(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157431
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】レーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/0683 20060101AFI20241030BHJP
H01S 5/02253 20210101ALI20241030BHJP
H01S 5/02251 20210101ALI20241030BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20241030BHJP
B23K 26/067 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
H01S5/0683
H01S5/02253
H01S5/02251
B23K26/00 N
B23K26/00 M
B23K26/067
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071796
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金武 知樹
(72)【発明者】
【氏名】瀧 成治
(72)【発明者】
【氏名】持山 智浩
【テーマコード(参考)】
4E168
5F173
【Fターム(参考)】
4E168CA02
4E168CA04
4E168DA13
4E168DA26
4E168EA03
4E168EA09
4E168EA17
4E168KA04
5F173MA08
5F173MB03
5F173ME44
5F173MF03
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5F173MF39
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5F173SC10
5F173SE01
5F173SF03
5F173SF07
5F173SF32
5F173SF43
5F173SF67
(57)【要約】
【課題】パワーモニタの検出値が安定しない期間にも、出射ヘッドの光出力を精度良く制御できるようにする。
【解決手段】レーザ加工装置に、パラメータ記憶部62を設け、制御部61に、発光制御中のパワーモニタ14の検出値に基づくパラメータをパラメータ記憶部62に保存させる。制御部61を、各発光制御中に、その発光制御中のパワーモニタ14の検出値に基づいて電流指令値を算出する第1モードと、過去の発光制御中のパワーモニタ14の検出値に基づくパラメータ記憶部62に保存されたパラメータを参照して、電流指令値を算出する第2モードとで動作可能とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出射する複数のレーザダイオードと、
前記複数のレーザダイオードから出射されたレーザ光を集光するレンズ又は光学ユニットからなる光合成部と、
前記光合成部により出射されたレーザ光を、第1分割光及び第2分割光に分割する部分透過ミラーと、
前記第1分割光の光量を検出するパワーモニタと、
前記第2分割光を出射ヘッドに導く伝送ファイバと、
電流指令値に応じた電流を前記複数のレーザダイオードに流す電源と、
前記電流指令値を出力することにより、前記複数のレーザダイオードに前記レーザ光を連続して出射させる発光制御を実行する制御部とを備えたレーザ加工装置であって、
パラメータ記憶部をさらに備え、
前記制御部は、
前記発光制御中の前記パワーモニタの検出値に基づくパラメータを前記パラメータ記憶部に保存し、
各前記発光制御中に、当該発光制御中の前記パワーモニタの検出値に基づいて前記電流指令値を算出する第1モードと、過去の前記発光制御中の前記パワーモニタの検出値に基づく前記パラメータ記憶部に保存された前記パラメータを参照して、前記電流指令値を算出する第2モードとで動作可能であることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ加工装置において、
前記過去の前記発光制御は、前回の前記発光制御であることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザ加工装置において、
前記制御部が前記第2モードにおいて前記電流指令値を算出するために参照する前記パラメータは、前回の前記発光制御中に最後に取得した前記パワーモニタの検出値に基づくものであることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項4】
請求項1に記載のレーザ加工装置において、
前記伝送ファイバからの散乱光の光量を検出する散乱光検出部を備え、
前記制御部は、前記発光制御中に、前記散乱光検出部の検出値に基づく所定の条件が満たされたか否かの判定を行い、前記所定の条件が満たされている場合には、前記第1モードで動作し、前記所定の条件が満たされていない場合には、前記第2モードで動作することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項5】
請求項4に記載のレーザ加工装置において、
前記散乱光検出部は、前記パワーモニタとは別に設けられていることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項6】
請求項4に記載のレーザ加工装置において、
前記散乱光検出部は、前記パワーモニタであることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、
前記複数のレーザダイオードによる前記レーザ光の出射を開始してから、前記散乱光検出部の検出値の平均値を所定の単位時間毎に繰り返し取得した場合に、k回目に取得した平均値をS(k)とすると、
前記所定の条件は、-0.01<(S(k)-S(k-1))/S(k)<0を満たす平均値を所定回数連続で取得し終えたという条件であることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項8】
請求項5に記載のレーザ加工装置において、
前記所定の条件は、前記散乱光検出部の検出値に基づいて算出される前記出射ヘッドの光出力から、前記パワーモニタの検出値に基づいて算出される前記出射ヘッドの光出力を引いた差が、所定閾値以下となることであることを特徴とするレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数のレーザダイオードから出射されたレーザ光を集光して出射ヘッドから出射するレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーザ光を出射するレーザダイオードと、レーザダイオードから出射されたレーザ光を集光するレンズからなる光合成部と、前記光合成部により出射されたレーザ光を、第1分割光及び第2分割光に分割する部分透過ミラーと、前記第1分割光の光量を検出するパワーモニタと、前記第2分割光を出射ヘッドに導く伝送ファイバと、前記パワーモニタの検出値を用いて電流指令値を算出する制御部と、前記制御部によって算出された前記電流指令値に応じた電流を前記レーザダイオードに供給する電源とを備えたレーザ加工装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示されたようなレーザ加工装置では、レーザダイオードがレーザ光の出射を開始した直後等、パワーモニタの検出値が安定しない期間がある。例えば、レーザダイオードがレーザ光の出射を開始した直後に、レーザ加工装置内の温度変化により、伝送ファイバへの入射光の入射面における位置が本来の位置からずれるいわゆる光軸ずれが生じる。このとき、光軸ずれにより伝送ファイバからの散乱光が増大し、レーザ加工装置の筐体内で多重反射した後パワーモニタに入射し、その結果、パワーモニタの検出値が、出射ヘッドの実際の光出力(出射光の出力)に対応する値よりも大きくなる。したがって、伝送ファイバからの散乱光が光軸ずれによって増大している期間のパワーモニタの検出値に基づいて算出した電流指令値を、光軸ずれが収まった後に用いると、出射ヘッドの光出力が想定値よりも小さくなってしまう。
【0005】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、パワーモニタの検出値が安定しない期間にも、出射ヘッドの光出力を精度良く制御できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示は、レーザ光を出射する複数のレーザダイオードと、前記複数のレーザダイオードから出射されたレーザ光を集光するレンズ又は光学ユニットからなる光合成部と、前記光合成部により出射されたレーザ光を、第1分割光及び第2分割光に分割する部分透過ミラーと、前記第1分割光の光量を検出するパワーモニタと、前記第2分割光を出射ヘッドに導く伝送ファイバと、電流指令値に応じた電流を前記複数のレーザダイオードに流す電源と、前記電流指令値を出力することにより、前記複数のレーザダイオードに前記レーザ光を連続して出射させる発光制御を実行する制御部とを備えたレーザ加工装置であって、パラメータ記憶部をさらに備え、前記制御部は、前記発光制御中の前記パワーモニタの検出値に基づくパラメータを前記パラメータ記憶部に保存し、各前記発光制御中に、当該発光制御中の前記パワーモニタの検出値に基づいて前記電流指令値を算出する第1モードと、過去の前記発光制御中の前記パワーモニタの検出値に基づく前記パラメータ記憶部に保存された前記パラメータを参照して、前記電流指令値を算出する第2モードとで動作可能であることを特徴とする。
【0007】
これにより、発光制御中のパワーモニタの検出値が安定しない期間に、制御部に、過去の発光制御中のパワーモニタの実際の検出値に基づく電流指令値を出力させることができる。したがって、パワーモニタの検出値が安定しない期間に、制御部に、パワーモニタの不安定な検出値に基づく電流指令値を出力させる場合に比べ、出射ヘッドの光出力を精度良く制御できる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、パワーモニタの検出値が安定しない期間にも、出射ヘッドの光出力を精度良く制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施形態1に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
【
図3】レーザ光出射部及び光合成部の詳細な構成を示す模式図である。
【
図4】複数のレーザモジュールの構成を示す模式図である。
【
図7】レーザ加工装置の指令値算出動作を示すフローチャートである。
【
図8】電流指令値を常に出荷時の定格出力電流値とした場合における,レーザダイオードバーが使用によりある程度劣化した状態でのパワーモニタの検出値に基づいて得られる出力換算値、出射ヘッドの実際の光出力、及び電流指令値を例示するタイミングチャートである。
【
図9】電流指令値を出荷時の定格出力電流値として発光制御を開始した直後、パワーモニタの検出値に基づく電流指令値の算出を、所定時間毎に繰り返す場合における,
図8相当図である。
【
図11】実施形態2における,パワーモニタの検出値に基づいて得られる出力換算値を例示するタイミングチャートである。
【
図12】実施形態3における,電流指令値を例示するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0011】
《実施形態1》
図1は、金属製の加工対象物としてのワークWの切断、溶接といったレーザ加工に用いられる本開示の実施形態1に係るレーザ加工装置100を示す。同図に示すように、レーザ加工装置100は、レーザ装置10と伝送ファイバ40と出射ヘッド50と制御装置60と電源70と指令部80とを備えている。レーザ装置10と、レーザ装置10よりレーザ光が出射される端部(以下、単に出射端という。)と、レーザ装置10より伝送ファイバ40にレーザ光が入射される端部(以下、単に入射端という。)とは筐体90に収容されている。
【0012】
レーザ装置10は、
図2に示すように、レーザ光出射部11と、光合成部12と、部分透過ミラー13と、散乱光検出部としてのパワーモニタ14と、集光ユニット16とを備えている。
【0013】
レーザ光出射部11は、
図3に示すように、互いに異なる波長のレーザ光LB1を発する例えば10個のレーザモジュール30を有している。各レーザモジュール30は、
図4~6に示すように、レーザダイオードバー(LDバー)31を有しており、レーザダイオードバー31は、並列に配置された複数のエミッタ31bを有する半導体レーザアレイである。言い換えるとレーザダイオードバー31は、エミッタ31bを有する並列に配置された複数のレーザダイオードからなる半導体レーザアレイである。レーザダイオードバー31は、平面視矩形状の平板形状をなし、その一方の面には板状の正電極32が配置され、正電極32の一方の面が取り付けられている。また、レーザダイオードバー31の他方の面には、正電極32よりも広い板状の負電極33が配置され、負電極33の一方の面の一部が取り付けられている。レーザダイオードバー31の一側面が、レーザ光LB1を出射するレーザ光出射面31aを構成している。各電極(正電極32,負電極33)には、配線35が接続され、当該配線35を介して後述する電源70から電流(電力)が供給される。なお、一つのレーザダイオードバー31に含まれるエミッタ31bの個数は、例えば50個に設定される。10個のレーザモジュール30のレーザダイオードバー31は、互いに直列に接続されている。
【0014】
光合成部12は、レーザ光出射部11に含まれるレーザダイオードから出射されたレーザ光LB1を集光する。具体的には、光合成部12は、10個のレーザモジュール30からそれぞれ出射されたレーザ光LB1を集光する第1集光レンズ12aと、第1集光レンズ12aにより出射されたレーザ光を反射させる反射鏡12bとを備えた光学ユニットである。
【0015】
部分透過ミラー13は、光合成部12の反射鏡12bにより出射されたレーザ光を、第1分割光LB2及び第2分割光LB3に分割する。具体的には、部分透過ミラー13は、光合成部12の反射鏡12bにより出射されたレーザ光の一部を第1分割光LB2として透過させる一方、残りを第2分割光LB3として反射させる。
【0016】
パワーモニタ14は、部分透過ミラー13を透過した第1分割光LB2の光量を検出する。パワーモニタ14は、例えば、第1分割光LB2を減衰させて出力する減衰部と、減衰部の出力を検出するフォトダイオードとで構成される。
【0017】
集光ユニット16は、部分透過ミラー13を反射した第2分割光LB3を集光し、所定の倍率でビーム径を縮小して伝送ファイバ40に入射させる第2集光レンズ16aと、伝送ファイバ40の入射端が接続されるコネクタ(図示せず)とを有している。
【0018】
伝送ファイバ40は、集光ユニット16の第2集光レンズ16aに光学的に結合され、当該第2集光レンズ16aを介してレーザ装置10から受け取った第2分割光LB3を出射ヘッド50に導く。
【0019】
出射ヘッド50は、伝送ファイバ40から出力されるレーザ光LB4を外部に向けて照射する。例えば、出射ヘッド50は、所定の位置に配置されたワークWに向けて、レーザ光LB4を出射する。このようにすることで、ワークWにレーザ加工が施される。
【0020】
制御装置60は、具体的には、制御部61と、パラメータ記憶部62とを有している。制御部61の機能は、コンピュータによって実現される。制御部61は、電流指令値を電源70に出力することにより、レーザダイオードバー31に前記レーザ光LB1を連続して出射させる発光制御を実行する。制御部61は、発光制御中に、第1モードと第2モードとで動作可能である。
【0021】
なお、制御部61は、発光制御中に最後に取得したパワーモニタ14の検出値に基づく補正値を、パラメータとしてパラメータ記憶部62に保存する。
【0022】
第1モードにおいて、制御部61は、後述する電流指令値更新動作を、所定時間毎に繰り返す。電流指令値更新動作は、パワーモニタ14の検出値を取得し、取得した検出値に基づいて、電流指令値の補正値を算出し、算出した補正値を、後述する指令部80により出力される指令信号に基づく電流指令値に加算することにより、新たな電流指令値を算出する動作である。補正値は、パワーモニタ14の検出値と、初期設定動作で設定された設定値との差分に基づいて、パワーモニタ14の検出値が設定値となるように算出される。したがって、第1モードにおいて、電源70に出力される電流指令値は、所定時間毎に更新される。ここで、所定時間、すなわち電流指令値更新動作が行われる周期は、1ns~1sに設定される。
【0023】
第2モードにおいて、制御部61は、前回の発光制御中の最後に取得したパワーモニタ14の検出値に基づくパラメータ記憶部62に保存された補正値を参照し、電流指令値を算出する。制御部61による制御の詳細については、後述する。
【0024】
パラメータ記憶部62には、初期値として0が設定される。レーザ加工装置100が出荷されて発光制御が1回以上実行された後には、パラメータ記憶部62に、前回の発光制御中の最後に取得されたパワーモニタ14の検出値に基づく補正値が保存される。
【0025】
電源70は、制御部61によって算出された電流指令値に応じた電流を、前記レーザ光出射部11に含まれるレーザダイオードバー31及び配線35に流す。
【0026】
指令部80は、出射ヘッド50の光出力(出射光の出力)の目標値を示す入力をユーザから受け付け、当該目標値を示す指令信号を制御部61に出力する。指令部80は、レーザ光LB4の出力の停止を指示する入力も、ユーザから受け付け、停止指示を制御部61に出力する。また、指令部80は、制御部61の出力に応じた表示(出力)を行うモニタを有している。
【0027】
次に、上述のように構成されたレーザ加工装置100の動作について説明する。
【0028】
上述のように構成されたレーザ加工装置100は、出荷時に、初期設定動作を実行する。初期設定動作は、制御部61が、電流指令値として所定の定格出力電流値を出力することにより、レーザ光出射部11に含まれるレーザダイオードバー31に当該定格出力電流値の電流を流し、このときのパワーモニタ14の検出値を設定値として設定する動作である。また、このときの出射ヘッド50の実際の光出力は、定格出力となる。
【0029】
また、レーザ加工装置100は、ユーザの指令部80への入力に応じて、発光動作を行うことにより、レーザ加工を行える。具体的には、レーザ加工装置100は、
図7に示す発光動作を実行する。
【0030】
ユーザが、出射ヘッド50の光出力の目標値を示す入力を指令部80に行うと、指令部80がこれを受け付け、当該目標値を示す指令信号を制御部61に出力する。これに応じて、S101において、制御部61は、レーザダイオードバー31にレーザ光LB1を連続して出射させる発光制御を開始する。具体的には、制御部61は、パラメータ記憶部62に保存された補正値を、指令部80により出力された指令信号に応じた電流指令値に加算することにより、電流指令値を算出し、電源70に出力する。これにより、制御部61は、算出した電流指令値に応じた電流を、レーザ光出射部11に含まれるレーザダイオードバー31に流し始める。これにより、レーザ光出射部11がレーザ光LB1の出射を開始する。
【0031】
次いで、S102において、制御部61は、k=1、n=0とする。kは、レーザ光出射部11がレーザ光LB1の出射を開始してから、パワーモニタ14の検出値の1秒間の平均値を何回目に取得するかを示す値である。nは、-0.01<(S(k)-S(k-1))/S(k)<0を満たす平均値を何回連続で取得しているかを示す値である。S(k)は、レーザ光出射部11がレーザ光LB1の出射を開始してからk回目に取得した平均値である。
【0032】
次いで、S103において、制御部61は、1秒が経過するのを待つ。そして、1秒が経過すると、経過した1秒間におけるパワーモニタ14の検出値の平均値を取得し、当該平均値をS(k)とする。なお、パワーモニタ14の検出値のサンプリング間隔は、例えば、10μsに設定される。
【0033】
次いで、S104において、制御部61は、-0.01<(S(k)-S(k-1))/S(k)<0が満たされているか否かを判定する。満たされている場合には、S105に進む一方、満たされていない場合には、S106に進む。なお、S(0)は、0とする。
【0034】
S105では、制御部61が、n=n+1とするとともにk=k+1とし、S107に進む。
【0035】
S106では、制御部61が、k=k+1、n=0とし、S103に戻る。
【0036】
S107では、制御部61が、n=3であるか否かを判定し、n=3である場合にはS108に進み、n=3でない場合にはS103に戻る。
【0037】
S108では、制御部61が、第1モードでの動作を開始する。そして、以降、制御部61は、上記電流指令値更新動作を、所定時間毎に繰り返す。これに応じて、電源70は、レーザ光出射部11に含まれるレーザダイオードバー31に、最近の電流指令値更新動作により算出された電流指令値に応じた電流を流す。第1モードでの動作中に、停止指示を指令部80が出力すると、動作は、S109に進む。
【0038】
S109では、制御部61は、最近の電流指令値更新動作で算出した補正値を、パラメータ記憶部62に保存し、電流指令値を0とすることにより、レーザダイオードバー31によるレーザ光LB1の出射を停止する。
【0039】
したがって、上記S101で開始される発光制御が、出荷後2回目以降の発光制御である場合、S101において、制御部61は第2モードの動作を開始することになる。
【0040】
仮に、電流指令値を常に出荷時の定格出力電流値とした場合、レーザダイオードバー31が使用によりある程度劣化していると、
図8に示すように、出射ヘッド50の実際の光出力が、定格出力を下回る。
図8において、レーザ光LB1の出射開始直後には、レーザ加工装置100内の温度変化により光軸ずれが生じ、伝送ファイバ40からの散乱光が増大し、パワーモニタ14の検出値に基づいて得られる出力換算値が、定格出力を上回っている。その後、光軸ずれが収まると、パワーモニタ14の検出値に基づいて得られる出力換算値は、定格出力を下回った状態で安定する。
【0041】
また、電流指令値を出荷時の定格出力電流値として発光制御を開始した後、パワーモニタ14の検出値に基づく指令値の算出を、所定時間毎に繰り返すようにした場合、
図9に示すように、レーザ光LB1の出射開始直後は、上記光軸ずれに起因するパワーモニタ14の検出値の増大を抑制するように、電流指令値が、定格出力電流値よりも小さく制御される。これにより、出射ヘッド50の実際の光出力が、定格出力を下回る。その後、光軸ずれが収まると、電流指令値が、定格出力電流値よりも大きく制御され、出射ヘッド50の実際の光出力が、定格出力とほぼ等しくなった状態で安定する。
【0042】
これらに対し、本実施形態1では、
図10に示すように、光軸ずれに起因してパワーモニタ14の検出値が増大している間、制御部61が、前回の発光制御の最後に取得されたパワーモニタ14の検出値に基づいて、電流指令値を算出する。したがって、光軸ずれに起因してパワーモニタ14の検出値が増大している間にも、出射ヘッド50の実際の光出力は、定格出力とほぼ等しくなる。また、光軸ずれが収まった後には、制御部61が、電流指令値更新動作を所定時間毎に繰り返すので、電流指令値が、定格出力電流値よりも大きくなり、出射ヘッド50の実際の光出力が、定格出力とほぼ等しくなった状態で安定する。
図8~10において、タイミングt1は、光軸ずれの収まるタイミングであり、本実施形態1において第1モードの動作が開始されるタイミングを示す。
【0043】
このように、本実施形態1では、発光制御中のパワーモニタ14の検出値が安定しない期間に、制御部61に、過去の発光制御中のパワーモニタ14の検出値に基づく電流指令値を出力させることができる。したがって、パワーモニタ14の検出値が安定しない期間に、制御部61に、パワーモニタ14の不安定な検出値に基づく電流指令値を出力させる場合に比べ、出射ヘッド50の光出力を精度良く制御させることができる。
【0044】
また、第2モードにおいて、制御部61に、前回の発光制御中のパワーモニタ14の検出値に基づく電流指令値を算出させるので、前々回以前の発光制御中のパワーモニタ14の検出値に基づく電流指令値を算出させる場合に比べ、検出値の取得時から当該検出値に基づく電流指令値の算出時までのレーザダイオードバー31の劣化が小さい。したがって、出射ヘッド50の光出力を精度良く制御できる。
【0045】
また、第2モードにおいて、制御部61に、電流指令値の算出を、前回の発光制御の終了時におけるパワーモニタ14の検出値に基づく補正値を参照して行わせるので、前回の発光制御の終了時よりも前におけるパワーモニタ14の検出値に基づく補正値を参照して行わせる場合に比べ、検出値の取得時から当該検出値に基づく電流指令値の算出時までのレーザダイオードバー31の劣化が小さい。したがって、出射ヘッド50の光出力を精度良く制御できる。
【0046】
また、制御部61が第1モードでの動作を開始するタイミングを、制御部61が、-0.01<(S(k)-S(k-1))/S(k)<0を満たす平均値(S(k))を3回連続で取得し終えたことを認識した直後のタイミングとするので、パワーモニタ14の不安定な検出値に基づいて電流指令値が出力されたり、パワーモニタ14の検出値が安定した後、レーザダイオードバー31の劣化により、出射ヘッド50の実際の光出力が低下するのを抑制できる。
【0047】
《実施形態2》
本開示の実施形態2に係るレーザ加工装置100では、S108で、制御部61が、第1モードでの動作の開始時におけるパワーモニタ14の検出値の変動が、所定の第1閾値を超えるか否かの判定をさらに行う。そして、制御部61が、判定結果を指令部80のモニタに出力させる。
【0048】
実施形態2に係るレーザ加工装置100のその他の構成及び動作は、実施形態1と同じである。
【0049】
図11に示すように、レーザ発振の開始時に光合成部12の光学素子が損傷すると、損傷のない場合(
図10)に比べて、第1モードに切り替わる前の第2モードでの動作期間において、パワーモニタ14のレベルが低下する。これにより、第1モードでの動作の開始時におけるパワーモニタ14の検出値の変動が、損傷のない場合(
図10)に比べて大きくなる。したがって、第1モードでの動作の開始時におけるパワーモニタ14の検出値の変動が、第1閾値を超えるか否かの判定結果を指令部80のモニタに出力させることにより、光合成部12の光学素子に不具合があるか否かをユーザに認識させることができる。
【0050】
上記第1閾値は、1つのレーザモジュール30がレーザ光LB1を出射しなくなった場合のパワーモニタ14の検出値の変動量分に設定することが好ましい。これにより、レーザモジュール30がレーザ光LB1を突然出射しなくなるという不具合とは異なる光合成部12の光学素子の不具合を、制御部61が検出できる。例えば、レーザモジュール30を50個設けた場合、上記第1閾値を、変動直前のパワーモニタ14の検出値の±2%に設定することにより、光合成部12の光学素子の不具合を検出できる。
【0051】
《実施形態3》
本開示の実施形態3に係るレーザ加工装置100では、S108で、制御部61が、第1モードでの動作中における電流指令値更新動作により算出される電流指令値と、第1モードでの動作開始時における電流指令値との差が、所定の第2閾値を超えるか否かの判定をさらに行う。そして、制御部61は、この判定結果を指令部80のモニタに出力させる。
【0052】
実施形態3に係るレーザ加工装置100のその他の構成及び動作は、実施形態1と同じである。
【0053】
例えば、
図12に示すように、レーザ発振中に光合成部12の光学素子の損傷が進行すると、電流指令値更新動作により算出される電流指令値が徐々に上昇する。したがって、第1モードでの動作中における電流指令値更新動作により算出される電流指令値と、第1モードでの動作開始時における電流指令値との差が、所定の第2閾値を超えるか否かの判定結果を指令部80のモニタに出力させることにより、光合成部12の光学素子に不具合があるか否かをユーザに認識させることができる。
【0054】
なお、制御部61が、第1モードでの動作中に電流指令値更新動作により算出される電流指令値と、第1モードでの動作開始時における電流指令値との差が、所定の第2閾値を超えるか否かに代えて、第1モードでの動作中に電流指令値更新動作により算出される電流指令値の微分値(傾き)、又は単位時間当たりの上昇値が所定の閾値を超えるか否かを判定するようにしてもよい。
【0055】
《その他の変形例》
また、上記実施形態1~3では、制御部61が、-0.01<(S(k)-S(k-1))/S(k)<0を満たす平均値S(k)を3回連続で取得し終えたという条件が満たされたか否かの判定を行い、当該条件が満たされている場合には、第1モードで動作し、当該条件が満たされていない場合には、第2モードで動作した。しかし、制御部61を第1モードで動作させる条件を、パワーモニタ14の検出値に基づく他の条件にしてもよい。例えば、-0.01<(S(k)-S(k-1))/S(k)<0を満たす平均値を3回以外の所定回数以上連続で取得し終えたという条件としてもよい。
【0056】
また、上記実施形態1~3において、
図13に示すように、伝送ファイバ40からの散乱光の光量を検出する散乱光検出部15をパワーモニタ14とは別に設けてもよい。そして、パワーモニタ14の検出値の平均値に代えて、散乱光検出部15の検出値の平均値をS(k)としてもよい。
【0057】
また、散乱光検出部15をパワーモニタ14よりも伝送ファイバ40からの散乱光が多く入射する位置に配置すると、レーザ光出射部11がレーザ光LB1の出射を開始した直後に、光軸ずれ等によって伝送ファイバ40からの散乱光が増大すると、散乱光検出部15の検出値に基づいて算出される出射ヘッド50の光出力が、パワーモニタ14の検出値に基づいて算出される出射ヘッド50の光出力よりも大きくなる。このような場合には、制御部61を第1モードで動作させる条件を、散乱光検出部15の検出値に基づいて算出される出射ヘッド50の光出力から、パワーモニタ14の検出値に基づいて算出される出射ヘッド50の光出力を引いた差が、所定閾値以下となるという条件としてもよい。
【0058】
また、上記実施形態1~3において、制御部61は、第2モードにおける電流指令値の算出を、前回の発光制御中の最後に取得されたパワーモニタ14の検出値に基づく補正値に基づいて行った。しかし、制御部61が、第2モードにおける電流指令値の算出を、前回の発光制御より前の発光制御中に取得された検出値に基づく補正値に基づいて行うようにしてもよい。また、制御部61が、補正値ではなく、パワーモニタ14の検出値に基づく他のパラメータを、パラメータ記憶部62に保存し、第2モードにおいて参照するようにしてもよい。例えば、制御部61が、パワーモニタ14の検出値、又は当該検出値に基づく電流指令値をパラメータとしてパラメータ記憶部62に保存し、第2モードにおいて参照するようにしてもよい。また、制御部61が、1回の発光制御中に、パワーモニタ14の検出値に基づくパラメータを、所定周期で複数回取得してパラメータ記憶部62に保存し、その後、第2モードにおいて、複数のパラメータを参照して、電流指令値を算出するようにしてもよい。例えば、制御部61が、第2モードにおいて、複数のパラメータの平均値に基づいて、電流指令値を算出するようにしてもよい。
【0059】
また、上記実施形態1~3では、光合成部12を、第1集光レンズ12aと反射鏡12bとを備えた光学ユニットとしたが、レーザ光出射部11及び部分透過ミラー13との位置関係によっては、光合成部12を、第1集光レンズ12aだけで構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本開示のレーザ加工装置は、パワーモニタの検出値が安定しない期間にも、制御部に、出射ヘッドの光出力を精度良く制御させることができ、複数のレーザダイオードから出射されたレーザ光を集光して出射ヘッドから出射するレーザ加工装置として有用である。
【符号の説明】
【0061】
100 レーザ加工装置
12 光合成部
12a 第1集光レンズ
13 部分透過ミラー
14 パワーモニタ(散乱光検出部)
15 散乱光検出部
31 レーザダイオードバー(レーザダイオード)
40 伝送ファイバ
50 出射ヘッド
61 制御部
62 パラメータ記憶部
70 電源
LB1 レーザ光
LB2 第1分割光
LB3 第2分割光