IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157462
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/16 20060101AFI20241030BHJP
   C08F 20/12 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C08F2/16
C08F20/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071850
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 友孝
【テーマコード(参考)】
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4J011AA08
4J011KA27
4J011KB08
4J011KB19
4J011KB22
4J011KB29
4J100AB02R
4J100AJ02S
4J100AL03P
4J100AL03Q
4J100AL09T
4J100CA01
4J100CA03
4J100DA25
4J100DA39
4J100EA09
4J100FA03
4J100FA20
4J100FA34
4J100JA01
(57)【要約】
【課題】粒子のサイズを小さくできる、粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】粒子の製造方法は、工程(1)と、工程(2)と、を備える。工程(1)では、水性媒体中、界面活性剤の不存在下で、第1重合性ビニルモノマーを重合させてシード粒子を生成する。工程(2)では、水性媒体中、界面活性剤の不存在下で、シード粒子をシードとして、第2重合性ビニルモノマーを重合させて、粒子を製造する。水性媒体100質量部に対する第1重合性ビニルモノマーの配合割合が、2.5質量部以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中、界面活性剤の不存在下で、第1重合性ビニルモノマーを重合させてシード粒子を生成する工程(1)と、
水性媒体中、界面活性剤の不存在下で、前記シード粒子をシードとして、第2重合性ビニルモノマーを重合させて、粒子を製造する工程(2)と、を備え、
前記水性媒体100質量部に対する前記第1重合性ビニルモノマーの配合割合が、2.5質量部以下である、粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第1重合性ビニルモノマーは、炭素数が1以上3以下のアルキルエステル部分を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを50質量%以上含有する、請求項1に記載の粒子の製造方法。
【請求項3】
前記水性媒体100質量部に対する前記第1重合性ビニルモノマーの配合割合が、0.01質量部以上、1.0質量部以下である、請求項1または請求項2に記載の粒子の製造方法。
【請求項4】
前記シード粒子の溶解度パラメータは、18.0MPa1/2以上、24.0MPa1/2未満である、請求項1または請求項2に記載の粒子の製造方法。
【請求項5】
前記シード粒子のガラス転移温度(Tg)は、90℃以下である、請求項1または請求項2に記載の粒子の製造方法。
【請求項6】
前記第2重合性ビニルモノマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有する、請求項1または請求項2に記載の粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水性媒体中、界面活性剤の不存在下で、第1重合性ビニルモノマーを重合させてシード粒子を生成する工程(1)と、水性媒体中、界面活性剤の不存在下で、シード粒子をシードとして、第2重合性ビニルモノマーを重合させて、粒子を製造する工程(2)と、を備える、粒子の製造方法が知られている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭52-10397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
製造される粒子の用途および目的に応じて、粒子のサイズを小さくしたいという要求がある。例えば、粒子を塗料に配合する場合において、上記した要求は、スプレー塗装において塗料をノズルで吐出するときに、ノズルの目詰まりを抑制するために、粒子のサイズを小さくすることを含む。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の製造方法では、上記した要求を満足できないという不具合がある。
【0006】
本発明は、粒子のサイズを小さくできる、粒子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明[1]は、水性媒体中、界面活性剤の不存在下で、第1重合性ビニルモノマーを重合させてシード粒子を生成する工程(1)と、水性媒体中、界面活性剤の不存在下で、前記シード粒子をシードとして、第2重合性ビニルモノマーを重合させて、粒子を製造する工程(2)と、を備え、前記水性媒体100質量部に対する前記第1重合性ビニルモノマーの配合割合が、2.5質量部以下である、粒子の製造方法を含む。
【0008】
本発明[2]は、前記第1重合性ビニルモノマーは、炭素数が1以上3以下のアルキルエステル部分を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを50質量%以上含有する、[1]に記載の粒子の製造方法を含む。
【0009】
本発明[3]は、前記水性媒体100質量部に対する前記第1重合性ビニルモノマーの配合割合が、0.01質量部以上、1.0質量部以下である、[1]または[2]に記載の粒子の製造方法を含む。
【0010】
本発明[4]は、前記シード粒子の溶解度パラメータは、18.0MPa1/2以上、24.0MPa1/2未満である、[1]から[3]のいずれか一項に記載の粒子の製造方法を含む。
【0011】
本発明[5]は、前記シード粒子のガラス転移温度(Tg)は、90℃以下である、[1]から[4]のいずれか一項に記載の粒子の製造方法を含む。
【0012】
本発明[6]は、前記第2重合性ビニルモノマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有する、[1]から[5]のいずれか一項に記載の粒子の製造方法を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の粒子の製造方法では、水性媒体100質量部に対する第1重合性ビニルモノマーの配合割合が、2.5質量部以下と少ない。そのため、シード粒子のサイズを小さくでき、ひいては、粒子のサイズを小さくできる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1. 粒子の製造方法
本発明の粒子の製造方法は、工程(1)と、工程(2)と、を備える。
【0015】
1.1 工程(1)
工程(1)では、水性媒体中、界面活性剤の不存在下で、第1重合性ビニルモノマーを重合させてシード粒子を生成する。
【0016】
1.1.1 水性媒体
水性媒体としては、例えば、水、および、水と水溶性有機物との水混合溶媒が挙げられる。水溶性有機物としては、例えば、アルコールおよびケトンが挙げられる。アルコールとしては、例えば、メタノールおよびエタノールが挙げられる。ケトンとしては、例えば、アセトンが挙げられる。水性媒体として、好ましくは、水が挙げられる。
【0017】
1.1.2 界面活性剤
本発明では、工程(1)において、界面活性剤が存在しない。具体的には、水性媒体中に、界面活性剤が存在しない。後述する第1分散液は、界面活性剤を含有しない。界面活性剤は、乳化剤を含む。従って、工程(1)は、無乳化重合(またはソープフリー重合)と称呼される。
【0018】
なお、工程(1)において、第1重合性ビニルモノマーを化学的に乳化させない程度に、界面活性剤が水性媒体に意図せず混入することは許容される。その場合には、水性媒体100質量部に対する不純物としての界面活性剤の混入割合は、0.01質量部以下、さらには、0.001質量部以下である。
【0019】
1.1.3 第1重合性ビニルモノマー
第1重合性ビニルモノマーは、例えば、重合性の炭素-炭素二重結合を少なくとも1つ分子内に有する。第1重合性ビニルモノマーは、好ましくは、炭素-炭素二重結合を1つ分子内に有する。第1重合性ビニルモノマーは、例えば、水性媒体に分散できる程度の疎水性を有する。第1重合性ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、芳香族ビニルモノマー、および、官能基含有ビニルモノマーが挙げられる。これらは、単独使用または複数併用できる。
【0020】
1.1.3.1 (メタ)アクリル酸エステルモノマー
(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、メタクリル酸エステルモノマー、および、アクリル酸エステルモノマーを含む。以下、(メタ)の意味は、上記と同様である。(メタ)アクリル酸エステルモノマーにおいてエステルを形成するアルキル部分の炭素数は、例えば、1以上、好ましくは、2以上であり、また、例えば、18以下、好ましくは、10以下、より好ましくは、6以下、さらに好ましくは、4以下、とりわけ好ましくは、3以下である。アルキル部分は、直鎖状または分岐状である。
【0021】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸iso-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸iso-ブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸iso-ノニル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、および、(メタ)アクリル酸n-オクタデシルが挙げられる。これらは、単独使用または複数併用できる。(メタ)アクリル酸エステルモノマーとして、好ましくは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、および、(メタ)アクリル酸n-ヘキシルが挙げられ、より好ましくは、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸エチル(EA)、および、アクリル酸n-ブチル(BA)が挙げられ、さらに好ましくは、EAが挙げられる。
【0022】
1.1.3.2 芳香族ビニルモノマー
芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン(ST)、および、メチルスチレンが挙げられる。芳香族ビニルモノマーとして、好ましくは、STが挙げられる。
【0023】
1.1.3.3 官能基含有ビニルモノマー
官能基含有ビニルモノマーは、好ましくは、芳香族ビニルモノマーとともに、第1重合性ビニルモノマーに含有される。これによって、第1重合性ビニルモノマーは、適度な疎水性を有する。
【0024】
官能基含有ビニルモノマーとしては、例えば、ヒドロキシル基含有ビニルモノマー、および、カルボキシル基含有ビニルモノマーが挙げられる。ヒドロキシル基含有ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシルが挙げられる。
【0025】
カルボキシル基含有ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸が挙げられる。(メタ)アクリル酸は、アクリル酸およびメタクリル酸(MAA)を含む。官能基含有モノマーとしては、好ましくは、MAAが挙げられる。
【0026】
第1重合性ビニルモノマーの好適な一例として、例えば、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、芳香族ビニルモノマー、および、官能基含有ビニルモノマーの併用が挙げられ、さらには、アクリル酸エチル(EA)、スチレン(ST)、および、メタクリル酸(MAA)の併用が挙げられる。
【0027】
また、第1重合性ビニルモノマーの好適な別例として、例えば、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの単独使用が挙げられ、好ましくは、(メタ)アクリル酸エチルの単独使用が挙げられ、より好ましくは、EAの単独使用が挙げられる。
【0028】
1.1.3.4 第1重合性ビニルモノマーの配合割合
水性媒体100質量部に対する第1重合性ビニルモノマーの配合割合は、2.5質量部以下である。水性媒体100質量部に対する第1重合性ビニルモノマーの配合割合は、2.5質量部超過であれば、シード粒子が粗大となり、ひいては、工程(2)で製造される粒子が粗大となる。
【0029】
水性媒体100質量部に対する第1重合性ビニルモノマーの配合割合は、好ましくは、2.0質量部以下、より好ましくは、1.5質量部以下、さらに好ましくは、1.0質量部以下、とりわけ好ましくは、0.8質量部以下、最も好ましくは、0.5質量部以下である。
【0030】
水性媒体100質量部に対する第1重合性ビニルモノマーの配合割合は、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、0.05質量部以上、より好ましくは、0.1質量部以上、さらに好ましくは、0.2質量部以上、とりわけ好ましくは、0.3質量部以上である。第1重合性ビニルモノマーの配合割合が上記した下限以上であれば、工程(2)の重合をシード重合とできる量のシード粒子を工程(2)に確実に供することができる。
【0031】
第1重合性ビニルモノマーにおける(メタ)アクリル酸エステルモノマーの配合割合は、例えば、3質量%以上、好ましくは、50質量%以上、より好ましくは、75質量%以上である。第1重合性ビニルモノマーにおける(メタ)アクリル酸エステルモノマーの配合割合は、例えば、100質量%以下、好ましくは、95質量%以下である。とりわけ、第1重合性ビニルモノマーにおいて、エステルを形成するアルキル部分の炭素数が1以上3以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステルの配合割合は、好ましくは、50質量%以上である。第1重合性ビニルモノマーの配合割合が上記した下限以上であれば、シード粒子の疎水性を高めて、微小の粒子核形成を促進できる。第1重合性ビニルモノマーの配合割合が上記した上限以下であれば、シード粒子の複数成分により分散安定性を高めることができる。
【0032】
第1重合性ビニルモノマーにおける芳香族ビニルモノマーの配合割合は、例えば、1質量%以上、好ましくは、3質量%以上であり、また、例えば、15質量%以下、好ましくは、8質量%以下である。(メタ)アクリル酸エステルモノマー100質量部に対する芳香族ビニルモノマーの配合割合は、例えば、1質量部以上、好ましくは、3質量部以上であり、また、例えば、200質量部以下、好ましくは、50質量部以下、より好ましくは、10質量部以下である。芳香族ビニルモノマーの配合割合が上記した下限以上であれば、シード粒子の疎水性を高めて、微小の粒子核形成を促進できる。芳香族ビニルモノマーの配合割合が上記した上限以下であれば、疎水性の抑制により分散安定性を高めることができる。
【0033】
第1重合性ビニルモノマーにおける官能基含有ビニルモノマーの配合割合は、例えば、1質量%以上、好ましくは、3質量%以上であり、また、例えば、15質量%以下、好ましくは、8質量%以下である。(メタ)アクリル酸エステルモノマー100質量部に対する官能基含有ビニルモノマーの配合割合は、例えば、1質量部以上、好ましくは、3質量部以上であり、また、例えば、200質量部以下、好ましくは、50質量部以下、より好ましくは、10質量部以下である。芳香族ビニルモノマー100質量部に対する官能基含有ビニルモノマーの配合割合は、例えば、10質量部以上、好ましくは、50質量部以上であり、また、例えば、1,000質量部以下、好ましくは、200質量部以下である。官能基含有ビニルモノマーの配合割合が上記した下限以上であれば、親水性や極性の向上により分散安定性を高めることができる。官能基含有ビニルモノマーの配合割合が上記した上限以下であれば、シード粒子の疎水性を高めて、微小の粒子核形成を促進できる。
【0034】
ヒドロキシル基含有ビニルモノマーおよびカルボキシル基含有ビニルモノマーが併用される場合には、ヒドロキシル基含有ビニルモノマー100質量部に対するカルボキシル基含有ビニルモノマーの配合割合は、例えば、10質量部以上、好ましくは、50質量部以上であり、また、例えば、1,000質量部以下、好ましくは、200質量部以下である。
【0035】
工程(1)では、例えば、重合開始剤の存在下、第1重合性ビニルモノマーを重合させる。
【0036】
重合開始剤としては、例えば、ラジカル重合開始剤が挙げられる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸塩、有機過酸化物、および、アゾ化合物が挙げられる。ラジカル重合開始剤として、好ましくは、過硫酸塩が挙げられる。過硫酸塩としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、および、過硫酸アンモニウムが挙げられる。過硫酸塩として、好ましくは、過硫酸カリウムが挙げられる。重合開始剤は、例えば、水溶性または油溶性であり、好ましくは、水溶性である。
【0037】
重合開始剤が水溶性であれば、重合開始剤は、水性媒体に配合されて、重合開始剤水溶液が調製される。つまり、重合開始剤水溶液は、水と、重合開始剤と、を含有する。重合開始剤水溶液における重合開始剤の配合割合は、例えば、0.1質量%以上、例えば、10質量%以下である。第1重合性ビニルモノマー100質量部に対する重合開始剤の配合割合は、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、0.5質量部以上、より好ましくは、100質量部以上、であり、また、例えば、1,000質量部以下、好ましくは、200質量部以下である。
【0038】
工程(1)では、例えば、第1重合性ビニルモノマーを、加熱された水性媒体に配合して、第1重合性ビニルモノマーを水性媒体中に分散させる。水性媒体には、重合開始剤が配合されて、加熱された重合開始剤水溶液が調製される。具体的には、まず、水性媒体を加熱し、続いて、加熱された水性媒体に重合開始剤を配合する。水性媒体(重合開始剤水溶液)の加熱温度は、重合開始剤の熱分解が開始する温度およびその温度以上である。また、第1重合性ビニルモノマーの水性媒体中に分散させるには、水性媒体(重合開始剤水溶液)を予め攪拌し、続いて、第1重合性ビニルモノマーを水性媒体(重合開始剤水溶液)に投入する。この際、第1重合性ビニルモノマーの液滴が十分に小さくなるように、水性媒体(重合開始剤水溶液)に十分な剪断力を付与する。体積平均径は、体積基準の平均粒子径を意味する。液滴の体積平均径は、後述するシード粒子の体積平均径と同一である。この例示では、加熱された水性媒体(好ましくは、加熱された重合開始剤水溶液)に、第1重合性ビニルモノマーを一括添加する(一括添加法)。
【0039】
一方、重合開始剤水溶液を加熱しながら、第1重合性ビニルモノマーを連続的に添加することもできる(連続添加法)。
【0040】
また、まず、第1重合性ビニルモノマーを水性媒体(重合開始剤水溶液)中に分散させ、第1分散液を調製し、続いて、第1分散液を加熱することもできる。つまり、まず、第1分散液を調製し、次いで、第1分散液を加熱することもできる(事前水分散法)。
【0041】
さらに、第1重合性ビニルモノマーの一部を水性媒体(重合開始剤水溶液)中に分散させ、第1分散液を調製し、続いて、第1分散液を加熱し、その後、第1重合性ビニルモノマーの残部を第1分散液に投入することもできる(分割添加法)。
【0042】
一括添加法、連続添加法、事前水分散法および分割添加法のうち、一括添加法が好適である。一括添加法では、製造効率を向上できる。
【0043】
工程(1)によって、シード粒子を生成する。シード粒子は、水性媒体中で分散している。つまり、水性媒体と、水性媒体に分散するシード粒子と、を含むシード分散液が調製される。
【0044】
1.1.5 シード粒子の物性
1.1.5.1 溶解度パラメータ
シード粒子の溶解度パラメータは、例えば、18.0MPa1/2以上、好ましくは、18.6MPa1/2以上、より好ましくは、18.9MPa1/2以上であり、また、例えば、24.0未満、好ましくは、22.0MPa1/2以下、より好ましくは、21.0MPa1/2以下である。溶解度パラメータは、SP値である。SP値は、凝集エネルギー密度に寄与するシード粒子の溶解性挙動を示す。SP値は、ハンセン溶解度パラメータ(HSP値)における分散成分δd、極性成分δp、および、水素結合成分δhの二乗平方根である。具体的には、下記式で示される。
【0045】
SP値=[δd+δp+δh1/2
δd 分散成分
δp 極性成分
δh 水素結合成分
【0046】
シード粒子の溶解度パラメータの詳細な求め方は、後の実施例で記載される。
【0047】
1.1.5.2 シード粒子のガラス転移温度(Tg)
シード粒子のガラス転移温度(Tg)は、例えば、110℃以下、好ましくは、90℃以下、より好ましくは、70℃以下、さらに好ましくは、50℃以下、とりわけ好ましくは、30℃以下である。シード粒子のガラス転移温度(Tg)は、例えば、-30℃以上、好ましくは、-20℃以上、より好ましくは、-10℃以上、さらに好ましくは、0℃以上、とりわけ好ましくは、5℃以上である。シード粒子のガラス転移温度(Tg)が上記した上限以下であれば、柔軟となり、そうすると、シード粒子内部での未反応の第1重合性ビニルモノマーが移動し易くなり、そのため、工程(2)で製造される粒子が粗大となることを抑制できる。シード粒子のガラス転移温度(Tg)が上記した下限以上であれば、硬くなり、そうすると、微小の粒子核形成を促進できる。
【0048】
シード粒子のガラス転移温度(Tg)は、第1重合性ビニルモノマーの種類および組合せによって求められる。シード粒子の材料がホモポリマーであれば、文献値等から、シード粒子のガラス転移温度(Tg)が得られる。シード粒子の材料がコポリマーであれば、コポリマーを構成する複数のモノマーのそれぞれのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)をFOXの式に代入して、シード粒子のガラス転移温度(Tg)が得られる。各ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)も、文献値等から得られる。
【0049】
1.1.5.3 シード粒子の形状および体積平均径
シード粒子の形状としては、例えば、球形状が挙げられる。球形状は、真球形状および回転楕円形状を含む。
【0050】
シード粒子の体積平均径は、例えば、1nm以上、好ましくは、5nm以上であり、また、例えば、150nm以下、好ましくは、100nm以下である。シード粒子の体積平均径が上記した上限以下であれば、粒子の体積平均径を小さくできる。体積平均径が上記した下限以上であれば、微小の粒子核形成を促進できる。シード粒子の体積平均径の求め方は、後の実施例で記載される。
【0051】
シード分散液におけるシード粒子の濃度(固形分濃度)は、例えば、2.5質量%以下、好ましくは、2.0質量%以下、より好ましくは、1.5質量%以下、さらに好ましくは、1.0質量%以下、とりわけ好ましくは、0.8質量%以下、最も好ましくは、0.5質量%以下である。シード分散液におけるシード粒子の濃度(固形分濃度)は、例えば、0.01質量%以上、好ましくは、0.05質量%以上、より好ましくは、0.1質量%以上、さらに好ましくは、0.2質量%以上、とりわけ好ましくは、0.3質量%以上である。
【0052】
1.2 工程(2)
工程(2)では、水性媒体中、界面活性剤の不存在下で、シード粒子をシードとして、第2重合性ビニルモノマーを重合させて、粒子を製造する。
【0053】
1.2.1 水性媒体
水性媒体は、上記した水性媒体が挙げられる。水性媒体は、工程(1)で生成されたシード粒子を分散している。シード分散液における水性媒体(好ましくは、重合開始剤水溶液)がそのまま工程(2)で用いられる。
【0054】
工程(2)においても、上記した界面活性剤が存在しない。工程(2)において、第2重合性ビニルモノマーを化学的に乳化させない程度に、界面活性剤がシード分散液に意図せず混入することは許容される。その場合には、水性媒体100質量部に対する不純物としての界面活性剤の混入割合は、0.01質量部以下、さらには、0.001質量部以下である。
【0055】
1.2.2 第2重合性ビニルモノマー
第2重合性ビニルモノマーとしては、第1重合性ビニルモノマーで例示した重合性ビニルモノマーが挙げられる。換言すれば、第2重合性ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、芳香族ビニルモノマー、および、官能基含有ビニルモノマーが挙げられる。
【0056】
第2重合性ビニルモノマーの好適な一例として、例えば、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、芳香族ビニルモノマー、および、官能基含有ビニルモノマーの併用が挙げられる。官能基含有ビニルモノマーとしては、好ましくは、ヒドロキシル基含有ビニルモノマー、および、カルボキシル基含有ビニルモノマーの併用が挙げられ、好ましくは、MMA、BA、ST、および、HEMAの併用挙げられる。
【0057】
また、第2重合性ビニルモノマーの好適な別例として、例えば、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの単独使用が挙げられ、好ましくは、(メタ)アクリル酸エチルの単独使用が挙げられ、より好ましくは、EAの単独使用が挙げられる。
【0058】
1.2.3 第2重合性ビニルモノマーの配合割合
水性媒体100質量部に対する第2重合性ビニルモノマーの配合割合は、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上、より好ましくは、30質量部以上、さらに好ましくは、40質量部以上、とりわけ好ましくは、45質量部以上であり、また、例えば、100質量部以下、好ましくは、90質量部以下、より好ましくは、80質量部以下、さらに好ましくは、70質量部以下、とりわけ好ましくは、60質量部以下、最も好ましくは、55質量部以下である。シード粒子100質量部に対する第2重合性ビニルモノマーの配合割合は、例えば、1,000質量部以上、好ましくは、5,000質量部以上、より好ましくは、10,000質量部以上である。シード粒子100質量部に対する第2重合性ビニルモノマーの配合割合は、例えば、1,000,000質量部以下、好ましくは、500,000質量部以下、より好ましくは、10,000質量部以下である。第2重合性ビニルモノマーにおける(メタ)アクリル酸エステルモノマーの配合割合、第2重合性ビニルモノマーにおける芳香族ビニルモノマーの配合割合、および、第2重合性ビニルモノマーにおける官能基含有ビニルモノマーの配合割合は、それぞれ、第1重合性ビニルモノマーにおける(メタ)アクリル酸エステルモノマーの配合割合、第1重合性ビニルモノマーにおける芳香族ビニルモノマーの配合割合、および、第1重合性ビニルモノマーにおける官能基含有ビニルモノマーの配合割合と同一である。
【0059】
工程(2)では、シード分散液に、第2重合性ビニルモノマーを配合する。
【0060】
例えば、加熱された状態のシード分散液に、第2重合性ビニルモノマーを配合する。この際、例えば、第2重合性ビニルモノマーをシード分散液に一括添加または連続添加する。第2重合性ビニルモノマーの一括添加に代えて、複数回で分割添加してもよい。第2重合性ビニルモノマーを連続添加する場合、添加の時間は、例えば、1分間以上、12時間以下である。
【0061】
あるいは、まず、シード分散液を冷却し、その後、第2重合性ビニルモノマーをシード分散液に分散させて、第2分散液を調製し、その後、第2分散液を加熱する。具体的には、第2分散液の加熱と同じ温度に加熱する。好ましくは、加熱された状態のシード分散液に、第2重合性ビニルモノマーを配合する。
【0062】
第2重合性ビニルモノマーの配合として、好ましくは、連続添加である。第2重合性ビニルモノマーを連続添加すれば、第2重合性ビニルモノマーが過多になることに起因して粒子が巨大化することを抑制できる。
【0063】
必要により、重合開始剤をシード分散液または第2分散液に追加してもよい。好ましくは、重合開始剤をシード分散液または第2分散液に追加しない。
【0064】
第2重合性ビニルモノマーは、例えば、シード粒子に吸収される。
【0065】
これによって、シード粒子をシードとして、第2重合性ビニルモノマーが重合する。これによって、粒子が製造される。シード粒子が成長して、粒子となる。
【0066】
粒子の形状としては、例えば、球形状が挙げられる。球形状は、真球形状および回転楕円形状を含む。
【0067】
粒子の形状が球形状であれば、粒子の体積平均径は、例えば、500nm未満、好ましくは、450nm以下、より好ましくは、400nm以下、さらに好ましくは、380nm以下、とりわけ好ましくは、350nm以下、最も好ましくは、300nm以下であり、さらには、250nm以下、220nm以下、200nm以下、170nm以下、150nm以下が好適である。粒子の体積平均径が上記した上限以下であれば、粒子を含む塗料をノズルで吐出するときに、ノズルの目詰まりを抑制できる。粒子の体積平均径は、例えば、1nm以上、さらには、10nm以上、さらには、50nm以上、さらには、100nm以上である。粒子の体積平均径の求め方は、後の実施例で記載される。
【0068】
その後、必要により、粒子分散液における水性媒体を除去することもできる。
【0069】
2. 粒子の用途
粒子は、例えば、塗料に含有される。具体的には、粒子分散液を塗料に配合する。塗料における粒子の配合割合は、例えば、1質量%以上、50質量%以下である。
【0070】
3. 作用効果
この粒子の製造方法では、水性媒体100質量部に対する第1重合性ビニルモノマーの配合割合が、2.5質量部以下と少ない。そのため、シード粒子のサイズを小さくでき、ひいては、粒子のサイズを小さくできる。
【0071】
そうすると、この粒子を含有する塗料から調製される塗膜は、表面を均一にでき、平滑にできる。塗膜は、塗料を塗布および乾燥して、形成される。
【実施例0072】
以下に、実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0073】
まず、実施例および比較例で使用する原料を説明する。
【0074】
MMA メタクリル酸メチル((メタ)アクリル酸エステルモノマー)
EA アクリル酸エチル((メタ)アクリル酸エステルモノマー)
BA アクリル酸n-ブチル((メタ)アクリル酸エステルモノマー)
ST スチレン(芳香族ビニルモノマー)
MAA メタクリル酸(官能基含有ビニルモノマー、カルボキシル基含有ビニルモノマー)
HEMA メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(官能基含有ビニルモノマー、ヒドロキシル基含有ビニルモノマー)
【0075】
実施例1
工程(1):水を80℃に加熱して攪拌した。続いて、重合開始剤として過硫酸カリウム0.87質量部を水100質量部に対して添加して、80℃の重合開始剤水溶液を調製した。重合開始剤水溶液における過硫酸カリウムの濃度は、0.86質量%であった。
【0076】
上記した重合開始剤水溶液に第1重合性ビニルモノマーを一括添加して、攪拌した。
【0077】
水100質量部に対する第1重合性ビニルモノマーの配合割合は、0.4質量部であった。第1重合性ビニルモノマーは、EA、MAA、STを含有しており、第1重合性ビニルモノマーにおけるそれぞれの割合は、90質量%、5質量%、および、5質量%であった。第1重合性ビニルモノマー100質量部に対する重合開始剤の配合割合は、217.5質量部であった。
【0078】
界面活性剤の不存在下で、第1重合性ビニルモノマーが重合して、第1シード粒子を生成した。重合時間は、0.5時間であった。シード粒子は、シード分散液中で分散していた。
【0079】
工程(2):続いて、80℃のシード分散液に対して、第2重合性ビニルモノマーを配合して、攪拌した。第2重合性ビニルモノマーの配合では、3時間かけて、第2重合性ビニルモノマーをシード分散液に連続添加した。
【0080】
水100質量部に対する第2重合性ビニルモノマーの配合割合は、46.5質量部であった。第2重合性ビニルモノマーは、MMA、BA、ST、MAA、および、HEMAを含有しており、第2重合性ビニルモノマーにおけるそれぞれの割合は、79質量%、11質量%、8質量%、1質量%、および、1質量%であった。
【0081】
シード粒子をシードとして、第2重合性ビニルモノマーが重合した。添加終了後の重合時間は、1時間であった。これによって、粒子を製造した。
【0082】
実施例2から実施例9および比較例1から比較例3
実施例1と同様に処理して、粒子を製造した。但し、第1重合性ビニルモノマーおよび/または第2重合性ビニルモノマーの処方を、表1に記載の通りに、変更した。
【0083】
[評価]
各実施例および各比較例について、以下の事項を評価した。その結果を表1に記載する。
【0084】
<粒子の体積平均径>
粒子の体積平均径を、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて、測定した。粒度分布測定装置として、Nanotrac WAVE II(マイクロトラック・ベル社製)を用いた。粒子の体積平均径を以下の基準に適用して、粒子を評価した。
【0085】
A 粒子の体積平均径が300nm未満であった。
B 粒子の体積平均径が300nm以上、400nm未満であった。
C 粒子の体積平均径が400nm以上、500nm未満であった。
D 粒子の体積平均径が500nm以上であった。
【0086】
<シード粒子の溶解度パラメータ>
シード粒子の溶解度パラメータ(SP値)を、ハンセン溶解度パラメータ(HSP値)における分散成分δd、極性成分δp、および、水素結合成分δhの二乗平方根として求めた。具体的には、ソフトウェアHSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)バージョン5.3.06を用いて、ホモポリマーのSP値を計算した。コポリマーの場合は、各モノマーのホモポリマーのSP値に、全ホモポリマーの総体積数に対する各モノマーのホモポリマーの体積比をかけて、加重平均した値をホモポリマーのSP値として取得した。
【0087】
<シード粒子のガラス転移温度>
実施例1と、実施例3から実施例9と、比較例1および比較例3とについては、コポリマーを構成する複数のモノマーのそれぞれのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)をFOXの式に代入して、シード粒子のガラス転移温度(Tg)を得た。ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)は、ソフトウェア、BIOVIA Materials Studio 2020(Dassault systems社製)のSynthiaモジュールの値を用いた。
【0088】
【表1】