(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157295
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】転炉排滓用防護設備および転炉精錬方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/46 20060101AFI20241030BHJP
F27D 3/15 20060101ALI20241030BHJP
F27D 25/00 20100101ALI20241030BHJP
【FI】
C21C5/46 Z
F27D3/15 S
F27D25/00
C21C5/46 103Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071576
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 光希
【テーマコード(参考)】
4K055
4K056
4K070
【Fターム(参考)】
4K055AA02
4K055LA01
4K056AA02
4K056BA06
4K056CA02
4K056EA02
4K070BC11
4K070BC20
4K070DA10
(57)【要約】
【課題】防煙シャッターが変形することなく開閉可能な転炉排滓用防護設備および転炉精錬方法を提供する。
【解決手段】、転炉内に溶銑を残したまま排滓する際、スラグが炉前側作業床へ流出することを防止するための防護設備であって、転炉側から耐熱板、断熱材およびシャッター本体の順に設置されている設備である。転炉内に溶銑を残したまま排滓する際、上記転炉排滓用防護設備を用いて、スラグが炉前側作業床へ流出することを防止する転炉精錬方法であって、炉前に設置したシャッター本体の転炉側に断熱材を挟んで耐熱板を取り付ける工程と、熱によって損傷した耐熱板を撤去する工程と、を含む方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉内に溶銑を残したまま排滓する際、スラグが炉前側作業床へ流出することを防止するための防護設備であって、
転炉側から耐熱板、断熱材およびシャッター本体の順に設置されている、転炉排滓用防護設備。
【請求項2】
前記断熱材の熱通過率Kが8W/(m2・℃)以下である、請求項1に記載の転炉排滓用防護設備。
【請求項3】
さらに、前記耐熱板と前記断熱材との間にシールプレートを配している、請求項1に記載の転炉排滓用防護設備。
【請求項4】
前記耐熱板は前記シャッター本体に螺子で締結されており、前記断熱材には前記螺子が貫通する菅座が埋め込まれている、請求項1に記載の転炉排滓用防護設備。
【請求項5】
前記耐熱板は辺長が0.3~0.9mの範囲にあり、厚さtが20~30mmの範囲の直方体であって、耐熱板どうしのすきまが辺長の6/1000倍以上、厚さtの1/2倍以下である、請求項1に記載の転炉排滓用防護設備。
【請求項6】
転炉内に溶銑を残したまま排滓する際、請求項1~5のいずれか1項に記載の転炉排滓用防護設備を用いて、スラグが炉前側作業床へ流出することを防止する転炉精錬方法であって、
炉前に設置したシャッター本体の転炉側に断熱材を挟んで耐熱板を取り付ける工程と、
熱によって損傷した耐熱板を撤去する工程と、を含む、転炉精錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼の転炉精錬工程における転炉排滓時に用いる防護設備および転炉排滓時に炉前側作業床へのスラグ流出を防止する転炉精錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の転炉設備では、精錬中に発生するダストの拡散を抑え、転炉排滓時に炉前側作業床への輻射熱およびスラグ流出を防ぐため、開閉可能な一対の移動壁が設けられている。この移動壁を防煙シャッターという。防煙シャッターは、溶銑やスクラップなどの鉄源の装入時(以下、単に、装入時ともいう。)には開かれ、吹錬、出鋼および排滓の際には閉じられる。
【0003】
一方、転炉精錬操業では、従来、吹錬の間に溶銑を転炉内に残したままスラグを排滓する、いわゆる、中間排滓が行われている。その際、転炉を炉前方向に勢いよく傾動させて、スラグを排滓する場合が多い。そのため、たとえば、特許文献1では、防煙シャッターの召合せ部にスラグが付着することを防ぐため、召合せ部を炉口中心位置から水平方向にずらす方法がとられている。
【0004】
また、炉口からの輻射熱や排滓されるスラグの衝突により、防煙シャッターに多大な熱負荷が生じる。そのため、たとえば、特許文献2や3では、防煙シャッターの受熱面は耐熱板で構成されており、特に熱負荷の大きいスラグ衝突部は防煙シャッターの手前に防護壁を設け、防煙シャッターを保護する方法が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-57496号公報
【特許文献2】特開2017-66500号公報
【特許文献3】特開2021-102795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来技術には以下のような問題があった。すなわち、炉口からの輻射熱やスラグの衝突による熱が受熱面の耐熱板から防煙シャッターを構成するフレーム部に伝わってしまう。そのため、フレーム部に熱応力による変形や亀裂が生じることで、防煙シャッターが開閉不能になるといった問題点があった。
【0007】
本発明は、上記した従来の課題を解決し、防煙シャッターが変形することなく開閉可能な転炉排滓用防護設備および転炉精錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる転炉排滓用防護設備は、転炉内に溶銑を残したまま排滓する際、スラグが炉前側作業床へ流出することを防止するための防護設備であって、転炉側から耐熱板、断熱材およびシャッター本体の順に設置されていることを特徴とする。
【0009】
なお、本発明にかかる転炉排滓用防護設備は、
(a)前記断熱材の熱通過率Kが8W/(m2・℃)以下であること、
(b)さらに、前記耐熱板と前記断熱材との間にシールプレートを配していること、
(c)前記耐熱板は前記シャッター本体に螺子で締結されており、前記断熱材には前記螺子が貫通する菅座が埋め込まれていること、
(d)前記耐熱板は辺長が0.3~0.9mの範囲にあり、厚さtが20~30mmの範囲の直方体であって、耐熱板どうしのすきまが辺長の6/1000倍以上、厚さtの1/2倍以下であること、
などが好ましい解決手段になり得る。
【0010】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる転炉精錬方法は、転炉内に溶銑を残したまま排滓する際、上記転炉排滓用防護設備のいずれかを用いて、スラグが炉前側作業床へ流出することを防止する転炉精錬方法であって、炉前に設置したシャッター本体の転炉側に断熱材を挟んで耐熱板を取り付ける工程と、熱によって損傷した耐熱板を撤去する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる転炉排滓用防護設備および転炉精錬方法によれば、防煙シャッターのフレームの温度が一定値を超えないようにでき、フレームの熱変形により防煙シャッターが走行不能になることを回避できるようになった。合わせて、耐熱板の変形、亀裂等を管理し、定修時に交換を行うことができるので、トラブルによる生産影響が少ないなど、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる転炉排滓用防護設備を示す概略図である。
【
図2】上記実施形態にかかる耐熱板とフレームとの接続方法の一例を示す概略断面図である。
【
図3】転炉排滓作業後の耐熱板の状況を説明する部分正面図であって、(a)は、従来のパネルの耐熱板を表し、(b)は細分化したパネルの耐熱板を表す。
【
図4】上記実施形態に用いる断熱材の厚さと熱伝導率との関係を示すグラフである。
【
図5】転炉精錬中の耐熱板の温度推移の一例を表すグラフである。
【
図6】実測結果をもとに有限要素法(FEM)解析によって温度分布を表した概略図であって、(a)は耐熱板を示し、(b)はフレームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態にかかる転炉排滓用防護設備を示す概略図である。転炉設備は、転炉1が存在する転炉配置部と、転炉配置部に隣接し、溶銑等の装入を行う炉前と、を有する。炉前には炉前側作業床4が設けられている。
図1は排滓中の様子を示しており、溶銑L上のスラグSを炉前側に排出している。本実施形態では、転炉1内に溶銑Lを残したまま、転炉1を炉前側に傾動させ、スラグSを排出する、つまり、中間排滓が行われる。
【0015】
転炉の炉前には操業中に炉前側作業床4を転炉1から遮断する一対の防煙シャッター2が設けられている。防煙シャッター2は、車輪と電動機からなる走行装置によって走行レール上を移動することにより開閉される。本実施形態では、防煙シャッター2のフレーム2A(シャッター本体)に耐熱板3が取り付けられている。
【0016】
本実施形態にかかる耐熱板3は、
図2に示すように、断熱材5を介してフレーム2Aに接続し固定されている。耐熱板3は、たとえば、中間排滓時に転炉1の炉口から炉前側作業床4に向かう輻射熱および流出するスラグを遮断している。耐熱板3はダクタイル鋳鉄もしくは耐熱鋳鋼を用いることが好ましい。また、耐熱板3の厚さは、20mm未満になると鋳造の難易度が高く、材料欠陥などのリスクが上がるため20mm以上とした。また、耐熱板3の厚さは、30mmを超えると、表裏の温度差が大きくなり、熱応力によって亀裂が生じるリスクが上がるため30mm以下とした。また、耐熱板3に、たとえば、ダクタイル鋳鉄を用いる場合、その熱膨張係数は10.0×10
-6/Kである。転炉からの熱負荷による耐熱板の温度上昇を600℃程度とすると、隣り合う耐熱板3どうしには、熱膨張を考慮し、耐熱板3の辺長1000mmにつき6mm以上の隙間を設けることが好ましい。隙間が広すぎると隙間から溶滓や火花が漏出するおそれがあるため、隙間は耐熱板厚さの1/2倍以下(耐熱板厚さが20mmであれば10mm以下)にすることが好ましい。
【0017】
耐熱板3のき裂や変形の原因である熱応力を抑制するためには、耐熱板3内の温度差を小さくすることが有効である。防煙シャッター2においては輻射熱と溶滓衝突が主な熱負荷になる。輻射熱の場合、耐熱板3は一様に温度が上昇するため温度差は生じにくい。一方で、溶滓衝突の場合、溶滓が付着した部分と付着していない部分では大きな温度差が生じる。そのため、耐熱板3に生じる熱応力も増大する。そこで、溶滓衝突を受ける範囲の耐熱板を細分化することで、損傷範囲を抑えるとともに一枚当たりの変形量も抑えることができる。
【0018】
耐熱板3のパネルを細分化する一例を
図3に示す。
図3(a)は従来のパネルを示しており、辺長0.9m×0.9mの正方形のパネル3Aである。
図3(a)の例では、スラグの衝突範囲Dが一部でもかかっているパネル4枚、つまり、0.9m×0.9m×4に損傷したパネル3Cが生じている。
図3(b)は、細分化したパネル3Bとして、0.3m×0.9mとしている。スラグの衝突範囲Dは
図3(a)と同じであるものの、損傷したパネル3Cは、0.3m×0.9m×6枚となる。したがって、耐熱板の細分化により損傷したパネル3Cの面積が半減している。
【0019】
したがって、耐熱板3は、辺長が0.3~0.9mの範囲にあり、厚さが20~30mmの範囲の直方体であることが好ましい。辺長が下限を下回ると耐熱板3の設置数が多くなりすぎ、作業工数の増加を招くおそれがある。
【0020】
本実施形態で用いる断熱材5は想定される熱負荷によって厚さおよび物性を選定する必要がある。フレーム2Aの材料であるSS400は300~400℃を超えると急激に機械的強度が低下する。そのため、フレームの温度は200℃以下になるよう設計するのが好ましい。
図4に断熱材5の熱伝導率λと厚さtの関係を示す。発明者の検討では、操業中の温度の実測結果からフレーム2Aの温度を200℃以下にするためには断熱材5の熱通過率K(=λ/t)を8W/(m
2・℃)以下とする必要があることが分かった。
【0021】
断熱材5は定型断熱材と不定形断熱材に分類される。定型断熱材を用いる場合は耐熱板と断熱材は接着せず、取替は容易である。定型断熱材の製作には専用の型が必要でありコストがかかる。不定形断熱材の場合、流し込みや吹き付けなどの工法が一般的である。耐熱板3とフレーム2Aとの間に不定形断熱材を直接施工すると耐熱板3に固着する。そのため、耐熱板3と断熱材5の間にシールプレート6を設け、シールプレート6に不定形断熱材を施工することで耐熱板3単体での取替が可能になる。
【0022】
また、断熱材5の多くは脆性材料であり、ボルト7の締付力で破断する恐れがある。そのため、ボルト7を断熱材の厚さ以上の長さの管座9に通して締結することで断熱材に締付力がかからないようにできる。この手法では防煙シャッター2走行時の振動による断熱材のガタつきが発生するため、断熱材は接着剤等によりフレームに接着させることが好ましい。
【実施例0023】
図1のような構成の転炉設備をもつ工場において、防煙シャッター2が受ける熱負荷を明らかにするため、既設の防煙シャッター2に温度計測用の耐熱板を設置し、温度計測を行った。測定時の転炉操業方式は最も熱負荷が大きくなるWS(ダブルスラグ法)と呼ばれる方式である。すなわち、転炉に溶銑を装入し、一次吹錬として脱Si・脱P吹錬を行い、中間排滓Rmとして脱Pスラグを排出し、二次吹錬として脱C吹錬し、その後出鋼し、最終排滓Rfを行う、一連のプロセスとするものである。防煙シャッター2は中間排滓Rm(7~10分)と最終排滓Rf(3~5分)のプロセスで炉口からの輻射(炉口温度1600℃)とスラグの衝突による熱負荷を受ける。計測位置は最も熱負荷が大きくなるスラグの衝突を受ける部分の耐熱板3のパネルであって、輻射熱が最大となる炉口の正面で行った。
図5に、この1サイクルの測温実績について一例を示す。この結果から、中間排滓Rmおよび最終排滓Rfの時に温度ピークが現れることがわかる。連続で操業することで徐々に防煙シャッター2が蓄熱していき、受熱量と放熱量が釣り合った時に、耐熱板3の温度は最大約600℃に達していることがわかった。この計測結果をもとに有限要素法(FEM)解析を行い、断熱材5の選定を実施した。
図6に断熱材5を熱伝導率λ=0.2W/(m・℃)、厚さ30mmとした解析結果を示す。この断熱材5の熱通過率は
図4にプロットするように6.67W/(m
2・℃)である。耐熱板5の最高温度600℃に対し、フレーム2Aの最高温度150℃となる良好な結果を得られた。
【0024】
耐熱板3は溶滓衝突と炉口からの輻射熱を受ける範囲を覆う必要があるため、炉口直径の2倍程度とするのが好ましい。本実施例では炉口直径4.6mに対し耐熱板範囲9.5m×10.0mとした。
【0025】
また、耐熱板3を過度に細分化した場合、例えば0.1m×0.1mとしたパネルの場合、ボルト本数は4本/枚×1296枚の計5184本必要であり、本実施例の耐熱板0.9m×0.3mを用いた場合と比較すると大幅に増加する。ボルト本数が増えると耐熱板3の取付作業工数が増加するだけでなく、受熱面に対するボルト面積も増加するため、耐熱性能の悪化に繋がる。
【0026】
断熱材5がない場合、フレーム2Aの温度が550℃程度になるため、温度上昇によりフレーム2Aの材料であるSS400の引張強度が400MPaから約150MPaに低下する。フレーム2Aの材料であるSS400は耐クリープ性が低いため、一般的には350℃以上の環境での構造物としての使用は推奨されない。耐クリープ性を考慮して耐熱鋼を採用する場合には、SS400に比べ費用が大幅に増加する。