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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157615
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ホームドア診断システム
(51)【国際特許分類】
   B61B 1/02 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
B61B1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072054
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000196587
【氏名又は名称】西日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】河合 陽平
(72)【発明者】
【氏名】久保 諒
(72)【発明者】
【氏名】水田 祐貴
【テーマコード(参考)】
3D101
【Fターム(参考)】
3D101AA03
3D101AA12
3D101AA26
3D101AA31
3D101AC10
(57)【要約】
【課題】ホームドアの状態の診断を適切に行えるホームドア診断システムを提供する。
【解決手段】プラットホーム2に設置されたホームドア3の状態を診断するホームドア診断システム1は、いつの時点の診断を行うかを示す診断時点を設定する診断時点設定部11と、診断時点以前におけるホームドア3の状態を示すパラメータに基づいて、診断時点以降におけるホームドア3を開閉動作させるモータMに流れるモータ電流の電流値を電流予測値として予測する予測部12と、予め設定された条件下においてホームドア3を開閉動作した際の診断時点のモータ電流の電流値の測定結果を実測値として取得する実測値取得部14と、電流予測値と実測値とに基づいて、診断時点における実測値の異常度を算定する異常度算定部15と、異常度が予め設定された閾値を超えている場合に、診断時点におけるホームドア3の状態が異常であると判定する状態判定部16と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラットホームに設置されたホームドアの状態を診断するホームドア診断システムであって、
いつの時点の診断を行うかを示す診断時点を設定する診断時点設定部と、
前記診断時点以前における前記ホームドアの状態を示すパラメータに基づいて、前記診断時点以降における前記ホームドアを開閉動作させるモータに流れるモータ電流の電流値を電流予測値として予測する予測部と、
予め設定された条件下において前記ホームドアを開閉動作した際の前記診断時点の前記モータ電流の電流値の測定結果を実測値として取得する実測値取得部と、
前記電流予測値と前記実測値とに基づいて、前記診断時点における前記実測値の異常度を算定する異常度算定部と、
前記異常度が予め設定された閾値を超えている場合に、前記診断時点における前記ホームドアの状態が異常であると判定する状態判定部と、
を備えるホームドア診断システム。
【請求項2】
前記予測部は、前記パラメータとして、前記ホームドアが設置された地域における前記ホームドアが設置されてから前記診断時点までの間の所定の時刻の気温を示す気温情報、及び前記ホームドアが設置されてから前記診断時点までの間に前記予め設定された条件下で実施された前記ホームドアの開閉動作の確認を行う動作確認試験において前記ホームドアを開閉駆動させた際の前記実測値を含む電流値情報を使用する請求項1に記載のホームドア診断システム。
【請求項3】
前記予め設定された条件は、前記プラットホームに乗客がいない条件である請求項1又は2に記載のホームドア診断システム。
【請求項4】
前記予測部は、前記ホームドアの状態が異常でない場合における前記モータ電流の電流値に基づいて学習したモデルを作成し、当該モデルを用いて前記電流予測値を予測する請求項1又は2に記載のホームドア診断システム。
【請求項5】
前記予測部は、前記パラメータとして、前記ホームドアが設置されてから開閉駆動された回数も使用する請求項2に記載のホームドア診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラットホームに設置されたホームドアの状態を診断するホームドア診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ホームドアが設置されたプラットホームが増えている。このようなホームドアは、決められた周期で作業員が赴いてメンテナンスが行われるケースが多い。しかしながら、このような方法では、ホームドアの状態にかかわらず作業員がホームドアまで足を運ぶ必要があり、ホームドアが、メンテナンスが不要な状態であれば無駄となってしまう。また、メンテナンスを行ってから次のメンテナンスを行うまでの間に、ホームドアの状態を把握することができないといった問題がある。そこで、ホームドアのメンテナンスに利用可能な技術が検討されてきた。
【0003】
特許文献1にはホームドアの保守支援システムについて記載されている。このホームドアの保守支援システムは、ホームドアを開閉動作させるモータに流れる電流値を取得し、別のホームドアを別のモータによって開閉動作させたときに、当該別のモータに流れる電流値を参照して保守の要否を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-104609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術は、上記のように別のホームドアを別のモータによって開閉動作させたときに、当該別のモータに流れる電流値を参照して保守の要否を判定している。しかしながら、プラットホームには、設置場所によってホームドアを開閉する際のモータ電流が増減し、また、時期によってもモータ電流が増減することが知られている。更には、1つの駅においてもプラットホーム毎にホームドアのタイプが異なる場合もある。特許文献1に記載の技術は、このような設置場所や時期やホームドアのタイプによるモータ電流の増減まで考慮されておらず、ホームドアの状態の判定を適切に行うことができない可能性がある。
【0006】
そこで、ホームドアの状態の診断を適切に行うことが可能なホームドア診断システムが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るホームドア診断システムの特徴構成は、
プラットホームに設置されたホームドアの状態を診断するホームドア診断システムであって、
いつの時点の診断を行うかを示す診断時点を設定する診断時点設定部と、
前記診断時点以前における前記ホームドアの状態を示すパラメータに基づいて、前記診断時点以降における前記ホームドアを開閉動作させるモータに流れるモータ電流の電流値を電流予測値として予測する予測部と、
予め設定された条件下において前記ホームドアを開閉動作した際の前記診断時点の前記モータ電流の電流値の測定結果を実測値として取得する実測値取得部と、
前記電流予測値と前記実測値とに基づいて、前記診断時点における前記実測値の異常度を算定する異常度算定部と、
前記異常度が予め設定された閾値を超えている場合に、前記診断時点における前記ホームドアの状態が異常であると判定する状態判定部と、
を備えている点にある。
【0008】
例えばホームドアを開閉動作させる際にホームドアを支持するガイドベアリングのグリース(グリス)が枯渇している場合には、ホームドアを開閉動作させるモータに流れるモータ電流が、グリースが枯渇していない場合に比べて大きくなる。また、ホームドアを開閉動作させるモータとホームドアとに亘って設けられるベルトに弛みが発生した場合にも、ホームドアを開閉動作させるモータに流れるモータ電流が、弛みが発生してない場合に比べて大きくなる。そこで、上述した構成とすれば、モータ電流の電流値に基づいてホームドアの状態が異常であるか否かを適切に診断することが可能となる。また、モータ電流の電流値に基づいてホームドアの状態を診断することで、例えば上述したグリースの枯渇やベルトの弛みを予想することができ、グリースの枯渇やベルトの弛みが発生する前にメンテナンスを行うことが可能となる。特に、本構成では、診断時点以前におけるパラメータから予測された診断時点以降における電流予測値と、診断時点の実測値とを比較して異常度を算定しているため、設置場所や設置時期に依存しないホームドア固有の診断を行うことができる。このため、従来のように別のホームドアから得られる実測値を用いる場合に比べて、予測精度を高めることができる。
【0009】
また、前記予測部は、前記パラメータとして、前記ホームドアが設置された地域における前記ホームドアが設置されてから前記診断時点までの間の所定の時刻の気温を示す気温情報、及び前記ホームドアが設置されてから前記診断時点までの間に前記予め設定された条件下で実施された前記ホームドアの開閉動作の確認を行う動作確認試験において前記ホームドアを開閉駆動させた際の前記実測値を含む電流値情報を使用すると好適である。
【0010】
ホームドアを開閉駆動するモータに流れるモータ電流は、気温が高い場合よりも気温が低い場合の方が大きくなる傾向がある。そこで、本構成のように予測部が、気温情報や電流値情報を用いてモータに流れるモータ電流の電流値を電流予測値として予測することで、診断時点の気温に応じた電流値を正確に予測することが可能となる。
【0011】
また、前記予め設定された条件は、前記プラットホームに乗客がいない条件であると好適である。
【0012】
このように、プラットホームに乗客がいないことを条件とすると、例えば乗客がホームドアに触れたことによってホームドアの開閉動作が妨げられるといった状況を回避できる。したがって、実測値取得部が、乗客による影響がないモータ電流の電流値の測定結果を取得することが可能となる。しかも、駅員が運行開始前にホームドアの開閉操作をするだけでホームドアの異常診断が自動的に行われるため、迅速な保守対応が可能となる。
【0013】
また、前記予測部は、前記ホームドアの状態が異常でない場合における前記モータ電流の電流値に基づいて学習したモデルを作成し、当該モデルを用いて前記電流予測値を予測すると好適である。
【0014】
このような構成とすれば、予測部による電流予測値の予測精度を高めることができるので、ホームドアの状態の診断をより適切に行うことが可能となる。特に、ホームドアが異常でない場合のデータを用いて教師データ有り機械学習をさせることにより、電流予測値から所定値以上外れた実測値を異常データとして抽出して異常判定するだけで良く、状態判定部の判定速度を高めることができる。
【0015】
また、前記予測部は、前記パラメータとして、前記ホームドアが設置されてから開閉駆動された回数も使用すると好適である。
【0016】
例えば、ホームドアが設置されてから開閉駆動された回数に応じてグリースが馴染み、また、部品のバリ等が削られてスムーズに動くようになる。そこで、本構成のように、ホームドアが開閉駆動された回数を考慮して電流予測値を予測することで、経年に伴うモータ電流の電流値が変わる場合であっても、適切にモータ電流の電流値を予測することが可能となる。したがって、より精度良くホームドアの状態を診断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ホームドア、及びホームドア診断システムの構成を示すブロック図である。
図2】モータ電流の時系列変化を示す図である。
図3】モータ電流の時系列変化を示す図である。
図4】モータ電流と気温との関係を示す図である。
図5】モータ電流と気温との関係を示す図である。
図6】過去のモータ電流の電流値を使用して予測した電流予測値を示す図である。
図7】過去のモータ電流の電流値を使用して予測した電流予測値を示す図である。
図8】異常度を示す図である。
図9】異常度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るホームドア診断システムは、ホームドアの状態の診断を適切に行うことができるように構成される。以下、本実施形態のホームドア診断システム1について説明する。
【0019】
図1は、ホームドア診断システム1の構成を模式的に示したブロック図である。図1に示されるように、ホームドア診断システム1は、診断時点設定部11、予測部12、パラメータ設定部13、実測値取得部14、異常度算定部15、状態判定部16、メンテナンス情報記憶部17、及び記憶部20を備えて構成され、各機能部は、ホームドア3の状態の診断に係る処理を行うために、CPUを中核部材としてハードウェア又はソフトウェア或いはその両方で構築されている。
【0020】
図1に示されるように、プラットホーム2には、複数のホームドア3が設置される。複数のホームドア3の夫々は、モータMにより開閉動作を行うことが可能である。ホームドア診断システム1は、このようなホームドア3の開閉動作を行った際にモータMを流れる電流(モータ電流)の電流値に基づいて、複数のホームドア3の夫々について、個別に状態を診断する。
【0021】
ホームドア3は当該ホームドア3が設置されたプラットホーム2を始発列車が利用するまでに、毎日、駅員により動作確認試験が実施されている。このときのモータ電流の電流値が電流センサ(図示せず)により測定される。電流センサによるモータ電流の測定結果は、ホームドア3毎に、測定日を示す測定日情報と共に記憶部20に順次、記憶される。なお、電流センサによる測定結果は、記憶部20に対して例えばネットワークを介して伝達するように構成することが可能である。
【0022】
図2及び図3には、記憶部20に記憶されているモータ電流の測定結果が示される。図2は、A駅のX番ホームに設置されている所定のホームドア3の動作確認試験において開動作を行った際のモータ電流の測定結果、及び閉動作を行った際のモータ電流の測定結果である。また、図3は、B駅のY番ホームに設置されている所定のホームドア3の動作確認試験において開動作を行った際のモータ電流の測定結果、及び閉動作を行った際のモータ電流の測定結果である。図2及び図3は、横軸は動作確認試験を行った日を示し、縦軸はモータ電流の電流値を示している。図2及び図3に示されるように、同一日においては、ホームドア3の開動作を行った際のモータ電流が、ホームドア3の閉動作を行った際のモータ電流よりも大きくなっている。また、気温が低いとき(冬期)にホームドア3の開閉動作を行った際のモータ電流が、気温が高いとき(夏期)にホームドア3の開閉動作を行った際のモータ電流よりも大きくなっている。記憶部20には、このようなモータ電流の電流値が動作確認試験を行う毎に、追加して記憶される。
【0023】
図1に戻り、診断時点設定部11は、いつの時点の診断を行うかを示す診断時点を設定する。診断時点は、上述したモータ電流が記憶部20に記憶され始めてから、現在までの間における任意の時点を設定することが可能である。すなわち、診断時点は、診断を行う現在の時点でなくてもよく、ホームドア3がプラットホーム2に設置され、動作確認試験により開閉動作が行われてから現在までの間における過去の所定の時点でもよい。
【0024】
予測部12は、診断時点以前におけるホームドア3の状態を示すパラメータに基づいて、診断時点以降におけるホームドア3を開閉動作させるモータMに流れるモータ電流の電流値を電流予測値として予測する。診断時点以前とは、ホームドア3がプラットホーム2に設置されてから、診断時点設定部11により設定された診断時点までの間である。ホームドア3の状態を示すパラメータとは、ホームドア3の開閉動作を行う際の周囲の環境を示す情報や、ホームドア3の開閉動作を行った際に得られた情報が相当する。
【0025】
ここで、図4及び図5には、モータ電流と気温との関係が示される。図4は、A駅のX番ホームに設置されている所定のホームドア3の動作確認試験において開動作を行った際のモータ電流と気温との関係、及び閉動作を行った際のモータ電流と気温との関係である。また、図5は、B駅のY番ホームに設置されている所定のホームドア3の動作確認試験において開動作を行った際のモータ電流と気温との関係、及び閉動作を行った際のモータ電流と気温との関係である。図4及び図5は、横軸はホームドア3の開閉動作を行った際の気温を示し、縦軸はモータ電流の電流値を示している。図4及び図5に示されるように、同一の気温の場合には、ホームドア3の開動作を行った際のモータ電流が、ホームドア3の閉動作を行った際のモータ電流よりも大きくなる傾向がみられる。また、図4及び図5からも、上記のように気温が低いときのホームドア3の開閉動作を行った際のモータ電流が、気温が高いときのホームドア3の開閉動作を行った際のモータ電流よりも大きくなっている。
【0026】
そこで、モータ電流の電流値を予測する場合に、ホームドア3の開閉動作を行う際の周囲の環境を示す情報として、ホームドア3が設置された地域におけるホームドア3が設置されてから診断時点までの間の所定の時刻の気温を示す気温情報を利用するとよいことを見出した。すなわち、ホームドア3が設置された場所において、所定の時間に測定された気温を示す情報を利用するとよい。具体的には、ホームドア3が設置されてから診断時点まで、1日に少なくとも1回、決まった時間にホームドア3が設置された場所において測定された気温を示す情報を利用するとよい。このような気温情報は、例えばホームドア3が設置されている駅において駅員が測定して取得してもよいし、自動で測定して取得してもよい。もちろん、インターネットを介して発信される気象情報から取得してもよい。
【0027】
ホームドア3の開閉動作を行った際に得られた情報としては、例えばホームドア3が設置されてから診断時点までの間に予め設定された条件下で実施されたホームドア3の開閉動作の確認を行う動作確認試験においてホームドア3を開閉駆動させた際のモータ電流の実測値を含む電流値情報が相当する。ここで、上述したように、ホームドア3はプラットホーム2を始発列車が利用するまでに、毎日、駅員により動作確認試験が実施されている。このため、予め設定された条件とは、プラットホーム2における毎日の始発時刻前が相当し、プラットホーム2に乗客がいない条件を意味する。モータ電流の電流値とは、ホームドア3を開閉駆動するモータMに流れる電流の電流値である。本実施形態における電流値情報は、動作確認試験を行った際に電流センサ(図示せず)により測定され、記憶部20に記憶されているものが利用される。
【0028】
したがって、予測部12は、パラメータとして、ホームドア3が設置された地域におけるホームドア3が設置されてから診断時点までの間の所定の時刻の気温を示す気温情報、及びホームドア3が設置されてから診断時点までの間に条件下で実施されたホームドア3の開閉動作の確認を行う動作確認試験においてホームドア3を開閉駆動させた際の実測値を含む電流値情報を使用する。なお、上述したパラメータは、一例であって、他の情報をパラメータとして用いることが可能である。また、このようなパラメータは、ホームドア3の診断に応じてパラメータ設定部13により診断者の意図に応じて、或いは、自動で設定可能である。
【0029】
予測部12は、ホームドア3の状態が異常でない場合におけるモータ電流の電流値に基づいて学習したモデルを作成し、当該モデルを用いて電流予測値を予測することが可能である。すなわち、予め予測部12に対してホームドア3の状態が異常でないとわかっている状態でホームドア3を開閉動作させ、その際に取得されたモータ電流の電流値を異常でない場合の電流値として予測部12に機械学習をさせておき、このように機械学習させたモデルを使って電流値を予測するとよい。これにより、モータ電流の電流予測値を得ることが可能である。
【0030】
また、予測部12は、ホームドア3を開閉動作させるモータMに流れるモータ電流の電流値の予測を、例えば、下記に出典を示す非特許文献1に係る予測モデルを用いて行うことも可能である。この予測モデルでは、一時的に発生した異常値を検知する「外れ値検知」、周期性のあるデータに対して通常と異なる波形を検知する「異常部位検出」、ある時点で発生した測定値の変化を検知する「変化点検知」が考えられる。本実施形態では、「外れ値検知」又は「変化点検知」を用いることが好ましく、以降では「外れ値検知」を用いて説明する。
[非特許文献1]“PROPHET Forecasting at scale”、[online]、[令和3年3月28日検索]、インターネット<URL:https://facebook.github.io/prophet/>
【0031】
図6及び図7には、このような予測モデルを利用したホームドア3を開閉動作させた際にモータMに流れるモータ電流の電流値の予測結果が示される。図6は、A駅のX番ホームに設置されている所定のホームドア3の動作確認試験時に取得された2017年2月16日から2020年9月30日までのモータ電流の電流値の結果を用いて2020年10月1日以降のモータ電流の電流値を予測したものである。なお、図6には、2020年10月1日以降の動作確認試験時に取得されたモータ電流の電流値も参考として示される。また、図7は、B駅のY番ホームに設置されている所定のホームドア3の動作確認試験時に取得された2019年3月7日から2021年3月31日までのモータ電流の電流値の結果を用いて2021年4月1日以降のモータ電流の電流値を予測したものである。なお、図7には2020年10月1日以降の動作確認試験時に取得されたモータ電流の電流値も参考として示される。
【0032】
図6及び図7から、診断時点以前に取得されたモータ電流の電流値に基づいて予測した診断時点のモータ電流の電流値及び診断時点以降の電流値は、実際に動作確認試験時に取得されたモータ電流の電流値と同程度であって、傾向も同様である。一方、例えば図6においてK1が付された予測値や、図7においてK2が付された予測値は、実際に動作確認試験時に取得されたモータ電流の電流値と他の部分に比べて乖離が大きい。これは、K1の予測値を有する日や、K2の予想値を有する日にホームドア3のメンテナンス(例えばホームドア3の可動部に対するグリースの塗布等)が行われたことから、それが原因であると考えられる。
【0033】
本ホームドア診断システム1では、上記のように予測部12により予測されたモータ電流の電流値の予測値と、実際にホームドア3が開閉動作された際に取得されたモータ電流の電流値の実測値とを比較して、当該実測値に基づいてホームドア3の状態が異常であるか否かを判定する。そこで、実測値取得部14は、予め設定された条件下においてホームドア3を開閉動作した際の診断時点のモータ電流の電流値の測定結果を実測値として取得する。予め設定された条件とは、本実施形態では、プラットホーム2に乗客がいない条件であって、具体的には、プラットホーム2における毎日の始発時刻前にあたる。ホームドア3の開閉動作の確認を行う動作確認試験とは、上述した始発時刻前に駅員により実施されるホームドア3の開閉動作を確認する試験である。上述したように、このときのモータMに流れる電流であるモータ電流は、記憶部20に順次、記憶されている。したがって、実測値取得部14は、プラットホーム2における毎日の始発時刻前に駅員により実施されるホームドア3の開閉動作を確認する試験時のモータ電流を記憶している記憶部20から、診断時点設定部11により設定された診断時点のモータ電流の電流値を、実測値として取得する。
【0034】
異常度算定部15は、電流予測値と実測値とに基づいて、診断時点における実測値の異常度を算定する。電流予測値は予測部12から伝達され、実測値は実測値取得部14から伝達される。異常度とは、診断時点における実測値の異常の度合いを示すものであって、本実施形態では以下の(1)式で示される。
【数1】
ただし、分散は時間依存せず一定とする。
【0035】
図8及び図9には、異常度算定部15により算定された異常度の算定結果が示される。図8は、図6において「予測した範囲」として示されたA駅のX番ホームに設置されている所定のホームドア3の診断時点以降の異常度の算定結果である。また、図9は、図7において「予測した範囲」として示されたB駅のY番ホームに設置されている所定のホームドア3の診断時点以降の異常度の算定結果である。このような異常度算定部15による異常度の算定結果は、後述する状態判定部16に伝達される。
【0036】
状態判定部16は、異常度が予め設定された閾値を超えている場合に、診断時点におけるホームドア3の状態が異常であると判定する。本実施形態では、図8及び図9に示されるように、ホームドア3の状態の判定に用いる閾値として異常度が0.10となる部分に設定されている。この閾値は、予測値や実測値を全体の傾向を考慮して設定してもよいし、予め一定値に設定しておいてもよい。状態判定部16は、このような閾値を異常度が超えている場合に、診断時点(当該閾値を超えている時点)においてホームドア3の状態が異常であると判定するとよい。例えば、図8においてA1が付された異常度が閾値を超え、図9においてA2が付された異常度が閾値を超えている。したがって、状態判定部16は、通常であれば図8においてA1が付された異常度に応じた日や、図9においてA2が付された異常度に応じた日において、ホームドア3の状態が異常であると判定するとよい。
【0037】
一方、上述したように、ホームドア3に対してメンテナンスが実施された場合に、モータ電流に電流値(実測値)がモータ電流の予測値に対して大きくなることが知られている。このため、ホームドア3に対してメンテナンスが実施された場合には異常度が大きくなる。そこで、状態判定部16は、ホームドア3の状態が異常であるか否かを判定する際、ホームドア3に対してメンテナンスが実施された日や内容を示すメンテナンス情報が記憶されているメンテナンス情報記憶部17からメンテナンス情報を取得し、診断時点から予め設定された時間前までの間にホームドア3に対してメンテナンスが実施されている場合は、異常度が閾値を超えていてもホームドア3の状態が異常であると判定しないようにするとよい。例えば、図8においてA1が付された異常度に応じた日、及び図9においてA2が付された異常度に応じた日にメンテナンスが行われていると、状態判定部16はA1が付された異常度、及びA2が付された異常度に基づいて、ホームドア3の状態が異常であると判定しない。これにより、メンテナンスによってモータ電流の電流値が大きくなったことによりホームドア3が異常であるとする誤判定を防止することが可能となる。
【0038】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態では、状態判定部16は、診断時点から予め設定された時間前までの間にホームドア3に対してメンテナンスが実施されている場合は、異常度が閾値を超えていてもホームドア3の状態が異常であると判定しないとして説明した。これに代えて、状態判定部16は、診断時点から予め設定された時間前までの間にホームドア3に対してメンテナンスが実施されている場合において異常度が閾値を超えているときは、例えばホームドア3の確認を要するメッセージを報知したり、明示したりするように構成することも可能である。
【0039】
上記実施形態では、予測部12は、ホームドア3の状態が異常でない場合におけるモータ電流の電流値に基づいて学習したモデルを作成し、当該モデルを用いて電流予測値を予測することが可能であって、更に、“PROPHET Forecasting at scale”を利用することで電流予測値を予測することが可能であるとして説明した。しかしながら、予測部12は、これら以外の方法によって電流予測値を予測するように構成することも可能である。つまり、予測モデルは、上記予測モデルに限定されず、ホームドア3の状態が異常でない場合におけるモータ電流の電流値等をインプットデータとして、電流予測値をアウトプット可能な公知のアルゴリズムを用いてもよい。
【0040】
上記実施形態では、予測部12は、パラメータとして、ホームドア3が設置された地域におけるホームドア3が設置されてから診断時点までの間の所定の時刻の気温を示す気温情報、及びホームドア3が設置されてから診断時点までの間に条件下で実施されたホームドア3の開閉動作の確認を行う動作確認試験においてホームドア3を開閉駆動させた際の実測値を含む電流値情報を使用するとして説明した。例えば、予測部12は、パラメータとして、ホームドア3が設置されてから開閉駆動された回数も使用するように構成することも可能である。ホームドア3が設置されてから開閉駆動された回数は、一般的にホームドア3のメンテナンス時期と相関があることからこれにより、予測部12の予測精度を高めることが可能となる。また、パラメータは、気温に限定されず、風速等の気象情報であってもよいし、気温に加えて他の気象情報(風速等)も複数組み合わせて用いてもよい。
【0041】
上記実施形態では、予め設定された条件は、プラットホーム2に乗客がいない条件であって、具体例としてプラットホーム2における毎日の始発時刻前を挙げて説明した。しかしながら、予め設定された条件は、プラットホーム2に乗客がいない、終電後の条件等であってもよいし、乗客の極めて少ない条件であってもよい。
【0042】
上記実施形態では、予測部12による予測、及び異常度算定部15による異常度の算定に関して、所定の診断時点だけでなく、所定の範囲(数カ月)に亘る予測結果及び異常度の算定結果を示した。しかしながら、予測部12による予測、及び異常度算定部15による異常度の算定は、所定の1日における予測結果や異常度の算定結果とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、プラットホームに設置されたホームドアの状態を診断するホームドア診断システムに用いることが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1:ホームドア診断システム
2:プラットホーム
3:ホームドア
11:診断時点設定部
12:予測部
14:実測値取得部
15:異常度算定部
16:状態判定部
M:モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9