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特開2024-157412停電リスク評価システム、停電リスク評価方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157412
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】停電リスク評価システム、停電リスク評価方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20241030BHJP
【FI】
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071764
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100217940
【弁理士】
【氏名又は名称】三並 大悟
(72)【発明者】
【氏名】當房 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】堺 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】小原 玲子
(72)【発明者】
【氏名】羽深 俊一
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC06
5L050CC06
(57)【要約】
【課題】停電リスクを低減させるための合理的な対策の検討に資することができる停電リスク評価技術を提供する。
【解決手段】一実施形態に係る停電リスク評価システムは、電力システムをグラフまたはリストでモデル化し、電力システムの停電確率を評価する停電確率評価部と、停電確率に基づいて電力システムの電力供給率を評価する需給バランス評価部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力システムをグラフまたはリストでモデル化し、前記電力システムの停電確率を評価する停電確率評価部と、
前記停電確率に基づいて前記電力システムの電力供給率を評価する需給バランス評価部と、
を備える、停電リスク評価システム。
【請求項2】
前記停電確率と、前記電力供給率を用いて、停電リスク曲線を評価するリスク曲線評価部をさらに備える、請求項1に記載の停電リスク評価システム。
【請求項3】
前記グラフまたはリストは、電力の供給を維持するための構成と需要家に基づいて設定される、請求項1または請求項2に記載の停電リスク評価システム。
【請求項4】
前記グラフまたはリストに電力システムの損失が設定されている、請求項1または請求項2に記載の停電リスク評価システム。
【請求項5】
前記グラフまたはリストは、前記電力システムの監視または系統切替の制御を行う配電自動化システムの構成に基づいて設定される、請求項1または請求項2に記載の停電リスク評価システム。
【請求項6】
前記グラフまたはリストは、前記電力システムにおける配電用変電所の上流側の構成に基づいて設定される、請求項1または請求項2に記載の停電リスク評価システム。
【請求項7】
前記グラフまたはリストは、前記電力システムにおける配電用変電所の下流側の構成に基づいて設定される、請求項1または請求項2に記載の停電リスク評価システム。
【請求項8】
前記電力システムを構成する設備を個々に識別可能な機器IDに対応付けて、災害により前記設備が機能喪失するか否かを特定可能な特定情報が記憶されるデータベースをさらに備える、請求項1または請求項2に記載の停電リスク評価システム。
【請求項9】
停電確率評価部が、電力システムをグラフまたはリストでモデル化し、前記電力システムの停電パターンと停電確率を評価するステップと、
需給バランス評価部が、前記停電パターンに基づいて、電力供給率を評価するステップと、
を含む、停電リスク評価方法。
【請求項10】
電力システムをグラフまたはリストでモデル化し、前記電力システムの停電パターンと停電確率を評価する処理と、
前記停電パターンに基づいて、電力供給率を評価する処理と、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、停電リスク評価システム、停電リスク評価方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電力が生み出される発電所から、送電系統、配電網を通り、需要家に至るまでの上流から下流の一連の電力システムにおいて発生する現象を解析するために、電力系統解析が行われている。この電力系統解析は、従来から高品質の電力を安定供給することを目的として活用されてきた。ここで、電力システムの異常事象の結果として、送電または配電ができなくなり、停電が生じる。停電が生じる要因は、複数あるが、自然災害による影響は、停電の発生の予測または停電の復旧に関係し、広く研究が進められてきた。
【0003】
例えば、台風の予測と既往の被害情報に基づいて、台風被害を予測する技術が知られている。また、設備耐性と気象予測データにより停電戸数を予測する技術が知られている。また、過去の自然災害と停電件数のデータから、需要家の平均停電時間、停電被害額と対策の費用対効果を算出する技術が知られている。また、対象とする配電網をノード・リンクにモデル化し、配電経路と損傷確率を算出し、イベントツリーにより、需要家の需要または供給電力の期待値を算出し、電力供給率の経時変化を算出する技術が知られている。これらの技術では、基本的に配電網の各構成要素の物理的な損傷確率から、配電経路の有無で停電への影響を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5044243号公報
【特許文献2】特許第5931830号公報
【特許文献3】特許第5088628号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】松本俊明他,分散型電源のある配電網の地震時レジリエンス評価方法に関する研究 日本地震工学会論文集 第19巻,第7号,2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
停電は、地震、台風、落雷、水害などの自然災害、またはその他の要因によって引き起こされる。各種の災害に対する停電リスクを事前に定量的に把握できれば、電力の需要家はそれを踏まえて、合理的かつ効果的な対策を講じることができる。例えば、停電リスクを低減するための対策として、蓄電池、燃料電池、自家発電装置などを設置し、配電網からの供給が停止した場合にそれらの設備から電力を供給することで、停電を回避することができる。また、配電網の電力品質または供給信頼度の維持と向上を目的として、通信網を介して各機器により配電網の監視または系統切替などの制御を行う配電自動化システムがある。
【0007】
図17は、従来の配電自動化システムの概略図を示す。この概略図は、配電網で事故が発生した際の配電自動化システムによる復旧の流れを示したものである。例えば、変電所から延びる配電線が自動開閉器で複数の区間(1)~(6)に分割されている。平常時には、この配電線により送電されている。ここで、所定の区間(3)で配電線に影響のある事故が発生したとする。事故発生時には、自動開閉器のリレーが動作し、自動開閉器が開放される。さらに、変電所は送電を停止する。再閉路時には、変電所の送電が再開され、それぞれの自動開閉器が順次投入され、事故点まで送電される。このときに、所定の区間(3)が事故区間と特定される。この事故区間(3)の電源側の自動開閉器がロック状態となる。事故区間(3)よりも電源側の区間(1)~(2)は送電される。しかし、事故区間(3)は自動開閉器がロック状態のため送電されない。このとき、事故区間(3)よりも負荷側の区間(4)~(6)では、事故が生じていないにも関わらず、停電になる。これらの区間(4)~(6)を健全停電区間という。配電自動化システムは、停電が発生した場合に、停電の規模を最小化することを目的とし、事故の検出と事故区間の特定と逆送を実行する。ここで、逆送とは、事故区間(3)よりも負荷側の健全停電区間(4)~(6)に対して、別ルートから電力を融通することである。この逆送により停電件数を減少できる。
【0008】
図18は、停電自動化システムと電力融通の概略図を示す。この概略図は、図17とは異なり、冗長性がない配電線の例である。つまり、逆送を行うことはできない。このとき、事故区間(3)に接続されている需要家は電力供給がなされないため停電となる。しかし、それぞれの需要家が分散型電源を自家保有している場合は分散型電源から電力が供給されるため停電による損失は低減する。一方、事故区間(3)よりも負荷側の区間(4)~(6)は健全停電区間である。この区間に接続されている需要家も電力供給がなされないため停電となる。しかし、配電線が健全であるので、区間内で保有する分散型電源のリソースを共有し優先度に応じて利用することが可能である。
【0009】
このように、配電網の所定の箇所で損傷または故障が発生し、電力供給経路が断絶した際に、事故点を特定し、別ルートから送電を行い、停電区間を最小化する対応が行われる。予め停電の対策を講じるためには、その対策が投資に対して効果的なものであるのかなどの、対策の投資対効果を評価する必要がある。停電の原因となる災害、停電の規模、形態は様々であるため、これら電力システムの構成要素とそれぞれの関係、役割を考慮し、定量的に停電リスクを評価した上で、さらに導入する対策によるリスクの低減を評価することが必要である。
【0010】
配電自動化システムでは、所定の区間で配電網の損傷が発生した場合、その区間を特定し、迂回できるルートから送電するための操作を行う。しかし、送電のための経路が確保されていても、これら一連の操作に必要な機器の機能が災害によって喪失する場合がある。従来の技術では、このような配電網の各機器のシステム上の役割に応じた停電被害に対する影響は考慮されていない。また、配電網のどのような機能を強化すれば停電リスクが効率的に減少するのかを把握することが困難である。また、停電対策として需要家が設置した分散型電源による停電被害の低減は考慮されていないか、考慮されていても災害時には例外なく機能するとの単純な仮定によって評価されており、停電対策そのものの機能喪失リスクは考慮されていない。例えば、健全停電区間であっても、配電自動化システムによる逆送が行うことができない構成となっている場合、需要家が自己保有する分散型電源による他需要家への電力融通を行うことができる可能性があるが、評価の対象外となっている。さらに、イベントツリーを用いてリスクを算出する場合には、電力システムの健全と故障を分岐で表現する必要がある。そのため、電力システムの規模が大きい場合、または粒度が細かい場合には、考え得るシナリオのパターン数(設備故障の組み合わせなど)が増大する。その結果、解析負荷が増大するため、評価可能なモデル化に限界が生じることがある。このように、従来技術では、停電リスクを低減させるための合理的な対策の検討に資することができない。
【0011】
本発明の実施形態は、停電リスクを低減させるための合理的な対策の検討に資することができる停電リスク評価技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施形態に係る停電リスク評価システムは、電力システムをグラフまたはリストでモデル化し、電力システムの停電確率を評価する停電確率評価部と、停電確率に基づいて電力システムの電力供給率を評価する需給バランス評価部と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本実施形態によれば、停電リスクを低減させるための合理的な対策の検討に資することができる停電リスク評価技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る停電リスク評価システムの構成を示すブロック図である。
図2】メイン制御部の構成を示すブロック図である。
図3】系統構成データベースに記憶される電力システムの構成例を示す図である。
図4】系統構成管理テーブルの一例を示す図である。
図5】需要家構成管理テーブルの一例を示す図である。
図6】第1機器管理テーブルの一例を示す図である。
図7】第2機器管理テーブルの一例を示す図である。
図8】災害の強度と機器の損傷確率の関係の一例を示すグラフである。
図9】ハザード管理テーブルの一例を示す図である。
図10】災害の強度と年超過頻度の関係の一例を示すグラフである。
図11】災害ハザードデータベースに記憶されるハザードマップの一例を示す図である。
図12】配電線と需要家の一例を示す図である。
図13】停電リスク曲線の提示例を示す図である。
図14】追加対策メニューの提示例を示す図である。
図15】電力需要の推移の一例を示す図である。
図16】停電リスク評価方法の一例を示すフローチャートである。
図17】従来の配電自動化システムによる復旧の流れを示す図である。
図18】配電自動化システムと電力融通の様相を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。下記の実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0016】
図1は、一実施形態に係る停電リスク評価システムの構成を示すブロック図である。この停電リスク評価システム1は、電力システムの停電リスクを評価する。本実施形態では、電力システムの停電リスクの算出に用いる様態を例示する。
【0017】
停電リスク評価システム1の評価対象となる電力システムは、電力の発生(発電)と、電力の輸送(送電・変電)と、電力の供給(配電)と、電力の需要(消費)とを含むシステムである。この電力システムは、発電から消費までの構成を含む非常に大規模で、かつ全体で電圧と周波数が一定の範囲に収まるよう高度に制御されたシステムである。この電力システムを構成する機器には、電力会社が設置する機器と、需要家が設置する機器とが含まれる。
【0018】
電力システムにおいて、発電所で発電された電力は、送電網、配電網を通じて、需要家(家庭、工場、事業所など)に供給される。このような上流から下流に至る一連の電力供給ルートは、地域によって異なる。停電リスク評価システム1は、地域の停電リスクを定量化することで、そのリスクの正確な把握を行う。そして、より効果的で必要な設備投資などを実施する。
【0019】
本実施形態に係る電力システムの構成要素には、変電所、配電線(送電線)、配電柱、開閉器などの柱上機器が含まれる。さらに、電力システムの利用を受ける需要家の受電機器や、停電対策として導入する可能性のある機器(分散型電源)も含まれる。具体例としては蓄電池、太陽光発電システム、燃料電池、非常用ディーゼル発電機、ガスエンジン、電気自動車などである。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係る停電リスク評価システム1は、メイン制御部2と、入力部3と、出力部4と、記憶部5と、通信部6と、を備える。さらに、この停電リスク評価システム1は、系統構成データベース7と機器データベース8と災害ハザードデータベース9とを備える。これらのデータベースは、メモリ、HDDまたはクラウド上の保存容量に記憶され、検索または蓄積ができるよう整理された情報の集合体である。
【0021】
また、本実施形態の停電リスク評価システム1は、例えばCPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の停電リスク評価方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0022】
停電リスク評価システム1の各構成は、必ずしも1つのコンピュータに設ける必要はない。例えば、ネットワークで互いに接続された複数のコンピュータを用いて1つの停電リスク評価システム1を実現してもよい。例えば、各種のデータベース7~9がそれぞれ個別のコンピュータに搭載されていてもよい。
【0023】
入力部3は、停電リスク評価システム1を使用するユーザーの操作に応じて所定の情報が入力される。例えば、入力部3には、停電リスクの評価を実施する地域または地区の系統構成と、機器の耐力(フラジリティ)情報と、災害ハザード情報などの各種情報が入力される。
【0024】
この入力部3には、マウスまたはキーボードなどの入力装置が含まれる。つまり、これら入力装置の操作に応じて所定の情報が入力部3に入力される。なお、ユーザーは、入力の際に、各系統構成と機器などの情報にそれぞれ固有のIDの付与を行う。なお、IDとは、これに対応する情報を個々に識別するために必要な識別情報であり、それぞれの情報に対応付けて固有のIDが付与される。
【0025】
出力部4は、所定の情報を出力する。例えば、出力部4は、メイン制御部2の評価結果とデータベース7~9に記憶された情報を出力する。本実施形態に係る停電リスク評価システム1には、解析結果の出力を行うディスプレイなどの画像の表示を行う装置が含まれる。つまり、出力部4は、ディスプレイに表示される画像を制御する。なお、ディスプレイは、コンピュータ本体と別体であってもよいし、一体であってもよい。
【0026】
なお、本実施形態に係る停電リスク評価システム1は、ネットワークを介して接続される他のコンピュータが備えるディスプレイに表示される画像を制御してもよい。その場合には、他のコンピュータが備える出力部4が、メイン制御部2が導き出した評価結果などの出力を制御してもよい。
【0027】
また、本実施形態では、画像の表示を行う装置としてディスプレイを例示するが、その他の態様であってもよい。例えば、プロジェクタを用いて情報の表示を行ってもよい。さらに、紙媒体に情報を印字するプリンタをディスプレイの替りとして用いてもよい。つまり、出力部4が制御する対象として、プロジェクタまたはプリンタが含まれていてもよい。
【0028】
記憶部5は、各データベース7~9に記憶された情報に基づいて、停電リスクの評価を行うときに必要な各種情報を記憶する。
【0029】
通信部6は、インターネットなどの通信回線を介して他のコンピュータと通信を行う。なお、本実施形態では、停電リスク評価システム1と他のコンピュータがインターネットを介して互いに接続されているが、その他の態様であってもよい。例えば、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)または携帯通信網を介して互いに接続されてもよい。
【0030】
系統構成データベース7には、電力システムの構成または接続状況などを示す情報が記憶される。これらの情報には、電力システムに関する地理的情報、各種設備の位置関係、各種設備同士の距離なども含まれる。例えば、系統構成データベース7には、図3に示す電力システムの構成を示す情報、図4に示す系統構成管理テーブル、および図5に示す需要家構成管理テーブルが記憶される。
【0031】
図3は、電力システムの構成を示す画像の一例である。電力システムの構成を示す情報は、図3に示す画像300のように、ディスプレイなどに2次元表示することができる。これによりユーザーは、電力システムの各種設備の位置関係または構成を把握することができる。なお、画像300には、電力システムにおける配電用変電所の下流側に設置される機器の構成が示されている。しかし、画像300には、配電用変電所の上流側に設置されるローカル系統の構成が示されていてもよい。このローカル系統は、例えば、発電所から供給された電力を変電する一次変電所、および一次変電所の出力電力を変電する二次変電所等で構成される。
【0032】
また、出力部4は、系統構成を示したり、実際の地図上に重ね合わせたりして表示する機能を有する。それぞれの系統構成は、固有の系統構成IDにより管理される。
【0033】
図4は、系統構成管理テーブルの一例である。図4に示す系統構成管理テーブル400には、それぞれの系統構成に関連する機器の情報が登録される。また、系統構成管理テーブル400には、系統構成IDを主キーとして各種情報が登録される。例えば、系統構成IDに対応付けて、機器IDと、機器詳細IDと、機器名称と、座標・標高とが登録される。
【0034】
ここで、系統構成IDは、それぞれの系統構成を個々に識別可能な識別情報である。機器IDは、それぞれの機器を個々に識別可能な識別情報である。機器詳細IDは、機器の詳細な情報を記録したそれぞれのデータを個々に識別可能な識別情報である。この機器詳細IDに基づいて、系統構成データベース7の他の領域に記憶された機器の詳細なデータを読み出すことができる。機器名称は、機器の種類を示す名称である。座標・標高は、機器が設置された場所の座標と標高である。この座標・標高は、災害により機器が機能喪失するか否かを特定可能な特定情報である。
【0035】
図5は、需要家構成管理テーブルの一例である。図5に示す需要家構成管理テーブル500には、それぞれの系統から電力の供給を受ける需要家に関する情報が登録される。また、需要家構成管理テーブル500には、系統構成IDを主キーとして各種情報が登録される。例えば、系統構成IDに対応付けて、需要家IDと、座標・標高と、業種と、需要家名称と、契約電力容量と、平常時電力需要と、緊急時電力需要と、対策設備と、対策設備容量とが登録される。
【0036】
ここで、需要家IDは、それぞれの需要家を個々に識別可能な識別情報である。座標・標高は、需要家の場所の座標と標高である。この座標・標高は、災害により需要家が機能喪失するか否かを特定可能な特定情報である。業種は、需要家の業種である。例えば、住宅、医療機関、オフィスビル、公官庁などの需要家の種類である。需要家名称は、需要家を識別可能な名称である。契約電力容量は、電力会社が需要家と契約している電力容量である。
【0037】
平常時使用電力は、需要家が通常時に使用する電力である。緊急時電力需要は、需要家が停電時に必要とする電力である。なお、平常時電力需要と緊急時電力需要の項目には、複数のパターンを登録してもよい。複数のパターンには、例えば、夏季と冬季のパターン、昼と夜のパターン、平日と休日のパターンなどが含まれる。
【0038】
対策設備は、停電時に電力の供給を継続するための設備である。例えば、非常用ディーゼル発電機などである。この対策設備には、非常時のみならず、平常時にも電力の供給を行うオフグリッドの設備を含む。オフグリッドとは、電力会社に頼らずとも電力を自給自足している状態を示す。なお、対策設備の項目には、対策設備の有無を示す情報を登録してもよい。対策設備容量は、対策設備から需要家に対して供給可能な電力容量である。
【0039】
機器データベース8には、電力システムの構成要素となる機器の耐力情報(フラジリティ)または故障確率などを示す情報が記憶される。例えば、機器データベース8には、図6に示す第1機器管理テーブル、図7に示す第2機器管理テーブル、および図8に示す地震加速度と機器の損傷確率の関係を示す情報が記憶される。
【0040】
図6は、第1機器管理テーブルの一例である。図6に示す第1機器管理テーブル600には、主に発電所からの電力供給に必要な機器に関する情報が登録される。また、第1機器管理テーブル600には、機器IDを主キーとして各種情報が登録される。例えば、機器IDに対応付けて、機器用途と、機器名称と、機器耐力と、設計基準とが登録される。
【0041】
図7は、第2機器管理テーブルの一例である。図7に示す第2機器管理テーブル700には、主に対策設備に関する情報が登録される。また、第2機器管理テーブル700には、機器IDを主キーとして各種情報が登録される。例えば、機器IDに対応付けて、機器名称と、設備容量と、機器耐力と、設計基準とが登録される。
【0042】
ここで、機器用途は、機器の用途を示す情報である。機器耐力は、災害の強度に対する機器の耐久力を示す情報である。災害が地震の場合、災害の強度は地震加速度となり、機器耐力は、地震加速度に対する機器の耐久力を示す情報である。災害が台風の場合、災害の強度は風速となり、機器耐力は、風速に対する機器の耐久力を示す情報である。災害が落雷の場合、災害の強度は雷撃電流値となり、機器耐力は、雷撃電流値に対する機器の耐久力を示す情報である。災害が水害の場合、災害の強度は浸水深となり、機器耐力は、浸水深に対する機器の耐久力を示す情報である。設計基準は、機器が災害の強度に対して耐えられる設計上の基準値を示す情報である。災害が地震の場合、災害の強度は地震加速度となり、設計基準は、機器が地震加速度に対して耐えられる設計上の基準値を示す情報である。災害が台風の場合、災害の強度は風速となり、設計基準は、機器が風速に対して耐えられる設計上の基準値を示す情報である。災害が落雷の場合、災害の強度は雷撃電流値となり、設計基準は、機器が雷撃電流値に対して耐えられる設計上の基準値を示す情報である。災害が水害の場合、災害の強度は浸水深となり、設計基準は、機器が浸水深に対して耐えられる設計上の基準値を示す情報である。これら機器耐力と設計基準は、災害により機器が機能喪失するか否かを特定可能な特定情報である。設備容量は、機器から需要家に対して供給可能な電力容量である。
【0043】
なお、機器耐力は、災害の強度と機器の損傷確率の関係を示す情報である。例えば、機器耐力は、図8のグラフのように示されてもよい。
【0044】
図8は、災害の強度と機器の損傷確率の関係の一例を示すグラフである。図8に示すように、3種類の機器の設計基準が同一であっても、機器耐力は機器ごとに異なる場合がある。図8のグラフは、災害の強度と機器の損傷確率の関係を示す情報として、災害が地震の場合を例示する。このグラフの横軸は、災害の強度として地震加速度を示す。なお、この横軸は、災害が台風の場合は風速を示し、災害が落雷の場合は雷撃電流値を示し、災害が水害の場合は浸水深を示す。その他の災害の場合も横軸は災害の強度を示し、縦軸は機器の損傷確率を示す。
【0045】
災害ハザードデータベース9には、各種自然災害のハザードに関する情報と年超過頻度に関する情報が記憶される。これらの情報には、国、地方公共団体、その他団体などが発表したハザードマップが含まれる。
【0046】
また、停電リスク評価システム1は、災害ハザードデータベース9に記憶されたハザードマップから必要な箇所を抽出することができる。例えば、災害ハザードデータベース9には、図9に示すハザード管理テーブル、図10に示す災害の強度と年超過頻度の関係(災害ハザード)を示す情報、および図11に示す災害ハザードデータベース9に記憶されるハザードマップを示す情報が記憶される。図10のグラフは災害の強度と年超過頻度の関係(災害ハザード)を示す情報として、災害が地震の場合を例示する。このグラフの横軸は、災害の強度の一例として地震加速度を示す。なお、このグラフの横軸は、災害が台風の場合は風速を示し、災害が落雷の場合は雷撃電流値を示し、災害が水害の場合は浸水深を示す。その他の災害の場合も横軸は災害の強度を示し、縦軸は年超過頻度を示す。
【0047】
図9は、ハザード管理テーブルの一例である。図9に示すハザード管理テーブル900には、ハザードIDを主キーとして各種ハザードに関する情報が登録される。例えば、ハザードIDに対応付けて、ハザード種類と、災害ハザードと、参照元とが登録される。
【0048】
ここで、ハザードIDは、それぞれの種類のハザードを個々に識別可能な識別情報である。ハザード種類は、ハザードの種類を示す情報である。ハザード詳細は、それぞれの種類のハザードに関する詳細な情報である。参照元は、ハザードに関する情報を取得した参照元を示す情報である。
【0049】
なお、ハザード詳細は、災害の強度と年超過頻度の関係を示す情報である。例えば、ハザード詳細を、図10のグラフのように示してもよい。
【0050】
図10は、災害の強度と年超過頻度の関係の一例を示すグラフである。図10に示すように、3つの地点A、B、Cのそれぞれにおいて、年超過頻度が異なる場合がある。図10のグラフは、災害の強度と年超過頻度の関係(災害ハザード)を示す情報として、災害が地震の場合を例示する。このグラフの横軸は、災害の強度として地震加速度を示す。この横軸は、災害が台風の場合は風速を示し、災害が落雷の場合は雷撃電流値を示し、災害が水害の場合は浸水深を示す。その他の災害の場合も横軸は災害の強度を示し、縦軸は年超過頻度を示す。
【0051】
また、ハザード詳細には、ハザード詳細に関する情報を記録したそれぞれのデータを個々に識別可能な識別情報であるハザード詳細IDが含まれてもよい。このハザード詳細IDに基づいて、災害ハザードデータベース9の他の領域に記憶されたハザードの詳細なデータを読み出すことができる。例えば、図11に示すハザードマップを図9に示すハザード管理テーブル900に紐付けてもよい。
【0052】
ここで、図2を参照して、メイン制御部2の構成について説明する。図2は、メイン制御部2の構成例を示すブロック図である。メイン制御部2は、停電リスク評価システム1を統括的に制御する。このメイン制御部2は、図2に示すように、停電リスク評価部10と、需給バランス評価部11と、リスク曲線評価部12と、を有する。各評価部は、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0053】
停電リスク評価部10は、モデル作成部13および停電確率評価部14を有する。モデル作成部13は、電力システムをグラフやリストでモデル化する。なお、本実施形態では、評価対象の機器に、電力の供給を受ける需要家が設置した機器が含まれている。
【0054】
停電確率評価部14は、モデル作成部13でモデル化したグラフやリストに基づいて、電力システムの健全と故障を組み合わせた停電パターンや、停電確率、停電時の損失、および停電確率と損失とを乗算した停電リスクを評価する。本実施形態では、停電確率評価部14の評価方法には、グラフ理論を用いた方法や、シミュレーションモデルを用いた方法が含まれている。以下、各方法についてそれぞれ説明する。
【0055】
グラフ理論は、配電線と需要家などを頂点と辺からなる有向グラフで表現し、グラフアルゴリズムによる解析を行うものである。
【0056】
まず、配電線の繋がりと要素を有向グラフとする。例えば、送電鉄塔や開閉器を頂点として、配電線を辺として表現するデータ構造とすることが考えられる。このとき、辺に故障確率や停電時の損失を設定する。この上で、停電確率を求めるために有向グラフ上で経路探索アルゴリズムを用いる。このとき、送電鉄塔から需要家が接続している配電線まで繋がっていれば停電とならず健全、繋がっていない場合は停電とする。この条件で停電パターン(評価対象の健全/故障の組み合わせ)と損失、発生確率を算出する。災害の強さに応じて電力システムや需要家の故障確率が変化するため、災害の強さごとに評価を実施する。以下、図12に示す配電線で説明する。
【0057】
図12は、配電線と需要家の一例を示す図である。図12を参照すると、例えば、電力システムを下記のようにモデル式で記述することができる。
graph={“C0”:{“L0”:20},“C1”:{“L1”:15},“C2”:{“L2”:10},“C3”:{“L3”:25},“L0”:{“L1”:0},“L1”:{“L2”:0},“L2”:{“L3”:0}}
【0058】
この例では、4つの需要家C0、C1、C2、C3と4つの配電線L0、L1、L2、L3が電力システムに含まれている。各需要家は、1つの配電線に接続されており、各配電線は他の配電線または需要家に接続されている。まず、配電線と需要家の接続を説明する。例えば、“C0”:{“L0”:20}”という要素は、需要家C0が配電線L0に接続され、需要家C0が配電線L0と接続されていることを示し、このとき数値20を得ることができることを示している。この数値は電力量であってもよいし、需要家の損失や損害額であってもよい。同様に、他の需要家にも数値が割り当てられている。この例では、需要家C1には数値15、需要家C2には数値10、需要家C3には数値25がそれぞれ割り当てられている。続いて、配電線同士の接続を説明する。例えば、“L0”:{“L1”:0}という要素は、配電線L0が配電線L1に接続され、この接続間の数値となっていることを示している。
【0059】
なお、上記の例では、有向グラフが、電力システムにおける配電用変電所の下流側に設置される機器の構成に基づいて設定されている。しかし、この有向グラフは、配電用変電所の上流側に設置されるローカル系統の構成に基づいて設定されていてもよい。このローカル系統は、例えば、発電所から供給された電力を変電する一次変電所、および一次変電所の出力電力を変電する二次変電所等で構成される。
【0060】
以下、シミュレーションモデルについて説明する。シミュレーションモデルは、配電線と需要家をリストやグラフで表現し、評価するものである。配電線と需要家の関係を表すグラフを作成する。配電線ごとにどの需要家に供給するかをリストなどで表し、配電線の親子関係をモデル式で記述する。次に、需要家に電力が供給されるかを判断する関数を定義する。この条件で停電パターンと損失、発生確率を算出する。災害の強さに応じて電力システムや需要家の故障確率が変化するため、災害の強さごとに評価を実施する。
【0061】
シミュレーションモデルでは、例えば、電力システムを下記のモデル式で記述することができる。
Line_consumer = [[0], [1], [2], [3]]
Line_parents = [-1, 0, 1, 2]
【0062】
“Line_consumers”は、各配電線が供給する需要家のリストを示している。例えば、“Line_consumers[0]”は、配電線L0が供給する需要家のリストが含まれている。ここでは、1つの需要家(需要家C0)に接続されていることを示している。また、“Line_parents”は、各配電線の親配電線を示している。例えば、“Line_parents[1]”は、配電線L1の親配電線が配電線L0であることを示している。配電線の最上流は“Line_parents[0]”であり、「-1」が割り当てられている。なお、この例では、リストが、電力システムにおける配電用変電所の下流側に設置される機器の構成に基づいて設定されている。このリストも、上述した有向グラフと同様に、配電用変電所の上流側に設置されるローカル系統の構成に基づいて設定されていてもよい。
【0063】
以下、停電パターンと停電確率の算出の評価プロセス例について説明する。上記で作成したモデルについて、パラメータが設定され、設定されたシミュレーション回数だけシミュレーションが実行される。例えば、同時故障数の上限が設定されている場合には、同時故障数の上限数以下で故障するかを判定する配電線がランダムに選択される。次に、停電確率評価部14は、災害の強さごとに各配電線の故障確率と、各需要家の故障確率とに基づいて、停電確率を算出する。停電確率評価部14は、生成された乱数が、事前に設定した故障確率よりも下回る場合には故障と判断する。このパターンに応じて、停電確率評価部14は、災害発生頻度に、事前に設定した配電線と需要家の故障確率を乗算することによって、故障確率を算出する。
【0064】
停電が生じた際には、事前に設定した需要家の損失を計算することもできる。損失計算の際、配電線や需要家が故障するだけではなく、配電線の上流が健全でなければ配電されず、停電となる。そのため、配電線と需要家のグラフ、リストに基づいて、配電線が故障していない場合に指定した需要家に電力供給ができるかを判定する関数が導入される。グラフ理論では、幅優先探索などによって、配電線の上流から需要家に電力が供給できるかを判定する。故障する配電線があった場合は、その配電線を通ることができないので、供給できない。シミュレーションモデルによる評価では、与えられた配電線が故障している場合は失敗、故障していない場合は需要家に直接接続している場合は成功、直接接続していない場合は、その配電線の親配電線をたどり、故障していない場合に限り、電力供給が可能となる。
【0065】
このようにして、全てのシミュレーションにおいて、停電パターンと停電確率、損失などを計算する。最終的に、停電パターンごとに停電確率と損失を乗算することで停電リスクとして、停電リスクが高い順に並び替えることで、停電リスクの評価上、重要な停電パターンを提示することができる。このため、次の需給バランス評価部11で評価する停電パターンの数を低減することが可能である。
【0066】
ここで、図2に戻って、需給バランス評価部11は、モデル作成部15および電力供給率評価部16を有する。モデル作成部15は、需要家の需要と分散型電源などによる供給を線形計画問題などにすることによって、電力供給率を評価するモデルを作成する。作成されたモデルは、停電確率評価部14で出力される停電パターンに対応する。電力供給率評価部16は、モデル作成部15で作成した線形計画問題などを解析することによって、停電パターンに対応する電力供給率を算出する。このとき、災害レベルに応じて、停電からの復旧時間が変動することを想定し、評価対象期間が設定されてもよい。
【0067】
リスク曲線評価部12は、損失評価部17およびリスク曲線作成部18を有する。損失評価部17は、停電リスク評価部10で評価した停電パターンとその確率、需給バランス評価部11で評価した電力供給率を統合する。このとき、電力供給率を「1」から減算することによって、電力供給不足率に変換することができる。本実施形態では、電力供給不足率の値を損失としてもよいが、電力量[kWh]や損害額[円]としてもよい。例えば、損失評価部17が需要家の損害額を評価する場合、需要家の業種または業務形態に応じた、統計データまたは支払意思額などの社外的データを用いて求めた1kWh当たりの直接的または間接的な損害額を電力量[kWh]に乗算することによって、停電による需要家の損害額を算出することができる。また、損失評価部17が事業者の損害を評価する場合、評価対象地域の1kWh当たりの電気料金の平均単価を電力量[kWh]に乗算することによって、停電による電力会社の電気料金収入の減少額と、そのときの確率を算出することができる。なお、需要家が停電によって被る事業損失の時間単価から、想定される時間単価を掛け合わせることによって、停電による需要家の損失を算出することもできる。リスク曲線作成部18は、停電パターンと損失評価部17で評価した損失を用いて、損失が大きい順に確率を足し合わせる。これにより、年超過確率を算出することができる。これをグラフにプロットすることでリスク曲線となる。リスク評価の面積を算出することによって、年間当たりの損失の期待値を求めることができる。
【0068】
図13は、停電リスク曲線の提示例である。この停電リスク曲線は、ある評価対象の停電対策の設置前後を示したものである。図13に示すように、対策前の曲線が、対策後の曲線を上回って描写されていることが分かる。つまり、対策設備によって停電による損失、この曲線では損害を縮小できると評価されている。
【0069】
なお、対策設備の設置の前後の被害想定額を算出するまでに、様々な情報を収集、解析し、停電確率を算出する必要がある。しかし、評価の始まりを停電が発生したときとして、被害想定額と対策設備の投資対効果を確認することも可能である。
【0070】
例えば、停電時間は、1時間、5時間、24時間などの複数の態様を想定することができる。このとき、対策設備の故障確率などの必要最小限の評価として、損失、被害想定額を算出することができる。また、需要家に追加対策メニューを提示し、選択させることによって、既存の評価プロセスに追加され、損失を算出することができる。
【0071】
図14は、追加対策メニュー提示の一例である。需要家ID、対策設備、対策設備容量、追加対策メニューなどが提示される。ここで、追加対策メニューとして、非常用ディーゼル発電機、水素発電、太陽光発電、蓄電池を示している。この追加対策メニューは、機器データベース8に保存された機器の情報のうち、対策設備となる機器が自動的に抽出される。機器IDに紐づいている機器耐力情報により、評価モデルが作成され、最終的に停電リスク曲線が作成される。
【0072】
また、実際の災害を想定すると、通常の電力需要と異なることが考えられる。例えば、工場が被災した際には、操業を停止される。そのため、工場の電力需要は大きく低下する。このような災害時の電力需要の変化に応じた評価も求められる。
【0073】
図15は、災害時の電力需要の回復の一例である。実線は、電力需要が急低下し、時間の経過とともに回復する様子を示している。系統構成データベース7に保存されている緊急時電力需要の値、または、任意で設定する災害影響を用いて、電力需要値を変化させることによって、指定時間における対策設備の有効性を評価することもできる。
【0074】
次に、本実施形態の停電リスク評価方法について、図16のフローチャートを用いて説明する。
【0075】
図16は、停電リスク評価方法の一例を示すフローチャートである。なお、図16に示すステップは、停電リスク評価方法に含まれる少なくとも一部のステップであり、他のステップが停電リスク評価方法に含まれてもよい。
【0076】
まず、ステップS1において、停電リスク評価部10が、停電リスク評価の評価範囲を決定する。ステップS1では、ユーザーが、入力部3の入力操作により評価範囲を指定する。この指定に基づいて、停電確率評価部14が評価範囲を決定する。
【0077】
次のステップS2において、モデル作成部13が、停電確率評価部14によって指定された評価範囲に基づいて、電力システムをグラフやリストで記述し、モデル化する。このモデル化は複数の手法が考えられるが、それぞれの目的に応じて選択することができる。
【0078】
次のステップS3において、停電確率評価部14が、モデル作成部13によって作成された電力システムのモデルにインプットデータを設定する。インプットデータには、例えば、災害の発生確率、配電線や需要家の故障確率、需要家の損失などが含まれる。
【0079】
次のステップS4において、停電確率評価部14は、電力システムの停電パターンとその確率を評価する。このとき、停電確率評価部14は、停電パターンごとに、事前に設定された損失を導出することもできる。さらに、停電確率評価部14は、停電損失を停電確率と乗算することによって、停電リスクを算出し、算出した停電リスクを大きい順に並び替えることもできる。これにより、重要な停電パターンを抽出することができるため、次のステップS5で評価する停電パターンの数を減らすことができる。その結果、効率的に評価を行うことができる。しかし、損失の値を後から変更する場合は、再度評価を行う必要がある。
【0080】
次のステップS5において、需給バランス評価部11が、停電パターンに基づいて、需要家の電力需要と、分散型電源などの停電対策設備の稼働と、電力融通が行うことができる場合は優先度に応じての電力供給を評価する。ステップS5では、モデル作成部15が、線形計画問題による最適化モデルを作成する。続いて、電力供給率評価部16が、モデル作成部15によって作成された最適化モデルを評価する。
【0081】
次のステップS6において、リスク曲線評価部12の損失評価部17が、電力供給率評価部16によって評価された停電パターンの電力供給率を、損失に変換し算出する。ここで損失は損害、または損害額としてもよい。
【0082】
次のステップS7において、リスク曲線作成部18が、停電パターンの確率と、損失評価部17で算出した損失とを用いてリスク曲線を作成する。
【0083】
次のステップS8において、出力部4が、評価結果を出力する。これにより、停電リスク評価方法が終了する。
【0084】
なお、上述した本実施形態のフローチャートでは、各ステップが直列的に実行される形態を例示している。しかし、本実施形態では、必ずしも各ステップの前後関係が固定されず、一部のステップの前後関係が入れ替わってもよい。また、一部のステップが他のステップと並行して実行されてもよい。
【0085】
また、本実施形態に係る停電リスク評価システム1は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。このシステムは、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0086】
また、本実施形態に係る停電リスク評価システム1で実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。
【0087】
また、本実施形態に係る停電リスク評価システム1で実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。また、このシステムは、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0088】
さらに、本実施形態では、電力システムの配電系統の事故により停電が生じる態様を例示しているが、その他の態様であってもよい。例えば、電力システムの上位系統の事故により生じる停電のリスクを評価してもよい。
【0089】
以上説明した実施形態によれば、電力システムをグラフやリストにより記述し、電力システムの停電確率を評価する停電確率評価部14と、電力供給率を評価する電力供給率評価部16と、を備えることによって、解析負荷を軽減しつつ、停電リスクを低減させるための合理的な対策の検討に資することができる。さらに、電力システムの構成機器の故障確率だけでなく、その機能喪失確率を定量的に算出し、停電リスクを評価することができる。また、需要家が自らの停電による損害を回避するために導入する対策設備の投資対効果、または妥当性を評価することができる。
【0090】
以上、実施形態を幾つか説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規なシステムは、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明したシステムの形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【符号の説明】
【0091】
1:停電リスク評価システム
2:メイン制御部
3:入力部
4:出力部
5:記憶部
6:通信部
7:系統構成データベース
8:機器データベース
9:災害ハザードデータベース
10:停電リスク評価部
11:需給バランス評価部
12:リスク曲線評価部
13:モデル作成部
14:停電確率評価部
15:モデル作成部
16:電力供給率評価部
17:損失評価部
18:リスク曲線作成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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