(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157608
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】積層体、包装体、積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20241031BHJP
B32B 15/082 20060101ALI20241031BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B15/082 Z
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072047
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 絵美
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 倫子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA04
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3E086CA01
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3E086DA08
4F100AA01B
4F100AA19B
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4F100AH06C
4F100AK01A
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4F100JK08
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】ポリオレフィン系樹脂フィルム上に、金属層および/または無機化合物層と、被覆層を積層した、バリア性の良好な積層体、包装体、積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、金属層および/または無機化合物層と、被覆層とをこの順に有する積層体であって、前記樹脂フィルムがポリオレフィン系樹脂フィルムであり、
被覆層がポリビニルアルコール系樹脂とシロキサン化合物を含み、被覆層をレーザーラマン分光法で測定して得られるシロキサン化合物由来のランダムネットワーク構造を示すラマンバンドの面積A1と直鎖状ポリシロキサン構造および環状シロキサンを示すラマンバンドのピーク強度A2の合計値に占めるランダムネットワーク構造の面積比率A1/(A1+A2)が、0.50以上0.85以下である積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、金属層および/または無機化合物層と、被覆層とをこの順に有する積層体であって、
前記樹脂フィルムがポリオレフィン系樹脂フィルムであり、
被覆層がポリビニルアルコール系樹脂とシロキサン化合物を含み、
被覆層をレーザーラマン分光法で測定して得られるシロキサン化合物由来のランダムネットワーク構造を示すラマンバンドの面積A1と直鎖状ポリシロキサン構造および環状シロキサンを示すラマンバンドのピーク強度A2の合計値に占めるランダムネットワーク構造の面積比率A1/(A1+A2)が、0.50以上0.85以下である積層体。
【請求項2】
熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸方向の121℃における応力をSF121℃、主配向軸方向の145℃における応力をSF145℃としたときに、SF145℃-SF121℃≦2.50MPaである請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
主配向軸方向の145℃におけるtanδが0.25以下である請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
主配向軸方向の破断点伸度をT0とし、該積層体を130℃で10分間熱処理した後に測定される主配向軸方向の破断点伸度をT130としたとき、T0/T130の値が1.20以下である請求項1または2に記載の積層体。
【請求項5】
前記被覆層をFT-IR-ATR法(全反射フーリエ変換赤外分光法)で測定して検出される下記ピーク強度P1とP2の比P1/P2の値が3.5以上8.0以下である請求項1または2に記載の積層体。
P1:1,050~1,080cm-1に存在する最大ピークの強度
P2:920~970cm-1に存在する最大ピークの強度
【請求項6】
前記ポリビニルアルコール系樹脂が、ビニルエステル基、アルキル基、カルボニル基、カルボキシ基、アセトアセチル基、ビニルエーテル基、アルキル基、エチレン基およびラクトン環より選ばれる1つ以上の官能基を有するポリビニルアルコール系樹脂である請求項1または2に記載の積層体。
【請求項7】
前記被覆層の厚さが200nm以上600nm以下である請求項1または2に記載の積層体。
【請求項8】
前記金属層または無機化合物層がアルミニウムを含む請求項1または2に記載の積層体。
【請求項9】
前記積層体の水蒸気透過率が1.0g/m2/24hr以下、かつ酸素透過率が1.0cc/m2/24hr以下である請求項1または2に記載の積層体。
【請求項10】
前記金属層または無機化合物層が樹脂フィルムに直接接している請求項1または2に記載の積層体。
【請求項11】
請求項1または2に記載の積層体を有する包装材。
【請求項12】
樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、
金属層および/または無機化合物層と、被覆層とをこの順に有する積層体の製造方法であって、
樹脂フィルムがポリオレフィン系樹脂であり、被覆層はポリビニルアルコール系樹脂とシロキサン化合物を含む液を塗布し、120℃以下で乾燥させる工程により得られるものであり、
被覆層をレーザーラマン分光法で測定して得られるシロキサン化合物由来のランダムネットワーク構造を示すラマンバンドの面積A1と直鎖状ポリシロキサン構造および環状シロキサンを示すラマンバンドのピーク強度A2の合計値に占めるランダムネットワーク構造の面積比率A1/(A1+A2)が、0.50以上0.85以下である積層体の製造方法。
【請求項13】
前記シロキサン化合物がアルコキシシラン、およびアルコキシシランの5量体以下のシロキサン化合物より選ばれる1種以上を含む、請求項12に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂基材を用いたバリア性の良好な積層体、包装体、積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、日用品などの包装材料には、内容物の劣化防止のために酸素バリア性や、水蒸気バリア性が求められる。これらバリア性包装材料として、ポリエステル等の樹脂フィルムにアルミニウム等の金属層や、金属酸化物層、さらには保護層を積層したバリアフィルムが用いられてきた。特に、金属酸化物層を積層した場合は、透明フィルムとなるため視認性がよく、食品の包装においては電子レンジ加熱が可能になるなど利便性が高いため、広く用いられている。
【0003】
一方で、プラスチック製の包装材料は、使用後埋め立てても土壌で分解されなかったり、焼却時に大きな発熱があったりするため、環境負荷が懸念されている。さらに近年では、流出したプラスチックごみによる海洋汚染も大きな問題となっており、世界的にプラスチック製材料の使用量削減、再利用の機運が高まっている。そこで、環境保全の観点から包装材料の回収・リサイクルが提唱されている。
【0004】
従来の包装材料に使用されるバリアフィルムの基材フィルムは、耐熱性、透明性が高いポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル系樹脂や、機械強度に優れるポリアミド系樹脂が使用されてきた。これらのフィルムには、包装材料の製袋加工等で必要なヒートシール性がないため、熱融着可能なポリプロピレン系樹脂と積層して包装材料に使用されている。しかしながら、異素材の積層体はリサイクルする際の分離が難しいため、リサイクル性を高めるために包装材料を同一素材で構成するモノマテリアル化、つまり、ヒートシール性を有するポリプロピレン系樹脂と類似のオレフィン系素材をバリアフィルムの基材として用いる試みがなされている。しかしながら、オレフィン系素材は、ポリエステル系樹脂や、ポリアミド系樹脂と比較して基材自体の酸素バリア性が悪い課題がある。そこで、酸素バリア性を向上させ、包装材料として内容物の保存性を高めるために、被覆層の形成によってバリア性を向上させる方法が検討されてきた(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4784039号公報
【特許文献2】特許第4972951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、基材上に無機酸化物の蒸着膜と、ガスバリア性塗布膜を設けたガスバリア性フィルムを開示しているが、加工条件が150℃以上と高温であり、ポリエステル系樹脂よりも耐熱性の低いポリオレフィン系樹脂フィルムに適用すると、シワやクラックが発生する課題があった。特許文献2では、ポリプロピレンフィルムに蒸着層と複合被膜を積層して、包装材料に用いることができる蒸着フィルムを開示しているが、内容物の劣化を抑制するほど緻密に硬化していないためにバリア性を得るには十分ではなく、改善の余地があった。
【0007】
本発明の課題は、ポリオレフィン系樹脂フィルム上に、金属層および/または無機化合物層と、被覆層を積層した、バリア性の良好な積層体、包装体、積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の好ましい一態様は以下の通りである。
(1)樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、金属層および/または無機化合物層と、被覆層とをこの順に有する積層体であって、
前記樹脂フィルムがポリオレフィン系樹脂フィルムであり、
被覆層がポリビニルアルコール系樹脂とシロキサン化合物を含み、
被覆層をレーザーラマン分光法で測定して得られるシロキサン化合物由来のランダムネットワーク構造を示すラマンバンドの面積A1と直鎖状ポリシロキサン構造および環状シロキサンを示すラマンバンドのピーク強度A2の合計値に占めるランダムネットワーク構造の面積比率A1/(A1+A2)が、0.50以上0.85以下である積層体。
(2)熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸方向の121℃における応力をSF121℃、主配向軸方向の145℃における応力をSF145℃としたときに、SF145℃-SF121℃≦2.50MPaである(1)に記載の積層体。
(3)主配向軸方向の145℃におけるtanδが0.25以下である(1)または(2)に記載の積層体。
(4)主配向軸方向の破断点伸度をT0とし、該積層体を130℃で10分間熱処理した後に測定される主配向軸方向の破断点伸度をT130としたとき、T0/T130の値が1.20以下である(1)から(3)のいずれかに記載の積層体。
(5)前記被覆層をFT-IR-ATR法(全反射フーリエ変換赤外分光法)で測定して検出される下記ピーク強度P1とP2の比P1/P2の値が3.5以上8.0以下である(1)から(4)のいずれかに記載の積層体。
P1:1,050~1,080cm-1に存在する最大ピークの強度
P2:920~970cm-1に存在する最大ピークの強度
(6)前記ポリビニルアルコール系樹脂が、ビニルエステル基、アルキル基、カルボニル基、カルボキシ基、アセトアセチル基、ビニルエーテル基、アルキル基、エチレン基およびラクトン環より選ばれる1つ以上の官能基を有するポリビニルアルコール系樹脂である(1)から(5)のいずれかに記載の積層体。
(7)前記被覆層の厚さが200nm以上600nm以下である(1)から(6)のいずれかに記載の積層体。
(8)前記金属層または無機化合物層がアルミニウムを含む(1)から(7)のいずれかに記載の積層体。
(9)前記積層体の水蒸気透過率が1.0g/m2/24hr以下、かつ酸素透過率が1.0cc/m2/24hr以下である(1)から(8)のいずれかに記載の積層体。
(10)前記金属層または無機化合物層が樹脂フィルムに直接接している(1)から(9)のいずれかに記載の積層体。
(11)(1)から(10)のいずれかに記載の積層体を有する包装材。
(12)樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、
金属層および/または無機化合物層と、被覆層とをこの順に有する積層体の製造方法であって、
樹脂フィルムがポリオレフィン系樹脂であり、被覆層はポリビニルアルコール系樹脂とシロキサン化合物を含む液を塗布し、120℃以下で乾燥させる工程により得られるものであり、
被覆層をレーザーラマン分光法で測定して得られるシロキサン化合物由来のランダムネットワーク構造を示すラマンバンドの面積A1と直鎖状ポリシロキサン構造および環状シロキサンを示すラマンバンドのピーク強度A2の合計値に占めるランダムネットワーク構造の面積比率A1/(A1+A2)が、0.50以上0.85以下である積層体の製造方法。
(13)前記シロキサン化合物がアルコキシシラン、およびアルコキシシランの5量体以下のシロキサン化合物より選ばれる1種以上を含む、(12)に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリオレフィン系樹脂フィルム上に、金属層および/または無機化合物層と、被覆層を有する、緻密でバリア性の良好な積層体、包装体、積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の積層体の構成を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の積層体、包装体、積層体の製造方法の好ましい一態様についてさらに詳しく説明する。
【0012】
本発明におけるポリオレフィン系樹脂フィルムは、オレフィン系炭化水素を主構成単位とする樹脂を主成分とするフィルムである。主構成単位とは、樹脂に含まれるモノマー単位のうち最も含有量(個数単位)の多いものをいい、主成分とは、構成するすべての成分の中で最も含有量(質量%)の多いものをいう。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレンの他プロピレンや4-メチル-1ペンテンなど側鎖にアルキル基を有するα-オレフィンの重合体およびこれらの共重合体、または、α-オレフィンとアクリル酸、C=C結合含有カルボン酸、C=C結合含有カルボン酸塩あるいはC=C結合含有カルボン酸アルキルエステル等を共重合して得られる共重合体、ノルボルネンやシクロジエンの重合体およびこれらの重合体であり、単層であっても複数層であってもよい。これらの中でも、比較的安価であることから、ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むことが好ましく、耐熱性の点でポリプロピレンを含むことがより好ましく、同様の観点でポリプロピレンを主成分とすることがさらに好ましい。また、フィルムは未延伸であっても、延伸されていてもよいが、熱寸法安定性の観点から二軸延伸されていることが好ましい。すなわち、二軸延伸ポリオレフィン系樹脂フィルムであることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂フィルムは、融点が150℃以上であることが好ましい。融点を150℃以上とすることで、金属酸化物を形成したり、包装材構成に加工したりする工程の熱による熱負けを防止し、加工後の耐熱性も高くなるため、バリア性の劣化を抑制できる。なお、フィルムの融点は、DSC(示差走査熱量測定)を用いて以下の方法で測定することができる。示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製EXSTAR DSC6220)を用いて、窒素雰囲気中で3mgの試料を30℃から260℃まで、昇温速度20℃/分で昇温し、次いで、260℃で5分間保持した後、20℃/分の条件で30℃まで降温する。さらに、30℃で5分間保持した後、30℃から260℃まで20℃/分の条件で再昇温し、この再昇温時に得られる吸熱カーブのピーク温度を融点とする。なお複数のピーク温度が観測された場合には、最も高温の温度を融点とする。
【0013】
前記ポリオレフィン系樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)は50℃以下であることが好ましい。本態様とすることにより、低温においてもフィルムの柔軟性が高くなり、包装体としたときに低温でも硬くなることがなく、広い温度範囲で安定した使用が可能となる。
【0014】
ポリオレフィン系樹脂フィルムの厚さは、3μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上50μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましい。フィルムの厚さを3μm以上とすることで支持体としての剛性を保つことができ、100μm以下とすることで、包装材料としての柔軟性を維持し、追従性が向上するため好ましい。なお、ポリオレフィン系樹脂フィルムの厚さは実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0015】
また、ポリオレフィン系樹脂フィルムは表面が平滑であることが好ましい。表面平滑性は、ISO25178(2012)で定義される算術平均高さSaで表すことができ、Saは50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましい。Saは、非接触の表面観察装置、例えば株式会社日立ハイテクサイエンス製走査型白色干渉顕微鏡で測定することができる。測定は10倍の対物レンズ、1倍の鏡筒、1倍のズームレンズを使用し、波長フィルターは530nm・whiteに設定して測定モードwaveで、0.561mm×0.561mmの面積を測定する。測定ソフトウェアはVS-Measure Version10.0.4.0を、解析ソフトウェアはVS-Viewer Version10.0.3.0を使用した。解析では、撮影画面を多項式4次近似面補正にてうねり成分を除去し、次いでメジアン(3×3)フィルタにて処理後、補間処理(高さデータの取得ができなかった画素に対し周囲の画素より算出した高さデータで補う処理)を施した後、Saを算出する。表面を平滑にすることで、表面に積層する無機酸化物層の欠点を減らすことができ、良好な無機酸化物層とすることができ、バリア性を向上させることができる。
【0016】
本発明における積層体は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの少なくとも一方の面に無機層を有する積層体であって、前記無機層は金属層および/または無機化合物層を有することが好ましい。
【0017】
前記金属層および/または前記無機化合物層は、周期表の2族から14族(ただし炭素を除く)より選ばれる1種以上の元素を含み、無機化合物層はさらに、酸素、窒素の少なくとも1種を含む層であることが好ましい。これらの中でも加工コストやガスバリア性の観点から、金属層はアルミニウムを含有することが好ましく、アルミニウムを主成分とすることがより好ましい。また、同様の観点から、前記無機化合物層は少なくともアルミニウム、マグネシウム、チタン、スズ、インジウム、及びケイ素より選ばれる1種以上を含むことが好ましく、ケイ素またはアルミニウムを含むことがより好ましい。好ましい無機化合物層としては、例えば、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウムが挙げられる。さらに、前記無機酸化物層において、周期表の2族から14族(ただし炭素を除く)の元素の総和に占めるアルミニウムの割合が50atomic%以上であることが好ましい。
【0018】
金属層を有する場合、前記金属層の厚さは、5nm以上500nm以下であることが好ましく、10nm以上100nm以下であることが好ましい。厚さを5nm以上とすることで、バリア性を向上することができ、500nm以下とすることで、成膜中に基材が熱負けすることを抑制できるので好ましい。
【0019】
無機化合物層を有する場合、前記無機化合物層の厚さは、2nm以上50nm以下が好ましく、2nm以上20nm以下がより好ましく、4nm以上10m以下がさらに好ましい。厚さを1nm以上とすることで無機化合物層のピンホールなどの欠陥を減らすことができ、50nm以下とすることでクラックを抑制することができ好ましい。金属層や無機化合物層の厚さは実施例に記載の方法で求めることとする。
【0020】
本発明の積層体は、金属層および/または無機酸化物層が、ポリオレフィン系樹脂フィルムの表面に直接接していることが好ましい。本発明において「直接接している」とは、ポリオレフィン系樹脂フィルムと無機層の間に他の層が存在しない態様をいう。このような態様とすることにより、積層体の製造コストやリサイクル性が向上する。
【0021】
本発明における被覆層とは、前記積層体の少なくとも一方の最表層をいい、金属層および/または無機化合物層の、ポリオレフィン系樹脂とは反対側の面に積層された層であって、ポリビニルアルコール系樹脂とシロキサン化合物を含む層である。ポリビニルアルコール系樹脂としては例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、変性ポリビニルアルコール等が挙げられ、これらの樹脂は単独で用いても、2種以上の混合物であってもよい。ポリビニルアルコール系樹脂の平均分子量(JIS K 6726(1994)に準拠)は、500以上3,000以下が好ましい。分子量が小さい場合、層中でポリマーが固定されにくく、バリア性が低下する場合がある。
【0022】
ポリビニルアルコール系樹脂は、一般に、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものであり、酢酸基の一部をけん化して得られる部分けん化であっても、完全けん化であってもよいが、けん化度が高い方が好ましい。けん化度(JISK 6727(1994)に準拠)は、好ましくは90mol%以上であり、より好ましくは95mol%以上である。けん化度が高いと、立体障害の大きい酢酸基が少なく、被覆層の自由体積が小さくなるとともに、樹脂の結晶化度が上がるため、バリア性向上に有利になり好ましい。
【0023】
本発明の変性ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルアルコールに異なる化学構造の単量体を化学反応させたもの、または異なる化学構造の単量体を共重合させたものを指す。変性ポリビニルアルコール系樹脂としては、プロピオンビニル等のビニルエステル系、カルボン酸系、メタアクリル酸エステル系、メチルビニルエーテル等のビニルエーテル系、グリコール系、などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂の変性部位は、ポリビニルアルコール系樹脂の主鎖や側鎖、または架橋鎖のうちいずれに存在していてもよいが、主鎖変性であることが好ましい。側鎖に立体障害の大きい官能基を有する場合は被覆層の自由体積が大きくなるためバリア性が低下する場合があるが、主鎖の一部に変性構造を有する場合は立体障害を小さくでき、被覆層の自由体積も小さくなるためバリア性向上に有利になり好ましい。
【0024】
前記被覆層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂の詳細な構造は、NMR(核磁気共鳴分析)で分析することができる。フィルム片を重水素化イソプロパノールへ浸漬し、被覆層組成物を溶媒に溶解させる、または被覆層をスパチュラ等を用いて物理的に削る。被覆層が溶解したかどうか、または被覆層を削り取れたかは、後述する膜厚さ評価方法と同様に被覆層の膜厚さを測定することで確認できる。次いで、溶媒に溶解させた試料を液体NMRで、または削り出した試料を固体NMRで、13C、プロトンについて分析し、各ピークを帰属することでその構造を確認できる。さらに、同様にして得られた被覆層の、FT-IRの拡散反射法の分析を併用することで、その構造に関する情報を得ることができる。
【0025】
前記被覆層に含まれるシロキサン化合物は、Si(OR)4で表されるシリコンアルコキシド、シリコンアルコキシドの加水分解物、及びシリコンアルコキシドの加水分解物の重縮合物より選ばれる1種以上であることが好ましい。ここでは、Rはアルキル基であり、特に炭素数1~4の低級アルキル基が好ましい。とりわけ、反応性と安定性、コストの観点から例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランを好適に用いることができ、これらは単独であっても、2種類以上の混合物であってもよい。これらシリコンアルコキシドは、ネットワークを形成するために加水分解したり、重縮合したりしていてもよい。
【0026】
シリコンアルコキシドの加水分解および/または重縮合は、水、触媒、有機溶媒の存在下で進めることができる。反応に使用する水は、Si(OR)4および/またはM(OR)nのアルコキシ基に対して0.8当量以上5当量以下であることが好ましい。水の量を0.8当量以上とすることで、十分に加水分解を進行させてネットワークを形成できるため好ましい。水の量を5当量以下にすることで、加水分解進行度を調整してランダムなネットワーク形成を抑制でき、膜の自由体積を小さくしてバリア性が向上するため好ましい。
【0027】
シリコンアルコキシドの反応に使用する触媒は、酸触媒であることが好ましい。酸触媒の例としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、酒石酸等が挙げられ、特に限定されるものではない。通常、シリコンアルコキシドの加水分解および重縮合反応は、酸触媒であっても塩基触媒であっても進めることができる。酸触媒を用いた場合、系中のモノマーは平均的に加水分解されやすく、直鎖状やネットワーク構造で縮合が進みやすい。一方、塩基触媒を用いた場合は、同一分子に結合したアルコキシドの加水分解・重縮合反応が進みやすい反応機構となるため、反応生成物は自由体積が大きく空隙の多い粒状になりやすい。膜中の空隙は、水蒸気や酸素の透過経路となるため、酸触媒を用いることが好ましい。
【0028】
シリコンアルコキシドの反応に使用する有機溶媒は、水およびシリコンアルコキシドと混合可能なメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等のアルコール類を用いることができる。
【0029】
なお、シリコンアルコキシドの重縮合物として、市販のシリケートオリゴマーやポリシロキサンを用いることもできる。シリケートオリゴマーやポリシロキサンは単独で用いても、低分子のシリコンアルコキシドと混合して用いてもよいが、過剰な架橋によるクラック発生を抑制するため、低分子のシリコンアルコキシドと混合して用いることが好ましい。なお、シリケートオリゴマーやポリシロキサンを使用する場合も、直鎖状やネットワーク構造のものを選定すると、膜の自由体積が小さくなり、バリア性が向上しやすく好ましい。
【0030】
なお、被覆層には、ガスバリア性を阻害しない範囲において、レベリング剤、架橋剤、硬化剤、密着剤、安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を含んでもよい。架橋剤の一例としては例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウム等の金属アルコキシドおよびその錯体等、密着剤としては各種シランカップリング剤等が挙げられる。
【0031】
本発明の被覆層は、前記ポリビニルアルコール系樹脂と、ポリシロキサン化合物を混合して得られる塗剤を、金属層および/または無機化合物層に塗布・乾燥して得ることができる。被覆層に含まれる樹脂とシロキサン化合物の比率は、シロキサン化合物のケイ素が完全酸化した場合の質量(SiO2の換算質量)と樹脂の質量の比率で、樹脂/酸化ケイ素の換算質量=15/85~85/15の範囲が好ましく、20/80~65/35の範囲がより好ましく、20/80~40/60の範囲がさらに好ましく20/80~50/50の範囲が特に好ましい。この比率を15/85以上とすると、過剰量のシロキサン化合物によって膜が脆弱化してクラックが発生することを抑制できるため、好ましい。この比率を85/15以下とすることで、シロキサン化合物のネットワークで樹脂を固定化し、水蒸気バリア性の低下を抑制することができ、好ましい。樹脂と酸化ケイ素の比率は、被覆層の厚さの中央部において、飛行時間型2次イオン質量分析計(TOF-SIMS)により測定される、炭素に由来するフラグメントイオンのピーク強度cと、Si-O結合を有するセグメントに由来するフラグメントイオンのピーク強度sの比率c/sで調べることができ、c/sが0.015以上0.650以下であることが好ましい。なお、被覆層が最表面に露出している状態であれば特に前処理は必要ないが、被覆層上に他の層が形成されている場合は、各層の膜厚さ分をアルゴンイオンビーム等の各種イオンでエッチングしたり、薬液処理して除去したりしてから分析することができる。測定は、例えば以下の方法が挙げられる。ION TOF社製の飛行時間型2次イオン質量分析計TOF-SIMS5を用いて、下記条件で測定した。分析後の試料を触針式の段差計(BRUKER社製 Dektak XTL)を用いて、実測のクレータ深さを求め、その深さをエッチング時間で割った平均のエッチングレートを用いて換算し、中央部の値を読み取る。なお、ちょうど膜厚の2分の1となる部分のTOF-SIMS測定データが無い場合は、膜厚の2分の1となる部分に最も近い測定点のTOF-SIMS測定データを用いることとする。膜厚の2分の1となる部分に最も近い測定点が1つで無い場合は、各測定点の測定データから求められるc/sの平均値を膜厚の2分の1となる部分のc/sとする。解析は、測定装置に付属するソフトSURFACE LAB 7.1を用いてraw dataを読み込み、質量スペクトルから各種イオンに帰属されるピークを読み取るものとする。
【0032】
<測定条件>
一次イオン種 :Bi+(2pA、50μs)
加速電圧 :25kV
検出イオン極性:positive
測定範囲 :100μm×100μm
分解能 :128×128
エッチングイオン種:O2+(2keV、170nA)
エッチング面積:300μm×300μm
エッチングレート:1sec/cycle。
【0033】
本発明の被覆層は、レーザーラマン分光法で測定して得られるシロキサン化合物由来のランダムネットワーク構造を示すラマンバンドの面積A1と直鎖状ポリシロキサン構造および環状シロキサンを示すラマンバンドのピーク強度A2の合計値に占めるランダムネットワーク構造の面積比率A1/(A1+A2)が、0.50以上0.85以下であることが好ましい。なお、A1/(A1+A2)は実施例に記載の方法で求めるものとし、被覆層の上に層が形成されている場合は研磨して被覆層を露出させてから測定するものとする。被覆層に含まれるシロキサン化合物は、シリコンアルコキシドの加水分解および重縮合によって得ることができる。シリコンアルコキシドは、一般式Si(OR)4で表され、加水分解および重縮合によって、ケイ素原子に結合する酸素を介してSi-O-Siのシロキサン結合を有する化合物となる。このとき、ケイ素の4つの結合手は、全て一様にシロキサン結合になるわけではなく、3員環や4員環の構造や直鎖構造、さらには直鎖の一部がクロスリンクしたネットワーク構造などさまざまな結合状態を取り得る。発明者らは鋭意検討した結果、これらのシロキサン構造のうち、ネットワーク構造の比率を高くすると、その構造が網目のようになってポリビニルアルコール系樹脂の分子運動を抑制でき、バリア性が良好になることを見出した。シロキサンの結合状態は、レーザーラマン分光法で分析することができ、ネットワーク構造は波数425cm-1付近、ポリビニルアルコール系樹脂の固定化に対する寄与が小さい4員環構造、直鎖構造は490cm-1付近に検出される。これらのスペクトルを波形分離して、これらのピーク面積に占めるネットワーク構造の比率を求めることができる。ネットワーク構造を示すシグナルは、波数415~430cm-1の範囲にピークを有し、ネットワークへの寄与が小さい4員環・直鎖構造は480~500cm-1の範囲にピークを有する。被覆層のラマンスペクトルにおいて、これらをピーク分離し、ネットワーク構造を示すピークの面積をA1、4員環・直鎖構造を示すピークの面積をA2としたとき、A1/(A1+A2)の値は主なシロキサン結合のうち、ネットワーク構造の占める割合を示す。A1/(A1+A2)の値は、0.50以上0.85以下が好ましく、0.60以上0.80以下がより好ましい。A1/(A1+A2)が0.50以上のとき、ネットワーク構造のシロキサンが多く存在し、被覆層を網目状の構造で固定することができるため、安定したバリア性をえることができ、好ましい。A1/(A1+A2)が0.85以下のとき、シロキサンネットワーク構造が過多になって脆化することを避け、柔軟性を維持できるため好ましい。
【0034】
ネットワーク構造のシロキサン化合物を得るための好ましい態様の一つとして、疎水性の変性基を有するポリビニルアルコール系樹脂を用いる例が挙げられる。一般に、ポリビニルアルコール系樹脂とシロキサン化合物はいずれも水酸基を有し、塗工・乾燥による塗膜形成において水素結合を形成しうる。しかしながら、水素結合は共有結合であるシロキサン結合より結合が弱く、熱や水分等によって解離し、樹脂の分子運動を抑制できずにガス透過経路が生成するため、安定したバリア性を得るのが難しい要因となっていた。アルコキシシラン同士を重縮合して末端シラノールを減らし、ネットワーク化したシロキサン結合を生成すれば、水素結合の解離を抑え、シロキサンネットワーク構造によってポリビニルアルコールを固定できるため、バリア性の安定化が期待できる。そこで、発明者らは鋭意検討した結果、ポリビニルアルコール系樹脂の疎水性を高めると、120℃以下の比較的低い温度であってもバリア性が良好になることを見出した。疎水性の高いポリビニルアルコール系樹脂を使用すると、ポリビニルアルコール系樹脂とアルコキシシランの水酸基との相互作用が小さくなり、シラノール基同士の相互作用が強まって近接し、シロキサンネットワーク構造を増加したためと考えられる。シロキサンネットワーク構造を形成する原料同士を近接させることにより、これらの反応が進行しやすくなるため、シロキサンネットワーク形成に要する熱エネルギーを低減でき、低温での加工でも十分なネットワーク構造を形成できる効果もある。さらに、本発明の積層体を構成するポリオレフィン系樹脂フィルムは、従来のポリエステル系樹脂よりも吸水率が低いため、被覆層も疎水化することで樹脂フィルムと被覆層それぞれの吸水による変形差が小さくなり、積層体のカールが起こりづらくなる効果もあることがわかった。
【0035】
疎水性の変性基を有するポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、プロピオンビニル等のビニルエステル系、カルボン酸系、メタアクリル酸エステル系、メチルビニルエーテル等のビニルエーテル系、グリコール系、飽和/不飽和アルキル系や環状構造を有する炭化水素系などが挙げられる。つまり、前記ポリビニルアルコール系樹脂が、ビニルエステル基、アルキル基、カルボニル基、カルボキシ基、アセトアセチル基、ビニルエーテル基、アルキル基、エチレン基およびラクトン環より選ばれる1つ以上の官能基を有するポリビニルアルコール系樹脂であることが好ましい。変性部位は、主鎖、側鎖いずれにあってもよい。これらの変性構造のうち、立体障害の大きい疎水基の存在でガスの透過経路となる自由体積の拡大を抑えつつ、アルコキシシランの加水分解物や重縮合物との均一な混合が可能である観点から、アルキル基や環状構造の主鎖変性が好ましい。一方で、疎水性を挙げる観点では、ポリビニルアルコール系樹脂のけん化度を下げる手法も考え得るが、けん化度が下がるとポリビニルアルコール系樹脂の結晶化が下がる原因となり、バリア性が悪化するため、好ましくない場合がある。けん化度は、90mol%以上が好ましく、95mol%以上がより好ましい。好ましい樹脂の具体例としては、例えば、日本酢ビ・ポバール株式会社製変性ポバールDポリマー、Zポリマー、日本合成化学工業株式会社“ゴーセネックス”(登録商標)Zシリーズ、株式会社クラレ製変性ポリビニルアルコール樹脂“エクセバール”(登録商標)等が例示できる。
【0036】
ネットワーク構造のシロキサン化合物を得るもう一つの好ましい態様の一つとしては、シロキサン化合物の原料として、アルコキシシランや、アルコキシシランの5量体以下の鎖長の短いシロキサン化合物を含む例が挙げられる。シロキサン化合物として、あらかじめ重縮合が進行したポリマーを使用すると、シラノール残渣が限定されるため、分子鎖間での重縮合が進みづらく、ネットワーク構造が十分に形成できなくなる。分子鎖間を結合するための架橋剤として、低分子成分を存在させることで、緻密なネットワーク構造が形成でき好ましい。
【0037】
本発明の被覆層は、FT-IR-ATR法で測定して検出されるピーク強度P1とP2の比P1/P2の値が3.5以上8.0以下であることが好ましく、4.0以上6.5以下であることがより好ましい(ただし、P1:1,050~1,080cm-1に存在する最大ピークの強度、P2:920~970cm-1に存在する最大ピークの強度を示す。なお、ピーク強度とは、ピーク位置における吸光度(単位無し)である)。FT-IR-ATR法では、表面の被覆層の特徴をとらえることができ、P1は反応生成物であるSi-O-Siを示し、P2は反応原料であるSi-OHの量を示す。したがって、ピーク強度のP1とP2の比P1/P2は、アルコキシシシランの重縮合が進行するほど大きくなる。アルコキシシランの重縮合反応が進行すると、末端のOHが減少して強固な膜となり、バリア性が向上するとともに、包装材料としてレトルト処理される際の耐湿熱性も向上する。P1/P2を3.5以上にすると、末端OHが減少して強固な膜となっておりバリア性、耐湿熱性に優れる層とすることができる。P1/P2を8.0以下にすることで、膜の収縮によるクラックや脆化を抑制することができ、好ましい。なお、P1、P2は実施例に記載の方法で求めるものとし、被覆層の上に層が形成されている場合は研磨して被覆層を露出させてから測定するものとする。
【0038】
FT-IR-ATR法で測定して検出されるピーク強度P1とP2の比P1/P2を好ましい範囲にするためには、アルコキシシランの反応を十分に進行させる必要がある。アルコキシシランの重縮合は脱水反応であるため、加熱によって進行させることができるが、本発明の積層体を構成するポリオレフィン系樹脂フィルムは、従来のポリエステル系樹脂と比較して耐熱性が低いため、反応を十分に進行させることが難しい課題があった。発明者らは鋭意検討した結果、疎水性の変性基を有するポリビニルアルコール系樹脂用いることで、アルコキシシランの加水分解および重縮合物と該樹脂の相互作用を低減し、アルコキシシランの加水分解および重縮合物同士の相互作用を高めることにより、これらの反応が進行しやすくなり、低温でネットワークを形成できることを見出した。また、P1/P2を3.5以上8.0以下に調整することで、後工程におけるバリア性の劣化も抑制できることを見出した。本発明の積層体を包装材料として使用する場合、印刷や製袋の工程を通るため、加熱されたり、圧力がかかったりする。このとき、適度にネットワークを構成した被覆は保護膜としても機能でき、好ましい。一方で、たとえばP1/P2が3.5未満であると、未反応の金属アルコキシドが多いため、被覆層が硬化できておらずキズが入ってバリア性が劣化しやすかったり、加工条件によっては未反応の金属アルコキシドが硬化収縮し、バリア劣化したりする。一方、P1/P2が8.0を超える場合は、被覆層が脆化してしまい、貼合時の圧力や搬送張力によってクラックが発生しやすくバリア性が劣化することがある。
【0039】
本発明の被覆層は、陽電子消滅法で求めた空孔の自由体積半径が0.260nm以下であることが好ましい。陽電子ビーム法は、陽電子消滅寿命測定法の一つであり、陽電子が試料に入射してから消滅するまでの時間(数百ps~数十nsオーダー)を測定し、その消滅寿命から約0.1~10nmの空孔の大きさ、数濃度、さらには大きさの分布に関する情報を非破壊的に評価する手法である。陽電子線源として放射性同位体(22Na)の代わりに陽電子ビームを用いる点が、通常の陽電子消滅法と大きく異なり、シリコンや石英基板上に製膜された数百nm厚程度の薄膜の測定を可能とした手法である。自由体積半径は、例えば以下の手順で測定できる。積層体を15mm×15mmのシリコンウェハに貼り付けて、25℃で真空脱気した試料を用いて以下の条件で陽電子消滅寿命を測定する。
【0040】
測定装置:フジ・インバック製小型陽電子消滅発生装置PALS-200A
陽電子線源:22Naベースの陽電子消滅
γ線検出器:BaF2製シンチレータと光電子増倍管
ビーム強度:3keV
測定温度:25℃
測定雰囲気:真空
総カウント数:約5,000,000カウント。
【0041】
得られた陽電子消滅寿命曲線に対して、非線形最小二乗プログラムPOSITRONFITで3成分解析を行って、消滅寿命の小さいものからτ1、τ2、τ3とした。最も長い平均消滅寿命τ3から、下記式を用いて空孔の自由体積半径R3(nm)を算出する。
【0042】
τ3=(1/2)[1-{R3/(R3+0.166)}+(1/2π)sin{2πR3/(R3+0.166)}]-1。
【0043】
被覆層の自由体積半径が0.260nm以下であると、被覆層の空孔サイズが小さく緻密な層であるため、バリア性が良好となる。自由体積半径の下限は特に限定されないが、割れやすさの観点から0.240nm以上であることが好ましい。
【0044】
自由体積半径を小さくする方法としては、前述のシリコンアルコキシドの結合様態を制御したり、反応進行度を高くしたりすることが好ましい。シリコンアルコキシドは、塗剤調製時の加水分解条件によっても構造が変化することが知られており、加水分解触媒として酸を使用すると、環状構造が減少し、自由体積半径を小さくすることができ好ましい。また、反応進行度が低いと、運動の自由度が高い未反応の水酸基が存在して自由体積が増大するため、重縮合して固定することが好ましい。さらに、ポリビニルアルコール系樹脂の変性基の分岐を少なくとすることも自由体積を小さくするために有効である。ポリビニルアルコール系樹脂の変性基の立体障害が大きい場合や、けん化度が低く立体障害が大きくなる場合は、自由体積も大きくなるため、バリア性が悪化する場合がある。
【0045】
本発明の被覆層は、厚さが200nm以上600nm以下であることが好ましく、320nm以上500nm以下がより好ましい。厚さを200nm以上とすることで、金属層および/または金属化合物層を欠点なく被覆できるとともに、バリア性を向上することができる。厚さを600nm以下とすることで、硬化時の熱収縮によるクラックや、硬化不足を防止することができ、好ましい。なお、被覆層の厚さは実施例に記載の方法で求めることとする。
【0046】
本発明の積層体は、熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸方向の121℃における応力をSF121℃、主配向軸方向の145℃における応力をSF145℃としたときに、SF145℃-SF121℃≦2.50MPaを満たすことが好ましい。なお、各応力は実施例に記載の方法で求めるものとする。積層体の主配向軸方向とは、長さ50mm(測定方向)×幅10mmの矩形状サンプルを、室温下で引張速度を300mm/分として測定方向に引っ張ったときの、破断するまでの最大荷重より求めた最大点強度の応力が最も大きくなる方向をいい、その決定方法の詳細は実施例に記載の通りである。SF145℃-SF121℃≦2.50MPaを満たすことで、本発明の積層体にヒートシール等の高温処理を含む後加工を施す際に、積層体が熱によって変形し、無機酸化物層にピンホールやクラックといった欠陥が生成するのを抑制できる。その結果、積層体は優れた水蒸気バリア性を維持することが可能となる。
【0047】
SF145℃-SF121℃≦2.50MPaを満たすことは、121℃以上の高温領域における収縮応力が小さいことを意味する。121℃以上の高温領域での収縮応力が小さい場合、121℃未満から室温に至るまでの温度領域においては収縮応力がより一層小さくなり、経時での寸法変化が極めて小さくなる。そのため、本発明の積層体で製袋加工する際、寸法安定性が良好になるため、印刷やラミネート、製袋加工時の変形による品位の低下が軽減できる。特に製袋加工のヒートシールの際、加熱した部分のシワや収縮が抑えられ、最終製品の収率も高くなるため好ましい。また、本発明の積層体をロールで長期保管する際にもロールの変形、たとえばシワの発生(巻き締まり)の抑制も期待できる。
【0048】
上記観点からSF145℃-SF121℃の上限は、好ましくは2.00MPa、より好ましくは1.80MPa、さらに好ましくは1.50MPaである。なお、SF145℃-SF121℃は小さいほど好ましく、下限は特に限定されないが、実質的には0.05MPa程度である。
【0049】
SF145℃やSF121℃は、実施例に示す温度条件、荷重条件で熱機械分析を行い、得られた熱収縮応力曲線より読み取ることができる。熱機械分析装置は、測定が可能なものであれば特に制限されず適宜選択することができ、例えば、セイコーインスツルメンツ株式会社製TMA/SS6000等を用いることができる。
【0050】
積層体のSF145℃-SF121℃を2.50MPa以下もしくは上記の好ましい範囲に制御する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜時にテンター装置の条件を調整する方法が挙げられる。より具体的には、テンターの熱処理温度の下限を140℃、より好ましくは150℃、さらに好ましくは155℃、特に好ましくは161℃とし、上限を167℃、より好ましくは166℃、さらに好ましくは165℃とする方法、弛緩率の下限を2%、より好ましくは5%、さらに好ましくは7%、特に好ましくは9%とし、上限を20%、より好ましくは18%、さらに好ましくは17%、特に好ましくは15%とする方法等が挙げられる。テンターの熱処理温度を168℃以上にすると、主配向軸方向に強く配向していた分子鎖が緩み、SF145℃-SF121℃を2.50MPa以下に制御することが困難になる場合がある。また、ポリプロピレン系樹脂フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂組成物について、分子量分布Mz/Mwを1.5以上4.5以下とする方法や、対数分子量Log(M)が6.5のときの微分分布値を1.0%以上10%以下とする方法も挙げられる。なお、これらの方法はいずれも必須要件というわけではなく、また適宜組み合わせることもできる。なおMzはZ平均分子量、Mwは重量平均分子量である。対数分子量Log(M)はポリマー分子量Mの常用対数を取ったものである。
【0051】
本発明の積層体は、145℃での主配向軸方向のtanδが0.25以下であることが好ましい。tanδは損失正接とも呼ばれ、積層体を構成する樹脂の分子鎖の運動性の程度と相関し、一般的に100℃以上の領域では高温になるほど増加する。145℃での主配向軸方向のtanδは、145℃付近でのフィルム中の分子鎖の運動性の程度と相関する指標である。この値を小さくすること、言い換えれば高温での分子鎖の運動を抑制することで、積層体の高温下での熱収縮応力を抑制し、積層体の熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸方向の121℃における応力をSF121℃、主配向軸方向の145℃における応力をSF145℃としたときに、SF145℃-SF121℃≦2.50MPaを満たすことが容易になる。上記観点から145℃での主配向軸方向のtanδは、好ましくは0.23以下、より好ましくは0.21以下、さらに好ましくは0.19以下である。なお、145℃での主配向軸方向のtanδは小さいほど好ましく、下限は特に限定されないが、実質的には0.01程度である。tanδは、-100℃まで低温冷却し、昇温開始後-100℃から180℃に到達するまでの粘弾性-温度曲線より求めることができ、その測定方法の詳細は実施例に記載の通りである。
【0052】
積層体の145℃での主配向軸方向のtanδを0.25以下とする方法は、特に限定されるものではないが、ポリプロピレン系フィルムを構成する樹脂組成物の分子量分布Mz/Mwを小さくする方法や、ポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜工程において、一軸延伸後に加熱弛緩処理を施す方法、テンターの熱処理温度を高くする方法、テンターのリラックス率を高くする方法等が挙げられる。これらの方法を単独で又は適宜組み合わせて用いることで、tanδを小さくすることができる。
【0053】
本発明の積層体は、主配向軸の破断点伸度をT0とし、該積層体を130℃で10分間熱処理した後に測定される主配向軸方向の破断点伸度をT130としたとき、T0/T130の値が1.20以下であることが好ましい。破断点伸度は、主配向軸方向を長辺として、長さ150mm×幅10mmの矩形状サンプルを準備し、室温下で引っ張り速度を300mm/minとして測定方向に引っ張ったときの、破断時の最大伸度であり、具体的には実施例に記載の方法で求めるものである。破断点伸度は、試験前の試料長さをl0、破断時の長さをlとしたとき、(l-l0)/l0×100で求められる。本発明において、T0/T130の値が1.20以下であることは、130℃で10分間熱処理した後も熱処理前からの変化が小さく、製造時の熱ダメージが小さいことを示している。130℃で10分間の熱処理とは、23℃50%RHの実験室環境下で、設定温度130℃で10分以上安定した状態のオーブン(例えばエスペック株式会社製 安全扉付き恒温器セーフティオーブンSPHH-201)に投入して10分後に取り出す処理をいう。T----0/T130を1.20以下とすることで、積層体製造時の熱ダメージを抑えることができ、良好なバリア性を発現できる。また、ポリオレフィン系樹脂フィルムの巻き締まりを抑制してバリア性の低下を抑制できる。T0/T130の下限は実質的には0.5である。
【0054】
本発明の積層体の130℃10分間の熱処理前後の主配向軸方向の破断点伸度の比率T0/T130を1.20以下にするためには、製造工程で高温にさらさないことが好ましい。基材フィルムとなるポリオレフィン系樹脂フィルムとして、例えばポリプロピレン樹脂を用いた場合は熱の影響を受けやすく、高温にさらされることで結晶構造が崩れたり、配向が緩和したりして、破断点伸度が低下する。一度高温にさらされてポリマーの構造が崩れると、再度、高温にさらされた時、さらに破断点伸度は低下する。すなわち、高温にさらされることなく製造した積層体の場合は、T130の低下が小さく、T0/T130の値が1.20以下となる一方、高温で製造した積層体はT130の低下が著しく、T0/T130は1.20を超える値となる。本発明の積層体の製造において高温にさらされる工程としては、金属層または金属酸化物層を積層する工程、被覆層を積層する工程がある。金属層または金属酸化物層を積層する工程は、後述の通り、蒸着法等の公知の方法を適用できる。この工程ではメインロールを冷却して基材のダメージを抑えることができ、また非常に高速で加工するため、熱影響を比較的おさえることができる。一方で、被覆層を積層したり、その反応を進行させたりする工程は、塗剤の乾燥と被覆層の反応進行のための加熱を回避することはできないため、基材に与える影響が大きい。熱ダメージの観点で、被覆層の乾燥工程の好ましい温度範囲としては、たとえば120℃以下、より好ましくは110℃以下である。被覆層のバリア性を向上させるために、乾燥後、さらに熱処理する場合もなるべく熱ダメージをおさえるため、処理温度は80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。また、処理時間は14日以下とすると熱ダメージを抑えられ、生産効率の点からも好ましい。
【0055】
本発明の積層体は、水蒸気透過率が1.0g/m2/24hr以下であることが好ましく、0.5g/m2/24hr以下であることがより好ましい。また、酸素透過率は1.0cc/m2/24hr以下であることが好ましく、0.3cc/m2/24hr以下であることがより好ましい。水蒸気透過率、酸素透過率は小さいほど好ましく、下限は特に限定されないが、実質的には水蒸気透過率は0.01g/m2/24hr、酸素透過率は0.01cc/m2/24hrである。水蒸気透過率を1.0g/m2/24hr以下、酸素透過率を1.0cc/m2/24hr以下とすることで、包装体としたときの内容物の吸湿や酸化による劣化を防止できるので好ましい。水蒸気透過率や酸素透過率は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0056】
本発明の積層体は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、金属層および/または無機化合物層を形成した後、さらに被覆層を積層して得ることができる。金属層および/または無機化合物層は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法などの公知の方法を用いて形成することができるが、特に、生産性よく高速で成膜できる点から、蒸着法を好適に用いることができる。真空蒸着法の蒸着方式は、電子線(EB)蒸着法、抵抗加熱法、誘導加熱法などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。なお、長尺の樹脂フィルムロール対に金属層および/または無機化合物層を形成する場合、蒸着のメインロールは、フィルムの熱負けを防止するために冷却することが好ましく、その温度は、好ましくは20℃以下、より好ましくは0℃以下である。金属層を得る方法としては、目的の金属を原料として蒸着する例が挙げられる。無機化合物層を得る方法としては、目的とする組成の化合物を原料として蒸着する他、金属を原料として使用し、蒸着した金属蒸気に反応ガスを導入して無機化合物を得る方法を例示することができる。例えば、酸化アルミニウム層を得る場合は、アルミニウムを蒸着原料として使用し、蒸発させたアルミニウム蒸気に酸素を含むガスを導入してフィルム上に無機酸化物層を形成する。導入するガスは、蒸発金属と反応し、層に取り込まれる組成のガスを含んでいれば良く、膜質制御のために不活性ガスなどを含んでいても構わない。金属層および/または無機化合物層を形成する樹脂フィルムの表面は、層間密着力を向上するために、表面改質処理をしてもよい。表面改質処理は、インラインでもオフラインでも良く、改質処理方法は特に限定されないが、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、イオンビーム処理、フレーム処理等、公知のものが挙げられる。これらの表面改質処理は、大気中の他、アルゴン、窒素、酸素、炭酸ガス、水素、アンモニア、炭化水素(CnH2n+2、ただしnは1~4の整数)等の各種ガスもしくはこれらの混合ガスの雰囲気下で処理されてもよい。表面改質処理に使用するガスは、放電のしやすさや得られる活性種のエネルギー、導入したい官能基の種類によって選定できるが、官能基を導入するために炭酸ガスや酸素ガス、安定放電しやすいアルゴンや窒素を含むことが好ましい。
【0057】
本発明の積層体は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの少なくとも一方の面に金属層および/または無機化合物層を有する積層体の、無機層を有する面に、ポリビニルアルコール系樹脂とシロキサン化合物を含む塗剤と塗布する工程、および乾燥する工程を含む製造方法で製造されることが好ましい。本態様とすることにより、緻密でバリア性の良好な積層体を得ることができる。また、製造時の環境負荷を抑えつつも水蒸気バリア性と酸素バリア性の高い積層体を得ることができる。特に、本態様とすることにより、低温でも十分硬化できたり、高温であっても特に短時間で十分硬化できたりすることから、製造時の環境負荷を低減でき、好ましい。
【0058】
また、水蒸気バリア性と酸素バリア性の観点から前記塗剤におけるポリビニルアルコール系樹脂とシロキサン化合物のケイ素が完全酸化した場合のSiO2換算質量との質量比率で、樹脂/SiO2換算質量=15/85~85/15の範囲が好ましく、20/80~65/35の範囲がより好ましく、20/80~40/60の範囲がさらに好ましく20/80~50/50の範囲が特に好ましい。
【0059】
また、前記積層体の製造方法において、前記塗剤を塗布する工程、および乾燥する工程を経て得られた膜に関して、上述したA1/(A1+A2)が0.50以上0.85以下であることが好ましい。本態様とすることは、シロキサン化合物がネットワーク構造を主たる構造としていることを示しており、これによってポリビニルアルコール系樹脂を固定化し、運動性を低下させることでバリア性を向上させることができる。
【0060】
ポリビニルアルコール系樹脂とシロキサン化合物を含む塗剤の塗布方法は、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、マイクログラビア方式、ロッドコート方式、バーコート方式、ダイコート方式、スプレーコート方式等、特に限定はなく既知の方法を用いることができる。塗布後の乾燥温度は、70℃以上120℃以下であることが好ましく、80℃以上110℃以下であることがより好ましい。なお、乾燥温度は、フィルム表面の最高到達温度を指す。70℃以上とすることで溶媒を除去し、層とすることができ、120℃以下とすることで、ポリオレフィン系樹脂フィルムの熱収縮や変形を抑制することができる。塗布・乾燥後、本発明の積層体は、シリコンアルコキシドの重縮合反応を進行させてバリア性を向上させるために、さらに熱処理してもよい。熱処理する場合の雰囲気温度は、30℃以上80℃以下が好ましく、30℃以上60℃以下がより好ましい。熱処理時間は、1日以上14日以下が好ましく、3日以上7日以下がより好ましい。熱処理温度を30℃以上とすることで、被覆層の架橋を進行させてバリア性を向上でき、60℃以下とすることで、熱処理によるフィルムのカールや収縮を抑制することができる。
【0061】
本発明の包装体は、前記積層体を有する。包装体は、印刷等や、製袋のためのヒートシール層、剛性を向上させるために別の樹脂フィルムと積層されていてもよい。ヒートシール層や剛性向上のための樹脂フィルムは、リサイクル性を向上させるため、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。包装体に前記積層体を含むことで、良好で安定した水蒸気バリア性および酸素バリア性となり、内容物の劣化を抑えられるため好ましい。
【実施例0062】
以下に本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを発明の範囲から除外するものではない。
[評価方法]
(1)基材フィルムの厚さ
任意の10箇所の厚さを、23℃65%RHの雰囲気下で、アンリツ株式会社製電子マイクロメータ(K-312A型)を用いて測定した。得られた10点の厚さの算術平均値を基材フィルムの厚さ(単位:μm)とした。
【0063】
(2)金属層および/または無機化合物層の厚さ
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた断面観察により測定した。株式会社日立製作所製マイクロサンプリングシステムFB-2000Aを使用して、FIB法により(具体的には「高分子表面加工学」(岩森暁著)p.118~119に記載の方法に基づいて)観察用サンプルを作製した。続いて、株式会社日立製作所製透過型電子顕微鏡H-9000UHRIIにより、加速電圧300kVとして、観察用サンプルの断面を観察し、任意の10箇所について金属層および/または無機化合物層の厚さを確認した。それらの算術平均値を金属層および/または無機化合物層の厚さ(単位:nm)とした。
【0064】
(3)被覆層の厚さ
積層体をミクロトームでフィルム表面に対して垂直方向に切削し、積層体断面を走査型電子顕微鏡で観察して測定した。観察は、株式会社日立製作所製STEM(走査透過型電子顕微鏡/H-9000UHRII)を使用し、100,000倍の倍率で3点撮像した。得られた3つの画像で、被覆層の厚さを測定し、それらを平均した値を被覆層の厚さとした。
【0065】
(4)レーザーラマン分光測定
積層体の被覆層を切削により分離し、以下の条件で測定して被覆層のラマンスペクトルを得た。
・装置: レーザーラマン顕微鏡 RAMANtouch(Nano Photon株式会社製)
・測定モード:顕微ラマン、ポイントモード
・対物レンズ:×10
・レーザー波長:532nm
・レーザーパワー 100mW
・回折格子:Single 600gr/mm
・スリット:100μm
・検出器:CCD 400×1,340
得られたスペクトルは、Nano Photon社製解析ソフトウェアRAMAN Viewerを用いて解析した。スペクトルを移動平均法でスムージングし、スプライン曲線でベースラインを補正した後、600~250cm-1の範囲で、ピーク波数425cm-1、485cm-1の2成分にローレンツ関数近似で分離する設定としてオートフィッティングした。分離した2成分の面積A1(ピーク位置425cm-1)、面積A2(ピーク波数485cm-1)から、面積比率A1/(A1+A2)を算出した。
【0066】
(5)SF145℃-SF121℃
<積層体の主配向軸の特定>
積層体の任意の方向を長辺として、長さ50mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプル<1>とした。この際、矩形のサンプル<1>の長辺が向く方向を0°と定義した。次に、長辺方向が0°方向から右に15°回転した方向となるように、同サイズのサンプル<2>を採取した。以下同様に、矩形のサンプルの長辺方向を15°ずつ回転させ、同様にサンプル<3>~<12>を採取した。次に、各矩形のサンプルを引張試験機(オリエンテック株式会社製“テンシロン”(登録商標)UCT-100)に、長辺方向が引張方向となるように初期チャック間距離20mmでセットし、室温の雰囲気下で引張速度を300mm/分として引張試験を行った。このときサンプルが破断するまでの最大荷重を読み取り、試験前の試料の断面積(フィルム厚さ×幅)で除した値を最大点強度の応力として算出した。各サンプルについて同様の測定を5回ずつ行って最大点強度の応力の平均値を求め、当該平均値が最大であったサンプルの長辺方向を積層体の主配向軸とした。
<熱機械分析(TMA)による熱収縮応力の測定>
積層体を、前述のように定めた「主配向軸方向」を長辺として幅4mm、長さ50mmの長方形の試料に切り出し、試長20mmとなるよう金属製チャックに挟み込んだ。その後に下記の熱機械分析装置にセットし、下記温度条件、荷重条件にて試長を一定保持した積層体における主配向軸方向の熱収縮応力曲線を求めた。
・装置 :TMA/SS6000(セイコーインスツルメント株式会社製)
・温度範囲 :23~200℃
・昇温速度 :10℃/分
・保持 :10分
・サンプリング時間:10秒/回
・窒素冷却 :なし
・制御モード :L
・待機中上限変位 :0μm
・スタート変位 :0μm
・荷重レート :0.1μm/分
・保持 :600分
・測定雰囲気 :窒素中
・測定厚さ :基材フィルムの厚さ、金属層および/または無機化合物層の厚さ、および被覆層の厚さの総和。
【0067】
<SF145℃-SF121℃の算出>
前述の測定方法で得た熱収縮応力曲線から、25℃に最も近い温度における収縮応力値をゼロ点として補正した上で、以下の各数値を読み取り、SF145℃-SF121℃を算出した。
SF145℃:積層体の主配向軸方向の145℃における熱収縮応力(MPa)
SF121℃:積層体の主配向軸方向の121℃における熱収縮応力(MPa)。
【0068】
(6)主配向軸方向の145℃におけるtanδ
(5)で定めた積層体の主配向軸方向を測定方向とし、測定方向を長辺として切り出した試験片(幅5mm×長さ20mm)を23℃雰囲気下で装置チャック部に取付け、-100℃まで低温冷却し、昇温開始後-100℃から180℃に到達するまでのtanδを測定した。動的粘弾性法により粘弾性-温度曲線を描き、各温度でのtanδを算出した。試験はn=3で行い得られた値の平均値を当該測定方向におけるtanδとした。なお、測定装置及び条件は下記の通りである。
・装置 :Rheogel-E4000(UBM製)
・ジオメトリー :引張
・チャック間距離:10mm
・周波数 :10Hz
・歪み :0.1~0.2%
・温度範囲 :-100~180℃
・昇温速度 :5℃/分
・測定雰囲気 :窒素。
【0069】
(7)破断点伸度の比(T0/T130)
<破断点伸度の測定>
(5)で定めた積層体の主配向軸方向を測定方向とし、積層体の主配向軸方向を長辺として、長さ150mm×幅10mmの矩形にサンプリングした。オリエンテック株式会社製“テンシロン”(登録商標)万能試験機RTG-1210を用いて、に、長辺方向が引張方向となるように初期チャック間距離120mmでセットし、室温下で引っ張り速度を300mm/minとして測定方向に引っ張ったときの、破断時の長さから破断点伸度を求めた。破断点伸度は、試験前の試料長さをl0、破断時の長さをlとしたとき、(l-l0)/l0×100である。破断点伸度T-0は、事前の熱処理なしで測定した。破断点伸度T130は、23℃50%RHの実験室環境下で、設定温度130℃で10分以上安定した状態のオーブン(エスペック株式会社製 安全扉付き恒温器セーフティオーブンSPHH-201)に投入して10分後に取り出し、室温まで戻した後に測定した。
【0070】
(8)FT-IR-ATR法での分析:P1/P2
30mm×30mmにサンプリングした積層体を用いてスペクトル測定し、解析ソフトのピーク検出モードで所定のピークP1、P2を検出した。得られたP1とP2の値からP1/P2を算出した。
【0071】
位置の異なる3点でP1/P2を算出し、3点の値を平均してそのサンプルのP1/P2とした。
・装置:フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR-6100 (日本分光株式会社製)
・光源:高輝度セラミック光源
・検出器:TGS
・ビームスプリッター:Ge/KBr
・測定モード:ATR法 (Geプリズム、入射角45°)
・測定波数範囲:4,000cm-1~600cm-1
・分解能:4cm-1
・積算回数:32回
・解析:Spectra Manager Version2 スペクトル解析プログラムでピーク検出した。
【0072】
(9)水蒸気透過率
JISK7129(2008)のB法に従い、MOCON/Modern Controls社製の水蒸気透過率透過率測定装置(“PERMATRAN”(登録商標)W3/31)を使用して、温度40℃湿度90%RHの条件で測定した。測定は2枚の試験片について2回ずつ行い、合計4つの測定値の平均値を算出し、水蒸気透過率とした。
【0073】
(10)酸素透過率
JISK7126-2(2006)の等圧法に従い、MOCON/Modern Controls社製の酸素透過率測定装置(“OXTRAN”(登録商標)2/20)を用いて、温度23℃湿度90%RHの条件で測定した。測定は2枚の試験片について2回ずつ行い、得られた4つの測定値の平均値を算出し、酸素透過率とした。
【0074】
[実施例1]
(金属層または無機化合物層の形成)
厚さ12μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(東レ株式会社製ポリプロピレンフィルム 融点170℃、Sa21nm)の片面に、無機化合物層として酸化アルミニウム層を7nm形成した。酸化アルミニウム層は、アルミニウムを蒸発させ、蒸着部に酸素を導入して酸化させる反応蒸着法で蒸着した。
【0075】
(被覆層の形成)
ポリビニルアルコール系樹脂として、変性ポリビニルアルコール(以下変性PVAと略することもある、日本酢ビ・ポバール株式会社製ZF-15 長鎖アルキル変性、けん化度98.5mol%以上)を質量比で水/イソプロピルアルコール=97/3の溶媒に投入し、90℃で加熱攪拌して固形分5質量%の水溶性高分子液を得た。次に、テトラエトキシシシラン(以下、TEOSと略することもある)6.7gとメタノール2.7gを混合した溶液に、0.02N塩酸水溶液10.6gを液滴しながら攪拌して、TEOS加水分解液を得た。水溶性高分子液のPVA固形分と、TEOSのSiO2換算質量の比率がPVA固形分/SiO2換算質量=35/65になるように水溶性高分子液とTEOS加水分解液を混合した。全体の固形分が13質量%になるように水で希釈して塗剤とし、上述の酸化アルミニウム層上に塗布して100℃で乾燥させて積層体を得た。
【0076】
[実施例2]塗剤を塗布、乾燥した後、40℃で3日間熱処理したこと以外は実施例1と同様にして積層体を得た。
【0077】
[実施例3]被覆層の変性ポリビニルアルコールを株式会社クラレ製特殊変性ポリビニルアルコール樹脂“エクセバール”(登録商標)RS-1717(環構造中にカルボニル基を有するγ-ブチロラクトンで変性されたPVA、けん化度92.0~94.0mol%)にしたこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0078】
[実施例4]被覆層の変性ポリビニルアルコールを株式会社クラレ製特殊変性ポリビニルアルコール樹脂“エクセバール”(登録商標)HR-3010(環構造中にカルボニル基を有するγ-ブチロラクトンで変性されたPVA、けん化度99.0~99.4mol%)にしたこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0079】
[実施例5]被覆層の変性ポリビニルアルコールを日本酢ビ・ポバール株式会社製DF-20(カルボニル基変性、けん化度98.0~99.0mol%)にしたこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0080】
[実施例6]被覆層の変性ポリビニルアルコールを三菱ケミカル株式会社製“ゴーセネックス”(登録商標)Z-300(アセトアセチル基変性、けん化度98.0~99.0mol%)にしたこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0081】
[実施例7]塗工・乾燥後の熱処理を60℃3日間としたこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0082】
[実施例8]二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に、金属層として、真空蒸着法で厚さ50nmのアルミニウム層を形成したこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0083】
[実施例9、10]被覆層の塗工厚さを変えたこと以外は、実施例4と同様にして積層体を得た。
【0084】
[実施例11、12]被覆層の塗剤調合において、変性PVA固形分とTEOS加水分解液のSiO2換算質量の比率を変更した以外は、実施例2と同様にして積層体を得た。
【0085】
[実施例13、14]被覆層の乾燥温度を変更した以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0086】
[実施例15]被覆層の塗剤の調合において、塗剤の調合に使用したテトラエトキシシラン加水分解液を、エチルシリケート加水分解液との混合液に変更したこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。使用した塗剤は以下の手順で調合した。ポリビニルアルコール系樹脂として、変性ポリビニルアルコール(長鎖アルキル変性、けん化度98.5mol%以上)を質量比で水/イソプロピルアルコール=97/3の溶媒に投入し、90℃で加熱攪拌して固形分5質量%の水溶性高分子液を得た。次に、テトラエトキシシシラン6.7gとメタノール2.7gを混合した溶液に、0.02N塩酸水溶液10.6gを液滴しながら攪拌して、TEOS加水分解液を得た。さらに、コルコート株式会社製エチルシリケート40(平均5量体のエチルシリケートオリゴマー)11.2g、メタノール16.9gを混合した溶液に、0.06N塩酸水溶液7.0gを液滴して、エチルシリケート加水分解液を得た。テトラエトキシシラン加水分解液と、エチルシリケート加水分解液を、SiO2換算質量でTEOS加水分解液/エチルシリケート加水分解液=40/60となるように加水分解液を混合し、加水分解混合液とした。最後にPVA固形分と加水分解混合液のSiO2換算質量の比率がPVA固形分/SiO2換算質量=35/65になるように水溶性高分子液と加水分解液を混合して塗剤とした。
【0087】
[実施例16]二軸延伸ポリプロピレンフィルムを、融点168℃、Sa14nmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムに変更したこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0088】
[実施例17]二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に、アンダーコート層を形成してから、無機化合物層を形成したこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。アンダーコート層は、以下の手順で形成した。ポリエステルウレタン系水分散性樹脂である“ハイドラン”(登録商標)AP-201(DIC株式会社製、固形分濃度23質量%)100質量部に対し、架橋剤としてメラミン化合物“アミディア”(登録商標)APM(DIC株式会社製)を6質量部添加し、さらに架橋触媒として水溶性の酸性化合物である“キャタリスト”PTS(DIC株式会社製)を1質量部添加した。続いて純水を添加し、全体の固形分濃度が10質量%となるように調整して、混合塗剤を得た。この混合塗液を二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に塗布し、100℃で乾燥して厚さ700nmのアンダーコート層を形成した。
【0089】
[比較例1]金属層または無機化合物層を形成しないこと以外は実施例1と同様にして積層体を得た。
【0090】
[比較例2]ポリビニルアルコール系樹脂を、変性のないポリビニルアルコール株式会社クラレ製“クラレポバール”(登録商標)28-98(けん化度98.0~99.0mol%)としたこと以外は実施例1と同様にして積層体を得た。
【0091】
[比較例3]ポリビニルアルコール系樹脂を、変性のないポリビニルアルコール株式会社クラレ製“クラレポバール”(登録商標)28-98(けん化度98.0~99.0mol%)としたこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0092】
[比較例4、5]塗工、乾燥後の熱処理条件を変更したこと以外は比較例3と同様にして積層体を得た。
【0093】
[比較例6]被覆層形成時の塗剤乾燥温度を160℃としたこと以外は比較例2と同様にして積層体を得た。
【0094】
【0095】
【0096】