IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ブリヂストンの特許一覧

特開2024-157442路面状態推定装置及び路面状態推定方法
<>
  • 特開-路面状態推定装置及び路面状態推定方法 図1
  • 特開-路面状態推定装置及び路面状態推定方法 図2
  • 特開-路面状態推定装置及び路面状態推定方法 図3
  • 特開-路面状態推定装置及び路面状態推定方法 図4
  • 特開-路面状態推定装置及び路面状態推定方法 図5
  • 特開-路面状態推定装置及び路面状態推定方法 図6
  • 特開-路面状態推定装置及び路面状態推定方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157442
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】路面状態推定装置及び路面状態推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/00 20060101AFI20241030BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
G01W1/00 J
G08G1/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071813
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】石井 啓太
(72)【発明者】
【氏名】真砂 剛
(72)【発明者】
【氏名】石附 将武
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181BB04
(57)【要約】
【課題】路面状態を高精度に推定可能な路面状態推定装置及び路面状態推定方法が提供される。
【解決手段】路面状態推定装置(10)は、路面状態を目的変数とし、少なくとも道路の路面状態非均一性及び路面温度を含むパラメータを説明変数とする学習データを用いて生成された機械学習モデルを取得する取得部(131)と、機械学習モデルを用いて路面状態を推定する推定部(133)と、を備える。道路の路面状態非均一性は、道路ネットワークを表す隣接行列が用いられてよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面状態を目的変数とし、少なくとも道路の路面状態非均一性及び路面温度を含むパラメータを説明変数とする学習データを用いて生成された機械学習モデルを取得する取得部と、
前記機械学習モデルを用いて前記路面状態を推定する推定部と、を備える、路面状態推定装置。
【請求項2】
前記機械学習モデルの生成において、道路ネットワークを表す隣接行列が用いられる、請求項1に記載の路面状態推定装置。
【請求項3】
前記パラメータは、日射量、地形、溜水エリア、交通量及び気象変数の少なくとも1つをさらに含む、請求項1又は2に記載の路面状態推定装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記路面温度を目的変数とし、少なくとも日射量を説明変数とする時空間統計モデルを取得し、
前記機械学習モデルの生成で用いられる学習データは、前記時空間統計モデルを用いて算出された前記路面温度を含む、請求項1又は2に記載の路面状態推定装置。
【請求項5】
路面状態を目的変数とし、少なくとも道路の路面状態非均一性及び路面温度を含むパラメータを説明変数とする学習データを用いて生成された機械学習モデルを取得することと、
前記機械学習モデルを用いて前記路面状態を推定することと、を含む、路面状態推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、路面状態推定装置及び路面状態推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の走行快適性の向上、自動運転における走行の最適化などのために、路面温度及び路面状態を推定する技術が提案されている。一般に路面温度及び路面状態は主に1次元の解析モデルを解くことで推定されることが多い。例えば路面温度は、気温などの気象変数、路面の熱伝導率などの物理特性及び交通量などを考慮し、路面表面への熱フラックスの入力と出力のバランスに基づいて計算されることが多い。また、路面の湿潤又は凍結などといった路面状態は、降雨量、降雪量、道路の水分の排水能力などのバランスに基づいて路面における水分の存在を計算し、路面温度情報と組み合わせることによって予測されることが多い。例えば特許文献1に記載のシステムは、固定観測点における水・雪・氷貯留量を推定するものであって、最大凍結融解熱量を算出する熱収支モデルの式及び水・雪・氷貯留量の変化率をそれぞれ示す水・雪・氷収支の各式を用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-243884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術で用いられる物理モデルは一般に複雑であり、必要なパラメータの数が多い。また、例えばアスファルトの熱伝導率分布及び反射率分布など、入手が難しいパラメータが含まれることがある。また、気象変数は重要なパラメータであるが、例えば一辺が5km以上のメッシュの大きさとなり、予測したい路面温度及び路面状態に対して粗いデータであることが多い。さらに、気象変数は一般に開けた場所に設置された気象観測装置によって測定され、建物又は樹木などによって日射が遮られることがある路面の実際の状態を反映するものでない。したがって、従来技術によって予測される路面温度及び路面状態は、見通しのよい建物の少ない地域を前提としており、例えば建物が多く、影になる部分の多い都市部などの路面についての予測が難しい。したがって、予測精度に改良の余地がある。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、路面状態を高精度に推定可能な路面状態推定装置及び路面状態推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の一実施形態に係る路面状態推定装置は、
路面状態を目的変数とし、少なくとも道路の路面状態非均一性及び路面温度を含むパラメータを説明変数とする学習データを用いて生成された機械学習モデルを取得する取得部と、
前記機械学習モデルを用いて前記路面状態を推定する推定部と、を備える。
この構成により、路面状態を高精度に推定することができる。
【0007】
(2)本開示の一実施形態として、(1)において、
前記機械学習モデルの生成において、道路ネットワークを表す隣接行列が用いられる。
この構成により、道路が接続しているか否かを考慮した機械学習モデルを効率的に生成することができる。
【0008】
(3)本開示の一実施形態として、(1)又は(2)において、
前記パラメータは、日射量、地形、溜水エリア、交通量及び気象変数の少なくとも1つをさらに含む。
この構成により、さらに詳細に道路の路面状態非均一性を考慮した機械学習モデルを生成し、その機械学習モデルを用いて路面状態をさらに高精度に推定することができる。
【0009】
(4)本開示の一実施形態として、(1)から(3)のいずれかにおいて、
前記取得部は、前記路面温度を目的変数とし、少なくとも日射量を説明変数とする時空間統計モデルを取得し、
前記機械学習モデルの生成で用いられる学習データは、前記時空間統計モデルを用いて算出された前記路面温度を含む。
この構成により、広域で画一的な路面温度でなく、日射量を考慮した詳細な路面温度に基づいて、路面状態をさらに高精度に推定することができる。
【0010】
(5)本開示の一実施形態に係る路面状態推定方法は、
路面状態を目的変数とし、少なくとも道路の路面状態非均一性及び路面温度を含むパラメータを説明変数とする学習データを用いて生成された機械学習モデルを取得することと、
前記機械学習モデルを用いて前記路面状態を推定することと、を含む。
この構成により、路面状態を高精度に推定することができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、路面状態を高精度に推定可能な路面状態推定装置及び路面状態推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る路面状態推定装置の構成例を示す図である。
図2図2は、図1の路面状態推定装置を備える路面状態推定システムの構成例を示す図である。
図3図3は、路面状態推定で使用されるモデルについて説明するための図である。
図4図4は、道路ネットワークを表す隣接行列を例示する図である。
図5図5は、路面状態を推定する処理を例示するフローチャートである。
図6図6は、図5のモデル生成工程の詳細を示すフローチャートである。
図7図7は、図5の路面状態推定工程の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係る路面状態推定装置及び路面状態推定方法が説明される。各図中、同一又は相当する部分には、同一符号が付されている。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る路面状態推定装置10の構成例を示す。図2は、図1の路面状態推定装置10を備える路面状態推定システムの構成例を示す。路面状態推定装置10は、車両20が走行する道路の路面状態を推定(判定)する装置である。路面状態は、道路の表面の状態であって、例えば乾燥(Dry)、湿潤(Wet)、凍結(Ice)及び積雪(Snow)などの区分を含んでよい。路面状態は、これら4つの区分に限定されず、例えば一部の区分を省略してよいし、例えば冠水などをさらに含んでよい。また、車両20は例えば乗用自動車、トラック、バス又は建設車両などであってよく、特定種類の移動体に限定されない。
【0015】
本実施形態において、路面状態推定装置10は、モデルを生成し、生成したモデルを用いて車両20が走行する道路の路面状態を推定する。つまり、本実施形態に係る路面状態推定装置10は、モデルを生成する装置(モデル生成装置)と路面状態を推定する装置の両方の機能を備える装置であるとして説明される。別の例として、路面状態推定装置10は、予め生成されたモデルを利用し、路面状態を推定する機能のみを備える装置であってよい。
【0016】
図1のように、路面状態推定装置10は、通信部11と、記憶部12と、制御部13と、を備える。制御部13は、取得部131と、モデル生成部132と、推定部133と、出力部134と、を備える。路面状態推定装置10は、ハードウェア構成として、例えばコンピュータであってよい。路面状態推定装置10の構成要素の詳細については後述する。
【0017】
図2のように、路面状態推定装置10は、ネットワーク40で接続される路面状態推定装置10以外の装置(以下、「外部装置」)とともに、路面状態推定システムを構成してよい。ネットワーク40は、例えばインターネットである。また、ネットワーク40は、例えば一部においてLAN(Local Area Network)を含んで構成されてよい。外部装置は、例えば端末装置50及び道路管理装置60の少なくとも1つを含んでよい。
【0018】
道路管理装置60は道路を管理するための装置であって、路面状態推定装置10によって推定された路面状態のデータを取得する。道路管理装置60は、例えば路面状態推定装置10とは別のコンピュータで構成される。道路管理者は、道路管理装置60によって示される道路の路面状態を示す地図などに基づいて、例えば除雪又は融雪の作業を計画してよい。ここで、同じ地域であっても、日射量の多い道路と建物の影などにある道路とでは積雪量が違うことがある。また、例えば除雪車は稼働台数に上限があり、過剰な量の融雪剤の散布が走行車両に錆などの悪影響を及ぼすことがある。路面状態推定装置10が高精度に路面状態を推定することによって、道路管理者は、積雪があると推定される道路に集中的に除雪車を配備し、推定される積雪量に応じた適切な量の融雪剤を散布するように作業計画を作成できる。また、道路管理者は例えば無線などによって、凍結又は積雪している道路を走行する車両20の運転者に対して警告してよい。
【0019】
また、道路管理装置60は、路面温度又は路面状態が測定された場合に、これらの測定値と測定時の気象変数、地図情報及び交通情報の少なくとも1つとを関連付けて、データベースとして蓄積して、アクセス可能な記憶装置に記憶してよい。気象変数は、場所及び時間によって変化する気象についての変数であって、例えば気温、湿度、日射時間(日照時間)、降水量などを含む。地図情報は、例えば道路の座標、地形、建物の情報などを含む。地形は、例えば標高などを含む。交通情報は、例えば交通量などを含む。気象変数、地図情報及び交通情報はネットワーク40経由で取得され得る。道路管理装置60は、路面状態推定装置10がモデルを生成する場合に、データベースに蓄積された測定値を含む実績データ(現在よりも過去のデータ)を路面状態推定装置10に提供してよい。本実施形態において、路面状態推定装置10は、提供された実績データを機械学習の学習データとして用いる。
【0020】
端末装置50は車両20の運転者又は同乗者に情報を提示する装置であって、路面状態推定装置10によって推定された路面状態のデータを取得する。端末装置50は、例えばカーナビゲーションシステムなどの車両20に搭載される車載装置であってよいし、例えばスマートフォン又はタブレット等の可搬の装置であってよい。端末装置50は、例えばカーナビゲーション機能を有し、車両20が凍結又は積雪している道路に進入する場合に、車両20の運転者に対して注意を促してよい。
【0021】
図3は、路面状態推定装置10が実行する路面状態推定方法で使用されるモデルについて説明するための図である。本実施形態において、機械学習モデル及び時空間統計モデルが使用される。機械学習モデルは、路面状態を目的変数とし、少なくとも道路の路面状態非均一性及び路面温度を含むパラメータを説明変数とする学習データを用いて生成される。路面状態非均一性とは、路面状態が場所によって違っていることを意味し、特に近い場所にある道路であっても道路毎に路面状態が異なることをいう。非均一性は異質性と称することもできる。時空間統計モデルは、路面温度を目的変数とし、少なくとも日射量を含むパラメータを説明変数とするモデルである。時空間統計モデルに対応するモデルは機械学習によって生成することも可能であるが、本実施形態において統計モデルが採用されている。時空間統計モデルは、例えば線形回帰の手法を含んで構成されるモデルであってよい。図3に示すように、本実施形態において、機械学習モデルに入力される路面温度は、時空間統計モデルを用いて算出された路面温度である。本明細書において、機械学習モデル及び時空間統計モデルを特に区別しない場合に、これらをまとめて、単にモデルと称することがある。
【0022】
ここで、従来技術では、路面温度及び路面状態を主に1次元の解析モデルを解くことで推定することが多い。従来技術で用いられる物理モデルは一般に複雑であり、必要なパラメータの数が多い。また、例えばアスファルトの熱伝導率分布及び反射率分布など、入手が難しいパラメータが含まれることがある。また、気象変数はこのような物理モデルにおいても重要なパラメータであるが、例えば一辺が5km以上のメッシュの大きさとなり、予測したい路面温度及び路面状態に対して粗いデータであることが多い。さらに、気象変数は一般に開けた場所に設置された気象観測装置によって測定され、建物又は樹木などによって日射が遮られることがある路面の実際の状態を反映するものでない。したがって、従来技術によって予測される路面温度及び路面状態は、見通しのよい建物の少ない地域を前提としており、予測精度に改良の余地がある。
【0023】
本発明者が鋭意究明したところ、上記のように、路面状態に強く影響する路面温度を時空間統計モデルによって算出し、算出された路面温度を入力して機械学習モデルによって推定することによって、路面状態を高精度に推定可能であることがわかった。本実施形態に係る路面状態推定装置10は、時空間統計モデルを用いて路面温度を算出する。そのため、路面状態推定において、5km以上の粗いメッシュでの画一的な気象変数(例えば気温及び湿度)だけに基づく路面温度でなく、日射量も考慮した実際の分布に近い路面温度を用いることができる。つまり、広域で画一的な路面温度でなく、日射量を考慮した詳細な路面温度に基づいて、路面状態を高精度に推定することができる。
【0024】
さらに、本実施形態において、機械学習モデルは、少なくとも道路の路面状態非均一性及び路面温度を含むパラメータを説明変数とする。そのため、例えばある場所について路面状態を推定した場合に、その場所から所定の距離の範囲内にある領域で画一的に同じ路面状態であるとするのでなく、道路の路面状態非均一性を考慮して同じ路面状態の範囲を高精度に判定することができる。一例として幹線道路と生活道路とが近接している場合に、これらの道路が接続されておらず車両20の往来がなければ、生活道路が積雪しており、交通量の多い幹線道路が乾燥している状態があり得る。同じ例で、これらの道路が接続されていて多くの車両20の往来があれば、生活道路と幹線道路の路面状態はどちらも同じく乾燥していることがあり得る。路面状態非均一性として、このような道路の間の接続状態(以下、「道路ネットワーク」)を機械学習モデルで考慮させることによって、所定の距離の範囲内を画一的に同じ道路状態を推定する従来技術に比べて、高精度な路面状態の推定が可能になる。
【0025】
図3のように、機械学習モデルは、説明変数としてのパラメータとして、日射量、地形、溜水エリア、交通量及び気象変数の少なくとも1つをさらに含んでよい。道路ネットワークに加えてこれらの情報を用いることによって、さらに詳細に道路の路面状態非均一性を考慮した機械学習モデルを生成し、その機械学習モデルを用いて路面状態をさらに高精度に推定することができる。日射量は、道路における日射量分布及び日射時間に基づいて算出されてよい。日射量分布は、例えばネットワーク40経由で取得可能な地図情報に含まれる地形、建物の情報などに基づいて算出されてよい。例えば同じ道路における近い範囲であっても、日射量の多少によって積雪量が異なるように推定されることがあり得る。溜水エリアは、例えばネットワーク40経由で取得可能なハザードマップなどから溜水が生じやすいエリアを抽出することによって特定されてよい。例えば同じ道路における近い範囲であっても、溜水エリアの外か中かによって推定結果が乾燥と湿潤とで異なることがあり得る。ここで、機械学習モデルの生成では、実績データに含まれる路面状態測定データ(路面状態の測定値)と測定時の説明変数の値が学習データとして用いられる。
【0026】
また、図3のように、時空間統計モデルは、説明変数であるパラメータとして気温、湿度などの気象変数をさらに含んでよい。日射量に加えて、さらに詳細に道路の表面の温度変化を考慮した時空間統計モデルを生成し、その時空間統計モデルを用いて路面温度をさらに高精度に推定することができる。
【0027】
再び図1を参照して、以下に路面状態推定装置10の構成要素の詳細が説明される。通信部11は、ネットワーク40に接続する1つ以上の通信モジュールを含んで構成される。通信部11は、例えば4G(4th Generation)、5G(5th Generation)などの移動体通信規格に対応する通信モジュールを含んでよい。通信部11は、例えば有線又は無線のLAN規格に対応する通信モジュールを含んでよい。
【0028】
記憶部12は、1つ以上のメモリである。メモリは、例えば半導体メモリ、磁気メモリ又は光メモリなどであるが、これらに限られず任意のメモリとすることができる。記憶部12は、例えば路面状態推定装置10に内蔵されるが、任意のインターフェースを介して路面状態推定装置10によって外部からアクセスされる構成も可能である。
【0029】
記憶部12は、制御部13が実行する各種の算出において使用される各種のデータを記憶する。また、記憶部12は、制御部13が実行する各種の算出の結果及び中間データを記憶してよい。本実施形態において、記憶部12は、生成されたモデルを記憶する。
【0030】
制御部13は、1つ以上のプロセッサである。プロセッサは、例えば汎用のプロセッサ又は特定の処理に特化した専用プロセッサであるが、これらに限られず任意のプロセッサとすることができる。制御部13は、路面状態推定装置10の全体の動作を制御する。
【0031】
ここで、路面状態推定装置10は、以下のようなソフトウェア構成を有してよい。路面状態推定装置10の動作の制御に用いられる1つ以上のプログラムが記憶部12に記憶される。記憶部12に記憶されたプログラムは、制御部13のプロセッサによって読み込まれると、制御部13を取得部131、モデル生成部132、推定部133及び出力部134として機能させる。
【0032】
取得部131は、モデルを生成する場合に、機械学習で用いられる学習データを生成するための実績データを取得する。学習データは、実績データから目的変数(例えば路面状態測定データ)及び説明変数(例えば路面状態の測定時の気象変数など)を抽出することによって生成されてよい。また、取得部131は、モデルを用いて路面状態を推定する場合に、記憶部12に記憶されたモデル(すなわち上記の機械学習モデル及び時空間統計モデル)を取得する。また、取得部131は、推定の対象である道路又は地域についての入力データを取得する。入力データは、モデルの説明変数に対応するパラメータの値を含んで構成される。
【0033】
モデル生成部132は、取得部131によって取得された実績データに基づいて機械学習モデル及び時空間統計モデルを生成する。モデル生成部132は、機械学習モデルの生成において、実績データに基づく学習データを用いて機械学習を実行する。機械学習の手法は、限定されないが、例えばニューラルネットワークなどであってよい。本実施形態において、モデル生成部132は、まず時空間統計モデルを生成する。そして、推定部133は、生成された時空間統計モデルによって算出される路面温度を学習データに含めて、機械学習モデルを生成する。
【0034】
ここで、上記のように、学習データは道路の路面状態非均一性を含むパラメータを説明変数とする。機械学習モデルの生成において、道路ネットワークを表す隣接行列が用いられてよい。このとき、道路が接続しているか否かを考慮した機械学習モデルを効率的に生成することができる。図4は、道路ネットワークを表す隣接行列を例示する。図4の左図は道路地図であって、各道路にA~Iの符号が付されている。詳細に述べると、道路の交差点から交差点までの範囲についてA~Iの符号が付されている。図4の右図は、道路地図に対応する隣接行列であって、行列のそれぞれにA~Iの道路が順に割り当てられている。隣接行列は、行における道路と列における道路とが接続されていることを「1」で、接続されていないことを「0」で示している。例えばAとBの道路が接続されているため、これらが交わる位置の値は「1」である。また、例えばAとDの道路が接続されていないため、これらが交わる位置の値は「0」である。近い場所にある道路であっても道路毎に路面状態が異なることがあるが、つながっている道路同士の路面状態については似ていると推定される。したがって、隣接行列を用いることによって各道路の路面状態が似ているか否かを学習データに含めることができる。
【0035】
ここで、一般に、路面状態推定で用いられる地図において、緯度及び経度について一定の長さで区切ったメッシュとして、メッシュ毎に路面状態推定の計算が行われることが多い。ここで、一定の長さは、例えば5kmより小さいように設定されてよい。図4の隣接行列は一例であって、例えば行列のそれぞれに割り当てるものが道路に限定されるものでない。例えば行列のそれぞれにメッシュのそれぞれを割り当てて、行と列の2つのメッシュが道路によって接続されているか否かに対応して「1」と「0」とを設定してよい。
【0036】
推定部133は、モデル生成部132によって生成されたモデルを用いて、路面状態を推定する。本実施形態において、推定部133は、まず時空間統計モデルを用いて、路面状態の推定に用いられる路面温度を算出する。そして、推定部133は、算出された路面温度を機械学習モデルに入力して、路面状態を推定する。
【0037】
出力部134は、推定部133によって推定された結果を、表示装置などに対して出力する。例えば道路管理装置60に接続されているディスプレイ、端末装置50が有するディスプレイなどが、推定結果を表示する表示装置として機能し得る。
【0038】
図5は、路面状態推定装置10が実行する路面状態を推定する処理を例示するフローチャートである。取得部131及びモデル生成部132は、路面状態を推定するためのモデルを生成するモデル生成工程(ステップS1、モデル生成方法)を実行する。また、取得部131及び推定部133は、生成されたモデルを用いて、推定の対象である道路の路面状態を推定する路面状態推定工程(ステップS2、路面状態推定方法)を実行する。路面状態推定工程は、モデル生成工程と連続して実行されてよいが、モデル生成工程の後に一定の時間が経過してから実行されてよい。
【0039】
図6は、図5のモデル生成工程の詳細を示すフローチャートである。取得部131は、例えば道路管理装置60のデータベースに蓄積されている実績データを取得する(ステップS11)。取得部131は、ネットワーク40経由で地図情報、ハザードマップなども取得してよい。
【0040】
学習データは、取得部131によって取得された実績データから目的変数及び説明変数を抽出することによって生成される(ステップS12)。また、上記のように日射量が算出されてよい。このとき、学習データの生成及び日射量の算出は、モデル生成部132によって実行されてよい。
【0041】
そして、モデル生成部132はモデルを生成する(ステップS13)。本実施形態において、モデル生成部132はまず時空間統計モデルを生成し、次に機械学習モデルを生成する。モデル生成部132は、生成したモデルを記憶部12に記憶させる。
【0042】
図7は、図5の路面状態推定工程の詳細を示すフローチャートである。取得部131は、入力データを取得し(ステップS21)、記憶部12からモデルを取得する(ステップS22)。入力データは、上記のようにモデルの説明変数に対応するパラメータの値を含んで構成される。
【0043】
ここで、入力データに含まれる日射時間、地形、建物の情報などに基づいて日射量が算出される。このとき、日射量の算出は、推定部133によって実行されてよい。推定部133は、まず時空間統計モデルを用いて路面温度を算出する(ステップS23)。そして、推定部133は、算出された路面温度を機械学習モデルに入力して、路面状態を推定する(ステップS24)。出力部134は、推定部133によって推定された結果を出力してよい。出力された推定結果は、道路管理者又は車両20の運転者などが確認できるように、表示装置に表示されてよい。
【0044】
以上のように、本実施形態に係る路面状態推定装置10及び路面状態推定方法は、上記の構成及び工程によって、道路の路面状態非均一性を考慮した機械学習モデルを用いて、路面状態を高精度に推定することができる。
【0045】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラム及びプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0046】
例えば図1及び図2に示される路面状態推定装置10及び路面状態推定システムの構成は一例であって、図1及び図2の構成に限定されるものでない。例えば路面状態推定システムは、路面状態推定装置10と道路管理装置60とが一体化された構成であってよい。この場合に、路面状態推定装置10が道路管理装置60の機能(例えば除雪又は融雪の作業計画支援)も実行してよい。また、車両20が自動運転車である場合に、道路管理装置60とともに又は道路管理装置60に代えて、自動運転車の走行を管理する走行管理装置を含んで路面状態推定システムが構成されてよい。走行管理装置は、路面状態推定装置10から推定された路面状態の情報を取得し、走行予定の道路の路面状態に応じて自動運転の継続可否を決定してよい。路面状態が高精度に推定されることによって、適切に運転継続可否を決定することができ、車両20の走行安全性を向上させることができる。また、データベースは、道路管理装置60でなく、路面状態推定装置10によって管理及び記憶されてよい。
【0047】
また、モデル生成部132と、推定部133と、が異なるコンピュータに含まれる構成であってよい。例えば、モデル生成部132は、路面状態推定装置10と通信可能であって、記憶部12にもアクセス可能な別のコンピュータ(独立したモデル生成装置)に含まれてよい。この場合に、路面状態推定装置10は、別のコンピュータで生成されて記憶部12に記憶されたモデルを用いて、道路の路面状態を判定してよい。モデルは上記と同様に生成されてよい。つまり、別のコンピュータが、実績データを取得し、実績データに基づく学習データを用いてモデルを生成してよい。
【国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)への貢献】
【0048】
持続可能な社会の実現に向けて、SDGsが提唱されている。本開示の一実施形態は「No.9 産業と技術革新の基盤をつくろう」等に貢献する技術となり得ると考えられる。
【符号の説明】
【0049】
10 路面状態推定装置
11 通信部
12 記憶部
13 制御部
20 車両
40 ネットワーク
50 端末装置
60 道路管理装置
131 取得部
132 モデル生成部
133 推定部
134 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7