(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157584
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】制震装置
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20241031BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
F16F15/04 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071983
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】閻 崇兵
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC00
2E139AC19
2E139AD04
2E139BA17
2E139BD02
3J048AA01
3J048AB01
3J048AC05
3J048AD05
3J048BD08
3J048DA04
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】既設の歴史的建造物に対して適用できる制震構造の提案
【解決手段】
制震装置10は、複数の柱202のうち一対の柱202a,202bにそれぞれ取り付けられる取り付け治具12と、対向するリンクの長さがそれぞれ等しい4節リンク機構11と、制震ユニット13とを備えている。4節リンク機構11の4本のリンクうち対向する一対のリンク21,23は、一対の柱202a,202bに沿って配置された状態で取り付け治具12に固定されている。他の対向する一対のリンク22,24は、基準となる床面に平行に配置されている。制震ユニット13は、制震部材82,83と、制震部材82,83に相対的な変位を入力する一対の変位部材81,(84,85)とを備えている。一対の変位部材81,(84,85)は、前記他の対向する一対のリンク22,24に取り付けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の柱を有する建物に取り付けられる制震装置であって、
制震装置は、
前記複数の柱のうち一対の柱にそれぞれ取り付けられる取り付け治具と、
対向するリンクの長さがそれぞれ等しい4節リンク機構と、
制震ユニットと
を備え、
前記4節リンク機構の4本のリンクうち対向する一対のリンクは、前記一対の柱に沿って配置された状態で前記取り付け治具に固定され、
前記4本のリンクうち他の対向する一対のリンクは、前記建物の基準となる床面に平行に配置されており、
前記制震ユニットは、
制震部材と、
前記制震部材に相対的な変位を入力する一対の変位部材と
を備え、
前記一対の変位部材は、前記4本のリンクうち前記他の対向する一対のリンクに取り付けられる、
制震装置。
【請求項2】
前記取り付け治具は、
前記柱の外周を囲うように取り付けられる環状のリング部材を有し、
前記環状のリング部材は、
前記他の対向する一対のリンクがそれぞれピン接合で取り付けられる取り付け部を有する、
請求項1に記載された制震装置。
【請求項3】
前記環状のリング部材は、
周方向において分割可能な分割リングである、
請求項2に記載された制震装置。
【請求項4】
前記環状のリング部材の内周面に沿って柱との間に装着されるゴムシートを備えた、請求項2または3に記載された制震装置。
【請求項5】
前記建物は、
前記複数の柱に、前記地盤面に対して予め定められた高さに設けられた1階の床を有し、
前記制震装置は、
当該建物の前記1階の床の床下空間に取り付けられるように構成された、
請求項1に記載された制震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2008-25774号公報には、建築物の壁に設置される制震装置に関する発明が開示されている。同公報に開示された制震装置は、各部材が、プレート状の部材で構成されており、建物の上下のフロアーF1,F2間に設けられた壁の内部に取り付けることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、歴史的建造物に対しても地震などから、建物を守るため、制震構造を取り付けたいが、既設の歴史的建造物に対して適用できる制震構造について適当なものがなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ここで開示される制震装置は、地盤面に設置された基礎と、基礎に設置された複数の柱とを有する建物に取り付けられる制震装置である。制震装置は、複数の柱のうち一対の柱にそれぞれ取り付けられる取り付け治具と、対向するリンクの長さがそれぞれ等しい4節リンク機構と、制震ユニットとを備えている。4節リンク機構の4本のリンクうち対向する一対のリンクは、一対の柱に沿って配置された状態で取り付け治具に固定される。4本のリンクうち他の対向する一対のリンクは、建物の基準となる床面に平行に配置されている。制震ユニットは、制震部材と、制震部材に相対的な変位を入力する一対の変位部材とを備えている。一対の変位部材は、4本のリンクうち他の対向する一対のリンクに取り付けられる。かかる制震装置によれば、既設の歴史的建造物に対しても取り付けが可能であり、地震などで建物に生じる損傷を軽減することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図3】
図3は、取り付け治具12を示す正面図である。
【
図4】
図4は、取り付け治具12を示す平面である。
【
図5】
図5は、制震ユニット13の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、ここで開示される制震装置10を図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。各図面は模式的に描かれており、必ずしも実物を反映していない。また、各図面は、一例を示すのみであり、特に言及されない限りにおいて本発明を限定しない。また、同一の作用を奏する部材・部位には、適宜に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0008】
《制震装置10》
図1は、制震装置10の正面図である。
図2は、制震装置10の平面図である。
【0009】
ここで提案される制震装置10は、
図1に示されているように、日本の伝統構法である、いわゆる「石場建て」で建てられた建物200への適用が可能である。
【0010】
「石場建て」では、地盤面に配置された礎石14の上に柱202が載っているだけで、建物200と礎石14とは、完全に固定されておらず、縁が切れている。日本の歴史的伝統建築物の多くは、「石場建て」で建てられている。かかる「石場建て」が採用された建物200に対しても適用可能な制震装置10が提供される。なお、
図1では、制震装置10は、「石場建て」が採用された建物200の床下空間に取り付けられた形態が図示されている。制震装置10が取り付けられる位置は、建物200の床上の空間でもよい。かかる観点で、制震装置10が適用される建物200は、特に言及されない限りにおいて、「石場建て」が採用された建物200に限定されない。
【0011】
〈建物200〉
制震装置10が取り付けられる建物200は、
図1および
図2に示されているように、基礎201と、複数の柱202とを有する。ここで、基礎201は、地盤面GL(GL:Ground level)に設置されている。
図1では、「石場建て」が採用された建物200について、建物200の床下空間が図示されている。建物200には、複数の柱202がある。
図1では、建物200の複数の柱202のうち、2本の柱202a,202bが図示されている。2本の柱202a,202bには、地盤面GLから予め定められた高さ1FLに、建物200の1階の床204が設けられている。高さ1FLは、1階の床204の基準となる高さである。1階の床204には、足固貫204aや薄敷居204bが設置される。
【0012】
図1では、制震装置10が取り付けられる一対の柱202a,202bを他の柱202と区別するため、便宜上、左側に図示された柱を202a,右側に図示された柱を202bとしている。説明上、建物200の柱202a,202bを区別する必要が無い場合には、区別せず、柱202として説明する。「石場建て」が採用された建物では、基礎となる礎石14の上に柱202が載っている。柱202は、礎石14に載せられているが、固定されていない。大きな地震の際には、柱202が礎石14の上で動くことでき、建物200に大きな力が作用しにくい。このため、大きな地震の際でも、建物200の損傷が小さく抑えられる。制震装置10は、かかる「石場建て」が採用された建物にも適用されうる。
【0013】
制震装置10は、4節リンク機構11と、取り付け治具12と、制震ユニット13とを備えている。この実施形態では、取り付け治具12は、柱202a,202bの外周を囲うように取り付けられる環状のリング部材41を有している。環状のリング部材41は、4節リンク機構11が取り付けられる取り付け部46を有している。
【0014】
〈取り付け治具12〉
取り付け治具12は、複数の柱202のうち離れて配置された一対の柱202a,202bにそれぞれ取り付けられる治具である。取り付け治具12には、4節リンク機構11を取り付けるための取り付け部46が設けられている。取り付け治具12の構造は、後で詳述する。
【0015】
〈4節リンク機構11〉
4節リンク機構11は、対向するリンク(21,23),(22,24)の長さがそれぞれ等しい4節のリンク機構である。4節リンク機構11では、対向するリンク(21,23),(22,24)は、平行を維持しつつ動く。かかる4節リンク機構11は、平行リンク機構とも称される。4節リンク機構11の4本のリンク21~24のうち対向する一対のリンク21,23は、一対の柱202a,202bに沿って配置された状態で、取り付け治具12に固定されている。4本のリンク21~24うち他の対向する一対のリンク22,24は、1階の床204の基準となる高さ1FL(換言すると、1階の床204の床面)に対して平行に配置されている。4節リンク機構11の4本のリンク21~24の接合部位は、それぞれいわゆる回り対偶で構成されている。この実施形態では、4節リンク機構11の4本のリンク21~24は、それぞれピン31~34で接合されているとよい。
【0016】
4本のリンク21~24は、それぞれ所要の剛性を有する棒材である。例えば、リンク21~24には、鋼材やステンレスなどが用いられるとよい。この実施形態では、4本のリンク21~24のうち、一対の柱202a,202b間に延びる一対のリンク22,24は、
図1および
図2に示されているように、矩形断面の角棒が用いられている。一対の柱202a,202bに沿って延びる一対のリンク21,23は、
図4に示されているように、それぞれ板状の2本の棒材で構成されており、一対のリンク22,24を両側から挟むように取り付けられる。
【0017】
〈取り付け治具12の構造〉
図3は、取り付け治具12を示す正面図である。
図4は、取り付け治具12を示す平面である。
【0018】
取り付け治具12は、
図2に示されているように、柱202の外周を囲うように取り付けられる環状のリング部材41を有している。環状のリング部材41は、他の対向する一対のリンク22,24がそれぞれピン接合で取り付けられる取り付け部46を有する。この実施形態では、取り付け部46は、一対のリンク22,24を接合するピン31~34を支持する支持構造を有している。一対のリンク22,24は、柱202に上下に離れた位置に取り付けられている。
図1および
図3に示されているように、上下の一対のリンク22,24がそれぞれ取り付けられるべく、柱202に2つの取り付け治具12が取り付けられている。
【0019】
環状のリング部材41は、周方向において分割可能な分割リングである。この実施形態では、矩形断面の柱202に取り付けられることが前提とされた構造であり、分割リングは、矩形断面の柱202の角部に沿って取り付けられる4つの部材41a~41dで構成されている。4つの部材41a~41dは、柱202の角部に沿って取り付けられる屈曲したプレート部41a1~41d1と、プレート部41a1~41d1の端部に設けられたフランジ部41a2~41d2とを備えている。フランジ部41a2~41d2は、柱202に取り付けられた際に、柱202の外径方向に沿って張り出す部位である。フランジ部41a2~41d2は、それぞれボルト孔41a3~41d3を有している。
【0020】
4つの部材41a~41dが柱202の角に取り付けられた際に、フランジ部41a2~41d2のうち柱202の周方向に隣り合う2部材のフランジ部は、ボルト孔41a3~41d3の位置が合わされ、近接した状態で対向している。
図4に示されているように、環状のリング部材41の4つの部材41a~41dは、それぞれ柱202の角に取り付けられる。そして、近接した状態で対向するフランジ部41a2~41d2のボルト孔41a3~41d3にボルトナット43が取り付けられることによって、柱202に固定される。かかる環状のリング部材41は、周方向において分割可能な分割リングであり、各部材41a~41dは、それぞれ柱202の角に取り付けられる。近接した状態で対向するフランジ部41a2~41d2の間隔は、多少空いていてもよい。このため、サイズが多少異なる矩形の柱に対しても適用できる。
【0021】
分割リングの形状は、取り付けられる柱202の形状に合わせられているとよい。また、環状のリング部材41は、建物200の柱202に取り付けられる形態であるとよく、周方向の分割数や各部材の形状などは、特に限定されない。例えば、柱202a,202bは、丸太であってもよい。この場合、環状のリング部材41に用いられる分割リングの形状は、丸太に合わせた円弧状であるとよく、例えば、2分割される部材であるとよい。また、建物200は、床204が設けられていない場合がある。環状のリング部材41は、建物200に床204が設けられていない場合でも、取り付けられうる。このように、環状のリング部材41は、建物200の柱202に取り付けられる形態であるとよく、上記に限定されない。環状のリング部材41は、建物200の柱202に巻かれるベルトのような形態でもよい。
【0022】
図4に示されているように、この実施形態では、環状のリング部材41の内周面に沿って柱202との間にゴムシート52が装着されている。柱202の外周面と環状のリング部材41の内周面との間にゴムシート52が装着されていることによって、柱202が保護されている。環状のリング部材41が取り付けられることに起因して、柱202に傷が付くことが抑制される。ゴムシート52には、例えば、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)のようなゴムが用いられうる。また、ゴムシート52に用いられるゴムは、EPDMに限定されず、ゴムの種類や厚さなどは、柱202に傷が付くことを抑制するとの効果を基に適宜、選定されるとよい。
【0023】
取り付け治具12は、4節リンク機構11が取り付けられる取り付け部46を備えている。この実施形態では、環状のリング部材41の4つの部材41a~41dのうち、部材41a,41bの対向するフランジ41a4,41b4は、
図4に示されているように、4節リンク機構11が設置される位置に向けて延びている。当該フランジ41a4,41b4は、4節リンク機構11のうち、一対の柱202a,202b間に延びる一対のリンク22,24を挟むように、予め定められた間隔で対向している。
【0024】
フランジ41a4,41b4の柱202側の基端部には、スペーサ62がフランジ41a4,41b4の間に配置された状態で、ボルト孔41a3,41b3にボルトナット43が装着されている。
【0025】
一対の柱202a,202b間に延びる一対のリンク22,24は、フランジ41a4,41b4の柱202側の先端部において、フランジ41a4,41b4の間に配置され、ピン32が通されている。一対の柱202a,202bに沿って延びる一対のリンク21,23は、対向するフランジ41a4,41b4の外側に配置され、ピン31が通されている。ピン31は、ボルトナット構造を有し、ナット32で止められている。4節リンク機構11のピン31~34は、それぞれ同様の構造であり、取り付け治具12を介して柱202に取り付けられている。
【0026】
この実施形態では、4本のリンク21~24のうち上下に対向する一対のリンク22,24に対して、複数の制震ユニット13が取り付けられている。この実施形態では、一対のリンク22,24は、長さ方向に間欠的に複数の制震ユニット13を取り付けるための取り付け部22a,24aが設けられている。取り付け部22a,24aは、ボルト孔で構成されている。複数の制震ユニット13は、取り付け部22a,24aにボルトナットで取り付けられており、一対のリンク22,24の長さ方向に間欠的に取り付けられている。
【0027】
この実施形態では、4節リンク機構11や取り付け治具12の各部材は、それぞれボルトナットで締結されており、取り外し、分解できる。このため、4節リンク機構11や取り付け治具12の各部材を分解した状態で現場に搬送し、建物200に設置することができる。このため、制震装置10の取り回しが容易である。
【0028】
〈制震ユニット13〉
制震ユニット13は、制震部材と、制震部材に相対的な変位を入力する一対の変位部材とを備えている。
【0029】
図5は、制震ユニット13の右側面図である。
図5では、制震ユニット13が4節リンク機構11に取り付けられた状態が示されている。また、
図5では、便宜上、制震ユニット13の粘弾性体82,83については、幅方向の中心線に沿って縦断された断面が図示されている。
【0030】
制震ユニット13は、制震部材としての粘弾性体82,83と、制震部材に相対的な変位を入力する一対の変位部材としての中間プレート81および一対の外側プレート84,85を備えている。
【0031】
この実施形態では、制震ユニット13は、
図2および
図3に示すように、中間プレート81と、一対の粘弾性体82,83と、一対の外側プレート84,85とを備えている。一対の粘弾性体82,83は、中間プレート81を挟むように配置され、中間プレート81に接着されている。一対の外側プレート84,85は、中間プレート81を挟むように配置された一対の粘弾性体82,83の外側面に重ねられ、かつ、接着されている。
【0032】
〈粘弾性体82,83〉
粘弾性体82,83には、高減衰性を有する粘弾性ゴム(制震ゴム)が好適に採用されうる。高減衰性を有する粘弾性ゴム(制震ゴム)には、例えば、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブタジエンゴム素材(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、クロロプレンゴム(CR)、あるいは、これらのゴムのうち複数のゴム素材を混合したゴム素材に、高減衰性を発揮する添加剤を加えて生成された高減衰性ゴム組成物を用いることができる。高減衰性を発揮する添加剤としては、例えば、カーボンブラックなど、種々の添加剤が知られている。中間プレート81と粘弾性体82,83および外側プレート84,85と粘弾性体82,83とは、加硫接着によって接着されているとよい。粘弾性体82,83の外周面には、保護材82a,83aが巻かれているとよい。保護材82a,83aは、例えば、耐候性を有するゴムシートなど所要の耐久性と柔軟性とを有する部材であるとよい。
【0033】
この制震ユニット13では、中間プレート81と、一対の外側プレート84,85とに相対的な変位が生じると、一対の粘弾性体82,83にせん断変形が生じる。そして、中間プレート81と、一対の外側プレート84,85とには、一対の粘弾性体82,83のせん断変形に応じた反力が作用する。また、粘弾性体82,83は、例えば、せん断変形が繰り返し生じると発熱し、粘弾性体82,83をせん断変形させるエネルギを吸収する。
【0034】
この制震ユニット13では、一対の粘弾性体82,83は、制震部材として機能する。中間プレート81と、一対の外側プレート84,85とは、粘弾性体82,83に相対的な変位を入力するための一対の変位部材として機能する。ここでは、外側プレート84,85は、第1変位部材として機能する。中間プレート81は、第2変位部材として機能する。制震ユニット13は、粘弾性体82,83を、中間プレート81と一対の外側プレート84,85とで挟んだ構造が開示されているが、制震ユニット13の構造は、かかる形態に限定されない。
【0035】
制震ユニット13は、4節リンク機構11に取り付けられる。中間プレート81と、一対の外側プレート84,85とには、それぞれ4節リンク機構11に取り付けられるための取付部81a,84a,85aが設けられている。
【0036】
この実施形態では、制震ユニット13は、
図1に示されているように、4節リンク機構11の上側のリンク22と下側のリンク24との間に配置されている。この実施形態では、中間プレート81は、一対の粘弾性体82,83が接着された部位からはみ出た部位が下側のリンク24に向けて下方に延び、一対の外側プレート84,85は、一対の粘弾性体82,83が接着された部位から上側のリンク22に向けて上方に延びている。中間プレート81には、4節リンク機構11の下側のリンク24に取付けるための取付穴が形成されている。一対の外側プレート84,85には、4節リンク機構11の上側のリンク22に取付けるための取付穴が形成されている。
【0037】
この実施形態では、一対の外側プレート84,85は、4節リンク機構11の上側のリンク22に直接ボルトナット86で取り付けられている。中間プレート81は、補助材87を介して、4節リンク機構11の下側のリンク24に取り付けられている。ここで、中間プレート81と、下側のリンク24とは、上下に対向して配置されている。補助材87は、中間プレート81と下側のリンク24とを挟むように配置され、かつ、中間プレート81と下側のリンク24とに取り付けられた一対の部材である。補助材87と、中間プレート81とは、ボルトナット88によって連結されている。補助材87と、下側のリンク24とは、ボルトナット89によって連結されている。
図5に示された形態では、一対の外側プレート84,85と、上側のリンク22との間に、スペーサ90が介在した状態で、ボルトナット86が取り付けられている。また、中間プレート81よりも、下側のリンク24の方が厚い部材であり、補助材87と中間プレート81との間に、スペーサ91が介在した状態で、ボルトナット88によって連結されている。このように、制震ユニット13は、適宜に、補助材87やスペーサ90,91を介して、4節リンク機構11に取り付けられてもよい。
【0038】
この実施形態では、
図1および
図2に示されているように、4節リンク機構11の上側のリンク22と下側のリンク24との長さ方向に沿って、3つの制震ユニット13が間欠的に取り付けられている。このように、4節リンク機構11の上側のリンク22と下側のリンク24との間には、上側のリンク22と下側のリンク24との長さ方向に沿って、複数の制震ユニット13が間欠的に取り付けられていてもよい。また、4節リンク機構11の上側のリンク22と下側のリンク24との間には、長さ方向に沿って長い、1つの制震ユニットが設けられていてもよい。ただし、制震ユニットが大型化すると、制震装置10の製造コストが嵩む。また、上側のリンク22と下側のリンク24とに大きな力が掛かりやすくなる。この実施形態では、4節リンク機構11の上側のリンク22と下側のリンク24との間に、上側のリンク22と下側のリンク24との長さ方向に沿って、複数の制震ユニット13が間欠的に取り付けられている。かかる構成によって、上側のリンク22と下側のリンク24とに作用する力が低く抑えられる。複数の制震ユニット13の構造は、それぞれ共通している。これにより、制震ユニット13の製造コストを抑えられる。制震ユニット13の大きさが抑えられるが、制震ユニット13が複数取り付けられている。このことによって、制震装置10の低コスト化と、建物200の揺れを減衰させる所要の効果との両立が図られている。
【0039】
このように、制震装置10は、複数の柱202のうち一対の柱202a,202bにそれぞれ取り付けられる取り付け治具12と、対向するリンクの長さがそれぞれ等しい4節リンク機構11と、制震ユニット13とを備えているとよい。4節リンク機構11の4本のリンクうち対向する一対のリンク21,23は、一対の柱202a,202bに沿って配置された状態で取り付け治具12に固定されている。他の対向する一対のリンク22,24は、基準となる床面に平行に配置されている。制震ユニット13は、制震部材82,83と、制震部材82,83に相対的な変位を入力する一対の変位部材81,(84,85)とを備えている。一対の変位部材81,(84,85)は、前記他の対向する一対のリンク22,24に取り付けられる。
図5に示された形態では、粘弾性体82,83が、制震部材に相当している。また、中間プレート81と一対の外側プレート84,85とが、一対の変位部材81,(84,85)に相当している。
【0040】
この制震装置10は、
図1に示されているように、建物200の床下空間において、建物200の複数の柱のうち一対の柱202a,202bに取り付けられている。この建物200は、石場建てが採用されており、大きな地震が発生したとき、柱202が礎石14の上で動くことできるが、建物200自体に作用する揺れの力によって、建物200自体が揺れ、また、慣性力で柱202a,202bが揺れる。この際、柱202a,202bの揺れ(傾き)に応じて、柱202a,202bに取り付けられた4節リンク機構11に変形が生じうる。例えば、
図1において、4節リンク機構の4本のリンクうち対向する一対のリンク21,23は、一対の柱202a,202bに沿って配置された状態で取り付け治具12によって柱202a,202bに固定されている。このため、建物200の柱202a,202bが、図中の矢印Aの方向に傾くと、4節リンク機構11の一対のリンク21,23は柱202a,202bに沿って傾く。4節リンク機構11の上側のリンク22と下側のリンク24は、平行を維持しつつ、矢印Bの方向に相対的に異なる方向に動く。このため、4節リンク機構11の上側のリンク22と下側のリンク24とに、水平方向の相対的な変位が生じる。
【0041】
4節リンク機構11に変形が生じると、上側のリンク22と下側のリンク24とに相対的な水平方向の変位が生じる。上側のリンク22と下側のリンク24とには、制震ユニット13が取り付けられている。上側のリンク22と下側のリンク24は、制震ユニット13の一対の変位部材として、中間プレート81と、一対の外側プレート84,85とが取り付けられている。このため、上側のリンク22と下側のリンク24とに相対的な水平方向の変位が生じると、上側のリンク22と下側のリンク24とに取り付けられた制震ユニット13の中間プレート81と、一対の外側プレート84,85とに相対的な変位が入力される。制震ユニット13の一対の変位部材としての、中間プレート81と、一対の外側プレート84,85とに相対的な変位が入力されると、一対の粘弾性体82,83にせん断変形が生じる。そして、中間プレート81と、一対の外側プレート84,85とには、一対の粘弾性体82,83のせん断変形に応じた反力が作用する。一対の粘弾性体82,83のせん断変形に応じた反力によって、建物200自体に揺れが小さく抑えられるとともに、建物200自体に揺れを生じるエネルギが吸収され、建物200に生じる揺れを早期に減衰させることができる。
【0042】
ここでは、制震ユニット13として、一対の変位部材として対向する一対のプレート81,(84,85)が用いられており、当該一対のプレート81,(84,85)の間に、制震部材としての粘弾性体82,83が挟まれた状態で接着されている。特に限定されない限りにおいて、制震ユニット13は、かかる形態に限定されない。例えば、制震ユニット13の制震部材は、油圧ダンパーのようなダンパーで構成されていてもよい。他方で、制震部材として粘弾性体82,83が用いられた形態によれば、粘弾性体82,83の耐用年数に応じて長期間メンテナンスせずに機能する。このため、メンテナンスの面で優れている。
【0043】
上下のリンク22,24と、制震ユニット13とは、ボルトナットで取り付けた形態を例示したが、上下のリンク22,24と、制震ユニット13とは、溶接されていてもよい。また、上下のリンク22,24と、制震ユニット13とは、摩擦接合によって接合されていてもよい。上下のリンク22,24と、制震ユニット13との接合に、溶接や摩擦接合が用いられていることによって、滑りによるロスがなく、建物200自体に揺れが制震ユニット13に伝えられる。このため、建物200に生じる揺れを早期に減衰させることができる。
【0044】
この実施形態では、建物200は、複数の柱202に、地盤面GLに対して予め定められた高さ1FLに設けられた1階の床204を有している。
制震装置10は、当該建物200の1階の床204の床下空間S1に取り付けられるように構成されている。このため、建物200は、歴史的伝統建築物であっても、建物200の内覧や外観において、床下空間S1は、目立たない。このため、歴史的伝統建築物の見た目を損なわせにくい。
【0045】
なお、制震装置10は、床下空間S1だけでなく、床上の空間で、一対の柱202a,202b間に取り付けることも可能である。制震装置10は、一階の床204がないような建物でも取り付けられうる。また、制震装置10は、一階だけでなく、上階に取り付けることも可能である。
【0046】
また、建物200としては、石場建ての建物が例示されているが、制震装置10は、建物200の一対の柱202a,202bに取り付けることが可能である。このため、特に言及されない限りにおいて、制震装置10が取り付けられる建物は、石場建ての建物に限定されない。制震装置10は、複数の柱200を有する建物に適用されうる。例えば、柱が基礎に固定される建物、例えば、軸組構法、壁枠組構法(2×4工法)などにも適用できる。この場合、建物の上部で揺れが大きくなる。このため、制震装置10は、建物200の柱202の上部、例えば、小屋裏に設置されてもよい。
【0047】
制震装置10は、建物200の複数の柱202のうち、異なる2方向に離れた一対の柱にそれぞれ取り付けられているとよい。例えば、建物200の幅方向(X方向)と奥行き方向(Y方向)にそれぞれ取り付けられているとよい。これにより、建物200の幅方向(X方向)と奥行き方向(Y方向)のそれぞれの揺れだけでなく、および、建物200の幅方向(X方向)と奥行き方向(Y方向)に沿って、制震装置10が揺れを減衰させる作用が合成される。このため、建物200の水平方向に沿って作用する揺れを、早期に減衰させることができる。建物200に制震装置10を取り付ける位置や数などは、建物200の大きさや重量、制震装置10の機能によって、適宜選定されるとよい。
【0048】
以上、ここでの開示について、種々説明したが、ここでの開示は、特に言及されない限りにおいて、上述した実施形態や変形例に限定されない。また、種々言及した実施形態や変形例の各構成は、互いに阻害しない関係であれば、適宜に組み合わせることができる。
【0049】
本発明(1)は、制震装置に関する。ここで、本発明(1)における制震装置は、
複数の柱を有する建物に取り付けられる制震装置であって、
制震装置は、
前記複数の柱のうち一対の柱にそれぞれ取り付けられる取り付け治具と、
対向するリンクの長さがそれぞれ等しい4節リンク機構と、
制震ユニットと
を備え、
前記4節リンク機構の4本のリンクうち対向する一対のリンクは、前記一対の柱に沿って配置された状態で前記取り付け治具に固定され、
前記4本のリンクうち他の対向する一対のリンクは、前記1階の床の基準となる床面に平行に配置されており、
前記制震ユニットは、
制震部材と、
前記制震部材に相対的な変位を入力する一対の変位部材と
を備え、
前記一対の変位部材は、前記4本のリンクうち前記他の対向する一対のリンクに取り付けられる。
【0050】
本発明(2)は、本発明(1)に記載された制震装置であって、
前記取り付け治具は、
前記柱の外周を囲うように取り付けられる環状のリング部材を有し、
前記環状のリング部材は、
前記他の対向する一対のリンクがそれぞれピン接合で取り付けられる取り付け部を有する。
【0051】
本発明(3)は、本発明(2)に記載された制震装置であって、
前記環状のリング部材は、
周方向において分割可能な分割リングである。
【0052】
本発明(4)は、本発明(3)に記載された制震装置であって、
前記環状のリング部材の内周面に沿って柱との間に装着されるゴムシートを備えている。
【0053】
本発明(5)は、本発明(1)に記載された制震装置であって、
前記建物は、
前記複数の柱に、前記地盤面に対して予め定められた高さに設けられた1階の床を有し、
前記制震装置は、
当該建物の前記1階の床の床下空間に取り付けられるように構成されている。
【符号の説明】
【0054】
10 制震装置
11 4節リンク機構
12 取り付け治具
13 制震ユニット
14 礎石
21~24 4節リンク機構11のリンク
22a,24a 複数の制震ユニット13を取り付けるための取り付け部
31~34 ピン
32 ナット
41 リング部材
41a~41d 環状のリング部材41の4つの部材
41a1~41d1 プレート部
41a2~41d2 フランジ部
41a3~41d3 ボルト孔
41a4,41b4 フランジ
43 ボルトナット
46 4節リンク機構11が取り付けられる取り付け部
52 ゴムシート
62 スペーサ
81 中間プレート(変位部材)
82,83 粘弾性体(制震部材)
82a,83a 保護材
84,85 外側プレート(変位部材)
86 ボルトナット
87 補助材
88,89 ボルトナット
90,91 スペーサ
200 建物
201 基礎
202 柱
202a,202b 柱
204 床
204a 足固貫
204b 薄敷居
GL 地盤面
S1 床下空間