(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157493
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】プロピレン重合用触媒組成物、及びポリプロピレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 4/654 20060101AFI20241030BHJP
C08F 10/00 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C08F4/654
C08F10/00 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101776
(22)【出願日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】112115421
(32)【優先日】2023-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】518305565
【氏名又は名称】臺灣塑膠工業股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100209060
【弁理士】
【氏名又は名称】冨所 剛
(72)【発明者】
【氏名】陳光明
(72)【発明者】
【氏名】高榮鴻
(72)【発明者】
【氏名】謝坤沛
(72)【発明者】
【氏名】張朝順
(72)【発明者】
【氏名】邱俊▲い▼
【テーマコード(参考)】
4J128
【Fターム(参考)】
4J128AA01
4J128AB01
4J128AC05
4J128BC36B
4J128CB30A
4J128CB44A
4J128EA01
4J128EB02
4J128EB04
4J128EC01
4J128EC02
4J128FA09
4J128GA05
4J128GB02
(57)【要約】
【課題】プロピレン重合用触媒組成物、及びポリプロピレンの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、プロピレン重合用触媒組成物、及びポリプロピレンの製造方法に関する。該プロピレン重合用触媒組成物は変性剤を含む。変性剤は、親水性基と疎水性基とを有するエステル系化合物である。ポリプロピレンの製造方法において、プロピレン重合反応中に、変性剤は、親水性基が内側にあり、疎水性基が外側にある逆ミセルを形成することにより、原料の極性物質が逆ミセルの内側にあるため、触媒の被毒を低減させる。また、変性剤は触媒活性中心のチタンの原子価状態を正の3価に維持することができて、チタンと単量体との重合反応を促進して、触媒の活性を向上させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンハライド、担体及び内部電子供与体を含む主触媒、
外部電子供与体、
有機アルミニウム化合物、及び
前記チタンハライドのチタン原子とのモル比が0よりも大きくかつ128よりも小さく、下記式(1)で示される化合物、下記式(2)で示される化合物、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選ばれる変性剤
を含むプロピレン重合用触媒組成物。
【化1】
(前記式(1)中、前記R
1は、炭素数3~9のポリオール基を表し、前記R
2は、炭素数13~19の直鎖アルキル基、又は炭素数13~19の直鎖アルケニル基を表す。)
【化2】
(前記式(2)中、前記3つのR
3は、独立して、下記式(2-1)又は下記式(2-2)で示される基を表す。)
【化3】
(前記式(2-1)及び前記式(2-2)中、#は、前記3つのR
3が表す前記基と前記式(2)で示されるエステル基の炭素原子との結合位置を表し、前記aは、0~5の整数を表し、前記bは、0~5の整数を表し、前記aと前記bの合計は、0~10の整数である。)
【請求項2】
前記式(1)で示される化合物を有する前記変性剤と前記式(2)で示される化合物を有する前記変性剤とのモル比が、1~5である、請求項1に記載のプロピレン重合用触媒組成物。
【請求項3】
前記有機アルミニウム化合物のアルミニウム原子と前記チタンハライドの前記チタン原子とのモル比が、50~500である、請求項1に記載のプロピレン重合用触媒組成物。
【請求項4】
前記変性剤と前記外部電子供与体とのモル比が、0.1~10である、請求項1に記載のプロピレン重合用触媒組成物。
【請求項5】
前記変性剤と前記内部電子供与体とのモル比が、1~130である、請求項1に記載のプロピレン重合用触媒組成物。
【請求項6】
単量体及び触媒組成物を提供する工程であって、前記触媒組成物は、主触媒、有機アルミニウム化合物、外部電子供与体、及び変性剤を含み、前記主触媒は、チタンハライド、担体及び内部電子供与体を含み、前記変性剤と前記チタンハライドのチタン原子とのモル比が、0よりも大きくかつ128よりも小さく、前記変性剤は、下記式(1)で示される化合物、下記式(2)で示される化合物、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選ばれる工程と、
不均一反応系に水素ガスを導入し、前記単量体、前記触媒組成物、及び前記水素ガスを重合反応させ、ポリプロピレンを得る工程と、
を含むポリプロピレンの製造方法。
【化4】
(前記式(1)中、前記R
1は、炭素数3~9のポリオール基を表し、前記R
2は、炭素数13~19の直鎖アルキル基、又は炭素数13~19の直鎖アルケニル基を表す。)
【化5】
(前記式(2)中、前記3つのR
3は、独立して、下記式(2-1)又は下記式(2-2)で示される基を表す。)
【化6】
(前記式(2-1)及び前記式(2-2)中、#は、前記3つのR
3が示す前記基と、前記式(2)で示されるエステル基の炭素原子との結合位置を表し、前記aは、0~5の整数を表し、前記bは、0~5の整数を表し、前記aと前記bとの合計は、0~10の整数である。)
【請求項7】
前記単量体は、プロピレンと、その他のα-オレフィン系化合物とからなる、請求項6に記載のポリプロピレンの製造方法。
【請求項8】
前記重合反応は、予備重合反応と、本重合反応と、を含み、前記変性剤は、前記予備重合反応及び/又は前記本重合反応に使用される、請求項6に記載のポリプロピレンの製造方法。
【請求項9】
前記重合反応中に、前記変性剤は逆ミセル構造を形成し、
前記変性剤が前記式(1)で示される前記化合物を有する場合、前記R1が表す基は、前記逆ミセル構造の内側にあり、前記R2が表す前記基は、前記逆ミセル構造の外側にあり、及び/又は
前記変性剤が前記式(2)で示される前記化合物を有する場合、前記3つのエステル基は、前記逆ミセル構造の内側にあり、前記3つのR3が表す前記基は、前記逆ミセル構造の外側にある、請求項6に記載のポリプロピレンの製造方法。
【請求項10】
前記プロピレンの使用量100モル%に対して、前記水素ガスの濃度は、0.1モル%~40モル%である、請求項6に記載のポリプロピレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン重合用触媒組成物、及びポリプロピレンの製造方法に関し、特に、変性剤を用いたプロピレン重合用触媒組成物、及びポリプロピレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のプロピレン重合用触媒組成物は、ジーグラー・ナタ触媒(Ziegler-Natta)でプロピレン重合反応を促進する。しかし、ジーグラー・ナタ触媒には被毒の問題が存在する。外部電子供与体を利用して被毒の問題を改善することが多く研究されていたが、触媒活性を効果的に向上させることができなかった。これに鑑み、上記の欠点を改善するために、新規なプロピレン重合用触媒組成物、及びポリプロピレンの製造方法の開発が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の問題に鑑み、本発明の一つの態様は、プロピレン重合用触媒組成物を提供する。プロピレン重合用触媒組成物は、親水性基と疎水性基とを有するエステル系化合物を変性剤として使用する。この変性剤は、逆ミセル構造を形成してよく、これにより、原料の極性物質が逆ミセル構造の内側にあるため、触媒の被毒を低減させる。また、変性剤は触媒活性中心のチタンの原子価状態を正の3価に維持することができて、チタンと単量体との重合反応を促進して、触媒活性を向上させる。
【0004】
本発明の別の態様は、ポリプロピレンの製造方法を提供する。このポリプロピレンの製造方法は、前記プロピレン重合用触媒組成物を使用する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一つの態様によれば、プロピレン重合用触媒組成物を提案している。このプロピレン重合用触媒組成物は、主触媒、有機アルミニウム化合物、外部電子供与体、及び変性剤を含む。主触媒は、チタンハライド、担体、及び内部電子供与体を含む。変性剤とチタンハライドのチタン原子とのモル比(MA/Ti)は、0よりも大きくかつ128よりも小さく、変性剤は、下記式(1)で示される化合物、下記式(2)で示される化合物、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【化1】
【0006】
式(1)中、R
1は、炭素数3~9のポリオール基を表し、R
2は、炭素数13~19の直鎖アルキル基、又は炭素数13~19の直鎖アルケニル基を表す。
【化2】
【0007】
式(2)中、3つのR
3は、独立して、下記式(2-1)又は下記式(2-2)で示される基を表す。
【化3】
【0008】
式(2-1)及び式(2-2)中、#は、3つのR3が示す基と上記式(2)で示されるエステル基の炭素原子との結合位置を表し、aは、0~5の整数を表し、bは、0~5の整数を表し、aとbとの合計は、0~10の整数である。
【0009】
本発明の一実施例によれば、式(1)で示される化合物を有する変性剤と式(2)で示される化合物を有する変性剤とのモル比が、1~5である。
【0010】
本発明の更なる実施例によれば、有機アルミニウム化合物のアルミニウム原子とチタンハライドのチタン原子とのモル比(Al/Ti)が、50~500である。
【0011】
本発明の更なる実施例によれば、変性剤と外部電子供与体とのモル比(MA/Si)が、0.1~10である。
【0012】
本発明の更なる実施例によれば、変性剤と内部電子供与体とのモル比(MA/ID)が、1~130である。
【0013】
本発明の別の態様は、ポリプロピレンの製造方法を提供する。ポリプロピレンの製造方法において、単量体及び触媒組成物を提供し、触媒組成物は、主触媒、有機アルミニウム化合物、外部電子供与体及び変性剤を含み、主触媒は、チタンハライド、担体、及び内部電子供与体を含み、変性剤とチタンハライドのチタン原子とのモル比(MA/Ti)が、0よりも大きくかつ128よりも小さく、変性剤は、下記式(1)で示される化合物、下記式(2)で示される化合物、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【化4】
【0014】
式(1)中、R
1は、炭素数3~9のポリオール基を表し、R
2は、炭素数13~19の直鎖アルキル基、又は炭素数13~19の直鎖アルケニル基を表す。
【化5】
【0015】
式(2)中、3つのR
3は、独立して、下記式(2-1)又は下記式(2-2)で示される基を表す。
【化6】
【0016】
式(2-1)及び式(2-2)中、#は、3つのR3が示す基と上記式(2)で示されるエステル基の炭素原子との結合位置を表し、aは、0~5の整数を表し、bは、0~5の整数を表し、aとbの合計は、0~10の整数である。
次に、不均一反応系に水素ガスを導入し、単量体、触媒組成物、及び水素ガスを重合反応させ、ポリプロピレンを得る。
【0017】
本発明の更なる実施例によれば、単量体は、プロピレンと、その他のα-オレフィン系化合物とからなる。
【0018】
本発明の更なる実施例によれば、重合反応は、予備重合反応と、本重合反応と、を含み、変性剤は、予備重合反応及び/又は本重合反応に使用される。
【0019】
本発明の更なる実施例によれば、重合反応中に、変性剤は、逆ミセル構造を形成し、変性剤が式(1)で示される化合物を有する場合、R1が表す基は、逆ミセル構造の内側にあり、R2が表す基は、逆ミセル構造の外側にあり、又は、変性剤が式(2)で示される化合物を有する場合、3つのエステル基は、逆ミセル構造の内側にあり、3つのR3が表す基は、逆ミセル構造の外側にある。
【0020】
本発明の更なる実施例によれば、プロピレンの使用量100モル%に対して、水素ガスの濃度は、0.1モル%~40モル%である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のプロピレン重合用触媒組成物、及びポリプロピレンの製造方法によれば、親水性基と疎水性基とを有するエステル系化合物は、プロピレン重合用触媒組成物の変性剤として使用される。この変性剤は、逆ミセル構造を形成することにより、原料の極性物質が逆ミセル構造の内側にあるため、触媒の被毒を低減させる。また、変性剤は触媒活性中心のチタンの原子価状態を正の3価に維持することができて、チタンと単量体との重合反応を促進して、触媒の活性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本発明の実施例及びその利点をより完全に理解するために、以下の説明を参照して、対応する図面と組み合わせる。なお、各特徴は比例に応じて描かれているわけではなく、図示のためのものである。関連する図面は以下のように説明される。
【0023】
【
図1】本発明の一実施例に係るポリプロピレンの製造方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明の実施例の製造及び使用について詳細に説明する。ただし、実施例は、利用可能な発明概念を多く提供し、様々な特定の内容において実施することができる。検討する特定実施例は説明のために過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0025】
本発明で言う「原料」とは、ポリプロピレンを製造するために使用される物質である。例えば、原料には、触媒組成物、単量体(例えばプロピレンとその他のα-オレフィン系化合物)、水素ガス、及び溶媒が含まれている。
【0026】
図1に示すように、ポリプロピレンの製造方法100において、操作110に示すように、まず、単量体及び触媒組成物を提供する。いくつかの実施例では、ポリプロピレンのホモポリマーを製造するために、単量体は、プロピレンだけである。別のいくつかの実施例では、ポリプロピレンのコポリマーを製造するために、単量体は、プロピレンに加えて、他のα-オレフィン系化合物を選択的に含んでもよい。他のα-オレフィン系化合物の具体例として、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン及び/又は4-メチル-1-ペンテンが選択的に含まれてもよい。具体的に、プロピレンの使用量100モル%に対して、そのほかのα-オレフィン系化合物の使用量は、0モル%よりも大きくかつ95モル%よりも小さい。他のα-オレフィン系化合物の使用量は、ポリプロピレンのコポリマーの融点及びメルトインデックスの要件に応じて決定されてもよい。さらに、いくつかの具体例では、単量体の圧力は、2kg/cm
2~30kg/cm
2であってもよい。
【0027】
触媒組成物は、主触媒、有機アルミニウム化合物、外部電子供与体、及び変性剤を含む。主触媒は、チタンハライド、担体、及び内部電子供与体を含む。いくつかの実施例では、主触媒は、ジーグラー・ナタ触媒であってもよく、当業者に公知の他の成分を選択的に含んでもよい。いくつかの実施例では、担体は、MgCl2、Mg(OH)Cl、Mg(OZ2)2、SiO2、及び上記の任意の組み合わせからなる群から選択されてもよく、ここで、Zは、炭素数1~5のアルキル基を表す。
【0028】
いくつかの実施例では、チタンハライドは、下記式(A)の構造を有する。式(A)中、Mは、チタン原子を表し、Xは、独立して、ハロゲン原子を表し、nは、2~4の整数を表す。
MXn (A)
【0029】
いくつかの実施例では、内部電子供与体は、フタル酸エステル系化合物、グリコールエステル系化合物、ジエーテル系化合物、コハク酸エステル系化合物、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選ばれる。これらの化合物の具体例は、選択的に、当業者に公知の化合物であってもよい。
【0030】
さらに、内部電子供与体とチタンハライドのチタン原子とのモル比(ID/Ti)は、選択的に0.1~1.5であり、好ましくは、0.5~1であってもよい。内部電子供与体とチタンハライドのチタン原子とのモル比が前述の範囲内である場合は、触媒活性が向上し得る。
【0031】
いくつかの実施例では、有機アルミニウム化合物は、下記式(B)の構造を有する。式(B)中、Aは、アルミニウム原子を表し、Yは、独立して、炭素数1~8のアルキル基及びアルケニル基を表す。有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリエチルアルミニウム及びトリイソブチルアルミニウムが選択的に含まれる。
AY3 (B)
【0032】
有機アルミニウム化合物のアルミニウム原子とチタンハライドのチタン原子とのモル比(Al/Ti)は、選択的に50~500であり、好ましくは100~400であり、より好ましくは150~350であり、これにより、触媒活性の向上及び/又はポリプロピレンの金属残留量の低減が図られる。
【0033】
外部電子供与体は、アルコキシシラン化合物、アルキルアミノシラン化合物、アルコキシアルキルアミノシラン化合物、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選ばれる。外部電子供与体の具体例としては、メチルシクロヘキシルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジエチルアミノシラン、ジエチルアミノトリメトキシシラン及びこれらの任意の組み合わせが選択的に含まれる。また、外部電子供与体のケイ素原子とチタンハライドのチタン原子とのモル比(Si/Ti)は、選択的に1~100であり、好ましくは5~30であり、より好ましくは10~20であり、これにより、触媒活性が向上する。
【0034】
次に、変性剤は、下記式(1)又は下記式(2)で示される化合物を有する。
【化7】
【0035】
式(1)中、R1は、炭素数3~9のポリオール基を表し、R2は、炭素数13~19の直鎖アルキル基、又は炭素数13~19の直鎖アルケニル基を表す。
【0036】
R1で表されるポリオール基が少なくとも2つのアルコール基を持たないと、変性剤は重合反応中に逆ミセルを形成することができない。いくつかの実施例では、ポリオール基は、選択的に、グリシドールで形成されるポリオール基であってもよく、これにより、変性剤が重合反応中に安定的な逆ミセルを形成するのに有利である。具体的には、R1が表すポリオール基は、2~4つのアルコール基を選択的に有する。なお、R1がポリオキシエチレン(poly(oxyethylene))基を表すと、この変性剤は、重合反応中に安定的な逆ミセルを形成することができない。一方、R1で表されるポリオール基の炭素数が9よりも大きいと、ポリオール基の極性が低下し、安定的な逆ミセルが形成されにくく、また、触媒活性中心のチタンの原子価状態が正の3価に維持されることが難しい。
【0037】
さらに、R2が表す基の炭素数が19よりも大きく又は13よりも小さいと、安定的な逆ミセル構造が形成されることが難しい。R2が表す直鎖アルケニル基は、1~3つのエチレン結合を選択的に有し、これにより、変性剤が安定的な逆ミセルを形成するのに有利である。一例として、上記式(1)で示される化合物は、飽和及び不飽和のグリセリドを選択的に含む。
【0038】
下記式(2)で示される化合物では、3つのR
3は、独立して、下記式(2-1)又は下記式(2-2)で示される基を表す。
【化8】
【0039】
式(2-1)及び式(2-2)中、#は、3つのR
3が示す基と上記式(2)で示されるエステル基の炭素原子との結合位置を表し、aは、0~5の整数を表し、bは、0~5の整数を表し、aとbとの合計は、0~10の整数である。
【化9】
【0040】
R3が上記式(2-1)又は上記式(2-2)で示される基を表さないと、逆ミセル構造を形成できず、かつ触媒活性中心のチタンの原子価状態を正の3価に維持することができない。好ましくは、aは、1~4の整数を表し、bは、1~4の整数を表し、aとbとの合計は、2~8の整数であり、これにより、変性剤が重合反応中に安定的な逆ミセルを形成するのに有利である。
【0041】
一例として、変性剤は、下記式(1-1)~式(1-4)及び式(2-A)~式(2-B)で示される化合物を有し、式(1-3)中、x及びyは、整数を表し、xとyとの合計は、12~16である。
【化10】
【0042】
上記式(2-A)及び上記式(2-B)中、a1は、1~4の整数を表し、b1は、1~4の整数を表し、a1とb1との合計は、2~8である。
【0043】
いくつかの実施例では、変性剤は、選択的に、式(1)で示される化合物を有する変性剤と、式(2)で示される化合物を有する変性剤とを使用し、両方のモル比は、1~5であり、これにより、これらの2種類の変性剤の相乗作用により、触媒活性をさらに向上させる。
【0044】
変性剤が親水性基と疎水性基を有するため、プロピレン重合反応の溶媒(例えばヘプタン)において、変性剤は自発的に逆ミセル構造(すなわち、親水性基は逆ミセルの内側にあり、疎水性基は逆ミセルの外側にある)を形成し、原料中の極性物質を逆ミセルの内側に閉じ込み、これにより、極性物質による触媒活性中心であるチタンの被毒を低減させる。さらに、変性剤は、触媒活性中心のチタンの原子価状態を変えることで、チタンと単量体との重合反応を促進することができる。従って、触媒活性が向上し、製造されたポリプロピレンの金属残留量がさらに低減する。
【0045】
変性剤とチタンハライドのチタン原子とのモル比(MA/Ti)は、0よりも大きく、かつ128よりも小さい。両方のモル比が前述の範囲ではないと、変性剤は逆ミセルを形成しにくくなるため、触媒の被毒を低減させることができず、触媒の活性を向上させることができない。変性剤とチタンハライドのチタン原子とのモル比(MA/Ti)は、好ましくは1~70であり、より好ましくは5~30であってもよい。
【0046】
さらに、いくつかの実施例では、変性剤と外部電子供与体とのモル比(MA/Si)は、選択的に0.1~10であり、好ましくは0.5~5であってもよく、これにより、触媒活性が向上する。いくつかの実施例では、変性剤と内部電子供与体とのモル比(MA/ID)は、1~130であってもよいが、好ましくは2~128であり、これにより、触媒活性が向上する。
【0047】
操作110の後に、操作120に示すように、不均一反応系に水素ガスを導入し、単量体、触媒組成物、及び水素ガスを重合反応させ、ポリプロピレンを得る。いくつかの実施例では、不均一反応系は、選択的に、スラリー(slurry)反応系、気相反応系、又はバルク反応系であり得る。さらに、重合反応の反応温度は、選択的に50℃~90℃であり得る。
【0048】
重合反応は、水素ガスの濃度が0.1モル%~40モル%である環境下で選択的に行ってもよい。水素ガスの濃度は、好ましくは1モル%~30モル%であり、ここでは、水素ガスの濃度は、プロピレンのモル数を基準にする。さらに、いくつかの実施例では、ポリプロピレンは、板材の製造に用いられ、使用される水素ガスの濃度は、選択的に1モル%~20モル%であり、これにより、メルトインデックス1~100のポリプロピレンを製造するのに有利である。別のいくつかの実施例では、ポリプロピレンは、繊維又は繊維布の製造に用いられ、使用される水素ガスの濃度は、20モル%超~40モル%であり、これにより、100よりも大きいメルトインデックスを有するポリプロピレンを製造するのに有利である。
【0049】
一般には、水素ガスの濃度が高いと、知られている触媒被毒が生じやすく、触媒活性が低下し、製造されたポリプロピレンの金属残留量の増加に繋がる。一方、高い水素ガスの濃度では、本発明の変性剤は、触媒被毒を低減させ、触媒活性を向上させ、ポリプロピレンの金属残留量をさらに減少させることができる。したがって、本発明の変性剤は、水素ガスの濃度の増加を利用して、製造されたポリプロピレンのメルトインデックスを上げることができる。
【0050】
いくつかの実施例では、重合反応は、予備重合反応と、本重合反応と、を含む。いくつかの具体例では、変性剤は、予備重合反応及び/又は本重合反応に使用され得る。好ましくは、変性剤は、触媒活性を顕著に向上させるために、予備重合反応にのみ使用されてもよい。
【0051】
重合反応中には、変性剤は、親水性基と疎水性基を有するため、逆ミセル構造を形成することができる。親水性基は逆ミセルの内側にあり、かつ疎水性基は逆ミセルの外側にあり、原料の極性物質は逆ミセルの内側にあり、これにより、触媒活性が向上し、製造されたポリプロピレンの金属残留量がさらに低下する。
【0052】
変性剤が上記式(1)で示される化合物を有する実施例では、R1が表す基は、逆ミセル構造の内側にあり、R2が表す基は、逆ミセル構造の外側にある。次に、変性剤が上記式(2)で示される化合物を有する実施例では、3つのエステル基は、逆ミセル構造の内側にあり、3つのR3が表す基は逆ミセル構造の外側にある。さらに、変性剤が上記式(1)及び式(2)で示される化合物を有する実施例では、R1が表す基と3つのエステル基は、逆ミセル構造の内側にあり、R2が表す基と3つのR3が表す基は、逆ミセル構造の外側にある。
【0053】
いくつかの適用例では、容量性フィルムの材料には絶縁性が求められるため、材料の金属残留量が制限される。さらに、医療安全と食品安全から、医療と食品用の包装材料も低金属残留量の材料が必要である。本発明のポリプロピレンの製造方法で製造されたポリプロピレンは、低金属残留量であるため、容量性フィルム、及び医療と食品用の包装材料に有用である。
【0054】
以下では、実施例を利用して本発明の適用を説明するが、本発明はこれらにより限定されず、当業者であれば、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、様々な変更や修飾を行うことができる。
【0055】
ポリプロピレンの製造
【0056】
実施例1-1
【0057】
以下の表1に示す条件を参照して、四塩化チタン、塩化マグネシウム、及び内部電子供与体を使用し、当業者に知られている方法で、ジーグラー・ナタ触媒を製造した。さらに、トリエチルアルミニウム、外部電子供与体、変性剤、及び前述ジーグラー・ナタ触媒を混合して、プロピレン重合用触媒を得た。その後、スラリー反応系を用いて重合反応を行って、実施例1のポリプロピレンを得た。ここで、Al/Tiは400であり、Si/Tiは15であり、ID/Tiは0.5~1であり、プロピレンの圧力は6kg/cm2であり、予備重合反応の温度は-20℃~40℃であり、本重合反応の温度は50℃~90℃である。
【0058】
実施例1-2~8-3及び比較例1-1~8-3
【0059】
実施例1-2~8-3及び比較例1-1~8-3は、実施例1-1と同じ方法で行った。ただし、実施例1-2~8-3及び比較例1-1~8-3では、エチレンの使用量、内部電子供与体、外部電子供与体、変性剤、MA/Ti、水素ガスの濃度、及び変性剤の添加段階を変更した。前述実施例1-1~8-3及び比較例1-1~8-3の具体的な条件及び評価結果は表1及び表2に示される。
【0060】
実施例9-1~9-3及び比較例9-1~9-3
【0061】
実施例9-1~9-3及び比較例9-1~9-3は、実施例1-1と同じ方法で行った。ただし、実施例9-1~9-3及び比較例9-1~9-3では、変性剤、MA/Ti、Al/Ti及び水素ガスの濃度を変更した。前述実施例9-1~9-3及び比較例9-1~9-3の具体的な条件及び評価結果は表3に示される。
【0062】
評価方式
【0063】
1.触媒組成物の活性試験
【0064】
触媒組成物の活性試験では、当業者に知られている試験方法で行った。
【0065】
2.ポリプロピレンの金属残留量の試験
【0066】
誘導結合プラズマ発光分光分析装置を利用して、製造されたポリプロピレンについて金属残留量を測定し、ここでは、金属残留量には、アルミニウム残留量、マグネシウム残留量、及びチタン残留量が含まれ、これらの残留量は、それぞれ、プロピレン重合用触媒組成物に元々使用されたトリエチルアルミニウムのアルミニウム原子、塩化マグネシウムのマグネシウム原子、及び四塩化チタンのチタン原子のモル数を基準にしたものである。
【0067】
3.ポリプロピレンのメルトインデックス及び融点の試験
【0068】
ポリプロピレンのメルトインデックス及び融点の試験は、当業者に知られている試験方法で行った。
【0069】
【0070】
【0071】
表1及び表2に示すように、実施例1-1~1-3、実施例2-1~2-3、実施例3-1~3-7、比較例1、比較例2、比較例3-1~3-1、及び比較例4-1~4-1によれば、N,N-ビス-(2-ヒドロキシエチル)アルキルアンモニウム塩、セチルスルホン酸ナトリウム、及びテトラデシルジメチルベタインに比べて、ステアリン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、及び変性剤Aを変性剤として使用する場合は、触媒組成物の活性が向上できた。
【0072】
実施例3-1~3-7及び比較例5によれば、変性剤Aの使用量が高すぎると(例えばMA/Tiは128)、触媒組成物の活性が低下した。
【0073】
実施例3-4、実施例4及び比較例1によれば、オレイン酸ソルビタン及び変性剤Aを変性剤として使用した実施例4では、両方のモル比が3である場合、触媒組成物の活性がさらに向上した。
【0074】
実施例5及び実施例3-4によれば、予備重合段階に変性剤Aを使用しても、本重合段階に変性剤Aを使用しても、何れも触媒組成物の活性が向上し、予備重合段階に変性剤Aを使用する場合は、触媒組成物の活性がさらに向上した。
【0075】
実施例6及び比較例6によれば、変性剤Bは、触媒組成物の活性が向上できた。
【0076】
実施例7及び比較例7によれば、触媒組成物の活性を向上させ、製造されたポリプロピレンの金属残留量を低下させるために、変性剤Aを含む触媒組成物は、ポリプロピレンのコポリマーの製造に利用してもよい。
【0077】
実施例8-1~8-3及び比較例8-1~8-3によれば、変性剤Aを変性剤として使用することにより、高水素ガスの濃度に起因する触媒被毒が低減し、触媒組成物の活性が向上し、製造されたポリプロピレンの金属残留量が低下し、よって、水素ガスの濃度の増加によりポリプロピレンのメルトインデックスが向上できた。
【0078】
【表3】
注:表1~表3において、
「MA/Ti」は、変性剤と四塩化チタンのチタン原子とのモル比を表す。
「NA」は、当該試験を行わないということを表す。
「変性剤A」及び「変性剤B」は、それぞれ、式(2-A)及び式(2-B)で示される化合物を表す。
【0079】
表3に示すように、実施例9-1~9-3及び比較例9-1~9-3によれば、Al/Tiが100~400である場合は、触媒組成物の活性が向上し、製造されたポリプロピレンの金属残留量が低下した。
【0080】
以上のように、本発明のプロピレン重合用触媒組成物、及びポリプロピレンの製造方法では、親水性基と疎水性基を有するエステル系化合物は、プロピレン重合用触媒組成物の変性剤として使用される。プロピレン重合反応中に、変性剤は逆ミセル構造を形成し、親水性基及び疎水性基は、それぞれ逆ミセル構造の内側及び外側にある。原料の極性物質は逆ミセル構造の内側に閉じ込まれ、これにより、触媒被毒が低減する。また、変性剤は、触媒活性中心のチタンの原子価状態を正の3価に維持することができて、チタンと単量体との重合反応を促進して、触媒組成物の活性を向上させる。
【0081】
本発明は実施形態として以上のように開示されたが、本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、様々な変更及び修飾を行うことができるため、本発明の特許範囲は、添付の特許請求の範囲により定められるものとする。
【符号の説明】
【0082】
100:方法
110、120:操作