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特開2024-15746レンズユニット、カメラモジュール、車載システムおよび移動体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015746
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】レンズユニット、カメラモジュール、車載システムおよび移動体
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20210101AFI20240130BHJP
   G03B 30/00 20210101ALI20240130BHJP
   G03B 15/00 20210101ALI20240130BHJP
   B60R 1/29 20220101ALI20240130BHJP
   B60R 1/24 20220101ALI20240130BHJP
   B60R 1/25 20220101ALI20240130BHJP
   B60R 1/26 20220101ALI20240130BHJP
【FI】
G02B7/02 F
G03B30/00
G03B15/00 V
G02B7/02 D
G02B7/02 Z
G02B7/02 E
B60R1/29
B60R1/24
B60R1/25
B60R1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118025
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】杉目 孝行
(72)【発明者】
【氏名】水口 拓実
(72)【発明者】
【氏名】藤井 航志
【テーマコード(参考)】
2H044
【Fターム(参考)】
2H044AD02
2H044AE06
2H044AH18
2H044AJ06
2H044AJ07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】引き出し孔を外側から封止する封止材の破れを防止し得るレンズユニットを提供する。
【解決手段】レンズ間空間S1内へと向かう気体流通経路を物体側で遮断するように封止する物体側封止材27と、レンズ間空間S1内へと向かう気体流通経路を像側で遮断するように封止する像側封止材50とによって、内側収容空間S内に気密な密閉空間S2が画定され、鏡筒12には、密閉空間S2から鏡筒外部へと延びる引き出し孔12bが形成されるとともに、鏡筒12内に設けられる電子部品30から延びる電気配線36が引き出し孔12bを通じて鏡筒外部に導出された状態で引き出し孔12を鏡筒12の外側から封止する孔封止材60が設けられ、孔封止材60は、密閉空間S2内の圧力の変化に抗して引き出し孔12bの封止状態を保持する第1の封止層62と、第1の封止層62を外側から覆って補強する第2の封止層64とによって構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、前記レンズ群を収容保持するための内側収容空間を有する鏡筒とを備え、前記レンズ群が、最も物体側に位置される第1のレンズと、この第1のレンズにその像側で隣接する第2のレンズとを有し、前記第1のレンズと前記第2のレンズとの間にレンズ間空間が形成されて成るレンズユニットにおいて、
前記レンズ間空間内へと向かう気体流通経路を物体側で遮断するように封止する物体側封止材と、前記レンズ間空間内へと向かう気体流通経路を像側で遮断するように封止する像側封止材とによって、前記内側収容空間内に気密な密閉空間が画定され、
前記鏡筒には、前記密閉空間から鏡筒外部へと延びる引き出し孔が形成されるとともに、前記鏡筒内に設けられる電子部品から延びる電気配線が前記引き出し孔を通じて鏡筒外部に導出された状態で前記引き出し孔を前記鏡筒の外側から封止する孔封止材が設けられ、
前記孔封止材は、前記密閉空間内の圧力の変化に抗して前記引き出し孔の封止状態を保持する第1の封止層と、前記第1の封止層を外側から覆って補強する第2の封止層とによって構成されることを特徴とするレンズユニット。
【請求項2】
前記第1の封止層が紫外線硬化接着剤であり、前記第2の封止層が熱硬化接着剤であることを特徴とする請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項3】
前記第1の封止層の粘度が30Pa・s以上であり、前記第2の封止層の剪断接着強度が10MPa以上であることを特徴とする請求項2に記載のレンズユニット。
【請求項4】
前記第1の封止層は、前記引き出し孔の開口を完全に覆うように設けられ、前記第2の封止層は、前記第1の封止層の外側から前記引き出し孔の開口を完全に覆うように防水することを特徴とする請求項2に記載のレンズユニット。
【請求項5】
前記電子部品は、給電により発生する熱を前記レンズに伝えるヒータであることを特徴とする請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項6】
前記ヒータは、前記第1のレンズと前記第2のレンズとの間に介挿されて給電により発熱する加熱部と、前記加熱部に電力を供給する給電部とを有し、前記給電部が前記引き出し孔を通じて前記鏡筒の外部に導出されることを特徴とする請求項5に記載のレンズユニット。
【請求項7】
前記物体側封止材は、前記第1のレンズと前記鏡筒との間に介挿されるOリングまたは熱硬化接着剤であり、前記像側封止材は、前記第2のレンズにその像側で隣り合う第3のレンズと前記鏡筒との間に介挿される熱硬化接着剤であり、前記引き出し孔が前記光軸に沿う前記第2のレンズと前記第3のレンズとの間の位置で径方向に延びていることを特徴とする請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のレンズユニットと、前記レンズユニットの前記レンズ群を通じて集光される光を電気信号に変換する撮像素子とを備えることを特徴とするカメラモジュール。
【請求項9】
車両に搭載される車載システムであって、
請求項8に記載のカメラモジュールと、
前記カメラモジュールの前記撮像素子から出力される撮像画像を処理して、前記撮像画像の中の対象物の認識を行なう制御部と、
を有することを特徴する車載システム。
【請求項10】
請求項9に記載の車載システムと乗員への情報を出力する出力装置とを搭載した移動体であって、
前記制御部は、前記対象物の認識情報を前記出力装置に出力するように構成されていることを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車等の車両に搭載される車載カメラを構成し得るレンズユニット、カメラモジュール、車載システム、および、車載システムを搭載した移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に車載カメラを搭載し、駐車をサポートしたり、画像認識により衝突防止を図ったりすることが行なわれており、さらにそれを自動運転に応用する試みもなされている。また、このような車載カメラのカメラモジュールは、一般に、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、このレンズ群を収容保持する鏡筒(バレル)と、レンズ群の少なくとも一個所のレンズ間に配置される絞り部材とを有するレンズユニットを備える(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、特に車載カメラ用のレンズユニットでは、少なくとも一部が車外に設置される場合、防水および防塵のため、図10に示されるレンズユニット500のように、鏡筒120の内側収容空間S内にレンズ群Lが組み込まれて収容保持された状態で、レンズ群Lの最も物体側に位置される第1のレンズ100と鏡筒120との間にシール部材として例えばOリング140が介挿され、鏡筒120の内側のレンズ群L内に水や塵埃が侵入しないようにしている。この場合、第1のレンズ100の外周側面100aに、該レンズ100の像側部分で径が小さくなった段差状の縮径部100bが設けられ、この縮径部100bにOリング140が装着されて、第1のレンズ100の外周側面100aと鏡筒120の内周面120aとの間でOリング140が例えば径方向で圧縮されることにより、鏡筒120の物体側端部が封止された状態となっている。
【0004】
さらに、鏡筒120は、それが樹脂製であれば、例えば図10に示されるようにその物体側の端部(図10において上端部)にカシメ部123を有する形態が一般的であり、その場合、鏡筒120は、その内側収容空間S内にレンズ群Lが組み込まれて収容保持された状態で、カシメ部123が径方向内側にカシメられることにより、第1のレンズ100をこのカシメ部123で鏡筒120の物体側端部に固定する。
【0005】
ところで、前述したようにOリング140によって防水対策を行なっても、湿気(水蒸気)は様々な経路を通じてレンズユニット500内に侵入し得る。そのため、外気温とレンズユニット500内の温度との間の差が大きくなると、レンズユニット500内の水蒸気が凝縮してレンズ表面に結露が生じる。特に、外部との温度差の影響が最も大きい第1のレンズ100とこれに隣接する第2のレンズ101との間のレンズ間空間S1内で、とりわけ第1のレンズ100の裏面100cに結露が生じ易い。
【0006】
外気温とレンズユニット500内の温度との間の差が大きくなる要因としては、外気が冷たい冬期にレンズユニット500内の温度が上昇すること、具体的には、例えば、レンズユニット500を通じて集光される光を受光して電気信号に変換するための常時通電されたイメージセンサ(撮像素子)520から伝わる熱によりレンズユニット500内の温度が上昇すること、あるいは、イメージセンサ520や周囲環境(例えば車両のエンジン)からの熱によりレンズユニット500内の温度が高い状態で外部に露出する第1のレンズ100の表面100dが外気や雨に晒されたり路面上の水溜りの水しぶきを受けるなどして第1のレンズ100が冷却されることなどが挙げられる。
【0007】
また、レンズユニット500内への水蒸気の侵入を許容する経路としては、例えば、鏡筒120のカシメ部123と第1のレンズ100との間の隙間からOリング140の周囲の一部並びに第1のレンズ100と鏡筒120および/または第2のレンズ101との間の隙間を通じてレンズ間空間S1等へと至る経路、または、鏡筒120の透湿性の樹脂を直接に通じた経路、あるいは、鏡筒120およびレンズを形成する透湿性の樹脂を順次に通り抜ける経路などを挙げることができるが、とりわけ、イメージセンサ520が発する熱により該センサ520を支持する基板522の水分が蒸発して、その水蒸気がレンズユニット500内へ侵入することにより最終的にレンズ間空間S1内に入り込むことが最も懸念される。
【0008】
いずれにしても、このような経路を通じて水蒸気がレンズユニット500内に少しずつ侵入していき、前述したような要因により外気とレンズユニット500内との間で温度差が生じると、レンズ間空間S1内で、とりわけ第1のレンズ100の裏面100cに結露が起こり、撮像画像がぼやけて、所望の解像度が得られなくなる(視認性が悪化する)。したがって、レンズユニット500の気密性を更に一層確保して、レンズ間空間S1内への水蒸気の侵入を抑制することが求められる。
【0009】
そのため、例えば、イメージセンサ520が位置される像側から第1のレンズ100と第2のレンズ101との間のレンズ間空間S1内へと向かう水蒸気の侵入経路を遮断するように封止するべく、図10に示されるように、レンズ間空間S1よりも像側に位置される任意の光学要素(レンズ、中間環、絞りなど)、例えば第3のレンズ102と鏡筒120との間の隙間に接着剤等の封止材150を充填することも考えられる。
【0010】
また、このような構成のレンズユニット(カメラモジュール)は、車載カメラに限らず、様々な光学機器で使用され得るが、とりわけ、寒冷地で外部環境に晒される場合には、レンズ表面の凍結やレンズへの着雪が想定し得るため、一般に融雪機能や防曇機能等を備えるようになっている。具体的には、そのようなレンズユニットは、例えば、図11の(a)に概略的に示されるように、鏡筒120内に収容保持されたレンズ群L(図11の(a)には、簡略化のため、レンズ群Lのうちの物体側の2つのレンズ100,101のみが示される)のうち最も物体側に位置されて鏡筒120から露出される(外部環境に晒される)第1のレンズ100を暖めるべく、第1のレンズ100の像側に面する表面100eと第1のレンズ100に像側で隣接する第2のレンズ101の物体側に面する表面101aとの間にヒータ130を介挿するようにしている。
【0011】
このように鏡筒120内に組み込まれるヒータ130は、発生した熱を効率良く第1のレンズ100の表面に伝えることができる最も有効な加熱手段として広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2013-231993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、ヒータ130に対する給電は、電気的な配線を介して、一般的にはフレキシブルプリント回路基板(FPC)またはリード線を介して行なわれる。そのため、ヒータ130は、例えば、図11の(b)に示されるように、レンズ100,101間に介挿される円環状のヒータ本体である加熱部130aと、加熱部130aから側方に延在するFPCから成る給電部130bとから構成され、給電部130bを通じた電力供給によって加熱部130aが発熱してレンズ101へ熱が伝えられるようになる。そして、給電部130bは、一般に、加熱部130aをレンズ100,101間に配置した後、鏡筒120の側面に設けられた引き出し孔120aを通じて鏡筒120の外部へと導出されて電源側に電気的に接続されるようになっている。
【0014】
この場合、給電部130bを外部に導出するための鏡筒120の引き出し孔120aは、これを通じた鏡筒内部への水分や異物の侵入を防止して防水、防曇および防塵を図るべく、隙間なく閉鎖されなければならない。そのため、従来にあっては、引き出し孔120aから給電部130bを外部に導出した後、図11に示されるように引き出し孔120aを熱硬化接着剤などの封止材160によって外側から封止している。
【0015】
しかしながら、このような封止材160は、引き出し孔120aを通じた給電部130bの導出形態が特定の形態である場合に、破断し得るという問題がある。給電部130bのそのような特定の導出形態が図12に示されている。この図12では、イメージセンサ520が位置される像側から第1のレンズ100と第2のレンズ101との間のレンズ間空間S1内へと向かう水蒸気の侵入経路を遮断するように前述した封止材150が設けられるとともに、レンズ間空間S1内へと向かう水蒸気の侵入経路をレンズ間空間S1よりも物体側で遮断するように前述したOリング140が設けられており、それにより、封止材150とOリング140とによって挟まれた内側収容空間S内の領域S2が気密な密閉空間となっている。そして、このような密閉空間S2が形成されている状態で、この密閉空間S2から引き出し孔120aが外部へと延び、この引き出し孔120aを通じて給電部130bが外部に導出されている。このような給電部130bの導出形態では、鏡筒120内の僅かな温度変化(温度上昇)によって密閉空間S2の内圧が増大すると、行き場を失った気体が引き出し孔120aへと向かうような気流が生じ、その気流の作用によって、引き出し孔120aを外側から封止する封止材160が膨らんで破れてしまう場合がある。また、封止材160が熱硬化性樹脂である場合において封止材160を硬化させるべく加熱する際にも、その熱による温度変化に起因して密閉空間S2の内圧が増大すると、封止材160が膨らんで破れる場合がある。
【0016】
また、このような問題の発生は、なにもヒータ130の場合のみに限らない。温度変化に起因する内圧の増大に伴うこのような封止材160の破れは、密閉空間S2に連通する引き出し孔120aから電子部品の配線が外部へ導出されるあらゆるケースにおいて生じ得る問題でもある。
【0017】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、鏡筒の密閉空間に連通する引き出し孔から電気配線を外部に導出する形態において、引き出し孔を外側から封止する封止材の破れを防止し得るレンズユニット、カメラモジュール、車載システムおよび移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を解決するために、本発明は、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、前記レンズ群を収容保持するための内側収容空間を有する鏡筒とを備え、前記レンズ群が、最も物体側に位置される第1のレンズと、この第1のレンズにその像側で隣接する第2のレンズとを有し、前記第1のレンズと前記第2のレンズとの間にレンズ間空間が形成されて成るレンズユニットにおいて、
前記レンズ間空間内へと向かう気体流通経路を物体側で遮断するように封止する物体側封止材と、前記レンズ間空間内へと向かう気体流通経路を像側で遮断するように封止する像側封止材とによって、前記内側収容空間内に気密な密閉空間が画定され、
前記鏡筒には、前記密閉空間から鏡筒外部へと延びる引き出し孔が形成されるとともに、前記鏡筒内に設けられる電子部品から延びる電気配線が前記引き出し孔を通じて鏡筒外部に導出された状態で前記引き出し孔を前記鏡筒の外側から封止する孔封止材が設けられ、
前記孔封止材は、前記密閉空間内の圧力の変化に抗して前記引き出し孔の封止状態を保持する第1の封止層と、前記第1の封止層を外側から覆って補強する第2の封止層とによって構成されることを特徴とする。
【0019】
このように、本発明の上記構成によれば、物体側封止材と像側封止材とによって画定された密閉空間から延びる引き出し孔を通じて鏡筒内に設けられる電子部品から延びる電気配線が鏡筒外部に導出された状態で、引き出し孔が鏡筒の外側から孔封止材によって封止され、しかも、この孔封止材が異なる特性(材料)を有する2層構造の封止材によって形成されている。すなわち、孔封止材は、密閉空間内の圧力の変化(に伴う気流の作用)に抗して引き出し孔の封止状態を保持する第1の封止層(変動圧に耐える封止保持層)と、第1の封止層を外側から覆って補強する第2の封止層(補強層)とによって構成されている。そのため、例えば、鏡筒内の僅かな温度変化(温度上昇)によって密閉空間の内圧が増大して、行き場を失った気体が引き出し孔へと向かうような気流が生じ、その気流が孔封止材に作用する場合であっても、それによって孔封止材が膨らんで破れてしまう事態を防止できる。
【0020】
なお、上記構成において、「電子部品」とは、電気的な作用をレンズユニットに対して及ぼすあらゆる部品を指し、例えば、レンズを温めるヒータや超音波振動子などを挙げることができる。また、上記構成において、「電気配線」とは、電流を通す配線(例えば、フレキシブル基板、リード線など)を指し、例えば給電や整流などに関与してもよい。また、上記構成において、密閉空間から延びる引き出し孔の位置は、密閉空間の位置に依存し得るが、密閉空間から延びてさえいれば、その位置および方向は任意に設定できる。また、上記構成において、「気体流通経路」とは、鏡筒内でレンズ間空間へと通じる鏡筒の内周とレンズを含む光学要素の外周との間のありとあらゆる隙間を指す。
【0021】
また、上記構成では、第1の封止層が紫外線硬化接着剤であり、第2の封止層が熱硬化接着剤であることが好ましい。これによれば、第1の封止層は、熱硬化接着剤と比べ比較的低い温度で早期に硬化し得るため、長期間にわたって硬化のための加熱を行なう必要がなく、したがって、鏡筒の温度変化に伴う密閉空間の内圧変化を最小限に抑えることができ、そのような意味で、孔封止材の破れの発生に大きく寄与できる。また、これに加えて、第2の封止層は、第1の封止層を外側から覆って補強するため、第1の封止層との相乗作用により、孔封止材の破れを確実に防止できるようになる。なお、第1の封止層を形成する紫外線硬化接着剤としては、例えば、オレフィン樹脂や変性アクリレートを挙げることができる。また、第2の封止層を形成する熱硬化接着剤としては、エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0022】
また、上記構成では、第1の封止層の粘度が30Pa・s以上であり、第2の封止層の剪断接着強度が10MPa以上であることが好ましい。これによれば、変動圧に耐える封止保持層としての第1の封止層の高い粘度と補強層としての第2の封止層の高い剪断接着強度との相乗効果によって孔封止材の破れを確実に防止できる。なお、粘度が30Pa・s以上の第1の封止層を形成する材料としては、オレフィン樹脂や変性アクリレートを挙げることができる。また、剪断接着強度が10MPa以上の第2の封止層を形成する材料としては、エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0023】
また、上記構成において、物体側封止材は、第1のレンズと鏡筒との間に介挿されるOリングまたは熱硬化接着剤であり、像側封止材は、第2のレンズにその像側で隣り合う第3のレンズと鏡筒との間に介挿される熱硬化接着剤であり、引き出し孔が光軸に沿う第2のレンズと第3のレンズとの間の位置で径方向に延びていることが好ましい。これによれば、密閉空間の気密性を効率的に確保でき、封止効果を高めてレンズの曇りを防止できるだけでなく、電子部品からの電気配線の延在長さを最小限に抑えつつ、孔封止材による破れのない封止効果を効果的に実現できる。
【0024】
また、上記構成において、第1の封止層は、引き出し孔の開口を完全に覆うように設けられ、第2の封止層は、第1の封止層の外側から引き出し孔の開口を完全に覆うように防水することが好ましい。これによれば、第1の封止層と第2の封止層とがいずれも引き出し孔の開口を完全に覆うように設けられることにより、孔封止材の破れを確実に防止でき、しかも、第2の封止層が防水機能を有しているため、鏡筒外部から密閉空間内への水分の侵入を抑えてレンズ防曇効果を得ることができる。なお、この場合、第2の封止層は、第1の封止層の外側から引き出し孔の開口を完全に覆ってさえいればよく、第1の封止層を完全に覆っている必要はない。また、第1の封止層が引き出し孔内に侵入しても構わない。
【0025】
また、前記レンズ防曇効果に関連して、上記構成によれば、レンズ間空間内へと向かう気体流通経路を物体側で遮断するように封止する物体側封止材と、レンズ間空間内へと向かう気体流通経路を像側で遮断するように封止する像側封止材(光軸に沿う方向で物体側封止材よりも像側に位置される)とから成る2段階シールによってレンズ間空間内への水蒸気の侵入が防止されるようになっているため、特に像側からの水蒸気、とりわけ、レンズユニットを通じて集光される光を像側で受光して電気信号に変換するイメージセンサの実装基板で生じて内側収容空間内に取り込まれる水蒸気が、レンズ間空間内へと侵入して第1のレンズの裏面に結露を生じさせるといった事態を効果的に回避できる。したがって、撮像画像がぼやけて、所望の解像度が得られなくなる(視認性が悪化する)といった事態を回避できる。
【0026】
また、このような2段階シールによる水蒸気遮断効果は、レンズ群を構成するレンズが、光軸方向に対して垂直な断面内で鏡筒と周方向で点接触することにより、径方向で鏡筒の内面との間に隙間を形成するレンズ組み込み形態を少なくとも部分的に伴うレンズユニットにおいて特に有益である。このようなレンズ組み込み形態では、気体流通経路が、レンズ群を構成する各レンズと鏡筒の内面との間の各隙間によって形成されて光軸方向に沿って連続的に延びる連通路を形成することから、像側からの水蒸気がレンズ間空間内へと侵入し易く、したがって、そのような連通路を2段階シールによって遮断することにより、レンズ間空間内への水蒸気の侵入を確実に防止して、第1のレンズの裏面に結露を生じさせるといった事態を効果的に回避できる。
【0027】
ここで、物体側封止材および像側封止材を形成する材料としては、レンズ間空間内へと向かう気体(水蒸気)の流通を遮断する材料、例えば、接着剤等の接着媒体、水蒸気吸着体(吸水体)、気密材料などを挙げることができる。封止材として接着剤を用いる場合、そのような接着剤は、特にオレフィン系の低透湿性(例えば、60g/m・24hr以下の透湿度)の接着剤(例えば、UV硬化性接着剤)であることが好ましく、とりわけ、透明以外の着色接着剤(例えば、白色、黒色、グレーに近い乳白色など)を用いることが望ましい。これは、接着剤が透明であると、光を反射してゴースト現象を発生させる虞があるからである。
また、このような封止材の接着剤の厚さは0.2mm以上であることが好ましく、この場合、接着剤は、光学要素と鏡筒との間の隙間(気体流通経路)に充填されてもよく、あるいは、光学要素の外面または鏡筒の内面を加工することによって形成される接着剤収容空間に充填されてもよい。
【0028】
具体的には、物体側封止材として接着剤を用いる場合、そのような接着剤としては、オレフィン系またはアクリル系の硬度が低い低透湿性(例えば、60g/m・24hr以下の透湿度)の接着剤を用いることが好ましく、接着剤層の厚さは5~20μmであることが好ましい。一方、像側封止材として接着剤を用いる場合、そのような接着剤は、特にオレフィン系の低透湿性(例えば、60g/m・24hr以下の透湿度)の接着剤であることが好ましく、とりわけ、透明以外の着色接着剤(例えば、白色、黒色、グレーに近い乳白色など)を用いることが望ましい。また、像側封止材の接着剤の厚さは5~1000μmであることが好ましい。
【0029】
また、上記構成において、電子部品は、給電により発生する熱をレンズに伝えるヒータであってもよく、その場合、ヒータは、第1のレンズと第2のレンズとの間に介挿されて給電により発熱する加熱部と、加熱部に電力を供給する給電部とを有し、給電部が引き出し孔を通じて鏡筒の外部に導出されてもよい。加熱部は、その形状が特に限定されず、第1のレンズを効率的かつ効果的に加熱できる形状であれば、例えば環状、円形、矩形など、どのような形状であっても構わない。また、加熱部としては、例えば、PTC(positive
temperature coefficient)ヒータを挙げることもできる。また、給電部は、金属板や、電気配線、例えば、リード線によって形成されてもよく、あるいは、FPC(Flexible printed circuits)製の配線から成っていてもよい。この場合、給電部の電気抵抗は、加熱部よりも下げて給電部で発熱しないようにしなければならない。また、給電部と加熱部とを電気的に接続する場合には、導電性接着剤を用いてもよく、また、導電性接着剤として例えばACP(異方性導電性接着剤)を用いてもよい。ACPは、電極+-が近傍にある場合に押圧された部分のみ導通される特長があるため、製造プロセスを簡易化できるメリットがある。また、給電部は、電源側に電気的に接続されるコネクタと一体化されてもよい。コネクタが接続される電源側としては、例えば、リチウム蓄電池、鉛蓄電池、全固体電池などが挙げられる。
【0030】
また、本発明は、前述のレンズユニットを有するカメラモジュール、該カメラモジュールを有する車載システム、および、車載システムを搭載して成る移動体も提供する。このようなカメラモジュール、車載システムおよび移動体によっても前述したレンズユニットと同様の作用効果を得ることができる。なお、「移動体」とは、移動できる物体の全てを指し、例えば車両等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、物体側封止材と像側封止材とによって画定された密閉空間から延びる引き出し孔を通じて電子部品の電気配線が鏡筒外部に導出された状態で、引き出し孔が鏡筒の外側から孔封止材によって封止され、しかも、この孔封止材が異なる特性(材料)を有する2層構造の封止材によって形成されているため、封止材の破れを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施形態に係るレンズユニットの光軸方向に沿う概略縦断面図である。
図2】孔封止材の第1の封止層および第2の封止層の塗布形態を段階的に示す孔正面視の概略図である。
図3図1のA-A線に沿う断面図である。
図4図1のレンズユニットを有するカメラモジュールの光軸方向に沿う概略縦断面図である。
図5図1のレンズユニットにおける封止材塗布およびヒータ組み込みの方法の第1のステップを示すレンズユニットの光軸方向に沿う概略縦断面図である。
図6図1のレンズユニットにおける封止材塗布およびヒータ組み込みの方法の第2のステップを示すレンズユニットの光軸方向に沿う概略縦断面図である。
図7図1のレンズユニットにおける封止材塗布およびヒータ組み込みの方法の第3のステップを示すレンズユニットの光軸方向に沿う概略縦断面図である。
図8】本発明の一実施形態に係るカメラモジュールを備える撮像システム(車載システム)が搭載される移動体としての車両の概略図である。
図9図8の撮像システムを構成する撮像装置の構成を示すブロック図である。
図10】従来のレンズユニットの一例を示す概略断面図である。
図11】(a)は従来のヒータを伴うレンズユニットの部分的な概略断面図、(b)は従来のヒータの一例を示す平面図である。
図12】像側の封止材と物体側のOリングとによって挟まれた密閉空間から延びる引き出し孔を通じてヒータの給電部が外部に導出されて引き出し孔が封止されている従来形態に係るレンズユニットの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明するが、本実施形態は、特にセンシングシステムにおいて信頼性の高いシステムを実現でき、強靭なインフラの開発に貢献するものであり、国連の提唱する持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」の、「9.1 すべての人々に安価で公平なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援するために、地域・越境インフラを含む質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靭(レジリエント)なインフラを開発する。」をターゲットとするものである。
なお、以下で説明される本実施形態のヒータが組み込まれるレンズユニットは、特に車載カメラ等のカメラモジュール用のものであり、例えば、自動車の外表面側に固定して設置され、配線は自動車内に引き込まれてディスプレイやその他の装置に接続される。また、前述した図10乃至12を含む全ての図において、レンズについてはハッチングを省略している。
【0034】
図1は、本発明の一実施形態に係るレンズユニット11を示している。図示のように、レンズユニット11は、円筒状の鏡筒(バレル)12と、鏡筒12の内側収容空間S内に配置される複数のレンズ、例えば、第1のレンズ13、第2のレンズ14、第3のレンズ15、第4のレンズ16、第5のレンズ17および第6のレンズ18から成る6つのレンズとを有する。この場合、第3のレンズ15はIRCF(赤外線カットフィルタ)20と共に金属製の中間環19によって支持されており、それにより、レンズとフィルタとがユニットとして一体化されたサブアセンブリ21が構成されている。また、第4のレンズ16および第5のレンズ17は互いに貼り合わされて成る貼り合わせレンズ24を構成しており、第2のレンズ14と第3のレンズ15との間には、絞り部材22Aと金属製の中間環23とが重ね合わされた状態で介挿されている。また、第5のレンズ17と第6のレンズ18との間にも絞り部材22Bが介挿されている。絞り部材22A,22Bは、透過光量を制限し、明るさの指標となるF値を決定する「開口絞り」またはゴーストの原因となる光線や収差の原因となる光線を遮光する「遮光絞り」である。このようなレンズユニット11を備える車載カメラは、レンズユニット11と、図示しないイメージセンサを有する基板と、当該基板を自動車等の車両に設置する図示しない設置部材とを備えるものである。
【0035】
ここで、第1のレンズ13は、その物体側表面が凸面13bを成すとともに像側表面の中央部に凹面13cを有し、また、この第1のレンズ13にその像側で隣接する第2のレンズ14は、その物体側表面の中央部に凹面14cを有し、したがって、第1および第2のレンズ13,14をその径方向外側の座面13a,14a同士で接合する図1の組み込み状態では、第1のレンズ13と第2のレンズ14との間にレンズ間空間S1が形成される。
【0036】
なお、本実施形態では、外部に露出され得る第1のレンズ13とサブアセンブリ21を構成する第3のレンズ15とがガラス製のレンズであり、それ以外の内側のレンズ14,16,17,18が全て樹脂(プラスチック)によって形成される樹脂レンズであるが、これに限定されない。また、これらのレンズ13,14,15,16,17,18を収容する鏡筒12は、本実施形態では樹脂製であるが、金属製であっても構わない。また、鏡筒およびレンズの形状、レンズの数等については用途等に応じて任意に設定できる。
【0037】
鏡筒12に固定されて支持されている複数のレンズ13,14,15,16,17,18は、それぞれの光軸を一致させた状態で配置されており、1つの光軸Oに沿って各レンズ13,14,15,16,17,18が並べられた状態となって、撮像に用いられる一群のレンズ群Lを構成している。また、これらのレンズ13,14,15,16,17,18の表面には、必要に応じて、反射防止膜、親水膜、撥水膜等が設けられる。
【0038】
鏡筒12の物体側の端部(図1において上端部)には、当該端部を径方向内側に熱的にカシメてなるカシメ部25が設けられており、このカシメ部25によってレンズ群Lの最も物体側に位置される第1のレンズ13が鏡筒12の物体側の端部に固定されている。
【0039】
また、鏡筒12の像側の端部(図1において下端部)には、第6のレンズ18よりも径の小さい開口部を有する内側フランジ部26が設けられている。この内側フランジ部26とカシメ部25とにより、鏡筒12内にレンズ群Lを構成する複数のレンズ13,14,15(サブアセンブリ21),16,17,18と中間環19,23と絞り部材22A,22Bとが保持されている。また、鏡筒12の外周面には、鏡筒12を車載カメラに設置する際に用いられる外側フランジ部29が鏡筒12の外周面に鍔状に設けられている。
【0040】
また、このような構成を成す本実施形態のレンズユニット11は、第1のレンズ13と第2のレンズ14との間に形成される前述したレンズ間空間S1内への水蒸気の侵入を防止するためのシール部を有する。この場合、シール部は、レンズ間空間S1内へと向かう気体流通経路を物体側で遮断するように封止する物体側封止材と、光軸Oに沿う方向で物体側封止材よりも像側に位置されるとともにレンズ間空間S1内へと向かう気体流通経路を像側で遮断するように封止する像側封止材とから成る2段階シールを形成している。
【0041】
具体的に、本実施形態では、最も物体側に位置される第1のレンズ13の外周面に、当該レンズ13の像側部分に径が小さくなった縮径部が設けられ、この縮径部に物体側封止材としてのOリング27が設けられている。Oリング27は、第1のレンズ13の外周面と鏡筒12の内周面との間を、鏡筒12の物体側端部で封止した状態となっており、これにより、レンズユニット11の物体側の端部から鏡筒12内に水や塵埃等の微粒子が浸入するのを防止している。
【0042】
なお、物体側封止材は、Oリングに限定されず、また、第1のレンズ13と鏡筒12との間に設けられている必要もない。要は、レンズ間空間S1よりも物体側で気体流通経路を遮断するように物体側封止材が設けられていればよく、そのような物体側封止材は、物体側気体流通経路をシールできるものであれば、例えば熱硬化接着剤など、どのようなものであっても構わない。物体側封止材を接着剤層によって形成する場合、そのような接着剤層としては、オレフィン系またはアクリル系の硬度が低い低透湿性(例えば、60g/m・24hr以下の透湿度)の接着剤を用いることが好ましく、接着剤層の厚さは5~20μmであることが好ましい。
【0043】
また、本実施形態では、第2のレンズ14にその像側で隣り合う第3のレンズ15と鏡筒12との間に、これらの隙間を埋めるように像側封止材としての熱硬化接着剤50が環状形態で介挿されている。この場合、熱硬化接着剤50は、第3のレンズ15の外周縁部から、周方向に等しい角度間隔を隔てて4つの切り欠き19a(図3も参照)が物体側表面に形成されて成る中間環19の前記物体側表面を切り欠き19aも含めて覆うように、中間環19,23同士の間で鏡筒12の内周面に達するように延在している。なお、このような熱硬化接着剤50は、特にオレフィン系の低透湿性(例えば、60g/m・24hr以下の透湿度)の接着剤であることが好ましく、とりわけ、透明以外の着色接着剤(例えば、白色、黒色、グレーに近い乳白色など)を用いることが望ましい。これは、接着剤が透明であると、光を反射してゴースト現象を発生させる虞があるからである。また、像側封止材を形成する熱硬化接着剤50の厚さは5~1000μmであることが好ましい。無論、像側封止材は、接着剤に限らず、Oリングや吸湿体(吸水体)などの他の封止材であってもよい。
【0044】
このように、本実施形態では、像側封止材(熱硬化接着剤)50と物体側封止材(Oリング)27とによって挟まれた内側収容空間S内の領域が気密な密閉空間S2となっている(封止材50とOリング27とによって内側収容空間内Sに気密な密閉空間S2が画定されている)。
【0045】
また、本実施形態において、鏡筒12内には、電子部品として、給電により発生する熱をレンズ群Lの最も物体側に位置される第1のレンズ13に伝えるためのヒータ30が配設されている。ヒータ30は、給電によって熱を発生させる例えばPTC(positive temperature coefficient)ヒータ部としての加熱部32と、図示しない電源側に電気的に接続されるべく延在して加熱部32に電力を供給する電気配線としての給電部36とを有している。
【0046】
加熱部32は、その物体側表面が鏡筒12から露出されて外部環境に晒される第1のレンズ13を暖めるべく、第1のレンズ13の像側の座面13aの形状にほぼ対応する環状体として形成されるとともに、第1のレンズ13の像側に面する座面13aと第1のレンズ13に像側で隣接する第2のレンズ14の物体側に面する座面14aとの間に介挿されている。特に、本実施形態において、加熱部32は、第2のレンズ14の物体側に面する座面14aの外周に形成された環状の溝14b内にレンズ14の有効径の範囲外で位置決めされている。
【0047】
また、給電部36は、例えばフレキシブル配線基板として形成されており、鏡筒12内では、鏡筒12の内面に形成された案内溝12a内に位置決めされて光軸O方向に沿って案内されるとともに、鏡筒12の側面に設けられる引き出し孔12bを通じて鏡筒12の外部へ導出され、図示しない電源側に電気的に接続される。ここで、引き出し孔12bは、径方向で中間環23とほぼ対向する位置(光軸Oに沿う第2のレンズと第3のレンズとの間の位置)において径方向に沿って延びており、密閉空間S2と鏡筒外部とを連通させる。なお、鏡筒12が多角形の内面を有する場合には、円形断面のレンズと鏡筒12の内面との間に形成される隙間を通じて給電部36が光軸O方向に沿って鏡筒12内で案内されてもよい。
【0048】
このような構成のヒータ30は、引き出し孔12bから導出される給電部36を例えば車体の電源側に電気的に接続した状態では、給電部36を通じて加熱部32の電極間に電圧が印加され、電極間で発熱体を通じて電流が流れることによって発熱体の表面でジュール熱が発生し、その熱がレンズ13に伝えられてレンズ13が暖められることになる。
【0049】
また、本実施形態では、ヒータ30の給電部36が引き出し孔12bを通じて鏡筒12の外部に導出された状態で、引き出し孔12bが鏡筒12の外側から孔封止材60によって封止されている。この場合、孔封止材60は、密閉空間S2内の圧力の変化(に伴う気流の作用)に抗して引き出し孔12bの封止状態を保持する第1の封止層(変動圧に耐える封止保持層)62と、この第1の封止層62を外側から覆って補強する第2の封止層(補強層)64とによって構成されている。特に、本実施形態において、第1の封止層62は、粘度が30Pa・s以上の紫外線硬化接着剤(例えば比重が1.51で灰白色の接着剤)により形成され、第2の封止層64は、剪断接着強度(Fe/Fe)が10MPa以上の熱硬化接着剤(例えば比重が1.36で黒色の接着剤)によって形成されている。本発明者らの実験によれば、第1の封止層62の粘度が30Pa・sを下回ると、第1の封止層62(孔封止材60)がその塗布後に破れ易く、また、第2の封止層64の剪断接着強度(Fe/Fe)が10MPaを下回ると、給電部36に荷重が作用した際に第2の封止層64(孔封止材60)が破れ易いことが分かっている。
【0050】
ここで、第1の封止層62は、引き出し孔12bの開口を完全に覆うように設けられ、第2の封止層64は、第1の封止層62の外側から引き出し孔12bの開口を完全に覆うように防水するべく設けられる。すなわち、図2の(a)に示される孔封止材塗布前の状態から、まず最初に、図2の(b)に示されるように、引き出し孔12b内も含めて引き出し孔12bの開口を完全に覆うように(開口の周囲を取り囲むように)第1の封止層62が塗布され、その後、例えば、図2の(c)に示されるように、第1の封止層62の外側から引き出し孔12bの開口を完全に覆うように且つ第1の封止層62の全体を完全に覆うように第2の封止層64が塗布され、あるいは、図2の(d)に示されるように、第1の封止層62の外側から引き出し孔12bの開口を完全に覆うように且つ第1の封止層62を部分的にのみ覆うように(第1の封止層62の一部が露出するように)第2の封止層64が塗布される。
【0051】
図1のレンズユニット11における封止材塗布およびヒータ組み込みの方法が図5図7に示されている。
まず最初に、鏡筒12内に、第6のレンズ18、絞り部材22B、貼り合わせレンズ24を構成する第5のレンズ17および第4のレンズ16をこの順番で物体側(図5図7における上側)から組み込んでいく。そして、この組み込み状態で、今度は、鏡筒12の側面に設けられた引き出し孔12bから加熱部32を、あるいは、物体側(図5図7における上側)から給電部36を鏡筒12内へ導入していく。このとき、鏡筒12内に引き込んだ給電部36を鏡筒12の内面に形成された案内溝12a内に位置させつつ光軸O方向に沿って案内して、鏡筒12内へのレンズ組み込み経路からヒータ30(加熱部32および給電部36)を退避させる。そして、この退避状態で、今度は、鏡筒12内に、第3のレンズ15を含むサブアセンブリ21を組み込んで、像側封止材50を塗布した後、中間環23および絞り部材22を組み込む。その状態が図5に示される。
【0052】
次に、図5の状態(鏡筒12内へのレンズ組み込み経路から加熱部32および給電部36を退避させた状態)から、第2のレンズ(像側のレンズ)14を図6に示されるように鏡筒12内に組み込み、その後、図7に示されるように、組み込み完了した第2のレンズ14の物体側の表面14a上に加熱部32を給電部36との境界付近で折り曲げるようにして載置して、第2のレンズ14の座面14aの外周に形成された環状の溝14b内に加熱部32を位置決めする。そして、最終的に、第2のレンズ14上にOリング27が装着された第1のレンズ13を載置して、加熱部32をこれらのレンズ13,14間に位置させ、カシメ部23を径方向内側に熱カシメすることによって、第1のレンズ13を鏡筒12の物体側端部に固定する。
【0053】
その後、このカシメ状態で、レンズユニット11を加熱炉内で所定時間にわたって加熱することにより、像側封止材50である熱硬化接着剤を硬化させる。そして、レンズユニット11を加熱炉から取り出した後、今度は、引き出し孔12bを通じてヒータ30の給電部36が鏡筒12の外部に導出されている状態で、鏡筒12の外側から孔封止材60の第1の封止層62を塗布して第1の封止層62によって引き出し孔12bを封止する。そして、紫外線照射によって第1の封止層62である紫外線硬化樹脂を硬化させた後、硬化した第1の封止層62上に第2の封止層64を塗布して、再度、レンズユニット11を加熱炉内で所定時間にわたって加熱することにより、第2の封止層64である熱硬化接着剤を硬化させる。
【0054】
なお、レンズ13,14間の位置で鏡筒12の側面に図1に破線で示されるような引き出し孔12b’を形成できる場合には、前述した組み込み方法に代えて、第2のレンズ14を鏡筒12内に組み込んだ状態で、引き出し孔12b’を通じて加熱部32および給電部36をそのまま折り曲げることなく直線的に水平に鏡筒12の内外で延在させて第2のレンズ14上に位置決めする組み込み方法を採用できる。
【0055】
また、図4は、以上のような構成を成すレンズユニット11を有する本実施形態のカメラモジュール300の概略断面図である。図示のように、このカメラモジュール300は、ヒータ30が組み込まれた図1のレンズユニット11を含んで構成される。
【0056】
カメラモジュール300は、外装部品である上ケース(カメラケース)301と、レンズユニット11を保持するマウント(台座)302とを備えている。また、カメラモジュール300は、シール部材303およびパッケージセンサ(撮像素子)304を備えている。
【0057】
上ケース301は、鏡筒12の外周面12cに鍔状に設けられるフランジ部29に係合されるとともに、レンズユニット11の物体側の端部を露出させて他の部分を覆う部材である。マウント302は、上ケース301の内部に配置されており、レンズユニット11の雄ねじ11aと螺合する雌ねじ302aを有する。シール部材303は、上ケース301の内面とレンズユニット11の鏡筒12の外周面12cとの間に介挿された部材であり、上ケース301の内部の気密性を保持するための部材である。
【0058】
パッケージセンサ304は、マウント302の内部に配置されており、かつ、レンズユニット11により形成される物体の像を受光する位置に配置されている。また、パッケージセンサ304は、外側に透明カバーを有し、その内部にCCDやCMOS等を備えており、レンズユニット11を通じて集光されて到達する光を電気信号に変換する。変換された電気信号は、カメラにより撮影された画像データの構成要素であるアナログデータやデジタルデータに変換される。
【0059】
以上説明したように、本実施形態によれば、物体側封止材27と像側封止材50とによって画定された密閉空間S2から延びる引き出し孔12bを通じて鏡筒12内に設けられるヒータ30から延びる給電部36が鏡筒12の外部に導出された状態で、引き出し孔12bが鏡筒12の外側から孔封止材60によって封止され、しかも、この孔封止材60が異なる特性(材料)を有する2層構造の封止材によって形成されている。すなわち、孔封止材60は、密閉空間S2内の圧力の変化(に伴う気流の作用)に抗して引き出し孔12bの封止状態を保持する第1の封止層(変動圧に耐える封止保持層)62と、第1の封止層62を外側から覆って補強する第2の封止層(補強層)64とによって構成されている。そのため、例えば、鏡筒12内の僅かな温度変化(温度上昇)によって密閉空間S2の内圧が増大して、行き場を失った気体が引き出し孔12bへと向かうような気流が生じ、その気流が孔封止材60に作用する場合であっても、それによって孔封止材60が膨らんで破れてしまう事態を防止できる。
【0060】
図8には、図4のカメラモジュール300を含む撮像装置250を備える車載システム(撮像システム)が搭載される移動体としての車両240が概略的に示されている。図示のように、撮像装置250は車両240に搭載することができ、図8は、車両240における撮像装置250の搭載位置を例示する配置例である。車両240に搭載される撮像装置250は、車載カメラと呼ぶこともでき、車両240の種々の場所に設置することができる。例えば、第1の撮像装置250aは、車両240が走行する際の前方を監視するカメラとして、フロントバンパーまたはその近傍に配置されてもよい。また、前方を監視する第2の撮像装置250bは、車両240の車室内のルームミラー(Inner Rearview Mirror)の近傍に配置されてもよい。第3の撮像装置250cは、運転者の運転状況を監視するカメラとしてダッシュボード上またはインスツルメントパネル内等に配置されてもよい。第4の撮像装置250dは、車両240の後方モニター用に車両240の後部に設置されてもよい。撮像装置250a、250bはフロントカメラと呼ぶことができる。第3の撮像装置250cは、インカメラと呼ぶことができる。第4の撮像装置250dはリアカメラと呼ぶことができる。撮像装置250は、これらに限られず、左後ろ側方を撮像する左サイドカメラおよび右後ろ側方を撮像する右サイドカメラ等、種々の位置に設置される撮像装置を含む。
【0061】
撮像装置250により撮像された画像の画像信号は、車両240内の情報処理装置(制御部)242および/または表示装置(出力装置)243等に出力され得る。これらの情報処理装置242および表示装置243は、撮像装置250と共に車載システムを構成する。車両240内の情報処理装置242は、撮像装置250により取得される画像信号(撮像画像)を処理し、画像を認識(撮像画像の中の対象物を認識)して運転者の運転を支援する装置を含む。また、情報処理装置242は、撮像画像の中の対象物の認識情報を表示装置243に出力するように構成され、例えば、ナビゲーション装置、衝突被害軽減ブレーキ装置、車間距離制御装置、および、車線逸脱警報装置等を含むが、これらに限定されない。表示装置243は、情報処理装置242により処理されて出力される画像を表示するが、撮像装置250から直接に画像信号を受信することもできる。また、表示装置243は、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ、および、無機ELディスプレイを採用し得るが、これらに限定されない。表示装置243は、リアカメラ等の運転者から視認しづらい位置の画像を撮像する撮像装置250から出力された画像信号を、運転者に対して表示することができる(乗員への情報を出力できる)。
【0062】
図9には、図8の車載システムを構成する撮像装置の構成が示される。図示のように、一実施形態に係る撮像装置250は、制御部252と、記憶部254と、前述した図4のカメラモジュール300を備える。
【0063】
制御部252は、カメラモジュール300を制御するとともに、カメラモジュール80の撮像素子304から出力される電気信号を処理する。この制御部252は例えばプロセッサとして構成されてもよい。また、制御部252は1つ以上のプロセッサを含んでもよい。プロセッサは、特定のプログラムを読み込ませて特定の機能を実行する汎用のプロセッサ、および、特定の処理に特化した専用のプロセッサを含んでもよい。専用のプロセッサは、特定用途向けIC(Integrated Circuit)を含んでもよい。特定用途向けICは、ASIC(Application
Specific Integrated Circuit)とも称される。プロセッサは、プログラマブルロジックデバイスを含んでもよい。プログラマブルロジックデバイスは、PLD(Programmable Logic Device)とも称される。PLDは、FPGA(Field-Programmable
Gate Array)を含んでもよい。制御部252は、1つ以上のプロセッサが協働するSoC(System-on-a-Chip)、および、SiP(System In a Package)のいずれかであってもよい。また、制御部252は、前述した情報処理装置242と同様の機能を有してもよく、例えば、撮像素子304から出力される撮像画像を処理して、前記撮像画像の中の対象物の認識を行なってもよい。
【0064】
記憶部254は、撮像装置250の動作に係る各種情報またはパラメータを記憶する。記憶部254は、例えば半導体メモリ等で構成されてもよい。記憶部254は、制御部252のワークメモリとして機能してもよい。記憶部254は、撮像画像を記憶してもよい。記憶部254は、制御部252が撮像画像に基づく検出処理を行なうための各種パラメータ等を記憶してもよい。記憶部254は制御部252に含まれてもよい。
【0065】
前述したように、カメラモジュール300は、レンズユニット11を介して結像する被写体像を撮像素子304で撮像し、撮像した画像を出力する。カメラモジュール300で撮像された画像は、撮像画像とも称される。
【0066】
撮像素子304は、例えば、CMOS(Complementary Metal Oxide
Semiconductor)イメージセンサまたはCCD(Charge Coupled Device)等で構成されてよい。撮像素子304は、複数の画素が並ぶ撮像面を有する。各画素は、入射した光量に応じて電流または電圧で特定される信号を出力する。各画素が出力する信号は、撮像データとも称される。
【0067】
撮像データは、全ての画素についてカメラモジュール300で読み出され、撮像画像として制御部252に取り込まれてもよい。全ての画素について読み出された撮像画像は、最大撮像画像とも称される。撮像データは、一部の画素についてカメラモジュール300で読み出され、撮像画像として取り込まれてもよい。言い換えれば、撮像データは、所定の取り込み範囲の画素から読み出されてもよい。所定の取り込み範囲の画素から読み出された撮像データは、撮像画像として取り込まれてもよい。所定の取り込み範囲は、制御部252によって設定されてもよい。カメラモジュール300は、制御部252から所定の取り込み範囲を取得してもよい。撮像素子304は、レンズユニット11を介して結像する被写体像のうち所定の取り込み範囲の画像を撮像してもよい。
【0068】
以上、本発明を様々な実施形態と関連して説明してきたが、本発明は、前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、本発明において、レンズ、鏡筒などの形状は、前述した実施形態の形状に限定されない。また、ヒータの設置個所や数も限定されない。さらに、ヒータを挿通するために鏡筒に設けられる引き出し孔の位置や数も限定されない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、前述した実施形態の一部または全部を組み合わせてもよく、あるいは、前述した実施形態のうちの1つから構成の一部が省かれてもよい。
【符号の説明】
【0069】
11 レンズユニット
12 鏡筒
12b 引き出し孔
13 第1のレンズ
14 第2のレンズ
15 第3のレンズ
27 Oリング(物体側封止材)
30 ヒータ(電子部品)
32 加熱部
36 給電部(電気配線)
50 像側封止材
60 孔封止材
62 第1の封止層
64 第2の封止層
300 カメラモジュール
240 車両(移動体)
L レンズ群
O 光軸
S 内側収容空間
S1 レンズ間空間
S2 密閉空間
図1
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図12