(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157373
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】リン酸化合物縮合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 79/02 20160101AFI20241030BHJP
C01B 25/24 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C08G79/02
C01B25/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071700
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 将貴
(72)【発明者】
【氏名】秋山 聰
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 奨
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030CA01
4J030CB32
4J030CC01
4J030CE02
4J030CG26
4J030CG29
(57)【要約】
【課題】鎖長の長いリン酸化合物縮合体を効率よく製造できる製造方法を提供すること。好ましくは、400g以上のスケールにおいても効率よく鎖長の長いリン酸化合物縮合体を製造できる製造方法を提供すること。
【解決手段】300℃~1800℃の液状状態のOH基を2個含むリン酸化合物に、不活性ガス類を下記(A)の条件で供給する、リン酸化合物縮合体の製造方法。
(A)前記リン酸化合物1kgに対して、不活性ガス類を0.1~100L/minの流量で供給する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
300℃~1800℃の液状状態のOH基を2個含むリン酸化合物に、不活性ガス類を下記(A)の条件で供給する、リン酸化合物縮合体の製造方法。
(A)前記リン酸化合物1kgに対して、不活性ガス類を0.1~100L/minの流量で供給する。
【請求項2】
前記リン酸化合物が、下記式(1)で特定される化合物である請求項1に記載のリン酸化合物縮合体の製造方法。
【化1】
(上記のOは酸素原子、Pはリン原子、Hは水素原子、-は共有結合、Xは酸素、窒素、水素、硫黄、およびアルカリ金属から選ばれる元素を含む置換基であり、nは1~10の整数である。)
【請求項3】
上記Xが、OA基、OH基、およびONH4基から選ばれる置換基である請求項2に記載のリン酸化合物縮合体の製造方法。
(但し、Aはアルカリ金属原子である。)
【請求項4】
上記Xが、オキシナトリウム基である請求項2に記載のリン酸化合物縮合体の製造方法。
【請求項5】
前記不活性ガス類が空気、窒素、および酸素から選ばれる不活性ガス類である請求項1に記載のリン酸化合物縮合体の製造方法。
【請求項6】
前記リン酸化合物の質量が400g以上である請求項1に記載のリン酸化合物縮合体の製造方法。
【請求項7】
前記リン酸化合物の温度が600~1800℃である請求項1に記載のリン酸化合物縮合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸化合物縮合体の製造方法に関する。好ましくはリン酸塩化合物縮合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリリン酸やそのナトリウム塩等(以下、ポリリン酸と総称する)のリン酸化合物縮合体は、様々な生理活性効果を持つと考えられている。例えば特許文献1には、鎖長60程度のポリリン酸にはFGF(線維芽細胞成長因子)を安定化する作用があるため、創傷治癒やコラーゲン産生を促進する効果が期待されていることが開示されている。
【0003】
また、特許文献2では、生体内のポリリン酸の鎖長が約800であり、これ以下の鎖長の化合物が生理活性を発現することが期待され、また、鎖長100以上のポリリン酸は抗菌効果を有することが確認されている。
【0004】
非特許文献1には、ポリリン酸塩の一般的な製造方法として、リン酸二水素ナトリウムを加熱溶融・急冷する、比較的シンプルな方法が好適であり、製造時の温度や時間により、様々な鎖長のポリリン酸塩が得られることが開示されており、その
図11の内容からは、長鎖長の縮合体を得るには高い温度と長い時間とを要することが分かる。また、工業化スケールでのポリリン酸塩製造においては、反応装置内に、例えば硫酸塩などのchain breakerとして作用する成分の混入が起こり易く、長鎖長のポリリン酸塩を得るのは比較的困難であることを示唆する開示もある。
【0005】
特許文献3には、リン酸塩ガラスを数百kg/hで製造できる連続式溶融炉が開示されている。特許文献3の実施例では、反応温度580℃~850℃条件で、平均鎖長35~38のポリリン酸塩を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-93802号公報
【特許文献2】特開2006-169217号公報
【特許文献3】特開2006-143510号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】植田四郎、「縮合リン酸塩類の製造」、電気化学、電気化学会、1963年、第30巻、第11号、p.798-807
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、長鎖長のポリリン酸は、優れた生理活性を示す可能性があり、創薬のための原料として好適であると考えられるが、鎖長が100を超えるような長鎖長のポリリン酸を得るには比較的長い時間を要する傾向が有る。
【0009】
また、前記のような縮合方法で得られる長鎖長のポリリン酸は、比較的広い分子量分布を持つので、少量ではあるが、鎖長が100を超えるような長鎖長のポリリン酸も含まれる。これを分別採取して鎖長が100を超えるようなポリリン酸を得ることも可能と考えられるが、製造コスト増となることは明白であろう。
【0010】
本発明者の検討においては、白金るつぼの様な、chain breakerの様な成分が混入し難い反応装置を用いても、比較的大きなスケールの反応では、長鎖長のポリリン酸を得るのは困難な傾向がある様である。即ち、長鎖長のポリリン酸を得にくい他の要因が存在することが予想された。
【0011】
よって本発明は、長鎖長のリン酸化合物縮合体を効率的に得るための製造方法を提供することを課題としている。また、この方法を見出すことで、従来よりも高い生理活性を示す化合物や、多様な生理活性を示す化合物等を製造するための原料を好適に提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、加熱溶融などの方法で液状状態にしたリン酸化合物中に、例えばバブリングのような態様で不活性ガス類を供給し、特定の温度範囲で縮合反応を行うことにより、比較的短時間で長鎖長のリン酸化合物縮合体を得ることが出来る事を見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下の要件によって特定される。
【0013】
[1]
300℃~1800℃の液状状態のOH基を2個含むリン酸化合物に、不活性ガス類を下記(A)の条件で供給する、リン酸化合物縮合体の製造方法。
(A)前記リン酸化合物1kgに対して、不活性ガス類を0.1~100L/minの流量で供給する。
【0014】
[2]
前記リン酸化合物が、下記式(1)で特定される化合物である[1]に記載のリン酸化合物縮合体の製造方法。
【0015】
【化1】
(上記のOは酸素原子、Pはリン原子、Hは水素原子、-は共有結合、Xは酸素、窒素、水素、硫黄、およびアルカリ金属から選ばれる元素を含む置換基であり、nは1~10の整数である。)
【0016】
[3]
上記Xが、OA基、OH基、およびONH4基から選ばれる置換基である[2]に記載のリン酸化合物縮合体の製造方法。
(但し、Aはアルカリ金属原子である。)
【0017】
[4]
上記Xが、オキシナトリウム基である[2]または[3]に記載のリン酸化合物縮合体の製造方法。
【0018】
[5]
前記不活性ガス類が空気、窒素、および酸素から選ばれる不活性ガス類である[1]~[4]のいずれかに記載のリン酸化合物縮合体の製造方法。
【0019】
[6]
前記リン酸化合物の質量が400g以上である[1]~[5]のいずれかに記載のリン酸化合物縮合体の製造方法。
【0020】
[7]
前記リン酸化合物の温度が600~1800℃である[1]~[6]のいずれかに記載のリン酸化合物縮合体の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のリン酸化合物縮合体の製造方法を用いれば、比較的簡便な方法で、さらに比較的短時間で鎖長が100以上のポリリン酸を製造することが出来る。さらにまた、大きな製造スケールである程、その効果が高いことが期待される。
【0022】
この為、本発明が特にポリリン酸を工業化スケールで効率的に生産するのに好適と考えられるので、本発明は社会に大きく貢献することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明のリン酸化合物縮合体の製造装置の一例である。
【
図2】本発明の実施例、比較例で得たリン酸化合物縮合体をGPC測定したチャートである。
【
図3】本発明の実施例で得たリン酸化合物縮合体をGPC測定したチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、300℃~1800℃の液状状態のOH基を2個含むリン酸化合物(以下「液状状態のリン酸化合物」ともいう。)に、不活性ガス類を下記(A)の条件で供給することを特徴とするリン酸化合物縮合体の製造方法である。
(A)前記リン酸化合物1kgに対して、不活性ガス類を0.1~100L/minの流量で供給する。
【0025】
前記リン酸化合物はOH基(水酸基)を2個含む化合物であるので、この水酸基が脱水縮合することによって、即ち重縮合の成長反応が進行することで、次第に、鎖長の長いリン酸化合物へ成長し、リン酸化合物縮合体が得られる。この反応は通常、平衡反応である事が知られており、反応中、水を除去することで成長反応が効率的に進行する。この様なリン酸化合物としては、好ましくは下記式(1)のような構造の化合物を例示することが出来る。
【0026】
【化2】
(上記のOは酸素原子、Pはリン原子、Hは水素原子、-は共有結合、Xは酸素、窒素、水素、硫黄、およびアルカリ金属から選ばれる元素を含む置換基であり、nは1~10の整数である。)
【0027】
Xとして好ましくは、OA基、OH基、およびONH4基から選ばれる置換基である。(但し、Aはアルカリ金属原子である。)
【0028】
具体的なXとしては、水酸基、メルカプト基(SH基)、アミノ基、アンモニウム基(ONH4基)、オキシリチウム基(OLi基)、オキシナトリウム基(ONa基)、オキシカリウム基(OK基)、チオリチウム基(SLi基)、チオナトリウム基(SNa基)、チオカリウム基(SK基)等の塩を形成する置換基を挙げることが出来る。これらの中でも、特にオキシナトリウム基が好ましい態様である。
【0029】
これらのXは、複数種を用いることも出来る。例えば、Xが水酸基の場合、前記縮合体は、直鎖状の構造以外に、(部分)架橋した構造とすることも出来ることは自明であろう。
【0030】
また、水酸基などの反応性の置換基は、例えばアルカリ金属と反応することが自明であるので、前記縮合反応中や縮合反応後にアルカリ金属やアルカリ金属の水酸化物(NaOH、KOHなど)、炭酸塩(Na2CO3、NaHCO3など)もしくは塩化物(NaCl、KClなど)、あるいはリン酸またはアルカリ金属リン酸塩(NaH2PO4、Na2HPO4、Na3PO4など)と接触させて、他の置換基に変換することも勿論可能である。
【0031】
このように、本発明においては、前記縮合反応以外の様々な手法を併用して、多様な構造のリン酸化合物縮合体を製造することが出来る。
【0032】
このようなリン酸化合物としてより具体的にはリン酸、リン酸二水素リチウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム等を挙げることが出来る。これらの中でも入手の容易性や生産のし易さ、生理活性を示す用途などの観点から、最も好ましくはリン酸二水素ナトリウムである。
【0033】
前記式(1)のn値は1~10の整数である。例えば、上記のリン酸二水素ナトリウムなどは、n=1の場合に該当する化合物である。通常、本発明では、この様なn=1に対応するような化合物を用いることが多いが、その低縮合体であるリン酸化合物を原料とする態様も、勿論、本発明に含まれる。前記n値の好ましい上限値は7、より好ましくは5、さらに好ましくは4である。
【0034】
このようなリン酸化合物は、常温では通常固体であり、縮合反応を行う際には300~1800℃の様な高温にして液状状態とする。前記温度の好ましい下限値は500℃、より好ましくは600℃、さらに好ましくは700℃、特に好ましくは800℃である。一方、好ましい上限値は1500℃、より好ましくは1300℃、さらに好ましくは1200℃である。
【0035】
前記温度が低すぎると、縮合反応の進行が遅くなる傾向がある。一方、反応温度が高すぎると、反応物の急冷が不十分となり、リン酸化合物の環状3量体などの低鎖長体が出来易くなり、全体としての鎖長も低下することがある。
【0036】
本発明の前記温度範囲の保持時間は、本質的に縮合反応時間に相当し、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上、さらに好ましくは1時間以上、特に好ましくは1.5時間以上である。前記時間の上限値は、好ましくは24時間、より好ましくは16時間、さらに好ましくは12時間、特に好ましくは8時間である。
【0037】
本発明の方法であれば、比較的短時間で長鎖長の縮合体を得易い傾向がある。
本発明のリン酸化合物縮合体の製造方法では、300~1800℃の液状状態の前記リン酸化合物中に不活性ガス類を供給し、好ましくはバブリング状態の様な態様として、縮合反応を行うことを特徴とする。
【0038】
前記の不活性ガス類として具体的には、空気、酸素の他、窒素およびアルゴンなどの周期表の18族元素の気体(所謂希ガス)等、公知の不活性ガスを挙げることが出来る。勿論、本発明の目的に反しないレベルまで水分などの分解に寄与する成分を除いた、所謂乾燥状態のガスとすることが好ましい。
【0039】
この様な乾燥ガスを調製する方法としては、モレキュラーシーブやアルミナ等の公知の水吸着剤を充填したカラムに前記のガスを通すなどの公知の方法を挙げることが出来る。
上記の不活性ガス類として好ましくは、入手のし易さ、安全性、および価格などを考慮すると、空気または窒素である。
【0040】
前記の不活性ガス類の液状状態のリン酸化合物中への供給量は、
(A)前記リン酸化合物1kgに対して、0.1~100L/minの流量となるような関係とすることが肝要である。
【0041】
前記流量の好ましい下限値は、0.2L/minであり、より好ましくは0.3L/minである。一方、好ましい上限値は、50L/minであり、より好ましくは30L/minであり、さらに好ましくは20L/minであり、特に好ましくは10L/minである。(尚、本明細書においては、流量とは単位時間当たりの体積の次元を有する値で表す場合がある。)
【0042】
前記の数値の範囲であれば、反応中の液状リン酸化合物の液はねなどの弊害を抑制しつつ、効果的にリン酸化合物縮合体の鎖長を伸長することが出来る。
【0043】
本発明の方法で、効率的に鎖長が伸長する理由について、本発明者は以下のように推測している。
リン酸化合物の縮合反応は、通常、前記の様な300℃を超える、場合によっては1000℃前後の高い温度での反応となるため、縮合反応で発生する水は、一般的には自然に蒸発すると考えられるであろう。一方で、本発明者の検討によれば前記リン酸化合物縮合体の鎖長は途中から伸長し難くなる傾向がある。(白金製るつぼの様な外乱が入り難い材質においても同様である。)
【0044】
また先行技術文献の結果も考慮すると、製造スケールが大きくなるほど鎖長は伸長し難い傾向がある事が分かってきた。
【0045】
本発明者は、鎖長が伸長し難い理由として、液状状態のリン酸化合物中では、数百℃の温度環境であっても、リン酸化合物やリン酸化合物縮合体と水との相互作用などで、水が気散し難く、この水の存在が縮合反応の成長を妨げている可能性を考えた。(特に液の内部でその傾向が強いであろう。)
この仮説は大スケールになる程、比表面積が小さくなり、水の気散が起こり難くなるであろうこととも合致することも考慮した。
【0046】
このような水との相互作用を有するリン酸化合物縮合体に、不活性ガス類を供給することで、前記の水がガスと共に気散して除去され、そのために効率的に縮合の成長反応が進行するのであろう。
【0047】
従って、このガス供給流量を変更することにより、鎖長の調節をすることも可能であると考えることが出来る。勿論、反応温度の変更とも組み合わせれば、さらに正確な鎖長の調整が可能であろう。
【0048】
本発明の不活性ガス類の液状状態のリン酸化合物への供給方法は、公知の方法を制限なく採用することが出来る。好ましい方法としては、ガス供給ノズルを前記液状リン酸化合物中に挿入し、不活性ガス類を供給する方法である。
【0049】
このガス供給位置は、反応装置の底部に配置することが効率的であることは自明であるが、鎖長や鎖長分布の調整などの目的によっては、ガス供給位置を変更することが出来る。
【0050】
本発明において、上記の鎖長の調整は、前記のアルカリ金属やアルカリ金属の水酸化物(NaOH、KOHなど)、炭酸塩(Na2CO3、NaHCO3など)もしくは塩化物(NaCl、KClなど)、あるいはリン酸またはOH基が1個のリン酸塩、より具体的にはアルカリ金属リン酸塩(Na2HPO4など)等を前記のリン酸化合物と併用すること等の公知のあらゆる方法を適用することでも勿論可能である。
【0051】
本発明のリン酸化合物縮合体の製造方法は、前記の通り、製造スケールが大きな条件であるほど、その効果が顕著である。よって、本発明の製造方法に用いる原料となるリン酸化合物の量は、400g以上であることが好ましい。より好ましい下限値は800g、さらに好ましくは1kg、特に好ましくは1.2kgである。換言すると、本発明の製造方法に用いる反応槽は、上記量のリン酸化合物を保持できる大きさであることが好ましい。
【0052】
反応槽の好ましい大きさとしては、内容積で0.5リットル以上、より好ましくは1リットル以上、さらに好ましくは1.5リットル以上、特に好ましくは2リットル以上、殊に好ましくは2.5リットル以上である。上限に特に制限はないが、上記の通り、白金等の高価な材料を用いた装置が好ましいこと等からも現実的な範囲の装置スケールであることが好ましい。具体的な好ましい上限値としては10立方メートル、より好ましくは5立方メートル、さらに好ましくは1立方メートル、特に好ましくは500リットル、殊に好ましくは300リットルである。
【0053】
このように本発明は、工業化スケールでの長鎖長のリン酸化合物縮合体を効率よく量産できることが期待される。
本発明のリン酸化合物縮合体の製造方法は、バッチ式、セミバッチ式、連続式等の公知のプロセスを制限なく用いることが出来る。鎖長の制御等の観点では、バッチ式が好ましい傾向がある。一方、生産効率の観点では連続式が好ましい。
【0054】
本発明の製造方法で得られるリン酸化合物縮合体の鎖長は、数平均鎖長として60以上、より好ましくは80以上、さらに好ましくは100以上、特に好ましくは120以上、殊に好ましくは150以上である。好ましい上限値にあまり意味はないが、生理活性を示す化合物の原料となる事等を考慮すると、好ましくは1000以下、より好ましくは800以下、さらに好ましくは600以下である。
【0055】
尚、前記の平均連鎖長は、GPCによる分子量の情報から算出することができる。それ以外にも31P NMR測定法では、ポリリン酸連鎖の末端のリンと連鎖内部のリンとの化学シフトが明確に相違することを利用し、それらの面積強度比から数平均連鎖長を求めることも出来る。
【0056】
本発明を具体化した一実施形態を
図1に従って説明する。なお、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
図1に示すように、本実施形態の溶融炉は、白金るつぼ1の側面を覆うように縦方向に延びる筒状をなしている。白金るつぼ1の底部には融液抜き出し用の穴が開いており、溶融中は白金製のプランジャー2でふさがっている。
【0057】
バブリングの方法に制限はないが、例えば白金パイプ3を融液に浸漬させ、そこから乾燥空気を流通させる。白金パイプ3の設置場所は任意の場所で構わないが、融液全体に含まれる水を除去して出来るだけ鎖長の長い縮合体を得ようとする目的等の場合は、るつぼの中央かつ底面付近、即ち、最深部(の近く)となる位置が好ましい。
【0058】
反応終了後プランジャー2を少し上げることで塞がれていた穴から、水冷されている金属製の冷却ローラー4の上に融液を滴下する。滴下された融液はただちに急冷され、ローラーの回転にしたがって薄くのばされ固化し、最終的にフレーク状のリン酸化合物縮合体を得ることができる。
【0059】
本発明の製造方法で得易い長鎖長のリン酸化合物縮合体は、生理活性を有することが期待されるので、その用途としては各種の医薬などの原料などに用いられるのが好適な例である。
【0060】
特に、本発明は、従来以上の長鎖長の縮合体も得易いと考えられるので、これまでにない生理活性を有する医薬の創薬に貢献することが期待できる。その他、公知のリン酸化合物縮合体を用いる用途にも制限なく使用することが出来る。
【0061】
また、上記の様にして得られるリン酸化合物縮合体は、低鎖長体を溶媒分別などの公知の方法で除去したり、GPC法で高鎖長体を分離する等の方法で、用途に応じた好適な鎖長のリン酸化合物縮合体を得るための原料として使用することも勿論可能である。この様な方法を用いれば、従来よりも高い歩留まりで好適な長鎖長のリン酸化合物縮合体を得ることが出来ることは自明であろう。
【実施例0062】
以上のように構成された溶融炉を用いてポリリン酸ナトリウムを製造した実施例1~5、比較例1について説明する。
各実施例1~5と比較例1は、溶融炉内温度、バブリングの有無、またはその流量が異なり、製造されるポリリン酸ナトリウムの平均鎖長および鎖長分布が異なる。
【0063】
各実施例1~5と比較例1において製造されたポリリン酸ナトリウムの、平均鎖長は周知のNMR測定方法により、鎖長(分子量)分布は下記に示すゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用した測定方法により測定し、上記条件の違いに応じたポリリン酸ナトリウムの鎖長分布の変化を評価した。
【0064】
(NMR測定条件)
装置:日本電子製ECA500型核磁気共鳴装置
測定核:31P(202MHz)
測定モード:シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
パルス幅:30°(3.79μ秒)
ポイント数:64k
観測範囲:400ppm(-200~200ppm)
繰り返し時間:26.0秒
積算回数:256回
測定溶媒:重水素
試料濃度:ca.50mg/0.6mL
測定温度:室温
ウインドウ関数:exponential(BF:0.50Hz)
ケミカルシフト基準:最大ピーク -23.87ppm
【0065】
〈平均鎖長の計算方法〉
平均鎖長=2×α/β+2
(上記記号「α」、「β」の定義)
α:ポリリン酸ナトリウム連鎖の内部のP(末端部構造単位以外のP)由来のピーク面積(化学シフト:-23.87ppm)
β:ポリリン酸ナトリウム連鎖の末端部構造単位のP由来のピーク面積(化学シフト:-10~12ppm)
【0066】
(GPC分析条件)
(試料の前処理)
試料を30mLバイアル瓶内に秤量し、試料10mgあたり10mLのGPC測定用移動相を加えて密栓し、一昼夜室温で静置して溶解した。この溶解液を0.45μmの親水性PTFE メンブランフィルターカートリッジ(Millex-LCR 33mm;メルク)でろ過し、ろ液を測定に供した。
【0067】
(測定条件)
カラム/温度:OHpak SB-806M HQ(粒子径13μm、内径8.0mm、長さ300mm、Shodex製)を2本直列連結/40℃
移動相:0.1M NaCl水溶液
流量:1.0mL/min
注入量:100μL
検出方法:RI(Refractive Index)
カラム較正:EasiVial PEG/PEO ポリエチレングリコールオキシド(アジレント・テクノロジー)
分子量較正:相対的較正法(PEG/PEO換算)
装置:KP-22-13デュアルポンプ(フロム),717plus自動注入装置(日本ウォーターズ社製),RI-101示差屈折率検出器(Shodex製)
【0068】
(実施例1)
内温測定用の温度センサーを内蔵したプランジャー、溶融炉温測定用の温度センサーおよび2Lの白金るつぼを備えた
図1の溶融炉を900℃に予熱しておき、そこにリン酸二水素ナトリウム(下関三井化学製)1.5kgを入れて加熱溶融させた。
溶融後は白金パイプから乾燥空気を3L/minで融液に流通させ、2時間バブリングした。その後、るつぼ下部の金属製の双ローラー上に滴下し急冷させ、フレーク状のポリリン酸ナトリウムを得た。
【0069】
(実施例2)
バブリングの流量を1L/minにした以外は実施例1と同様にしてポリリン酸ナトリウムを得た。
【0070】
(実施例3)
バブリングの流量を7L/minにした以外は実施例1と同様にしてポリリン酸ナトリウムを得た。
【0071】
(実施例4)
溶融炉を1100℃に予熱した以外は実施例1と同様にしてポリリン酸ナトリウムを得た。
【0072】
(実施例5)
溶融炉を1300℃に予熱した以外は実施例1と同様にしてポリリン酸ナトリウムを得た。
【0073】
(比較例1)
バブリングをしなかった以外は実施例1と同様にしてポリリン酸ナトリウムを得た。
【0074】
上記の製造条件、および測定結果等を表1にまとめた。また、実施例1~実施例5および比較例1で製造したポリリン酸ナトリウムについてGPCを測定したチャートを
図2および
図3に示した。さらに、前記チャートを基に算出したMw/MnおよびMz/Mwを表1にまとめた(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量、Mz:z平均分子量)。
【0075】
【0076】
上記の結果から、本発明の方法を用いれば、2時間と言う短時間で、平均鎖長が100以上のリン酸化合物縮合体を効率よく製造することが出来ることが分かる。また、Mw/Mn値や、Mz/Mw値からも、高分子量体成分を効率よく生成していることが示唆される。
【0077】
特に実施例1~3および比較例1を比較した場合、反応温度約700℃条件で、バブリング流量を高めると、Mw/Mn値に比してMz/Mw値が高まる傾向を示すので、高分子量体成分が効率よく出来ていると考えられる。
【0078】
また、実施例1、実施例4、および実施例5を比較した場合、反応温度900~1000℃では更に高分子量体が生成し易いことを示唆する結果となっている。