(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157527
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】光触媒フィルタ
(51)【国際特許分類】
B01J 35/39 20240101AFI20241030BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20241030BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20241030BHJP
B01J 35/56 20240101ALI20241030BHJP
B01J 23/30 20060101ALI20241030BHJP
A61L 9/00 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
B01J35/39
B01J37/08
B01J37/02 301C
B01J35/56 301A
B01J23/30 A
A61L9/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024065916
(22)【出願日】2024-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2023071616
(32)【優先日】2023-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391018341
【氏名又は名称】株式会社NBCメッシュテック
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】直原 洋平
【テーマコード(参考)】
4C180
4G169
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180BB02
4C180BB03
4C180BB06
4C180BB07
4C180BB08
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4C180LL11
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA11
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA17
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4G169BC60A
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4G169HB01
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4G169HB06
4G169HD06
4G169HE01
4G169HF01
4G169HF08
(57)【要約】
【課題】 有害ガス成分を分解することができ、且つ、フィルタ基材である担体から酸化チタン粒子が脱落しにくい光触媒フィルタを提供する。
【解決手段】
金属多孔体からなる担体と、前記担体に担持される、酸化チタン粒子及びタングステン化合物と、を含む光触媒フィルタ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属多孔体からなる担体と、
前記担体に担持される、酸化チタン粒子及びタングステン化合物と、
を含む光触媒フィルタ。
【請求項2】
前記タングステン化合物がタングステン酸および/または酸化タングステンであることを特徴とする請求項1に記載の光触媒フィルタ。
【請求項3】
前記金属多孔体は、前記金属多孔体を構成する金属として、鉄および/またはニッケルを含んでいることを特徴とする請求項1に記載の光触媒フィルタ。
【請求項4】
前記光触媒フィルタにおける前記酸化チタンと前記タングステン化合物の含有比率が、質量比で99:1から85:15である請求項1に記載の光触媒フィルタ。
【請求項5】
前記金属多孔体の空隙率が80%以上99%以下であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒フィルタ。
【請求項6】
前記酸化チタン粒子の平均粒子径が、0.5nm以上、100nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒フィルタ。
【請求項7】
前記酸化チタン粒子の担持量は、前記金属多孔体の体積100cm3に対し、0.2g以上10g以下であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒フィルタ。
【請求項8】
紫外光透過率が1%以上10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒フィルタ。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一つに記載の光触媒フィルタを備えたことを特徴とする有害ガス成分除去装置。
【請求項10】
酸化チタン粒子とタングステン酸粒子が分散する分散液が塗布された金属多孔体を焼成する工程を含む、光触媒フィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、揮発性有機化合物などの有害ガス成分を分解する光触媒フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒を用いた脱臭装置が既に実用化されている。光触媒を用いた脱臭装置は、光触媒をフィルタ基材に固定した光触媒フィルタと、光触媒を活性化する光源とを備えている。光触媒を用いた脱臭装置では、光源を点灯して、光源からの光によって光触媒を活性化させた状態にして、光触媒フィルタへ気体を通すことにより、気体中に含まれる臭気などの有害なガス成分(有害ガス成分)を光触媒フィルタの光触媒で分解するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
光触媒フィルタの多くは光触媒として酸化チタンが使用されているが、種々の改良検討が行われている。例えば、酸化チタンの活性化に必要な光は紫外光であるが、可視光で活性化される酸化タングステンと併用して、紫外光から可視光まで広い波長範囲で使用可能な光触媒の検討が行われている(例えば、特許文献2)。しかし両者併用のみでは十分な光触媒活性が得られないため、鉄化合物を更に含有する光触媒が開発されている(例えば、特許文献3)。鉄化合物を併用する光触媒は、紫外光下においても様々な有機化合物の分解を行うことができる(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-050979号公報
【特許文献2】特開2006-198464号公報
【特許文献3】特開2006-198465号公報
【特許文献4】特開2017-170441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の光触媒フィルタでは、フィルタ基材である担体に固定化した酸化チタン粒子が光触媒フィルタの運搬中や使用中に脱落して、光触媒フィルタによる有害ガス成分の分解活性が低下するという問題が存在する。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、有害ガス成分を分解することができ、且つ、運搬時や使用中に酸化チタン粒子がフィルタ基材である担体から脱落し難い光触媒フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 金属多孔体からなる担体と、前記担体に担持される、酸化チタン粒子及びタングステン化合物と、を含む光触媒フィルタ。
[2] 前記タングステン化合物がタングステン酸および/または酸化タングステンであることを特徴とする[1]に記載の光触媒フィルタ。
[3] 前記金属多孔体は、前記金属多孔体を構成する金属として、鉄および/またはニッケルを含んでいることを特徴とする[1]に記載の光触媒フィルタ。
[4] 前記光触媒フィルタにおける前記酸化チタンと前記タングステン化合物の含有比率が、質量比で99:1から85:15である[1]に記載の光触媒フィルタ。
[5] 前記金属多孔体の空隙率が80%以上99%以下であることを特徴とする[1]に記載の光触媒フィルタ。
[6] 前記酸化チタン粒子の平均粒子径が、0.5nm以上、100nm以下であることを特徴とする[1]に記載の光触媒フィルタ。
[7] 前記酸化チタン粒子の担持量は、前記金属多孔体の体積100cm3に対し、0.2g以上10g以下であることを特徴とする[1]に記載の光触媒フィルタ。
[8] 紫外光透過率が1%以上10%以下であることを特徴とする[1]に記載の光触媒フィルタ。
[9] [1]乃至[8]のいずれか一つに記載の光触媒フィルタを備えたことを特徴とする有害ガス成分除去装置。
[10] 酸化チタン粒子とタングステン酸粒子が分散する分散液が塗布された金属多孔体を焼成する工程を含む、光触媒フィルタの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有害ガス成分を分解することができ、且つ、フィルタ基材である担体から酸化チタン粒子が脱落しにくい光触媒フィルタを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳述する。
【0010】
本実施形態の光触媒フィルタは、臭気を有する揮発性物質、あるいは臭気を有さなくとも人体に有害な揮発性有機化合物(以下、これらを総称して「有害ガス成分」ともいう)を紫外光もしくは可視光の照射のもとで分解することができる光触媒フィルタである。
【0011】
本実施形態の光触媒フィルタにより分解することができる具体的な有害ガス成分としては、揮発性の有機化合物、窒素化合物、硫黄化合物などを挙げることができる。揮発性の有機化合物としては、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどアルデヒド類、吉草酸などの脂肪酸類やヘキサン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類が挙げられる。窒素化合物としてはアンモニアや、トリメチルアミンなどのアミン類が挙げられ、硫黄化合物としては硫化水素、メタンチオールなどのチオール類が挙げられる。本実施形態の光触媒フィルタによれば、これらの有害ガス成分が混合した状態でも、各々の臭気成分を分解することができる。本実施形態の光触媒フィルタは、上述した有害ガス成分の中でも、アセトアルデヒドや酢酸など有機化合物の酸化分解に特に有効である。
【0012】
本実施形態の光触媒フィルタは、金属多孔体からなる担体に、酸化チタン粒子とタングステン化合物が担持されたものである。金属多孔体は外部と連通する多数の細孔を有しており、その細孔の内表面や、細孔の内表面を除く金属多孔体の外表面に酸化チタン粒子とタングステン化合物が担持されている。酸化チタン粒子やタングステン化合物は、金属多孔体からなる担体に直接担持されていてもよいが、バインダーを介して担体に担持されていてもよい。
【0013】
まず、本実施形態の光触媒フィルタに含まれる担体(金属多孔体)について説明する。
【0014】
担体を構成する金属多孔体は、一般的に、ハニカム基材などと比較して比表面積が大きく、内部の連続細孔表面に多量の酸化チタン粒子を担持させることができる。このため、担体として金属多孔体が用いられる場合には、被処理気体との接触効率が高くなり、有害ガス成分の除去効率を高められると同時に、被処理気体を透過させる時の圧力損失を小さくできることが知られている。
【0015】
本実施形態における金属多孔体は、いわゆる海綿状の形状を有しており、内部に微細な三次元の連続細孔を有し、その連続細孔は金属多孔体の外面で外部と開口している。従って、本実施形態で用いられる担体(金属多孔体)は、通気性を有しており、金属多孔体の外面の一方向から気体を当てると、連続細孔内を気体が通過して金属多孔体の反対側の外面など他の外面に気体が通り抜けることができる。このような通気性を有する金属多孔体においては、金属多孔体内部の連続細孔の内表面にその開口部から直接光が照射されるか、連続細孔の内表面で反射した光が連続細孔の内部にまで伝わり、金属多孔体の内部まで光を照射することができる。従って、金属多孔体外部から光を照射すれば、連続細孔の内表面に担持された酸化チタンであっても励起させることができる。その結果、被処理気体中の有害ガス成分は、被処理気体が連続細孔を透過する際に、光励起された酸化チタンに接触して分解される。
【0016】
金属多孔体は、金属から構成される多孔体であり、単体の金属で構成されていてもよく、複数の金属の合金で構成されていてもよい。金属多孔体を構成する金属の種類としては、大気中で安定して使用できる金属元素であることが好ましく、例えば、鉄、亜鉛、ニッケル、チタン、タングステン、銀、銅、アルミニウムなど単体金属や、ステンレス、真鍮、ニッケルクローム、ニッケル-スズ、ニッケル-鉄などの合金が挙げられる。これらの中でも、金属多孔体は、その構成金属として、鉄および/またはニッケルを含んでいることが好ましく、鉄および/またはニッケルのみにより構成されていることがより好ましい。金属多孔体の構成金属として、鉄および/またはニッケルが含まれていると、鉄および/またはニッケルを含まない場合と比較して、酸化チタン粒子の脱落がより抑制されるので好ましい。
【0017】
金属多孔体に占める細孔の状態は、空隙率と、金属多孔体の外面の1インチ当たりの平均セル数(開口部数)で特徴付けられる。
【0018】
空隙率が大きいほど被処理気体が透過しやすく、光触媒フィルタを脱臭装置に組み込んだ場合の圧力損失が小さくなるため、本実施形態における金属多孔体の空隙率は、80%以上99%以下であることが好ましい。金属多孔体の空隙率が80%以上である場合は、空隙率が80%未満である場合と比較し、多孔体を構成する骨格が細くなるため、多孔体内部まで光がより届きやすくなり、酸化チタンをより励起しやすくなる。金属多孔体の空隙率が99%以下である場合には、十分な光触媒活性を示す量の酸化チタンを担持することができ、且つ、光触媒フィルタの担体として十分な機械的を示すことができる。本実施形態において、金属多孔体の空隙率は、当業者に公知な方法により求めることができ、例えば、JIS Z 8807に準じて求めることができる。より具体的には、金属多孔体の空隙率は、下記式(1)から求めることができる。なお、下記式(1)において、Wpは、金属多孔体の重量[g]を示し、Wは、金属多孔体と同じ外形寸法及び同じ金属材料で構成される中実体の重量[g]を示す。
空隙率(%)=(W-Wp)/W×100 ・・・(1)
【0019】
金属多孔体の平均セル数は、金属多孔体の細孔密度に関するパラメーターであり、この値が大きいほど、金属多孔体の比表面積が大きくなり、酸化チタン粒子の担持量を多くすることができ、また被処理気体中の有害ガス成分が酸化チタンと接触しやすくなる。このような観点から、本実施形態における金属多孔体の平均セル数は、10~50PPI(pixel per inch)であることが好ましい。
【0020】
本実施形態において、金属多孔体の平均セル数は、例えば、JIS-K6400-1 付属書1に記載の方法により求めることができる。具体的には、厚さ10mm以上、幅及び長さ100mm以上の試験片を1個採取する。試験装置は、倍率が5倍以上の拡大鏡で、拡大鏡が左右に移動でき、その移動距離を測定できる目盛を装備しているものとする。測定は、試験片を試験装置の台の上に載せ、拡大鏡を移動させながら直線上10mm間のセルの個数を数え、測定箇所は3か所とする。セル数は、次の式(2)によって算出し、3か所のセル数の平均値をJIS Z 8401によって丸めの幅1で丸めた値を平均セル数とする。
N=n×2.5・・・(2)
上記式(2)において、Nはセル数(PPI(個/25mm))を表し、nは上述の10mm間のセルの個数を表す。
【0021】
金属多孔体の形状は、特に限定されるものではなく、球形、直方体、立方体など様々な形状とすることができ、本実施形態の光触媒フィルタを組み込む装置の形状などに応じて適宜設定することができる。
【0022】
本実施形態の光触媒フィルタにおいて、担体は、金属多孔体のみにより構成されていてもよいが、金属多孔体以外の材料を含むものであってもよい。
【0023】
次に、担体(金属多孔体)に担持される成分について説明する。
【0024】
本実施形態の光触媒フィルタでは、担体(金属多孔体)に、酸化チタン粒子とタングステン化合物が担持されている。
【0025】
担体(金属多孔体)に担持される酸化チタン粒子は、酸化チタンからなる粒子である。酸化チタン粒子を構成する酸化チタンは、光触媒活性を有していれば特に限定されるものではなく、例えば、ルチル型の酸化チタンやアナターゼ型の酸化チタンを用いることができるが、アナターゼ型の酸化チタンは光触媒活性が高いので望ましい。
【0026】
なお、酸化チタン粒子は、必ずしも酸化チタンのみにより構成される必要は無く、その製造過程で意図せず生成する酸化チタン以外の物質(例えば、金属チタンなど)や、その製造過程で不可避的に混入する不可避的不純物などの、他の物質が含まれていてもよいが、酸化チタンのみにより構成されていることが好ましい。
【0027】
酸化チタン粒子の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、0.5nm以上100nm以下であることが好ましい。酸化チタン粒子の平均粒子径が0.5nm以上100nm以下であることで、当該範囲外にある場合と比較し、有害ガス成分がより分解されやすくなり、且つ、酸化チタン粒子がより脱落しにくくなる。本明細書において、酸化チタン粒子の平均粒子径は、担体(金属多孔体)に担持させる酸化チタン粒子を、動的光散乱法(DLS法)を用いて測定した体積基準の粒度分布における積算値50%での粒径である。この平均粒子径は市販の粒子計測装置(例えば大塚電子製nanoSAQLAなど)を用いて計測できる。
【0028】
酸化チタン粒子の担持量は、特に限定されるものではないが、酸化チタン粒子の脱落をより抑制する観点から、担体(金属多孔体)の体積100cm3に対し、0.2g以上10g以下であることが好ましく、0.2g以上5g以下であることがより好ましく、0.5g以上3g以下であることが特に好ましい。ここで、本明細書における金属多孔体の体積とはその見掛け上の体積を意味し、空隙部分の体積を含むものである。つまり、金属多孔体がシート形状であるなら、その体積はシート面の面積に厚みを乗じた値であり、円筒形状であるなら、円形となる垂直断面積にそれと直交する高さを乗じた値であり、外形の算術計算によって得られる値である。
【0029】
担体(金属多孔体)に担持されるタングステン化合物としては、例えば、酸化タングステン、タングステン酸、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸アンモニウムパラ五水和物、炭化タングステン、12タングスト(VI)りん酸n水和物などがあげられ、これらの1種又は2以上を用いることができる。
【0030】
担体(金属多孔体)に担持されるタングステン化合物は、前述したタングステン化合物の中でも、光触媒作用を示すタングステン化合物(例えば、酸化タングステン)を用いることが好ましい。担体(金属多孔体)に担持されるタングステン化合物として光触媒作用を示すタングステン化合物が用いられる場合、担体に担持される酸化チタン(酸化チタン粒子)による光触媒作用に加え、タングステン化合物による光触媒作用を得ることができ、有害ガス成分をより分解しやすくなる。
【0031】
また、担体(金属多孔体)に担持されるタングステン化合物は、前述したタングステン化合物の中でも、タングステン酸および/または酸化タングステンであることがより好ましい。担体(金属多孔体)に担持されるタングステン化合物としてタングステン酸や酸化タングステンが用いられると、これら以外のタングステン化合物が用いられる場合と比較して、担体(金属多孔体)からの酸化チタン粒子の脱落を抑制する効果がより高くなる。
【0032】
タングステン酸は、三酸化タングステンの水和物であり、一水和物(WO3・H2O(H2WO4))もしくは二水和物(WO3・2H2O(H4WO5))の構造が一般的に知られているが、担体(金属多孔体)に担持することができるタングステン酸は、三酸化タングステンの水和物であれば、いずれの構造であっても構わない。タングステン酸は、100℃以上の熱処理により酸化タングステン(VI)に変化することが知られている。
【0033】
酸化タングステンは、タングステンの酸化物であり、酸化タングステン(III)(W2O3)、酸化タングステン(IV)(WO2)、及び酸化タングステン(VI)(三酸化タングステン、化学式 WO3)の3種が一般的に知られている。担体(金属多孔体)に担持することができる酸化タングステンは、タングステンの酸化物であればいずれが用いられてもよいが、より強固に酸化チタン粒子を担体(金属多孔体)に担持する観点から、酸化タングステン(VI)であることが好ましい。
【0034】
担体(金属多孔体)に担持されるタングステン化合物の形態は、担体からの酸化チタン粒子の脱落をより抑制する観点から、粒子の形態であることが好ましい。つまり、担体(金属多孔体)には、タングステン化合物として、タングステン化合物からなる粒子(以下、「タングステン化合物粒子」ともいう)が担持されていることが好ましい。なお、タングステン化合物粒子は、必ずしもタングステン化合物のみにより構成される必要は無く、その製造過程で意図せず生成するタングステン化合物以外の物質(例えば、金属タングステンなど)や、その製造過程で不可避的に混入する不可避的不純物などの、他の物質が含まれていてもよいが、タングステン化合物のみにより構成されていることが好ましい。
【0035】
担体(金属多孔体)に対するタングステン化合物粒子の担持形態は、特に限定されるものではなく、例えば、酸化チタン粒子とは別に担体(金属多孔体)に担持されていてもよく、酸化チタン粒子と固結して複合粒子を形成して担体に担持されていてもよい。
【0036】
タングステン化合物粒子の平均粒子径は、担体(金属多孔体)からの酸化チタン粒子の脱落をより抑制する観点から、0.5nm以上100nm以下であることが好ましい。本明細書において、タングステン化合物粒子の平均粒子径は、担体(金属多孔体)に担持させるタングステン化合物粒子を、動的光散乱法(DLS法)を用いて測定した体積基準の粒度分布における積算値50%での粒径である。この平均粒子径は市販の粒子計測装置(例えば大塚電子製nanoSAQLAなど)を用いて計測できる。
【0037】
タングステン化合物の担持量は、特に限定されるものではないが、酸化チタン粒子の脱落をより抑制する観点から、担体(金属多孔体)の体積100cm3に対し、0.002g以上0.9g以下であることが好ましく、0.005g以上0.54g以下であることがより好ましい。
【0038】
本実施形態の光触媒フィルタにおいて、酸化チタン粒子を構成する酸化チタンとタングステン化合物の含有比率(酸化チタン:タングステン化合物)は、特に限定されるものではないが、質量比で99:1から85:15であるのが好ましく、95:5から85:15であることがより好ましい。酸化チタンとタングステン化合物の含有比率が当該範囲内にあることで、タングステン化合物の含有比率が当該範囲よりも低くなる場合と比較し、酸化チタン粒子の脱落がより抑制されやすくなる。また、タングステン化合物は酸化チタンより触媒活性が低いのが一般的であるが、酸化チタンとタングステン化合物の含有比率が当該範囲内にあることで、当該範囲外にある場合や、それらの合計量と同量の酸化チタンが単体で用いられる場合と比較して、光触媒フィルタの光触媒活性がより高くなる。
【0039】
酸化チタン粒子やタングステン化合物は、担体(金属多孔体)に直接担持されていてもよく、担体(金属多孔体)にバインダーを介して担持されていてもよい。酸化チタン粒子やタングステン化合物を担体(金属多孔体)に直接担持する場合には、例えば、化学的な手段(例えば、化学結合)や物理的な手段(例えば、ファンデルワールス力)によって、酸化チタン粒子やタングステン化合物を担体(金属多孔体)に担持することができる。酸化チタン粒子やタングステン化合物を担体(金属多孔体)にバインダーを介して担持する場合、バインダーとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランのようなシラン化合物などを用いることができる。
【0040】
次に本実施形態の光触媒フィルタを製造する方法について説明する。
【0041】
本実施形態の光触媒フィルタは、酸化チタン粒子とタングステン化合物を金属多孔体に担持することで製造することができる。酸化チタン粒子とタングステン化合物を金属多孔体に担持する方法は、従来公知の方法を用いることができ、特に限定されるものではない。
【0042】
以下、酸化チタン粒子とタングステン化合物粒子が担体(金属多孔体)に担持されている光触媒フィルタ(以下、「触媒フィルタA」ともいう)の製造方法の一例について、より具体的に説明する。
【0043】
触媒フィルタAの製造方法は、酸化チタン粒子およびタングステン化合物粒子が分散する分散液を塗布した金属多孔体を焼成する焼成工程(以下、単に「焼成工程」ともいう)を含む。
【0044】
焼成工程で用いられる分散液は、酸化チタン粒子およびタングステン化合物粒子が分散する液体であり、酸化チタン粒子およびタングステン化合物粒子を分散媒に添加して混合することで得ることができる。酸化チタンおよびタングステン化合物を添加する分散媒には、酸化チタン粒子およびタングステン化合物粒子が溶解しない(溶出しない)分散媒を用いることができ、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが使用できる。なお、酸化チタン粒子およびタングステン化合物粒子は、分散媒に添加された後、ビーズミル機等で粉砕処理され、その粒子径が調整されてもよい。
【0045】
焼成工程で用いられる分散液において、酸化チタン粒子やタングステン化合物粒子の含有量は、金属多孔体に対する分散液の塗工量や、金属多孔体に対する酸化チタン粒子やタングステン化合物粒子の担持量に応じて適宜設定することができ、特に限定されるものではない。
【0046】
なお、分散液に含有されるタングステン化合物粒子において、タングステン化合物は、タングステン酸であることが好ましい。つまり、分散液に含有されるタングステン化合物粒子は、タングステン酸からなるタングステン酸粒子であることが好ましい。タングステン化合物粒子を構成するタングステン化合物がタングステン酸であると、タングステン酸以外のタングステン化合物が用いられる場合と比較して、酸化チタン粒子の脱落がより抑制された光触媒フィルタが製造されやすくなる。その理由は明らかになっていないが、焼成工程における焼成処理により、タングステン酸の水和水が失われると同時に酸化チタンもしくは金属多孔体とより強固な結合が形成されることなどが考えられる。
【0047】
焼成工程で用いられる分散液には、酸化チタン粒子およびタングステン化合物粒子に加えて、バインダーが含有されてもよい。金属多孔体に塗布される分散液にバインダーが含有されることで、酸化チタン粒子およびタングステン化合物粒子を、バインダーを介して担体(金属多孔体)に担持することができる。バインダーを用いる場合には、酸化チタン粒子およびタングステン化合物粒子とともにバインダーを分散媒に添加して混合すればよい。
【0048】
バインダーとしてアルコキシシランを用いる場合は、バインダーと共に水も分散媒に投入し、更に数時間撹拌して、酸化チタン粒子およびタングステン化合物粒子が分散する分散液を取得してもよい。なお、アルコキシシランの加水分解を促進させるため、アルコキシシランの投入前もしくは投入後に塩酸や酢酸などの酸を少量分散媒に添加してもよい。分散媒に添加する酸は、分散液を塗布した金属多孔体を焼成する処理等で除去できるよう揮発性の酸を使用するのが好ましい。
【0049】
分散液を塗布した金属多孔体は、フィルタ基材である金属多孔体に上述の分散液を塗布することで得ることができる。分散液を金属多孔体に塗布する方法は、DIp法、スプレー法など当業者に公知の方法を用いることができる。なお、分散液が塗布された金属多孔体は、そのまま焼成されてもよいが、分散液を塗布した金属多孔体から余分な分散液を静置やエアブローなどで除去したり、分散液を塗布した金属多孔体を乾燥させて分散液から分散媒を除去したりしてから、焼成されてもよい。
【0050】
焼成工程において、分散液が塗布された金属多孔体の焼成温度は、100℃以上800℃以下であることが例示でき、酸化チタン粒子の脱落がより抑制された光触媒フィルタが製造されやすくなるため、300℃以上600℃以下であることが好ましい。
【0051】
焼成工程において、分散液が塗布された金属多孔体の焼成時間は、0.5時間以上5時間以下であることが例示でき、酸化チタン粒子の脱落がより抑制された光触媒フィルタが製造されやすくなるため、1時間以上3時間以下であることが好ましい。
【0052】
焼成工程において、分散液が塗布された金属多孔体を焼成する雰囲気は、例えば、大気中であることが例示できる。
【0053】
以上説明した焼成工程を含む製造方法により、酸化チタン粒子とタングステン化合物粒子が担体(金属多孔体)に担持されている光触媒フィルタ(触媒フィルタA)を製造することができる。
【0054】
本実施形態の光触媒フィルタは、紫外光透過率が1%以上であるのが好ましく、1%以上10%以下であるのがより好ましい。本実施形態の光触媒フィルタの紫外光透過率が1%以上であると、光触媒フィルタに照射した紫外光が担体(金属多孔体)内部により効率的に伝達されやすくなり、有害ガス成分の分解活性がより高くなる。一方、紫外光透過率が10%以下である場合は、10%を超える場合と比較して、紫外光が酸化チタンの励起により利用されることとなるため、十分な触媒活性がより得られやすくなる。
【0055】
光触媒フィルタの紫外光透過率は、JIS L 1055の遮光試験に準じて求めることができる。具体的には以下の手順で実施すればよい。内部につや消し黒色塗料を塗布し、その上部に直径100mmの孔を開けた試験箱を用意し、孔から100mmの位置の試験箱内に照度計を設置する。試験箱の上方にUVランプを設置し、照度を100,000±5,000lxに調整する。直径100mmの孔の上に試験片を載せた時の照度を測定し、下記式(3)から透過率を算出する。
透過率(%)={(試験片を装着した時の照度)/(試験片を装着しない時の照度)}×100 ・・・(3)
【0056】
光触媒フィルタの紫外光透過率は、担体(金属多孔体)の厚みを大きくすると減少し、担体(金属多孔体)の空隙率を大きくすると増加する。このため、これらの傾向を考慮して、担体(金属多孔体)の厚みや空隙率を調整し、所望の紫外線透過率とすればよい。
【0057】
本実施形態の光触媒フィルタは、紫外光を含む光が照射された状態で、有害ガス成分を含む被処理気体が酸化チタン粒子に接触するように、有害ガス成分を含む被処理気体を光触媒フィルタに流通させて使用することができる。
【0058】
光触媒フィルタに流通させる被処理気体は、有害ガス成分を含むものであれば、有害ガス成分以外のガス成分が含まれていてもよい。有害ガス成分以外のガス成分としては、例えば、窒素、酸素、二酸化炭素、水蒸気やアルゴンなどの不活性ガスなどを例示することができる。被処理気体に含まれる有害ガス成分の濃度としては、例えば、0.01ppm~10,000ppmであることが例示できる。
【0059】
被処理気体と酸化チタン粒子との接触温度は特に限定しないが、例えば、-40℃以上100℃以下であることが例示でき、有害ガス成分をより効率的に分解する観点からは、0℃以上100℃以下であることが好ましい。
【0060】
光触媒フィルタに流通させる被処理気体の通過面風速は、例えば、0.0033m/s以上2.0m/s以下であることが例示でき、有害ガス成分をより効率的に分解する観点からは、0.0033m/s以上1.0m/s以下であることが好ましい。
【0061】
被処理気体と酸化チタン粒子との接触時間は、酸化チタン粒子の担持量や有害ガス成分の分解率などを考慮して適宜設定することができる。
【0062】
本実施形態の光触媒フィルタは、有害ガス成分除去装置に組み込んで使用することもできる。光触媒フィルタを備える有害ガス成分除去装置としては、例えば、有害ガス成分を含む被処理気体が流通する流路と、当該流路に配置される本実施形態の光触媒フィルタと、本実施形態の光触媒フィルタに紫外光を含む光を照射する光源と、を含む有害ガス成分除去装置を例示することができる。なお、有害ガス成分除去装置には、必要に応じて、被処理気体を加熱する第1のヒーターや、光触媒フィルタを加熱する第2のヒーターが設けられていてもよい。
【0063】
以上説明した本実施形態の光触媒フィルタは、金属多孔体からなる担体に酸化チタン粒子が担持されているため、紫外光を含む光が照射されることで酸化チタンを励起することができ、光触媒フィルタを流通する被処理気体中の有害ガス成分を酸化チタンにより分解することができる。また、本実施形態の光触媒フィルタでは、担体(金属多孔体)に酸化チタン粒子に加えてタングステン化合物が担持されているため、酸化チタン粒子が脱落しにくくなっており、二酸化チタンによる光触媒活性を長期間持続することもできる。
【0064】
なお、担体(金属多孔体)にタングステン化合物が担持されることで、担体(金属多孔体)に担持される酸化チタン粒子の脱落が抑制される理由は明らかになっていないが、タングステン化合物と金属多孔体の金属の間で何らかの反応が起こり、タングステン化合物と金属多孔体の金属との接触界面において強固な接着層が形成されているものと考えられる。強固な接着層とは例えば、酸化タングステン(VI)のような高い酸化数のタングステン化合物と金属多孔体の金属接触面において酸化還元反応が進行し、6価のタングステンが3価や4価に還元される一方、金属多孔体の金属は酸化されて金属多孔体の金属とタングステンの複合酸化物層が形成され、この層が接着層の役割を果たしてタングステン化合物が強固に金属多孔体の金属と結合する。タングステン化合物が金属多孔体と強固に接着することによることによって、酸化チタン粒子がタングステン化合物で強固に保持されて、酸化チタン粒子の脱落が抑制されることなどが推察される。また、タングステン化合物の原料としてタングステン酸やタングステン酸アンモニウムを使用する場合、焼成工程を加えると、金属多孔体の金属とタングステンとの間の酸化還元反応が促進され、前述の水和水やアンモニウムイオンの脱離による効果も加わるので、なお好ましい。
【実施例0065】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
酸化チタン粉末(P25:日本アエロジル製)とタングステン酸(H2WO4:日本無機化学工業製,)をメタノールに懸濁させ、ビーズミルにて分散し、酸化チタン粒子(平均粒子径50nm)およびタングステン酸粒子(平均粒子径50nm)を含有するスラリー(1)を調製した。ニッケルと鉄の合金であるNi-Fe製の金属多孔体(100mm×100mm×10mm、平均セル数25PPI、空隙率96%)にスラリー(1)を重力式ハンドスプレーガンにより噴霧して塗布し、スラリー(1)が塗布された金属多孔体を500℃で1時間焼成処理することで、実施例1の光触媒フィルタを得た。本実施例の光触媒フィルタは、酸化チタン粒子および酸化タングステン(VI)粒子(以下、単に「酸化タングステン粒子」ともいう)が金属多孔体に担持されたものであり、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子の合計担持量(金属多孔体の体積100cm3に対する担持量)は、表1に示す通りであった。
【0067】
(実施例2~4)
金属多孔体に対するスラリー(1)の塗布量を変更したこと以外は実施例1と同様の方法で実施例2~4の光触媒フィルタを得た。実施例2~4の光触媒フィルタにおいて、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子の担持量の合計(金属多孔体の体積100cm3に対する担持量)は、表1に示す通りであった。
【0068】
(比較例1)
実施例1で調製したスラリー(1)において、タングステン酸を添加させなかったこと、及びそれと同量の酸化チタン粉末をさらに添加したこと以外はスラリー(1)と同様にして、酸化チタン粒子を含有するスラリー(2)を調製した。スラリー(1)にかえてスラリー(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の光触媒フィルタを得た。本比較例の光触媒フィルタは、酸化チタン粒子が金属多孔体に担持されたものであり、酸化チタン粒子の担持量(金属多孔体の体積100cm3に対する担持量)は、表1に示す通りであった。
【0069】
(比較例2~3)
金属多孔体に対するスラリー(2)の塗布量を変更したこと以外は比較例1と同様の方法で比較例2~3の光触媒フィルタを得た。比較例2~3の光触媒フィルタにおいて、酸化チタン粒子の担持量(金属多孔体の体積100cm3に対する担持量)は、表1に示す通りであった。
【0070】
<アセトアルデヒド除去試験1>
実施例1~4及び比較例1~3について、試験片(100mm×50mm×10mm)を採取し、JIS R 1701-2(アセトアルデヒド除去性能)に準じてアセトアルデヒド除去試験1を実施した。試験片上での紫外線照度が10.0W/m2となるように光源と試験片の間の距離を調整し、空気にアセトアルデヒドを濃度5ppmにて配合した、温度25℃、相対湿度50%の試験ガスを試験片に試験流量(1L/分。通過面風速:0.0033m/s)にて3時間通してアセトアルデヒド除去試験1を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0071】
<剥離試験>
実施例1~4または比較例1~3について、試験片(50mm×50mm×10mm)を採取し、これを200mlの水に完全に水没させて、超音波洗浄機(アズワン製:ASU-10)を用いて以下の条件で、超音波照射を実施した。
周波数:40kHz
照射時間:5分
【0072】
超音波照射前後の光触媒フィルタの重量を計測し、光触媒フィルタから剥離した粒子の試験面積あたりの剥離量(mg/cm2)を算出した。なお、試験面積には、試験片の上面の面積(50mm×50mm)を用いた。得られた結果を表1に示す。
【0073】
【0074】
表1の結果に示すように、実施例1~4の光触媒フィルタは、光触媒フィルタから剥離した粒子の剥離量が、比較例1~3の光触媒フィルタと比較して低くなっていた。実施例1~4の触媒フィルタからは、酸化チタン粒子だけでなく、酸化タングステン粒子が剥離した可能性もあるが、表1に示す実施例1~4の剥離量が酸化チタン粒子のみの剥離量であると仮定しても、実施例1~4の光触媒フィルタの方が、比較例1~3の光触媒フィルタよりも、酸化チタン粒子が剥離しにくいことが理解できる。この結果から、実施例1~4の光触媒フィルタによれば、酸化チタン粒子が脱落しにくいことが理解できた。
【0075】
また、表1に示すように、実施例1の光触媒フィルタは、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子の合計担持量と同量の酸化チタン粒子のみを担持した比較例1よりも、アルデヒド除去率が高かった。同様に、実施例2、4の光触媒フィルタについても、それぞれ、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子の合計担持量と同量の酸化チタン粒子を担持した比較例2、3よりも、アルデヒド除去率が高かった。
【0076】
(実施例5,6,8~10)
スラリー(1)において、酸化チタン粉末とタングステン酸の配合割合を変化させたこと以外は、実施例2と同様の方法で、実施例5,6,8~10の光触媒フィルタを得た。実施例5,6,8~10の光触媒フィルタにおいて、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子の担持量の合計(金属多孔体の体積100cm3に対する担持量)は、表2に示す通りであった。
【0077】
(実施例7)
実施例2と同様の方法で光触媒フィルタを得た。これを実施例7の光触媒フィルタとした。実施例7の光触媒フィルタにおいて、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子の担持量の合計(金属多孔体の体積100cm3に対する担持量)は、表2に示す通りであった。
【0078】
(比較例4)
比較例2と同様の方法で光触媒フィルタを得た。これを比較例4の光触媒フィルタとした。比較例4の光触媒フィルタにおいて、酸化チタン粒子の担持量(金属多孔体の体積100cm3に対する担持量)は、表2に示す通りであった。
【0079】
<アセトアルデヒド除去試験2>
実施例5~10および比較例4について、試験片(50mm×50mm×10mm)を採取し、JIS R 1701-2(アセトアルデヒド除去性能)に準じてアセトアルデヒド除去試験2を実施した。試験片上での紫外線照度が10.0W/m2となるように光源と試験片の間の距離を調整し、空気にアセトアルデヒドをアセトアルデヒド濃度5ppmにて配合し、温度25℃、相対湿度50%の試験ガスを試験片に試験流量(3L/分、通過面風速:0.02m/s)にて3時間通してアセトアルデヒド除去試験2を実施した。本試験で得られたアセトアルデヒド除去率(%)を表2に示す。
【0080】
<剥離試験>
実施例5~10および比較例4について、試験片(50mm×50mm×10mm)を採取し、これを200mlの水に浸水させて、超音波洗浄機(アズワン製:ASU-10)を用いて以下の条件で、超音波照射を実施した。
周波数:40kHz
照射時間:5分
【0081】
超音波照射前後の光触媒フィルタの重量を計測し、光触媒フィルタから剥離した粒子の試験面積あたりの剥離量(mg/cm2)を算出した。なお、試験面積には、試験片の上面の面積(50mm×50mm)を用いた。得られた結果を表2に示す。
【0082】
【0083】
表2に示すように、実施例5~10の光触媒フィルタは、光触媒フィルタから剥離した粒子の剥離量が、比較例4の光触媒フィルタと比較して低くなっていた。実施例5~10の触媒フィルタからは、酸化チタン粒子だけでなく、酸化タングステン粒子が剥離した可能性もあるが、表2に示す実施例5~10の剥離量が酸化チタン粒子のみの剥離量であると仮定しても、実施例5~10の光触媒フィルタの方が、比較例4の光触媒フィルタよりも、酸化チタン粒子が剥離しにくいことが理解できる。この結果から、実施例5~10の光触媒フィルタによれば、酸化チタン粒子が脱落しにくいことが理解できた。
【0084】
また、表2に示すように、実施例5~10の光触媒フィルタは、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子の合計担持量と同量の酸化チタン粒子のみを担持した比較例4よりも、アルデヒド除去率が高かった。特に、実施例5~8のアセトアルデヒド除去率は、比較例4や実施例9~10のアセトアルデヒド除去率に対して高かった。
【0085】
(実施例11~16)
実施例5~10で用いたNi-Fe製の金属多孔体にかえてニッケル製の金属多孔体(100mm×100mm×10mm、平均セル数25PPI、空隙率96%)を用いたこと以外は、実施例5~10と同様の方法で実施例11~16の光触媒フィルタを得た。実施例11~16の光触媒フィルタにおいて、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子の担持量の合計(金属多孔体の体積100cm3に対する担持量)は、表3に示す通りであった。
【0086】
(比較例5)
比較例4で用いたNi-Fe製の金属多孔体にかえてニッケル製の金属多孔体(100mm×100mm×10mm、平均セル数25PPI、空隙率96%)を用いたこと以外は、比較例4と同様の方法で光触媒フィルタを得た。これを比較例5の光触媒フィルタとした。比較例5の光触媒フィルタにおいて、酸化チタン粒子の担持量(金属多孔体の体積100cm3に対する担持量)は、表3に示す通りであった。
【0087】
<アセトアルデヒド除去試験2>
実施例5~10および比較例4を用いて行ったアセトアルデヒド除去試験2と同様の方法で、実施例11~16および比較例5についてアセトアルデヒド除去試験2を行った。アセトアルデヒド除去率(%)を表3に示す。
【0088】
<剥離試験>
実施例5~10および比較例4を用いて行った剥離試験と同様の方法で、実施例11~16および比較例5について剥離試験を行った。得られた結果を表3に示す。
【0089】
【0090】
表3に示すように、実施例11~16の光触媒フィルタは、光触媒フィルタから剥離した粒子の剥離量が、比較例5の光触媒フィルタと比較して低くなっていた。実施例11~16の光触媒フィルタからは、酸化チタン粒子だけでなく、酸化タングステン粒子が剥離した可能性もあるが、表3に示す実施例11~16の剥離量が酸化チタン粒子のみの剥離量であると仮定しても、実施例11~16の光触媒フィルタの方が、比較例5の光触媒フィルタよりも、酸化チタン粒子が剥離しにくいことが理解できる。この結果から、実施例11~16の光触媒フィルタによれば、酸化チタン粒子が脱落しにくいことが理解できた。
【0091】
また、表3に示すように、実施例11~16の光触媒フィルタは、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子の合計担持量と同量の酸化チタン粒子のみを担持した比較例5よりも、アルデヒド除去率が高かった。特に、実施例11~14のアセトアルデヒド除去率は、比較例5や実施例15~16のアセトアルデヒド除去率に対して高かった。
【0092】
以上より、本発明によれば、有害ガス成分を分解でき、且つ、フィルタ基材である金属多孔体からの酸化チタン粒子の脱落を抑制できる光触媒フィルタを提供できることが理解できた。また、上述した試験結果から、本発明の光触媒フィルタが、触媒活性が長期間持続する光触媒フィルタであることも理解できた。