(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157327
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】地絡遮断回路
(51)【国際特許分類】
H02P 29/024 20160101AFI20241030BHJP
【FI】
H02P29/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071625
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】日比野 徳亮
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文彦
(72)【発明者】
【氏名】洞 泰志
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功史
(72)【発明者】
【氏名】山下 正治
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA20
5H501CC04
5H501DD08
5H501HA04
5H501JJ17
5H501LL22
5H501LL51
5H501MM02
(57)【要約】
【課題】回路設計の条件を緩和することができる地絡遮断回路を提供する。
【解決手段】地絡遮断回路80は、主電源から電力を供給するための2つの電源ラインを含む操舵装置に適用される。地絡遮断回路80は、切替スイッチ81と、切替スイッチ81を切り替えるように動作するアナログ回路82と、切替スイッチ81を切り替えるための処理を実行する処理回路83とを含む。アナログ回路82は、切替スイッチ81を切り替える動作をする地絡判定回路85と、切替スイッチ81の遮断状態をラッチするラッチ回路86とを含む。処理回路83は、切替スイッチ81が遮断状態へ切り替えられることを条件として、解除信号Rstをアナログ回路82に対して出力する。アナログ回路82は、ラッチ中、解除信号Rstを入力することを条件として、ラッチを解除して、切替スイッチ81を導通状態へ切り替える動作をするように構成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の電源から供給される電力を消費して駆動するモータを有するとともに、前記電源から電力を前記モータに供給するための複数の電源ラインを含む車両用の操舵装置に適用される地絡遮断回路であって、
前記複数の電源ラインのうちの少なくとも1つである特定の電源ラインの導通を許容する導通状態と、前記特定の電源ラインの導通を遮断する遮断状態とを切り替える切替スイッチと、
前記特定の電源ラインにおける前記切替スイッチと前記モータとの間を流れる電流の大きさに基づいて、前記切替スイッチを前記遮断状態へ切り替えるように動作するアナログ回路と、
前記切替スイッチを前記導通状態へ切り替えるための処理を実行する処理回路と、を含み、
前記アナログ回路は、
前記切替スイッチが前記導通状態の場合、地絡が生じていれば達し得る値である閾値以上の前記電流が判定時間の間継続して流れたことを条件として、前記切替スイッチを前記遮断状態へ切り替える動作をする地絡判定回路と、
前記切替スイッチの前記遮断状態をラッチするラッチ回路と、を含み、
前記処理回路は、前記切替スイッチが前記遮断状態へ切り替えられることに対応して、前記ラッチを解除するための解除信号を、前記アナログ回路に対して少なくとも1回出力する解除信号出力処理を実行することを含み、
前記アナログ回路は、前記ラッチ中、前記解除信号を入力することを条件として、前記ラッチを解除して、前記切替スイッチを前記導通状態へ切り替える動作をするように構成されている地絡遮断回路。
【請求項2】
前記解除信号出力処理は、前記解除信号を複数回出力する処理である請求項1に記載の地絡遮断回路。
【請求項3】
前記車両用の操舵装置は、前記切替スイッチによる前記遮断状態がフェール時間の間継続して維持されたことを条件として、前記車両用の操舵装置のフェール状態を設定するように構成されており、
前記解除信号出力処理は、前記解除信号を複数回出力する場合、前記解除信号を一定のインターバルを空けて出力する処理であり、
前記インターバルは、前記判定時間よりも長時間、かつ、前記フェール時間よりも短時間である請求項2に記載の地絡遮断回路。
【請求項4】
前記判定時間は、前記特定の電源ラインに突入電流が生じたとして、当該突入電流が収まるまでの収束時間よりも短時間であり、
前記インターバルは、前記収束時間よりも長時間である請求項3に記載の地絡遮断回路。
【請求項5】
前記解除信号は、パルス信号である請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の地絡遮断回路。
【請求項6】
前記処理回路は、前記アナログ回路が前記切替スイッチを前記遮断状態へ切り替える動作をすることを条件として、前記解除信号出力処理を実行する請求項1に記載の地絡遮断回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地絡遮断回路に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両には、特許文献1に記載の車両用の操舵装置が搭載される。この車両用の操舵装置は、車両の電源に電源ラインを介して接続された電源回路を含んでいる。この電源からの電力は、電源回路を介して車両用の操舵装置のモータに供給されるように構成されている。車両用の操舵装置では、電源回路からモータへと電力が供給される電源ラインの途中において、地絡が生じたことを検出する場合、装置保護の観点から保護機能が実装されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地絡が生じた場合には、より早い対処とともに、地絡が生じたか否かの誤検出の低減が求められている。地絡が生じたか否かの誤検出を低減する場合、地絡が生じたことの検出にかかる時間を長くすればよいが、地絡への対処が遅れてしまう。この場合、地絡電流に耐えて故障しないようにするため、回路設計の条件が制限される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決し得る地絡遮断回路は、車両の電源から供給される電力を消費して駆動するモータを有するとともに、前記電源から電力を前記モータに供給するための複数の電源ラインを含む車両用の操舵装置に適用される。前記地絡遮断回路は、前記複数の電源ラインのうちの少なくとも1つである特定の電源ラインの導通を許容する導通状態と、前記特定の電源ラインの導通を遮断する遮断状態とを切り替える切替スイッチと、前記特定の電源ラインにおける前記切替スイッチと前記モータとの間を流れる電流の大きさに基づいて、前記切替スイッチを前記遮断状態へ切り替えるように動作するアナログ回路と、前記切替スイッチを前記導通状態へ切り替えるための処理を実行する処理回路と、を含み、前記アナログ回路は、前記切替スイッチが前記導通状態の場合、地絡が生じていれば達し得る値である閾値以上の前記電流が判定時間の間継続して流れたことを条件として、前記切替スイッチを前記遮断状態へ切り替える動作をする地絡判定回路と、前記切替スイッチの前記遮断状態をラッチするラッチ回路と、を含み、前記処理回路は、前記切替スイッチが前記遮断状態へ切り替えられることに対応して、前記ラッチを解除するための解除信号を、前記アナログ回路に対して少なくとも1回出力する解除信号出力処理を実行することを含み、前記アナログ回路は、前記ラッチ中、前記解除信号を入力することを条件として、前記ラッチを解除して、前記切替スイッチを前記導通状態へ切り替える動作をするように構成されている。
【0006】
上記構成によれば、アナログ回路は、特定の電源ラインに地絡が生じている蓋然性が高い場合、切替スイッチを遮断状態へ切り替えることによって、特定の電源ラインの導通を遮断することができる。これにより、特定の電源ラインに地絡が生じているとしても、他の電源ラインへの影響を抑制することによって、まずは車両用の操舵装置への電力供給が維持される。これに対して、アナログ回路は、特定の電源ラインに地絡が生じている蓋然性が高い場合であっても、処理回路から解除信号を入力することによって、遮断状態へ切り替えた切替スイッチを一旦は導通状態へ切り替えることができる。その後、アナログ回路は、特定の電源ラインで実際に地絡が生じていれば、切替スイッチを遮断状態に再度切り替えて、特定の電源ラインの導通を遮断することができる。一方、アナログ回路は、突入電流又はノイズの影響で瞬間的に閾値以上の電流が生じたことに起因して実際は地絡が生じていなければ、切替スイッチを導通状態に維持して、特定の電源ラインの導通を許容する状態に戻すことができる。これにより、切替スイッチを遮断状態へ切り替えるといった地絡が生じた場合へのより早い対処をするなかで、地絡が生じたか否かの誤検出を低減することができる。したがって、回路設計の条件を緩和することができる。
【0007】
上記地絡遮断回路において、前記解除信号出力処理は、前記解除信号を複数回出力する処理であることが好ましい。
上記構成によれば、特定の電源ラインにおいて、実際は地絡が生じていない場合、切替スイッチを導通状態に切り替える精度を高めることができる。これは、地絡が生じたか否かの誤検出を低減するのに効果的である。
【0008】
上記地絡遮断回路が適用される前記車両用の操舵装置は、前記切替スイッチによる前記遮断状態がフェール時間の間継続して維持されたことを条件として、前記車両用の操舵装置のフェール状態を設定するように構成されており、前記解除信号出力処理は、前記解除信号を複数回出力する場合、前記解除信号を一定のインターバルを空けて出力する処理であり、前記インターバルは、前記判定時間よりも大きい、かつ、前記フェール時間よりも小さいことが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、特定の電源ラインにおいて、実際に地絡が生じた場合、適用先である車両用の操舵装置のフェール状態を好適に設定することができる。一方、特定の電源ラインにおいて、実際は地絡が生じていない場合、適用先である車両用の操舵装置のフェール状態の不要な設定が抑制される。これは、車両用の操舵装置におけるフェール状態の設定の適正化を図るのに効果的である。
【0010】
上記地絡遮断回路において、前記判定時間は、前記特定の電源ラインに突入電流が生じたとして、当該突入電流が収まるまでの収束時間よりも短時間であり、前記インターバルは、前記収束時間よりも長時間であることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、特定の電源ラインにおいて、地絡が生じている蓋然性が高い場合、より早く対処することができる。これは、回路設計の条件を緩和するのに効果的である。
例えば、地絡遮断回路では、特定の電源ラインにおいて、実際に地絡が生じた場合であっても、より早く対処ができるのであれば、より短周期駆動で、より省電力で、より小型の切替スイッチを採用することができる。つまり、切替スイッチは、トランジスタの場合、例えば、MOS-FETを採用することができる。これは、IGBT等を採用する場合と比較して、短周期駆動、省電力、及び小型の観点で有利である。
【0012】
上記地絡遮断回路において、前記解除信号は、パルス信号であることが好ましい。
上記構成によれば、切替スイッチの遮断状態を解除するために要する時間をより短くすることができる。これは、特定の電源ラインにおいて、実際に地絡が生じた場合、切替スイッチが導通状態に切り替えられる時間をより短くするのに効果的である。
【0013】
上記地絡遮断回路において、前記処理回路は、前記アナログ回路が前記切替スイッチを前記遮断状態へ切り替える動作をすることを条件として、前記解除信号出力処理を実行することが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、処理回路は、特定の電源ラインにおいて、地絡が生じた蓋然性が高い場合、アナログ回路の状態を追従して解除信号を出力する。これにより、処理回路が解除信号を出力するタイミングの適正化を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の地絡遮断回路によれば、回路設計の条件を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態にかかる操舵装置の構成を示す図である。
【
図2】実施形態にかかる車両用電源システムの構成を示す図である。
【
図3】
図2の車両用電源システムの電気的構成を示すブロック図である。
【
図5】(a)は電流検出器の検出状態、(b)は地絡判定回路のラッチ信号の出力状態、(c)はラッチ回路のスイッチ信号の出力状態をそれぞれ説明する図である。
【
図6】地絡が生じている場合について、(a)は処理回路の処理、(b)はアナログ回路の動作をそれぞれ説明する図である。
【
図7】地絡が生じていない場合について、(a)は処理回路の処理、(b)はアナログ回路の動作をそれぞれ説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態に係る地絡遮断回路を説明する。
図1に示すように、操舵制御装置1は、操舵装置2を制御対象とする。操舵装置2は、ステアバイワイヤ式の車両用の操舵装置として構成されている。操舵装置2は、操舵ユニット4と、転舵ユニット6とを備えている。操舵ユニット4は、操舵部材である車両のステアリングホイール3を介して運転者により操舵される。転舵ユニット6は、運転者により操舵ユニット4に入力される操舵に応じて車両の左右の転舵輪5を転舵させる。本実施形態の操舵装置2は、例えば、操舵ユニット4と、転舵ユニット6との間の動力伝達路が機械的に常時分離した構造を有している。後述の操舵アクチュエータ12と、後述の転舵アクチュエータ31との間の動力伝達路は、機械的に常時分離した構造とされている。
【0018】
操舵ユニット4は、ステアリング軸11と、操舵アクチュエータ12とを備えている。ステアリング軸11は、ステアリングホイール3に連結されている。操舵アクチュエータ12は、操舵側モータ13と、操舵側減速機構14とを有している。操舵側モータ13は、ステアリング軸11を介してステアリングホイール3に対して操舵に抗する力である操舵反力を付与する反力モータである。操舵側モータ13は、例えば、ウォームアンドホイールからなる操舵側減速機構14を介してステアリング軸11に連結されている。本実施形態の操舵側モータ13には、例えば、三相のブラシレスモータが採用されている。本実施形態において、操舵側モータ13は、操舵アクチュエータ12の駆動源であるモータの一例である。
【0019】
転舵ユニット6は、ピニオン軸21と、転舵軸であるラック軸22と、ラックハウジング23とを備えている。ピニオン軸21とラック軸22とは、所定の交差角をもって連結されている。ピニオン軸21に形成されたピニオン歯21aとラック軸22に形成されたラック歯22aとを噛み合わせることによりラックアンドピニオン機構24が構成されている。ピニオン軸21は、転舵輪5の転舵位置である転舵角に換算可能な回転軸に相当する。ラックハウジング23は、ラックアンドピニオン機構24を収容している。
【0020】
ピニオン軸21のラック軸22と連結される側と反対側の一端は、ラックハウジング23から突出している。ラック軸22の両端は、ラックハウジング23の軸方向の両端から突出している。ラック軸22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド25を介してタイロッド26が連結されている。タイロッド26の先端は、それぞれ左右の転舵輪5が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。
【0021】
転舵ユニット6は、転舵アクチュエータ31を備えている。転舵アクチュエータ31は、転舵側モータ32と、伝達機構33と、変換機構34とを備えている。転舵側モータ32は、伝達機構33及び変換機構34を介してラック軸22に対して転舵輪5を転舵させる転舵力を付与する転舵モータである。転舵側モータ32は、例えば、ベルト伝達機構からなる伝達機構33を介して変換機構34に対して回転を伝達する。伝達機構33は、例えば、ボールねじ機構からなる変換機構34を介して転舵側モータ32の回転をラック軸22の往復動に変換する。本実施形態の転舵側モータ32には、例えば、三相のブラシレスモータが採用されている。本実施形態において、転舵側モータ32は、転舵アクチュエータ31の駆動源であるモータの一例である。
【0022】
操舵装置2では、運転者によるステアリング操舵に応じて転舵アクチュエータ31からラック軸22にモータトルクが転舵力として付与されることで、転舵輪5の転舵角が変更される。このとき、操舵アクチュエータ12からは、運転者の操舵に抗する操舵反力がステアリングホイール3に付与される。これにより、操舵装置2では、操舵アクチュエータ12から付与されるモータトルクである操舵反力により、ステアリングホイール3の操舵に必要な操舵トルクThが変更される。
【0023】
なお、ピニオン軸21を設ける理由は、ピニオン軸21と共にラック軸22をラックハウジング23の内部に支持するためである。操舵装置2に設けられる図示しない支持機構によって、ラック軸22は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオン軸21へ向けて押圧される。これにより、ラック軸22はラックハウジング23の内部に支持される。ただし、ピニオン軸21を使用せずにラック軸22をラックハウジング23に支持する他の支持機構を設けてもよい。
【0024】
<操舵装置の電気的構成>
図1に示すように、操舵側モータ13と転舵側モータ32とは、操舵制御装置1に接続されている。操舵制御装置1は、各モータ13,32の作動を制御する。
【0025】
操舵制御装置1には、各種のセンサの検出結果が入力される。各種のセンサには、例えば、トルクセンサ41、操舵側回転角センサ42、転舵側回転角センサ43、及び車速センサ44が含まれる。
【0026】
トルクセンサ41は、ステアリング軸11におけるステアリングホイール3と操舵側減速機構14との間の部分に設けられている。トルクセンサ41は、運転者のステアリング操舵によりステアリング軸11に付与されたトルクを示す値である操舵トルクThを検出する。操舵トルクThは、ステアリング軸11の途中であって、ステアリング軸11におけるステアリングホイール3と操舵側減速機構14との間に設けられたトーションバー41aの捩じれに関わって検出される。操舵側回転角センサ42は、操舵側モータ13に設けられている。操舵側回転角センサ42は、操舵側モータ13の回転軸の角度である回転角θaを360度の範囲内で検出する。転舵側回転角センサ43は、転舵側モータ32に設けられている。転舵側回転角センサ43は、転舵側モータ32の回転軸の角度である回転角θbを360度の範囲内で検出する。車速センサ44は、車両の走行速度である車速SPDを検出する。
【0027】
<操舵制御装置の電気的構成>
図2に示すように、操舵制御装置1は、操舵側制御部50と、転舵側制御部60とを有している。操舵側制御部50は、操舵側モータ13に対する給電を制御する。転舵側制御部60は、転舵側モータ32に対する給電を制御する。操舵側制御部50と転舵側制御部60とは、シリアル通信等のローカルネットワーク70を介して情報の送受信を相互に行う。操舵側制御部50は、操舵ユニット4の一部を構成する。転舵側制御部60は、転舵ユニット6の一部を構成する。
【0028】
操舵側制御部50は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。CPU及びメモリは、処理回路であるマイクロコンピュータを構成する。これと同様、転舵側制御部60は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。CPU及びメモリは、処理回路であるマイクロコンピュータを構成する。メモリは、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)のようなコンピュータ可読媒体を含む。ただし、各種処理がソフトウェアによって実現されることは一例である。操舵側制御部50が有する処理回路は、少なくとも一部の処理をロジック回路などのハードウェア回路によって実現するように構成されてもよい。これは、転舵側制御部60についても同様である。
【0029】
操舵側制御部50は、各種の処理を実行するようにCPUとメモリとを組み合わせてなる2系統の制御系統を有する。2系統の制御系統は、メイン制御部50aからなる系統と、サブ制御部50bからなる系統とを含む。これは、転舵側制御部60についても同様である。つまり、転舵側制御部60は、各種の処理を実行するようにCPUとメモリとを組み合わせてなる2系統の制御系統を有する。2系統の制御系統は、メイン制御部60aからなる系統と、サブ制御部60bからなる系統とを含む。
【0030】
操舵側制御部50は、各種情報に基づいて、反力制御量を演算する。各種情報は、例えば、上記各種センサの検出結果及び転舵側制御部60からローカルネットワーク70を介して得られる情報を含む。反力制御量は、操舵側モータ13を通じて発生させるべきステアリングホイール3の操舵反力の目標値である。操舵側制御部50は、上記反力制御量に基づいて、操舵側モータ13に対する給電を制御する。また、転舵側制御部60は、各種情報に基づいて、転舵制御量を演算する。各種情報は、例えば、上記各種センサの検出結果及び操舵側制御部50からローカルネットワーク70を介して得られる情報を含む。転舵制御量は、転舵側モータ32を通じて発生させるべき転舵力の目標値である。転舵側制御部60は、上記転舵制御量に基づいて、転舵側モータ32に対する給電を制御する。
【0031】
<操舵装置に対する給電経路>
操舵装置2は、地絡遮断回路80を有している。地絡遮断回路80は、主電源45に接続されている。操舵制御装置1は、地絡遮断回路80を介して主電源45に接続されている。主電源45は、例えば、車両に搭載された直流電源である二次電池である。主電源45は、操舵装置2の構成要素である、例えば、操舵制御装置1、各モータ13,32、地絡遮断回路80等の動作に必要な電力の供給源である。つまり、操舵制御装置1、各モータ13,32、地絡遮断回路80等は、主電源45の電力を消費して動作する。主電源45は、オルタネータ等の発電機46に接続されている。発電機46は、車両の走行用駆動源であるエンジンの回転を動力源として交流電力を発電する。発電機46により発電される交流電力は直流電力に変換されて主電源45に蓄えられる。本実施形態において、車両用電源システム7は、操舵制御装置1と地絡遮断回路80とから構成されている。
【0032】
地絡遮断回路80は、2つの電源ラインL1,L2を介して主電源45に接続されている。電源ラインL2は、電源ラインL1の接続点P0から分岐している。電源ラインL2には、起動スイッチ47が設けられている。起動スイッチ47は、例えば、イグニッションスイッチあるいはパワースイッチである。起動スイッチ47は、車両の走行用駆動源を始動または停止させる際に操作される。起動スイッチ47の操作は、電源ラインL2の導通のオンオフを切り替えるトリガである。なお、電源ラインL1は、基本的に導通が常時オンとされている。ただし、操舵装置2は、起動スイッチ47の操作に連動して電源ラインL1の導通を内部的にオンオフする構成を有する。つまり、操舵装置2に対する給電状態は、起動スイッチ47の操作、すなわち車両の走行用駆動源の動作状態と連動する。
【0033】
メイン制御部50aは、地絡遮断回路80を介して各電源ラインL1,L2に接続されている。つまり、メイン制御部50aは、地絡遮断回路80及び各電源ラインL1,L2を介して主電源45に接続されている。これは、メイン制御部60aについても同様である。メイン制御部60aは、地絡遮断回路80を介して各電源ラインL1,L2に接続されている。つまり、メイン制御部60aは、地絡遮断回路80及び各電源ラインL1,L2を介して主電源45に接続されている。
【0034】
サブ制御部50bは、地絡遮断回路80を介さず各電源ラインL1,L2に直接接続されている。つまり、サブ制御部50bは、地絡遮断回路80を介さず主電源45に接続されている。これは、サブ制御部60bについて同様である。サブ制御部60bは、地絡遮断回路80を介さず各電源ラインL1,L2に直接接続されている。つまり、サブ制御部50bは、地絡遮断回路80を介さず主電源45に接続されている。本実施形態において、操舵側制御部50と転舵側制御部60とは、単一の地絡遮断回路80を共用する。地絡遮断回路80は、信号線90を介して操舵側制御部50に信号を出力可能である。また、地絡遮断回路80は、信号線90を介して転舵側制御部60に信号を出力可能である。
【0035】
図3は、給電経路の構成を詳しく示している。ここでは、車両用電源システム7を構成する転舵側制御部60に関わる構成を中心に説明する。
図3に示すように、メイン制御部60aは、駆動回路61aと、制御回路62aとを有している。サブ制御部60bは、駆動回路61bと、制御回路62bとを有している。各駆動回路61a,61bは、より大きい電力を取り扱う回路であって、例えば、主電源45の直流電力を交流電力に変換するインバータが含まれる。各制御回路62a,62bは、転舵側モータ32を制御するための回路であって、例えば、CPUやメモリが含まれる。
【0036】
より詳しくは、各駆動回路61a,61bは、転舵側モータ32の三相のコイルに対応する三相のインバータである。各駆動回路61a,61bは、直列に接続された2つのスイッチ素子を1組とするスイッチングアームを、並列に3組接続してなる周知の三相のインバータである。スイッチング素子には、例えば、MOS-FETが採用されている。1組のスイッチング素子のうち上流側のスイッチング素子は、主電源45の高電位側と転舵側モータ32のコイルとの間を開閉する。1組のスイッチング素子のうち下流側のスイッチング素子は、主電源45の低電位側と転舵側モータ32のコイルとの間を開閉する。
【0037】
主電源45の電力は、電源ラインL1の接続点P11から分岐している電源ラインL11を介して駆動回路61aに供給される。主電源45の電力は、電源ラインL2の接続点P12から分岐している電源ラインL21を介して制御回路62aへ供給される。主電源45の電力は、電源ラインL1の接続点P11から分岐している電源ラインL12を介して駆動回路61bに供給される。主電源45の電力は、電源ラインL2の接続点P12から分岐している電源ラインL22を介してサブ制御部60bの制御回路62bへ供給される。本実施形態において、電源ラインL11は特定の電源ラインの一例である。
【0038】
なお、
図3中に括弧で示すように、操舵側制御部50は、転舵側制御部60に対応する構成を有している。すなわち、メイン制御部50aは、駆動回路61a及び制御回路62aに対応する構成である、駆動回路51a及び制御回路52aを有している。また、サブ制御部50bは、駆動回路61b及び制御回路62bに対応する構成である、駆動回路51b及び制御回路52bを有している。このように、操舵側制御部50に関わる構成は、転舵側制御部60に関わる構成と基本的に同一である。そのため、本明細書では、操舵側制御部50に関わる構成についての詳細説明を省略する。
【0039】
<地絡遮断回路の構成>
図3及び
図4に示すように、車両用電源システム7を構成する地絡遮断回路80は、切替スイッチ81と、アナログ回路82と、処理回路83と、電流検出器84とを有している。
【0040】
切替スイッチ81は、電源ラインL11の途中に設けられている。切替スイッチ81は、接続点P11と駆動回路61aとの間に設けられている。切替スイッチ81は、電源ラインL11の導通をオンオフする。切替スイッチ81には、例えば、MOS-FETが採用されている。
【0041】
アナログ回路82は、電源ラインL2の接続点P12から分岐している電源ラインL21の接続点P13からさらに分岐している電源ラインL211を介して主電源45から電力が供給される。アナログ回路82は、切替スイッチ81のオンオフを制御する。アナログ回路82は、電源ラインL11の地絡の発生を監視する。アナログ回路82は、電源ラインL11を通じて駆動回路61a、すなわち転舵側モータ32に供給される電流を、電流検出器84によって検出する。電源ラインL11には、電流検出器84が設けられている。電流検出器84は、切替スイッチ81と、駆動回路61aとの間の経路を流れる電流であって、駆動回路61a、すなわち転舵側モータ32によって引き込まれる電流の大きさである経路電流値Asを検出する。本実施形態において、経路電流値Asは、切替スイッチ81と、駆動回路51aとの間の経路を流れる電流であって、駆動回路51a、すなわち操舵側モータ13によって引き込まれる電流を含む値である。
【0042】
より詳しくは、アナログ回路82は、地絡判定回路85と、ラッチ回路86とを有している。地絡判定回路85は、例えば、遅延機能を持たせるように構成されたコンパレータを含むICチップである。ラッチ回路86は、例えば、ラッチ機能を持たせるように構成されたトランジスタを含むICチップである。つまり、アナログ回路82は、図示しないコンパレータ及びトランジスタを含む半導体素子を組み合わせて構成されており、所定の入力信号に対する動作結果として所定の出力信号を出力するように動作する。
【0043】
処理回路83は、電源ラインL2の接続点P12から分岐している電源ラインL21の接続点P13からさらに分岐している電源ラインL211を介して主電源45から電力が供給される。処理回路83は、アナログ回路82を介して切替スイッチ81のオンオフを制御するとともに、地絡遮断回路80の状態を信号線90を介して転舵側制御部60に指示する。処理回路83は、アナログ回路82の動作状態を監視する。処理回路83は、アナログ回路82が切替スイッチ81のオンオフを制御するために出力する信号を検出する。
【0044】
より詳しくは、処理回路83は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。CPU及びメモリは、処理回路であるマイクロコンピュータを構成する。メモリは、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)のようなコンピュータ可読媒体を含む。ただし、各種処理がソフトウェアによって実現されることは一例である。処理回路83は、少なくとも一部の処理をロジック回路などのハードウェア回路によって実現するように構成されてもよい。
【0045】
<アナログ回路の機能について>
地絡判定回路85は、電流検出器84によって検出される経路電流値Asを入力する。地絡判定回路85は、経路電流値Asの値と閾値Athとの大小比較の結果に応じたラッチ信号Rsを出力するように動作する。閾値Athは、電源ラインL11に地絡電流が生じたことを判断する際の基準である。例えば、閾値Athは、転舵側モータ32によって引き込まれる電流値として想定される最大電流値、すなわち定格電流値よりも大きい範囲の値に設定される。
【0046】
地絡判定回路85は、経路電流値Asの値が閾値Ath未満の場合、ラッチオフ信号Roffであるラッチ信号Rsを出力するように動作する。これにより、地絡判定回路85は、電源ラインL11に地絡が生じていないことを判断することになる。
【0047】
地絡判定回路85は、経路電流値Asの値が閾値Ath以上の場合、閾値Ath以上の経路電流値Asの検出が判定時間Taの間継続したか否かに応じたラッチ信号Rsを出力するように動作する。地絡判定回路85は、閾値Ath以上の経路電流値Asを入力し始めるのに合わせて判定時間Taを計数し始める。判定時間Taは、閾値Ath以上の経路電流値Asの入力が継続された時間であって、電源ラインL11に地絡電流が生じたことを判断する際の基準である。例えば、判定時間Taは、切替スイッチ81がMOS-FETで構成される場合、当該MOS-FETの安全動作領域を経路電流値Asが超えることのない範囲の値(例えば、数百[μsec])に設定される。
【0048】
地絡判定回路85は、閾値Ath以上の経路電流値Asの入力を継続するなかで、判定時間Taに達する場合、ラッチオン信号Ronであるラッチ信号Rsを出力するように動作する。これにより、地絡判定回路85は、電源ラインL11に地絡が生じている蓋然性が高いことを検出することになる。なお、地絡判定回路85は、閾値Ath以上の経路電流値Asの入力を継続するなかで、判定時間Taに達するまで間、ラッチオフ信号Roffであるラッチ信号Rsを出力するように動作する。
【0049】
ラッチ回路86は、地絡判定回路85によって出力されるラッチ信号Rsを入力する。ラッチ回路86は、ラッチ信号Rsに応じたスイッチ信号Swを出力するように動作する。
【0050】
ラッチ回路86は、ラッチオフ信号Roffを入力する場合、スイッチオン信号Sonであるスイッチ信号Swを出力するように動作する。ラッチ回路86は、地絡判定回路85が電源ラインL11に地絡が生じていないことを検出することにしたがって、スイッチオン信号Sonを出力することになる。
【0051】
ラッチ回路86は、ラッチオン信号Ronを入力する場合、スイッチオフ信号Soffであるスイッチ信号Swを出力するように動作する。ラッチ回路86は、地絡判定回路85が電源ラインL11に地絡が生じている蓋然性が高いことを検出することにしたがって、スイッチオフ信号Soffを出力することになる。
【0052】
ラッチ回路86は、ラッチオン信号Ronの入力後、ラッチオフ信号Roffを入力したとしても、スイッチオフ信号Soffの出力状態をラッチして維持するようにラッチ動作する。ラッチ回路86は、スイッチオフ信号Soffの出力状態をラッチした後、処理回路83が出力する解除信号Rstを入力するまでの間、スイッチオフ信号Soffの出力状態をラッチし続ける。例えば、ラッチ回路86のラッチ動作は、ラッチ信号Rsの入力自体を不能にしてもよいし、ラッチ信号Rsを入力するが反応動作を不能にしてもよい。
【0053】
切替スイッチ81は、ラッチ回路86によって出力されるスイッチ信号Swを入力する。切替スイッチ81は、スイッチ信号Swに応じた状態となるように動作する。
切替スイッチ81は、スイッチオン信号Sonを入力する場合、電源ラインL11の導通を許容する導通状態となるようにオン動作する。切替スイッチ81は、地絡判定回路85が電源ラインL11に地絡が生じていないことを検出することにしたがって、電源ラインL11の導通を許容することになる。
【0054】
切替スイッチ81は、スイッチオフ信号Soffを入力する場合、電源ラインL11の導通を遮断する遮断状態となるようにオフ動作する。切替スイッチ81は、地絡判定回路85が電源ラインL11に地絡が生じている蓋然性が高いことを検出することにしたがって、電源ラインL11の導通を遮断することになる。本実施形態において、地絡判定回路85がラッチオン信号Ronを出力する動作は、切替スイッチ81を遮断状態へ切り替えるための遮断切替動作である。
【0055】
<処理回路の機能について>
図4に示すように、処理回路83は、ラッチ回路86によって出力されるスイッチ信号Swを入力する。処理回路83は、スイッチオフ信号Soffを入力する場合、切替スイッチ81が遮断状態に切り替えられたこと、すなわち電源ラインL11の導通が遮断されたことを判断する。スイッチオフ信号Soffの入力がフェール時間Tfsの間継続したか否かに応じた処理を実行する。処理回路83は、スイッチオフ信号Soffを入力し始めるのに合わせてフェール時間Tfsを計数し始める。フェール時間Tfsは、切替スイッチ81によって電源ラインL11の導通が遮断された時間であって、電源ラインL11に地絡電流が生じたことを確定させる際の基準である。例えば、フェール時間Tfsは、車両を安全に停車させるためのフェール処理を実行する操舵装置2のフェール状態を設定するのに適した値(例えば、数十[msec])に設定される。
【0056】
処理回路83は、スイッチオフ信号Soffの入力が途切れないなかで、フェール時間Tfsに達する場合、フェール信号Fsを出力する。フェール信号Fsは、信号線90を介して制御回路62a,62bに送信される。制御回路62aは、フェール信号Fsを入力する場合、メイン制御部60aからなる系統の動作を停止させるフェール状態を設定する。制御回路62bは、フェール信号Fsを入力する場合、サブ制御部60bからなる系統の動作を通じて、車両を安全に停車させるためのフェール処理を実行するフェール状態を設定する。本実施形態において、フェール信号Fsは、信号線90を介して制御回路52a,52bにも送信される。制御回路52aは、フェール信号Fsを入力する場合、メイン制御部50aからなる系統の動作を停止させるフェール状態を設定する。制御回路52bは、フェール信号Fsを入力する場合、サブ制御部50bからなる系統の動作を通じて、車両を安全に停車させるためのフェール処理を実行するフェール状態を設定する。なお、処理回路83は、スイッチオフ信号Soffの入力が途切れた場合、フェール時間Tfsの計数を終了してクリアする。
【0057】
また、処理回路83は、切替スイッチ81が遮断状態に切り替えられたこと、すなわち電源ラインL11の導通が遮断されたことを判断することを条件として、解除信号出力を実行する。処理回路83は、スイッチオフ信号Soffを入力し始めるのに合わせて解除信号Rstを複数回出力する解除信号出力処理を実行する。例えば、解除信号Rstは、2回出力される。解除信号出力処理は、1回目の解除信号Rstを出力した後、一定のインターバルTpを空けて2回目の解除信号Rstを出力する。インターバルTpは、判定時間Taよりも長時間、かつ、フェール時間Tfsよりも短時間(例えば、数[msec])に設定される。こうしたインターバルTpは、突入電流又はノイズの影響で瞬間的に生じる閾値Ath以上の経路電流値Asが閾値Athまで収まると想定される収束時間Trよりも短時間に設定される。例えば、突入電流は、各モータ13,32の駆動開始時に電流を引き込む際に生じ得る過渡的な電流であって、それ自体が閾値Ath以上になる場合もあれば、ノイズが重畳することで閾値Ath以上になる場合もある。解除信号Rstは、パルス信号であって、アナログ回路82のラッチ回路86のラッチ動作を解除するための信号である。
【0058】
ラッチ回路86は、処理回路83によって出力される解除信号Rstを入力する場合、ラッチ動作を解除して、スイッチオン信号Sonの出力状態に遷移する。ラッチ回路86は、解除信号Rstの入力後、地絡判定回路85によって出力されるラッチオン信号Ronを入力する場合、スイッチオフ信号Soffの出力状態を再びラッチして維持するように動作する。この場合、ラッチ回路86が出力するスイッチオン信号Sonは、ほんの一瞬しか出力されないため処理回路83によって検出されない。その他、処理回路83は、例えば、解除信号出力処理の間はスイッチオン信号Sonの入力自体をマスクしたり、入力したとしても処理に反映させないようにしたりしてもよい。
【0059】
一方、ラッチ回路86は、解除信号Rstの入力後、地絡判定回路85によって出力されるラッチオフ信号Roffを入力する場合、ラッチ動作に戻ることなく、スイッチオン信号Sonの出力状態を維持するように動作する。この場合、ラッチ回路86が出力するスイッチオン信号Sonは、継続して出力されるため処理回路83によっていずれ検出される。
【0060】
<本実施形態の作用>
図5(a)に示す実線は、時間t1から上昇し始めた経路電流値Asが、時間t2で閾値Athに達した後、時間t3に至るまでの判定時間Taの間継続して上昇し続ける場合を例示している。ここでは、経路電流値Asが、時間t3の経過後も上昇し続ける場合であって、電源ラインL11において、実際に地絡が生じている場合を例示している。
【0061】
図5(b)に実線で示すように、閾値Ath未満の経路電流値Asを入力する地絡判定回路85の動作を通じて、時間t3までの間、ラッチオフ信号Roffを出力するように動作する。時間t3の経過後、アナログ回路82は、閾値Ath以上の経路電流値Asを入力する地絡判定回路85の動作を通じて、ラッチオン信号Ronを出力するように動作する。
【0062】
図5(c)に実線で示すように、アナログ回路82は、ラッチオフ信号Roffを入力するラッチ回路86の動作を通じて、時間t3までの間、スイッチオン信号Sonを出力するように動作する。時間t3の経過後、アナログ回路82は、ラッチオン信号Ronを入力するラッチ回路86の動作を通じて、スイッチオフ信号Soffを出力するように動作する。
【0063】
このように、アナログ回路82は、地絡が生じている蓋然性が高い場合、切替スイッチ81を遮断状態へ切り替えることによって、電源ラインL11の導通を遮断することができる。これにより、電源ラインL11に地絡が生じているとしても、電源ラインL12への影響を抑制することによって、まずは操舵装置2への電力供給が維持される。
【0064】
これに対して、アナログ回路82は、地絡が生じている蓋然性が高い場合であっても、処理回路83から解除信号Rstを入力することによって、遮断状態へ切り替えた切替スイッチ81を一旦は導通状態へ切り替えることができる。
【0065】
図6(a)に示すように、処理回路83は、時間t3の経過以後のタイミングで、スイッチオフ信号Soffを入力することによって、1回目の解除信号Rstを出力する解除信号出力処理を実行する。処理回路83は、1回目の解除信号Rstを出力した後、インターバルTpを空けて2回目の解除信号Rstを出力する解除信号出力処理を実行する。
【0066】
図6(b)に示すように、アナログ回路82は、1回目の解除信号Rstを入力するラッチ回路86の動作を通じて、ラッチ動作を一時的に解除する。アナログ回路82は、スイッチオン信号Sonの出力状態に一時的に遷移するが、スイッチオフ信号Soffの出力状態に瞬時に戻る。これは、閾値Ath以上の経路電流値Asを入力する地絡判定回路85が、ラッチオン信号Ronを出力しているからである。
【0067】
インターバルTpの経過後、アナログ回路82は、2回目の解除信号Rstを入力するラッチ回路86の動作を通じて、ラッチ動作を一時的に解除する。アナログ回路82は、スイッチオン信号Sonの出力状態に一時的に遷移するが、スイッチオフ信号Soffの出力状態に瞬時に戻る。これは、1回目の解除信号Rstを入力する場合と同様、閾値Ath以上の経路電流値Asを入力する地絡判定回路85が、ラッチオン信号Ronを出力しているからである。
【0068】
このように、アナログ回路82は、実際に地絡が生じていれば、切替スイッチ81を遮断状態に再度切り替えて、電源ラインL11の導通を遮断することができる。
一方、
図5(a)に示す一点鎖線は、時間t3の経過後、インターバルTpが経過する前に経路電流値Asが閾値Ath未満まで下降する場合を例示している。ここでは、経路電流値Asが、突入電流又はノイズの影響で瞬間的に閾値Ath以上まで上昇した場合であって、電源ラインL11において、実際は地絡が生じていない場合を例示している。
【0069】
図5(b)に一点鎖線で示すように、アナログ回路82は、時間t3の経過後、閾値Ath未満の経路電流値Asを入力する地絡判定回路85の動作を通じて、ラッチオフ信号Roffを出力するように動作する。アナログ回路82は、ラッチオフ信号Roffを入力したとしてもラッチ回路86の動作を通じて、スイッチオン信号Sonを継続して出力するように動作する。
【0070】
続いて、
図7(a),(b)に示すように、アナログ回路82は、処理回路83から1回目の解除信号Rstを入力するラッチ回路86の動作を通じて、ラッチ動作を解除する。アナログ回路82は、スイッチオン信号Sonの出力状態に遷移する。
【0071】
図7(b)に示す実線は、処理回路83が1回目の解除信号Rstを出力するまでの間において、閾値Ath未満まで経路電流値Asが下降している場合を例示している。つまり、アナログ回路82は、スイッチオン信号Sonの出力状態に戻った後、スイッチオン信号Sonの出力状態を維持する。これは、閾値Ath未満の経路電流値Asを入力する地絡判定回路85が、ラッチオフ信号Roffを出力しているからである。
【0072】
インターバルTpの経過後、アナログ回路82は、2回目の解除信号Rstを入力するラッチ回路86の動作を通じて、スイッチオン信号Sonの出力状態を維持する。これは、1回目の解除信号Rstを入力する場合と同様、閾値Ath未満の経路電流値Asを入力する地絡判定回路85が、ラッチオフ信号Roffを出力しているからである。
【0073】
また、
図7(b)に示す二点鎖線は、処理回路83が1回目の解除信号Rstを出力した後であって、2回目の解除信号Rstを出力するまでの間において、閾値Ath未満まで経路電流値Asが下降している場合を例示している。つまり、アナログ回路82は、スイッチオン信号Sonの出力状態に一時的に遷移するが、スイッチオフ信号Soffの出力状態に瞬時に戻る。これは、閾値Ath以上の経路電流値Asを入力する地絡判定回路85が、ラッチオン信号Ronを出力しているからである。
【0074】
インターバルTpの経過後、アナログ回路82は、2回目の解除信号Rstを入力するラッチ回路86の動作を通じて、スイッチオン信号Sonの出力状態に戻った後、スイッチオン信号Sonの出力状態を維持する。これは、閾値Ath未満の経路電流値Asを入力する地絡判定回路85が、ラッチオフ信号Roffを出力しているからである。
【0075】
このように、アナログ回路82は、突入電流又はノイズの影響で瞬間的に閾値Ath以上の電流が生じたことに起因して実際は地絡が生じていなければ、切替スイッチ81を導通状態に維持して、電源ラインL11の導通を許容する状態に戻すことができる。
【0076】
<実施形態の効果>
(1-1)アナログ回路82は、電源ラインL11に地絡が生じている蓋然性が高い場合、ラッチオン信号Ron信号を出力するとともに、スイッチオフ信号Soffを出力する出力状態をラッチするようにしている。これに対して、処理回路83は、アナログ回路82のラッチを解除して、切替スイッチ81を導通状態へ切り替えるための解除信号Rstを少なくとも1回出力するようにしている。これにより、切替スイッチ81を遮断状態へ切り替えるといった地絡が生じた場合へのより早い対処をするなかで、地絡が生じたか否かの誤検出を低減することができる。したがって、回路設計の条件を緩和することができる。
【0077】
(1-2)解除信号出力処理は、解除信号Rstを2回出力する処理としている。これにより、電源ラインL11において、実際は地絡が生じていない場合、切替スイッチ81を導通状態に切り替える精度を高めることができる。これは、地絡が生じたか否かの誤検出を低減するのに効果的である。
【0078】
(1-3)解除信号Rstを出力するインターバルTpは、判定時間Taよりも長時間、かつ、フェール時間Tfsよりも短時間としている。これにより、電源ラインL11において、実際に地絡が生じた場合、操舵装置2のフェール状態を好適に設定することができる。一方、電源ラインL11において、実際は地絡が生じていない場合、操舵装置2のフェール状態の不要な設定が抑制される。これは、操舵装置2におけるフェール状態の設定の適正化を図るのに効果的である。
【0079】
(1-4)判定時間Taは、突入電流が収まるまでの収束時間Trよりも短時間としている。インターバルTpは、収束時間Trよりも長時間としている。これにより、電源ラインL11において、地絡が生じている蓋然性が高い場合、より早く対処することができる。これは、回路設計の条件を緩和するのに効果的である。
【0080】
例えば、地絡遮断回路80では、電源ラインL11において、実際に地絡が生じた場合であっても、より早く対処ができるのであれば、より短周期駆動で、より省電力で、より小型の切替スイッチ81を採用することができる。つまり、切替スイッチ81は、例えば、MOS-FETを採用することができる。これは、IGBT等を採用する場合と比較して、短周期駆動、省電力、及び小型の観点で有利である。
【0081】
(1-5)解除信号Rstは、パルス信号としている。これにより、切替スイッチ81の遮断状態を解除するために要する時間をより短くすることができる。これは、電源ラインL11において、実際に地絡が生じた場合、切替スイッチ81が導通状態に切り替えられる時間をより短くするのに効果的である。
【0082】
(1-6)処理回路83は、スイッチオフ信号Soffの入力を判断することを条件として、解除信号出力処理を実行するようにしている。これにより、処理回路83が解除信号Rstを出力するタイミングの適正化を図ることができる。
【0083】
<他の実施形態>
上記実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
【0084】
・
図4に二点鎖線で示すように、処理回路83は、地絡判定回路85と同様、電流検出器84によって検出される経路電流値Asを入力するようにしてもよい。処理回路83は、閾値Ath以上の経路電流値Asの入力を判断することによって、切替スイッチ81が遮断状態に切り替えられたこと、すなわち電源ラインL11の導通が遮断されたことを判断するようにしてもよい。ここに記載にした他の実施形態では、処理回路83において、閾値Ath以上の経路電流値Asの入力を判断することを、地絡判定回路85と同様、コンパレータを含むICチップによって実現することもできる。
【0085】
・解除信号出力処理は、解除信号Rstを3回以上出力する処理であってもよい。つまり、インターバルTpは2回になる。この場合、2回のインターバルTpの合計が、収束時間Trよりも短時間であれば、1回のインターバルTpを収束時間Tr以下の時間とする等、適宜設定可能である。ここに記載した他の実施形態では、例えば、後のインターバルTpほど、時間を短くする等、変化させることもできる。
【0086】
・インターバルTpは、例えば、主電源45のバッテリ電圧又は経路電流値Asの大きさに応じて変化する時間であってもよい。
・解除信号出力処理は、解除信号Rstを1回出力する処理であってもよい。この場合、処理回路83は、切替スイッチ81が遮断状態に切り替えられたこと、すなわち電源ラインL11の導通が遮断されたことを判断する場合、収束時間Tr相当の時間を空けて解除信号Rstを1回出力したりすればよい。
【0087】
・操舵装置2におけるフェール状態は、各制御部50,60において、供給電力の状態から、地絡遮断回路80と独立で設定するようにしてもよい。この場合、処理回路83では、フェール信号Fsを出力する処理をなくしてもよい。
【0088】
・地絡判定回路85は、経路電流値Asに対応するとして変換した電圧値を入力するようにしてもよい。この場合、地絡判定回路85は、閾値Athに対応するとして換算した電圧閾値と電圧値との大小比較の結果に応じたラッチ信号Rsを出力するように動作すればよい。その他、地絡判定回路85は、経路電流値Asをフィルタ処理して得られる値を入力するようにしてもよい。
【0089】
・切替スイッチ81は、MOS-FETよりも大型である、例えば、IGBTであってもよい。この場合、判定時間Taは、収束時間Tr以上の時間とすることもできる。ここに記載した他の実施形態では、インターバルTpを収束時間Trに関係なく適宜設定可能であるとともに、解除信号Rstをパルス信号よりも出力時間の長い信号に変更可能である。
【0090】
・切替スイッチ81は、電気的に動作するスイッチであれば適宜変更可能である。
・電流検出器84は、操舵装置2の構成であればよく、地絡遮断回路80の外部に設けられていてもよい。
【0091】
・車両用電源システム7は、主電源45の供給電力を補助又はバックアップするための、二次電池同様の機能を有する、例えば、キャパシタ等の補助電源を有していてもよい。この場合、処理回路83は、車両用電源システム7における電源ラインL1,L2に対する補助電源の接続状態を切り替え制御する機能を兼ねていてもよい。
【0092】
・主電源45は、車載の電源として機能する蓄電池であればよく、その容量等は適宜変更可能である。
・地絡遮断回路80、すなわち切替スイッチ81は、電源ラインL12の途中にも設けるようにしてもよい。電源ラインL12において、地絡が生じた場合についても対処するようにしてもよい。つまり、各サブ制御部50b,60bは、主電源45に対して地絡遮断回路80を介して接続されていてもよい。
【0093】
・地絡遮断回路80は、操舵ユニット用の地絡遮断回路と、転舵ユニット用の地絡遮断回路とを含んでいてもよい。例えば、操舵部ユニット用の地絡遮断回路は、電源ラインL1,L2から分岐された電源ラインにおける主電源45と操舵側モータ13との間に設けられていればよい。また、転舵ユニット用の地絡遮断回路は、電源ラインL1,L2から分岐された主電源45と転舵側モータ32との間に設けられていればよい。
【0094】
・各制御部50,60は、操舵側モータ13を動作させる機能と転舵側モータ32を動作させる機能とを集約した機能を有する単一の制御部を構成してもよい。
・運転者が車両を操舵するために操作する操作部材としては、ステアリングホイール3に限らない。例えば、ジョイスティックであってもよい。
【0095】
・ステアリングホイール3に機械的に連結される操舵側モータ13としては、3相のブラシレスモータに限らない。例えば、ブラシ付きの直流モータであってもよい。これは、転舵側モータ32についても同様である。
【0096】
・転舵ユニット6は、転舵側モータ32の回転を伝達機構33を介して変換機構34に伝達したが、これに限らず、例えば、転舵側モータ32の回転を歯車機構を介して変換機構34に伝達するように構成してもよい。また、転舵側モータ32が変換機構34を直接回転させるように転舵ユニット6を構成してもよい。さらに、転舵ユニット6が第2のラックアンドピニオン機構を備える構成とし、転舵側モータ32の回転を第2のラックアンドピニオン機構にてラック軸22の往復動に変換するように転舵ユニット6を構成してもよい。
【0097】
・転舵ユニット6としては、右側の転舵輪5と左側の転舵輪5とが連動している構成に限らない。換言すれば、右側の転舵輪5と左側の転舵輪5とを独立に制御できるものであってもよい。
【0098】
・操舵装置2は、操舵ユニット4と転舵ユニット6との間が機械的に常時分離したリンクレスの構造としたが、これに限らず、例えば、クラッチにより操舵ユニット4と転舵ユニット6との間が機械的に分離可能な構造としてもよい。また、操舵装置2は、ステアバイワイヤ式の操舵装置に限らず、モータのトルクをステアリング軸11又はラック軸22に付与する電動パワーステアリング装置であってもよい。
【符号の説明】
【0099】
1…操舵制御装置
2…操舵装置
13…操舵側モータ(モータ)
32…転舵側モータ(モータ)
45…主電源(電源)
80…地絡遮断回路
81…切替スイッチ
82…アナログ回路
83…処理回路
84…電流検出器
85…地絡判定回路
86…ラッチ回路
L11…電源ライン(特定の電源ライン)
L12…電源ライン(他の電源ライン)