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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157408
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】凝集改善方法及び凝集改善装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/54 20170101AFI20241030BHJP
【FI】
A01K61/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071760
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】松永 茂
(72)【発明者】
【氏名】太田 希美
(72)【発明者】
【氏名】河口 大祐
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA22
2B104AA24
2B104BA06
2B104DA08
2B104DB09
(57)【要約】
【課題】生産性の低下を抑制しつつ着底稚貝の凝集状態を改善することができる凝集改善方法及び凝集改善装置を提供する。
【解決手段】凝集改善方法は、二枚貝の着底稚貝5のための凝集改善方法であって、第1表面22a及び第1表面22aとは反対側の第2表面22bを有し、目開きが300μm以下であるメッシュ部22を有するメッシュ部材2を用意する用意工程と、メッシュ部22が水6の中に配置され、且つメッシュ部22の第1表面22a側に着底稚貝5が配置されると共にメッシュ部22の第2表面22b側に空気8が配置された配置状態とする配置工程と、配置状態からメッシュ部22を鉛直方向の下側に移動させることにより、空気8をメッシュ部22の開口22cを通って第2表面22b側から第1表面22a側に押し出す押出工程と、をこの順に備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二枚貝の着底稚貝のための凝集改善方法であって、
第1表面及び前記第1表面とは反対側の第2表面を有し、目開きが300μm以下であるメッシュ部を有するメッシュ部材を用意する用意工程と、
前記メッシュ部が水中に配置され、且つ前記メッシュ部の前記第1表面側に前記着底稚貝が配置されると共に前記メッシュ部の前記第2表面側に空気が配置された配置状態とする配置工程と、
前記配置状態から前記メッシュ部を鉛直方向の下側に移動させることにより、前記空気を前記メッシュ部の開口を通って前記第2表面側から前記第1表面側に押し出す押出工程と、をこの順に備える、凝集改善方法。
【請求項2】
前記配置工程では、前記メッシュ部を空気中から水中に移動させることにより、前記メッシュ部の前記第2表面側に前記空気を配置する、請求項1に記載の凝集改善方法。
【請求項3】
前記配置工程では、水中に配置された前記メッシュ部の前記第2表面側に空気を供給することにより、前記メッシュ部の前記第2表面側に前記空気を配置する、請求項1に記載の凝集改善方法。
【請求項4】
前記用意工程では、前記第1表面側において前記着底稚貝が飼育されている前記メッシュ部材を用意する、請求項1又は2に記載の凝集改善方法。
【請求項5】
前記配置工程では、前記メッシュ部の前記第1表面側に前記着底稚貝を供給する、請求項1又は2に記載の凝集改善方法。
【請求項6】
前記メッシュ部の目開きは、30μm以上である、請求項1又は2に記載の凝集改善方法。
【請求項7】
前記メッシュ部の面積は、100cm以上である、請求項1又は2に記載の凝集改善方法。
【請求項8】
前記メッシュ部は、樹脂材料により形成されている、請求項1又は2に記載の凝集改善方法。
【請求項9】
前記メッシュ部材は、前記メッシュ部を支持する筒状の支持部を更に有する、請求項1又は2に記載の凝集改善方法。
【請求項10】
前記メッシュ部は、前記支持部の内部空間を前記第1表面側の第1部分と前記第2表面側の第2部分とに仕切るように前記支持部の内側に固定されている、請求項9に記載の凝集改善方法。
【請求項11】
前記押出工程の後に、前記メッシュ部上の前記着底稚貝を水により洗浄する洗浄工程を更に備える、請求項1又は2に記載の凝集改善方法。
【請求項12】
前記洗浄工程では、前記メッシュ部が水中に配置された状態で前記メッシュ部と向かい合う水面に水を注ぐことにより、前記着底稚貝を洗浄する、請求項11に記載の凝集改善方法。
【請求項13】
前記二枚貝は、アサリである、請求項1又は2に記載の凝集改善方法。
【請求項14】
前記配置工程の前記配置状態では、外側容器内において前記メッシュ部が水中に配置され、
前記押出工程では、前記外側容器内において前記メッシュ部を鉛直方向の下側に移動させることにより、前記空気を前記メッシュ部の開口を通って前記第2表面側から前記第1表面側に押し出す、請求項1又は2に記載の凝集改善方法。
【請求項15】
第1表面及び前記第1表面とは反対側の第2表面を有し、目開きが300μm以下であるメッシュ部を有するメッシュ部材と、
前記メッシュ部材を支持する支持機構と、
前記支持機構を鉛直方向に沿って移動させることにより前記メッシュ部材を鉛直方向に沿って移動させるアクチュエータ装置と、を備え、
前記アクチュエータ装置は、前記メッシュ部が水中に配置されて前記メッシュ部の前記第2表面側に空気が配置された状態が移動開始状態である場合に前記空気が前記メッシュ部の開口を通って前記第2表面側から前記第1表面側に押し出されるように、前記メッシュ部材を鉛直方向の下側に移動させる、凝集改善装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二枚貝の着底稚貝のための凝集改善方法及び凝集改善装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アサリの着底稚貝の飼育装置が記載されている。この飼育装置では、円筒状の容器内に目合いネットが設けられており、目合いネット上の着底稚貝に餌料を含む飼育水が供給されて着底稚貝が飼育される。
【0003】
特許文献2には、処理槽内の処理水に被処理物を漬けた状態で、被処理物に対して超音波を照射しつつ処理水の噴流を加えることにより、被処理物を洗浄処理する方法が記載されている。特許文献2では、被処理物として野菜果物、魚介類、肉類等の生鮮食品や生体試料が挙げられており、適用例としてアサリが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-178616公報
【特許文献2】特開2017-192324公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、アサリ等の二枚貝の着底稚貝の飼育に際しては、混入細菌、餌料滓、排泄物等が凝集することにより、粘着性のデブリ(凝集物)が発生し得る。このデブリは稚貝の飼育に好ましくない影響を及ぼし得る。例えば、デブリは稚貝に付着して稚貝の行動の自由を奪うおそれがある。また、稚貝とデブリとの粘着による複合粘着構造体が有害生物(例えば繊毛虫、線虫類等)の温床となるおそれがある。
【0006】
この粘着構造体を分解するために、例えば、飼育水を攪拌することや、水流により洗浄すること、或いは上記特許文献2に記載された方法のように超音波を照射することにより洗浄することが考えられる。しかしながら、これらの方法では稚貝の薄い殻が損傷してしまい、生産性が低下するおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、生産性の低下を抑制しつつ着底稚貝の凝集状態を改善することができる凝集改善方法及び凝集改善装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の凝集改善方法は、[1]「二枚貝の着底稚貝のための凝集改善方法であって、第1表面及び前記第1表面とは反対側の第2表面を有し、目開きが300μm以下であるメッシュ部を有するメッシュ部材を用意する用意工程と、前記メッシュ部が水中に配置され、且つ前記メッシュ部の前記第1表面側に前記着底稚貝が配置されると共に前記メッシュ部の前記第2表面側に空気が配置された配置状態とする配置工程と、前記配置状態から前記メッシュ部を鉛直方向の下側に移動させることにより、前記空気を前記メッシュ部の開口を通って前記第2表面側から前記第1表面側に押し出す押出工程と、をこの順に備える、凝集改善方法」である。
【0009】
この凝集改善方法では、メッシュ部が水中に配置され、且つメッシュ部の第1表面側に着底稚貝が配置されると共にメッシュ部の第2表面側に空気が配置された配置状態から、メッシュ部が鉛直方向の下側に移動することにより、空気がメッシュ部の開口を通って第2表面側から第1表面側に押し出される。これにより、空気が開口を通って第2表面側から第1表面側に押し出される際に、開口において生じる水の表面張力を水が打破して開口を通ることで、衝撃による波が発生する。この波が水中を伝わって着底稚貝に作用することで、デブリを着底稚貝から引き剥がすことができ、着底稚貝の凝集状態を改善することができる。この方法では、上述した方法と比べて着底稚貝の薄い殻が損傷してしまうことを抑制することができ、生産性の低下を抑制することができる。また、この凝集改善方法では、メッシュ部の目開きが300μm以下である。これにより、デブリを着底稚貝から引き剥がすために十分な大きさの波を発生させることができる。さらに、この凝集改善方法では、押出工程において発生する波により、メッシュ部の開口を通らないほどの大きさとなったデブリを小さいサイズに砕くことができ、小さくなったデブリをメッシュ部の開口から排出することが可能となる。以上より、この凝集改善方法によれば、生産性の低下を抑制しつつ着底稚貝の凝集状態を改善することができる。
【0010】
本発明の凝集改善方法は、[2]「前記配置工程では、前記メッシュ部を空気中から水中に移動させることにより、前記メッシュ部の前記第2表面側に前記空気を配置する、[1]に記載の凝集改善方法」であってもよい。この場合、例えば水中に配置されたメッシュ部の第2表面側に空気を供給する場合と比べて、メッシュ部の第2表面側に空気を供給する装置が不要となり、構成を簡易化することができる。
【0011】
本発明の凝集改善方法は、[3]「前記配置工程では、水中に配置された前記メッシュ部の前記第2表面側に空気を供給することにより、前記メッシュ部の前記第2表面側に前記空気を配置する、[1]に記載の凝集改善方法」であってもよい。この場合、例えばメッシュ部を空気中から水中に移動させて第2表面側に空気を配置する場合と比べて、メッシュ部を水中から空気中に移動させる必要がないため、メッシュ部の移動量を少なくすることができる。
【0012】
本発明の凝集改善方法は、[4]「前記用意工程では、前記第1表面側において前記着底稚貝が飼育されている前記メッシュ部材を用意する、[1]~[3]のいずれかに記載の凝集改善方法」であってもよい。この場合、飼育用のメッシュ部材を用いて凝集改善方法を実施することができる。
【0013】
本発明の凝集改善方法は、[5]「前記配置工程では、前記メッシュ部の前記第1表面側に前記着底稚貝を供給する、[1]~[3]のいずれかに記載の凝集改善方法」であってもよい。この場合、メッシュ部材とは別の場所で飼育された着底稚貝の凝集状態を改善することができる。
【0014】
本発明の凝集改善方法は、[6]「前記メッシュ部の目開きは、30μm以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の凝集改善方法」であってもよい。この場合、過度な力をメッシュ部に加えることなく、デブリを着底稚貝から引き剥がすために十分な衝撃を発生させることができる。
【0015】
本発明の凝集改善方法は、[7]「前記メッシュ部の面積は、100cm以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の凝集改善方法」であってもよい。この場合、メッシュ部の第2表面側に多くの空気を配置することができ、好適に衝撃を発生させることができる。
【0016】
本発明の凝集改善方法は、[8]「前記メッシュ部は、樹脂材料により形成されている、[1]~[7]のいずれかに記載の凝集改善方法」であってもよい。この場合、メッシュ部の材料に起因して着底稚貝に好ましくない影響が及ぼされることを抑制することができる。例えば、メッシュ部が金属材料により形成されていると、メッシュ部を水中に配置した際に金属イオンが発生し、金属イオンが着底稚貝に好ましくない影響を及ぼすおそれがあるが、メッシュ部が樹脂材料により形成されている場合、そのような事態の発生を抑制することができる。
【0017】
本発明の凝集改善方法は、[9]「前記メッシュ部材は、前記メッシュ部を支持する筒状の支持部を更に有する、[1]~[8]のいずれかに記載の凝集改善方法」であってもよい。この場合、支持部を把持してメッシュ部を移動させることができ、メッシュ部を移動させる際の取り扱いが容易となる。
【0018】
本発明の凝集改善方法は、[10]「前記メッシュ部は、前記支持部の内部空間を前記第1表面側の第1部分と前記第2表面側の第2部分とに仕切るように前記支持部の内側に固定されている、[9]に記載の凝集改善方法」であってもよい。この場合、メッシュ部の第2表面側に確実に空気を配置することができる。
【0019】
本発明の凝集改善方法は、[11]「前記押出工程の後に、前記メッシュ部上の前記着底稚貝を水により洗浄する洗浄工程を更に備える、[1]~[10]のいずれかに記載の凝集改善方法」であってもよい。この場合、押出工程において小さいサイズに砕かれたデブリを洗浄工程においてメッシュ部の開口から排出することができる。
【0020】
本発明の凝集改善方法は、[12]「前記洗浄工程では、前記メッシュ部が水中に配置された状態で前記メッシュ部と向かい合う水面に水を注ぐことにより、前記着底稚貝を洗浄する、[11]に記載の凝集改善方法」であってもよい。この場合、例えば着底稚貝に直接に水を注いで着底稚貝を洗浄する場合と比べて、着底稚貝の殻が損傷することを抑制することができる。
【0021】
本発明の凝集改善方法は、[13]「前記二枚貝は、アサリである、[1]~[12]のいずれかに記載の凝集改善方法」であってもよい。この場合、アサリの着底稚貝の凝集状態を改善することができる。
【0022】
本発明の凝集改善方法は、[14]「前記配置工程の前記配置状態では、外側容器内において前記メッシュ部が水中に配置され、前記押出工程では、前記外側容器内において前記メッシュ部を鉛直方向の下側に移動させることにより、前記空気を前記メッシュ部の開口を通って前記第2表面側から前記第1表面側に押し出す、[1]~[13]のいずれかに記載の凝集改善方法」であってもよい。この場合、外側容器内に配置されたメッシュ部上の着底稚貝の凝集状態を改善することができる。
【0023】
本発明の凝集改善装置は、[15]「第1表面及び前記第1表面とは反対側の第2表面を有し、目開きが300μm以下であるメッシュ部を有するメッシュ部材と、前記メッシュ部材を支持する支持機構と、前記支持機構を鉛直方向に沿って移動させることにより前記メッシュ部材を鉛直方向に沿って移動させるアクチュエータ装置と、を備え、前記アクチュエータ装置は、前記メッシュ部が水中に配置されて前記メッシュ部の前記第2表面側に空気が配置された状態が移動開始状態である場合に前記空気が前記メッシュ部の開口を通って前記第2表面側から前記第1表面側に押し出されるように、前記メッシュ部材を鉛直方向の下側に移動させる、凝集改善装置」である。
【0024】
この凝集改善装置では、アクチュエータ装置がメッシュ部材を鉛直方向の下側に移動させると、メッシュ部の第2表面側に配置された空気がメッシュ部の開口を通って第2表面側から第1表面側に押し出される。そのため、メッシュ部が水中に配置され、且つメッシュ部の第1表面側に着底稚貝が配置されると共にメッシュ部の第2表面側に空気が配置された配置状態から、このアクチュエータ装置によってメッシュ部材を鉛直方向の下側に移動させることで、上述したように衝撃による波を発生させることができる。すなわち、空気が開口を通って第2表面側から第1表面側に押し出される際に、開口において生じる水の表面張力を水が打破して開口を通ることで、衝撃による波が発生する。この波が水中を伝わって着底稚貝に作用することで、デブリを着底稚貝から引き剥がすことができ、着底稚貝の凝集状態を改善することができる。この凝集改善装置では、着底稚貝の薄い殻が損傷してしまうことを抑制することができ、生産性の低下を抑制することができる。また、この凝集改善装置では、メッシュ部の目開きが300μm以下である。これにより、デブリを着底稚貝から引き剥がすために十分な大きさの波を発生させることができる。さらに、この凝集改善装置では、メッシュ部を移動させることによって発生する波により、メッシュ部の開口を通らないほどの大きさとなったデブリを小さいサイズに砕くことができ、小さくなったデブリをメッシュ部の開口から排出することが可能となる。以上より、この凝集改善装置によれば、生産性の低下を抑制しつつ着底稚貝の凝集状態を改善することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、生産性の低下を抑制しつつ着底稚貝の凝集状態を改善することができる凝集改善方法及び凝集改善装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】メッシュ部材及び外側容器を示す分解斜視図である。
図2】着底稚貝の飼育状態を示す斜視図である。
図3】配置工程を説明するための図である。
図4】押出工程を説明するための図である。
図5】洗浄工程を説明するための図である。
図6】凝集改善装置を説明するための図である。
図7】変形例のメッシュ部材を示す斜視図である。
図8】着底稚貝を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0028】
図1には、実施形態に係る凝集改善方法において用いられるメッシュ部材2及び外側容器3が示されており、図2には、メッシュ部材2及び外側容器3を用いて着底稚貝5が飼育されている状態が示されている。着底稚貝5は、二枚貝の着底稚貝であり、この例ではアサリの着底稚貝である。アサリ等の二枚貝は、卵から孵化した後、水中を浮遊する浮遊幼生となる。その後、二枚貝は、地面等の上に着底して着底稚貝(種苗)となる。その後、二枚貝は成長して成貝となる。例えば、アサリの着底稚貝は、5mm以下程度の大きさを有する。着底稚貝5は、3mm以下であってもよい。図8には38日齢のアサリの着底稚貝が示されている。実施形態の凝集改善方法は、着底稚貝5の凝集状態を改善するための方法である。実施形態の凝集改善方法は、着底稚貝5の洗浄方法とみなすこともできる。
【0029】
メッシュ部材2は、支持部21と、メッシュ部22と、を有し、全体として桶状に形成されている。支持部21は、例えば樹脂材料により円筒状に形成されており、メッシュ部22を支持している。
【0030】
メッシュ部22は、第1表面22a(表面)及び第1表面22aとは反対側の第2表面22b(裏面)を有する平面状のメッシュである。メッシュ部22は、例えば、ナイロン等の樹脂材料により直径40cmの円形状に形成されている。メッシュ部22は、例えば、複数の直線状部が格子状に並ぶことにより構成されており、マトリクス状に並んだ複数の開口22cを有している。開口22cは、例えば正方形状に形成されているが、菱形又は長方形状等の任意の形状に形成されてよい。
【0031】
メッシュ部22の目開き(開口22cの最大長さ)は、30μm以上300μm以下である。本実施形態におけるメッシュ部22の目開きは、100μmである。メッシュ部22の面積は、100cm以上である。メッシュ部22は、支持部21の一方の開口の縁において、支持部21の内側に固定されている。メッシュ部22は、第1表面22aが支持部21の他方の開口側(支持部21の内側)を向くように固定されている。
【0032】
外側容器3は、例えば樹脂材料により底面を有する円筒状(桶状)に形成されている。外側容器3は、内部にメッシュ部材2を配置可能となるように、メッシュ部材2よりも大径に形成されている。外側容器3は不透明であるが、図2では理解の容易化のために外側容器3が透過して示されている。
【0033】
図2に示されるように、着底稚貝5の飼育時には、メッシュ部材2が外側容器3内に配置される。メッシュ部材2は、メッシュ部22(第2表面22b)が外側容器3の底面と向かい合うように、外側容器3に対して鉛直方向の上側(図2中の上側)に配置される。着底稚貝5は、メッシュ部22の第1表面22a側において飼育されており、例えば第1表面22a上に配置されている(着底している)。
【0034】
外側容器3内、及び外側容器3内に位置するメッシュ部材2内は、水6で満たされている。水6は、例えばノズル7を介して鉛直方向の上側からメッシュ部材2内に常時供給される。メッシュ部材2内に供給された水6は、メッシュ部22の開口22cを通って外側容器3内に移動可能であり、外側容器3から溢れた水6は、外側容器3から外部に流れ出る。また、メッシュ部材2内には、別のノズル(図示省略)を介して着底稚貝5の餌が供給される。このように、この例では、水6が鉛直方向の上側から下側に流れるダウンウェリング方式が用いられている。ダウンウェリング方式の場合、着底稚貝5が外部に流れ出てしまうことを抑制することができる。
【0035】
図1図5を参照しつつ、実施形態に係る凝集改善方法を説明する。以下の各工程は例えば作業者により実施されるが、工程の少なくとも1つは機械により実施されてもよい。まず、メッシュ部材2及び外側容器3を用意する(図1及び図2)(用意工程)。この例の用意工程では、図2に示されるように、メッシュ部22の第1表面22a側において着底稚貝5が飼育されているメッシュ部材2を用意する。
【0036】
続いて、外側容器3内においてメッシュ部22が水6の中に配置され、且つメッシュ部22の第1表面22a側に着底稚貝5が配置されると共にメッシュ部22の第2表面22b側に空気8が配置された配置状態とする(図3)(配置工程)。この例の配置工程では、メッシュ部22を空気中から水6の中に移動させることにより、メッシュ部22の第2表面22b側に空気8を配置する。
【0037】
すなわち、配置工程においては、まず、図2に示されるようにメッシュ部22が水6の中に配置された状態から、メッシュ部22を鉛直方向の上側に引き上げて空気中に移動させる。続いて、メッシュ部22を第2表面22b側から水6の中に移動させる。これにより、図3に示されるように、メッシュ部22が鉛直方向の上側に向かって凸となるように撓んで湾曲し、第2表面22b側に空気8が溜まる。空気8は、空気の塊又は空気の層である。空気8は、第2表面22bの中央部に溜まる。空気8は、浮力により鉛直方向の上側に移動しようとするが、メッシュ部22の開口22cにおいて生じる表面張力により、開口22cを通って第1表面22a側に移動することなく第2表面22bの側に留まると考えられる。なお、配置工程にわたって、メッシュ部22の第1表面22a側には着底稚貝5が配置されている。
【0038】
続いて、配置状態(図3)から外側容器3内においてメッシュ部22を鉛直方向の下側に移動させることにより、空気8をメッシュ部22の開口22cを通って第2表面22b側から第1表面22a側に押し出す(図4)(押出工程)。換言すれば、押出工程では、空気8がメッシュ部22の開口22cを通って第2表面22b側から第1表面22a側に押し出される程度の速さで、メッシュ部22を鉛直方向の下側に移動させる。図4では、移動前のメッシュ部22が矢印の手前に示され、移動後のメッシュ部22が矢印の先に示されている。また、図4では、第1表面22a側に移動して微細な気泡となった空気8が示されている。
【0039】
押出工程において空気8が開口22cを通って第2表面22b側から第1表面22a側に押し出される際に、開口22cにおいて生じる水6の表面張力を水6が打破して開口22cを通ることで、衝撃による波9が発生する。この波9が水中を伝わって着底稚貝5に作用することで、デブリを着底稚貝5から引き剥がすことができ、着底稚貝5の凝集状態を改善することができる。また、開口22cを通らないほどの大きさとなったデブリを小さいサイズに砕くことができる。
【0040】
続いて、メッシュ部22上の着底稚貝5を水により洗浄する(図5)(洗浄工程)。この例の洗浄工程では、メッシュ部22が水6の中に配置された状態でメッシュ部22と向かい合う水面6aに水を注ぐことにより、着底稚貝5を洗浄する。これにより、デブリを着底稚貝5から確実に引き剥がすことができると共に、押出工程において小さいサイズに砕かれたデブリをメッシュ部22の開口22cから排出することができる。洗浄用の水は、例えばノズル11から水面6aに注がれる。ノズル11は、水6を供給するためのノズル7と共通であってもよい。ノズル11は、シャワー状に水を供給する多孔ノズルであってもよい。また、洗浄用の水は、水6であってもよい。
[作用及び効果]
【0041】
実施形態の凝集改善方法では、メッシュ部22が水6の中に配置され、且つメッシュ部22の第1表面22a側に着底稚貝5が配置されると共にメッシュ部22の第2表面22b側に空気8が配置された配置状態から、メッシュ部22が鉛直方向の下側に移動することにより、空気8がメッシュ部22の開口22cを通って第2表面22b側から第1表面22a側に押し出される。これにより、空気8が開口22cを通って第2表面22b側から第1表面22a側に押し出される際に、開口22cにおいて生じる水6の表面張力を水6が打破して開口22cを通ることで、衝撃による波9(衝撃波)が発生する。この波9が水6の中を伝わって着底稚貝5に作用することで、デブリを着底稚貝5から引き剥がすことができ、着底稚貝5の凝集状態を改善することができる。この方法では、上述した従来の方法と比べて着底稚貝5の薄い殻が損傷してしまうことを抑制することができ、生産性の低下を抑制することができる。また、この凝集改善方法では、メッシュ部22の目開きが300μm以下である。これにより、デブリを着底稚貝5から引き剥がすために十分な大きさの波9を発生させることができる。さらに、この凝集改善方法では、押出工程において発生する波9により、メッシュ部22の開口22cを通らないほどの大きさとなったデブリを小さいサイズに砕くことができ、小さくなったデブリをメッシュ部22の開口22cから排出することが可能となる。以上より、実施形態の凝集改善方法によれば、生産性の低下を抑制しつつ着底稚貝5の凝集状態を改善することができる。
【0042】
配置工程では、メッシュ部22を空気8中から水6の中に移動させることにより、メッシュ部22の第2表面22b側に空気8を配置する。これにより、例えば水6の中に配置されたメッシュ部22の第2表面22b側に空気8を供給する場合と比べて、メッシュ部22の第2表面22b側に空気8を供給する装置が不要となり、構成を簡易化することができる。
【0043】
用意工程では、第1表面22a側において着底稚貝5が飼育されているメッシュ部材2を用意する。これにより、飼育用のメッシュ部材2を用いて凝集改善方法を実施することができる。
【0044】
メッシュ部22の目開きが30μm以上である。これにより、過度な力をメッシュ部22に加えることなく、デブリを着底稚貝5から引き剥がすために十分な衝撃を発生させることができる。
【0045】
メッシュ部22の面積が100cm以上である。これにより、メッシュ部22の第2表面22b側に多くの空気8を配置することができ、好適に衝撃を発生させることができる。
【0046】
メッシュ部22が樹脂材料により形成されている。これにより、メッシュ部22の材料に起因して着底稚貝5に好ましくない影響が及ぼされることを抑制することができる。例えば、メッシュ部22が金属材料により形成されていると、メッシュ部22を水6の中に配置した際に金属イオンが発生し、金属イオンが着底稚貝5に好ましくない影響を及ぼすおそれがあるが、メッシュ部22が樹脂材料により形成されている場合、そのような事態の発生を抑制することができる。
【0047】
メッシュ部材2が、メッシュ部22を支持する筒状の支持部21を有している。これにより、支持部21を把持してメッシュ部22を移動させることができ、メッシュ部22を移動させる際の取り扱いが容易となる。
【0048】
押出工程の後に、メッシュ部22上の着底稚貝5を水により洗浄する洗浄工程が実施される。これにより、押出工程において小さいサイズに砕かれたデブリを洗浄工程においてメッシュ部22の開口22cから排出することができる。
【0049】
洗浄工程では、メッシュ部22が水6の中に配置された状態でメッシュ部22と向かい合う水面6aに水を注ぐことにより、着底稚貝5を洗浄する。これにより、例えば着底稚貝5に直接に水を注いで着底稚貝5を洗浄する場合と比べて、着底稚貝5の殻が損傷することを抑制することができる。
【0050】
二枚貝がアサリである。これにより、アサリの着底稚貝5の凝集状態を改善することができる。
【0051】
配置工程の配置状態では、外側容器3内においてメッシュ部22が水6の中に配置され、押出工程では、外側容器3内においてメッシュ部22を鉛直方向の下側に移動させることにより、空気8をメッシュ部22の開口22cを通って第2表面22b側から第1表面22a側に押し出す。これにより、外側容器3内に配置されたメッシュ部22上の着底稚貝5の凝集状態を改善することができる。
【0052】
着底稚貝5が5mm以下の大きさを有する。5mmを超えると或る程度殻の強度が高くなり、シャワーからの水により直接に着底稚貝を洗浄する等の方法を使用し得るため、着底稚貝が5mm以下の大きさを有する場合に本実施形態の凝集改善方法は有効である。また、着底稚貝5が3mm以下の大きさを有する場合、殻の強度が小さいため、本実施形態の凝集改善方法が特に有効である。
[変形例]
【0053】
実施形態の凝集改善方法は、図6に示される凝集改善装置50を用いて実施されてもよい。凝集改善装置50は、メッシュ部材2と、支持機構51と、アクチュエータ装置52と、を備えている。支持機構51は、メッシュ部材2を支持している。この例では、支持機構51は、本体部51aと、本体部51aから延在する支持部51bとを有し、支持部51bにおいてメッシュ部材2の支持部21を支持している。支持機構51は鉛直方向に移動可能となっており、支持機構51が移動することによりメッシュ部材2が鉛直方向に移動する。
【0054】
アクチュエータ装置52は、例えば電動シリンダ等により構成されており、支持機構51を鉛直方向に沿って移動させる。これにより、支持機構51により支持されたメッシュ部材2が鉛直方向に沿って移動する。凝集改善装置50を用いて凝集改善方法を実施する際には、アクチュエータ装置52がメッシュ部材2を鉛直方向の下側に移動させ、これにより、上述したように空気8がメッシュ部22の開口22cを通って第2表面22b側から第1表面22a側に押し出される。換言すれば、アクチュエータ装置52は、メッシュ部22が水6の中に配置されてメッシュ部22の第2表面22b側に空気8が配置された状態(例えば図6の状態)が移動開始状態である場合に、空気8がメッシュ部22の開口22cを通って第2表面22b側から第1表面22a側に押し出されるように、メッシュ部材2を鉛直方向の下側に移動させる。これにより、上述した押出工程を実施することができる。
【0055】
凝集改善装置50によれば、上述した理由により、生産性の低下を抑制しつつ着底稚貝5の凝集状態を改善することができる。なお、支持機構51及びアクチュエータ装置52は上記例に限られず、例えば滑車機構を含んで構成されてもよい。
【0056】
図7に示されるようにメッシュ部材2が構成されてもよい。図7の例では、メッシュ部22は、支持部21の内部空間Sを第1表面22a側の第1部分S1と第2表面22b側の第2部分S2とに仕切るように支持部21の内側に固定されている。この場合、配置工程においてメッシュ部22の第2表面22b側に確実に空気8を配置することができる。
【0057】
本発明は、上記実施形態及び変形例に限られない。各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。メッシュ部22の目開きの大きさ及び面積は上述した例に限られない。メッシュ部材2の支持部21及び外側容器3は、円筒状に限らず、角筒状であってもよい。
【0058】
配置工程では、メッシュ部22を空気中から水6の中に移動させることによりメッシュ部22の第2表面22b側に空気8を配置することに代えて、水6の中に配置されたメッシュ部22の第2表面22b側に空気8を供給することにより、メッシュ部22の第2表面22b側に空気8を配置してもよい。例えば、図2に示される状態から、メッシュ部22を空気中に移動させることなく、ノズル等の空気注入手段によってメッシュ部22の第2表面22b側に空気を供給してもよい(バブリング)。この場合、メッシュ部22を水6の中から空気中に移動させる必要がないため、メッシュ部22の移動量を少なくすることができる。
【0059】
用意工程においてメッシュ部22の第1表面22a側において着底稚貝5が飼育されているメッシュ部材2を用意することに代えて、配置工程においてメッシュ部22の第1表面22a側に着底稚貝5を供給してもよい。すなわち、用意工程においてメッシュ部22の第1表面22a側に着底稚貝5が配置されていないメッシュ部材2を用意した後に、配置工程において、メッシュ部材2とは別の場所で飼育された着底稚貝5をメッシュ部22の第1表面22a側に供給してもよい。この場合、メッシュ部材2とは別の場所で飼育された着底稚貝5の凝集状態を改善することができる。
【0060】
実施形態の凝集改善方法が適用される二枚貝は、アサリに限られず、シジミ、ハマグリ、マテガイ、アコヤガイ等であってもよい。上記実施形態ではダウンウェリング方式が用いられたが、水6が鉛直方向の下側から上側に流れるアップウェリング方式が用いられてもよい。この場合、例えば、外側容器3の内側で且つメッシュ部材2の外側に位置する部分に水6が供給されてもよい。外側容器3は省略されてもよい。例えば、メッシュ部材2が海中に配置され、海中において上記実施形態の凝集改善方法が実施されてもよい。このように水6は海水であってもよい。メッシュ部材2は支持部21を有していなくてもよく、例えばメッシュ部22のみを有していてもよい。メッシュ部22は、ステンレス等の金属材料により形成されてもよい。洗浄工程は実施されなくてもよい。
【符号の説明】
【0061】
2…メッシュ部材、21…支持部、22…メッシュ部、22a…第1表面、22b…第2表面、22c…開口、3…外側容器、5…着底稚貝、6…水、6a…水面、8…空気、50…凝集改善装置、51…支持機構、52…アクチュエータ装置、S…内部空間、S1…第1部分、S2…第2部分。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8