(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157599
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】装軌車両の走行装置、及び、装軌車両
(51)【国際特許分類】
B62D 55/104 20060101AFI20241031BHJP
B62D 55/14 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B62D55/104
B62D55/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072021
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 正浩
(57)【要約】
【課題】悪路走行時の衝撃を低減する。
【解決手段】走行装置は、車体フレームの側部に配置されたトラックフレームと、前端部及び後端部が交互に上下に揺動可能なように前記トラックフレームに取り付けられた第1アーム部材と、前記第1アーム部材の前記前端部に回転自在に取り付けられた第1下転輪と、前記第1アーム部材の前記後端部に回転自在に取り付けられた後端アイドラと、前記トラックフレームの前後に設けられた複数の走行輪と、前記第1下転輪、前記後端アイドラ及び前記複数の走行輪の周囲に巻回された履帯と、を備え、側面視で、前記第1アーム部材の揺動中心と前記後端アイドラの回転中心と間の後側中心間距離は、前記第1アーム部材の前記揺動中心と前記第1下転輪の回転中心との間の前側中心間距離よりも長い。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームの側部に配置されたトラックフレームと、
前端部及び後端部が交互に上下に揺動可能なように前記トラックフレームに取り付けられた第1アーム部材と、
前記第1アーム部材の前記前端部に回転自在に取り付けられた第1下転輪と、
前記第1アーム部材の前記後端部に回転自在に取り付けられた後端アイドラと、
前記トラックフレームの前後に設けられた複数の走行輪と、
前記第1下転輪、前記後端アイドラ及び前記複数の走行輪の周囲に巻回された履帯と、を備え、
側面視で、前記第1アーム部材の揺動中心と前記後端アイドラの回転中心と間の後側中心間距離は、前記第1アーム部材の前記揺動中心と前記第1下転輪の回転中心との間の前側中心間距離よりも長い、
装軌車両の走行装置。
【請求項2】
前記第1アーム部材は、前記後端アイドラへ作用する並進方向の力を回転方向の力に変換する、
請求項1に記載の装軌車両の走行装置。
【請求項3】
側面視で、前記後端アイドラへ作用する力の方向と前記第1アーム部材の前記揺動中心と前記後端アイドラの前記回転中心とを結ぶ線とがなす角は直角となる、
請求項1又は2に記載の装軌車両の走行装置。
【請求項4】
前記後側中心間距離は、前記前側中心間距離の1.5倍以上2.5倍以下である、
請求項1又は2に記載の装軌車両の走行装置。
【請求項5】
前記走行装置が平地に静止した平常状態において、前記後端アイドラの前記回転中心は、前記第1アーム部材の前記揺動中心よりも上に配置される、
請求項1又は2に記載の装軌車両の走行装置。
【請求項6】
前記第1アーム部材の前記後端部が上方へ揺動する場合、前記第1アーム部材の回動を制限するストッパ部を更に備える、
請求項1又は2に記載の装軌車両の走行装置。
【請求項7】
前記ストッパ部は、
前記第1アーム部材に設けられた第1アーム部材側凸部と、
前記トラックフレームに設けられ、前記第1アーム部材の前記後端部が上方に変位するように前記第1アーム部材が揺動した際に前記第1アーム部材側凸部が接することで前記第1アーム部材の揺動を制止するトラックフレーム側受け部と、を含む、
請求項6に記載の装軌車両の走行装置。
【請求項8】
前記第1アーム部材側凸部が前記トラックフレーム側受け部に接することで、前記後端アイドラにさらなる力が加わると、前記トラックフレームは前記第1アーム部材と一体になって回動する、
請求項7に記載の装軌車両の走行装置。
【請求項9】
前記第1アーム部材の前記前端部の揺動方向における前記第1アーム部材と前記トラックフレームとの間において前記トラックフレームと前記第1アーム部材との少なくとも一方に設けられ他方に弾性的に当接可能な弾性当接部を更に備える、
請求項1又は2に記載の装軌車両の走行装置。
【請求項10】
前記弾性当接部は、前記トラックフレーム及び前記第1アーム部材のそれぞれに設けられた弾性材製のパッドである、
請求項9に記載の装軌車両の走行装置。
【請求項11】
運転室と、
前記運転室が載置された前記車体フレームと、
請求項1又は2に記載の装軌車両の走行装置と、を備える、
装軌車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装軌車両の走行装置、及び、装軌車両に関する。
【背景技術】
【0002】
装軌車両には、走行時に地面の起伏による履帯の上下方向変化に下転輪を追従させるための構造を備えたものがある。特許文献1には、トラックフレームと、トラックフレームに取り付けられた第1アーム部材と、第1アーム部材とトラックフレームとの間に設けられ互いに弾性的に当接可能な第1弾性当接部及び第2弾性当接部と、を備えた構造が開示されている。弾性支持部の支持軸線は、前後方向に傾斜している。第1弾性当接部及び第2弾性当接部の当接面の垂線は、前後方向において弾性支持部の支持軸線と同一方向に傾斜している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、装軌車両は起伏のある不整地を走行することが多く、障害物を乗り越えて落下した時は大きな衝撃を受ける。例えば、後進悪路走行時に車両が大塊を乗り越えると、第1アーム部材の一部に対して前上方に向かって突き上げ力が発生する。この場合、第1アーム部材の構成態様によっては、衝撃を十分に吸収できない可能性がある。そのため、後進悪路走行時の衝撃を低減する上で改善の余地がある。
【0005】
そこで本発明は、悪路走行時の衝撃を低減することができる装軌車両の走行装置、及び、装軌車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る装軌車両の走行装置は、車体フレームの側部に配置されたトラックフレームと、前端部及び後端部が交互に上下に揺動可能なように前記トラックフレームに取り付けられた第1アーム部材と、前記第1アーム部材の前記前端部に回転自在に取り付けられた第1下転輪と、前記第1アーム部材の前記後端部に回転自在に取り付けられた後端アイドラと、前記トラックフレームの前後に設けられた複数の走行輪と、前記第1下転輪、前記後端アイドラ及び前記複数の走行輪の周囲に巻回された履帯と、を備え、側面視で、前記第1アーム部材の揺動中心と前記後端アイドラの回転中心と間の後側中心間距離は、前記第1アーム部材の前記揺動中心と前記第1下転輪の回転中心との間の前側中心間距離よりも長い。
【発明の効果】
【0007】
上記態様によれば、後進悪路走行時の衝撃を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】実施形態に係る第1アーム部材を含む構造の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。実施形態においては、装軌車両として、不整地での作業を行うブルドーザなどの建設車両を挙げて説明する。
【0010】
以下の説明において、例えば「平行」や「直交」、「中心」、「同軸」等の相対的又は絶対的な配置を示す表現は、厳密にそのような配置や状態を意味するのみならず、公差や同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している配置や状態をも含むものとする。以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更して示す場合がある。
【0011】
<装軌車両>
図1は、実施形態に係る装軌車両1の側面図である。
図1に示すように、装軌車両1は、運転室2と、運転室2が載置された車体フレーム3と、作業機構4と、一対の走行装置5と、を備える。
【0012】
以下、装軌車両1の前進方向(車体前方)、後進方向(車体後方)及び車両幅方向(車体左右方向)を「車両前方(車両前後方向一方側)」、「車両後方(車両前後方向他方側)」及び「車両幅方向」と称する。車両幅方向は、「左側(車両幅方向一方側)」又は「右側(車両幅方向他方側)」と称する場合もある。装軌車両1が前進する方向に対して右手を右側、装軌車両1が前進する方向に対して左手を左側と称する。装軌車両1の車両上下方向(車体上下方向)、車両上方(車体上方)及び車両下方(車体下方)を単に「上下方向」、「上方」及び「下方」と称する。図の例では、装軌車両1は、水平面(水平な地面)に配置されている。装軌車両1の車両上下方向(車体上下方向)、車両上方(車体上方)及び車両下方(車体下方)は、装軌車両1が水平面に配置された状態の上下方向(鉛直方向)、鉛直上方及び鉛直下方とそれぞれ一致する。
【0013】
<運転室>
例えば、運転室2には、装軌車両1の運転者が座るためのシートや、各種操作のためのレバー、ペダル及び計器類が内装されている。運転室2の底部は、フロアフレーム10によって構成されている。フロアフレーム10上には、ピラーや側板が載置されている。フロアフレーム10は、前部が低く後部が高くなるように前後方向の中間部に段差が設けられた形状となっている。フロアフレーム10は、前側の低床部11と、後側の高床部12とによって構成されている。
【0014】
<車体フレーム>
車体フレーム3には、作業機構4及び走行装置5が取り付けられている。運転室2は、車体フレーム3の後側上部に載置されている。車体フレーム3の下部には、メインフレーム(不図示)が設けられている。図示はしないが、車体フレーム3には、エンジン、トルクコンバータ、トランスミッション等が設けられている。エンジンで発生した駆動力は、走行装置5のスプロケット32に伝達される。
【0015】
なお、車体フレーム3には、動力源としてエンジン等が設けられることに限らない。例えば、車体フレーム3には、動力源として電動モータ等が設けられてもよい。例えば、走行装置5は、動力源である内燃機関又は電動機などの動力を履帯50に伝えて走行してもよい。例えば、動力源の態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0016】
運転室2と車体フレーム3との間には、運転室2を下方から弾性的に支持する弾性支持部15,16が設けられている。例えば、弾性支持部15,16は、ケースの内部に減衰液が封入され、ケースの上面中央部から支持シャフトが突出した液体封入式ゴムマウント装置である。支持シャフトは、運転室2に固定されている。ケースは、車体フレーム3に固定されている。
【0017】
弾性支持部15,16は、運転室2の前部を支持する一対の前弾性支持部15と、運転室2の後部を支持する一対の後弾性支持部16と、である。
【0018】
前弾性支持部15は、フロアフレーム10の低床部11の下面の左右側端部にブラケットを介してボルト等でそれぞれ固定されている。図の例では、前弾性支持部15は、支持シャフトの軸心17(以下「前側支持軸線17」ともいう。)が鉛直方向に沿うように低床部11の下面に固定されている。なお、前側支持軸線17が沿う方向は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0019】
後弾性支持部16は、フロアフレーム10の高床部12の下面の左右側端部にブラケットを介してボルト等でそれぞれ固定されている。図の例では、後弾性支持部16は、支持シャフトの軸心18(以下「後側支持軸線18」ともいう。)が鉛直方向に対して前傾するように高床部12の下面に固定されている。図の例では、鉛直方向に対する後側支持軸線18の傾斜角度A1は、約15度である。なお、後側支持軸線18が沿う方向(傾斜角度A1)は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0020】
<作業機構>
作業機構4は、地面を削り取り土砂を押し運ぶための機構である。作業機構4は、ブレード20と、ブレード20を支持する支持フレーム21,22と、を備える。ブレード20は、車体フレーム3の前方に設けられている。ブレード20は、前面が湾曲した板状の形状を有する。支持フレーム21,22の一端は、ブレード20に固定されている。支持フレーム21,22の他端は、車体フレーム3又は走行装置5に固定されている。
【0021】
<走行装置>
走行装置5は、車体フレーム3の左右下部にそれぞれ設けられている。一対の走行装置5は、メインフレーム(不図示)の左右外側に設けられている。走行装置5は、無端状の履帯50によって不整地での走行を可能としている。以下、一対の走行装置5のうち一方の走行装置5について説明する。他方の走行装置5は、一方の走行装置5と同様の構造であるため、その詳細説明は省略する。
【0022】
図1及び
図2を併せて参照し、走行装置5は、車体フレーム3の側部に配置されたトラックフレーム30と、走行輪であるアイドラ31及びスプロケット32と、トラックフレーム30の下部に回転自在に且つ揺動自在に支持された下転輪41~48をそれぞれ有する第1シングルボギー装置33、第2シングルボギー装置34及び複数のダブルボギー装置35,36,37と、上転輪40と、履帯50と、を備える。シングルボギー装置は、1つの揺動アームを有するボギー装置である。ダブルボギー装置は、2つの揺動アームを有するボギー装置である。
【0023】
<トラックフレーム>
トラックフレーム30は、車両前後方向に沿って設けられている。トラックフレーム30は、車体フレーム3の下部側面に配置されている。トラックフレーム30の前端部には、図示しないスプリング(付勢部材の一例)を介して前方に付勢されたヨーク55が前後方向に移動自在に装着されている。アイドラ31は、第2シングルボギー装置34の前端部に回転自在に取り付けられている。スプロケット32は、トラックフレーム30の後端部近傍に配置されている。スプロケット32は、車体フレーム3の後部に回転自在に取り付けられている。スプロケット32は、エンジンからの駆動力が伝達されて回転する。
【0024】
トラックフレーム30は、車両前後方向に沿って設けられたフレーム本体60と、フレーム本体60の後部に取り付けられた後端フレーム61と、を備える。後端フレーム61は、第1アーム部材70を取り付けるための部分を有する。後端フレーム61の前側上部は、フレーム本体60の後端部に固定されている。左右のトラックフレーム30は、ピボットシャフト62を介して、左右中央側のメインフレーム(不図示)に取り付けられている。例えば、フレーム本体60と後端フレーム61とは、同一部品であってもよい。例えば、後端フレーム61は、フレーム本体60の後端部であってもよい。
【0025】
<第1シングルボギー装置>
図1から
図3を併せて参照し、第1シングルボギー装置33は、スプロケット32に近接したトラックフレーム30の後側下部に設けられている。第1シングルボギー装置33は、第1アーム部材70と、第1下転輪41と、後端アイドラ80と、弾性当接部81,82と、を備える。
【0026】
第1アーム部材70は、前端部及び後端部が交互に上下に揺動可能なようにトラックフレーム30に取り付けられている。第1アーム部材70は、第1アーム部材70の前後方向中央近傍に、ピン71(以下「中央側ピン71」ともいう。)によってトラックフレーム30に回動自在に固定された軸支部を有する。第1アーム部材70は、軸支部から前端部まで斜め下前方に延びるとともに、軸支部から後端部まで斜め上後方に延びる形状を有する。第1アーム部材70が中央側ピン71を中心に回動することによって、第1アーム部材70の前端部及び後端部が軸支部を中心にトラックフレーム30に対して揺動可能となる。
【0027】
第1下転輪41は、第1アーム部材70の前端部に回転自在に取り付けられている。第1下転輪41は、第1アーム部材70の前端部に、ピン72(以下「前端側ピン72」ともいう。)によって回転自在に取り付けられている。第1下転輪41は、第1アーム部材70の前端部が上下に揺動することによって上下に揺動可能となる。第1下転輪41は、履帯50の動作に追従して上下に移動する。
【0028】
後端アイドラ80は、第1アーム部材70の後端部に回転自在に取り付けられている。後端アイドラ80は、第1アーム部材70の後端部に、ピン73(以下「後端側ピン73」ともいう。)によって回転自在に取り付けられている。後端アイドラ80は、トラックフレーム30の後端側(前後方向において前側のアイドラ31とは反対側)に設けられたアイドラに相当する。後端アイドラ80は、第1下転輪41、第2下転輪42及び複数の他の下転輪43~48よりも後側に配置されている。後端アイドラ80は、複数の走行輪40~48よりも後側に配置されている。後端アイドラ80は、スプロケット32よりも後側に配置されている。後端アイドラ80は、第1アーム部材70の後端部が上下に揺動することによって上下に揺動可能となる。後端アイドラ80は、履帯50の動作に追従して上下に移動する。
【0029】
側面視で、第1アーム部材70の揺動中心Cmと後端アイドラ80の回転中心Crと間の後側中心間距離Lrは、第1アーム部材70の揺動中心Cmと第1下転輪41の回転中心Cfとの間の前側中心間距離Lfよりも長い。後側中心間距離Lrは、中央側ピン71の回転中心と後端側ピン73の回転中心とを結ぶ線分の長さに相当する。前側中心間距離Lfは、中央側ピン71の回転中心と前端側ピン72の回転中心とを結ぶ線分の長さに相当する。
【0030】
本実施形態では、後側中心間距離Lrは、前側中心間距離Lfの1.5倍以上2.5倍以下である。図の例では、後側中心間距離Lrは、前側中心間距離Lfの約2倍である。
【0031】
本実施形態では、走行装置5が平地に静止した平常状態において、後端アイドラ80の回転中心Crは、第1アーム部材70の揺動中心Cmよりも上に配置される。側面視で、後端アイドラ80の回転中心Crは、第1アーム部材70の揺動中心Cmを通る仮想水平線Hmに対し10度以上20度以下の角度Arで左回りに回転した位置にある。角度Arは、側面視で、中央側ピン71の回転中心を通る仮想水平線Hmと、中央側ピン71の回転中心と後端側ピン73の回転中心とを結ぶ線分とがなす角度のうち最小の角度に相当する。図の例では、角度Arは、約15度である。
【0032】
弾性当接部81,82は、第1アーム部材70の前端部の揺動方向における第1アーム部材70とトラックフレーム30との間においてトラックフレーム30と第1アーム部材70とのそれぞれに設けられた弾性材製のパッドである。例えば、弾性当接部81,82は、天然ゴム等(ゴムの一例)の弾性材から形成されている。弾性当接部81,82は、第1アーム部材70がトラックフレーム30に近接する方向に移動(例えば、中央側ピン71を中心に右回りに回動)することによって互いに弾性的に当接する。以下、一対の弾性当接部81,82のうち、第1アーム部材70側に設けられた弾性当接部81を「第1弾性当接部81」ともいい、トラックフレーム30側に設けられた弾性当接部82を「第2弾性当接部82」ともいう。
【0033】
第1弾性当接部81は、第1アーム部材70の前側上部に設けられている。第1弾性当接部81は、中央側ピン71の斜め上前方に配置されている。例えば、第1弾性当接部81は、第1アーム部材70の前側上部に、第1ブラケット(不図示)を介してボルト等で固定されてもよい。例えば、第1弾性当接部81は、側面視で水平面に沿う第1ブラケットの上面から上方に向かって湾曲した形状を有してもよい。
【0034】
第2弾性当接部82は、トラックフレーム30の下部に設けられている。例えば、第2弾性当接部82は、トラックフレーム30を構成する後端フレーム61の下部に、第2ブラケット(不図示)を介してボルト等で固定されてもよい。例えば、第2弾性当接部82は、側面視で水平面に沿う第2ブラケットの下面から下方に向かって湾曲した形状を有してもよい。
【0035】
図の例では、第1弾性当接部81と第2弾性当接部82とが当接する当接面は、中央側ピン71の斜め前上方に配置されている。当接面の垂線N1は、中央側ピン71の前方かつ前端側ピン72の後方に配置されている。当接面の垂線N1は、鉛直方向に概ね平行となっている。当接面の垂線N1は、各弾性当接部81,82が互いに当接する際の最初の接点における各弾性当接部81,82の曲面の法線に相当する。なお、当接面の垂線N1は、鉛直方向に対して前側に所定角度傾斜した状態となっていてもよい。例えば、当接面の垂線N1の沿う方向(傾斜角度)は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0036】
走行装置5が平地に静止した平常状態では、第1弾性当接部81と第2弾性当接部82とは、車体フレーム3や運転室2等の重さによって押し合わされ互いに当接する。平常状態では、各弾性当接部81,82の当接面の垂線N1は、上述の通り鉛直方向に概ね平行となっている。第1弾性当接部81と第2弾性当接部82との当接により、第1アーム部材70の回動(具体的には、第1アーム部材70の前端部の上方への揺動)が制限される。第1弾性当接部81と第2弾性当接部82との当接により、第1下転輪41にかかる荷重が受けられ、更に第1下転輪41が受ける衝撃が吸収される。
【0037】
<第2シングルボギー装置>
図2を参照し、第2シングルボギー装置34は、アイドラ31に近接したトラックフレーム30の前側下部に設けられており、ピン93によってヨーク55に回動自在に取り付けられている。第2シングルボギー装置34は、アイドラ31と、第2アーム部材90と、第2下転輪42と、弾性当接部91,92と、を備える。
【0038】
第2アーム部材90は、先端部が上下に揺動可能なようにヨーク55の下部に取り付けられている。第2アーム部材90は、ピン93によってヨーク55に回動自在に固定された基端部を有する。第2アーム部材90は、基端部から先端部まで斜め下後方に延びる形状を有する。第2アーム部材90がピン93を中心に回動することによって、第2アーム部材90の先端部が基端部を中心にヨーク55に対して揺動可能となる。
【0039】
第2下転輪42は、第2アーム部材90の後端部に回転自在に取り付けられている。第2下転輪42は、第1下転輪41、第2下転輪42及び複数の他の下転輪43~48の中で、最もアイドラ31側(すなわち最も前側)に配置されている。第2下転輪42は、側面視でアイドラ31の斜め下後方に配置されている。第2下転輪42は、第2アーム部材90の先端部が上下に揺動することによって上下に揺動可能となる。第2下転輪42は、履帯50の動作に追従して上下に移動する。
【0040】
弾性当接部91,92は、第2アーム部材90の先端部の揺動方向における第2アーム部材90とトラックフレーム30との間においてトラックフレーム30と第2アーム部材90とのそれぞれに設けられた弾性材製のパッドである。例えば、弾性当接部91,92は、天然ゴム等(ゴムの一例)の弾性材から形成されている。以下、一対の弾性当接部91,92のうち、第2アーム部材90側に設けられた弾性当接部91を「第3弾性当接部91」ともいい、トラックフレーム30側に設けられた弾性当接部92を「第4弾性当接部92」ともいう。
【0041】
第3弾性当接部91は、第2アーム部材90の上面に設けられている。第3弾性当接部91は、第2アーム部材90の後端部の上方に配置されている。例えば、第3弾性当接部91は、側面視で水平面に沿う第2アーム部材90の上面に平行な形状を有してもよい。
【0042】
第4弾性当接部92は、トラックフレーム30の下部に設けられている。例えば、第4弾性当接部92は、トラックフレーム30の下部に、ブラケット(不図示)を介してボルト等で固定されてもよい。例えば、第4弾性当接部92は、側面視で水平面に沿うブラケットの下面に平行な形状を有してもよい。
【0043】
例えば、第3弾性当接部91と第4弾性当接部92とが当接する当接面は、水平面に概ね平行に設けられている。当接面の垂線N2は、鉛直方向に概ね平行となっている。なお、当接面の垂線N2は、鉛直方向に対して前側に所定角度傾斜した状態となっていてもよい。例えば、当接面の垂線N2の沿う方向(傾斜角度)は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0044】
走行装置5が平地に静止した平常状態では、第3弾性当接部91と第4弾性当接部92とは、車体フレーム3や運転室2等の重さによって押し合わされ互いに当接する。平常状態では、各弾性当接部91,92の当接面は、水平面に概ね平行となっている。平常状態では、各弾性当接部91,92の当接面の垂線N2は、鉛直方向に概ね平行となっている。第3弾性当接部91と第4弾性当接部92との当接により、第2アーム部材90の上方への回動が制限される。第3弾性当接部91と第4弾性当接部92との当接により、第2下転輪42にかかる荷重が受けられ、更に第2下転輪42が受ける衝撃が吸収される。
【0045】
<ダブルボギー装置>
図2を参照し、ダブルボギー装置35,36,37は、第1シングルボギー装置33と第2シングルボギー装置34との間に複数設けられている。図の例では、第1シングルボギー装置33と第2シングルボギー装置34との間には、3つのダブルボギー装置35,36,37が前後方向に並んで配置されている。なお、ダブルボギー装置35,36,37の数は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0046】
以下、ダブルボギー装置35,36,37の1つ(ダブルボギー装置35)についての構造を説明するが、他のダブルボギー装置36,37についても同様の構造である。
ダブルボギー装置35は、第3アーム部材100と、第4アーム部材101と、第3下転輪43と、第4下転輪44と、弾性当接部102,103と、を備える。
【0047】
第3アーム部材100は、先端部が上下に揺動可能なようにトラックフレーム30の下部に取り付けられている。第3アーム部材100は、ピン104によってトラックフレーム30に回動自在に固定された基端部を有する。第3アーム部材100は、基端部から先端部まで斜め下後方に延びる形状を有する。第3アーム部材100の基端部を中心に第3アーム部材100が回動することによって、第3アーム部材100の先端部が基端部を中心にトラックフレーム30に対して揺動可能となる。なお、他のダブルボギー装置36,37も第3アーム部材100と同様のアーム部材を有しており、各アーム部材が前後方向に並んで配置されている。
【0048】
第4アーム部材101は、第4アーム部材101の略中央部が第3アーム部材100の先端部にピン105によって回転自在に取り付けられている。第4アーム部材101は、略中央部から両端部までピン105を中心に前後方向にそれぞれ延びる形状を有する。第4アーム部材101がピン105を中心に回動することによって、第4アーム部材101の両端部が交互に上下に揺動可能となっている。なお、他のダブルボギー装置36,37も第4アーム部材101と同様のアーム部材を有しており、各アーム部材が前後方向に並んで配置されている。
【0049】
第3下転輪43は、第4アーム部材101の前端部に回転自在に取り付けられている。第4下転輪44は、第4アーム部材101の後端部に回転自在に取り付けられている。第3下転輪43及び第4下転輪44は、側面視でピン105を中心に左右対称(言い換えると車両前後方向に対称)に配置されている。なお、他のダブルボギー装置36,37も第3下転輪43及び第4下転輪44と同様の下転輪を有しており、第1下転輪41及び第2下転輪42と共に各下転輪が前後方向に並んで配置されている。
【0050】
弾性当接部102,103は、第3アーム部材100の先端部の揺動方向における第3アーム部材100とトラックフレーム30との間においてトラックフレーム30と第3アーム部材100とのそれぞれに設けられた弾性材製のパッドである。例えば、弾性当接部102,103は、天然ゴム等(ゴムの一例)の弾性材から形成されている。以下、一対の弾性当接部102,103のうち、第3アーム部材100側に設けられた弾性当接部102を「第5弾性当接部102」ともいい、トラックフレーム30側に設けられた弾性当接部103を「第6弾性当接部103」ともいう。
【0051】
第5弾性当接部102は、第3アーム部材100の上面に設けられている。第5弾性当接部102は、第3アーム部材100の先端部のピン105の上方に配置されている。例えば、第5弾性当接部102は、側面視で水平面に沿う第3アーム部材100の上面に平行な形状を有してもよい。
【0052】
第6弾性当接部103は、トラックフレーム30の下部に設けられている。例えば、第6弾性当接部103は、トラックフレーム30の下部に、ブラケット(不図示)を介してボルト等で固定されてもよい。例えば、第6弾性当接部103は、側面視で水平面に沿うブラケットの下面に平行な形状を有してもよい。
【0053】
例えば、第5弾性当接部102と第6弾性当接部103とが当接する当接面は、水平面に概ね平行に設けられている。当接面の垂線N3は、鉛直方向に概ね平行となっている。なお、当接面の垂線N3は、鉛直方向に対して前側に所定角度傾斜した状態となっていてもよい。例えば、当接面の垂線N3の沿う方向(傾斜角度)は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0054】
走行装置5が平地に静止した平常状態では、第5弾性当接部102と第6弾性当接部103とは、車体フレーム3や運転室2等の重さによって押し合わされ互いに当接する。平常状態では、各弾性当接部102,103の当接面は、水平面に概ね平行となっている。平常状態では、各弾性当接部102,103の当接面の垂線N3は、鉛直方向に概ね平行となっている。第5弾性当接部102と第6弾性当接部103との当接により、第3アーム部材100の上方への回動が制限される。第5弾性当接部102と第6弾性当接部103との当接により、第3下転輪43及び第4下転輪44にかかる荷重が受けられ、更に第3下転輪43及び第4下転輪44が受ける衝撃が吸収される。
【0055】
<上転輪>
図2を参照し、上転輪40は、トラックフレーム30の前後に設けられた複数の走行輪のうちの1つ(上側にある走行輪)である。上転輪40は、アイドラ31とスプロケット32との間であってトラックフレーム30の上部に設けられている。上転輪40は、ピン110によって回転自在に支持されている。図の例では、1つの上転輪40が設けられている。なお、上転輪40の設置数は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0056】
<履帯>
図2を参照し、履帯50は、第1下転輪41、後端アイドラ80、第2下転輪42、他の複数の下転輪43~48、アイドラ31、スプロケット32及び上転輪40の周囲に巻回されている。例えば、履帯50は、板状のシューが複数連結されて無端状に形成されている。履帯50は、複数のリンク51を備える。
【0057】
<ストッパ部>
図2及び
図3を併せて参照し、走行装置5は、第1アーム部材70の後端部の揺動方向における第1アーム部材70とトラックフレーム30との間においてトラックフレーム30と第1アーム部材70とのそれぞれに設けられたストッパ部121,122を備える。ストッパ部121,122は、第1アーム部材70がトラックフレーム30に近接する方向に移動(具体的には、中央側ピン71を中心に左回りに回動)することによって互いに当接する。
【0058】
ストッパ部121,122は、第1アーム部材70に設けられた第1アーム部材側凸部121と、トラックフレーム30に設けられたトラックフレーム側受け部122と、を含む。第1アーム部材側凸部121は、第1アーム部材70の後部上面から上方に突出している。トラックフレーム側受け部122は、トラックフレーム30を構成する後端フレーム61の後側下部から上方に窪むように形成された凹部の上面部に相当する。トラックフレーム側受け部122は、第1アーム部材70の後端部が上方に変位するように第1アーム部材70が揺動した際に第1アーム部材側凸部121が接することで第1アーム部材70の揺動を制止する。
【0059】
走行装置5が平地に静止した平常状態では、第1アーム部材側凸部121とトラックフレーム側受け部122とは、互いに離反している。例えば、第1アーム部材70の後端部が上方に変位するように第1アーム部材70が中央側ピン71を中心に約5度から10度程度回動すると、第1アーム部材側凸部121がトラックフレーム側受け部122に当接する。第1アーム部材側凸部121とトラックフレーム側受け部122との当接により、第1アーム部材70の回動(具体的には、第1アーム部材70の後端部の上方への揺動)が制限される。第1アーム部材側凸部121とトラックフレーム側受け部122との当接により、後端アイドラ80にかかる荷重が受けられ、更に後端アイドラ80が受ける衝撃が吸収される。
【0060】
なお、ストッパ部121,122は、第1アーム部材側凸部121とトラックフレーム側受け部122との間に、弾性材製のパッド(以下「第1弾性パッド」ともいう。)を更に備えてもよい。例えば、第1弾性パッドは、第1アーム部材側凸部121及びトラックフレーム側受け部122のそれぞれに設けられてもよい。例えば、第1弾性パッドの設置態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0061】
<実施形態に係る構造の作用>
まず、実施形態に係る構造について説明する。
図4を参照し、実施形態に係る構造は、第1アーム部材70の前部にシングルボギーを有する。
側面視で、第1アーム部材70の揺動中心Cmと後端アイドラ80の回転中心Crと間の後側中心間距離Lrは、第1アーム部材70の揺動中心Cmと第1下転輪41の回転中心Cfとの間の前側中心間距離Lfよりも長い(Lr>Lf)。図の例では、後側中心間距離Lrは、前側中心間距離Lfの約2倍である。
【0062】
走行装置5が平地に静止した平常状態において、後端アイドラ80の回転中心Crは、第1アーム部材70の揺動中心Cmよりも上に配置される。図の例では、後端アイドラ80の回転中心Crは、第1アーム部材70の揺動中心Cmを通る仮想水平線Hmに対し約15度だけ左回りに回転した位置にある。
【0063】
次に、比較例に係る構造について説明する。
図5を参照し、比較例に係る構造は、第1アーム部材270の前部にダブルボギーを有する。
側面視で、第1アーム部材270の揺動中心Cmと後端アイドラ80の回転中心Crと間の後側中心間距離Lrは、第1アーム部材270の揺動中心Cmとダブルボギーの回転中心Cfとの間の前側中心間距離Lfよりも短い(Lr<Lf)。図の例では、後側中心間距離Lrは、前側中心間距離Lfの約1/2である。
【0064】
走行装置5が平地に静止した平常状態において、後端アイドラ80の回転中心Crは、第1アーム部材270の揺動中心Cmよりも下に配置される。図の例では、後端アイドラ80の回転中心Crは、第1アーム部材270の揺動中心Cmを通る仮想水平線Hmに対し約10度だけ右回りに回転した位置にある。
【0065】
<比較例との機能・効果の違い>
例えば、後進悪路走行時に車両が大塊を乗り越えると、第1アーム部材の後端部の後端アイドラ80に対して前上方(図の矢印F方向)に向かって突き上げ力が発生する。この場合、後端アイドラ80への衝撃荷重は鉛直線から左回りに約15度回転した方向に発生する。
【0066】
図5の比較例の構造では、後端アイドラ80への突き上げ力方向Fと第1アーム部材270の揺動中心Cmと後端アイドラ80の回転中心Crとを結ぶ線とがなす角Afは鈍角となる。比較例の構造の場合、後端アイドラ80にかかる力によるピン回りの逆方向のトルクが突き上げ力によるトルクよりも大きくなりやすい。そのため、並進突き上げ運動は第1アーム部材270の回転運動に変換されにくく、衝撃を逃がしにくい。
【0067】
これに対し
図4の実施形態に係る構造では、後端アイドラ80への突き上げ力方向Fと第1アーム部材70の揺動中心Cmと後端アイドラ80の回転中心Crとを結ぶ線とがなす角Afは略直角となる。実施形態に係る構造の場合、後端アイドラ80に作用する力、例えば突き上げ力が働いた際、回転運動が容易となる。そのため、並進突き上げ運動は第1アーム部材70の回転運動に変換されやすく、衝撃を逃がしやすい。つまり、第1アーム部材70は、後端アイドラ80へ作用する並進方向の力の突き上げ力を、回転方向の力に変換する。これにより、ピン71からトラックフレーム30に伝わる力の並進成分が無くなることで、衝突直後にメインフレーム3に伝わる力が無くなる。
【0068】
第1アーム部材70が回転すると、第1アーム部材70の端部に取り付けられている第1下転輪41及び後端アイドラ80が履帯50のリンク51と摩擦接触する。これにより、第1アーム部材70の回転運動を減衰させる効果を持つ。
【0069】
実施形態では、後側中心間距離Lrが前側中心間距離Lfの約2倍であり、後端アイドラ80へ突き上げ力が加わった際に第1アーム部材70の回転運動を容易に変換できるようになっている。これにより、後端アイドラ80の上下変位と第1下転輪41の上下変位との天秤効果により、中央側ピン71の上下変位及び突き上げ力を半減させることができる。
【0070】
実施形態では、第1アーム部材70の左回転の揺動方向において第1アーム部材70が後端アイドラ80に加わる並進力のほとんどを第1アーム部材70の回転成分に置き換え、5度から10度程度揺動する。これにより、1段回目の衝撃吸収機構を持たせることができる。第1アーム部材側凸部121がトラックフレーム側受け部122と当接後、後端アイドラ80にさらなる力が加わると、トラックフレーム30は第1シングルボギー装置33と一体となってピボットシャフト62を中心に左回りに回動する。これにより、衝撃力をさらに吸収する2段回目の衝撃吸収構造を持たせることができる。
【0071】
図5の比較例の構造では、実施形態よりも後側中心間距離Lrが短く、衝撃を吸収できるストロークが短いため、衝撃を逃がしにくい。実施形態のトラックフレーム30に伝わる突き上げ力の加速度(負荷)は、上記構造の違いで比較例よりも小さい。例えば、本実施形態のトラックフレーム30に伝わる突き上げ力の加速度(負荷)は、上記構造の違いで比較例よりも約2割小さい。
【0072】
図5の比較例の構造では、バネマス系の共振周波数が走行時の代表振動周波数とかけ離れており、平坦路走行時や整地作業時のダイナミックダンパ効果はほとんど無い。
これに対し
図4の実施形態に係る構造では、弾性当接部81,82のバネ定数とピン71回りの回転慣性とから決まる共振周波数を、走行時の代表振動であるピッチング及びバウンシングの周波数に合わせることにより、比較例には無いダイナミックダンパ効果をもたせることができる。実施形態では、上記のダイナミックダンパにより、平坦路走行時又は整地作業時における振動レベル(車体のピッチング及びバウンシング振動)を比較例よりも抑制することができる。例えば、本実施形態では振動レベルを約1/4に抑制することができる。したがって、乗り心地及び整地性能を大幅に向上することができる。
【0073】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態の装軌車両1の走行装置5は、車体フレーム3の側部に配置されたトラックフレーム30と、前端部及び後端部が交互に上下に揺動可能なようにトラックフレーム30に取り付けられた第1アーム部材70と、第1アーム部材70の前端部に回転自在に取り付けられた第1下転輪41と、第1アーム部材70の後端部に回転自在に取り付けられた後端アイドラ80と、トラックフレーム30の前後に設けられた複数の走行輪42~48と、第1下転輪41、後端アイドラ80及び複数の走行輪42~48の周囲に巻回された履帯50と、を備える。側面視で、第1アーム部材70の揺動中心Cmと後端アイドラ80の回転中心Crと間の後側中心間距離Lrは、第1アーム部材70の揺動中心Cmと第1下転輪41の回転中心Cfとの間の前側中心間距離Lfよりも長い。
例えば、後進悪路走行時に車両が大塊を乗り越えると、第1アーム部材70の後端部の後端アイドラ80に対して前上方に向かって突き上げ力が発生する。後側中心間距離Lrが前側中心間距離Lf以下の長さである場合、衝撃を吸収できるストロークが短いため、衝撃を逃がしにくい。これに対し本構成によれば、後側中心間距離Lrが前側中心間距離Lfよりも長いことで、衝撃を吸収できるストロークが長いため、衝撃を逃がしやすい。したがって、後進悪路走行時の衝撃を低減することができる。
【0074】
本実施形態では、後側中心間距離Lrは、前側中心間距離Lfの1.5倍以上2.5倍以下である。
例えば、後側中心間距離Lrが前側中心間距離Lfの1.5倍未満である場合、衝撃を吸収できるストロークが十分に得られず、衝撃を逃がしにくい。一方、後側中心間距離Lrが前側中心間距離Lfの2.5倍超過である場合、履帯50に対して過度の負荷がかかり、履帯50が外れる可能性が高い。これに対し本構成によれば、後側中心間距離Lrが前側中心間距離Lfの1.5倍以上2.5倍以下であることで、上記の問題が生じることを抑制することができる。なお、本実施形態では、後側中心間距離Lrは、前側中心間距離Lfの1.5倍以上2.5倍以下であるが、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0075】
本実施形態では、走行装置5が平地に静止した平常状態において、後端アイドラ80の回転中心Crは、第1アーム部材70の揺動中心Cmよりも上に配置される。
例えば、後進悪路走行時に車両が大塊を乗り越えると、第1アーム部材70の後端部の後端アイドラ80に対して前上方に向かって突き上げ力が発生する。この場合、後端アイドラ80への衝撃荷重は鉛直線から左回りに約15度回転した方向に発生する。走行装置5が平地に静止した平常状態において、後端アイドラ80の回転中心Crが第1アーム部材70の揺動中心Cmよりも下に配置される場合、後端アイドラ80への突き上げ力方向と第1アーム部材70の揺動中心Cmと後端アイドラ80の回転中心Crとを結ぶ線とがなす角Afは鈍角となる。そのため、第1アーム部材70の後端部の後端アイドラ80に対して前上方に向かって発生する突き上げ力は回転運動に変換されにくく、衝撃を逃がしにくい。これに対し本構成によれば、走行装置5が平地に静止した平常状態において、後端アイドラ80の回転中心Crが第1アーム部材70の揺動中心Cmよりも上に配置されることで、後端アイドラ80への突き上げ力方向と第1アーム部材70の揺動中心Cmと後端アイドラ80の回転中心Crとを結ぶ線とがなす角Afは略直角となる。そのため、第1アーム部材70の後端部の後端アイドラ80に対して前上方に向かって発生する突き上げ力は回転運動に変換されやすく、衝撃を逃がしやすい。したがって、後進悪路走行時の衝撃をより効果的に低減することができる。
【0076】
本実施形態では、装軌車両1の走行装置5は、第1アーム部材70の前端部の揺動方向における第1アーム部材70とトラックフレーム30との間においてトラックフレーム30と第1アーム部材70との少なくとも一方に設けられ他方に弾性的に当接可能な弾性当接部81,82を更に備える。
この構成によれば、弾性当接部81,82により、第1アーム部材70の前端部の揺動方向における第1アーム部材70とトラックフレーム30との間において衝撃を吸収することができる。
【0077】
本実施形態では、弾性当接部81,82は、トラックフレーム30及び第1アーム部材70のそれぞれに設けられた弾性材製のパッドである。
この構成によれば、トラックフレーム30及び第1アーム部材70のそれぞれに設けられた弾性材製のパッドの両方で衝撃を効率良く吸収して低減することができる。
【0078】
本実施形態の装軌車両1は、運転室2と、運転室2が載置された車体フレーム3と、上記の装軌車両1の走行装置5と、を備える。
この構成によれば、上記の装軌車両1の走行装置5を備えることで、後進悪路走行時の衝撃を低減することができる。したがって、装軌車両1の乗り心地を向上させることができる。
【0079】
例えば、従来機では、後端アイドラ80は無く、その位置にメインフレームにつながったスプロケット32がある。そのため、従来機では、後進悪路走行時に車両が大塊を乗り越えた際の突き上げ並進力がスプロケット32からメインフレームに直接伝達される。従来機の場合、メインフレームの負荷が大きくなり、乗り心地が悪化する懸念がある。
これに対し本実施形態では、突き上げ並進力のほとんどが第1アーム部材70の回動により、ピン71回りのトルクに変換される。そのため、トラックフレーム30に伝達される突き上げ並進力が大幅に軽減される。したがって、装軌車両1の乗り心地を向上させることができる。
加えて、本実施形態では、第1アーム部材側凸部121がトラックフレーム側受け部122と接すると、突き上げ力はピボットシャフト62を経由してメインフレームに伝達される。本実施形態では、運転席までの伝達経路が長くなることに加え、2段の衝撃吸収構造により、突き上げ力を従来機の半分以下に軽減することができる。
【0080】
例えば、本実施形態では、第1アーム部材70、第1下転輪41及び後端アイドラ80のピン71周りの慣性モーメントと第1弾性当接部81及び第2弾性当接部82のばね定数とにより決まる共振周波数を、整地作業する車速から決まるリンクピッチ周波数に設定する。これにより、振動を大幅に低減するダイナミックダンパ装置を構成することができる。
【0081】
例えば、本実施形態では、第1アーム部材70、第1下転輪41、前端側ピン72、後端側ピン73及び後端アイドラ80の中央側ピン71周りの慣性モーメントと第1弾性当接部81及び第2弾性当接部82のばね定数とにより決まる共振周波数を、整地作業する車速から決まるリンクピッチ周波数近くに設定する。これにより、振動を大幅に低減するダイナミックダンパ装置を構成することができ、車両のピッチング振動及びバウンシング振動を大幅に軽減させることができる。
【0082】
<変形例>
上述した実施形態では、後側中心間距離は、前側中心間距離の1.5倍以上2.5倍以下である例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、後側中心間距離は、前側中心間距離の1.5倍未満であってもよい。例えば、後側中心間距離は、前側中心間距離の2.5倍超過であってもよい。例えば、後側中心間距離は、前側中心間距離よりも長ければよい。例えば、前側中心間距離に対する後側中心間距離の倍率は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0083】
上述した実施形態では、走行装置が平地に静止した平常状態において、後端アイドラの回転中心は、第1アーム部材の揺動中心よりも上に配置される例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、走行装置が平地に静止した平常状態において、後端アイドラの回転中心は、第1アーム部材の揺動中心以下又は同じ高さの位置に配置されてもよい。例えば、後端アイドラの回転中心の配置態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0084】
上述した実施形態では、ストッパ部は、第1アーム部材に設けられた第1アーム部材側凸部と、トラックフレームに設けられ、第1アーム部材の後端部が上方に変位するように第1アーム部材が揺動した際に第1アーム部材側凸部が接することで第1アーム部材の揺動を制止するトラックフレーム側受け部と、を含む例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、ストッパ部は、トラックフレームに設けられたトラックフレーム側凸部と、第1アーム部材に設けられ、第1アーム部材の後端部が上方に変位するように第1アーム部材が揺動した際にトラックフレーム側凸部が接することで第1アーム部材の揺動を制止する第1アーム部材側受け部と、を含んでもよい。例えば、ストッパ部の構成態様(凸部及び受け部の態様)は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0085】
上述した実施形態では、装軌車両の走行装置は、第1アーム部材の前端部の揺動方向における第1アーム部材とトラックフレームとの間においてトラックフレームと第1アーム部材との少なくとも一方に設けられ他方に弾性的に当接可能な弾性当接部を更に備える例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、装軌車両の走行装置は、弾性当接部を備えていなくてもよい。例えば、弾性当接部の設置態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0086】
上述した実施形態では、弾性当接部は、トラックフレーム及び第1アーム部材のそれぞれに設けられた弾性材製のパッドである例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、弾性材製のパッドは、トラックフレーム及び第1アーム部材のうち何れか一方に設けられ、他方には設けられなくてもよい。例えば、弾性材製のパッドの設置態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0087】
上述した実施形態の装軌車両は、運転室と、運転室が載置された車体フレームと、上記の装軌車両の走行装置と、を備える例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、装軌車両は、運転者が乗る運転室を備えていなくてもよい。例えば、装軌車両は、運転者による運転操作に基づいて駆動する有人装軌車両でもよいし、運転者による運転操作によらずに無人で駆動する無人装軌車両でもよい。例えば、運転室の設置態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0088】
上述した実施形態では、装軌車両は、ブルドーザである例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、装軌車両は、クローラダンプやショベル、トラクター等の他の作業車両でもよい。例えば、装軌車両の態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0089】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能であり、上述した実施形態を適宜組み合わせることも可能である。
【0090】
(付記1)
車体フレームの側部に配置されたトラックフレームと、
前端部及び後端部が交互に上下に揺動可能なように前記トラックフレームに取り付けられた第1アーム部材と、
前記第1アーム部材の前記前端部に回転自在に取り付けられた第1下転輪と、
前記第1アーム部材の前記後端部に回転自在に取り付けられた後端アイドラと、
前記トラックフレームの前後に設けられた複数の走行輪と、
前記第1下転輪、前記後端アイドラ及び前記複数の走行輪の周囲に巻回された履帯と、を備え、
側面視で、前記第1アーム部材の揺動中心と前記後端アイドラの回転中心と間の後側中心間距離は、前記第1アーム部材の前記揺動中心と前記第1下転輪の回転中心との間の前側中心間距離よりも長い、
装軌車両の走行装置。
【0091】
(付記2)
前記第1アーム部材は、前記後端アイドラへ作用する並進方向の力を回転方向の力に変換する、
付記1に記載の装軌車両の走行装置。
【0092】
(付記3)
側面視で、前記後端アイドラへ作用する力の方向と前記第1アーム部材の前記揺動中心と前記後端アイドラの前記回転中心とを結ぶ線とがなす角は直角となる、
付記1又は2に記載の装軌車両の走行装置。
【0093】
(付記4)
前記後側中心間距離は、前記前側中心間距離の1.5倍以上2.5倍以下である、
付記1から3の何れかに記載の装軌車両の走行装置。
【0094】
(付記5)
前記走行装置が平地に静止した平常状態において、前記後端アイドラの前記回転中心は、前記第1アーム部材の前記揺動中心よりも上に配置される、
付記1から4の何れかに記載の装軌車両の走行装置。
【0095】
(付記6)
前記第1アーム部材の前記後端部が上方へ揺動する場合、前記第1アーム部材の回動を制限するストッパ部を更に備える、
付記1から5の何れかに記載の装軌車両の走行装置。
【0096】
(付記7)
前記ストッパ部は、
前記第1アーム部材に設けられた第1アーム部材側凸部と、
前記トラックフレームに設けられ、前記第1アーム部材の前記後端部が上方に変位するように前記第1アーム部材が揺動した際に前記第1アーム部材側凸部が接することで前記第1アーム部材の揺動を制止するトラックフレーム側受け部と、を含む、
付記6に記載の装軌車両の走行装置。
【0097】
(付記8)
前記第1アーム部材側凸部が前記トラックフレーム側受け部に接することで、前記後端アイドラにさらなる力が加わると、前記トラックフレームは前記第1アーム部材と一体になって回動する、
付記7に記載の装軌車両の走行装置。
【0098】
(付記9)
前記第1アーム部材の前記前端部の揺動方向における前記第1アーム部材と前記トラックフレームとの間において前記トラックフレームと前記第1アーム部材との少なくとも一方に設けられ他方に弾性的に当接可能な弾性当接部を更に備える、
付記1から8の何れかに記載の装軌車両の走行装置。
【0099】
(付記10)
前記弾性当接部は、前記トラックフレーム及び前記第1アーム部材のそれぞれに設けられた弾性材製のパッドである、
付記9に記載の装軌車両の走行装置。
【0100】
(付記11)
運転室と、
前記運転室が載置された前記車体フレームと、
付記1から10の何れかに記載の装軌車両の走行装置と、を備える、
装軌車両。
【符号の説明】
【0101】
1…装軌車両、2…運転室、3…車体フレーム、5…走行装置、30…トラックフレーム、40…上転輪(走行輪)、41…第1下転輪、42~48…下転輪(走行輪)、50…履帯、60…フレーム本体、61…後端フレーム、70…第1アーム部材、80…後端アイドラ、81…第1弾性当接部、82…第2弾性当接部、121…第1アーム部材側凸部(ストッパ部)、122…トラックフレーム側受け部(ストッパ部)、Af…側面視で後端アイドラへ作用する力の方向と第1アーム部材の揺動中心と後端アイドラの回転中心とを結ぶ線とがなす角、Cm…中央側ピンの回転中心(第1アーム部材の揺動中心)、Cf…第1下転輪の回転中心、Cr…後端アイドラの回転中心、Lf…前側中心間距離、Lr…後側中心間距離