(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157482
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】水域環境改善装置
(51)【国際特許分類】
A01G 33/00 20060101AFI20241030BHJP
A01K 63/04 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
A01G33/00
A01K63/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071896
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】390006264
【氏名又は名称】関西化学機械製作株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502059825
【氏名又は名称】Bio-energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼ 真司
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 寛
【テーマコード(参考)】
2B026
2B104
【Fターム(参考)】
2B026AA05
2B026AB05
2B026AB09
2B026AC03
2B104AA01
2B104FA04
2B104FA13
(57)【要約】
【課題】 海洋、湖沼などの様々な水域の深水部に対して特定物質を効率良く供給することができる水域環境改善装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の水域環境改善装置は、水域環境の水面に浮遊可能なフレーム部と、フレーム部内に配置された流液部材と、流液部材が装着されておりかつ鉛直方向に延びる回転軸と、流液部材の下方に配置された細長いドラフトチューブと、ドラフトチューブを長さ方向に沿って包囲するように、ドラフトチューブに対して間隙を空けて配置されておりかつ一端がフレーム部に接続されている外套チューブとを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水域環境改善装置であって、
該水域環境の水面に浮遊可能なフレーム部と、
該フレーム部内に配置された流液部材と、
該流液部材が装着されておりかつ鉛直方向に延びる回転軸と、
該流液部材の下方に配置された細長いドラフトチューブと、
該ドラフトチューブを長さ方向に沿って包囲するように、該ドラフトチューブに対して間隙を空けて配置されておりかつ一端が該フレーム部に接続されている外套チューブと、
を備え、
該流液部材が、該水面よりも下方に配置される吸液部と、該水面よりも上方に配置される吐出部と、該吸液部と該吐出部との間に設けられた流路とを有し、
該ドラフトチューブが、該水面よりも上方かつ該流液部材の該吸液部と該吐出部との間の高さに位置するように設けられた上端開口部と、該水面よりも下方に位置するように設けられた下端開口部とを備え、
該ドラフトチューブの該上端開口部が、内部に該流液部材の該吸液部を収容する、水域環境改善装置。
【請求項2】
前記流液部材における前記流路が、前記回転軸の軸方向に対して傾斜して配置されている、請求項1に記載の水域環境改善装置。
【請求項3】
前記ドラフトチューブが円筒状の形態を有する、請求項1に記載の水域環境改善装置。
【請求項4】
前記ドラフトチューブが、前記下端開口部が前記水域環境の深水部に到達し得る長さを有する、請求項1に記載の水域環境改善装置。
【請求項5】
前記回転軸が、前記フレーム部に配置されたソーラーパネルと電気的に接続されたモータによって回転することができる、請求項1に記載の水域環境改善装置。
【請求項6】
前記外套チューブの他端が前記ドラフトチューブの前記下端開口部よりも上方に配置されている、請求項1に記載の水域環境改善装置。
【請求項7】
前記外套チューブの側面に少なくとも1つの排出口が設けられている、請求項1に記載の水域環境改善装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水域環境改善装置に関し、より詳細には海域や淡水域における深水部の水質を改善するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気と海域との間の二酸化炭素の移動(吸収と放出)は、大気から海域への移動(吸収)が勝っている。例えば、アラメやカジメ、クロメのような大型有用藻類の藻場では、生物反応によって海域中の二酸化炭素濃度が低下することにより、藻類の成長が制限されることがある。したがって、海域のような非常に広い面積を擁する藻場での藻類培養には二酸化炭素を自然界よりも遙かに効率的に供給することが所望されている。
【0003】
ここで、ポンプを通じて二酸化炭素ガスを藻場に直接供給することが考えられる。一般に二酸化炭素水への溶解度は高いことが知られている。しかし、このような直接的な二酸化炭素ガスの形態での供給では、藻場で溶解可能な二酸化炭素は一部に過ぎず、多くは水面に向かって浮上するのみである。
【0004】
一方、所定の媒体(海水等)中で二酸化炭素のファインバブル(例えば、マイクロバブルまたはウルトラファインバブル)を作製し、これをそのまま海域の深水部に供給することが考えられる。しかし、この場合、使用する媒体中の成分濃度(例えば、塩分濃度やPO4
3-、NO3-、SiO2などの栄養塩濃度)が藻場周辺の海水成分と必ずしも一致しないことがある。二酸化炭素のファインバブルとともにこのような媒体を藻場に大量に供給することは、藻場の水質環境全体を大きく変動させる要因にもなりかねない。
【0005】
さらに、上記供給のいずれの場合も、例えばポンプを用いた供給が考えられる。しかし、海域の深水部へのポンプによる供給には多くのエネルギーを必要とする点で藻類培養の効率性が優れているとは言い難い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、海洋、湖沼などの様々な水域の深水部に対して特定物質を効率良く供給することができる水域環境改善装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水域環境改善装置であって、
該水域環境の水面に浮遊可能なフレーム部と、
該フレーム部内に配置された流液部材と、
該流液部材が装着されておりかつ鉛直方向に延びる回転軸と、
該流液部材の下方に配置された細長いドラフトチューブと、
該ドラフトチューブを長さ方向に沿って包囲するように、該ドラフトチューブに対して間隙を空けて配置されておりかつ一端が該フレーム部に接続されている外套チューブと、
を備え、
該流液部材が、該水面よりも下方に配置される吸液部と、該水面よりも上方に配置される吐出部と、該吸液部と該吐出部との間に設けられた流路とを有し、
該ドラフトチューブが、該水面よりも上方かつ該流液部材の該吸液部と該吐出部との間の高さに位置するように設けられた上端開口部と、該水面よりも下方に位置するように設けられた下端開口部とを備え、
該ドラフトチューブの該上端開口部が、内部に該流液部材の該吸液部を収容する、水域環境改善装置である。
【0008】
1つの実施形態では、上記流液部材における上記流路は、上記回転軸の軸方向に対して傾斜して配置されている。
【0009】
1つの実施形態では、上記ドラフトチューブは円筒状の形態を有する。
【0010】
1つの実施形態では、上記ドラフトチューブは、上記下端開口部が上記水域環境の深水部に到達し得る長さを有する。
【0011】
1つの実施形態では、上記回転軸は、上記フレーム部に配置されたソーラーパネルと電気的に接続されたモータによって回転することができる。
【0012】
1つの実施形態では、上記外套チューブの他端は上記ドラフトチューブの上記下端開口部よりも上方に配置されている。
【0013】
1つの実施形態では、上記外套チューブの側面に少なくとも1つの排出口が設けられている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水域の深水部に対して、二酸化炭素などの所定物質をより少ないエネルギーで効率良く供給することができる。また、所定物質の供給にあたり、深水部に含まれるその他の成分の種類や濃度を大きく変動させることはなく、供給される所定物質の濃度を高めることができる。これにより、例えば、アラメ、カジメ、クロメなどの大型の有用藻類の藻場において、二酸化炭素等の所定物質を簡便に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の水域環境改善装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図1に示す水域環境改善装置のうち外套チューブの一部を省略した当該装置の拡大図である。
【
図3】
図2に示す水域環境改善装置を構成する流液部材の一例を表す斜視図である。
【
図4】
図2に示す水域環境改善装置を構成するドラフトチューブの下端開口部の一例を示す概略図である。
【
図5】
図2に示す水域環境改善装置のA-A方向断面図である。
【
図6】(a)は本発明の水域環境改善装置を構成するドラフトチューブと外套チューブとの組み合わせの他の例を示す概略図であり、(b)は本発明の水域環境改善装置を構成するドラフトチューブと外套チューブとの組み合わせの別の例を示す概略図である。
【
図7】本発明の水域環境改善装置の他の例を示す概略図である。
【
図8】
図7に示す水域環境改善装置を構成する流液部材の一例を表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を、添付の図面を参照して説明する。なお、以下のすべての図面に共通して同様の参照番号を付した構成は、他の図面に示したものと同様である。
【0017】
図1は、本発明の水域環境改善装置の一例を示す概略図である。
【0018】
本発明の水域環境改善装置100は、フレーム部110と、フレーム部110内に配置された流液部材120と、流液部材120が装着されておりかつ鉛直方向に延びる1本の回転軸130と、流液部材120の下方に配置された細長いドラフトチューブ150と、ドラフトチューブ150を長さ方向に沿って包囲する外套チューブ164とを備える。
【0019】
図2は、
図1に示す水域環境改善装置のうち外套チューブの一部を省略した当該装置の拡大図である。
【0020】
(1)フレーム部
フレーム部110は、それ自体が水域環境(例えば、海洋などの海域、あるいは天然または人工の湖、池、沼などの淡水域)の水面180に浮遊可能であり、それにより流液部材120、回転軸130、ドラフトチューブ150の一部、および外套チューブ164のそれぞれを水域環境の水面180に対して下方または上方に配置することができる。
【0021】
図2において、フレーム部110は、例えば、通気孔112を有するカップ状の形態を有し、開口端部にはフロート113が設けられている。フロート113は、例えば、中央が開口した環状の形態を有する。フロート113の内部は中空かつ密閉されており、水より低密度の物質(例えば、空気や窒素ガスなどの気体)が収容されている。あるいは、フロート113の内部は、ポリスチレンフォームのような水または海水よりも密度の発泡樹脂が充填されているか、または当該発泡樹脂で構成されていてもよい。これによりフロート113上のフレーム部110は、水面180上に浮遊することができる。
【0022】
通気孔112は、例えば図示しない気体発生装置またはボンベと接続されており、フレーム部110内に所定物質(例えば、二酸化炭素、酸素、窒素または空気のような気体)を導入することができる。これに加えて、通気孔112には、例えば、フレーム部110のフロート113とドラフトチューブ150との間の水面近くに存在する海水または水;ドラフトチューブ150内の水面近くに存在する海水または水;あるいはそれらの組み合わせ;に対して、キャビテーションにより導入した所定物質のファインバブル(例えば、マイクロバブル、ウルトラファインバブルおよびこれらの組み合わせ)を形成するためのプローブ(図示せず)が挿入されていてもよい。
【0023】
ファインバブルの発生には、例えば、ベンチュリ管方式(エジェクター)、気液旋回流方式、加圧溶解・減圧方式、せん断方式、微細孔方式、または超音波方式のいずれの発生方法が採用されてもよい。特に海水等への腐食対策が必要であり、比較的単純な装置で製造することができる等の理由から、ベンチュリ管方式(エジェクター)を用いることが好ましい。
【0024】
このようにして発生したファインバブルは、後述する流液部材120の回転を通じて吐出される海水または水によって、フレーム部110のフロート部113とドラフトチューブ150との間からドラフトチューブ150の下端開口部154の方向に向かって下降するように移動させられる。
【0025】
なお、
図1においてフレーム部110は閉塞された構造を有しているが、本発明はこれに限定されない。例えばフレーム部110を構成する壁面の一部に開放孔が設けられていてもよい。
【0026】
さらに、フレーム部110の外表面には、後述するモータ140と電気的に接続されたソーラーパネル114が配置されていてもよい。あるいは、ソーラーパネル114は、図示しない蓄電池を介してモータ140と電気的に接続されていてもよい。
【0027】
(2)流液部材
図2に示す流液部材120は、例えば同一の形状でなる2つの部材から構成されており、当該流液部材120は回転軸130の軸周りに対称的に配置されている。本発明の水域環境改善装置100を構成する流液部材120の数は特に限定されない。流液部材120は少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは2つ、3つ、4つ、5つまたは6つから構成されている。水域環境改善装置100が複数の流液部材120を備える場合、各流液部材は、回転軸130による滑らかな回転を保持するために、当該回転軸130の軸周りにて1つの流液部材と隣接する他の流液部材と間の角度が略均等となるように配置されていることが好ましい。
【0028】
図3は、
図2に示す水域環境改善装置100を構成する流液部材120の一例を表す斜視図である。
図3に示す流液部材120は筒状の形態を有する。
【0029】
流液部材120は、下方から上方にかけて吸液部124、流路126および吐出部125をその順で備える。
【0030】
吸液部124は、
図2に示す回転軸130の回転により、ドラフトチューブ150内に存在する水域環境の海水または水(以下、「水域環境の水」という)116を流液部材120の流路126に導入するために設けられている。
【0031】
吸液部124の形状は特に限定されない。吸液部124の形状の例としては、円形、楕円形、三角形、矩形、およびその他の多角形、ならびに後述の樋状の断面形状(例えば円弧状)が挙げられる。なお、吸液部124は、流液部材120の内部により多くの水域環境の水を導入できるように、流液部材120の軸に対して斜め方向から切断することにより開口面積を拡張したものであってもよい。
【0032】
吸液部124の大きさは特に限定されないが、例えば、吸液部124が円形の断面形状を有する場合、その外径は例えば10cm~200cmである。
【0033】
吐出部125は、
図2に示す回転軸130の回転を通じて流液部材120の流路126内に導入された水域環境の水116を外部(例えば、フレーム部110の内壁111および/またはドラフトチューブ150と外套チューブ164との間の間隙)に向けて吐出するために設けられている。
【0034】
吐出部125の形状もまた特に限定されない。吐出部125の形状の例としては、円形、楕円形、三角形、矩形、およびその他の多角形、ならびに後述の樋状の断面形状(例えば円弧状)が挙げられる。
【0035】
なお、流液部材120は、例えば吸液部124から吐出部125にかけて内径が一定であってもよく、あるいは緩やかにまたは段階的に縮径するものであってもよい。
【0036】
(3)回転軸
再び
図2を参照すると、回転軸130は所定の剛性を有する1本のシャフトであり、例えば、円筒状または円柱状の形状を有する。回転軸130は、フレーム部110内で、通常、鉛直方向に配置されている。回転軸130の太さは、必ずしも限定されないが、例えば、8mm~200mmである。回転軸130の長さは、使用するフレーム部110の大きさ等によって変動し、当業者によって適切な長さが選択され得る。
【0037】
回転軸130の一端は、フレーム部110の上部でモータ140などの回転手段に接続されている。一方、回転軸130の他端には、水平方向に延びる取付具132が取り付けられており、取付具132を介して上記流液部材120が配置されている。回転時に無用な抵抗の発生を避けるために、通常、この取付具132は水面180よりも上方に配置されている。
【0038】
ここで、本発明の水域環境改善装置100では、上記流液部材120における流路126は、回転軸130の軸方向Lに対して、所定の取付角度θ1をなすように傾斜して配置されていることが好ましい。取付傾斜角θ1は、当業者によって任意の角度に設定され得るが、例えば5°~60°、好ましくは10°~45°である。取付傾斜角θ1がこのような角度の範囲内にあることにより、回転軸130の回転を通じて、流液部材120の吸液部124から掬い上げられた水域環境の水116が遠心力によって流路126の下方から上方に向かって移動し、吐出口125から外部(例えば、フレーム部110の内壁111および/またはドラフトチューブ150と外套チューブ164との間の間隙)に向かって効率良く吐出することができる。
【0039】
(4)ドラフトチューブ
図2に示すドラフトチューブ150は、硬質または軟質の材料で構成された細長い管である。
【0040】
本発明において、ドラフトチューブ150の上端開口部152は、水域環境の水面180よりも上方かつ流液部材120の吸液部124と吐出部125との間の高さに位置するように設けられている。一方、ドラフトチューブ150の下端開口部154は、水域環境の水面180よりも下方に位置するように設けられている。
【0041】
また、ドラフトチューブ150の上端開口部152は、
図2に示すように内部に流液部材120の吸液部124を収容する。すなわち、流液部材120は、その吸液部124が、水域環境の水面180よりも下方に位置するようにドラフトチューブ150の内部に挿入されている。
【0042】
他方、流液部材120の吐出部125は、ドラフトチューブ150の上端開口部152よりも上方に位置するように配置されている。また、流液部材120の吐出部125は、水平方向において、ドラフトチューブ150の上端開口部152の開口面の外に飛び出して配置されていることが好ましい。仮に、流液部材120の回転による吐出部125から吐出される水域環境の水の勢いが弱かったとしても、吐出された水域環境の水がドラフトチューブ150の外側(すなわち、ドラフトチューブ150と外套チューブ164との間の間隙)への落下を促すことにより、ドラフトチューブ150の内側への落下による水域環境の水の不十分な循環を避けるためである。
【0043】
ドラフトチューブ150の内径は、上端開口部152と流液部材120との間で上記のような配置が可能になる限り、特に限定されない。
【0044】
例えば、ドラフトチューブ150の上端開口部152の内径は、当該上端開口部152における流液部材120の回転直径よりも僅かに長くなるように(例えば4cm以上の長さに)設計されていることが好ましい。これにより、流液部材120が回転する際、ドラフトチューブ150の上端開口部152を接することが回避され、ドラフトチューブ150および/または流液部材120が破損または摩耗することを防止できる。
【0045】
ドラフトチューブ150の下端開口部154の内径は、特に限定されず、上端開口部152の内径と略同一であってもよく、大きくてもよく、または小さくてもよい。
【0046】
ドラフトチューブ150の長さは、本発明の水域環境改善装置100を配置する水域環境の水深に応じて適切な長さが当業者によって採用され得る。具体的には、ドラフトチューブ150の長さは、下端開口部154が水域環境の深水部に到達し得る長さに一致するように設けられていることが好ましい。深水部に存在する海水または水を、ドラフトチューブ150の下端開口部154を通じて流液部材120に汲み上げることが一層容易となるからである。
【0047】
ドラフトチューブ150の具体的な長さは、例えば3m以上、好ましくは3m以上1500m以下、より好ましくは5m以上400m以下である。また、本発明の水域環境改善装置100を大型藻類の藻場に使用する場合、ドラフトチューブ150の長さは、好ましくは0.5m以上10m以下、より好ましくは1m以上5m以下である。なお、ドラフトチューブ150が軟質の材料で構成されている場合、当該チューブ150の長さは、水域環境の最大水深を上回る長さを有していてもよい。その場合は、本発明の水域環境改善装置100を水域環境の水面に配置すると、ドラフトチューブ150の下端開口部154は、水底に横たわった状態で位置することになる。
【0048】
さらに、下端開口部154が様々な凹凸形状を有する海底または水底と接触し、それにより下端開口部154からドラフトチューブ150内に入る水域環境の水の量が制限されることを避けるために、ドラフトチューブ150の下端開口部154には、その外周に沿って少なくとも1つの切欠156が設けられていてもよい(
図4)。切欠156の形状および大きさは特に限定されない。あるいは、切欠156に代えてまたは切欠156とともに、下端開口部154近傍のドラフトチューブ150の側壁に所定の大きさを有する1つまたはそれ以上の吸水孔158が設けられていてもよい。
【0049】
このようなドラフトチューブ150は例えば円筒状、角筒状、またはそれらの組み合わせの形態を有する。
【0050】
例えば、ドラフトチューブ150が角筒状(例えば四角筒状)の形態を有する場合、内壁を構成する隣接する2つの平面が重なった部分に谷部が形成されている。本発明においては、当該谷部が流液部材120の回転時におけるボルテックスの発生を防止または低減することができる。
【0051】
あるいは、ドラフトチューブ150は、
図2に示す流液部材120が回転する上部が角筒状(例えば四角筒状)の形態を有し、中間部および下部が円筒の形態を有するものであってもよい。
【0052】
さらに本発明においては、ドラフトチューブ150の内壁には、少なくとも下端がドラフトチューブ150内の水面付近(例えば水面より下方)に配置され、かつ鉛直方向に延びる薄片上の邪魔板170が設けられていてもよい。当該邪魔板170もまた、流液部材120の回転時におけるボルテックスの発生を防止または低減することができる。
【0053】
図5は、
図2に示す水域環境改善装置のA-A方向断面図である。
【0054】
ドラフトチューブ150は、例えば、フレーム部110に対して当該フレーム部110の内側から半径方向に延びる支持部材160を介して固定されている。これにより、フレーム部110とドラフトチューブ150との間には所定の間隙が形成されている。当該間隙の長さは特に限定されないが、本発明では、流液部材120の吐出口から吐出される水域環境の水がこの間隙に入ることができる程度の長さとなるように設計されている。
【0055】
なお、
図4において、ドラフトチューブ150の周囲には略均等な間隔で配置された3つの支持部材160が設けられており、これら支持部材160によってドラフトチューブ150とフレーム部110とが固定された例が記載されているが、本発明はこのような配置のみに限定されるものではない。フレーム部110とドラフトチューブ150との間に所上記間隙が形成されている限りにおいて、フレーム部110とドラフトチューブ150との間の固定様式は当業者によって適宜選択され得る。
【0056】
(5)外套チューブ
再び
図1を参照すると、本発明の水域環境改善装置100において、外套チューブ164は、ドラフトチューブ150を長さ方向に沿って包囲するように当該ドラフトチューブ150に対して間隙を空けて配置されている。また、
図2に示すように外套チューブ164の一端(上端)162はフレーム部110に接続されている。
【0057】
外套チューブ164の内径は、当該外套チューブ164とドラフトチューブとの間(当該外套チューブ164の内壁とドラフトチューブの外壁との間)で上記間隙が形成される限り特に限定されないが、例えば10cm~100cm、好ましくは5cm~50cmである。外套チューブ164の内径を有していることにより、外套チューブ164の内側にドラフトチューブ150および回転可能な流液部材120をそれぞれが互いに接触により干渉することなく配置することができる。
【0058】
外套チューブ164とドラフトチューブ150との間の間隙(I1)は、流液部材120の吐出口125から吐出された水域環境の水が上記所定物質(例えば、二酸化炭素、酸素、窒素または空気のような気体)を含む状態で上方から重畳的に配置されることにより、徐々に外套チューブ164の他端(底部)166に向かって移動し、最終的に当該他端166から外套チューブ164の外側に排出されるための役割を果たす。
【0059】
このような間隙(I1)は、例えば図示しないスペーサを介在させることにより、外套チューブ164およびドラフトチューブ150の長さ方向にわたって略均等となるように配置されたものであってもよい。あるいは、間隙(I1)は、当該スペーサを介在させることなく、長さ方向にわたって外套チューブ164内にドラフトチューブ150を単に挿入することにより、自由に変動し得るものであってもよい。
【0060】
外套チューブ164とドラフトチューブ150との間の間隙(I1)の平均値は、例えば5cm~50cm、好ましくは10cm~25cmである。間隙(I1)の平均値が5cmを下回ると、上記スペーサを各チューブの長さ方向に沿って適切な間隔で配置しない限り、外套チューブ164の内壁とドラフトチューブ150の外壁とが部分的に接触し易くなる。その結果、流液部材120の吐出口125から吐出された水域環境の水が外套チューブ164の途中で詰まり、他端166まで効率良く供給することが困難となる場合がある。間隙(I1)の平均値が50cmを上回ると、保有液量が多くなり、目的の場所(例えば、他端116付近の水域環境の深部)にファインバブルの混入された液が到着するのにより多くの時間を要する場合がある。
【0061】
外套チューブ164の具体的な長さは、例えば3m以上、好ましくは3m以上1500m以下、より好ましくは5m以上400m以下である。また、本発明の水域環境改善装置100を大型藻類の藻場に使用する場合、外套チューブ164の長さは、好ましくは1m以上10m以下、より好ましくは0.5m以上5m以下である。外套チューブ164が軟質の材料で構成されている場合、当該チューブ164の長さは、水域環境の最大水深を上回る長さを有していてもよい。その場合は、本発明の水域環境改善装置100を水域環境の水面に配置すると、外套チューブ164の他端166は、水底に横たわった状態で位置することになる。
【0062】
なお、本発明においては、例えば、
図6の(a)に示すように外套チューブ164の他端166はドラフトチューブ150の下端開口部154よりも上方に配置されていてもよい。この場合、外套チューブ164の上方から下降した上記所定物質を含む水域環境の水は他端166から容易に外部に押し出され、拡散し易い状態を構築することができる。
【0063】
あるいは、
図6の(b)に示すように、外套チューブ164の側面に少なくとも1つの排出口168が設けられていてもよい。この場合、外套チューブ164の上方から下降した上記所定物質を含む水域環境の水は他端166から押し出されるとともに、排出口168からも外部に排出可能である。これにより、当該所定物質を含む水域環境の水は外部に拡散し易い状態を構築することができる。
【0064】
図6の(a)および(b)に示す構造はいずれも、外套チューブ164の他端166から押し出された水域環境の水が、押し出された後拡散する前にすぐにドラフトチューブ154の下端開口部154を通じて流液部材120に汲み上げることを回避できる。
【0065】
このような外套チューブ165は例えば円筒状の形態を有する。
【0066】
(6)材質
本発明において、上記フレーム部110、流液部材120、および回転軸130は、それぞれ独立して、例えば、鉄、ステンレススチール、ハステロイ、チタン、アルミニウムなどの金属およびこれらの組合せでなる材料から構成されている。ドラフトチューブ150および外套チューブ164は、それぞれ独立して、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン、フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、シリコーン樹脂などの樹脂;イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴムなどの天然ゴムまたは合成ゴム;ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどのエラストマー;およびこれらの組合せでなる材料から構成されている。また、ドラフトチューブ150および外套チューブ164は、それぞれ独立してそれらの強度を高めるために、ステンレススチールワイヤなどのメッシュワイヤで補強されたメッシュチューブであってもよい。さらに、フレーム部110、流液部材120、回転軸130、ドラフトチューブ150および外套チューブ164は、耐薬品性を高めるために、それらのうちの1つまたはそれ以上がPTFEやグラスライニング、ゴムライニングのような当該分野において公知のコーティングが付与されていてもよい。
【0067】
(7)他の水域環境改善装置
図7は、本発明の水域環境改善装置の他の例を示す概略図である。
【0068】
図7に示す水域環境改善装置200は、
図2に示す筒状の流液部材120の代わりに樋状の流液部材220を用いて構成されている点を除き、その他は
図1に示す流液部材100の構成と同様である。
【0069】
水域環境改善装置200における流液部材220は、例えば、
図7に示すように半円筒状の流路226と、当該流路226の両端に設けられた吸液部224および吐出部225とを有する。流液部材220を構成し得る材質は、
図1に示す流液部材120と同様である。
【0070】
(8)水域環境改善装置の使用方法
次に、
図1または2に示す本発明の水域環境改善装置100の使用方法について説明する。
【0071】
まず、水域環境の水面180から、水域環境改善装置100のドラフトチューブ150の下端開口部154および外套チューブ164の他端166がゆっくりと沈められ、その後、フレーム部110が水面180上に浮遊させられる。また、モータ140の駆動に伴って水域環境改善装置100自体が自転することを避けるため、必要に応じて、下端にアンカーまたはシンカーなどの係留具が設けられたワイヤ状部材(図示せず)が水域環境改善装置100の任意の場所に取り付けられていてもよい。この状態において、ドラフトチューブ150の上端開口部152は水面180よりも上方に配置され、かつ流液部材120の吸液部は水面180の下方に位置し、吐出部125は当該水面180の上方に配置される。
【0072】
次いで、モータ140を駆動して回転軸を回転させると、回転軸130の回転に伴って流液部材120が回転軸130の軸周りに回転を開始する。流液部材120の吸液部付近に存在するドラフトチューブ150内の水域環境の水は、当該吸液部によって掬い上げられ、流液部材120にかかる遠心力によって流路を通り吐出部125まで上昇し、最終的に吐出部125から外部(好ましくはドラフトチューブ150の上端開口部152の外)に吐出される。一方、吸液部124からの水域環境の水の掬い上げによって、ドラフトチューブ150内では下端開口部154の近傍に存在する水域環境の水がドラフトチューブ150に流入し、ドラフトチューブ150内を徐々に上昇し、やがて上端開口部152の近傍まで移動すると、上記の通り流液部材120の吸液部124を通じて掬い上げられ、吐出部125を通じて外部(例えば、フレーム部110の内側)に吐出される。
【0073】
吐出部125から吐出されて水域環境の水は、通気孔112から導入される所定物質(例えば、二酸化炭素、酸素、窒素または空気のような気体)と合わせられ、例えばファインバブル(マイクロバブル、ウルトラファインバブルおよびこれらの組み合わせを包含する)を含む状態でドラフトチューブ150の外側かつ外套チューブ164の内側に配置される。その後も、回転軸130の回転を継続することにより、流液部材120の吐出部125から吐出されかつ上記所定物質が導入された水域環境の水は、ドラフトチューブ150の外側かつ外套チューブ164の内側に重畳的に配置され、上記所定物質が導入された水域環境の水が徐々に外套チューブ164内(すなわち、ドラフトチューブ150と外套チューブ164との間の間隙)を下降し、最終的に外套チューブ164の他端166等から外部に向けて拡散される。
【0074】
結果として、外套チューブ164の他端166の周辺やその近傍に大型藻類の藻場が存在する場合、上記所定物質が導入された水域環境の水がより確実に当該藻場に提供される。
【符号の説明】
【0075】
100,200 水域環境改善装置
110 フレーム部
112 通気孔
113 フロート
114 ソーラーパネル
116 水域環境の水
120,220 流液部材
124,224 吸液部
125,225 吐出部
126,226 流路
130 回転軸
132 取付具
140 モータ
150 ドラフトチューブ
152 上端開口部
154 下端開口部
156 切欠
158 吸水孔
160 支持部材
162 一端
164 外套チューブ
166 他端
168 排出口
170 邪魔板
180 水面