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特開2024-157522ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンの製造方法、ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン含有組成物及び新規乳酸菌
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157522
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンの製造方法、ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン含有組成物及び新規乳酸菌
(51)【国際特許分類】
   C12P 17/00 20060101AFI20241030BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20241030BHJP
   C07J 71/00 20060101ALI20241030BHJP
   A61K 31/58 20060101ALI20241030BHJP
   A61K 8/63 20060101ALI20241030BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241030BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20241030BHJP
   A61P 3/06 20060101ALN20241030BHJP
   A61P 9/10 20060101ALN20241030BHJP
   A61P 21/02 20060101ALN20241030BHJP
   A61P 25/24 20060101ALN20241030BHJP
   A61P 17/16 20060101ALN20241030BHJP
【FI】
C12P17/00
C12N1/20 E
C07J71/00
A61K31/58
A61K8/63
A61Q19/00
A61Q5/00
A61P3/06
A61P9/10 101
A61P21/02
A61P25/24
A61P17/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024062095
(22)【出願日】2024-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2023071388
(32)【優先日】2023-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】598043054
【氏名又は名称】日生バイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩志
(72)【発明者】
【氏名】多田 祐也
(72)【発明者】
【氏名】盛 孝男
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C083
4C086
4C091
【Fターム(参考)】
4B064AC13
4B064AC14
4B064AC21
4B064CA02
4B064CC01
4B064CD08
4B064DA01
4B064DA20
4B065AA39X
4B065BB26
4B065BD32
4B065BD34
4B065BD36
4B065CA18
4B065CA44
4B065CA50
4C083AD491
4C083AD492
4C083CC01
4C083CC02
4C083EE12
4C083FF01
4C086AA04
4C086DA12
4C086GA17
4C086MA02
4C086MA06
4C086MA52
4C086NA20
4C086ZA12
4C086ZA45
4C086ZA89
4C086ZA94
4C086ZC33
4C091AA01
4C091BB01
4C091CC01
4C091DD01
4C091EE04
4C091FF01
4C091GG01
4C091HH01
4C091JJ03
4C091KK01
4C091LL01
4C091MM03
4C091NN12
4C091PA02
4C091PA07
4C091PB05
4C091QQ07
4C091QQ15
4C091RR13
(57)【要約】
【課題】
簡便な方法で工業的に効率よく、ステロイドアルカロイド配糖体(例えば、トマチン、エスクレオサイド)からそのアグリコン(例えば、トマチジン、エスクレオゲニン)を製造する方法を提供すること。
【解決手段】
ステロイドアルカロイド配糖体(例えば、トマチン、エスクレオサイド)を、そのアグリコン(例えば、トマチジン、エスクレオゲニン)に変換する能力を有する乳酸菌(例えば、ペディオコッカス(Pediococcus)属に属する乳酸菌、レビラクトバチルス(Levilactobacillus)属に属する乳酸菌、これら両方の乳酸菌)又はその処理物を、ステロイドアルカロイド配糖体(例えば、トマチン、エスクレオサイド)に作用させて、そのアグリコン(例えば、トマチジン、エスクレオゲニン)を製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステロイドアルカロイド配糖体をそのアグリコンに変換する能力を有する乳酸菌又はその処理物を、ステロイドアルカロイド配糖体に作用させてそのアグリコンを生成させることを特徴とするステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンの製造方法。
【請求項2】
ステロイドアルカロイド配糖体がトマチンであり、ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンがトマチジンである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
乳酸菌が、ペディオコッカス(Pediococcus)属に属する乳酸菌又はレビラクトバチルス(Levilactobacillus)属に属する乳酸菌の何れか一方若しくは両方である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ステロイドアルカロイド配糖体をそのアグリコンに変換する能力を有する乳酸菌の生菌又は死菌の何れか一方若しくは両方と、ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンとを含む組成物。
【請求項5】
ステロイドアルカロイド配糖体がトマチンであり、ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンがトマチジンであり、組成物中の前記トマチジンの含有量が乾燥質量換算で0.01~10%以上であり、組成物中の乳酸菌の含有量が乾燥質量1gあたり、1×1013~1×10個である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
乳酸菌が、ペディオコッカス(Pediococcus)属に属する乳酸菌又はレビラクトバチルス(Levilactobacillus)属に属する乳酸菌の何れか一方若しくは両方である、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
請求項4~6のいずれかに記載の組成物を含んでなる、飲食品、化粧品又は医薬品。
【請求項8】
トマト処理物を、水性媒体中で酸を添加することなく加熱することを特徴とするトマチジンの製造方法。
【請求項9】
受託番号NITE P-03879として寄託されているレビラクトバチルス sp.NC4株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンの製造方法に関し、さらに詳しくは、ステロイドアルカロイド配糖体を、そのアグリコンに変換する能力を有する乳酸菌を用いて、ステロイドアルカロイド配糖体から、そのアグリコンを簡便かつ効率的に製造する方法、得られたステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンと、前記乳酸菌とを含有する組成物、新規の前記乳酸菌等に関する。
【背景技術】
【0002】
トマト果実には、トマチンやエスクレオサイドA等のステロイドアルカロイド配糖体が含まれており、またトマトの花や茎葉部、未熟果実には、トマチンが特に豊富に含まれている。これらステロイドアルカロイド配糖体、例えばトマチンは、トマトと同じナス科植物であるジャガイモに含まれるソラニンと類似の化学構造をもち、殺菌作用や昆虫の忌避作用を有し、哺乳動物に対する有毒物質であることが知られている。
【0003】
これに対して、トマチンのアグリコンであるトマチジンには毒性の報告が無く、血中コレステロールの低下や動脈硬化の抑制作用(特許文献1)、筋委縮の低減作用(特許文献2)、抗うつ作用(特許文献3)、肌荒れ抑制作用(特許文献4)等の生理活性作用が報告されている。
【0004】
また、動脈硬化に対する抑制作用が確認されているエスクレオサイドAは、トマトの成熟果実に多く含まれており、トマトの成熟過程でトマチンから生成される(非特許文献1、2)。この動脈硬化に抑制作用は、エスクレオサイドAのアグリコンであるエスクレオゲニンAがより強い作用を示すことが報告されている(非特許文献1)。さらに、エスクレオサイドAは熱によりエスクレオサイドB-1及びB-2に変化する(非特許文献3)。
【0005】
ステロイドアルカロイド配糖体からそのアグリコンを製造する方法、例えばトマチンからトマチジンを製造する化学的方法として、トマト処理物からトマチンを抽出し、それに塩酸溶液を加えて加水分解によりトマチンからトマチジンへ変換し、トマチジンを回収する方法が提案されている(特許文献4、特許文献5)。
【0006】
一方、トマチンを分解して殺菌作用を無くす酵素(トマチナーゼ)をもつ植物病原菌が知られている(非特許文献4)。しかしながら、乳酸菌等の微生物を用いてステロイドアルカロイド配糖体からそのアグリコンを製造する方法、例えばトマチンからトマチジンを製造する方法は、本発明者らの知る限り報告はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-209099号公報
【特許文献2】特許第6175172号公報
【特許文献3】特開2022-53441号公報
【特許文献4】特開2019-210236号公報
【特許文献5】特開2018-184394号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】富永悠幹、永井竜二「トマトに含まれるエスクレオサイドAの研究成果について~動脈硬化のメカニズムとトマトの関係~」話題(野菜情報 2020年3月)https://www.alic.go.jp/content/001174574.pdf
【非特許文献2】Takao Yamanaka et al.,“C22 Isomerization in α-Tomatine-to-Esculeoside A Conversion during Tomato Ripening Is Driven by C27 Hydroxylation of Triterpenoidal Skeleton”, J. Agric. Food Chem. 2009,57, 3786-3791
【非特許文献3】Hideyuki Manabe at al., “Saponins Esculeosides B-1 and B-2 in Italian Canned Tomatoes”, Chem. Pharm. Bull. 61(7) 764-767 (2013)
【非特許文献4】Seipke, R. F.; Loria, R. (2008). “Streptomycess cabies 87-22 Possesses a Functional Tomatinase”. Journal of Bacteriology 190 (23): 7684-7692
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記のとおり、トマチジンは有用な生理活性物質であるが、毒性のあるトマチンをトマチジンへ変換するためには、多くの工程と時間を要し、かつ加水分解に塩酸を加えることから、その生成物の飲食品等への利用も制約を受けざるを得なかった。
【0010】
本発明の課題は、簡便な方法で工業的に効率よく、ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンを製造する方法、飲食品に用い得るステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン含有組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題の解決のために鋭意研究の結果、ステロイドアルカロイド配糖体であるトマチンを含むトマト処理物、例えば、トマトの未熟果実(以下「未熟トマト」ということがある。)処理物を、乳酸菌による発酵(以下「乳酸発酵」ということがある。)に供することにより、トマチンをトマチジンに効率的に変換でき、得られたトマチジン含有組成物をそのまま飲食品に用い得ることを見いだした。また、前記処理物を、酸を加えずに加熱することにより、トマチンをトマチジンに変換できることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)ステロイドアルカロイド配糖体をそのアグリコンに変換する能力を有する乳酸菌又はその処理物を、ステロイドアルカロイド配糖体に作用させてそのアグリコンを生成させることを特徴とするステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンの製造方法。
(2)ステロイドアルカロイド配糖体がトマチンであり、ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンがトマチジンである、上記(1)に記載の製造方法。
(3)乳酸菌が、ペディオコッカス(Pediococcus)属に属する乳酸菌又はレビラクトバチルス(Levilactobacillus)属に属する乳酸菌の何れか一方若しくは両方である、上記(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)ステロイドアルカロイド配糖体をそのアグリコンに変換する能力を有する乳酸菌の生菌又は死菌の何れか一方若しくは両方と、ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンとを含む組成物。
(5)ステロイドアルカロイド配糖体がトマチンであり、ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンがトマチジンであり、組成物中の前記トマチジンの含有量が乾燥質量換算で0.01~10%以上であり、組成物中の乳酸菌の含有量が乾燥質量1gあたり、1×1013~1×10個である、上記(4)に記載の組成物。
(6)乳酸菌が、ペディオコッカス(Pediococcus)属に属する乳酸菌又はレビラクトバチルス(Levilactobacillus)属に属する乳酸菌の何れか一方若しくは両方である、上記(4)又は(5)に記載の組成物。
(7)上記(4)~(6)のいずれかに記載の組成物を含んでなる、飲食品、化粧品又は医薬品。
(8)トマト処理物を、水性媒体中で酸を添加することなく加熱することを特徴とするトマチジンの製造方法。
(9)受託番号NITE P-03879として寄託されているレビラクトバチルス sp.NC4株。
【0013】
また本発明の別の態様として、ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン又はその含有組成物を含んでなる飲食品であって、ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンの投与により、疾患若しくは状態が予防、又は改善することが表示された、前記飲食品が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明における製造方法は、ステロイドアルカロイド配糖体をそのアグリコン(例えば、トマチンをトマチジン、エスクレオサイドをエスクレオゲニン)へ効率よく変換することができる。トマチジンやエスクレオゲニンは、前記のとおり、有用な生理活性作用を有しており、本発明におけるステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン又はその含有組成物(例えば、トマチジン又はトマチジン含有組成物、エスクレオゲニン又はエスクレオゲニン含有組成物)は、飲食品、化粧品、医薬品等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の乳酸菌レビラクトバチルス sp.NC4(Levilactobacillus sp. NC4)(NITE P-03879)の形態を示す顕微鏡写真である。
図2】未熟トマトを用いた、18種の乳酸菌による発酵試験(糖資化性試験)結果を示す図である。
図3】NB17、NC4、及び、NB17とNC4の混合菌の0~72時間培養時のpHの推移を示す図である。
図4】NB17、NC4、及び、NB17とNC4の混合菌の0~72時間培養時のトマチジン含量の推移を示す図である。
図5】NB17とNC4の混合菌の0~48時間培養時のpHの推移を示す図である。
図6】NB17とNC4の混合菌の0~48時間培養時のトマチジン含量の推移を示す図である。
図7】未熟トマト処理物の加熱30分後と60分後のトマチジン含量を示す図である。
図8】トマチジン1000μg/mlのクロマトグラム(測定結果)を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明は、以下の記載内容に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。また、%(パーセント)は特に明記しない限り、質量(wt)%を意味する。
【0017】
(ステロイドアルカロイド配糖体)
本発明において、ステロイドアルカロイド配糖体(steroidal alkaloid glycosides)とは、窒素原子をもつステロイド骨格に糖残基が結合した化合物を意味する。
【0018】
ステロイドアルカロイド配糖体としては、例えば、トマチン(tomatine)(式(I)で表される化合物;Wikipedia;https://ja.wikipedi a.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%81%E3%83%B3より転載)、エスクレオサイドA(Esculeoside A)(式(II)で表される化合物;Chem.Pharm. Bull. 61(7) 764-767 (2013)より転載)、エスクレオサイドB-1(Esculeoside B-1)(式(III)で表される化合物;Chem. Pharm. Bull. 61(7) 764-767 (2013)より転載)、エスクレオサイドB-2(Esculeoside B-2)等を挙げることができる。なお、エスクレオサイドB-1とB-2は22位と23位の炭素の絶対配置が異なる化合物(B-1:22R,23S、B-2:22S,23R)である。なお、本発明において、エスクレオサイドA、B-1及びB-2を「エスクレオサイド」と総称することがある。
【0019】
ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンとしては、例えば、トマチンのアグリコン、エスクレオサイドAのアグリコン、エスクレオサイドB-1のアグリコン、エスクレオサイドB-2のアグリコンを挙げることができ、具体的にはトマチジン(tomatidine)、エスクレオゲニンA(esucleogenin A)、エスクレオゲニンB-1(esucleogenin B-1)、エスクレオゲニンB-2(esucleogenin B-2)等を挙げることができる。なお、本発明において、エスクレオゲニンA、B-1及びB-2を「エスクレオゲニン」と総称することがある。
【0020】
【化1】
【0021】
【化2】
【0022】
【化3】
【0023】
(原料ステロイドアルカロイド配糖体)
本発明の好ましい態様において、原料となるステロイドアルカロイド配糖体は、合成物であってもよく、天然物や天然物の処理物であってもよい。例えば、トマチンやエスクレオサイドは、トマトの花や茎葉、未熟果実等の植物体に含まれており、これらの処理物、特にトマチンは未熟トマトの処理物、エスクレオサイドは成熟トマトの処理物を原料として用いるのが好ましい。
【0024】
ここで、トマト(Solanum lycopersicum L.)はナス科ナス属の植物であって、トマチンやエスクレオサイドを含有するものであれば如何なる品種の植物体であってもよい。本発明においては、トマチンを原料とする場合は、トマトの花や茎葉、未熟果実が好ましく、未熟トマトが特に好ましい。また、エスクレオサイドを原料とする場合は、トマトの成熟果実が好ましい。
【0025】
トマト処理物としては、例えば、トマトの花や茎葉、未熟トマト等の搾汁物、粉砕物、細断物、乾燥物、焙煎物、抽出物、粉末化物、凍結物の他、搾汁・乾燥粉末化物、乾燥物、粉砕・濾過物(ピューレ、ジュース)、細断・熱湯抽出物・缶詰等の処理物、これらの組み合わせ処理物等が挙げられる。
【0026】
(乳酸菌)
本発明で用いられる乳酸菌としては、ステロイドアルカロイド配糖体をそのアグリコンに変換する能力(例えば、トマチンをトマチジンに変換する能力、エスクレオサイドをエスクレオゲニンに変換する能力)を有する乳酸菌であれば特に制限されない。ここで、乳酸菌とは、糖類を発酵してエネルギーを獲得し、多量の乳酸を生成する能力を有する細菌の総称であり、グラム染色は陽性で、カタラーゼを保持せず、通性嫌気性があり、運動性及び内生胞子ともになく、消費したブドウ糖に対して50%以上の乳酸を生成する細菌と定義される(乳酸菌実験マニュアル-分離から同定まで-、朝倉書店、1992年2月25日)。しかしながら、本発明においては、これら性質を全て同時に満たさない、いわゆる広義の乳酸菌であっても、ステロイドアルカロイド配糖体をそのアグリコンに変換する能力(例えば、トマチンをトマチジンに変換する能力、エスクレオサイドをエスクレオゲニンに変換する能力)を有するものであれば特に制限されない。
【0027】
トマチンは、式(I)で表される化合物であり、トマチジンにガラクトース(1つ)、グルコース(2つ)、及びキシロース(1つ)が結合した化合物である。また、エスクレオサイドは、式(II)で表される化合物や式(III)で表される化合物であり、エスクレオゲニンAやエスクレオゲニンB-1のそれぞれに、ガラクトース(1つ)、グルコース(2つ)、及びキシロース(1つ)が結合し、さらにグルコース(1つ)が結合した化合物である。トマチンからトマチジンを生成するためや、エスクレオサイドからエスクレオゲニンAやエスクレオゲニンB-1を生成するためには、これらの糖を加水分解により切断する必要がある。
【0028】
本発明における乳酸菌は、これらの糖(ガラクトース、グルコース、キシロース)から選ばれる少なくとも1種の糖の資化性をもつものが好ましく、また少なくとも2種の糖、例えばグルコースとガラクトースの資化性をもつものが好ましく、さらに3種の糖の資化性をもつものが好ましい。
【0029】
後述する実施例において具体的に示されているとおり、本発明の乳酸菌はトマチンをトマチジンに効率的に変換することができる。上記のとおり、トマチンとエスクレオサイドは、同様に3種の糖により配糖化された化合物である。よって、トマチンに結合した糖を切断する能力を有する乳酸菌であれば、同様にエスクレオゲニンに結合した糖を切断する能力を有すると考えられる。
【0030】
本発明における乳酸菌としては、具体的には、例えば次の属に属する乳酸菌を挙げることができる。
【0031】
レビラクトバチルス(Levilactobacillus)属;例えば、レビラクトバチルス・ブレビス(L. brevis)
【0032】
ラクトバチルス(Lactobacillus)属;例えば、ラクトバチルス・アシドフィルス(L. acidophilus)、ラクトバチルス・ガセリ(L. gasseri)、ラクトバチルス・デルブルエッキイー亜種ブルガリクス(L.delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(L. helveticus)
【0033】
ワイセラ(Weissella)属;例えば、ワイセラ・コンヒューサ(W. confusa)、ワイセラ・チバリア(W. cibaria)
【0034】
ロイコノストック(Leuconostoc)属;例えば、ロイコノストック・メセンテロイデス(L. mesenteroides)、ロイコノストック・メセンテロイデス亜種クレモリス(L. mesenteroides subsp. cremoris)、ロイコノストック・メセンテロイデス亜種デキストラニカム(L. mesenteroides subsp. dextranicum)、ロイコノストック・メセンテロイデス亜種メセンテロイデス(L. mesenteroides subsp. mesenteroides)、ロイコノストック・シトリウム(L. citreum)、ロイコノストック・ガルリカム(L. garlicum)
【0035】
ペディオコッカス(Pediococcus)属;例えば、ペディオコッカス・ペントサセウス(P. pentosaceus)、ペディオコッカス・アシディラクティシ(P.acidilactici)、ペディオコッカス・セリコラ(P.cellicola)
【0036】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属;例えば、ストレプトコッカス・サーモフィリス(S. thermophilus)
【0037】
エンテロコッカス(Enterococcus)属;例えば、エンテロコッカス・フェカリス(E. faecalis)
【0038】
テトラジェノコッカス(Tetragenococcus)属;例えば、テトラジェノコッカス・ハロフィラス(T. halophilus)
【0039】
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属;例えば、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(B. bifidum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(B. breve)、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス(B. animalis subsp. lactis)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B.longum)
【0040】
ラクチプランチバチルス(Lactiplantibacillus)属;例えば、ラクチプランチバチルス・プランタルム(L. plantarum)、ラクチプランチバチルス・プランタルム亜種プランタルム(L.plantarum subsp. plantarum)、ラクチプランチバチルス・ペントーサス(L.pentosus)
【0041】
ラクトコッカス(Lactococcus)属;例えば、ラクトコッカス・クレモリス亜種クレモリス(L. lactis subsp. cremoris)、ラクトコッカス・クレモリス亜種トルクタ(L. lactis subsp. tructae)、ラクトコッカス・ラクティス(L.lactis)、ラクトコッカス・ラクティス亜種ホードニー(L. lactis subsp. hordnie)、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(L. lactis subsp. lactis)
【0042】
ラクチカゼイバチルス(Lacticaseibacillus)属;例えば、ラクチカゼイバチルス・カゼイ(L. casei)、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(L. paracasei)、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ亜種パラカゼイ(L.paracasei subsp. paracasei)、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ亜種トレランス(L.paracasei subsp. tolerans)
【0043】
ラチラクトバチルス(Latilactobacillus)属;例えば、ラチラクトバチルス・サケイ(L.sakei)、ラチラクトバチルス・サケイ亜種カルノサス(L. sakei subsp. carnosus)、ラチラクトバチルス・サケイ亜種サケイ(L. sakei subsp. sakei)、ラチラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)
【0044】
これら乳酸菌の具体的な菌株としては、例えば、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター(NBRC)カタログ等に記載されているか、NITE特許微生物寄託センターに寄託されている次の乳酸菌を挙げることができる。
【0045】
レビラクトバチルス・ブレビス(L. brevis)NBRC3345、同NBRC3960、同NBRC12005、同NBRC12520、同NBRC13109、同NBRC13110、同NBRC107147、同NBRC115323、同NBRC115324、同NBRC115325
レビラクトバチルス sp.NC4(NITE P-03879)
【0046】
ラクトバチルス・アシドフィルス(L.acidophilus)NBRC13951
ラクトバチルス・デルブルエッキイー亜種ブルガリクス(L.delbrueckii subsp. bulgaricus)NBRC13953
【0047】
ラクトバチルス・ヘルベティカス(L.helveticus)NBRC3809、同NBRC15019
【0048】
ワイセラ・コンヒューサ(W. confusa)NBRC3955、同NBRC3957、同NBRC3958、同NBRC106469
ワイセラ・チバリア(W. cibaria)NBRC106073
【0049】
ロイコノストック・メセンテロイデス(L.mesenteroides)NBRC110676、同NBRC114781、同NBRC115205
【0050】
ロイコノストック・メセンテロイデス亜種クレモリス(L.mesenteroides subsp. Cremoris)NBRC102479、同NBRC107766
ロイコノストック・メセンテロイデス亜種デキストラニカム(L.mesenteroides subsp. Dextranicum)NBRC3349、同NBRC100495
ロイコノストック・メセンテロイデス亜種メセンテロイデス(L.mesenteroides subsp. mesenteroides)NBRC3832、同NBRC12060、同NBRC100496
ロイコノストック・ガルリカム(L. garlicum)HFPRC9111(FERM P-20952)
【0051】
ロイコノストック・シトリウム(L. citreum)NBRC102476、同NBRC113243、同NBRC115213、同NBRC115214、同NBRC115215、同NBRC115216
【0052】
ペディオコッカス・ペントサセウス(P.pentosaceus)NBRC3182、同NBRC3891、同NBRC3892、同NBRC3893、同NBRC3894、同NBRC12229、同NBRC12230、同NBRC12232、同NBRC12318、同NBRC101982、同NBRC101983、同NBRC101984、同NBRC101985、同NBRC101986、同NBRC101987、同NBRC107768、同NBRC111689、同NBRC111717、同NBRC115212、ペディオコッカス・ペントサセウス(P. pentosaceus)HFPRC9101(FERM P-20897)
【0053】
ペディオコッカス・アシディラクティシ(P.acidilactici)NBRC3076、同NBRC3885、同NBRC3888、同NBRC12218、同NBRC12231、同NBRC109619、同NBRC111694、同NBRC111695、同NBRC111696、同NBRC111697、同NBRC111698、同NBRC111701、同NBRC111702、同NBRC111703、同NBRC111704、同NBRC111706、同NBRC111707、同NBRC111708、同NBRC111709、同NBRC111710、同NBRC111711、同NBRC111712、同NBRC111713、同NBRC111714、同NBRC111715、同NBRC111716
【0054】
ペディオコッカス・セリコラ(P. cellicola)NBRC106103
ペディオコッカス sp.KB1(NITE P-755)
【0055】
ストレプトコッカス・サーモフィリス(S.thermophilus)NBRC13957、同NBRC111149
【0056】
エンテロコッカス・フェカリス(E. faecalis)NBRC3971、同NBRC3989、同NBRC12580、同NBRC12964、同NBRC12965、同NBRC12966、同NBRC12967、同NBRC12968、同NBRC12969、同NBRC12970、同NBRC100480、同NBRC100481、同NBRC100482、同NBRC100483、同NBRC100484
【0057】
テトラジェノコッカス・ハロフィラス(T. halophilus)NBRC12172、同NBRC109726、同NBRC109727
【0058】
テトラジェノコッカス・ハロフィラス亜種フランドリエンシス(T. halophilus subsp. Flandriensis)NBRC114546
【0059】
テトラジェノコッカス・ハロフィラス亜種ハロフィラス(T.halophilus subsp. Halophilus)NBRC100498
【0060】
ビフィドバクテリウム・ビフィダム(B. bifidum)NBRC100015
ビフィドバクテリウム・ブレーベ(B. breve)NBRC115160
ビフィドバクテリウム・ロンガム(B. longum)NBRC114370、同NBRC114494
【0061】
ラクトコッカス・クレモリス亜種トルクタ(L. lactis subsp. tructae)NBRC110453
【0062】
ラクトコッカス・ラクティス(L. lactis)NBRC114780、同NBRC115162、同NBRC115206
ラクトコッカス・ラクティス亜種ホードニー(L. lactis subsp. hordnie)NBRC100931
【0063】
ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(L. lactis subsp. lactis)NBRC12007、同NBRC100933、同NBRC114714、同NBRC114784
【0064】
ラクチカゼイバチルス・カゼイ(L. casei)NBRC15883、同NBRC101979、同NBRC101980、同NBRC101981
【0065】
ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(L. paracasei)NBRC111693、同NBRC114778、同NBRC114779、同NBRC115701、同NBRC115702
【0066】
ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ亜種パラカゼイ(L. paracasei subsp. paracasei)NBRC3533、同NBRC3953、同NBRC12004、同NBRC14709、同NBRC15889
【0067】
ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ亜種トレランス(L.paracasei subsp. tolerans)NBRC15906
【0068】
ラチラクトバチルス・サケイ(L. sakei)NBRC3541、同NBRC107130
ラチラクトバチルス・サケイ亜種カルノサス(L.sakei subsp. carnosus)NBRC107868
ラチラクトバチルス・サケイ亜種サケイ(L. sakei subsp. sakei)15893
【0069】
ラチラクトバチルス・カルバタス(L. curvatus)NBRC12456、同NBRC15884、同NBRC107129、同NBRC113825
【0070】
これら乳酸菌の中でも、例えば、ペディオコッカス(Pediococcus)属、レビラクトバチルス(Levilactobacillus)属に属する乳酸菌が好ましい。具体的な菌株としては、例えば、ペディオコッカス・ペントサセウスHFPRC9101(FERM P-20897)(以下これを「NB17」ということがある。)、レビラクトバチルス sp.NC4(Levilactobacillus sp. NC4)(NITE P-03879)(以下これを「NC4」とういことがある。)を挙げることができる。これら菌株は、NITE特許微生物寄託センターに上記受託番号として寄託されている。
【0071】
ここで、上記NC4は、本発明者らにより分離された新規乳酸菌株である。その形態(顕微鏡写真)を図1に示すとともに、菌学的性質を以下に示す。
【0072】
細胞形態 桿菌
芽胞 形成せず
グラム染色性 陽性
運動性 非運動性
カタラーゼ反応 陰性
15℃での生育 生育良好
45℃での生育 生育せず
グルコースからのガス生成 陽性
初発pH pH6で増殖可能
【0073】
糖資化性(陽性:+、陰性:-、弱陽性:w)(30℃、3日間培養)
マンニトール (-) マンノース (-)
ラクトース (w) フルクトース (+)
セルビオース (-) メリビオース (+)
メレジトース (-) ラフィノース (w)
マルトース (+) リボース (+)
ソルビトール (-) ラムノース (-)
トレハロース (-) L-アラビノース (+)
サリシン (-) グルコン酸 (-)
スクロース (w) エスクリン (w)
【0074】
これら乳酸菌は単独で使用してもよく、属や種を組み合わせて使用してもよい。乳酸菌の組み合わせる属や種は特に限定されず、いずれの属や種から選択してもよい。それらの中で、ペディオコッカス(Pediococcus)属とレビラクトバチルス(Levilactobacillus)属に属する乳酸菌の組み合わせが好ましく、さらに具体的には、例えばNB17とNC4の組み合わせがより好ましい。
【0075】
また、上記乳酸菌を紫外線、エックス線、薬品等を用いる変異手段や遺伝子組換による形質転換等で変異させることができるが、このような変異株(変異乳酸菌)も、ステロイドアルカロイド配糖体をそのアグリコンに変換する活性を有するかぎり、本発明における乳酸菌として使用することができる。
さらに、動植物等の自然界に存在する乳酸菌をそのまま乳酸発酵の条件を整えて使用してもよい。
【0076】
(乳酸菌の培養)
本発明において、上記乳酸菌を予め培養し、それをステロイドアルカロイド配糖体からそのアグリコンへの変換に用いることが好ましい。すなわち、本発明で用いる乳酸菌は、上記乳酸菌の培養物である。
【0077】
乳酸菌の培養条件は、乳酸菌が培養できる条件であれば特に制限されないが、pH6.0~7.0程度の培地で、培養温度30~40℃、培養時間1~3日間培養することが好ましい。乳酸菌の培養培地としては、通常の乳酸菌の培養に使用される培地であれば用いることができ、例えば炭素源、窒素源、無機塩類及びその他の栄養物質等を含有する天然培地又は合成培地等を用いることができる。培地の形状としては、液体培地、半流動培地、固形培地等が挙げられる。
【0078】
炭素源としては、例えばグルコース、フルクトース、シュークロース、マンノース、マルトース、マンニトール、キシロース、ガラクトース、澱粉、糖蜜、ソルビトール、グリセリン等の糖質及び糖アルコール;酢酸、クエン酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸又はグルコン酸等の有機酸;エタノール又はプロパノール等のアルコール等を挙げることができる。炭素源は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。これら炭素源の培地における濃度は通常0.1~10%程度である。
【0079】
窒素源としては、窒素化合物、例えば塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等の無機若しくは有機アンモニウム化合物、尿素、アンモニア水、硝酸ナトリウム又は硝酸カリウム等を挙げることができる。また、コーンスティープリカー、肉エキス、ペプトン、NZ-アミン、蛋白質加水分解物又はアミノ酸等の含窒素有機化合物等も使用可能である。窒素源は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。窒素源の培地濃度は、使用する窒素化合物によっても異なるが、通常約0.1~10%程度である。
【0080】
無機塩類としては、例えばリン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、塩化ナトリウム、硝酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸コバルト又は炭酸カルシウム等を挙げることができる。これら無機塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。無機塩類の培地濃度は、使用する無機塩によっても異なるが、通常0.01~1.0%程度である。
【0081】
栄養物質としては、例えば肉エキス、ペプトン、ポリペプトン、酵母エキス、乾燥酵母、コーンスティープリカー、脱脂粉乳、脱脂大豆塩酸加水分解物又は動植物若しくは微生物菌体のエキスやそれらの分解物等を挙げることができる。栄養物質の培地濃度は、使用する栄養物質によっても異なるが、通常0.1~10%程度である。
【0082】
培地のpHは、無機の酸又はアルカリ溶液、有機の酸又はアルカリ溶液、アンモニア、pH緩衝液等によって調整する。
【0083】
(乳酸菌の処理物)
本発明における乳酸菌の培養物は、ステロイドアルカロイド配糖体(例えば、トマチン、エスクレオサイド)の存在下で、当該化合物からステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン(例えば、トマチジン、エスクレオゲニン)を生成するために使用するという用途が限定された培養物(乳酸菌自体をも含む)である。本発明においては、前記乳酸菌の培養物を好適に例示することができ、かかる培養物としては、培養液、培養上清を分離した湿菌体、菌体を懸濁した液体、凍結乾燥処理やアセトン処理等による乾燥菌体、これら菌体を担体に結合させた固定化乳酸菌、培養上清等が含まれる。本発明においては、これらを乳酸菌の処理物という。
【0084】
(ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンの製造)
本発明のステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンの製造方法は、ステロイドアルカロイド配糖体をそのアグリコンに変換する能力(例えば、トマチンをトマチジンに変換する能力、エスクレオサイドをエスクレオゲニンに変換する能力)を有する乳酸菌又はその処理物を、ステロイドアルカロイド配糖体に作用させてそのアグリコンを生成させること(例えば、トマチンに作用させてトマチジンを生成させること、エスクレオサイドに作用させてエスクレオゲニンを生成させること)を特徴とする。ここで、「ステロイドアルカロイド配糖体に作用させる」とは、ステロイドアルカロイド配糖体(例えば、トマチン、エスクレオサイド)を含む培地又は水性媒体中で、乳酸菌若しくはその処理物を培養する又はステロイドアルカロイド配糖体(例えば、トマチン、エスクレオサイド)と接触させて、そのアグリコン(例えば、トマチジン、エスクレオゲニン)を生成することを意味する。
【0085】
乳酸菌又はその処理物をステロイドアルカロイド配糖体に作用させる方法は、ステロイドアルカロイド配糖体(例えば、トマチン、エスクレオサイド)と乳酸菌又はその処理物が接触して、ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン(例えば、トマチジン、エスクレオゲニン)が生成し得るものであれば、如何なる条件や方法であってもよい。具体的には、例えばトマト処理物を適当な液体培地に懸濁し、それを加熱殺菌して冷却後に、必要に応じてpHや栄養物質を調整した培地に乳酸菌を加えて培養、好ましくは撹拌しながら培養すればよい。これにより、ステロイドアルカロイド配糖体からそのアグリコン(例えば、トマチンからトマチジン、エスクレオサイドからエスクレオゲニン)が生成する。
【0086】
上記において、「培養」とは、増殖能を乳酸菌のみならず、固定化乳酸菌や増殖能の無い乳酸菌等の乳酸菌の処理物を用いて培養した場合も含むものである。また、得られたステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン(例えば、トマチジン、エスクレオゲニン)を含む培地を「培養物」と総称することがある。
【0087】
また、本発明においては、自然界に存在する乳酸菌が増資し得る条件を整えて、トマト処理物を乳酸発酵に供してもよい。これにより、ステロイドアルカロイド配糖体からそのアグリコン(例えば、トマチンからトマチジン、エスクレオサイドからエスクレオゲニン)が生成する。
【0088】
トマト処理物の加熱殺菌の条件は、特に限定されないが、通常60~121℃、好ましくは70~90℃で、通常15~120分、好ましくは30~60分程度加熱すればよい。
【0089】
反応は、乳酸発酵が可能な条件であれば特に限定されず、pHが通常3.5~7.0、好ましくは4.0~6.5程度、温度が通常20~70℃、好ましくは30~40℃程度、反応時間が通常8~72時間、好ましくは16~32時間程度であればよい。反応に際し、通気は特に必要なく、嫌気的条件でも通気的条件でもよいが、嫌気的条件が好ましい。
【0090】
上記方法により、トマト処理物に含まれるステロイドアルカロイド配糖体の全てをそのアグリコンへ変換することができる。ここで「ステロイドアルカロイド配糖体の全て」とは、例えば、ステロイドアルカロイド配糖体がトマチンの場合、トマト処理物中のトマチン含有量が、完熟トマトに含まれるトマチン含有量以下であることをいう。
【0091】
また、本発明者らの検討により、トマト処理物の加熱殺菌において、トマチンからトマチジンが生成し得ることを見出した。
【0092】
よって、本発明の別の態様により、トマト処理物、好ましくは未熟トマト処理物を、水性媒体中で酸を添加することなく加熱することを特徴とするトマチジンの製造方法が提供される。
【0093】
トマト処理物は、初期pHのままであっても、水性媒体中で加熱することにより、トマチンからトマチジンへの加水分解条件が整い、トマト処理物をより長時間加熱をすれば、トマチンを全てトマチジンへ変換できる。
【0094】
水性媒体には、少なくとも酸を添加しない水であればよい。また加熱温度は、加熱殺菌の温度と同様であればよく、加熱時間は、通常10~180分、好ましくは20~90分、より好ましくは30~60分程度であればよい。
【0095】
(ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン含有組成物)
トマト処理物の培養物又は加熱物(以下「反応液」ということがある。)は、そのままステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン含有組成物、例えばトマチジン又はエスクレオゲニン含有組成物(以下、単に「組成物」ということがある。)として用いることができるが、必要に応じて殺菌後、濃縮や乾燥したものを、当該組成物として用いることもできる。殺菌条件は、前記トマト処理物の加熱殺菌と同等の条件であればよい。
【0096】
反応液の濃縮や乾燥は、必要に応じて賦形剤等を添加し、食品の製造に用い得るそれ自体既知の通常用いられる方法で行えばよい。例えば、噴霧乾燥(スプレードライ)により粉末化する場合は、通常デキストリンを添加して行えばよい。デキストリンの添加量は粉末化が可能な量であれば特に制限されない。
【0097】
本発明の組成物は、少なくともステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン(例えば、トマチジン、エスクレオゲニン)と、ステロイドアルカロイド配糖体をそのアグリコン(例えば、トマチジン、エスクレゲニン)に変換する能力を有する乳酸菌の生菌又は死菌の何れか一方若しくは両方とを含有するものであり、任意の形態(例えば、個体、半固体、液体、粉体)の組成物が含まれるが、長期間保存する場合、粉体の組成物(凍結乾燥粉末)が好ましい。なお、かかる死菌は、通常ステロイドアルカロイド配糖体をそのアグリコンに変換する能力は無くなっている。
【0098】
本発明の組成物において、ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン(例えば、トマチジン、エスクレオゲニン)の含有量は、乾燥質量換算(以下同様)で、下限が通常0.01%以上、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.5%以上である。上限は通常10%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは4%以下である。
【0099】
本発明の組成物に含まれる乳酸菌は、生菌であっても死菌であってもよく、それらの両方であってもよい。その含有量は、1×1013~1×10個/g、好ましくは1×1012~1×10個/g、より好ましくは1×1011~1×10個/gである。
【0100】
本発明の組成物は、通常、ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン、例えばトマチジンやエスクレオゲニン以外のトマト由来成分を含有する。トマト由来成分の含有量は、下限が通常10%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは40%以上であり、上限は通常90%以下、好ましくは75%以下、より好ましくは60%以下であればよい。
【0101】
また本発明の組成物には、噴霧乾燥等の粉末化に際して添加したデキストリンの賦形剤を含んでいてもよい。賦形剤、例えばデキストリンの含有量は、下限が通常10%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは40%以上であり、上限は通常90%以下、好ましくは75%以下、より好ましくは60%以下である。
【0102】
(ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンの分離精製)
ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンは、得られた反応液からそれ自体既知の通常用いられる方法、例えば、必要に応じて沈殿物の除去やpHを調整し、適当な溶媒、好ましくはエタノール等の低級アルコールでステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン(例えば、トマチジン、エスクレオゲニン)を抽出し、必要に応じて、カラムクロマトグラフィー等により精製することにより得ることができる。
【0103】
ここで、本発明において、組成物中に含まれるステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン(例えば、トマチジン、エスクレオゲニン)、又は精製されたトマチジン又はエスクレオゲニンは、薬理学的に許容される塩であってもよく、ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンとは、それら塩を含むものを意味する。
【0104】
(用途)
ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン、例えばトマチジンは、前記のとおり、血中コレステロールの低下や動脈硬化の抑制作用、筋委縮の低減作用、抗うつ作用、肌荒れ抑制作用等の諸種の生理活性作用を有しており、トマチジンの摂取や投与により、これら疾患又は状態(症状)のリスク低減、予防又は改善が期待される。
【0105】
また、エスクレオゲニンは、前記のとおり、動脈硬化に対する抑制作用有しており、エスクレオゲニンの摂取や投与により、これら疾患又は状態(症状)のリスク低減、予防又は改善が期待される。したがって、トマチジンやエスクレオゲニン等のステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンを有効成分として含有する本発明の組成物としては、「血中コレステロールの上昇、動脈硬化、筋委縮、うつ、肌荒れ等の疾患若しくは状態のリスク低減、予防、又は改善のため」という用途に特定されたものが好ましい。
【0106】
よって、本発明の方法で製造されたステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン(例えばトマチジン)やステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン含有組成物(例えばトマチジン含有組成物)は、そのままで、又は必要に応じて適当な成分等を配合して、飲食品、化粧品、医薬品等に用いることができる。
【0107】
すなわち、本発明によれば、上記ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン(例えば、トマチジン、エスクレオゲニン)含有組成物を含んでなる飲食品、化粧品又は医薬品が提供される。ここで「含んでなる」とは、所望する製品形態に応じた生理学的に許容されうる担体や添加剤を含んでいてもよく、また併用可能な他の補助成分を含有する場合も意味する。以下、担体や添加剤、補助成分を「他成分」ということがある。
【0108】
ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコンを有効成分として含有する本発明の飲食品、化粧品、又は医薬品としては、「血中コレステロールの上昇、動脈硬化、筋委縮、うつ、肌荒れ等の疾患若しくは状態のリスク低減、予防、又は改善のため」という用途に特定されたものが好ましい。
【0109】
本発明において、飲食品とは、医薬品以外のものであって、経口摂取可能な形態であればよく特に限定されない。具体的には、例えば、固体、粉末、液体、ゲル状、スラリー状等の即席食品類、飲料類、菓子類、調味料、乳製品、畜産加工品、農産加工品、冷凍食品等が挙げられる。
【0110】
飲食品には、健康食品(例えば、機能性食品、栄養補助食品、健康補助食品、栄養強化食品、栄養調整食品、サプリメント等)、保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等)、特別用途食品(例えば、病者用食品、乳幼児用調整粉乳、妊産婦又は授乳婦用粉乳等)等の他、ステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン、例えばトマチジンやエスクレオゲニンの投与により、疾患又は状態(症状)の発症リスクが低減すること、あるいは、疾患又は状態(症状)が予防又は改善することの表示を付した飲食品のような分類のものも包含される。
【0111】
また飲食品として使用する場合、他成分としては、各種油脂、生薬、アミノ酸、多価アルコール、天然高分子、ビタミン、食物繊維、界面活性剤、精製水、賦形剤、安定剤、pH調製剤、酸化防止剤、甘味料、呈味成分、有機酸等の酸味料、安定剤、フレーバー、着色料、香料等を挙げることができる。
【0112】
また、本発明において、化粧品とは、医薬部外品(薬用化粧品)を含む化粧品であって、例えば、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系等の幅広い形態を取り得る。具体的には、例えば、乳液、クリーム、ローションのようなスキンケア製品や毛髪化粧品等が挙げられる。
【0113】
化粧品として用いる場合、他成分としては、例えば、防腐剤、酸化防止剤、生理活性成分、動物・海藻・微生物・植物由来エキス成分、香料、紛体、アミノ酸、色素、天然ビタミン類等が挙げられる。
【0114】
本発明において、医薬品とは、製剤化のために許容されうる添加剤等の他成分を併用して、常法に従い、経口製剤又は非経口製剤として調製したものである。経口製剤の場合には、経口摂取可能な形態であれば特に限定されない。また、非経口製剤の場合には、注射剤や座剤の形態をとることができる。簡易性の点からは、経口製剤であることが好ましい。
【0115】
製剤化のために許容されうる添加剤等の他成分としては、例えば、生薬、ビタミン、ミネラル等の他に、賦形剤、界面活性剤、被膜剤、油脂類、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸等の酸味料等が挙げられる。
【0116】
また本発明の別の態様によれば、本発明のトマチジン又はトマチジン含有組成物を含んでなる飲食品であって、トマチジンの投与により、疾患若しくは状態が予防、又は改善することが表示された、前記飲食品が提供される。
【0117】
本発明の飲食品、化粧品又は医薬品に含まれる有効成分であるステロイドアルカロイド配糖体のアグリコン(例えばトマチジン)の含有量は、その種類、形態、用途等により一律に規定は難しいが、例えば、0.01~34mg、好ましくは0.1~17mg、より好ましくは1~10mg程度である。さらに、1日あたりに必要な有効成分の量を摂取(塗布又は服用)できるように、1日あたりの有効成分の摂取量を考慮し、飲食品、化粧品又は医薬品中の有効成分の含有量を適宜設定すればよい。また有効成分がエスクレオゲニンの場合も、上記と同様に、1日あたりのエスクレオゲニンの摂取量を考慮し、飲食品、化粧品又は医薬品中のエスクレオゲニンの含有量を適宜設定すればよい。
【実施例0118】
以下に実施例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0119】
[実施例1]凍結乾燥粉末
7,497.44gの未熟トマトのヘタを取り、マイナス80℃で1晩凍結後、1週間凍結乾燥して、粉砕機で粉砕し、未熟トマトの凍結乾燥粉末503.33gを得た(固形分6.71%)。
【0120】
[実施例2]糖資化性試験
トマチンは、トマチジンにガラクトースが1つ、グルコースが2つ、及びキシロースが1つ結合した化合物である(式(I)で表される化合物)。トマチンからトマチジンを生成するためには、これらの糖を加水分解により切断する必要がある。
【0121】
MRSbroth(メルク社製、以下全て同社製)52.2gを秤量し、純水1,000mlに溶解した。5mlずつ分注し、121℃で15分間高圧蒸気滅菌し、室温まで冷却した。マイナス80℃で冷凍保管してある自社菌株18種(図2)を自然解凍し、5mlのMRSbrothに対し、それぞれ0.5mlずつ接種し、35℃で48時間培養した。
【0122】
MRSbrothに試験菌体を接種し、35℃×72時間培養した。培養後、遠心分離(4℃、1,800rpm、15分間)を行い、上清を除去した。5ml滅菌生理食塩水を加えて懸濁し、遠心分離(4℃、1,800rpm、10分間)を行い、上清を除去した。再度5ml滅菌生理食塩水を加えて懸濁し、遠心分離(4℃、1,800rpm、10分間)を行い、上清を除去し、最終的に得られた菌体に滅菌生理食塩水を2ml加えて懸濁した。
【0123】
純水800mlに、プロテオースペプトンを2.0g、酵母エキスを1.5g、Tween20を1ml、酢酸ナトリウム・5水和物を5.0g、硫酸マグネシウム・7水和物を0.492g、りん酸二水素カリウムを2.0g、硫酸マンガン・5水和物を0.8g、ブロモクレゾールパープル(BCP)を0.22g、及び、0.3Mのリン酸緩衝液pH7.5を40ml、それぞれ加え、撹拌し、純水で1000mlにメスアップした(以下「BCP加基質培養液」ということがある。)。
【0124】
BCP加基質培養液、0.4%グルコース水溶液、0.4%ガラクトース水溶液、及び0.4%キシロース水溶液をそれぞれ調製し、121℃で15分間高圧蒸気滅菌後、BCP加基質培養液と0.4%グルコース水溶液を1:1で混合(以下「0.4%グルコース加基質培養液」ということがある。)し、BCP加基質培養液と0.4%ガラクトース水溶液を1:1で混合(以下「0.4%ガラクトース加基質培養液」ということがある。)するとともに、BCP加基質培養液と0.4%キシロース水溶液を1:1で混合(以下「0.4%キシロース加基質培養液」ということがある。)した。
【0125】
96WellマイクロプレートのA1~H1に、BCP加基質培養液を120μlずつ分注するとともに、A2~H2、A3~H3、及びA4~H4に、0.4%グルコース加基質培養液を175μlずつ分注した。また、前記マイクロプレートのA5~H5、A6~H6、及びA7~H7に、0.4%ガラクトース加基質培養液を175μlずつ分注した。また、前記マイクロプレートのA8~H8、A9~H9、及びA10~H10に、0.4%キシロース加基質培養液を175μlずつ分注した。また、前記マイクロプレートのG11に、糖を含まない基質培養液を120μl分注するとともに、D11~F11に、0.4%グルコース加基質培養液を175μlずつ分注した。また、前記マイクロプレートのA11~C11に、0.4%ガラクトース加基質培養液を175μlずつ分注した。また、前記マイクロプレートのA12~C12に、0.4%キシロース加基質培養液を175μlずつ分注した。また、前記マイクロプレートのH11及びD12~H12に、BCP加基質培養液を100μlずつ分注した。
【0126】
菌液を良く懸濁し、前記マイクロプレートのA1~H1、及びG11に、それぞれ130μlずつ加え、ピペッティングを10回行い、撹拌した(以下「混合液」ということがある。)。A1の混合液をA2~A10に、B1の混合液をB2~B10に、C1の混合液をC2~C10に、D1の混合液をD2~D10に、E1の混合液をE2~E10に、F1の混合液をF2~F10に、G1の混合液をG2~G10に、H1の混合液をH2~H10に、G11の混合液をA11~F11、A12~C12に、それぞれ25μlずつ分注した。前記マイクロプレートのH11、及びD12~H12には、滅菌生理食塩水を100μlずつ分注した。
【0127】
マルチスペクトロマイクロプレートリーダ(Thermo社製)を用いて、測定波長405nm、対照波長655nmの2波長での培養0時間の吸光度を測定し、50mlガラスビーカーに純水を10ml入れて角形ジャー内に置き、アネロパック(三菱ガス化学社製)を入れて蓋をし、35℃で72時間嫌気培養した。培養後、マルチスペクトロマイクロプレートリーダ(Thermo社製)を用いて測定波長405nm、対照波長655nmの2波長での培養72時間の吸光度を測定した。
【0128】
スコアの算出を次の計算式にて算出した。
計算式;スコア=405nmの吸光度(培養72時間-培養0時間)-665nmの吸光度(培養72時間-培養0時間)。
スコアが0.7以上を++、0.4以上0.7未満を+、0.2以上0.4未満を±、0.2未満を-として評価した(図2)。
【0129】
グルコースの糖資化性が++、かつガラクトースの資化性が++であり、その中でも菌株が同定されているPediococcus Pentosaceus NB17と唯一キシロースの糖資化性が++だったLevilactobacillus sp. NC4を混合培養することでトマチンからトマチジンを生成する可能性を見出した。
【0130】
[実施例3]NB17、NC4、及び、NB17とNC4の混合菌の0~72時間培養試験
MRSbroth52.2gを秤量し、純水1,000mlに溶解した。5mlずつ分注し、121℃で15分間高圧蒸気滅菌し、室温まで冷却した。マイナス80℃で冷凍保管してあるPediococcus Pentosaceus NB17及びLevilactobacillus sp. NC4を自然解凍し、5mlのMRSbrothに対し、それぞれ0.5mlずつ接種し、35℃で24時間培養した。培養後、遠心分離(4℃、1,800rpm、15分間)を行い、上清を除去した。5ml滅菌生理食塩水を加えて懸濁し、遠心分離(4℃、1,800rpm、10分間)を行い、上清を除去した。再度5ml滅菌生理食塩水を加えて懸濁し、遠心分離(4℃、1,800rpm、10分間)を行い、上清を除去し、最終的に得られた菌体に滅菌生理食塩水を2ml加えて懸濁した。
【0131】
100mlのメディウム瓶を3本用意し、それぞれに未熟トマト凍結乾燥粉末4gを入れ、沸騰させた純水95mlを加え、懸濁した。80℃で30分間加熱殺菌し、室温まで冷却後、5MのNaOHでpH6.5に調整した。それぞれPediococcus Pentosaceus NB17を1ml、Levilactobacillus sp. NC4を1ml、Pediococcus Pentosaceus NB17を0.5ml及びLevilactobacillus sp. NC4を0.5ml加え、35℃で72時間撹拌培養した。培養0、24、48、72時間でサンプリングを行い、pH測定及びトマチジン含量の測定を行った。
【0132】
pHはそれぞれ24時間で4.5以下まで低下しており、その後72時間まで培養してもpHの変化量は0.5以下であり、pHは24時間でほぼ頭打ちとなっていた(図3)。
【0133】
トマチジン含量は、24時間をピークに、48時間以降減少することを確認した(図4)。使用した未熟トマト凍結乾燥粉末100g当たりで、24時間培養時にPediococcus Pentosaceus NB17単独で2242.84mg、Levilactobacillus sp. NC4単独で2353.65mg、Pediococcus Pentosaceus NB17及びLevilactobacillus sp. NC4の混合で2470.58mgであり、混合培養することにより相乗的にトマチジンを生成することを見出した。
【0134】
[実施例4]NB17とNC4の混合菌の0~48時間培養試験
MRSbroth52.2gを秤量し、純水1,000mlに溶解した。5mlずつ分注し、121℃で15分間高圧蒸気滅菌し、室温まで冷却した。マイナス80℃で冷凍保管してあるPediococcus Pentosaceus NB17及びLevilactobacillus sp. NC4を自然解凍し、5mlのMRSbrothに対し、それぞれ0.5mlずつ接種し、35℃で24時間培養した。培養後、遠心分離(4℃、1,800rpm、15分間)を行い、上清を除去した。5ml滅菌生理食塩水を加えて懸濁し、遠心分離(4℃、1,800rpm、10分間)を行い、上清を除去した。再度5ml滅菌生理食塩水を加えて懸濁し、遠心分離(4℃、1,800rpm、10分間)を行い、上清を除去し、最終的に得られた菌体に滅菌生理食塩水を2ml加えて懸濁した。
【0135】
100mlのメディウム瓶に未熟トマト凍結乾燥粉末3.2gを入れ、沸騰させた純水76mlを加え懸濁した。80℃で30分間加熱殺菌し、室温まで冷却後、2MのNaOHでpH6.5に調整した。Pediococcus Pentosaceus NB17(FERM P-20897)を0.4ml加えるとともに、Levilactobacillus sp. NC4(NITE P-03879)を0.4ml加え、35℃で48時間撹拌培養した。培養0、8、16、24、32、40、48時間でサンプリングを行い、pHの測定及びトマチジン含量の測定を行った。
【0136】
pHは16時間で4.5以下まで低下しており、その後48時間まで培養してもpHの変化量は0.5以下であり、pHは16時間でほぼ頭打ちとなっていた(図5)。
【0137】
トマチジン含量は培養8時間をピークに減少するが、16~32時間までは比較的高値で安定しており、40時間以降減少することを確認した(図6)。
【0138】
乳酸菌の培養が定常状態に達する16時間以降、かつトマチジン含量が安定する16~32時間で培養することが最適条件であることを見出した。
【0139】
[実施例5]培養乾燥物量とそのトマチジン含量
MRSbroth52.2gを秤量し、純水1,000mlに溶解した。5mlずつ分注し、121℃で15分間高圧蒸気滅菌し、室温まで冷却した。マイナス80℃で冷凍保管してあるPediococcus Pentosaceus NB17及びLevilactobacillus sp. NC4を自然解凍し、5mlのMRSbrothに対し、それぞれ0.5mlずつ接種し、35℃で24時間培養した。培養後、遠心分離(4℃、1,800rpm、15分間)を行い、上清を除去した。5ml滅菌生理食塩水を加えて懸濁し、遠心分離(4℃、1,800rpm、10分間)を行い、上清を除去した。再度5ml滅菌生理食塩水を加えて懸濁し、遠心分離(4℃、1,800rpm、10分間)を行い、上清を除去し、最終的に得られた菌体に滅菌生理食塩水を2ml加えて懸濁した。
【0140】
100mlのメディウム瓶に未熟トマト凍結乾燥粉末3.8gを入れ、沸騰させた純水90mlを加え懸濁した。80で30分間加熱殺菌し、室温まで冷却後、2MのNaOHでpH6.5に調整した。Pediococcus Pentosaceus NB17を0.5ml加えるとともに、Levilactobacillus sp. NC4を0.5ml加え、35で24時間撹拌培養した。培養後、全量を凍結乾燥し、トマチジン含量の測定を行い、トマチジンを3.38%含む未熟トマト凍結乾燥粉末3.38gを得た。
【0141】
[実施例6]乳酸菌数の測定
BCP加プレートカウントアガール(日水製薬社製)を24.7g秤量し、純水1,000mlに懸濁した。121℃で15分間高圧蒸気滅菌し、50℃で保温した。実施例5の粉末を0.5g秤量し、滅菌生理食塩水を4.5ml加え懸濁した後、さらに滅菌生理食塩水を用いて段階希釈した(以下「希釈溶液」ということがある。)。90mmシャーレに各希釈溶液を1ml添加し、50℃に保温しておいたBCP加プレートカウントアガールを20ml加え緩く撹拌し、乾固させた。角形ジャー内に入れ、アネロパック(三菱ガス化学社製)を入れて蓋をし、35℃で72時間嫌気培養した後、コロニーカウントを行った。
【0142】
実施例5の粉末中にはPediococcus Pentosaceus NB17とLevilactobacillus sp. NC4を合わせて、8.2×10個/g含まれていることを確認した。
【0143】
[実施例7]デキストリン配合試験
MRSbroth52.2gを秤量し、純水1,000mlに溶解した。5mlずつ分注し、121℃で15分間高圧蒸気滅菌し、室温まで冷却した。マイナス80℃で冷凍保管してあるPediococcus Pentosaceus NB17とLevilactobacillus sp. NC4を自然解凍し、5mlのMRSbrothに対し、それぞれ0.5mlずつ接種し、35℃で24時間培養した。培養後、20mlのMRSbrothに対し、それぞれ1mlずつ接種し、35℃で24時間培養した。培養後、全量を混合し、40mlの乳酸菌液を得た。
【0144】
未熟トマト凍結乾燥粉末80gを秤量し、80℃に加温した純水1,900mlを加え、懸濁した。80℃で30分間加熱殺菌し、室温まで冷却後、5MのNaOHでpH6.5に調整した。乳酸菌液20mlを加え、35℃で24時間撹拌培養した。培養後は、不織布で粗ろ過した。
【0145】
500mlずつ3つに分注し、それぞれデキストリンを0%、33%、及び50%となるように加え、噴霧乾燥機SD-1000型(EYELA社製)で噴霧乾燥した。
【0146】
デキストリン0%は粉末が回収不能で、デキストリン33%とデキストリン50%では同程度の粉末を回収することができ、少なくともデキストリンを配合しなければ粉末化ができないことを見出した。さらに、33%では保管中に吸湿が起こり、50%ではそれが抑えられており、トマチジン含有組成物はデキストリンの配合比が高くなるにつれて製品の安定化に繋がることを見出した。
【0147】
[実施例8]加熱によるトマチジンの調製
100mlのメディウム瓶に未熟トマト凍結乾燥粉末4gを入れ、沸騰させた純水95mlを加え、懸濁した。80℃で加熱し、30分後、60分後にサンプリングし、室温まで冷却後、トマチジン含量の測定を行った。
【0148】
トマチジンは30分、60分と時間依存的に増加し、加熱60分後では実施例3や実施例4の培養24時間後と同程度生成していることを確認した(図7)。
【0149】
[実施例9]HPLC分析方法
トマチジンの分析は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による以下の条件に供し、トマチジン含量を測定した。
【0150】
装置:Prominenceシリーズ(島津社製)
カラム:Inertsil NH(250×4.0mm,i.d.,5μm)
カラム温度:20℃
移動相:アセトニトリル/1mMりん酸二水素カリウム、組成(体積比)96/4
流速:1ml/min
検出波長:208nm
【0151】
検量線の作成
トマチジン(CAS:6192-62-7、FW:452.10、≧90%)10mgを計量し、15ml遠沈管に入れた。メタノールを10ml加え、溶解した(1000μg/ml)。メタノールを用いて、100μg/ml、10μg/mlに希釈した。0.45μmフィルターに通し、HPLCに供した(図8)。
【0152】
検体の測定
実施例3、実施例4、及び実施例8では、サンプリングした検体を10ml分取し、実施例5では得られた凍結乾燥粉末200mgを純水9.8mlで溶解した。5Mの水酸化ナトリウムでpH8.5以上に調整し、4000rpm、10分間遠心分離し、上清を捨てた。70%エタノール水溶液10ml加えて懸濁した後、1分間撹拌した。4000rpm、10分間遠心分離し、上清を捨てた。メタノールを8ml加えて懸濁した後、1分間撹拌した。メタノールで10mlにメスアップし、4000rpm、10分間遠心分離した。上清を回収し、0.45μmフィルターに通し、HPLCに供した。測定結果は前記実施例に示したとおりである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8