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特開2024-157504熱膨張性組成物、及び熱膨張性耐火シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157504
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】熱膨張性組成物、及び熱膨張性耐火シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20241030BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20241030BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20241030BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241030BHJP
   C09K 21/02 20060101ALI20241030BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20241030BHJP
   C09J 7/30 20180101ALI20241030BHJP
【FI】
C08L101/12
C08K3/04
C08K3/013
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
C09K21/02
C09J11/04
C09J7/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023157972
(22)【出願日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2023071755
(32)【優先日】2023-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】島本 倫男
【テーマコード(参考)】
4F071
4H028
4J002
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4F071AA13
4F071AA15X
4F071AA22
4F071AA28
4F071AA31
4F071AA31X
4F071AA43
4F071AA53
4F071AA67
4F071AB03
4F071AB18
4F071AB21
4F071AE03A
4F071AF54Y
4F071AF61Y
4F071AF62
4F071AH03
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4H028AA03
4H028AB03
4H028BA03
4J002AA001
4J002AA031
4J002DA017
4J002DA026
4J002DA027
4J002DA037
4J002DB017
4J002DE077
4J002DE087
4J002DE097
4J002DE107
4J002DE117
4J002DE127
4J002DE137
4J002DE147
4J002DE187
4J002DE237
4J002DE247
4J002DE287
4J002DF017
4J002DG047
4J002DG057
4J002DH037
4J002DJ007
4J002DJ017
4J002DJ037
4J002DJ047
4J002DK007
4J002DL007
4J002FA047
4J002FD017
4J002FD136
4J002FD137
4J002FD206
4J002GL00
4J004AA05
4J004AA09
4J004AA10
4J004AA14
4J004AA15
4J004FA10
4J040CA141
4J040DA051
4J040DB031
4J040DE001
4J040DF001
4J040ED001
4J040EF001
4J040EK031
4J040KA36
4J040NA12
(57)【要約】
【課題】火災時に防火設備の反りが発生しても、良好な耐火性を維持できる熱膨張性組成物及び熱膨張性耐火シートを提供すること。
【解決手段】マトリックス成分、及び熱膨張性黒鉛を含有する熱膨張性組成物であって、前記マトリックス成分が、乾燥固化型接着剤、化学反応型接着剤、及び熱溶融型接着剤からなる群から選択される少なくともいずれかの接着剤である熱膨張性組成物、及び該熱膨張性組成物から形成される熱膨張性耐火シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス成分、及び熱膨張性黒鉛を含有する熱膨張性組成物であって、
前記マトリックス成分が、乾燥固化型接着剤、化学反応型接着剤、及び熱溶融型接着剤からなる群から選択される少なくともいずれかの接着剤である、熱膨張性組成物。
【請求項2】
さらに無機充填材を含有し、前記マトリックス成分100質量部に対する熱膨張性黒鉛の含有量が3~300質量部、無機充填材の含有量が2~200質量部であり、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度がマトリックス成分の分解開始温度よりも低い、請求項1に記載の熱膨張性組成物。
【請求項3】
マトリックス成分が、NBRエポキシ樹脂系、ユリア樹脂系、メラミン樹脂系、フェノール樹脂系、ゴム系、酢酸ビニル樹脂系、酢酸ビニル共重合樹脂系、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂系、アクリル樹脂系、水性高分子-イソシアネート系、合成ゴムラテックス系、エポキシ樹脂系(非変成)、シアノアクリレート系、ポリウレタン系、シリコーン樹脂系(非変成)、変成シリコーン樹脂系、シリル化ウレタン系、ポリスチレン系、及びポリエステル系からなる群から選択される少なくとも1種の接着剤を含有する、請求項1又は2に記載の熱膨張性組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の熱膨張性組成物を成形した、熱膨張性耐火シート。
【請求項5】
膨張開始温度が160℃以下である、請求項4に記載の熱膨張性耐火シート。
【請求項6】
60℃で1週間純水に浸漬した後の溶出率が3%以下である、請求項4に記載の熱膨張性耐火シート。
【請求項7】
マトリックス成分がリン成分を含有しない請求項4に記載の熱膨張性耐火シート。
【請求項8】
基材又は粘着層を少なくとも一方の面に有する、請求項4に記載の熱膨張性耐火シート。
【請求項9】
長さが1m以上の熱膨張性耐火シートを巻回した巻回体である、請求項4に記載の熱膨張性耐火シート。
【請求項10】
長さが1m以上であり、熱収縮率がMD方向およびTD方向ともに1%以下であり、厚みが0.5mm以上であり、かつ厚みばらつきが0.1mm以下である請求項4に記載の熱膨張性耐火シート。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の熱膨張性組成物を、固化、乾燥、又は硬化させることによって、長さが1m以上の巻回体を得る、熱膨張性耐火シートの製造方法。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の熱膨張性組成物を部材に塗布し、固化、乾燥、又は硬化させることにより熱膨張性材料含有部材を得る、熱膨張性材料含有部材の製造方法。
【請求項13】
請求項7に記載の熱膨張性耐火シートが、少なくとも一部に搭載された防火設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張性組成物、及び熱膨張性耐火シートに関する。
【背景技術】
【0002】
建築分野では、ドアや窓などの防火設備に耐火材が用いられている。耐火材としては、樹脂に、無機充填材及び熱膨張性黒鉛などが配合された耐火シート等が用いられている(例えば、特許文献1参照)。このような耐火シートは、加熱により膨張して燃焼残渣が耐火断熱層を形成し、耐火断熱性能を発現する。具体的には、耐火シートは、ドア、窓と、これらを包囲するドア枠、窓枠などの枠との隙間に設けられ、火災時には該シートが厚み方向に膨張して、隙間を閉塞し、延焼を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-141463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ドアや窓などの防火設備は、火災時において長時間高温下に晒されると、加熱面と非加熱面に温度差が生じて反りよる変形が発生し、その反りの影響で閉塞されていた加熱面と非加熱面が貫通してしまい、延焼が拡大するという課題がある。
そこで、本発明は、火災時に防火設備の反りが発生しても、良好な耐火性を維持できる熱膨張性組成物及び熱膨張性耐火シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、マトリックス成分、及び熱膨張性黒鉛を含有する熱膨張性組成物であって、前記マトリックス成分が、乾燥固化型接着剤、化学反応型接着剤、及び熱溶融型接着剤からなる群から選択される少なくともいずれかの接着剤である熱膨張性組成物により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]~[13]を提供する。
【0006】
[1]マトリックス成分、及び熱膨張性黒鉛を含有する熱膨張性組成物であって、
前記マトリックス成分が、乾燥固化型接着剤、化学反応型接着剤、及び熱溶融型接着剤からなる群から選択される少なくともいずれかの接着剤である、熱膨張性組成物。
[2]さらに無機充填材を含有し、前記マトリックス成分100質量部に対する熱膨張性黒鉛の含有量が3~300質量部、無機充填材の含有量が2~200質量部であり、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度がマトリックス成分の分解開始温度よりも低い、上記[1]に記載の熱膨張性組成物。
[3]マトリックス成分が、NBRエポキシ樹脂系、ユリア樹脂系、メラミン樹脂系、フェノール樹脂系、ゴム系、酢酸ビニル樹脂系、酢酸ビニル共重合樹脂系、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂系、アクリル樹脂系、水性高分子-イソシアネート系、合成ゴムラテックス系、エポキシ樹脂系(非変成)、シアノアクリレート系、ポリウレタン系、シリコーン樹脂系(非変成)、変成シリコーン樹脂系、シリル化ウレタン系、ポリスチレン系、及びポリエステル系からなる群から選択される少なくとも1種の接着剤を含有する、上記[1]又は[2]に記載の熱膨張性組成物。
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載の熱膨張性組成物を成形した、熱膨張性耐火シート。
[5]膨張開始温度が160℃以下である、上記[4]に記載の熱膨張性耐火シート。
[6]60℃で1週間純水に浸漬した後の溶出率が3%以下である、上記[4]又は[5]に記載の熱膨張性耐火シート。
[7]マトリックス成分がリン成分を含有しない、上記[4]~[6]のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
[8]基材又は粘着層を少なくとも一方の面に有する、上記[4]~[7]のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
[9]長さが1m以上の熱膨張性耐火シートを巻回した巻回体である、上記[4]~[8]のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
[10]長さが1m以上であり、熱収縮率がMD方向およびTD方向ともに1%以下であり、厚みが0.5mm以上であり、かつ厚みばらつきが0.1mm以下である、上記[4]~[9]のいずれかに記載の熱膨張性耐火シート。
[11]上記[1]~[3]のいずれかに記載の熱膨張性組成物を、固化、乾燥、又は硬化させることによって、長さが1m以上の巻回体を得る、熱膨張性耐火シートの製造方法。
[12]上記[1]~[3]のいずれかに記載の熱膨張性組成物を部材に塗布し、固化、乾燥、又は硬化させることにより熱膨張性材料含有部材を得る、熱膨張性材料含有部材の製造方法。
[13]上記[4]~[10]のいずれかに記載の熱膨張性耐火シートが、少なくとも一部に搭載された防火設備。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、火災時に防火設備の反りが発生しても、良好な耐火性を維持できる熱膨張性組成物及び熱膨張性耐火シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
[熱膨張性組成物]
本発明の熱膨張性組成物は、マトリックス成分、及び熱膨張性黒鉛を含有し、前記マトリックス成分が、乾燥固化型接着剤、化学反応型接着剤、及び熱溶融型接着剤からなる群から選択される少なくともいずれかの接着剤である。該熱膨張性組成物及びこれにより形成される熱膨張性耐火シートは、火災時に防火設備の反りが発生しても、良好な耐火性を維持できる。この理由は定かではないが、以下のように推定される。
本発明の熱膨張性組成物及び熱膨張性耐火シートは、特定の接着剤を含有しており、これにより、熱膨張性黒鉛を強固に接着することができる。より具体的には、火災時において、熱膨張性耐火シートの膨張により形成された耐火断熱層中の熱膨張性黒鉛間の強度が高まり、そのため耐火断熱層が、各種防火設備の反りによる変形に追従することができ、その結果、良好な耐火性を維持できると考えられる。
【0009】
<マトリックス成分>
本発明の熱膨張性組成物は、マトリックス成分を含有する。該マトリックス成分中に、後述する熱膨張性黒鉛及び必要に応じて配合される無機充填材が分散している。熱伝導性組成物におけるマトリックス成分は、接着成分であり、種々の構造を有する樹脂成分である。また、マトリックス成分は、熱膨張性組成物により形成される熱膨張性耐火シートにおいてもマトリックスとなる成分である。
マトリックス成分は、乾燥固化型接着剤、化学反応型接着剤、及び熱溶融型接着剤からなる群から選択される少なくともいずれかの接着剤である。該接着剤は、熱膨張性黒鉛に対する付着力が高く、火災時において、各種防火設備の反りに追従しやすくなる。
マトリックス成分は、一種の接着剤からなるものであってもよいし、複数の接着剤を併用したものであってもよい。
【0010】
(乾燥固化型接着剤)
乾燥固化型接着剤としては、溶剤系接着剤、エマルジョン型接着剤、合成ゴムラテックス系接着剤などが挙げられる。これらの各接着剤を用いる際は、熱膨張性組成物は液状となるため、熱膨張性黒鉛の含有量を高めやすくなり、また、固化した際のシートにおいて熱膨張性黒鉛の周囲を接着剤で覆いやすくなる。その結果、熱膨張性耐火シートの膨張残渣である耐火断熱層が、各種防火設備の反りに追従しやすくなる。
【0011】
溶剤系接着剤は、熱膨張性組成物において、有機溶剤に溶解されている。したがって、該溶剤系接着剤を用いた場合は、熱膨張性組成物は、有機溶剤を含むこととなる。また、有機溶剤を揮発させることで、固化することが可能となる。
溶剤系接着剤としては、例えば、酢酸ビニル樹脂系、酢酸ビニル共重合樹脂系、ゴム系、アクリル樹脂系、ポリエステル系、シリコーン樹脂系などが挙げられる。なお、前記シリコーン樹脂系の接着剤は、非変成のシリコーン樹脂系の接着剤である。
本明細書において、酢酸ビニル共重合樹脂系としては、酢酸ビニルと、酢酸ビニルと共重可能なモノマー(例えば、α-オレフィン、(メタ)アクリル酸エステルなど)との共重合体が挙げられ、例えば、酢酸ビニル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。前記(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸の両方を含む概念であり、他の類似する用語も同様である。また、本明細書において、ゴム系としては、例えば、クロロプレン、ブタジエン、スチレン-ブタジエン、ブタジエン-アクリロニトリル、イソブチレン-イソプレン、エチレン-プロピレンなどが挙げられ、中でもクロロプレンが好ましい。
溶剤系接着剤の中でも、ポリエステル系、アクリル樹脂系、又はシリコーン樹脂系(非変成)が好ましい。
【0012】
エマルジョン型接着剤は、熱膨張性組成物において、分散媒、好ましくは水に分散される。エマルジョン型接着剤を使用する場合は、熱膨張性組成物は、水などの分散媒を含むこととなる。
エマルジョン型接着剤としては、例えば、酢酸ビニル樹脂系、酢酸ビニル共重合樹脂系、アクリル樹脂系、水性高分子-イソシアネート系、ポリウレタン系などが挙げられ、中でも、酢酸ビニル共重合樹脂系、ポリウレタン系が好ましい。
【0013】
合成ゴムラテックス系接着剤は、熱膨張性組成物において、分散媒、好ましくは水に分散される。合成ゴムラテックス系接着剤を使用する場合は、熱膨張性組成物は、水などの分散媒を含むこととなる。
合成ゴムラテックス系接着剤としては、クロロプレン、ブタジエン、スチレン-ブタジエン、ブタジエン-アクリロニトリル、イソブチレン-イソプレン、エチレン-プロピレンなどが挙げられ、中でもクロロプレンが好ましい。
【0014】
乾燥固化型接着剤を用いる場合、熱膨張性組成物は、水又は有機溶媒を含むこととなる。乾燥固化型接着剤を使用した場合の熱膨張性組成物の固形分量は、得られる熱膨張性耐火シートの耐火性向上の観点などから、例えば、10~90質量%であり、好ましく30~70質量%である。
【0015】
(化学反応型接着剤)
化学反応型接着剤としては、硬化剤反応型、湿気硬化反応型、紫外線反応型などが挙げられる。
【0016】
<硬化剤反応型>
硬化剤反応型の接着剤は、硬化剤により硬化可能な接着剤であり、例えば、エポキシ樹脂系(非変成)、ゴム変性エポキシ樹脂系、メラミン樹脂系、ユリア樹脂系、フェノール樹脂系などが挙げられる。上記エポキシ樹脂系(非変成)は、変性エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を意味し、上記ゴム変性エポキシ樹脂系とは、エポキシ樹脂とゴムとの反応物が挙げられ、例えば、エポキシ樹脂とアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)とが反応した、NBRエポキシ樹脂系などが挙げられる。
硬化剤としては、上記例示した樹脂を硬化することが可能な、一般に使用される硬化剤を特に制限なく使用することができるが、例えば、ポリアミン系、イミダゾール系、ポリメルカプタン系、酸無水物系などの硬化剤を使用できる。
【0017】
<湿気硬化反応型>
湿気硬化反応型の接着剤は、空気中の湿気で硬化する接着剤である。湿気硬化反応型の接着剤を含む熱膨張性組成物は、湿気により硬化させることができ、低温で混練することができるため混練時の負荷が特に低減しやすく、熱膨張性黒鉛の劣化を効果的に抑制できる。そのため、熱膨張性黒鉛の劣化に起因するガスの発生が抑制され、外観の極めて良好で長尺の熱膨張性耐火シートを得ることができる。
【0018】
湿気硬化反応型の接着剤としては、例えば、シアノアクリレート系、変成シリコーン樹脂系、シリル化ウレタン系などが挙げられ、変成シリコーン樹脂系、又はシリル化ウレタン系が好ましく、変成シリコーン樹脂系がより好ましい。
【0019】
(変成シリコーン樹脂系)
変成シリコーン樹脂系の湿気硬化反応型の接着剤としては、例えば、架橋性シリル基を有するポリマー(架橋性シリル基含有ポリマー)が挙げられる。
架橋性シリル基含有ポリマーとしては、架橋性シリル基含有ポリオキシアルキレン系重合体、架橋性シリル基含有アクリル系重合体、及び架橋性シリル基含有アクリル変性ポリオキシアルキレン系重合体から選択される少なくとも1種が好ましい。
なお、変成シリコーン樹脂系の湿気硬化反応型の接着剤は、後述するシリル化ウレタン系と異なり、主鎖にウレタン結合及びウレア結合を有さない化合物である。
【0020】
架橋性シリル基含有ポリオキシアルキレン系重合体としては、分子内に架橋性シリル基を含有し、主鎖骨格にポリオキシアルキレンを有するポリマーが好ましく、主鎖骨格にポリオキシアルキレンを有し、かつ主鎖末端に架橋性シリル基を含有するポリマーがより好ましい。また、上記ポリオキシアルキレンは、ポリオキシプロピレンが好ましい。
【0021】
また、架橋性シリル基含有アクリル変性ポリオキシアルキレン系重合体としては、分子内に架橋性シリル基を含有し、主鎖骨格に(メタ)アクリル変性ポリオキシアルキレンを有するポリマーが好ましく、主鎖骨格に(メタ)アクリル変性ポリオキシアルキレンを有し、かつ主鎖末端に架橋性シリル基を含有するポリマーがより好ましい。また、上記(メタ)アクリル変性ポリオキシアルキレンは、(メタ)アクリル変性ポリオキシプロピレンが好ましい。
【0022】
架橋性シリル基含有アクリル系重合体としては、主鎖骨格にアクリル系重合体を有し、分子内に1個以上の架橋性シリル基を有するポリマーが挙げられる。ここで、アクリル系重合体は、従来公知のものを使用でき、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド等のアクリル系単量体から選ばれる1種以上を重合又は共重合させたアクリル系重合体であれば、特に限定されない
【0023】
架橋性シリル基としては、例えば、ケイ素原子に1つ以上の反応性基が結合した基が挙げられる。該反応性基としては、ハロゲン原子、水素原子、水酸基、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミド基、酸アミド基、メルカプト基、ケトオキシム基、アルケニルオキシ基及びアミノオキシ基より選ばれる基であり、反応性基が複数の場合には、反応性基は同じ基であっても異なった基であってもよい。中でも、反応性基としては、アルコキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
すなわち、架橋性シリル基としては、アルコキシシリル基が好ましい。アルコキシシリル基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、及びトリフェノキシシリル基などのトリアルコキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、及びジエトキシメチルシリル基などのジアルコキシシリル基、並びに、メトキシジメチルシリル基、及びエトキシジメチルシリル基などのモノアルコキシシリル基が挙げられる。これらの中でも、トリアルコキシシリル基又はジアルコキシシリル基が好ましく、トリメトキシシリル基又はジメトキシメチルシリル基がより好ましい。
【0024】
(シリル化ウレタン系)
シリル化ウレタン系の湿気硬化反応型の接着剤は、主鎖にウレタン結合及びウレア結合のうち少なくともいずれかを有し、かつ架橋性シリル基を有するポリマーである。架橋性シリル基は、主鎖の末端に有することが好ましい。架橋性シリル基については、上記した変成シリコーン樹脂系の湿気硬化反応型の接着剤で説明したものと同様である。
また、シリル化ウレタン系の湿気硬化反応型の接着剤の主鎖は、骨格にポリオキシアルキレンを有し、かつウレタン結合及びウレア結合のうち少なくとも一方を有することが好ましい。該ポリオキシアルキレンとしては、ポリオキシプロピレンが好ましい。
【0025】
(硬化触媒)
湿気硬化反応型の接着剤は、硬化触媒により硬化させることが好ましい。
硬化触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫フタレート、ビス(ジブチル錫ラウリン酸)オキサイド、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、ジブチル錫ビス(モノエステルマレート)、オクチル酸錫、ジブチル錫オクトエート、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫ビス(トリエトキシシリケート)、ビス(ジブチル錫ビストリエトキシシリケート)オキサイド、ジブチル錫オキシビスエトキシシリケート、及び1,1,3,3-テトラブチル-1,3-ジラウリルオキシカルボニル-ジスタノキサンなどの有機錫系化合物、テトラ-n-ブトキシチタネート、及びテトライソプロポキシチタネートなどの有機チタン系化合物などが挙げられる。これらの硬化触媒は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
硬化触媒の含有量は、マトリックス成分100質量部に対して、1~10質量部が好ましく、1~5質量部がより好ましい。
【0026】
<紫外線反応型>
紫外線反応型の接着剤は、紫外線の照射により硬化する接着剤であり、ラジカル重合硬化型接着剤、カチオン重合型接着剤などが挙げられる。ラジカル重合硬化型接着剤としては、(メタ)アクリロイル基及びビニル基等の重合性二重結合を有する化合物が挙げられる。カチオン重合硬化型接着剤としては、エポキシ基を有する化合物、及びオキセタニル基を有する化合物が挙げられる。紫外線反応型の接着剤は、必要に応じて、重合開始剤を併用することができる。
【0027】
(熱溶融型接着剤)
熱溶融型接着剤は、常温では流動性がないが、加熱することで流動性が発現する接着剤であり、ホットメルト型接着剤と呼ばれることもある。また、加熱された熱溶融型接着剤は、再び冷却することで固化する。熱膨張性組成物に、熱溶融型接着剤を使用することで、火災時に防火設備に反りが発生しても、熱溶融型接着剤の流動性が高くなることにより、隙間を埋め易くなり、耐火性が向上しやすくなる。
熱溶融型接着剤としては、酢酸ビニル樹脂系、酢酸ビニル共重合樹脂系、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂系、ゴム系、アクリル樹脂系、ポリウレタン系、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系などが挙げられる。上記ポリスチレン系とは、スチレン系モノマーを含む重合体であり、スチレン系モノマーと脂肪族系モノマーとの共重合体であってもよい。
これらの中でも、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂系、ポリウレタン系、ポリエステル系、及びポリスチレン系のいずれかが好ましい。
熱溶融型接着剤を使用する際には、粘着性付与樹脂を併用してもよい。粘着性付与樹脂としては、ロジン系、テルペン系、石油樹脂系、及びクマロン樹脂系などが挙げられる。
【0028】
本発明の熱膨張性組成物は、乾燥固化型接着剤、化学反応型接着剤、及び熱溶融型接着剤のいずれを用いてもよいが、火災時の防火設備の反りへの追従性向上の観点から、乾燥固化型接着剤又は熱溶融型接着剤が好ましい。
また、接着剤の種類は、特に制限されないが、NBRエポキシ樹脂系、ユリア樹脂系、メラミン樹脂系、フェノール樹脂系、ゴム系、酢酸ビニル樹脂系、酢酸ビニル共重合樹脂系、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂系、アクリル樹脂系、水性高分子-イソシアネート系、合成ゴム系ラテックス系、エポキシ樹脂系、シアノアクリレート系、ポリウレタン系、アクリル樹脂系、シリコーン樹脂系(非変成)、変成シリコーン樹脂系、シリル化ウレタン系、ポリスチレン系、及びポリエステル系からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0029】
本発明においてマトリックス成分の含有量は、耐火性向上の観点から、熱膨張性組成物の固形分全量を基準として、好ましくは20~80質量%であり、より好ましくは30~70質量%である。
【0030】
<熱膨張性黒鉛>
本発明の熱膨張性組成物は、熱膨張性黒鉛を含有する。熱膨張性黒鉛は、加熱時に膨張する従来公知の物質であり、加熱されることで膨張して大容量の空隙を形成するため、耐火シートに着火した場合に延焼を抑制したり、消火したりする。
熱膨張性黒鉛は、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、無機酸と、強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものであり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。無機酸としては濃硫酸、硝酸、セレン酸等が挙げられる。強酸化剤としては濃硝酸、過硫酸塩、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等が挙げられる。上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等でさらに中和処理してもよい。
【0031】
熱膨張性黒鉛の粒度は、20~200メッシュが好ましい。熱膨張性黒鉛の粒度が前記範囲内であると、膨脹して大容量の空隙を作りやすくなるため耐火性が向上する。また、樹脂への分散性も向上する。
熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比は、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上が更に好ましい。熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比の上限は特に限定されないが、熱膨張性黒鉛の割れ防止の観点から、1,000以下であることが好ましい。熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比が2以上であることにより、膨張して大容量の空隙を作りやすくなるため難燃性が向上する。
熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比は、10個の熱膨張性黒鉛について、それぞれ最大寸法(長径)及び最小寸法(短径)測定し、最大寸法(長径)を最小寸法(短径)で除した値の平均値を平均アスペクト比とする。熱膨張性黒鉛の長径及び短径は、例えば、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて測定することができる。
【0032】
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は、特に限定されないが、好ましくは100~160℃であり、より好ましくは120~150℃である。熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が上記範囲内であると、熱膨張性組成物及び熱膨張性耐火シートの膨張開始温度を例えば、160℃以下に調整しやすくなり、火災初期に膨張し耐火断熱層を形成し、長期間良好な耐火性を維持し易くなる。
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は、実施例に記載の方法で測定される。
【0033】
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は、マトリックス成分の分解開始温度よりも低いことが好ましい。これにより、熱膨張性耐火シートの膨張性が向上し、形成された耐火断熱層の機械強度が高くなるため、耐火性が向上する。
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は、マトリックス成分の分解開始温度よりも5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低いことがより好ましい。
ここで、マトリックス成分の分解温度とは、マトリックス成分を構成する接着剤の分解開始温度を意味し、化学反応型接着剤の場合は、硬化後の接着剤の分解温度を意味する。分解開始温度は、マトリックス成分が分解し、重量減少が開始する温度を意味し、熱重量測定装置を用いて、乾燥空気雰囲気下、昇温速度10℃/分の測定条件で測定される。
【0034】
熱膨張性黒鉛の含有量は、マトリックス成分100質量部に対して、好ましくは3~300質量部であり、より好ましくは10~200質量部であり、さらに好ましくは30~100質量部である。熱膨張性黒鉛の含有量がこれら下限値以上であると、熱膨張性耐火シートに適切な耐火性を付与できる。また、熱膨張性黒鉛の含有量がこれら上限値以下であると、マトリックス成分を一定以上含有させることができるので、熱膨張性黒鉛を接着剤で覆いやすくなり、防火設備の反りに追従しやすくなる。
【0035】
<無機充填材>
本発明の熱膨張性組成物は、上記した熱膨張性黒鉛以外の無機充填材を含有してもよい。無機充填材は、加熱されて膨張し、耐火断熱層が形成される際、熱容量を増大させ伝熱を抑制しつつ、骨材的に働いて膨張残渣の強度を向上させる。
本発明において使用できる無機充填材としては特に限定されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト等の金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の金属水酸化物、硫酸カルシウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム等のカルシウム塩、シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルーン、各種金属粉、亜リン酸金属塩、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、などが挙げられる。無機充填材は一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、熱膨張性耐火シートの耐火性向上の観点から、炭酸カルシウム、酸化鉄、水酸化アルミニウムが好ましく、炭酸カルシウムと酸化鉄の併用又は炭酸カルシウムと水酸化アルミニウムの併用が好ましい。無機充填材は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
無機充填材の含有量は、耐火性向上の観点から、マトリックス成分100質量部に対して、好ましくは2~200質量部であり、より好ましくは10~150質量部であり、さらに好ましくは30~100質量部である。
【0036】
<可塑剤>
本発明の熱膨張性組成物は、成形性向上の観点などから、可塑剤を含有してもよい。可塑剤としては、例えば、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等のフタル酸エステル可塑剤、ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)等の脂肪酸エステル可塑剤、エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル可塑剤、アジピン酸エステル、アジピン酸ポリエステル等のアジピン酸エステル可塑剤、トリー2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリイソノニルトリメリテート(TINTM)等のトリメリット酸エステル可塑剤、鉱油等のプロセスオイル等が挙げられる。可塑剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
熱膨張性組成物が可塑剤を含有する場合、可塑剤の含有量は、マトリックス成分100質量部に対して1~60質量部が好ましく、5~50質量部がより好ましい。
【0037】
(その他成分)
本発明における熱膨張性組成物は、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて上記以外の添加成分を含有させることができる。この添加成分の種類は特に限定されず、各種添加剤を用いることができる。このような添加剤として、例えば、滑剤、収縮防止剤、結晶核剤、着色剤(顔料、染料等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、界面活性剤、加硫剤、分散剤、及び表面処理剤等が挙げられる。添加剤の添加量は成形性等を損なわない範囲で適宜選択でき、添加剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
本発明の熱膨張性組成物は、マトリックス成分、熱膨張性黒鉛、及び必要に応じて配合される無機充填材、その他添加剤を混合することで調製することができる。混合は、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、及び遊星式撹拌機等の公知の装置を用いて行うことができる。
【0039】
[熱膨張性耐火シート]
本発明の熱膨張性耐火シートは、上記した熱膨張性組成物からなるものであり、後述するとおり、熱膨張性組成物を成形して得ることができる。そのため、熱膨張性耐火シートは、マトリックス成分、熱膨張性黒鉛、及び必要に応じて配合される無機充填材、その他添加剤を含むこととなる。
【0040】
<膨張開始温度>
本発明の熱膨張性耐火シートは、膨張開始温度が160℃以下であることが好ましい。膨張開始温度が160℃以下であることにより、温度の相対的に低い火災初期に膨張し耐火断熱層を形成し、長期間良好な耐火性を維持し易くなる。
熱膨張性耐火シートの膨張開始温度は、好ましくは155℃以下であり、より好ましくは150℃以下であり、そして、好ましくは120℃以上である。
熱膨張性耐火シートの膨張開始温度は、実施例に記載の方法で測定される。
【0041】
<溶出率>
本発明の熱膨張性耐火シートは、60℃で1週間純水に浸漬した後の溶出率が3%以下であることが好ましい。溶出率が3%以下であると、熱膨張性耐火シートが、高湿下や水に接触する環境下に置かれた場合であっても、熱膨張性耐火シートを構成する成分が溶出するのを抑制して、耐火性の低下を防止することができる。また、熱膨張性耐火シートが防火設備に搭載された場合に、防火設備が汚染されて外観不良が生じることを防止できる。
熱膨張性耐火シートの上記溶出率は、好ましくは2%以下であり、より好ましくは1%以下である。溶出率は低ければ低いほどよく、下限値は0%である。
溶出率は、熱膨張性耐火シートに配合される各成分を適宜選択することで調整できる。具体的には、マトリックス成分、熱膨張性黒鉛、必要に応じて配合される無機充填材、その他の添加剤などについて、水に対して溶解性の低い化合物を使用すればよい。
溶出率は、実施例に記載の方法で測定される。
【0042】
<リン成分>
本発明の熱膨張性耐火シートに含まれるマトリックス成分は、リン成分を含有しないことが好ましい。リン成分を含有しないマトリックス成分を用いることにより、熱膨張性耐火シートのリン成分を低減することができる。また、熱膨張性耐火シートに含まれるマトリックス成分以外の成分も、リン成分を含まないことが好ましい。すなわち、熱膨張性耐火シートは、リン成分を含有しないことが好ましい。
なお、マトリックス成分及び熱膨張性耐火シートは、不可避的に含まれる不純物量のリン成分を含有してもよい。すなわち、本明細書においてリン成分を含有しないとは、リン成分の含有量が0.1質量%以下、好ましくは0.01質量%以下であることを意味する。
リン成分を含有しないことで、耐水性が向上するため、水に長期間暴露した後でも、優れた膨張倍率、残渣硬さ、及び膨張後の形状保持性を確保できるようになる。ここで、リン成分とは、リン原子を含む化合物であり、上記したマトリックス成分、熱膨張性黒鉛、及び必要に応じて配合される無機充填材、その他の添加剤としては、リン原子を含む化合物を用いないことが好ましい。
【0043】
<長尺品>
本発明の熱膨張性耐火シートは、長さが1m以上であることも好ましい。前記長さは、熱膨張性耐火シートの長手方向(MD方向)の長さである。長さを1m以上とすることで、生産性が向上し、また用途の範囲も広がり好ましい。
熱膨張性耐火シートの長さは、好ましくは5m以上であり、より好ましくは20m以上であり、さらに好ましくは50m以上であり、さらに好ましくは100m以上である。また、通常は、熱膨張性耐火シートの長さは500m以下である。
なお、本明細書において、MD方向とは、Machine Directionの略であり、後述する塗布などの際の組成物の流れ方向と一致する方法であり、シートの長手方向となる。また、TD方向とは、Transverse Directionの略であり、MD方向に直交する方向である。
【0044】
また、本発明の熱膨張性耐火シートは、長さを1m以上とした場合であっても、厚みのばらつきを少なくすることができ、寸法精度の高い長尺品を得ることができる。
本発明では、特定のマトリックス成分を使用しているため、組成物を混練する際の、混練負荷が小さく、そのため熱膨張性黒鉛の劣化を抑制できることから、ガスの発生を抑制して、厚みのムラを低減できるものと推察される。特に、液体の熱膨張性組成物の場合は、熱膨張性黒鉛の劣化を抑制しやすくなる。
【0045】
具体的には、本発明の熱膨張性耐火シートは、特定の組成を有することにより、長さが1m以上である場合であっても、厚みが0.5mm以上であり、かつ厚みのばらつきを0.1mm以下とすることができる。
ここで、厚みが0.5mm以上の「厚み」とは平均厚みを意味し、平均厚みは熱膨張性耐火シートの長手方向に等間隔で10点厚みを測定した際の平均値を意味する。該厚み(平均厚み)は、好ましくは0.8mm以上であり、より好ましくは1mm以上であり、そして好ましくは5mm以下である。なお、厚みの測定は、シートの幅方向の中央部で行うものとする。
また、厚みのばらつきは、上記のとおり、熱膨張性耐火シートの長手方向に等間隔で10点厚みを測定した際に、個々の点において得られた厚みと、上記平均厚みの差の絶対値Aを算出し、10点分の絶対値Aの平均値を意味する。厚みのばらつきは、好ましくは0.1mm以下であり、より好ましくは0.08mm以下であり、さらに好ましくは0.05mm以下である。
また、厚みのばらつきは、厚み(平均厚み)の10%以下であることが好ましく、5%%以下であることがより好ましい。
【0046】
本発明の熱膨張性耐火シートは、長さが1m以上である場合であっても、熱収縮率がMD方向およびTD方向ともに1%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。このように熱収縮率が低いと、例えば巻回体の製造工程で熱を加えても、収縮による剥がれや、寸法の不足が抑制される。
熱収縮率は、100mm角の評価サンプルを切り出し、60℃で6時間熱処理し、熱処理前の長さ、熱処理後の長さから以下の式に基づいて算出される。
熱収縮率(%)=100×(熱処理前の長さ-熱処理後の長さ)/熱処理前の長さ
MD方向、TD方向のそれぞれの熱処理前の長さ、熱処理後の長さから、上記式に基づいて、MD方向の熱収縮率、TD方向の熱収縮率を求めることができる。
なお、100mm角の評価サンプルをシートの長手方向に等間隔で10個以上作成し、個々の評価サンプルから算出される熱収縮率の平均値を算出して、MD方向の熱収縮率及びTD方向の熱収縮率を求めることとする。
熱収縮率は、熱膨張性耐火シートを構成する各種成分の含有量を調整することにより、調節できる。
【0047】
本発明の熱膨張性耐火シートは、長さ1m以上のものを巻回した巻回体とすることができる。特に、厚みのバラつきが小さく、寸法精度が高い熱膨張性耐火シートの場合は、長尺のシートの巻回体を効率的に製造しやすくなる。
また、本発明における巻回体は、長さ1m以上の熱膨張性耐火シートをロール状に巻回したものであり、例えば、円筒状の巻芯に、長さ1m以上の熱膨張性耐火シートを巻きつけたものである。なお、巻芯はなくてもよい。
熱膨張性耐火シートの幅は特に限定されないが、例えば0.005~2.0mである。
なお、後述するように、基材又は粘着層を備えた熱膨張性耐火シート(多層シート)を巻回した巻回体とすることもできる。
【0048】
<熱膨張性耐火シートの製造方法>
本発明の熱膨張性耐火シートの製造方法は、特に限定されないが、上記した熱膨張性組成物を、固化、乾燥、又は硬化させる方法が好ましい。このような製造方法により、例えば、上記した長さ1m以上の巻回体を得ることができる。
具体的には、熱膨張性組成物を、任意の対象物に対して塗布し、塗布後の熱膨張性組成物を固化、乾燥、又は硬化させるとよい。熱膨張性組成物の塗布は、公知の塗工装置やスプレーなどで行うとよい。
【0049】
例えば、マトリックス成分として、上記した乾燥固化型接着剤を用いる場合は、熱膨張性組成物は溶媒を含む液体状であるため、塗布後の熱膨張性組成物を乾燥して、溶媒を除去することにより、熱膨張性耐火シートを形成できる。乾燥は、常温付近(25℃程度)で放置して行ってもよいが、加熱して行うことが好ましい。加熱は、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度以下で行うことが好ましく、例えば50~160℃、好ましくは60~120℃程度で行うとよい。
【0050】
マトリックス成分として、上記した化学反応型接着剤を用いる場合は、塗布後の熱膨張性組成物を硬化させることで、熱膨張性耐火シートを得ることができる。硬化の方法は、マトリックス成分の種類に応じて、適宜選択するとよい。
硬化剤反応型の接着剤を用いる場合は、硬化剤と混合することにより、硬化を進行させることができる。すなわち、熱膨張性組成物に硬化剤を加えた後、任意の対象物に対して塗布して硬化させてもよいし、熱膨張性組成物を、硬化剤を含む液と、硬化剤を含まない液の2液型とし、該2液型の熱膨張性組成物の各液を混合して、任意の対象物に対して塗布して硬化させてもよい。
湿気硬化反応型の接着剤の場合は、任意の対象物に対して塗布した後、大気中に所定時間放置すればよい。これにより、空気中の湿気により硬化を進行させることができる。
紫外線反応型の接着剤の場合は、任意の対象物に対して塗布した後、紫外線を照射することにより硬化を進行させることができる。
【0051】
マトリックス成分として、熱溶融型接着剤を用いる場合は、熱膨張性組成物を加熱することにより溶融させ、その溶融した熱膨張性組成物を任意の対象物に対して塗布するとよい。溶融する際の加熱温度は、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度以下で行うことが好ましく、例えば80~160℃、好ましくは100~120℃程度で行うとよい。そして、熱膨張性組成物を塗布した後、例えば室温(25℃)まで冷却して、固化させ、熱膨張性耐火シートを得ることができる。
【0052】
熱膨張性組成物を塗布する対象物は、特に限定されないが、例えば、離型処理した樹脂フィルムなどであってもよいし、基材を備える熱膨張性耐火シートを作製する場合は、前記基材を、熱膨張性組成物を塗布する対象物としてもよい。
【0053】
<基材、粘着層、セパレーター>
本発明の熱膨張性耐火シートは、単体で使用されてもよいが、適宜他の部材が取り付けられて多層シートとして使用されてもよい。具体的には、熱膨張性耐火シートは、その少なくとも一方の面に、基材又は粘着層を有していてもよい。例えば、熱膨張性耐火シートは、その一方の面に基材を有していてもよいし(基材/熱膨張性耐火シートの多層シート)、その一方の面に粘着層を有していてもよいし(粘着層/熱膨張性耐火シートの多層シート)、あるいは、その一方の面に基材を有し、他方の面に粘着層を有していてもよい(粘着層/熱膨張性耐火シート/基材の多層シート)。さらに、熱膨張性耐火シートは、セパレーターを有するものであってもよく、例えば、粘着層の表面にセパレーターを設けてもよい。
【0054】
(基材)
基材は、例えば、織布、不織布、フィルムなどの形態であり、これらは熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマー樹脂等により形成されるが、これらの中では熱可塑性樹脂により形成されることが好ましい。また、基材は、ガラス繊維、セラミック繊維、セルロース繊維、ポリエステル繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、熱硬化性樹脂繊維等により形成されてもよい。
基材の好ましい形態は、フィルムである。また、フィルムとして内部に空洞を有するフィルムも好適に使用できる。
【0055】
熱可塑性樹脂の具体例は、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(1-ブテン)、ポリペンテン等のポリオレフィン、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルスルホン等である。
前記した中では、熱膨張性耐火シートとの接着性の観点から、好ましい熱可塑性樹脂は、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリ酢酸ビニルである。さらに、難燃性の観点から、ポリ塩化ビニルがより好ましい。また、内部に空洞を有するポリエチレンテレフタレートフィルムも好ましい。
【0056】
熱硬化性樹脂の具体例は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、尿素樹脂、ポリイミドである。
【0057】
エラストマー樹脂の具体例は、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、クルルスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、ポリイソブチレンゴム、塩化ブチルゴムである。
前記熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマー樹脂の1種又は2種以上が使用される。
【0058】
基材の厚みは多層シートの厚みの1~20%であることが好ましい。多層シートの厚みの1%以上であると、基材が熱膨張性耐火シートを支持しやすくなる。また、基材の厚みが多層シートの厚みの20%以下であると、多層シートが湾曲する際、基材と熱膨張性耐火シートの剥離や、基材への皺の発生が抑制され、多層シートの外観を良好に維持できる。
【0059】
基材の厚さは、例えば10~500μmであり、好ましくは20~450μmであり、更に好ましくは30~400μmである。基材の厚さをこれら下限値以上とすることで、熱膨張性耐火シートを支持する強度を基材に付与できる。また、上限値以下とすることで、基材の厚さが必要以上に厚くなることを防止し、多層シートがドアなどの防火設備に利用しやすくなる。
【0060】
(粘着層)
粘着層は、粘着剤により形成された層のみからなる単層(以下粘着剤層ともいう)でもよいし、両面粘着テープ用基材の両表面に粘着剤層が設けられた両面粘着テープでもよいが、粘着剤層からなること好ましい。なお、両面粘着テープは、その一方の粘着剤層が熱膨張性耐火シート又はセパレーターに貼り合わせられることで、粘着層を構成することになる。
粘着剤層を構成する粘着剤は、特に制限されず、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤等が挙げられる。粘着層の厚みは、特に限定されないが、例えば、10~500μm、好ましくは50~200μmである。
両面粘着テープ用基材としては、一般の両面粘着テープに用いられる基材であれば特に制限されないが、例えば、不織布、和紙等の紙、天然繊維、合成繊維等からなる織布、ポリエステル、ポリオレフィン、軟質ポリ塩化ビニル、硬質ポリ塩化ビニル、アセテート等からなる樹脂フィルム、フラットヤーンクロスなどが挙げられる。
【0061】
(セパレーター)
セパレーターは、例えば、セパレーター用基材と、セパレーター用基材の少なくとも一方の面に設けられる離型層とを備えるものを使用するとよい。離型層は、セパレーター用基材に剥離処理を施すことで形成できる。セパレーターは、離型層が設けられた面が粘着層に接触するように配置させるとよい。また、セパレーターは、セパレーター用基材の両面が剥離処理されて、両面に離型層が設けられてもよい。
離型層は、特に制限されないが、例えば、有機樹脂で構成される。有機樹脂としては、剥離剤として公知のものを使用でき、例えば、フッ素系樹脂、長鎖アルキル含有樹脂、アルキド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ゴム系エラストマーなどを使用できる。
セパレーター用基材としては、樹脂フィルム、紙などを使用できる。樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又はエラストマー樹脂などから形成されるとよい。熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又はエラストマー樹脂の具体例としては、樹脂フィルムで列挙されたものを使用できるが、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0062】
セパレーターの厚みは多層シートの厚みの0.3~10%であることが好ましい。セパレーターの厚みが多層シートの厚みの0.3%以上であると、セパレーターが破損を抑制しやすくなる。また、セパレーターの厚みが多層シートの厚みの10%以下であると、多層シート湾曲する際、熱膨張性耐火シートとセパレーターの剥離と、セパレーターへの皺の発生が抑制され、多層シートの外観を良好に維持できる。
【0063】
セパレーターの厚さは、例えば1~200μmであり、好ましくは2~150μmであり、更に好ましくは5~100μmである。セパレーターの厚さをこれら下限値以上とすることで、破損しない強度をセパレーターに付与できる。また、上限値以下とすることで、多層シートが湾曲する際、耐火材とセパレーターの剥離と、セパレーターへの皺の発生を防止できる。
【0064】
<熱膨張性材料含有部材の製造方法>
本発明においては、上記した熱膨張性組成物を部材に塗布し、固化、乾燥、又は硬化させることにより熱膨張性材料含有部材を得る、熱膨張性材料含有部材の製造方法も提供する。
上記部材は、熱膨張性組成物の使用対象物であり、例えば後述する防火設備が好ましい。防火設備としては、窓、障子、ドア、戸、ふすま等の建具、柱、鉄骨コンクリート等の壁、床、屋根等が挙げられる。
熱膨張性材料は、熱膨張性組成物を固化、乾燥、又は硬化することにより形成されるものである。固化、乾燥、又は硬化については、熱膨張性耐火シートの製造方法において説明したとおりである。熱膨張性材料の膨張開始温度、溶出率、リン成分の量については、上記した熱膨張性耐火シートと同様の範囲である。
本発明の熱膨張性材料含有部材は、火災時に反りが発生しても、良好な耐火性を維持できる。
【0065】
[防火設備]
本発明においては、上記熱膨張性耐火シートが、少なくとも一部に搭載された防火設備を提供することができる。防火設備としては、例えば、窓、障子、ドア、戸、ふすま等の建具、柱、鉄骨コンクリート等の壁、床、屋根等が挙げられる。本発明の熱膨張性耐火シートは、これらの防火設備の一部に搭載され、火災時に膨張することで、炎や煙の侵入を低減又は防止することができる。中でも、熱膨張性耐火シートは、窓と窓枠の隙間、ドアとドア枠の隙間などに使用することが好ましく、火災時にこれらの各種防火設備が反って変形したとしても、本発明の熱膨張性耐火シートは、反りに追従しやすく、長時間継続的に、炎や煙の侵入を防ぎ、長期間耐火性を良好に維持できる。
【実施例0066】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0067】
各物性の測定方法及び評価方法は以下のとおりである。
<熱膨張性黒鉛の膨張開始温度>
レオメーター(「Discovery HR-2」、TAインスツルメント社製)において、試料台に熱膨張性黒鉛のサンプルを0.5g置き、粉末が落ちないようにアルミホイルで巻いた。25mmφコーンプレートで荷重0[N]になるところまで接地させた。その状態からペルチェヒーターにより設定温度50℃から一定昇温速度(10℃/分)でサンプルを加熱し、荷重0.1Nとなったときを膨張開始温度とした
【0068】
<熱膨張性耐火シートの膨張開始温度>
熱膨張性耐火シートを試料とし、レオメーター(TAインスツルメント社製、「Discovery HR2」)を用いて、昇温温度10℃/分で、昇温させて、法線方向の力が立ち上がる温度を測定し、これを膨張開始温度とした。
【0069】
<マトリックス成分の分解開始温度、熱収縮率>
マトリックス成分の分解開始温度、熱収縮率は、明細書中に記載の方法で測定した。
【0070】
<厚みばらつき>
熱膨張性耐火シートの長手方向に等間隔で10点厚みを測定し、これら10点の厚みを平均して平均厚みを求めた。
次いで、熱膨張性耐火シートの長手方向に等間隔で10点厚みを測定した際に、個々の点において得られた厚みと、上記平均厚みの差の絶対値Aを算出し、10点分の絶対値Aの平均値を厚みのばらつきとした。
そして、厚みのばらつきが、厚み(平均厚み)の10%以下であれば「〇」、10%超であれば「×」と評価した。
【0071】
<溶出率>
得られた熱膨張性耐火シートを切り出して作製した試験片(10g分)を200gの純水に浸漬し、60℃で密閉容器にて1週間浸漬した後、試験片を取り出し、浸漬した純水を、蒸発、乾燥させ、発生した析出物の質量を測定した。その値を用い溶出率を以下の式で算出して、耐水性の指標とした。
溶出率(%)=[(析出物の質量)/(純水浸漬前の試験片の質量)]×100
【0072】
<耐火性>
得られた熱膨張性耐火シートについて、ISO 12472:2003に準拠して耐火性を評価した。具体的には、ISO 12472:2003に記載の図に基づき試験体を作製し、ISO834の加熱曲線に従い、加熱を実施し、加熱開始後、15分後に7.5kgの負荷をかけ、強制的に変異をかけ、トータル60分間加熱した後の試験体の観察を行った。
以下の基準で評価した。
〇:炉内貫通をしなかった
×:炉内貫通をした
【0073】
実施例、比較例で使用した各成分は以下のとおりである。
<マトリックス成分>
・ポリウレタン系:DIC社製「タイフォース HH-600」、熱溶融型接着剤
・ポリウレタン系:DIC社製「VONDIC 1050B-NE」、乾燥固化型接着剤(エマルジョン型接着剤)
・クロロプレン(ゴム系):東ソー社製「スカイプレン LA-710」、乾燥固化型接着剤(合成ゴムラテックス系接着剤)
・ポリエステル系:東亜合成社製「アロンメルト PES-111EE」、熱溶融型接着剤
・ポリエステル系:東亜合成社製「アロンメルト PES310S30」、乾燥固化型接着剤(溶剤系接着剤)、溶剤(トルエン、メチルエチルケトン)、固形分30%
・酢酸ビニル共重合樹脂系:日信化学製「ビニブラン 1157」、乾燥固化型接着剤(エマルジョン型接着剤)
・酢酸ビニル共重合樹脂系:日信化学製「ビニブラン A70J2M」、乾燥固化型接着剤(エマルジョン型接着剤)
・アクリル樹脂系:DIC社製「ACRYDIC 57-773-BA」、乾燥固化型接着剤(溶剤系接着剤)、溶剤(酢酸エチル、酢酸ブチル)
・シリコーン樹脂系(非変成):信越シリコーン社製「KR220L」、乾燥固化型接着剤(溶剤系接着剤)、溶剤(トルエン、イソプロピルアルコール)
・エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂系(EVA系)、三井化学社製「V5774ETWR」、熱溶融型接着剤
・ポリスチレン系、三井化学社製「FTR6100」、熱溶融型接着剤
・変成シリコーン樹脂系:架橋性シリル基を有するポリマー、カネカ社製「MSポリマー S-303」、湿気硬化反応型
・変成シリコーン樹脂系:架橋性シリル基を有するポリマー、東亞合成社製「US-6150」、湿気硬化反応型
・変成シリコーン樹脂系:架橋性シリル基を有するポリマー、AGC社製「エクセスター-S6250」、湿気硬化反応型
・変成シリコーン樹脂系:架橋性シリル基を有するポリマー、綜研化学社製「SE-09」、湿気硬化反応型
・変成シリコーン樹脂系:架橋性シリル基を有するポリマー、カネカ社製「サイリルEST280」、湿気硬化反応型
・シリル化ウレタン系:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズジャパン製「SPUR3030」
【0074】
<硬化触媒>
・日東化成社製「ネオスタンU220H」
【0075】
<熱膨張性黒鉛>
・富士黒鉛工業社製「EXP-50S150」、膨張開始温度150℃
【0076】
<無機充填材>
・酸化鉄
・水酸化アルミニウム(白石カルシウム社製)
・炭酸カルシウム(白石カルシウム社製)
【0077】
[実施例1]
表1に記載の組成となるように、各成分を撹拌機により混合して、熱膨張性組成物を得た。そして、熱膨張性組成物を120℃に加熱して溶融させた後、ロールコーターにより離型PETフィルム上に塗布し、塗布物を室温(25℃)まで冷却して固化させて、離型PETフィルム上に熱膨張性耐火シートを形成させた。該熱膨張性耐火シート(長さ100mm、厚さ1.5mm、幅10mm)について、各種評価を行った。該評価の結果を表1に示した。
【0078】
[実施例4、10、11]
表1に記載の組成に変更した以外は、実施例1と同様の方法で熱膨張性耐火シートを得た。該熱膨張性耐火シートについて、各種評価を行った。
【0079】
[実施例2]
表1に記載の組成となるように、各成分を撹拌機により混合して、熱膨張性組成物を得た。そして、熱膨張性組成物を、ロールコーターにより離型PETフィルム上に塗布し、塗布物を120℃で乾燥させて、溶媒を気化させ、離型PETフィルム上に熱膨張性耐火シートを形成させた。該熱膨張性耐火シート(長さ100mm、厚さ1.5mm、幅10mm)について、各種評価を行った。
【0080】
[実施例3、5~9]
表1に記載の組成に変更した以外は、実施例2と同様の方法で熱膨張性耐火シートを得た。該熱膨張性耐火シートについて、各種評価を行った。
【0081】
[実施例12~17]
表1に記載の組成となるように、各成分を撹拌機により25℃で混合して、熱膨張性組成物を得た。そして、熱膨張性組成物を、ロールコーターにより離型PETフィルム上に塗布し、塗布物を50℃で硬化させて、離型PETフィルム上に熱膨張性耐火シートを形成させた。該熱膨張性耐火シート(長さ20mm、厚さ1.5mm、幅10mm)について、各種評価を行った。
【0082】
【表1】
実施例で使用した熱膨張性組成物は、乾燥固化型接着剤を使用した場合は、溶媒も含まれているが、表1には、熱膨張性組成物の固形分のみについて、配合量を記載した。
【0083】
各実施例の熱膨張性耐火シートは、特定の接着剤からなるマトリックス成分、熱膨張性黒鉛を含む熱膨張性組成物から形成されたものであり、いずれも耐火性の評価が良好であった。この結果から、本発明の熱膨張性組成物から形成された熱膨張性耐火シートは、防火設備の火災時の反りに追従しやすく、長時間良好な耐火性を維持できることが分かった。