(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157379
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
B27N 1/00 20060101AFI20241030BHJP
【FI】
B27N1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071709
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】304049075
【氏名又は名称】株式会社タケックス・ラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】岡田 久幸
【テーマコード(参考)】
2B260
【Fターム(参考)】
2B260AA20
2B260BA07
2B260BA18
(57)【要約】
【課題】竹粉末に含まれるヘミセルロース含有量を低下させることにより樹脂成形体の強度の長期的な維持が期待できる、樹脂添加材(フィラー)として適した樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】竹材を粉砕して2.0mmの目開きの篩を通過可能な竹粉末を生成する粉末化工程と、前記竹材由来の常在菌により前記竹粉末を好気発酵させる発酵工程と、前記竹粉末の乾燥重量におけるヘミセルロース含量が12重量%以下の状態で乾燥処理に供して前記好気発酵を停止させる発酵停止工程と、を有することとした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
竹材を粉砕して2.0mmの目開きの篩を通過可能な竹粉末を生成する粉末化工程と、
前記竹材由来の常在菌により前記竹粉末を好気発酵させる発酵工程と、
前記竹粉末のヘミセルロース含量が前記好気発酵前に比して乾燥重量で30重量%以上減少した状態で乾燥処理に供して前記好気発酵を停止させる発酵停止工程と、
を有することを特徴とする樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形体の強度を向上させるために、樹脂添加材(フィラー)が用いられている。
【0003】
特に近年は、環境負荷低減の観点から植物系材料がフィラーとして注目されており、脱プラスチック推進を背景に木粉や竹粉を樹脂に添加して成型した木材・プラスチック複合材(Wood-plastic composites; WPC)は、今後益々需要が高まることが予想される(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、これら植物系材料の中でも竹は成長が早く、工業材料として安定供給が行われる観点からもフィラーの原料として適していると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、竹の繊維分は竹粉を添加した樹脂成形体の強度向上に貢献するものであり、セルロースやリグニン、ヘミセルロースが主な構成成分である。
【0007】
しかし、これら構成成分のうちヘミセルロースは、樹脂成形体の長期的な強度維持の観点において、悪影響を及ぼす場合がある。
【0008】
すなわち、ヘミセルロースは190℃程度の比較的低温で分解し有機酸が生成されるのであるが、例えば樹脂成形時に190℃程度に加熱されるとフィラーとして添加された竹粉のヘミセルロースから有機酸が生成し、これが樹脂成形体の劣化を早め強度低下を招くのである。
【0009】
勿論、竹粉末を予め加熱しておきヘミセルロースを分解したならば、このような加熱処理済の低ヘミセルロース竹粉末をフィラーとして使用することで、樹脂成形時の加熱によって生じる有機酸の量を減らすことができ、樹脂成形体の長期的な強度低下の問題を回避することができる。
【0010】
しかし、このような事前加熱を行うためには、加熱槽やボイラーなど大がかりな設備や燃油が必要であり、これらに要する経費は結果的に低ヘミセルロース竹粉末の製造コスト上昇を招くこととなる。
【0011】
また、薬品などを用いてヘミセルロースを分解することも考え得るが、薬品に要する経費は勿論のこと、使用後の薬液処理設備にも多大な費用を要するため、同様に低ヘミセルロース竹粉末の製造コスト上昇を招く。
【0012】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、竹粉末に含まれるヘミセルロース含有量を低下させることにより樹脂成形体の強度の長期的な維持が期待できる、樹脂添加材(フィラー)として適した樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末の製造方法では、竹材を粉砕して2.0mmの目開きの篩を通過可能な竹粉末を生成する粉末化工程と、前記竹材由来の常在菌により前記竹粉末を好気発酵させる発酵工程と、前記竹粉末のヘミセルロース含量が前記好気発酵前に比して乾燥重量で30重量%以上減少した状態で乾燥処理に供して前記好気発酵を停止させる発酵停止工程と、を有することとした。
【発明の効果】
【0014】
また、本発明に係る樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末の製造方法によれば、竹材を粉砕して2.0mmの目開きの篩を通過可能な竹粉末を生成する粉末化工程と、前記竹材由来の常在菌により前記竹粉末を好気発酵させる発酵工程と、前記竹粉末のヘミセルロース含量が前記好気発酵前に比して乾燥重量で30重量%以上減少した状態で乾燥処理に供して前記好気発酵を停止させる発酵停止工程と、を有することとしたため、竹粉末に含まれるヘミセルロース含有量を低下させることにより樹脂成形体の強度の長期的な維持が期待できる、樹脂添加材(フィラー)として適した樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末の製造方法を提供することができる。
【0015】
特に、竹粉末を発酵処理したことにより竹材に含まれるヘミセルロースを可及的に低減してヘミセルロースから発生する有機酸の発生を抑止して相対的にセルロースやリグニンの含有率を増加して樹脂の強度を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、竹粉末に含まれるヘミセルロース含有量を低下させることにより樹脂成形体の強度の長期的な維持が期待できる、樹脂添加材(フィラー)として適した樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末の製造方法を提供するものである。
【0017】
従来、竹素材を用いた建築素材としては例えばパーティクルボードでは木材その他の植物繊維質の小片(パーティクル)を接着用樹脂成分と共に成形し、一定の面積と厚さと任意の形状とに熱圧成形した製品としており建材としてのみならず日用品の素材として広く使用されている。
【0018】
しかし、時代の変遷と共に樹脂素材は木質系の素材に取って代わり、建築素材に限らず日用品や工業品のほとんどに利用されるようになった。
【0019】
特に成形の容易さやコストの優位性により金属材以外の分野における製品材料としては普遍的な素材として多用されている。
【0020】
しかし、樹脂のかかる多様性にとって最大の欠陥は樹脂素材の強度問題である。勿論、強度補強剤として樹脂中に各種の補強材料を混入することが行われているが、これら補強材料に応じて長所と共に欠点を有するものも存在する。
【0021】
特に上述した如く、竹は樹脂添加材として利用が期待される素材ではあるが、竹粉末と樹脂との混合時に竹に含まれるヘミセルロースが製品化成型時の加熱によって有機酸を発生させるため樹脂変性を生起し樹脂強度にダメージを与える虞があった。
【0022】
この点、本実施形態に係る樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末の製造方法の特徴としては、ヘミセルロース含量が乾燥重量で30重量%以上減少した状態となるまで発酵を行うこととしている。
【0023】
このような構成としたことにより、竹粉を構成する繊維分のうちセルロースやリグニンの含有率を相対的に増加させることができ、樹脂成形物の強度を向上することができる。
【0024】
また、本実施形態に係る樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末の製造方法の特徴としては、粉末化工程と発酵工程と発酵停止工程と、を有する点が挙げられる。
【0025】
粉末化工程は、竹材を粉砕して2.0mmの目開きの篩を通過可能な竹粉末を生成する工程である。ここで竹材の粉砕手段は特に限定されるものではなく、カッター式やハンマー式、ミル式などあらゆる粉砕装置を使用することができる。
【0026】
粉砕手段により得られた粉砕片は、2.0mmの目開きの篩、より好ましくは1.5mm、更に好ましくは1.0mmの目開きの篩を通過させて竹粉末とするのが望ましい。ただし、竹粉末には、3.0mm以上の長繊維ができるだけ含まれないよう(例えば、0.1重量%以下となるよう)にすべきである。また、より厳密に管理する場合の基準としては、竹粉末の平均粒径(JIS R1629に準拠してレーザー回折散乱法により測定される累積体積が50%となる粒子径)を10μm以上、2000μm以下とすることもできる。
【0027】
発酵工程は、前記竹材由来の常在菌により前記竹粉末を好気発酵させる工程である。発酵は、発酵ヤードに竹粉を堆積させ、必要に応じて切り返しを行いつつ3~7日に亘り竹由来の常在菌により竹粉を昇温させながら好気発酵することで実現しても良い。なお必要に応じ、床面に通風設備が敷設された発酵ヤードを使用し、適切なタイミングで通気や切り返しを行いつつ発酵を行うこともできる。
【0028】
また、より小スケールで発酵させる場合は、30~45℃程度に設定した恒温槽内に堆積させた状態で収容し、通気を確保して好気条件を保ちながら保温しつつ発酵を行うこともできる。
【0029】
発酵停止工程は、竹粉末のヘミセルロース含量が前記好気発酵前に比して乾燥重量で30重量%以上減少した状態で乾燥処理に供して前記好気発酵を停止させる工程である。
【0030】
乾燥は通気により行っても良いし、加熱により行うこともできる。また乾燥の度合いは、発酵を実質的に停止させることができれば良く、例えば水分含量を5~15重量%とするのが望ましい。
【0031】
そして、このような工程を経て製造された樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末は、樹脂成形体の強度を長期的に維持することができ、樹脂添加材(フィラー)として適している。
【0032】
樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末のpHは、7.0以上、好ましくは8.5以上として、生物劣化を抑制できるようにしたものが望ましい。なお、竹粉末のpH測定は、1重量部の竹粉末に対し9~10重量部の水を加えて十分に(例えば約2分ほど)攪拌し、得られた水溶液が示すpHである。
【0033】
なお、本実施形態に係る方法にて製造された樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末を樹脂添加材(フィラー)として使用する際の基材となる樹脂は特に限定されるものではなく、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂であったり、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂とすることができる。
【0034】
樹脂と樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末との添加割合は特に限定されるものではないが、重量比で樹脂と樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末=99:1~30:70とすることができる。
【0035】
そして、このような組成の樹脂成形原料ペレットを用いて樹脂成形体を製造すれば、樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末をバイオマス系樹脂添加剤として樹脂と混合して強度の維持や向上を図ることができる。また、化石原料の使用量削減を図ることができるため、CO2排出量の抑制に寄与できる。また、ヘミセルロースを低減し、成型時の有機酸の発生量を低下させることで、成型後の樹脂製品の有機酸由来の酸性臭が低減することが期待される。
【0036】
以下、本実施形態に係る樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末の製造方法に関し、実際の製造過程を追いながら具体的に説明する。
【0037】
〔1.粉末化工程〕
竹林より伐採した竹齢が3齢以上の孟宗竹をチップソー式の粉砕機に供して粉末状に加工し粉砕片を得た。粉砕片は2.0mm、好ましくは更に1.0mmの目開きの篩に供し、篩を通過した粉砕片を竹粉末とした。ただし、竹粉末には、3.0mm以上の長繊維が含まれないよう留意した。
【0038】
〔2.発酵工程〕
5.0kgの竹粉末を35~40℃の温度に設定した恒温槽内に収容し、1~2日に一度程度切り返しを行って好気条件を保ちながら、竹由来の常在菌により発酵を行った。
【0039】
また、発酵工程を行っている間は10日に一度の割合でサンプルを採取し、竹粉末の乾燥重量におけるセルロース、リグニン、ヘミセルロースの含有量を測定した。なお本実施形態では検証の目的もあって10日に一度の割合でサンプルを採取したが、実際の製造では品質管理上必要な頻度やタイミングでサンプルを採取し、各成分の含有量を測定することができる。付言すれば、次に述べる発酵停止工程は、必ずしもヘミセルロースの含有量の分析結果を待って行う必要はなく、例えばヘミセルロースの含有量が乾燥重量で30重量%以上減少したと経験上考えられる日数が経過したことを条件に実施することもできる。
【0040】
〔3.発酵停止工程〕
前述の〔2.発酵工程〕において竹粉末のヘミセルロース含量が乾燥重量で30重量%以上減少したのを確認し、乾燥処理を施すことで発酵を停止させ低ヘミセルロース竹粉末を得た。乾燥は恒温器で加熱することにより行った。乾燥後の水分含量は9.8重量%であり、低ヘミセルロース竹粉末のpHは8.5以上で防かび性が期待され、生物劣化を抑制できるものであった。
【0041】
〔4.成分分析〕
上述の発酵工程前の状態の竹粉末(以下、未発酵竹粉末という。)や、発酵中に採取したサンプル(発酵開始後10日目及び20日目のもの)の乾燥重量におけるセルロース、リグニン、ヘミセルロースの含有量測定結果を表1に示す。
【表1】
【0042】
表1からも分かるように、発酵によりヘミセルロース含量が減少し、相対的にセルロースやリグニン含量が増加することが示された。特に、発酵開始後20日目のサンプルでは、未発酵竹粉末と比較してヘミセルロース含量が40%低減しており、発酵による効率的なヘミセルロースの低減が実現された。また、これらの結果から、発酵に供した竹粉末、特にヘミセルロース含量が好気発酵前に比して乾燥重量で30重量%以上減少した発酵開始後20日目の竹粉末は、樹脂添加材(フィラー)として使用した際の樹脂成形体の強度の長期的な維持効果が期待された。なお、表1ではヘミセルロース含量が30重量%以上減少するために少なくとも10日以上経過しているが、これは実験室レベルでの結果であり、本発明者らが別途行ったフィールド試験では200kg以上の竹粉末を使用することにより、前述の発酵ヤードにて3~7日でヘミセルロース含量が30重量%以上減少することを確認している。
【0043】
また特に、ヘミセルロースを低減させるために加熱槽やボイラーなど大がかりな設備や燃油が必要なく、本実施形態に係る樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末、すなわち、樹脂添加材用発酵竹粉末を安価に製造することができる。
【0044】
上述してきたように、本実施形態に係る樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末の製造方法によれば、竹材を粉砕して2.0mmの目開きの篩を通過可能な竹粉末を生成する粉末化工程と、前記竹材由来の常在菌により前記竹粉末を好気発酵させる発酵工程と、前記竹粉末のヘミセルロース含量が前記好気発酵前に比して乾燥重量で30重量%以上減少した状態で乾燥処理に供して前記好気発酵を停止させる発酵停止工程と、を有することとしたため、竹粉末に含まれるヘミセルロース含有量を低下させることにより樹脂成形体の強度の長期的な維持が期待できる、樹脂添加材(フィラー)として適した樹脂添加材用低ヘミセルロース竹粉末の製造方法を提供することができる。
【0045】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。