(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157413
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】レーザ溶接方法およびレーザ溶接システム
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20241030BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20241030BHJP
H02K 15/04 20060101ALI20241030BHJP
H02K 15/085 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
B23K26/21 L
B23K26/00 N
H02K15/04 A
H02K15/085
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071766
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隆三
(72)【発明者】
【氏名】小林 崇
(72)【発明者】
【氏名】江口 達
【テーマコード(参考)】
4E168
5H615
【Fターム(参考)】
4E168BA29
4E168BA73
4E168BA87
4E168BA88
4E168CB04
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA13
4E168DA37
4E168EA08
4E168EA17
4E168KA04
5H615AA01
5H615BB05
5H615PP14
5H615QQ03
5H615QQ12
5H615SS17
(57)【要約】
【課題】加工コスト上昇および導電率低下を防止しつつ、ブローホールを低減することができるレーザ溶接方法の提供。
【解決手段】加工対象に対してレーザ光を照射することにより溶接を行うレーザ溶接方法であって、加工対象に第1レーザ光LL1を照射して加工対象を溶融する第1の工程と、第1の工程により溶融した溶融領域に、第1レーザ光LL1と異なる第2レーザ光LL2を照射して、溶融領域の溶融量を維持する第2の工程と、を含む。そして、例えば、
図11に示すように、第1レーザ光LL1の照射開始から所定時間が経過したら、第1レーザ光LL1の出力を所定量だけ低下させ、第2レーザ光LL2の出力を第1レーザ光LL1の出力よりも小さく設定する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象に対してレーザ光を照射することにより溶接を行うレーザ溶接方法であって、
前記加工対象に第1レーザ光を照射して前記加工対象を溶融する第1の工程と、
前記第1の工程により溶融した溶融領域に、前記第1レーザ光と異なる第2レーザ光を照射して、前記溶融領域の溶融量を維持する第2の工程と、を含み、
(A)前記第1レーザ光の照射開始から所定時間が経過したら、前記第1レーザ光の出力を所定量だけ低下させ、前記第2レーザ光の出力を前記第1レーザ光の出力よりも小さく設定する、第1のレーザ光構成、
または、
(B)前記第1レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の第1波長を有し第1出力のレーザ光を含み、前記第2レーザ光は、前記第1波長を有し出力が前記第1出力よりも小さくおよび/またはデフォーカス状態のレーザ光を含む、第2のレーザ光構成、
を備える、レーザ溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接方法において、
前記第1レーザ光の出力を所定量だけ低下させる際には、照射時間の経過に伴って連続的に徐々に低下させる、レーザ溶接方法。
【請求項3】
請求項1に記載のレーザ溶接方法において、
前記加工対象は並置された複数の導体の導体端部であって、前記所定量の低下は複数段階で行われ、
前記複数段階の各段階におけるレーザ光照射においては、複数の前記導体端部の各々におけるレーザ光の走査は、往復走査の整数倍に設定される、レーザ溶接方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のレーザ溶接方法において、
前記第1のレーザ光構成における前記第1レーザ光は、前記第1波長を有し第2出力のレーザ光と、400[nm]以上かつ500[nm]以下の第2波長を有し前記第2出力よりも小さい第3出力のレーザ光とを含み、
前記第1のレーザ光構成における前記第2レーザ光は、前記第2波長を有し前記第3出力のレーザ光を含む、レーザ溶接方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のレーザ溶接方法において、
前記加工対象は並置された複数の導体の導体端部であって、
前記第1の工程および前記第2の工程においては、レーザ光を前記導体端部に個別に走査する、レーザ溶接方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のレーザ溶接方法において、
前記加工対象は並置された複数の導体の導体端部であって、
各導体端部に形成された各溶融領域が合流して一つの合併溶融領域が形成されるまでは、レーザ光を前記導体端部に個別に走査し、
前記合併溶融領域が形成された後は、前記導体端部の各々を跨ぐようにレーザ光を走査する、レーザ溶接方法。
【請求項7】
第1レーザ光を発生する第1レーザ光発生装置と、
前記第1レーザ光と異なる第2レーザ光を発生する第2レーザ光発生装置と、
前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を加工対象に照射する光学装置と、
前記第1レーザ光発生装置、前記第2レーザ光発生装置および前記光学装置の動作を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記加工対象に前記第1レーザ光を照射して前記加工対象を溶融させ、次いで、溶融した溶融領域に前記第2レーザ光を照射して前記溶融領域の溶融量を維持させるように、前記第1レーザ光発生装置、前記第2レーザ光発生装置および前記光学装置の動作を制御する、レーザ溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接方法およびレーザ溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機や電力変換装置などの電気機器は大電流を低い抵抗で流す必要があり、角線のような太い導線や導体板を使用し、これらを接合して使用している(例えば、特許文献1参照)。このような導線や導体板に酸素含有量が比較的多いタフピッチ銅などを用いた場合には、溶接部にブローホールが多く形成され、強度不足や電気抵抗の増加が問題となる。そこで、特許文献1に記載の溶接方法では、接合対象である導体を溶融しながらリンを含む溶加材(脱酸材)を付加することで、ブローホールを抑制した溶接を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、脱酸材を使用した接合では、接合のサイクルタイムが伸び、脱酸材の材料コストもかかってしまうため、加工コストの上昇を招く。また、脱酸材の影響で導電率の低下も招く。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によるレーザ溶接方法は、加工対象に対してレーザ光を照射することにより溶接を行うレーザ溶接方法であって、前記加工対象に第1レーザ光を照射して前記加工対象を溶融する第1の工程と、前記第1の工程により溶融した溶融領域に、前記第1レーザ光と異なる第2レーザ光を照射して、前記溶融領域の溶融量を維持する第2の工程と、を含み、(A)前記第1レーザ光の照射開始から所定時間が経過したら、前記第1レーザ光の出力を所定量だけ低下させ、前記第2レーザ光の出力を前記第1レーザ光の出力よりも小さく設定する第1のレーザ光構成、または、(B)前記第1レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の第1波長を有し第1出力のレーザ光を含み、前記第2レーザ光は、前記第1波長を有し出力が前記第1出力よりも小さくおよび/またはデフォーカス状態のレーザ光を含む、第2のレーザ光構成、を備える。
本発明の一態様によるレーザ溶接システムは、第1レーザ光を発生する第1レーザ光発生装置と、前記第1レーザ光と異なる第2レーザ光を発生する第2レーザ光発生装置と、前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を加工対象に照射する光学装置と、前記第1レーザ光発生装置、前記第2レーザ光発生装置および前記光学装置の動作を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記加工対象に前記第1レーザ光を照射して前記加工対象を溶融させ、次いで、溶融した溶融領域に前記第2レーザ光を照射して前記溶融領域の溶融量を維持させるように、前記第1レーザ光発生装置、前記第2レーザ光発生装置および前記光学装置の動作を制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、加工コスト上昇および導電率低下を防止しつつ、ブローホールを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本実施形態のレーザ溶接システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、レーザ溶接の加工対象の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態におけるレーザ溶接の制御を説明するフローチャートである。
【
図5】
図5は、溶融領域が形成された端部を導体側方から見た図である。
【
図7】
図7は、合併溶融領域が形成された端部を導体側方から見た図である。
【
図8】
図8は、レーザ光照射と溶融量およびブローホール量との関係を定性的に説明するグラフである。
【
図9】
図9は、ブローホールの大気放出を説明する図である。
【
図12】
図12は、複数段階で出力を低下させる例を示す図である。
【
図13】
図13は、連続的に出力を低下させる例を示す図である。
【
図15】
図15は、変形例4を説明するフローチャートである。
【
図16】
図16は、板材を重ね合わせて溶接する場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。また、以下の説明では、同一または類似の要素および処理には同一の符号を付し、重複説明を省略する場合がある。なお、以下に記載する内容はあくまでも本発明の実施の形態の一例を示すものであって、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、他の種々の形態でも実施をすることが可能である。
【0009】
図1は、本実施形態のレーザ溶接システム1の概略構成を示すブロック図である。レーザ溶接システム1は、第1のレーザ光発生装置10、第2のレーザ光発生装置11、光学装置12、制御装置13および光ファイバ14を備えている。レーザ光発生装置10,11はそれぞれレーザ発振器を備えている。レーザ光発生装置10は、波長が800[nm]以上かつ1200[nm]以下である第1波長レーザ光を発生する。レーザ光発生装置11は、波長が400[nm]以上かつ500[nm]以下である第2波長レーザ光を発生する。
【0010】
光ファイバ14は、レーザ光発生装置10,11から出力されたレーザ光を光学装置12に導く。光学装置12は、レーザ光発生装置10,11から入力されたレーザ光を加工対象15に向かって照射するための光学系である。図示しないが、光学装置12は、コリメートレンズ、集光レンズ、ミラー、フィルタ等を備えている。光学装置12は、加工対象15上でレーザ光を走査可能に構成されている。
【0011】
制御装置13は、レーザ光発生装置10,11および光学装置12の動作を制御する。制御装置13はCPU、メモリ(RAMおよびROM等)などを備え、メモリに格納されているプログラムをCPUで実行することによりレーザ溶接システム1の制御を行う。制御装置13は、レーザ光発生装置10,11に対してレーザ光の出力制御を行う。制御装置13は、光学装置12に対してレーザ光の焦点位置の制御や走査軌跡の制御を行う。
【0012】
上述した800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第1波長レーザ光は、一般的にIRレーザ光と呼ばれる波長領域のレーザ光である。また、400[nm]以上かつ500[nm]以下の波長の第2波長レーザ光は、BLUEレーザ光と呼ばれる波長領域のレーザ光である。第1波長レーザ光と第2波長レーザ光とを比較した場合、第1波長レーザ光はスポット径が小さく出力密度が高いが、加工対象15における吸収率が低い。一方、第2波長レーザ光は、スポット径が大きく出力密度が低いが、加工対象15における吸収率が高い。
【0013】
そのため、第1波長レーザ光と第2波長レーザ光とを含むレーザ光で加工対象を走査すると、走査経路上の領域は、スポット径の大きな第2波長レーザ光が照射された後に第1波長レーザ光が照射されることになる。すなわち、出力密度は低いが吸収率が高い第2波長レーザ光の後に出力密度の高い第1波長レーザ光が照射されることで、スパッタ及びブローホールの発生に関して改善を図ることができる。本実施形態では、第1波長レーザ光と第2波長レーザ光とを含むレーザ光を用いて加工対象15を溶融するとともに、後述するような溶接方法を採用することで、ブローホールの発生をさらに低減している。
【0014】
図2は、レーザ溶接の加工対象15の一例を示す図である。
図2は、モータのステータコア20に設けられたステータコイル21の一部を示す図である。ステータコア20は電磁鋼板を積層して構成される。ステータコア20には、複数のスロット200が形成されている。各スロット200にはステータコイル21が配設される。ステータコイル21は、複数のセグメントコイルを接続して形成されている。
図2に示す例では、ステータコイル21を構成する複数のセグメントコイルの内の、互いに接続された一対のセグメントコイル21A,21Bを示した。
【0015】
セグメントコイル21Aはスロット200aに挿入され、セグメントコイル21Bはスロット200bに挿入されている。セグメントコイル21Aの端部211aは、セグメントコイル21Bの端部211bと隣接するように並置される。端部211aおよび端部211bは、レーザ溶接により互いに接合される。レーザ光は、端部211aおよび端部211bの端面に照射される。
【0016】
ステータコイル21には、一般的に酸素含有率の低い無酸素銅が用いられる。コスト低減を図るために無酸素銅に代えてタフピッチ銅を用いた場合、特許文献1に記載されているように、溶接部にブローホールが多く形成されという問題があった。タフピッチ銅は、無酸素銅と比べて酸素含有量が多い。例えば、無酸素銅の場合には酸素の含有量は10ppm以下であるが、タフピッチ銅では300~500ppm程度の酸素が含まれている。タフピッチ銅が溶融した際に、含有する酸素が水素と結びついて生じる水蒸気がブローホール発生の原因と考えられる。本実施形態では、以下で説明するような方法でレーザ溶接を行うことで、ブローホールの発生を抑制するようにした。
【0017】
図3は、制御装置13によるレーザ溶接の制御を説明するフローチャートである。ステップS101では、制御装置13は、加工対象15に照射するレーザ光の照射条件を第1照射条件に設定する。実施形態における第1照射条件では、レーザ光発生装置10の第1波長レーザ光と、レーザ光発生装置11の第2波長レーザ光とを同時に照射する。さらに、第2波長レーザ光の出力は、後述するように、合併溶融領域S3の溶融量Mを所定の溶融量Mthに維持する出力に設定される。一方、第1波長レーザ光の出力は、第1波長レーザ光と上記出力の第2波長レーザ光とを照射したときに加工対象15(コイル導体)を溶融できる出力に設定される。例えば、第1波長レーザ光のみでコイル導体を溶融できる出力に設定する。以下では、第1照射条件のレーザ光を第1レーザ光LL1と称することにする。
【0018】
ステップS102では、
図4に示すような第1走査形態で第1レーザ光LL1をセグメントコイル21A,21Bの端部211a,211bの端面に照射する。
図4は第1走査形態を示す模式図であって、端部211a,211bの端面を上方から見た場合の図(上視図)を示す。矢印R1,R2は第1レーザ光LL1の走査軌跡を示している。
【0019】
第1走査形態では、まず、一方の端部211aの端面に対して、走査軌跡R1,R2で示すように第1レーザ光LL1のスポットを往復移動させる。これにより、端部211aの導体が溶けて溶融領域S1が形成される。次いで、他方の端部211bの端面を、走査軌跡R1,R2で示すように第1レーザ光LL1のスポットを往復移動させる。これにより、端部211bの導体が溶けて端部211bの端面に別の溶融領域S2が形成される。
【0020】
なお、端部211a,211bを交互に走査するパターンとしては、211a→211b→211a→211b・・・のように端部211a,211bを交互に1回ずつ往復走査しても良いし、211a→211a→211b→211b→211a→211a→211b→211b・・・のように複数回ずつ交互に往復走査しても良い。また、1回ずつと複数回ずつとを組み合わせても良い。
【0021】
図5は、溶融領域S1,S2が形成された端部211a,211bを導体側方から見た図である。端部211aの端面を第1レーザ光LL1で往復走査することにより、端部211aの一部が溶けて溶融領域S1が形成される。次いで、端部211bの端面を第1レーザ光LL1で往復走査することにより、端部211bの一部が溶けて溶融領域S2が形成される。各端部211a,211bへのレーザ光照射を繰り返すたび、溶融領域S1,S2の溶融量は増加する。端部211a,211bの溶融に伴ってブローホールBHが発生する。なお、本実施形態では、溶融領域に生じる気泡や溶接部に生じる気孔のことを、統一してブローホールと称することにする。
【0022】
図3に戻って、ステップS103では、制御装置13は、各端部211a,211bに対する第1走査形態(往復走査)における往復の走査回数N1が、予め設定した所定回数N1thに達したか否かを判定する。
図5に示す各溶融領域S1,S2の溶融量は走査回数N1の増加につれて増加し、互いに離れていた溶融領域S1,S2は合併して一つになる。二点鎖線で示す溶融領域S3は合併後の溶融領域を示しており、以下では、合併溶融領域S3と称することにする。合併溶融領域S3は、端部211aの端面と端部211bの端面とに跨って形成される。
【0023】
ステップS103における所定回数N1は、各端部211a,211bに形成された各溶融領域S1,S2の溶融量が増加し、溶融領域S1,S2が合併して一つの合併溶融領域S3となるタイミングを考慮して設定される。すなわち、所定回数N1thは、所定回数N1thだけ往復走査を行った場合に必ず合併溶融領域S3が形成されるという回数に設定される。
【0024】
各端部211a,211bに対する走査回数が所定回数N1thに達するまではステップS103の処理が繰り返され、ステップS103でN1≧N1thと判定されるとステップS104へ進む。ステップS104では、合併溶融領域S3の全体に対して、
図6に示すような第2走査形態で第1レーザ光LL1を照射する。第2走査形態では、破線R3で示すような円形の走査軌跡で、隣接する端部211a,211bの境界を跨ぐように第1レーザ光LL1を各端部211a,211bに照射する。第1レーザ光LL1の照射に伴って、合併溶融領域S3の溶融量は増加する。
図7は、合併溶融領域S3が形成された端部211a,211bを導体側方から見た図である。合併溶融領域S3の溶融量Mの増加に伴って、生じるブローホールBHの量も増加する。
【0025】
図3のステップS105では、制御装置13は、第2走査形態による走査回数N2が所定回数N2thに達したか否かを判定する。この場合の所定回数N2thは、合併溶融領域S3の溶融量Mが所定の溶融量Mthに達する回数に設定される。走査回数N2が所定回数N2thとなるまではステップS105の処理が繰り返され、ステップS105でN2≧N2thと判定されるとステップS106に進む。
【0026】
ステップS106では、制御装置13は、照射するレーザ光の照射条件を第1照射条件から第2照射条件へ設定変更する。なお、走査形態については第2走査形態を継続する。実施形態における第2照射条件では、レーザ光発生装置10の第1波長レーザ光を停止し、レーザ光発生装置11の第2波長レーザ光のみによる照射を行う。なお、第2波長レーザ光の出力は、第1照射条件の場合と同一(合併溶融領域S3の溶融量Mを所定の溶融量Mthに維持する出力)に設定される。以下では、第2照射条件のレーザ光を第2レーザ光LL2と称することにする。
【0027】
ここで、合併溶融領域S3を維持する出力とは、第2レーザ光LL2を
図6に示す第2走査形態で合併溶融領域S3を照射した場合に、合併溶融領域S3の溶融量Mが増えないで維持される出力に相当する。この場合、各端部211a,211bの新たな溶融は生じず、合併溶融領域S3の溶融量Mは所定の溶融量Mthに維持される。
【0028】
ステップS107では、制御装置13は、第2レーザ光LL2による走査回数N3が所定回数N3thに達したか否かを判定する。そして、走査回数N3が所定回数N3thに達するまではステップS107の処理が繰り返され、ステップS107でN3≧N3thと判定されるとステップS108へ進む。ステップS108では、第2レーザ光LL2の照射を停止してレーザ溶接の終了処理を実行し、一連のレーザ溶接処理を終了する。
【0029】
図8は、レーザ光照射と溶融量およびブローホール量との関係を定性的に説明するグラフである。図示上側のグラフは溶融量Mおよびブローホール量Vbの時間的推移を示し、図示下側のグラフはレーザ光の出力Wの時間的推移を示す。時刻t=0から時刻t2までは第1レーザ光LL1による照射が行われ、時刻t2からは時刻t3までは第2レーザ光LL2による照射が行われる。第1レーザ光LL1は、出力W1の第1波長レーザ光IRと出力W2の第2波長レーザ光Buとを含む。一方、第2レーザ光LL2には、出力W2の第2波長レーザ光Buのみが含まれる。
【0030】
ラインL1は溶融量Mを示し、ラインL2は推定されるブローホール量Vbを示している。溶融量Mを示すラインL1は、時刻t1において傾きが変化(増加)している。これは、端部211a,211bの端面のほぼ全面に溶融領域が拡がり、加工対象のレーザ光吸収率が大きくなったことによるものと考えられる。時刻t2に照射されるレーザ光が第1レーザ光LL1から第2レーザ光LL2に切り替えられると、溶融量Mの増加は止まって所定の溶融量Mthに維持される。
【0031】
溶融領域に含まれるブローホールBHの量(ブローホール量Vb)は、導体が新たに溶融する量M依存して増加すると考えられる。そのため、溶融量Mが増加している溶接開始からほぼ時刻t2までは、ブローホール量Vbが時間経過と共に増加する。一方、照射されるレーザ光が第1レーザ光LL1から第2レーザ光LL2に切り替わると、溶融領域(合併溶融領域S3)には出力W2の第2波長レーザ光Buのみが照射されることになる。第2波長レーザ光Buはスポット径が大きく出力密度が低いので、導体の新たな溶融が生じず、溶融領域の溶融状態を維持するように作用する。
【0032】
導体の新たな溶融が生じず溶融量Mが一定に維持される状態においては、ブローホールBHは新たに発生しない。一方、溶融領域(合併溶融領域S3)に既に存在するブローホールBHは、
図9に示すように浮力によって合併溶融領域S3の表面方向に移動する。そして、合併溶融領域S3の表面に達したブローホールBHは、合併溶融領域S3の表面から大気中に放出される。溶融量Mが一定に維持されている状態において、このようなブローホールBHの大気への放出が行われることにより、
図8のラインL2に示すように合併溶融領域S3のブローホール量Vbが減少する。第2レーザ光LL2の照射時間、すなわち、溶融量Mが一定(Mth)に維持される時間は、ブローホールBHの放出速度に応じて設定される。
【0033】
上述のように、本実施形態では、第2レーザ光LL2を溶融領域に照射して溶融量Mを維持し、ブローホールBHの大気への放出を促すことにより、合併溶融領域S3内のブローホールBHを低減するようにした。その結果、端部211a,211bの溶接部に残留するブローホールBHの量(ブローホール量Vb)を従来よりも低減することができ、溶接部の接合強度の向上図ることができる。また、特許文献1に記載の技術のように脱酸材を用いていないので、加工コストの上昇や導電率低下を防止することができる。
【0034】
上述した実施形態では、第1レーザ光LL1は、波長が800[nm]以上かつ1200[nm]以下の第1波長レーザ光IRと、波長が400[nm]以上かつ500[nm]以下の第2波長レーザ光Buとを含み、第2レーザ光LL2は第2波長レーザ光Buのみで構成されるレーザ光とした。しかし、第1レーザ光LL1および第2レーザ光LL2の構成は、これらに限定されるものではない。以下では、他の例(変形例1~4)について説明する。なお、変形例1~3では、
図3に示したような制御に関するフローチャートについては省略するが、変形例の内容に応じて照射条件等を適宜変更すれば良い。
【0035】
(変形例1)
図10は、変形例1における第1レーザ光LL1および第2レーザ光LL2を説明する図である。変形例1では、第2レーザ光LL2も第1波長レーザ光IRと第2波長レーザ光Buとを含む構成とした。そして、第1レーザ光LL1では第1波長レーザ光IRの出力をW1とし、第2レーザ光LL2では第1波長レーザ光IRの出力をW11(<W1)とする。また、第2レーザ光LL2に出力W11の第1波長レーザ光IRを含ませるようにしたので、第2波長レーザ光Buの出力をW21(<W2)と設定する。このように設定することで、第2レーザ光LL2のトータルの出力を、合併溶融領域S3の溶融量Mを所定の溶融量Mthに維持させる出力とすることができる。溶融領域の深い位置にブローホールが発生した場合、第2波長レーザ光Buだけでは溶融領域深部への入熱が不十分で、ブローホールが放出される前に固化してしまう。そのため、新たなブローホールを発生させない程度(出力W11)まで第1波長レーザ光IRの出力を低下させて照射することで、深い位置での溶融状態を保持してブローホールを放出することができる。
【0036】
また、第2レーザ光LL2において第1波長レーザ光IRの出力を低下させる代わりに、第1波長レーザ光IRをデフォーカス状態で照射するようにしても良い。デフォーカス状態とすることで第1波長レーザ光IRのスポット径が拡がり、出力密度が低下する。そのため、第1波長レーザ光IRによる導体の新たな溶融を防止しつつエネルギーを投入することができる。なお、第1波長レーザ光IRだけでなく、第2波長レーザ光Buも同時にデフォーカスしても良い。
【0037】
また、第2レーザ光LL2において、第1波長レーザ光IRの出力を低下させるとともにデフォーカス状態としても良い。さらにまた、第2レーザ光LL2に含まれる第2波長レーザ光Buの出力に関しても、第1レーザ光LL1に含まれる第2波長レーザ光Buの出力よりも低下させるようにしても良い。
【0038】
(変形例2)
図11は、変形例2における第1レーザ光LL1および第2レーザ光LL2を説明する図である。変形例2では、上述した変形例1(
図10)の第1レーザ光LL1において、それに含まれる第1波長レーザ光IRの出力を、時刻t1において出力W1からW12(W1>W12>W11)へと所定量ΔWだけ低下させるようにした。その他の構成は上述した変形例1の場合と同様である。
【0039】
加工対象である銅の温度が上昇するに従ってレーザ光の吸収率が上昇することや、銅が固体から溶融状態へ変化する際にステップ状に吸収率が上昇することが知られている。時刻t1はレーザ光の吸収率の上昇に合わせて設定されたタイミングであり、このタイミングに合わせて第1レーザ光LL1に含まれる第1波長レーザ光IRの出力をW1からW12に低下させる。レーザ光の吸収率が上昇すると第1レーザ光LL1による溶融が急増する。そのため、変形例2ではそのような溶融の急増によるブローホールの急増を抑制するために、第1レーザ光LL1の出力を所定量ΔWだけ低下させるようにした。
【0040】
図11では、第1レーザ光LL1の出力を1段階で所定量ΔWだけ低下させたが、
図12に示すように、ΔW/2ずつ2段階で低下させるようにしても良い。もちろん、3段階以上であっても良い。さらには、
図13に示すように、第1レーザ光LL1の出力を連続的に滑らかに所定量ΔWだけ低下させるようにしても良い。その結果、吸収率の変化に対して、第1レーザ光LL1の出力をより適切に追従させることができ、ブローホールの発生抑制をより効果的に行うことができる。
【0041】
第1レーザ光LL1の出力を
図11や
図12のように段階的に低下させる場合には、
図4に示す端部211aに対する往復移動の照射(往復走査)と端部211bに対する往復移動の照射(往復走査)とを合わせた1周期の照射を1単位とし、n単位(n=1,2,3,・・・)毎に出力を低下させる。このように周期単位で出力を低下させることで、各端部の溶融状態を均等状態にすることができる。
【0042】
なお、実施形態の
図8に関しても、
図10に対する
図11~13の場合と同様に、時刻t1において、第1レーザ光LL1に含まれる第1波長レーザ光IRの出力を段階的にまたは連続的にW1からW12に低下させるようにしても良い。
【0043】
(変形例3)
図14は、変形例3における第1レーザ光LL1および第2レーザ光LL2を説明する図である。変形例3では、第1レーザ光LL1および第2レーザ光LL2のそれぞれを、第1波長レーザ光IRのみで構成する。第1レーザ光LL1における第1波長レーザ光IRの出力はW13とする。出力W13は、
図8に示す出力W1と同じでも良く、また、若干高く設定しても良い。第2レーザ光LL2における第1波長レーザ光IRの出力はW14とする。かつ、第1波長レーザ光IRをデフォーカス状態にしてスポット径を大きくして、第1波長レーザ光IRの出力密度を低下させる。
【0044】
このように、変形例3では、第2レーザ光LL2は第1波長レーザ光IRのみで構成されるが、出力を低下させ、かつ、デフォーカスして出力密度も低下させることで、合併溶融領域S3の溶融量Mを一定に維持するようにした。なお、第2レーザ光LL2の第1波長レーザ光IRについては、出力を低下させるだけの構成であっても良いし、デフォーカス状態にするだけでも良い。また、
図14の変形例3においても、
図10に対する
図11~13の場合と同様に、時刻t1において、第1レーザ光LL1に含まれる第1波長レーザ光IRの出力を段階的にまたは連続的にW1からW12に低下させるようにしても良い。
【0045】
(変形例4)
図15は、変形例4を説明するフローチャートである。
図15のフローチャートは、
図3のフローチャートにおいてステップS103、ステップS104およびステップS105を削除し、かつ、ステップS113を追加したものである。ステップS113以外のステップの処理は、
図3の同一符号のステップの処理と同様である。以下では、ステップS113以降のステップについて主に説明する。
【0046】
ステップS102においては、前述したように、セグメントコイル21A,21Bの端部211a,211bの端面に対して、第1走査形態による第1レーザ光LL1の照射を開始する。
図5に示す各溶融領域S1,S2の溶融量は、走査回数N1の増加につれて増加する。そして、互いに離れていた溶融領域S1,S2は合併して一つになり、端部211aの端面と端部211bの端面とに跨った合併溶融領域S3となる。
【0047】
ステップS113では、制御装置13は、第1走査形態による走査回数N1が所定回数Nth1に達したか否かを判定する。この所定回数Nth1は、合併溶融領域S3の溶融量Mが所定の溶融量Mthに達する回数に設定される。走査回数N1が所定回数Nth1となるまではステップS113の処理が繰り返され、ステップS113でN1≧Nth1と判定されるとステップS106へ進む。
【0048】
ステップS106では、制御装置13は、照射するレーザ光の照射条件を第1照射条件(第1レーザ光LL1)から第2照射条件(第2レーザ光LL2)へ設定変更する。なお、走査形態については第1走査形態を継続する。ステップS107では、第2レーザ光LL2による走査回数N3が所定回数N3thに達したか否かを判定し、N3≧N3thと判定されるとステップS108へ進む。ステップS108では、第2レーザ光LL2の照射を停止してレーザ溶接の終了処理を実行し、一連のレーザ溶接処理を終了する。
【0049】
図3に示したレーザ光の走査制御では、溶融領域が合併溶融領域S3になったならば往復走査(第1走査形態)から円軌道の走査(第2走査形態)に切り替えていた。一方、変形例4では、走査形態の切り替えを必要としないので、走査制御がより簡単になる。
【0050】
なお、上述した実施形態では、モータのステータコイルを接合する場合を例にレーザ溶接を説明したが、本発明のレーザ溶接方法は、ステータコイルの接合に限らず種々の加工対象の溶接に適用することができる。例えば、
図16に示すように板材30a,30bを重ね合わせて溶接する場合にも適用することができる。先ず、第1レーザ光LL1を照射して板材30aと板材30bとに跨る溶融領域S4を形成する。次いで、第2レーザ光LL2を溶融領域S4に照射して溶融量を一定に維持する。この溶融量を維持する期間において、溶融領域S4内のブローホールBHが大気に放出され、溶接部のブローホール低減を図ることができる。
【0051】
以上説明した本発明の実施形態および変形例によれば、以下の作用効果を奏する。
【0052】
(1)
図5,7,11~14等に示すように、レーザ溶接方法は、加工対象である端部211a,211bに第1レーザ光LL1を照射して端部211a,211bを溶融する第1の工程と、第1の工程により溶融した溶融領域(合併溶融領域S3)に、第1レーザ光LL1と照射条件が異なる第2レーザ光LL2を照射して、合併溶融領域S3の溶融量を維持する第2の工程と、を含む。
【0053】
レーザ光構成としては、下記の第1のレーザ光構成(A)または第2のレーザ光構成(B)を備える。第1のレーザ光構成(A)では、例えば
図11~13に示すように、第1レーザ光LL1の照射開始から所定時間が経過したら、第1レーザ光LL1の出力を所定量だけ低下させ、第2レーザ光LL2の出力を第1レーザ光LL1の出力よりも小さく設定する。第2のレーザ光構成(B)では、
図14に示すように、第1レーザ光LL1は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の第1波長を有し出力W13の第1波長レーザ光IRを含み、第2レーザ光LL2は、第1波長を有し出力が出力W13よりも小さくおよび/またはデフォーカス状態の第1波長レーザ光IRを含む。
【0054】
このように、第2の工程では、合併溶融領域S3の溶融量が維持されるので、溶融に伴って生じるブローホールの新たなる発生を止めることができる。そして、溶融領域内のブローホールは、浮力により溶融領域の表面方向に移動し、溶融領域の表面から大気へと放出される。その結果、溶融領域内のブローホールが減少して溶接部のブローホール残留が低減され、溶接部の接合強度の向上を図ることができる。また、脱酸材を使用しないのでコスト上昇や導電率低下を抑えることができる。
【0055】
(2)また、
図4~7等に示すように、加工対象は並置された複数の導体(セグメントコイル21A,21B)の導体端部(端部211a,211b)であって、各端部211a,211bに形成された各溶融領域S1,S2が合流して一つの合併溶融領域S3が形成されるまでは、
図4に示すようにレーザ光を端部211a,211bに個別に走査し、合併溶融領域S3が形成された後は、
図6に示すように端部211a,211bの各々を跨ぐようにレーザ光を走査する。
【0056】
モータのステータコイル等の導体には、表面にエナメル等の被覆が施されている。そのため、端部211a,211bの端面にレーザ光を照射して溶接する場合、端部211a,211bの両方に跨るようにレーザ光を走査すると、レーザ光照射により被覆が損傷し悪影響を及ぼす。
【0057】
上述のように、各端面に形成される溶融領域S1,S2が合併するまでは、
図4に示すようにレーザ光を端部211a,211bに個別に照射することで、レーザ光が被覆に照射されるのを防止することができる。一方、合併溶融領域S3が形成されると、端部211a,211bの境界領域の被覆が合併溶融領域S3により覆われるので、
図6に示すように端部211a,211bの各々を跨ぐようにレーザ光を走査しても、被覆にレーザ光が照射されるおそれがない。その結果、レーザ光による被覆の損傷を防止することができる。
【0058】
以上説明した各種の実施の形態や変形例はあくまでも一例であり、発明の特徴を損なわない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1…レーザ溶接システム、10,11…レーザ光発生装置、12…光学装置、13…制御装置、14…光ファイバ、15…加工対象、20…ステータコア、21…ステータコイル、21A,21B…セグメントコイル、30a,30b…板材、200a,200b…スロット、211a,211b…端部、BH…ブローホール、Bu…第2波長レーザ光、IR…第1波長レーザ光、LL1…第1レーザ光、LL2…第2レーザ光、R1,R2,R3…走査軌跡、S1,S2,S4…溶融領域、S3…合併溶融領域