IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本発條株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-車両用シート及びその製造方法 図1
  • 特開-車両用シート及びその製造方法 図2
  • 特開-車両用シート及びその製造方法 図3
  • 特開-車両用シート及びその製造方法 図4
  • 特開-車両用シート及びその製造方法 図5
  • 特開-車両用シート及びその製造方法 図6
  • 特開-車両用シート及びその製造方法 図7
  • 特開-車両用シート及びその製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157465
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】車両用シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/58 20060101AFI20241030BHJP
   B68G 7/05 20060101ALI20241030BHJP
   A47C 31/02 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
B60N2/58
B68G7/05 A
A47C31/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071855
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】毛 陽雲
(72)【発明者】
【氏名】清水 英司
(72)【発明者】
【氏名】ファム クアン ビン
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087DE03
(57)【要約】
【課題】表皮の取り付け作業性を向上させることができる車両用シート及びその製造方法を得る。
【解決手段】表皮26は、一端部26A側からシートバック側面視でシートバック14の外周を一周して他端部26B側に至るまでの間の中間部が分断される(図中では分断箇所に符号Dを付す)と共に、表皮26の分断側の端部26C、26D同士がファスナー40によって連結されている。更に、表皮26の分断側の端部26C、26D同士を表皮26の裏側から繋ぐシート状の繋ぎ部50が設けられ、繋ぎ部50は、ファスナー40が閉じられていない状態での表皮26の一端部26A側からシートバック側面視でシートバック14の外周を一周して他端部26B側に至るまでの長さを長くするように設定されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートパッドに被せられる表皮と、
前記表皮の一端部に取り付けられた係止部材と、
前記係止部材が係止される被係止部材と、
を備え、
前記表皮は、前記一端部側から他端部側までの間の中間部が分断されると共に、前記表皮の分断側の端部同士がファスナーによって連結されており、
更に、前記表皮の分断側の端部同士を前記表皮の裏側から繋ぐシート状の繋ぎ部が設けられ、前記繋ぎ部は、前記ファスナーが閉じられていない状態での前記表皮の前記一端部側から前記他端部側までの長さを長くするように設定されている、車両用シート。
【請求項2】
前記ファスナーは、その長尺方向の両端部が前記表皮から張り出すように配置可能とされ、
前記繋ぎ部には、前記ファスナーの長尺方向の両端部が裏側に折り返された状態で差し込まれる被差し込み部が設けられている、請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記繋ぎ部には、前記ファスナーの長尺方向と同じ方向の両側に取り付けられて前記繋ぎ部と共に前記被差し込み部を形成する被取付片が設けられ、
前記被取付片は、弾性変形可能な素材で形成されると共に、前記ファスナーの長尺方向の端部と接している、請求項2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記被係止部材は、前記表皮の前記他端部に取り付けられている、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の車両用シート。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用シートの製造方法に適用され、
前記ファスナーが閉じられていない状態で前記シートパッドに前記表皮を被せる被覆工程と、
前記被覆工程の後、前記係止部材を前記被係止部材に係止させる係止工程と、
前記係止工程の後、前記ファスナーを閉じる閉工程と、
を備える、車両用シートの製造方法。
【請求項6】
前記ファスナーは、前記閉工程の時点において、当該ファスナーの長尺方向の両端部を構成して前記表皮の両側から張り出す延出部を有しており、
前記閉工程の後、前記ファスナーの長尺方向の両端側の部分で前記表皮と重なる部分をホグリングで前記表皮に止着する止着工程と、
前記止着工程の後、前記延出部を切除する切除工程と、
を備える請求項5に記載の車両用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートにおいては、シートパッドに被せられる表皮の端部に係止部材が取り付けられると共に、この係止部材が被係止部材に係止されることによって表皮の端部が止着される構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-45622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような構成では、表皮を強く引っ張りながら係止部材を係止させることになるので、表皮の取り付け作業性の点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、表皮の取り付け作業性を向上させることができる車両用シート及びその製造方法を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様の車両用シートは、シートパッドに被せられる表皮と、前記表皮の一端部に取り付けられた係止部材と、前記係止部材が係止される被係止部材と、を備え、前記表皮は、前記一端部側から他端部側までの間の中間部が分断されると共に、前記表皮の分断側の端部同士がファスナーによって連結されており、更に、前記表皮の分断側の端部同士を前記表皮の裏側から繋ぐシート状の繋ぎ部が設けられ、前記繋ぎ部は、前記ファスナーが閉じられていない状態での前記表皮の前記一端部側から前記他端部側までの長さを長くするように設定されている。
【0007】
第1の態様の車両用シートでは、表皮の一端部に取り付けられた係止部材が被係止部材に係止される。ここで、表皮は、一端部側から他端部側までの間の中間部が分断されると共に、表皮の分断側の端部同士がファスナーによって連結されている。更に、表皮の分断側の端部同士を表皮の裏側から繋ぐシート状の繋ぎ部が設けられ、繋ぎ部は、ファスナーが閉じられていない状態での表皮の一端部側から他端部側までの長さを長くするように設定されている。これにより、ファスナーが閉じられていない状態では、ファスナーが閉じられた状態と比べて表皮の一端部側から他端部側までの長さが長くなるので、表皮を強く引っ張らずに係止部材を被係止部材に係止させることができる。また、ファスナーが閉じられていない状態で係止部材を被係止部材に係止させた後に、ファスナーが閉じられることで、係止部材が被係止部材に強固に係止される。
【0008】
第2の態様の車両用シートは、第1の態様において、前記ファスナーは、その長尺方向の両端部が前記表皮から張り出すように配置可能とされ、前記繋ぎ部には、前記ファスナーの長尺方向の両端部が裏側に折り返された状態で差し込まれる被差し込み部が設けられている。
【0009】
第2の態様の車両用シートでは、ファスナーは、その長尺方向の両端部が表皮から張り出すように配置可能となっている。これにより、ファスナーを閉じる際にファスナーの長尺方向の両端部を表皮から張り出させておくことで、ファスナーを閉じ易くすることができる。一方、繋ぎ部には、ファスナーの長尺方向の両端部が裏側に折り返された状態で差し込まれる被差し込み部が設けられている。これによって、ファスナーの長尺方向の両端部を格納させることができるので、見栄えを良好にすることが可能になる。
【0010】
第3の態様の車両用シートは、第2の態様において、前記繋ぎ部には、前記ファスナーの長尺方向と同じ方向の両側に取り付けられて前記繋ぎ部と共に前記被差し込み部を形成する被取付片が設けられ、前記被取付片は、弾性変形可能な素材で形成されると共に、前記ファスナーの長尺方向の端部と接している。
【0011】
第3の態様の車両用シートでは、繋ぎ部と共に被差し込み部を形成する被取付片が、弾性変形可能な素材で形成されると共に、ファスナーの長尺方向の端部と接しているので、ファスナーの長尺方向の端部を良好に保持することができる。
【0012】
第4の態様の車両用シートは、第1の態様~第3の態様のいずれか1つの態様において、前記被係止部材は、前記表皮の前記他端部に取り付けられている。
【0013】
第4の態様の車両用シートでは、ファスナーが閉じられていない状態では、表皮を強く引っ張ることなく、表皮の一端部に取り付けられた係止部材を、表皮の他端部に取り付けられた被係止部材に係止させることができる。また、そのように係止させた後に、ファスナーが閉じられることで、表皮の一端部に取り付けられた係止部材が、表皮の他端部に取り付けられた被係止部材に強固に係止され、表皮を所望の状態で配置することができる。
【0014】
第5の態様の車両用シートの製造方法は、第1の態様~第4の態様のいずれか1つの態様の車両用シートの製造方法に適用され、前記ファスナーが閉じられていない状態で前記シートパッドに前記表皮を被せる被覆工程と、前記被覆工程の後、前記係止部材を前記被係止部材に係止させる係止工程と、前記係止工程の後、前記ファスナーを閉じる閉工程と、を備える。
【0015】
第5の態様の車両用シートの製造方法では、被覆工程では、ファスナーが閉じられていない状態でシートパッドに表皮を被せる。被覆工程の後の係止工程では、係止部材を被係止部材に係止させる。このとき、ファスナーは閉じられていない状態であり、ファスナーが閉じられた状態と比べて表皮の一端部側から他端部側までの長さが長くなるので、表皮を強く引っ張らずに係止部材を被係止部材に係止させることができる。係止工程の後の閉工程では、ファスナーを閉じる。これによって、係止部材が被係止部材に強固に係止される。
【0016】
第6の態様の車両用シートの製造方法は、第5の態様において、前記ファスナーは、前記閉工程の時点において、当該ファスナーの長尺方向の両端部を構成して前記表皮の両側から張り出す延出部を有しており、前記閉工程の後、前記ファスナーの長尺方向の両端側の部分で前記表皮と重なる部分をホグリングで前記表皮に止着する止着工程と、前記止着工程の後、前記延出部を切除する切除工程と、を備える。
【0017】
第6の態様の車両用シートの製造方法では、ファスナーは、閉工程の時点において、当該ファスナーの長尺方向の両端部を構成して表皮の両側から張り出す延出部を有している。このように延出部があることによって、閉工程では、ファスナーを閉じ易くなる。閉工程の後の止着工程では、ファスナーの長尺方向の両端側の部分で表皮と重なる部分をホグリングで表皮に止着する。止着工程の後の切除工程では、延出部を切除する。延出部が切除されることによって、見栄えを良好にすることができる。また、ファスナーの長尺方向の両端側の部分は表皮にホグリングで止着されているので、延出部が切除されてもファスナーが閉じられた状態を強固に保持することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、表皮の取り付け作業性を向上させることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1の実施形態に係る車両用シートを斜め後方側から見た状態で示す斜視図である。
図2図1の2-2線に沿って切断した状態を拡大して示す縦断面図である。
図3図1の車両シートにおいてシートバックの表皮を取り付ける過程を示す斜視図である。
図4図3の4-4線に沿って切断した状態を拡大して示す縦断面図である。
図5】表皮の分断側の端部同士を連結して表皮の取り付け作業を完了させるまでの工程を説明するための図である。図5(A)はファスナーを閉じる前の状態を示す。図5(B)はファスナーを閉じた状態を示す。図5(C)はホグリングでファスナーを止着した状態を示す。図5(D)はファスナーの両端部を切除した状態を示す。図5(E)は完成状態を示す。
図6】第2の実施形態に係る車両用シートを斜め後方側から見た状態で示す斜視図である。
図7】第2の実施形態において表皮の分断側の端部同士を連結して表皮の取り付け作業を完了させるまでの工程を説明するための図である。図7(A)はファスナーを閉じる前の状態を示す。図7(B)はファスナーを閉じた状態を示す。図7(C)はファスナーの両端部を被差し込み部に差し込もうとする状態を示す。図7(D)は完成状態を示す。
図8図7(D)の8-8線に沿って切断した状態を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る車両用シート及びその製造方法について図1図5を用いて説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両用シートの前方側を示しており、矢印UPは車両用シートの上方側を示しており、矢印Wは車両用シートの幅方向(左右方向)を示している。また、各図においては、図面を見易くする関係から一部の符号を省略している場合がある。
【0021】
図1には、本実施形態に係る車両用シート10を斜め後方側から見た状態の斜視図が示されている。図1に示されるように、車両用シート10は、着座乗員の臀部及び大腿部を支持するシートクッション12と、着座乗員の背部を支持するシートバック14と、着座乗員の頭部を支持するヘッドレスト16と、を備えている。
【0022】
シートクッション12は、図示しないシートクッションフレームにシートクッションパッド20が支持されると共にシートクッションパッド20に表皮22が被せられている。シートバック14は、図示しないシートバックフレームにシートバックパッド24が支持されると共にシートバックパッド24に表皮26が被せられている。ヘッドレスト16は、図示しないヘッドレストステーにヘッドレストパッド28が支持されると共にヘッドレストパッド28に表皮30が被せられている。シートクッションパッド20、シートバックパッド24及びヘッドレストパッド28は、シートパッドとして把握される要素である。なお、図1では、シートクッション12の表皮22の一部を切り欠いてシートクッションパッド20を示し、シートバック14の表皮26の一部を切り欠いてシートバックパッド24を示し、ヘッドレスト16の表皮30の一部を切り欠いてヘッドレストパッド28を示している。
【0023】
シートバック14の表皮26は、複数枚の表皮片が縫製されて構成されており、シートバックパッド24に対してシートバック上方側から被せられている。この表皮26は、シートバック14の前面、側面、上下面、並びに、背面における上部、両サイド及び下端部を構成する主要構成部26Xと、シートバック14の背面における上下方向中間部から下部にかけての部分を構成する背面用構成部26Yと、を有している。背面用構成部26Yの上端部は、主要構成部26Xの背面側上部に縫い付けられている。
【0024】
なお、背面用構成部26Yのシートバック上下方向中間部の裏面側には、図中の二点鎖線Lの位置にカバー部材(「スカート」ともいう。)の上端部が縫い付けられてもよい。補足説明すると、前記カバー部材は、例えば、シートバック14の背面側の上下方向中間部から下面側にかけての範囲を覆い隠すように配置される。前記カバー部材の下側の先端部にはJフック等の係止用の部材が取り付けられ、当該係止用の部材は、一例としてシートクッション12の下部に設けられたワイヤに係止される。
【0025】
図2には、図1の2-2線に沿って切断した状態を拡大した縦断面図が示されている。図2の図中の下部に示されるように、表皮26の一端部26A(背面用構成部26Yの下端部)には、係止部材としてのアロー34が取り付けられており、表皮26の他端部26B(主要構成部26Xの背面における下端部の一部)には、被係止部材としてのJフック36が取り付けられている。アロー34及びJフック36は、一例として軟質の樹脂によって形成されている。
【0026】
アロー34は、シートバック左右方向(図2の紙面に垂直な方向)を長手方向とする板状に形成されており、長手方向から見た断面が矢印状をなしている。このアロー34の短手方向一端部(図中では上側の部分)には、アロー34の厚さ方向一方側へ突出した矢尻部34Aが形成されている。アロー34の短手方向他端部(図中では下側の部分)は、縫製糸S1によって表皮26の一端部26Aに縫い付けられている。
【0027】
Jフック36は、シートバック左右方向(図2の紙面に垂直な方向)を長手方向とする曲げ板状に形成されており、長手方向から見た断面がJ字状をなしている。このJフック36の短手方向一端部(図中では上側の部分)には、断面U字状に曲がったU字状部36Aが形成されている。Jフック36の短手方向他端部(図中では下側の部分)は、縫製糸S2によって表皮26の他端部26Bに縫い付けられている。前述したアロー34は、Jフック36に係止される。具体的には、Jフック36のU字状部36A内にアロー34が嵌合される。これにより、表皮26の一端部26A側と表皮26の他端部26B側とがシートバック14の背面の下端部側で互いに結合される。
【0028】
表皮26は、一端部26A側からシートバック側面視でシートバック14の外周を一周して他端部26B側に至るまでの間の中間部が図2の上部に示されるように背面用構成部26Yのシートバック上下方向の中間部において分断される(図中では分断箇所に符号Dを付す)と共に、表皮26の分断側の端部26C、26D同士がファスナー40によって連結されている。
【0029】
図1に示されるように、ファスナー40は、長尺状とされ、分断箇所Dの隙を全域に亘って塞ぐように配置されている。図2に示されるように、ファスナー40は、表皮26の分断側の端部26C、26Dにおける各々の裏側に縫い付けられたファスナーテープ42、43と、ファスナーテープ42、43にそれぞれ固定されたエレメント(図中では簡略化して図示)44、45と、を備えている。ファスナーテープ42、43は、シートバック左右方向(図2の紙面に垂直な方向)を長手方向として配置されている。一対のエレメント44、45は、ファスナーテープ42、43の長手方向(図2の紙面に垂直な方向)に沿って設けられ、スライダー46(図5(A)参照、図中では簡略化して図示)をスライド移動させることによって互いに噛み合って結合されるようになっている。スライダー46(図5(A)参照)はファスナーヘッドと称する場合もある。
【0030】
なお、表皮26の取り付け過程を示す図3では、図を見易くするために、ファスナー40を簡略化して示している。すなわち、この図3では、便宜上、ファスナー40の上側の構成部(図2に示す上側のファスナーテープ42及び上側のエレメント44を備えた部分)に符号40Aを付し、ファスナー40の下側の構成部(図2に示す下側のファスナーテープ43及び下側のエレメント45を備えた部分)に符号40Bを付している(図5も同様)。また、図3に示されるファスナー40には、周知のファスナー(スライドファスナーともいう)が適用されており、スライダー46の抜けを防ぐために、左端部に左側止部48が設けられると共に右端部に右側止部(図示省略)が設けられている。
【0031】
図2に示されるように、シートバック14には、表皮26の分断側の端部26C、26D同士を表皮26の裏側から繋ぐシート状の繋ぎ部50が設けられている。繋ぎ部50は、例えば表皮26と同様の素材で形成されている。繋ぎ部50の端部50A、50Bは、ファスナーテープ42、43の裏側に配置され、ファスナーテープ42、43及び表皮26の分断側の端部26C、26Dに縫製糸S3、S4によって縫い付けられている。図3及び図4図3の4-4線に沿って切断した状態の拡大断面図)に示されるように、繋ぎ部50は、ファスナー40が閉じられていない状態での表皮26の一端部26A側からシートバック側面視でシートバック14の外周を一周して他端部26B側に至るまでの長さを長くするように設定されている。
【0032】
図1に示されるように、表皮26の分断側の端部26C、26Dにおいてファスナー40の長尺方向と同じ方向の両側の端部には、ホグリング60が打ち込まれている。ホグリング60は、表皮26の分断側の端部26C、26Dを跨ぐように配置されている。図2に示されるように、ホグリング60によって、ファスナー40、及び繋ぎ部50の端部50A、50Bが表皮26の分断側の端部26C、26Dに止着されている。
【0033】
次に、図1に示される車両用シート10の製造方法(シートバック14における表皮26の組み付け手順)について説明する。
【0034】
まず、図1に示されるヘッドレスト16をシートバック14に取り付ける前の状態において、図3に示されるようにファスナー40が閉じられていない状態でシートバックパッド24に対して表皮26をシートバック上方側から被せ(被覆工程)、図4に示されるように、アロー34をJフック36に係止させ(係止工程)、図3及び図4に示されるような状態にする。図3に示されるように、ファスナー40は、この時点において、当該ファスナー40の長尺方向の両端部を構成して表皮26の両側から張り出す延出部40X、40Yを有している(後述する閉工程及び止着工程の時点においても同様)。
【0035】
図5には、図3及び図4の状態から表皮26の分断側の端部26C、26D同士をファスナー40で連結して表皮26の取り付け作業を完了させるまでの工程を説明するための図がシートバック背面側から見た状態で示されている。図5(A)には、図3及び図4に示される状態と同様の状態の表皮26の分断側の端部26C、26D及びその付近が示されている。この図5(A)の状態から図5(B)に示されるように、スライダー46をシートバック右方向へ向けて右側止部(図示省略)までスライド移動させてファスナー40を閉じる(閉工程)。なお、図示を省略するが、スライダー46には一例として引手(図示省略)が設けられており、作業者はこの引手を持ってスライダー46をスライド移動させる。
【0036】
次に、図5(C)に示されるように、表皮26のシートバック幅方向の両サイドで表皮26の分断側の端部26C、26Dを跨がせるようにホグリング60を打ち込む。すなわち、ファスナー40の長尺方向の両端側の部分で表皮26と重なる部分をホグリング60で表皮26に止着する(止着工程)。図2に示されるように、ファスナー40は、繋ぎ部50の端部50A、50Bと共に表皮26の分断側の端部26C、26Dにホグリング60で止着される。次に、図5(C)に示されるファスナー40の延出部40X、40Yを図5(D)に示されるように切除し(切除工程)、図5(E)に示される完成状態にする。
【0037】
このように延出部40X、40Y(図5(C)、図5(D)参照)が切除されることによって、見栄えを良好にすることができる。また、ファスナー40の長尺方向の両端側の部分は表皮26にホグリング60で止着されているので、延出部40X、40Y(図5(C)、図5(D)参照)が切除されてもファスナー40が閉じられた状態を強固に保持することができる。なお、図中では、便宜上、図5(C)等に示される延出部40X、40Yを切除する前の状態のファスナー40と、延出部40X、40Yを切除した後の図5(E)等に示される状態のファスナー40と、について同一符号を付している。
【0038】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0039】
図3に示されるように、本実施形態では、前述したシート状の繋ぎ部50が設けられることによって、ファスナー40が閉じられていない状態では、ファスナー40が閉じられた状態(図1参照)と比べて表皮26の一端部26A側からシートバック側面視でシートバック14の外周を一周して他端部26B側に至るまでの長さが長くなる。これにより、表皮26を強く引っ張らずに、図4に示されるように、アロー34をJフック36に係止させることができるので、作業者の負担を軽減することができる。また、ファスナー40が閉じられていない状態でアロー34をJフック36に係止させた後に、図5(B)に示されるように、ファスナー40が閉じられることで、表皮26がファスナー40側へ引っ張られる(引き込まれる)ので、図2等に示されるアロー34がJフック36に強固に係止される。
【0040】
これらにより、アロー34をJフック36に強固に係止させて表皮26を所望の状態で配置するための作業時間を減らすことができる。なお、本実施形態では、図5(B)に示されるようにファスナー40が閉じられた後、前述したように、図5(C)に示すホグリング60を用いた止着工程、図5(D)に示す切除工程を経て、図5(E)に示す完成状態にされる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態によれば、表皮26の取り付け作業性を向上させることができる。
【0042】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る車両用シート70及びその製造方法について、図3及び図4を流用しながら図6図8を用いて説明する。なお、第2の実施形態に係る車両用シート70は、以下に説明する点以外は第1の実施形態に係る車両用シート10(図1等参照)と実質的に同様の構成とされる。よって、第2の実施形態において第1の実施形態と実質的に同様の構成部には同一符号を付して説明を省略する。
【0043】
図6には、第2の実施形態に係る車両用シート70を斜め後方側から見た状態の斜視図(第1の実施形態の図1に相当する図)が示されている。また、図7には、表皮26の分断側の端部26C、26D同士をファスナー72で連結して表皮26の取り付け作業を完了させるまでの工程を説明するための図がシートバック背面側から見た状態で示されており、図7(D)には完成状態の図が示されている。また、図8には、図7(D)の8-8線に沿って切断した状態の拡大断面図が示されている。図6図8に示されるように、第2の実施形態の車両用シート70は、第1の実施形態の車両用シート10に設けられたホグリング60(いずれも図1参照)を備えていない。
【0044】
図6に示されるように、表皮26の分断側の端部26C、26Dにおける裏側にはファスナー72が設けられ、表皮26の分断側の端部26C、26D同士はファスナー72によって連結されている。図7(B)及び図7(C)に示されるように、ファスナー72は、その長尺方向の両端部72X、72Yが表皮26から張り出すように配置可能とされている。
【0045】
このファスナー72は、第1の実施形態の切除工程(図5(D)参照)よりも前の状態のファスナー40(図3等参照)と同様の構成である。このため、便宜上、図7及び図8に示されるファスナー72の各構成部については、適宜、第1の実施形態のファスナー40(図3及び図4等参照)の各構成部と同一符号を付す。また、図3及び図4の符号40を符号72に置き換えると、第2の実施形態における表皮26を取り付ける過程を示した図となる。
【0046】
図7に示されるように、繋ぎ部50には、ファスナー72の長尺方向と同じ方向の両側に被取付片74が取り付けられている。被取付片74は、表皮26の分断側の端部26C、26D同士が並ぶ方向と同じ方向の両端部(ここでは上下の端部)が繋ぎ部50に取り付けられて繋ぎ部50と共に図8に示される被差し込み部80を形成している。図7(C)に示されるファスナー72の長尺方向の両端部72X、72Yは、完成状態では図7(D)に示されるように裏側に折り返された状態で被差し込み部80に差し込まれている(図8参照)。図7及び図8に示される被取付片74は、弾性変形可能な素材で形成された弾性シート部材であり、ファスナー72の長尺方向の端部72X、72Y(図7(D)参照、図8では端部72Yのみを図示)と接している。
【0047】
次に、図6に示される車両用シート70の製造方法(シートバック14における表皮26の組み付け手順)について図3及び図4を流用しながら図6図8を用いて説明する。
【0048】
まず、図6に示されるヘッドレスト16をシートバック14に取り付ける前の状態において、図7(A)に示されるファスナー72が閉じられていない状態でシートバックパッド24(図6参照)に対して表皮26をシートバック上方側から被せ(被覆工程)、アロー34をJフック36(いずれも図4参照)に係止させ(係止工程)、第1の実施形態の図3及び図4と同様の状態にする。
【0049】
次に、図7(A)の状態から図7(B)に示されるように、スライダー46をシートバック右方向へ向けて右側止部(図示省略)までスライド移動させてファスナー72を閉じる(閉工程)。次に、ファスナー72の長尺方向の端部72X、72Yを図7(C)の矢印Tのように裏側に折り返して、図7(D)に示されるように被差し込み部80(図8参照)に差し込み、完成状態にする。
【0050】
次に、第2の実施形態の作用及び効果について、図4を流用しながら図7及び図8を用いて説明する。
【0051】
第2の実施形態では、第1の実施形態と同様に、図7(A)等に示される表皮26を強く引っ張らずにアロー34をJフック36(いずれも図4参照)に係止させることができ、その後に、図7(B)に示されるように、ファスナー72が閉じられることで、アロー34がJフック36(いずれも図4参照)に強固に係止される。
【0052】
ここで、図7(B)に示されるように、ファスナー72を閉じる作業がなされる際には、ファスナー72の長尺方向の両端部72X、72Yは、表皮26から張り出した状態になっているので、ファスナー72を容易に閉じることができる。補足説明すると、例えば、ファスナー72のうち表皮26と重なる部分(表皮26から張り出していない部分)は、ファスナー72を閉めようとする際に、表皮26を引っ張ることに伴う反力を受けるのに対して、ファスナー72のうち表皮26から張り出している部分は前記反力を受けないのでファスナー72を閉める初動に手間取らず、ファスナー72を容易に閉じることができる。また、図7(A)に示されるようにファスナー72を閉じる前においてスライダー46が表皮26から外れた位置にあると、スライダー46を比較的掴みやすくなるので、スライダー46を用いてファスナー72を閉じる作業がし易くなる。一方、図7(D)に示されるように、ファスナー72の長尺方向の両端部72X、72Yは、裏側に折り返された状態で被差し込み部80(図8参照)に差し込まれているので、ファスナー72の長尺方向の両端部72X、72Yは格納された状態となり、見栄えが良い。
【0053】
また、図7(D)及び図8に示される被差し込み部80の一部を構成する被取付片74は、弾性変形可能な素材で形成され、ファスナー72の長尺方向の端部72X、72Yと接しているので、ファスナー72の長尺方向の端部72X、72Yを良好に保持することができる。
【0054】
以上説明したように、第2の実施形態によっても、表皮26の取り付け作業性を向上させることができる。
【0055】
[実施形態の補足説明]
なお、図1図8を用いて説明した上記第1、第2の実施形態では、表皮26の一端部26Aに取り付けられた係止部材としてのアロー34が、表皮26の他端部26Bに取り付けられた被係止部材としてのJフック36に係止されているが、上記第1、第2の実施形態の変形例として、被係止部材は、例えばシートフレームの構成部材(例えばワイヤ)でもよい。
【0056】
また、上記第1、第2の実施形態では、係止部材としてアロー34が適用され、被係止部材としてJフック36が適用されているが、例えば、係止部材としてJフックが適用されると共に被係止部材としてアローが適用されてもよいし、係止部材及び被係止部材の両方にJフックが適用されてもよい。また、他の変形例として、例えば、係止部材として、互いに係止可能な一対の面状係止部材(例えばマジックテープ(登録商標))のうちの一方が適用されると共に、被係止部材として、前記一対の面状係止部材のうちの他方が適用される、という構成も採り得る。
【0057】
また、上記第1、第2の実施形態では、シートバック14に本発明の構成を適用しているが、例えば、シートクッション(12)に本発明の構成を適用してもよいし、ヘッドレスト(16)に本発明の構成を適用してもよい。
【0058】
また、第2の実施形態では、被取付片74は、弾性変形可能な素材で形成されてファスナー72の長尺方向の端部72X、72Yと接しており、そのような構成が好ましいが、第2の実施形態の変形例として、被取付片が、弾性変形しないものとして把握される素材で形成されている、という構成も採り得る。
【0059】
また、第2の実施形態では、繋ぎ部50の一部と被取付片74とで被差し込み部80が形成されているが、第2の実施形態の変形例として、被差し込み部が、例えば、繋ぎ部(50)に取り付けられたループ状の部材のみで構成されている、という構成も採り得る。
【0060】
なお、上記実施形態及び上述の複数の変形例は、適宜組み合わされて実施可能である。
【0061】
以上、本発明の一例について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0062】
10 車両用シート
24 シートバックパッド(シートパッド)
26 表皮
26A 表皮の一端部
26B 表皮の他端部
26C、26D 表皮の分断側の端部
34 アロー(係止部材)
36 Jフック(被係止部材)
40 ファスナー
40X、40Y 延出部
50 繋ぎ部
60 ホグリング
70 車両用シート
72 ファスナー
72X、72Y ファスナーの長尺方向の端部
74 被取付片
80 被差し込み部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8