IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フォスター電機株式会社の特許一覧

特開2024-157458振動板、スピーカ及び車両接近通報装置
<>
  • 特開-振動板、スピーカ及び車両接近通報装置 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157458
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】振動板、スピーカ及び車両接近通報装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 7/02 20060101AFI20241030BHJP
   B60Q 5/00 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
H04R7/02 D
B60Q5/00 620A
B60Q5/00 630B
B60Q5/00 670A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071846
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000112565
【氏名又は名称】フォスター電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】市川 一浩
(72)【発明者】
【氏名】中山 浩嗣
【テーマコード(参考)】
5D016
【Fターム(参考)】
5D016AA09
5D016AA15
5D016EC02
5D016EC11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐熱性及び耐寒性に優れるとともに耐化成品性に優れる振動板、この振動板を含むスピーカ、及びこのスピーカを含む車両接近通報装置を提供することを課題とする。
【解決手段】スピーカは、ポリエーテルイミドを含む振動板の胴体部1と、フッ素化シリコーンゴムからなる、振動板のエッジ部2と、フレーム3と、ダンパー4と、ボイスコイル5と、キャップ6と、を備えている。フッ素化シリコーンゴムは、フルオロプロピルメチルビニルシリコーンである。フレーム、ダンパー、ボイスコイル、キャップ及びその他の部材の材質は特に制限されず、スピーカのサイズ、用途等に応じて選択できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴体部と、エッジ部材とを備え、前記エッジ部材はフッ素化シリコーンゴムからなる、振動板。
【請求項2】
前記フッ素化シリコーンゴムはフルオロプロピルメチルビニルシリコーンである、請求項1に記載の振動板。
【請求項3】
前記胴体部はポリエーテルイミドを含む、請求項1に記載の振動板。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の振動板を備えるスピーカ。
【請求項5】
車両接近通報装置に使用される、請求項4に記載のスピーカ。
【請求項6】
請求項4に記載のスピーカを含む、車両接近通報装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、振動板、スピーカ及び車両接近通報装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気モータを駆動手段とする電気自動車の普及が進んでいる。電気自動車は、内燃機関を駆動手段とする自動車に比べて走行音が小さい。このため、歩行者が車両の接近を認識しにくく、自動車事故を引き起こす危険がある。
そこで、人工的に生成した警告音を車外に発することで歩行者に車両の接近を知らせる車両接近通報装置(Acoustic Vehicle Alerting System、AVAS)を電気自動車に装備する動きが広まっている。例えば、特許文献1には、走行状態を検出して出力する加速度センサと、検出された走行状態に基づいて音を発生する警告音発生器と、警告音発生器の駆動を制御する制御器とを備える電気自動車が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-27810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両接近通報装置は、警告音を発するためのスピーカを備えている。車両接近通報装置のスピーカは、警告音を車外に向けて発するためにバンパー裏などの車体の外側に設置される。このため、屋内での使用が想定されているスピーカに比べて耐熱性、耐寒性、耐水性のような屋外での使用に特有の特性が重視される。さらに、スピーカを自動車に搭載する場合は車体の洗浄やメンテナンスに使用する化成品類と接触する可能性があるため、耐化成品性に優れている必要がある。
上記事情に鑑み、本開示の一実施形態は、耐熱性及び耐寒性に優れるとともに耐化成品性に優れる振動板、この振動板を含むスピーカ、及びこのスピーカを含む車両接近通報装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1>胴体部と、エッジ部材とを備え、前記エッジ部材はフッ素化シリコーンゴムからなる、振動板。
<2>前記フッ素化シリコーンゴムはフルオロプロピルメチルビニルシリコーンである、<1>に記載の振動板。
<3>前記胴体部はポリエーテルイミドを含む、<1>又は<2>に記載の振動板。
<4><1>~<3>のいずれか1項に記載の振動板を備えるスピーカ。
<5>車両接近通報装置に使用される、<4>に記載のスピーカ。
<6><4>に記載のスピーカを含む、車両接近通報装置。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一実施形態によれば、耐熱性及び耐寒性に優れるとともに耐化成品性に優れる振動板、この振動板を含むスピーカ、及びこのスピーカを含む車両接近通報装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示のスピーカの構成の一例を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本開示に係る実施形態を説明する。これらの説明及び実施例は本開示に係る実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
【0009】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を示す。
【0010】
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0011】
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0012】
<振動板>
本開示の振動板は、胴体部と、エッジ部とを備え、前記エッジ部はフッ素化シリコーンゴムからなる。
【0013】
本開示の振動板は、スピーカを構成する部品(すなわち、スピーカ用振動板)である。
スピーカの振動板は、胴体部と、胴体部をフレームに取り付けるためのエッジ部と、を備えている。
エッジ部の材料としては、ゴム、ウレタン、布、紙などが一般的に使用されている。これらの中でも、屋外で使用されるスピーカのエッジ部の材料としては、耐候性(特に、耐熱性及び耐寒性)、耐水性等の特性を考慮してゴムが選択される。
【0014】
エッジ部用のゴムとしては、エチレン-プロピレンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)などが主に使用されている。
【0015】
後述する実施例に示すように、フッ素化シリコーンゴムは他のゴムに比べて優れた耐化成品性を示す。このため、エッジ部の材料としてフッ素化シリコーンゴムを使用したスピーカは車両接近通報装置のスピーカのような自動車の車体の外側に搭載されるスピーカとして好適である。
【0016】
(胴体部)
本開示の振動板を構成する胴体部の材質は特に制限されず、樹脂、金属、紙等から選択される。これらの中でも、車両接近通報装置のような屋外環境下で使用されるスピーカの胴体部の材料としては、樹脂、樹脂と紙の複合材料、繊維と樹脂の複合材料等の樹脂を少なくとも含む材料が選択される。
【0017】
胴体部に含まれる樹脂として具体的には、ポリエーテルイミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリウレタン、ポリフェニレンサルファイド、ポリ(メタ)アクリレート、液晶ポリマー(LCP)等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂などが挙げられる。
屋外での使用を想定した場合の特性のバランスの観点から、樹脂としてはポリエーテルイミド(PEI)が好ましい。
【0018】
胴体部の厚みは特に制限されず、所望の特性に応じて選択できる。
胴体部の剛性確保の観点からは、胴体部の厚みは0.1mm以上であることが好ましく、0.15mm以上であることがより好ましく、0.2mm以上であることがさらに好ましい。
胴体部の軽量化の観点からは、胴体部の厚みは2.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることがより好ましく、0.5mm以下であることがさらに好ましい。
【0019】
(エッジ部)
エッジ部は、フッ素化シリコーンゴムからなる。
本開示においてフッ素化シリコーンゴムとは、フッ素原子を含むシリコーンゴムを意味する。
フッ素化シリコーンゴムとして具体的には、ジメチルシロキサン(-Si(CH-O-)のようなシリコーン骨格の側鎖にフッ素原子が導入されたものが挙げられる。
フッ素化シリコーンゴムとして具体的には、フルオロプロピルメチルビニルシリコーン(FVMQ)が挙げられる。FVMQは、メチルビニルシロキサン構造とメチルトリフルオロプロピルシロキサン構造とを有する重合体及びその架橋(加硫)物である。
【0020】
エッジ部の厚みは特に制限されず、振動板のサイズ、用途等に応じて選択できる。
強度を確保する観点及び耐化成品性の観点からは、エッジ部の厚みは0.3mm以上であることが好ましく、0.6mm以上であることがより好ましく、0.8mm以上であることがさらに好ましい。
柔軟性を確保する観点及び重量低減の観点からは、エッジ部の厚みは1.0mm以下であることが好ましく、0.8mm以下であることがより好ましく、0.4mm以下であることがさらに好ましい。
柔軟性を確保する観点から、エッジ部の硬度(ショアA硬度)は、40°~80°であることが好ましく、50°~60°であることがより好ましい。
【0021】
エッジ部は、胴体部の外周部(振動板をスピーカのフレームに収容したときにフレームと接する部位)に配置される。
本開示の振動板において、胴体部1とエッジ部2とを接合する方法は、特に制限されない。例えば、接着剤を用いて胴体部1とエッジ部2とを接合してもよい。
【0022】
振動板のサイズは特に制限されず、振動板が含まれるスピーカのサイズ、用途等に応じて選択できる。
【0023】
(スピーカ)
本開示のスピーカは、上述した本開示の振動板を備える。
【0024】
図1は本開示のスピーカの構成の一例を概略的に示す断面図である。
図1に示すスピーカは、振動板の胴体部1と、振動板のエッジ部2と、フレーム3と、ダンパー4と、ボイスコイル5と、キャップ6と、を備えている。
エッジ部2は、胴体部1の外周部に配置されて胴体部1をフレーム3に保持する。
【0025】
エッジ部2の形状は、エッジ部材としての機能を果たすのであれば特に制限されない。例えば、図1に示すようにエッジ部2をダンパー4側から観察したときに凸状の形状であっても、ダンパー4側から観察したときに凹状の形状であってもよい。
キャップ6は、胴体部1と一体化して振動板の一部を構成していても、胴体部1と別体であってもよい。
【0026】
スピーカに含まれるフレーム、ダンパー、ボイスコイル、キャップ及びその他の部材の材質は特に制限されず、スピーカのサイズ、用途等に応じて選択できる。
本開示のスピーカは、振動板のエッジ部がフッ素化シリコーンゴムからなるために耐化成品性に優れている。
このため、本開示のスピーカは車両接近通報装置のような車両の外側で使用される用途に好適である。
【0027】
<車両接近通報装置>
本開示の車両接近通報装置は、上述した本開示のスピーカを備える。
【0028】
車両接近通報装置は、所定の基準以下の速度(例えば、30km/h以下)での走行時、又はバック走行時に警告音の電気信号を生成し、生成した電気信号をスピーカに伝達する機構を備えていてもよい。
車両接近通報装置が搭載される対象は特に制限されず、各種の電気自動車(EV)及びハイブリッド車(HEV)から選択できる。
【実施例0029】
以下、実施例により本開示の実施形態を具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本開示が限定されるものではない。
【0030】
エッジ部材用の材料としての適性を調べるために、下記の耐化成品性試験を実施した。
具体的には、表1に示す材料を用いて20mm×25mm×1mmの試験片を作製(ゴムコートクロスの試験片はゴムコートクロスを20mm×25mmの大きさに切断して作製)し、試験片を常温下で化成品A又は化成品Bに22時間浸漬した。その後、試験片の表面から化成品をふき取り、常温下で48時間放置した。その後、試験片の寸法及び質量を測定し、化成品に浸漬する前の試験片の寸法及び質量に対する変化率(%)を下記式により算出した。
寸法変化率(%)={(浸漬後の寸法-浸漬前の寸法)/浸漬前の寸法}×100
質量変化率(%)={(浸漬後の質量-浸漬前の質量)/浸漬前の質量}×100
【0031】
試験には、下記の化成品A及び化成品Bを使用した。
化成品A:エチレングリコール系の水溶性化成品(ブレーキフルード)
化成品B:Waxリムーバー(有機溶剤系)
【0032】
算出した寸法変化率と質量変化率に基づき、下記の基準に従って試験片を評価した。結果を表1に示す。
A:寸法変化率と質量変化率のいずれも5%以下である。
B:寸法変化率と質量変化率の少なくとも一方が5%を超え15%以下である。
C:寸法変化率と質量変化率の少なくとも一方が15%を超えている。
【0033】
試験片の寸法変化率又は質量変化率の値が大きいと、当該試験片の材料を含むエッジ部材が化成品との接触により変形又は膨潤しやすい。エッジ部の変形又は膨潤が生じると、胴体部からエッジ部が剥がれたり、振動板の位置が変化して振動板が駆動しなくなるおそれがある。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示すように、フッ素化シリコーンゴム(FVMQ)から作製した試験片は、化成品A及び化成品Bを使用した耐化成品性試験の評価がいずれも「A」であった。
フッ素化シリコーンゴム以外の材料から作製した試験片は、化成品A及び化成品Bを使用した耐化成品性試験の評価の少なくとも一方が「B」又は「C]であった。
【0036】
以上の結果に示すように、フッ素化シリコーンゴムは優れた耐化成品性が求められる振動板のエッジ部の材料として好適である。特に、車両接近通報装置のスピーカのような自動車の車体の外側に配置されるスピーカに使用される振動板のエッジ部の材料として好適である。
【符号の説明】
【0037】
1 胴体部
2 エッジ部
3 フレーム
4 ダンパー
5 ボイスコイル
6 キャップ
図1