(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157553
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】固形がん患者の予後を予測するための方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6886 20180101AFI20241030BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20241030BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20241030BHJP
C12Q 1/6827 20180101ALI20241030BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241030BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20241030BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20241030BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20241030BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20241030BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z ZNA
C12Q1/6869 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6827 Z
A61P35/00
A61P1/18
A61P11/00
A61P1/04
A61P1/16
A61P35/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024071280
(22)【出願日】2024-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2023071372
(32)【優先日】2023-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(71)【出願人】
【識別番号】390037006
【氏名又は名称】株式会社エスアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】今村 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】蘆田 良
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 禎一
(72)【発明者】
【氏名】上坂 克彦
(72)【発明者】
【氏名】浦上 研一
(72)【発明者】
【氏名】下田 勇治
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 剛史
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 福美
(72)【発明者】
【氏名】山口 建
(72)【発明者】
【氏名】釼持 広知
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA17
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ03
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4B063QS25
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4B063QX02
(57)【要約】
【課題】本発明は、固形がん患者由来のctDNAにおける遺伝子変異を高感度に検出し、固形がんの有用なバイオマーカーを見いだすとともに、患者の予後予測や、治療法の有効性予測に役立てることを課題とする。
【解決手段】患者由来の血液試料に含まれるctDNAにおける、対象とする遺伝子のドライバー変異の数を確認すること、及び前記ドライバー変異の数と前記患者の予後との関連付けをすること、を含み、前記関連付けにおいて、ドライバー変異の数が1以上である場合、ドライバー変異の数が0である場合と比較して予後不良の可能性が高いと関連付け、ドライバー変異の数が2以上である場合、ドライバー変異の数が1以下である場合と比較して予後不良の可能性がさらに高いと関連付ける方法により、固形がん患者の予後を予測する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形がん患者の予後を予測するための方法であって、
前記患者由来の血液試料に含まれるctDNAにおける、対象とする遺伝子のドライバー変異の数を確認すること、及び
前記ドライバー変異の数と前記患者の予後との関連付けをすること、
を含み、
前記関連付けにおいて、ドライバー変異の数が1以上である場合、ドライバー変異の数が0である場合と比較して予後不良の可能性が高いと関連付け、ドライバー変異の数が2以上である場合、ドライバー変異の数が1以下である場合と比較して予後不良の可能性がさらに高いと関連付ける、
前記方法。
【請求項2】
対象とする遺伝子が、TP53、KRAS、KIT、APC、EGFR、SMAD4、CSDE1、NRAS、ALK、BRAF、CDKN2A、CDKN2A-AS1、GNAS、IDH2、KEAP1、MAP2K1、MTOR、BRCA2、EGFR-AS1、ERBB4、及びPIK3CAからなる群から選択される1又は2以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ドライバー変異が、TP53 G245S、TP53 R158C、TP53 R175H、TP53 R213*、TP53 R273C、TP53 R306*、TP53 Y220*、TP53 I255F、TP53 N239D、TP53 P278A、TP53 Q192YfsTer14、TP53 R273H、TP53 S241F、KRAS G12D、KRAS G12R、KRAS G12V、KRAS G12C、KRAS G13D、KRAS G13R、KIT G592W、KIT K558N、KIT L589R、APC E1306*、APC R876*、APC S1436fs、EGFR G719C、EGFR S492R、EGFR E709G、EGFR E746_A750del、EGFR G719A、EGFR L858R、EGFR T790M、EGFR,EGFR-AS1 S768I、SMAD4 R361C、SMAD4 R361H、NRAS G13V、NRAS Q61K、ALK G1123D、BRAF G469R、BRAF V600E、BRCA2 P1519fs、CDKN2A R80*、GNAS R844C、GNAS R201C、GNAS R201H、IDH2 R140Q、KEAP1 G423V、MAP2K1 P124L、MAP2K1 F129L、MTOR C1483Y、ERBB4 R847H、PIK3CA D352Y、PIK3CA H1047R、及びPIK3CA Q546Kからなる群から選択される1又は2以上を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ドライバー変異が、体細胞変異である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
固形がんが、膵がん、肺がん、大腸がん、又は甲状腺がんである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
膵がんが、切除可能膵がんである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
血液試料が、固形がんの切除術前に患者から採取されたものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
血液試料が、血漿である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
予後が、固形がんの切除術後の予後である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
予後不良が、全生存期間の悪化、がんの無再発生存期間の悪化、及びがんの転移からなる群から選択される1又は2以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
無再発生存期間の悪化が、切除術後6か月以内の早期再発である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
がんの転移が、肝転移である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
固形がん患者を層別化する方法であって、
前記患者由来の血液試料に含まれるctDNAにおける、対象とする遺伝子のドライバー変異の数を確認すること、及び
前記ドライバー変異の数が0である群、1である群、及び2以上である群を含むいずれかの群に前記患者を層別化すること、
を含む、前記方法。
【請求項14】
固形がん患者に対する治療法の有効性を予測するための、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
固形がん患者に対する治療法の有効性を予測するための方法であって、
請求項13に記載の方法で前記患者を層別化すること、及び
前記患者由来の血液試料に含まれるctDNAにおける、対象とする遺伝子のアクショナブル変異を評価すること、
を含む、前記方法。
【請求項16】
対象とする遺伝子のアクショナブル変異を評価することが、
対象とする遺伝子のアクショナブル変異の有無を確認すること、
前記アクショナブル変異が有る場合、前記アクショナブル変異の内容及びエビデンスレベルを確認すること、及び
前記アクショナブル変異の有無、内容、又はエビデンスレベルと、治療法の有効性との関連付けをすること、
を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
治療法が、薬物療法又は術後補助療法である、請求項14~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
請求項1又は13~16のいずれかに記載の方法に使用するためのキットであって、対象とする遺伝子のドライバー変異の数又はアクショナブル変異の有無を含む遺伝子変化を確認することに使用するための試薬を含む、前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形がん患者の予後を予測するための方法、固形がん患者を層別化する方法、固形がん患者に対する治療法の有効性を予測するための方法、及びそれらの方法に使用するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
膵がん(Pancreatic cancer:PC)は、近年、がん関連の死因の第3位となっており
、今後10年以内にがん関連の死因の第2位になると予想されている。治癒を達成するためには根治的切除術が不可欠だが、局所進行性及び転移性疾患のエビデンスがない患者は、すべての膵がん患者の15~20%を占めるにすぎない。周術期の化学療法及び/又は放射線療法レジメン、手術手技、並びに周術期管理は大きく進歩しているが、膵がんは依然として極めて予後不良な疾患である。臨床の場では、がん抗原19-9(CA19-9)が最も有用な分子バイオマーカーであるが、膵がんの有望な潜在バイオマーカーとして報告された分子はほとんどない。近年、膵がんの遺伝子変化をターゲットとした個別化治療開発にあたり、治療に対する感受性を特定したり、予後を予測したりするためのバイオマーカーの必要性が強調されている。また、膵がんに限らず、他の固形がん全般においても同様のバイオマーカーが依然として必要とされている。
【0003】
セルフリー核酸が末梢血中に存在することが知られている。非侵襲的な採血を用いた腫瘍の連続的な分子モニタリング、いわゆる「リキッドバイオプシー(LB)」は、がん患者にとって理想的な選択肢となり、「個別化」がん管理を発展させる可能性がある。セルフリー循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA:ctDNA)は、腫瘍の早期発見及び
腫瘍動態のモニタリングを改善するバイオマーカーとして期待されている(非特許文献1)。
【0004】
例えば、膵がんの主要なドライバー遺伝子のうち、KRAS変異は膵がん症例の多数で検出されており、そのほとんどはホットスポット(G12D、G12V、G12R、又はQ61H)に位置している。そのため、ctDNA中の低存在量の点変異を定量する主な方法は、デジタルドロップレットポリメラーゼ連鎖反応(ddPCR)又はKRAS変異のターゲットシークエンスであった。しかし、従来のctDNAアッセイでは検出感度が不十分であり、正常細胞で生じる変異(例えば、クローン性造血に関連する体細胞変異)が混在するため、がん特異的な変異を同定できなかった(非特許文献2)。また、切除可能膵がんを含む早期がんに特異的なゲノム変化の同定は困難であることが指摘されていた(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nat Med. 2008;14(9):985-90.
【非特許文献2】Molecular oncology. 2020;14(8):1719-30.
【非特許文献3】Gastroenterology. 2019;156(1):108-18.e4.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、ctDNAの最適な検出方法についてのコンセンサスは得られておらず、切除可能膵がん等の固形がんにおけるctDNAの体細胞変異をパネルベースで網羅的に研究した例は報告されていない。そこで、本発明は、膵がん等の固形がんの患者由来のctDNAにおける遺伝子変異を高感度に検出し、固形がんの有用なバイオマーカーを見いだすとともに、患者の予後予測や、治療法の有効性予測に役立てることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、膵がん等の固形がん患者において術前血漿から抽出したセルフリーDNAを用いて、410遺伝子を対象としたパネルベースの網羅的研究を行い、バリアントコールとペア解析(腫瘍と正常)を実施した。また、セルフリーDNAで検出されたドライバー変異の数が予後に及ぼす影響について検討した。その結果、セルフリーDNAで検出されたドライバー変異の数が膵がん等の固形がんの予後バイオマーカーであり、早期再発の予測因子であることを初めて見いだした。これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の事項により特定されるとおりのものである。
〔1〕
固形がん患者の予後を予測するための方法であって、
前記患者由来の血液試料に含まれるctDNAにおける、対象とする遺伝子のドライバー変異の数を確認すること、及び
前記ドライバー変異の数と前記患者の予後との関連付けをすること、
を含み、
前記関連付けにおいて、ドライバー変異の数が1以上である場合、ドライバー変異の数が0である場合と比較して予後不良の可能性が高いと関連付け、ドライバー変異の数が2以上である場合、ドライバー変異の数が1以下である場合と比較して予後不良の可能性がさらに高いと関連付ける、
前記方法。
〔2〕
対象とする遺伝子が、TP53、KRAS、KIT、APC、EGFR、SMAD4、CSDE1、NRAS、ALK、BRAF、CDKN2A、CDKN2A-AS1、GNAS、IDH2、KEAP1、MAP2K1、MTOR、BRCA2、EGFR-AS1、ERBB4、及びPIK3CAからなる群から選択される1又は2以上を含む、上記〔1〕に記載の方法。
〔3〕
ドライバー変異が、TP53 G245S、TP53 R158C、TP53 R175H、TP53 R213*、TP53 R273C、TP53 R306*、TP53 Y220*、TP53 I255F、TP53 N239D、TP53 P278A、TP53 Q192YfsTer14、TP53 R273H、TP53 S241F、KRAS G12D、KRAS G12R、KRAS G12V、KRAS G12C、KRAS G13D、KRAS G13R、KIT G592W、KIT K558N、KIT L589R、APC E1306*、APC R876*、APC S1436fs、EGFR G719C、EGFR S492R、EGFR E709G、EGFR E746_A750del、EGFR G719A、EGFR L858R、EGFR T790M、EGFR,EGFR-AS1 S768I、SMAD4 R361C、SMAD4 R361H、NRAS G13V、NRAS Q61K、ALK G1123D、BRAF G469R、BRAF V600E、BRCA2 P1519fs、CDKN2A R80*、GNAS R844C、GNAS R201C、GNAS R201H、IDH2 R140Q、KEAP1 G423V、MAP2K1 P124L、MAP2K1 F129L、MTOR C1483Y、ERBB4 R847H、PIK3CA D352Y、PIK3CA H1047R、及びPIK3CA Q546Kからなる群から選択される1又は2以上を含む、上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕
ドライバー変異が、体細胞変異である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕
固形がんが、膵がん、肺がん、大腸がん、又は甲状腺がんである、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕
膵がんが、切除可能膵がんである、上記〔5〕に記載の方法。
〔7〕
血液試料が、固形がんの切除術前に患者から採取されたものである、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕
血液試料が、血漿である、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕
予後が、固形がんの切除術後の予後である、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の方法。
〔10〕
予後不良が、全生存期間の悪化、がんの無再発生存期間の悪化、及びがんの転移からなる群から選択される1又は2以上である、上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕
無再発生存期間の悪化が、切除術後6か月以内の早期再発である、上記〔10〕に記載の方法。
〔12〕
がんの転移が、肝転移である、上記〔10〕に記載の方法。
〔13〕
固形がん患者を層別化する方法であって、
前記患者由来の血液試料に含まれるctDNAにおける、対象とする遺伝子のドライバー変異の数を確認すること、及び
前記ドライバー変異の数が0である群、1である群、及び2以上である群を含むいずれかの群に前記患者を層別化すること、
を含む、前記方法。
〔14〕
固形がん患者に対する治療法の有効性を予測するための、上記〔13〕に記載の方法。
〔15〕
固形がん患者に対する治療法の有効性を予測するための方法であって、
上記〔13〕に記載の方法で前記患者を層別化すること、及び
前記患者由来の血液試料に含まれるctDNAにおける、対象とする遺伝子のアクショナブル変異を評価すること、
を含む、前記方法。
〔16〕
対象とする遺伝子のアクショナブル変異を評価することが、
対象とする遺伝子のアクショナブル変異の有無を確認すること、
前記アクショナブル変異が有る場合、前記アクショナブル変異の内容及びエビデンスレベルを確認すること、及び
前記アクショナブル変異の有無、内容、又はエビデンスレベルと、治療法の有効性との関連付けをすること、
を含む、上記〔15〕に記載の方法。
〔17〕
治療法が、薬物療法又は術後補助療法である、上記〔14〕~〔16〕のいずれかに記載の方法。
〔18〕
上記〔1〕~〔17〕のいずれかに記載の方法に使用するためのキットであって、対象とする遺伝子のドライバー変異の数又はアクショナブル変異の有無を含む遺伝子変化を確認することに使用するための試薬を含む、前記キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、固形がん患者の血液試料に含まれるctDNAをドライバー変異の検出対象とすることで、検出対象を腫瘍組織とする場合と比べて、簡易かつ非侵襲的に試料を採取できる上に、高感度にドライバー変異を検出することができる。また、本発明によれば、ドライバー変異の数をバイオマーカーとすることで、高精度に患者の予後を予測することができ、さらに、治療法の有効性を予測することができる。そのため、層別化医療及び個別化医療の発展に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1(a)】患者登録及び試料採取の流れを示す図である。
【
図1(b)】体細胞変異のドライバビリティの評価法を示す図である。
【
図1(c)】体細胞変異のアクショナビリティの評価法を示す図である。
【
図2】(a)膵がん患者のLBで同定されたtier 1及びtier 2変異の頻度を示す図である。(b)膵がん患者の腫瘍組織解析で同定されたtier 1及びtier 2変異の頻度を表す図である。
【
図3】膵がん患者のLBと腫瘍組織解析におけるドライバー変異の同定結果を示す図である。各患者の血漿ctDNAと腫瘍組織で同定された特定の変異を比較している。
【
図4】(a)膵がん患者のctDNA陽性度による全生存期間(overall survival:OS)の解析結果を示す図である。(b)膵がん患者のctDNA陽性度による無再発生存期間(Recurrence-free survival:RFS)の解析結果を示す図である。
【
図5】(a)膵がん患者のctDNAで検出されたtier 1変異を定量化した結果を示す図である。(b)膵がん患者のドライバー変異の数によってOSを層別化した結果を示す図である。(c)膵がん患者のドライバー変異の数によってRFSを層別化した結果を示す図である。
【
図6】(a)肺がん患者、大腸がん患者、及び甲状腺がん患者のctDNAで検出されたtier 1変異を定量化した結果を示す図である。(b)肺がん患者、大腸がん患者、及び甲状腺がん患者のドライバー変異の数によってOSを層別化した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明の方法)
本発明は、以下に詳述する第一の方法、第二の方法、及び第三の方法に関する(これらを合わせて、「本発明の方法」ということもある。)。
【0012】
(第一の方法:固形がん患者の予後を予測するための方法)
本発明の第一の方法は、固形がん患者の予後を予測するための方法である。本発明の第一の方法は、以下の(工程A)及び(工程B)を含む。
(工程A)前記患者由来の血液試料に含まれるctDNAにおける、対象とする遺伝子のドライバー変異の数を確認すること。
(工程B)前記ドライバー変異の数と前記患者の予後との関連付けをすること。
【0013】
また、上記(工程B)は、以下の(工程B-1)及び(工程B-2)を含む。
(工程B-1)前記関連付けにおいて、ドライバー変異の数が1以上である場合、ドライバー変異の数が0である場合と比較して予後不良の可能性が高いと関連付けること。
(工程B-2)前記関連付けにおいて、ドライバー変異の数が2以上である場合、ドライバー変異の数が1以下である場合と比較して予後不良の可能性がさらに高いと関連付けること。
【0014】
本発明の第一の方法は、固形がん患者の予後を予測するためのあらゆる方法を含む。例えば、「固形がん患者の予後を予測するためのデータを収集する方法」、「固形がん患者の予後を予測するためのデータを作成する方法」、「固形がん患者の予後を予測するためのデータを提供する方法」、及び「固形がん患者の予後を予測する方法」等を含み得る。なお、「データ」は、「情報」及び「指標」等を含む。また、「予測」は、「評価」及び「判定」等を含む。
【0015】
(第二の方法:固形がん患者を層別化する方法)
本発明の第二の方法は、固形がん患者を層別化する方法である。本発明の第二の方法は、以下の(工程A)及び(工程C)を含む。
(工程A)前記患者由来の血液試料に含まれるctDNAにおける、対象とする遺伝子のドライバー変異の数を確認すること。
(工程C)前記ドライバー変異の数が0である群、1である群、及び2以上である群を含むいずれかの群に前記患者を層別化すること。
【0016】
本発明の第二の方法は、例えば、「固形がん患者の予後を層別化する方法(固形がん患者を予想される予後に層別化すること)」及び「固形がん患者を治療コホートに層別化する方法」を含み得る。また、本発明の「固形がん患者を層別化する方法」は、ドライバー変異の数によって層別化された群ごとに、例えば、「固形がん患者に対する治療法の有効性を予測するため」、「固形がん患者に対する治療法の選択を補助するため」、又は「がんの再発を予防するため」に用いることもできる。ただし、さらに高精度に固形がん患者に対する治療法の有効性を予測するための方法としては、以下の第三の方法を用いることもできる。
【0017】
(第三の方法:固形がん患者に対する治療法の有効性を予測するための方法)
本発明の第三の方法は、固形がん患者に対する治療法の有効性を予測するための方法である。本発明の第三の方法は、以下の(工程A)、(工程C)、及び(工程D)を含む。(工程A)前記患者由来の血液試料に含まれるctDNAにおける、対象とする遺伝子のドライバー変異の数を確認すること。
(工程C)前記ドライバー変異の数が0である群、1である群、及び2以上である群を含むいずれかの群に前記患者を層別化すること。
(工程D)前記患者由来の血液試料に含まれるctDNAにおける、対象とする遺伝子のアクショナブル変異を評価すること。
【0018】
本発明の第三の方法は、固形がん患者に対する治療法の有効性を予測するためのあらゆる方法を含む。例えば、「固形がん患者に対する治療法の有効性を予測するためのデータを収集する方法」、「固形がん患者に対する治療法の有効性を予測するためのデータを作成する方法」、「固形がん患者に対する治療法の有効性を予測するためのデータを提供する方法」、「固形がん患者に対する特定の薬物(薬剤)の有効性を予測するための方法」、「固形がん患者に対する薬物(薬剤)選択のための方法」、及び「固形がん患者に対する治療法の有効性を予測する方法」を含み得る。なお、「データ」は、「情報」及び「指標」等を含む。また、「予測」は、「評価」及び「判定」等を含む。また、「薬物(薬剤)」とは、分子標的薬又は免疫チェックポイント阻害剤等であってよく、例えば、工程Dで特定されるアクショナブル変異に関連する分子又は免疫チェックポイント等を標的とする分子標的薬又は免疫チェックポイント阻害剤等であってもよい。
【0019】
本発明の方法によって得られたデータは、医師等の医療関係者に提供されてもよい。本発明の方法によって得られたデータは、患者ごとのゲノム情報に基づいた治療方針の決定のために役立てることができる。ただし、本発明の方法は、医師による診断行為を含まない。なお、本発明の方法と、他の方法とを併せて総合的な予測、評価、又は判定等を行うこともできる。
【0020】
(予後)
本発明において、「予後」は、医学的な経過に関する見通しを意味し、例えば、固形がんの切除術後の経過を意味し得る。「予後」としては、例えば、全生存期間(overall survival:OS、ある治療を開始してから死亡するまでの期間)、無再発生存期間(Recurrence-free survival:RFS、手術等でいったん完治した患者に対し、ある治療を開始してから再発するまでの期間)、一定期間後の生存率、一定期間後の無再発率、及び転移の有無等が挙げられる。一定期間とは、例えば、6か月、1年、2年、3年、4年、5年、10年、15年、20年等が挙げられる。再発には、局所再発、腹膜再発、及び遠隔臓器再発が含まれる。局所再発には、所属リンパ節への再発も含まれる。転移としては、例えば、リンパ節転移、腹膜転移、肝転移、肺転移等が挙げられ、単独の部位への転移も複数の部位への転移も含まれる。
【0021】
(予後を予測する)
本発明において、「予後を予測する」は、「予後」が良好又は不良である可能性を判定又は評価することを意味する。「予後不良」としては、例えば、全生存期間の悪化(全生存期間がより短いこと)、がんの無再発生存期間の悪化(無再発生存期間がより短いこと)、一定期間後の生存率の悪化(一定期間後の生存率がより低いこと)、一定期間後の無再発率の悪化(一定期間後の無再発率がより低いこと)、及び/又はがんの転移の発生等が挙げられる。無再発生存期間の悪化としては、特に切除術後6か月以内の早期再発が挙げられる。なお、生存期間の長さに差があるかどうかについては、一般的にlog-rank検定で統計学的に比較され規定されるが、これに限定されるものではない。ある一個人の患者の生存期間が長いか短いかの予測において、生存期間が長いとは、患者の病態から予測される平均的な生存期間よりも長いことを意味し得、生存期間が短いとは、患者の病態から予測される平均的な生存期間よりも短いことを意味し得る。
【0022】
(固形がん)
本発明において、「固形がん」としては特に制限されないが、例えば、膵がん、肺がん、大腸がん、甲状腺がん、胃がん、肝がん、脳腫瘍、食道がん、十二指腸がん、小腸がん、皮膚がん、乳がん、前立腺がん、膀胱がん、膣がん、子宮頸部がん、子宮体がん、腎がん、脾臓がん、気管がん、気管支がん、頭頸部がん、胆嚢がん、胆管がん、精巣がん、肉腫、軟部腫瘍、骨がん及び卵巣がん等が挙げられ、好ましくは、膵がん、肺がん、大腸がん、及び甲状腺がんが挙げられ、より好ましくは膵がんが挙げられる。
【0023】
(膵がん)
本発明において、膵がんは、すべての切除可能性分類の膵がん、又はすべての病期(ステージ)の膵がんを含み得る。膵がんは切除可能性によって、切除可能膵がん、切除可能境界膵がん、又は切除不能膵がんに分類される。患者の予後を予測する必要がある限り、本発明において対象とする膵がんは特に制限されないが、切除可能膵がんが特に好ましい。その場合、本発明の方法によって高精度に予後を予測することによって、手術適応の検討や治療法の選択を有効に補助することができる。なお、膵がんのステージは、早期から進行するにつれて0期~IV期に分類されるが、このうち比較的早期である0期~II期の膵がんが、おおむね切除可能膵がんに該当する。
【0024】
(固形がん患者)
本発明において、固形がん患者は、哺乳動物であることが挙げられ、好ましくは霊長類、最も好ましくはヒトである。本発明において、固形がん患者の性別、年齢、種(人種)等は特に制限されないが、例えば、白色人種、黒色人種、東アジア人種等の黄色人種(例えば、日本人)が挙げられる。
【0025】
(血液試料)
血液試料は、必要に応じて適宜患者から採取して使用することができるが、特に膵がん等の固形がんの切除術前に患者から採取されたものが好ましい。その場合、本発明の方法で高精度に予後を予測することによって、切除可能膵がん等の固形がんに対する手術適応の検討や治療法の選択を有効に補助することができる。
【0026】
(工程A)
本発明の方法は、患者由来の血液試料に含まれるctDNAにおける、対象とする遺伝子のドライバー変異の数を確認すること(工程A)を含む。
ここで(工程A)の具体的な手法は、その目的を達成しうる範囲において特に制限されないが、例えば、以下の工程(工程A-1)~(工程A-5)の一部又は全部を含んでいてもよい。
(工程A-1)患者から採取された血液試料から血漿を分離すること。
(工程A-2)血漿からセルフリーDNAを抽出すること。
(工程A-3)セルフリーDNA中のctDNAにおける、対象とする遺伝子の体細胞変異を検出すること。
(工程A-4)検出された体細胞変異を、ドライバー変異であるか否かに分類すること。(工程A-5)ドライバー変異に分類された体細胞変異の数を数えること。
【0027】
(血漿)
本発明において、患者由来の血液試料から血漿を分離して用いてもよい。血液試料から血漿を分離して用いることで、血球が排除されるために、その後の工程を効率よく行うことができる。分離方法は特に制限されないが、例えば、遠心分離又はフィルターによる方法が挙げられる。
【0028】
(セルフリーDNA)
本発明において、血液試料又は血漿からのセルフリーDNAの抽出方法は特に制限されず、公知の方法により行うことができるが、例えば、QIAamp circulating nucleic acid kit(Qiagen社製)等の市販のキットを用いることができる。「セルフリーDNA(cf
DNA)」とは、血中に浮遊しているDNAであり、正常な血球系細胞の死滅に由来するDNAのほか、がん細胞のゲノムDNAに由来する循環腫瘍DNA(ctDNA)を含む。「ctDNA」は、がん細胞が免疫によって破壊されたり、自ら細胞死(アポトーシス)を起こしたり、血中に漏出した循環腫瘍細胞が何らかの影響により血中で破壊されたりした際に、がん細胞のゲノムDNAが血中に漏出したものである。なお、セルフリーDNAにおいてドライバー変異が検出された場合、確率は低いものの、それが正常な血球系細胞の死滅に由来するDNA、すなわち生殖細胞系列由来のDNAのドライバー変異である可能性も存在する。ただし、当該ドライバー変異が30%未満の低変異アレル頻度であれば腫瘍細胞由来のDNA(ctDNA)のドライバー変異である可能性が高く、当該ドライバー変異が30%以上の高変異アレル頻度であれば正常細胞(生殖細胞系列)由来のDNAのドライバー変異である可能性が高いと理解することができる。
【0029】
(対象とする遺伝子)
本発明において、「対象とする遺伝子」のドライバー変異の検出方法は特に制限されず、公知の方法を用いることが可能であるが、特に次世代シークエンサーを用いると、多数の遺伝子のドライバー変異を効率よく検出することができる。また、多数の遺伝子を対象とする場合、パネルベースで網羅的に解析してもよく、その場合にはさらに効率よくドライバー変異を検出することができる。
【0030】
本発明において、「対象とする遺伝子」の数は特に制限されないが、多数の遺伝子を対象とすることが好ましい。多数とは、例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、90以上、100以上、150以上、200以上、250以上、300以上、350以上、400以上、410(個)等であることが挙げられる。多数の遺伝子を対象とする場合、従来技術の多くのようにKRAS遺伝子に代表される1つの遺伝子又は少数の遺伝子を対象とするよりも、より高精度な予後の予測等を実現することができる。
【0031】
本発明において、「対象とする遺伝子」の具体的な種類は特に制限されず、例えば、ドライバー変異が検出される可能性が比較的高い遺伝子を含んでよく、また、例えば、ドライバー変異が検出される可能性が比較的高い遺伝子と比較的低い遺伝子とを含んでよく、それらを含む多数の遺伝子を解析すると、より高感度にドライバー変異を検出することができる可能性が高まる。「対象とする遺伝子」は、例えば、以下の表1に示す410個のがん関連遺伝子から選択される1又は2以上を含んでもよいし、含まなくてもよい。また、表1に示す410個の遺伝子のうちの一部又は全部(すなわち、表1に示す410個の遺伝子から選択される1又は2以上)と、表1に示されていない1又は2(個)以上の遺伝子とを組み合わせて対象としてもよい。
【0032】
【0033】
また、本発明において、「対象とする遺伝子」の種類は特に制限されないが、固形がんとの関連性が高い遺伝子であることが好ましく、例えば、TP53;KRAS;KIT;APC;EGFR;SMAD4;CSDE1;NRAS;ALK;BRAF;CDKN2A;CDKN2A-AS1;GNAS;IDH2;KEAP1;MAP2K1;MTOR;BRCA2;EGFR-AS1;ERBB4;及びPIK3CAからなる群から選択される1又は2以上を含むことが好ましく、例えば、上記の群から選択される任意の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又は21(個)を含むことが挙げられる。これらの固形がんとの関連性が高い遺伝子を数多く対象として含むことで、より高精度な予後予測を実現することができる。
「対象とする遺伝子」の種類や数は、対象とする固形がんの種類等に応じて選択してもよい。
【0034】
(ドライバー変異)
本発明において、「ドライバー変異」は、がんの発生や悪化の直接的な原因となる遺伝子変異を意味する。体細胞変異と生殖細胞系列変異とは、腫瘍組織と正常組織(例えば末梢血)とをペア解析(マッチドペア解析)することで区別することができる。また、その際、クローン性造血(clonal hematopoiesis of indeterminate potential:CHIP)の除外を行うこともできる。検出された体細胞変異は、本発明において、アノテーションデータベース(CGI、DoCM、OncoKB、IARC-TP53、ClinVar)と順次比較することで分類することができる(
図1b)。tier 1(病原性/発がん性変異としてデータベースに登録されている)に分類された変異を、「ドライバー変異」と定義することができる。また、tier 2(病原性/発がん性変異の可能性有りとデータベースに登録されている)に分類された変異を、「ドライバー変異の可能性が有る変異」と定義することができる。なお、本発明において、「変異」には、一塩基置換と挿入欠失が含まれる。
【0035】
本発明において、「ドライバー変異」の具体的な種類は特に制限されず、例えば、前述の方法によってドライバー変異と定義されるものであればよい。ただし、具体的に挙げるとすれば、例えば、以下の表2に示す変異のうち1又は2以上を挙げることができる。
【0036】
【表2】
配列番号2:GGAATTAAGAGAAGC
配列番号3:ACCTACTCTATTGGGTTTTCATACAGCTAGCGGGAAAAAAGTTAAAATTGCAAAGGAATCTTTGGACAA
配列番号4:GATCGGAAGAGCGTCGTGTAGGGAAAGAGTGTGAGCACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCT
【0037】
したがって、本発明において「ドライバー変異」は、TP53 G245S、TP53 R158C、TP53 R175H、TP53 R213*、TP53 R273C、TP53 R306*、TP53 Y220*、TP53 I255F、TP53 N239D、TP53 P278A、TP53 Q192YfsTer14、TP53 R273H、TP53 S241F、KRAS G12D、KRAS G12R、KRAS G12V、KRAS G12C、KRAS G13D、KRAS G13R、KIT G592W、KIT K558N、KIT L589R、APC E1306*、APC R876*、APC S1436fs、EGFR G719C、EGFR S492R、EGFR E709G、EGFR E746_A750del、EGFR G719A、EGFR L858R、EGFR T790M、EGFR,EGFR-AS1 S768I、SMAD4 R361C、SMAD4 R361H、NRAS G13V、NRAS Q61K、ALK G1123D、BRAF G469R、BRAF V600E、BRCA2 P1519fs、CDKN2A R80*、GNAS R844C、GNAS R201C、GNAS R201H、IDH2 R140Q、KEAP1 G423V、MAP2K1 P124L、MAP2K1 F129L、MTOR C1483Y、ERBB4 R847H、PIK3CA D352Y、PIK3CA H1047R、及びPIK3CA Q546Kからなる群から選択される1又は2以上を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0038】
ここで、例えば「TP53 G245S」とは、TP53の245番目のG(グリシン)がS(セリン)に置換する変異を表す。また、例えば「TP53 R213*」とは、TP53の213番目のR(アルギニン)が終止コドンに置換する変異を表す。また、例えば「APC S1436fs」とは、APCの1436番目のS(セリン)にフレームシフト変異が生じたことを表す。また、例えば「EGFR E746_A750del」とは、EGFRの746番目のE(グルタミン酸)から750番目のA(アラニン)が欠失する変異を表す。また、例えば「TP53 Q192YfsTer14」とは、フレームシフト変異の結果TP53の192番目のQ(グルタミン)以下に変異が起きて、Y(チロシン)で始まる新たなリーディングフレームができ、そこから数えて14番目のリーディングフレームが終止コドンとなる変異を表す。また、例えば、「EGFR,EGFR-AS1 S768I」とは、EGFRと、そのアンチセンスでコードされているEGFR-AS1の両方の同じ位置に、768番目のS(セリン)がI(イソロイシン)に置換する変異があることを表す。なお、アミノ酸の一文字表記は、以下のように対応する。A:アラニン、C:システイン、D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、F:フェニルアラニン、G:グリシン、H:ヒスチジン、I:イソロイシン、K:リジン、L:ロイシン、M:メチオニン、N:アスパラギン、P:プロリン、Q:グルタミン、R:アルギニン、S:セリン、T:スレオニン、V:バリン、W:トリプトファン、Y:チロシン。
【0039】
なお、本発明において「ドライバー変異」は、必ずしもアミノ酸の変化をともなうものでなくてもよい。例えば、アミノ酸をコードする領域外の変異であってよく、例えば、CSDE1又はCDKN2A-AS1のアミノ酸をコードする領域外の下流領域での一塩基変異を挙げることができる。また、終止コドン生成や欠失をともなう変異であってもよい。
【0040】
本発明において、「ドライバー変異の数を確認すること」は、ドライバー変異に分類された体細胞変異の数を数えることである。ドライバー変異の数は、例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10(個)、又はそれ以上であり得る。本発明において、ドライバー変異の数は、「0」、「1」、又は「2以上」のいずれかに分類することでよいが、「2以上」をさらに「2」、「3」、「3以上」、「4」、「4以上」、「5」、及び/又は「5以上」等に分類してもよい。また、「1以下」とは、「0」又は「1」を意味し、「1以上」とは、「1」又は「2以上」を意味し、「2以上」とは、「2」又は「3以上」を意味する。
【0041】
(工程B)
本発明の第一の方法は、ドライバー変異の数と患者の予後との関連付けをすること(工程B)を含む。ここで、(工程B)における「関連付け」は、以下の(工程B-1)及び(工程B-2)のとおり行われる。
【0042】
(工程B-1)
本発明において、ドライバー変異の数が1以上である場合に、ドライバー変異の数が0である場合と比較して予後不良の可能性が高いと関連付ける。
【0043】
(工程B-2)
本発明において、ドライバー変異の数が2以上である場合に、ドライバー変異の数が1以下である場合と比較して予後不良の可能性がさらに高いと関連付ける。ここで、「さらに高い」とは、上記(工程B-1)で関連付けられる可能性と比較して、(工程B-2)で関連付けられる可能性の方が高いことを意味する。
【0044】
また、本発明の第一の方法は、さらに、以下の(工程B-3)、(工程B-4)及び/又は(工程B-5)を含んでもよい。
【0045】
(工程B-3)
本発明において、ドライバー変異の数が3以上である場合に、ドライバー変異の数が2以下である場合と比較して予後不良の可能性がさらに高いと関連付ける。ここで、「さらに高い」とは、上記(工程B-1)及び/又は(工程B-2)で関連付けられる可能性と比較して、(工程B-3)で関連付けられる可能性の方が高いことを意味する。
【0046】
(工程B-4)
本発明において、ドライバー変異の数が4以上である場合に、ドライバー変異の数が3以下である場合と比較して予後不良の可能性がさらに高いと関連付ける。ここで、「さらに高い」とは、上記(工程B-1)、(工程B-2)及び/又は(工程B-3)で関連付けられる可能性と比較して、(工程B-4)で関連付けられる可能性の方が高いことを意味する。
【0047】
(工程B-5)
本発明において、ドライバー変異の数が5以上である場合に、ドライバー変異の数が4以下である場合と比較して予後不良の可能性がさらに高いと関連付ける。ここで、「さらに高い」とは、上記(工程B-1)、(工程B-2)、(工程B-3)及び/又は(工程B-4)で関連付けられる可能性と比較して、(工程B-5)で関連付けられる可能性の方が高いことを意味する。
【0048】
(関連付け)
本発明において、関連付けによって示された予後不良の可能性に関する情報等は、医師等の医療関係者に提供されてもよい。ただし、関連付け自体は医師による診断行為ではなく、いずれの者が行ってもよい。
【0049】
(工程C)
本発明の第二の方法は、ドライバー変異の数が0である群、1である群、及び2以上である群を含むいずれかの群に患者を層別化すること(工程C)を含む。
【0050】
(層別化)
本発明において、「患者を層別化すること」は、例えば、「固形がん患者の予後を層別化すること(固形がん患者を予想される予後に層別化すること)」及び「固形がん患者を治療コホートに層別化すること」を含む。層別化することにより、例えば、群ごとにより適切な治療法の選択を補助したり、群ごとに治療法の有効性を予測したりすることができる。本発明において、ドライバー変異の数が、「0である群」、「1である群」、又は「2以上である群」のいずれかに患者を層別化することでよいが、「2以上である群」をさらに「2である群」、「3である群」、「3以上である群」、「4である群」、「4以上である群」、「5である群」、及び/又は「5以上である群」等に分類してもよい。また、さらに、「6である群」、「7である群」、「8である群」、「9である群」、「10(個)である群」、又は「それ以上である群」に患者を層別化してもよい。
【0051】
(治療法)
前述のとおり、本発明の第二の方法は、固形がん患者に対する治療法の有効性を予測するために用いることもできる。本発明において、治療法は、手術、薬物療法(化学療法)、術後補助療法、放射線療法、化学放射線療法、補助化学療法、ステント療法、バイパス療法、支持・緩和療法、等を含む。また、薬物は、分子標的薬又は免疫チェックポイント阻害剤等を含む。
【0052】
(工程D)
本発明の第三の方法は、患者由来の血液試料に含まれるctDNAにおける、対象とする遺伝子のアクショナブル変異を評価すること(工程D)を含む。
ここで(工程D)の具体的な手法は、その目的を達成しうる範囲において特に制限されないが、例えば、以下の工程(工程D-1)~(工程D-3)の一部又は全部を含んでいてもよい。
(工程D-1)対象とする遺伝子のアクショナブル変異の有無を確認すること。
(工程D-2)前記アクショナブル変異が有る場合、前記アクショナブル変異の内容及びエビデンスレベルを確認すること。
(工程D-3)前記アクショナブル変異の有無、内容、又はエビデンスレベルと、治療法の有効性との関連付けをすること。
【0053】
(アクショナブル変異・ドラッガブル変異)
本発明において、検出された体細胞変異は、「ドライバー」のほか、「アクショナブル(actionable)」、及び/又は「ドラッガブル(druggable)」という観点からも評価してよい。本発明において、「アクショナブル変異」は、様々な開発段階における分子標的薬の標的となる遺伝子変異を意味する。本発明において、アクショナブル変異は、がんゲノム情報管理センター(Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics:C-CAT)が提唱するエビデンスレベルに基づき、レベルA~Eの5つに分類することができる。アクショナブル変異は、2つのステップで評価することができる。ステップ1として、アノテーションデータベースの記述に従って、薬剤の承認状況を4つのカテゴリーに分類することができる。その後、ステップ2として、データベースとクエリーの間での薬剤の承認状況及びがん種のマッチングに従って、エビデンスレベルを割り当てることができる。最も高いエビデンスレベルはレベルAであり(このエビデンスレベルの変化を「ドラッガブル変異」と定義する)、B、C、D、及びEと続く(
図1c)。「ドラッガブル変異」は、同がん種に対して臨床応用可能な分子標的薬・免疫チェックポイント阻害剤の対象となる遺伝子変異を意味する。アクショナブル変異及び/又はドラッガブル変異の有無、内容、及び/又はエビデンスレベルは、治療薬の選択をはじめとする治療法の有効性を予測するために有用な情報となり得る。治療法としては、特に薬物療法又は術後補助療法が挙げられる。
【0054】
(キット)
本発明はまた、本発明の第一の方法、第二の方法、又は第三の方法に使用するためのキットに関する(それぞれを、「第一のキット」、「第二のキット」、又は「第三のキット」ということもある。また、これらを合わせて「本発明のキット」ということもある。)。本発明のキットは、遺伝子パネル検査用キット、特にがん遺伝子パネル検査用キットとして提供されてもよい。
【0055】
本発明のキットは、それぞれの目的に応じて必要な試薬を含む。具体的には、対象とする遺伝子のドライバー変異の数又はアクショナブル変異の有無を含む遺伝子変化を確認することに使用するための試薬を含む。本発明のキットは、対象とする遺伝子のドライバー変異の数又はアクショナブル変異の有無を確認することに使用するための試薬を含むが、1又は2以上の他の遺伝子変異又は遺伝子変化に関して検出、確認、又は評価等することに使用するための試薬をさらに含んでもよい。なお、本発明において、「遺伝子変異」とは、一塩基置換及び挿入欠失を意味し、「遺伝子変化」とは、「遺伝子変異」と、「構造異常」(融合遺伝子)と、「発現異常」(がん遺伝子の増幅及びがん抑制遺伝子の欠損)との全てを意味する。また、本発明のキットは、試薬に加え、さらにその他のものを含んでもよい。その他のものとしては、特に制限されないが、例えば、容器、用具、使用方法若しくは使用手順に関する取扱説明書、本発明の方法を実施するための説明書、その他の添付文書、記録媒体、解析プログラム、遺伝子変異や遺伝子異常に関するデータベース等を含んでもよい。なお、試薬やその他のものは、いずれも1又は2以上含まれていてもよい。また、本発明のキットは、次世代シークエンサー等の遺伝子解析装置やコンピューター等の情報処理装置等と組み合わせて使用してもよい。
【0056】
(試薬)
本発明において、「試薬」としては、例えば、プライマー、プローブ、酵素、バッファー、安定剤、担体、溶媒、洗浄液、その他のPCR用試薬、その他のシークエンス用試薬、その他のハイブリダイゼーション用試薬等が挙げられる。プライマー又はプローブは、酵素、蛍光物質、発光物質、発色物質、放射性物質、その他の化学物質等によって標識されたものであってもよい。なお、プライマー又はプローブは、1又は2以上の他のプライマー又はプローブと組み合わせて、プライマーセット又はプローブセットとしてキットに含まれてもよい。また、複数のプローブを含むパネルがキットに含まれてもよい。本発明において、試薬としては、例えば、表1に示された遺伝子から選択される1又は2以上を対象とするプライマー又はプローブを1又は2以上を含むことが挙げられ、表2に示された遺伝子から選択される1又は2以上を対象とするプライマー又はプローブを1又は2以上を含むことが好ましく、特に、表2に示されたドライバー変異から選択される1又は2以上を検出できるように設計されたプライマー又はプローブを1又は2以上を含むことが好ましい。プライマー又はプローブの塩基配列は、対象とする遺伝子の塩基配列情報に基づき定法により適宜設計することができ、例えば、対象とする遺伝子において特に対象とするゲノム範囲の塩基配列の全部若しくは一部と相補的な塩基配列又はそれと同一性の高い塩基配列を有するプライマー又はプローブとして設計することができる。対象とするゲノム範囲としては、例えば、対象とする遺伝子のホットスポットの変異ポジション又は変異領域(エキソン)を含む数塩基~数千塩基からなる塩基配列を挙げることができ、例えば、表3に示されたゲノム範囲から選択される1又は2以上を挙げることができる。
【0057】
(第一のキット)
本発明の第一のキットは、「固形がん患者の予後を予測するための方法に使用するため」という用途が特定されたキットである。本発明の第一のキットは、対象とする遺伝子のドライバー変異の数を確認することに使用するための試薬を含む。
【0058】
(第二のキット)
本発明の第二のキットは、「固形がん患者を層別化する方法に使用するため」という用途が特定されたキットである。本発明の第二のキットは、対象とする遺伝子のドライバー変異の数を確認することに使用するための試薬を含む。
【0059】
(第三のキット)
本発明の第三のキットは、「固形がん患者に対する治療法の有効性を予測するための方法に使用するため」という用途が特定されたキットである。本発明の第三のキットは、対象とする遺伝子のドライバー変異の数を確認することに使用するための試薬と、対象とする遺伝子のアクショナブル変異の有無を確認することに使用するための試薬とを含む。
【0060】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に制限されるものではない。
【実施例0061】
[実施例1]
膵がん患者を対象とした検討
1.材料及び方法
1-1.患者及び試料
本研究は、参加したすべての患者から書面による同意を得て、静岡県立静岡がんセンターの倫理審査委員会の承認を得て行われた。静岡県立静岡がんセンター病院でがんの摘出手術を受け、十分な量の新鮮ながん組織を提供できる患者を対象とした。2014年1月から2019年3月までに、合計103例の膵がんが解析された。すべての腫瘍組織が病理学的に膵がんと診断された。さらに、患者の体細胞及び生殖細胞のゲノム変化を同定するため、全エクソンシークエンス(Whole Exome Sequencing:WES)のコントロールとして末梢血を採取し、腫瘍組織についてはがん遺伝子パネル(Comprehensive Cancer Panel:CCP)シークエンスを実施した。リキッドバイオプシー(Liquid Biopsy:LB)のために血漿試料を採取した。このうち、血漿試料が入手できた切除可能膵がん患者33名がこの研究に登録された(
図1a)。切除可能性は、NCCN(National Comprehensive Cancer Network)ガイドラインの分類に従って定義された。
【0062】
1-2.腫瘍組織の次世代シークエンシング
詳細な実験プロトコル及びシークエンスデータの解析手順は、既報のとおりである(Biomedical research (Tokyo, Japan). 2016;37(6):359-66.; Biomedical research (Tokyo, Japan).2016;37(6):367-79.; Cancer science.2020;111(2):687-99.)。簡潔に言えば、新鮮な外科検体は病理医によって評価され、20mgを超える重量の腫瘍試料を採取した。さらに、患者の体細胞及び生殖細胞のゲノム変化を同定するため、固形腫瘍試料のWES及びCCPシークエンスのコントロールとして末梢血を採取した。DNAは、QIAampDNA Blood Mini Kit (Qiagen社製)を用いて、製造業者の説明書に従って組織及び末梢血試料から抽出した。
【0063】
WES用ライブラリーはIon AmpliSeq Exome RDY Kit(Thermo Fisher Scientific社製)、CCP用ライブラリーはIon AmpliSeq library Kit 2.0(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、それぞれ製造業者の推奨プロトコルに従って構築した。構築したライブラリーは定量PCRで定量し、半導体DNAシークエンサー(Ion Torrent Proton Sequencer, Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、製造元の指示に従ってDNA塩基配列を決定した。WES及びCCPにおける平均リード深度(解析対象領域1塩基あたりの配列読取回数)は、それぞれ130と1169であった。
【0064】
シークエンサーで得られた生のバイナリデータは、Torrent Suiteソフトウェア(ver.4.4, Thermo Fisher Scientific社製)を使用して、参照ヒトゲノム(UCSC hg19)にマッピングするシークエンスリードに変換された。このとき、腫瘍試料と血液試料の配列データを個別に解析し、マッピング結果をBAMファイルとして保存した。2つのBAMファイルをIon Reporterシステムにアップロードし、AmpliSeq exometumor-normal pair workflow(ver. 4.4;Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、COSMIC及びClinVarにそれぞれ登録された体細胞変異及び病因性変異を指定したCustomHotspotファイルにより同時解析した。
【0065】
1-3.LBの次世代シークエンシング
血液試料20mLをEDTAチューブに採取し、抽出から2時間以内に2回遠心分離(1900×g、10min、4℃)して血漿を分離した。その後、血漿を分注し、-80℃で保存した。cfDNAは、QIAamp circulating nucleic acid kit(Qiagen社製)を用いて血漿試料から抽出し、Qubit 3.0 Fluorometer及びhigh sensitivity assay kits(Thermo Fisher Scientific社製)を使用して定量した。cfDNA試料の品質は、Agilent 4200 TapeStation(AgilentTechnologies社製)で解析した。試料は、約165bpのピークを示し、ゲノムDNAの著しい汚染の形跡がなく、少なくとも30ngの試料が利用可能である場合に、さらなる次世代シークエンシング研究に受け入れられると判断した。
【0066】
ターゲットキャプチャーパネルは、JCGA研究(Cancer science.2020;111(2):687-99.)で報告したように、40のドラッガブル(druggable)遺伝子又は潜在的なアクショナブル(actionable)遺伝子の全コーディング領域と、370の遺伝子のホットスポット領域とを選択し、表3に示す410の遺伝子を対象として特別に設計した。
【0067】
【0068】
パネルは Agilent SureDesign Web application(v. 7.5;Agilent Technologies社製)を使用して、コーディングエクソンと非翻訳領域をカバーするように設計した。このパネルは、2倍の密度とバランスのとれたブースティングで、2つのプローブグループに分かれた最大13,400個のプローブを包含し、38.627Mbpの標的領域を網羅している。
【0069】
ライブラリーは、SureSelectXT HS2 DNA System with Pre-Capture Pooling protocol(Agilent Technologies社製)に従ってカスタム遺伝子パネルを使用して調製した。cfDNAのライブラリーは、公開されたアプリケーションノートに記載されているように、断片化ステップをバイパスした25ngのDNAから開始して調製した。ライブラリーは、NovaSeq 6000 S4 Reagent Kit v1 .5(300 cycles)(illumina社製)を使用して、NovaSeq 6000(illumina社製)プラットフォームで配列決定した。バリアントコールとペア解析(腫瘍と正常)は、DRAGEN Bio-IT Platform(v. 4.2;illumina社製)を使用して実施した。
【0070】
1-4.ドライバー変異とアクショナブル変異の評価
体細胞変異を、変異のリストとアノテーションデータベースを順次比較することで分類した(
図1b)。tier 1に分類された変異をドライバー変異と定義し、tier 2に分類された変異をドライバー変異の可能性が有る変異と定義した(Cancerscience. 2020;111(2):687-99.)。アクショナブル変化は、がんゲノム情報管理センター(Centerfor Cancer Genomics and Advanced Therapeutics:C-CAT)が提唱するエビデンスレベルに基づき、レベルA~Eの5つに分類した。アクショナブル変異は、2つのステップで評価した。ステップ1として、アノテーションデータベースの記述に従って、薬剤の承認状況を4つのカテゴリーに分類した。その後、ステップ2として、データベースとクエリーの間での薬剤の承認状況及びがん種のマッチングに従って、エビデンスレベルを割り当てた。最も高いエビデンスレベルはレベルAであり(このエビデンスレベルの変異をドラッガブル変異と定義した)、B、C、D、及びEと続く(
図1c)。
【0071】
1-5.治療方針及び手術成績
研究期間中、切除可能膵がんに対するネオアジュバント療法は実施されなかったため、本コホートでネオアジュバント療法を受けた患者はいなかった。外科的切除は既報の通り行われた(World journal of surgery. 2012;36(12):2888-94.)。通常、S-1(The Lancet. 2016;388(10041):248-57.)を用いた補助化学療法が選択された。
【0072】
1-6.手術成績及び病理学的成績の定義
切除標本は病理医により検査され、米国がん合同委員会/国際対がん連合(AJCC/UICC)病期分類システム第8版(AJCC Cancer Staging Manual. Springer International Publishing. 2017.)に基づき評価した。最終的な手術断端は、切除断端のいずれかに腫瘍細胞が顕微鏡的に検出された場合、陽性と判断した。切除後の再発は、初回再発時の病変部位により、局所再発、腹膜再発、及び遠隔臓器再発に分類した。局所再発には、所属リンパ節への再発も含まれる。初回再発時に複数の部位に転移があった症例は、重複してカウントした。
【0073】
1-7.統計解析
連続変数は中央値とIQR(四分位範囲)で表し、Mann-Whitney U検定で比較した。生存率はKaplan-Meier法で計算し、差の統計的有意性を評価するためにlog-rank検定を用いた。すべての統計解析は、JMPソフトウェアパッケージ(version 14.0 for Mac;SAS Institute社製)を用いて行った。P値<0.05は統計的有意性を示すとみなした。
【0074】
2.結果
2-1.臨床病理学的特徴
本コホートは、2014年1月から2019年3月までに静岡がんセンター病院で治療を受けた切除可能膵がん患者33名の血漿及びペア腫瘍検体から構成されている。臨床病理学的特徴を表6にまとめた。組織型は全例腺がんであり、腺扁平上皮がんやその他の特殊型は含まれなかった。病理学的病期はステージ IIB(42.4%)が最も多く、次いでステージ III(27.2%)であった。ネオアジュバント療法を受けた患者はいなかった。追跡期間の中央値は38.0カ月であった。3年及び5年の全生存率(OS)は、それぞれ54.4%及び32.3%であった。
【0075】
2-2.膵がんのLBにおけるドライバー変異とアクショナブル変異
33例のうち、30例(90.9%)のLBから、のべ39個のtier 1変異(表4)と、のべ93個のtier 2変異(表5)が検出された(
図2a)。tier 1変異は21例(63.6%)で検出され、tier 2変異は29例(87.9%)で検出された。tier 1変異を有する遺伝子を頻度の高い順に並べると以下のようになった。TP53(27.3%)、KRAS(15.2%)、KIT(12.1%)、APC(9.1%)、EGFR(6.1%)、SMAD4(6.1%)、CDKN2A(3.0%)、CDKN2A-AS1(3.0%)、GNAS(3.0%)、IDH2(3.0%)、KEAP1(3.0%)、MAP2K1(3.0%)、及びMTOR(3.0%)。
【0076】
頻度5%以上のtier 2変異を有する遺伝子を頻度の高い順に並べると以下のようになった。TP53(42.4%)、EGFR(9.1%)、CBL(9.1%)、JAK1(9.1%)、KIT(6.1%)、CDKN1B(6.1%)、CTNNB1(6.1%)、EGFR-AS1(6.1%)、ERBB2(6.1%)、ERRFI1(6.1%)、KMT2D(6.1%)、KMT2D(6.1%)、MSH2(6.1%)、NF2(6.1%)、NOTCH1(6.1%)、PIK3CA(6.1%)、PPP2R1A(6.1%)、RUNX1(6.1%)、及びSMARCA4(6.1%)。
【0077】
【0078】
【表5】
配列番号1:
CCCAGGGCTCCTCGTTCCATCTCCGCTTCTCGCCTCCACTGCTGCTGGGCTGGGGGCTCCCCACACGGATGCTGACTTCTTGGAAGGCTGAAGCCTCTGGGCCCTGGGAGCCAGCACCAGGACCAAGGACAGCCGACTCACCAGGGATCAGAAGTTGTGATTCCTCTGAGCCTAGATCAGGCCTGCAGGCTTTGGGGGCCCCCAGAAAATCTGGGACCTCACTGTGACATCGCTGTAACCAGCCAGGATCTAGGGAGCCCAGCCGCTGGCTCAGGGATGCCTGCAGATGCTGGAGCCGGCCTGGCCTTGGCTGGGGCTCAGGGAGCTGTGGAGGCTCATCACTGACTTTTTCTGCAAAGGAGGGGACAGGCCCTGTACCTGGGGGCTTTGGGGTGGATGCCTTAGATGAGGCTCTTCCTAGAGGCCACGGTCTGCGGCCCAGGGCTGGTCCGGCCTGGGAGGGGAACAACAGAACAGCAGGAGGAACTCAGGCCCCTGAGCTACTGTAGACTCTAAAACCTACCTGAGTCCCCACGCTCAATTGTAGAGCAGGCTAATTAGCACAAGGCTGGACTAGAAAGGGAGTCAAGGGCGAAGGCCCCGAGAAGCTCCCTGAAGACTCGTGCCCTGGTTGGCACAGGGGCCCGTGCCTGTCTGTGTGGAAAAAATGACAAGAGGGCGACCCGGACCGGAAGCAGCTGTGGACCTAGCGTGGACTCACTGCCTGCCCACTCCTCACCTGCAGGGTGCCTTTCAGATTGGCCTTGAGCCGCTGCCCGTAGTCCGGCACCGAGCCCTGGCGGCTCCGCCCTGGCGTAGACTGTGGACTCTTGGTCGCAGCCCGATTCAGATGGGGCCCCCAGCAGCGGGGCTCTGGC
【0079】
33例において、レベルA及びレベルBのアクショナブル変異は確認されなかった。26のレベルCの変異が18例(54.5%)で同定され、8のレベルDの変異が8例(24.2%)で同定された。レベルC又はDの変異を有する遺伝子を頻度の高い順に並べると以下のようになった。KIT(24.2%)、KRAS(24.2%)、PDGFRA(21.2%)、TP53(15.2%)、EGFR(9.1%)、ALK(3.0%)、IDH2(3.0%)、及びNRAS(3.0%)。
【0080】
2-3.膵がんの腫瘍組織解析におけるドライバー変異
手術後の新鮮な外科検体を用いて、WES及びCCPのディープシークエンスを実施した(
図2b)。WESでは、tier1変異としてKRAS(48.5%)及びTP53(6.1%)が同定され、tier 2変異として、TP53(21.2%)、CDKN2A(6.1%)、ARID3A(3.0%)、DNMT3A(3.0%)、KMT2D(3.0%)、PALB2(3.0%)、及びSF381(3.0%)が同定された。
【0081】
CCPでは、KRAS(66.7%)及びTP53(6.1%)のみがtier 1変異として同定され、TP53(33.3%)、KMT2D(9.1%)、CDKN2A(6.1%)、DNMT3A(3.0%)、HNF1A(3.0%)、MITF(3.0%)、MUTYH(3.0%)、PALB2(3.0%)、RECQL4(3.0%)、及びSF381(3.0%)がtier 2変異として同定された。
【0082】
腫瘍組織を用いたWES及びCCPの統合解析の結果、WESでは、26例(78.8%)の腫瘍組織標本から、のべ24個のtier 1変異と、のべ29個のtier 2変異が検出され、CCPでは、22例(66.7%)で、のべ25個のtier 1変異が検出され、19例(57.6%)で、のべ30個のtier 2変異が検出された。
【0083】
2-4.LBと腫瘍組織解析におけるドライバー変異の同定
LBの有効性を腫瘍組織解析の有効性と比較するために、LBと、対応する腫瘍組織とをWES及び/又はCCPで解析した(
図3)。LBと腫瘍組織解析のtier 1変異検出の一致率は42.4%(14/33)であった。さらに、33例中2例(6.1%)の腫瘍組織では複数のtier 1変異が同定された。これは、ctDNAの解析では33例中9例(27.3%)で複数のtier 1変異が明らかになったこととは対照的である。
【0084】
KRAS変異はctDNA5例(15.2%)と腫瘍組織22例(66.7%)でtier1変異として検出された。LBと腫瘍組織解析のKRAS変異状況の一致率は30.3%(10/34)であった。TP53変異は、ctDNAと腫瘍組織のそれぞれ9例(27.3%)と2例(6.1%)でtier 1変異として検出された。LBと腫瘍組織解析のTP53変異状態の一致率は72.7%(24/34)であった。頻度は低いが、LBはALK、APC、BRAF、EGFR、GNAS、IDH2、KEAP1、KIT、MAP2K1、MTOR、及びNRAS等、腫瘍組織解析では検出されなかった他の多くのドライバー変異を検出することができた。
【0085】
2-5.切除可能膵がん患者におけるLB及び腫瘍組織解析でのドライバー変異の同定に従った臨床病理学的因子
LBの陽性及び腫瘍組織解析の陽性は、tier 1変異が同定されたか否かで定義された。33名の患者のうち、21名(63.6%)がctDNA陽性、22名(66.7%)が腫瘍組織陽性と分類された。定義に従った臨床病理学的因子を表6に示す。ctDNA陽性群はctDNA陰性群に比べCA19-9値が有意に高かった(P=0.017)。腫瘍組織陽性群では、腫瘍組織陰性群に比べ、切除断端が陰性であることが多かった(P=0.031)。
【0086】
【0087】
2-6.切除可能膵がん患者におけるctDNA陽性度の治療成績への影響
ctDNA陽性群では、全生存期間(overall survival:OS)がctDNA陰性群に比べ有意に悪化した(中央値、25.6カ月vs.未到達、P=0.009、
図4a)。無再発生存期間(Recurrence-free survival:RFS)もctDNA陽性群は陰性群に比べ有意に悪化した(中央値、10.9ヶ月vs.未到達、P=0.001、
図4b)。OSに関するCox比例ハザード解析(表7)では、ctDNA陽性が独立した予後因子(P=0.019)であり、リンパ節転移(P=0.004)も生存率低下の独立した予測因子であることが明らかになった。ctDNA陽性が再発のパターンに与える影響を調べるため、ctDNA陽性と初回再発部位及び切除術後の時間との相関を評価した(表8)。ctDNA陽性群はctDNA陰性群に比べ、肝転移率が高かった(P=0.007)。また、ctDNA陰性群では、再発した患者全員(100%、4/4)が局所再発であり、遠隔臓器(肺や肝臓等)への再発は認められなかった。術後6カ月以内の早期再発は、ctDNA陽性群で有意に多く認められた(P=0.013)。
【0088】
【0089】
【0090】
2-7.膵がん患者のLBにおけるドライバー変異の数を評価することの有用性
LBで検出されたtier 1変異を定量化した(
図5a)。LBでは、33例中21例(63.6%)で少なくとも1つのtier 1変異が同定された。さらに、33例中9例(27.3%)でctDNAに複数のtier1変異が確認され、1名の患者で最大5つの変異が確認された。変異の数によって患者のOSが層別化され、変異の数が増えるほどOSは悪化する傾向にあった(ドライバー変異の数、0vs.1、P=0.054;1vs.≧2、P=0.147、
図5b)。具体的には、tier 1変異の数が0である場合、患者の3年OSは75.0%であり、tier 1変異の数が1である場合、患者の3年OSは58.3%であり、tier 1変異の数が≧2である場合、患者の3年OSは22.2%であった。変異の数によってRFSも層別化され、変異の数が増えるほどRFSは悪化する傾向を示した(ドライバー変異の数、0vs.1、P=0.004;1vs.≧2、P=0.189、
図5c)。具体的には、tier 1変異の数が0である場合、患者の2年RFSは66.7%であり、tier 1変異の数が1である場合、患者の2年RFSは33.3%であり、tier 1変異の数が≧2である場合、患者の2年RFSは22.2%であった。術後6ヶ月以内の早期再発は、tier 1変異が1つの群(1/12、8.3%)に比べ、tier 1変異が2つ以上の群(5/9、55.6%)で有意に多く認められた(P=0.018)。
【0091】
3.考察
実施例1では、切除可能膵がんの術前血漿試料を用い、ctDNAの網羅的な遺伝子解析を行った。その結果、65%の症例で体細胞ドライバー変異が検出された。LBによりドライバー変異が陽性となった症例では、遠隔転移再発が有意に早期かつ高頻度に認められ、予後不良であることがわかった。検出されたドライバー変異には、KRASだけでなく、膵臓発がんの主要なドライバー遺伝子として認識されているTP53、CDKN2A、及びSMAD4も含まれていた。また、検出頻度は低いものの、ALK、APC、BRAF、EGFR、GNAS、IDH2、KEAP1、KIT、MAP2K1、MTOR、NRASといった他のドライバー変異も見つかっており、これらはアクショナブル変異に含まれる。特に膵がんでは、腫瘍内の豊富な線維性間質、腫瘍組織の不均一性、及び解剖学的特徴から、腫瘍組織を用いた遺伝子変異の診断は比較的困難である(an official journal of the American Association for CancerResearch.2017;23(20):6094-100.)。LBの特徴は、これらの困難を克服するために有用であると認識され、特に膵がんに対する有用性が期待される。切除可能膵がん患者の予後は、ctDNAの網羅的なゲノムプロファイリングの結果によって層別化された。膵がん患者の予後予測に有用であることに加え、ctDNAの網羅的ゲノムプロファイリングは、LB所見に基づく膵がんの個別化医療を発展させるための基盤資源となり得る。
【0092】
さらに、LB試料から検出されたドライバー変異の数が予後に及ぼす影響についても検討した。その結果、LBで検出されたドライバー変異の数が増えるほど予後が悪化すること、ctDNAで複数のドライバー変異が確認された症例では、早期再発が有意に増加することが明らかとなった。本発明者らは、LBで検出されたドライバー変異の数が膵がんの予後バイオマーカーであり、早期再発の予測因子であることを初めて報告する。KRASのみならず他の遺伝子の変異も調査し、治療過程を通じてドライバー変異の数をモニターすることで、より正確に予後を予測できることが示唆された。
【0093】
[実施例2]
膵がん以外の固形がん患者を対象とした検討
1.材料及び方法
1-1.患者及び試料
肺がん患者14名、大腸がん患者16名、及び甲状腺がん患者1名の合計31名を対象として、実施例1と同様の方法にて、LBのために各がんの切除術前に患者から血漿試料を採取し、ドライバー変異の評価を行った。ただし、ターゲットキャプチャーパネルは、表9に示す70の遺伝子を対象として特別に設計した。
【0094】
【0095】
2.結果
2-1.LBにおけるドライバー変異
31例のうち、22例(71.0%)のLBから、のべ41個のtier 1変異(表10)が検出された。
【0096】
【表10】
配列番号2:GGAATTAAGAGAAGC
配列番号3:ACCTACTCTATTGGGTTTTCATACAGCTAGCGGGAAAAAAGTTAAAATTGCAAAGGAATCTTTGGACAA
配列番号4:GATCGGAAGAGCGTCGTGTAGGGAAAGAGTGTGAGCACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCT
【0097】
2-2.LBにおけるドライバー変異の数を評価することの有用性
LBで検出されたtier 1変異を定量化した(表11、
図6a)。LBでは、31例中22例(71.0%)で少なくとも1つのtier 1変異が同定された。さらに、31例中11例(35.5%)でctDNAに複数のtier1変異が確認され、1名の患者で最大6つの変異が確認された。変異の数によって患者の各がんの切除術後のOSが層別化され、変異の数が増えるほどOSは悪化する傾向にあった(ドライバー変異の数、0vs.1、P=0.0404、
図6b)。具体的には、tier 1変異の数が0である場合、患者の3年OSは55.6%であり、tier 1変異の数が1である場合、患者の3年OSは27.3%であり、tier 1変異の数が≧2である場合、患者の3年OSは9.1%であった。
【0098】
【0099】
3.考察
実施例2では、肺がん、大腸がん、及び甲状腺がんの患者を対象として、LB試料から検出されたドライバー変異の数が予後に及ぼす影響について検討した。その結果、膵がん患者を対象とした実施例1と同様に、LBで検出されたドライバー変異の数が増えるほど予後が悪化することが明らかとなった。
これらの結果から、LBで検出されたドライバー変異の数は、膵がんのみならず、広く固形がんにおいて有用な予後バイオマーカーであることが示唆された。