(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157595
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】機能材料インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/36 20140101AFI20241031BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20241031BHJP
H01B 1/24 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C09D11/36
H01B1/22 A
H01B1/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072009
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 英靖
(72)【発明者】
【氏名】大原 隆志
【テーマコード(参考)】
4J039
5G301
【Fターム(参考)】
4J039AB02
4J039BA06
4J039BC07
4J039BC10
4J039CA07
4J039EA44
4J039GA24
5G301DA03
5G301DA04
5G301DA05
5G301DA06
5G301DA07
5G301DA08
5G301DA10
5G301DA11
5G301DA12
5G301DA13
5G301DA14
5G301DA18
5G301DA33
5G301DA42
5G301DD02
5G301DE01
(57)【要約】
【課題】粘度の経時変化を抑制し、かつ、脱バインダの時間を短くすることができる機能材料インクを提供する。
【解決手段】本発明に基づく機能材料インクは、機能材料と、溶剤と、バインダとを含む。溶剤は、メトキシブタノールを含む。バインダは、セルロースナノファイバを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能材料と、溶剤と、バインダとを含む、機能材料インクであって、
前記溶剤は、メトキシブタノールを含み、
前記バインダは、セルロースナノファイバを含む、機能材料インク。
【請求項2】
前記溶剤は、1,3-ブタンジオールおよびエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに含む、請求項1に記載の機能材料インク。
【請求項3】
分散剤をさらに含み、
前記機能材料、前記バインダ、および、前記分散剤の合計体積に対する、前記機能材料の体積の比率は、80vol%以上90vol%以下である、請求項1に記載の機能材料インク。
【請求項4】
前記機能材料は、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、タングステン(W)、炭素(C)、チタン(Ti)、NiTi合金、ステンレス鋼、コバルトクロム(CoCr)合金、金(Au)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、マンガン(Mn)、リチウム(Li)、シリコン(Si)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)、酸化マグネシウム(MgO)、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、酸化クロム(Cr2O3)、二酸化マンガン(MnO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、ジルコニア(ZrO2)、ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、および、炭酸カルシウム(CaCO3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の材料を含む粉末である、請求項1に記載の機能材料インク。
【請求項5】
積層型セラミック電子部品における非導電層、導体層、または、半導体層をインクジェット印刷法により形成するために用いられる、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の機能材料インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能材料インクに関する。
【背景技術】
【0002】
積層型セラミック電子部品の非導電層および導体または半導体層を形成するための方法として、インクジェット印刷法が注目されている。特開2021-24992号公報(特許文献1)には、インクジェット印刷法に用いられる従来の機能材料インクが開示されている。そして、積層型セラミック電子部品の製造においては、機能材料インクに含まれる樹脂(バインダ)を、熱分解または燃焼させることによって除去する脱脂(脱バインダ)が実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の機能材料インクは、インクに含まれる樹脂(バインダ)の影響により、製造後の保管期間中に粘度が経時的に変化し、これによりインクの吐出性が経時的に変化するという問題があった。また、機能材料インクの脱バインダにかかる時間の短縮についても、さらなる改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、粘度の経時変化を抑制し、かつ、脱バインダの時間を短くすることができる機能材料インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に基づく機能材料インクは、機能材料と、溶剤と、バインダとを含む。溶剤は、メトキシブタノールを含む。バインダは、セルロースナノファイバを含む。
【0007】
上記のようにバインダがセルロースナノファイバを含むことにより、機能材料インクの粘度の経時変化が抑制される。また、セルロースナノファイバは、バインダとして使用される従来の他の樹脂より熱分解に必要な熱エネルギーが比較的小さい。このため、バインダがセルロースナノファイバを含むことにより、機能材料インクの脱バインダの時間を短くすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粘度の経時変化を抑制し、かつ、脱バインダの時間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る機能材料インクを用いて製造される積層型セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサを示す断面図である。
【
図2】
図1の積層セラミックコンデンサを製造する途中で作製される構造物の一部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係る機能材料インクについて説明する。本実施形態に係る機能材料インクは、(A)機能材料と、(B)溶剤と、(C)バインダとを含む。
【0011】
[(A)機能材料]
本実施形態において、(A)機能材料は、粉末状の材料である。機能材料粉末は、具体的には無機材料粉末であって、金属などの導電材料からなる粉末、または、金属酸化物などの不導体材料もしくは半導体材料からなる粉末であってよい。機能材料粉末は、顔料であってもよい。
【0012】
機能材料粉末の具体例は特に限定されないが、機能材料粉末は、たとえば、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、タングステン(W)、炭素(C)、チタン(Ti)、NiTi合金、ステンレス鋼、コバルトクロム(CoCr)合金、金(Au)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、マンガン(Mn)、リチウム(Li)、シリコン(Si)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)、酸化マグネシウム(MgO)、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、酸化クロム(Cr2O3)、二酸化マンガン(MnO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、ジルコニア(ZrO2)、ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、および、炭酸カルシウム(CaCO3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の材料を含む粉末である。機能材料粉末が当該粉末であれば、本実施形態に係る機能材料インクを、後述の積層型セラミック電子部品の製造に好適に使用できる。
【0013】
機能材料インク中の(A)機能材料の含有量は、たとえば20質量%以上50質量%以下である。
【0014】
[(B)溶剤]
本実施形態において、(B)溶剤は、水溶性溶剤である。(B)溶剤は、メトキシブタノールを含んでいる。これにより、機能材料インク中において(A)機能材料が沈降することを抑制でき、機能材料インクの長期安定性、ならびに、吐出性および印刷性を向上できる。
【0015】
(B)溶剤は、他の水溶性溶剤を含んでいてもよい。他の水溶性溶剤としては、エチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類;1,3-ブタンジオール、ペンタンジオールなどのジオール類;ラウリン酸プロピレングリコールなどのグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチルの各エーテル;プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテルのグリコールエーテル類;メタノール、エタノールなどのアルコール類;スルホラン;γ-ブチロラクトンなどのラクトン類;N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドンなどのラクタム類などが挙げられる。
【0016】
(B)溶剤は、たとえば、1,3-ブタンジオールおよびエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに含んでいることが好ましい。(B)溶剤が、メトキシブタノールとともに上記の化合物を含む混合溶剤であることで、機能材料インク中の(A)機能材料の沈降をより抑制できる。
【0017】
機能材料インク中の(B)溶剤の含有量は、たとえば50質量%以上70質量%以下である。
【0018】
[(C)バインダ]
(C)バインダは、セルロースナノファイバを含む。これにより、本実施形態に係る機能材料インクの粘度の経時変化が比較的小さくなる。
【0019】
セルロースナノファイバは、セルロース原料(たとえば、木材)から抽出されたナノセルロースである。セルロースナノファイバの抽出方法としては、たとえば、機械的処理(たとえば、ビーズミルによる粉砕処理)、および化学的処理(たとえば、TEMPO触媒酸化処理、カルボキシメチル化処理およびカチオン化処理)が挙げられる。セルロースナノファイバとしては、機械的処理により抽出されたセルロースナノファイバが好ましい。
【0020】
セルロースナノファイバの平均直径(繊維径)は、たとえば、2nm以上20nm以下であり、3nm以上10nm以下が好ましく、3nm以上7nm以下がより好ましい。セルロースナノファイバの平均直径を20nm以下とすることで、機能材料インクの吐出性をより向上できる。
【0021】
セルロースナノファイバのアスペクト比(平均繊維長/平均直径)は、30以上200以下であり、100以上200以下が好ましく、150以上200以下がより好ましい。セルロースナノファイバのアスペクト比を200以下とすることで、機能材料インクの吐出性を向上できる。
【0022】
ここで、セルロースナノファイバの「平均繊維長」および「平均直径」は、それぞれ、セルロースナノファイバの2次元投影像(たとえば、SEM写真)に基づいて測定された値である。具体的には、セルロースナノファイバの「平均繊維長」および「平均直径」の測定では、まず、2次元投影像において、無作為に選択された20個のセルロースナノファイバのそれぞれの繊維長または直径を測定する。そして、測定されたセルロースナノファイバの繊維長または直径の算術平均値を算出し、算出された値を平均繊維長または平均直径とする。なお、測定対象のセルロースナノファイバの直径が一定でない場合、測定対象のセルロースナノファイバの無作為に選択される5箇所でそれぞれ直径を測定し、その算術平均値を測定対象のセルロースナノファイバの直径とみなす。また、セルロースナノファイバの平均繊維長および平均直径の測定には、乾燥状態のセルロースナノファイバを用いる。
【0023】
(C)バインダは、他の樹脂をさらに含んでいてもよい。他の樹脂としては、ポリビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系高分子化合物、または、ナノファイバ状でない、セルロースなどの多糖類誘導体など(たとえば、ヒドロキシプロピルセルロース)からなる樹脂などが挙げられる。
【0024】
(C)バインダ中のセルロースナノファイバの含有率は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。そして、(C)バインダは、実質的にセルロースナノファイバのみからなることが最も好ましい。(C)バインダ中のセルロースナノファイバの含有率が高いほど、セルロースナノファイバによる、機能材料インクの粘度の経時変化抑制の効果が大きくなる。
【0025】
機能材料インク中の(C)バインダの含有量は、たとえば0.5質量%以上3.0質量%以下である。機能材料インク中の(C)バインダの含有量が3.0質量%以下であれば、機能材料インクの粘度の経時変化が大きくなることを抑制でき、また、機能材料インクの粘度の製造ロットごとのばらつきが大きくことを抑制できる。
【0026】
[(D)分散剤]
本実施形態において、機能材料インクは、(D)分散剤をさらに含んでいてもよい。(D)分散剤としては、たとえば、ポリカルボン酸系共重合体、または、アセチレングリコール界面活性剤などのノニオン系分散剤などが挙げられる。機能材料インク中の(D)分散剤の含有量は、たとえば0.1質量%以上1.0質量%以下である。
【0027】
[機能材料インク]
本実施形態に係る機能材料インクは、たとえば、インジェット印刷法のためのインクとして用いることができる。
【0028】
機能材料インクにおいて、(A)機能材料、(C)バインダ、および、(D)分散剤の合計体積に対する、(A)機能材料の体積の比率は、80vol%以上90vol%以下であることが好ましい。上記体積の比率が80vol%以上であれば、機能材料インクを印刷することで形成された印刷層において(B)溶剤を乾燥および(C)バインダを(C)分散剤とともに気化(脱バインダ)させた後に(A)機能材料の密度を高めることができる。また、上記体積の比率が90vol%以下であれば、粘度が高くなりすぎることを抑制できる。
【0029】
機能材料インクの粘度は、10mPa・S以上35mPa・S以下であることが好ましい。機能材料インクの粘度が10mPa・S以上35mPa・S以下であれば、機能材料インクを、インクジェット印刷法のインクとして好適に用いることができる。なお、上記粘度は、たとえば、コーン型レオメーター(アントンパール社製、「MCR301」)を用い、コーンの径を50mm(CP50)、温度条件を25℃±2℃としたときの、ズリ速度1000sec-1における3秒後の粘度である。
【0030】
[積層型セラミック電子部品]
次に、本発明の一実施形態に係る機能材料インクを用いて製造される積層型セラミック電子部品について、図を参照して説明する。以下の積層型セラミック電子部品の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0031】
図1は、本発明の一実施形態に係る機能材料インクを用いて製造される積層型セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサを示す断面図である。
【0032】
図1に示すように、積層セラミックコンデンサ1は、積層された複数の非導電層としてのセラミック層2からなる積層構造を有するセラミック素体3と、セラミック層2間の複数の界面に沿ってそれぞれ形成された各々複数の導体層としての第1の内部電極4および第2の内部電極5を備えている。積層セラミックコンデンサ1において、セラミック層2は、誘電体セラミックから構成される。第1の内部電極4と第2の内部電極5とは、静電容量を形成するように、セラミック層2を介して互いに対向しており、また、積層方向に見て交互に配置される。
【0033】
セラミック素体3の一方の端面上には、導体層としての第1の外部電極6が形成されている。第1の外部電極6は、第1の内部電極4に電気的に接続されている。セラミック素体3の他方の端面上には、導体層としての第2の外部電極7が形成される。第2の外部電極7は、第2の内部電極5に電気的に接続されている。
【0034】
図2は、
図1の積層セラミックコンデンサを製造する途中で作製される構造物の一部を示す斜視図である。
図2に示すように、上述した積層セラミックコンデンサ1を製造するため、構造物10が作製される。構造物10は、積層セラミックコンデンサ1のセラミック層2に対応する、セラミックグリーンシート11を備える。
【0035】
セラミックグリーンシート11の一方主面上には、第1の内部電極4または第2の内部電極5となる内部電極用印刷層12が形成される。内部電極用印刷層12は、所定の厚みを有していて、そのため、セラミックグリーンシート11上に、この厚みによる段差を生じさせている。
【0036】
他方、セラミックグリーンシート11の主面上の内部電極用印刷層12が形成されていない領域には、段差吸収用印刷層13が形成される。段差吸収用印刷層13は、上述した内部電極用印刷層12の厚みによる段差を吸収するための非導電層としての段差吸収層となるものである。段差吸収用印刷層13の形成工程は、内部電極用印刷層12の形成工程の後に実施されてもよいし、前に実施されてもよい。
図1において、段差吸収層は特に図示はされていないが、セラミック素体3内において、第1の内部電極4および第2の内部電極5の各々と同一面上に延びるように形成されるものである。
【0037】
また、
図2に示した内部電極用印刷層12が
図1に示した第1の内部電極4となるものである場合、第1の外部電極6となる外部電極用印刷層14が、内部電極用印刷層12の端縁と接続されるように形成される。外部電極用印刷層14は、セラミックグリーンシート11と、内部電極用印刷層12または段差吸収用印刷層13との合計厚みに相当する厚みを有するように形成される。同様に、第2の外部電極7となる外部電極用印刷層15が、図示しない第2の内部電極5となる内部電極用印刷層の端縁と接続されるように形成される。
【0038】
上述したセラミックグリーンシート11、内部電極用印刷層12、段差吸収用印刷層13ならびに外部電極用印刷層14および15を備える構造物10の形成には、本実施形態に係る機能材料インクを用いることができる。すなわち、セラミックグリーンシート11、内部電極用印刷層12、段差吸収用印刷層13、および、外部電極用印刷層14,15のそれぞれに適した組成を有する機能材料インクが用いられる。簡単に言えば、セラミックグリーンシート11および段差吸収用印刷層13の形成には、機能材料となる無機材料粉末として、セラミック(金属酸化物)粉末を含む機能材料インクが用いられ、内部電極用印刷層12および外部電極用印刷層14,15の形成には、機能材料となる無機材料粉末として金属粉末を含む機能材料インクが用いられる。
【0039】
また、好ましくは、セラミックグリーンシート11、内部電極用印刷層12、段差吸収用印刷層13および外部電極用印刷層14,15の形成を順次実行するため、各々別のインクジェットヘッドを順次作動させる3次元インクジェット印刷法が実施され得る。3次元インクジェット印刷法が必要回数繰り返されることによって、積層セラミックコンデンサ1となるグリーン積層体が得られる。
【0040】
次に、グリーン積層体の脱バインダおよび焼成が実施される。この脱バインダおよび焼成の結果、
図1に示した第1の内部電極4および第2の内部電極5を内蔵し、かつ第1の外部電極6および第2の外部電極7が形成された状態のセラミック素体3を備える、積層セラミックコンデンサ1が製造される。焼成条件は特に限定されないが、たとえば、大気雰囲気で5℃/minで1200℃まで昇温させた後、1200℃で2時間キープして、1℃/minで20℃まで降温させることで、焼成が実施され得る。
【0041】
なお、積層セラミックコンデンサ1となるグリーン積層体を得るため、3次元インクジェット印刷法ではなく、2次元インクジェット印刷法が用いられてもよい。この場合、セラミックグリーンシート11がドクターブレード法等のシート成形法により成形され、その上に内部電極用印刷層12および段差吸収用印刷層13が2次元インクジェット印刷法により形成される。その後、複数のセラミックグリーンシート11が積層されることによって、グリーン積層体が得られる。このグリーン積層体が焼成されることによって、第1の内部電極4および第2の内部電極5を内蔵するセラミック素体3が得られる。そして、セラミック素体3の端部に第1の外部電極6および第2の外部電極7を、たとえば導電性ペーストの塗布および焼付けによって形成することによって、積層セラミックコンデンサ1が完成される。
【0042】
上述のように、本実施形態に係る機能材料インクは、積層型セラミック電子部品における非導電層(誘電体層)、導体層、または、半導体層をインクジェット印刷法により形成するために用いることができる。
【実施例0043】
以下、実施例を挙げて本発明に基づく機能材料インクをより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
実施例1に係る機能材料インクは、以下のようにして製造した。はじめに、機能材料粉末としてNi粉末と、分散剤としてポリカルボン酸系共重合体と、溶剤としてメトキシブタノールとを、ボールミルにて、回転数150rpmで16時間、混合攪拌して、分散剤を無機材料粉末に付着させることで、第1の混合物を得た。次に、第1の混合物に、アルカノイル基などを導入することで疎水性を付与したセルロースナノファイバ(CNF)のみをバインダとして添加して、再びボールミルにて、回転数150rpmで4時間、混合攪拌することで、第2の混合物を得た。そして、第2の混合物を孔径1μmのフィルタにて、1回濾過し、粒径1μmを超える機能材料粉末および不純物を除去することで、実施例1に係る機能材料インクを得た。実施例1においては、機能材料インクに含まれる機能材料粉末、バインダ、および、分散剤の含有量が、それぞれ、37.0質量%、0.7質量%、および、0.6質量%となるように、各材料を混合した。また、機能材料粉末、バインダ、および、分散剤の合計体積に対する、機能材料粉末の体積の比率が、90vol%となるように、各材料を混合した。
【0045】
[実施例2]
溶剤として、メトキシブタノールを50vol%および1-3-ブタンジオールを50vol%含む混合溶剤を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2に係る機能材料インクを得た。
【0046】
[実施例3]
溶剤として、メトキシブタノールを50vol%およびエチレングリコールを50vol%含む混合溶剤を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3に係る機能材料インクを得た。
【0047】
[実施例4]
実施例4においては、機能材料インクにおける機能材料粉末、バインダ、および、分散剤の含有量が、それぞれ、34.6質量%、1.6質量%、および、0.6質量%となるように、各材料を混合した。また、機能材料粉末、バインダ、および、分散剤の合計体積に対する、機能材料粉末の体積の比率が、85vol%となるように、各材料を混合した。これら以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4に係る機能材料インクを得た。
【0048】
[実施例5~実施例8]
機能材料粉末としてCu粉末を用いたこと以外は、実施例1~実施例4のそれぞれと同様の方法で、実施例5~実施例8に係る機能材料インクを得た。
【0049】
[実施例9~実施例12]
機能材料粉末としてC粉末を用いたこと以外は、実施例1~実施例4のそれぞれと同様の方法で、実施例9~実施例12に係る機能材料インクを得た。
【0050】
[実施例13~実施例16]
機能材料粉末としてAg粉末を用いたこと以外は、実施例1~実施例4のそれぞれと同様の方法で、実施例13~実施例16に係る機能材料インクを得た。
【0051】
[実施例17~実施例20]
機能材料粉末としてTi粉末を用いたこと以外は、実施例1~実施例4のそれぞれと同様の方法で、実施例17~実施例20に係る機能材料インクを得た。
【0052】
[実施例21~実施例24]
機能材料粉末としてNiTi合金粉末を用いたこと以外は、実施例1~実施例4のそれぞれと同様の方法で、実施例21~実施例24に係る機能材料インクを得た。
【0053】
[実施例25]
実施例25においては、バインダとして、アルカノイル基などを導入することで疎水性を付与したセルロースナノファイバと、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)とを、質量比が1:1となるように用いた。また、機能材料インクにおける機能材料粉末、バインダ、および、分散剤の含有量が、それぞれ、30.4質量%、2.6質量%、および、0.6質量%となるように、各材料を混合した。また、機能材料粉末、バインダ、および、分散剤の合計体積に対する、機能材料粉末の体積の比率が、80vol%となるように、各材料を混合した。これら以外については、実施例24と同様の方法で、実施例25に係る機能材料インクを得た。
【0054】
[実施例26~実施例29]
機能材料粉末としてCaZrO3粉末を用いたこと以外は、実施例1~実施例4のそれぞれと同様の方法で、実施例26~実施例29に係る機能材料インクを得た。
【0055】
[実施例30~実施例33]
機能材料粉末としてBaTiO3粉末を用いたこと以外は、実施例1~実施例4のそれぞれと同様の方法で、実施例30~実施例33に係る機能材料インクを得た。
【0056】
[実施例34~実施例37]
機能材料粉末としてAl2O3粉末を用いたこと以外は、実施例1~実施例4のそれぞれと同様の方法で、実施例34~実施例37に係る機能材料インクを得た。
【0057】
[実施例38]
機能材料粉末としてCaZrO3粉末を用いたこと以外は、実施例25と同様の方法で、実施例38に係る機能材料インクを得た。
【0058】
[比較例1~比較例36]
バインダとして、ヒドロキシプロピルセルロースのみを用いたこと以外は、実施例1~実施例24および実施例26~実施例37のそれぞれと同様の方法で、比較例1~比較例36に係る機能材料インクを得た。
【0059】
[粘度測定]
各実施例および各比較例に係る機能材料インクについて、粘度を測定した。機能材料インクの粘度は、コーン型レオメーター(アントンパール社製、「MCR301」)を用い、コーンの径を50mm(CP50)、温度条件を25℃±2℃としたときの、ズリ速度1000[sec-1]における3秒後の粘度を測定した。
なお、各実施例および各比較例に係る機能材料インクについて、上述の方法で作製してから5時間経過するまでの間における粘度(第1粘度)と、上述の方法で作製してから30日経過したときの粘度(第2粘度)とを、それぞれ測定した。また、各実施例および各比較例について、第2粘度を第1粘度で除したときの値を、粘度変化率として算出した。
【0060】
[脱バインダ時間測定]
各実施例および各比較例に係る機能材料インクについて、印刷後に脱バインダを実施した場合に、脱バインダに要した時間を測定した。まず、各実施例および各比較例に係る機能材料インクを、ピエゾインクジェット印刷機を用いてインクジェット印刷法により印刷したのち、50℃、3分の条件下で乾燥させることで、印刷層を得た。続いて、この印刷層を、大気雰囲気で1℃/minで300℃まで昇温させ、300℃でキープした。300℃でキープを開始したのち、熱分析-示差熱・熱重量同時測定(TG/DTA:Thermogravimetry/Differential Thermal Analysis)装置により、バインダがおよそ全て気化したと判断した後、1℃/minで20℃まで降温させた。上記の昇温開始から降温完了までの時間を、脱バインダ時間として測定した。
【0061】
第1粘度、第2粘度、粘度変化率、および、脱バインダ時間の結果について、下記表1および表2に示す。なお、表1および表2の(B)溶剤において、「M」はメトキシブタノールを示し、「B」は1-3-ブタンジオールを示し、「E」は、エチレングリコールを示している。
【0062】
【0063】
【0064】
表1に示すように、実施例1~実施例38においては、バインダがセルロースナノファイバを含んでおり、機能材料インクの粘度変化率が0.9~1.2、脱バインダ時間が5~7時間であった。一方、表2に示すように、比較例1~比較例36においては、バインダがセルロースナノファイバを含まず、機能材料インクの粘度変化率が1.3~1.7であり、脱バインダ時間が10時間であった。よって、バインダがセルロースナノファイバを含むことにより、機能材料インクの粘度の経時変化が抑制され、かつ、脱バインダの時間が短くなったことが理解される。
【0065】
セルロースナノファイバは、バインダとして使用される従来の他の樹脂と比較して熱分解に必要な熱エネルギーが小さい。このため、バインダがセルロースナノファイバを含むことにより、バインダを熱分解させて系外に排出させるための時間が短くなったものと考えられる。
【0066】
また、実施例2,3,6,7,10,11,14,15,18,19,22,23,27,28,31,32,35,36においては、溶剤が1,3-ブタンジオールまたはエチレングリコールをさらに含んでおり、機能材料インクの粘度変化率が1.0~1.2、脱バインダ時間が5時間であった。一方、表2に示すように、比較例2,3,6,7,10,11,14,15,18,19,22,23,26,27,30,31,34,35においては、溶剤が1,3-ブタンジオールまたはエチレングリコールをさらに含んでおり、機能材料インクの粘度変化率が1.3~1.7、脱バインダ時間が10時間であった。このように、溶剤が1,3-ブタンジオールまたはエチレングリコールをさらに含んでいる場合であっても、バインダがセルロースナノファイバを含むことにより、機能材料インクの粘度の経時変化が抑制され、かつ、脱バインダの時間が短くなったことが理解される。
【0067】
また、実施例1~実施例38および比較例1~比較例36においては、機能材料、バインダ、および、分散剤の合計体積に対する、機能材料の体積の比率は、80vol%以上90vol%以下であった。そして、実施例1~実施例38に係る機能材料インクの粘度変化率が0.9~1.2、脱バインダ時間が5~7時間であり、比較例1~比較例36に係る機能材料インクの粘度変化率が1.3~1.7、脱バインダ時間が10時間であった。よって、機能材料の上記体積比率が80vol%以上90vol%以下である場合においても、バインダがセルロースナノファイバを含むことにより、機能材料インクの粘度の経時変化が抑制され、かつ、脱バインダの時間が短くなったことが理解される。
【0068】
また、実施例1~実施例38および比較例1~比較例36においては、機能材料として、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、炭素(C)、銀(Ag)、チタン(Ti)、NiTi合金、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、または、アルミナ(Al2O3)からなる粉末を用いた。そして、実施例1~実施例38に係る機能材料インクの粘度変化率は0.9~1.2、脱バインダ時間が5~7時間であり、比較例1~比較例36に係る機能材料インクの粘度変化率が1.3~1.7、脱バインダ時間は10時間であった。よって、機能材料として上記のような粉末を用いた場合においても、バインダがセルロースナノファイバを含むことにより、機能材料インクの粘度の経時変化が抑制され、かつ、脱バインダの時間が短くなったことが理解される。
【0069】
なお、上述した実施形態の説明においては、組み合わせ可能な構成を相互に組み合わせてもよい。
【0070】
[付記]
以上のように、本実施形態においては、以下のような開示を含む。
【0071】
<1>
機能材料と、溶剤と、バインダとを含む、機能材料インクであって、
前記溶剤は、メトキシブタノールを含み、
前記バインダは、セルロースナノファイバを含む、機能材料インク。
【0072】
<2>
前記溶剤は、1,3-ブタンジオールおよびエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに含む、<1>に記載の機能材料インク。
【0073】
<3>
分散剤をさらに含み、
前記機能材料、前記バインダ、および、前記分散剤の合計体積に対する、前記機能材料の体積の比率は、80vol%以上90vol%以下である、<1>または<2>に記載の機能材料インク。
【0074】
<4>
前記機能材料は、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、タングステン(W)、炭素(C)、チタン(Ti)、NiTi合金、ステンレス鋼、コバルトクロム(CoCr)合金、金(Au)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、マンガン(Mn)、リチウム(Li)、シリコン(Si)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)、酸化マグネシウム(MgO)、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、酸化クロム(Cr2O3)、二酸化マンガン(MnO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、ジルコニア(ZrO2)、ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、および、炭酸カルシウム(CaCO3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の材料を含む粉末である、<1>から<3>のいずれか1つに記載の機能材料インク。
【0075】
<5>
積層型セラミック電子部品における非導電層、導体層、または、半導体層をインクジェット印刷法により形成するために用いられる、<1>から<4>のいずれか1つに記載の機能材料インク。
【0076】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 積層セラミックコンデンサ、2 セラミック層、3 セラミック素体、4 第1の内部電極、5 第2の内部電極、6 第1の外部電極、7 第2の外部電極、10 構造物、11 セラミックグリーンシート、12 内部電極用印刷層、13 段差吸収用印刷層、14,15 外部電極用印刷層。