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特開2024-157438防錆塗装鋼材、防錆塗装鋼材の製造方法及び防錆性能の向上方法
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  • 特開-防錆塗装鋼材、防錆塗装鋼材の製造方法及び防錆性能の向上方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157438
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】防錆塗装鋼材、防錆塗装鋼材の製造方法及び防錆性能の向上方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20241030BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20241030BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20241030BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20241030BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20241030BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C23C26/00 A
B05D5/00 Z
B05D3/12 C
B05D3/02 Z
B05D7/24 302A
B05D7/24 303C
B32B15/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071808
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】516142403
【氏名又は名称】未来建築研究所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】丹野 政志
(72)【発明者】
【氏名】瀬土 裕章
(72)【発明者】
【氏名】向山 敦
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4K044
【Fターム(参考)】
4D075AE03
4D075BB05X
4D075BB16X
4D075BB21X
4D075CA13
4D075CA33
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DA07
4D075DB02
4D075DC01
4D075DC05
4D075EA06
4D075EB01
4D075EB05
4D075EC01
4D075EC10
4D075EC51
4F100AA01C
4F100AA03C
4F100AA17B
4F100AB03A
4F100AB18C
4F100AD00C
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CC00C
4F100DD01B
4F100DE01C
4F100EH46
4F100EJ86
4F100JB02C
4F100JB05C
4F100YY00B
4K044AA02
4K044BA10
4K044BA12
4K044BA14
4K044BA21
4K044BB03
4K044BC02
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】鋼材の表面処理に伴う費用及び時間の負担を軽減し、防錆性能を発揮することが可能な防錆塗装鋼材の製造方法を提供する。
【解決手段】
防錆塗装鋼材の製造方法は、熱間圧延加工によって酸化被膜を表面に有する鋼材を形成する鋼材形成工程と、鋼材の表面に防錆性能を有する塗料を塗装する塗装工程と、を含むものである。上記塗装工程では、鋼材の表面に水性無機ジンク系の塗料を直接塗装し、塗料を乾燥させて鋼材の表面上に酸化被膜と、防錆性能を有する塗膜とを形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防錆性能を発揮する防錆塗装鋼材であって、
鋼材と、
前記鋼材の表面に設けられる酸化被膜と、
前記酸化被膜の表面に形成され、防錆性能を有する塗膜と、を備え、
前記塗膜は、水性無機ジンク系の塗膜であって、前記酸化被膜の表面に直接設けられ、前記酸化被膜の表面に密着していることを特徴とする防錆塗装鋼材。
【請求項2】
前記酸化被膜の表面には、複数の亀裂部が形成され、
前記塗膜は、水性無機系のバインダを含み、有機溶剤系のバインダを含まないジンク系の塗膜であって、
前記塗膜は、前記酸化被膜の表面に形成された前記亀裂部の内部に浸透し、
前記塗膜内に充填されている亜鉛粒子が、前記亀裂部の内部に到達し、前記亀裂部の内部まで充填されていることを特徴とする請求項1に記載の防錆塗装鋼材。
【請求項3】
前記塗膜は、ケイ酸亜鉛粒子が充填された塗膜であって、前記塗膜内において赤錆及び亜鉛に伴う白錆の通過を抑制することで防錆性能を発揮することを特徴とする請求項2に記載の防錆塗装鋼材。
【請求項4】
防錆性能を発揮する防錆塗装鋼材の製造方法であって、
熱間圧延加工によって酸化被膜を表面に有する鋼材を形成する鋼材形成工程と、
前記鋼材の表面に防錆性能を有する塗料を塗装する塗装工程と、を含み、
前記塗装工程では、前記鋼材の表面に水性無機ジンク系の前記塗料を直接塗装し、前記塗料を乾燥させて前記鋼材の表面上に前記酸化被膜と、防錆性能を有する塗膜とを形成することを特徴とする防錆塗装鋼材の製造方法。
【請求項5】
前記鋼材形成工程では、前記酸化被膜の除去処理を行わず、前記酸化被膜をそのまま表面に有する前記鋼材を形成し、
前記塗装工程では、前記鋼材の表面に、水性無機系のバインダを含み、有機溶剤系のバインダを含まないジンク系の前記塗料を直接塗装し、前記鋼材の表面上に前記酸化被膜と前記塗膜とを一体化させた複合膜を形成することを特徴とする請求項4に記載の防錆塗装鋼材の製造方法。
【請求項6】
前記塗料は、水性セラミック系のジンクリッチ塗料であって、水性無機系のバインダと、亜鉛粉末とを混合させて構成され、
前記塗膜は、ケイ酸亜鉛粒子が充填された塗膜であって、
前記ケイ酸亜鉛粒子が、前記酸化被膜の表面に形成された亀裂部の内部に到達し、前記亀裂部の内部まで充填されていることを特徴とする請求項5に記載の防錆塗装鋼材の製造方法。
【請求項7】
前記防錆塗装鋼材は、ブラスト下地処理(ISO8501-1の除錆度がSa2.5以上)によって酸化被膜を除去した鋼材の表面に前記塗料を塗装してなる塗装鋼材と比較したときに、前記塗装鋼材よりも高い防錆性能を発揮することを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載の防錆塗装鋼材の製造方法。
【請求項8】
酸化被膜を表面に有する鋼材の表面に対し、前記酸化被膜を除去せずに水性無機ジンク系の塗料を直接塗装し、前記鋼材の表面上に前記酸化被膜と、防錆性能を有する塗膜とを形成することを特徴とする防錆性能の向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆塗装鋼材、防錆塗装鋼材の製造方法及び防錆性能の向上方法に係り、特に、防錆性能を発揮する防錆塗装鋼材、防錆塗装鋼材の製造方法及び防錆性能の向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築及び土木分野において、例えば鋼製の橋梁等に用いられる鋼材においては、防錆性能(防食性能)を高めることを目的として、鋼材の表面に対し防錆性能を発揮する塗料を塗装することが行われている。
具体的には、熱間圧延加工によって黒皮(酸化被膜)を表面に有する鋼材を形成し、当該鋼材の表面をサンドブラスト処理(一種ケレン処理)することで黒皮を除去し、サンドブラスト処理から一定時間内に鋼材の表面に防錆性能を有する塗料を塗装し、当該塗料を乾燥させることで防錆塗装鋼材を製造することが行われている。
上記防錆性能を有する塗料としては、例えば無機ジンクリッチペイント等の無機ジンク系塗料が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の防食塗装鋼材では、鋼材の表面にブラスト処理を行って黒皮を除去した後に、当該鋼材の表面に無機ジンク系塗料を塗装して塗膜(第一層)を形成すること、その後にマグネシウム、カルシウムを含有する塩化物水溶液に浸漬させて乾燥させることで第二層を形成することが開示されている。
当該第一層及び第二層を形成することで、第一層において粒状の亜鉛の溶解を抑制することができ、犠牲防食作用を持たせることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-103123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、鋼材の表面に塗料を塗装する場合には、塗料の密着性、塗装後の防錆性を図ることを目的として、塗装前の下処理としてブラスト処理等による黒皮(酸化被膜)除去処理を行っている。
「黒皮(酸化被膜)」とは、ミルスケールとも称され、主として四酸化三鉄からなる黒錆である。黒皮は、鋼材の表面を腐食から守る働きを有するものの、黒皮の表面には微細なピンホール(亀裂部)が形成されているため、局部腐食が比較的早く発生することが多い。そのため、黒皮は、腐食を防ぐ働きをもつ良性の錆ではあるものの、鋼材を保護する保護膜として有用ではなかった(鋼材との密着性も高くはなかった)。
これらのことから、塗装鋼材を製造するためには、まずはブラストや研削、研磨によって表面処理(黒皮除去処理)を行うことが必要とされ、当該表面処理に費用と時間を要していた。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、新規な防錆塗装鋼材、防錆塗装鋼材の製造方法及び防錆性能の向上方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、鋼材の表面処理に伴う費用及び時間の負担を軽減しながら、防錆性能を発揮することが可能な防錆塗装鋼材、防錆塗装鋼材の製造方法及び防錆性能の向上方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究した結果、黒皮(酸化被膜)の除去処理を行わず、鋼材の表面(黒皮表面)に水性無機ジンク系の塗料を直接塗装し、当該塗料を乾燥させて鋼材の表面上に「酸化被膜」と、防錆性能を有する「塗膜」とを形成することで(「複合膜」を形成することで)、防錆性能を発揮する防錆塗装鋼材を製造できることを見出した。
詳しく述べると、鋼材の表面(黒皮表面)に水性無機ジンク系の塗膜を形成することで、塗膜が黒皮表面に密着すること、塗膜が黒皮表面の亀裂部の内部に浸透すること、塗膜内に充填された亜鉛粒子(酸化亜鉛粒子)が亀裂部の内部に到達し、亀裂部の内部まで充填されること、を見出した。
【0008】
従って、前記課題は、本発明によれば、防錆性能を発揮する防錆塗装鋼材であって、鋼材と、前記鋼材の表面に設けられる酸化被膜と、前記酸化被膜の表面に形成され、防錆性能を有する塗膜と、を備え、前記塗膜は、水性無機ジンク系の塗膜であって、前記酸化被膜の表面に直接設けられ、前記酸化被膜の表面に密着していること、により解決される。
【0009】
このとき、前記酸化被膜の表面には、複数の亀裂部が形成され、前記塗膜は、水性無機系のバインダを含み、有機溶剤系のバインダを含まないジンク系の塗膜であって、前記塗膜は、前記酸化被膜の表面に形成された前記亀裂部の内部に浸透し、前記塗膜内に充填されている亜鉛粒子が、前記亀裂部の内部に到達し、前記亀裂部の内部まで充填されていると良い。
また、前記塗膜は、ケイ酸亜鉛粒子が充填された塗膜であって、前記塗膜内において赤錆及び亜鉛に伴う白錆の通過を抑制することで防錆性能を発揮すると良い。
【0010】
また前記課題は、本発明によれば、防錆性能を発揮する防錆塗装鋼材の製造方法であって、熱間圧延加工によって酸化被膜を表面に有する鋼材を形成する鋼材形成工程と、前記鋼材の表面に防錆性能を有する塗料を塗装する塗装工程と、を含み、前記塗装工程では、前記鋼材の表面に水性無機ジンク系の前記塗料を直接塗装し、前記塗料を乾燥させて前記鋼材の表面上に前記酸化被膜と、防錆性能を有する塗膜とを形成すること、によっても解決される。
【0011】
このとき、前記鋼材形成工程では、前記酸化被膜の除去処理を行わず、前記酸化被膜をそのまま表面に有する前記鋼材を形成し、前記塗装工程では、前記鋼材の表面に、水性無機系のバインダを含み、有機溶剤系のバインダを含まないジンク系の前記塗料を直接塗装し、前記鋼材の表面上に前記酸化被膜と前記塗膜とを一体化させた複合膜を形成すると良い。
また、前記塗料は、水性セラミック系のジンクリッチ塗料であって、水性無機系のバインダと、亜鉛粉末とを混合させて構成され、前記塗膜は、ケイ酸亜鉛粒子が充填された塗膜であって、前記ケイ酸亜鉛粒子が、前記酸化被膜の表面に形成された亀裂部の内部に到達し、前記亀裂部の内部まで充填されていると良い。
また、前記防錆塗装鋼材は、ブラスト下地処理(ISO8501-1の除錆度がSa2.5以上)によって酸化被膜を除去した鋼材の表面に前記塗料を塗装してなる塗装鋼材と比較したときに、前記塗装鋼材よりも高い防錆性能を発揮すると良い。
【0012】
また前記課題は、本発明によれば、酸化被膜を表面に有する鋼材の表面に対し、前記酸化被膜を除去せずに水性無機ジンク系の塗料を直接塗装し、前記鋼材の表面上に前記酸化被膜と、防錆性能を有する塗膜とを形成する防錆性能の向上方法によっても解決される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、防錆性能を発揮する新規な防錆塗装鋼材、防錆塗装鋼材の製造方法及び防錆性能の向上方法を提供することができる。
また、鋼材の表面処理に伴う費用及び時間の負担を軽減しながら、防錆性能を発揮することが可能な防錆塗装鋼材、防錆塗装鋼材の製造方法及び防錆性能の向上方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の防錆塗装鋼材の断面図である。
図2】従来例1となる防錆塗装鋼材の断面図である。
図3】従来例2となる防錆塗装鋼材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図1図3を参照して説明する。
本実施形態は、酸化被膜を表面に有する鋼材を形成する「鋼材形成工程」と、当該鋼材の表面に対し水性無機ジンク系の塗料を直接塗装する「塗装工程」と、を含み、酸化被膜の除去処理を行わずして、防錆性能を発揮する防錆塗装鋼材を製造可能とする「防錆塗装鋼材の製造方法」に関するものである。
また、上記製造方法によって製造される「防錆塗装鋼材」に関するものである。
【0016】
<防錆塗装鋼材>
防錆塗装鋼材1は、図1に示すように、防錆性能を発揮する塗装鋼材であって、鋼材10と、鋼材10の表面に設けられる酸化被膜20と、酸化被膜20の表面に形成され、防錆性能を有する塗膜30と、を備えている。
防錆塗装鋼材1は、建築分野や土木分野において広く用いられ、防錆性能、防食性能、耐候性を高めることを目的として、鋼材10の表面に塗膜30が形成された鋼材である。
防錆塗装鋼材1は、塗装鋼材あるいはカラー鋼材とも称される。
防錆塗装鋼材1は、鋼材10の表面に塗膜30を形成するにあたって、鋼材10の表面に形成された酸化被膜20を除去せずに(下地処理をせずに)、そのまま塗膜30を形成するものである。
【0017】
鋼材10は、鉄鋼材料から板状、棒状、管状等に加工された鋼鉄であって、酸化被膜20を表面に有するものである。具体的には、鉄鋼材料を熱間圧延加工することで形成され、酸化被膜20を表面に有するものである。
鋼材10は、黒皮材あるいは黒皮鋼材とも称され、厚鋼板、薄鋼板、形鋼、鋼管、棒鋼、鋼線等を含むものである。
なお、「熱間圧延加工」とは、金属が加工による硬化を生じない再結晶温度以上の温度下で圧延が行われることである。圧延中に高温の素材表面が大気中の酸素と結合することで、酸化被膜(黒皮)が形成される。
【0018】
酸化被膜20は、黒皮、黒錆、ミルスケールとも称され、主として四酸化三鉄からなる不均一な膜であって、鋼材10の表面を覆っている。
詳しく述べると、酸化被膜20は、FeO、Fe、Feの順に酸化物の層が構成された膜となっている。
酸化被膜20の表面には、微細な亀裂部21が複数形成されている。亀裂部21は、微細な凹凸やヒビ割れしたもの、微細なピンホールとして形成されている。
なお、酸化被膜20で覆われた鋼材10(黒皮材)は、熱間圧延加工したままの材料であるため、比較的安価で入手することはできるものの、その表面が比較的粗く、塗装の密着性が乏しいと言われている。そのため、一般的には鋼材10(黒皮材)から酸化被膜20(黒皮)を除去することが行われている。
【0019】
塗膜30は、水性無機ジンク系の塗膜であって、酸化被膜20の表面に直接設けられ、酸化被膜20の表面に密着している。
詳しく述べると、塗膜30は、水性無機系のバインダを含み、有機溶剤系のバインダを一切含まないジンク系の塗膜であって、酸化被膜20を全体にわたって覆っている。
塗膜30は、鋼材10の表面(酸化被膜20の表面)に対し後述の水性無機ジンク系の塗料を直接塗装することで形成される。
図1に示すように、塗膜30は、亜鉛粒子(ケイ酸亜鉛粒子)が緻密に充填された膜(表層硬化膜)となっている。
【0020】
上記構成において、図1に示すように、塗膜30は、酸化被膜20の表面に形成された亀裂部21の内部に浸透しており、塗膜30内に充填された亜鉛粒子が、亀裂部21の内部に到達し、亀裂部の内部まで充填されている。
そのため、酸化被膜20に対して塗膜30を好適に密着させることができる。
特に、塗膜30内にケイ酸亜鉛粒子が充填されている場合には、酸化被膜20に対して塗膜30をより強く密着させることができる。
【0021】
また上記構成において、図1に示すように、塗膜30内では、亜鉛粒子が敷き詰められるように均一に充填されている。
そのため、塗膜30内において鋼材10による赤錆や、亜鉛による白錆の通過を抑制することができ、好適に防錆性能を発揮することができる。
特に塗膜30内にケイ酸亜鉛粒子が充填されている場合には、赤錆や白錆の通過をより一層抑制することができる。
【0022】
<防錆塗装鋼材の製造方法>
次に、本実施形態の製造方法によって行われる「鋼材形成工程」及び「塗装工程」について詳しく説明する。なお、その他の工程については公知な技術を適宜採用することとして良い。
【0023】
「鋼材形成工程」では、熱間圧延加工によって酸化被膜(黒皮)を表面に有する鋼材(黒皮鋼材)を形成する。
詳しく述べると、800~1200℃の圧延温度にて熱間圧延加工を行い、当該加工の最後に冷却水養生により温度調整を行うことで、鋼材(黒皮鋼材)を形成する。
このとき、急激な温度変化による収縮が生じるため、酸化被膜の表面には、微細な亀裂部が発生することになる。
【0024】
なお、本実施形態では、酸化被膜の除去処理を行わず、酸化被膜をそのまま表面に有する鋼材を形成する。
「除去処理(黒皮除去処理)」とは、鋼材の表面から酸化被膜を除去する処理であって、例えばブラスト処理によって物理的に除去する方法と、例えば酸処理によって化学的に除去する方法とがある。
物理的に除去する方法としては、サンドブラスト処理やショットブラスト処理、研削処理、研磨処理等がある。例えば、ブラスト処理の場合には、ISO8501-1の除錆度がSa2.5(JIS Z 0313のSa2 1/2)以上になるように処理すると良い。
【0025】
「塗装工程」では、鋼材の表面に防錆性能を有する塗料を塗装する。
詳しく述べると、鋼材の表面に水性無機ジンク系の塗料を直接塗装し、塗料を乾燥させて鋼材の表面上に酸化被膜と、防錆性能を有する塗膜とを形成する。
このとき、鋼材の表面上には、酸化被膜と塗膜とを一体化させた複合膜が形成される。
【0026】
「塗料」は、水性無機ジンク系の塗料であって、水性無機系のバインダを含み、有機溶剤系のバインダを含まないジンクリッチ塗料である。つまりは、水性とは、有機溶剤を使用しないものを意味している。
具体的には、塗料は、1液1粉混合(重量比20:80で混合)を行うものであって、「水性無機系のバインダ(セラミックバインダ)」と、「亜鉛粉末」とを混合させるアルカリ性のジンクリッチ塗料(ジンクリッチペイント)である。
「水性無機系のバインダ」は、主成分となるシリカ(コロイダルシリカ)と、顔料となる鉱物亜鉛の微粉末と、溶剤となる水と、触媒となるアミン塩と、を含むものである。
「亜鉛粉末」は、例えば0.1~10μm、好ましくは0.1~5μm、より好ましくは0.1~1μmの微細な亜鉛粉末を用いると良い。
なお、塗料は、上記のものに限定されず、種々の水性無機ジンク系の塗料を採用することができる。
【0027】
鋼材の表面(酸化被膜の表面)に上記塗料を塗装し、例えば温度20℃で3~6時間乾燥させることで塗膜を硬化させることができる。完全硬化には、10~30日程度養生させると良い。
上記塗料を用いることで、膜厚40~60μm、鉛筆硬度3~5Hの塗膜(呼吸膜)を全体にわたって形成できる。
【0028】
形成された塗膜は、ケイ酸亜鉛粒子が緻密に充填された親水性の膜であって、ケイ酸亜鉛粒子間における空隙が小さい(空隙が少ない)膜である。
具体的には、「水性無機系のバインダ」の主成分がシリカ(二酸化ケイ素)であることから、鋼材表面に塗布されて硬化すると、ケイ酸亜鉛の微粒子を敷き詰めたような塗膜が形成される。そのため、酸化被膜の亀裂部にケイ酸亜鉛の微粒子が充填された状態となる。
また、有機溶剤を使用しないことで、ケイ酸亜鉛粒子が樹脂によって覆われることがなく、ケイ酸亜鉛粒子と酸化被膜との接触面積が大きくなり、酸化被膜に対する塗膜の密着力を高めることができる。
これらのことから、塗膜内の微細な空隙間内において赤錆や白錆等の酸化物の通過を抑制することができ、これら酸化物の成長を妨げることができる。
また、風雨によって浸水が発生した場合でも、塗膜内に水路が形成されることを防止できる。
【0029】
なお、塗料は、上記ジンクリッチ塗料(下塗り塗料)と、水性シリケート塗料(上塗り塗料)とを併用したものであっても良い。
水性シリケート塗料をさらに塗装することで、ケイ酸亜鉛粒子が敷き詰められたケイ酸亜鉛層の表面にセラミック膜を形成でき、亜鉛の溶出を防いで防錆性能をより高めることができる。
水性シリケート塗料の成分は、主としてコロイダルシリカ、無機体質顔料、無機カラー顔料、水等である。
水性シリケート塗料は、シリケート(ケイ酸塩)を結合剤とし、脱水縮合反応を進行させ、アモルファス膜(非晶質膜)を形成する。具体的には、シリカはSiO2の表面にSi‐OHがある状態であり、基材の表面は空気中の水分、炭酸ガス等によってHO-基材、HOO-基材の状態となっている。水性シリケート塗料を塗布することで、Si‐OHと、基材の活性部分HO、HOOとで脱水縮合反応が起こり、Si-O基材の共有結合が形成されて強固に密着されることになる。
【0030】
以上のように、「鋼材形成工程」と、「塗装工程」と、その他の処理工程とを経て、防錆性能を発揮する防錆塗装鋼材を製造することができる。
特に、酸化被膜の除去処理を不要にできるため、鋼材の表面処理に伴う費用及び時間の負担を軽減しながら、防錆性能を発揮することが可能な防錆塗装鋼材を製造できる。
【0031】
<他のジンクリッチ塗料との違いについて>
次に、鋼材の表面(酸化被膜の表面)に各種のジンクリッチ塗料を塗装した場合に形成される塗膜の違いについて、図1図3に基づいて説明する。
図1は、水性無機系のジンクリッチ塗料(有機溶剤を使用しないもの)を塗装したものであって、本実施形態の防錆塗装鋼材1の断面図である。
図2は、有機系のジンクリッチ塗料を塗装したものであって、従来例1となる塗装鋼材の断面図である。
図3は、無機系のジンクリッチ塗料(有機溶剤を使用しているもの)を塗装したものであって、従来例2となる塗装鋼材の断面図である。
【0032】
図1に示すように、防錆塗装鋼材1の塗膜30は、水溶性のケイ酸亜鉛の微粒子が敷き詰められたように充填された膜となっており、ケイ酸亜鉛粒子間の空隙が小さいことから酸化被膜20の亀裂部21にケイ酸亜鉛粒子が到達し、亀裂部21の内部まで充填された状態となる。また、ケイ酸亜鉛粒子と酸化被膜の接触面積が大きい。そのため、酸化被膜20に対する密着力(付着力)が強固になっている。
このことから、酸化被膜20を除去することなく、鋼材10の酸化被膜20の表面に塗料をそのまま塗布した場合であっても、塗膜30が強固に密着した防錆塗装鋼材1を実現できる。
【0033】
一方で、図2では、有機系のジンクリッチ塗料を塗装しているところ、当該塗料は、樹脂(エポキシ樹脂など)をバインダとして含み、亜鉛粒子の大部分が樹脂で覆われている。そのため、亜鉛粒子と酸化被膜の接触面積が小さくなり、酸化被膜に対する塗膜の密着力が弱くなってしまう。
また、塗膜は、環境遮断膜を形成し、また樹脂(炭素)の存在により高粘度になって流動性に劣る膜を形成することから、亜鉛粒子が亀裂部に入り込むことがなく、亜鉛粒子が亀裂部の内部に充填されない(粘性を有する材料を用いると空隙が多い膜が形成されてしまう)。そのため、酸化被膜に対する塗膜の密着力が弱くなってしまう。
【0034】
図3では、無機系のジンクリッチ塗料を塗装しているところ、当該塗料によって形成される塗膜内の亜鉛粒子は大きくなり、粒子間空隙も大きくなる。
また、有機溶剤(炭素)が含まれることから、亜鉛粒子が樹脂で覆われてしまい、亜鉛粒子と酸化被膜の接触面積が小さくなってしまう。炭素の存在により高粘度になって流動性に劣る膜が形成されてしまう。
そのため、亜鉛粒子が酸化被膜の亀裂部に入り込むことがなく、亜鉛粒子が亀裂部の内部に充填されることがない。そのため、酸化被膜に対する塗膜の密着力が弱くなってしまう。
【0035】
以上のように、鋼材の酸化被膜の表面にジンクリッチ塗料を好適に塗装するためには、「水性無機系のジンクリッチ塗料」を用いること、主成分を「シリカ(二酸化ケイ素)」とする水性無機系のバインダを用いること、「有機溶剤(炭素)を使用しない塗料」を用いることが挙げられる。
つまりは、有機系のジンクリッチ塗料や、無機系のジンクリッチ塗料(有機溶剤を使用しているもの)などを用いる場合には、従来の通り、鋼材の表面から酸化被膜を除去する作業が必要とされる。
【実施例0036】
以下、本発明の実施例について詳しく説明する。なお、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0037】
<実施例1:防錆塗装鋼材>
上記製造方法に基づいて、鋼材の酸化被膜の表面に「水性無機ジンク系の塗膜」が形成された防錆塗装鋼材を用意した。
「水性無機系のジンクリッチ塗料」として、水性セラミックジンクリッチ塗料(有限会社セラテック製、商品名:タフジンク11)を用いた。
なお、試験例1では、「鋼材」として酸化被膜が残った鋼板を用い、試験例2では、酸化被膜が残った鉄筋を用いた。実施例2についても同様である。
【0038】
<実施例2:防錆塗装鋼材>
上記製造方法に基づいて、鋼材の酸化被膜の表面に「水性無機ジンク系の塗膜」が形成された防錆塗装鋼材を用意した。
「水性無機系のジンクリッチ塗料」として、「下塗り塗料」及び「上塗り塗料」を併用した。「下塗り塗料」として、水性セラミックジンクリッチ塗料(有限会社セラテック製、商品名:タフジンク11)を用い、「上塗り塗料」として、水性シリケート塗料(有限会社セラテック製、商品名:SSA-1000)を用いた。
【0039】
<試験例1:塗膜の密着度確認試験(碁盤目試験)>
実施例1、実施例2の防錆塗装鋼材を用いて、JIS K 5600:1999に基づく碁盤目試験を行い、塗膜の密着度を確認した。
【0040】
実施例1、2となる70mm×150mmの試験体をそれぞれ用意し、各試験体の塗膜に格子状のカット(クロスカット)を行った。酸化被膜及び塗膜が形成されており、膜厚が比較的厚いことから、カットする間隔を3mmに設定した。
格子状のカットを行った後、各試験体のカット表面(碁盤目表面)にセロハンテープを貼り付け、貼り付けた後のセロハンテープの端を約45度の角度で一引き剥がした。引き剥がした後のカット表面の状態を下記判定基準に基づいて評価した。
【0041】
判定基準は以下の通りである。
分類0:いずれの格子の目も剥がれていない。
分類1:カットの交差点における塗膜の小さな剥がれがある。
分類2:塗膜がカット線に沿って交差点において剥がれている。
分類3:塗膜がカット線に沿って部分的、全面的に剥がれている。
分類4:塗膜がカット線に沿って部分的、全面的に大きく剥がれている。
分類5:分類4以上。
【0042】
(試験例1の結果、考察)
実施例1については、分類0となった。すなわち、カットの縁が完全に滑らかな状態となっており、どの格子の目にも剥がれが生じていなかった。
実施例2については、分類2となった。すなわち、塗膜がカット線に沿って、及び交差点において剥がれていた。
試験例1の結果から、実施例1、2ともに、鋼材の酸化被膜に塗料を直接塗布した場合であっても、密着力(付着力)に問題ないことが分かった。
特に、実施例1であれば、より高い密着力を有することが分かった。
【0043】
なお、試験例1において、有機系のジンクリッチ塗料、無機系のジンクリッチ塗料(有機溶剤を使用しているもの)を用いた場合には、鋼材の酸化被膜に対する塗膜の密着力が劣ること、つまりは塗膜が剥がれてしまうことを別の試験結果で確認した。
【0044】
<試験例2:防錆評価試験(複合サイクル腐食試験)>
次に、実施例1の防錆塗装鋼材を用いて、JIS K 5600-7-9:2006(附属書CのサイクルA)に基づく複合サイクル腐食試験を行い、試験体の腐食性(防錆性)を確認した。
【0045】
実施例1となる塗装鉄筋を試験体として複合サイクル試験機内に立て掛けて、下記試験サイクル(塩水噴霧、乾燥、湿潤の組み合わせ)を繰り返し行った。なお、塩水噴霧溶液のpHは、6.0~7.0とした。
試験サイクルの詳細
(1)塩水噴霧:35度±1度、2時間
(2)乾燥 :60度±1度、20-30%RH、4時間
(3)湿潤 :50度±1度、95%RH以上、2時間
計8時間を1サイクルとし、3サイクルを行った。
確認のタイミングについては、塩の付着の影響が比較的小さいタイミングとして、塩水噴霧中(塩水噴霧開始から1時間後)に設定した。
また、試験終了後に1mm間隔の傷を付けた箇所から3mm程度の部位をカットして、錆の浸食具合い(浸食深さ)を100倍顕微鏡で観察した。
【0046】
(試験例2の結果、考察)
実施例1について、塗膜の内側部分には錆がなく、また塗膜が剥がれた箇所においても犠牲防食が働き、錆の進行が抑えられていることが分かった。
試験例2の結果から、実施例1について、鋼材の酸化被膜に塗料を直接塗布した場合であっても、防錆性能を発揮することが分かった。
【0047】
なお、試験例2において、有機系のジンクリッチ塗料、無機系のジンクリッチ塗料(有機溶剤を使用しているもの)を用いた場合には、塗膜の内側部分において錆が深くまで進行していることを別の試験結果で確認した。
【0048】
そのほか、実施例1の防錆塗装鋼材と、ブラスト下地処理(ISO8501-1の除錆度がSa2.5以上)によって酸化被膜を除去した鋼材の表面に同じ塗料を塗装してなる塗装鋼材(比較塗装鋼材)とを比較したところ、実施例1の防錆塗装鋼材のほうが、比較塗装鋼材よりも高い防錆性能を発揮することを別の試験結果で確認した。
このことは、例えば、塗膜内のケイ酸亜鉛粒子が、酸化被膜の亀裂部の内部に到達し、亀裂部の内部まで充填された状態になること、またケイ酸亜鉛粒子と酸化被膜の接触面積が大きいこと等により、鋼材及び酸化被膜に対する塗膜の密着力が強固になること、によるものと示唆される。
【符号の説明】
【0049】
1 防錆塗装鋼材
10 鋼材
20 酸化被膜(黒皮)
21 亀裂部
30 塗膜
図1
図2
図3