(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015759
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】演算装置および演算方法
(51)【国際特許分類】
G01L 3/14 20060101AFI20240130BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20240130BHJP
【FI】
G01L3/14 G
G01M99/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118049
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】深井 康宏
(72)【発明者】
【氏名】林 健人
(72)【発明者】
【氏名】津村 達也
(72)【発明者】
【氏名】杉本 巖生
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD17
2G024BA12
2G024CA12
2G024CA13
2G024CA27
2G024DA09
2G024FA06
2G024FA15
(57)【要約】
【課題】伝動軸の変動トルクの算出精度を向上させる。
【解決手段】演算装置(4)は、ピニオンギヤ(36)とドラムギヤ(371)とのかみ合い率を整数に切り上げた数値をNとした場合、かみ合い周波数成分の1次成分からN次成分までの中から選択される周波数成分に基づいて算出された振動と変動トルクとの関係を示す近似式を用いて、振動センサ(D2)が出力した振動信号から伝動軸(35)の変動トルクを算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の動力を回転機械へ伝達する伝動軸に固定された第1歯車の振動を検出する振動検出部から出力された振動信号に基づいて、前記伝動軸の変動トルクを算出する演算部を備え、
前記第1歯車と、該第1歯車にかみ合って前記動力を前記回転機械へ伝達する第2歯車とのかみ合い率を整数に切り上げた数値をNとした場合、前記演算部は、かみ合い周波数成分の1次成分からN次成分までの中から選択される周波数成分に基づいて算出された振動と前記変動トルクとの関係を示す近似式を用いて、前記振動信号から前記変動トルクを算出する演算装置。
【請求項2】
前記近似式は、前記かみ合い周波数成分の1次成分および2次成分に基づいて算出される請求項1に記載の演算装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記電動機に掛かる負荷を荷重評価値として測定する荷重測定部から出された前記荷重評価値と前記電動機の定格値とに基づいて、前記伝動軸の平均トルクを算出する請求項1または2に記載の演算装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記平均トルクと前記変動トルクとを合算した値に基づいて損傷度を算出し、前記算出された損傷度の累積値に基づいて前記回転機械を備える設備の余寿命を推定する請求項3に記載の演算装置。
【請求項5】
電動機の動力を回転機械へ伝達する伝動軸に固定された第1歯車の振動を振動検出部によって検出する検出工程と、
前記振動検出部から出力された振動信号に基づいて、前記伝動軸の変動トルクを算出する演算工程と、を含み、
前記第1歯車と、該第1歯車にかみ合って前記動力を前記回転機械へ伝達する第2歯車とのかみ合い率を整数に切り上げた数値をNとした場合、前記演算工程にて、かみ合い周波数成分の1次成分からN次成分までの中から選択される周波数成分に基づいて算出された振動と前記変動トルクとの関係を示す近似式を用いて、前記振動信号から前記変動トルクを算出する演算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動軸の変動トルクを演算により算出する演算装置および演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転機械を備える設備の保全を目的として、回転機械の稼働時の損傷度(機械負荷)を評価し設備の余寿命を推定することが行われている。この種の技術に関連して、特許文献1には、軸振動検出器により検出された伝動軸の振動に基づいて変動トルクを算出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、検出された振動には、電気的なノイズまたは周囲環境の振動等の不要な情報が含まれる。このため、前記従来の技術では、伝動軸の変動トルクの算出精度を十分に確保することができない可能性があった。
【0005】
本発明の一態様は、前記従来の課題に鑑みてなされたものであって、伝動軸の変動トルクの算出精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る演算装置は、電動機の動力を回転機械へ伝達する伝動軸に固定された第1歯車の振動を検出する振動検出部から出力された振動信号に基づいて、前記伝動軸の変動トルクを算出する演算部を備え、前記第1歯車と、該第1歯車にかみ合って前記動力を前記回転機械へ伝達する第2歯車とのかみ合い率を整数に切り上げた数値をNとした場合、前記演算部は、かみ合い周波数成分の1次成分からN次成分までの中から選択される周波数成分に基づいて算出された振動と前記変動トルクとの関係を示す近似式を用いて、前記振動信号から前記変動トルクを算出する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、伝動軸の変動トルクの算出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る水門システムを示す模式図である。
【
図2】
図1に示される演算装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】平均トルクおよび変動トルクと、機械負荷(稼働トルク)との関係を示すグラフである。
【
図4】電流と平均トルクとの関係の一例を示すグラフである。
【
図5】振動と変動トルクとの関係の一例を示すグラフである。
【
図6】水門設備の余寿命の推定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】累積損傷度と余寿命との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について、
図1~
図7に基づいて説明する。本実施形態では、本発明の一態様に係る演算装置を備える水門システムの構成例について説明する。ただし、以下の説明は本発明の演算装置の一例であり、本発明の技術的範囲は図示例に限定されるものではない。
【0010】
〔水門システム1の構成〕
図1は、本実施形態に係る水門システム1の構成を示す模式図である。水門システム1は、扉体2と、水門開閉装置3と、演算装置4とを備える。演算装置4は、扉体2および水門開閉装置3から構成される水門設備の保全を目的として、水門設備の余寿命を推定する処理を実行する。
【0011】
(扉体2)
扉体2は、水路を横断するように設けられる略板状であり、例えば金属により構成される。扉体2は、水門開閉装置3により昇降されることにより、水路における水の流通を調整する。扉体2において、幅方向(
図1中の左右方向)の両端面には、複数のローラ22が設けられる。複数のローラ22は、水路の両側に固定されるガイドレール23に係合する。これにより、ガイドレール23に沿って高さ方向(
図1中の上下方向)へ移動可能(昇降可能)なように、扉体2がガイドレール23により支持される。
【0012】
扉体2の上端面には、滑車(シーブ)21が設けられる。滑車21は、扉体2と共に昇降する動滑車である。
図1の例示では、扉体2の上端面のうち幅方向両側に各々1つの滑車21が設けられる。なお、扉体2の構造は任意に変更されてよく、例えば、扉体2が上段扉および下段扉を含み、両者が連動して、または、個別に昇降する構造であってもよい。例えば上段扉および下段扉が個別に昇降する構造の場合、上段扉および下段扉の各々に水門開閉装置3が個別に接続される。
【0013】
(水門開閉装置3)
水門開閉装置3は、例えばワイヤロープウィンチ式であり、扉体2を昇降させて水路の開閉を行う。水門開閉装置3は、電動機31と、電磁ブレーキ32と、油圧押上式ブレーキ33と、減速機34と、伝動軸35と、2つのピニオンギヤ(第1歯車)36と、2つのドラム(回転機械)37と、2本の金属製のワイヤロープ38と、2つの固定部39とを備える。
【0014】
電動機31は、例えば誘導モータ等であり、電磁ブレーキ32と油圧押上式ブレーキ33と減速機34とを介して、伝動軸35を回転させる。電動機31は、伝動軸35の回転方向を正回転および逆回転で切り替えることが可能になっている。
【0015】
伝動軸35は、電動機31の動力をドラム37へ伝達する回転シャフトである。伝動軸35は、減速機34に連結され、減速機34から幅方向両側へ延出する。2つのピニオンギヤ36が、伝動軸35の両端に固定される。2つのドラム37にはドラムギヤ(第2歯車)371が設けられ、各ドラムギヤ371は2つのピニオンギヤ36とそれぞれ歯合する。また、ドラム37は、
図1中に破線で示すギヤカバー372を備え、ピニオンギヤ36とドラムギヤ371とがギヤカバー372により覆われている。伝動軸35が回転することにより、2つのドラム37が正回転または逆回転する。
【0016】
各ドラム37には、ワイヤロープ38の一端が固定されると共に、ワイヤロープ38の一部が巻かれる。各ワイヤロープ38においてドラム37に巻かれていない部分は、扉体2に設けられた2つの滑車21に掛けられると共に、その他端に固定部39が設けられる。固定部39は、堤体等に固定される。例えば、ドラム37が正回転することにより、ワイヤロープ38がドラム37に巻き取られ、扉体2が上昇する。一方、ドラム37が逆回転することにより、ワイヤロープ38がドラム37から送り出され、扉体2が下降する。なお、ドラム37の正回転および逆回転は、便宜的なものである。ワイヤロープ38の巻き取りがドラム37の逆回転と捉えられ、ワイヤロープ38の送り出しがドラム37の正回転と捉えられてもよい。
【0017】
水門開閉装置3では、
図1の例示のようにドラム37およびワイヤロープ38が複数設けられてもよいが、ドラム37およびワイヤロープ38の1つの組合せのみが設けられてもよい。また、ワイヤロープ38に代えて、ワイヤロープ38以外のロープ、またはチェーン等が用いられてもよい。さらに、水門開閉装置3は、ウィンチ式の開閉装置に限られず、ラックを用いるラック式の開閉装置、スピンドルを用いるスピンドル式の開閉装置または弧状の扉体を回転させるラジアルゲート式の開閉装置等であってもよい。
【0018】
水門開閉装置3は、電流センサ(荷重測定部)D1と、2つの振動センサ(振動検出部)D2と、2つのトルクセンサD3とをさらに備える。電流センサD1は、電動機31の駆動電流を検出する。電流センサD1は、検出した電流に応じた電流信号(荷重評価値)を演算装置4へ出力する。なお、電流センサD1は、電動機31を制御する制御盤内のケーブル等に接続されていてもよい。
【0019】
振動センサD2は、ピニオンギヤ36の振動を検出する。振動センサD2は、ピニオンギヤ36の振動を検出可能な位置に設置される。
図1の例示では、ピニオンギヤ36が固定される伝動軸35の各軸受に、各々1つの振動センサD2が設置される。なお、振動センサD2は、ピニオンギヤ36とドラムギヤ371とを覆うギヤカバー372、または伝動軸35に連結される減速機34に設置されてもよい。また、振動センサD2の設置方向、つまり設置される振動センサD2の向きは特に限定されず、ピニオンギヤ36の振動を検出可能であればどのような向きで設置されていてもよい。振動センサD2は、検出した振動に応じた振動信号を演算装置4へ出力する。
【0020】
トルクセンサD3は、伝動軸35のトルクを検出する。
図1の例示では、伝動軸35の周面であって各ピニオンギヤ36の近傍に、各々1つのトルクセンサD3が設置される。トルクセンサD3は、例えば、歪ゲージにより測定するもの、または、伝動軸35の周面上の2点の捩じり位相を測定するものであってもよい。トルクセンサD3は、検出した歪または捩じり位相に応じたトルク信号を演算装置4へ出力する。
【0021】
歪ゲージ等のトルクセンサD3は、伝動軸35への設置作業に時間を要し、また耐用年数が短いため、維持管理費用の観点から常設が難しい。水門システム1では、トルクセンサD3を後述する近似式の算出のために使用する。このため、トルクセンサD3は、近似式の算出の際に伝動軸35に設置されていればよく、常設されている必要性はない。
【0022】
なお、水門開閉装置3は、電流センサD1、振動センサD2およびトルクセンサD3以外の他のセンサを備えていてもよい。水門開閉装置3は、例えば、伝動軸35の回転量を検出することにより扉体2の開度を測定する開度計、水面に浮かべられたフロートの位置を検出することにより水位を測定する水位計、またはワイヤロープ38の張力を測定する張力センサ等を備えていてもよい。
【0023】
(演算装置4)
図2は、演算装置4の機能構成を示すブロック図である。
図2に示すように、演算装置4は、信号受信部41と、演算部42と、記憶部43と、表示部44とを含む。
【0024】
信号受信部41は、各種信号を有線または無線で受信する。例えば、信号受信部41は、電流センサD1からの電流信号、振動センサD2からの振動信号およびトルクセンサD3からのトルク信号を受信し、各信号データを演算部42へ出力する。また、信号受信部41は、各信号データを記憶部43へ出力し、履歴情報として記憶させる。
【0025】
演算部42は、算出部421と、推定部422とを含む。算出部421は、各種信号に対する処理を実行し、水門設備の稼働時の損傷度(機械負荷)を算出する。具体的には、算出部421は、近似式を用いて伝動軸35の平均トルクおよび変動トルクを算出し、平均トルクおよび変動トルクを合算した稼働トルクに基づいて損傷度を算出する。なお、変動トルクの増加度に対する平均トルクの増加度は一定とは限らない。このため、変動トルクとは別に平均トルクも算出した上で損傷度を算出することが好ましい。
【0026】
図3は、平均トルクおよび変動トルクと、機械負荷(稼働トルク)との関係を示すグラフである。
図3に示すように、稼働時の機械負荷、つまり損傷度は、平均トルクと変動トルクとを合算した稼働トルクに基づいて算出することができる。具体的には、算出部421は、記憶部43に予め記憶された電流と平均トルクとの関係を示す電流-平均トルク近似式を用いて、電流データに基づいて平均トルクを算出する。また、算出部421は、記憶部43に予め記憶された振動と変動トルクとの関係を示す振動-変動トルク近似式を用いて、振動データに基づいて変動トルクを算出する。そして、算出部421は、予め記憶部43に記憶された稼働トルクと損傷度との関係式を用いて、平均トルクと変動トルクとを合算した値である稼働トルクから単位時間毎の損傷度を算出する。
なお、算出部421は、単位時間毎の損傷度のほか、例えば水門設備の1稼働(1運転)毎、つまり扉体2の上昇毎および扉体2の下降毎の損傷度を算出してもよい。これにより、損傷度を算出するための処理量を低減することができる。
【0027】
なお、平均トルクを算出するための電流-平均トルク近似式および変動トルクを算出するための振動-変動トルク近似式は、水門システム1の設置初期に算出され、記憶部43へ予め記憶されている。これらの近似式の算出方法については後述する。
【0028】
推定部422は、算出部421が算出した単位時間毎の損傷度を累積した累積損傷度に基づいて水門設備の余寿命を推定する。具体的には、推定部422は、記憶部43に予め記憶された累積損傷度と余寿命との関係式を参照し、累積損傷度から余寿命を算出する。推定部422は、算出した余寿命を表示部44へ出力し、表示部44に表示させる。なお、推定部422は、表示部44と共に、または表示部44に代えて、インターネットを通じて、スマートフォンまたはタブレット等の端末装置に算出した余寿命を遠隔で表示させてもよい。
【0029】
記憶部43は、演算装置4が使用する各種情報を記憶する。例えば記憶部43は、電流-平均トルク近似式および振動-変動トルク近似式を記憶する。これらの近似式は、例えば水門システム1の設置時に算出され、記憶部43へ予め記憶される。また、記憶部43は、稼働トルクと損傷度との関係式、累積損傷度と余寿命との関係式、および水門システム1の稼働中に信号受信部41が受信した各種信号データを記憶する。
【0030】
〔演算装置4の処理〕
次に、演算装置4が実行する各種処理について説明する。まず、電流-平均トルク近似式および振動-変動トルク近似式の算出処理について説明する。これらの近似式の算出処理は、例えば水門システム1の設置初期に算出部421が実行する。ただし、水門設備の経年劣化等を鑑みて、所定期間経過毎に近似式の算出処理を実行してもよい。また、扉体2が開く場合の近似式と、扉体2が閉じる場合の近似式との両方を別々に算出してもよい。これにより、水門設備の余寿命の推定精度をより高めることができる。
【0031】
(電流-平均トルク近似式の算出処理)
算出部421は、電流センサD1が検出した電流データおよびトルクセンサD3が検出したトルクデータに基づいて、電流-平均トルク近似式を算出する。
【0032】
図4は、電流と平均トルクとの関係の一例を示すグラフである。
図4に示すように、電流と平均トルクとの関係は、電動機31の特性に応じた近似曲線で示される。このため、算出部421は、電流データおよびトルクデータと、電動機31の特性として予め定められる電動機定格値(例えば、定格電流、定格トルク、定格回転速度等)とに基づいて、電流-平均トルク近似式を算出する。
【0033】
具体的には、算出部421は、電流センサD1が検出した電流データおよび2つのトルクセンサD3が検出した各トルクデータを一定の単位時間(例えば約1.0秒)刻みで実効値計算し、電動機定格値に応じた電流-平均トルク近似式を算出する。
【0034】
図4に例示する近似曲線では、電流データから得られた電流が例えば80(A)の場合、算出される平均トルクは約5000(N・m)である。このような電流-平均トルク近似式を用いることにより、電流データに基づいて平均トルクを算出することができる。従って、電流センサD1により電流を検知することによって、高い精度で平均トルクを算出することができる。算出部421は、算出した電流-平均トルク近似式を記憶部43に記憶させる。
【0035】
なお、上述した説明は、平均トルクに関する近似式を算出する方法の一例であり、平均トルクに関する近似式を算出する方法はこれに限定されない。算出部421は、電流センサD1が検出した電流データに代えて、例えば前記張力センサ(荷重測定部)が測定したワイヤロープ38の張力の測定値(荷重評価値)等を用いて、平均トルクの近似式を算出してもよい。この場合、算出部421は、電動機31に掛かる負荷を評価するための荷重評価値としてワイヤロープ38の張力の測定値を用い、滑車効率、ドラム外径および歯車の減速比等から平均トルクを算出してもよい。例えば、ワイヤロープ38の張力の計測値をF、滑車効率をη、ワイヤロープ38が巻かれているドラム37の直径をD、ドラム37のトルクをTとした場合、T=F/η・D/2となる。このドラム37のトルクTを、伝動軸35までの歯車減速段の減速比で割ることで、伝動軸35の平均トルクを算出してもよい。
【0036】
(振動-変動トルク近似式の算出処理)
算出部421は、振動センサD2が検出した振動データおよびトルクセンサD3が検出したトルクデータに基づいて、振動-変動トルク近似式を算出する。
【0037】
伝動軸35とドラム37とは、ピニオンギヤ36とドラムギヤ371とのかみ合い部分で接線力を及ぼし合うことでトルクを伝達する。伝達されるトルクが変動している場合、その変動トルクはピニオンギヤ36の振動に現れる。
【0038】
ここで、振動センサD2が検出した振動データには、電気的なノイズまたは周囲環境の振動等の不要な情報が含まれる。また、伝動軸35の動力をドラム37へ伝達する際のトルク変動および振動特性に対して、ピニオンギヤ36とドラムギヤ371とがかみ合う最中のかみ合い剛性の変動が大きな影響を及ぼす。このため、振動-変動トルク近似式を算出する際、必要な情報を選択的に抽出し、それ以外の情報を除去することが好ましい。
【0039】
そこで、算出部421は、振動-変動トルク近似式を算出する過程において、ピニオンギヤ36とドラムギヤ371とのかみ合い率を基準にして、ピニオンギヤ36とドラムギヤ371とのかみ合い周波数成分を選択的に抽出する。かみ合い率とは、かみ合う歯の枚数を示した設計指標であり、歯車の形状・寸法により決まる固定値である。
【0040】
具体的には、ピニオンギヤ36とドラムギヤ371とのかみ合い率を整数に切り上げた数値をNとした場合、算出部421は、かみ合い周波数成分の1次成分からN次成分までの中から選択される周波数成分に基づいて、振動-変動トルク近似式を算出する。
【0041】
ピニオンギヤ36とドラムギヤ371とのかみ合い率をiとした場合、かみ合う歯の枚数はi→i+1→i→i+1…と交互に変化する。例えばピニオンギヤ36とドラムギヤ371とのかみ合い率が1.5の場合、かみ合う歯の枚数は概ね1→2→1→2…と交互に変化する。この場合、算出部421は、かみ合い周波数成分の1次成分から2次成分までの中から選択される周波数成分に基づいて、振動-変動トルク近似式を算出する。また、ピニオンギヤ36とドラムギヤ371とのかみ合い率が2.5の場合、かみ合う歯の枚数は概ね2→3→2→3…と交互に変化する。この場合、算出部421は、かみ合い周波数成分の1次成分から3次成分までの中から選択される周波数成分に基づいて、振動-変動トルク近似式を算出する。このように、かみ合い率を基準にして、振動データからかみ合い周波数成分を選択的に抽出して振動-変動トルク近似式を算出することにより、変動トルクの算出精度を向上させることができる。
【0042】
図5は、振動と変動トルクとの関係の一例を示すグラフである。
図5に示すように、算出部421は、かみ合い周波数成分の1次成分および2次成分を選択的に抽出し、これらの1次成分および2次成分に基づいて振動-変動トルク近似式を算出してもよい。
【0043】
かみ合い率をiとした場合、1枚の歯のかみ合い始めから終わりまでの間に、概ね「i枚かみ合い→i+1枚かみ合い→i枚かみ合い」と2回変化する。このため、一般的に、歯のかみ合い枚数の変化に起因する振動は、かみ合い周波数の1次成分と2次成分とが支配的である。従って、かみ合い周波数成分の1次成分および2次成分に基づいて振動-変動トルク近似式を算出することにより、変動トルクの算出精度を確保しつつ、振動-変動トルク近似式を算出するための処理量を低減することができる。ただし、かみ合い周波数成分の3次成分以上を使用して振動-変動トルク近似式を算出してもよい。これにより、変動トルクの算出精度をより高めることができる。
【0044】
図5の例示では、算出部421は、振動センサD2が検出した振動データおよびトルクセンサD3が検出した各トルクデータを一定の単位時間(かみ合い周波数が10.8Hzである場合は例えば約1.6秒)刻みでFFT解析(周波数解析)する。そして、算出部421は、かみ合い周波数の1次成分および2次成分(
図5中にかみ合い1次+2次)について最小二乗法により振動-変動トルク近似式を算出する。なお、FFT解析を実行する単位時間(サンプリング間隔)は、周波数分解能との兼ね合いで適宜設定される。
【0045】
図5に例示する近似直線では、振動データから得られた振動速度が例えば0.8(mm/s)の場合、算出される変動トルクは約430(N・m)である。このような振動-変動トルク近似式を用いることにより、振動データに基づいて変動トルクを算出することができる。従って、振動センサD2により振動を検知することによって、高い精度で変動トルクを算出することができる。算出部421は、算出した振動-変動トルク近似式を記憶部43に記憶させる。
【0046】
〔余寿命の推定処理〕
次に、演算部42の算出部421および推定部422が実行する水門設備の余寿命の推定処理について説明する。余寿命の推定処理は、水門設備の稼働中に随時実行されてもよく、または所定期間毎(例えば1日毎)に纏めて実行されてもよい。以下では、余寿命の推定処理を所定期間毎(1日毎)に纏めて実行する一例について説明する。
【0047】
図6は、水門設備の余寿命の推定処理の一例を示すフローチャートである。
図6に示すように、水門システム1では、扉体2の移動時、つまり扉体2が上昇または下降を行う際、電流センサD1により電動機31の駆動電流が検出されると共に、振動センサD2によりピニオンギヤ36の振動が検出される(ステップS1、検出工程)。検出された電流および振動は信号受信部41へ入力され、信号受信部41は履歴情報として電流データおよび振動データを記憶部43に記憶させる(ステップS2)。これにより、所定期間における電流データおよび振動データが記憶部43に蓄積される。
【0048】
次に、所定期間経過後、算出部421は、損傷度の計算を実行する。まず、算出部421は、記憶部43に記憶された振動データを読み出し(ステップS3)、読み出した振動データをFFT解析して、ピニオンギヤ36とドラムギヤ371とのかみ合い率を基準にかみ合い周波数成分を抽出する(ステップS4)。このとき、算出部421は、振動-変動トルク近似式の算出時に用いたかみ合い周波数成分を抽出する。そして、算出部421は、記憶部43に記憶された振動-変動トルク近似式を用いて、抽出した周波数成分に基づいて変動トルクを算出する(ステップS5、演算工程)。
【0049】
次に、算出部421は、記憶部43に記憶された電流データを読み出す(ステップS6)。そして、算出部421は、読み出した電流データを実効値計算し、予め記憶部43に記憶された電流-平均トルク近似式を用いて、平均トルクを算出する(ステップS7)。
【0050】
次に、算出部421は、ステップS5で算出した変動トルクとステップS7で算出した平均トルクとを合算して稼働トルクを算出する(ステップS8)。そして、算出部421は、予め記憶部43に記憶された稼働トルクと損傷度との関係式および単位時間における荷重繰返し数を用いて単位時間当たりの損傷度を算出する(ステップS9)。算出部421は、水門設備の1稼働当たり、つまり扉体2の上昇毎および扉体2の下降毎に単位時間当たりの損傷度を積算し、1稼働当たりの損傷度を算出する(ステップS10)。
【0051】
算出部421は、ステップS3からステップS10までの処理、つまり1稼働当たりの損傷度の算出処理を、所定期間における全稼働分の損傷度が算出されるまで繰り返し実行する。そして、全稼働分の損傷度を算出した後、算出部421は、それ以前に累積された累積損傷度、つまり前日までに累積された累積損傷度に全稼働分の損傷度を積算し(ステップS11)、累積損傷度を更新する。算出部421は、更新後の累積損傷度を推定部422へ出力すると共に、更新後の累積損傷度を記憶部43に記憶させる。
【0052】
次に、推定部422は、算出部421から出力された累積損傷度に基づいて、水門設備の余寿命を推定する(ステップS12)。水門設備の余寿命は、累積損傷則(マイナー則)等の公知の手法を用いて推定することができる。
【0053】
図7は、累積損傷度と余寿命との関係の一例を示すグラフである。例えば1稼働当たりの機械負荷Fiがni回作用した際の損傷度ni/Niとした場合、
図7に示すように、推定部422は、累積疲労度Σ(ni/Ni)=1を機械寿命として、累積疲労度の近似直線から現在の余寿命を推定する。
【0054】
このように演算部42は、振動-変動トルク近似式を用いて算出した変動トルクに基づいて累積損傷度を算出し、累積損傷度から水門設備の余寿命を推定する。従って、余寿命の推定精度を向上させることができる。
【0055】
なお、余寿命の推定は、水門設備の構成部品毎に実行される。つまり、伝動軸35、ピニオンギヤ36およびドラム37等の構成部品毎に損傷度が累積され、累積損傷度に応じて構成部品毎の余寿命が推定される。
【0056】
〔演算装置4のまとめ〕
以上のように、本実施形態に係る演算装置4は、電動機31の動力をドラム37へ伝達する伝動軸35に固定されたピニオンギヤ36の振動を検出する振動センサD2から出力された振動信号に基づいて、伝動軸35の変動トルクを算出する演算部42を備える。ピニオンギヤ36と、該ピニオンギヤ36にかみ合って電動機31の動力をドラム37へ伝達するドラムギヤ371とのかみ合い率を整数に切り上げた数値をNとした場合、演算部42は、かみ合い周波数成分の1次成分からN次成分までの中から選択される周波数成分に基づいて算出された振動と前記変動トルクとの関係を示す近似式を用いて、振動信号から変動トルクを算出する。
【0057】
演算装置4では、かみ合い周波数成分の1次成分からN次成分までの中から選択される周波数成分に基づいて算出された近似式を用いて、振動信号から変動トルクを算出する。従って、演算装置4によれば、振動信号から必要な情報を選択的に抽出して変動トルクを算出するため、変動トルクの算出精度を向上させることができる。
【0058】
なお、本開示に係る演算装置4が適用される対象は、水門設備に限定されない。演算装置4は、例えばごみ焼却施設、風車等の歯車を用いた回転機械を有する装置全般に適用可能である。
【0059】
〔ソフトウェアによる実現例〕
演算装置4の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロックとしてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0060】
この場合、前記装置は、前記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により前記プログラムを実行することにより、前記実施形態で説明した各機能が実現される。
【0061】
前記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、前記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、前記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して前記装置に供給されてもよい。
【0062】
また、前記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、前記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより前記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0063】
〔補足〕
本発明の態様1に係る演算装置は、電動機の動力を回転機械へ伝達する伝動軸に固定された第1歯車の振動を検出する振動検出部から出力された振動信号に基づいて、前記伝動軸の変動トルクを算出する演算部を備え、前記第1歯車と、該第1歯車にかみ合って前記動力を前記回転機械へ伝達する第2歯車とのかみ合い率を整数に切り上げた数値をNとした場合、前記演算部は、かみ合い周波数成分の1次成分からN次成分までの中から選択される周波数成分に基づいて算出された振動と前記変動トルクとの関係を示す近似式を用いて、前記振動信号から前記変動トルクを算出する。
【0064】
前記構成では、かみ合い周波数成分の1次成分からN次成分までの中から選択される周波数成分に基づいて算出された近似式を用いて、振動信号から変動トルクを算出する。従って、前記構成によれば、振動信号から必要な情報を選択的に抽出して変動トルクを算出するため、変動トルクの算出精度を向上させることができる。
【0065】
本発明の態様2に係る演算装置では、前記態様1において、前記近似式は、前記かみ合い周波数成分の1次成分および2次成分に基づいて算出されてもよい。
【0066】
一般的に、歯のかみ合い枚数の変化に起因する振動は、かみ合い周波数の1次成分と2次成分とが支配的である。従って、前記構成によれば、変動トルクの算出精度を確保しつつ、振動-変動トルク近似式の算出処理量を低減することができる。
【0067】
本発明の態様3に係る演算装置では、前記態様1または2において、前記演算部は、前記電動機に掛かる負荷を荷重評価値として測定する荷重測定部から出された前記荷重評価値と前記電動機の定格値とに基づいて、前記伝動軸の平均トルクを算出してもよい。
【0068】
前記構成によれば、電動機に掛かる負荷を荷重評価値として測定することによって、高い精度で平均トルクを算出することができる。
【0069】
本発明の態様4に係る演算装置では、前記態様3において、前記演算部は、前記平均トルクと前記変動トルクとを合算した値に基づいて損傷度を算出し、前記算出された損傷度の累積値に基づいて前記回転機械を備える設備の余寿命を推定してもよい。
【0070】
前記構成では、演算部は、前記近似式を用いて算出された変動トルクに基づいて設備の余寿命を推定する。従って、前記構成によれば、余寿命の推定精度を高めることができる。
【0071】
本発明の態様5に係る演算方法は、電動機の動力を回転機械へ伝達する伝動軸に固定された第1歯車の振動を振動検出部によって検出する検出工程と、前記振動検出部から出力された振動信号に基づいて、前記伝動軸の変動トルクを算出する演算工程と、を含み、前記第1歯車と、該第1歯車にかみ合って前記動力を前記回転機械へ伝達する第2歯車とのかみ合い率を整数に切り上げた数値をNとした場合、前記演算工程にて、かみ合い周波数成分の1次成分からN次成分までの中から選択される周波数成分に基づいて算出された振動と前記変動トルクとの関係を示す近似式を用いて、前記振動信号から前記変動トルクを算出する。
【0072】
前記方法では、かみ合い周波数成分の1次成分からN次成分までの中から選択される周波数成分に基づいて算出された近似式を用いて、振動信号から変動トルクを算出する。従って、前記方法によれば、振動信号から必要な情報を選択的に抽出して変動トルクを算出するため、変動トルクの算出精度を向上させることができる。
【0073】
本発明の各態様に係る演算装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記演算装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記演算装置をコンピュータにて実現させる演算装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【0074】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
4 演算装置
31 電動機
35 伝動軸
36 ピニオンギヤ(第1歯車)
37 ドラム(回転機械)
42 演算部
371 ドラムギヤ(第2歯車)
421 算出部(演算部)
422 推定部(演算部)
D1 電流センサ(荷重測定部)
D2 振動センサ(振動検出部)
S1 検出工程
S5 演算工程