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特開2024-157349固体炭素析出システムおよび固体炭素の析出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157349
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】固体炭素析出システムおよび固体炭素の析出方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20241030BHJP
   B01J 23/83 20060101ALI20241030BHJP
   C01B 3/38 20060101ALI20241030BHJP
   C01B 3/56 20060101ALI20241030BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C01B32/05 ZAB
B01J23/83 Z
C01B3/38
C01B3/56 Z
B01D53/86 243
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071663
(22)【出願日】2023-04-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼令和5年3月1日、化学工学会第88年会 講演要旨集(WEB公開) ▲2▼令和5年3月8日、化学工学会第88年会 講演要旨集(USBメモリ販売) ▲3▼令和5年3月16日、化学工学会第88年会
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】今井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】福岡 葵
(72)【発明者】
【氏名】三浦 啓一
(72)【発明者】
【氏名】福原 長寿
【テーマコード(参考)】
4D148
4G140
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4D148AA30
4D148BA03Y
4D148BA08Y
4D148BA18Y
4D148BA19Y
4D148BA30Y
4D148BA32Y
4D148BA33Y
4D148BA38Y
4D148BA41Y
4D148BB08
4D148CD10
4D148DA08
4G140EA03
4G140EA05
4G140EB37
4G140FA02
4G140FB04
4G140FC01
4G140FC02
4G140FC03
4G140FE01
4G146AA01
4G146BA08
4G146BA09
4G146BB11
4G146BC32B
4G146BC44
4G169AA03
4G169BA01B
4G169BB02B
4G169BB04B
4G169BC16B
4G169BC43B
4G169BC66B
4G169BC67B
4G169BC68B
4G169CB81
4G169CC04
4G169CC22
4G169EA06
4G169FB15
4G169FB17
(57)【要約】
【課題】COの固定化において温室効果ガスの排出量をさらに削減するとともに、固体炭素を安定的に回収することを可能とした固体炭素析出システムおよび固体炭素の析出方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素と水素とを含む原料ガスからメタンおよび水を生成する第1反応器10と、前記生成されたメタンを一酸化炭素に変換する第2反応器20と、前記変換された一酸化炭素から前記固体炭素を析出する第3反応器30と、前記第3反応器から排出されるオフガスを前記第1反応器に循環させるオフガス循環路71と、前記固体炭素析出システム内を流通する各ガス流量を制御する制御部と、を含み、前記制御部は、前記第1反応器に供給される混合ガスにおけるH/Cモル比が指定された範囲になるように、前記オフガス循環路のガス流量を含め、各ガス流量を制御することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素と水素とを含む原料ガスから固体炭素を析出させる固体炭素析出システムであって、
前記原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記原料ガスからメタンおよび水を生成する第1反応器と、
前記生成されたメタンとドライリフォーミング反応を活性化させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、前記生成されたメタンを一酸化炭素に変換する第2反応器と、
前記変換された一酸化炭素と、固体炭素析出反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記変換された一酸化炭素から前記固体炭素を析出する第3反応器と、
前記第3反応器から排出されるオフガスを前記第1反応器に循環させるオフガス循環路と、
前記固体炭素析出システム内を流通する各ガス流量を制御する制御部と、を含み、
前記制御部は、前記第1反応器に供給される混合ガスにおけるH/Cモル比が指定された範囲になるように、前記オフガス循環路のガス流量を含め、各ガス流量を制御することを特徴とする固体炭素析出システム。
【請求項2】
前記第2反応器から排出されるガスから水素を分離する水素分離流路をさらに備え、
前記制御部は、前記第3反応器に供給される混合ガスにおけるH/COモル比が指定された範囲となるように、前記水素分離流路のガス流量を含め、各ガス流量を制御することを特徴とする請求項1に記載の固体炭素析出システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記第3反応器に供給される混合ガスにおける一酸化炭素濃度が指定された範囲となるように、前記水素分離流路のガス流量を含め、各ガス流量を制御することを特徴とする請求項2に記載の固体炭素析出システム。
【請求項4】
前記第1反応器から排出されるガスからメタンを分離するメタン分離流路をさらに備え、
前記制御部は、前記第2反応器に供給されるガスにおけるCO/CHモル比が指定された範囲となるように、前記メタン分離流路のガス流量を含め、各ガス流量を制御することを特徴とする請求項2または3に記載の固体炭素析出システム。
【請求項5】
前記第2反応器へ二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給流路をさらに備え、
前記制御部は、前記第2反応器に供給されるガスにおけるCO/CHモル比が指定された範囲となるように、前記二酸化炭素供給流路のガス流量を含め、各ガス流量を制御することを特徴とする請求項2または3に記載の固体炭素析出システム。
【請求項6】
二酸化炭素と水素とを含む原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記原料ガスからメタンおよび水を生成する第1工程と、
前記生成されたメタンを含むガスと、ドライリフォーミング反応を活性化させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、前記生成されたメタンを一酸化炭素に変換する第2工程と、
前記変換された一酸化炭素を含むガスと、固体炭素析出反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記変換された一酸化炭素から固体炭素を析出する第3工程と、
前記第3工程により生じたガスを、前記第1工程に再利用するために循環させる工程と、を含み、
前記原料ガスのH/Cモル比が2.5以上であることを特徴とする固体炭素の析出方法。
【請求項7】
前記第2工程で生じたガスから水素を分離する工程をさらに含み、
前記分離される水素量の調整の結果、前記変換された一酸化炭素を含むガスは、H/COモル比が1.0以上2.0以下であり、一酸化炭素濃度が30vol%以上であることを特徴とする請求項6に記載の固体炭素の析出方法。
【請求項8】
前記生成されたメタンを含むガスは、CO/CHモル比が1.0以上であることを特徴とする請求項6または7に記載の固体炭素の析出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体炭素析出システムおよび固体炭素の析出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球温暖化ガスとして環境に悪影響を及ぼす二酸化炭素の削減・固定化は、世界的な急務である。それを受けて、各所において、CO排出削減技術、CO分離・回収技術、CO有用資源化技術、CO固定化技術など、多様な技術が実用化に向けて研究開発されている。
【0003】
二酸化炭素を有効利用する方法として、例えば、250~500℃に加熱された触媒の存在下において二酸化炭素と水素の混合ガスを流通させると、メタネーション反応によりメタンが合成できることが知られている(特許文献1を参照)。また、メタンを高温熱分解することにより、固体炭素を析出させる技術についても知られている(特許文献2~5を参照)。
【0004】
特許文献2では、触媒を使用せずにメタネーション反応を生じさせる第一反応器と、1200℃以上の温度条件によりメタンを分解する第二反応器とが直列に接続されている連続炭素除去システムが開示されている。
【0005】
特許文献3では、二酸化炭素と水素を触媒の存在下で反応させて、メタンと水を含む混合ガスを生成する第一反応工程と、第一反応工程で得られたメタンガスを原料として、カーボン、グラファイト、カーボンナノチューブおよびダイヤモンドからなる群から選択される少なくとも1つの炭素製品を製造する第二反応工程を含む二酸化炭素の固定化方法が開示されている。
【0006】
特許文献4では、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、原料ガスからメタンおよび水素を生成するメタネーション反応器と、メタネーション反応器で生成されたメタンを加熱することで、メタンを固体炭素および水素に分解するメタン熱分解反応器と、を含む二酸化炭素固定システムが開示されている。
【0007】
特許文献5では、二酸化炭素とメタンの割合が7:3の混合ガスを、触媒30wt%Ni/SiOが充填されたプレ反応槽に流し、加熱炉によって550℃の反応温度で一定時間反応させることで、二酸化炭素、メタン、水素、一酸化炭素の混合ガスに変換し、その後、鉄を主成分とする触媒50wt%Fe/SiOが充填された本反応槽に流し、加熱炉によって400℃の低温にて二酸化炭素を水素と接触還元反応をさせて炭素を析出させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-172595号公報
【特許文献2】特開平8-133200号公報
【特許文献3】特開2005-60137号公報
【特許文献4】特開2015-196619号公報
【特許文献5】特開2003-48708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、一酸化炭素から固体炭素を析出させるブドワール反応を用いた固体炭素の析出方法が知られている。しかしながら、ブドワール反応では、固体炭素が析出するとともに、二酸化炭素が生成される。そのため、温室効果ガスの排出量の削減について、未だ改善の余地が残っている。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、COの固定化において温室効果ガスの排出量をさらに削減するとともに、固体炭素を安定的に回収することを可能とした固体炭素析出システムおよび固体炭素の析出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の固体炭素析出システムは、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスから固体炭素を析出させる固体炭素析出システムであって、前記原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記原料ガスからメタンおよび水を生成する第1反応器と、前記生成されたメタンとドライリフォーミング反応を活性化させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、前記生成されたメタンを一酸化炭素に変換する第2反応器と、前記変換された一酸化炭素と、固体炭素析出反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記変換された一酸化炭素から前記固体炭素を析出する第3反応器と、前記第3反応器から排出されるオフガスを前記第1反応器に循環させるオフガス循環路と、前記固体炭素析出システム内を流通する各ガス流量を制御する制御部と、を含み、前記制御部は、前記第1反応器に供給される混合ガスにおけるH/Cモル比が指定された範囲になるように、前記オフガス循環路のガス流量を含め、各ガス流量を制御することを特徴とする。
【0012】
第3反応器から排出されるオフガスが循環されるため、固体炭素析出システム全体から排出される温室効果ガスの量を減らすことができる。また、第1反応器に供給される混合ガスにおけるH/Cモル比を指定された範囲に制御することによって、固体炭素を安定的に回収することができる。
【0013】
(2)また、上記(1)記載の固体炭素析出システムにおいて、前記第2反応器から排出されるガスから水素を分離する水素分離流路をさらに備え、前記制御部は、前記第3反応器に供給される混合ガスにおけるH/COモル比が指定された範囲となるように、前記水素分離流路のガス流量を含め、各ガス流量を制御することを特徴とする。
【0014】
第2反応器から排出されるガスから水素を分離する水素分離流路を有するから、第3反応器に供給される混合ガスにおけるH/COモル比を制御しやすくなる。また、第3反応器に供給される混合ガスにおけるH/COモル比を指定された範囲に制御することによって、第3反応器における固体炭素の析出率を向上させることができる。
【0015】
(3)また、上記(2)記載の固体炭素析出システムにおいて、前記制御部は、前記第3反応器に供給される混合ガスにおける一酸化炭素濃度が指定された範囲となるように、前記水素分離流路のガス流量を含め、各ガス流量を制御することを特徴とする。
【0016】
第3反応器に供給される混合ガスにおける一酸化炭素濃度を指定された範囲となるように制御することによって、第3反応器における固体炭素の析出率を向上させることができる。
【0017】
(4)また、上記(1)~(3)のいずれかに記載の固体炭素析出システムにおいて、前記第1反応器から排出されるガスからメタンを分離するメタン分離流路をさらに備え、前記制御部は、前記第2反応器に供給されるガスにおけるCO/CHモル比が指定された範囲となるように、前記メタン分離流路のガス流量を含め、各ガス流量を制御することを特徴とする。
【0018】
第2反応器に供給されるガスからメタンを分離するメタン分離流路を備えるから、第2反応器に供給されるガスにおけるCO/CHモル比を制御しやすくなる。これにより、ドライリフォーミング反応に伴う固体炭素の析出を抑制することができる。
【0019】
(5)また、上記(1)~(4)のいずれかに記載の固体炭素析出システムにおいて、前記第2反応器へ二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給流路をさらに備え、前記制御部は、前記第2反応器に供給されるガスにおけるCO/CHモル比が指定された範囲となるように、前記二酸化炭素供給流路のガス流量を含め、各ガス流量を制御することを特徴とする。
【0020】
第2反応器へ二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給流路を備えるから、第2反応器に供給されるガスにおけるCO/CHモル比を制御しやすくなる。これにより、ドライリフォーミング反応に伴う固体炭素の析出を抑制することができる。
【0021】
(6)また、本発明の固体炭素の析出方法は、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記原料ガスからメタンおよび水を生成する第1工程と、前記生成されたメタンを含むガスと、ドライリフォーミング反応を活性化させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、前記生成されたメタンを一酸化炭素に変換する第2工程と、前記変換された一酸化炭素を含むガスと、固体炭素析出反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記変換された一酸化炭素から固体炭素を析出する第3工程と、前記第3工程により生じたガスを、前記第1工程に再利用するために循環させる工程と、を含み、前記原料ガスのH/Cモル比が2.5以上であることを特徴とする。
【0022】
第3工程により生じたガスをメタネーション反応に再利用するために第1工程に再利用するために循環させるから、固体炭素を析出する際に排出される温室効果ガスの量を減らすことができる。また、原料ガスは、H/Cモル比が2.5以上であるから、固体炭素を安定的に回収することができる。
【0023】
(7)また、上記(6)記載の固体炭素析出方法において、前記第2工程で生じたガスから水素を分離する工程をさらに含み、前記分離される水素量の調整の結果、前記変換された一酸化炭素を含むガスは、H/COモル比が1.0以上2.0以下であり、一酸化炭素濃度が30vol%以上であることを特徴とする。
【0024】
ドライリフォーミング反応を終えたガスから水素を分離する工程を含むから、第3反応器に供給される混合ガスにおけるH/COモル比および一酸化炭素濃度を制御しやすくなる。また、変換された一酸化炭素を含むガスは、H/COモル比が1.0以上2.0以下であり、一酸化炭素濃度が30vol%以上であるから、固体炭素の析出率を向上させることができる。
【0025】
(8)また、上記(6)または(7)記載の固体炭素析出方法において、前記生成されたメタンを含むガスは、CO/CHモル比が1.0以上であることを特徴とする。生成されたメタンを含むガスがCO/CHモル比が1.0以上であるから、ドライリフォーミング反応に伴う固体炭素の析出を抑制することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、COの固定化において温室効果ガスの排出量をさらに削減するとともに、固体炭素を安定的に回収することを可能にできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第一実施形態に係る固体炭素析出装置の構成を示す概略図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る固体炭素析出システムの構成を示す概略図である。
図3】本発明の第二実施形態に係る固体炭素析出装置の構成を示す概略図である。
図4】本発明の第三実施形態に係る固体炭素析出装置の構成を示す概略図である。
図5】本発明の第四実施形態に係る固体炭素析出装置の構成を示す概略図である。
図6】本発明の第五実施形態に係る固体炭素析出装置の構成を示す概略図である。
図7】検証例1に用いられた実験系を示す模式図である。
図8】スパイラル状の触媒を示す模式図である。
図9】各試験例における各種条件および測定結果を表す表である。
図10】横軸に第三反応器に供給される混合ガスにおけるH/COモル比をとったときの固体炭素の析出率を表すグラフである。
図11】横軸に第三反応器に供給される混合ガスにおける一酸化炭素濃度をとったときの固体炭素の析出率を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[原理]
二酸化炭素から固体炭素を析出させる方法として、メタネーション反応、ドライリフォーミング反応およびブドワール反応を含む固体炭素析出反応を利用した方法が知られている。メタネーション反応、ドライリフォーミング反応および固体炭素析出反応を利用した固体炭素の析出方法は、以下の反応式によって表すことができる。
第一反応:CO+4H→CH+2HO ΔH=-165kJ/mol…(式1)
第二反応:CO+CH→2CO+2H ΔH=248kJ/mol…(式2)
第三反応:2CO→C+CO ΔH=-172kJ/mol…(式3)
【0029】
式1に示されるように、初めに二酸化炭素および水素からメタンに変換するメタネーション反応を生じさせる。次に、式2の通り、二酸化炭素およびメタンから一酸化炭素に変換するドライリフォーミング反応を生じさせる。そして、式3の通り、固体炭素析出反応によって一酸化炭素から固体炭素を析出させ、固体炭素を回収する。これにより、二酸化炭素から固体炭素を析出させることができる。
【0030】
本発明者らは、固体炭素析出反応において固体炭素の析出とともに、二酸化炭素が生成されてしまうことに着目し、固体炭素析出反応により生じたガスをメタネーション反応に再利用することを見出した。また、本発明者らは、固体炭素析出反応により生じたガスには二酸化炭素および水素の他にメタンおよび二酸化炭素が含まれることから、原料ガスにおけるH/Cモル比が3.0以上となるように制御することによって、メタネーション反応における固体炭素の析出を抑制できることを見出した。これにより、本発明者らは、COの固定化において温室効果ガスの排出量をさらに削減するとともに、効率よく固体炭素を析出させることができた。
【0031】
[第一実施形態]
以下に本発明の第一実施形態について説明する。
【0032】
[固体炭素析出装置の構成]
図1は本発明の第一実施形態に係る固体炭素析出装置である。固体炭素析出装置1は、二酸化炭素を含むプロセス排ガスから固体炭素を析出させる装置である。プロセス排ガスとは、セメントクリンカ焼成過程、生石灰製造過程、火力発電所、廃棄物焼却処理施設、陶磁器などの焼成設備や製鉄所、化学プラントから排出される二酸化炭素を含む排ガスのことを指す。本実施形態では一例として、セメントクリンカ焼成を行うキルン200から排出されるプロセス排ガスから固体炭素を析出させる場合について説明する。キルン200は石灰石と酸素が供給され、クリンカ焼成を行って水と二酸化炭素を含む排ガスを排出する。
【0033】
図1に示すように、固体炭素析出装置1は互いに異なる反応が生じる3つの反応器を有し、3つの反応器は直列に連結されている。原料ガスが供給される反応器を第一反応器10としたとき、第一反応器10、第二反応器20、第三反応器30の順で反応が進み、第三反応器30で固体炭素を析出させる。固体炭素析出装置1はガス循環設備をさらに備える。
【0034】
ガス循環設備は、各反応器から排出された混合ガスの一部を固体炭素析出装置1に循環させる設備であり、第三反応器30から排出されたオフガスを第一反応器10に供給する第一オフガス循環路71を少なくとも有する。ガス循環設備は、第一オフガス循環路71のほかに、第2オフガス循環路72、メタン循環路73、一酸化炭素循環路74、二酸化炭素循環路75および水素循環路76を有する。オフガスには二酸化炭素が多く含まれるため、オフガスを外部に排出せず原料ガスの原料として利用することにより、温室効果ガスの排出を削減できる。また、オフガスは、メタンや一酸化炭素も多く含むことから燃料として利用できる。そのため、第一反応器10だけでなく焼成設備や製鉄所、化学プラントに供給されてもよく、本実施形態では第2オフガス循環路72を通じてキルン200に供給している。また、第1オフガス循環路71および第2オフガス循環路72は、オフガスから一酸化炭素、二酸化炭素、水素およびメタンのうち少なくとも1つを分離する設備を有し、オフガスから分離したガスを供給可能な構造であってもよい。また、ガス循環設備はそれぞれの循環路においてガスを貯蔵するタンクを有していてもよい。また、一酸化炭素循環路74、二酸化炭素循環路75および水素循環路76は循環路ではなく、固体炭素析出装置1の外部にガスを排出する排出路であってもよい。
【0035】
固体炭素析出装置1は、3つの反応器とガス循環設備のほかに、水素供給設備7、水素流量計9、第一ガス混合器15、一酸化炭素分離器21、メタン分離器23、第二ガス混合器25、二酸化炭素分離器31、水素分離器33、第一反応器の出口に設けられる第一水蒸気除去設備51および第三反応器の出口に設けられる第三水蒸気除去設備53、流量計50、二酸化炭素濃縮設備60を備える。二酸化炭素濃縮設備60は、第一反応器10に二酸化炭素を供給する第1二酸化炭素供給路61と、第二反応器20に二酸化炭素を供給する第2二酸化炭素供給路62とを備える。また、固体炭素析出装置1は、触媒劣化の原因となる硫黄酸化物を除去する設備等を備えていることが好ましい。また、プロセス排ガス中に窒素や酸素が含まれていると原料ガスの絶対量が大きくなってしまうため、第一反応器の前段にプロセス排ガスから窒素や酸素を除去する設備をさらに備えてもよい。
【0036】
第一ガス混合器15は、水素供給設備7から供給される水素と、二酸化炭素を含むプロセス排ガスと、第三反応器30から排出されたオフガスと、水素分離器33によって分離された水素とを混合し、第一反応器10に供給する原料ガスを生成する。このとき、原料ガスは、H/Cのモル比が2.5以上となるように混合される。H/Cモル比は、(H+2CH)/(CO+CO+CH)から算出されるモル比である。原料ガスにおけるH/Cのモル比は、より好ましくは3.0以上であり、さらに好ましくは3.5以上である。原料ガスにおけるH/Cのモル比が2.5以上であるから、第一反応器10における固体炭素の析出が抑制され、安定的に固体炭素を回収することができる。また、プロセス排ガスは、二酸化炭素濃縮設備60によって二酸化炭素の濃度を高めてから第一ガス混合器15に供給されることが好ましい。第一ガス混合器15は、原料ガスの流量を測定する流量計を備えていることが好ましい。
【0037】
第一反応器10は、第一ガス混合器15から供給される原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、式1の通り、原料ガスからメタンおよび水を生成する。原料ガスは、空間速度が2000~20000/hとなるように、第一反応器10に供給されることが好ましい。第一反応器10は、メタネーション反応を活性化させる触媒が充填されたガス流通反応管と、ガス流通反応管を300~550℃に加熱できる加熱炉とを備える。第一反応器10は、固体生成物によりガス流路が閉塞されることがないため、例えば、固定式のガス流通管である常圧流通式反応器が用いられる。
【0038】
メタネーション反応を活性化させる触媒は、例えば、Ni、Ru、Pt、Rhである。また、担体としては、CeO、ZrO、YおよびAlなどの各種酸化物やアルミノシリケートを用いることができる。触媒の形状については、所定の空間速度を達成できれば、どのような形状であってもよいが、触媒の容積が少なくて済むことから螺旋状が好ましい。触媒を螺旋状にする場合、アルミニウムなどの金属製の板部材を螺旋状に成形し、ペースト状の触媒を塗布することで作製される。
【0039】
一酸化炭素分離器21は、第一反応器10から排出されたガスから一酸化炭素を分離する。一酸化炭素分離器21は、例えばPSA法、膜分離法、深冷分離法を利用したものが挙げられる。分離された一酸化炭素は、一酸化炭素循環路74を通してキルン200を含む焼成設備や製鉄所、化学プラントに供給でき、燃料として利用できる。図1では一酸化炭素循環路74が第2オフガス循環路72に通じており、オフガスと混合されてからキルン200に供給されているが、直接キルン200に供給されてもよい。一酸化炭素分離器21は固体炭素析出装置1に必須ではないが、ドライリフォーミング反応は可逆反応であり、一酸化炭素を分離することによって逆反応を抑制できるため、備えられていることが好ましい。
【0040】
メタン分離器23は、第一反応器10から排出されたガスからメタンを分離する。メタン分離器23は、例えばPSA法、膜分離法、高圧水吸収法を利用したものが挙げられる。分離されたメタンは、メタン分離流路であるメタン排出路24もしくはメタン循環路73を通して、キルン200を含む焼成設備や製鉄所、化学プラントに供給することで燃料として利用できる。図1ではメタン循環路73が第2オフガス循環路72に通じており、オフガスと混合されてからキルン200に供給されているが、直接キルン200に供給されてもよい。キルン200で燃料として利用できない量のメタンが分離された場合には、メタン排出路24を通して固体炭素析出装置1の外部に排出される。
【0041】
第二ガス混合器25は、二酸化炭素濃縮設備60から供給される二酸化炭素と、第一反応器10から排出された混合ガスとを混合し、第二反応器20に供給する混合ガスを生成する。このとき、第二反応器20に供給される混合ガスは、CO/CHモル比が1.0以上となるように混合されることが好ましい。第二反応器20に供給される混合ガスにおけるCO/CHモル比は、より好ましくは1.2以上である。第二反応器20に供給される混合ガスにおけるCO/CHモル比が1.0以上であるから、ドライリフォーミング反応の反応率を向上させることができる。これは、「C. Guerra, A. Lanzini, P. Leone, M. Santarelli, N.P. Brandon, “Optimization of dry reforming of methane over Ni/YSZ anodes for solid oxide fuel cells”, Journal of Power Sources, 245, 154-163, (2014)」、「川▲崎▼ 亘、C1系資源活用のための構造体触媒反応システムに関する研究、静岡大学大学院博士論文、2017年12月」に基づく。
【0042】
第二反応器20は、第一反応器10から供給されるメタンを含む混合ガスと、ドライリフォーミング反応を促進させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、式2の通り、メタンを一酸化炭素に変換する。第二反応器20に供給される混合ガスは、空間速度が1300~15000/hとなるように供給されることが好ましい。第二反応器20は、ドライリフォーミング反応を活性化させる触媒が充填されたガス流通反応管と、ガス流通反応管を700~900℃に加熱できる加熱炉とを備える。第二反応器20は、固体生成物により反応器内のガス流路が閉塞される懸念が少ないため、例えば、固定式のガス流側管である常圧流通式反応器が用いられる。
【0043】
ドライリフォーミング反応を活性化させる触媒は、例えば、Ni、Rhである。また、担体としては、CeO、ZrO、YおよびAlなどの各種酸化物やアルミノシリケートを用いることができるが、γ-Alが好ましい。触媒の形状については、所定の空間速度を達成できれば、どのような形状であってもよいが、触媒の容積が少なくて済むことから螺旋状が好ましい。触媒を螺旋状にする場合、ステンレスなどの金属製の板部材を螺旋状に成形し、ペースト状の触媒を塗布することで作製される。
【0044】
二酸化炭素分離器31は、第二反応器20から排出される混合ガスから二酸化炭素を分離して、二酸化炭素循環路75を通して二酸化炭素濃縮設備60に二酸化炭素を供給する。二酸化炭素分離器31は、例えばPSA法、化学吸収法、膜分離法を利用したものである。二酸化炭素分離器31は、第二反応器から排出されるガスから二酸化炭素を分離してガスの総量を減らすことで、第三反応器に供給される混合ガスにおける一酸化炭素濃度を向上させるとともに二酸化炭素濃度を低下できる。二酸化炭素分離器31は固体炭素析出装置1に必須ではないが、固体炭素の回収率を向上させるために備えられていることが好ましい。なお、固体炭素析出装置内で二酸化炭素の量が過剰である場合には、二酸化炭素分離器31で分離された二酸化炭素は、二酸化炭素濃縮設備60へ戻してもよい。
【0045】
水素分離器33は、第二反応器20から排出されたガスから水素を分離して、水素循環路76を通して第一ガス混合器15に供給する。水素分離器33は、例えばPSA法、膜分離法、化学吸着法を利用したものが挙げられる。
【0046】
第三反応器30は、第二反応器20から供給される一酸化炭素を含む混合ガスと、固体炭素析出反応を活性化させる触媒とを接触させ、式3の通り、一酸化炭素から固体炭素を析出させる。第三反応器30に供給される混合ガスは、空間速度が最大2000/hとなるように供給されることが好ましい。第三反応器30は、固体炭素析出反応を活性化させる触媒が充填されたガス流通反応管と、ガス流通反応管を400~900℃に加熱できる加熱炉とを備える。第三反応器30は、固体炭素が析出した触媒を連続的に排出可能であるとともに、新しい触媒を反応器内に連続的に供給が可能なものがよく、例えば、流動層、移動層、ロータリーキルンが好ましい。
【0047】
第三反応器30に供給される混合ガスは、H/COモル比が1.0以上2.0以下、一酸化炭素濃度が30vol%以上、二酸化炭素濃度が15%以下となるように供給されることが好ましい。これにより、固体炭素の析出率を向上させることができる。第三反応器に供給される混合ガスにおけるH/COモル比は、より好ましくは1.1以上2.0以下である。第三反応器に供給される混合ガスにおける一酸化炭素濃度は、好ましくは40vol%以上であり、より好ましくは43vol%以上であり、さらに好ましくは45vol%以上である。第三反応器に供給される混合ガスにおける二酸化炭素濃度は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは5%以下である。
【0048】
固体炭素析出反応を活性化させる触媒には、Ni、Fe、Mn、Co、Cu、Znが挙げられるが、環境に配慮すると鉄系触媒が好ましい。担体としては、CeO、ZrO、YおよびAlなどの各種酸化物やアルミノシリケートを用いることができる。触媒の形状については、所定の空間速度を達成できれば、どのような形状であってもよいが、触媒の容積が少なくて済むことから螺旋状が好ましい。触媒を螺旋状にする場合、ステンレスなどの金属製の板部材を螺旋状に成形し、ペースト状の触媒を塗布することで作製される。
【0049】
また、図1では、第一反応器と第三反応器の出口に対して水蒸気除去設備51、53が設けられている。水蒸気除去設備51、53は、対象となる反応器の出口から排出されるガスを冷却することで水蒸気を濃縮し、工場排水として排出する。
【0050】
第一反応器10におけるメタネーション反応では水蒸気が生成されるが、水蒸気を含んだまま第二反応器20に混合ガスが移動してしまうとメタンの転換率が低下するおそれがある。そのため、第一反応器10の出口に第一水蒸気除去設備51を設け、積極的に水蒸気を除去することが好ましい。第三反応器30では固体炭素析出反応が支配的であるが、水蒸気を生成する反応が一部生じてしまうことが考えられる。そのため、第三反応器30の出口に第三水蒸気除去設備53を設けることが好ましい。一方、第二反応器20におけるドライリフォーミング反応では基本的に水蒸気を生成しない。そのため、第二反応器20の出口に水蒸気除去設備を設けなくてもよいが、第二反応器20内では様々な反応系が競合していることや、触媒の種類や温度条件等が変更された際に水蒸気が生成されるおそれを考えて設けてもかまわない。
【0051】
混合ガスの組成比を調整するためには、ガス混合器15、25に供給されるガスの組成比を測定するセンサ、各混合ガスの流量を調整可能な弁およびガス混合器15、25が設置されていることが好ましい。センサは少なくとも水素、メタン、二酸化炭素および一酸化炭素の成分比率を把握可能なものであればよく、各混合ガスの流量を調整可能な弁はプロセス排ガスが排出される排出口や水素供給設備7だけでなく、混合ガスから分離されるガスや第三反応器30から排出されるオフガスを各ガス混合器へ循環利用する際に設けられていることが好ましい。
【0052】
また、固体炭素析出装置1において、第一反応器10および第三反応器30内における反応が発熱反応であることに対し、第二反応器20内における反応は吸熱反応である。そのため、第一反応器10および第三反応器30から排出される混合ガスの顕熱を熱交換器により回収し、第二反応器20のエネルギー源として使用することが好ましい。
【0053】
[固体炭素析出システム]
次に固体炭素析出システムについて説明する。図2は、固体炭素析出システムの構成を示す概略図である。固体炭素析出システム500は、固体炭素析出装置1において各反応器に供給される混合ガスの組成比を、指定された範囲に制御する。指定はユーザにより行われてもよいが、あらかじめの設定、自動計算による設定またはネットワークを介した指示により行われてもよい。
【0054】
固体炭素析出システム500は、固体炭素析出装置1とガス組成比制御装置100とを有する。ガス組成比制御装置は、記憶部110、操作部120および制御部130を有する。記憶部110は、固体炭素析出装置1において測定された値を記録する。固体炭素析出装置1において測定された値は、例えば、各反応器から排出される混合ガスおよびプロセス排ガスの組成比など、ガス混合器15、25に供給されるガスの組成比が含まれる。
【0055】
操作部120は、ユーザが任意に入力可能なデバイスであり、例えば、キーボードやマウス、タッチパネルである。ユーザは操作部120を介して各反応器に供給される混合ガスの組成比について任意の範囲を入力できる。制御部130は、記憶部110に記録されているデータに基づいて、指定された範囲となるように混合ガスの組成比を制御する。具体的には、各設備からのガス流量を認識するとともに各ガス混合器15、25に供給されるガスの弁や各分離器21、23、31、33を制御することで、各反応器10、20、30に供給される混合ガスの組成比が、ユーザにより指定された範囲となるように制御する。
【0056】
なお、本実施形態では、すべての反応器における混合ガスの組成比が制御可能な例について記述したが、少なくとも第一反応器10に供給される原料ガスにおけるH/Cのモル比を指定した範囲に制御可能であればよく、第二反応器20および第三反応器30の少なくとも一方に供給される混合ガスの組成比を制御できなくてもよい。
【0057】
[固体炭素の析出方法]
次に、固体炭素の析出方法について説明する。
【0058】
固体炭素の析出方法は、第一反応器10におけるメタン化率、固体炭素析出装置からキルンに供給するガスの種類およびメタンの排出の有無によって異なる。メタン化率は第一反応器10において一酸化炭素および二酸化炭素がメタンに転化した割合のことを指す。固体炭素の析出方法について以下に順に説明する。
【0059】
(第1の方法)
第一反応器10におけるメタン化率が低いもしくは適正範囲内であり、キルンにオフガスを供給し、メタンの排出がない場合について説明する。まず、第一反応器10に供給する原料ガスを調整する。原料ガスは、水素供給設備7から供給される水素と、二酸化炭素を含むプロセス排ガスと、オフガスとを混合し、H/Cモル比が2.5以上となるように調整される。
【0060】
次に、原料ガスを第一反応器10に供給し、第一反応器10のガス流通反応管に原料ガスを流通させる。ガス流通反応管のなかには加熱炉によって300~500℃に加熱された触媒が充填されており、メタネーション反応を活性化させる触媒と原料ガスが接触し、原料ガスからメタンおよび水が生成される。生成された水は第一水蒸気除去設備51によって除去される。
【0061】
次に、二酸化炭素濃縮設備60から第一反応器10から排出された混合ガスに対して二酸化炭素を追加し、二酸化炭素が追加された混合ガスを第二反応器20に供給する。二酸化炭素が追加された混合ガスを、第二反応器20のガス流通反応管に混合ガスを流通させる。ガス流通反応管のなかには加熱炉によって約800℃に加熱された触媒が充填されており、ドライリフォーミング反応を活性化させる触媒と混合ガスが接触し、メタンが一酸化炭素に変換される。
【0062】
次に、第二反応器20から排出された混合ガスから水素を分離して、水素が分離された混合ガスを第三反応器30に供給する。分離された水素はオフガスと混合され、第一反応器10に供給されることが好ましい。そして、水素が分離された混合ガスを、第三反応器30のガス流通反応管に混合ガスを流通させる。ガス流通反応管のなかには加熱炉によって約450℃に加熱された触媒が充填されており、固体炭素析出反応を活性化させる触媒と混合ガスが接触し、一酸化炭素が固体炭素となり、触媒の表面に固体炭素が析出する。そして、固体炭素が析出した触媒を回収することによって、固体炭素を回収できる。
【0063】
次に、第三反応器30から排出されたオフガスから水蒸気を除去して第一反応器10およびキルン200に供給することで、オフガスを循環させる。このとき、第二反応器20から分離された水素を第1オフガス循環路71内を流通するオフガスに合流させてから第一ガス混合器15に供給する。
【0064】
また、オフガスを循環利用して固体炭素を析出させる際、各反応器における反応率がある程度高く、ガスの分離や付加が少ないことが好ましい。第一反応器10におけるメタン化率が0.57の場合における固体炭素析出装置の運用の一例を説明する。なお、運用の一例については、キルン200を加熱するために用いられる燃料の支燃性ガスは通常空気が用いられるが、酸素を支燃性ガスとして計算した。まず、CO256mol分の石灰石、193molのO、オフガス循環設備70からオフガス400molをキルン200に供給する。キルン200から262molのHOが排出され、二酸化炭素濃縮設備60を介して265molのCOを第一反応器10に供給する。第一反応器10には、二酸化炭素濃縮設備60からのCOのほかに、水素供給設備7からH900mol、オフガスの一部および水素分離器33によって分離される水素が供給される。そして、第一水蒸気除去設備51によってHO548mol分の水蒸気を除去し、二酸化炭素濃縮設備60から192molのCOを第二反応器20に供給し、水素分離器33によって第二反応器20から排出された混合ガスから1065molのHを分離する。これにより、固体炭素は256mol分回収できる。また、第三水蒸気除去設備53によって、オフガスからHO79mol分の水蒸気を除去する。水蒸気除去後のオフガスの量は1339molであり、そのうち939molを第一反応器10に供給し、残りのオフガスをキルン200に供給し、セメントクリンカ焼成燃料とする。これにより、各反応器における固体炭素の析出が抑制されて、安定した反応を継続させることができる。
【0065】
次に、第一反応器10におけるメタン化率が0.46に低下した場合における固体炭素析出装置の運用の一例を説明する。まず、CO256mol分の石灰石、194molのOおよびオフガス循環設備70からオフガス400molをキルン200に供給する。キルン200から263molのHOが排出され、二酸化炭素濃縮設備60を介して440molのCOを第一反応器10に供給する。第一反応器10には、二酸化炭素濃縮設備60からのCOのほかに、水素供給設備7からH900mol、オフガスの一部および水素分離器33によって分離される水素が供給される。そして、第一水蒸気除去設備51によってHO557mol分の水蒸気を除去し、二酸化炭素濃縮設備60から17molのCOを第二反応器20に供給し、水素分離器33によって、第二反応器20から排出された混合ガスから1670molのHを分離する。これにより、固体炭素は256mol分回収できる。また、第三水蒸気除去設備53によって、オフガスからHO79mol分の水蒸気を除去する。水蒸気除去後のオフガスの量が1338molであり、そのうち938molを第一反応器10に供給し、残りのオフガスをキルン200に供給し燃料化利用する。これにより、各反応器における固体炭素の析出が抑制されて、安定した反応を継続させることができる。
【0066】
以上のことから、本発明における固体炭素の析出方法では、原料ガスにおけるH/Cモル比が2.5以上となるように調整されるため、オフガスを第一反応器に供給して循環利用しても、第一反応器においてメタネーション触媒表面に固体炭素が析出することを抑制できて安定的に固体炭素を回収できる。これにより、オフガスを循環利用しない場合と比べて、固体炭素析出装置から排出される温室効果ガスの排出量を削減することができる。
【0067】
(第2の方法)
次に、第一反応器10における二酸化炭素の反応率が適正範囲内であり、キルンにメタンを供給し、メタンの排出がない場合について説明する。第2の方法は、固体炭素析出装置からキルンにメタンを供給する点が第1の方法と異なる。そのため、第一反応器から排出された混合ガスの調整と、オフガスの循環のみ説明し、それ以外の説明については省略する。
【0068】
第二反応器20に供給される混合ガスは、第一反応器10から排出される混合ガスに対して、二酸化炭素濃縮設備60から二酸化炭素が追加されるだけでなく、メタン分離器23によってメタンを分離されることによって調整される。このとき、第二反応器に供給される混合ガスにおけるCO/CHモル比が1.0以上2.0以下となるように、分離されるメタンの量が制御されることが好ましい。分離されたメタンはキルン200に供給され、燃料として利用される。また、第三反応器から排出されるオフガスはキルン200に供給されず、第一反応器10のみに供給することが好ましい。
【0069】
第一反応器10におけるメタン化率が0.62の場合における固体炭素析出装置の運用の一例を説明する。まず、CO256mol分の石灰石、183molのOおよびメタン分離器23によって分離されるメタンをキルン200に供給する。キルン200から184molのHOが排出され、二酸化炭素濃縮設備60を介して157molのCOを第一反応器10に供給する。第一反応器10には、二酸化炭素濃縮設備60からのCOのほかに、水素供給設備7からH882mol、オフガスおよび水素分離器33によって分離される水素が供給される。そして、第一水蒸気除去設備51によってHO617mol分の水蒸気を除去し、メタン分離器23によって第一反応器10から排出された混合ガスから92molのCHを分離し、二酸化炭素濃縮設備60から191molのCOを第二反応器20に供給し、水素分離器33によって第二反応器20から排出された混合ガスから1141molのHを分離する。これにより、固体炭素は256mol分回収できる。また、第三水蒸気除去設備53によって、オフガスからHO79mol分の水蒸気を除去し、水蒸気除去後のオフガス1339molの全量を第一反応器10に供給する。これにより、各反応器における固体炭素の析出が抑制されて、安定した反応を継続させることができる。
【0070】
第一反応器10におけるメタン化率が0.71の場合における固体炭素析出装置の運用の一例を説明する。まず、CO256mol分の石灰石、184molのOおよびメタン分離器23によって分離されるメタンをキルン200に供給する。キルン200から184molのHOが排出され、二酸化炭素濃縮設備60を介して52molのCOが第一反応器10に供給される。第一反応器10には、二酸化炭素濃縮設備60からのCOのほかに、水素供給設備7からH881mol、オフガスおよび水素分離器33によって分離される水素が供給される。そして、第一水蒸気除去設備51において、HO617mol分の水蒸気を除去し、メタン分離器23によって第一反応器10から排出された混合ガスから92molのCHを分離し、二酸化炭素濃縮設備60から296molのCOを第二反応器20に供給し、水素分離器33によって第二反応器20から排出された混合ガスから775molのHを分離する。これにより、固体炭素は256mol分回収できる。また、第三水蒸気除去設備53によって、オフガスからHO79mol分の水蒸気を除去し、水蒸気除去後のオフガス1339molの全量を第一反応器10に供給する。これにより、各反応器における固体炭素の析出が抑制されて、安定した反応を継続させることができる。
【0071】
キルンに対してメタンを供給するため、混合ガスであるオフガスと比べて、キルンにおける制御が容易になる。また、メタン化率が高い場合、第二反応器20においてメタンを消費しきれないため、メタンを排出する必要がある。これに対して、本発明ではメタンを分離する一方で二酸化炭素を供給することによって、ドライリフォーミング反応を促進させる。これにより、オフガスを第一反応器に循環させても、固体炭素を安定的に析出できる。
【0072】
(第3の方法)
次に、第一反応器10における二酸化炭素の反応率が高く、キルンにメタンを供給し、メタンの排出がない場合について説明する。第3の方法は、二酸化炭素濃縮設備から第一反応器に二酸化炭素が供給されない点が第2の方法と異なる。そのため、第一反応器に供給する原料ガスの調整のみ説明し、それ以外の説明については省略する。
【0073】
第一反応器10に供給される原料ガスは、水素とオフガスを混合し、H/Cモル比が3.0以上となるように調整される。水素は水素供給設備7から供給される水素だけでなく、第二反応器から排出される混合ガスから分離された水素が循環利用されることが好ましい。
【0074】
第一反応器10におけるメタン化率が0.76の場合における固体炭素析出装置の運用の一例を説明する。まず、CO256mol分の石灰石、184molのOおよびメタン分離器23によって分離されるメタンをキルン200に供給する。キルン200から184molのHOが排出される。第一反応器10には、水素供給設備7からH882mol、オフガスおよび水素分離器33によって分離される水素が供給される。そして、第一水蒸気除去設備51によってHO618mol分の水蒸気を除去し、メタン分離器23によって第一反応器10から排出された混合ガスから92molのCHを分離し、二酸化炭素濃縮設備60から348molのCOを第二反応器20に供給し、水素分離器33によって第二反応器20から排出された混合ガスから625molのHを分離する。これにより、固体炭素は256mol分回収できる。また、第三水蒸気除去設備53によって、オフガスからHO79mol分の水蒸気を除去し、水蒸気除去後のオフガス1339molの全量を第一反応器10に供給する。これにより、反応器における固体炭素の析出が抑制されて、安定した反応を継続させることができる。
【0075】
第一反応器10から排出された混合ガスからメタンを分離する。分離されたメタンは、キルン200を含む焼成設備や製鉄所、化学プラントに供給されるか、固体炭素析出装置1の外部に排出される。そして、メタンが分離された混合ガスに対して二酸化炭素を混合する。二酸化炭素は二酸化炭素濃縮設備60から供給される。このとき、第二反応器に供給される混合ガスにおけるCO/CHモル比が1.0以上2.0以下、第三反応器に供給される混合ガスにおける二酸化炭素濃度が15%以下となるように、分離されるメタンの量と二酸化炭素の供給量が制御されることが好ましい。このように、メタンが分離され二酸化炭素が混合された混合ガスは、第二反応器20に供給される。
【0076】
メタン化率が高い場合、第二反応器へ流入するガスのCO/CH比が1.0を下回り、第二反応器の触媒表面に固体炭素が析出しやすくなる。したがって、二酸化炭素濃縮設備から第二反応器へ供給する二酸化炭素の割合を高めることで、CO/CH比が1.0以上となるようにする。これにより、第二反応器の触媒表面での固体炭素の析出が抑制され、第三反応器において固体炭素を安定的に析出させることができる。
【0077】
なお、上記では、第一反応器10から排出された混合ガスに対してメタンを分離してから二酸化炭素を混合する場合について説明したが、二酸化炭素の混合を先に行ってからメタンを分離してもよい。
【0078】
(第4の方法)
次に、第一反応器10における二酸化炭素の反応率が第5の方法より高く、キルンにオフガスを供給し、メタンの排出がある場合について説明する。第4の方法は、固体炭素析出システム外へのメタンの排出がある点が第3の方法と異なる。そのため、第二反応器から排出された混合ガスの調整のみ説明し、それ以外の説明については省略する。
【0079】
第二反応器20に供給される混合ガスは、第一反応器10から排出される混合ガスに対して、二酸化炭素濃縮設備60から二酸化炭素を追加し、メタン分離器23によってメタンを分離されることによって調整される。分離されたメタンは燃料としてキルン200に供給され、余剰したメタンは固体炭素析出装置1外に排出される。
【0080】
第一反応器10におけるメタン化率が0.76の場合における固体炭素析出装置の運用の一例を説明する。まず、CO256mol分の石灰石、184molのOおよびメタン分離器23によって分離されるメタンをキルン200に供給する。キルン200から184molのHOが排出される。第一反応器10には、水素供給設備7からH896mol、オフガスおよび水素分離器33によって分離される水素が供給される。そして、第一水蒸気除去設備51によってHO620mol分の水蒸気を除去し、メタン分離器23によって第一反応器10から排出された混合ガスからメタンを分離する。分離したメタンのうち、92molのCHをキルン200に供給し、8molのCHを固体炭素析出システム外に排出する。二酸化炭素濃縮設備60から348molのCOを第二反応器20に供給し、水素分離器33によって第二反応器20から排出された混合ガスから613molのHを分離する。これにより、固体炭素は248mol分回収できる。また、第三水蒸気除去設備53によって、オフガスからHO76mol分の水蒸気を除去し、水蒸気除去後のオフガス1219molの全量を第一反応器10に供給する。これにより、反応器における固体炭素の析出が抑制されて、安定した反応を継続させることができる。
【0081】
以上のように、メタン化率、固体炭素析出装置からキルンに供給するガスの種類およびメタンの排出の有無に応じて固体炭素析出装置1の制御を変えることにより、オフガスを第一反応器に循環させても、安定的に固体炭素を回収することができる。
【0082】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第一実施形態では、第一反応器10におけるメタン化率、固体炭素析出装置からキルンに供給するガスの種類およびメタンの排出の有無によって異なる固体炭素の析出方法のうち、第1~第4の方法すべてに対して対応可能であったが、いずれか1つのみに対応可能な形態であってもよい。第二実施形態では、上述した固体炭素の析出方法のうち、第1の方法のみに対応可能である点について、第一実施形態と異なる。
【0083】
図3は、第二実施形態に係る固体炭素析出装置である。固体炭素析出装置2は、固体炭素析出装置1と比べて、一酸化炭素分離器21、メタン分離器23、二酸化炭素分離器31を備えない。第一反応器の反応ガス中の一酸化炭素濃度が低い場合には、一酸化炭素分離器21を必要としない。また、第二反応器の反応ガス中のメタン濃度および二酸化炭素濃度が低い場合には、メタン分離器23および二酸化炭素分離器31がなくても安定的に固体炭素を析出させることが可能である。一酸化炭素分離器21、メタン分離器23および二酸化炭素分離器31がないことにより、固体炭素析出装置の設備に係るコストを削減できる。
【0084】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について説明する。第三実施形態では、固体炭素の析出方法のうち第2の方法のみに対応可能である点について、第一実施形態と異なる。
【0085】
図4は、第三実施形態に係る固体炭素析出装置である。固体炭素析出装置3は、固体炭素析出装置1と比べて、一酸化炭素分離器21、二酸化炭素分離器31、メタン排出路24、第2オフガス循環路72を備えない。そのため、メタン分離器23はメタン循環路73を通してキルン200に直接メタンを供給する。
【0086】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態について説明する。第四実施形態では、固体炭素の析出方法のうち第3の方法のみに対応可能である点について、第一実施形態と異なる。
【0087】
図5は、第四実施形態に係る固体炭素析出装置である。固体炭素析出装置4は、固体炭素析出装置3と比べて、第1二酸化炭素供給路61を備えない。これにより、固体炭素析出装置の設備に係るコストを削減できる。
【0088】
[第五実施形態]
次に、本発明の第五実施形態について説明する。第五実施形態では、固体炭素の析出方法のうち第4の方法のみに対応可能である点について、第一実施形態と異なる。
【0089】
図6は、第五実施形態に係る固体炭素析出装置である。固体炭素析出装置5は、固体炭素析出装置4と比べてメタン排出路24を備え、メタン排出路24を通してメタン分離器23から固体炭素析出装置外にメタンを排出できる。
【0090】
上記第二実施形態から第五実施形態では、固体炭素の析出方法の第1の方法~第4の方法のうち、いずれか1つの方法に対応可能な形態について説明したが、第二実施形態から第五実施形態を組み合わせて2以上の方法に対応可能な形態であってもよい。
【0091】
[検証例1]
まず、本発明者らは、メタネーション反応、ドライリフォーミング反応および固体炭素析出反応を終えたガスをメタネーション反応に利用し、各反応におけるガス組成比を測定した。図7に示すように第一反応器10、第二反応器20、第三反応器30および第四反応器40の順に直列に繋いだ4つの反応器に対してH/COモル比を2.5に制御したガスを原料ガスとして供給し、メタネーション反応、ドライリフォーミング反応および固体炭素析出反応の順に反応させた後に、再度メタネーション反応を行うことで検証した。
【0092】
第一反応器および第四反応器を構成する加熱炉には温度制御が可能な1ゾーン電気炉(アサヒ理化製作所製セラミックス電気管状炉、有効長さ300mm)を用い、常圧流通式反応管には内径8mmφ、長さ600mmの石英管を用いた。常圧流通式反応管の内部における加熱炉の温度制御用熱電対の位置に、メタネーション反応を活性化させる触媒として、図8に示すスパイラル状の構造体の表面に10wt%Ni/CeOを塗布した触媒を2本設置した
【0093】
メタネーション反応を活性化させる触媒は、CeO(関東化学社製試薬)を担体とし、蒸発乾固法により、Ni(NO・6HO(和光純薬98%)を10wt%担持させた。担持させた後に、硝酸成分を分離するために大気雰囲気中500℃2時間で焼成した。焼成物を冷却した後に蒸留水を加え、乳鉢を用いてすりつぶすことにより、Ni/CeOペーストを作製した。
【0094】
Ni/CeOペーストとは別に、図8のようにスパイラル状にひねったアルミ板(JIS A1100 H14、幅7mm×長さ50mm、厚さ1.5mm)に対して、0.8molのNaOH水溶液および3.0molの塩酸溶液により表面処理を施した。そして、スパイラル状にひねったアルミ板に目的のメタネーションが達せられるのに十分な量のNi/CeO触媒が担持されるまで、冷風で乾燥と浸漬を繰り返すことで作製した。
【0095】
第二反応器は、メタネーション反応を活性化させる触媒の代わりに、ドライリフォーミング反応を活性化させる触媒を用いたことを除いて、第一反応器と同様に準備した。ドライリフォーミング反応を活性化させる触媒は、市販のγ-Al(日本軽金属株式会社製C20)を担体とし、蒸発乾固法でNi(NO・6HO(和光純薬98%)を10wt%担持したものであり、図8のようにスパイラル状にひねったステンレス板(SUS304、幅7mm×長さ50mm、厚さ0.5mm)にNi/γ-Alペーストを塗布したことを除いて、メタネーション反応を活性化させる触媒と同様の方法で作製した。
【0096】
第三反応器は、常圧流通式反応管として、内径21mmφ、長さ600mmの石英管を用いたこと、メタネーション反応を活性化させる触媒の代わりに、固体炭素析出反応を活性化させる触媒を常圧流通式反応管内部に8本静置(4本を一束にして、直列に二束を配置した)したことを除いて、第一反応器と同様に準備した。固体炭素析出反応を活性化させる触媒はマグネタイト(Fe試薬:和光純薬98%)であり、マグネタイトに蒸留水を添加してペースト状にした。図8のようにスパイラル状にひねったステンレス板(SUS304、幅7mm×長さ50mm、厚さ0.5mm)にペースト状にしたマグネタイトを塗布したことを除いて、メタネーション反応を活性化させる触媒と同様の方法で作製した。
【0097】
各反応器を準備したあとに、それぞれの触媒を還元処理するため、水素を200ml/minでフローしながら500℃を1時間保持した。次に、第一反応器の制御温度を340℃、第二反応器の制御温度を800℃、第三反応器の制御温度を450℃、第四反応器の制御温度を340℃とし、全ての反応器が所定の温度に到達してから水素供給設備として水素の標準ガスボンベを、プロセス排ガスの代わりに二酸化炭素の標準ガスボンベを用いて、マスフローコントローラーおよび第一ガス混合器を介して、第一反応器に原料ガスを供給した。
【0098】
このとき、原料ガスにおけるH/COのモル比を2.5となるように、マスフローコントローラーによって、水素の流量を179ml/minとし、二酸化炭素の流量を71ml/minとし、原料ガス全体の流量を250ml/minとして第一反応器に供給した。
【0099】
各反応器の出口には、水蒸気除去設備を設けるとともにサンプリング孔を設置した。各反応器の指示温度が設定温度に到達してから30分経過した後に、サンプリング孔からシリンジを用いてサンプリングし、ガスクロマトグラフGC-2014(島津製作所製)を用いて、水素、メタン、二酸化炭素および一酸化炭素を定量分析した。
【0100】
表1は各反応における条件、各反応器における出口ガスの組成比、H/Cモル比および各反応器における主反応の反応率を示している。H/Cモル比は、各反応器の出口ガスにおける(H+2CH)/(CO+CO+CH)から算出した。例えば、第一反応器の反応率は、第一反応器へ供給した二酸化炭素のメタンへの転換率を示している。また、第二反応器の反応率は、第二反応器へ流入したメタンの分解率を示している。
【表1】
【0101】
表1に示すように、第一反応器では十分なメタン化が行われている一方、第四反応器では触媒表面に固体炭素の析出が起こってしまい、十分なメタン化が起こらなかった。これは、第四反応器においてH/Cモル比が低いことから固体炭素が析出してしまい、触媒が活性を失ったためと考えられる。原料ガスを循環利用する場合には、メタンや二酸化炭素を含む混合ガスをメタネーション反応に利用する。そのため、水素および酸素からなる原料ガスを供給する場合と比べて、H/Cモル比をさらに高くする必要があると考えられる。H/Cモル比についてメタネーション反応で固体炭素が析出しない数値範囲を検証した結果、H/Cモル比2.5以上のとき固体炭素の析出が顕著に抑制され、3.0以上のときにより顕著に抑制されることが分かった。
【0102】
[検証例2]
次に、本発明者らは第三反応器における反応効率を向上させるために、固体炭素を析出させる条件について検証した。第三反応器には、ドライリフォーミング反応によって生成される水素と一酸化炭素が流入する。そのことから、固体炭素を析出させる条件として、第三反応器に供給される混合ガスにおける二酸化炭素濃度、一酸化炭素濃度およびH/COモル比について検証した。
【0103】
(試験例2)
第一反応器に供給する混合ガス全体の流量を125ml/minとし(水素90ml/min、二酸化炭素35ml/min)、第三反応器に流入した混合ガスにおける二酸化炭素濃度は0vol%、一酸化炭素濃度は23.3vol%、H/COモル比は2.43であった。
【0104】
(試験例3)
第一反応器に供給する混合ガス全体の流量を250ml/min(水素179ml/min、二酸化炭素71ml/min)とし、第三反応器に流入した混合ガスにおける二酸化炭素濃度は0vol%、一酸化炭素濃度は30.2vol%、H/COモル比は2.04であったことを除いて、試験例2と同様に実施した。
【0105】
(試験例4)
第一反応器に供給する混合ガス全体の流量を250ml/min(水素179ml/min、二酸化炭素71ml/min)とし、第三反応器に流入した混合ガスにおける二酸化炭素濃度は1.9vol%、一酸化炭素濃度は33.5vol%、H/COモル比は1.81であったことを除いて、試験例2と同様に実施した。
【0106】
(試験例5)
第一反応器に供給する混合ガス全体の流量を500ml/min(水素358ml/min、二酸化炭素142ml/min)とし、第三反応器に流入した混合ガスにおける二酸化炭素濃度は3.3vol%、一酸化炭素濃度は30.7vol%、H/COモル比は1.75であったことを除いて、試験例2と同様に実施した。
【0107】
(試験例6)
第三反応器に、固体炭素析出反応を活性化させる触媒を内部に載置した常圧流通式反応管(内径21mmφ、長さ600mmの石英管)2本を配置して、固体炭素回収実験を行った。
第一反応器に供給する混合ガス全体の流量を250ml/min(水素179ml/min、二酸化炭素71ml/min)とし、第三反応器に流入した混合ガスにおける二酸化炭素濃度は3.7vol%、一酸化炭素濃度は32.8vol%、H/COモル比は1.70であったこと、固体炭素析出反応管を2本設置したことを除いて、試験例2と同様に実施した。
【0108】
(試験例7)
第一反応器に供給する混合ガス全体の流量を250ml/min(水素179ml/min、二酸化炭素71ml/min)とし、第三反応器に流入した混合ガスにおける二酸化炭素濃度は1.8vol%、一酸化炭素濃度は36.9vol%、H/COモル比は1.61であったことを除いて、試験例2と同様に実施した。
【0109】
(試験例8)
第一反応器に供給する混合ガス全体の流量を250ml/min(水素180ml/min、二酸化炭素70ml/min)とし、第三反応器に流入した混合ガスにおける二酸化炭素濃度は1.2vol%、一酸化炭素濃度は37.7vol%、H/COモル比は1.60であったことを除いて、試験例2と同様に実施した。
【0110】
(試験例9)
第一反応器に供給する混合ガス全体の流量を250ml/min(水素170ml/min、二酸化炭素80ml/min)とし、第三反応器に流入した混合ガスにおける二酸化炭素濃度は5vol%、一酸化炭素濃度は46.3vol%、H/COモル比は1.04であったことを除いて、試験例2と同様に実施した。
【0111】
(試験例12)
第一反応器に供給する混合ガス全体の流量を250ml/min(水素150ml/min、二酸化炭素100ml/min)とし、第三反応器に流入した混合ガスにおける二酸化炭素濃度は15.8vol%、一酸化炭素濃度は46.5vol%、H/COモル比は0.80であったことを除いて、試験例2と同様に実施した。
【0112】
(試験例1)
試験例1では、常圧流通式反応管および固体炭素析出反応を活性化させる触媒について検証例1の第三反応器の後段に固体炭素析出のための第四反応器を直列に接続して、固体炭素回収実験を行った。また、第一反応器に供給する混合ガス全体の流量を250ml/min(水素179ml/min、二酸化炭素71ml/min)とし、第四反応器に流入した混合ガスにおける二酸化炭素濃度は15.4vol%、一酸化炭素濃度は13.8vol%、H/COモル比は4.51であった。
【0113】
(試験例10)
第一反応器内部のメタネーション触媒を撤去し、第二反応器の入口の低温部にメタネーション触媒を載置した。第二反応器の中央の高温部(温度制御部)にはドライリフォーミング触媒を載置して固体炭素回収実験を行った。
【0114】
第一反応器に供給する混合ガス全体の流量を250ml/min(水素125ml/min、二酸化炭素125ml/min)とし、第四反応器に流入した混合ガスにおける二酸化炭素濃度は30.8vol%、一酸化炭素濃度は30.8vol%、H/COモル比は1.05であった。
【0115】
(試験例11)
第一反応器内部のメタネーション触媒を撤去し、第二反応器の内部には逆シフト反応を活性化させる触媒として既知の方法で作製された普通セメントペーストに対してアルミナを混合した後に固めたものを使用し、第一反応器に供給する混合ガス全体の流量を202ml/min(水素86ml/min、二酸化炭素116ml/min)とし、第四反応器に流入した混合ガスにおける二酸化炭素濃度は33.5vol%、一酸化炭素濃度は32.6vol%、H/COモル比は0.93であった。なお、普通セメントペーストの配合は質量比でセメント:水:アルミナ=58:29:13とした。
【0116】
図9は、試験例1~12の実験条件および実験結果をまとめた表である。図10は、横軸に第三反応器に供給される混合ガスにおけるH/COモル比をとったときの固体炭素の析出率を表したグラフである。図10のグラフから、第三反応器に供給される混合ガスにおけるH/COモル比が1.0以上2.0以下のときに固体炭素の析出率が良好となることが確認できた。固体炭素析出反応は、一酸化炭素から固体炭素と二酸化炭素を生成する反応であるが、図10においてH/COモル比に応じて固体炭素の析出率が変化することから、一酸化炭素から固体炭素を分離するために水素が必要な可能性が考えられる。
【0117】
また、試験例2~9では固体炭素の析出率が10%以上であり良好である。これに対して、第三反応器に供給される混合ガスにおける二酸化炭素濃度が15%以下である試験例1、10~12では固体炭素の析出率が15%未満であった。このことから、第三反応器に供給される混合ガスにおける二酸化炭素濃度15%以下のとき固体炭素の析出率が良好となることが確認できた。
【0118】
[検証例3]
次に、本発明者らは固体炭素を析出させる条件として、一酸化炭素濃度について検証した。図11は、試験例1~9の結果をまとめたグラフであり、横軸に第三反応器に供給される一酸化炭素濃度をとったときの固体炭素の析出率を表している。
【0119】
図11に示すように、固体炭素の析出率は、第三反応器に供給される混合ガスにおける一酸化炭素濃度を比例する傾向にある。第三反応器に供給される混合ガスにおける一酸化炭素濃度が30vol%以上のときに、固体炭素の析出率が良好となることが確認できた。
【符号の説明】
【0120】
1、2、3、4、5 固体炭素析出装置
7 水素供給設備
9 水素流量計
10 第一反応器
15 第一ガス混合器
20 第二反応器
21 一酸化炭素分離器
23 メタン分離器
24 メタン排出路
25 第二ガス混合器
30 第三反応器
31 二酸化炭素分離器
33 水素分離器
40 第四反応器
50 流量計
51 第一水蒸気除去設備
53 第三水蒸気除去設備
60 二酸化炭素濃縮設備
61 第1二酸化炭素供給路
62 第2二酸化炭素供給路
71 第1オフガス循環路
72 第2オフガス循環路
73 メタン循環路
74 一酸化炭素循環路
75 二酸化炭素循環路
76 水素循環路
100 ガス組成比制御装置
110 記憶部
120 操作部
130 制御部
200 キルン
500 固体炭素析出システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11