(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157582
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】熱可塑性材料用組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20241031BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20241031BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20241031BHJP
C08K 5/405 20060101ALI20241031BHJP
C08K 5/3465 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08L21/00
C08L77/00
C08K5/3492
C08K5/405
C08K5/3465
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071980
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(72)【発明者】
【氏名】野路 将義
(72)【発明者】
【氏名】加藤 舞
(72)【発明者】
【氏名】森川 明彦
(72)【発明者】
【氏名】宇野 和樹
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC091
4J002BB201
4J002BG011
4J002BG021
4J002BG041
4J002BG051
4J002BP032
4J002CH013
4J002CH041
4J002CL012
4J002CL032
4J002CL052
4J002CL092
4J002EH097
4J002EH157
4J002EU146
4J002EU186
4J002EV126
4J002EV287
4J002FD010
4J002FD023
4J002FD027
4J002FD030
4J002FD040
4J002FD090
4J002FD100
4J002FD146
4J002FD150
4J002FD160
4J002FD320
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】ゴムと樹脂を二軸押出機などで混練りさせながら架橋する際、架橋剤を均一かつ定量的に添加する必要がある。その際、粉末状態の架橋剤を直接添加する以外の方法で、より作業性等の優れた方法が求められている。
【解決手段】架橋剤を可塑剤等に分散させて架橋剤組成物として添加する方が均一に添加することが可能である一方で、架橋剤組成物のせん断粘度をある一定の範囲にすることにより、架橋剤組成物の分散性、及び作業性に優れるだけでなく、得られる熱可塑性材料の常態物性を良好にすることができることを見出したものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ゴム、(b)ポリアミド(PA)、(c)架橋剤組成物を含有し、(c)架橋剤組成物は、30℃でのせん断速度0.1s-1におけるせん断粘度ηが0.1~10Pa・sを満たし、(a)ゴム100質量部に対して、(c)架橋剤組成物中の架橋剤が0.1~10質量部を含有する熱可塑性材料用組成物。
【請求項2】
(b)ポリアミド(PA)の10~39質量%がポリアミドエラストマーである請求項1に記載の熱可塑性用材料組成物。
【請求項3】
(c)架橋剤組成物における架橋剤がキノキサリン系架橋剤、チオウレア系架橋剤、トリアジン系架橋剤からなる群より選ばれる架橋剤の少なくとも1種である請求項1に記載の熱可塑性材料用組成物。
【請求項4】
(c)架橋剤組成物が架橋剤と可塑剤を含有する請求項1に記載の熱可塑性材料用組成物。
【請求項5】
請求項1~4いずれかに記載の熱可塑性材料用組成物から得られる熱可塑性材料。
【請求項6】
熱可塑性エラストマーである請求項5に記載の熱可塑性材料。
【請求項7】
(a)ゴム、(b)ポリアミド(PA)を混練した後に、30℃でのせん断速度0.1s-1におけるせん断粘度ηが0.1~10Pa・sを満たす(c)架橋剤組成物を、(a)ゴム100質量部に対して、(c)架橋剤組成物中の架橋剤が0.1~10質量部となるように添加して得られた熱可塑性材料用組成物を動的架橋する熱可塑性材料の製造方法。
【請求項8】
30℃でのせん断速度0.1s-1におけるせん断粘度ηが0.1~10Pa・sを満たす熱可塑性材料用架橋剤組成物。
【請求項9】
架橋剤と可塑剤を含有している請求項8に記載の熱可塑性材料用架橋剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常態物性及び耐油性に優れた熱可塑性材料のための組成物、熱可塑性材料用組成物から得られる熱可塑性材料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エピクロロヒドリン系ゴム材料はその耐熱性、耐油性、低ガス透過性等を活かして、自動車用途では燃料ホースやエアー系ホース、チューブ材料として幅広く使用されている。従来、耐熱性の観点からエピクロロヒドリン系ゴムは加硫工程を経て架橋体として用いられている。
【0003】
近年、ゴム弾性を有する熱可塑性エラストマーが、加硫ゴムを代替する材料として、自動車部品等の分野で多用されている。自動車部品は燃費改善のため更なる軽量化の要求およびSDGsの観点からリサイクル性と省エネルギーの材料への要求が高まっており、これまで自動車に使用されていた加硫ゴム製のホースを、耐熱性、耐油性及び耐ガス透過性に優れる熱可塑性エラストマーに置き換えることができれば、軽量化およびリサイクル性かつ省エネルギ―材料への要求が実現できる。(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゴムと樹脂を二軸押出機などで混練りさせながら架橋する際、架橋剤を均一かつ定量的に添加する必要がある。その際、粉末状態の架橋剤を直接添加する以外の方法で、より作業性等の優れた方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、架橋剤を可塑剤等に分散させて架橋剤組成物として添加する方が均一に添加することが可能である一方で、架橋剤組成物のせん断粘度をある一定の範囲にすることにより、架橋剤組成物の分散性、及び作業性に優れるだけでなく、得られる熱可塑性材料の常態物性を良好にすることができることを見出したものである。
【0007】
すなわち、本発明は以下に関する。
項1 (a)ゴム、(b)ポリアミド(PA)、(c)架橋剤組成物を含有し、(c)架橋剤組成物は、30℃でのせん断速度0.1s-1におけるせん断粘度ηが0.1~10Pa・sを満たし、(a)ゴム100質量部に対して、(c)架橋剤組成物中の架橋剤が0.1~10質量部を含有する熱可塑性材料用組成物。
項2 (b)ポリアミド(PA)の10~39質量%がポリアミドエラストマーである項1に記載の熱可塑性用材料組成物。
項3 (c)架橋剤組成物における架橋剤がキノキサリン系架橋剤、チオウレア系架橋剤、トリアジン系架橋剤からなる群より選ばれる架橋剤の少なくとも1種である項1に記載の熱可塑性材料用組成物。
項4 (c)架橋剤組成物が架橋剤と可塑剤を含有する項1に記載の熱可塑性材料用組成物。
項5 項1~4いずれかに記載の熱可塑性材料用組成物から得られる熱可塑性材料。
項6 熱可塑性エラストマーである項5に記載の熱可塑性材料。
項7 (a)ゴム、(b)ポリアミド(PA)を混練した後に、30℃でのせん断速度0.1s-1におけるせん断粘度ηが0.1~10Pa・sを満たす(c)架橋剤組成物を、(a)ゴム100質量部に対して、(c)架橋剤組成物中の架橋剤が0.1~10質量部となるように添加して得られた熱可塑性材料用組成物を動的架橋する熱可塑性材料の製造方法。
項8 30℃でのせん断速度0.1s-1におけるせん断粘度ηが0.1~10Pa・sを満たす熱可塑性材料用架橋剤組成物。
項9 架橋剤と可塑剤を含有している項8に記載の熱可塑性材料用架橋剤組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性材料用架橋剤組成物は、分散性、及び作業性に優れており、架橋剤組成を用いた熱可塑性材料用組成物より得られる熱可塑性材料は常態物性に優れるため、自動車部品をはじめとした工業用製品、特に燃料ホースや冷媒ホース、チューブ材料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0010】
<1.熱可塑性材料用組成物>
本発明の熱可塑性材料用組成物は、少なくとも(a)ゴム、(b)ポリアミド(PA)、(c)架橋剤組成物とを含有する。
【0011】
(a)ゴムは、(b)ポリアミドを用いて熱可塑性材料が得られるものであれば、特に限定されないが、エピクロロヒドリン系ゴム、クロロプレンゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム等のハロゲン含有ゴム、アクリルゴム等が挙げられ、エピクロロヒドリン系ゴム、アクリル系ゴムが好ましい。
【0012】
エピクロロヒドリン系ゴムは、エピクロロヒドリンを由来する構成単位を少なくとも含有する重合体であって、エピクロロヒドリンの単独重合体又は、エピクロロヒドリンとエチレンオキシド、プロピレンオキシド、n-ブチレンオキシドなどのアルキレンオキシド類、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、n-グリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルなどのグリシジル類、スチレンオキシドなどから選択される化合物との共重合体を例示することができる。
【0013】
エピクロロヒドリン系ゴムを具体的に例示すると、エピクロロヒドリン単独重合体、エピクロロヒドリン-エチレンオキシド共重合体、エピクロロヒドリン-プロピレンオキシド共重合体、エピクロロヒドリン-エチレンオキシド-アリルグリシジルエーテル三元共重合体、エピクロロヒドリン-エチレンオキシド-プロピレンオキシド-アリルグリシジルエーテル四元共重合体等を挙げることができ、エピクロロヒドリン単独重合体、エピクロロヒドリン-エチレンオキシド共重合体、エピクロロヒドリン-エチレンオキシド-アリルグリシジルエーテル三元共重合体であることが好ましく、エピクロロヒドリン単独重合体、エピクロロヒドリン-エチレンオキシド共重合体であることが特に好ましい。これら単独重合体または共重合体の分子量は特に制限されないが、JIS K6300-1に準拠して測定したムーニー粘度表示でML1+4(100℃)=30~150程度である。
【0014】
エピクロロヒドリン系ゴムとしては、エピクロロヒドリンに由来する構成単位を全構成単位に対して、10~100モル%であることが好ましく、20~100モル%であることがより好ましく、25~100モル%であることが特に好ましい。
【0015】
エピクロロヒドリン系ゴムとしては、エチレンオキシドに由来する構成単位を全構成単位に対して、0~90モル%であることが好ましく、0~80モル%であることがより好ましく、0~75モル%であることが特に好ましい。
【0016】
エピクロロヒドリン系ゴムとしては、エピクロロヒドリンに由来する構成単位とエチレンオキシドに由来する構成単位との合計した構成単位が全構成単位に対して、80モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。エピクロロヒドリンに由来する構成単位とエチレンオキシドに由来する構成単位以外の他の構成単位としては、エピクロロヒドリン以外のエピハロヒドリン、エチレンオキシド以外のアルキレンオキシド類、グリシジル類、スチレンオキシド等のエピクロロヒドリン、エチレンオキシドと共重合可能の化合物由来の構成単位であってよい。
【0017】
エピクロロヒドリン-エチレンオキシド共重合体の場合、それら共重合割合は、エピクロロヒドリンに由来する構成単位は5mol~95mol%であることが好ましく、20mol%~75mol%であることがより好ましく、25~65mol%であることが特に好ましい。エチレンオキシドに由来する構成単位は5mol%~95mol%であることが好ましく、25mol%~80mol%であることがより好ましく、35mol%~75mol%であることが特に好ましい。
【0018】
エピクロロヒドリン-エチレンオキシド-アリルグリシジルエーテル三元共重合体の場合、それら共重合割合は、エピクロロヒドリンに由来する構成単位は5mol%~95mol%であることが好ましく、20mol%~75mol%であることがより好ましく、25mol%~65mol%であることが特に好ましい。エチレンオキシドに由来する構成単位は4mol%~94mol%であることが好ましく、24mol%~79mol%であることがより好ましく、34mol%~74mol%であることが特に好ましい。アリルグリシジルエーテルに由来する構成単位は1mol%~10mol%であることが好ましく、1mol%~8mol%であることがより好ましく、1mol%~7mol%であることが特に好ましい。
【0019】
エピクロロヒドリン-エチレンオキシド共重合体、エピクロロヒドリン-エチレンオキシド-アリルグリシジルエーテル三元共重合体の共重合組成については、塩素含有量、ヨウ素価により求められる。
塩素含有量はJIS K7229に記載の方法に従い、電位差滴定法によって測定する。得られた塩素含有量からエピクロロヒドリンに由来する構成単位のモル分率を算出する。
ヨウ素価はJIS K6235に準じた方法で測定する。得られたヨウ素価からアリルグリシジルエーテルに由来する構成単位のモル分率を算出する。
エチレンオキシドに由来する構成単位のモル分率は、エピクロロヒドリンに由来する構成単位のモル分率、アリルグリシジルエーテルに由来する構成単位のモル分率より算出する。
【0020】
エピクロロヒドリン系ゴムの製造は、触媒としてオキシラン化合物を開環重合させ得るものを使用し、温度-20~100℃の範囲で溶液重合法、スラリー重合法等により実施できる。このような触媒としては、例えば有機アルミニウムを主体としこれに水やリンのオキソ酸化合物やアセチルアセトン等を反応させた触媒系、有機亜鉛を主体としこれに水を反応させた触媒系、有機錫-リン酸エステル縮合物触媒系等が挙げられる。例えば本出願人による米国特許第3,773,694号明細書に記載の有機錫-リン酸エステル縮合物触媒系を使用して、エピクロロヒドリン系ゴムを製造することができる。なお、このような製法により、共重合させる場合、これらの成分を実質上ランダムに共重合することが好ましい。
【0021】
アクリル系ゴムは、アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位、および/またはアクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構成単位(a)と架橋性モノマーに由来する構成単位(b)を有するものを例示することができ、メタクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位(c)を更に含有するものであってもよい。
【0022】
アクリル酸アルキルエステルは、アルキル基の炭素数が1~8であるものが好ましく、炭素数2~4であることがより好ましい。アクリル酸アルコキシアルキルエステルはアルコキシアルキル基の炭素数が2~8であるものが好ましく、2~4であるものが好ましい。アクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルコキシアルキルエステルは、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0023】
アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ペンチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸n-ヘプチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸エステルに由来する構成単位を例示することができ、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチルに由来する構成単位であることが好ましい。
アクリル酸アルコキシアルキルエステル由来する構成単位の具体例としては、アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシメチル、アクリル酸2-エトキシエチル、アクリル酸2-プロポキシエチル、アクリル酸2-ブトキシエチル、アクリル酸2-メトキシプロピル、アクリル酸2-エトキシプロピル、アクリル酸3-メトキシプロピル、アクリル酸3-エトキシプロピル、アクリル酸4-メトキシブチル、アクリル酸4-エトキシブチル等のアクリル酸エステルに由来する構成単位を例示することができ、アクリル酸メトキシエチルに由来する構成単位であることが好ましい。
【0024】
本発明のアクリル系ゴムにおける、アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位、および/またはアクリル酸アルコキシアルキルエステルに由来する構成単位(a)の含有量は、アクリル系ゴム100質量%中、45~99.5質量%であり、50~99.5質量%であることが好ましく、60~99.5質量%であることがより好ましく、45~89.5質量%であってよく、50~89.5質量%であってよく、60~89.5質量%であってもよい。
2種以上の構成単位(a)を含有する場合、構成単位(a)の含有量は、合計含有量を意味する。他の記載についても同様である。
【0025】
架橋性モノマーに由来する構成単位(b)としては、架橋剤と反応し得る架橋基を有する架橋性モノマーに由来する構成単位であれば特に限定されないが、カルボキシ基、エポキシ基、ハロゲン基のいずれかを有する架橋性モノマーに由来する構成単位が挙げられるが、カルボキシ基を有する架橋性モノマーに由来する構成単位であることが好ましい。架橋剤と反応し得る架橋基を有する架橋性モノマーは、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0026】
エポキシ基を架橋基とする架橋性モノマーに由来する構成単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位、p-ビニルベンジルグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有スチレンに由来する構成単位、アリルグリシジルエーテルおよびビニルグリシジルエーテル、3,4-エポキシ-1-ペンテン、3,4-エポキシ-1-ブテン、4,5-エポキシ-2-ペンテン、4-ビニルシクロヘキシルグリシジルエーテル、シクロヘキセニルメチルグリシジルエーテル、3,4-エポキシ-1-ビニルシクロヘキセンおよびアリルフェニルグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有エーテルに由来する構成単位などが挙げられる。これらは、単独、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0027】
ハロゲン基を架橋基とする架橋性モノマーに由来する構成単位としては、例えば、2-クロロエチルビニルエーテル、2-クロロエチルアクリレート、ビニルベンジルクロライド、モノクロロ酢酸ビニル、アリルクロロアセテートなどに由来する構成単位が挙げられる。これらは、単独、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0028】
カルボキシ基を有する架橋性モノマーに由来する構成単位としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、2-ペンテン酸、桂皮酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸に由来する構成単位、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などのエチレン性不飽和ジカルボン酸に由来する構成単位、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノブチル、フマル酸モノヘキシル、フマル酸モノオクチル等のフマル酸モノアルキルエステル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノペンチル、マレイン酸モノデシル等のマレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノブチル等のイタコン酸モノアルキルエステルなどのエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルに由来する構成単位を例示することができる。これらは、単独、または2種以上を組み合わせて使用できる。カルボキシ基を有する架橋性モノマーに由来する構成単位としては、エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルが好ましく、フマル酸モノアルキルエステルがより好ましく、アルキル基の炭素数が1~4であるフマル酸モノアルキルエステルが最も好ましい。
【0029】
本発明のアクリル系ゴムにおける架橋性モノマーに由来する構成単位(b)の含有量は、アクリル系ゴム100質量%中、0.5~5.5質量%であり、0.5~5質量%であることが好ましく、0.5~2質量%であることがより好ましい。(b)架橋性モノマーに由来する構成単位(好ましくはカルボキシ基を有する架橋性モノマーに由来する構成単位)が上記の範囲であることにより、本発明の効果がより良好に発揮される傾向があり、さらに物性の点で好ましい。
【0030】
メタクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位(c)は、炭素数3~16(好ましくは炭素数が4~16)のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位であることが好ましい。炭素数3~16(好ましくは炭素数が4~16)のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルとは、メタクリル酸アルキルエステルのアルキル基の炭素数が3~16(好ましくは4~16)である事を意味する。該メタクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位(c)としては、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ペンチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸n-デシル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸n-ドデシル、メタクリル酸n-ラウリルおよびメタクリル酸n-オクタデシル等のメタクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を例示することでき、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸n-ラウリルから選択されるメタクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位であることが好ましい。より好ましくはアルキル基の炭素数が4以上、9以下(より好ましくは8以下、よりさらに好ましくは7以下、特に好ましくは6以下)であるメタクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位(c)であることが好ましく、例えばメタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシルに由来する構成単位であることがより好ましい。これらは、単独、または2種以上のメタクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位であってもよい。
【0031】
本発明のアクリル系ゴムにおけるメタクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位(c)の含有量は、アクリル系ゴム100質量%中、0~50質量%であり、10~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、10.5~30質量%であることが特に好ましい。
【0032】
本発明のアクリル系ゴム全体を100質量%とした時の割合であることが好ましく、アクリル系ゴムは、構成単位(a)、構成単位(b)、構成単位(c)以外の構成単位を含んでいてもよい。ただし、アクリル系ゴム100質量%中、構成単位(a)、構成単位(b)、構成単位(c)の合計含有量は、例えば、55.5質量%以上であり、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは90質量部%以上であり、95質量%以上であってよく、98質量%以上であってよく、100質量%であってもよい。
【0033】
さらに本発明のアクリル系ゴムは、上記の構成単位(a)~(c)以外に、これらと共重合可能なその他の単量体に由来する構成単位を含有してもよい。その他の構成単位としては、エチレン性不飽和ニトリルに由来する構成単位、(メタ)アクリルアミド系モノマーに由来する構成単位、芳香族ビニル系モノマーに由来する構成単位、共役ジエン系モノマーに由来する構成単位、非共役ジエン類に由来する構成単位、その他のオレフィンに由来する構成単位等が挙げられる。これらは、単独、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0034】
本発明のアクリル系ゴムにおいて、その構成単位の含有量については、得られた重合体の核磁気共鳴スペクトルにより決定することができる。
【0035】
本発明で用いるアクリル系ゴムは、それぞれ各種モノマーを重合することにより得ることができる。使用するモノマーはいずれも市販品であってよく、特に制約はない。
【0036】
重合反応の形態としては、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、および溶液重合法のいずれも用いることができるが、重合反応の制御の容易性などの点から、従来公知のアクリル系ゴムの製造法として一般的に用いられている常圧下での乳化重合法によるのが好ましい。
【0037】
(b)ポリアミド(PA)は、ポリアミド樹脂であることが好ましく、主鎖中にアミド結合を持つ全ての熱可塑性ポリアミドが含まれる。ポリアミドは、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などと、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシレンジアミンなどとの反応により得られる塩との重縮合、ジホルミル等のジアミン誘導体と二塩基酸との重縮合、アミノ酸又はその誘導体の自己縮合、ラクタムの開環重合等の公知の方法により得ることができ、ポリアミドは共重合体でも良いし、異なる重合体を2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0038】
ポリアミド樹脂は、ポリカプロラクタム(ポリアミド6)、ポリウンデカンラクタム(ポリアミド11)、ポリドデカンラクタム(ポリアミド12)、ポリエチレンアジパミド(ポリアミド26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ポリアミド69)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンウンデカミド(ポリアミド611)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド61)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリメタキシリレンスベラミド(ポリアミドMXD8)、ポリメタキシリレンアゼラミド(ポリアミドMXD9)、ポリメタキシリレンセバカミド(ポリアミドMXD10)、ポリメタキシリレンドデカミド(ポリアミドMXD12)、ポリメタキシリレンテレフタラミド(ポリアミドMXDT)、ポリメタキシリレンイソフタラミド(ポリアミドMXDI)、ポリメタキシリレンナフタラミド(ポリアミドMXDN)等のポリアミド樹脂を例示することができ、ポリカプロラクタム(ポリアミド6)、ポリウンデカンラクタム(ポリアミド11)、ポリドデカンラクタム(ポリアミド12)が好ましい。
【0039】
ポリアミド樹脂は、DSC測定による融点が190℃以下であることが好ましく、185℃以下であることがより好ましく、下限は特に限定されないが、165℃以上であることが好ましく、170℃以上であることがより好ましい。DSC測定による融点は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC-8000)を用い、JIS K7121-1987に準拠して求めることができる。
【0040】
ポリアミド樹脂の重量平均分子量は10000~100000であることが好ましく、12000~70000であることが好ましく、15000~50000であることが特に好ましい。
【0041】
本発明の(b)ポリアミド(PA)においては、前記のポリアミド樹脂に加えてポリアミドエラストマーを含有するものであってよい。
【0042】
本発明のポリアミドエラストマーとしては、ポリアミドからなるハードセグメントとポリエーテルからなるソフトセグメントとからなる熱可塑性エラストマーが挙げられる。ハードセグメントを構成するポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などが挙げられるが、なかでもナイロン11またはナイロン12が好ましい。ソフトセグメントを構成するポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。ポリアミドエラストマーは市販品を使用することができる。ハードセグメントの数平均分子量は、300~15000であってよく、ソフトセグメントの数平均分子量は、200~6000であってよく、ハードセグメント/ソフトセグメント(質量比)は、95/5~25/75であってよい。ポリアミドエラストマーの市販品としては、宇部興産株式会社製「UBESTA」(登録商標)XPA、アルケマ株式会社製「Pebax」(登録商標)33シリーズ、53シリーズ、MVシリーズ、MHシリーズ、HDシリーズ、MPシリーズ、Rnewシリーズ、ポリプラ・エボニック社製「ベスタミド」などが挙げられる。ポリアミドエラストマーの融点は耐熱性と柔軟性の点で130℃以上170℃以下であることが望ましい。(b)ポリアミド(PA)において、ポリアミドエラストマーを含有する場合、含有比率としては、ポリアミド樹脂が61質量%~90質量%であることが好ましく、64質量%~85質量%であることがより好ましく、64質量%~82質量%であることが特に好ましく、ポリアミドエラストマーが10質量%~39質量%であることが好ましく、15質量%~36質量%であることがより好ましく、18質量%~36質量%であることが特に好ましい。ポリアミドエラストマーの含有比率が10質量%~39質量%の範囲であると、柔軟性、耐熱性、機械的特性の点で好ましい。
【0043】
(b)ポリアミド(PA)の添加量は、(a)ゴム100質量部に対して、15~100質量部が好ましく、20~80質量部がより好ましく、25~75質量部が特に好ましい。
【0044】
本発明の(c)架橋剤組成物は、30℃でのせん断速度0.1s-1におけるせん断粘度ηが0.1~10Pa・sであることが好ましく、0.2~5Pa・sであることがより好ましく、0.3~3Pa・sであることが更に好ましく、0.3~1.5Pa・sであることが特に好ましい。
本発明の(c)架橋剤組成物は、上記のせん断粘度ηであれば、含有する媒体を限定されないが、架橋剤と可塑剤とを含有する組成物であることが好ましい。
【0045】
熱可塑性材料用組成物においては、(c)架橋剤組成物の含有量は、前記の30℃でのせん断速度0.1s-1におけるせん断粘度ηを満たした上で(a)ゴム100質量部に対して、(c)架橋剤組成物中の架橋剤が0.1~10質量部となるように含有すればよく、架橋剤が0.3~5質量部となるするように含有することが好ましい。(c)架橋剤組成物の含有量は、(a)ゴム100質量部に対して、5~15質量部、6~12質量部等を例示することができる。
【0046】
架橋剤としては、キノキサリン系架橋剤、チオウレア系架橋剤及びトリアジン系架橋剤からなる群より選択される少なくとも1種が使用され、キノキサリン系架橋剤及びトリアジン系架橋剤であることが好ましく、トリアジン系架橋剤であることが特に好ましい。
【0047】
前記キノキサリン系架橋剤としては、2,3-ジメルカプトキノキサリン、キノキサリン-2,3-ジチオカーボネート、6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート、5,8-ジメチルキノキサリン-2,3-ジチカーボネート等が挙げられる。
【0048】
前記チオウレア系架橋剤としては、2-メルカプトイミダゾリン(エチレンチオウレア)、1,3-ジエチルチオウレア、1,3-ジブチルチオウレア、トリメチルチオウレア等が挙げられる。
【0049】
前記トリアジン系架橋剤としては、1,3,5-トリアジントリチオール、6-アニリノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-メチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジメチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-エチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジエチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-プロピルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ヘキシルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-オクチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-デシルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール等が挙げられる。
【0050】
実用的に好ましい架橋剤として、2-メルカプトイミダゾリン(エチレンチオウレア)、6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート、1,3,5-トリアジントリチオールが挙げられ、特に好ましい加硫剤としては1,3,5-トリアジントリチオールが挙げられる。これらの架橋剤は本発明の効果をそこなわない限り、2種以上を併用しても良い。
【0051】
可塑剤としては、N-ブチルベンゼンスルホンアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)ベンゼンスルホンアミド、N-エチル-o-トルエンスルホンアミド、N-エチル-p-トルエンスルホンアミド、o-トルエンスルホンアミド、およびp-トルエンスルホンアミドなどのN-ブチルベンゼンスルホンアミド系可塑剤、アジピン酸ジブトキシエチル、アジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)、アジピン酸ジ(メトキシテトラエチレングリコール)、アジピン酸ジ(メトキシペンタエチレングリコール)、アジピン酸(メトキシテトラエチレングリコール)(メトキシペンタエチレングリコール)などのアジピン酸エーテルエステル系可塑剤、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリイソノニル、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸混合アルキルなどのトリメリット酸系可塑剤の中から一種又は二種以上を混合して使用することができるが、N-ブチルベンゼンスルホンアミド系可塑剤、アジピン酸エーテルエステル系可塑剤であることが好ましく、熱可塑性材料の常態物性の点で、N-ブチルベンゼンスルホンアミド系可塑剤であることが好ましい。
【0052】
可塑剤の含有量については、(a)ゴム100質量部に対して、(c)架橋剤組成物中の可塑剤が3~15質量部となるように含有すればよく、4~10質量部となるするように含有することが好ましい。
【0053】
本発明の(c)架橋剤組成物は、架橋促進剤を含有していてもよい。例えば、モルホリンスルフィド類、アミン類、アミンの弱酸塩類、四級アンモニウム塩類、四級ホスホニウム塩類、脂肪酸のアルカリ金属塩、チウラムスフィド類、多官能ビニル化合物、メルカプトベンゾチアゾール類、スルフェンアミド類、ジメチオカーバメート類、グアニジン類、多価アルコール等を挙げることができる。キノキサリン系架橋剤を本発明の組成物に適用した場合の特に好ましい促進剤として、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(以下DBUと略)塩、1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン-5(以下DBNと略)塩が挙げられる。トリアジン系架橋剤を本発明の組成物に適用した場合の特に好ましい促進剤として、グアニジン類が挙げられる。
【0054】
前記DBU塩としては、DBU-炭酸塩、DBU-ステアリン酸塩、DBU-2-エチルヘキシル酸塩、DBU-安息香酸塩、DBU-サリチル酸塩、DBU-3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸塩、DBU-フェノール樹脂塩、DBU-2-メルカプトベンゾチアゾール塩、DBU-2-メルカプトベンズイミダゾール塩等が挙げられる。また、前記DBN塩としては、DBN-炭酸塩、DBN-ステアリン酸塩、DBN-2-エチルヘキシル酸塩、DBN-安息香酸塩、DBN-サリチル酸塩、DBN-3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸塩、DBN-フェノール樹脂塩、DBN-2-メルカプトベンゾチアゾール塩、DBN-2-メルカプトベンズイミダゾール塩等が挙げられる。
【0055】
グアニジン類としては、1,3-ジフェニルグアニジン、1,3-ジオルトトリルグアニジンなどが挙げられる。
【0056】
架橋促進剤の含有量については、(a)ゴム100質量部に対して、(c)架橋剤組成物中の架橋促進剤が0.1~5質量部となるように含有すればよく、0.5~3質量部となるように含有することが好ましい。
【0057】
本発明の(c)架橋剤組成物の組成は特に限定されないが、(c)架橋剤組成物100質量%において、架橋剤が10~30質量%を含有することが好ましく、10~20質量%を含有することがより好ましく、12~18質量%を含有することが更に好ましく、架橋促進剤が0~12質量%含有することが好ましく、5~10質量%を含有することがより好ましく、可塑剤が60~85質量%を含有することが好ましく、70~80質量%を含有することがより好ましい。
【0058】
熱可塑性材料用組成物においては、(a)ゴム、(b)ポリアミド(PA)、(c)架橋剤組成物以外に、架橋遅延剤、受酸剤、老化防止剤、離型剤、光安定化剤、充填剤、補強剤、可塑剤、加工助剤、顔料、着色剤、帯電防止剤、発泡剤等の配合剤を任意に配合できる。
【0059】
本発明の(c)架橋剤組成物は、架橋剤、架橋促進剤、可塑剤以外に、熱可塑性材料用組成物と同様の配合剤を任意に配合できる。
【0060】
また、前記遅延剤としてはN-シクロヘキシルチオフタルイミド、無水フタル酸、有機亜鉛化合物等を挙げることができる。
【0061】
架橋遅延剤の含有量については、(a)ゴム100質量部に対して0~5質量部であることが好ましく、0.1~3質量部であってよい。
【0062】
本発明の熱可塑性材料用組成物における受酸剤としては金属化合物及び/又は無機マイクロポーラス・クリスタルが用いられる。
【0063】
受酸剤となる金属化合物としては、周期律表第II族金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、亜リン酸塩、周期律表第IVA族金属の酸化物、塩基性炭酸塩、塩基性カルボン酸塩、塩基性亜リン酸塩、塩基性亜硫酸塩、三塩基性硫酸塩等が挙げられる。
【0064】
受酸剤となる金属化合物の具体例としては、マグネシア、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸ナトリウム、生石灰、消石灰、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、フタル酸カルシウム、亜リン酸カルシウム、亜鉛華、酸化錫、リサージ、鉛丹、鉛白、二塩基性フタル酸鉛、二塩基性炭酸鉛、塩基性ケイ酸鉛、ステアリン酸錫、塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜リン酸錫、塩基性亜硫酸鉛、三塩基性硫酸鉛等を挙げることができる。
【0065】
前記無機マイクロポーラス・クリスタルとは、結晶性の多孔体を意味し、無定型の多孔体、例えばシリカゲル、アルミナ等とは明瞭に区別できるものである。このような無機マイクロポーラス・クリスタルの例としては、ゼオライト類、アルミノホスフェート型モレキュラーシーブ、層状ケイ酸塩、合成ハイドロタルサイト、チタン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。好ましい受酸剤としては、合成ハイドロタルサイトが挙げられ、より好ましい受酸剤としては、300℃、1時間での加熱重量減少が4.5質量%以下である合成ハイドロタルサイト、例えば焼成ハイドロタルサイトが挙げられる。
【0066】
前記合成ハイドロタルサイトは下記一般式(I)で表される。
MgXZnYAlZ(OH)(2(X+Y)+3Z-2)CO3・wH2O (I)
[式中、xとy はそれぞれx+y=1~10の関係を有する0~10の実数、zは1~5の実数、wは0~10の実数をそれぞれ示す。]
【0067】
前記一般式(I)で表されるハイドロタルサイト類の例として、Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O、Mg4.5Al2(OH)13CO3、Mg4Al2(OH)12CO3・3.5H2O、Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O、Mg5Al2(OH)14CO3・4H2O、Mg3Al2(OH)10CO3・1.7H2O、Mg3ZnAl2(OH)12CO3・3.5H2O、Mg3ZnAl2(OH)12CO3等を挙げることができる。
【0068】
受酸剤の含有量は、(a)ゴム100質量部に対して0.2~30質量部であることが好ましく、0.5~20質量部であることがより好ましく、1~10質量部であることが特に好ましく、2~8質量部であってよい。これらの範囲であれば、熱可塑性材料として通常期待される物性が得られるため好ましい。
【0069】
老化防止剤としては、芳香族第二級アミン類、ジチオカルバメート金属塩類、ベンズイミダゾール類、フェノール類、リン酸類、有機チオ酸類等が挙げられ、ジチオカルバメート金属塩類、フェノール類及び有機チオ酸類が好ましい。芳香族第二級アミン系老化防止剤としては、N,N'-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-1-ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N'-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N'-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N'-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N'-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-p-フェニレンジアミンなどが挙げられる。ジチオカルバメート金属塩系老化防止剤としては、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルなどが挙げられる。ベンズイミダゾール系老化防止剤としては、2-メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩、2-メルカプトベンズイミダゾールなどが挙げられる。フェノール系老化防止剤の具体例としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、モノフェノール、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、p-クレゾールとジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物、2,5’-ジ-tert-ブチルハイドロキノン、2,5’-ジ-tert-アミルハイドロキノン、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス-(メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン、ビス(3,3’-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチルフェニル)ブチリックアシッド)グリコールエステル、1,3,5-トリス(3’5-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-sec-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオンが例示される。リン酸系老化防止剤として、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニル・モノ(2-エチルへキシル)フォスファイト、ジフェニル・モノトリデシル・フォスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス、トリスホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジフォスファイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイトが例示される。有機チオ酸系老化防止剤として、ジラウリル3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’-チオジプロピオネートが例示される。これらの中でも、テトラキス-(メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン及びジラウリル3,3’-チオジプロピオネートが好ましい。老化防止剤は、これらのうちの1種を単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0070】
老化防止剤の配合量は、(a)ゴム100質量部に対して、0.1~10質量部であってよく、0.3~5質量部であることが好ましく、0.5~3質量部であることが特に好ましい。
【0071】
離型剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどの金属石けん、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸、高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステルなどの高級脂肪酸エステル、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール、流動パラフィン、パラフィンワックス、合成ポリエチレンワックスなどの炭化水素系離型、モンタン酸エチレングリコールエステル、モンタン酸ブチレングリコールエステル Caけん化物等のモンタンワックス等が挙げられる。
【0072】
(a)ゴム100質量部に対して、離型剤の配合量は0~10質量部であることが好ましい。より詳細に、下限としては、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることがさらに好ましい。また、上限としては、10質量部以下であることが好ましく、7質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0073】
熱可塑性材料用組成物の製造方法としては、混練機にて混練することで製造される。混練機としては、ニーダー、バンバリーミキサーに例示されるバッチ式の溶融混錬機、あるいは二軸混練押し出し機に例示される連続式溶融混錬機のように、加熱しながらせん断力下に混練できる装置が適宜選択される
【0074】
本発明の熱可塑性材料の製造方法としては、熱可塑性材料用組成物を混練機中で混練しながらエピクロロヒドリン系ゴムを架橋剤にて(動的)架橋することが好ましい。具体的には、まず、(a)ゴムと(b)ポリアミド(PA)を混練機中で予め十分に溶融混合した後、(c)架橋剤組成物を混練しながら(a)ゴムを架橋せしめる方法(動的架橋)が最も好適である。また、混練しながらエピクロロヒドリン系ゴムを架橋せしめる際の温度および時間は、本発明においては、温度150~300℃(好ましくは160~200℃)で、時間2~30分の範囲にあるのが望ましい。
【0075】
本発明の熱可塑性材料としては、熱可塑性を有していればよく、その特性を活かした射出又は押出成型材料と記載することもできる。また、熱を加えると軟化して流動性を示し、冷却すればゴム状に戻る性質を持つ熱可塑性エラストマーと記載することができる。その場合、架橋された(a)ゴムが(b)ポリアミド(PA)中を分散する、即ち、(b)ポリアミド(PA)を連続相とし、架橋された(a)ゴムが分散相として分散することになる。
【0076】
熱可塑性エラストマーにおいては、熱可塑性エラストマー(100質量%)中における架橋された(a)ゴムは45~85質量%を含有することが好ましく、50~85質量%を含有することがより好ましく、55~85質量%を含有することが特に好ましい。また、45~80質量%、45~75質量%、50~80質量%、50~75質量%であってもよい。
【0077】
熱可塑性エラストマー(100質量%)中における(b)ポリアミド(PA)は10~50質量%を含有することが好ましく、15~45質量%を含有することがより好ましく、15~40質量%を含有することが特に好ましい。また、10~45質量%、20~45質量%、20~40質量%であってもよい。
【0078】
本発明の熱可塑性エラストマー(100質量%)中における架橋された(a)ゴムと(b)ポリアミド(PA)との合計割合は、85~99質量%であってよく、90~98質量%であってよい。
【0079】
本発明の熱可塑性エラストマーにおいては、(a)ゴムを架橋する際に用いられる架橋剤、架橋促進剤、受酸剤を含有していてもよく、老化防止剤等を含有していてもよい。これらの(a)架橋されたエピクロロヒドリン系ゴムと(b)ポリアミド(PA)以外の成分の合計量については、熱可塑性エラストマー組成物(100質量%)中の1~15質量%であってよく、2~10質量%であってよい。
【0080】
本発明を実施するための具体的な形態を以下に実施例を挙げて説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
(動的架橋型)熱可塑性エラストマー組成物の製造方法について記載する。
【0082】
実施例及び比較例中の熱可塑性樹脂における結晶融点は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC-8000)を用い、JIS K7121-1987に準拠して求める。
【0083】
架橋剤組成物の評価は、スポイト吸引による分散性・作業性確認及びレオメーター(ThermoFicherScientific社製HAAKE MARSIII)を用いて、30℃環境、せん断速度0.1s-1におけるせん断粘度η、コーンプレート:C35/2の条件で粘度測定を実施した。
分散性と作業性の評価は以下で評価した。
分散性
〇:架橋剤組成物を攪拌させ、1時間後においても分散状態を維持できる。
×:架橋剤組成物を攪拌させ、1時間後には沈殿又は固化している。
作業性
〇:可塑剤中に架橋剤、架橋促進剤が分散しており、スポイトで容易に吸うことが可能
×:可塑剤中に架橋剤、架橋促進剤が分散しておらず、スポイトで吸うことが困難
【0084】
物性の測定方法は次の通りである。
・引張強さ JIS K6251:2010準拠、
・伸び JIS K6251:2010準拠、
・硬さ JIS K6253:2012準拠、
・体積変化率 JIS K6258:2016準拠、
【0085】
「実施例1」
架橋剤、架橋促進剤、可塑剤を表1に示す割合で混合して架橋剤組成物を調整した。その後、165℃に加熱した60ccニーダーを用いて、表1に示す割合で架橋剤組成物を除く各材料を添加し、100rpmで3分混練後、架橋剤組成物を添加し、100rpmで10分間の動的架橋を実施した。その後、198℃に設定したプレスで3分間予熱後に3分間加熱し、次いで冷却することにより2mm厚のシートを成型した。
得られたシートを用い、島津製作所社製 AGS-5KNYを用いて、JIS K6251に準じて引張試験を、高分子計器株式会社製 アスカーゴム硬度計A型及びD型を用いて、JIS K6253に規定されている測定法に従って硬度測定を実施した。耐油性試験(IRM 903、125℃×72時間)の体積変化率は、JIS K6258に準じて試験を実施した。体積変化率は((試験後の体積-試験前の体積)/試験前の体積)×100で算出した。架橋剤組成物の粘度測定は、ThermoFicherScientific社製 レオメーターHAAKE MARSIIIを用いて実施し、30℃でのせん断速度0.1s-1におけるせん断粘度η(Pa・s)を測定した。
【0086】
「実施例2」
実施例1より、表1に示す割合で可塑剤を変更した以外は、実施例1と同様にシートを成型した後に、JIS K6251に準じて引張試験を実施し、JIS K6253に規定されている測定法に従って硬度を測定し、JIS K6258に準じて耐油性試験(IRM 903、125℃×72時間)の体積変化率を測定した。体積変化率は((試験後の体積-試験前の体積)/試験前の体積)×100で算出した。架橋剤組成物の粘度測定は、ThermoFicherScientific社製 レオメーターHAAKE MARSIIIを用いて実施し、30℃でのせん断速度0.1s-1におけるせん断粘度η(Pa・s)を測定した。
【0087】
「実施例3」
実施例1より、表1に示す割合で可塑剤を変更した以外は、実施例1と同様にシートを成型した後に、実施例1と同様にJIS K6251に準じて引張試験を実施し、JIS K6253に規定されている測定法に従って硬度を測定し、JIS K6258に準じて耐油性試験(IRM 903、125℃×72時間)の体積変化率を測定した。体積変化率は((試験後の体積-試験前の体積)/試験前の体積)×100で算出した。架橋剤組成物の粘度測定は、ThermoFicherScientific社製 レオメーターHAAKE MARSIIIを用いて実施し、30℃でのせん断速度0.1s-1におけるせん断粘度η(Pa・s)を測定した。
【0088】
「比較例1」
実施例1より、表1に示す割合で可塑剤を変更した以外は、実施例1と同様にシートを成型した後に、実施例1と同様にJIS K6251に準じて引張試験を実施し、JIS K6253に規定されている測定法に従って硬度を測定し、JIS K6258に準じて耐油性試験(IRM 903、125℃×72時間)の体積変化率を測定した。体積変化率は((試験後の体積-試験前の体積)/試験前の体積)×100で算出した。架橋剤組成物の粘度測定は、ThermoFicherScientific社製 レオメーターHAAKE MARSIIIを用いて実施し、30℃でのせん断速度0.1s-1におけるせん断粘度η(Pa・s)を測定した。
【0089】
【表1】
*1 株式会社大阪ソーダ製「エピクロマーH(エピクロロヒドリン単独重合体)」
*2 ポリプラ・エボニック株式会社製「ダイアミドL1600」(融点178℃)
*3 MP五協フード&ケミカル株式会社製「WARADUR OP」
*4 SONGWON社製「SONGNOX1010」
*5 大内新興化学工業株式会社製「ノクラック400」
*6 協和化学工業株式会社製「DHT-4C」
*7 大内新興化学工業株式会社製「ノクラックNBC」
*8 川口化学工業株式会社製「アクターTSH」
*9 大内新興化学工業株式会社製「ノクセラーD」
*10 東レ・ファインケミカル株式会社製「BBSA」
*11 株式会社ADEKA製「アデカサイザーRS-107」
*12 株式会社ジェイ・プラス製「TOTM」
*13 東京化成工業株式会社製「ポリエチレングリコール400」
【0090】
各試験方法より得られた試験結果を表2に示す。各表中Tbは引張試験に定める引張強さ、Ebは引張試験に定める伸び、HsはJIS K6253の硬さ試験に定める硬さをそれぞれ意味する。
【0091】
【0092】
実施例1~3は比較例1よりも良好な常態物性であることが表2より示された。実施例1~3は架橋剤組成物をスポイトで吸引することができたが、比較例1はスポイトで吸引することが困難であった。また、比較例1の架橋剤組成物は1時間ほど経過すると固化してしまった。
【0093】
本発明の熱可塑性材料は機械的特性及び耐油性に優れるために、自動車部品をはじめとした工業用製品、特に燃料ホースや冷媒ホース、チューブ材料として有用である。