IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人 関西大学の特許一覧

特開2024-157421多分岐型のフェノール樹脂およびその製造方法
<>
  • 特開-多分岐型のフェノール樹脂およびその製造方法 図1
  • 特開-多分岐型のフェノール樹脂およびその製造方法 図2
  • 特開-多分岐型のフェノール樹脂およびその製造方法 図3
  • 特開-多分岐型のフェノール樹脂およびその製造方法 図4
  • 特開-多分岐型のフェノール樹脂およびその製造方法 図5
  • 特開-多分岐型のフェノール樹脂およびその製造方法 図6
  • 特開-多分岐型のフェノール樹脂およびその製造方法 図7
  • 特開-多分岐型のフェノール樹脂およびその製造方法 図8
  • 特開-多分岐型のフェノール樹脂およびその製造方法 図9
  • 特開-多分岐型のフェノール樹脂およびその製造方法 図10
  • 特開-多分岐型のフェノール樹脂およびその製造方法 図11
  • 特開-多分岐型のフェノール樹脂およびその製造方法 図12
  • 特開-多分岐型のフェノール樹脂およびその製造方法 図13
  • 特開-多分岐型のフェノール樹脂およびその製造方法 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157421
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】多分岐型のフェノール樹脂およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 8/04 20060101AFI20241030BHJP
   C08G 8/20 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C08G8/04
C08G8/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071782
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】工藤 宏人
【テーマコード(参考)】
4J033
【Fターム(参考)】
4J033CA05
4J033CA13
4J033CA14
4J033CB03
4J033CB25
4J033CC03
4J033CD05
4J033HA02
4J033HA09
4J033HA13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐熱性により優れ、かつ、一般的な有機溶媒に溶解し、成膜性に優れるフェノール樹脂を提供すること。
【解決手段】以下の化学式(1)で表される繰り返し単位を備える、多分岐型のフェノール樹脂。

(Rは、水素、水酸基またはアルコキシ基であり、RおよびRは、それぞれ、水素、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基または水酸基であり、Rは、芳香族基である。)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学式(1)で表される繰り返し単位を備える、多分岐型のフェノール樹脂。
【化1】
(化学式(1)中、Rは、水素、水酸基(OH)およびアルコキシ基からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
は、水素、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基および水酸基(OH)からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
は、水素、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基および水酸基(OH)からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
但し、化学式(1)中、あるベンゼン環におけるRが水素である場合、同一のベンゼン環におけるRは水酸基(OH)またはアルコキシ基であり、同一のベンゼン環におけるRは、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基およびヒドロキシアルキル基からなる群から選択される。
化学式(1)中、Rは、芳香族基である。
但し、Rの1つのベンゼン環にフェノール類に由来する2つの部位が結合している場合、前記1つのベンゼン環のオルト位またはパラ位にて、前記フェノール類に由来する2つの部位が結合している。)
【請求項2】
数平均分子量(Mn)が、1000以上、7000以下である、請求項1に記載の多分岐型のフェノール樹脂。
【請求項3】
重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布の値が、1.00以上、10.00以下である、請求項1に記載の多分岐型のフェノール樹脂。
【請求項4】
熱分解温度(T 5wt%)が、220℃以上、360℃以下である、請求項1に記載の多分岐型のフェノール樹脂。
(ここで、熱分解温度(T 5wt%)は、前記多分岐型のフェノール樹脂を昇温させた場合の重量減少が、加熱前の前記多分岐型のフェノール樹脂の重量に対して5重量%に到達する際の前記多分岐型のフェノール樹脂の温度を意味する。)
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法であって、
以下の化学式(2)で表されるフェノール類と、以下の化学式(3)で表されるジアルデヒド化合物とを、前記フェノール類のモル数と、前記ジアルデヒド化合物のモル数との比率を、前記ジアルデヒド化合物のモル数を1としたとき、a:1(aは0.1以上10以下の実数)として、溶媒中、酸触媒の存在下で、反応温度:80℃以上、および反応時間:3時間以上の条件下で、付加縮合反応させる工程を含む、多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法。
【化2】
H-C(=O)-R-C(=O)-H・・・(3)
(化学式(2)中、Rは、水素、水酸基(OH)およびアルコキシ基からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
は、水素、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基および水酸基(OH)からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
は、水素、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基および水酸基(OH)からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
但し、化学式(2)中、Rが水素である場合、Rは水酸基(OH)またはアルコキシ基であり、Rは、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基およびヒドロキシアルキル基からなる群から選択される。
化学式(3)中、Rは、芳香族基である。
但し、Rの1つのベンゼン環に2つのアルデヒド基(C(=O)-H)が結合している場合、前記1つのベンゼン環のオルト位またはパラ位にて、前記2つのアルデヒド基が結合している。)
【請求項6】
前記付加縮合反応させる工程において、前記フェノール類のモル数と、前記ジアルデヒド化合物のモル数との比率について、前記aが3以上5以下の実数である、請求項5に記載の多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法。
【請求項7】
前記付加縮合反応させる工程において、前記反応温度が100℃以上である、請求項5に記載の多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法。
【請求項8】
前記付加縮合反応させる工程において、前記反応時間が、24時間以上である、請求項5に記載の多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法。
【請求項9】
前記付加縮合反応させる工程において、前記酸触媒が、塩酸、リン酸、硫酸、パラ‐トルエンスルホン酸、クエン酸、トリフルオロ酢酸およびトリフルオロメタンスルホン酸からなる群から1種以上選択される、請求項5に記載の多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法。
【請求項10】
前記付加縮合反応させる工程において、前記溶媒が、エタノール、クロロメタン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、および1-プロパノールからなる群から1種以上選択される、請求項5に記載の多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多分岐型のフェノール樹脂およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界初の工業的に合成される人工高分子として、1911年に、フェノールとアルデヒド化合物から合成される、ベークライトと呼称される1種のフェノール樹脂が開発された。それ以来、フェノール類とアルデヒド化合物とを原料とする種々のフェノール樹脂の開発が進められている。前記フェノール樹脂は、耐熱性および難燃性等の種々の優れた特性を備えている。
【0003】
前記ベークライトの製造時には、フェノールとアルデヒド化合物との反応において、副生成物として、Calixareneと呼称される環状化合物が生成する。前記Calixareneは、2つの異性体を持ち、前記反応が進行することに伴い、分子内の共有結合が解離と再結合とを繰り返しながら、前記2つの異性体のうち、より熱的に安定な異性体に収束していく。その結果、前記Calixareneとして、より熱的に安定な異性体が選択的に製造される。
【0004】
前述の共有結合のような、解離と再結合とを繰り返す共有結合の化学は「動的共有結合化学(DCC)」と呼称される。前記DCCを利用することにより、より熱的に安定な化合物(熱力学的主生成物)を、選択的に高い収率で製造することができることが知られている。
【0005】
本発明者らは、近年、前記DCCを利用して、フェノール類と特定のジアルデヒド化合物とを、特定の条件の下、付加縮合反応させ、大環状化合物であるフェノール樹脂を選択的に製造できることを見出している(非特許文献1~5を参照)。前記大環状化合物は、3次元架橋構造を備える一般的なフェノール樹脂とは異なる構造を備える新規なフェノール樹脂である。具体的には、非特許文献1および5には、Noriaと呼称される前記大環状化合物が記載され、非特許文献2~5には、Triple-ringed[14]areneと呼称される前記大環状化合物が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Angew.Chem.Int.Ed.2006,45, P7948-7952
【非特許文献2】Macromolecules 2008,41, P2030-2036
【非特許文献3】Chemistry Letters Vol.38,No.12(2009), P1198-1199
【非特許文献4】Chem. Lett. 2012, 41, P699-701
【非特許文献5】Chem. Lett. 2021, 50, P825-831
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の種々のフェノール樹脂は、前記大環状化合物を含めて、耐熱性および難燃性等の優れた特性を備える一方で、一般的な有機溶媒には不溶である。そのため、前記フェノール樹脂には、膜を形成することが困難であり、成膜性に劣るという問題が存在する。また、最近は、より優れた耐熱性および難燃性を備える樹脂に対する需要が高まっている。しかしながら、前述の種々のフェノール樹脂は、耐熱性および難燃性に改善の余地があった。
【0008】
本発明の一態様は、前記問題点を解決するための発明であり、より優れた耐熱性および難燃性を備え、かつ、一般的な有機溶媒に可溶であり、成膜性に優れるフェノール樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは、特定のフェノール類と特定のジアルデヒド化合物とを原料として、両者を、特定の条件の下で付加縮合反応させた。本発明者らは、これによって、一般的な有機溶媒に可溶な、多分岐型のフェノール樹脂を、前記DCCを利用して選択的に製造できることを見出し、本発明に想到した。
【0010】
すなわち、本発明の一態様は、以下の化学式(1)で表される繰り返し単位を備える、多分岐型のフェノール樹脂である。
【0011】
【化1】
【0012】
(化学式(1)中、Rは、水素、水酸基(OH)およびアルコキシ基からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
は、水素、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基および水酸基(OH)からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
は、水素、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基および水酸基(OH)からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
但し、化学式(1)中、あるベンゼン環におけるRが水素である場合、同一のベンゼン環におけるRは水酸基(OH)またはアルコキシ基であり、同一のベンゼン環におけるRは、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基およびヒドロキシアルキル基からなる群から選択される。
化学式(1)中、Rは、芳香族基である。
但し、Rの1つのベンゼン環にフェノール類に由来する2つの部位が結合している場合、前記1つのベンゼン環のオルト位またはパラ位にて、前記フェノール類に由来する2つの部位が結合している。)
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、より優れた耐熱性および難燃性を備え、かつ、一般的な有機溶媒に可溶であり、成膜性に優れるフェノール樹脂を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る多分岐型のフェノール樹脂の製造方法における付加縮合反応の反応機構を表す図面である。
図2】実施例1~4に記載の多分岐型のフェノール樹脂を対象とするゲル透過型クロマトグラフィー(GPC)の測定結果を表す図面である。
図3】実施例5~11に記載の多分岐型のフェノール樹脂を対象とするGPCの測定結果を表す図面である。
図4】実施例12~15に記載の多分岐型のフェノール樹脂を対象とするGPCの測定結果を表す図面である。
図5】実施例16~18に記載の多分岐型のフェノール樹脂の収率、分子量(数平均分子量(Mn))、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))および熱分解温度T 5wt%を表す図面である。
図6】実施例19~23に記載の多分岐型のフェノール樹脂の収率、分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)および熱分解温度T 5wt%を表す図面である。
図7】実施例24~28に記載の多分岐型のフェノール樹脂の収率、分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)および熱分解温度T 5wt%を表す図面である。
図8】実施例29~33に記載の多分岐型のフェノール樹脂の収率、分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)および熱分解温度T 5wt%を表す図面である。
図9】実施例34~38に記載の多分岐型のフェノール樹脂の収率、分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)および熱分解温度T 5wt%を表す図面である。
図10】実施例39~43に記載の多分岐型のフェノール樹脂の収率、分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)および熱分解温度T 5wt%を表す図面である。
図11】実施例44に記載の多分岐型のフェノール樹脂を対象としたGPCの測定結果を表す図面である。
図12】実施例44に記載の多分岐型のフェノール樹脂を対象とした熱重量分析(TGA)の測定結果を表す図面である。
図13】実施例44に記載の多分岐型のフェノール樹脂を対象とした赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)の測定結果を表す図面である。
図14】実施例44に記載の多分岐型のフェノール樹脂を対象としたHNMRスペクトルの測定結果を表す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能である。例えば、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0016】
〔1.多分岐型のフェノール樹脂〕
本発明の一実施形態に係る多分岐型のフェノール樹脂(以下、「本発明のフェノール樹脂」とも称する)は、以下の化学式(1)で表される繰り返し単位を備える。
【0017】
【化2】
【0018】
(化学式(1)中、Rは、水素、水酸基(OH)およびアルコキシ基からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
は、水素、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基および水酸基(OH)からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
は、水素、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基および水酸基(OH)からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
但し、化学式(1)中、あるベンゼン環におけるRが水素である場合、同一のベンゼン環におけるRは水酸基(OH)またはアルコキシ基であり、同一のベンゼン環におけるRは、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基およびヒドロキシアルキル基からなる群から選択される。
化学式(1)中、Rは、芳香族基である。
但し、Rの1つのベンゼン環にフェノール類に由来する2つの部位が結合している場合、前記1つのベンゼン環のオルト位またはパラ位にて、前記フェノール類に由来する2つの部位が結合している。)
また、本発明のフェノール樹脂を構成する、前記化学式(1)で表される繰り返し単位は、1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。
【0019】
前記化学式(1)におけるR~Rは、好ましくは、後述の〔2.多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法〕の欄に記載の好ましいフェノール類および好ましいジアルデヒド化合物におけるR~Rと同一である。言い換えると、本発明のフェノール樹脂は、好ましくは、前記好ましいフェノール類および前記好ましいジアルデヒド化合物を原料として、後述の〔2.多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法〕の欄に記載の製造方法によって製造されるフェノール樹脂である。
【0020】
本発明のフェノール樹脂は、詳細には、後述の〔2.多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法〕の欄に記載のフェノール類に由来する部分2つと、前記欄に記載のジアルデヒド化合物に由来する部分1つとから構成される繰り返し単位を備える。
【0021】
本発明のフェノール樹脂は、多分岐型の構造を備える。ここで、「多分岐型の構造を備える」とは、分岐度が0.2以上であることを意味する。前記分岐度は、好ましくは、0.3以上であり、より好ましくは、0.4以上である。前記分岐度は、前記フェノール樹脂を対象とするHNMRスペクトルに基づき、当業者にとって既知の方法によって算出される。
【0022】
本発明のフェノール樹脂は、多分岐型の構造を備えることによって、優れた溶解性および優れた成膜性を有する。本発明のフェノール樹脂は、一般の有機溶媒に可溶となっている。言い換えると、後述の〔2.多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法〕の欄に記載された、一般の有機溶媒に可溶であるフェノール樹脂は、多分岐型の構造を備える本発明のフェノール樹脂に該当するといえる。当該フェノール樹脂は、前記欄に記載された化学式(2)で表されるフェノール類と化学式(3)で表されたジアルデヒド化合物との付加縮合反応によって得られる。なお、前記一般の有機溶媒は、特に限定されず、具体例として、メタノール、エタノール等のアルコール類、酢酸、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、等を挙げることができる。また、本発明のフェノール樹脂は、多分岐型の構造を備えるため、前述した種々のフェノール樹脂よりも優れた耐熱性および難燃性を備えている。
【0023】
本発明のフェノール樹脂は、原料であるフェノール類およびジアルデヒド化合物が同一であり、かつ、3次元架橋構造を備える高分子または大環状化合物よりも、熱的に安定している。よって、本発明のフェノール樹脂は、後述の多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法によって、前記DCCを利用して、選択的に製造され得る。
【0024】
本発明のフェノール樹脂1分子を構成する繰り返し単位全体のうち、前記化学式(1)で表される繰り返し単位が占める割合は30%以上であることが好ましい。また、前記割合は、50%以上、70%以上、80%以上、または90%以上であることがさらに好ましく、100%であることが特に好ましい。前記繰り返し単位が占める割合が100%であるとは、本発明のフェノール樹脂1分子を構成する繰り返し単位全てが、前記繰り返し単位であることを意味する。
【0025】
本発明のフェノール樹脂の数平均分子量(Mn)の下限値は、好ましくは、1000以上であり、より好ましくは、3000以上であり、さらに好ましくは、5000以上である。前記数平均分子量(Mn)が1000以上であることにより、本発明のフェノール樹脂は、より良好な耐熱性を備えることができる。
【0026】
本発明のフェノール樹脂の数平均分子量(Mn)の上限値は、好ましくは、7000以下であり、より好ましくは、6000以下であり、さらに好ましくは、5500以下である。前記数平均分子量(Mn)が7000以下であることにより、本発明のフェノール樹脂は、一般的な有機溶媒に対するより良好な溶解性を備えることができる。前記数平均分子量(Mn)は、後述の実施例の欄に記載の方法によって測定される。
【0027】
本発明のフェノール樹脂の分子量分布の値の下限値は、1.00以上であり、好ましくは、1.10以上であり、より好ましくは、1.20以上であり、さらに好ましくは、1.30以上である。前記分子量分布の値が1.00以上であることにより、本発明のフェノール樹脂は、より一層高分子の効果を奏することができる。なお、前記「高分子の効果を奏する」とは、例えば、多分散度が高くなり、耐熱性が向上することを意味する。
【0028】
本発明のフェノール樹脂の分子量分布の値の上限値は、好ましくは、10.00以下であり、より好ましくは、8.00以下であり、さらに好ましくは、3.00以下である。前記分子量分布の値は、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される。前記重量平均分子量(Mw)は、後述の実施例の欄に記載の方法によって測定され、前記分子量分布の値は、後述の実施例の欄に記載の方法によって算出される。
【0029】
前記分子量分布の値が10.00以下である場合、本発明のフェノール樹脂を構成する分子が、特定の分子量を有する分子に一層収束している。ここで、本発明のフェノール樹脂は、DCCを利用して製造される。よって、前記特定の分子量を有する分子は、熱的により安定している分子である。従って、前記分子量分布の値が10.00以下である場合、本発明のフェノール樹脂の耐熱性がより向上する。
【0030】
本発明のフェノール樹脂の熱分解温度(T 5wt%)の下限値は、好ましくは、220℃以上であり、より好ましくは、230℃以上であり、さらに好ましくは、240℃以上である。本発明のフェノール樹脂の熱分解温度(T 5wt%)が220℃以上である場合、本発明のフェノール樹脂が熱的により安定であることを意味する。よって、熱分解温度(T 5wt%)が220℃以上である本発明のフェノール樹脂は、後述の〔2.多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法〕の欄に記載の製造方法において、DCCを利用して、より選択的に製造され得る。従って、前記熱分解温度(T 5wt%)が220℃以上である場合、前記製造方法において、本発明のフェノール樹脂の収率をより向上させることができる。
【0031】
本発明のフェノール樹脂の熱分解温度(T 5wt%)の上限値は、好ましくは、360℃以下であり、より好ましくは、350℃以下であり、さらに好ましくは、340℃以下である。本発明のフェノール樹脂は、熱分解温度(T 5wt%)が360℃以下であることにより、より一層、多分岐型高分子の効果を奏することができる。なお、前記「多分岐型高分子の効果を奏する」とは、前述した一般の有機溶媒に対する溶解性、成膜性、耐熱性および難燃性の少なくとも1つの特性が、より向上することを意味する。
【0032】
ここで、熱分解温度(T 5wt%)は、前記多分岐型のフェノール樹脂を昇温させた場合に、前記フェノール樹脂の重量が昇温前のフェノール樹脂の重量に対して5重量%減少した際の前記フェノール樹脂の温度である。熱分解温度(T 5wt%)は、例えば、熱重量損失温度測定器を用いて、後述する[熱重量分析(TGA)]に記載したように、TGAの測定結果に基づいて求めることができる。
【0033】
本発明のフェノール樹脂の熱分解温度(T )の下限値は、好ましくは、190℃以上であり、より好ましくは、200℃以上であり、さらに好ましくは、210℃以上である。本発明のフェノール樹脂の熱分解温度(T )の上限値は、好ましくは、300℃以下であり、より好ましくは、290℃以下であり、さらに好ましくは、280℃以下である。ここで、熱分解温度(T )は、分解開始温度を意味する。前記分解開始温度は、前記多分岐型のフェノール樹脂を昇温させた場合に、該樹脂の重量が昇温前の重量に対して1~2重量%減少した際の該樹脂の温度である。また、熱分解温度(T )は、例えば、熱重量損失温度測定器を用いて、後述する[熱重量分析(TGA)]に記載したように、TGAの測定結果に基づき、求めることができる。
【0034】
さらに、前記熱分解温度(T )が190℃以上である場合、後述の〔2.多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法〕の欄に記載の製造方法において、本発明のフェノール樹脂の収率をより向上させることができる。このことは、前記熱分解温度(T 5wt%)が前述の好ましい範囲内である場合と同様である。また、前記熱分解温度(T )が300℃以下である場合、本発明のフェノール樹脂は、前記多分岐型高分子の効果を奏する。
【0035】
〔2.多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法〕
本発明の一実施形態に係る多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法(以下、「本発明の製造方法」とも称する)は、本発明のフェノール樹脂を製造する方法であって、以下の化学式(2)で表されるフェノール類と、以下の化学式(3)で表されるジアルデヒド化合物とを、前記フェノール類のモル数と、前記ジアルデヒド化合物のモル数との比率を、前記ジアルデヒド化合物のモル数を1としたとき、a:1(aは0.1以上10以下の実数)として、溶媒中、酸触媒の存在下で、反応温度:80℃以上、および反応時間:3時間以上の条件下で、付加縮合反応させる工程(以下、「付加縮合反応工程」とも称する)を含む。
【0036】
【化3】
【0037】
H-C(=O)-R-C(=O)-H・・・(3)
(化学式(2)中、Rは、水素、水酸基(OH)およびアルコキシ基からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
は、水素、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基および水酸基(OH)からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
は、水素、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基および水酸基(OH)からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
但し、化学式(2)中、Rが水素である場合、Rは水酸基(OH)またはアルコキシ基であり、Rは、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基およびヒドロキシアルキル基からなる群から選択される。
化学式(3)中、Rは、芳香族基である。
但し、Rの1つのベンゼン環に2つのアルデヒド基(C(=O)-H)が結合している場合、前記1つのベンゼン環のオルト位またはパラ位にて、前記2つのアルデヒド基が結合している。)
一般に、フェノール類とアルデヒド化合物とを付加縮合反応させる場合、最初は、複数種の異性体の混合物が生成する。前記複数種の異性体としては、例えば、本発明のフェノール樹脂のような多分岐型の構造を備える重合体、3次元架橋構造を備える重合体、大環状化合物、等が挙げられる。そして、前記混合物を、前記異性体中の共有結合が解離および再結合する環境、例えば高温環境下に、所定の時間放置することによって、前記DCCを利用して、当該混合物を構成する複数種の異性体を熱的に安定な構造を備える異性体に収束させることができる。言い換えると、前記混合物における前記熱的に安定な構造を備える異性体の含有量を向上させることができる。その結果、最終的には、前記複数種の異性体のうち、熱的に安定な構造を備える異性体を選択的に製造することができる。なお、前記混合物を、高温環境下に、所定の時間放置する方法として、例えば、本発明の製造方法のように、反応温度を高温に制御し、反応時間を所定の時間以上の時間に制御することを挙げることができる。
【0038】
ここで、本発明のフェノール樹脂は、前述したように、前記化学式(2)で表されるフェノール類と、前記化学式(3)で表されるジアルデヒド化合物とを付加縮合反応させて得られる、多分岐型の構造以外の構造を備える化合物と比較して、熱的に安定している。前記多分岐型の構造以外の構造としては、例えば、3次元架橋構造および大環状化合物の構造等が挙げられる。また、本発明の製造方法における反応温度:80℃以上、反応時間:3時間以上の条件は、前述の異性体中の共有結合が解離および再結合する環境に該当する。よって、本発明の製造方法を用いることによって、前記DCCを利用して、本発明のフェノール樹脂を選択的に製造することができる。
【0039】
また、本発明の製造方法は、前記付加縮合反応工程で得られた生成物を、溶媒および酸触媒の存在下、高温環境で所定の時間放置する熟成工程を含み得る。前記熟成工程で使用され得る溶媒は、後述の「付加縮合反応工程で使用される溶媒」に記載した溶媒と同一の溶媒であり得る。前記熟成工程で使用され得る酸触媒は、後述の「付加縮合反応工程で使用される酸触媒」に記載した酸触媒と同一の酸触媒であり得る。
【0040】
また、前記熟成工程において、前記高温環境における前記生成物の温度(熟成温度)は、後述の「付加縮合反応工程における反応温度」に記載した温度と同一の温度であることが好ましい。さらに、前記熟成工程において、前記高温環境に前記生成物を放置する時間(熟成時間)は、前記付加縮合反応工程における反応時間との合計時間が、後述の「付加縮合反応工程における反応時間」と同一の時間となる時間であることが好ましい。
【0041】
前記熟成工程によって、前記生成物を構成する化合物を、熱的により安定した化合物に一層収束させることができる。よって、例えば、前記生成物が多分岐型の構造以外の他の構造を備える異性体を含む混合物である場合、前記熟成工程によって、当該異性体を多分岐型の構造を備える本発明のフェノール樹脂に収束させることができる。その結果、前記熟成工程を含む本発明の製造方法は、本発明のフェノール樹脂をより選択的に製造することができる。また、例えば、前記生成物が本発明のフェノール樹脂から構成される場合、前記熟成工程によって、当該本発明のフェノール樹脂を構成する化合物が、熱的により安定した化合物に一層収束する。その結果、前記熟成工程を含む本発明の製造方法は、分子量分布により優れる本発明のフェノール樹脂を製造することができる。
【0042】
前記付加縮合反応工程、または、前記付加縮合反応工程および前記熟成工程によって得られる本発明のフェノール樹脂は、通常、前記溶媒に溶解した状態、すなわち溶液の状態、または、前記溶媒に分散した状態、すなわち分散液の状態である。本発明の製造方法は、前記溶液または前記分散液から、本発明のフェノール樹脂を取り出す工程を含み得る。本発明のフェノール樹脂を取り出す方法としては、一般の固液分離方法を採用することができ、特に限定されない。本発明のフェノール樹脂を取り出す方法の具体例としては、例えば、以下の(i)~(iii)に記載した方法を挙げることができる。
【0043】
(i)ろ過操作
(ii)前記溶液または前記分散液から,前記溶媒を蒸発させて除去する操作
(iii)前記溶液または前記分散液と水とを混合して、本発明のフェノール樹脂を再沈殿させ、その後、ろ過操作によって、本発明のフェノール樹脂を回収する方法。
【0044】
本発明の製造方法の原料であるフェノール類は、化学式(2)で表されるフェノール類であれば、特に限定されない。前記化学式(2)で表されるフェノール類は、1種類でもよく、2種類以上のフェノール類の混合物であってもよい。前記化学式(2)で表されるフェノール類において、Rは、水酸基(OH)およびアルコキシ基からなる群から選択されることが好ましい。その場合、Rは、アルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。また、Rは、水素であることが好ましい。さらに、アルコキシ基は、メトキシ基またはエトキシ基であることが好ましい。
【0045】
前記化学式(2)で表されるフェノール類において、Rが水素の場合、Rは水酸基(OH)であることが好ましく、Rは、アルキル基であることが好ましく、メチル基またはtert-ブチル基であることがより好ましい。
【0046】
より詳細には、前記化学式(2)で表されるフェノール類は、以下に示すフェノール類から少なくとも1種選択されるフェノール類であることがさらに好ましい。
【0047】
【化4】
【0048】
本発明の製造方法の原料であるジアルデヒド化合物は、化学式(3)で表されるジアルデヒド化合物であれば、特に限定されない。前記化学式(3)で表されるジアルデヒド化合物は、1種類でもよく、2種類以上のジアルデヒド化合物の混合物であってもよい。前記化学式(3)で表されるジアルデヒド化合物において、Rは、フェニレン基(-C-)、ジフェニレン基(-C-C-)、ナフチレン基(-C10-)、アントラセニレン基(-C14-)および炭素数が2~11のアルキレン基(-(CH-;n=2~11)からなる群から選択されることが好ましい。
【0049】
より詳細には、前記化学式(3)で表されるジアルデヒド化合物は、以下に示すジアルデヒド化合物から少なくとも1種選択されるジアルデヒド化合物であることがさらに好ましい。
【0050】
【化5】
【0051】
本発明の製造方法における前記ジアルデヒド化合物のモル数を1としたときの、前記フェノール類のモル数と、前記ジアルデヒド化合物のモル数との比率は、a:1と表わされる場合のaが0.1以上10以下の範囲の実数である。以下、前記比率を「仕込み比」とも称する。本発明の製造方法において、前記仕込み比における前記aが前述の範囲内の実数であり、反応温度及び反応時間等の反応条件を好適に制御することによって、本発明のフェノール樹脂を製造することができる。以下、好適な仕込み比に関して説明する。
【0052】
前記化学式(2)で表されるフェノール類は、縮合反応の反応化点(縮合ポイント)を2か所備えることが知られている。また、前記化学式(3)で表されるジアルデヒド化合物は、縮合反応の反応化点(縮合ポイント)を4か所備えることが知られている。よって、化学量論的には、本発明のフェノール樹脂は、前記化学式(3)で表されるジアルデヒド化合物1分子と、前記化学式(2)で表されるフェノール類2分子と、が縮合して得られ得る。そのため、通常は、前記仕込み比は、2:1、すなわちa:1と表わされる場合のaが2であることが最適であると考えられる。
【0053】
ここで、本発明の一実施形態に係る多分岐型のフェノール樹脂の製造方法における付加縮合反応の反応機構を図1に表す。図1より、前記付加縮合反応は、中間体として、前記化学式(3)で表されるジアルデヒド化合物1分子と、前記化学式(2)で表されるフェノール類4分子と、が縮合して得られる化合物を経由して、本発明のフェノール樹脂が得られ得ることが理解できる。よって、前記仕込み比は、a:1と表わされる場合のaが、2よりも、前記中間体を好適に生成することができる、3~5であることが好ましく、4であることが最も好ましいことが理解できる。
【0054】
本発明の製造方法において、前記仕込み比をa:1と表す場合のaが前述の好ましい範囲内の実数であることによって、前記付加縮合反応工程によって最初に生成する前記複数種の異性体の混合物のうち、本発明のフェノール樹脂の含有量をより多くすることができる。よって、前記混合物を構成する複数種の異性体の、本発明のフェノール樹脂に該当する異性体への収束がより容易となる。従って、本発明のフェノール樹脂を、より容易に、かつ選択的に製造することができる。
【0055】
前記付加縮合反応工程における反応温度は、より高温である場合、前記混合物を構成する複数種の異性体を、熱的に安定な異性体、すなわち、本発明のフェノール樹脂により容易に収束させることができる。また、本発明のフェノール樹脂を構成する化合物を、より熱的に安定な化合物に収束させることができ、分子量分布が狭い(前記分子量分布の数値が小さい)、本発明のフェノール樹脂を得ることができる。前述の理由から、前記付加縮合反応工程における反応温度は、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。
【0056】
前記付加縮合反応工程における反応温度を過剰に高温とすることによって、得られるフェノール樹脂が分解することを防ぐ観点から、前記反応温度は、220℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。
【0057】
前記付加縮合反応工程における反応時間は、より長時間である場合、前記混合物を構成する複数種の異性体を、熱的に安定な異性体、すなわち、本発明のフェノール樹脂により容易に収束させることができる。また、本発明のフェノール樹脂を構成する化合物を、より熱的に安定な化合物に収束させることができ、分子量分布が狭い(前記分子量分布の数値が小さい)、本発明のフェノール樹脂を得ることができる。前述の理由から、前記反応時間は、24時間以上であることが好ましく、48時間以上であることがより好ましい。また、前記付加縮合反応工程における反応時間の上限値は、72時間以下であり得、好ましくは、60時間以下である。
【0058】
本発明の製造方法において、前記仕込み比、前記反応温度および前記反応時間を制御することによって、本発明のフェノール樹脂をより容易に製造することができる。ここで、前記仕込み比、前記反応温度および前記反応時間の好適な組み合わせとしては、例えば、以下の(A)~(C)に示す組み合わせを挙げることができる。
【0059】
(A)前記仕込み比が2:1以上3:1未満、すなわち、前記仕込み比がa:1で表される場合のaが、2以上3未満の実数である場合、特に、前記aが2である場合、前記反応温度が80℃以上100℃未満、かつ、前記反応時間が24時間以上である組み合わせ。あるいは、前記aが2以上3未満の実数である場合、特に、前記aが2である場合、前記反応温度が100℃以上、かつ、前記反応時間が3時間以上である組み合わせ。
【0060】
(B)前記仕込み比が3:1以上5:1以下、すなわち、前記仕込み比がa:1で表される場合のaが、3以上5以下の実数である場合、特に、前記aが4である場合、前記反応温度が80℃以上、かつ、前記反応時間が3時間以上である、組み合わせ。
【0061】
(C)前記仕込み比が1:4以上2:4以下、すなわち、前記仕込み比がa:1で表される場合のaが、0.25以上0.5以下の実数である場合、前記反応温度が80℃以上、かつ、前記反応時間が12時間以上である、組み合わせ。
【0062】
前記付加縮合反応工程で使用される酸触媒は、フェノール類とアルデヒド化合物との付加縮合反応に一般に使用され得る酸触媒を使用することができ、特に限定されない。前記酸触媒は、ブレンステッド酸であり得、塩酸、リン酸、硫酸、パラ‐トルエンスルホン酸、クエン酸、トリフルオロ酢酸およびトリフルオロメタンスルホン酸からなる群から1種以上選択される酸触媒であることが好ましい。
【0063】
前記付加縮合反応工程で使用される溶媒としては、該工程で使用される原料モノマーを溶解させ得る溶媒を使用することができ、特に限定されない。該溶媒としては、例えば、フェノール類とアルデヒド化合物との付加縮合反応に一般に使用され得る溶媒を使用することができる。該溶媒としては、エタノール、クロロメタン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、および1-プロパノールからなる群から1種以上選択される溶媒であることが好ましい。
【0064】
前記付加縮合反応工程を実施する方法は、特に限定されず、フェノール類とアルデヒド化合物との付加縮合反応に一般に使用され得る方法を採用することができる。前記方法として、例えば、以下の(I)~(III)の工程を含む方法を挙げることができる。
【0065】
(I)前記酸触媒、前記化学式(2)で表されるフェノール類および前記化学式(3)で表されるジアルデヒド化合物が前記溶媒に溶解してなる反応溶液を調製する。
【0066】
(II)その後、当該反応溶液の温度を、前記反応温度まで昇温させて付加縮合反応を開始させる。
【0067】
(III)続いて、当該反応温度を前記反応時間維持する。
【0068】
また、前記反応溶液の調製方法としては、一般に使用され得る方法を採用することができ、特に限定されない。前記方法として、例えば、以下の(a)および(b)の方法を挙げることができる。
【0069】
(a)前記溶媒に、前記酸触媒、前記化学式(2)で表されるフェノール類および前記化学式(3)で表されるジアルデヒド化合物を加えて、当該反応溶液を調製する方法。
【0070】
(b)前記酸触媒が前記溶媒に溶解してなる溶液Aと、前記化学式(2)で表されるフェノール類が前記溶媒に溶解してなる溶液Bと、前記化学式(3)で表されるジアルデヒド化合物が前記溶媒に溶解してなる溶液Cとを混合して、当該反応溶液を調製する方法。
【0071】
なお、本発明のフェノール樹脂が製造できたことは、HNMRによって確認することができる。
【0072】
〔3.まとめ〕
本発明には、以下の態様が含まれる。
<1>以下の化学式(1)で表される繰り返し単位を備える、多分岐型のフェノール樹脂。
【0073】
【化6】
【0074】
(化学式(1)中、Rは、水素、水酸基(OH)およびアルコキシ基からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
は、水素、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基および水酸基(OH)からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
は、水素、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基および水酸基(OH)からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
但し、化学式(1)中、あるベンゼン環におけるRが水素である場合、同一のベンゼン環におけるRは水酸基(OH)またはアルコキシ基であり、同一のベンゼン環におけるRは、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基およびヒドロキシアルキル基からなる群から選択される。
化学式(1)中、Rは、芳香族基である。
但し、Rの1つのベンゼン環にフェノール類に由来する2つの部位が結合している場合、前記1つのベンゼン環のオルト位またはパラ位にて、前記フェノール類に由来する2つの部位が結合している。)
<2>数平均分子量(Mn)が、1000以上、7000以下である、<1>に記載の多分岐型のフェノール樹脂。
<3>重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される粒度分布の値が、1.00以上、10.00以下である、<1>または<2>に記載の多分岐型のフェノール樹脂。
<4>熱分解温度(T 5wt%)が、220℃以上、360℃以下である、<1>~<3>の何れか1つに記載の多分岐型のフェノール樹脂。
【0075】
(ここで、熱分解温度(T 5wt%)は、前記多分岐型のフェノール樹脂を昇温させた場合の重量減少が、加熱前の前記多分岐型のフェノール樹脂の重量に対して5重量%に到達する際の前記多分岐型のフェノール樹脂の温度を意味する。)
<5><1>~<4>の何れか1つに記載の多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法であって、
以下の化学式(2)で表されるフェノール類と、以下の化学式(3)で表されるジアルデヒド化合物とを、前記フェノール類のモル数と、前記ジアルデヒド化合物のモル数との比率を、前記ジアルデヒド化合物のモル数を1としたとき、a:1(aは0.1以上10以下の実数)として、溶媒中、酸触媒の存在下で、反応温度:80℃以上および反応時間:3時間以上の条件下で、付加縮合反応させる工程を含む、多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法。
【0076】
【化7】
【0077】
H-C(=O)-R-C(=O)-H・・・(3)
(化学式(2)中、Rは、水素、水酸基(OH)およびアルコキシ基からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
は、水素、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基および水酸基(OH)からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
は、水素、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基および水酸基(OH)からなる群から選択され、Rはそれぞれ、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
但し、化学式(2)中、Rが水素である場合、Rは水酸基(OH)またはアルコキシ基であり、Rは、アルキル基、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基およびヒドロキシアルキル基からなる群から選択される。
化学式(3)中、Rは、芳香族基である。
但し、Rの1つのベンゼン環に2つのアルデヒド基(C(=O)-H)が結合している場合、前記1つのベンゼン環のオルト位またはパラ位にて、前記2つのアルデヒド基が結合している。)
<6>前記付加縮合反応させる工程において、前記フェノール類のモル数と、前記ジアルデヒド化合物とのモル数との比率について、前記aが3以上5以下の実数である、<5>に記載の多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法。
<7>前記付加縮合反応させる工程において、前記反応温度が100℃以上である、<5>または<6>に記載の多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法。
<8>前記付加縮合反応させる工程において、前記反応時間が、24時間以上である、<5>~<7>の何れか1つに記載の多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法。
<9>前記付加縮合反応させる工程において、前記酸触媒が、塩酸、リン酸、硫酸、パラ‐トルエンスルホン酸、クエン酸、トリフルオロ酢酸およびトリフルオロメタンスルホン酸からなる群から1種以上選択される、<5>~<8>の何れか1つに記載の多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法。
<10>前記付加縮合反応させる工程において、前記溶媒が、エタノール、クロロメタン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、および1-プロパノールからなる群から1種以上選択される、<5>~<9>の何れか1つに記載の多分岐型のフェノール樹脂を製造する方法。
【実施例0078】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0079】
[測定方法]
以下に示す方法によって、実施例および比較例で製造されたフェノール樹脂を対象とする測定・算出を行った。
【0080】
[ゲル透過型クロマトグラフィー(GPC)]
実施例および比較例で製造されたフェノール樹脂を対象として、以下の条件で、ゲル透過型クロマトグラフィー(GPC)の測定を実施した。
<条件>
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製、HLC-8020システム、カラム:TSK gel G1000)を用い、テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒とした。
【0081】
前記GPCの測定結果から、相対法により、前記フェノール樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布を算出した。
【0082】
具体的には、初めに、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)が既知のポリスチレン樹脂(東ソー社製、製品名:PStQuickMPシリーズ)を参照用試料として使用した。当該参照用試料を対象として、前述の条件下で、GPCの測定を行い、GPCの測定結果と、MwおよびMnと、の関係を表す較正曲線を作成した。続けて、実施例および比較例で製造されたフェノール樹脂を対象として、前述の条件下で、GPCの測定を行った。前記参照用試料から得られた前記較正曲線を参照して、実施例および比較例で製造されたフェノール樹脂から得られたGPCの測定結果から、前記各フェノール樹脂のMnおよびMwを算出した。算出されたMnおよびMwの値を用いて、実施例および比較例で製造されたフェノール樹脂の分子量分布の値(Mw/Mn)を算出した。
【0083】
[熱重量分析(TGA)]
実施例および比較例で製造されたフェノール樹脂3mgを、株式会社島津製作所製の製品名:TGA-50の熱重量損失温度測定器を使用して、昇温速度:10℃/分、温度範囲:25~450℃の条件で昇温させた。つまり、温度25℃から10℃/分で450℃まで昇温させた際の重量変化を測定して、熱重量分析(TGA)の測定を実施した。前記TGAの測定結果から、前記フェノール樹脂の重量が昇温前のフェノール樹脂の重量に対して5重量%減少した際の前記フェノール樹脂の温度を算出し、熱分解温度T 5wt%とした。また、前記TGAの測定結果から、前記フェノール樹脂の重量が昇温前のフェノール樹脂の重量に対して1~2重量%減少した際の前記フェノール樹脂の温度を算出し、熱分解温度T とした。
【0084】
[赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)]
実施例44に記載のフェノール樹脂(44)5mgと、100mgの臭化カリウム(KBr)とを、湿気を吸収しないように、乳鉢を用いて、速やかに粉砕し、混合して混合物を得た。続いて、得られた混合物を、成型機を用いて、直径3mm、厚み2.5mmの錠剤型に成型し、赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)測定用試料を調製した。続いて、前記IRスペクトル測定用試料を対象として、測定装置:日本分光製FT/IR-4000を用いて、以下に示す測定条件の下で、前記フェノール樹脂のIRスペクトルを測定した。
【0085】
なお、予め、KBrのみを錠剤型に成型したIRスペクトル参照用試料を調製した。調製法は、前述のIRスペクトル測定用試料の調製方法と同様である。当該IRスペクトル参照用試料を対象にして、前述の方法と同様の方法により、参照用のIRスペクトルを測定した。前記フェノール樹脂のIRスペクトルの測定では、前記参照用のIRスペクトルをバックグラウンドとして使用した。その結果を、図13に示す。
【0086】
<測定条件>
波数:400cm-1~4500cm-1
HNMRスペクトル]
実施例44で製造されたフェノール樹脂(44)5mgを、重溶媒(組成:CDCl)0.5mLに溶解させ、HNMRスペクトル測定用試料を調製した。続いて、前記HNMRスペクトル測定用試料を対象として、測定装置:日本電子株式会社(JEOL)製JNM-ECAを用いて、以下に示す測定条件の下で、前記フェノール樹脂のHNMRスペクトルを測定した。その結果を、図14に示す。
【0087】
<測定条件>
周波数:400MHz
積算回数:16回
測定温度:25℃
<フェノール類の検討>
[実施例1]
温度計を付した容積100mLのナス型フラスコに、フェノール類としてレゾルシノール(Resorcinol)2.2g(20mmol)、ジアルデヒド化合物としてテレフタルアルデヒド(Terephthalaldehyde)0.67g(5.0mmol)、酸触媒として塩酸(HCl水溶液)5.0mL(HClのモル数:6mmol)および溶媒としてエタノール(EtOH)5.0mLを加え、反応溶液を調製した。続いて、前記反応溶液を、反応温度:80℃まで昇温させた後、当該反応溶液の温度を反応温度:80℃に維持したまま、反応時間:48時間保持した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(1)が溶解した溶液を得た。容積0.1Lの別のナス型フラスコに水100mLを入れた後、前記フェノール樹脂(1)が溶解した溶液を加えて、フェノール樹脂(1)を再沈殿させた。その後、メンブレンフィルター(Advantech社製、孔径0.45μm)を用いたろ過操作によって、再沈殿していたフェノール樹脂(1)を取り出した。フェノール樹脂(1)は、0.50g(収率:34重量%)であった。
【0088】
[実施例2]
フェノール類として、レゾルシノールの代わりに、2-メチルレゾルシノール(2-Methylresorcinol)2.48g(20mmol)を使用したこと以外は、実施例1と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(2)を得た。フェノール樹脂(2)は、1.60g(収率:>99重量%)であった。
【0089】
[実施例3]
フェノール類として、レゾルシノールの代わりに、パラ-tert-ブチルフェノール3.00g(20mmol)を使用したこと以外は、実施例1と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(3)を得た。フェノール樹脂(3)は、1.50g(収率:>99重量%)であった。
【0090】
[実施例4]
フェノール類として、レゾルシノールの代わりに、ピロガロール(Pyrogallol)2.52g(20mmol)を使用したこと以外は、実施例1と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(4)を得た。フェノール樹脂(4)は、1.60g(収率:>99重量%)であった。
【0091】
[結果A]
実施例1~4で得られたフェノール樹脂(1)~(4)を対象としたGPCの測定結果を、図2に示す。また、フェノール樹脂(1)~(4)の収率、数平均分子量および分子量分布の値を以下の表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1および図2の記載から、本発明の製造方法において、フェノール類として、2-メチルレゾルシノールを使用した実施例2で得られたフェノール樹脂の分子量分布が特に狭く、かつ収率も高かった。
【0094】
<酸触媒の検討>
[実施例5]
温度計を付した容積100mLのナス型フラスコに、フェノール類として2-メチルレゾルシノール0.62g(5.0mmol)、ジアルデヒド化合物としてテレフタルアルデヒド0.18g(1.25mmol)、酸触媒として塩酸(HCl水溶液)0.1mL(HClのモル数:1.25mmol)および溶媒としてエタノール1.25mLを加え、反応溶液を調製した。続いて、前記反応溶液を、反応温度:80℃まで昇温させた後、当該反応溶液の温度を反応温度:80℃に維持したまま、反応時間:48時間保持した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(5)が溶解した溶液を得た。容積0.1Lの別のナス型フラスコに水50mLを入れた後、前記フェノール樹脂(5)が溶解した溶液を加えて、フェノール樹脂(5)を再沈殿させた。その後、メンブレンフィルター(Advantech社製、孔径0.45μm)を用いたろ過操作によって、再沈殿していたフェノール樹脂(5)を取り出した。フェノール樹脂(5)は、1.60g(収率:>99重量%)であった。
【0095】
[実施例6]
酸触媒として、塩酸の代わりに、リン酸(HPO水溶液)0.1mL(リン酸のモル数:1.25mmol)を使用したこと以外は、実施例5と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(6)を得た。フェノール樹脂(6)は、1.00g(収率:63重量%)であった。
【0096】
[実施例7]
酸触媒として、塩酸の代わりに、硫酸(HSO水溶液)0.1mL(硫酸のモル数:1.25mmol)を使用したこと以外は、実施例5と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(7)を得た。フェノール樹脂(7)は、0.34g(収率:21重量%)であった。
【0097】
[実施例8]
酸触媒として、塩酸の代わりに、パラ-トルエンスルホン酸(p-TsOH)0.1g(1.25mmol)を使用したこと以外は、実施例5と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(8)を得た。フェノール樹脂(8)は、1.00g(収率:63重量%)であった。
【0098】
[実施例9]
酸触媒として、塩酸の代わりに、クエン酸(Critric acid)0.1g(1.25mmol)を使用したこと以外は、実施例5と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(9)を得た。フェノール樹脂(9)は、0.98g(収率:61重量%)であった。
【0099】
[実施例10]
酸触媒として、塩酸の代わりに、トリフルオロ酢酸(TFA)0.1g(1.25mmol)を使用したこと、および溶媒としてエタノールの代わりにクロロメタン(CHCl)を使用したこと以外は、実施例5と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(10)を得た。フェノール樹脂(10)は、1.60g(収率:>99重量%)であった。
【0100】
[実施例11]
酸触媒として、塩酸の代わりに、トリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)0.1g(1.25mmol)を使用したこと以外は、実施例5と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(11)を得た。フェノール樹脂(11)は、1.60g(収率:>99重量%)であった。
【0101】
[結果B]
実施例5~11で得られたフェノール樹脂(5)~(11)を対象としたGPCの測定結果を、図3に示す。また、実施例5~11で得られたフェノール樹脂(5)~(11)の収率、数平均分子量および分子量分布の値を以下の表2に示す。
【0102】
【表2】
【0103】
表2および図3の記載から、酸触媒としてパラ-トルエンスルホン酸を使用した実施例8で製造された本発明のフェノール樹脂は、特に分子量分布が狭く、かつ平均分子量(数平均分子量)が高いことが分かった。
【0104】
<溶媒の検討>
[実施例12]
温度計を付した容積100mLのナス型フラスコに、フェノール類として2-メチルレゾルシノール0.248g(2.0mmol)、ジアルデヒド化合物としてテレフタルアルデヒド0.067g(0.5mmol)、酸触媒としてパラ-トルエンスルホン酸0.095g(0.5mmol)および溶媒としてエタノール2.5mLを加え、反応溶液を調製した。続いて、前記反応溶液を対象として、液体窒素と、オイルポンプを用いて、凍結脱気を行った後、前記ナス型フラスコを密閉した。その後、密閉された前記ナス型フラスコ内の前記反応溶液を、反応温度:80℃まで昇温させた後、当該反応溶液の温度を反応温度:80℃に維持したまま、反応時間:12時間保持した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(12)が溶解した溶液を得た。
【0105】
容積0.1Lの別のナス型フラスコに水100mLを入れた後、前記フェノール樹脂(12)が溶解した溶液を加えて、フェノール樹脂(12)を再沈殿させた。その後、メンブレンフィルター(Advantech社製、孔径0.45μm)を用いたろ過操作によって、再沈殿していたフェノール樹脂(12)を取り出した。取り出されたフェノール樹脂(12)を、メタノール(MeOH)約2.5mLに溶解させて、フェノール樹脂(12)が溶解したMeOH溶液を得た。容積0.1Lのさらに別のナス型フラスコに水100gを入れた後、前記フェノール樹脂(12)が溶解したMeOH溶液を加えて、フェノール樹脂(12)を再沈殿させた。その後、メンブレンフィルター(Advantech社製、孔径0.45μm)を用いたろ過操作によって、再沈殿していたフェノール樹脂(12)を取り出した。フェノール樹脂(12)は、1.26g(収率:79重量%)であった。
【0106】
[実施例13]
溶媒として、エタノールの代わりに、エチレングリコール(Ethylene Glycol:EG)2.5mLを使用したこと以外は、実施例12と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(13)を得た。フェノール樹脂(13)は、1.60g(収率:>99重量%)であった。
【0107】
[実施例14]
溶媒として、エタノールの代わりに、ジメチルスルオキシド(DMSO)2.5mLを使用したこと以外は、実施例12と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(14)を得た。フェノール樹脂(14)は、0.51g(収率:32重量%)であった。
【0108】
[実施例15]
溶媒として、エタノールの代わりに、1-プロパノール(1-Propanol)2.5mLを使用したこと以外は、実施例12と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(15)を得た。フェノール樹脂(15)は、1.26g(収率:>79重量%)であった。
【0109】
[結果C]
実施例12~15で得られたフェノール樹脂(12)~(15)を対象としたGPCの測定結果を、図4に示す。また、実施例12~15で得られたフェノール樹脂(12)~(15)の収率、数平均分子量および分子量分布の値を以下の表3に示す。
【0110】
【表3】
【0111】
表3および図4の記載から、溶媒としてエチレングリコールを使用した実施例13で製造された本発明のフェノール樹脂は、特に分子量分布が狭く、かつ収率が高いことが分かった。
<モノマー仕込み比(フェノール類:ジアルデヒド化合物)が2:1、反応温度が80℃の条件下での反応時間の検討>
[実施例16]
温度計を付した容積100mLのナス型フラスコに、フェノール類として2-メチルレゾルシノール0.124g(1.0mmol)、ジアルデヒド化合物としてテレフタルアルデヒド0.067g(0.5mmol)、酸触媒としてパラ-トルエンスルホン酸0.095g(0.5mmol)および溶媒としてエチレングリコール2.5mLを加え、反応溶液を調製した。続いて、前記反応溶液を対象として、液体窒素と、オイルポンプを用いて、凍結脱気を行った後、前記ナス型フラスコを密閉した。その後、密閉された前記ナス型フラスコ内の前記反応溶液を、反応温度:80℃まで昇温させた後、当該反応溶液の温度を反応温度:80℃に維持したまま、反応時間:6時間保持した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(16)が溶解した溶液を得た。
【0112】
容積0.1Lの別のナス型フラスコに水100mLを入れた後、前記フェノール樹脂(16)が溶解した溶液を加えて、フェノール樹脂(16)を再沈殿させた。その後、メンブレンフィルター(Advantech社製、孔径0.45μm)を用いたろ過操作によって、再沈殿していたフェノール樹脂(16)を取り出した。取り出されたフェノール樹脂(16)を、メタノール(MeOH)約2.5mLに溶解させて、フェノール樹脂(16)が溶解したMeOH溶液を得た。容積0.1Lのさらに別のナス型フラスコに水100gを入れた後、前記フェノール樹脂(16)が溶解したMeOH溶液を加えて、フェノール樹脂(16)を再沈殿させた。その後、メンブレンフィルター(Advantech社製、孔径0.45μm)を用いたろ過操作によって、再沈殿していたフェノール樹脂(16)を取り出した。フェノール樹脂(16)は、1.42g(収率:89重量%)であった。
【0113】
[実施例17]
反応時間を24時間に変更したこと以外は、実施例16と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(17)を得た。フェノール樹脂(17)は、1.01g(収率:68重量%)であった。
【0114】
[実施例18]
反応時間を48時間に変更したこと以外は、実施例16と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(18)を得た。フェノール樹脂(18)は、1.26g(収率:79重量%)であった。
【0115】
[結果D]
実施例16~18で得られたフェノール樹脂(16)~(18)の収率、数平均分子量、分子量分布の値および熱分解温度(T 5wt%)を、図5および表4に示す。
【0116】
【表4】
【0117】
表4および図5の記載から、本発明の製造方法において、反応温度が比較的低温(80℃)である場合、反応時間を24時間以上の長時間とすることによって、本発明のフェノール樹脂をより安定的に製造できることが分かった。さらに、その中で、反応時間をさらに長時間(48時間以上)とした場合には、分子量分布の値が特に小さく(狭く)なっており、本発明のフェノール樹脂を構成する化合物を、熱的により安定した化合物に一層収束させることができることが分かった。
【0118】
以上のことから、本発明のフェノール樹脂は、熱的に安定な構造を備えていることが分かった。
<モノマー仕込み比(フェノール類:ジアルデヒド化合物)が2:1、反応温度が100℃の条件下での反応時間の検討>
[実施例19]
反応温度を100℃に変更したこと、および、反応時間を3時間に変更したこと以外は、実施例16と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(19)を得た。フェノール樹脂(19)は、1.34g(収率:84重量%)であった。
【0119】
[実施例20]
反応時間を6時間に変更したこと以外は、実施例19と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(20)を得た。フェノール樹脂(20)は、1.42g(収率:89重量%)であった。
【0120】
[実施例21]
反応時間を12時間に変更したこと以外は、実施例19と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(21)を得た。フェノール樹脂(21)は、1.60g(収率:>99重量%)であった。
【0121】
[実施例22]
反応時間を24時間に変更したこと以外は、実施例19と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(22)を得た。フェノール樹脂(22)は、1.34g(収率:84重量%)であった。
【0122】
[実施例23]
反応時間を48時間に変更したこと以外は、実施例19と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(23)を得た。フェノール樹脂(23)は、1.60g(収率:>99重量%)であった。
【0123】
[結果E]
実施例19~23で得られたフェノール樹脂(19)~(23)の収率、数平均分子量および分子量分布の値、並びに、および実施例19~22で得られたフェノール樹脂(19)~(22)の熱分解温度(T 5wt%)を、図6および表5に示す。
【0124】
【表5】
【0125】
実施例19~23の結果より、反応温度が80℃である場合と比較して、反応温度が100℃である場合の方が、本発明のフェノール樹脂をより安定して製造できることが分かった。
【0126】
さらに、表5および図6の記載から、反応温度が100℃である場合、反応時間が短時間(6時間以下)である場合よりも、長時間(12時間以上)とする場合の方が、分子量分布の値が小さく(狭く)なる傾向があった。つまり、反応時間が100℃である場合、反応時間を長くすることにより、本発明のフェノール樹脂を構成する化合物を、熱的により安定した化合物に一層収束させることができることが分かった。
<モノマー仕込み比(フェノール類:ジアルデヒド化合物)が2:1、反応温度が120℃の条件下での反応時間の検討>
[実施例24]
反応温度を120℃に変更したこと以外は、実施例19と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(24)を得た。フェノール樹脂(24)は、1.42g(収率:89重量%)であった。
【0127】
[実施例25]
反応時間を6時間に変更したこと以外は、実施例24と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(25)を得た。フェノール樹脂(25)は、1.50g(収率:94重量%)であった。
【0128】
[実施例26]
反応時間を12時間に変更したこと以外は、実施例24と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(26)を得た。フェノール樹脂(26)は、1.42g(収率:89重量%)であった。
【0129】
[実施例27]
反応時間を24時間に変更したこと以外は、実施例24と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(27)を得た。フェノール樹脂(27)は、1.42g(収率:89重量%)であった。
【0130】
[実施例28]
反応時間を48時間に変更したこと以外は、実施例24と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(28)を得た。フェノール樹脂(28)は、1.42g(収率:89重量%)であった。
【0131】
[結果F]
実施例24~28で得られたフェノール樹脂(24)~(28)の収率、数平均分子量および分子量分布の値、並びに、実施例24、25、28で得られたフェノール樹脂(24)、(25)、(28)の熱分解温度(T 5wt%)を、図7および表6に示す。
【0132】
【表6】
【0133】
実施例24~28の結果より、反応温度が100℃である場合と同様に、反応温度が120℃である場合には、反応温度が80℃である場合と比較して、本発明のフェノール樹脂をより安定して製造できることが分かった。
【0134】
さらに、反応温度が120℃である場合、反応温度が80℃、100℃である場合よりも、分子量分布の値が全体的に小さく(狭く)なっていることが分かった。つまり、反応温度を120℃とすることにより、本発明のフェノール樹脂を構成する化合物を、熱的により安定した化合物に一層収束させることができることが分かった。
<モノマー仕込み比(フェノール類:ジアルデヒド化合物)が4:1、反応温度が80℃の条件下での反応時間の検討>
[実施例29]
温度計を付した容積100mLのナス型フラスコに、フェノール類として2-メチルレゾルシノール0.248g(2.0mmol)、ジアルデヒド化合物としてテレフタルアルデヒド0.067g(0.5mmol)、酸触媒としてパラ-トルエンスルホン酸0.095g(0.5mmol)および溶媒としてエチレングリコール2.5mLを加え、反応溶液を調製した。続いて、前記反応溶液を対象として、液体窒素と、オイルポンプを用いて、凍結脱気を行った後、前記ナス型フラスコを密閉した。その後、密閉された前記ナス型フラスコ内の前記反応溶液を、反応温度:80℃まで昇温させた後、当該反応溶液の温度を反応温度:80℃に維持したまま、反応時間:3時間保持した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(29)が溶解した溶液を得た。
【0135】
容積0.1Lの別のナス型フラスコに水100mLを入れた後、前記フェノール樹脂(29)が溶解した溶液を加えて、フェノール樹脂(29)を再沈殿させた。その後、メンブレンフィルター(Advantech社製、孔径0.45μm)を用いたろ過操作によって、再沈殿していたフェノール樹脂(29)を取り出した。取り出されたフェノール樹脂(29)を、メタノール(MeOH)約2.5mLに溶解させて、フェノール樹脂(29)が溶解したMeOH溶液を得た。容積0.1Lのさらに別のナス型フラスコに水100gを入れた後、前記フェノール樹脂(29)が溶解したMeOH溶液を加えて、フェノール樹脂(29)を再沈殿させた。その後、メンブレンフィルター(Advantech社製、孔径0.45μm)を用いたろ過操作によって、再沈殿していたフェノール樹脂(29)を取り出した。実施例29で得られたフェノール樹脂(29)は、1.34g(収率:84重量%)であった。
【0136】
[実施例30]
反応時間を6時間に変更したこと以外は、実施例29と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(30)を得た。フェノール樹脂(30)は、1.26g(収率:79重量%)であった。
【0137】
[実施例31]
反応時間を12時間に変更したこと以外は、実施例29と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(31)を得た。フェノール樹脂(31)は、1.60g(収率:>99重量%)であった。
【0138】
[実施例32]
反応時間を24時間に変更したこと以外は、実施例29と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(32)を得た。フェノール樹脂(32)は、1.50g(収率:94重量%)であった。
【0139】
[実施例33]
反応時間を48時間に変更したこと以外は、実施例29と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(33)を得た。フェノール樹脂(33)は、1.50g(収率:94重量%)であった。
【0140】
[結果G]
実施例29~33で得られたフェノール樹脂(29)~(33)の収率、数平均分子量、分子量分布の値および熱分解温度(T 5wt%)を、図8および表7に示す。
【0141】
【表7】
【0142】
実施例29~33の結果より、フェノール樹脂(29)~(33)は、分子量分布の値が全体的に小さく(狭く)なっており、その構成化合物が、熱的により安定した化合物に一層収束していることが分かった。
<モノマー仕込み比(フェノール類:ジアルデヒド化合物)が4:1、反応温度が100℃の条件下での反応時間の検討>
[実施例34]
反応温度を100℃に変更したこと以外は、実施例29と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(34)を得た。フェノール樹脂(34)は、1.26g(収率:79重量%)であった。
【0143】
[実施例35]
反応時間を6時間に変更したこと以外は、実施例34と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(35)を得た。フェノール樹脂(35)は、1.49g(収率:93重量%)であった。
【0144】
[実施例36]
反応時間を12時間に変更したこと以外は、実施例34と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(36)を得た。フェノール樹脂(36)は、1.60g(収率:>99重量%)であった。
【0145】
[実施例37]
反応時間を24時間に変更したこと以外は、実施例34と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(37)を得た。フェノール樹脂(37)は、1.60g(収率:>99重量%)であった。
【0146】
[実施例38]
反応時間を48時間に変更したこと以外は、実施例34と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(38)を得た。フェノール樹脂(38)は、1.60g(収率:>99重量%)であった。
【0147】
[結果H]
実施例34~38で得られたフェノール樹脂(34)~(38)の収率、数平均分子量、分子量分布の値および熱分解温度(T 5wt%)を、図9および表8に示す。
【0148】
【表8】
【0149】
実施例34~38の結果より、前記仕込み比が4:1、すなわち前記仕込み比をa:1で表す場合のaが4である場合、反応温度を100℃とすることにより、本発明のフェノール樹脂をより安定して製造できることが分かった。このことは、前記仕込み比が2:1、すなわち前記仕込み比をa:1で表す場合のaが2である実施例19~23と同様である。さらに、分子量分布の値が全体的に小さく(狭く)なっており、実施例34~38で製造された本発明のフェノール樹脂は、これを構成する化合物が、熱的により安定した化合物に一層収束していることが分かった。
<モノマー仕込み比(フェノール類:ジアルデヒド化合物)が4:1、反応温度が120℃の条件下での反応時間の検討>
[実施例39]
反応温度を120℃に変更したこと以外は、実施例29と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(39)を得た。フェノール樹脂(39)は、1.52g(収率:95重量%)であった。
【0150】
[実施例40]
反応時間を6時間に変更したこと以外は、実施例39と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(40)を得た。フェノール樹脂(40)は、1.34g(収率:84重量%)であった。
【0151】
[実施例41]
反応時間を12時間に変更したこと以外は、実施例39と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(41)を得た。フェノール樹脂(41)は、1.60g(収率:>99重量%)であった。
【0152】
[実施例42]
反応時間を24時間に変更したこと以外は、実施例39と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(42)を得た。フェノール樹脂(42)は、1.52g(収率:95重量%)であった。
【0153】
[実施例43]
反応時間を48時間に変更したこと以外は、実施例39と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(43)を得た。フェノール樹脂(43)は、1.60g(収率:>99重量%)であった。
【0154】
[結果I]
実施例39~43で得られたフェノール樹脂(39)~(43)の収率、数平均分子量、分子量分布の値および熱分解温度(T 5wt%)を、図10および表9に示す。
【0155】
【表9】
【0156】
実施例39~43の結果より、前記仕込み比が4:1、すなわち前記仕込み比をa:1で表す場合のaが4である場合、反応温度を120℃とすることにより、本発明のフェノール樹脂をより安定して製造できることが分かった。このことは、前記仕込み比が2:1、すなわち前記仕込み比をa:1で表す場合のaが2である実施例19~23と同様である。さらに、分子量分布の値が全体的に小さく(狭く)なっており、実施例39~43で製造された本発明のフェノール樹脂は、これを構成する化合物が、熱的により安定した化合物に一層収束していることが分かった。
【0157】
また、表7~9の記載から、前記仕込み比が4:1である場合、反応時間が12時間である場合に、数平均分子量が大きい、本発明のフェノール樹脂を製造することができることが分かった。さらに、その中でも特に、反応温度が120℃である場合に、数平均分子量がより大きい、本発明のフェノール樹脂を製造することができることが分かった。
【0158】
以上、表2~9より、2-メチルレゾルシノールと、テレフタルアルデヒドとを付加縮合反応させて、数平均分子量がより大きい本発明のフェノール樹脂を製造するためには、以下の反応条件が適していることが分かった。
2-メチルレゾルシノールとテレフタルアルデヒドとのモル比率(仕込み比);4:1
酸触媒;パラ-トルエンスルホン酸
溶媒;エチレングリコール
反応温度;120℃
反応時間;12時間
<溶解性の評価>
[実施例44]
前述した、数平均分子量がより大きい本発明のフェノール樹脂を製造するために適した条件下で、本発明のフェノール樹脂を製造した。具体的には、温度計を付した容積100mLのナス型フラスコに、フェノール類として2-メチルレゾルシノール2.48g(20.0mmol)、ジアルデヒド化合物としてテレフタルアルデヒド0.67g(5.0mmol)、酸触媒としてパラ-トルエンスルホン酸0.95g(5.0mmol)および溶媒としてエチレングリコール25.0mLを加え、反応溶液を調製した。続いて、前記反応溶液を対象として、液体窒素と、オイルポンプを用いて、凍結脱気を行った後、前記ナス型フラスコを密閉した。その後、密閉された前記ナス型フラスコ内の前記反応溶液を、反応温度:120℃まで昇温させた後、当該反応溶液の温度を反応温度:120℃に維持したまま、反応時間:12時間保持した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(44)が溶解した溶液を得た。
【0159】
容積0.1Lの別のナス型フラスコに水100mLを入れた後、前記フェノール樹脂(44)が溶解した溶液を加えて、フェノール樹脂(44)を再沈殿させた。その後、メンブレンフィルター(Advantech社製、孔径0.45μm)を用いたろ過操作によって、再沈殿していたフェノール樹脂(44)を取り出した。取り出されたフェノール樹脂(44)を、メタノール(MeOH)約20mLに溶解させて、フェノール樹脂(44)が溶解したMeOH溶液を得た。容積0.1Lのさらに別のナス型フラスコに水100gを入れた後、前記フェノール樹脂(44)が溶解したMeOH溶液を加えて、フェノール樹脂(44)を再沈殿させた。その後、メンブレンフィルター(Advantech社製、孔径0.45μm)を用いたろ過操作によって、再沈殿していたフェノール樹脂(44)を取り出した。実施例44で得られたフェノール樹脂(44)は、1.60g(収率:>99重量%)であった。また、フェノール樹脂(44)の数平均分子量(Mn)は、3,450であり、分子量分布の値(Mw/Mn)は、1.67であり、熱分解温度(T 5wt%)は、356℃であった。
【0160】
フェノール樹脂(44)について、図11はGPCの測定結果、図12は熱重量分析(TGA)の測定結果、図13はIRスペクトルの測定結果、図14HNMRスペクトルの測定結果をそれぞれ表す。
【0161】
図13および14の記載から、実施例44で得られたフェノール樹脂(44)は、分岐構造を備える、本発明のフェノール樹脂であることが確認できる。また、前述の物性値の測定結果、および、図11、12の記載から、フェノール樹脂(44)は、耐熱性に優れており、かつ、分子量分布の値が小さく(狭く)なっており、これを構成する化合物が、熱的により安定した化合物に一層収束していることが分かった。
【0162】
[比較例1]
以下に示す方法により、非特許文献4に記載の多分岐型以外の構造である環状構造を備える比較用フェノール樹脂(1)を調製した。まず、温度計を付した容積100mLのナス型フラスコに、フェノール類として2-メチルレゾルシノール2.48g(20.0mmol)を、ジアルデヒド化合物としてメタ‐ベンゼンジカルボアルデヒド0.67g(5.0mmol)を、原料として加えた。次に、該フラスコに、酸触媒として塩酸(HCl水溶液)0.4mL(HClのモル数:5.0mmol)を、溶媒として1-プロパノール25mLを加え、反応溶液を調製した。続いて、前記反応溶液を対象として、液体窒素と、オイルポンプを用いて、凍結脱気を行った後、前記ナス型フラスコを密閉した。その後、密閉された前記ナス型フラスコ内の前記反応溶液を、反応温度:90℃まで昇温させた。当該反応溶液の温度を反応温度:90℃に維持したまま、反応時間:48時間保持した。その結果、本発明のフェノール樹脂には該当しないゲル状の比較用フェノール樹脂(1)を得た。比較用フェノール樹脂(1)を、メタノール(MeOH)約20mLに溶解させて、比較用フェノール樹脂(1)が溶解したMeOH溶液を得た。
【0163】
容積0.1Lの別のナス型フラスコに水100gを入れた後、前記MeOH溶液を加えて、比較用フェノール樹脂(1)を再沈殿させた。その後、メンブレンフィルター(Advantech社製、孔径0.45μm)を用いたろ過操作によって、再沈殿していた比較用フェノール樹脂(1)を取り出した。これにより、比較用フェノール樹脂(1)を得た。比較用フェノール樹脂(1)の収率は52重量%であった。また、比較用フェノール樹脂(1)の数平均分子量(Mn)は、1,750であり、分子量分布の値(Mw/Mn)は、1.02であった。
【0164】
<溶解度テスト>
フェノール樹脂(44)および比較用フェノール樹脂(1)に対して、種々の溶媒に対する溶解度の評価を行った。具体的には、室温にて、ビーカー内に、それぞれの溶媒2mLおよびフェノール樹脂2mgを加え、当該フェノール樹脂の態様を観測した。また、フェノール樹脂(44)の原料である、2-メチルレゾルシノールおよびテレフタルアルデヒドのそれぞれに対しても、前記溶解度の評価と同一の方法を用いて、種々の溶媒に対する溶解度の評価を行った。その結果を、以下の表10に示す。表10において、溶解度は、以下に示す基準を用いて表す。
良;室温で完全にすぐに溶解する
可;室温で完全に溶解するのに時間を要する
不可;溶解しない
【0165】
【表10】
【0166】
表10の記載から、本発明のフェノール樹脂は、一般的な有機溶媒に可溶であることが確認された。また、フェノール樹脂(44)は、ジエチルエーテルに対する溶解性が、従来のフェノール樹脂に該当する比較用フェノール樹脂(1)よりも高い。また、比較用フェノール樹脂(1)は、1-プロパノールの溶媒中からゲルとして得られるため、1-プロパノールに対する溶解性も低い。さらに、非特許文献4に記載の通り、比較用フェノール樹脂(1)は、多分岐型以外の構造である環状構造を備える。よって、本発明のフェノール樹脂は、多分岐型の構造を備えることにより、従来の多分岐型以外の構造を備えるフェノール樹脂と比較して、一般的な有機溶媒に対する溶解性に優れていると考えられる。
<モノマー仕込み比(フェノール類:ジアルデヒド化合物)の検討>
[実施例45]
温度計を付した容積100mLのナス型フラスコに、フェノール類として2-メチルレゾルシノール0.248g(2.0mmol)、ジアルデヒド化合物としてテレフタルアルデヒド0.067g(0.5mmol)、酸触媒としてパラ-トルエンスルホン酸0.010g(0.05mmol)および溶媒としてエタノール2.5mLを加え、反応溶液を調製した。続いて、前記反応溶液を対象として、液体窒素と、オイルポンプを用いて、凍結脱気を行った後、前記ナス型フラスコを密閉した。その後、密閉された前記ナス型フラスコ内の前記反応溶液を、反応温度:80℃まで昇温させた後、当該反応溶液の温度を反応温度:80℃に維持したまま、反応時間:12時間保持した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(45)が溶解した溶液を得た。
【0167】
容積0.1Lの別のナス型フラスコに水100mLを入れた後、前記フェノール樹脂(45)が溶解した溶液を加えて、フェノール樹脂(45)を再沈殿させた。その後、メンブレンフィルター(Advantech社製、孔径0.45μm)を用いたろ過操作によって、再沈殿していたフェノール樹脂(45)を取り出した。取り出されたフェノール樹脂(45)を、メタノール(MeOH)約2.5mLに溶解させて、フェノール樹脂(45)が溶解したMeOH溶液を得た。容積0.1Lのさらに別のナス型フラスコに水100gを入れた後、前記フェノール樹脂(45)が溶解したMeOH溶液を加えて、フェノール樹脂(45)を再沈殿させた。その後、メンブレンフィルター(Advantech社製、孔径0.45μm)を用いたろ過操作によって、再沈殿していたフェノール樹脂(45)を取り出した。フェノール樹脂(45)は、1.59g(収率:96重量%)であった。
【0168】
[実施例46]
2-メチルレゾルシノールの使用量を0.032g(0.25mmol)に変更して、前記仕込み比を、1:2に変更したこと以外は、実施例45と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(46)を得た。フェノール樹脂(46)は、1.60g(収率:>99重量%)であった。
【0169】
[実施例47]
2-メチルレゾルシノールの使用量を0.016g(0.125mmol)に変更して、前記仕込み比を、1:4に変更したこと以外は、実施例45と同一の操作を実施した。その結果、本発明のフェノール樹脂に該当するフェノール樹脂(47)を得た。フェノール樹脂(47)は、0.48g(収率:30重量%)であった。
【0170】
[結果J]
実施例45~47で得られたフェノール樹脂(45)~(47)の収率、数平均分子量、分子量分布の値および熱分解温度(T 5wt%、T )を、表11に示す。
【0171】
【表11】
【0172】
表11の記載から、前記仕込み比が4:1、すなわち前記仕込み比をa:1で表す場合のaが4である実施例45で製造されたフェノール樹脂(45)は、耐熱性に優れていることが分かった。よって、前記仕込み比を4:1付近(例えば、3:1~5:1、)に制御することによって、本発明のフェノール樹脂、中でも熱的により安定した構造を備える本発明のフェノール樹脂を、より容易に、選択的に製造することができることが分かった。
<耐熱性の評価>
[結果K]
実施例45で得られたフェノール樹脂(45)および比較例1で得られた比較用フェノール樹脂(1)の収率、数平均分子量、分子量分布の値および熱分解温度(T 5wt%)を、表12に示す。
【0173】
【表12】
【0174】
ここで、比較用フェノール樹脂(1)は、フェノール樹脂(45)と、用いたフェノール類は同一である。また、また、比較用フェノール樹脂(1)は、ジアルデヒド化合物として、実施例45で使用したテレフタルアルデヒドの異性体であるメタ‐ベンゼンジカルボアルデヒドを使用して調製される。比較用フェノール樹脂(1)は、非特許文献4に記載の通り、環状構造を備える。一方、フェノール樹脂(45)は、多分岐型の構造を備える本発明のフェノール樹脂に該当する。よって、フェノール樹脂(45)と比較用フェノール樹脂(1)とは、構成原子は同一であるが、その構造が異なる異性体の関係にある。さらに、表12に記載の通り、フェノール樹脂(45)は、比較用フェノール樹脂(1)と比較して、熱分解温度(T 5wt%)が高く、耐熱性および難燃性により優れる。
【0175】
以上のことから、本発明のフェノール樹脂は、構成原子が同一であり、その構造が多分岐型以外の構造である従来のフェノール樹脂と比較して、耐熱性および難燃性により優れることが分かった。言い換えると、本発明のフェノール樹脂は、多分岐型の構造を備えることによって、より優れた耐熱性およびより優れた難燃性を備えるという効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明の一実施形態に係るフェノール樹脂は、従来のフェノール樹脂と比較して、より優れた耐熱性および難燃性を備え、かつ、一般的な有機溶媒に可溶であるため、成膜性に優れる。よって、前記フェノール樹脂は、より優れた耐熱性および難燃性を備える薄膜(フィルム)の製造に利用することができる。また、本発明の一実施形態に係るフェノール樹脂は、その分子内に、多くの水酸基を備える。ここで、前記水酸基には、例えば、メタクリロイル基、アクリロイル基、エポキシ基、等の機能性官能基を導入することができる。よって、前記フェノール樹脂を原料として、前記機能性官能基を導入することにより、例えば、紫外線(UV)硬化性樹脂材料等の種々の機能性樹脂へ展開することができる可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14