(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157512
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】車両の走行模擬設備、および車両の走行模擬方法、並びに走行模擬設備向け連行気流発生抑制装置
(51)【国際特許分類】
G01M 9/06 20060101AFI20241030BHJP
G01M 17/007 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
G01M9/06
G01M17/007 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217343
(22)【出願日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2023071893
(32)【優先日】2023-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391007242
【氏名又は名称】三菱重工冷熱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102738
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】隅田 隼佑
(72)【発明者】
【氏名】中島 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】坂根 啓太
(72)【発明者】
【氏名】二宮 達
【テーマコード(参考)】
2G023
【Fターム(参考)】
2G023AB03
2G023AB12
2G023AC06
2G023AD03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】車両下面と床面とのスペースと床面下方のダイナモ設置室との間の静圧差に起因する連行気流の発生を抑制可能な走行模擬設備を提供する。
【解決手段】床面FLに設けられた開口と、開口に臨む床面FL下方のダイナモ設置室とを有し、ダイナモ設置室には、開口に対して非接触式に回転可能なダイナモローラ―14と、ダイナモローラ―14を回転駆動する回転駆動手段とが配置され、ダイナモローラ―14は、円筒の中心軸線が床面FL下方に位置し、ダイナモローラ―14の開口から臨む外周面に、静止車両Vの車輪WHを載置した状態で、ダイナモローラ―14を回転駆動するとともに、風洞T内で、車両Vの前方から後方に向かって、床面FLから少なくとも車高までの高さに亘って気流MFを送り、ダイナモ設置室の静圧が車両Vの下面と床面FLとのスペース内の静圧に一致するように、ダイナモ設置室内を減圧する減圧手段を床面FL下方スペースに有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面に設けられた開口と、開口に臨む、床面下方のダイナモ設置室とを有し、
該ダイナモ設置室には、
該開口に対して、非接触式に回転可能に設けられる円筒状ダイナモローラーと、
該ダイナモローラーを円筒の中心軸線を中心に回転駆動する回転駆動手段とが配置され、
該ダイナモローラーは、円筒の中心軸線が床面下方に位置するように配置され、
前記ダイナモローラーの前記開口から臨む外周面に、静止車両の車輪を載置した状態で、前記ダイナモローラーを回転駆動するとともに、風洞内で、車両の前方から後方に向かって、床面から少なくとも車高までの高さに亘って、気流を送ることにより、車両の走行を模擬する走行模擬設備であって、
前記ダイナモローラーの外周面の最上部は、床面と略面一に設定され、前記開口の周縁と前記ダイナモローラーの外周縁との間に隙間が形成され、
前記ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、ダイナモ設置室内を減圧する減圧手段を床面下方スペースに、さらに有する、
ことを特徴とする、走行模擬設備。
【請求項2】
前記減圧手段は、前記ダイナモ設置室外において、前記ダイナモ設置室に対して送風機が、吸引ダクトにより連通接続され、該吸引ダクト系統には、比例式弁またはダンパが設けられ、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、該比例式弁またはダンパの開度をフィードバック制御する、請求項1に記載の走行模擬設備。
【請求項3】
前記減圧手段は、前記ダイナモ設置室から負圧タンクおよび真空ポンプが、この順に、前記ダイナモ設置室外において、吸引ダクトにより連通接続され、該吸引ダクト系統には、自動開閉弁または比例式弁またはダンパが設けられ、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、該自動開閉弁または該比例式弁またはダンパの開度をフィードバック制御する、請求項1に記載の走行模擬設備。
【請求項4】
前記減圧手段は、前記ダイナモ設置室外において、前記ダイナモ設置室に対して送風機が、吸引ダクトにより連通接続され、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、前記送風機のインバータ回転数をフィードバック制御する、請求項1に記載の走行模擬設備。
【請求項5】
車両は、車輪ごとに、前記ダイナモローラーの回転駆動により、回転され、各車輪に対応する前記ダイナモ設置室に、前記減圧手段が個別に設けられる、請求項1に記載の走行模擬設備。
【請求項6】
風洞内の床面に設けられた開口から外周面が臨み、床面下方のダイナモ設置室に配置されたダイナモローラーに、車両の車輪を載置する段階と、
風洞内で気流を車両の前方から後方に向けて流しつつ、ダイナモローラーの回転により車輪を回転させる車両の走行模擬段階と、
ダイナモ設置室内の静圧と車両の下面と床面とのスペース内の静圧との静圧差に基づいて、ダイナモ設置室内を減圧する段階とを、
有することを特徴とする、車両の走行模擬方法。
【請求項7】
前記ダイナモ設置室内を減圧する段階は、ダイナモ設置室内の静圧と車両の下面と床面とのスペース内の静圧との静圧差を常時検出し、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、ダイナモ設置室内からのエア吸引量を制御量としてフィードバック制御を行う、請求項6に記載の走行模擬方法。
【請求項8】
前記車両の走行模擬段階は、車両は、車輪ごとに、前記ダイナモローラーの回転駆動により、回転され、前記ダイナモ設置室内を減圧する段階は、各車輪に対応する前記ダイナモ設置室ごとに、減圧する、請求項6に記載の走行模擬方法。
【請求項9】
前記静圧差を常時検出段階は、車両の下面と床面とのスペース内の高さ方向の静圧分布、および車両の前後方向の静圧分布に応じて、車両の下面と床面とのスペース内の圧力検出位置を決定する段階を含む、請求項7に記載の走行模擬方法。
【請求項10】
車両前部における車両の下面と床面とのスペース内静圧と、車両後部における車両の下面と床面とのスペース内静圧との平均を用いる、請求項9に記載の走行模擬方法。
【請求項11】
風洞内で、車両の前方から後方に向かって、床面から少なくとも車高までの高さに亘って、気流を送るように構成される場合において、
床面に設けられた開口と、開口に臨む、床面下方のダイナモ設置室とを有し、
該ダイナモ設置室には、
該開口に対して、非接触式に回転可能に設けられる円筒状ダイナモローラーと、
該ダイナモローラーを円筒の中心軸線を中心に回転駆動する回転駆動手段とが配置され、
該ダイナモローラーは、円筒の中心軸線が床面下方に位置するように配置され、
前記ダイナモローラーの前記開口から臨む外周面に、車両の車輪を載置した状態で、前記ダイナモローラーを回転駆動することにより、車両の走行を模擬する走行模擬設備に対して、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、ダイナモ設置室内を減圧する減圧手段を有する、ことを特徴とする、走行模擬設備向け連行気流発生抑制装置。
【請求項12】
前記減圧手段は、前記ダイナモ設置室から送風機が、前記ダイナモ設置室外において、吸引ダクトにより連通接続され、該吸引ダクト系統には、比例式弁またはダンパが設けられ、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、該比例式弁またはダンパの開度をフィードバック制御する、請求項11に記載の走行模擬設備向け連行気流発生抑制装置。
【請求項13】
前記減圧手段は、前記ダイナモ設置室から負圧タンクおよび真空ポンプが、この順に、前記ダイナモ設置室外において、吸引ダクトにより連通接続され、該吸引ダクト系統には、自動開閉弁または比例式弁またはダンパが設けられ、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、自動開閉弁または比例式弁またはダンパの開度をフィードバック制御する、請求項11に記載の走行模擬設備向け連行気流発生抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行模擬設備、および車両の走行模擬方法、並びに走行模擬設備向け連行気流発生抑制装置に関し、より詳細には、風洞内で発生する気流を利用して、ダイナモローラ―により静止車両で走行模擬を行う走行模擬設備において、ダイナモ設置室まわりの施工性、構造的干渉を引き起こすことなく、車両下面と床面とのスペースと床面下方のダイナモ設置室との間の静圧差に起因する連行気流の発生自体を有効に抑制可能な走行模擬設備、および走行模擬方法、並びに走行模擬設備向け連行気流発生抑制装置を提供する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の性能試験、耐久試験、環境試験用に、静止車両による走行模擬が行われている。
走行模擬は、たとえば、特許文献1、2に開示されているように、通常、風洞内に車両を配置し、車輪を床面下方に設置するダイナモローラーの回転により回転させつつ、車両の前方から後方に向けて気流を流して、走行中の風速を模擬することにより行われる。
風洞内の車両の前後方向の気流は、走行中の車両が受ける風速を模擬するもので、平行流であり、車両の下面と床面との間のスペースにも、車両の前後方向に流れる。
その際、ダイナモローラーの回転により、以下のような技術的問題が引き起こされる。
【0003】
すなわち、ダイナモローラーは、通常、風洞内の床面に設けられた開口から上方に臨むように、開口に対して非接触態様で設けられ、開口とダイナモローラーの周縁との間に不可避的に隙間を設けざるを得ないところ、ダイナモローラーの回転に伴って、連行気流が不可避的に発生し、連行気流は、床面の開口を介して、車両の下面と床面との間のスペース内に斜流として、風洞内の気流と同様、車両の前後方向へ流れる。
それにより、スペース内で、風洞内の気流が乱され、精確に走行模擬した試験を行うことが困難となる。
昨今、たとえば、電気自動車のバッテリーの走行中の放熱評価を行うのに、バッテリーは、車両の下部に設置されることから、車両の下面と床面とのスペースを流れる気流による放熱試験は重要である。
このような技術的問題は、走行模擬速度が高くなるほど、連行気流が強くなるので、顕著となる傾向である。
【0004】
この点、本発明者は、連行気流が、ダイナモローラーの回転だけでなく、車両の下面と床面との間のスペース内の静圧とダイナモ設置室内の静圧との静圧差に起因して発生する点を発見している。
より詳細には、従来、連行気流は、ダイナモローラーの回転に伴う遠心力により発生するものと考えられてきたが、シミュレーション流動解析によれば、車両の下面と床面との間のスペース内に流れ込む気流の縮流効果(流速上昇)によって、車両の下面と床面との間のスペース内の静圧が低下し、車両の下面と床面との間のスペース内の静圧とダイナモ設置室内の静圧との静圧差により、ダイナモ設置室内から車両の下面と床面との間のスペース内に向かう連行気流も併せて発生する点を解明した。
このような静圧差に起因する連行気流が車両の下面と床面との間のスペース内の気流を乱さないように、連行気流がスペース内に及ばないように物理的に抑止するとすれば、床面の開口および/または床面下方のダイナモ設置室の施工性が障害となったり、既存の走行模擬設備に対して、改造を行うとすれば、構造的干渉を引き起こす等の技術的問題点がある。
加えて、本発明者は、ダイナモローラーの回転により発生する連行気流の場合は、このような連行気流がスペース内に及ばないように物理的に抑止するのは、ある程度有効であるが、静圧差に起因する連行気流の場合は、ダイナモローラーの回転により発生する連行気流に比して、物理的抑止は、有効性に劣る点を確認している。
以上の技術的問題点に鑑み、本発明者は、静圧差に起因して発生する連行気流が車両の下面と床面との間のスペース内に及ぶのを抑制するのではなく、連行気流の発生自体を抑制することに注目し、本発明を見出した。
【特許文献1】特開2006-105899号
【特許文献2】特開2011-158351号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の技術的問題点に鑑み、本発明の目的は、風洞内で発生する気流を利用して、ダイナモローラ―により静止車両で走行模擬を行う走行模擬設備において、ダイナモ設置室まわりの施工性、構造的干渉を引き起こすことなく、車両下面と床面とのスペースと床面下方のダイナモ設置室との間の静圧差に起因する連行気流の発生自体を有効に抑制可能な走行模擬設備および走行模擬方法、並びに、並びに走行模擬設備向け連行気流発生抑制装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明の走行模擬設備は、
床面に設けられた開口と、開口に臨む、床面下方のダイナモ設置室とを有し、
該ダイナモ設置室には、
該開口に対して、非接触式に回転可能に設けられる円筒状ダイナモローラーと、
該ダイナモローラーを円筒の中心軸線を中心に回転駆動する回転駆動手段とが配置され、
該ダイナモローラーは、円筒の中心軸線が床面下方に位置するように配置され、
前記ダイナモローラーの前記開口から臨む外周面に、静止車両の車輪を載置した状態で、前記ダイナモローラーを回転駆動するとともに、風洞内で、車両の前方から後方に向かって、床面から少なくとも車高までの高さに亘って、気流を送ることにより、車両の走行を模擬する走行模擬設備であって、
前記ダイナモローラーの外周面の最上部は、床面と略面一に設定され、前記開口の周縁と前記ダイナモローラーの外周縁との間に隙間が形成され、
前記ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、ダイナモ設置室内を減圧する減圧手段を床面下方スペースに、さらに有する、構成としている。
【0007】
以上の構成を有する走行模擬設備によれば、風洞内で、車両の前方から後方に向かって、床面から少なくとも車高までの高さに亘って、気流を送りつつ、ダイナモローラーの開口から臨む外周面に、車両の車輪を載置した状態で、ダイナモローラーを回転駆動することにより、静止車両により、車両の走行を模擬することが可能である。
その際、車両の下面と床面との間のスペース内に流れ込む気流の縮流効果(流速上昇)によって、車両の下面と床面との間のスペース内の静圧が低下し、車両の下面と床面との間のスペース内の静圧とダイナモ設置室内の静圧との静圧差により、ダイナモ設置室内から車両の下面と床面との間のスペース内に向かう連行気流が発生し、車両下面と床面との間のスペース内で風洞内の気流が乱されるところ、ダイナモ設置室外に減圧手段を床面下方スペースに設けて、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、ダイナモ設置室内を減圧することにより、連行気流の発生原因自体を取り除き、風洞内で発生する気流を利用して、ダイナモローラ―により静止車両で走行模擬を行う走行模擬設備において、ダイナモ設置室まわりの施工性、構造的干渉を引き起こすことなく、車両下面と床面とのスペースと床面下方のダイナモ設置室との間の静圧差に起因する連行気流の発生自体を有効に抑制可能である。
【0008】
また、前記減圧手段は、前記ダイナモ設置室外において、前記ダイナモ設置室に対して送風機が、吸引ダクトにより連通接続され、該吸引ダクト系統には、比例式弁またはダンパが設けられ、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、該比例式弁またはダンパの開度をフィードバック制御するのがよい。
さらに、前記減圧手段は、前記ダイナモ設置室から負圧タンクおよび真空ポンプが、この順に、前記ダイナモ設置室外において、吸引ダクトにより連通接続され、該吸引ダクト系統には、自動開閉弁または比例式弁またはダンパが設けられ、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、該自動開閉弁または該比例式弁またはダンパの開度をフィードバック制御するのがよい。
【0009】
また、前記減圧手段は、前記ダイナモ設置室外において、前記ダイナモ設置室に対して送風機が、吸引ダクトにより連通接続され、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、前記送風機のインバータ回転数をフィードバック制御するのがよい。
さらに、車両は、車輪ごとに、前記ダイナモローラーの回転駆動により、回転され、各車輪に対応する前記ダイナモ設置室に、前記減圧手段が個別に設けられるのがよい。
【0010】
上記課題を達成するために、本発明の車両の走行模擬方法は、
風洞内の床面に設けられた開口から外周面が臨み、床面下方のダイナモ設置室に配置されたダイナモローラーに、車両の車輪を載置する段階と、
風洞内で気流を車両の前方から後方に向けて流しつつ、ダイナモローラーの回転により車輪を回転させる車両の走行模擬段階と、
ダイナモ設置室内の静圧と車両の下面と床面とのスペース内の静圧との静圧差に基づいて、ダイナモ設置室内を減圧する段階とを、
有する、構成としている。
また、前記ダイナモ設置室内を減圧する段階は、ダイナモ設置室内の静圧と車両の下面と床面とのスペース内の静圧との静圧差を常時検出し、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、ダイナモ設置室内からのエア吸引量を制御量としてフィードバック制御を行うのがよい。
さらに、前記車両の走行模擬段階は、車両は、車輪ごとに、前記ダイナモローラーの回転駆動により、回転され、前記ダイナモ設置室内を減圧する段階は、各車輪に対応する前記ダイナモ設置室ごとに、減圧するのがよい。
さらにまた、前記静圧差を常時検出段階は、車両の下面と床面とのスペース内の高さ方向の静圧分布、および車両の前後方向の静圧分布に応じて、車両の下面と床面とのスペース内の圧力検出位置を決定する段階を含むのがよい。
車両前部における車両の下面と床面とのスペース内静圧と、車両後部における車両の下面と床面とのスペース内静圧との平均を用いるのでもよい。
【0011】
上記課題を達成するために、本発明の走行模擬設備向け連行気流発生抑制装置は、
風洞内で、車両の前方から後方に向かって、床面から少なくとも車高までの高さに亘って、気流を送るように構成される場合において、
床面に設けられた開口と、開口に臨む、床面下方のダイナモ設置室とを有し、
該ダイナモ設置室には、
該開口に対して、非接触式に回転可能に設けられる円筒状ダイナモローラーと、
該ダイナモローラーを円筒の中心軸線を中心に回転駆動する回転駆動手段とが配置され、
該ダイナモローラーは、円筒の中心軸線が床面下方に位置するように配置され、
前記ダイナモローラーの前記開口から臨む外周面に、車両の車輪を載置した状態で、前記ダイナモローラーを回転駆動することにより、車両の走行を模擬する走行模擬設備に対して、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、ダイナモ設置室内を減圧する減圧手段を有する、構成としている。
また、前記減圧手段は、前記ダイナモ設置室から送風機が、前記ダイナモ設置室外において、吸引ダクトにより連通接続され、該吸引ダクト系統には、比例式弁またはダンパが設けられ、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、該比例式弁またはダンパの開度をフィードバック制御するのがよい。
【0012】
さらに、前記減圧手段は、前記ダイナモ設置室から負圧タンクおよび真空ポンプが、この順に、前記ダイナモ設置室外において、吸引ダクトにより連通接続され、該吸引ダクト系統には、該自動開閉弁または該比例式弁またはダンパが設けられ、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、自動開閉弁または比例式弁またはダンパの開度をフィードバック制御するのがよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1ないし
図4を参照しながら、本発明の走行模擬設備および走行模擬方法の第1実施形態を以下に詳細に説明する。
走行模擬設備10は、風洞Tにより内部に気流を流す測定室100の床面下方に設置され、測定室100内には、測定対象である車両Vが設置され、静止車両Vの車輪WHが走行模擬設備10により回転駆動されるように構成している。
風洞Tは、開放タイプであり、測定対象である車両Vを設置する測定室100と、整流洞102、縮流洞104を経て、測定室100に開口する吹出し口106と、測定室100に開口する流入口108とを有し、たとえば、送風機(図示せず)で発生した気流MFは、整流洞102、縮流洞104を経て、測定室100に開口する吹出し口106から測定室100に流入し、流入口108へ流れ込むようになっている。
送風機によって送風された気流MFは、いったん気流MF全体としての風速(動圧)を低下させて中間胴部における圧力(静圧)を上昇させた後、縮流洞104を通過させることで、測定するのに必要十分な風量(風速)の気流MFを吹出し口106から測定室に吹き出すことができるようにしている。
これにより、後に説明するように、測定室100内において、静止車両を走行模擬する際、設定する走行速度に応じて、車両Vの前方から後方に流れる平行気流MFを模擬するようにしており、設定する走行速度に応じて、送風機により気流MFの風速を調整することにより、静止車両でありながら走行車両を模擬できるようにしている。
【0014】
図2に示すように、車両の上流側の風洞吹き出し口106直下流には、境界層制御装置200が設けられている。
風洞の吹出口から噴出するジェット気流MFは、主流空気による主流層の他に主流層と床面との間で抵抗が生じるために風速が遅れた境界層が床面に沿って生じる。そのため、車両の風速分布の試験を行う際、境界層の影響を受けることになる。ここに、境界層とは、床面表面付近の主流空気の流れにおいて、速度が床面表面上から主流空気の流速にまで急激に変化する範囲の層をいい、例えば主流空気の流速を100%とした時、流速が99%以下に減速する層をいう。
境界層制御装置200によれば、環状に連続する送風路を通じて、ファン( 送風機)によりジェット気流MFを強制的に循環回流させ、吹出口を通じて測定部にジェット気流MFを吹き出す際、ジェット気流MFの主流空気が床界面側で発生する境界層をジェット気流MFの主流方向に対して鉛直軸方向に吸込み、排出する吸込みダクト(図示せず)を有し、車両の上流側の床面に構成する境界層吸い込み面202からジェット気流MFを吸い込み、吸い込み管(図示せず)を介してファン(図示せず)により大気に放出することにより、境界層の影響を減少させており、ジェット気流MFの主流方向の流れの乱れを未然に低減している。
【0015】
次に、走行模擬設備が設けられる測定室100内の床面FLの躯体構造について、説明すれば、床面FLの下方スぺ―スには、内部を装置室とする筐体と、装置室内に配置される一対のダイナモローラ―14及びダイナモとが概略設けられる。筐体は、本実施形態では、上部を構成する天板(図示せず)と、下部を構成する底板(図示せず)と、側部を構成する四枚の側板(図示せず)と、を有し、全体として直方体状の構成となっている。
【0016】
一つの側板には、ダイナモと、一対のダイナモローラ―14とのそれぞれと対応するように開口部が形成されて、扉が設けられ、開閉可能となっている。底板と天板との間には、側板に沿って支持柱が複数設けられており(図示せず)、天板を支持している。そして、天板は、車両Vが直接乗り入れられる床面FLを構成し、一対のダイナモローラ―14の周面の上部がそれぞれ露出する開口12が形成されている。ダイナモローラ―14及びダイナモは、底板上に支持されて装置室内に設けられている。
【0017】
以上のように、ダイナモとダイナモローラ―14とは、筐体に設けられた底板に支持されて装置室内に設けられ、筐体とともに一体となっている。このため、ダイナモ及びダイナモローラ―14を、筐体を外郭としてユ ニット化して一体的に取り扱うことができ、また、全体として安定的である。このため、装置全体を一体的に容易にかつ安全に運搬し、また、所定の試験室内に容易に設置することができる。また、本実施形態では、天板が床面FLを構成するので、別途床面FLを設ける必要がなく、装置を設置するのみで良いので、設置コストの低減とともに、全体として装置スペースの低減を図ることができる。
【0018】
次に、走行模擬設備10の詳細について、
図3および
図4を参照しながら、説明する。
測定室100内に、一対の前輪WHおよび一対の後輪WHそれぞれ(図面では、それぞれ1つを表示)に対して、走行模擬設備10が対応して設けられている。これらの走行模擬設備10を用いて、測定室100上に進めた自動車の各種特性が測定される 。
【0019】
ダイナモローラ―14は、一対の前輪WH、および一対の後輪WHそれぞれに対して、計4基設けられ、一対の前輪WH共通に、自身の中心軸に設けられた回転軸13が、底板上に設けられた軸受(図示せず)に回転可能に支持され、同様に、一対の後輪WH共通に、自身の中心軸に設けられた回転軸13が、底板上に設けられた軸受(図示せず)に回転可能に支持されている。両ダイナモローラ―14の間には、連結軸(図示せず)が同軸配置され、両ダイナモローラ―14の回転軸とカップリング(図示せず)によって連結されており、これにより両ダイナモローラ―14は一体的に回転可能となっている。
【0020】
ダイナモは、ダイナモローラ―14の回転駆動源で液冷式であり、入出力軸(図示せず)は、一方のダイナモローラ―14の回転軸と同軸配置されていて、ロック用ディスク(図示せず)によって連結されている。また、ダイナモの入出力軸には、トルクメータ(図示せず)が設けられており、入出力軸におけるトルクを検出可能となっている。
【0021】
走行模擬設備10は、測定室100上に進めた自動車の車輪WHを、測定室100の床面FLに設けた開口12から天頂部を露出させたダイナモローラ―14の上に配置して走行させながら、ダイナモでダイナモローラ―14を介して車輪WHにトルクを加えたり、車輪WHより加わるトルクをロードセル(図示せず)で計測するように構成している。
図6に示すように、ダイナモローラー14の外周面の最上部は、床面FLと略面一に設定され、開口12の周縁とダイナモローラー14の外周縁18との間に隙間Cが形成される。
【0022】
本実施形態に係る走行模擬設備10としては、各々車輪WHがひとつずつ載置される二つのダイナモローラ―14とこの二つのダイナモローラ―14を回転駆動する一つのダイナモを備えた走行模擬設備10を用いる代わりに、 各々一つのダイナモローラ―14と 一つのダイナモとを備えた二つの走行模擬設備10を用いるようにしてもよい。
各開口について、開口12の上流縁および下流縁の直下方には、中実バー状のセンタリングパイプ34が開口12の幅方向に亘って設けられ、各センタリングパイプ34は、開口12の床面FLの長手方向中心位置から等距離に位置決めされ、車両Vを測定室100内で位置決めする際、車両Vの車輪WHを対応する開口12に対してセンタリングして、対応するダイナモローラ―14により回転駆動可能なように、その目安として利用される。
【0023】
以上の走行模擬設備10においては、車両Vは、ダイナモローラ―14の円筒の中心軸線に対して、直交する向きに、風洞T内に配置され、風洞T内で、車両Vの前方から後方に向かって、床面FLから少なくとも車高までの高さに亘って、気流MFを送るように構成され、開口12に対して、非接触式に回転可能に設けられる円筒状ダイナモローラ―14が、円筒の中心軸線が床面FL下方に位置するように配置され、ダイナモローラ―14の開口12から臨む上部外周面22に、車両Vの車輪WHを載置した状態で、ダイナモローラ―14を回転駆動することにより、車両Vの走行を模擬するようにしている。
【0024】
次に、減圧装置50について説明すれば、
図4に示すように、一対の前輪WHおよび一対の後輪WH各々の走行模擬設備10を収容するダイナモ設置室100に対して、単一の減圧装置50が適用される。
減圧装置50は、静圧測定センサー52と、ダイナモ設置室54外に設置される送風機56と、ダイナモ設置室54内と送風機56とを連通接続する吸引ダクト58と、吸引ダクト58に設けられた比例式弁60と、比例式弁60を制御する制御装置62とを概略有する。
静圧測定センサー52は、静止車両Vの下面と床面FLとの間の静圧を測定する第1静圧測定センサー52Aと、ダイナモ設置室54内の静圧を測定する第2静圧測定センサー52Bとを有し、各静圧測定センサー52自体は、従来既知のタイプであり、静圧測定センサー52により測定した静圧情報は、制御装置62に電子情報として送信されるようにしている。
【0025】
第1静圧測定センサー52Aおよび第2静圧測定センサー52Bそれぞれの設置位置について、第1静圧測定センサー52Aは、静止車両Vの下面と床面FLとの間の静圧を測定するものであり、たとえば、車両前後方向にはその中央位置、車両高さ方向には、床面FLと車両下面との中央位置でもよく、センサー自体を床面FLから支持するように設ければよく、第2静圧測定センサー52Bは、ダイナモ設置室54内の静圧を測定するものであり、ダイナモ設置室54内に設置されるダイナモローラ―14の近傍では、ダイナモローラ―14の回転の影響があるので、このような影響がない位置に設けるのがよい。
なお、第1静圧測定センサー52Aおよび第2静圧測定センサー52Bは、環境試験開始前に単発的に測定し、その測定結果に基づいて、制御装置62が比例式弁60の開度を調整するものでもよいし、第1静圧測定センサー52Aおよび第2静圧測定センサー52Bそれぞれのサンプリング間隔は、調整可能であってもよく、環境試験中、サンプリング間隔ごとに自動的に測定結果を制御装置62に送信する構成でもよい。
【0026】
吸引ダクト58は、一端がダイナモ設置室54内に臨み、他端が送風機56に接続され、その途中に比例式弁60が設けられ、後に説明するように、送風機56の吸い込みにより、開度が調整された比例式弁60を介してダイナモ設置室54内が減圧されるようにしている。
送風機56は、従来既知のタイプでよく、必要吸い込み量を確保可能である限り、ダイナモ設置室54内の空気を吸い込み、外部に排出可能であればよく、送風機56自体が、インバータ回転数制御により、吸い込み量の調整可能となっているものでもよい。
送風機56は、床面FL下方のダイナモ設置室54外の空いたスペースに配置すればよく、ダイナモ設置室まわりの施工性、構造的干渉を引き起こす恐れはない。
比例式弁60は、電子制御式であり、制御装置62による制御信号により開度が調整可能であればよく、送風機56により設定される吸い込み量に対して、開度を調整することにより、ダイナモ設置室54内の空気の吸い込み程度を調整可能としている。なお、変形例として、比例式弁60の代替として、制御装置62により開度が調整可能である限り、従来既知のダンパでもよい。
【0027】
制御装置62は、たとえば、既知CPUで構成され、第1静圧測定センサー52Aおよび第2静圧測定センサー52Bからの静圧情報を受信し、内部で処理し、電子制御式弁に向けて、開度調整制御信号を送信可能に構成されている。
これにより、ダイナモ設置室54内の静圧が車両の下面と床面FLとのスペース内の静圧に一致するように、比例式弁60の開度をフィードバック制御するようにしている。
この場合、ダイナモ設置室54内の静圧と車両の下面と床面FLとのスペース内の静圧との差圧が零となるように、車両の下面と床面FLとのスペース内の静圧に対して、開度調整制御信号により電子制御式弁の開度調整の結果、ダイナモ設置室54内が減圧されるので、ダイナモ設置室54内の空気吸い込み量と、ダイナモ設置室54内の静圧との対応関係が予め把握されていれば、車両の下面と床面FLとのスペース内の静圧が変動しないことを条件に、フィードバック制御でなく、成り行き制御でもよい。
【0028】
以上の構成を有する走行模擬設備10について、以下に、走行模擬設備10を用いる走行模擬方法として、その作用を説明する。
走行模擬方法は、概略的には、風洞T内の床面に設けられた開口12から外周面が臨み、床面下方のダイナモ設置室54に配置されたダイナモローラ―14に、車両Vの車輪を載置する段階と、風洞T内で気流MFを車両Vの前方から後方に向けて流しつつ、ダイナモローラ―14の回転により車輪を回転させる車両Vの走行模擬段階と、ダイナモ設置室54内の静圧と車両Vの下面と床面とのスペース内の静圧との静圧差に基づいて、ダイナモ設置室54内を減圧する段階とを、有する、構成としており、ダイナモ設置室54内を減圧する段階は、ダイナモ設置室54内の静圧と車両Vの下面と床面とのスペース内の静圧との静圧差を常時検出し、ダイナモ設置室54内の静圧が車両Vの下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、ダイナモ設置室54内からのエア吸引量を制御量としてフィードバック制御を行う。
この場合、車両Vの走行模擬段階は、車両Vは、車輪ごとに、ダイナモローラ―14の回転駆動により、回転され、ダイナモ設置室54内を減圧する段階は、各車輪に対応するダイナモ設置室54ごとに、すなわち4つのダイナモ設置室54それぞれにおいて、減圧するのがよい。
静圧差を常時検出段階は、車両Vの下面と床面とのスペース内の高さ方向の静圧分布、および車両Vの前後方向の静圧分布に応じて、車両Vの下面と床面とのスペース内の圧力検出位置を決定する段階を含むのがよい。
【0029】
以下、より詳細に説明する。
まず、走行模擬する静止車両Vによる環境試験の条件に応じて設定する走行模擬速度、それによって定まる風洞T内ジェット気流MF流量およびダイナモの回転数を設定し、風洞T内ジェット気流MFを静止車両Vに向けて吹き付けるとともに、ダイナモローラ―14を駆動して、静止車両Vの車輪を回転させる。なお、静止車両Vの一対の前輪および一対の後輪に対して、どの車輪に対応するダイナモローラ―14を回転させるかは適宜選択する。
次いで、静止車両Vの下面と床面FLとの間の静圧およびダイナモ設置室54内の静圧を各静圧測定センサー52により測定し、測定値を減圧制御装置62に送信する。
なお、各静圧測定センサー52において、測定時間間隔を設定しておき、間欠的に自動的に測定するのがよい。
次いで、減圧装置50において、静止車両Vの下面と床面FLとの間の静圧とダイナモ設置室54内の静圧との差圧を算出し、差圧に基づいて、比例式弁60の開度を調整する制御信号を比例式弁60に送信する。
【0030】
たとえば、ダイナモ設置室54内の静圧が静止車両Vの下面と床面FLとの間の静圧に対して高圧となるところ、その差が大きい場合には、比例式弁60の開度を大きくとり、送風機56によるダイナモ設置室54からの吸い込み量を多くし、一方、その差が小さい場合には、比例式弁60の開度を小さくとり、送風機56によるダイナモ設置室54からの吸い込み量を少なくする。
なお、送風機56を駆動して、ダイナモ設置室54内を減圧するタイミングは、風洞T内ジェット気流MFを静止車両Vに向けて吹き付け開始後、ダイナモローラ―14を駆動して、静止車両Vの下面と床面FLとの間の静圧とダイナモ設置室54内の静圧との差圧が生じ得る時点から開始するのがよいが、風洞T内ジェット気流MFを静止車両Vに向けて吹き付け開始後であれば、ダイナモローラ―14を駆動前に、予め減圧手段を駆動しておくのでもよい。
【0031】
次いで、減圧制御装置62による減圧制御を行いながら、環境試験を開始する。
これにより、静止車両Vの下面と床面FLとの間の静圧とダイナモ設置室54内の静圧との差圧に起因する連行気流により、静止車両Vの下面と床面FLとの間の気流MFが乱されることなく、精確な環境試験を行うことが可能となる。
なお、環境試験実施中、上記工程を継続して行うのでもよい。
以上により、たとえば、バッテリーが車両Vの下部に設置される電気自動車の走行中におけるバッテリーの放熱試験を行うのに、電気自動車の下面と路面との間のスペース内において、車両Vの下面と床面との間のスペース内の静圧とダイナモ設置室54内の静圧との静圧差に起因する連行気流により乱れることなく、車両Vの前方から後方へ通過する気流MFを精確に模擬し、放熱試験の信頼性を確保することが可能となる。
なお、車両Vが四輪駆動の場合には、ダイナモローラ―14を利用して、前輪および後輪を同時に回転させることから、各車輪WHに対応する開口12に対して、減圧装置50を適用するのがよいが、車両VがFFまたはFRの場合には、 駆動されない後輪または前輪に対応する開口12に対しては、ダイナモローラ―14を利用する必要がなく、車両Vの床下気流MFを重視する試験の場合には、開口12とダイナモローラ―14とを一体で移動したり、開口12に蓋をするのがよい。
【0032】
以上の構成を有する走行模擬設備によれば、風洞T内で、車両Vの前方から後方に向かって、床面から少なくとも車高までの高さに亘って、気流MFを送りつつ、ダイナモローラ―14の開口12から臨む外周面に、車両Vの車輪を載置した状態で、ダイナモローラ―14を回転駆動することにより、静止車両Vにより、車両Vの走行を模擬することが可能である。
その際、車両Vの下面と床面との間のスペース内に流れ込む気流の縮流効果(流速上昇)によって、車両Vの下面と床面との間のスペース内の静圧が低下し、車両Vの下面と床面との間のスペース内の静圧とダイナモ設置室54内の静圧との静圧差により、ダイナモ設置室54内から車両Vの下面と床面との間のスペース内に向かう連行気流が発生し、車両V下面と床面との間のスペース内で風洞T内の気流MFが乱されるところ、ダイナモ設置室54外に減圧手段を設けて、ダイナモ設置室54内の静圧が車両Vの下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、ダイナモ設置室54内を減圧することにより、連行気流の発生原因自体を取り除き、風洞T内で発生する気流MFを利用して、ダイナモローラ―14により静止車両Vで走行模擬を行う走行模擬設備において、ダイナモ設置室54まわりの施工性、構造的干渉を引き起こすことなく、車両V下面と床面とのスペースと床面下方のダイナモ設置室54との間の静圧差に起因する連行気流の発生自体を有効に抑制可能である。
【0033】
以下に、本発明の第2実施形態について、
図5を参照しながら説明する。以下の説明において、第1実施形態と同様な構成要素については、同様な参照番号を付することによりその説明は省略し、以下では、本実施形態の特徴部分について詳細に説明する。
本発明の第2実施形態の特徴は、ダイナモ設置室54内の減圧手段にあり、第1実施形態においては、ダイナモ設置室54に対して送風機が、吸引ダクトにより連通接続され、吸引ダクトには、比例式弁60が設けられ、ダイナモ設置室54内の静圧が車両Vの下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、比例式弁60の開度をフィードバック制御するのに対して、本実施形態においては、減圧手段は、ダイナモ設置室54から負圧タンク64および真空ポンプ68が、この順に、ダイナモ設置室54外において、吸引ダクト58,72により連通接続され、吸引ダクト58には、比例式弁60が設けられ、ダイナモ設置室54内の静圧が車両Vの下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、比例式弁60の開度をフィードバック制御する点にある。
負圧タンク64内の圧力は、手動元弁70を介して圧力センサー66により、測定され、測定された圧力に応じて、真空ポンプ68を調整し、負圧タンク64内を負圧に維持するように、吸引した負圧タンク64内の空気をダクト74を介して排気している。
ダイナモ設置室54内の静圧が車両Vの下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、比例式弁60の開度をフィードバック制御する点においては、第1実施形態と共通である。
さらなる変形例として、減圧手段により静圧差に起因する連行気流を抑制するとともに、ダイナモローラー14の回転に起因する連行気流を抑制するのに、床面に設けられる開口12に連行気流抑制手段を併用するのでもよい。
より詳細には、各開口12について、ダイナモローラー14の上部外周面の最上部は、床面FLと略面一に設定されるところ、ダイナモローラー14の回転によって発生する連行気流が、開口12を通じて、車両Vの下面LSと床面FLとの間のスぺースに及ぶのを抑制する連行気流抑制手段を、開口12とダイナモローラー14の周縁18との間の隙間Cに設けてもよく、この場合、開口12は矩形状であり、連行気流抑制手段は、開口12の上流側縁と対応するダイナモローラー14との隙間C、および開口12の下流側縁と対応するダイナモローラー14との隙間Cそれぞれに配置される平板により構成するのでもよい。
【実施例0034】
本出願人は、ダイナモ設置室内を減圧する減圧手段の連行流抑制効果を確認するために、以下に示す流動解析数値シミュレーションを行った。
コンピューターによる数値シミュレーション用の3次元モデルを
図6に示す。
流動解析ソフトは、市販されているFluent (version 19.2)である。
図6および
図7に示すように、床面に配置される車両、前輪および後輪、および床面下方スペースをモデル化しており、車両の前後方向に延びる中心線に関して軸対称であることから、車両の前後方向に延びる中心線に関して、一方の側のみをモデル化し、床面に配置される車両に向かって、前後方向に流れる気流を前提に、車両の下面と床面とのスペース内と床面下方スペース内との静圧差による連行流を模擬している。
以上の解析条件で、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、ダイナモ設置室内を減圧する減圧手段を床面下方スペースに設ける場合と、従来のように設けない場合とにおいて、車両下面と床面との間のスペースにおいて、車両前後に流れる気流の連行流による影響の違いを評価した。
【0035】
気流の流速分布のシミュレーション結果を
図8に示す。流速レンジ(0m/sないし40m/s)について、オレンジ色が高速領域、緑色が中速領域、青色が低速領域である。
図8は、車両の後輪部まわりの車両下面と床面との間のスペースおよび床面下における気流の流速分布を示し、
図8(A)は、ダイナモ設置室内を減圧する減圧手段を床面下方スペースに設けない場合、
図8(B)は、ダイナモ設置室内を減圧する減圧手段を床面下方スペースに設ける場合である。
図8(A)および
図8(B)を比較すると明瞭に示されているように、
図8(A)においては、車両下面と床面との間のスペース内の車両前後に流れる気流は、スペースの大部分において中速領域であり、床面近傍では、低速領域となっているのに対して、
図8(B)においては、車両下面と床面との間のスペース内の車両前後に流れる気流は、スペースの大部分において高速領域であり、床面近傍には、低速領域があるが、
図8(A)に比し、領域は狭い。一方、床面下における気流について、
図8(A)においては、機械室側の床下から車両下面と床面との間のスペースに向かって流入する低速域の連行流が発生しており、一方、
図8(B)においては、機械室側の床下から車両下面と床面との間のスペースに向かって流入する低速域の連行流が発生しているが、
図8(A)に比し、明らかに減少している。
【0036】
以上より、ダイナモ設置室内を減圧する減圧手段を床面下方スペースに設けない場合(
図8(A))、床下から車両下面と床面との間のスペースに向かって流入する低速域の連行流が車両下面と床面との間のスペース内の車両前後に流れる気流に干渉し、スペース内床面近傍部において、流速低下が生じているのに対して、ダイナモ設置室内を減圧する減圧手段を床面下方スペースに設ける場合(
図8(B))、床下から車両下面と床面との間のスペースに向かって流入する低速域の連行流が減少しており、それにより、車両下面と床面との間のスペース内の車両前後に流れる気流に干渉する程度が減少し、スペース内床面近傍部における流速低下が減少していると理解可能である。
【0037】
以上、本シミュレーションにより、車両の下面と床面との間のスペース内に流れ込む気流の縮流効果(流速上昇)によって、車両の下面と床面との間のスペース内の静圧が低下し、車両の下面と床面との間のスペース内の静圧とダイナモ設置室内の静圧との静圧差により、ダイナモ設置室内から車両の下面と床面との間のスペース内に向かう連行気流が発生し、車両下面と床面との間のスペース内で風洞内の気流が乱されるところ、ダイナモ設置室外に減圧手段を床面下方スペースに設けて、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、ダイナモ設置室内を減圧することにより、連行気流の発生原因自体を取り除き、風洞内で発生する気流を利用して、ダイナモローラ―により静止車両で走行模擬を行う走行模擬設備において、ダイナモ設置室まわりの施工性、構造的干渉を引き起こすことなく、車両下面と床面とのスペースと床面下方のダイナモ設置室との間の静圧差に起因する連行気流の発生自体を有効に抑制可能である点を確認した。
【0038】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱しない範囲内において、当業者であれば、種々の修正あるいは変更が可能である。
たとえば、本実施形態においては、ダイナモ設置室内を減圧する減圧手段を、床面下方スペースのダイナモ設置室外に設置するものとして説明したが、これに限定されることなく、ダイナモ設置室内部に十分なスペースがある場合には、床面下方スペースのダイナモ設置室内に設置するのでもよい。
たとえば、本実施形態においては、ダイナモ設置室内の静圧が車両の下面と床面とのスペース内の静圧に一致するように、ダイナモ設置室内を減圧することにより、ダイナモ設置室内の静圧と車両の下面と床面とのスペース内の静圧との差圧に起因する連行気流の発生原因自体を取り除くものとして説明したが、これに限定されることなく、このようなダイナモ設置室54に対する減圧装置の設置に加え、ダイナモローラ―14の回転に伴って発生する連行気流の影響も防止するのに、ダイナモローラ―14の周縁と対応する開口との隙間に連行気流抑制板を設けるのでもよい。
たとえば、本実施形態においては、各車輪に適用するダイナモおよびダイナモローラ―14が収容される単一のダイナモ設置室54に対して、減圧装置を適用するものとして説明したが、これに限定されることなく、各車輪のダイナモおよびダイナモローラ―14が収容されるダイナモ設置室54それぞれに対して減圧装置を適用したり、または、一対の前輪各々のダイナモおよびダイナモローラ―14が収容されるダイナモ設置室54、一対の後輪各々のダイナモおよびダイナモローラ―14が収容されるダイナモ設置室54それぞれに対して減圧装置を適用するのでもよい。
たとえば、本実施形態においては、各車輪に適用する減圧装置は、同じであるものとして説明したが、これに限定されることなく、一対の前輪、一対の後輪それぞれにおいて、左右は同じ減圧装置が好ましいが、前輪と後輪で異なる減圧装置を適用するのでよい。
【0039】
たとえば、本実施形態において、開口12とダイナモローラ―14の周縁18との間の隙間Cがあることを前提に、車両V下面と床面FLとの間のスペースSに及ぶのを抑制する減圧装置を対応するダイナモ設置室54側に適用するものとして説明したが、それに限定されることなく、車両Vの走行に応じて生じる風速を模擬する風洞T内の気流MFが車両Vの下面と床面FLとの間のスペースS内で乱されることを低減することが可能である限りにおいて、開口12とダイナモローラ―14の周縁18との間の隙間C自体を狭めることと併行して、減圧装置を適用してもよい。
【0040】
たとえば、本実施形態において、車両V下面と床面FLとの間のスペースSに及ぶのを抑制する減圧装置を設定したら、それに基づき、走行模擬する車両Vを用いて、性能試験、環境試験、耐久試験等を行うものとして説明したが、走行模擬する際、模擬走行速度に応じてダイナモローラ―14の回転数、および風洞T内の気流MFの速度が変動するところ、ダイナモローラ―14の回転数に応じて、たとえば、開口12とダイナモローラ―14の周縁18との間の隙間Cを狭める度合いを調整してもよい。
この場合、開口12とダイナモローラ―14の周縁18との間の隙間Cを狭める場合、ある車輪は、開口12の上流縁および下流縁、ある車輪は、開口12の上流縁のみ、ある車輪は、開口12の下流縁のみを対象とするのでもよい。
【0041】
送風機56の駆動タイミングについて、車両Vの前部の下面と床面FLとの静圧と、車両Vの後部の下面と床面FLとの静圧との差圧が一定値以内に収まった段階で、送風機56を駆動してもよいし、ダイナモローラ―14の回転開始直後に、送風機56を駆動してもよい。
静圧の測定について、車両Vの前部の下面と床面FLとの静圧と、車両Vの後部の下面と床面FLとの静圧との平均値を、車両Vの下面と床面FLとの間の静圧として用いてもよいし、車両Vの下面と床面FLとの間の静圧として、車両Vの下面と床面FLとの間を高さ方向に等分し、各レベルの静圧を測定し、これらの平均値を車両Vの下面と床面FLとの間の静圧として用いてもよい。