環境の温度、又は、前記ガス信号取得部の内部環境の温度を取得する環境温度取得部を有し、
前記予測部は、前記測定信号群を、前記外部環境の温度又は前記内部環境の温度を用いて補正する、
前記<1>~<7>のいずれかに記載の発酵状態管理システム。
<9> 前記発酵物質の温度に変換可能な発酵物質温度情報を取得する発酵物質温度取得部を有し、
前記予測部は、前記複数のターゲットガスの少なくとも一つである対象ガスの前記予測ガス濃度と、前記発酵物質温度情報とから、前記対象ガスと同一成分物質の前記発酵物質内における濃度を予測する、
前記<1>~<8>に記載の発酵状態管理システム。
<10> 前記予測部は、複数の前記測定信号のうちの少なくとも一つを参照信号とし、前記参照信号を用いて、複数の前記測定信号のうちの他の測定信号、前記複数のターゲットガスの少なくとも一つのガスの前記予測ガス濃度、前記対象ガスと同一成分物質の前記発酵物質内における濃度、のうちの少なくとも一つを補正する、
前記<9>に記載の発酵状態管理システム。
<11> 前記参照信号は、前記複数のターゲットガスのうち1種類のガスの濃度のみに対して感度を有するガスセンサチャネルから出力された測定信号である、
前記<10>に記載の発酵状態管理システム。
<12> 前記予測部は、前記ガスセンサチャネルからの測定信号に由来しない他の情報を用いて、前記測定信号群、前記複数のターゲットガスの少なくとも一つのガスの前記予測ガス濃度、前記複数のターゲットガスの少なくとも一つである対象ガスと同一成分物質の前記発酵物質内における濃度、のうちの少なくとも一つを校正する、
前記<1>~<11>のいずれかに記載の発酵状態管理システム。
<13> 前記ガス信号取得部は、前記測定信号群を、前記発酵物質に非接触の状態で取得する、
前記<1>~<12>のいずれかに記載の発酵状態管理システム。
<14> 前記発酵物質温度取得部は、前記発酵物質温度情報を、前記発酵物質に非接触の状態で取得する、
前記<9>~<11>のいずれかに記載の発酵状態管理システム。
<15> 前記予測部は、測定値及び予測値のうちの少なくとも一つに対し、事前に設定された範囲からずれがある場合に当該ずれに関する情報を通知する、
前記<1>~<14>のいずれかに記載の発酵状態管理システム。
<16> 前記ガス信号取得部は、前記測定信号群を取得した時刻と紐づく時刻情報をさらに取得し、
前記複数のターゲットガスの少なくとも一つのガスの前記予測ガス濃度又は前記複数のターゲットガスの少なくとも一つである対象ガスと同一成分物質の前記発酵物質内における濃度と、前記時刻情報と、に基づき、利用者に推奨する行動の情報を通知する、
前記<1>~<15>のいずれかに記載の発酵状態管理システム。
<17> 前記複数のターゲットガスの少なくとも一つは、前記発酵物質内に存在する酵母の働きによって発生する香気成分である、
前記<1>~<16>のいずれかに記載の発酵状態管理システム。
<18> 前記発酵物質は醪であり、
前記ターゲットガスは、水、エタノール、カプロン酸エチル、酢酸イソアミル、酢酸イソブチル、酢酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチル、ラウリン酸エチル、酢酸フェニルエチル、乳酸エチル、アセトアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ジアセチル、イソアミルアルコール、フェネチルアルコール、4-ビニルグアイアコール、及び、4-メルカプト-4-メチル-2ペンタノンのうち、少なくとも一つを含む、
前記<1>~<17>のいずれかに記載の発酵状態管理システム。
<19> 発酵物質の発酵状態を管理する発酵状態管理方法であって、
複数のターゲットガスのそれぞれに対するガスセンサチャネルの感度情報を含む感度情報群を得る工程と、
複数のガスセンサチャネルであって、前記複数のガスセンサチャネルの少なくとも一つが前記複数のターゲットガスのうち2種類以上のガスの濃度に対する感度を有しており、前記複数のガスセンサチャネルから、前記発酵物質から発生したガスに応じて前記ガスセンサチャネルから出力された測定信号を含む測定信号群を取得する工程と、
前記測定信号群に含まれる各測定信号の強度及び各測定信号間の強度比と、前記感度情報群と、を用いて、前記複数のターゲットガスのうちの少なくとも一つのガスの濃度を示す予測ガス濃度を予測し、前記予測ガス濃度を出力する工程と、
を含む発酵状態管理方法。
<20> 装置に、
複数のターゲットガスのそれぞれに対するガスセンサチャネルの感度情報を含む感度情報群と、
複数のガスセンサチャネルであって、前記複数のガスセンサチャネルの少なくとも一つが前記複数のターゲットガスのうち2種類以上のガスの濃度に対する感度を有しており、前記複数のガスセンサチャネルから取得した、発酵物質から発生したガスに応じて前記ガスセンサチャネルから出力された測定信号を含む測定信号群と、
を入力し、
前記測定信号群に含まれる各測定信号の強度及び各測定信号間の強度比と、前記感度情報群と、を用いて、前記複数のターゲットガスのうちの少なくとも一つのガスの濃度を示す予測ガス濃度を予測し、前記予測ガス濃度を出力する工程を、実行させるプログラム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発酵によって作られる清酒や食品等の発酵製品の発酵工程で発生する香気成分を含む複数のガスから、発酵中の物質の状態(酵母の働き)を可視化し、発酵製品の設計・制御及び管理を容易にすることが可能な発酵状態管理システムの提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の発酵状態管理システムの概要を示すブロック図である。
【
図2】発酵状態管理システムを構成する各装置のハードウェア構成を説明するための概略図である。
【
図3】本実施形態の発酵状態管理システムの流れの一例を示す図である。
【
図4】本実施形態の発酵状態管理システムを清酒の醸造に適用した際の概要を示す図である。
【
図5】本実施形態の発酵状態管理システムで用いられる感度情報群の一例を示す図である。
【
図6】本実施形態の発酵状態管理システムで取得される測定信号群y、環境温度補正された測定信号群yc、参照信号補正された測定信号群zを示す図である。
【
図7】本実施形態の発酵状態管理システムで予測された各ターゲットガス(分析ガス)の予測ガス濃度を示す図である。
【
図8】本実施形態の発酵状態管理システムで予測される各ターゲットガス(分析ガス)の予測ガス濃度の経時変化を示す図である。
【
図9】本実施形態の発酵状態管理システムで予測される醪中のアルコール分の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発酵状態管理システム及び発酵状態管理システムを構成する各構成要件について、具体例を挙げて説明する。ただし、これら実施形態は本発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが、本発明の解決手段に必須であることを意味するものではない。
【0011】
<発酵状態管理システム>
本実施形態の発酵状態管理システム(以下、「本実施形態のシステム」と称することがある。)の構成の一例について
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態の発酵状態管理システムの概要を示すブロック図である。
図1に示すように、発酵状態管理システム100は、発酵中の物質(発酵物質)の発酵状態を管理する管理システムであって、少なくとも、ガス信号取得部10と、予測部20と、を含み、測定信号群(y)IN2に含まれる各測定信号の強度及び各測定信号間の強度比と、感度情報群IN1と、を用いて複数のターゲットガスのうちの少なくとも一つのガスの濃度を示す予測ガス濃度OP1を予測部20から出力することができる。
【0012】
「ターゲットガス」とは、本実施形態の発酵状態管理システムにおける管理対象となるガスであって、特に限定されるものではないが、例えば、発酵物質内に存在する酵母の働きによって発生する香気成分が挙げられる。また、本実施形態における「ターゲットガス」とは、感度情報群が設定されているガスとする。さらにターゲットガスのうち、特に予測部によって予測ガス濃度が出力されるガスを「分析ガス」と称することがある。本実施形態では、多くの場合でターゲットガスと分析ガスとは区別なく扱えるが、正確にはターゲットガスの方がより広義である。また、分析ガスのうち発酵物質内における濃度を予測するガスを「対象ガス」と称することがある。
「感度」は、各ターゲットガスの濃度変化に対するガスセンサチャネルの出力変化を示し、線形でも非線形でもよい。「感度情報」とは、各ガスセンサチャネルにおけるターゲットガスの濃度に対する感度に関する情報を意味し、感度の大きさ等を数値等で表現したものである。感度情報は、例えば、あるターゲットガスが単独で存在した場合の、そのターゲットガスの濃度に対するガスセンサチャネルの感度であってもよい。また、あるターゲットガスと一緒にバックグラウンドガスが存在している場合でも、そのバックグラウンド下におけるターゲットガスの濃度に対するガスセンサチャネルの感度を感度情報として扱ってもよい。すなわち任意の系において、特定のターゲットガスの濃度だけが変化した場合のガスセンサチャネルの感度を表す情報であれば特に限定されない。例えば、感度が線形の場合はターゲットガスの濃度に対するガスセンサチャネルの出力の傾きを示す数値を感度情報として用いてもよい。本実施形態では、複数のターゲットガスのそれぞれに対する各ガスセンサチャネルの感度情報をまとめたものを「感度情報群」と称する。感度情報群は事前に測定された測定値又は代表値を用いてよく、後述する予測部又はガス信号取得部に記憶しておく。感度情報群は、本実施形態のシステムを稼働した後の初期の段階で、ガス信号取得部で取得した測定値を用いて再学習するなどして微調整してもよい。
「測定信号」は、発酵部に存在するターゲットガスを含む混合ガス(発酵物質から発生したガス)に応じてガスセンサチャネルから出力される信号(単位は例えばmVなど)であり、本実施形態では測定信号をまとめたものを「測定信号群」と称する。
【0013】
図1に示すように、発酵状態管理システム100は、ガス信号取得部10と、予測部20とに加えて、発酵部30と、表示部40と、を含むことができる。なお、ガス信号取得部10、予測部20、発酵部30、表示部40は、各々が物理的に連結されている必要はなく、各々が有線又は無線のネットワークで接続されていてもよい。
【0014】
<ガス信号取得部>
ガス信号取得部10は、複数のガスセンサチャネルを有する。
図1に示す発酵状態管理システム100においては、5つのガスセンサチャネルGSC1~GSC5を有する態様が示されている。以下、複数のガスセンサチャネルを総称して「ガスセンサチャネル(GSC)」と称することがある。ガスセンサチャネル(GSC)は、ガス濃度に関連する信号を出力するセンサであり、各ガスセンサチャネルから出力される信号は「測定信号」と称され、
図1においては、ガスセンサチャネルGSC1~GSC5から測定信号1~5が出力される。
【0015】
ガス信号取得部10は、これらセンサによって、発酵部30に存在する複数のガスで構成された混合ガスに応答する測定信号群(y)IN2を取得する。“測定信号群”は、発酵部30内の発酵物質から発生(揮発)したガスに応じて各ガスセンサチャネルから出力された測定信号を含み、ガス信号取得部10が有する複数のガスセンサチャネル(GSC1~GSC5)からの出力信号等をまとめた情報である。測定信号群(y)IN2はガスセンサチャネル以外からの信号(例えば温度センサから出力される信号など)を含んでいてもよく、ガスセンサチャネル以外の複数の種類のセンサからの測定信号を含んで構成されていてもよい。
【0016】
本実施形態のシステムは、複数のガスセンサチャネルの少なくとも一つは管理対象とする複数のターゲットガスのうち2種類以上のガスの濃度に対する感度を有している。具体的には、ガスセンサチャネルGSC1~GSC4は複数のターゲットガスのうち2種類以上のガスの濃度に対する感度を有する。すなわち、ガスセンサチャネルGSC1~GSC4から出力される測定信号1~4は、複数のガスと測定信号とが各々1対1で対応しているわけではなく、一つの測定信号は複数のガスに関連し、また、一つのガスは複数の測定信号と関連している。
【0017】
発酵状態管理システム100は、例えば、複数のガスセンサチャネルの少なくとも一つが、全てのターゲットガスの濃度に対して感度を有してもよいし、複数のガスセンサチャネルの全てがターゲットガスのうち2種類以上のガスの濃度に対して感度を有していてもよい。また、例えば、ガス信号取得部10は、ガスセンサチャネルGSC1~GSC4として、全てのターゲットガスの濃度に対して感度を有し且つ全てのターゲットガスに応答して測定信号1~4を各々出力するセンサを用い、ガスセンサチャネルGSC5として、後述のように、参照信号用に特定のガス種の濃度のみに応答する所謂1対1型のセンサを用いてもよい。
【0018】
ガスセンサチャネルはガス濃度を測定することを主な目的としているが、ガス濃度を直接表示するセンサの他、ガス濃度に変換可能な電圧、電流、抵抗、容量、温度、屈折率、蛍光強度、重量、周波数などに基づく信号を出力するものであれば出力信号の形式は問わない。一つのガスセンサチャネルが複数のガスに応答するようなガスセンサチャネルを複数備えているガスセンサとしては、例えばMSS(Membrane-type Surface stress Sensor)嗅覚センサなど、生物の嗅覚の原理を模したセンサが挙げられる。生物の嗅覚は、一つの嗅覚受容体は様々な匂い分子(ガス)を認識し、一つの匂い分子は様々な嗅覚受容体に認識される「多対多」の仕組みとなっているが、MSS嗅覚センサはこの「多対多」の仕組みを利用したセンサである。ガス信号取得部10には、このMSS嗅覚センサ等を適用することができる。
【0019】
発酵物質の発酵の過程では非常に多くの種類のガスが様々な目的で発生するため、発酵物質の発酵工程の管理を行う場合には複数のガスの濃度を管理する必要がある。また、発酵物質を最終的にどのような状態にしたいかによっても管理対象となるターゲットガスが変わる。上述のように、ガス信号取得部10で用いるガスセンサチャネル(GSC)は、特定のガスに特化したセンサ(即ち、特定のガスに1対1で対応するセンサ)ではなく、一つで多種類のガスに応答することが可能なセンサである。例えば、本システムを適用する発酵物質を変更する場合など、管理対象となるターゲットガスの種類が変わった場合は、システムを稼働する前に新たに管理対象となるガスの感度情報群IN1を後述する予測部20等に学習させることで管理対象とするガスをターゲットガスとして設定でき、ガス信号取得部10において得た当該ガスを含む混合ガスの測定信号群から当該ガスの予測ガス濃度を予測することができる。
【0020】
管理対象となるガスを選択してターゲットガスを変更や追加可能とするためには、ガスセンサチャネル(GSC)の少なくとも一つが多く(2種以上)のガスに対して強弱の違いはあれど何かしらの感度を有していることが好ましく、また、全てのガスセンサチャネルが複数のガスに対して感度を有していることが好ましい。すなわち、ガスセンサチャネルの少なくとも一つは全てのターゲットガスの濃度に対して感度を有していてもよく、また、全てのガスセンサチャネルがターゲットガスのうち2種類以上のガスの濃度に対して感度を有していてもよい。
【0021】
複数のターゲットガスの組み合わせとしては、複数のターゲットガスの少なくとも一つが、複数のガスセンサチャネルのうち2つ以上のガスセンサチャネルに応答する組み合わせを選択してもよいし、複数のターゲットガスの少なくとも一つが、複数のガスセンサチャネルの全てに応答する組み合わせを選択してもよいし、複数のターゲットガスの全てが、複数のガスセンサチャネルのうち2つ以上のガスセンサチャネルに応答する組み合わせを選択してもよい。
【0022】
ガス信号取得部10は、上述のように、一つの測定信号(一つのガスセンサチャネルからの出力信号)が一つのガスに応答するような“1対1”のガスセンサチャネルを別途備えていてもよい。このようなガスセンサチャネルから出力される測定信号は、ターゲットガスの一つと1対1に対応している信号となるため、“参照信号”として扱うことができる。上述のように、ガス信号取得部10はガスセンサチャネルGSC5として複数のターゲットガスのうち1種のガスの濃度にのみ応答して測定信号を出力するセンサを用い、測定信号5を参照信号として扱うことができる。
【0023】
ガス信号取得部10は、一度の測定において、複数の測定信号(すなわち測定信号群)を同時刻に取得することが好ましい。その理由は、各測定信号の強度、及び、各測定信号間の強度比を用いて予測部においてターゲットガスの予測ガス濃度を予測するためであり、タイミングが大きくずれたデータを用いると予測精度が落ちる。なお、発酵状態管理システム100において、10秒以内のずれは同時刻とみなすことができる。その理由は、発酵は長時間(長い場合は何日もの時間)をかけて行う作業であり、また、検出する対象が発酵物質から揮発するガスであるため、状態の変化が急激には起こらないためである。
図1に示すように、発酵状態管理システム100においてガス信号取得部10は、複数の測定信号の取得と同時に、測定信号群を取得した時刻と紐づく時刻情報IN3をさらに取得することができる。後述するように、予測部20は、複数のターゲットガスの少なくとも一つのガスの予測ガス濃度OP1、又は、複数のターゲットガスの少なくとも一つである対象ガスと同一成分物質の発酵物質内における濃度(発酵物質内濃度OP2)と共に、時刻情報IN3と、に基づき、利用者に推奨する行動の情報を通知することができる。
【0024】
ガス信号取得部10は、発酵部30の内部に設置されていてもよいし、発酵部30の外部に設置し、ガス信号取得部10と発酵部30との間にガス採取手段を設けてもよい。なお、ガス信号取得部10で取得される測定信号1~5は、衛生面の観点から、発酵部30内の発酵物に非接触の状態で取得されることが好ましい。このため、ガス信号取得部10及び発酵物質温度取得部32は、測定信号群(y)IN2及び発酵物質温度情報IN6を、発酵部30中の発酵物質に非接触の状態で取得することが好ましい。
【0025】
図1に示すように、ガス信号取得部10は、ガス信号取得部10が存在する外部環境の温度(外部環境温度情報IN5)、又は、ガス信号取得部10の内部環境の温度(内部環境温度情報IN4)を取得する環境温度取得部12をさらに有していてもよい。環境温度取得部12は、例えば、ガス信号取得部10の内部環境温度情報IN4を取得する温度センサS1と、ガス信号取得部10の外部環境温度情報IN5を取得する温度センサS2とを有しており、温度センサS1をガス信号取得部の内部に設置し、温度センサS2をガス信号取得部10の外側近傍に設置することができる。後述するように、予測部20は、測定信号群(y)IN2を外部環境温度情報IN5又は内部環境温度情報IN4を用いて補正して、測定信号群(yc)OP3を得ることができる。
【0026】
<環境温度取得部>
環境温度取得部12は、ガス信号取得部10が存在する外部環境の温度、又はガス信号取得部の内部環境の温度を取得する。ここで取得された情報は、上述のようにガス信号取得部10で取得された測定信号を温度補正するために用いることができる。
【0027】
一般に多くのセンサは温度特性を有しており、ガス信号取得部10のガスセンサチャネル(GSC)から出力される測定信号にも温度依存性が存在する。このため、ガス信号取得部10が存在する環境の温度を用いて測定信号を補正することで、本実施形態のシステムの予測精度が向上する。
【0028】
また、環境温度取得部12で取得した環境温度(内部環境温度情報IN4又は外部環境温度情報IN5)を、“測定信号の温度補正を行うため”といった特定の用途に用いるのではなく、当該環境温度を測定信号群(y)IN2の一部に含めて扱い、予測部20において環境温度を含む測定信号群(y)IN2から予測ガス濃度OP1の予測を行ってもよい。さらに、環境温度を測定信号群(y)IN2に含める場合、環境温度を参照信号補正の参照信号として扱ってもよい。
【0029】
<予測部>
予測部20は、測定信号群(y)IN2に含まれる各測定信号の強度及び各測定信号間の強度比と、感度情報群IN1と、を用いて複数のターゲットガスのうちの少なくとも一つのガスの濃度を示す予測ガス濃度OP1を出力する。予測部20では、予測ガス濃度に基づいて発酵物質の発酵状態を示す発酵状態情報を出力してもよい。予測部20は、本実施形態のシステムを稼働する前に事前に設定した感度情報群IN1(各ターゲットガスの濃度変化に対する複数のガスセンサチャネルの出力変化の情報)、及び、システム稼働後にガス信号取得部10の他、環境温度取得部12、後述する発酵物質温度取得部32で取得した各情報を用いて発酵部30内に存在する各ターゲットガスの予測ガス濃度OP1に加え、発酵状態情報として、ターゲットガスの発酵物質内での濃度(発酵物質内濃度OP2)を予測し、表示部40に出力して利用者に通知することができる。なお、ガス信号取得部10、環境温度取得部12、発酵物質温度取得部32で取得された情報は、任意の送信手段を用いて予測部20に送られる。
【0030】
より具体的に説明すると、予測部20では、ガス信号取得部10で取得された各測定信号(
図1では、測定信号1~5)の強度と各測定信号間の強度比、また、事前に設定した感度情報群IN1を用いて、その時点で発酵部30内に存在しているターゲットガスの予測ガス濃度OP1を予測する。予測部20による予測は、機械学習やディープラーニングなどを用いるなど計算のアルゴリズムは限定されず、任意のアルゴリズムを用いてその時点で学習してあった情報からの誤差が最も小さくなる混合ガスの構成比と濃度とを採用するなどして行われる。例えば、複数のターゲットガスで構成された混合ガスの測定信号群(y)IN2に対して重回帰分析を用いることで、混合ガスの測定信号群(y)IN2から混合ガスを構成する各ターゲットガスの予測ガス濃度OP1を計算することができる。予測する過程では、システムを稼働する実際の使用環境の状況に合わせて個別の制限を用いてもよい。
【0031】
予測部20では、事前に設定した感度情報群IN1を、本実施形態のシステムを稼働した後の初期の段階で、ガス信号取得部10で取得した測定値を用いて再学習するなどして微調整してもよい。感度情報群IN1を微調整する理由は、事前に設定した際に想定した環境と、実際の使用環境ではバックグラウンドのガス環境が異なるため、事前に設定した情報は実際の使用環境下ではより適正な値が存在することがあるためである。感度情報群IN1の微調整の範囲は、事前に設定された値の±50%以内が好ましく、より好ましくは事前に設定された値の±30%以内である。感度情報群IN1の微調整の計算アルゴリズムは限定されず、機械学習やディープラーニングなど任意の方法で整合が取れる値とすることができる。
【0032】
予測部20での予測精度を上げるためには、予測したいターゲットガスの種類の数に対して、ガスセンサチャネル(GSC)からの測定信号の数を多くすることが好ましい。ただし、高い精度を保ちながら測定信号の数を減らしたい場合は、予測したいターゲットガスの種類の数とガスセンサチャネル(GSC)からの測定信号の数を等しくすることが好ましい。
【0033】
環境温度補正(ガスセンサチャネル(GSC)からの測定信号の温度補正)を行う場合は、予測部20は、発酵部30内に存在しているターゲットガスの予測ガス濃度OPを予測する前に、ガス信号取得部10で得られた測定信号群に対して、環境温度取得部12で取得した環境温度(内部環境温度情報IN4及び外部環境温度情報IN5)を用いて温度補正を行ってもよい。また、環境温度取得部12で取得した環境温度を測定信号群の一部に含めて、予測部20において、ガス信号取得部10で取得した測定信号群(y)IN2と環境温度取得部で取得した環境温度とを同時に扱いながら予測ガス濃度OP1を予測することで、実質的に温度補正が行われるようにしてもよい。
【0034】
特定のガスについて、発酵部30に存在すること(又は存在しないこと)が予め分かってる場合や、発酵部30に存在する混合ガスを構成する主成分となるガスやノイズを発生させるガスの影響を除去したい場合などには、特定のガス(参照ガス)にのみ応答する測定信号(参照信号)を用いて残りの測定信号を補正して、測定信号群(z)OP4を生成してもよい。「参照信号」とは、特定の情報(例えば特定のガス)にのみ応答する信号であり、複数の測定信号のうちの一部を参照信号として扱ってもよい。参照信号補正を行う場合は、予測部20は、発酵部30内に存在しているターゲットガスの予測ガス濃度OP1を予測する前に参照信号補正を行うことが好ましい。また、特定のガスにのみ応答する測定信号を参照信号として扱わず、他の測定信号と同様に単に測定信号群の一つの信号として扱ってもよい。例えば、予測部20は、測定信号のうちの少なくとも一つ(例えば、測定信号5)を“参照信号”とし、参照信号を用いて、測定信号1~5のうちの他の測定信号(例えば、測定信号1~4)、ターゲットガスの少なくとも一つのガスの予測ガス濃度OP1、ターゲットガスの少なくとも一つである対象ガスと同一成分物質の発酵物質内における濃度(発酵物質内濃度OP2)、のうちの少なくとも一つを補正することができる。
【0035】
参照信号用のガスとしては、例えば水やエタノールなどが挙げられ、湿度センサやアルコールセンサを用いて発酵部30に存在する湿度やエタノールガス濃度を測定し、その情報を用いて他の測定信号を補正してもよい。また、参照信号による補正は環境温度による補正の前に実施してもよい。
【0036】
参照信号は発酵部30の外部に存在するガスに対する信号を用いてもよい。発酵部30の外部に存在するガスの信号を参照信号に用いることで、発酵部30が存在する場所のバックグラウンド情報を取得することができる。バックグラウンド情報を用いて測定信号群を補正することで、発酵部が特異な場所にある場合でも、本実施形態のシステムの予測精度を向上させることができる。
【0037】
図1に示すように、発酵状態管理システム100は、発酵物質の温度に変換可能な発酵物質温度情報IN6を取得する発酵物質温度取得部32を有するように構成できる。予測部20は、発酵物質内に存在する各ターゲットガスが発酵物質から揮発してきたものとみなして、予測部20で予測した発酵部30に存在する複数のターゲットガスの少なくとも一つである対象ガスの予測ガス濃度OP1と、発酵物質温度取得部32で取得した発酵物質温度情報IN6とを用いて、対象ガスと同一成分物質の発酵物質内での濃度(発酵物質内濃度OP2)をさらに予測することができる。
【0038】
予測部20では予測された各予測値等に対して校正を行ってもよい。例えば、予測部20は、本実施形態のシステムとは異なる手段(ガスセンサチャネルの測定信号に由来しない手段)で取得し他の情報を用いて、予測部20で予想した各予測値等の校正を行うことができる。この校正は、ガス信号取得部10で取得した測定信号群(y)IN2、環境温度補正後の測定信号群(yc)OP3、参照信号補正後の測定信号群(z)OP4、予測ガス濃度OP1、発酵物質内での濃度予測値(発酵物質内濃度OP2)などに対して、絶対値を合わせるために行われる。
【0039】
予測部20では、予測された各ターゲットガスの予測ガス濃度OP1、ターゲットガスの発酵物質内濃度OP2などを用いて、その時点での発酵状態を予測してもよい。さらに、上述のように、ガス信号取得部10は、測定信号群(y)IN2を取得した時刻と紐づく時刻情報IN3を用い、複数のターゲットガスの少なくとも一つのガスの予測ガス濃度OP1又は複数のターゲットガスの少なくとも一つである対象ガスと同一成分物質の発酵物質内濃度OP2と、時刻情報IN3と、に基づき、表示部40を介して“利用者に推奨する行動の情報”を通知することができる。具体的には、発酵部30は、時刻情報IN3から発酵の経過時間を判断し、予測された発酵状態と発酵の経過時間とから、本実施形態のシステムの利用者に対する推奨行動をさらに予想してもよい。推奨行動の内容は、例えば発酵部30の温度調節、発酵部30へ添加物の添加、発酵部30の攪拌等の内容である。
【0040】
また、予測部20では、各測定値や各予測値(各測定信号の強度、各測定信号間の強度比、ターゲットガスの少なくとも一つのガスの予測ガス濃度OP1、ターゲットガスの少なくとも一つである対象ガスと同一成分物質の発酵物質内濃度OP2、内部環境温度情報IN4、外部環境温度情報IN5、発酵物質温度情報IN6)のうちの少なくとも一つに対して、事前に設定された範囲を有しており、その範囲からずれがある場合は、異常として検出するようになっていてもよい。例えば、予測部20は、測定値及び予測値のうちの少なくとも一つに対し、事前に設定された範囲からずれがある場合には表示部40を介して測定値及び予測値等にずれに関する情報を利用者に通知することができる。
【0041】
<発酵部>
発酵部30は、清酒や発酵食品などの元となる原料と、酵母、細菌、カビなどの微生物とを一緒に投入し発酵物質の発酵を行うための場所である。発酵物質の発酵中は、液体などの発酵中の物質から揮発する複数のガスも発酵部30に存在する。複数のガスとは、例えば清酒の発酵(醸造)の場合、エタノールや水蒸気の他に、酵母の働きなどによって発生する香気成分がある。複数のターゲットガスの少なくとも一つは、発酵物質内に存在する酵母の働きによって発生する香気成分であることが好ましい。この香気成分は、アミノ酸や脂肪酸の生成分解過程にて発生する物質などに由来し、例えば、カプロン酸エチル、酢酸イソアミル、酢酸イソブチル、酢酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチル、ラウリン酸エチル、酢酸フェニルエチル、乳酸エチル、アセトアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ジアセチル、イソアミルアルコール、フェネチルアルコール、4-ビニルグアイアコール、4MMP(4-メルカプト-4-メチル-2ペンタノン)などがある。
【0042】
発酵物質とターゲットガスの組み合わせとしては、特に限定されるものではないが、例えば、発酵物質は醪であり、ターゲットガスは、水、エタノール、カプロン酸エチル、酢酸イソアミル、酢酸イソブチル、酢酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチル、ラウリン酸エチル、酢酸フェニルエチル、乳酸エチル、アセトアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ジアセチル、イソアミルアルコール、フェネチルアルコール、4-ビニルグアイアコール、及び、4MMPのうち、少なくとも一つを含む組み合わせが挙げられる。
【0043】
発酵部30は酵母の活動を制御するために温度調整できる機能を有していることが好ましい。また、本実施形態のシステムを精度よく稼働するためには、発酵部30内に存在する窒素と酸素と二酸化炭素とを除いたガスのうちの50%以上が、感度情報群IN1に事前に登録したターゲットガスで構成されていることが好ましい。より好ましくは70%以上のガスが、感度情報群IN1に事前に登録されたターゲットガスで構成されている状態である。発酵部30内に存在するガスのうち感度情報群IN1に事前に登録したターゲットガスの含有率が高いほど本実施形態のシステムの予測精度が上がる。なお、窒素と酸素と二酸化炭素とを除いている理由は、これら3種のガスは大気を構成する主なガスであり、多くの場合、発酵部に存在するバックグラウンドのガスに含まれているためである。
【0044】
<発酵物質温度取得部>
上述のように、発酵状態管理システム100は、さらに、発酵物質の温度に変換可能な発酵物質温度情報IN6を取得する発酵物質温度取得部32を有し、予測部20において、複数のターゲットガスの少なくとも一つである対象ガスの予測ガス濃度OP1と、発酵物質温度情報IN6とから、対象ガスと同一成分物質の発酵物質内における濃度(発酵物質内濃度OP2)を予測することができる。具体的に、発酵物質温度取得部32では発酵物質の温度や発酵物質の温度に変換可能な情報を取得することができる。発酵物質温度取得部32は発酵物質温度情報IN6を取得するだけでなく、発酵物質の温度を制御する機構を有していてもよい。
【0045】
発酵物質温度取得部32において発酵物質温度情報IN6を取得する方法は、衛生面の観点から発酵物質に非接触の状態で行うことが好ましい。非接触で温度を取得する方法としては、例えば赤外線センサを用いることができる。ここで、発酵部30を形成する部材が温度計測機能や温度調整機能を有している場合は、発酵物質に接触しているのは発酵部30自体を形成する部材であり、発酵物質温度取得部32自体は発酵物質に接触していないとみなすことができる。
【0046】
発酵物質温度取得部32で取得された発酵物質温度情報IN6は、単に発酵物質の温度を測定・制御するためだけでなく、予測部20で予測された発酵部に存在するガスの予測ガス濃度OP1を、発酵物質内での濃度(即ち、発酵物質内濃度OP2)に変換するためにも用いられる。発酵物質から揮発するガスの濃度は、発酵物質温度に依存するため、当該温度情報を用いることで、揮発してきたガスの濃度から、揮発する前の状態での同じ物質の濃度を予測することができる。
【0047】
<表示部>
図1で示すように、発酵状態管理システム100は利用者への通知手段として表示部40を有することができる。表示部40では、予測部20での予測・分析の結果(各測定値、各予測値、発酵状態、推奨行動など)をディスプレイなどに表示することでリアルタイムに利用者に発酵部30内の状態を通知することができる。通知の方法は、音、表示、メール、など利用者にその事実が伝わる方法であれば何でもよく、異常を検知した場合や作業が必要な時期などを知らせるためのアラームを出す機能があってもよい。表示部40は、発酵状態間システム内のガス信号取得部10、予測部20、又は、発酵部30に設置されたディスプレイ等であってもよいし、通信端末等、無線通信によって予測部20からの出力情報を取得・表示できる機器であってもよい。
【0048】
また、発酵状態管理システム100は表示や通知を行うだけでなく、発酵設備やアクチュエーターなどと連動して推奨行動(発酵部の温度調節や添加物の添加、攪拌など)を自動で行うシステムとなっていてもよい。
【0049】
<ハードウェア構成>
図2を参照しつつ、ガス信号取得部10、予測部20、表示部40等の発酵状態管理システムを構成する各装置のハードウェア構成について説明する。ガス信号取得部10、予測部20、表示部40は、例えば、装置200のように、プロセッサ210、通信インターフェース220、入出力インターフェース230、メモリ240、ストレージ250、及びこれらの構成要素を相互接続するための1つ又は複数の通信バス260を含む。ただし、ガス信号取得部10、予測部20やその他発酵状態管理システムを構成する各装置のハードウェア構成は
図2に示される構成に限定されるものではない。
【0050】
プロセッサ210は、ストレージ250に記憶されるプログラムに含まれるコード、又は、命令によって実現する処理、機能、又は、方法を実行する。プロセッサ210は、限定でなく例として、1又は複数の中央処理装置(CPU)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、マイクロプロセッサ(microprocessor)、プロセッサコア(processor core)、マルチプロセッサ(multiprocessor)、ASIC(Application-Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を含み、集積回路(IC(Integrated Circuit)チップ、LSI(Large Scale Integration))等に形成された論理回路(ハードウェア)や専用回路によって各実施形態に開示されるそれぞれの、処理、機能、又は、方法を実現してもよい。
【0051】
通信インターフェース220は、ネットワークを介して他の装置と各種データの送受信を行う。当該通信は、有線、無線のいずれで実行されてもよく、互いの通信が実行できるのであれば、どのような通信プロトコルを用いてもよい。例えば、通信インターフェース220は、ネットワークアダプタ等のハードウェア、各種の通信用ソフトウェア、又はこれらの組み合わせとして実装される。
【0052】
ネットワークNは、限定されるものではないが、例えば、アドホック・ネットワーク(Ad Hoc Network)、イントラネット、エクストラネット、仮想プライベート・ネットワーク(Virtual Private Network:VPN)、ローカル・エリア・ネットワーク(Local Area Network:LAN)、ワイヤレスLAN(Wireless LAN:WLAN)、広域ネットワーク(Wide Area Network:WAN)、ワイヤレスWAN(Wireless WAN:WWAN)、大都市圏ネットワーク(Metropolitan Area Network:MAN)、インターネットの一部、公衆交換電話網(Public Switched Telephone Network:PSTN)の一部、携帯電話網、ISDNs(Integrated Service Digital Networks)、無線LANs、LTE(Long Term Evolution)、CDMA(Code Division Multiple Access)、ブルートゥース(Bluetooth(登録商標))、衛星通信等であってよく、これらが組み合わせられてもよい。ネットワークは、1つ又は複数のネットワークを含むことができる。
【0053】
入出力インターフェース230は、装置200に対する各種操作を入力する入力装置、及び、装置200で処理された処理結果を出力する出力装置を含む。例えば、入出力インターフェース230は、キーボード、マウス、及びタッチパネル等の情報入力装置、及びディスプレイ等の情報出力装置を含む。なお、装置200は、外付けの入出力インターフェース230を接続することで、所定の入力を受け付けてもよいし、所定の出力を実行してもよい。
【0054】
例えば、装置200は、外付けの入出力インターフェース230として、センサや他の装置200(例えば、装置200がガス信号取得部10であり、他の装置200が予測部20である場合等)と、有線又は無線のネットワークNで接続されていてもよい。他の装置200は、要求に応じて装置200に情報を提供するサーバ等であってもよい。
【0055】
メモリ240は、ストレージ250からロードしたプログラムを一時的に記憶し、プロセッサ210に対して作業領域を提供する。メモリ240には、プロセッサ210がプログラムを実行している間に生成される各種データも一時的に格納される。メモリ240は、例えば、DRAM、SRAM、DDR RAM又は他のランダムアクセス固体記憶装置などの高速ランダムアクセスメモリであってよく、これらが組み合わせられてもよい。
【0056】
ストレージ250は、プログラム、各機能部、及び各種データを記憶する。ストレージ250は、例えば、1つ又は複数の磁気ディスク記憶装置、光ディスク記憶装置、フラッシュメモリデバイス、又は他の不揮発性固体記憶装置などの不揮発性メモリ等であってよく、これらが組み合わせられてもよい。ストレージ250の他の例としては、プロセッサ210から遠隔に設置される1つ又は複数の記憶装置を挙げることができる。
【0057】
本発明の一実施形態において、ストレージ250はプログラム、機能部及びデータ構造、又はそれらのサブセットを格納する。装置200は、ストレージ250に記憶されているプログラムに含まれる命令をプロセッサ210が実行することによって、例えば、
図1に示すように、ガス信号取得部10、予測部20等として機能するように構成されている。
【0058】
オペレーティングシステム251は、例えば、様々な基本的なシステムサービスを処理するとともにハードウェアを用いてタスクを実行するためのプロシージャを含む。
【0059】
ネットワーク通信モジュール252は、例えば、装置200を他のコンピュータに、通信インターフェース220、及びインターネット、他の広域ネットワーク、ローカル・エリア・ネットワーク、大都市圏ネットワークなどの1つ又は複数の通信ネットワークを介して接続するために使用される。
【0060】
<発酵状態管理方法>
本実施形態の発酵状態管理方法は、発酵物質の発酵状態を管理する発酵状態管理方法であって、複数のターゲットガスのそれぞれに対するガスセンサチャネルの感度情報を含む感度情報群を得る工程と、複数のガスセンサチャネルであって、複数のガスセンサチャネルの少なくとも一つが複数のターゲットガスのうち2種類以上のガスの濃度に対する感度を有しており、複数のガスセンサチャネルから、発酵物質から発生したガスに応じてガスセンサチャネルから出力された測定信号を含む測定信号群を取得する工程と、測定信号群に含まれる各測定信号の強度及び各測定信号間の強度比と、感度情報群と、を用いて、複数のターゲットガスのうちの少なくとも一つのガスの濃度を示す予測ガス濃度を予測し、予測ガス濃度を出力する工程と、を含む。
【0061】
本実施形態の発酵状態管理方法を本実施形態の発酵状態管理システムを用いて実施する流れについて
図3を用いて説明する。
図3は本実施形態の発酵状態管理システムの流れの一例を示す図である。ただし、本実施形態の発酵状態管理システム及び発酵状態管理方法の流れは以下の態様に限定されるものではない。
【0062】
まず、本実施形態のシステムを発酵状態管理システムとして稼働させる前に、例えば、発酵部に存在する予定である複数のガス(ターゲットガス)の各ターゲットガスに対して、複数のガスセンサチャネルの感度情報群を事前に設定する(ステップS1)。
図3にて図示を省略するが、この感度情報群は、本実施形態のシステムを稼働した後の初期の段階で、ガス信号取得部で取得した測定値を用いて再学習するなどして微調整してもよい。
【0063】
ついで、本実施形態のシステムの利用者は、ガス信号取得部を発酵部に存在するガスが検出できるように設置した状態で、システムを稼働し分析を開始する(ステップS2)。
【0064】
本実施形態のシステムが稼働すると、ガス信号取得部にて、発酵部に存在する混合ガスに対する複数の測定信号を含む測定信号群yを取得する(ステップS3)。各ガスセンサチャネルからの出力信号は測定信号となり、測定信号をまとめたものが「測定信号群」となる。
【0065】
つぎに、ガス信号取得部で取得した測定信号群を環境温度補正するか否かを判断し(ステップS4)、環境温度補正をする場合(ステップS4肯定)にはステップS5に移行し、環境温度補正を行わない場合(ステップS4否定)はステップS6に移行する。環境温度取得部で取得した環境温度を用いて各測定信号を補正する場合、測定信号群yから測定信号群ycを生成する(ステップS5)。なお、環境温度を取得しても環境温度補正を実施せず、環境温度を測定信号群の一部に含めて扱ってもよい。
【0066】
ついで、ガス信号取得部で取得した測定信号群を、参照信号を用いて補正するか否かを判断し(ステップS6)、参照信号補正をする場合(ステップS6肯定)にはステップS7に移行し、参照信号補正を行わない場合(ステップS6否定)はステップS8に移行する。上述のように、「参照信号」とは、特定の情報(例えば特定のガス)にのみ応答する信号であり、複数の測定信号のうちの一部を参照信号として扱ってもよい。特定のガスのみと対応している測定信号を参照信号として用いて参照信号補正を行う場合、測定信号群y又は測定信号群ycの残りの測定信号を補正することで測定信号群zを生成する(ステップS7)なお、参照信号補正は環境温度補正(ステップS5)の前に実施してもよいし、環境温度を測定信号群に含める場合、環境温度を参照信号補正の参照信号として扱ってもよい。
【0067】
ついで、ガス信号取得部で取得した測定信号群y(補正が行われた場合には、環境温度補正後の測定信号群yc又は参照信号補正後の測定信号群z)の各測定信号の強度及び各測定信号間の強度比、また、感度情報群を用いて、発酵部に存在する各ターゲットガスの濃度(予測ガス濃度)を予測部で予測する(ステップS8)。
【0068】
予測部は、予測ガス濃度と、発酵物質温度取得部で取得した発酵物質の温度情報とを用いて、発酵部に存在するターゲットガスの少なくとも一つである対象ガスの予測ガス濃度から、当該対象ガスの発酵物質内での濃度(発酵物質内濃度)を予測する(ステップS9)。
【0069】
ついで、予測値の校正を行うか否かを判断し(ステップS10)、予測値の校正を行う場合にはステップS11に移行し、予測値の校正を行わない場合にはステップS12に移行する。予測値の校正を行う場合(ステップS11)、ガス信号取得部とは異なる手段で取得した情報を用いて、予測部で予測した値の校正を行う。システムを稼働する環境(例えば発酵部の形状など)の影響で、予測部で予測された値は実際の状態からずれが大きくなる場合があるので、予測値の校正はそれを校正するために行う。なお、
図3では発酵物質内濃度に対して校正を実施しているが、この校正は、ガス信号取得部で取得した測定信号群y、環境温度補正後の測定信号群yc、参照信号補正後の測定信号群z、予測ガス濃度、のどの値に対して行ってもよい。
【0070】
ついで、表示部では、予測部での予測結果(各測定値、各予測値、発酵状態、推奨行動など)をディスプレイなどに表示することでリアルタイムに利用者に状態を通知する(ステップS12)。
【0071】
本実施形態のシステムは、以上の動作を発酵が終了するまで繰り返し、発酵が終了していない場合(ステップS13否定)はステップS3に戻り、発酵状態をリアルタイムで管理できるシステムとなる。また、本実施形態のシステムは、発酵が終了したと判断(ステップS13工程)した際には分析を終了する。ステップS3~S13を繰り返す間隔は等間隔であってもよいし、変動する間隔でもよい。ステップS3~S13を繰り返す間隔を変動させる場合、予測部での予測結果を用いてその間隔を変更してもよい。例えば予測部での予測結果の変動が激しい時は高頻度で繰り返し、変動が緩やかなときは低頻度で繰り返すなどしてもよい。
【0072】
また、本実施形態のシステムは、例えば、ステップS13において発酵状態の管理を続けると判断された際に、ステップS12までの結果に基づき、ステップS3ではなくステップS1に戻り、分析ガスの種類を増減又は変更して、発酵状態の分析を続行する構成としてもよい。
【0073】
<プログラム>
本実施形態のプログラムは、装置に、複数のターゲットガスのそれぞれに対するガスセンサチャネルの感度情報を含む感度情報群と、複数のガスセンサチャネルであって、複数のガスセンサチャネルの少なくとも一つが複数のターゲットガスのうち2種類以上のガスの濃度に対する感度を有しており、複数のガスセンサチャネルから取得した、発酵物質から発生したガスに応じてガスセンサチャネルから出力された測定信号を含む測定信号群と、を入力し、測定信号群に含まれる各測定信号の強度及び各測定信号間の強度比と、感度情報群と、を用いて、複数のターゲットガスのうちの少なくとも一つのガスの濃度を示す予測ガス濃度を予測し、予測ガス濃度を出力する工程を、実行させる。
【0074】
本実施形態のプログラムは、コンピュータに読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供されてもよい。ここで、記憶媒体は、「一時的でない有形の媒体」に、プログラムを記憶可能である。プログラムは、限定でなく例として、ソフトウェアプログラムやコンピュータプログラムを含む。
【0075】
なお、本開示は、前記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において様々な変形が可能である。すなわち、前記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。例えば、上述した各処理ステップは処理内容に矛盾を生じない範囲で任意に順番を変更し、又は並列に実行することができる。
【0076】
以上のように、本実施形態の発酵状態管理システム、発酵状態管理方法、及び、プログラムによれば、複数のターゲットガスに対する感度を有し、測定信号を発信できる複数のガスセンサチャネルを用い、測定信号群と、感度情報群と、を用いて、ターゲットガスの予測ガスや物質内濃度等の発酵物質の発酵状態を示す発酵状態情報を可視化し、利用者に通知することができる。また、本実施形態のシステム等によれば、複数のターゲットガスに対する感度を有し、測定信号を発信できる複数のガスセンサチャネルを用い、感度情報群を設定することで、専用のセンサへの取り換え等が不要であり、発酵物質や所望の発酵状態に応じて、管理対象となるターゲットガスを変更することができ、日本酒等多種の発酵物質に対して汎用性を有する。
【0077】
〔実施形態〕
本発明の実施形態による発酵状態管理システムについて清酒の醸造管理を例にとって
図4~
図9を用いて説明する。
【0078】
図4は、本実施形態の発酵状態管理システムを清酒の醸造に適用した際の概要を示す図である。
図4においては、発酵状態管理システム300は、ガス信号取得部10と、予測部20と、発酵部30と、表示部40と、を含んで構成される。発酵部30となる醸造タンクの中には清酒の原料となる醪が存在している。醪とは、清酒(日本酒)になる前段階の液体であり、酒母(酵母)、麹、蒸米、水を混ぜ合わせたものである。発酵中の醪からは複数のターゲットガス(本実施形態では、水、エタノール、カプロン酸エチル、酢酸イソアミル、アセトアルデヒド)が揮発している。醸造タンク外部に設置されたガス信号取得部10で、醸造タンク内のガスを検出できるように醸造タンク内のガスはガス採取手段(チューブとポンプ)14を用いてガス信号取得部10に引き込まれるようになっている。ガス信号取得部10で取得された測定信号群はインターネットなどを介して予測部(クラウド)20に送られ、予測部20にて各種の計算・予測を行い、その結果をスマートフォンなどの表示部40に表示するなどして利用者に通知するものである。
【0079】
以下、
図4に示す態様での使用を想定した場合の本実施形態のシステムの動作について例を挙げながら説明する。
まず、本発酵状態管理システム300を現場で稼働させる前に、管理対象とするターゲットガスのそれぞれに対する感度情報群を設定する。感度情報群は、例えば、ターゲットガスが単独で存在した場合のガス濃度に対するガス信号取得部が有する複数のガスセンサチャネルの感度情報であり、事前に測定した値や代表値などであり、ガス信号取得部のガスセンサチャネルの数はターゲットガスの種類の数以上あることが好ましい。
【0080】
本実施形態では、説明を簡易化するためターゲットガス及び分析ガスは、水、エタノール、カプロン酸エチル、酢酸イソアミル、アセトアルデヒドの5種類とし、ガス信号取得部のガスセンサチャネルは5つとする。カプロン酸エチルや酢酸イソアミルは清酒の香気成分として代表的なガスであり、酵母の働きによって発生するガスである。このような香気成分の濃度の動向を検知することで、酵母の働き具合をモニタリングすることができる。なお、実際に使用する際のターゲットガスの種類とガスセンサチャネルは5つに限定されることなく、増減することができる。
図4に示す発酵状態管理システム300における各ガスセンサチャネル(チャネル1~5)と反応するガス種、及び、各ガス種と反応するチャネル番号との関係について以下に示す。
【0081】
【0082】
【0083】
例えば、本実施形態では、ターゲットガスを前記5種類としたが、日本酒の管理という用途であっても、発生する香気成分は多岐に亘る。日本酒の香りは主に吟醸香、原料香、成熟香の3種に分かれており、本実施形態では酵母の働きに強く関連する吟醸香の代表的な香気成分であるエステル類(カプロン酸エチルと酢酸イソアミル)をターゲットガスに含めている。ただし、吟醸香は吟醸酒で重要視される香りであるが、最終的に作りたい日本酒が変わればターゲットガスを変えてもよい。例えば、純米酒であれば、原料である米や米麹からの香りである原料香をターゲットガスにすればよく、ターゲットガスが変わっても感度情報群を設定し直すことで本実施形態のシステムは稼働させることができる。また、日本酒の醸造が終わった後の貯蔵中における成分管理にも本実施形態のシステムを活用することができる。貯蔵は瓶詰めされた状態で行うこともあるが、発酵に用いた醸造タンクをそのまま貯蔵タンクとして用いて貯蔵することもあり、本発明の発酵状態管理システムを用いて貯蔵状態の管理も行うことができる。その場合、ソトロンやポリスルフィドなどの熟成香をターゲットガスに含めるとよい。
【0084】
図5に事前に設定された感度情報群(複数の感度情報の総称)の一例を示す。
図5においては、水、エタノール、カプロン酸エチル、酢酸イソアミル、アセトアルデヒドの各ターゲットガスに対して、一つのターゲットガスの濃度だけが変化した場合の、各ガスセンサチャネルのガス濃度に対する感度(単位濃度あたりのセンサ出力強度)を示している。本実施例では、センサはMSS嗅覚センサを用いており、出力は電圧で出力されることから、感度情報の単位はmV/ppmとなっている。本実施形態では各ガスセンサチャネルの出力がガス濃度に対して線形で変化するものとしているが、非線形のモデルを構築してもよい。この感度情報群の情報(各感度情報の強度と各感度情報間の強度比)は本発酵状態管理システムの予測部に予め記憶させておく。
【0085】
ここで、本実施形態では、5つのガスセンサチャネルのうちの4つ(チャネル1~4)は、全てのターゲットガスに対して感度を有しており、残りの1つ(チャネル5)は、水にのみ感度を有したチャネルとなっている。すなわち、水は全てのガスセンサチャネルに応答し、水を除くターゲットガス(エタノール、カプロン酸エチル、酢酸イソアミル、アセトアルデヒド)は4つのガスセンサチャネル(チャネル1~4)のみに応答する。
【0086】
感度情報群はシステム稼働後の初期段階の測定信号群を用いて調整を行ってもよい。また、本実施形態のシステムは、予測部において、感度情報群と測定信号群との情報を用いて測定信号群が測定された時点における各ターゲットガスの予測ガス濃度を予測するが、感度情報群の情報が実態と大きくずれていた場合には、正しい予測結果が出力されない。このため、予測結果が明らかに異常となる場合や、複数回測定した後の予測結果に連続性がない場合、バックグラウンドガスの影響がある場合などは、事前に設定された感度情報群の値の±50%以内などの制限を設けるなどして、感度情報群の情報を再学習することが好ましい。再学習の計算アルゴリズムは限定されず、機械学習など任意の方法で、任意の制限を設けることで回帰誤差が小さくなる値に追い込むことができる。
【0087】
つぎに、本実施形態のシステムの利用者は、ガス信号取得部10を発酵部となる清酒の醸造タンク30に設置し、醸造タンク内のガスがガス信号取得部10で検出できる形態でシステムを稼働する。システムを稼働すると、醸造タンク30内に存在するターゲットガスを含む混合ガスに由来する測定信号群yがガス信号取得部10により測定される。
図6に本実施形態の発酵状態管理システムで取得される測定信号群y、環境温度補正された測定信号群yc、参照信号補正された測定信号群zを示す。
図6の実線は一度の測定において、5つのガスセンサチャネルで測定された測定信号群yを示す。各ガスセンサチャネルにおける測定は全て同時に行われる。
【0088】
ついで、測定信号群yの環境温度補正を行う。ガス信号取得部10にはガス信号取得部の内部環境温度又は外部環境温度を測定する環境温度取得部12が存在しており、環境温度取得部12で取得した環境温度に基づいて、測定信号群yの温度補正を予測部20にて行う。ここでの温度補正はあくまでもガス信号取得部10のガスセンサチャネルが有する温度依存性を補正することが目的である。この温度補正は、事前に各ガスセンサチャネルの温度依存性(温度変化に対するガスセンサチャネル出力の変化)の情報を設定しておくことで行われる。環境温度補正は、測定された環境温度に対して各ガスセンサチャネルの出力を調整するという一般的なものであるため詳細は省略する。なお、
図6中の破線は環境温度補正後の測定信号群ycを示す。
【0089】
ここで、ガス信号取得部10の各ガスセンサチャネルは例えば下記式1のような線形モデルにより混合ガスの測定信号y1、y2、y3、y4、y5を出力している。なお、以下においてはガスセンサチャネル1から出力される測定信号y1に対応する式1のみを示し、ガスセンサチャネル2~5(測定信号y2~y5)に対応する式は省略する。また、測定信号y1、y2、y3、y4、y5を総称して測定信号群yと称する。なお、添字はガスセンサチャネルの番号を意味しており、y及びa、b、c、d、eはガスセンサチャネル毎に異なる値である。
【0090】
【数1】
また、測定信号群ycの記述は省略するが、測定信号群yを環境温度補正した測定信号群ycに対しても同様に記述できる。
【0091】
この測定信号群yや測定信号群ycをそのまま用いて予測部にて各ターゲットガスの予測ガス濃度(すなわちA,B,C,D,E)を予測してもよいが、より予測精度を向上させるために、本実施形態では、ガスセンサチャネル5の信号を参照信号として扱い、残りの4つの信号を予測部にて補正する。ここで、ガスセンサチャネル5は水にのみ感度を有するチャネルであるので、このチャネルからの測定信号は醸造タンク内にある水蒸気の量を示している。したがって、水の濃度Eは機械学習を行う前に求めることができるので、残りの4つのガスセンサチャネルでは、混合ガスの測定信号から水の寄与分を除去した測定信号で構成された測定信号群zを生成する(例えばガスセンサチャネル1ではz
1=y
1-e
1Eの関係)。すなわち残りの4つのガスセンサチャネルの測定信号z
1、z
2、z
3、z
4に対するモデル式は、式2~式5のようになる。また、測定信号群zの各ガスセンサチャネルの測定信号は
図6の太実線のような値となる。なお、ここでは水の寄与分はガスセンサチャネル5の結果より既知と扱っているため測定信号z
5は消去されている。
【0092】
【0093】
つぎに、測定信号群z及び感度情報群を用いて、醸造タンク30内に存在する各ターゲットガスの予測ガス濃度を予測部20で予測する。この予測は、機械学習やディープラーニングなどを用いるなど計算のアルゴリズムは限定されず、任意のアルゴリズムを用いてその時点で学習してあった情報からの誤差が最も小さくなる混合ガスの構成比と濃度を採用するなどして行われる。本実施形態においては、ガスセンサチャネル1~4に対して、式2~式5の誤差が最も小さくなるような予測ガス濃度A,B,C,Dを回帰により求める。
図7に求めた各ターゲットガスの予測ガス濃度(本実施形態の発酵状態管理システムで予測された各ターゲットガスの予測ガス濃度)を示す。本実施形態では全て線形モデルを用いて計算しているが、非線形モデルを用いてもよい。なお、
図7中の水の濃度はy
5又はyc
5から求めた値を表示している。
【0094】
ついで、例えば醸造タンク30に備え付けられている発酵物質温度取得部32にて測定又は予測された醪の発酵物質温度情報を用いて、予測した少なくとも一つのターゲットガス(対象ガス)の予測ガス濃度から、そのガス物質の醪中での濃度(すなわち発酵物質内濃度)を予測する。本実施形態では前記対象ガスをエタノールとする。
【0095】
醪中(液体)のエタノールから揮発するエタノールガスの濃度は、液中濃度とエタノールの蒸気圧を用いて例えば式6のように表現できると仮定する。エタノールの蒸気圧は液温度の関数であり、例えばアントワン式を用いると式7のように表現することができる。
【0096】
【0097】
係数fやアントワン定数Aant、Bant、Cantは用いる単位やシステムを稼働してる系の形態に応じて値が異なるため、事前に適正値を設定しておくか、まずは任意の値を設定しておき、この後に行う校正で適正値を求めてもよい。また、前記式6や式7は経験式であり、モデルの一例であるため、システムを稼働する系に合わせて独自のモデル式を用いてもよい。
【0098】
酒税法において、温度15℃におけるエタノール濃度(液中)をアルコール分と呼ぶため、求めた醪中におけるエタノール濃度を温度15℃の場合の数値に換算したものがアルコール分となる。
【0099】
また、得られたアルコール分の校正を行ってもよい。この校正では、ガス信号取得部とは異なる手段で取得した情報を用いて、予測部で予想したアルコール分の校正を行う。異なる手段とは、例えば醪をサンプリングし、蒸留後に浮標や振動式密度計を用いて測定をおこなって取得することができる。異なる手段によって得られたアルコール分と予測部で予測されたアルコール分とに差異がある場合は、その差異分を打ち消すようにオフセットをかけたり、異なる手段による2点以上の測定結果を用いて、傾き差を打ち消すようにゲインをかけたりするなど、予測部で予測されたアルコール分を校正することができる。
【0100】
図4において、表示部40では、予測部での予測分析の結果等(各測定値、各予測値、発酵状態、推奨行動)を利用者のスマートフォンに表示することでリアルタイムに利用者に状態を通知する。通知する内容は、各ターゲットガスの予測ガス濃度やアルコール分の他、アルコール分に関連する日本酒度などもあってよく、さらに酵母の働きの様子や発酵状態などを表現していてもよい。酵母の働きや発酵状態は、例えば、酵母の誘導期、対数増殖期、停止期、死滅期などを表現していてもよく、また、発酵の初期、発酵不足、適切な発酵、過発酵などを表現していてもよい。また、温度調節の指示、水の添加の指示、醪の攪拌など、利用者への推奨行動もあってよい。
【0101】
上述の動作を発酵が終了するまで任意の間隔で繰り返すことで、発酵状態をリアルタイムで管理できるシステムとなる。
図8は本実施形態のシステムの稼働を開始してから終了するまでに予測部で予測された各ターゲットガスの経時変化を示している。また
図9は、予測された醪中のアルコール分の経時変化を示している。
【0102】
また、本実施形態のシステムによれば、式8で示されるa-b直線というアルコール分とボーメ度との関係式を用いることで、予測されたアルコール分から日本酒度をさらに予想することもできる。なお、日本酒度はボーメ度を-10倍した値であり、日本酒度を予測する場合は、定数αと定数βを事前に予測部に設定しておく。
【0103】
【0104】
以上のように、本発明の実施形態によれば、日本酒の醸造で発生する香気成分を含む複数のガスから醪中の状態(酵母の働き)を可視化し管理を容易にすることができる。
【符号の説明】
【0105】
100、300:発酵状態管理システム、10:ガス信号取得部、12:環境温度取得部、20:予測部、30:発酵部、32:発酵物質温度取得部、40:表示部、IN1:感度情報群、IN2:測定信号群(y)、IN3:時刻情報、IN4:内部環境温度情報、IN5:外部環境温度情報、IN6:発酵物質温度情報、IN7:他の情報、OP1:予測ガス濃度、OP2:発酵物質内濃度、OP3:測定信号群(yc)、OP4:測定信号群(z)