(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157551
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】絶縁空芯変圧器を用いたインピーダンス整合回路とそれを含む質量分析計
(51)【国際特許分類】
H01J 49/10 20060101AFI20241030BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20241030BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
H01J49/10 500
G01N27/62 G
H01J49/02 200
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024070820
(22)【出願日】2024-04-24
(31)【優先権主張番号】10-2023-0054158
(32)【優先日】2023-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2024-0052522
(32)【優先日】2024-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】522261075
【氏名又は名称】ヨンインエース カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワディム オシポフ
(72)【発明者】
【氏名】金 殷 ド
(72)【発明者】
【氏名】姜 星 遠
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA14
2G041GA29
(57)【要約】
【課題】測定の正確度を高めるための絶縁空芯変圧器を用いたインピーダンス整合回路およびそれを含む質量分析計を提供する。
【解決手段】
本発明の実施形態による質量分析計は、試料導入部と、試料導入部と連結され、試料導入部から導入された試料をイオン化させるプラズマコイルを含むイオン化部と、イオン化部と電気的に連結され、イオン化部にRF電力を供給するように構成されるRF電力供給部と、イオン化部に隣接する抽出レンズおよび抽出レンズから抽出されたイオンビームをガイドするように構成されるガイドレンズを含むイオンレンズ部と、イオンビームを検出するように構成される検出部と、を備える。RF電力供給部は、プラズマコイルのインダクタンス成分による電圧を制御するように構成されるインピーダンス整合回路を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料導入部と、
前記試料導入部と連結され、前記試料導入部から導入された試料をイオン化させるプラズマコイルを含むイオン化部と、
前記イオン化部と電気的に連結され、前記イオン化部にRF電力を供給するように構成されるRF電力供給部と、
前記イオン化部に隣接する抽出レンズ、および前記抽出レンズから抽出されたイオンビームをガイドするように構成されるガイドレンズを含むイオンレンズ部と、
前記イオンビームを検出するように構成される検出部と、を備え、
前記RF電力供給部は、
前記プラズマコイルのインダクタンス成分に起因する電圧を制御するように構成されるインピーダンス整合回路を含む、ことを特徴とする質量分析計。
【請求項2】
前記インピーダンス整合回路は、ノードを介して直列に連結される第1および第2キャパシタを含み、
前記ノードは接地され、
前記第1および第2キャパシタのそれぞれの値を設定して前記電圧を減少させる、ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項3】
前記第1および第2キャパシタのうち前記第1キャパシタが短絡される場合、前記第1キャパシタに連結される前記インピーダンス整合回路の出力端子は接地され、前記第2キャパシタに連結される前記インピーダンス整合回路の出力端子は、前記第1キャパシタが短絡される前の前記第1および第2キャパシタのそれぞれの電圧の和が印加される、ことを特徴とする請求項2に記載の質量分析計。
【請求項4】
前記RF電力供給部は、前記プラズマコイルと誘導結合される誘導結合コイルを含み、
前記誘導結合コイルの両端のRF電位比率を調節するように前記第1および第2キャパシタのそれぞれの値を設定する、ことを特徴とする請求項3に記載の質量分析計。
【請求項5】
前記RF電位比率は、前記第1および第2キャパシタのそれぞれの値の比率に反比例する、ことを特徴とする請求項4に記載の質量分析計。
【請求項6】
前記インピーダンス整合回路は、第1および第2可変キャパシタを含み、
前記インピーダンス整合回路は、前記第1および第2可変キャパシタのそれぞれの値を可変して、前記プラズマコイルの負荷のインピーダンスおよび前記RF電力供給部の出力インピーダンスを整合する、ことを特徴とする請求項2に記載の質量分析計。
【請求項7】
前記インピーダンス整合回路は、入力コイルおよび出力コイルからなる絶縁空芯変圧器を含み、
前記第1可変キャパシタは、前記入力コイルと直列に連結され、
前記第2可変キャパシタは、前記出力コイルと並列に連結される、ことを特徴とする請求項6に記載の質量分析計。
【請求項8】
前記第1可変キャパシタの値を可変して前記負荷のインピーダンスの虚数部を調節する、ことを特徴とする請求項7に記載の質量分析計。
【請求項9】
前記第2可変キャパシタの値を可変して前記負荷のインピーダンスの実数部を調節する、ことを特徴とする請求項7に記載の質量分析計。
【請求項10】
誘導結合されたプラズマコイルにRF電力を供給する電子回路であって、
RF信号を出力するRF電源と、
前記RF信号を処理して出力し、前記プラズマコイルのインダクタンス成分による電圧を制御するように構成されるインピーダンス整合回路と、
前記誘導結合を利用して、前記インピーダンス整合回路から出力された信号に基づく前記RF電力を前記プラズマコイルに供給する誘導結合コイルと、を備え、
前記インピーダンス整合回路は、第1および第2キャパシタのそれぞれの値を設定して前記電圧を制御する、ことを特徴とする電子回路。
【請求項11】
前記第1および第2キャパシタはノードを介して直列に連結され、
前記ノードは接地される、ことを特徴とする請求項10に記載の電子回路。
【請求項12】
前記第1および第2キャパシタのうち前記第1キャパシタが短絡される場合、前記第1キャパシタに連結される前記インピーダンス整合回路の出力端子は接地され、前記第2キャパシタに連結される前記インピーダンス整合回路の出力端子は、前記第1キャパシタが短絡される前の前記第1および第2キャパシタのそれぞれの電圧の和が印加される、ことを特徴とする請求項11に記載の電子回路。
【請求項13】
前記誘導結合コイルの両端のRF電位比率を調節するように前記第1および第2キャパシタのそれぞれの値を設定する、ことを特徴とする請求項12に記載の電子回路。
【請求項14】
前記RF電位比率は、前記第1および第2キャパシタのそれぞれの値の比率に反比例する、ことを特徴とする請求項13に記載の電子回路。
【請求項15】
前記インピーダンス整合回路は、第1および第2可変キャパシタを含み、
前記インピーダンス整合回路は、前記第1および第2可変キャパシタのそれぞれの値を可変して前記プラズマコイルの負荷のインピーダンスおよび前記電子回路の出力インピーダンスを整合する、ことを特徴とする請求項14に記載の電子回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析計に係り、さらに詳しくは絶縁空芯変圧器を用いたインピーダンス整合回路とそれを含む質量分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子状物質などを含む大気および水質の汚染が加速するにつれて、これを測定および分析できる方法が求められている。このような測定および分析のために質量分析計が使用される。
【0003】
質量分析計は、質量分析により化学物質などを識別または分析する機器である。このような質量分析計は、物質の質量を質量電荷比(mass-to-charge ratio)で測定して試料の構成成分を分析する。質量分析計内で多様な方法を使用して試料がイオン化される。イオン化された試料は、電場および/または磁場を通過しながら加速される。すなわち、イオン化された試料の一部または全部は、電場および/または磁場などによって経路が曲がる。検出器は、イオン化された試料を検出する。
【0004】
一方、誘導結合プラズマ(ICP:inductively coupled plasma)を利用する質量分析計では、質量分析計は、プラズマコイルの外部に存在する電場の影響で分析性能が低下する。したがって、プラズマコイルの外部に存在する電場を制御するための方法が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、測定の正確度を高めるための絶縁空芯変圧器を用いたインピーダンス整合回路およびそれを含む質量分析計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態による質量分析計は、試料導入部と、前記試料導入部と連結され、前記試料導入部から導入された試料をイオン化させるプラズマコイルを含むイオン化部と、前記イオン化部と電気的に連結され、前記イオン化部にRF電力を供給するように構成されるRF電力供給部と、前記イオン化部に隣接する抽出レンズおよび抽出レンズから抽出されたイオンビームをガイドするように構成されるガイドレンズを含むイオンレンズ部と、前記イオンビームを検出するように構成される検出部と、を備え、前記RF電力供給部は、前記プラズマコイルのインダクタンス成分による電圧を制御するように構成されるインピーダンス整合回路を含む。
【0008】
本発明の実施形態によれば、前記インピーダンス整合回路は、ノードを介して直列に連結される第1および第2キャパシタを含み、前記ノードは接地され、前記第1および第2キャパシタのそれぞれの値を設定して前記電圧を減少させる。
【0009】
本発明の実施形態によれば、前記第1および第2キャパシタのうち前記第1キャパシタが短絡される場合、前記第1キャパシタに連結される前記インピーダンス整合回路の出力端子は接地され、前記第2キャパシタに連結される前記インピーダンス整合回路の出力端子は前記、第1キャパシタが短絡される前の前記第1および第2キャパシタのそれぞれの電圧の和が印加される。
【0010】
本発明の実施形態によれば、前記RF電力供給部は、前記プラズマコイルと誘導結合される誘導結合コイルを含み、前記誘導結合コイルの両端のRF電位比率を調節するように前記第1および第2キャパシタのそれぞれの値を設定する。
【0011】
本発明の実施形態によれば、前記RF電位比率は、前記第1および第2キャパシタのそれぞれの値の比率に反比例する。
【0012】
本発明の実施形態によれば、前記インピーダンス整合回路は、第1および第2可変キャパシタを含み、前記インピーダンス整合回路は、前記第1および第2可変キャパシタのそれぞれの値を可変して、前記プラズマコイルの負荷のインピーダンスと前記RF電力供給部の出力インピーダンスを整合する。
【0013】
本発明の実施形態によれば、前記インピーダンス整合回路は、入力コイルおよび出力コイルからなる絶縁空芯変圧器を含み、前記第1可変キャパシタは前記入力コイルと直列に連結され、前記第2可変キャパシタは前記出力コイルと並列に連結される。
【0014】
本発明の実施形態によれば、前記第1可変キャパシタの値を可変して前記負荷のインピーダンスの虚数部を調節する。
【0015】
本発明の実施形態によれば、前記第2可変キャパシタの値を可変して前記負荷のインピーダンスの実数部を調節する。
【0016】
本発明の実施形態による誘導結合されたプラズマコイルにRF電力を供給する電子回路は、RF信号を出力するRF電源と、前記RF信号を処理して出力し、前記プラズマコイルのインダクタンス成分による電圧を制御するように構成されるインピーダンス整合回路と、前記誘導結合を利用して、前記インピーダンス整合回路から出力される信号に基づく前記RF電力を前記プラズマコイルに供給する誘導結合コイルと、を備え、前記インピーダンス整合回路は、第1および第2キャパシタのそれぞれの値を設定して前記電圧を制御する。
【0017】
本発明の実施形態によれば、前記第1および第2キャパシタはノードを介して直列に連結され、前記ノードは接地される。
【0018】
本発明の実施形態によれば、前記第1および第2キャパシタのうち前記第1キャパシタが短絡される場合、前記第1キャパシタに連結される前記インピーダンス整合回路の出力端子は接地され、前記第2キャパシタに連結される前記インピーダンス整合回路の出力端子は、前記第1キャパシタが短絡される前の前記第1および第2キャパシタのそれぞれの電圧の和が印加される。
【0019】
本発明の実施形態によれば、前記誘導結合コイルの両端のRF電位比率を調節するように前記第1および第2キャパシタのそれぞれの値を設定する。
【0020】
本発明の実施形態によれば、RF電位比率は、前記第1および第2キャパシタのそれぞれの値の比に反比例する。
【0021】
本発明の実施形態によれば、前記インピーダンス整合回路は第1および第2可変キャパシタを含み、
前記インピーダンス整合回路は、前記第1および第2可変キャパシタのそれぞれの値を可変して、前記プラズマコイルの負荷のインピーダンスと前記電子回路の出力インピーダンスを整合する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、インピーダンス整合回路は、プラズマコイルのインダクタンス成分による質量分析計の性能低下を防止できる。プラズマコイルの外部に分布する電場の影響を最小限に抑えることができる。これによって、本発明による質量分析計の性能が向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態による質量分析計の例を示す概念図である。
【
図2】本発明の一実施形態によるRF電力供給部の例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態によるRF電力供給部およびプラズマコイルの具体的な例を示す回路図である。
【
図4a】イオン化部の内部のイオン化された試料の流れを示す図である。
【
図4b】イオン化部の内部のイオン化された試料の流れを示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態によるインピーダンス整合の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明の技術分野における通常の知識を有する者が本発明を容易に実施することができるように、本発明の実施形態が明確かつ詳細に記載される。
【0025】
図1は、本発明の実施形態による質量分析計を説明するための概念図である。
【0026】
図1を参照すると、本発明による質量分析計10は、試料導入部100、イオン化部200、インターフェース部300、イオンレンズ部400、反応部500、質量分離部600および検出部700を含む。本発明による質量分析計10は、誘導結合プラズマ(ICP:inductively coupled plasma)を利用する質量分析計10であると図示および説明するが、これは例としてのものだけであり、本発明はこれに限定されず、本発明による質量分析計10は、以下で図示および説明されるイオンレンズ部400を含む多様な方式の質量分析計10であり得る。
【0027】
試料導入部100は、ネブライザー110およびスプレーチャンバー120を含む。ネブライザー110は、液体状態の試料をエアロゾル(aerosol)状態に変えてスプレーチャンバー120の内部に注入する。スプレーチャンバー120はネブライザー110と連結される。スプレーチャンバー120は試料の変動を減らし、後述するイオン化部200に移動する試料の大きさおよび量を一定にする。具体的には、スプレーチャンバー120は、温度制御によって比較的サイズの大きいエアロゾルを除去し、比較的サイズの小さいエアロゾルのみがイオン化部200に移動できるようにエアロゾルの流れを制御する。図示していないが、少なくとも1つのガス供給管を介してネブライザー110および/またはスプレーチャンバー120にキャリアガス(carrier gas)が供給され得る。キャリアガスは、試料をプラズマPに導く。
【0028】
イオン化部200は、試料導入部100と連結される。イオン化部200は、例えばプラズマトーチ(plasma torch)と称される。イオン化部200は、第1チューブ210、第2チューブ220、第3チューブ230、RF電力供給部260およびプラズマコイル270を含む。
【0029】
第1チューブ210は、試料導入部100のスプレーチャンバー120と連結され、イオン化部200の最も内側に配置される。第3チューブ230はイオン化部200の最も外側に配置され、第2チューブ220は第1チューブ210と第3チューブ230との間に配置される。第2チューブ220および第3チューブ230は、それぞれ第1ガス供給管240および第2ガス供給管250と連結される。第1~第3チューブ(210、220、230)は、それぞれ第1方向D1に延びる中空の柱状を有し得る。第1~第3チューブ(210、220、230)は、第1方向D1と直交する平面に切断した断面積の観点から、中心軸が互いに一致する同心円形状を有し得る。第1~第3チューブ(210、220、230)は、例えば石英(Quartz)、アルミナ(alumina)、プラチナ(platinum)またはサファイア(sapphire)からなる。
【0030】
第1チューブ210を通して試料およびキャリアガスが移動し、第1ガス供給管240および第2チューブ220を通して補助ガス(auxiliary gas)が移動し、第2ガス供給管250および第3チューブ230を通して冷却ガス(coolant gas)が移動する。補助ガスは、プラズマPとの接触によって第1および第2管(210、220)の端部が損傷するのを防止または最小化する。冷却ガスは、プラズマPとの接触によって第3チューブ230の内壁が損傷するのを防止または最小化する。キャリアガス、補助ガスおよび冷却ガスは、例えばアルゴン(Ar)を含む。
【0031】
RF電力供給部260は、プラズマコイル270にRF電力を供給する。例えば、RF電力供給部260は、プラズマコイル270に最大電力を伝達するように構成される。RF電力供給部260に関する詳しい説明は、
図2および
図3で後述する。
【0032】
プラズマコイル270は、例えば、第3チューブ230の外部を少なくとも2回以上包む螺旋形状を有する。プラズマコイル270は、イオン化部200の内部に時間的に変化する強い電磁場を生成する。例えば、プラズマコイル270は、RF電力供給部260から供給されたRF電力に基づいて、イオン化部200の内部に時間的に変化する強い電磁場を生成する。プラズマコイル270によって生成された電磁場は、内部のガスを放電させてプラズマPを生成する。高温のプラズマPは、試料導入部100から導入されたエアロゾル状態の試料をイオン化させる。
【0033】
インターフェース部300は、イオン化部200で生成されたプラズマPからイオン化された試料をイオンビームの形態で抽出する。インターフェース部300は、第1方向D1でイオン化部200に隣接する。インターフェース部300は、チャンバーCHに連結される。インターフェース部300は、イオン化部200とチャンバーCHとの間に設けられる。図示されていないが、インターフェース部300は、イオンビームを抽出するサンプラーコーン(sampler cone)およびスキマーコーン(skimmer cone)を含む。サンプラーコーンおよびスキマーコーンは、例えば、第1方向D1に向かうほど第2方向D2に幅が広くなるコーン形状を有する。
【0034】
チャンバーCHの内部にイオンレンズ部400、反応部500、質量分離部600および検出部700が設けられる。チャンバーCHの内部は、真空状態に維持される。イオンレンズ部400、反応部500、質量分離部600および検出部700のうちの少なくとも1つ以上は、例えばチャンバーCH内部のサブチャンバー内に設けられ、サブチャンバーは、チャンバーCHの内部よりも高い真空状態に維持される。イオンレンズ部400、反応部500、質量分離部600および検出部700は、例えば、第1方向D1に沿って配列されるが、本発明はこれに限定されない。
【0035】
イオンレンズ部400は、インターフェース部300と反応部500との間に設けられる。 イオンレンズ部400は、少なくとも1つ以上のレンズを含み、1つ以上のレンズを通じてフォトン、中性粒子などを遮断し、分析対象となるイオンの経路を制御する。例えば、イオンレンズ部400は、イオンビームを抽出する抽出レンズと、抽出レンズから抽出されたイオンビームをガイドするように構成されるガイドレンズを含む。
【0036】
反応部500は、イオンレンズ部400と質量分離部600との間に設けられる。反応部500は衝突/反応セル(collision/reaction cell)と称され得る。図示していないが、少なくとも1つのガス供給管を介して反応部500に衝突/反応ガスが供給される。衝突/反応ガスは、反応部500内部の多様なイオンと衝突し、妨害イオン(例えば、40Ar、40Ar16O、38ArHなど)を非妨害種に変換させたり、分析対象となるイオンを他の質量を有するイオンに変換させたりする。
【0037】
質量分離部600は、反応部500と検出部700との間に設けられる。質量分離部600は、例えば、四重極子(quadrupole)方式、二重収束磁気セクタ(double focusing magnetic sector)方式または飛行時間(time-of-flight)方式を用いることができ、イオンを質量電荷比(m/z)によって分離する。
【0038】
検出部700は、質量分離部600の末端に隣接し、質量分離部600で分離された分析対象となるイオンの質量スペクトルを検出する。 検出部700は、例えば、チャネル電子増倍管(channel electron multiplier)、ファラデーカップ(Faraday cup)または離散ダイノード電子増倍管(discrete dynode electron multiplier)を用いることができる。
【0039】
図2は、本発明の一実施形態によるRF電源の一例を示す。
図1および
図2を参照すると、RF電力供給部260は、RF電力供給回路261、インピーダンス整合回路262およびRF電力送信回路263を含む。
【0040】
RF電力供給回路261は、RF周波数を有する信号(以下、「RF信号」と称する)をインピーダンス整合回路262に出力する。例えば、RF電力供給回路261は、高周波信号をインピーダンス整合回路262に出力する。
【0041】
インピーダンス整合回路262は、RF電力供給回路261からRF信号を受信し、受信したRF信号を処理して伝達する。例えば、インピーダンス整合回路262は、RF電力供給回路261から高周波信号を受信し、受信した高周波信号を増幅してRF電力送信回路263に伝達する。
【0042】
インピーダンス整合回路262は、プラズマコイル270に供給されるRF電力を調節する。例えば、インピーダンス整合回路262は、RF電力送信回路263に伝達されるRF電位比率を設定して、プラズマコイル270に供給されるRF電力を調節する。
【0043】
インピーダンス整合回路262は、プラズマコイル270の負荷のインピーダンスとRF電力供給部260の出力インピーダンスとを整合させる。例えば、インピーダンス整合回路262は、プラズマコイル270の負荷のインピーダンスとインピーダンス整合回路262の出力インピーダンスとを整合させる。整合した結果、インピーダンス整合回路262は、RF電力をプラズマコイル270に効率的に供給でき、プラズマコイル270からの反射電力を防止する。ここで、反射電力とは、プラズマコイル270に供給されるRF電力のうち、少なくとも一部がプラズマコイル270から反射されてRF電力供給部260に戻る電力を意味する。
【0044】
RF電力送信回路263は、インピーダンス整合回路262から処理された信号を受信する。RF電力送信回路263は、受信した信号に基づいてプラズマコイル270にRF電力を供給する。例えば、RF電力送信回路263は、誘導結合方式を利用して、受信した信号に基づくRF電力をプラズマコイル270に供給する。
【0045】
図3は、本発明の一実施形態によるRF電力供給部およびプラズマコイルの具体的な例を示す回路図である。
図1~
図3を参照すると、RF電力供給部260とプラズマコイル270aは、誘導結合される。
【0046】
RF電力供給回路261は、RF電源261aを含む。RF電源261aは、RF信号をインピーダンス整合回路262に出力する。例えば、RF電源261aは、高周波信号をインピーダンス整合回路262に出力する。RF電源261aの第1端はインピーダンス整合回路262に連結され、第2端は接地される。
【0047】
インピーダンス整合回路262は、絶縁空芯変圧器262a、入力固定キャパシタ262b、入力可変キャパシタ262c、出力可変キャパシタ262dおよび出力固定キャパシタ262e、262fを含む。
【0048】
一実施形態では、インピーダンス整合回路262は、インピーダンス整合回路262を囲むメタルボックスをさらに含む。メタルボックスは接地されてもよい。メタルボックスは、インピーダンス整合回路262と電気的に絶縁されるように構成される。
【0049】
絶縁空芯変圧器(isolated air core transformer)262aは、入力コイル262a_1および出力コイル262a_2を含む。絶縁空芯変圧器262aは、RF電源261aから受信されたRF信号を処理して出力する。 例えば、絶縁空芯変圧器262aは、RF電源261aから受信された信号を増幅して出力する。
【0050】
一方、インピーダンス整合回路262は、絶縁空芯変圧器262aの入力コイル262a_1および出力コイル262a_2を基準にして区分または絶縁される。例えば、インピーダンス整合回路262は、入力コイル262a_1を含む1次回路および出力コイル262a_2を含む2次回路に分けられ、1次回路および2次回路は互いに絶縁される。
【0051】
一実施形態では、2次回路は共振タンクを構成する。例えば、出力コイル262a_2、出力可変キャパシタ262d、出力固定キャパシタ262e、262fは共振タンクを構成する。2次回路が共振タンクを構成する場合、2次回路はRF電力を安定して伝達するために周波数をフィルタリングする。なお、2次回路は、RF電力によるエネルギーを安定的に充電および放出して、RF電力を一定に供給できる。
【0052】
一実施形態では、絶縁空芯変圧器262aの外部を絶縁物質でコーティングされる。絶縁物質は、電気的に非導電性物質である。
【0053】
一実施形態では、絶縁空芯変圧器262aの入力コイル262a_1および出力コイル262a_2のそれぞれの外部は、絶縁物質でコーティングされる。
【0054】
入力固定キャパシタ262bは、入力コイル262a_1による漏れインダクタンスを補償するために、入力コイル262a_1と並列に連結される。例えば、入力固定キャパシタ262bおよび入力コイル262a_1のそれぞれの第1端は、RF電源261aに連結される。入力固定キャパシタ262bおよび入力コイル262a_1のそれぞれの第2端は、入力可変キャパシタ262cの第1端に連結される。入力可変キャパシタ262cの第2端は接地され得る。
【0055】
出力可変キャパシタ262dは、出力コイル262a_2と並列に連結される。例えば、出力可変キャパシタ262dの第1端は出力コイル262a_2の第1端に連結され、出力可変キャパシタ262dの第2端は、出力コイル262a_2の第2端に連結される。
【0056】
インピーダンス整合回路262は、入力可変キャパシタ262cおよび出力可変キャパシタ262dの値を可変し、プラズマコイル270aの負荷270b(以下で、「負荷270b」と称する)のインピーダンスと、RF電力供給部260の出力インピーダンスとを整合させる。例えば、インピーダンス整合回路262は、負荷270bのインピーダンスの虚数部がRF電力供給部260の出力インピーダンスの虚数部に対応するように、入力可変キャパシタ262cの値を可変する。インピーダンス整合回路262は、負荷270bのインピーダンスの実数部がRF電力供給部260の出力インピーダンスの実数部に対応するように出力可変キャパシタ262dの値を可変する。
【0057】
出力固定キャパシタ262e、262fは直列に連結される。直列に連結された出力固定キャパシタ262e、262fは、出力コイル262a_2および出力可変キャパシタ262dのそれぞれと並列に連結される。例えば、出力固定キャパシタ262eの第1端、出力コイル262a_2の第1端、および出力可変キャパシタ262dの第1端は連結される。出力固定キャパシタ262fの第2端、出力コイル262a_2の第2端、および出力可変キャパシタ262dの第2端は連結される。
【0058】
出力固定キャパシタ262eの第2端および出力固定キャパシタ262fの第1端は、ノードNで連結される。ノードNは接地されてもよい。以下では、このような構造をセンタータップ(CT:center tap)構造と称する。
【0059】
インピーダンス整合回路262は、センタータップCT構造を用いて出力端子OT1、OT2のRF電位比率を調節する。出力端子OT1、OT2のRF電位比率は、出力固定キャパシタ262e、262fの値の比率に反比例する。インピーダンス整合回路262は、出力固定キャパシタ262e、262fの値を設定(またはチューニング)して、出力端子OT1、OT2のRF電位比率を調節する。
【0060】
例えば、出力固定キャパシタ262e、262fのうち出力固定キャパシタ262eが短絡される場合、出力固定キャパシタ262eに連結された出力端子OT1は、センタータップCT構造により接地され、出力端子OT2には、最大電圧(すなわち、出力固定キャパシタ262eが短絡される前の出力固定キャパシタ262e、262fのそれぞれの電圧の和)が印加される。
【0061】
例えば、出力固定キャパシタ262e、262fのうち出力固定キャパシタ262fが短絡される場合、出力固定キャパシタ262fに連結された出力端子OT2は、センタータップCT構造により接地され、出力端子OT1には、最大電圧(すなわち、出力固定キャパシタ262fが短絡される前の出力固定キャパシタ262e、262fのそれぞれの電圧の和)が印加される。
【0062】
前述したように、インピーダンス整合回路262は、センタータップCTを有する出力固定キャパシタ262e、262fの値を設定して、出力端子OT1、OT2のRF電位比率を調節する。
【0063】
一実施形態では、インピーダンス整合回路262は、プラズマコイル270aの寄生キャパシタンス「C」成分を考慮して出力固定キャパシタ262e、262fの値を設定する。
【0064】
一実施形態では、インピーダンス整合回路262は、出力固定キャパシタ262e、262fとそれぞれ並列に連結されるスイッチをさらに含み得る。例えば、第1スイッチは出力固定キャパシタ262eと並列に連結され、第2スイッチは出力固定キャパシタ262fと並列に連結される。この場合、第1スイッチがオンになると第2スイッチはオフになり、第1スイッチがオフになると第2スイッチがオンになる。出力固定キャパシタ262e、262fのそれぞれは、スイッチのオン/オフ動作によって短絡される。
【0065】
RF電力送信回路263は、出力端子OT1、OT2および誘導結合コイル263aを含む。誘導結合コイル263aの第1端は出力端子OT1に連結され、第2端は出力端子OT2に連結される。誘導結合コイル263aは、誘導結合方式を用いて、インピーダンス整合回路262から受信された信号に基づくRF電力をプラズマコイル270aに供給する。例えば、誘導結合コイル263aは、誘導結合コイル263aの第1端および第2端のそれぞれのRF電位(すなわち、出力端子OT1、OT2のそれぞれのRF電位)に基づくRF電力をプラズマコイル270aに供給する。
【0066】
一実施形態では、出力端子OT1、OT2はインピーダンス整合回路262と電気的に絶縁されてもよい。
【0067】
一方、プラズマコイル270aがRF送信回路263からRF電力を受けた場合、プラズマコイル270aの周辺には電場が形成される。プラズマコイル270aは、周辺に形成された電場の影響を受ける。
【0068】
例えば、プラズマコイル270aには、プラズマコイル270aの「L」成分により電場を形成する電圧(以下、「プラズマコイル電圧」と称する)が発生する。プラズマコイル電圧はプラズマポテンシャルを発生させ、プラズマポテンシャルはイオン化部200の内部のイオン化された試料が持っているエネルギーを増加させる。すなわち、サンプラーコーンに投入されるイオン化された試料の速度は増加し、これはイオンの損失をもたらす。
【0069】
本発明では、センタータップ構造を用いて出力端子OT1、OT2のRF電位比率を任意に設定できる。すなわち、本発明によるインピーダンス整合回路262は、プラズマコイル電圧を減らすために、センタータップCT構造を有する出力固定キャパシタ262e、262fの値を設定して出力端子OT1、OT2のRF電位比率を任意に設定できる。例えば、インピーダンス整合回路262は、プラズマコイル電圧が「0」になるように出力固定キャパシタ262e、262fの値を設定する。
【0070】
図4aおよび
図4bは、イオン化部の内部のイオン化された試料の流れを示す。
図4aおよび
図4bにおいて、矢印の太さは、イオン化された試料が有するエネルギーの強度、またはイオン化された試料の速度の大きさを表すと仮定する。例えば、矢印の太さが太いほど、イオン化された試料が有するエネルギーの強度またはイオン化された試料の速度の大きさは大きいと仮定する。
【0071】
図4aは、センタータップCT構造が適用されていない場合のイオン化された試料の流れを示す。
図1、
図3および
図4aを参照すると、RF送信回路263からRF電力を供給された場合、プラズマコイル270aにはプラズマコイル270aの「L」成分によって、プラズマコイル電圧Vpが発生する。したがって、イオン化された試料が有するエネルギーは大きい可能性ある。または、イオン化された試料の速度は速い可能性がある。
【0072】
図4bは、本発明によるセンタータップCT構造が適用された場合のイオン化された試料の流れを示す。
図1、
図3および
図4bを参照すると、RF送信回路263からRF電力を供給された場合、プラズマコイル270aにはプラズマコイル電圧Vpが発生しない可能性がある。
【0073】
図4aおよび
図4bを参照すると、センタータップCT構造を適用していない場合のイオン化された試料が有するエネルギーは、センタータップCT構造を適用した場合のイオン化された試料が有するエネルギーより大きい可能性がある。あるいは、センタータップCT構造を適用していない場合のイオン化された試料の速度は、センタータップCT構造を適用した場合のイオン化された試料の速度より速い可能性がある。
【0074】
図5は、
図3によるインピーダンス整合回路のインピーダンス整合の一例を示す。
図5において、横軸はRF電源261aの動作周波数を示し、縦軸はプラズマコイル270aの負荷270bのインピーダンスを示す。
図5において、RF電源261aの動作周波数は「27」メガヘルツ(MHz)であり、RF電力供給部260の出力インピーダンスは「50」オーム(Ω)であると仮定する。
図3および
図5を参照すると、インピーダンス整合回路262は、入力可変キャパシタ262cおよび出力可変キャパシタ262dの値を可変し、負荷270bのインピーダンスをRF電力供給部260の出力インピーダンスと整合させる。
図5と同様に、インピーダンス整合回路262は、出力可変キャパシタ262dを可変して負荷270bのインピーダンスの実数部を「48.431」オームに調節し、入力可変キャパシタ262cを可変して負荷270bのインピーダンスの虚数部を「-1.427」オームに調節したことが確認できる。
【0075】
前述した実施形態では、第1、第2、第3などの用語を使用して本発明の技術的思想による構成要素を説明した。しかしながら、第1、第2、第3などのような用語は、構成要素を互いに区別するために使用され、本発明を限定するものではない。例えば、第1、第2、第3などのような用語は、順序または任意の形態の数値的意味を内包しない。
【0076】
上述した内容は、本発明を実施するための具体的な例である。本発明には、上述した実施形態だけでなく、単に設計変更または容易に変更することができる実施形態も含まれる。なお、本発明には、上述した実施形態を用いて容易に変形して実施することができる技術も含まれる。
【符号の説明】
【0077】
10 質量分析計
100 試料導入部
110 ネブライザー
120 スプレーチャンバー
200 イオン化部
210 第1チューブ
220 第2チューブ
230 第3チューブ
240 第1ガス供給管
250 第2ガス供給管
260 RF電力供給部
261 RF電力供給回路
261a RF電源
262 インピーダンス整合回路
262a 絶縁空芯変圧器
262b 入力固定キャパシタ
262c 入力可変キャパシタ
262d 出力可変キャパシタ
262e、262f 出力固定キャパシタ
263 RF電力送信回路
263a 誘導結合コイル
270、270a プラズマコイル
270b 負荷
300 インターフェース部
400 イオンレンズ部
500 反応部
600 質量分離部
700 検出部