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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157343
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】車両の制御方法及び車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20241030BHJP
   B60K 28/10 20060101ALI20241030BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
B60L3/00 J
B60K28/10
B60L9/18 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071654
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高波 渉
【テーマコード(参考)】
3D037
5H125
【Fターム(参考)】
3D037FA23
3D037FB01
3D037FB09
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125CD02
5H125EE05
5H125EE09
5H125EE42
5H125EE52
(57)【要約】
【課題】適切なタイミングで電動モータの出力制限を報知できる車両の制御方法及び制御装置を提供する。
【解決手段】
電動モータ3の駆動力を利用して走行する車両10の制御方法であって、電動モータ3の運転状態から、電動モータ3の実際の出力トルク平均値を算出する平均値算出ステップと、算出された平均値から、電動モータ3の温度が保護温度に達するまでの到達時間T1を予測する到達時間予測ステップと、予測された到達時間T1が基準時間T2以下となったときに、運転者に出力制限が行われることを報知する報知ステップとを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータの駆動力を利用して走行する車両の制御方法であって、
前記電動モータの運転状態から、前記電動モータの実際の出力トルクの平均値を算出する平均値算出ステップと、
算出された前記平均値から、前記電動モータの温度が保護温度に達するまでの到達時間を予測する到達時間予測ステップと、
予測された前記到達時間が基準時間以下となったときに、運転者に出力制限が行われることを報知する報知ステップと、
を含む、
車両の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御方法であって、
前記平均値算出ステップは、
現在から所定期間前の間の前記電動モータの出力トルクの移動平均値を算出する、
車両の制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の車両の制御方法であって、
前記到達時間予測ステップは、
算出された前記平均値と予め設定された温度上昇率マップとから温度上昇率を算出し、
算出された前記温度上昇率と現在の前記電動モータの温度とから、前記到達時間を算出する、
車両の制御方法。
【請求項4】
請求項1に記載の車両の制御方法であって、
前記報知ステップは、
運転席の表示装置に配置される表示灯を点灯して、運転者に出力制限が行われることを報知する、
車両の制御方法。
【請求項5】
請求項1に記載の車両の制御方法であって、
前記基準時間は、車速が高いほど大きく設定される、
車両の制御方法。
【請求項6】
請求項2に記載の車両の制御方法であって、
前記所定期間は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量が大きいほど、短く設定される、
車両の制御方法。
【請求項7】
請求項3に記載の車両の制御方法であって、
運転者に出力制限が行われることを報知した後に、走行中の道路の情報を取得する道路情報取得ステップと、
現在の車両の位置から所定地点までに、前記道路を走行するために要求される前記電動モータの予想トルクの平均値を算出する予想トルク平均値算出ステップと、
予測した前記予想トルクの平均値から、前記電動モータの保護温度と、前記電動モータの所定時間の温度上昇の予測値とを算出し、算出された前記保護温度から前記予測値を減算することで許容温度を算出する許容温度算出ステップと、
前記電動モータの現在の温度が、算出された前記許容温度以下となった場合に、出力制限が行われる旨の報知を終了する報知終了ステップと、
をさらに含む、
車両の制御方法。
【請求項8】
電動モータの駆動力を利用して走行する車両の制御装置であって、
前記電動モータの運転状態から、前記電動モータの実際の出力トルクの平均値を算出し、
算出された前記平均値から、前記電動モータの温度が保護温度に達するまでの到達時間を予測し、
予測された前記到達時間が基準時間以下となったときに、運転者に出力制限が行われることを報知する、
車両の制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御方法及び車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータの駆動力により走行する車両において、電動モータの負荷が大きい場合には、発熱量が増加して電動モータの温度(例えばコイル温度)が上昇する。このような場合に、電動モータが限界温度を超えないように、電動モータの出力トルクを制限する制御を行なうことが一般的である。車両の走行中に出力トルクの制限が行われると運転者に違和感を与える可能性があるため、このような制限を行う場合には、運転者に予め報知を行うことがある。
【0003】
特許文献1には、ドライバーの操作に基づくトルク指令値から電動機が所定の保護温度に達するまでの時間を予測して、予測した時間を運転者に報知する電動車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-134609号公報
【発明の概要】
【0005】
特許文献1に記載のものは、トルク指令値に基づいて保護温度に達する時間を予測する構成である。このため、運転者のアクセルペダル操作が頻繁に変化するような運転状態では、時間を正確に予測することが困難であり、適切なタイミングで運転者に報知を行うことが難しいという問題があった。
【0006】
本発明は、適切なタイミングで電動モータの出力制限を報知できる車両の制御方法及び制御装置を提供することを目的とする。
【0007】
本発明のある態様は、電動モータの駆動力を利用して走行する車両の制御方法である。この制御方法は、電動モータの運転状態から、電動モータの実際の出力トルクの平均値を算出する平均値算出ステップと、算出された平均値から、電動モータの温度が保護温度に達するまでの到達時間を予測する到達時間予測ステップと、予測された到達時間が基準時間以下となったときに、運転者に出力制限が行われることを報知する報知ステップと、を含む。
【0008】
本発明によれば、電動モータの運転状態から電動モータの実際の出力トルクの平均値を算出し、これに基づいて予測される到達時間が基準時間以下となったときに運転者に出力制限外行われることを報知するので、実際の運転状況に基づいた適切なタイミングで、出力制限が行われることを報知できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態の車両の構成ブロック図である。
図2図2は、コントローラが行う制御のフローチャートである。
図3図3は、出力トルクのタイムチャートである。
図4図4は、トルク移動平均値のタイムチャートである。
図5図5は、トルク出力率マップである。
図6図6は、モータ温度上昇傾きマップである。
図7図7は、表示装置に表示される表示灯の一例の説明図である。
図8図8は、制御装置が行う処理のフローチャートである。
図9図9は、出力トルクの予測値のタイムチャートである。
図10図10は、トルク移動平均値の予測値のタイムチャートである。
図11図11は、トルク出力率マップである。
図12図12は、モータ温度上昇傾きマップである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る車両10の構成ブロック図である。
【0012】
車両10は、バッテリ1、インバータ2、電動モータ3、コントローラ4、ナビゲーション装置5及び表示装置6を備える。
【0013】
バッテリ1は、インバータ2を介して電動モータ3に電力を供給する。インバータ2は、バッテリ1から供給される直流電力を電動モータ3の駆動に適した交流電力に変換して、この交流電力を電動モータ3に供給する。
【0014】
電動モータ3は、インバータ2から供給された電力により駆動して、車両10を走行させる。電動モータ3は、車両10の減速時に発電(回生)を行い、発電した電力をインバータ2に出力する発電機としても機能する。電動モータ3には、電動モータ3の温度(例えばコイル温度)を検出する温度センサ3aが備えられる。
【0015】
コントローラ4は、インバータ2を制御して、電動モータ3の駆動を制御する車両の制御装置として構成される。また、コントローラ4は、表示装置6を制御して、表示装置6に情報を表示させる。また、コントローラ4は、ナビゲーション装置5を制御して、ナビゲーション装置5が取得した道路の情報を取得する。
【0016】
コントローラ4は、記憶装置を備えたマイコンを有しており、記憶装置に記録されているプログラムを実行することにより、後述する制御が実現される。
【0017】
ナビゲーション装置5は、GPS装置を有し、車両10の現在の位置情報(緯度、経度、標高など)を取得する。ナビゲーション装置5は、取得した車両10の現在の位置と、予め記憶されている地図情報とを参照して、車両10が走行している道路の情報(例えば路面勾配)を取得する。
【0018】
表示装置6は、運転者に対して車両10の情報を表示するための液晶パネルにより構成されるインストルメントパネルである。表示装置6は、後述するように、運転者に電動モータ3の出力制限が行われる旨の表示(表示灯6a)を点灯させる。
【0019】
次に、このように構成された車両10の制御を説明する。
【0020】
従来、一般的に、車両が走行しているとき、例えば連続した登坂路を走行している場合など、車両の負荷が大きく電動モータに大きな出力トルクが連続して要求されるような運転状況では、電動モータの発熱量が増加して、電動モータの温度が上昇する。電動モータには、温度上昇による絶縁材等の樹脂部品の劣化や永久磁石の減磁の影響を考慮して、温度の上限値(保護温度)が予め設定されている。このように電動モータの温度が上昇するような運転状況において、電動モータが保護温度を超えないように、電動モータの温度を予測して、出力トルクを制限する制御が行われる。
【0021】
このとき、車両の走行中に電動モータの出力トルクの制限が行われると、車両が十分に加速できず運転者に違和感を与えるばかりか、急な登坂路では出力トルクが不足して停車に至ってしまう可能性がある。これを予防するため、電動モータの出力トルクの制限を行う場合には、運転者に予め報知を行うことが一般的である。
【0022】
ここで、前述のような連続した登坂路を走行しているような運転状況では、運転者が頻繁にアクセルペダルの操作を行うことで電動モータの要求トルクが頻繁に変化し、電動モータの温度を正確に予測することが困難であった。このため、運転者に適切なタイミングで報知を行うことができないという問題があった。
【0023】
本発明の実施形態では、以下に説明するような制御により電動モータ3の温度を予測して、適切なタイミングで運転者に報知できるように構成した。
【0024】
図2は、コントローラ4が行う制御のフローチャートであり、運転者に対して出力制限の報知を行うか否かを決定する制御である。
【0025】
コントローラ4は、所定の周期(例えば10[ms])で、図2に示すフローチャートを実行する。
【0026】
まず、ステップS11では、コントローラ4は、電動モータ3の所定期間内における実際の出力トルクから、トルクの平均値を算出する(平均値算出ステップ)。
【0027】
図3は、車両10が走行しているときの電動モータ3の出力トルクの変動の一例を示すタイムチャートであり。図4は、所定期間内におけるトルク移動平均値MT1の一例を示すタイムチャートである。
【0028】
コントローラ4は、インバータ2から電動モータ3に出力される電流値等を取得することで、図3に示すように、電動モータ3の実出力トルクを常に(例えば10ミリ秒間隔)取得する。コントローラ4は、この実出力トルクの値から、トルクの平均値として、60秒間におけるトルク移動平均値を算出する。算出されたトルク移動平均値MT1は、記憶装置内に記憶される。なお、所定期間内(例えば10分間)におけるトルクの平均値を算出して、これをMT1としてもよい。
【0029】
なお、トルク移動平均値を算出する所定期間は例えば10分と説明したが、車両10の運転状態に応じて変更するように設定してもよい。
【0030】
一例として、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に応じて所定期間を変更する。運転者によるアクセルペダルの踏み込み量が大きい場合は、電動モータ3の出力トルクが大きくなり、電動モータ3の温度が高くなりやすい状況である。このような運転状態では、トルク移動平均値の値が大きくなり、出力制限の報知のタイミングが早くなりすぎる可能性がある。そこで、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量が大きいほど、所定期間を長く設定することで、出力制限の報知を、より適切なタイミングとすることができる。
【0031】
一方で、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量が小さい場合は、トルク移動平均値が小さくなり、出力制限の報知のタイミングが早くなることはないので、所定期間を短く設定する。
【0032】
同様に、現在の電動モータ3の出力トルクが大きいほど所定期間を短く設定してもよいし、現在の電動モータ3の温度が高いほど所定期間を短く設定してもよい。電動モータ3の出力トルクが大きい、又は、電動モータ3の温度が高い場合は、電動モータ3の負荷が高い状態であり、電動モータ3が保護温度に達するまでの時間が短いと考えられる。このような場合は、トルク移動平均値を算出する所定期間を短く設定することで、運転者に対する出力制限の報知を、より早期に行うことができる。
【0033】
一方で、電動モータ3の出力トルクが小さい、又は、電動モータ3の温度が低い場合は、電動モータ3の負荷は低い状態であり、トルク移動平均値を算出する所定期間を長く設定することで、不必要な出力制限の報知が行われないようにすることができる。
【0034】
次に、ステップS12では、コントローラ4は、予め記憶されているトルク出力率マップ(図5参照)を参照する。そして、ステップS13では、コントローラ4は、ステップS11で算出されたトルク移動平均値MT1とトルク出力率マップとから、トルク移動平均値MT1に対応する保護温度TM1を取得する。
【0035】
図5は、電動モータ3のトルク出力率マップの一例の説明図である。
【0036】
トルク出力率マップは、電動モータ3が出力するトルクと、当該トルクにおける電動モータ3の保護温度との対応関係を示すものであり、コントローラ4の記憶装置に予め記憶されている。なお、トルクと保護温度との対応関係は、電動モータ3の特性に基づき、実験やシミュレーションにより予め求めておく。図5に示す例では、電動モータ3が出力可能な最大のトルクMTMAXである場合に保護温度がTM0に設定されており、トルクが小さくなるに従って保護温度が大きくなるようなマップとなっている。
【0037】
次に、ステップS14では、コントローラ4は、モータ温度上昇率傾きマップ(図6参照)を参照する。そして、ステップS15では、コントローラ4は、ステップS11で算出されたトルク移動平均値MT1とモータ温度上昇傾きマップとから、トルク移動平均値MT1に対応するモータ温度上昇傾き(モータ温度上昇率)TS1を取得する。
【0038】
図6は、電動モータ3のコイル温度上昇傾きマップの一例の説明図である。
【0039】
コイル温度上昇傾きマップは、電動モータ3のトルク移動平均値と、当該トルク移動平均値における電動モータ3のコイル温度上昇傾きとの対応関係を示すものであり、コントローラ4の記憶装置に予め記憶されている。なお、トルク移動平均値とコイル温度上昇傾きとの対応関係は、電動モータ3の構造等に基づき、実験やシミュレーションにより予め求めておく。図6に示す例では、トルク移動平均値が大きくなるに従ってモータ温度上昇傾きが大きくなるようなマップとなっている。
【0040】
次に、ステップS16では、コントローラ4は、温度センサ3aが検出した値から、電動モータ3の現在の実モータ温度(実コイル温度)TM11を取得する。
【0041】
次に、ステップS17では、コントローラ4は、ステップS13で取得した保護温度TM1と、ステップS16で取得した実モータ温度TM11と、ステップS15で取得したモータ温度上昇傾きTS1とから、到達時間T1を次の数式1により算出する(到達時間予測ステップ)。
【0042】
T1=(TM1-TM11)/TS1 … 数式1
【0043】
この数式1は、現在の電動モータ3のトルク移動平均値MT1における最大の温度である保護温度TM1と、現在の電動モータ3の実モータ温度TM11との差をモータ温度上昇傾きTS1で除算することで、現在の電動モータ3の実モータ温度TM11が保護温度TM1に到達するまでの時間T1を算出するものである。
【0044】
次に、ステップS18において、コントローラ4は、算出された時間T1が、基準時間T2以下となっているか否かを判定する。
【0045】
基準時間T2とは、運転者が、表示装置6の報知がされてから適切な操作(例えば車線変更や路肩への停車など)を行うのに十分な時間のことであり、例えば10秒に設定される。
【0046】
コントローラ4は、ステップS17で、時間T1が基準時間T2よりも大きいと判定した場合は、ステップS20に移行し、報知を行うことなく、本フローチャートによる処理を一端終了する。
【0047】
また、コントローラ4は、ステップS17で、時間T1が基準時間T2以下となったと判定した場合は、ステップS19に移行し、表示装置6に電動モータ3の出力制限が行われることを示す表示灯6aを点灯させることにより運転者に報知を行う(報知ステップ)。その後、本フローチャートによる処理を一端終了する。
【0048】
図7は、表示装置6に表示される表示灯6aの一例の説明図である。
【0049】
表示装置6は、運転者に車両10の状態(例えば、車速やバッテリ容量)を表示する液晶ディスプレイである。前述の図2のステップS19において、表示装置6に、図7に示すように、出力制限が行われることを示すアイコンである表示灯6aを点灯する。
【0050】
なお、表示灯6aは、図7に示すようなアイコンだけでなく、トルク制限が行われることを示す文字情報とアイコンの組み合わせであってもよい。また、表示灯6aを点灯する際に、アラームや音声を発するようにしてもよい。
【0051】
このように、図2に示すフローチャートの制御により、コントローラ4は、電動モータ3の現在から所定期間前の間の出力トルクの平均値から、電動モータ3がトルクを十分に出力できる時間T1を算出することで、運転者に対して出力制限の報知を行うか否かを決定する。
【0052】
なお、ステップS18において、基準時間T2を、運転者が表示装置6の報知がされてから適切な操作を行うのに十分な時間である10秒に設定したが、車両10の車速に応じて変更するように設定してもよい。急勾配の登坂路では車速が低くなるので、運転者が適切な操作を行うための時間はより短い時間で済む。一方で、高速道路での登坂路など、車速が高い場合は、運転者が適切な操作を行うために必要な時間はより長く要求される。このように、運転者が適切な操作を行えるように、車速が高いほど、基準時間T2を大きく設定するようにしてもよい。
【0053】
図8は、コントローラ4が行う別の制御のフローチャートである。図8の制御は、図2に示すフローチャートの処理により運転者に対して出力制限の報知を行った後、この報知を終了するか否かを決定する制御である。
【0054】
コントローラ4は、前述の図2のステップS18及びS19において、表示装置6に電動モータ3の出力制限が行われることを示す表示灯6aを点灯させた後に、図8に示すフローチャートの処理を開始する。その後、このフローチャートを所定の周期(例えば10[ms])で実行する。
【0055】
まず、ステップS21では、コントローラ4は、ナビゲーション装置5から、車両10が現在走行している道路の情報、特に道路の勾配に関する情報を取得する(道路情報取得ステップ)。
【0056】
次に、ステップS22では、コントローラ4は、車両10の現在の位置から前方の所定地点までの間の電動モータ3の出力トルクを予測する。このときの出力トルクは、車両10が、現在の位置から所定地点までの間の道路を走行した場合に電動モータ3に要求される出力トルクの予測値である。予測値は、道路の勾配と車両10の情報(例えば車重)とに基づいて出力トルク予測し、例えば図9に示すようにトルクの変動を時間の推移としたタイムチャートを作成して記憶装置に記録する。
【0057】
そして、コントローラ4は、図9のように予測された出力トルクの値から、図10に示すように、現在の位置から所定地点までの間に予測される出力トルクの平均値、より具体的には、60秒間におけるトルク移動平均値MT2を算出する(予想トルク平均値算出ステップ)。
【0058】
なお、所定地点とは、現在の位置からの距離(例えば1km)でもよいし、現在の位置から所定時間(たとえば2分後)後に到達すると予測される地点であってもよい。これらは、前述の図2のフローチャートのステップS19で表示灯6aが点灯してから、後述するステップS30で表示灯を消灯するまでの間隔が、運転者に不安を与えない程度の間隔として設定される。
【0059】
次に、ステップS23では、コントローラ4は、予め記憶されているトルク出力率マップ(図11参照)を参照する。そして、ステップS24では、コントローラ4は、ステップS22で算出されたトルク移動平均値MT2とトルク出力率マップとから、トルク移動平均値MT2に対応する保護温度TM2を取得する(図11参照)。
【0060】
次に、ステップS25では、コントローラ4は、モータ温度上昇率傾きマップを参照する。そして、ステップS26では、コントローラ4は、ステップS22で算出されたトルク移動平均値MT2とモータ温度上昇傾きマップとから、トルク移動平均値MT2に対応するモータ温度上昇傾きTS2を取得する(図12参照)。
【0061】
次に、ステップS27では、コントローラ4は、温度センサ3aが検出した値から、電動モータ3の現在の実モータ温度(実コイル温度)TM3を取得する。
【0062】
次に、ステップS28では、コントローラ4は、ステップS24で取得した保護温度TM2、ステップS26で取得したモータ温度上昇傾きTS2及び所定時間T3から、許容温度TM4を次の数式2により算出する(許容温度算出ステップ)。
【0063】
TM4=TM2-(TS2×T3) … 数式2
【0064】
この数式2は、現在の電動モータ3のトルク移動平均値MT2における最大の温度である保護温度TM2から、所定時間T3後に電動モータ3の温度が上昇する予測値(すなわち(TS2×T3))を減算する。これにより、車両10が所定時間T3だけ走行したとき、電動モータ3の温度が保護温度TM2に達しない温度である許容温度TM4が算出される。
【0065】
所定時間T3は、例えば60秒に設定される。所定時間T3は、例えば後述するステップS30で表示灯6aによる報知を終了した後、前述の図2のフローチャートのステップS19で表示灯6aが点灯して再び報知が行われた場合に、その間の時間が、運転者に不安を与えない程度の間隔として設定される。なお、所定時間T3は、現在の地点から所定地点までに車両10が到達すると予想される時間を設定してもいい。
【0066】
次に、ステップS29で、コントローラ4は、ステップS27で取得した現在の実モータ温度TM3が、ステップS28で算出した許容温度TM4以下であるか否かを判定する。
【0067】
コントローラ4は、ステップS29で、実モータ温度TM3が許容温度TM4よりも大きいと判定した場合は、車両10が所定時間T3後まで走行したとき、実モータ温度TM3が保護温度TM2に達する可能性がある。この場合はステップS31に移行し、コントローラ4は、表示装置6の表示灯6aを点灯したままとして、報知を継続する。そして、本フローチャートによる処理を一端終了する。
【0068】
また、コントローラ4は、ステップS29で、実モータ温度TM3が許容温度TM4以下となったと判定した場合は、車両10が所定時間T3後まで走行したときにも、実モータ温度TM3は保護温度TM2に達しない。この場合は、ステップS30に移行し、コントローラ4は、表示装置6の表示灯6aを消灯させて、報知を終了する(報知終了ステップ)。その後、本フローチャートによる処理を一端終了する。
【0069】
このように、図8に示すフローチャートの制御により、コントローラ4は、電動モータ3の現在から所定地点までの間に予測され出力トルクの平均値から、電動モータ3がその間を走行した場合の許容温度TM4を算出することで、図2のフローチャートの処理で行った出力制限の報知を終了するか否かを決定する。
【0070】
以上説明したように、本発明の実施形態では、電動モータ3の駆動力を利用して走行する車両10の制御に関する。コントローラ4は、電動モータ3の運転状態から、電動モータ3の出力トルクのトルク移動平均値MT1を算出し(移動平均値算出ステップ)、算出されたトルク移動平均値MT1から、電動モータ3の温度が保護温度に達するまでの到達時間T1を予測し(到達時間予測ステップ)、予測された到達時間T1が基準時間T2以下となったときに、運転者に出力制限が行われることを報知する(報知ステップ)。
【0071】
この構成では、電動モータ3の運転状態から電動モータ3の実際の出力トルクの平均値を算出し、これに基づいて予測される到達時間T1が基準時間T2以下となったときに運転者に出力制限が行われることを報知するので、運転者が頻繁にアクセルペダルの操作を行って電動モータの要求トルクが頻繁に変化するような運転状況である場合にも、実際の運転状況に基づいた適切なタイミングで、出力制限が行われることを報知できる。
【0072】
また、本実施形態では、移動平均値算出ステップは、電動モータ3の現在から所定期間前の間のトルク移動平均値を算出する。
【0073】
この構成では、車両10の運転状況、すなわち、電動モータ3が実際に出力した出力トルクに基づいて、運転者に出力制限が行われることを報知することができる。
【0074】
また、本実施形態では、到達時間予測ステップは、算出されたトルク移動平均値と予め設定された温度上昇率マップとから温度上昇率を算出し、算出された温度上昇率と現在の電動モータの温度とから、到達時間を算出する。
【0075】
この構成では、電動モータ3が実際に出力した出力トルクに基づいて、温度上昇率を算出することで、電動モータ3が保護温度に達するまでの到達時間を予測することができる。
【0076】
また、本実施形態では、報知ステップは、運転席の表示装置6に配置される表示灯6aを点灯して、運転者に出力制限が行われることを報知するので、運転者に出力制限が行われることを確実に伝えることができる。
【0077】
また、本実施形態では、基準時間T2を、車速が高いほど大きく設定するので、車両10の車速に応じて運転者が適切な操作を行える時間を適切に設定できる。
【0078】
また、本実施形態では、所定期間は運転者によるアクセルペダルの踏み込み量が大きいほど、短く設定されるので、出力制限の報知のタイミングが早くなりすぎことを抑制して、出力制限の報知をより適切なタイミングとすることができる。
【0079】
また、本実施形態では、運転者に出力制限が行われることを報知した後に、走行中の道路の情報を取得し(道路情報取得ステップ)、現在の車両10の位置から所定地点までに道路を走行するために要求される電動モータ3の予想トルクの平均値を算出し(予想トルク平均値算出ステップ)、電動モータ3の保護温度TM2と、電動モータ3の所定時間T3後の温度上昇の予測値とを算出し、算出された保護温度TM2から予測値を減算することで許容温度TM4を算出し(許容温度算出ステップ)、電動モータ3の現在の実モータ温度TM3が算出された許容温度TM4以下となった場合に、出力制限が行われる旨の報知を終了する(報知終了ステップ)。
【0080】
この構成では、電動モータ3の現在から所定地点までの間に予測され出力トルクの平均値から、車両10が所定時間T3だけ走行した場合に保護温度TM2に達しない許容温度TM4を算出するので、現在の電動モータ3の実モータ温度TM3が許容温度TM4以下となった場合に、出力制限の報知を終了ことができる。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0082】
3:電動モータ、3a:温度センサ、4:コントローラ、5:ナビゲーション装置、6:表示装置、6a:表示灯、10:車両
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