IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 青木あすなろ建設株式会社の特許一覧

特開2024-15763シミュレート方法、情報処理装置およびプログラム
<>
  • 特開-シミュレート方法、情報処理装置およびプログラム 図1
  • 特開-シミュレート方法、情報処理装置およびプログラム 図2
  • 特開-シミュレート方法、情報処理装置およびプログラム 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015763
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】シミュレート方法、情報処理装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/51 20170101AFI20240130BHJP
   G06Q 50/02 20240101ALI20240130BHJP
【FI】
A01K61/51
G06Q50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118053
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】593089046
【氏名又は名称】青木あすなろ建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】隠地 武彦
【テーマコード(参考)】
2B104
5L049
【Fターム(参考)】
2B104AA27
2B104CA01
2B104EC01
2B104GA01
5L049CC01
(57)【要約】
【課題】水産生物の養殖における飼育の管理が適切か否かを客観的に判断できる指標を算定する。
【解決手段】養殖対象となる水産生物の飼育条件に関する飼育パラメータに応じて、前記水産生物の成育状態に関する成育パラメータを算定し、前記成育パラメータを表示するシミュレート方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖対象となる水産生物の飼育条件に関する飼育パラメータに応じて、前記水産生物の成育状態に関する成育パラメータを算定し、
前記成育パラメータを表示する
シミュレート方法。
【請求項2】
前記飼育パラメータは、飼育水温を含み、
前記成育パラメータは、成長指標を含み、
前記成育パラメータの算定においては、前記飼育水温と生物学的零度との差異である第1変数と、成長限界高水温と前記飼育水温との差異を当該成長限界高水温で除算した第2変数と、成長限界殻長と現在の殻長との差異を当該成長限界殻長で除算した第3変数とに応じて前記成長指標を算定する
請求項1のシミュレート方法。
【請求項3】
前記成育パラメータの算定においては、第1係数を冪指数とする前記第1変数の冪乗と、第2係数を冪指数とする前記第2変数の冪乗と、第3係数を冪指数とする前記第3変数の冪乗とに応じて、前記成長指標を算定する
請求項2のシミュレート方法
【請求項4】
前記第1係数と前記第2係数と前記第3係数との各々を利用者からの指示に応じて個別に調整する
請求項3のシミュレート方法。
【請求項5】
前記成育パラメータが所定の範囲の内側にある場合と前記範囲の外側にある場合とで、前記成育パラメータの表示態様を異ならせる
請求項1のシミュレート方法。
【請求項6】
前記成育パラメータの算定においては、前記飼育パラメータに応じて前記成育パラメータの時系列を算定し、
前記成育パラメータの時系列を表示する
請求項1のシミュレート方法。
【請求項7】
さらに、前記飼育パラメータに応じて、前記水産生物が飼育される飼育槽内の環境を表す環境パラメータを算定する
請求項1のシミュレート方法。
【請求項8】
前記環境パラメータが所定の範囲の内側にある場合と前記範囲の外側にある場合とで、前記環境パラメータの表示態様を異ならせる
請求項7のシミュレート方法。
【請求項9】
前記環境パラメータの算定においては、前記飼育パラメータに応じて前記環境パラメータの時系列を算定し、
前記環境パラメータの時系列を表示する
請求項7のシミュレート方法。
【請求項10】
前記成育パラメータは、前記水産生物の成長量と、摂餌量が前記水産生物の重量の増加に寄与した割合を示す摂餌効率とを含む
請求項1のシミュレート方法。
【請求項11】
前記水産生物は、かけ流し式の養殖システムで養殖される
請求項1のシミュレート方法。
【請求項12】
前記水産生物は、アワビである
請求項1のシミュレート方法。
【請求項13】
養殖対象となる水産生物の飼育条件に関する飼育パラメータに応じて、前記水産生物の成育状態に関する成育パラメータを算定する成育特定部と、
前記成育パラメータを表示する表示制御部と
を具備する情報処理装置。
【請求項14】
養殖対象となる水産生物の飼育条件に関する飼育パラメータに応じて、前記水産生物の成育状態に関する成育パラメータを算定する成育特定部、および、
前記成育パラメータを表示する表示制御部
としてコンピュータを機能させるプログラム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類や貝類を含む水産生物の養殖において用いられるシミュレート方法、情報処理装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
水産生物を養殖するための各種の技術が提案されている。例えば、特許文献1には、アワビを養殖する養殖システムが開示されている。特許文献1のような養殖システムで水産生物を養殖する現場では、飼育管理者が蓄積された経験に基づき、目視で確認できる状態(餌の残り具合の状態や水産生物の状態など)に応じて感覚的に飼育の管理(例えば給餌量の管理など)をしていることが多い。以上のように、飼育管理者の経験の蓄積に基づいて飼育を管理することも重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-208890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、以上のように感覚的に飼育を管理することは、主観的であり客観性に乏しい。したがって、飼育管理者間での管理の共有が困難であるという問題や、飼育管理者における養殖の経験が浅い場合にはそもそも飼育の管理が難しいという問題がある。以上の事情を考慮して、本発明では、養殖における水産生物の飼育の管理が適切か否かを客観的に判断できる指標を算定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本発明の好適な態様に係るシミュレート方法は、養殖対象となる水産生物の飼育条件に関する飼育パラメータに応じて、前記水産生物の成育状態に関する成育パラメータを算定し、前記成育パラメータを表示する。
【0006】
[2]前記[1]に係るシミュレート方法においては、前記飼育パラメータは、飼育水温を含み、前記成育パラメータは、成長指標を含み、前記成育パラメータの算定においては、前記飼育水温と生物学的零度との差異である第1変数と、成長限界高水温と前記飼育水温との差異を当該成長限界高水温で除算した第2変数と、成長限界殻長と現在の殻長との差異を当該成長限界殻長で除算した第3変数とに応じて前記成長指標を算定する。
【0007】
[3]前記[1]または前記[2]に係るシミュレート方法においては、前記成育パラメータの算定においては、第1係数を冪指数とする前記第1変数の冪乗と、第2係数を冪指数とする前記第2変数の冪乗と、第3係数を冪指数とする前記第3変数の冪乗とに応じて、前記成長指標を算定する。
【0008】
[4]前記[3]に係るシミュレート方法において、前記第1係数と前記第2係数と前記第3係数との各々を利用者からの指示に応じて個別に調整する。
【0009】
[5]前記[1]から前記[4]の何れかに係るシミュレート方法において、前記成育パラメータが所定の範囲の内側にある場合と前記範囲の外側にある場合とで、前記成育パラメータの表示態様を異ならせる。
【0010】
[6]前記[1]から前記[5]の何れかに係るシミュレート方法では、前記成育パラメータの算定においては、前記飼育パラメータに応じて前記成育パラメータの時系列を算定し、前記成育パラメータの時系列を表示する。
【0011】
[7]前記[1]から前記[6]の何れかに係るシミュレート方法において、さらに、前記飼育パラメータに応じて、前記水産生物が飼育される飼育槽内の環境を表す環境パラメータを算定する。
【0012】
[8]前記[7]に係るシミュレート方法において、前記環境パラメータが所定の範囲の内側にある場合と前記範囲の外側にある場合とで、前記環境パラメータの表示態様を異ならせる。
【0013】
[9]前記[7]または前記[8]に係るシミュレート方法では、前記環境パラメータの算定においては、前記飼育パラメータに応じて前記環境パラメータの時系列を算定し、前記環境パラメータの時系列を表示する。
【0014】
[10]前記[1]から前記[9]の何れかに係るシミュレート方法において、前記成育パラメータは、前記水産生物の成長量と、摂餌量が前記水産生物の重量の増加に寄与した割合を示す摂餌効率とを含む。
【0015】
[11]前記[1]から前記[10]の何れかに係るシミュレート方法において、前記水産生物は、かけ流し式の養殖システムで養殖される。
【0016】
[12]前記[1]から前記[11]の何れかに係るシミュレート方法において、前記水産生物は、アワビである。
【0017】
[13]本発明の好適な態様に係る情報処理装置は、養殖対象となる水産生物の飼育条件に関する飼育パラメータに応じて、前記水産生物の成育状態に関する成育パラメータを算定する成育特定部と、前記成育パラメータを表示する表示制御部とを具備する。
【0018】
[14]本発明の好適な態様に係るプログラムは、養殖対象となる水産生物の飼育条件に関する飼育パラメータに応じて、前記水産生物の成育状態に関する成育パラメータを算定する成育特定部、および、前記成育パラメータを表示する表示制御部としてコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る情報処理装置よれば、飼育パラメータに応じて算定された成育パラメータが表示される。すなわち、養殖における水産生物の飼育の管理が適切か否かを客観的に判断できる指標(成育パラメータ)を飼育管理者が確認することができる。したがって、飼育パラメータの妥当性(すなわち適切であるか否か)を評価することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態に係る情報処理装置の構成を例示するブロック図である。
図2】第1実施形態に係る情報処理装置の機能的な構成を例示するブロック図である。
図3】第2実施形態に係る情報処理装置が算定する成育パラメータの時系列と環境パラメータの時系列の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る情報処理装置100の構成を例示するブロック図である。情報処理装置100は、養殖(第1実施形態では陸上養殖)の対象となる水産生物に関する各種のパラメータをシミュレートするコンピュータシステムである。情報処理装置100は、例えば、水産生物の飼育を管理する飼育管理者(「利用者」の例示)により使用される。水産生物の養殖は、飼育槽を具備する養殖システムで行われる。
【0022】
水産生物は、例えば貝類や魚類である。第1実施形態では、水産生物としてアワビを例示する。水産生物における陸上養殖の方法には、飼育槽内の全ての飼育水を随時入れ替えるかけ流し式、飼育槽内の飼育水の全部を循環させる閉鎖循環式(完全循環式)、および、飼育槽内の飼育水の一部を循環させる半閉鎖循環式(半循環式)がある。第1実施形態では、かけ流し式の養殖において情報処理装置100を用いる場面を想定する。
【0023】
図1に例示される通り、第1実施形態の情報処理装置100は、制御装置11と記憶装置13と表示装置15と操作装置17とを具備する。制御装置11は、情報処理装置100の各要素を制御する単数または複数のCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサで構成される。
【0024】
記憶装置13は、制御装置11が実行するプログラムと制御装置11が使用する各種のデータとを記憶する単数または複数のメモリである。記憶装置13は、例えば磁気記録媒体または半導体記録媒体等の公知の記録媒体により構成される。
【0025】
表示装置15は、制御装置11による制御のもとで画像を表示する再生装置である。表示装置15は、例えば液晶表示パネルまたは有機EL(ElectroLuminescence)表示パネル等の表示パネルである。操作装置17は、飼育管理者からの指示を受付ける入力機器である。操作装置17は、例えば、飼育管理者が操作する複数の操作子、または、表示装置15と一体に構成されたタッチパネルである。
【0026】
第1実施形態の情報処理装置100は、飼育パラメータに応じて成育パラメータと環境パラメータとがそれぞれ算定される。すなわち、飼育パラメータからシミュレートされるパラメータが成育パラメータと環境パラメータとである。成育パラメータと環境パラメータとは、所定の期間(以下「単位期間」という)について算出される。以下の説明では、1ヶ月間を単位期間として例示する。すなわち、月間の成育パラメータと環境パラメータとが算出される。飼育パラメータと成育パラメータと環境パラメータとは、以下の通りである。
【0027】
<飼育パラメータ>
飼育パラメータは、飼育開始時におけるアワビの飼育条件に関するパラメータである。第1実施形態の飼育パラメータは、以下の[1-1]~[1-6]の指標を含む。
[1-1]飼育水温
[1-2]殻長(初期値)
[1-3]飼育数(初期値)
[1-4]飼育面積
[1-5]使用水量
[1-6]肥満度
【0028】
[1-1]飼育水温
飼育水温(℃)は、飼育開始時(すなわち単位期間開始時)の飼育槽内に供給される海水の温度である。例えば、過去の水温の実測値や当該実測値から統計的に予想された値、または、単位期間開始時に実際に測定された値に設定される。
【0029】
[1-2]殻長
殻長(mm)は、飼育開始時のアワビの殻長(すなわち初期値)である。例えば2個以上のアワビにおける平均値や任意の1個のアワビにおける殻長に設定される。
【0030】
[1-3]飼育数
飼育数は、飼育開始時に飼育槽内に収容するアワビの個数(すなわち初期値)である。
【0031】
[1-4]飼育面積
飼育面積(m)は、飼育槽における底面の面積である。
【0032】
[1-5]使用水量
使用水量(ton/hr)は、飼育槽に1時間あたりに供給される海水の量である。
【0033】
以上の説明から理解される通り、第1実施形態の飼育パラメータは、飼育開始時における飼育槽に関するパラメータ(例えば飼育水温、飼育面積、使用水量)、および、飼育開始時におけるアワビの状態に関するパラメータ(例えば殻長、飼育数)を含む。
【0034】
飼育パラメータは、飼育管理者からの指示に応じて設定される。飼育管理者は、操作装置17に対する操作により飼育パラメータを指示する。
【0035】
[1-6]肥満度
肥満度は、単位期間におけるアワビの肥満の度合い示す指標である。殻に対して身が充実していれば肥満度の値が大きくなる。アワビの肥満度は、種類や時期によって異なり、体重g/(殻長cm)^αに応じて特定される。なお、以下の説明においては、「^」は冪乗演算子を表す。アワビの場合には、例えばαは3が採用される。アワビの肥満度は、例えば0.11~0.15の任意の値に設定される。単位期間開始時の時期やアワビの種類を考慮して肥満度が設定される。飼育管理者からの指示に応じて事前に肥満度が設定される。
【0036】
<環境パラメータ>
環境パラメータは、アワビが飼育される飼育槽内の環境を表すパラメータである。第1実施形態の環境パラメータは、以下の[2-1]~[2-4]の値を含む。
[2-1]飼育密度
[2-2]酸素消費量
[2-3]総酸素量
[2-4]酸素残存率
【0037】
[2-1]飼育密度
飼育密度(%)は、飼育面積に対して全アワビの殻の総面積(全アワビにおける殻の合計)が占める割合である。例えば、飼育面積で全アワビの殻の総面積を除算した値(全アワビの殻の総面積/飼育面積)に応じて飼育密度が算定される。
【0038】
[2-2]酸素消費量
酸素消費量(l/hr)は、全アワビが1時間あたりに消費する酸素の消費量であり、飼育水温と、後述する個体重および総重量とに応じて算定される。例えば、公知の任意の数式「酸素消費量=1.3×0.02×個体重^0.8×1.1^飼育水温/個体重×総重量」を用いて酸素消費量が特定される。個体重および総重量については、後述する。
【0039】
[2-3]総酸素量
総酸素量(l/hr)は、1時間あたりに飼育槽に供給される溶存酸素量であり、使用水量と飼育水温とに応じて算定される。例えば、数式「総酸素量=酸素飽和度×使用水量×飽和溶存酸素量」を用いて総酸素量が算定される。酸素飽和度は、飼育水として使用する海水の酸素飽和度であり、例えば0.85~0.93である。
【0040】
飽和溶存酸素量は、以下の通りに算定する。ここで、海水(塩素量19‰,1気圧)の飽和溶存酸素量(ml/L)は、水温0℃で8.08であり、水温が高くなるとともに低下して水温30℃で4.52になることが知られている(参照“CAMBRIDGE AT THE UNIVERSITY PRESS 1969 THE CHEMISTRY AND FERTILITY of SEA WATERS”)。そこで、本発明では、水温0℃における海水の飽和溶存酸素量を基準として、水温が高くなるにつれて基準から低下するように算定できる数式「水温0℃における海水の飽和溶存酸素量-((水温0℃における海水の飽和溶存酸素量-水温30℃における海水の飽和溶存酸素量)×(飼育水温/30)^γ)」を用いて、飼育水温における飽和溶存酸素量が算定される。水温0℃と30℃とにおける飽和溶存酸素量は、上記の既知の値(0℃:8.08,30℃:4.52)を使用する。なお、γは、調整係数であり、例えば0.4~0.8の値(好ましくは0.7)である。例えば、飼育水温が15℃であり、γを0.7とした場合、飽和溶存酸素量は、5.89(=8.08-((8.08-4.52)*(15/30)^0.7))となる。
【0041】
以上の数式を用いて飽和溶存酸素量を算定する構成によれば、従来の公知の数式(例えば「飽和溶存酸素量(mg/L)=14.161-0.3943t+0.007714t2-0.0000646t3-S(0.0841-0.00356t+0.0000374t2)」,t:水温 S:塩分)を用いて飽和溶存酸素量を特定する構成と比較して、簡便な数式で飽和溶存酸素量を算定することができる。ただし、総酸素量を算定する方法は、以上の例示に限定されない。公知の数式を採用して総酸素量を算定してもよい。
【0042】
[2-4]酸素残率
酸素残率(%)は、総酸素量中の酸素の残率であり、酸素消費量と総酸素量とに応じて算定される。具体的には、「(総酸素量-酸素消費量)/総酸素量」に応じて算定される。
【0043】
<成育パラメータ>
成育パラメータは、アワビの成育状態に関するパラメータである。具体的には、成育パラメータは、単位期間経過時における成育の度合いを示す指標である。第1実施形態の成育パラメータは、以下の[3-1]~[3-10]の値を含む。
[3-1]成長量
[3-2]摂餌効率
[3-3]摂餌量
[3-4]斃死率
[3-5]生残率
[3-6]生残個数
[3-7]個体重
[3-8]総重量
[3-9]増重量
[3-10]摂餌率
【0044】
[3-1]成長量
成長量(mm)は、単位期間における殻長の伸びを表す。具体的には、成長量は、第1変数と第2変数と第3変数とに応じて算定される。
【0045】
第1変数は、飼育水温と生物学的零度との差異(飼育水温-生物学的零度)である。生物学的零度は、低温側において発生速度が0となる(すなわち成長ができなくなる)水温である。アワビの場合には、生物学的零度は例えば3~10℃の範囲内の任意の値が採用される。
【0046】
第2変数は、成長限界高水温と飼育水温との差異を成長限界高水温で除算した値((成長限界高水温-飼育水温)/成長限界高水温)である。成長限界高水温は、高温側において発生速度が0となる(すなわち成長ができなくなる)水温である。アワビの場合には、成長限界高水温として、例えば25~30℃の範囲内の任意の値が採用される。
【0047】
第3変数は、成長限界殻長と現在の殻長との差異を成長限界殻長で除算した値((成長限界殻長-殻長)/成長限界殻長)である。成長限界殻長は、成長が止まる殻長(最大に成長した状態の殻長)である。第1実施形態において、現在の殻長は、単位期間開始時の殻長(初期値)である。アワビの場合には、成長限界殻長として、例えば130~180mmの任意の値が採用される。
【0048】
生物学的零度、成長限界高水温および成長限界殻長は、事前に飼育管理者により設定される。
【0049】
第1実施系形態では、第1変数に応じた値(以下「第1指標」という)と、第2変数に応じた値(以下「第2指標」という)と、第3変数に応じた値(以下「第3指標」という)とを乗算することで、成長量が算定される。
【0050】
第1実施形態において、第1指標は、第1係数を冪指数とする第1変数の冪乗(第1変数^第1係数)であり、第2指標は、第2係数を冪指数とする第2変数の冪乗(第2変数^第2係数)であり、第3指標は、第3係数を冪指数とする第3変数の冪乗(第3変数^第3係数)である場合を例示する。
【0051】
以上を踏まえると、例えば、以下の式(1)を用いて成長量が算定される。
【0052】
成長量=期間係数×成長係数×(飼育水温-生物学的零度)^第1係数×((成長限界殻長-現在の殻長)/成長限界殻長)^第3係数×((成長限界高水温-飼育水温)/成長限界高水温)^第2係数・・・(1)
【0053】
成長量における第1係数、第2係数および第3係数とは、以下の通りである。第1係数は、低水温側での曲率を調整する係数であり、例えば0.8~2.0の範囲内の任意の値に設定される。第2係数は、高水温側での曲率を調節する係数であり、例えば0.5~1.5の範囲内の任意の値に設定される。第3係数は、殻長が大きくなるほど成長しにくくするための係数であり、例えば0.1~0.5の範囲内の任意の値に設定される。成長量における第1係数、第2係数および第3係数は、事前に飼育管理者により設定される。すなわち、飼育管理者からの指示に応じて、第1係数と第2係数と第3係数とを個別に調整可能である。
【0054】
第1実施形態では、式(1)から把握される通り、第1指標と第2指標と第3指標とを乗算した値に、さらに日数と成長係数とを乗算することで、成長量が算出される。成長係数は、成長量の基礎となる係数であり、例えば5~50の範囲内の任意の値に成長係数が設定される。期間係数は、単位期間の日数に応じた値である。例えば、単位期間が一ヶ月の場合には、0.03が採用される。
【0055】
例えば、単位期間が1ヶ月で飼育水温が10℃であり、成長係数が27であり、生物学的零度が7.5であり、成長限界殻長が140であり、現在の殻長が15mmであり、成長限界高水温が27.01であり、第1係数が1.2であり、第2係数が1であり、第3係数が0.25である場合には、成長量は1.5(=0.03*27*(10-7.5)^1.2*((140-15)/140)^0.25*((27.01-10)/27.01)^1)になる。
【0056】
ただし、第1指標と第2指標と第3指標とを乗算した値に対して乗算する係数は、成長係数および日数には限定されない。例えば、日数と成長係数との双方を加味した係数などを、第1指標と第2指標と第3指標とを乗算した値に乗算してもよい。
【0057】
また、第1指標と第2指標と第3指標とを乗算した値にその他の任意の係数を四則演算(乗算、除算、減算または加算)することで、成長量を算定してもよい。例えば、飼育密度に関する係数(以下「飼育密度係数」という)を第1指標と第2指標と第3指標とを乗算した値に乗算してもよい。
【0058】
飼育密度係数は、例えば飼育密度が高くなるにつれて小さくなるように設定される係数である。例えば、飼育密度が許容範囲内(例えば100%未満)である場合には1が飼育密度係数として設定される。一方で、飼育密度が許容範囲外(例えば100%以上)である場合には、当該飼育密度に応じた数値(1未満の数値)が飼育密度係数として設定される。飼育密度が許容範囲外である場合の飼育密度係数は、例えば「1/飼育密度^密度定数」を用いて算定される。密度定数は、例えば0.5~4.0の範囲内の任意の値に設定される。飼育管理者からの指示に応じて事前に密度定数が設定される。
【0059】
式(1)から算定される成長量は、飼育水温が生物学的零度に近づいた場合、飼育水温が成長限界高水温に近づいた場合、または、殻長が成長限界殻長に近づいた場合に小さくなるように算定される。飼育水温が生物学的零度と成長限界高水温との間にある場合に成長し、かつ、殻長が成長限界殻長に近づいた場合に徐々に小さくなるように成長量が算定される、とも換言される。例えば、エゾアワビの場合には、生物学的零度7.6℃以上から成長限界水温27.01℃以下の範囲内で成長が進行し、最大殻長15cmで徐々に成長が止まるように成長量が算定される。成長量を縦軸として飼育水温を横軸とした場合に、式(1)から算定される成長量は弾道状の曲線を描く。
【0060】
[3-2]摂餌効率
摂餌効率は、摂餌量が重量の増加に寄与した割合(増重量/摂餌量)を示す指標である。本発明では、実際の摂餌量(すなわち実測値)を使用することなく、摂餌効率を算定可能である。なお、成長量と摂餌効率とは、アワビの成長の度合いを示す「成長指標」の一例である。
【0061】
摂餌効率は、成長量の算定と同様に、第1変数と第2変数と第3変数とに応じて算定される。第1変数と第2変数と第3変数とは、成長量において上述した通りである。
【0062】
また、成長量の算定と同様に、第1指標(第1変数^第1係数)と、第2指標(第2変数^第2係数)と、第3指標(第3変数^第3係数)とを乗算することで、摂餌効率が算定される。第1指標と第2指標と第3指標とは、成長量において上述した通りである。
【0063】
以上を踏まえると、例えば、以下の式(2)を用いて摂餌効率が算定される。
【0064】
摂餌効率=摂餌係数×(飼育水温-生物学的零度)^第1係数×((成長限界殻長-現在の殻長)/成長限界殻長)^第3係数×((成長限界高水温-飼育水温)/成長限界高水温)^第2係数・・・(2)
【0065】
摂餌効率における第1係数、第2係数および第3係数とは、以下の通りである。第1係数は、低水温側での曲率を調整する係数であり、例えば0.2~0.6の範囲内の任意の値に設定される。第2係数は、高水温側での曲率を調節する係数であり、例えば0.25~0.60の範囲内の任意の値に設定される。第3係数は、殻長が大きくなるほど成長しにくくするための係数であり、例えば0.1~0.5の範囲内の任意の値に設定される。摂餌効率における第1係数、第2係数および第3係数は、事前に飼育管理者により設定される。すなわち、飼育管理者からの指示に応じて、第1係数と第2係数と第3係数とを個別に調整可能である。なお、成長量の式(1)において用いられる第1係数と第2係数と第3係数と、摂餌効率の式(2)において用いられる第1係数と第2係数と第3係数との異同は不問である。
【0066】
第1実施形態では、式(2)から把握される通り、第1指標と第2指標と第3指標とを乗算した値に、さらに摂餌係数とを乗算することで、摂餌効率が算出される。摂餌係数は、摂餌効率の基礎となる係数であり、例えば0.5~1.2の範囲内の任意の値に摂餌係数が設定される。
【0067】
例えば、例えば、単位期間が1ヶ月で飼育水温が10℃であり、摂餌係数が0.8であり、生物学的零度が7.5であり、成長限界殻長が140であり、現在の殻長が15mmであり、成長限界高水温が27.01であり、第1係数が0.4であり、第2係数が0.5であり、第3係数が0.20である場合には、摂餌効率は90%(=0.8*(10-7.5)^0.4*((140-15)/140)^0.20*((27.01-10)/27.01)^0.5*100)である。
【0068】
ただし、摂餌係数以外の係数を第1指標と第2指標と第3指標とを乗算した値に四則演算(乗算、除算、減算または加算)することで、摂餌効率を算定してもよい。例えば、飼育密度係数に応じた係数を、第1指標と第2指標と第3指標とを乗算した値に乗算してもよい。例えば、飼育密度係数が小さいほど(すなわち飼育密度が大きいほど)、摂餌効率が小さくなうような係数を、第1指標と第2指標と第3指標とを乗算した値に乗算してもよい。例えば、「飼育密度係数+(1-飼育密度係数)/ω」を用いて算定される係数が採用される。ωは、例えば0.5~4.0の範囲内の任意の値に設定される。
【0069】
式(2)から算定される摂餌効率は、式(1)から算定される成長量と同様に、飼育水温が生物学的零度に近づいた場合、飼育水温が成長限界高水温に近づいた場合、または、殻長が成長限界殻長に近づいた場合に摂餌効率が小さくなるように算定される。摂餌効率を縦軸として飼育水温を横軸とした場合に、式(2)から算定される摂餌効率は弾道状の曲線を描く。
【0070】
[3-3]摂餌量
摂餌量(Kg)は、算定した摂餌効率のもとで体重の増加に寄与した餌(配合飼料)の重量である。摂餌量は、例えば「増重量/摂餌効率」を用いて算定される。増重量については、後述するが、「(単位期間経過時の体重-単位期間開始時の体重)×個数」を用いて算定される。増重量/摂餌効率に任意の係数δを四則演算(乗算、除算、減算または加算)することで、摂餌量を算定してもよい。
【0071】
ここで、飼育水温が高くなると(例えば22℃以上になると)、餌から成分の溶出が多くなる(すなわち餌から成長に必要な成分が減少する)という傾向がある。そこで、例えば、飼育水温が所定の閾値(例えば22℃)を上回る場合に、餌から溶出すると想定される成分の量を考慮した数値を加算してもよい。さらに、殻長が大きいほど餌を食散らす傾向がある。したがって、所定の係数δは、例えば、殻長(初期値)に応じた値に設定される。例えば、「総重量×殻長(初期値)×β/100」を用いて所定の係数δが設定される。βは、例えば0.1~0.01の範囲内の任意の値(例えば0.05)である。以上の説明から理解される通り、飼育水温が所定の閾値を上回る場合には、殻長(初期値)に比例して大きくなる係数δを加味して摂餌量(Kg)が算定される。
【0072】
[3-4]斃死率
斃死率(%)は、単位期間経過時おいて飼育数に対して斃死すると推定される個数の割合であり、例えば実測値をもとに特定された斃死率に応じて算定される。第1実施形態では、斃死率(実測値)と飼育密度と応じて算定される。具体的には、飼育密度が高くなるほど、斃死率が斃死率(実測値)の値よりも大きくなように算定される。例えば、「斃死率(実測値)/飼育密度係数^斃死定数」を用いて算定される。斃死定数は、例えば0.1~5.0の範囲内の任意の値に設定される。飼育管理者からの指示に応じて事前に斃死定数が設定される。なお、斃死率(実測値)は、時期に応じて相違するため、飼育開始時の時期を考慮して設定される。
【0073】
[3-5]生残率
生残率(%)は、単位期間経過時において飼育数に対して生残する個数の割合であり、「100-斃死率(成育パラメータ)」を用いて算定される。
【0074】
[3-6]生残個数
生残個数(個)は、単位期間経過時において生残しているアワビの個数であり、例えば「飼育数-(飼育数×斃死率)」を用いて算定される。
【0075】
[3-7]個体重
個体重(g)は、単位期間経過時におけるアワビの体重(殻の重量+身の重量)であり、「肥満度×(単位期間経過時の殻長)^α」を用いて算定される。単位期間経過時の殻長(cm)は、飼育開始時の殻長(初期値)と成長量とを加算することで算定される。なお、αは肥満度において上述した通り、アワビの場合には例えば3である。
【0076】
[3-8]総重量
総重量(Kg)は、単位期間経過時における全アワビの体重の合計であり、個体重と生残個数とを乗算することで算定される。
【0077】
[3-9]増重量
増重量(Kg)は、全アワビにおいて単位期間で増加した重量の合計であり、例えば、単位期間経過時における総重量から単位期間開始時における総重量を減算することで算定される。なお、単位期間開始時における総重量は、「肥満度×(単位期間開始時の殻長)^α」に応じて算定される。
【0078】
[3-10]摂餌率
摂餌率は(%)は、総重量に対する摂餌量の割合であり、摂餌量/総重量に応じて算定される。
【0079】
図2は、情報処理装置100の機能的な構成を例示するブロック図である。制御装置11は、記憶装置13に記憶されたプログラムを実行することで、環境パラメータおよび成育パラメータを算定するための複数の機能(環境特定部112,成育特定部114,表示制御部116)を実現する。
【0080】
環境特定部112は、飼育パラメータに応じて環境パラメータを算定する要素である。すなわち、設定された飼育パラメータのもとに飼育をした場合に予想される環境パラメータが算定される。
【0081】
成育特定部114は、飼育パラメータに応じて成育パラメータを算定する要素である。すなわち、設定された飼育パラメータのもとに飼育をした場合に予想される成育パラメータが算定される。
【0082】
表示制御部116は、環境特定部112が特定した環境パラメータと、成育特定部114が特定した成育パラメータとを表示装置15に表示させる。なお、環境パラメータと成育パラメータとともに、設定した飼育パラメータも表示させてもよい。
【0083】
以上の説明から理解される通り、第1実施形態では、飼育パラメータに応じて環境パラメータと成育パラメータとが算定される。すなわち、設定された飼育パラメータのもとに飼育をした場合に予想される環境パラメータと成育パラメータとを確認することができる。したがって、飼育管理者は、環境パラメータおよび成育パラメータをもとに現状の飼育の管理が適切か否かを客観的に判断することができる。例えば、飼育開始時の飼育パラメータから算定された摂餌量(成育パラメータ)から現状の給餌量が適切であるか否か、飼育パラメータから算定された成長量(成育パラメータ)が所望する量であるか否か、または、飼育開始時の飼育パラメータから算定された酸素残存量(環境パラメータ)から使用水量が適切であるか否かなどを判断することが可能になる。
【0084】
なお、第1実施形態では、環境パラメータおよび成育パラメータの双方を算定する構成を例示したが、環境パラメータおよび成育パラメータの何れか一方を特定してもよい。
【0085】
第1実施形態では、第1変数(飼育水温-生物学的零度)と、第2変数((成長限界高水温-飼育水温)/成長限界高水温)と、第3変数((成長限界殻長-殻長)/成長限界殻長)とに応じて、成長指標(成長量,摂餌効率)が算定される。したがって、飼育水温が生物学的零度に近づいた場合、飼育水温が成長限界高水温に近づいた場合、または、殻長が成長限界殻長に近づいた場合に、成長指標が小さくなるように算定される。したがって、実際の養殖における実測値の傾向を踏まえて、成長指標が算定できる。
【0086】
第1実施形態では、飼育管理者からの指示に応じて、成長量と摂餌効率との算定に用いられる第1係数と第2係数と第3係数とを個別に調整可能である。すなわち、第1係数と第2係数と第3係数とを実測値に近づくように適宜に調整することが可能になる。ひいては、シミュレータの精度を実測値にもとづき向上させることができる。なお、斃死率の算定に用いられる斃死定数および飼育密度係数の算定に用いられる密度定数についても飼育管理者からの指示に応じて調整可能である。
【0087】
<第2実施形態>
第2実施形態では、成育パラメータの時系列(以下「成育時系列」という)と環境パラメータの時系列(以下「環境時系列」という)とを算定する構成を例示する。図3は、第2実施形態の情報処理装置100が生成する成育時系列と環境時系列との模式図である。
【0088】
成育時系列は、単位期間毎に算定された成育パラメータの時系列である。同様に、成育時系列は、単位期間毎に算定された環境パラメータの時系列である。図3に例示される通り、第2実施形態では、一ヶ月を単位期間として、1年間(12ヶ月間)にわたる時系列(成育時系列,環境時系列)を算定した場合を例示する。なお、単位期間は任意であり、例えば一週間や一日であってもよい。また、時系列を生成する期間も任意であり、例えば数週間や数日であってもよい。図3では、12月を飼育開始の月として指定した場合を想定する。
【0089】
飼育パラメータは、第1実施形態と同様に、[1-1]飼育水温、[1-2]殻長(初期値)、[1-3]飼育数(初期値)、[1-4]飼育面積、[1-5]使用水量、および、[1-6]肥満度を含む。[1-1]飼育水温は、時期毎に相違するため、月毎に異なる値が設定され得る。[1-2]殻長(初期値)は、12月における飼育開始時の殻長(すなわち殻長の初期値)に設定される。図3の例示では、12月の月初殻長が飼育開始時の殻長に相当する。また、[1-6]肥満度は、第1実施形態で上述した通り、時期毎に相違するため、各月ごとに相違する値が設定され得る。
【0090】
環境パラメータは、第1実施形態と同様に、[2-1]飼育密度、[2-2]酸素消費量、[2-3]総酸素量、および、[2-4]酸素残存率を含む。なお、[2-1]飼育密度は、月初の生残個数を用いて算定される。すなわち、前月について算定された生残個数を用いて[2-1]飼育密度が算定される。
【0091】
成育パラメータは、第1実施形態と同様に、[3-1]成長量、[3-2]摂餌効率、[3-3]摂餌量、[3-4]斃死率、[3-5]生残率、[3-6]生残個数、[3-7]個体重、[3-8]総重量、[3-9]増重量、および、[3-10]摂餌率を含む。さらに、第2実施形態では、[3-11]月初殻長と、[3-12]総摂餌量とを含む。
【0092】
[3-11]月初殻長は、1月以降の各月における月初の殻長であり、前月の月初殻長に前月の成長量を加算することで算定される。[3-12]総摂餌量は、飼育開始月(12月)から当月までの摂餌量の合計である。
【0093】
なお、[3-1]成長量および[3-2]摂餌効率に用いられる第1係数と第2係数と第3係数と第1係数と第2係数と第3係数とは、各月にわたり共通の値が用いられる。また、[3-4]斃死率の算定に使用される斃死率(実測値)は、第1実施形態で上述した通り、時期毎に相違するため、各月ごとに相違する値が採用され得る。[3-9]増重量については、当月について算定された総重量から前月について算定された総重量を減算することで算定される。
【0094】
成育時系列は、成育特定部114により算定され、環境時系列は、環境特定部112により特定される。そして、成育時系列と環境時系列とは、表示制御部116により表示装置15に表示される。成育時系列と環境時系列とを表示する態様は任意である。
【0095】
第2実施形態では、成育時系列と環境時系列とが算定されるから、経時的な成育パラメータと環境パラメータの変化を確認することができるという利点がある。なお、成育時系列は、1年間にわたる生産計画であるとも換言できる。
【0096】
なお、表示制御部116は、飼育管理者から飼育を開始する月を指定する操作を受け付けた場合に、当該指定された月を時系列の先頭になるように各月を並べ替えて表示してもよい。例えば、12月が時系列の先頭にきている図3の状態から、3月が飼育を開始する月として指定された場合には、3月が先頭になるように時系列を並べ替える。
【0097】
また、表示制御部116は、時系列のうち特定の月(飼育開始月から特定の期間経過後の月)について当該時系列とは別態様で表示させてもよい。例えば、特定の月(例えば時系列の中で特に注視したい月)を指定する指示を飼育管理者から受け付けた場合には、当該特定の月について別態様で表示させる。例えば、表示装置15における時系列を表示する部分とは別の部分に特定の月の成育パラメータと環境パラメータとが表示される。例えば、飼育開始月(12月)から5か月経過時点の月(すなわち4月)が指定された場合には、4月について特定された成育パラメータと環境パラメータとを、時系列が表示される部分とは別の部分に表示させる。
【0098】
さらに、表示制御部116は、成育パラメータが所定の範囲(以下「第1範囲」という)の内側にある場合と当該第1範囲の外側にある場合とで、成育パラメータの表示態様を異ならせてもよい。図3では、飼育密度について、第1範囲の内側と外側とで表示態様を異ならせた場合を例示する。例えば、飼育密度が100%以上130%以下の範囲にある場合には、特定の記号△を付した状態で飼育密度が表示され、さらに、飼育密度が130%より大きい範囲にある場合には、記号△とは異なる記号×を付した状態で飼育密度が表示される。すなわち、相異なる複数の第1範囲が設定されてもよい。
【0099】
第1範囲の内外で成育パラメータの表示態様を異ならせる構成によれば、例えば、事前に注意すべき(適切でないと推測される)第1範囲を設定することで、飼育管理者が視覚的に成育パラメータの妥当性を評価しやすくなるという利点がある。以上の構成は、第1実施形態においても採用される。
【0100】
同様に、表示制御部116は、環境パラメータが所定の範囲(以下「第2範囲」という)の内側にある場合と当該第2範囲の外側にある場合とで、環境パラメータの表示態様を異ならせてもよい。図3では、酸素残存率について、第2範囲の内側と外側とで表示態様を異ならせた場合を例示する。例えば、酸素残存率が60%以上80%以下の範囲にある場合には、酸素残存率を表示する部分(セル)を所定の第1網掛けを付した状態で酸素残存率が表示され、さらに、酸素残存率が0%以上60%未満の範囲にある場合には、第1網掛けとは異なる第2網掛けを付した状態で酸素残存率が表示される。すなわち、相異なる複数の第2範囲が設定されてもよい。
【0101】
第2範囲の内外で環境パラメータの表示態様を異ならせる構成によれば、例えば、事前に注意すべき(適切でないと推測される)第2範囲を設定することで、飼育管理者が視覚的に環境パラメータの妥当性を評価しやすくなるという利点がある。以上の構成は、第1実施形態においても採用される。
【0102】
<変形例>
以上に例示した各形態は多様に変形され得る。前述の各形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0103】
(1)飼育パラメータは、前述の各形態の例示には限定されない。飼育パラメータには、養殖対象となる水産生物の種類に応じて、適宜にその他の飼育条件に関する各種のパラメータが包含される。なお、飼育パラメータには、上述した[1-1]~[1-6]の各値と所定の係数とを四則演算することで算定した値を使用してもよい。
【0104】
(2)成育パラメータは、前述の各形態の例示には限定されない。成育パラメータには、養殖対象となる水産生物の種類に応じて、適宜にその他の成育状態に関する各種のパラメータが包含される。
【0105】
(3)環境パラメータは、前述の各形態の例示には限定されない。環境パラメータには、養殖対象となる水産生物の種類に応じて、適宜にその他の飼育槽の環境に関する各種のパラメータが包含される。
【0106】
(4)前述の各形態において、成育パラメータとして、単位期間経過時における殻長の分布(正規分布)を算定してもよい。殻長の分布は、標準偏差および殻長の平均のもとで算定される確率分布である。連続する複数の区間(例えば5mmの区間)の各々について、全体の個数のうち当該区間内にある殻長を有する個数の割合が算出される。
【0107】
標準偏差は、殻長の成長に応じて大きくなるように算定され、例えば、「1+(飼育開始時の殻長-飼育可能殻長)×定数σ+径時変数+成長変数」を用いて算定される。飼育開始時の殻長は、複数の単位期間の時系列において単位間毎に殻長の分布を算定する場合には、最先の単位期間開始時における殻長(初期値)である。シミュレーション上での飼育可能殻長は、配合飼料での飼育が可能となる殻長であり、例えばアワビの場合には7.5mm程度に設定される。
【0108】
径時変数は、飼育開始時からの日数(すなわち飼育開始時から単位期間経過時までの日数)が経過するにつれて標準偏差が大きくなるように作用する変数であり、例えば、日数に応じた指標に所定の定数(例えば0.1~0.3の範囲内の任意の値)を乗算することで算定される。日数に応じた指標は、例えば、標準偏差を算定する単位期間が飼育開始時から6か月経過した月である場合は6に設定される。
【0109】
成長変数は、アワビの成長にともなって標準偏差を大きくするように作用する変数であり、例えば、単位期間経過時の殻長(単位期間開始時の殻長+当該単位期間における成長量)を所定の定数(例えば30~50の範囲内の任意の数値)で除算することで算定される。定数σは、例えば0.01~0.03の範囲内の任意の数値(アワビの場合には0.02)に設定される。
【0110】
殻長の平均は、単位期間開始の殻長と、当該単位期間における成長量とを加算することで算出される。
【0111】
(5)前述の各形態では、単位期間における摂餌率を算定したが、成育パラメータとして日間の摂餌率を算定してもよい。日間の摂餌率の算定の方法は、例えば以下の通りである。摂餌率は、上述した通り、総重量に対する摂餌量の割合(摂餌量/総重量)である。まず、増重量と摂餌効率と摂餌量とは、関係式「摂餌量=増重量/摂餌効率」が成立する。そして、増重量は、「増重量=((殻長+成長量)^α-(殻長)^α)×肥満度」で算定できる。また、個体重は、上述した通り、「個体重=肥満度×(殻長)^α」で算定できる。これらの式を組み合わせることで、日間の摂餌率を「日間の摂餌率=(((殻長+成長量)^α-殻長^α)/投餌日数/殻長^α)/摂餌効率」を用いて算定できる。日間の摂餌率は、単位期間における増重量を単位期間における標準の投餌日数(例えば22)で除した日間の増重量を、摂餌効率で除した摂餌量を用いて算定される。
【0112】
(6)前述の各形態では、単位期間における摂餌量を算定したが、成育パラメータとして、日間の摂餌量を算定してもよい。日間の摂餌量は、日間の摂餌率と総重量とを乗算(摂餌率×総重量)することで算定できる。総重量は、固体重×飼育数である。なお、前述した各計算式内において、使用する値(パラメータ)の単位は適宜に変換(例えばmmをcmに変換など)した上で使用する。したがって、上述した各数式は、単位を補正する値を加味して使用する。
【0113】
(7)前述の各形態では、かけ流し式の養殖において使用される情報処理装置100を例示したが、情報処理装置100が使用される養殖方法は以上の例示には限定されない。例えば、半閉鎖循環式(半循環式)や閉鎖循環式(完全循環式)の養殖において情報処理装置100を用いてもよい。
【0114】
かけ流し式の場合には、飼育パラメータとして[1-1]~[1-6]の指標を使用したが、半閉鎖循環式や閉鎖循環式の場合には、採用する飼育パラメータを適宜に変更し得る。半閉鎖循環式の場合には、例えば、飼育パラメータである[1-5]使用水量を、新たに供給する新鮮な海水の水量と、循環する水量とに分けて設定する。閉鎖循環式の場合には、[1-5]使用水量は循環させる水量に相当する。
【0115】
また、循環式の場合には、飼育槽内で発生するアンモニア等の窒素化合物がアワビの成育に影響し得る。したがって、窒素化合物の生成量を加味して各成育パラメータを算定する構成が好適である。
【0116】
(8)前述の各形態では、アワビを水産生物として例示したが、養殖対象となる水産生物は以上の例示には限定されない。例えば、魚類(例えばヒラメ)の養殖について情報処理装置100を使用してもよい。ただし、養殖対象となる水産生物の種類に応じて、各パラメータ(飼育パラメータ,環境パラメータ,成育パラメータ)は適宜に変更し得る。
なお、各係数(第1係数,第2係数,第3係数,摂餌係数,密度定数,成長係数,斃死定数など)についても、養殖対象となる水産生物の種類に応じて適宜に変更し得る。
【0117】
(9)前述の各形態において上述した各係数(第1係数,第2係数,第3係数,摂餌係数,密度定数,成長係数,斃死定数など)は、個別に調整可能である。以上の係数は、実際の飼育現場における実際の摂餌量(実測値)や成長量(実測値)から算定した成長量(計算値)や摂餌効率(計算値)を確認することで、適宜に調整される。シミュレータの精度が実測値に近づくように、各係数を調整される。
【0118】
なお、成長量(計算値)は、例えば、「増重量=((殻長+成長量)^α-(殻長)^α)×肥満度」の式と、「増重量=摂餌量×摂餌効率」の式とを組み合わせた「成長量=(((摂餌量×摂餌日数×摂餌効率)/個数+個体重)/肥満度)^(1/α)-殻長」を用いて算定される。摂餌量および殻長は、実測値である。摂餌日数は、単位期間における標準の投餌日数(例えば22)である。個体重は、実際の殻長と肥満度とから算定される。そして、摂餌効率については、成育パラメータの[3-2]摂餌効率で例示した方法で算定される計算値である。
【0119】
摂餌効率(計算値)は、例えば、「増重量(実測値)/摂餌量(実測値)」で算定される。以上の通り、実測値を踏まえて算定した計算値を踏まえて各係数を調整することがシミュレータの精度を向上させる観点からは重要である。
【0120】
(10)本発明は、以上に例示した各態様の情報処理装置100が実行する方法として、殖対象となる水産生物の飼育条件に関する飼育パラメータに応じて、水産生物の成育状態に関する成育パラメータを算定し、成育パラメータを表示するシミュレート方法としても観念できる。
【0121】
(11)本発明は、以上に例示した各態様の情報処理装置100(コンピュータの例示)が実行するプログラムとしても観念できる。
【符号の説明】
【0122】
11 :制御装置
13 :記憶装置
15 :表示装置
17 :操作装置
100 :情報処理装置
112 :環境特定部
114 :成育特定部
116 :表示制御部

図1
図2
図3