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特開2024-157619肺癌の再発を予防するための組成物、及び再発の可能性が高い肺癌を検出するための方法
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  • 特開-肺癌の再発を予防するための組成物、及び再発の可能性が高い肺癌を検出するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157619
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】肺癌の再発を予防するための組成物、及び再発の可能性が高い肺癌を検出するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20241031BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 31/695 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 41/17 20200101ALI20241031BHJP
【FI】
A61K39/395 D
G01N33/574 A
A61P11/00
A61P35/00
A61K31/695
A61P43/00 125
A61K41/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072060
(22)【出願日】2023-04-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) ウェブサイトの掲載日 2022年4月27日(現地時間) ウェブサイトのアドレス https://events.aats.org/102nd-annual-meeting https://events.aats.org/102nd-annual-meeting/program https://www.aats.org/resources/1591#abstract https://www.aats.org/resources/1591#video (その2) 開催日 2022年5月16日(現地時間)(開催期間(現地時間):2022年5月14日~2022年5月17日) 集会名、開催場所 AATS 102nd AnnualMeeting Hynes Convention Center(900 Boylston St,Boston,MA 02115 USA)
(71)【出願人】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 朋人
(72)【発明者】
【氏名】花岡 宏史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基史
(72)【発明者】
【氏名】赤間 智也
(72)【発明者】
【氏名】石田 光明
(72)【発明者】
【氏名】村川 知弘
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA11
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA591
4C084ZB261
4C084ZC711
4C085AA13
4C085EE01
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA44
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB26
4C086ZC71
(57)【要約】      (修正有)
【課題】肺癌の再発を予測するためのバイオマーカー、および肺癌の再発を予防するための組成物を提供する。
【解決手段】肺癌の再発を予防するための抗MECA-79抗体を含む組成物、および患者から採取した肺癌組織内のMECA-79陽性肺癌細胞を検出することを含む、肺癌の再発予測マーカーの検出方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺癌の再発を予防するための抗MECA-79抗体を含む組成物。
【請求項2】
肺癌が腺癌である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
光免疫療法に使用するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物と、水溶性シリコンフタロシアニン試薬を含む、光免疫療法用キット。
【請求項5】
患者から採取した肺癌組織内のMECA-79陽性肺癌細胞を検出することを含む、肺癌の再発予測マーカーの検出方法。
【請求項6】
MECA-79陽性肺癌細胞が検出された時に、再発の可能性が高い肺癌であることを示唆する、請求項5に記載の検出方法。
【請求項7】
MECA-79の検出が免疫染色によって行われる、請求項5に記載の検出方法。
【請求項8】
肺癌細胞に存在するMECA-79を、肺癌の再発予測マーカーとして使用する方法。
【請求項9】
肺癌細胞に存在するMECA-79を、肺癌の再発予測マーカーとして検出するための、抗MECA-79抗体を含む検査試薬。
【請求項10】
MECA-79からなる、肺癌の再発予測マーカー。
【請求項11】
処理部を備える、肺癌の再発予測装置であって、
前記処理部は、
被検体から採取された肺癌組織内のMECA-79の測定値を取得し、
取得した測定値を、基準値と比較し、
取得した測定値が、前記基準値よりも高い場合に、前記肺癌が再発する可能性が高いことを示すラベルを出力する、及び/又は取得した測定値が、前記基準値よりも低い場合
に、前記肺癌が再発する可能性が低いことを示すラベルを出力する、
再発予測装置。
【請求項12】
コンピュータに実行させた時に、コンピュータに
被検体から採取された肺癌組織内のMECA-79の測定値を取得するステップと、
取得した測定値を、基準値と比較するステップと、
取得した測定値が、前記基準値よりも高い場合に、前記肺癌が再発する可能性が高いことを示すラベルを出力する、及び/又は取得した測定値が、前記基準値よりも低い場合
に、前記肺癌が再発する可能性が低いことを示すラベルを出力するステップ、
を事項させる、肺癌の再発予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、肺癌の再発を予防するための組成物、及び再発の可能性が高い肺癌を検出するための方法が開示される。
【背景技術】
【0002】
早期肺癌の根治療法は手術が基本であり、再発高リスクと判定される病期(IB以上)に対する術後基本治療は殺細胞性化学療法、分子標的治療薬である(非特許文献1)。
【0003】
現在、肺癌の完全切除後の再発を予測する指標は、肺癌の癌細胞の形態、癌細胞の広がり、癌細胞による周囲組織の破壊の様子など形態学的所見に基づいている(非特許文献2~4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】National Comprehensive Cancer Network. Non-small cell lung cancer (Version 1. 2022)
【非特許文献2】Moreira AL et al. J Thorac Oncol 2020
【非特許文献3】Shimada Y et al. J Thorac Oncol 2012
【非特許文献4】Dai C et al. J Thorac Oncol 2017
【非特許文献5】Okami J et al. J Thorac Oncol 2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から行われている、形態学特徴に基づく診断は観察者間の判断にバラつきが生ずる(非特許文献2)。最も早期(IA期)の肺癌でも完全切除後に15%が再発するが、その再発を正確に予測し予防につなげる治療戦略は存在しない(非特許文献5)。
【0006】
本発明は、肺癌の再発を予測するためのバイオマーカーを提供することを一課題とする。また、本発明は肺癌の再発を予防するための組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の実施形態を含む。
項1.
肺癌の再発を予防するための抗MECA-79抗体を含む組成物。
項2.
肺癌が腺癌である、項1に記載の組成物。
項3.
光免疫療法に使用するための、項1に記載の組成物。
項4.
項1に記載の組成物と、水溶性シリコンフタロシアニン試薬を含む、光免疫療法用キット。
項5.
患者から採取した肺癌組織内のMECA-79陽性肺癌細胞を検出することを含む、肺癌の再発予測マーカーの検出方法。
項6.
MECA-79陽性肺癌細胞が検出された時に、再発の可能性が高い肺癌であることを示唆する、項5に記載の検出方法。
項7.
MECA-79の検出が免疫染色によって行われる、項5に記載の検出方法。
項8.
肺癌細胞に存在するMECA-79を、肺癌の再発予測マーカーとして使用する方法。
項9.
肺癌細胞に存在するMECA-79を、肺癌の再発予測マーカーとして検出するための、抗MECA-79抗体を含む検査試薬。
項10.
MECA-79からなる、肺癌の再発予測マーカー。
項11.
処理部を備える、肺癌の再発予測装置であって、
前記処理部は、
被検体から採取された肺癌組織内のMECA-79の測定値を取得し、
取得した測定値を、基準値と比較し、
取得した測定値が、前記基準値よりも高い場合に、前記肺癌が再発する可能性が高いことを示すラベルを出力する、及び/又は取得した測定値が、前記基準値よりも低い場合
に、前記肺癌が再発する可能性が低いことを示すラベルを出力する、
再発予測装置。
項12.
コンピュータに実行させた時に、コンピュータに
被検体から採取された肺癌組織内のMECA-79の測定値を取得するステップと、
取得した測定値を、基準値と比較するステップと、
取得した測定値が、前記基準値よりも高い場合に、前記肺癌が再発する可能性が高いことを示すラベルを出力する、及び/又は取得した測定値が、前記基準値よりも低い場合
に、前記肺癌が再発する可能性が低いことを示すラベルを出力するステップ、
を事項させる、肺癌の再発予測プログラム。
【発明の効果】
【0008】
肺癌の再発を予測することができる。また、肺癌の再発を予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】再発予測システム1000の構成を示す。
図2】再発予測装置10の構成を示す。
図3】再発予測プログラムが実行する処理の流れを示す。
図4】MECA-79+癌細胞の存在と、pStage IA LUAD の肺葉切除後の再発および RFS 不良と関連していた
図5】MECA-79を標的とする光免疫療法を行った際の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.組成物
本発明のある実施形態は、肺癌の再発を予防するための組成物に関する。組成物は、抗MECA-79抗体を含む。
肺癌は、肺を原発とする上皮性の悪性腫瘍である。肺癌には、腺癌、大細胞癌、小細胞癌、扁平上皮癌を含み得る。肺癌として、好ましくは腺癌である。
【0011】
肺癌のステージは、肺癌の病期分類(TNM分類第8版の分類)において、IA、IB、IIA、IIB、IIIA、IIIB、又はIIICであることが好ましい。
【0012】
再発は、外科的切除、抗がん剤治療、放射線治療等により、癌が見かけ上消失したり、縮小した後に、再度癌が出現したり、癌組織が拡大することをいう。一般的に、再発には原発臓器内での再発と、転移を含みうるが、本発明における組成物は、原発臓器内での再発を予防するために使用されることが好ましい。
予防は、癌組織の再度の出現を抑制すること、癌組織が拡大することを含み得る。
MECA-79は、糖鎖抗原(-Galb1-4(HSO3-6)GlcNAcb1-3Galb1-3GlcNAc-)を指す。
【0013】
抗MECA-79抗体は、MECA-79の少なくとも一部に結合可能である限り制限されない。「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びそれらの抗原結合断片(例えば、Fab、F(ab’)、F(ab)等)のいずれも用いることができる。抗田の免疫グロブリンのクラス及びサブクラスは特に制限されない。また、前記抗体は、抗体ライブラリからスクリーニングされたものであってもよく、キメラ抗体、scFv等であってもよい。
抗体は必ずしも精製されている必要はなく、抗体を含む抗血清、腹水、これらから画分された免疫グロブリン画分等であってもよい。
抗MECA-79抗体は、市販の抗体(市販の抗体から作製した抗原結合断片を含む)であってもよい。
【0014】
市販の抗MECA-79抗体として、例えば、Peripheral Node Addressin Antibody (MECA-79) - Non-Recombinant Monoclonal(クローン:MECA-79、Novus Biologicals、Englewood、CO、USA)を挙げることができる。
【0015】
組成物は、薬学的に許容される担体又は添加剤を含んでいてもよい。担体として、例えば水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等の希釈剤;クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等のpH調整剤;リン酸二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム等の緩衝剤;ピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、チオグリコール酸、チオ乳酸等の安定化剤;凍結乾燥した際の成形剤として例えばマンニトール、イノシトール、マルトース、シュクロース、ラクトース等の糖類を使用できる。
組成物は、上記希釈剤を含まない乾燥品として提供され、使用時に上記希釈剤が
添加されてもよい。
【0016】
肺癌の再発を予防するための抗MECA-79抗体の投与量は、肺癌の再発予防効果が奏される限り特に限定されない。局所投与の場合、抗MECA-79抗体の投与量は、例えば組織1cmあたり、0.1~1,000mg/kg程度、好ましくは0.5~500mg/kg程度である。全身投与の場合、抗MECA-79抗体の投与量は、例えば、成人(15才以上)(体重約60kgとして計算する)1日量あたり0.1~1,000mg/kg程度、好ましくは0.5~500mg/kg程度である。
組成物は、光免疫療法のために使用されることが好ましい。
光免疫療法は、抗体に光感受性物質を結合させた複合体を標的細胞に結合させ、所定波長の光を照射することで、標的細胞を死滅させる方法である。
【0017】
光感受性物質としては、例えば、水溶性シリコンフタロシアニン試薬であるIRdye700DX(IR700)色素を挙げることができる。照射する光の波長は、赤色から近赤外波長、例えば680nmから700nmである。光照射は、例えば、8から32Jules/cmの範囲で、150 mW/cm程度行うことができる。
光免疫療法において使用される抗MECA-79抗体の量は、組織1cmあたり、0.1~1,000mg/kg程度、好ましくは0.5~500mg/kg程度である。
【0018】
2.組成物を含む光免疫療法用キット
本発明のある実施形態は、光免疫療法用キットに関する。
光免疫療法用キットは、上記1.において述べた光感受性物質を標識した組成物と、水溶性シリコンフタロシアニン試薬を含み得る。また、光免疫療法用キットは、前記組成物及び試薬の使用方法を記載した、又は使用方法を記載するウェブページのURLが記載された添付文書を含んでいてもよい。
【0019】
3.肺癌の再発予測マーカー、及びその検出方法。
本発明のある実施形態は、MECA-79からなる肺癌の再発予測マーカー及び肺癌の再発予測マーカーの検出方法(以下、単に「検出方法」とも表記する)に関する。検出方法は、患者から採取した肺癌組織内のMECA-79陽性肺癌細胞を検出することを含む。
肺癌、及びMECA-79の定義は、上記1.において述べたとおりである。
肺癌組織内のMECA-79は、免疫染色により検出することが可能である。
【0020】
免疫染色によってMECA-79を検出する場合、はじめに、患者から採取した肺癌部分の生検組織、又は切除組織を、ホルマリン、及びパラホルムアルデヒド等の公知の固定液で固定してから、パラフィン包埋ブロックを作製する。あるいは、生検組織、又は切除組織を固定してから、若しくは固定せずに、OCTコンパウンド(登録商標)等の凍結ブロック作製用の樹脂に包埋し、凍結ブロックを作製する。作製したパラフィン包埋ブロック、又は凍結ブロックを薄切して組織切片を作製し、MECA-79の検出に供する。
【0021】
免疫染色は、公知の方法を使用することができる。例えば、パラフィン包埋ブロックから作製された薄切切片は、脱パラフィン処理、親水処理を行った後に、ブロッキングを行い、抗MECA-79抗体と反応させる。必要に応じて、ブロッキングの前に、抗原の賦活化処理、内因性ペルオキシダーゼの不活化処理又は内因性アルカリフォスファターゼの不活化処理を行ってもよい。抗原賦活化処理は、例えば、95℃から100℃程度のpH 5.8~9.0程度のクエン酸バッファーに、20分から40分程切片を浸漬することにより行うことができる。しかし、この処理は、抗原を賦活化できる限り他の方法を採用してもよい。また、内因性ペルオキシダーゼの不活化処理も、公知であり、過酸化水素を加えメタノール等を使用して行うことができる。内因性アルカリフォスファターゼの不活化処理も、公知であり、塩酸を添加したアルコールや、酢酸水溶液を使用して行うことができる。
【0022】
また、凍結ブロックから作製した切片は、水や、バッファーで包埋用の樹脂を洗浄した後、ブロッキングを行い、抗MECA-79抗体と反応させる。上述の方法に従って、ブロッキングの前に、抗原の賦活化処理、内因性ペルオキシダーゼの不活化処理又は内因性アルカリフォスファターゼの不活化処理を行ってもよい。
免疫染色には、上述した抗MECA-79抗体を使用することができる。
【0023】
免疫染色は、直接法であっても間接法であってもよい。直接法の場合、抗MECA-79抗体に直接ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等の標識物質を標識して、これらの標識物質からのシグナルを指標としてスライドグラス上の組織中のMECA-79と結合した抗MECA-79抗体の検出を行う。間接法の場合、未標識の抗MECA-79抗体(一次抗体)をスライドグラス上の組織中のMECA-79と反応させ、バッファー等で洗浄後、一次抗体と結合可能な二次抗体と反応させる。二次抗体には、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等の標識物質が標識されており、これらの標識物質からのシグナルを指標としてスライドグラス上の組織中のMECA-79と結合した抗MECA-79抗体の検出を行う。
【0024】
標識物質が、ペルオキシダーゼである場合、例えば、基質としてジアミノベンジジン(DAB)を使用して、基質の発色シグナルを光学顕微鏡で確認することにより、スライドグラス上の肺癌組織中のMECA-79を検出する。
【0025】
標識物質が、アルカリフォスファターゼである場合、例えば、基質としてニューフクシンを使用して、基質の発色シグナルを光学顕微鏡で確認することにより、スライドグラス上の組織中のMECA-79を検出する。
免疫染色後は、対比染色を行い組織の形態学的観察を行う。
【0026】
形態学的観察では、肺癌細胞にMECA-79のシグナルがあるか否かを判定する。MECA-79は、細胞膜に存在しているため、形態学的観察により肺癌細胞の表面に免疫染色によるシグナルがあるか観察する。
【0027】
肺癌細胞に免疫染色によるシグナルがあるとき、「MECA-79陽性肺癌細胞」であると決定できる。肺癌細胞に免疫染色によるシグナルがないとき、「MECA-79陽性肺癌細胞」ではないと決定できる。
【0028】
肺癌細胞におけるMECA-79陽性癌細胞の検出は、フローサイトメータを行って検出してもよい。フローサイトメータに供する細胞試料の作成は次のとおりである。患者から採取した肺癌組織をトリプシン等のタンパク質分解酵素、及びエチレンジアミン四酢酸塩等で処理し、細胞浮遊液を調製する。次に、蛍光物質を標識した抗MECA-79抗体、及び各染色液(Propidium iodide等)と混合して細胞試料とすることができる。
【0029】
形態学的観察、又はフローサイトメトリー解析において、例えば、MECA-79陽性細胞の陽性率が基準値以上である場合、当該肺癌が、再発の可能性が高い肺癌であることが示唆される。また、MECA-79陽性細胞の陽性率が基準値未満である場合、当該肺癌が、再発の可能性が低い肺癌であることが示唆される。
【0030】
基準値は、ROC(receiver operating characteristic curve)曲線、判別分析法、モード法、Kittler法、3σ法、p‐tile法等により決定することができる。また、基準値として、感度、特異度、陰性的中率、陽性的中率、第一四分位数等を使用することもできる。
【0031】
また、基準値を、例えば1%に設定し、肺癌細胞群におけるMECA-79陽性細胞の陽性率が1%以上である時には、当該肺癌が、再発の可能性が高い肺癌であることが示唆される。また、肺癌細胞群におけるMECA-79陽性肺癌細胞の陽性率が1%未満である時には、前記肺癌は再発の可能性が低い肺癌であることが示唆される。
【0032】
4.肺癌の再発予測マーカーを検出するための検査試薬
本発明のある実施形態は、上記3.で述べた、肺癌の再発予測マーカーを検出するため検査試薬に関する。
検査試薬は、抗MECA-79抗体を含む限り制限されない。抗MECA-79抗体は、上記1.について説明したとおりである。
【0033】
検査試薬に含まれる抗体は、乾燥状態であってもよく、リン酸緩衝生理食塩水等のバッファーに溶解されていてもよい。さらに、検査試薬は、β-メルカプトエタノール、DTT等の安定化剤;アルブミン等の保護剤;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤、アジ化ナトリウム等の防腐剤等の少なくとも一つを含んでいてもよい。
MECA-79と結合する抗体は、酵素や蛍光色素で標識されていてもよい。
【0034】
MECA-79検出用検査試薬は、検査試薬と試薬の使用方法を記載した、又は試薬の使用方法を記載するウェブページのURLが記載された添付文書を含む検査キットとして提供されてもよい。また、MECA-79と結合する抗体が未標識の一次抗体である場合には、検査キットには、酵素等の標識物質により標識された二次抗体が含まれていてもよい。標識物質は、上記3.において説明したとおりである。さらに、検査キットには前記酵素と反応する基質が含まれていてもよい。
【0035】
5.肺癌の再発予測装置
5-1.肺癌の再発予測装置の構成
本開示の一実施形態は肺癌の再発予測システム1000(以下、単に「システム1000」とも表記する)及び肺癌の再発予測装置10(以下、単に「装置10」とも表記する)に関する。
図1は、システム1000の概観図であり、システム1000は一態様として、装置10の他、分析装置5を備えていてもよい。
図2に、装置10のブロック図を示す。装置10は、入力部111と、出力部112と、記憶媒体113とに接続されていてもよい。
【0036】
装置10において、処理部101と、主記憶部102と、ROM(read only memory)103と、補助記憶部104と、通信インタフェース(I/F)105と、入力インタフェース(I/F)106と、出力インタフェース(I/F)107と、メディアインターフェース(I/F)108は、バス109によって互いにデータ通信可能に接続されている。主記憶部102と補助記憶部104とを合わせて、単に記憶部と呼ぶこともある。記憶部は、前記測定値や基準値を揮発性に、又は不揮発性に記憶する。
【0037】
処理部101は、装置10のCPUである。処理部101は、GPUであってもよい。処理部101が、補助記憶部104又はROM103に記憶されているコンピュータプログラムを実行し、取得されるデータの処理を行うことにより、装置10が機能する。
【0038】
ROM103は、処理部101により実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータが記録されている。ROM103は、装置10の起動時に、処理部101によって実行されるブートプログラムや装置10のハードウェアの動作に関連するプログラムや設定を記憶する。
【0039】
主記憶部102は、RAM(Random access memory)によって構成される。主記憶部102は、ROM103及び補助記憶部104に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、主記憶部102は、処理部101がこれらのコンピュータプログラムを実行するときの作業領域として利用される。
【0040】
補助記憶部104は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等によって構成される。補助記憶部104には、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラムなどの、処理部101に実行させるための種々のコンピュータプログラム及びコンピュータプログラムの実行に用いる各種設定データが記憶されている。具体的には、基準値等を不揮発性に記憶する。
【0041】
通信I/F105は、シリアルインタフェース、パラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインタフェース、ネットワークインタフェースコントローラ(Network interface controller:NIC)等から構成される。通信I/F105は、処理部101の制御下で、分析装置5又は他の外部機器からのデータを受信し、必要に応じて装置10が保存又は生成する情報を、分析装置5は外部に送信又は表示する。通信I/F105は、ネットワークを介して分析装置5又は他の外部機器と通信を行ってもよい。
【0042】
入力I/F106は、例えばシリアルインタフェース、パラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインタフェースなどから構成される。入力I/F106は、入力部111から文字入力、クリック、音声入力等を受け付ける。受け付けた入力内容は、主記憶部102又は補助記憶部104に記憶される。
【0043】
入力部111は、タッチパネル、キーボード、マウス、ペンタブレット、マイク等から構成され、装置10に文字入力又は音声入力を行う。入力部111は、装置10の外部から接続されても、装置10と一体となっていてもよい。
【0044】
出力I/F107は、例えば入力I/F106と同様のインタフェースから構成される。出力I/F107は、処理部101が生成した情報を出力部112に出力する。出力I/F107は、処理部101が生成し、補助記憶部104に記憶した情報を、出力部112に出力する。
【0045】
出力部112は、例えばディスプレイ、プリンター等で構成され、分析装置5から送信される測定結果及び装置10における各種操作ウインドウ、分析結果等を表示する。
【0046】
メディアI/F108は、記憶媒体113に記憶された例えばアプリケーションソフト等を読み出す。読み出されたアプリケーションソフト等は、主記憶部102又は補助記憶部104に記憶される。また、メディアI/F108は、処理部101が生成した情報を記憶媒体113に書き込む。メディアI/F108は、処理部101が生成し、補助記憶部104に記憶した情報を、記憶媒体113に書き込む。
【0047】
記憶媒体113は、USBメモリ・フラッシュ、ハードディスク、CD-ROM、又はDVD-ROM等で構成される。記憶媒体113は、USBメモリ・フラッシュドライブ、ハードデイスクドライブ、CD-ROMドライブ、又はDVD-ROMドライブ等によってメディアI/F108と接続される。記憶媒体113には、コンピュータがオペレーションを実行するためのアプリケーションプログラム等が格納されていてもよい。
【0048】
処理部101は、装置10の制御に必要なアプリケーションソフトや各種設定をROM103又は補助記憶部104からの読み出しに代えて、ネットワークを介して取得してもよい。前記アプリケーションプログラムがネットワーク上のサーバコンピュータの補助記憶部内に格納されており、このサーバコンピュータに装置10がアクセスして、コンピュータプログラムをダウンロードし、これをROM103又は補助記憶部104に記憶することも可能である。
【0049】
また、ROM103又は補助記憶部104には、例えば米国マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)などのグラフィカルユーザインタフェース環境を提供するオペレーションシステムがインストールされている。第2の実施形態に係るアプリケーションプログラムは、前記オペレーティングシステム上で動作するものとする。すなわち、装置10は、パーソナルコンピュータ等であり得る。
【0050】
システム1000は一カ所に設置されている必要はなく、装置10と分析装置5が別所に配置され、これらがネットワークで接続されていてもよい。また、装置10は、入力部111や出力部112を省略した操作者を必要としない装置であってもよい。
分析装置5は、例えばフローサイトメータである。
【0051】
分析装置5は、有線又は無線によって装置10に接続されている。分析装置5は、MECA-79の陽性細胞の測定値をA/D変換して、デジタルデータとして装置10に送信する。MECA-79の陽性細胞の測定値は、陽性率であり得る。また、MECA-79の陽性細胞の測定値は、肺癌細胞のカウント数、MECA-79の陽性細胞数であってもよい。
【0052】
5-2.肺癌の再発予測プログラムの処理
図3に肺癌の再発予測プログラムの処理の一例を示す。装置10は、肺癌の再発予測プログラムを実行することにより下記処理を行う。
【0053】
装置10の処理部101は、オペレータが入力部111から処理開始の入力を行うことにより、肺癌の再発を予測するための処理を開始する。ステップS11において、処理部101は、分析装置5から被検体から採取された肺癌組織内のMECA-79陽性癌細胞の陽性率を測定値として取得する。あるいは、肺癌細胞のカウント数と、MECA-79陽性癌細胞を分析装置5から取得し、処理部101が陽性率を算出することによって測定値を取得してもよい。また、オペレータがMECA-79の免疫染色によって取得したMECA-79陽性癌の陽性率の入力を処理部101が受け付けることによって測定値を取得してもよい。
【0054】
次に処理部101は、ステップS12において、記憶部に記憶されているMECA-79の基準値と、ステップS11で取得した測定値とを比較する。MECA-79の基準値は、上記2.において述べたとおりである。
【0055】
処理部101は、ステップS13において、取得した測定値が、前記基準値よりも高い場合には、ステップS14(YES)に進み、前記肺癌は再発の可能性が高いと決定し、決定結果を示すラベルを出力部112に出力する(ステップS16)。また、ステップS13において、取得した測定値が基準値よりも低い場合に、ステップS15(NO)に進み、前記肺癌は再発の可能性が低いと決定し、決定結果を示すラベルを出力部112に出力する(ステップS16)。再発の可能性が高いと決定した場合には、ラベルには、「再発の可能性が高い」ことを示す情報、又は「再発の可能性が低い」ことを示唆する」ことを示す情報が含まれ得る。前記情報は、テキストデータであってもよいが、×、〇、感嘆符等のマークであってもよい。
【実施例0056】
以下に実施例を示して本発明についてより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されるものではない。
【0057】
なお、以下に示す検討は、2013年に改正されたヘルシンキ宣言の原則にしたがって行った。また、以下に示す検討は、関西医科大学病院研究倫理委員会による承認の元に行った(承認番号: 2016662; 承認日: 2016年9月12日)。
【0058】
I.材料及び方法
1.検討対象患者
2009年1月1日から2015年1月31日までの間に関西医科大学病院で肺癌の手術を受けた564名の患者の記録をレビューした。選択基準は、原発性侵襲性非粘液性腺癌(腺癌:Lung adenocarcinomaを以下「LUAD」とも呼ぶ場合がある)の病理学的診断を受け、病理学的病期がIA(TNM 分類システムの第8版による)であり、肺葉切除または大切除を受け、且つこの研究に利用可能な組織であった患者を抽出した。除外基準は、上皮内腺癌、低侵襲性腺癌、浸潤性腺癌のバリアント(浸潤性粘液腺癌、コロイド腺癌、胎児腺癌、腸管型腺癌、および特定されていない腺癌)を有する患者、生検/診断のための手術、再発疾患のための手術、ネオアジュバント療法を受けた患者とした。これらの基準に基づいて、肺葉特異的リンパ節郭清を伴う肺葉切除術を受けた100人の患者を検討対象とした。
【0059】
2.侵襲性非粘液性腺癌の診断と免疫組織化学的分析
切除した組織サンプルを、日本肺癌協会の肺癌の臨床および病理学的記録に関する一般規則に従って処理した。侵襲性非粘液性腺癌の病理学的診断は、2015年世界保健機関 (WHO)が提唱した肺癌の組織学的分類にしたがって行った。グレードの決定は、最近の報告に基づく侵襲性腺癌の国際肺癌学会(IASLC)のグレーディングシステムに従って行った。血管浸潤、リンパ管内まん延、およびSpread Through Air Spaces(STAS)は、文献:Am J Surg Pathol. 2015 Jun;39(6):793-801.793-801にしたがって評価した。
【0060】
3.免疫組織化学的分析
厚さ5μmの切片に切断したホルマリン固定パラフィン包埋組織を、免疫組織化学分析に使用した。免疫染色の一次抗体として、以下の抗体を使用した。
MECA-79(PNAd; MECA-79、Novus Biologicals、Englewood、CO、USA;希釈倍率1:100)
α-平滑筋アクチン(SMA; クローン 1A4、Agilent Technologies、カリフォルニア州サンタクララ;希釈倍率1:800)
樹状細胞リソソーム関連膜タンパク質(DC-LAMP; Abcam、ケンブリッジ、英国;希釈倍率1:75)、
B細胞リンパ腫6 (BCL- 6; LN22、株式会社ニチレイバイオサイエンス、東京、日本;希釈倍率1:1)。
【0061】
PD-L1の発現は、文献:Lung Cancer. 2018 Nov;125:230-237において報告されているように、Dako Autostainer Link 48システム(Agilent Technologies、カリフォルニア州サンタクララ)を使用し、Dako 22C3 PharmDxおよびEnVision FLEX視覚化システムを使用して観察した。癌細胞におけるPD-L1発現は、前記文献にしたがって、癌細胞におけるPD-L1の発現レベルが1%を超える時に「PD-L1+癌細胞の有り」と判定した。
【0062】
線維芽細胞網状細胞 (fibroblastic reticular cells:FRC)及びがん関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblasts:CAF)の形態は、以前の報告(文献:Transplantation. 2011 Jun 27;91(12):1398-405.)にしたがって決定し、α-平滑筋アクチン陽性線維芽細胞網状細胞(α-SMA+FRC)、及びα-平滑筋アクチン陽性がん関連線維芽細胞(α-SMA+CAF)の有無を評価した。MECA-79陽性高内皮細静脈(MECA-79+HEV)様血管(形態を問わない)およびDC-LAMP+成熟樹状細胞は、以前に記載されているように決定され、存在するか存在しないかにも分類した。BCL-6+胚中心におけるtertiary lymphoid structures (TLS)の有無も評価した。また、肺癌細胞全体に対するMECA-79陽性肺癌細胞が1%以上を占めるか否かを評価した。MECA-79は、図Aに示すように主に細胞膜に沿って検出される。また、細胞質の一部にも検出される。
【0063】
4.統計分析
ノンパラメトリック連続変数とカテゴリ変数との差は、それぞれMann-Whitney U検定とカイ2乗検定を使用して決定した。単変量および多変量ロジスティック回帰分析を使用して、LUADの術後再発を予測する際の病理学的特徴の診断精度を評価した。Firth’s penalizationは、準完全分離または完全分離を処理するために使用した(文献:Stat Med. 2002 Aug 30;21(16):2409-19.)。多変量解析には、単変量解析において統計的に有意であった因子(P < 0.10)を含め、多変量ロジスティック回帰モデルにおいて有意であった病理学的特徴(P < 0.05)を使用して、リスク層別化のための変数を作成した。
【0064】
無再発生存期間(relapse-free survival:RFS)は、肺切除日と最初に記録された再発日または全死因死亡日との間隔として計算した。打ち切り患者には、最後のフォローアップの日付を使用した。Kaplan-Meier推定曲線を使用してRFSを視覚的に分析し、ログランク検定を使用してグループ間の差を評価した。Cox比例ハザードモデルを、RFSの単変量および多変量解析に使用した。多変量解析には、ベースラインの特徴(年齢、性別、病期)と、単変量解析で有意(P<0.10)であったその他の因子を含めた。
【0065】
統計解析に使用した、ソフトウェアは、GraphPadPrismバージョン6.07(GraphPadSoftware、米国ルイジアナ州サンディエゴ)、JMPバージョン13.0.0(SASInstitute、米国ノースカロライナ州ケアリー)、EZRバージョン1.54(埼玉医療センター、自治医科大学、埼玉、日本)、およびWindows(Microsoft、ワシントン州レドモンド)用のRコマンダーバージョン4.2.0(RFoundationforStatisticalComputing、ウィーン、オーストリア)の修正バージョンである統計的有意性はP<0.05に設定した。
5.MECA-79を標的とする光免疫療法の効果の検証
【0066】
PC-9細胞を24 well plateに5×104cellsとなるように播種し、FBSを10%となるように添加したRPMI培地(和光純薬)(以下、「培養用培地」と表記する)で培養した。37℃にて一晩培養した。無添加培地(FBS free、phenol red freeのRPMI培地)にて、ウェル内の細胞を洗浄後、終濃度で10 μg/mLとなるように、IR700標識抗MECA-79抗体を添加し、37℃にて1時間インキュベートした。無添加培地にて、ウェル内を洗浄した後、LEDライトにより光を照射した(50 mW/cm2で100秒:総照射量10 J/cm2)。新鮮培養用培地に交換し、37℃にて24時間インキュベートした。インキュベーション後にCell Counting Kit-8(Dojindo)により、メーカー提供のプロトコルにしたがって細胞生存率を算出した。
【0067】
II.結果
1.検討対象患者の臨床的特徴
再発状況に応じた研究集団の臨床的および病理学的特徴を表1に要約する。患者の追跡期間の中央値は、7.5年[範囲:0.8~13.6年]であった。分析に含まれる100名の患者のうち、10名(10%)が術後再発を経験した。局所領域再発は90%(10名中9名)で発生したが、遠隔転移が発生したのはわずか10%(10名中1名)であった。肺は再発の最も一般的な解剖学的部位であり、再発症例の50% (10名中5名) を占めた。
なお、表1に示すように、再発した患者群と再発しなかった患者群の間において、臨床的および病理学的特徴にはいずれも有意差はなかった。
【0068】
【表1】
*Pathological stage per the 8th edition of the TNM classification system. Values for continuous variables are provided as median with range. CEA, carcinoembryonic antigen; IASLC, International Association for the Study of Lung Cancer; STAS, spread through air spaces; PD-L1, programmed cell death ligand-1; HEV, high endothelial venule; α-SMA, α-smooth muscle actin; TLS, tertiary lymphoid structure; BCL-6, B-cell lymphoma 6; DC-LAMP, dendritic cell lysosome-associated membrane protein.
【0069】
2.病理学的特徴と再発との関連
STAS、MECA-79+癌細胞、MECA-79+HEV様血管、およびα-SMA+FRCの存在は、術後再発患者でより高頻度に認められた。(それぞれP=0.041、P<0.001、P=0.047、およびP=0.033)。注目すべきことに、α-SMA+CAFが認められなかった患者(n=26)で術後再発を経験した人はいなかった。表2に示すように、Firth’s penalizationによる単変量ロジスティック回帰分析により、再発を予測する候補の病理学的因子として、STAS、MECA-79+癌細胞、α-SMA+CAF、およびMECA-79+HEV様血管の存在を特定した。これらの候補変数の中で、MECA-79+癌細胞の存在は、オッズ比12.4(95%信頼区間、1.91-109.6、P<0.008)であり、Firth’s penalizationによる単変量ロジスティック回帰分析と同様独立した予測因子であった。この結果に基づいて、MECA-79+癌細胞の存在について、Cox比例ハザードモデルを使用してさらに評価した。
【0070】
【表2】
IASLC, International Association for the Study of Lung Cancer; STAS, spread through air spaces; PD-L1, programmed cell death ligand-1; HEV, high endothelial venule; α-SMA, α-smooth muscle actin; CAF, cancer-associated fibroblast; FRC, fibroblastic reticular cell; TLS, tertiary lymphoid structure; BCL-6, B-cell lymphoma 6; GC, germinal center; DC-LAMP, dendritic cell lysosome-associated membrane protein; DC, dendritic cell.
【0071】
3.MECA-79+癌細胞の存在の予後的意義
5年RFSは、MECA-79+癌細胞を有さない患者(91.2%)よりもMECA-79+癌細胞を有する患者(44.4%)の方が有意に(P<0.001)悪かった(図A)。多変量Cox比例ハザードモデルによる解析では、MECA-79+癌細胞の存在はハザード比9.02(95%信頼区間:1.80-45.3、P<0.008)であり、RFSの独立した危険因子であることが明らかとなった(表3)。
【0072】
【表3】
*Pathological stage per the 8th edition of the TNM classification system.
【0073】
4.MECA-79+癌細胞を伴うLUADと放射線学的およびその他の病理学的特徴との関連
表4に示すように、高解像度CTでの結節の分類と標準化された最大取り込み値は、MECA-79+癌細胞の有無と有意に関連していなかった。しかし、MECA-79+癌細胞を有する患者は、高解像度CTにおいて充実性結節を認める傾向が見られた。MECA-79+癌細胞を含むLUADでは、血管浸潤、PD-L1+癌細胞、BCL-6胚中心を伴うTLS、およびα-SMA+FRCがより高頻度で観察された(それぞれP=0.027、P=0.033、P=0.005、およびP=0.002)。
【0074】
【表4】
computed tomography; SUVmax, maximal standardized uptake value; 18-FDG-PET/CT, 18-fluorodeoxyglucose positron emission tomography/computed tomography; IASLC, International Association for the Study of Lung Cancer; STAS, spread through air spaces; PD-L1, programmed cell death ligand-1; HEV, high endothelial venule; α-SMA, α-smooth muscle actin; CAF, cancer-associated fibroblast; FRC, fibroblastic reticular cell; TLS, tertiary lymphoid structure; BCL-6, B-cell lymphoma 6; GC, germinal center; DC-LAMP, dendritic cell lysosome-associated membrane protein; DC, dendritic cell.
【0075】
4.MECA-79を標的とする光免疫療法
図5にMECA-79を標的とする光免疫療法を行った際の結果を示す。光照射を行った場合、IR700標識抗MECA-79抗体を添加した細胞(MECA-IR700 (+))では、IR700標識抗MECA-79抗体を添加しなかった細胞(MECA-IR700 (-))と比較して、細胞の生存率が下がっていた。また、光照射を行わなかった場合、MECA-IR700 (+)とMECA-IR700 (-)の間に差は認められなかった。
図1
図2
図3
図4
図5