(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157422
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】固体炭素の析出方法および固体炭素析出システム
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20241030BHJP
C01B 3/38 20060101ALI20241030BHJP
B01J 23/83 20060101ALI20241030BHJP
B01J 23/755 20060101ALI20241030BHJP
C07C 9/04 20060101ALI20241030BHJP
C07C 1/12 20060101ALI20241030BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241030BHJP
【FI】
C01B32/05
C01B3/38
B01J23/83 M
B01J23/755 M
C07C9/04
C07C1/12
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071783
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】今井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】福岡 葵
(72)【発明者】
【氏名】三浦 啓一
(72)【発明者】
【氏名】福原 長寿
【テーマコード(参考)】
4G140
4G146
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G140EA03
4G140EA05
4G140EB42
4G146AA01
4G146AB01
4G146BA08
4G146BC02
4G146BC44
4G169AA03
4G169AA15
4G169BA01B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169CC22
4G169CC40
4G169DA06
4H006AA02
4H006AC13
4H006BA08
4H006BA21
4H006BA30
4H006BE20
4H006BE41
4H039CA11
4H039CB40
(57)【要約】
【課題】CO
2の固定化システムにおいて原料ガスから析出される固体炭素の回収率を向上させると共に反応器の構成を簡易にすることを可能とした固体炭素の析出方法および固体炭素析出システムを提供する。
【解決手段】二酸化炭素と水素とを含む原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記原料ガスからメタンおよび水を生成した後に、前記生成されたメタンと、ドライリフォーミング反応を活性化させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、前記メタンを一酸化炭素に変換する一連の第1の工程と、前記変換された一酸化炭素と、固体炭素析出反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記一酸化炭素から固体炭素を析出する第2の工程と、を含み、前記固体炭素析出反応を活性化させる触媒はセメンタイトであり、前記第1の工程で変換されたガスを前記第2の工程へ導入する前にあらかじめ載置されることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素と水素とを含む原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記原料ガスからメタンおよび水を生成した後に、前記生成されたメタンと、リフォーミング反応を活性化させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、前記メタンを一酸化炭素に変換する一連の第1の工程と、
前記変換された一酸化炭素と、固体炭素析出反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記一酸化炭素から固体炭素を析出する第2の工程と、を含み、
前記固体炭素析出反応を活性化させる触媒はセメンタイトであり、前記第1の工程で変換されたガスを前記第2の工程へ導入する前にあらかじめ載置されることを特徴とする固体炭素の析出方法。
【請求項2】
前記第2の工程は、前記固体炭素析出反応を活性化させる触媒が、前記第1の工程で変換されたガスを前記第2の工程へ導入する前にあらかじめ載置されることに代わり、固体炭素が析出していない新たな前記セメンタイトが連続的または間欠的に供給されると共に固体炭素が析出した前記セメンタイトが連続的または間欠的に排出されることを特徴とする請求項1に記載の固体炭素の析出方法。
【請求項3】
前記固体炭素析出反応を活性化させる触媒は、鉄系触媒の少なくとも一部がセメンタイト化したものであることを特徴とする請求項1に記載の固体炭素の析出方法。
【請求項4】
二酸化炭素と水素とを含む原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記原料ガスからメタンおよび水を生成した後に、前記生成されたメタンと、リフォーミング反応を活性化させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、前記メタンを一酸化炭素に変換する一連の反応を行う第一反応器と、
前記変換された一酸化炭素と、セメンタイトとを接触させ、前記一酸化炭素から固体炭素を析出する第二反応器と、
前記第二反応器に、固体炭素が析出していない新たなセメンタイトを連続的または間欠的に供給すると共に固体炭素が析出した前記セメンタイトを連続的または間欠的に排出する機構と、を備えることを特徴とする固体炭素析出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体炭素の析出方法および固体炭素析出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球温暖化ガスとして環境に悪影響を及ぼす二酸化炭素の削減・固定化は、世界的な急務である。それを受けて、各所において、CO2排出削減技術、CO2分離・回収技術、CO2有用資源化技術、CO2固定化技術など、多様な技術が実用化に向けて研究開発されている。
【0003】
二酸化炭素を有効利用する方法として、例えば、250~500℃に加熱された触媒の存在下において二酸化炭素と水素の混合ガスを流通させると、メタネーション反応によりメタンが合成できることが知られている(特許文献1を参照)。また、メタンを高温熱分解することにより、固体炭素を析出させる技術についても知られている(特許文献2~5を参照)。
【0004】
特許文献2では、触媒を使用せずにメタネーション反応を生じさせる第一反応器と、1200℃以上の温度条件によりメタンを分解する第二反応器とが直列に接続されている連続炭素除去システムが開示されている。
【0005】
特許文献3では、二酸化炭素と水素を触媒の存在下で反応させて、メタンと水を含む混合ガスを生成する第一反応工程と、第一反応工程で得られたメタンガスを原料として、カーボン、グラファイト、カーボンナノチューブおよびダイヤモンドからなる群から選択される少なくとも1つの炭素製品を製造する第二反応工程を含む二酸化炭素の固定化方法が開示されている。
【0006】
特許文献4では、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、原料ガスからメタンおよび水素を生成するメタネーション反応器と、メタネーション反応器で生成されたメタンを加熱することで、メタンを固体炭素および水素に分解するメタン熱分解反応器と、を含む二酸化炭素固定システムが開示されている。
【0007】
特許文献5では、二酸化炭素とメタンの割合が7:3の混合ガスを、触媒30wt%Ni/SiO2が充填されたプレ反応槽に流し、加熱炉によって550℃の反応温度で一定時間反応させることで、二酸化炭素、メタン、水素、一酸化炭素の混合ガスに変換し、その後、鉄を主成分とする触媒50wt%Fe/SiO2が充填された本反応槽に流し、加熱炉によって400℃の低温にて二酸化炭素を水素と接触還元反応をさせて炭素を析出させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-172595号公報
【特許文献2】特開平8-133200号公報
【特許文献3】特開2005-60137号公報
【特許文献4】特開2015-196619号公報
【特許文献5】特開2003-48708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記特許文献2~4では、反応器の構成、反応器の構成に応じた適切な触媒の種類、およびその供給方法については、十分に検討なされておらず、未だ改善の余地が残っている。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、CO2の固定化システムにおいて原料ガスから析出される固体炭素の回収率を向上させると共に反応器の構成を簡易にすることを可能とした固体炭素の析出方法および固体炭素析出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の固体炭素の析出方法は、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記原料ガスからメタンおよび水を生成した後に、前記生成されたメタンと、リフォーミング反応を活性化させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、前記メタンを一酸化炭素に変換する一連の第1の工程と、前記変換された一酸化炭素と、固体炭素析出反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記一酸化炭素から固体炭素を析出する第2の工程と、を含み、前記固体炭素析出反応を活性化させる触媒はセメンタイトであり、前記第1の工程で変換されたガスを前記第2の工程に導入する前にあらかじめ載置されることを特徴とする。
【0012】
(2)また、本発明の固体炭素の析出方法において、前記第2の工程は、前記固体炭素析出反応を活性化させる触媒が、前記第1の工程で変換されたガスを前記第2の工程へ導入する前にあらかじめ載置されることに代わり、固体炭素が析出していない新たな前記セメンタイトが連続的または間欠的に供給されると共に固体炭素が析出した前記セメンタイトが連続的または間欠的に排出されることを特徴とする。
【0013】
(3)また、本発明の固体炭素の析出方法において、前記固体炭素析出反応を活性化させる触媒は、鉄系触媒の少なくとも一部がセメンタイト化したものであることを特徴とする。
【0014】
(4)また、本発明の固体炭素析出システムは、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記原料ガスからメタンおよび水を生成した後に、前記生成されたメタンと、リフォーミング反応を活性化させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、前記メタンを一酸化炭素に変換する一連の反応を行う第一反応器と、前記変換された一酸化炭素と、セメンタイトとを接触させ、前記一酸化炭素から固体炭素を析出する第二反応器と、前記第二反応器に、固体炭素が析出していない新たなセメンタイトを連続的または間欠的に供給すると共に固体炭素が析出した前記セメンタイトを連続的または間欠的に排出する機構と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、CO2の固定化において原料ガスから析出される固体炭素の回収率を向上させると共に反応器の構成を簡易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第一反応から第三反応をそれぞれ別の反応器で行う3段階触媒反応法を示す概念図である。
【
図2】3段階触媒反応法の反応器の構成を簡易にした方法における反応器の構成を示す概念図である。
【
図3】本発明に係る固体炭素析出装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図4】本発明に係る固体炭素析出システムの構成の一例を示す概略図である。
【
図5】スパイラル状の触媒の一例を示す模式図である。
【
図6】実施例および比較例の条件、実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[原理]
二酸化炭素から固体炭素を析出させる方法として、メタネーション反応、ドライリフォーミング反応およびブドワール反応から成る、3段階の触媒反応を利用した方法(以下3段階触媒反応法と記す)が知られている。メタネーション反応、ドライリフォーミング反応およびブドワール反応を利用した固体炭素の析出方法は、以下の反応式によって表すことができる。
第一反応:CO2+4H2→CH4+2H2O ΔH=-165kJ/mol…(式1)
第二反応:CO2+CH4→2CO+2H2 ΔH=248kJ/mol…(式2)
第三反応:2CO→C+CO2 ΔH=-172kJ/mol…(式3)
【0018】
式1に示されるように、初めに二酸化炭素および水素からメタンに変換するメタネーション反応を生じさせる。次に、式2の通り、二酸化炭素およびメタンから一酸化炭素に変換するドライリフォーミング反応を生じさせる。そして、式3の通り、ブドワール反応によって一酸化炭素から固体炭素を析出させ、固体炭素を回収する。これにより、二酸化炭素から固体炭素を析出させることができる。
【0019】
図1は、第一反応から第三反応をそれぞれ別の反応器で行う3段階触媒反応法を示す概念図である。3段階触媒反応法による固体炭素析出は、例えば、以下のように動作する。各反応器の触媒は、あらかじめH
2気流中で550℃、1時間で還元処理する。還元処理が完了したら、各反応器を設定温度に変更する。設定温度に到達するまでの時間は、酸化防止のためH
2またはN
2気流とする。各反応器の温度が所定の温度で安定したら、所定のH
2/CO
2モル比で、H
2およびCO
2の流通を開始する。時間経過とともに、鉄系触媒とH
2およびCOとの反応によりセメンタイト(Fe
3C)が生成し、そのセメンタイトの表面で固体炭素の析出が開始する。ドライリフォーミング反応により、CO
2とCH
4とが反応してH
2およびCOに変換される。そのCOを400~900℃に加熱された鉄系触媒(セメンタイト:Fe
3C)と接触させることで、CO
2として供給した炭素に対して、析出率24~30%の割合で固体炭素を析出させることができる。
【0020】
3段階触媒反応法では、第二反応のドライリフォーミング反応器は、中央部の温度で制御され、中央部が最も高温となっている。すなわち、両端部の温度は低くなる。メタネーション温度は、ドライリフォーミング温度よりも低い温度で制御されるので、
図2に示すように、ドライリフォーミング反応器の上流(ガスの入口)部にメタネーション触媒を載置すれば、一つの反応器で、メタネーション反応とリフォーミング反応とを行わせることができ、メタネーション反応器を省略できる。
【0021】
図2は、3段階触媒反応法の反応器の構成を簡易にした方法における反応器の構成を示す概念図である。
図1の3段階触媒反応法との違いは、リフォーミング反応工程に水蒸気が持ち込まれる点である。リフォーミング反応工程を経た出口のガスは、一例では、CO濃度が30vol%と高いものの、CO
2濃度も25vol%と高く、この高CO
2濃度が固体炭素析出の核となるセメンタイト(Fe
3C)の生成を遅らせる、または生成したセメンタイトを酸化分解させることが推定される。その結果、このように構成した固体炭素析出方法およびシステムは、固体炭素析出率が向上しないという課題があることを発見した。
【0022】
本発明者らは、この課題に対して、あらかじめセメンタイト化した触媒を固体炭素析出反応器に載置すれば、COの流通開始と同時に固体炭素が析出するため、析出率が向上する効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0023】
すなわち、本発明の一態様の固体炭素の析出方法は、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記原料ガスからメタンおよび水を生成した後に、前記生成されたメタンと、リフォーミング反応を活性化させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、前記メタンを一酸化炭素に変換する一連の第1の工程と、前記変換された一酸化炭素と、固体炭素析出反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記一酸化炭素から固体炭素を析出する第2の工程と、を含み、前記固体炭素析出反応を活性化させる触媒はセメンタイトであり、前記第1の工程で変換された混合ガスを前記第2の工程へ導入する前にあらかじめ載置されることを特徴とする。
【0024】
また、メタネーション反応器とリフォーミング反応器を連続的に接続した同時処理反応器(第一反応器)から排出されるガスは、例えば、CO2濃度が20vol%以上含まれており、あらかじめセメンタイト化した触媒を固体炭素析出反応器(第二反応器)内に載置したとしても、いったん析出した固体炭素が時間の経過とともにCO2の酸素によって酸化されてしまうおそれがある。また、セメンタイトが酸化分解されてしまうと、連続して固体炭素を析出することが困難となる。そこで、本発明者らは、固体炭素析出反応器の端部にセメンタイトを供給する手段と、他の端部に固体炭素が析出した触媒を排出するための手段を設けることでこの課題を解決した。
【0025】
すなわち、本発明の別の一態様の固体炭素の析出方法は、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記原料ガスからメタンおよび水を生成した後に、前記生成されたメタンと、リフォーミング反応を活性化させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、前記メタンを一酸化炭素に変換する一連の第1の工程と、前記変換された一酸化炭素と、固体炭素析出反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記一酸化炭素から固体炭素を析出する第2の工程と、を含み、前記固体炭素析出反応を活性化させる触媒は、セメンタイトであり、前記第2の工程は、固体炭素が析出していない新たな前記セメンタイトが連続的または間欠的に供給されると共に固体炭素が析出した前記セメンタイトが連続的または間欠的に排出されることを特徴とする。
【0026】
なお、本発明の同時処理反応器および固体炭素析出反応器で起こる反応は、メタネーション反応で発生した水蒸気を除去していないため、上記の第一反応および第二反応以外の反応も起こっているとものと推定される。
【0027】
次に、二酸化炭素と水素からなる原料ガスを、上記第1の工程から第2の工程まで連続的に反応させた場合における原料ガスの変化について説明する。
【0028】
メタネーション反応では、通常、1molの二酸化炭素および4molの水素から、触媒を介してメタンおよび水蒸気が生成される。このとき、H2/CO2のモル比が理論値である4であったとしても、二酸化炭素と水素の全量が反応して1molのメタンを生成するわけではない。すなわち、二酸化炭素と水素を含む原料ガスは、メタネーション反応で合成されたメタン、未反応の二酸化炭素、水素、および水蒸気を含む混合ガスとなる。なお、メタネーション反応を終えた原料ガスには水蒸気が含まれるが、第一反応器のリフォーミング反応が行なわれる箇所にそのまま送られる。
【0029】
リフォーミング反応では、例えば、メタネーション反応で合成された1molのメタンおよび1molの二酸化炭素から、触媒を介して2molの一酸化炭素および2molの水素が生成される。また、この反応以外に、例えば、1molのメタンおよび1molの水(水蒸気)から、触媒を介して1molの一酸化炭素および3molの水素が生成される。なお、リフォーミング反応では様々な反応系が競合している。そのため、リフォーミング反応を終えた原料ガスは、水素、メタン、二酸化炭素、一酸化炭素、および水蒸気を含む混合ガスとなる。
【0030】
固体炭素析出反応では、例えば、2molの一酸化炭素から、触媒を介して1molの固体炭素および1molの二酸化炭素が生成される。また、この反応以外に、例えば、1molの一酸化炭素および3molの水素から、触媒を介して1molのメタンおよび1molの水(水蒸気)が生成される。また、例えば、1molの一酸化炭素および1molの水素から、触媒を介して1molの固体炭素および1molの水(水蒸気)が生成される。固体炭素は触媒の表面に析出するため、析出した固体炭素を回収するために触媒ごと回収する。なお、固体炭素析出反応では様々な反応系が競合している。そのため、固体炭素析出反応を終えた原料ガスは、水素、メタン、二酸化炭素、一酸化炭素、および水蒸気を含む混合ガスとなる。
【0031】
[固体炭素析出装置の構成]
以下に本発明の実施形態について説明する。
図3は本発明に係る固体炭素析出装置である。固体炭素析出装置1は、二酸化炭素を含むプロセス排ガスから固体炭素を析出させる装置である。プロセス排ガスとは、セメントクリンカ焼成過程、生石灰製造過程、火力発電所、廃棄物焼却処理施設、陶磁器などの焼成設備や製鉄所、化学プラントから排出される二酸化炭素を含む排ガスのことを指す。
【0032】
図3に示すように、固体炭素析出装置1は異なる反応が生じる2つの反応器を有し、2つの反応器は直列に連結されている。原料ガスが供給される反応器を第一反応器10としたとき、第一反応器10、第二反応器20の順で反応が進み、第二反応器20で固体炭素を析出させる。
【0033】
固体炭素析出装置1は、2つの反応器のほかに、水素供給設備3、水素流量計4、ガス混合器5、ガス分離器7、各反応器の出口に設けられる水蒸気除去設備41~42、流量計50を備える。また、固体炭素析出装置1は、触媒劣化の原因となる硫黄酸化物を除去する設備61や二酸化炭素濃縮設備62、第二反応器20から排出された混合ガスを循環利用可能な設備70等を備えていることが好ましい。また、プロセス排ガス中に窒素や酸素が含まれていると原料ガスの絶対量が大きくなってしまうため、第一反応器の前部にプロセス排ガスから窒素や酸素を除去する設備をさらに備えてもよい。
【0034】
ガス混合器5は、複数のガスを混合させることで第一反応器10に供給する原料ガスを調整する。ガス混合器5は、第一反応器10に供給するそれぞれのガスごとに流量を測定する流量計を備えていることが好ましい。
【0035】
ガス混合器5は、水素供給設備3から供給される水素と、二酸化炭素を含むプロセス排ガスとを混合し、第一反応器10に供給する原料ガスを生成する。このとき、原料ガスは、H2/(CO2+CO+CH4)のモル比が1.5以上となるように混合され、より好ましくは2.0以上であり、さらに好ましくは2.5以上である。H2/(CO2+CO+CH4)のモル比が1.5以上であるから原料ガスから安定的に固体炭素を回収することができる。H2/(CO2+CO+CH4)のモル比の上限値は、好ましくは19以下、より好ましくは13以下、さらに好ましくは11.5以下である。モル比が19を超えると、反応にあずからないH2の量が増加し、無駄に設備が大きくなる。また、プロセス排ガスは、硫黄酸化物除去設備61で硫黄酸化物を除去し、二酸化炭素濃縮設備62によって二酸化炭素の濃度を高めてからガス混合器5に供給されることが好ましい。また、第二反応器20から排出される混合ガスを循環利用する設備70を備えている場合には、第二反応器20から排出される混合ガスを原料ガスに混合させてもよい。
【0036】
第一反応器10は、第一反応器前部10-1と第一反応器後部10-2で異なる反応をさせている。
図2に示すように、第一反応器前部10-1と第一反応器後部10-2は、同一のガス流通反応管の内部の、それぞれ原料ガスが流入する低温部および第一反応器前部10-1に対してガスの出口側に位置する高温部に対応している。第一反応器前部10-1には、ガス混合器5から供給される原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、式1の通り、原料ガスからメタンおよび水を生成する。原料ガスは、空間速度が2000~20000/hとなるように、第一反応器10に供給されることが好ましい。第一反応器前部10-1には、メタネーション反応を活性化させる触媒が、同一のガス流通反応管内の原料ガスが流入する側の、温度が400~600℃に制御された部位に載置される。
【0037】
メタネーション反応を活性化させる触媒は、二酸化炭素および水素からメタンを生成可能なものでよく、例えば、Ni、Ru、Pt、Rhである。また、担体としては、CeO2、ZrO2、Y2O3およびAl2O3などの各種酸化物やアルミノシリケートを用いることができる。触媒の形状については、所定の空間速度を達成できれば、どのような形状であってもよいが、触媒の容積が少なくて済むことから螺旋状が好ましい。触媒を螺旋状にする場合、アルミニウムなどの金属製の板部材を螺旋状に成形し、ペースト状の触媒を塗布することで作製される。
【0038】
第一反応器後部10-2は、第一反応器前部10-1を通過し一部反応を終えたメタンを含む混合ガスと、リフォーミング反応を促進させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、メタンを一酸化炭素に変換する。第一反応器後部10-2には、リフォーミング反応を活性化させる触媒が、温度が700~900℃に制御された部位に載置される。
【0039】
第一反応器前部10-1と第一反応器後部10-2は、一の加熱炉を有し、全体として一体的な第一反応器10であることが好ましい。また、第一反応器前部10-1と第一反応器後部10-2が一の加熱炉である場合、それぞれの加熱温度を独立に制御できることが、より好ましい。第一反応器前部10-1と第一反応器後部10-2は、それぞれが別の加熱炉を有する別の反応器であり、第一反応器前部10-1の排出口と第一反応器後部10-2の供給口が直列に連結され、全体として第一反応器10が構成されてもよい。その場合、連結部でガスの温度が低下しないように構成することが好ましい。
【0040】
リフォーミング反応を活性化させる触媒は、二酸化炭素とメタンから一酸化炭素および水素を生成可能なものでよく、例えば、Ni、Rhである。また、担体としては、CeO2、ZrO2、Y2O3およびAl2O3などの各種酸化物やアルミノシリケートを用いることができるが、γ-Al2O3が好ましい。触媒の形状については、所定の空間速度を達成できれば、どのような形状であってもよいが、触媒の容積が少なくて済むことから螺旋状が好ましい。触媒を螺旋状にする場合、ステンレスなどの金属製の板部材を螺旋状に成形し、ペースト状の触媒を塗布することで作製される。
【0041】
第二反応器20は、第一反応器10から供給される一酸化炭素を含む混合ガスと、固体炭素析出反応を活性化させる触媒とを接触させ、一酸化炭素から固体炭素を析出させる。第二反応器20に供給される混合ガスは、空間速度が最大2000/hとなるように供給されることが好ましい。第二反応器20は、固体炭素析出反応を活性化させる触媒が充填されたガス流通反応管と、ガス流通反応管を400~900℃に加熱できる加熱炉とを備える。固体炭素析出反応を活性化させる触媒は、セメンタイトである。固体炭素析出反応を活性化させる触媒は、第二反応器20に一酸化炭素を含むガスを供給する前にあらかじめ載置されることが好ましい。
【0042】
また、第二反応器20は、固体炭素が析出していない新しいセメンタイトを反応器内に連続的または間欠的に供給すると共に、固体炭素が析出したセメンタイトを連続的または間欠的に排出することが可能な機構を備えるものがよい。このような機構は、例えば、傾斜した回転式の機構、プッシャー機構、スクリューフィーダー等で構成できる。セメンタイトの供給手段および排出手段は、例えば、それぞれ二重ダンパなどにより、第二反応器20内に外気(酸素)が流入しないような手段を講じる。第二反応器20は、例えば、流動層、移動層、ロータリーキルンが好ましい。
【0043】
固体炭素析出反応を活性化させる触媒は、鉄系触媒の少なくとも一部がセメンタイト化したものであることが好ましい。鉄系触媒とは、金属鉄、または酸化鉄(マグネタイト(Fe3O4)、ヘマタイト(Fe2O3)、ウスタイト(FeO)等)をいう。特に、酸化鉄のうち、マグネタイトの少なくとも一部がセメンタイト化したものであることが好ましい。触媒の形状については、所定の空間速度を達成できれば、どのような形状であってもよいが、触媒の容積が少なくて済むことから螺旋状が好ましい。触媒を螺旋状にする場合、ステンレスなどの金属製の板部材を螺旋状に成形し、ペースト状の触媒を塗布することで作製される。鉄系触媒を塗布した後にセメンタイト化してもよい。
【0044】
また、
図3では、各反応器の出口に対して水蒸気除去設備41、42が設けられている。水蒸気除去設備41、42は、対象となる反応器の出口から排出されるガスを冷却することで水蒸気を濃縮し、工場排水として排出する。
【0045】
第一反応器前部10-1におけるメタネーション反応では水蒸気が生成されるが、そのまま第一反応器後部10-2に供給させる。これにより、第一反応器の構成を簡易にできる。また、第一反応器前部10-1における反応で生成した水蒸気の一部が、未反応のまま第一反応器後部10-2を通過する。さらに、第一反応器10内では様々な反応系が競合していることや、触媒の種類や温度条件等が変更された際に水蒸気が生成されるおそれがある。そのため、第一反応器10の出口に第一水蒸気除去設備41を設けることが好ましい。また、第二反応器20では固体炭素析出反応が支配的であるが、水蒸気を生成する反応が一部生じてしまうことが考えられる。そのため、第二反応器20の出口に第二水蒸気除去設備42を設けることが好ましい。
【0046】
また、固体炭素析出装置1は、上述した通り、第二反応器20から排出される混合ガスを循環利用可能な設備70を有していることが好ましい。第二反応器20から排出される混合ガスを循環利用可能な設備70としては、第二反応器20から排出される混合ガスを、第一反応器10に供給する設備が考えられる。第二反応器20から排出される混合ガスには二酸化炭素が含まれるため、混合ガスを外へ排出せずに原料ガスの原料として利用することにより、二酸化炭素の排出を防止できる。なお、第二反応器20から排出される混合ガスを循環利用可能な設備70は、第二反応器20だけでなく、第一反応器10から排出された混合ガスの一部をガス分離器7により分離して、再び第一反応器10へ循環することが望ましい。このとき、排出された混合ガスを各反応器に直接供給するのではなく、第一反応器10に供給される各々のガスの流量を制御し、ガス混合器5で均一に混合してから供給することが好ましい。
【0047】
混合ガスの組成比を調整するためには、ガス混合器5に供給されるガスの組成比を測定するセンサ、各混合ガスの流量を調整可能な弁およびガス混合器5が設置されていることが好ましい。センサは少なくとも水素、メタン、二酸化炭素および一酸化炭素の成分比率を把握可能なものであればよく、各混合ガスの流量を調整可能な弁はプロセス排ガスが排出される排出口や水素供給設備3だけでなく、第一反応器10や第二反応器20から排出される混合ガスをガス混合器へ循環利用する際に設けられていることが好ましい。
【0048】
また、固体炭素析出装置1において、第一反応器前部10-1および第二反応器20内における反応が発熱反応であることに対し、第一反応器後部10-2内における反応は吸熱反応である。そのため、第一反応器前部10-1および第二反応器20から排出される混合ガスの顕熱を熱交換器により回収し、第一反応器後部10-2のエネルギー源として使用することが好ましい。
【0049】
[固体炭素析出システム]
次に固体炭素析出システムについて説明する。
図4は、固体炭素析出システムの構成を示す概略図である。固体炭素析出システム500は、固体炭素析出装置1において第二反応器20に供給され、または第二反応器20から排出される固体炭素析出反応を活性化する触媒(セメンタイト)の量を、ユーザにより指定された範囲に制御することが好ましい。供給量または排出量は、各反応器から排出される混合ガスおよびプロセス排ガスの組成比に基づいて制御することが好ましい。また、固体炭素析出システム500は、固体炭素析出装置1において各反応器に供給される混合ガスの組成比を、ユーザにより指定された範囲に制御することが好ましい。
【0050】
固体炭素析出システム500は、固体炭素析出装置1と制御装置100とを有する。制御装置は、記憶部110、操作部120および制御部130を有する。記憶部110は、固体炭素析出装置1において測定された値を記録する。固体炭素析出装置1において測定された値は、例えば、各反応器から排出される混合ガスおよびプロセス排ガスの組成比など、ガス混合器5に供給されるガスの組成比が含まれる。
【0051】
操作部120は、ユーザが任意に入力可能なデバイスであり、例えば、キーボードやマウス、タッチパネルである。ユーザは操作部120を介して第二反応器20に供給され、または第二反応器20から排出される固体炭素析出反応を活性化する触媒の量について任意の範囲を入力できる。制御部130は、記憶部110に記録されているデータに基づいて、ユーザにより指定された範囲となるように固体炭素析出反応を活性化する触媒の量を制御する。具体的には、第二反応器20に設けられた傾斜した回転式の機構、プッシャー機構、スクリューフィーダー等の機構を制御することで、第二反応器20に供給され、または第二反応器20から排出される固体炭素析出反応を活性化する触媒の量が、ユーザにより指定された範囲となるように制御する。
【0052】
また、ユーザは操作部120を介して各反応器に供給される混合ガスの組成比について任意の範囲を入力できる。制御部130は、記憶部110に記録されているデータに基づいて、ユーザにより指定された範囲となるように混合ガスの組成比を制御する。具体的には、各設備からのガス流量を認識するとともにガス混合器5に供給される各々のガスの弁を制御することで、ガス混合器5において混合ガスの組成比が、ユーザにより指定された範囲となるように制御する。
【0053】
なお、本実施形態では、第二反応器20に供給され、または第二反応器20から排出される固体炭素析出反応を活性化する触媒の量の両方が制御可能な例について記述したが、供給される量または排出される量のいずれか一方が能動的に制御可能であり、その結果もう一方の量が制御される構成であってもよい。また、本実施形態では、すべての反応器における混合ガスの組成比が制御可能な例について記述したが、少なくとも第一反応器10に供給される原料ガスにおけるH2/(CO2+CO+CH4)のモル比をユーザが指定した範囲に制御可能であればよく、第二反応器20に供給される混合ガスの組成比を制御できなくてもよい。
【0054】
[固体炭素の析出方法]
次に、固体炭素の析出方法について説明する。
まず、第一反応器10に供給する原料ガスを調整する。原料ガスは、水素供給設備3から供給される水素と、二酸化炭素を含むプロセス排ガスと、ガス分離器7で分離されたH2および/またはCO2と、第二反応器20から排出されたガスを混合し、H2/(CO2+CO+CH4)のモル比が1.5以上となるように調整される。
【0055】
次に、原料ガスを第一反応器10に供給し、第一反応器前部10-1のガス流通反応管に原料ガスを流通させる。ガス流通反応管のなかには加熱炉によって400~600℃に加熱された触媒が充填されており、メタネーション反応を活性化させる触媒と原料ガスが接触し、原料ガスからメタンが生成される。H2/CO2のモル比が1.5の原料ガスを第一反応器に供給し反応温度500℃でメタン化した後、第一反応を終えた混合ガスは、例えば、水素の濃度が20体積%、メタンの濃度が9体積%、二酸化炭素の濃度が32体積%、一酸化炭素の濃度が4体積%、水蒸気の濃度が35体積%となる。
【0056】
次に、第一反応器前部10-1から排出された混合ガスを第一反応器後部10-2に供給し、第一反応器後部10-2のガス流通反応管に混合ガスを流通させる。ガス流通反応管のなかには加熱炉によって約800℃に加熱された触媒が充填されており、リフォーミング反応を活性化させる触媒と混合ガスが接触し、メタンが一酸化炭素に変換される。二酸化炭素と水素とを含む原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、原料ガスからメタンおよび水を生成した後に、生成されたメタンと、リフォーミング反応を活性化させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、メタンを一酸化炭素に変換する一連の工程を第1の工程という。第1の工程を終えて水蒸気が除去された混合ガスは、例えば、水素の濃度が45体積%、二酸化炭素の濃度が23体積%、一酸化炭素の濃度が32体積%となる。
【0057】
次に、第一反応器後部10-2から排出された混合ガスを第二反応器20に供給し、第二反応器20のガス流通反応管に混合ガスを流通させる。ガス流通反応管のなかには加熱炉によって約450℃に加熱された触媒が充填されており、固体炭素析出反応を活性化させる触媒と混合ガスが接触し、一酸化炭素が固体炭素となり、触媒の表面に固体炭素が析出する。そして、固体炭素が析出した触媒を回収することによって、固体炭素を回収できる。第1の工程で変換された一酸化炭素と、固体炭素析出反応を活性化させる触媒とを接触させ、一酸化炭素から固体炭素を析出する工程を第2の工程という。触媒表面に析出した固体炭素は、例えば、0.64g/hrの速度で第二反応器20の自由空間を埋めていく。なお、第2の工程を終えて水蒸気が除去された混合ガスは、例えば、水素の濃度が44体積%、メタンの濃度が3体積%、二酸化炭素の濃度が33体積%、一酸化炭素の濃度が20体積%となる。
【0058】
以上のことから、本発明における固体炭素の析出方法では、原料ガスを第一反応器に供給するところから第二反応器において固体炭素が析出されるまで、連続的に反応させることができる。また、メタネーション反応とリフォーミング反応を1の反応器で行うことができる。これにより、個々の反応が独立している場合と比べて、反応器の構成が簡易になり、コストを低減することができる。
【0059】
[実施例]
(実施例1)
メタネーション反応器(第一反応器前部)を構成する加熱炉には温度制御が可能な1ゾーン電気炉(アサヒ理化製作所製セラミックス電気管状炉、有効長さ300mm)を用いた。また、第一反応器前部の常圧流通式反応管には内径8mmφ、長さ600mmの石英管を用いた。常圧流通式反応管の内部における加熱炉の温度制御用熱電対の位置に、メタネーション反応を活性化させる触媒として、
図5に示すスパイラル状の構造体の表面に10wt%Ni/CeO
2を塗布した触媒を2本設置した。
【0060】
メタネーション反応を活性化させる触媒は、CeO2(関東化学社製試薬)を担体とし、蒸発乾固法により、Ni(NO3)2・6H2O(富士フイルム和光純薬、98%)を10wt%担持させた。担持させた後に、硝酸成分を分離するために大気雰囲気中500℃2時間で焼成した。焼成物を冷却した後に蒸留水を加え、乳鉢を用いてすりつぶすことにより、Ni/CeO2ペーストを作製した。
【0061】
Ni/CeO
2ペーストとは別に、
図5のようにスパイラル状にひねったアルミ板(JIS A1100 H14、幅7mm×長さ50mm、厚さ1.5mm)に対して、0.8molのNaOH水溶液および3.0molの塩酸溶液により表面処理を施した。そして、スパイラル状にひねったアルミ板に目的のメタネーションが達せられるのに十分な量のNi/CeO
2触媒が担持されるまで、冷風で乾燥と浸漬を繰り返すことで作製した。
【0062】
リフォーミング反応器(第一反応器後部)は、メタネーション反応を活性化させる触媒の代わりに、リフォーミング反応を活性化させる触媒を用いたことを除いて、第一反応器前部と同様に準備した。リフォーミング反応を活性化させる触媒は、市販のγ-Al
2O
3(日本軽金属株式会社製C20)を担体とし、蒸発乾固法でNi(NO
3)
2・6H
2O(富士フイルム和光純薬、98%)を10wt%担持したものであり、
図5のようにスパイラル状にひねったステンレス板(SUS304、幅7mm×長さ50mm、厚さ0.5mm)にNi/γ-Al
2O
3ペーストを塗布したことを除いて、メタネーション反応を活性化させる触媒と同様の方法で作製した。
【0063】
固体炭素析出反応器(第二反応器)は、常圧流通式反応管として、内径21mmφ、長さ600mmの石英管を用いたこと、メタネーション反応を活性化させる触媒の代わりに、固体炭素析出反応を活性化させる触媒の前駆体を常圧流通式反応管内部に8本静置(4本を一束にして、直列に二束を配置した)したことを除いて、第一反応器と同様に準備した。固体炭素析出反応を活性化させる触媒の前駆体はマグネタイト(Fe
3O
4試薬:富士フイルム和光純薬、98%)であり、マグネタイトに蒸留水を添加してペースト状にした。
図5のようにスパイラル状にひねったステンレス板(SUS304、幅7mm×長さ50mm、厚さ0.5mm)にペースト状にしたマグネタイトを塗布したことを除いて、メタネーション反応を活性化させる触媒と同様の方法で作製した。
【0064】
各反応器を準備したあとに、それぞれの触媒、触媒の前駆体を還元処理するため、水素を200ml/minでフローしながら500℃を1時間保持した。次に、固体炭素析出反応器内のマグネタイトをセメンタイト化させるために、以下の処理を行った。まず、リフォーミング反応器(第一反応器後部)とは別にドライリフォーミング反応器を準備した。次に、メタネーション反応器(第一反応器前部)とドライリフォーミング反応器と固体炭素析出反応器(第二反応器)とを、それぞれ水分トラップを介し直列に接続した。次に、原料ガスのH2/CO2モル比を2.5とし、設定温度340℃でメタネーション反応を行わせた。反応ガスを水分トラップを介して、ドライリフォーミング反応器に導入し、設定温度800℃でドライリフォーミング反応を行わせた。そして、設定温度450℃の第二反応器へ導き、40分間のセメンタイト化を行った。この処理は、3段階触媒反応法の場合、メタネーション原料ガスのH2/CO2比が2.5とすると、約40分でセメンタイト化が完了することが判明しているからである。このような処理により、固体炭素析出反応を活性化させる触媒の前駆体であるマグネタイトが金属鉄に還元され、さらに少なくとも一部がセメンタイト化される。なお、この処理を行わず、固体炭素析出反応を活性化させる触媒であるセメンタイトを別途準備して載置してもよい。
【0065】
セメンタイト化終了後、第二反応器の内部を不活性ガスで充満し、両端の開口部をシリコン栓で閉じて、冷却した。冷却後、メタネーション反応器とリフォーミング反応器を水分トラップを介さず接続し、同時処理反応器(第一反応器)とした。また、全体の反応器の組み合わせを、同時処理反応器(第一反応器)と固体炭素析出反応器(第二反応器)とし、不活性ガスを通通させながら、それぞれ800℃および450℃に昇温した。両方の反応器がそれぞれ所定の温度に到達した後、不活性ガスに替えて、水素供給設備3として水素の標準ガスボンベを、プロセス排ガスの代わりに二酸化炭素の標準ガスボンベを用いて、マスフローコントローラーおよびガス混合器を介して、同時処理反応器(第一反応器)に原料ガスを供給した。
【0066】
このとき、原料ガスにおけるH2/CO2のモル比を1.5として、4時間固体炭素の回収を行なった。具体的には、マスフローコントローラーによって、水素の流量を150ml/minとし、二酸化炭素の流量を100ml/minとし、原料ガス全体の流量を250ml/minとして第一反応器に供給した。
【0067】
各反応器の出口には、水蒸気除去設備を設けるとともにサンプリング孔を設置した。各反応器の指示温度が設定温度に到達してから30分経過した後に、サンプリング孔からシリンジを用いてサンプリングし、ガスクロマトグラフGC-2014(島津製作所製)を用いて、水素、窒素、酸素、メタン、一酸化炭素および二酸化炭素を定量分析した。
【0068】
また、第二反応器の出口には、湿式ガスメーターを設置してガス流量を計測した。第二反応器から排出された混合ガスは循環利用せずに、屋外の除害設備に排出した。そして、第二反応器が十分に冷却されたあとに常圧流通式反応管内から触媒を取り出し、析出した固体炭素の重量を測定し、以下の式4から固体炭素の回収率を算出した。
固体炭素回収率(%)=(析出した固体炭素のモル量)/(固体炭素析出装置に供給した炭素のモル量)×100…(式4)
【0069】
(比較例)
固体炭素析出反応を活性化する触媒をマグネタイトとして、セメンタイト化の処理を行わなかったこと以外は、実施例と同様に実施した。
【0070】
(実験結果)
実施例および比較例における実験結果について、
図6の表に示す。
図6は、実施例および比較例の条件、実験結果を示す表である。
図6の表では、原料ガスにおけるH
2/CO
2のモル比、各反応器の出口に設けられたサンプリング孔からサンプリングされた混合ガスにおける水素、メタン、二酸化炭素および一酸化炭素のガス濃度および固体炭素回収率について示されている。
【0071】
マグネタイトをセメンタイト化して原料ガスの導入前にあらかじめ載置した実施例では、固体炭素回収率が14.7%と高かった。これに対して、マグネタイトをセメンタイト化する処理を行わなかった比較例では、固体炭素回収率が6.5%であり、非常に低かった。これは、同時処理反応器から排出されるガスのCO2濃度が高いため、固体カーボン析出の核となるセメンタイトの生成を遅らせる、または生成したセメンタイトを酸化分解させるためであると推定される。
【0072】
以上の結果から、本発明の3段階触媒反応法を簡易にした構成の固体炭素析出方法、装置、システムでは、固体炭素析出反応を活性化させる触媒を、セメンタイトとしてあらかじめ載置する、または固体炭素が析出していない新たなセメンタイトを連続的または間欠的に供給すると共に固体炭素が析出したセメンタイトを連続的または間欠的に排出することで固体炭素回収率を向上可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 固体炭素析出装置
3 水素供給設備
4 水素流量計
5 ガス混合器
7 ガス分離器
10 第一反応器
10-1 第一反応器前部
10-2 第一反応器後部
20 第二反応器
41 第一水蒸気除去設備
42 第二水蒸気除去設備
50 流量計
61 硫黄酸化物を除去する設備
62 二酸化炭素濃縮設備
70 混合ガスを循環利用する設備
100 制御装置
110 記憶部
120 操作部
130 制御部
500 固体炭素析出システム