(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157632
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】セルロース含有微粒子及びその製造方法並びに化粧品
(51)【国際特許分類】
C08B 15/04 20060101AFI20241031BHJP
C08B 15/05 20060101ALI20241031BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20241031BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08B15/04
C08B15/05
A61K8/73
A61Q1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072085
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168893
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 正路
(72)【発明者】
【氏名】後藤 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】松木 詩路士
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 涼
【テーマコード(参考)】
4C083
4C090
【Fターム(参考)】
4C083AD261
4C083AD262
4C083BB25
4C083BB26
4C083CC01
4C083CC02
4C083DD50
4C083EE50
4C083FF01
4C090AA05
4C090AA08
4C090BA27
4C090BB94
4C090BD19
4C090BD23
4C090BD24
4C090BD31
4C090BD33
4C090BD35
4C090CA19
4C090CA34
4C090CA38
4C090DA26
(57)【要約】
【課題】セルロース微粒子等の提供。
【解決手段】セルロースを含む微粒子であって、前記セルロースが、I型結晶構造を有し、前記セルロースが、30~500の粘度平均重合度を有し、前記セルロースが、アニオン変性基を有し、前記アニオン変性基が、プロトン又は2価以上のカチオンを有する、微粒子。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを含む微粒子であって、
前記セルロースが、I型結晶構造を有し、
前記セルロースが、30~500の粘度平均重合度を有し、
前記セルロースが、アニオン変性基を有し、前記アニオン変性基が、プロトン又は2価以上のカチオンを有する、
微粒子。
【請求項2】
前記セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物であり、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、請求項1に記載の微粒子。
【請求項3】
前記セルロースが、多価カルボン酸で変性されている、請求項1に記載の微粒子。
【請求項4】
前記アニオン変性基が、カルボキシ基であって、
前記セルロースが、多価カルボン酸及び/又はリン酸で変性されている、請求項1に記載の微粒子。
【請求項5】
前記微粒子が、0.1~200μmの平均粒子径を有する、請求項1に記載の微粒子。
【請求項6】
前記微粒子を純水中に30分間静置したとき、前記微粒子が、0.5~1の平均円形度を有する、請求項1に記載の微粒子。
【請求項7】
前記微粒子を170℃でスプレードライ乾燥させたとき、前記微粒子が、1~10倍の吸水倍率を有する、請求項1に記載の微粒子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の微粒子を含む、化粧品。
【請求項9】
請求項1に記載の微粒子の製造方法であって、
セルロースの分散液を噴霧乾燥して、前記セルロースを含む微粒子を得る工程を含み、 前記分散液に含まれるセルロースが、I型結晶構造を有し、
前記分散液に含まれるセルロースが、30~500の粘度平均重合度を有し、
前記分散液に含まれるセルロースが、アニオン変性基を有し、前記アニオン変性基が、プロトン又は2価以上のカチオンを有する、
製造方法。
【請求項10】
セルロースを含む微粒子の製造方法であって、
セルロースの分散液を噴霧乾燥して、前記セルロースを含む微粒子を得る工程を含み、
前記セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物であり、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まず、
下記条件1~3の少なくとも1つ:
条件1:前記分散液のpHが1.5~5.8である;
条件2:前記分散液に含まれる前記セルロースが多価カルボン酸及び/又はリン酸で変性されている;
条件3:前記分散液に含まれる前記セルロースがカルボキシ基を有し、前記カルボキシ基が、プロトン又は2価以上のカチオンを有する;
を満たす、製造方法。
【請求項11】
前記分散液に含まれる前記セルロースが、I型結晶構造を有する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記分散液に含まれる前記セルロースが、30~500の粘度平均重合度を有する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
前記分散液に含まれる前記セルロースが、解繊処理されていないセルロースを含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
前記微粒子に含まれる前記セルロースが、ナノセルロースを含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記分散液に含まれる前記セルロースの量が、前記分散液の質量を基準として、0.1~30質量%である、請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースを含む微粒子及びその製造方法、並びに前記微粒子を含む化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品向け微粒子の多くは合成樹脂で製造されている。しかし、環境負荷低減、海洋マイクロプラスチック問題等の解決のため、生分解性バイオマスを利用する機運が高まっており、特にセルロース微粒子の開発が進んでいる。
【0003】
例えば、特許文献1は、「酸加水分解、アルカリ酸化分解、酵素分解、スチームエクスプロージョン分解のうちの1つまたは2つ以上の組合せ処理を原料セルロース物質に施し、脱液または加液して懸濁濃度を1.0~25%に調整し、媒体を強制攪拌させた容器内で湿式粉砕し、噴霧法にて乾燥することを特徴とする、球状セルロース粒子の製造方法。」を開示している。
【0004】
また、特許文献2は、「セルロース球状粒子をアルカリ置換してアルカリ含浸セルロースにすると共に湿潤させ、湿潤状態のアルカリ含浸セルロースに多価カルボン酸の酸無水物を加え、エステル結合を介してセルロース球状粒子のヒドロキシル基にカルボキシル基を導入することを特徴とするセルロース誘導体粒子の製造方法。」を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2976116号公報
【特許文献2】特許第4022085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載の製造方法は煩雑であるため、より簡便な方法でセルロース微粒子を製造する方法が求められている。
【0007】
本発明は、セルロース微粒子の簡便な製造方法、及び前記方法により得られる、優れた性質を有するセルロース微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等が鋭意検討した結果、セルロースを所定の条件で噴霧乾燥することにより、簡便にセルロース微粒子を製造できることを見出した。また、前記方法で得られたセルロース微粒子が優れた性質を有することを見出した。
【0009】
本発明は以下の実施形態を含む。
[1]
セルロースを含む微粒子であって、
前記セルロースが、I型結晶構造を有し、
前記セルロースが、30~500の粘度平均重合度を有し、
前記セルロースが、アニオン変性基を有し、前記アニオン変性基が、プロトン又は2価以上のカチオンを有する、
微粒子。
[2]
前記セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物であり、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まない、[1]に記載の微粒子。
[3]
前記セルロースが、多価カルボン酸で変性されている、[1]又は[2]に記載の微粒子。
[4]
前記アニオン変性基が、カルボキシ基であって、
前記セルロースが、多価カルボン酸及び/又はリン酸で変性されている、[1]~[3]のいずれかに記載の微粒子。
[5]
前記微粒子が、0.1~200μmの平均粒子径を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の微粒子。
[6]
前記微粒子を純水中に30分間静置したとき、前記微粒子が、0.5~1の平均円形度を有する、[1]~[5]のいずれかに記載の微粒子。
[7]
前記微粒子を170℃でスプレードライ乾燥させたとき、前記微粒子が、1~10倍の吸水倍率を有する、[1]~[6]のいずれかに記載の微粒子。
[8]
[1]~[7]のいずれかに記載の微粒子を含む、化粧品。
[9]
[1]~[7]のいずれかに記載の微粒子の製造方法であって、
セルロースの分散液を噴霧乾燥して、前記セルロースを含む微粒子を得る工程を含み、 前記分散液に含まれるセルロースが、I型結晶構造を有し、
前記分散液に含まれるセルロースが、30~500の粘度平均重合度を有し、
前記分散液に含まれるセルロースが、アニオン変性基を有し、前記アニオン変性基が、プロトン又は2価以上のカチオンを有する、
製造方法。
[10]
セルロースを含む微粒子の製造方法であって、
セルロースの分散液を噴霧乾燥して、前記セルロースを含む微粒子を得る工程を含み、
前記セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物であり、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まず、
下記条件1~3の少なくとも1つ:
条件1:前記分散液のpHが1.5~5.8である;
条件2:前記分散液に含まれる前記セルロースが多価カルボン酸及び/又はリン酸で変性されている;
条件3:前記分散液に含まれる前記セルロースがカルボキシ基を有し、前記カルボキシ基が、プロトン又は2価以上のカチオンを有する;
を満たす、製造方法。
[11]
前記分散液に含まれる前記セルロースが、I型結晶構造を有する、[10]に記載の製造方法。
[12]
前記分散液に含まれる前記セルロースが、30~500の粘度平均重合度を有する、[10]又は[11]に記載の製造方法。
[13]
前記分散液に含まれる前記セルロースが、解繊処理されていないセルロースを含む、[10]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14]
前記微粒子に含まれる前記セルロースが、ナノセルロースを含む、[10]~[13]のいずれかに記載の製造方法。
[15]
前記分散液に含まれる前記セルロースの量が、前記分散液の質量を基準として、0.1~30質量%である、[10]~[14]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セルロース微粒子の簡便な製造方法、及び前記方法により得られる、優れた性質を有するセルロース微粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1のセルロース微粒子の顕微鏡写真を示す。
【
図2】
図2は、実施例2のセルロース微粒子の顕微鏡写真を示す。
【
図3】
図3は、比較例1のセルロース微粒子の顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
<定義>
本明細書において、「含む」との用語は、含まれることが明示された要素に加え、それ以外の要素を含んでいてもよいことを意味する。
【0014】
本明細書において、「のみからなる」との用語は、含まれることが明示された要素のみを含むことを意味する。すなわち、当該用語は、含まれることが明示された要素以外の要素を含まないことを意味する。
【0015】
本明細書において、「から本質的になる」との用語は、含まれることが明示された要素を含み、その他の本質的な要素を含まないこと意味する。「本質的な要素」とは、本発明の本質的な特徴に実質的な影響を与える要素である。したがって、本発明の本質的な特徴に実質的な影響を与えない要素であれば含まれていてもよい。
【0016】
<セルロース微粒子>
本発明の一実施形態は、セルロースを含む微粒子(「セルロース微粒子」という。)であって、前記セルロースが、I型結晶構造を有し、30~500の粘度平均重合度を有し、前記セルロースが、アニオン変性基を有し、前記アニオン変性基が、プロトン又は2価以上のカチオンを有する、セルロース微粒子に関する。
【0017】
本実施形態に係るセルロース微粒子は、例えば、化粧品に配合されることによって、化粧品の感触を向上させることができる。
【0018】
本実施形態に係るセルロース微粒子は、乾燥状態であってもよいし、膨潤状態であってもよい。本明細書において「乾燥状態」とは、セルロース微粒子に含まれる液体の量が15質量%未満であることを意味する。本明細書において「膨潤状態」とは、セルロース微粒子に含まれる液体の量が15質量%以上であることを意味する。通常、セルロース微粒子に含まれる液体は水である。
【0019】
本実施形態に係るセルロース微粒子は、形状維持性能に優れるため、乾燥と膨潤とを繰り返しても、膨潤した際には球状になることができる。そのため、例えば化粧品に配合された際に、化粧品の感触を向上させることができる。
【0020】
[次亜塩素酸酸化]
本実施形態に係るセルロース微粒子に含まれるセルロースは、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物(酸化セルロース)であることが好ましい。
【0021】
次亜塩素酸又はその塩としては、例えば、次亜塩素酸水、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、及び次亜塩素酸アンモニウムが挙げられる。
【0022】
次亜塩素酸又はその塩の使用量は特に制限されないが、反応系の有効塩素濃度が6~43質量%となるように使用することが好ましい。有効塩素濃度は、6~14質量%の低濃度としてもよいし、14~43質量%の高濃度としてもよい。
【0023】
次亜塩素酸又はその塩の有効塩素濃度は、以下のように定義される。次亜塩素酸は水溶液として存在する弱酸であり、次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸の水素が他の陽イオンに置換された化合物である。例えば、次亜塩素酸塩である次亜塩素酸ナトリウムは溶媒中(好ましくは水溶液中)に存在するため、次亜塩素酸ナトリウムの濃度ではなく、溶液中の有効塩素量として濃度が測定される。ここで、次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素について、次亜塩素酸ナトリウムの分解により生成する2価の酸素原子の酸化力が1価の塩素の2原子当量に相当するため、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の結合塩素原子は、非結合塩素(Cl2)の2原子と同じ酸化力を持ち、有効塩素=2×(NaClO中の塩素)となる。測定の具体的な手順としては、まず試料を精秤し、水、ヨウ化カリウム及び酢酸を加えて放置し、遊離したヨウ素についてデンプン水溶液を指示薬としてチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し有効塩素濃度を測定する。
【0024】
セルロース系原料は、セルロースを主体とする材料であれば特に限定されず、例えば、パルプ、天然セルロース、及びセルロースを機械的処理することにより解重合した微細セルロース等が挙げられる。セルロース系原料としては、パルプを原料とする結晶セルロース等の市販品をそのまま使用することができる。その他、おからや大豆皮等、セルロース成分を多量に含む未利用バイオマスを原料としてもよい。
なお、植物の主成分はセルロースであり、セルロース分子が束になったものがセルロースミクロフィブリルと称される。セルロース系原料中のセルロースもまた、セルロースミクロフィブリルの形態で含まれている。
【0025】
[N-オキシル化合物]
本実施形態に係るセルロース微粒子に含まれるセルロースは、N-オキシル化合物を実質的に含まないことが好ましい。N-オキシル化合物を実質的に含まないことによって、環境や人体への影響が十分に低減されており安全性が高い。N-オキシル化合物としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)が挙げられる。
【0026】
本明細書において「N-オキシル化合物を実質的に含まない」とは、酸化セルロースを製造する際にN-オキシル化合物が用いられていない、酸化セルロース中にN-オキシル化合物が全く含まれていない、又はN-オキシル化合物の含有量が酸化セルロースの総量に対して、2.0質量ppm以下、好ましくは1.0質量ppm以下であることを意味する。
また、N-オキシル化合物の含有量が、セルロース系原料からの増加分として、好ましくは2.0質量ppm以下、より好ましくは1.0質量ppm以下である場合も、「N-オキシル化合物を実質的に含まない」こととする。
【0027】
N-オキシル化合物の含有量は、公知の手段で測定することができる。公知の手段としては、微量全窒素分析装置(例えば、日東精工アナリテック株式会社製のTN-2100H)を用いる方法が挙げられる。
【0028】
[結晶構造]
本実施形態に係るセルロース微粒子に含まれるセルロースは、I型結晶構造を有する。I型結晶構造は、天然のセルロースが有する構造である。例えば、天然のセルロースを、アルカリ処理した場合や、溶媒に溶解した後に固体化した場合には、I型結晶構造はII型結晶構造に変化する。そのため、セルロースがI型結晶構造を有するということは、セルロース微粒子がアルカリ処理や溶解処理等の工程を経ることなく製造されたことを意味する。
【0029】
[結晶化度]
本実施形態に係るセルロース微粒子に含まれるセルロースの結晶化度は、好ましくは20~80%であり、より好ましくは30~80%であり、更に好ましくは40~75%であり、特に好ましくは50~70%である。
【0030】
結晶化度は、凍結乾燥させたセルロースに対して固体13C-NMR測定を行い、セルロースの第4位の炭素(C4)のピークから算出することができる。具体的には、C4ピークは、約80~95ppmの範囲に結晶部(高ppm側、約85~95ppm)及び非晶部(低ppm側)のピークが重なった形で現れるため、垂直分割法により各ピーク面積に分割し、下記式から決定することができる。より具体的な測定方法は下記実施例に記載のとおりである。
結晶化度=SC/(SC+SA)×100
[式中、SCは結晶部であり、SAは非晶部である。]
【0031】
[カルボキシ基量]
本実施形態に係るセルロース微粒子に含まれるセルロースのカルボキシ基量は、好ましくは0.1~3.0mmol/gであり、より好ましくは0.2~2.0mmol/gであり、更に好ましくは0.3~1.5mmol/gであり、特に好ましくは0.4~1.2mmol/gであり、最も好ましくは0.5~0.9mmol/gである。カルボキシ基量が前記範囲内であると、セルロース微粒子の感触をより向上させることができ、例えば化粧品に配合された際に、化粧品の感触をより向上させることができる。
なお、セルロース微粒子に含まれるセルロースのカルボキシ基量は、後述する、セルロース微粒子を製造するために噴霧乾燥される分散液に含まれるセルロースのカルボキシ基量と実質的に同じである。
【0032】
セルロースのカルボキシ基量は後述の実施例に記載の方法で測定することができる。カルボキシ基量は、セルロース系原料の酸化反応の反応時間、反応温度、反応液のpH等を変更することにより調整することができる。
【0033】
本実施形態に係るセルロース微粒子に含まれるセルロースは、好適には、セルロースを構成するグルコピラノース環の水酸基のうち少なくとも2個が酸化された構造を有し、より具体的には、グルコピラノース環の第2位及び第3位の水酸基が酸化されてジカルボキシ基が導入された構造を有することが好ましい。また、グルコピラノース環の第6位の水酸基は酸化されず、水酸基のままであることが好ましい。なお、グルコピラノース環におけるカルボキシ基の位置は、固体13C-NMRスペクトルにより解析することができる。
【0034】
レーヨンはセルロースと同一の化学構造を持ち、その酸化物(酸化レーヨン)は水溶性である。酸化レーヨンを重水に溶かして溶液一次元13C-NMR測定を行うことで165~185ppmにカルボキシ基に帰属される炭素のピークが観察される。次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物の一態様では、このケミカルシフト範囲に2本のシグナルが出現する。さらに、溶液二次元NMR測定によって、カルボキシ基は2位と3位に導入されたものと決定することができる。
【0035】
次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物の固体13C-NMRでは、カルボキシ基の導入量が多い場合は165~185ppmに2本のシグナルが出現し、カルボキシ基の導入量が少ない場合には非常にブロードなシグナルが出現しうる。酸化レーヨンの結果からわかるように、2位と3位に導入されたカルボキシ基炭素のシグナルは近接しており、分解能の低い固体13C-NMRでは2本のシグナルの分離が不十分となる。よって、カルボキシ基の導入量が少ない場合にはブロードなシグナルとして観察される。つまり、固体13C-NMRスペクトルでは、165~185ppmに出現するピークの広がりを評価することで2位と3位にカルボキシ基が導入されていることを確認できる。
【0036】
すなわち、固体13C-NMRスペクトルにおける165ppm~185ppmの範囲のピークにベースラインを引いて、全体の面積値を求めた後、ピークトップで面積値を垂直分割して得られる2つのピーク面積値の比率(大きな面積値/小さな面積値)を求め、該ピーク面積値の比率が1.2以上であればブロードなピークであるといえる。
また、上記ブロードなピークの有無は、165ppm~185ppmの範囲のベースラインの長さLと、上記ピークトップからベースラインへの垂線の長さL’との比によって判断することができる。すなわち、比L’/Lが0.1以上であれば、ブロードなピークが存在すると判断できる。上記比L’/Lは、0.2以上であってもよく、0.3以上であってもよく、0.4以上であってもよく、0.5以上であってもよい。比L’/Lの上限値は特に制限されないが、通常3.0以下あればよく、2.0以下であってもよく、1.0以下であってもよい。
【0037】
上記グルコピラノース環の構造は、Sustainable Chem. Eng. 2020, 8, 48, 17800-17806に記載の方法に準じて解析することにより決定することもできる。
【0038】
[粘度平均重合度]
本実施形態に係るセルロース微粒子に含まれるセルロースは、30~500の粘度平均重合度を有する。粘度平均重合度は、好ましくは60~300であり、より好ましくは70~150であり、更に好ましくは80~130である。粘度平均重合度が前記範囲内であると、セルロース微粒子を構成するナノ繊維の長さが比較的短くなり、膨潤時にセルロース微粒子が真球に戻りやすくなるという特長を持つ。
なお、セルロース微粒子に含まれるセルロースの粘度平均重合度は、後述する、セルロース微粒子を製造するために噴霧乾燥される分散液に含まれるセルロースの粘度平均重合度と実質的に同じである。
【0039】
セルロースの粘度平均重合度は、セルロース系原料の酸化反応の反応時間、反応温度、反応液のpH、解繊条件等を変更することにより調整することができる。
【0040】
粘度平均重合度は、粘度法により測定された平均重合度である。粘度平均重合度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0041】
[ナノセルロース]
本実施形態に係るセルロース微粒子に含まれるセルロースは、ナノセルロースであることが好ましい。
【0042】
ナノセルロースは、セルロースを微細化したものの総称を表し、微細セルロース繊維やセルロースナノクリスタル等を含む。微細セルロース繊維は、セルロースナノファイバー(CNF)ともいう。
【0043】
セルロースは、アニオン変性基を有することが好ましい。「アニオン変性基」とは、アニオンを生じる基を意味する。アニオン変性基としては、例えば、カルボキシ基、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基、硫酸エステル基、ザンテートエステル基が挙げられ、好ましくはカルボキシ基である。アニオン変性基は、塩の形態であってもよい。
アニオン変性基は、プロトン又は2価以上のカチオンを有することが好ましい。アニオン変性基が2価以上のカチオンを有する場合、2価以上のカチオンは複数のアニオン変性基で共有されていることが好ましい。2価以上のカチオンとしては、例えば、Mg2+、Ca2+、Ba2+、Al3+、Fe2+、Fe3+、Ti4+、Zr4+等が挙げられる。
【0044】
アニオン変性基がプロトンを有する場合は水素結合によって、また、アニオン変性基が2価以上のカチオンを有する場合は前記カチオンを介して、セルロース間で架橋が形成されることが、セルロース微粒子の形成に寄与していると推定されるが、本発明は前記推定によって何ら限定されるものではない。
【0045】
アニオン変性基としてカルボキシ基を有するセルロースの製造方法としては、例えば、セルロースの酸化、セルロースのマーセル化及びエーテル化、並びにセルロースの酸変性が挙げられる。
【0046】
アニオン変性基としてリン酸エステル基を有するセルロースの製造方法としては、例えば、セルロースと、リン酸基を有する化合物(例えば、リン酸、リン酸二水素ナトリウム及びリン酸水素二ナトリウム)との反応が挙げられる。
【0047】
アニオン変性基として亜リン酸エステル基を有するセルロースの製造方法としては、例えば、セルロースと、リンオキソ酸(リン酸水素ナトリウム又は亜リン酸水素ナトリウム)及び尿素と、の反応が挙げられる。
【0048】
アニオン変性基として硫酸エステル基を有するセルロースの製造方法としては、例えば、セルロースと、ジメチルスルホキシド、無水酢酸及び硫酸を含む溶液と、の反応が挙げられる。
【0049】
アニオン変性基としてザンテートエステル基を有するセルロースの製造方法としては、例えば、アルカリ処理したセルロースと二硫化炭素との反応が挙げられる。
【0050】
ナノセルロースは、1本単位の繊維の集合体である。ナノセルロースがカルボキシル化ナノセルロースを含む場合、少なくとも1本のカルボキシル化ナノセルロースを含んでいればよく、カルボキシル化ナノセルロースが主成分であることが好ましい。ここでカルボキシル化ナノセルロースが主成分であるとは、ナノセルロース全量に占めるカルボキシル化ナノセルロースの割合が50質量%超過であること、好ましくは70質量%超過であること、より好ましくは80質量%超過であることを指す。上記割合の上限は100質量%であるが、98質量%であってもよく、95質量%であってもよい。
【0051】
(平均繊維長)
ナノセルロースの平均繊維長は、好ましくは50~700nmであり、より好ましくは50~500nmであり、更に好ましくは50~300nmであり、より更に好ましくは60~300nmであり、特に好ましくは70~200nmである。平均繊維長が前記範囲内であると、セルロース微粒子が水膨潤時に真球に変形しやすいという特徴を有する。
【0052】
(平均繊維幅)
ナノセルロースの平均繊維幅は、好ましくは1~200nmであり、より好ましくは1~15nmであり、更に好ましくは1~10nmであり、より更に好ましくは1~5nmである。平均繊維幅が前記範囲内であると、セルロース微粒子が水膨潤時に真球に変形しやすいという特徴を有する。
【0053】
ナノセルロースの平均繊維幅及び平均繊維長は、ナノセルロースの濃度が概ね1~10ppmとなるようにナノセルロースと水とを混合し、十分に希釈したセルロース水分散体をマイカ基材上で自然乾燥させ、走査型プローブ顕微鏡を用いてナノセルロースの形状観察を行い、得られた像より任意の本数の繊維を無作為に選択し、形状像の断面高さ=繊維幅とし、周囲長÷2=繊維長とすることにより算出した値である。このような平均繊維幅及び平均繊維長の算出には、画像処理のソフトウェアを用いることができる。このとき画像処理の条件は任意であるが、条件によって同一画像であっても算出される値に差が生じる場合がある。条件による値の差の範囲は、平均繊維長については±100nmの範囲内であることが好ましい。条件による値の差の範囲は、平均繊維幅については±10nmの範囲内であることが好ましい。
【0054】
平均繊維長及び平均繊維幅は、詳細には以下の方法にしたがい測定することができる。
オックスフォード・アサイラム社製 走査型プローブ顕微鏡「MFP-3D infinity」を用いて、ACモードでナノセルロースの形状観察を行う。
平均繊維長については、得られた画像を画像処理ソフトウェア「ImageJ」を用いて二値化し解析を行う。繊維100本以上について、繊維長=「周囲長」÷2として平均繊維長を求める。
平均繊維幅については、「MFP-3D infinity」に付属されているソフトウェアを用いて、繊維50本以上について、形状像の断面高さ=繊維幅として数平均繊維幅を求める。
【0055】
(アスペクト比)
ナノセルロースのアスペクト比(平均繊維長/平均繊維幅)は、好ましくは20~200であり、より好ましくは30~190であり、更に好ましくは40~180である。アスペクト比が前記範囲内であると、セルロース微粒子が水膨潤時に真球に変形しやすいという特徴を有する。
【0056】
(ゼータ電位)
ナノセルロースのゼータ電位は、好ましくは-30mV以下であり、より好ましくは-90mV以上-30mV以下であり、更に好ましくは-80mV以上-30mV以下であり、より更に好ましくは-70mV以上-30mV以下であり、特に好ましくは-65mV以上-35mV以下である。
【0057】
ゼータ電位は、セルロース系原料の酸化反応の反応時間、反応温度、撹拌条件等を変更することにより調整することができる。
【0058】
ゼータ電位は、ナノセルロースと水とを混合してナノセルロースの濃度を0.1質量%としたセルロース水分散体につき、pH8.0、20℃の条件で測定した値である。具体的には、以下の方法で測定することができる。
ナノセルロースを含む分散体に純水を加えて、ナノセルロースの濃度が0.1%になるように希釈する。希釈後のナノセルロースの水分散体に、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH8.0に調整して、大塚電子社製ゼータ電位計(ELSZ-1000)によりゼータ電位を20℃で測定する。
【0059】
(光透過率)
ナノセルロースを分散媒中に分散させたナノセルロース分散体は、セルロース繊維の光散乱等が少なく、高い光透過率を示すことができる。具体的には、ナノセルロースを水と混合して固形分濃度0.1質量%とした混合液における光透過率は、好ましくは95%以上であり、より好ましくは96%以上であり、更に好ましくは97%以上であり、特に好ましくは99%以上である。光透過率は、分光光度計により測定した波長660nmでの値である。
【0060】
光透過率は、セルロース系原料の酸化反応の反応時間、反応温度、撹拌条件等を変更することにより調整することができる。
【0061】
光透過率は、以下の方法で測定することができる。
ナノセルロースの固形分濃度0.1質量%水分散体を10mm厚の石英セルに入れて、分光光度計(JASCO V-550)により波長660nmの光透過率を測定する。
【0062】
[多価カルボン酸変性/リン酸]
本実施形態に係るセルロース微粒子に含まれるセルロースは、多価カルボン酸及び/又はリン酸で変性されていることが好ましい。特に、セルロースがアニオン変性基としてカルボキシ基を有する場合に、前記セルロースが多価カルボン酸及び/又はリン酸で変性されていることが好ましい。セルロースが多価カルボン酸及び/又はリン酸で変性されているとは、セルロースが多価カルボン酸及び/又はリン酸と結合していることを意味する。結合形式は、好ましくは共有結合であり、より好ましくはエステル結合である。エステル結合は、セルロースの水酸基由来の酸素(O)と、多価カルボン酸及び/又はリン酸由来のカルボニル基(CO)とから構成されていることが好ましい。
【0063】
多価カルボン酸は、2つ以上のカルボン酸基を有する化合物及びその無水物であれば特に限定されない。多価カルボン酸としては、例えば、二価カルボン酸及びその無水物、三価カルボン酸及びその無水物が挙げられる。
二価カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、及びテレフタル酸が挙げられる。
三価カルボン酸としては、例えば、クエン酸、イソクエン酸、アコニット酸、トリカルバリル酸、へミメリト酸、及びトリメリト酸挙げられる。
【0064】
多価カルボン酸及び/又はリン酸の(合計)量は、セルロースの質量を基準として、好ましくは2~30質量%であり、より好ましくは4~25質量%であり、更に好ましくは6~20質量%であり、特に好ましくは8~15質量%である。多価カルボン酸及び/又はリン酸の量が前記範囲内であると、セルロース微粒子の粒子径、円形度及び形状維持性能がより向上する。
【0065】
多価カルボン酸及び/又はリン酸は、セルロース間で架橋を形成することにより、その機能を発揮することが推定されるが、本発明は前記推定によって何ら限定されるものではない。
【0066】
[平均粒子径]
本実施形態に係るセルロース微粒子は、0.1~200μmの平均粒子径を有することが好ましい。平均粒子径は、好ましくは0.5~50μmであり、より好ましくは1~30μmであり、更に好ましくは2~15μmであり、特に好ましくは5~10μmである。平均粒子径が前記範囲内であると、セルロース微粒子の感触をより向上させることができ、例えば化粧品に配合された際に、化粧品の感触をより向上させることができる。
【0067】
平均粒子径は、顕微鏡を使用して取得したセルロース微粒子の画像から、100個の各微粒子の粒径(円相当径)を測定し、その平均値を算出することで決定することができる。具体的な方法は後述の実施例に記載のとおりである。
【0068】
[平均円形度]
本実施形態に係るセルロース微粒子は、純水中に30分間静置したとき、0.5~1の平均円形度を有することが好ましい。平均円形度は、好ましくは0.6~1であり、より好ましくは0.7~1であり、更に好ましくは0.8~1であり、特に好ましくは0.9~1である。平均円形度が前記範囲内であると、セルロース微粒子の感触をより向上させることができ、例えば化粧品に配合された際に、化粧品の感触をより向上させることができる。
【0069】
平均円形度は、顕微鏡を使用して取得したセルロース微粒子の画像から、100個の各微粒子の円形度を測定し、その平均値を算出することで決定することができる。各微粒子の円形度は、各微粒子の面積と等しい面積を有する円の周囲長(円相当周囲長)と、各微粒子の実際の周囲長(実測周囲長)とから、下記式に従って決定することができる。円形度が1に近付くほど、微粒子の形状が真円に近付く。
円形度=円相当周囲長/実測周囲長
具体的な方法は後述の実施例に記載のとおりである。
【0070】
[吸水倍率]
本実施形態に係るセルロース微粒子は、170℃でスプレードライ乾燥させたとき、前記微粒子が、1~10倍の吸水倍率を有することが好ましい。吸水倍率は、好ましくは1.5~7倍であり、より好ましくは2~5倍である。吸水倍率が前記範囲内であると、セルロース微粒子の感触をより向上させることができ、例えば化粧品に配合された際に、化粧品の感触をより向上させることができる。
【0071】
吸水倍率は、170℃でスプレードライ乾燥させた1.0gの微粒子(乾燥微粒子)の質量と、乾燥微粒子を純水中に30分間静置した後、吸水されていない水を取り除いた微粒子(膨潤微粒子)の質量とから、下記式に従って決定することができる。
吸水倍率=[膨潤微粒子の質量-乾燥微粒子の質量]/乾燥微粒子の質量
【0072】
[用途]
本実施形態に係るセルロース微粒子は、様々な用途で使用することができる。用途としては、例えば、化粧品が挙げられる。
【0073】
<化粧品>
本発明の一実施形態は、上述のセルロース微粒子を含む、化粧品に関する。
【0074】
セルロース微粒子の量は、化粧品の質量を基準として、好ましくは0.1~40質量%であり、より好ましくは0.5~30質量%であり、更に好ましくは1~25質量%である。セルロース微粒子の量が前記範囲内であると、化粧品の感触をより向上させることができる。
【0075】
化粧品としては、例えば、ファンデーション、乳液、口紅、美容液、モイスチャークリーム、アイシャドウなどが挙げられる。
【0076】
<セルロース微粒子の製造方法(第1の製法)>
本発明の一実施形態は、セルロースを含む微粒子の製造方法であって、
セルロースの分散液を噴霧乾燥して、前記セルロースを含む微粒子を得る工程を含み、
前記セルロースが、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物であり、且つ、N-オキシル化合物を実質的に含まず、
下記条件1~3の少なくとも1つ:
条件1:前記分散液のpHが1.5~5.8である;
条件2:前記分散液に含まれる前記セルロースが多価カルボン酸及び/又はリン酸で変性されている;
条件3:前記分散液に含まれる前記セルロースがカルボキシ基を有し、前記カルボキシ基が、プロトン又は2価以上のカチオンを有する]で表される;
を満たす、製造方法に関する。なお、プロトン又は2価以上のカチオンを有するとは、-COOH又は-COO-X[式中、Xは2価以上のカチオンである]の構造で表される。
【0077】
本実施形態に係る製造方法は、セルロースの分散液を噴霧乾燥して、前記セルロースを含む微粒子を得る工程(「噴霧乾燥工程」という。)を含む。
本実施形態に係る製造方法は、後述の酸化工程及び変性工程を含んでいてもよい。
本実施形態に係る製造方法は、噴霧乾燥工程の前に、セルロースの解繊処理工程を含まないことが好ましい。解繊処理工程を含まないことにより、簡易に、かつ、低コストでセルロース微粒子を製造することができる。
【0078】
本実施形態に係る製造方法は、酸化工程、及び噴霧乾燥工程から本質的になること、又は酸化工程、変性工程、及び噴霧乾燥工程から本質的になることが好ましい。
本実施形態に係る製造方法は、酸化工程、及び噴霧乾燥工程のみからなること、又は酸化工程、変性工程、及び噴霧乾燥工程のみからなることが好ましい。
【0079】
[酸化工程]
酸化工程は、セルロース系原料を酸化する工程である。酸化工程では、N-オキシル化合物を使用することなく、セルロース系原料を次亜塩素酸又はその塩で酸化する。セルロース系原料及び次亜塩素酸又はその塩の詳細は、上記[次亜塩素酸酸化]の欄に記載したとおりである。N-オキシル化合物の詳細は、上記[N-オキシル化合物]の欄に記載したとおりである。酸化工程の具体的な方法としては、例えば、国際公開第2022/009979号、国際公開第2022/009980号に記載の方法が挙げられる。
【0080】
次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物としては、例えば、東亞合成株式会社製アロンフィブロ(登録商標)が挙げられる。
【0081】
[変性工程]
変性工程は、セルロースを多価カルボン酸及び/又はリン酸で変性する工程である。変性工程では、次亜塩素酸又はその塩で酸化されたセルロースと多価カルボン酸及び/又はリン酸と反応させ、結合させる。前記結合の形式、並びに多価カルボン酸及び/又はリン酸の種類及び量等の詳細は、上記[多価カルボン酸変性/リン酸]の欄に記載したとおりである。
【0082】
[噴霧乾燥工程]
噴霧乾燥工程は、セルロースの分散液を噴霧乾燥して、前記セルロースを含む微粒子を得る工程である。噴霧乾燥工程では、上記「条件1」~「条件3」の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つを満たし、より好ましくは全部を満たす。
【0083】
噴霧乾燥工程における上記「条件1」を満たすことにより、粒子径、円形度及び形状維持性能に優れたセルロース微粒子を製造することができる。「条件1」における分散液のpHは、好ましくは1.5~5.8であり、より好ましくは2.0~5.0であり、更に好ましくは2.0~4.0である。分散液のpHは、分散液に酸又は塩基を加えて調整すればよい。
【0084】
噴霧乾燥工程における上記「条件2」を満たすことにより、粒子径、円形度及び形状維持性能に優れたセルロース微粒子を製造することができる。「条件2」の詳細は、上記[変性工程]の欄に記載したとおりである。
【0085】
噴霧乾燥工程における上記「条件3」を満たすことにより、粒子径、円形度及び形状維持性能に優れたセルロース微粒子を製造することができる。「条件3」は、例えば、セルロースを、酸、又は所定のカチオンを含む化合物と反応させることによって満たすことができる。
【0086】
分散液に含まれる分散媒は特に限定されないが、好ましくはセルロースを溶解しない分散媒であり、安全性の観点から、より好ましくは水である。
【0087】
分散液に含まれるセルロースは、I型結晶構造を有することが好ましい、I型結晶構造の詳細は、上記[結晶構造]の欄に記載したとおりである。
【0088】
分散液に含まれるセルロースは、20~80%の結晶化度を有することが好ましい。結晶化度の詳細は、上記[結晶化度]の欄に記載したとおりである。
【0089】
分散液に含まれるセルロースは、0.1~3.0mmol/gのカルボキシ基量を有することが好ましい。カルボキシ基量の詳細は、上記[カルボキシ基量]の欄に記載したとおりである。
【0090】
分散液に含まれるセルロースは、30~500の粘度平均重合度を有することが好ましい。粘度平均重合度の詳細は、上記[粘度平均重合度]の欄に記載したとおりである。
【0091】
分散液に含まれるセルロースの量は、分散液の質量を基準として、好ましくは0.1~30質量%であり、より好ましくは1.0~25質量%であり、更に好ましくは2.5~20質量%であり、特に好ましくは3.0~15質量%である。分散液に含まれるセルロースの量が前記範囲内であると、セルロース微粒子の製造効率を向上させることができる。一方で、濃度が高すぎる場合増粘してしまい、噴霧乾燥の射出先が詰まる懸念がある。次亜塩素酸又はその塩で酸化されたセルロースは水分散液とした際に粘度が上昇しにくいため、高濃度で取り扱うことができる。
【0092】
分散液に含まれるセルロースは、解繊処理されていないことが好ましい。言い換えると、噴霧乾燥工程の前に、セルロースが解繊処理工程に付されていないことが好ましい。本明細書における「解繊処理工程」とは、セルロースをナノセルロースに解繊することを目的とした独立した工程である。なお、次亜塩素酸又はその塩で酸化されたセルロースは容易に解繊されるため、解繊処理工程を実施しなくとも(例えば、他の成分との緩やかな混合等であっても)、セルロースの一部が解繊される可能性があるが、これは解繊処理には該当しない。本明細書において「解繊処理」とは、セルロースの大部分(例えば、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90%質量以上)をナノセルロースに解繊する処理を意味する。
【0093】
セルロース微粒子に含まれるセルロースは、ナノセルロースに解繊されていることが好ましい。ナノセルロースの詳細は、上記[ナノセルロース]の欄に記載したとおりである。
次亜塩素酸又はその塩で酸化されたセルロースは容易に解繊されるため、解繊処理されていないセルロースを噴霧乾燥すると、セルロース微粒子が形成される過程で、セルロースがナノセルロースに解繊され得る。
【0094】
セルロース微粒子の好ましい平均粒子径、平均円形度、及び吸水倍率の詳細は、上記[平均粒子径]、[平均円形度]及び[吸水倍率]の欄に記載のとおりである。
【0095】
噴霧乾燥は、市販の噴霧乾燥機を使用して実施すればよい。噴霧乾燥の条件は、対象となる分散液の組成に応じて適宜調整すればよい。
【0096】
<セルロース微粒子の製造方法(第2の製法)>
本発明の一実施形態は、セルロースを含む微粒子の製造方法であって、
セルロースの分散液を噴霧乾燥して、前記セルロースを含む微粒子を得る工程(噴霧乾燥工程)を含み、
前記分散液に含まれるセルロースが、I型結晶構造を有し、
前記分散液に含まれるセルロースが、30~500の粘度平均重合度を有し、
前記分散液に含まれるセルロースが、アニオン変性基を有し、前記アニオン変性基が、プロトン又は2価以上のカチオンを有する、
製造方法に関する。
【0097】
本実施形態に係る製造方法は、上記<セルロース微粒子の製造方法(第1の製法)>の欄に記載した酸化工程及び変性工程を含んでいてもよい。
本実施形態に係る製造方法は、噴霧乾燥工程の前に、セルロースの解繊処理工程を含まないことが好ましい。解繊処理工程を含まないことにより、簡易に、かつ、低コストでセルロース微粒子を製造することができる。
【0098】
本実施形態に係る製造方法は、酸化工程、及び噴霧乾燥工程から本質的になること、又は酸化工程、変性工程、及び噴霧乾燥工程から本質的になることが好ましい。
本実施形態に係る製造方法は、酸化工程、及び噴霧乾燥工程のみからなること、又は酸化工程、変性工程、及び噴霧乾燥工程のみからなることが好ましい。
【0099】
本実施形態に係る製造方法の詳細については、上記<セルロース微粒子の製造方法(第1の製法)>の欄に記載の内容を引用できるものとする。
【実施例0100】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
なお、実施例における各種の値は、本発明の実施形態における好ましい下限値又は上限値としてもよい。また、実施例における同種の2つの値を適宜組み合わせて好ましい数値範囲としてもよい。
【0101】
<カルボキシ基量の測定>
酸化セルロースの濃度を0.5質量%に調整した酸化セルロース水分散体60mlに、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5にした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11.0になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が穏やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下記式を用いてカルボキシ基量(mmol/g)を算出した。
カルボキシ基量=a(ml)×0.05/酸化セルロースの質量(g)
【0102】
<平均重合度の測定>
pH10に調整した水素化ホウ素ナトリウム水溶液に酸化セルロースを加え、25℃で5時間、還元処理を行った。水素化ホウ素ナトリウム量は、酸化セルロース繊維1gに対して0.1gとした。還元処理後、吸引ろ過にて固液分離、水洗を行い、得られた酸化セルロース繊維を凍結乾燥させた。純水10mlに乾燥させた酸化セルロース繊維0.04gを加えて2分間撹拌した後、1mol/L銅エチレンジアミン溶液10mlを加えて溶解させた。その後、キャピラリー型粘度計にて25℃でブランク溶液の流下時間とセルロース溶液の流下時間測定した。ブランク溶液の流下時間(t0)とセルロース溶液の流下時間(t)、酸化セルロース繊維の濃度(c[g/ml])から次式のように相対粘度(ηr)、比粘度(ηsp)、固有粘度([η])を順次求め、粘度測の式から酸化セルロース繊維の重合度(DP)を計算した。
ηr=η/η0=t/t0
ηsp=ηr-1
[η]=ηsp/(100×c(1+0.28ηsp))
DP=175×[η]
【0103】
〔結晶化度〕
結晶化度は、凍結乾燥させたセルロースについて固体13C-NMR測定を行い、セルロースの第4位の炭素(C4)のピークより算出した。具体的には、C4ピークは、約80~95ppmの範囲に、結晶部(高ppm側、約85~95ppm)及び非晶部(低ppm側)のピークが重なった形で現れ、垂直分割法により各ピーク面積に分割した(結晶部:SC、非晶部:SA)。結晶化度は、下記式で求めた。
結晶化度=SC/(SC+SA)×100
固体13C-NMR測定は以下の条件により測定した。
装置:JNM-ECA, JEOL
周波数:15kHz
測定方法:CP/MAS法
待ち時間:5秒
積算回数:10,000回
【0104】
[実施例1]
(酸化工程)
ジャケット付きガラス製容器に、pH12.7、有効塩素濃度12.5質量%である次亜塩素酸ナトリウム水溶液500gを入れ、三枚後退翼を有する撹拌機(新東科学株式会社製のスリーワンモータ、BL600)を使用して200rpmで撹拌しながら、35℃に加温した後、セルロース系原料(日本製紙株式会社製の粉末パルプ、KCフロックW-100GK)を47g加えた。混合物を35℃に保温しながら、pHが10.5に下がるまで撹拌し、その後、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加しながら反応系のpHを10.5に保持し、セルロース系原料を投入してから合計520分間、同条件で撹拌を行った。
反応終了後、残存する次亜塩素酸ナトリウムを、過酸化水素水溶液で失活させた後、塩酸を加えて、得られた酸化セルロースのカルボキシ基を塩型(-COO-Na)からプロトン型(-COO-H)にした。プロトン型の酸化セルロース水分散液を、0.2MPaの加圧濾過で固液分離し、pH2.5の塩酸水溶液で洗浄し、pH2.5のプロトン型の酸化セルロース水分散液を得た。
【0105】
(噴霧乾燥工程)
pH2.5のプロトン型の酸化セルロース水分散液に、固形分濃度が2.7質量%となるように純水を加え、pH2.7のプロトン型の酸化セルロース水分散液を得た。この酸化セルロース水分散液を噴霧乾燥機(東京理化器械株式会社製のSD-1000、二流体ノズル)を使用して噴霧乾燥し、セルロース微粒子を得た。セルロース微粒子に含まれるセルロースの結晶化度は20~80%の範囲であった。
噴霧乾燥条件は、以下のとおりであった。
入口温度:170℃
出口温度:85℃
ブロア流量:0.3m3/分
アトマイザ圧力:6×10kPa
【0106】
(酸化セルロースの性質)
前記酸化工程で得られた酸化セルロースのカルボキシ基量を前述の方法で測定したところ、0.78mmol/gであった。また、酸化セルロース中のN-オキシル化合物由来の窒素成分を、微量全窒素分析装置(日東精工アナリテック株式会社製のTN-2100H)を用いて窒素量として測定したところ、原料パルプからの増加分は1ppm以下であった。
酸化セルロースの結晶化度は、55%であった。酸化セルロースの粘度平均重合度は、110であった。
【0107】
[実施例2]
実施例1の酸化工程で得られたpH2.5のプロトン型の酸化セルロース水分散液に水酸化ナトリウムを添加し、酸化セルロースのカルボキシ基をプロトン型(-COO-H)から塩型(-COO-Na)に戻し、pH7.4の塩型の酸化セルロース水分散液を得た。
塩型の酸化セルロース水分散液に、固形分濃度が3.5質量%となるように純水を加え、酸化セルロース100質量部に対してクエン酸10質量部を加え、均一になるように撹拌し、pH3.7の変性酸化セルロース水分散液を得た。この変性酸化セルロース水分散液を、実施例1と同様に噴霧乾燥し、セルロース微粒子を得た。
【0108】
[実施例3]
実施例2におけるクエン酸の量を「10質量部」から「5質量部」に変更したこと以外は実施例2と同様にして、セルロース微粒子を得た。噴霧乾燥する変性酸化セルロース水分散液のpHは4.0であった。
【0109】
[比較例1]
実施例2で得られたpH7.4の塩型(-COO-Na)の酸化セルロース水分散液に、固形分濃度が3.5質量%となるように純水を加え、pH7.0の塩型の酸化セルロース水分散液を得た。この酸化セルロース水分散液を、実施例1と同様に噴霧乾燥し、セルロース微粒子を得た。
【0110】
[比較例2]
TEMPO酸化により得られた酸化セルロース(「TEMPO酸化セルロース」)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。TEMPO酸化セルロースの粘度平均重合度は550であった。
TEMPO酸化セルロースの粘度平均重合度が高いため、TEMPO酸化セルロースの分散液の粘度が高く、噴霧乾燥に供するため固形分濃度を0.1%まで希釈する必要があった。固形分濃度が低すぎるため、噴霧乾燥を行なっても十分に乾燥できなった、また、乾燥されても生成粒子量が非常に少ないため、評価を行なうことができなかった。
【0111】
なお、比較例2で用いた酸化セルロースは、以下の方法に準じて製造した。
TEMPOを0.016g及び臭化ナトリウムを0.1gビーカーに入れ、純水を加えて撹拌して水溶液とし、セルロース系原料として日本製紙社の粉末パルプ(KCフロックW-100GK)、を1.0g加えた。
上記水溶液をスターラーで撹拌しながら恒温水浴にて25℃に加温した後、0.1mol/L水酸化ナトリウムを加えて撹拌し、pH10.0の水溶液とした。そこへ、有効塩素濃度13.2質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液2.58gを加え、同じ恒温水槽で25℃に保温した状態で、0.1mol/L水酸化ナトリウムを添加しながら反応中のpHを10.0に調整して、120分間スターラーで撹拌を行った。
反応終了後、目開き0.1μmのPTFE製メンブランフィルターを使用して、吸引ろ過により生成物を固液分離し、酸化セルロースを得た。
得られたろ過上物を純水で洗浄した後に、カルボキシ基量を測定した。カルボキシ基量は1.55mmol/gで、ろ過上物量は約1.0gであった。
酸化セルロース中のN-オキシル化合物由来の窒素成分を、微量全窒素分析装置(日東精工アナリテック社製、装置名:TN-2100H)を用いて窒素量として測定し、原料パルプからの増加分を算出した結果、5ppmであった。
【0112】
<セルロース微粒子の評価>
セルロース微粒子に純水を加え、30分間静置した後、平均粒子径、平均円形度、及び形状維持性能を評価した。具体的な評価方法は以下のとおりである。各評価結果を表1に示す。
【0113】
[平均粒子径]
顕微鏡(株式会社ニコン製のECLIPSE LV100ND)を使用してセルロース微粒子の画像を取得した。画像から、100個のセルロース微粒子をランダムに選択し、各微粒子の粒子径を測定し、その平均値を平均粒子径とした。なお、各微粒子の粒子径は、各微粒子の面積と等しい面積を有する円の直径(円相当径)であるとして測定した。
【0114】
[平均円形度]
上記[平均粒子径]において取得したセルロース微粒子の画像から、100個のセルロース微粒子をランダムに選択し、上記顕微鏡の測定システムから各微粒子の円形度を測定し、その平均値を平均円形度とした。なお、各微粒子の円形度は、各微粒子の面積と等しい面積を有する円の周囲長(円相当周囲長)と、各微粒子の実際の周囲長(実測周囲長)とから、下記式に従って測定した。
円形度=円相当周囲長/実測周囲長
【0115】
[形状維持性能]
上記[平均粒子径]において取得したセルロース微粒子の画像から、100個のセルロース微粒子をランダムに選択し、下記評価基準から形状維持性能を評価した。
(評価基準)
A:90%以上の粒子が膨潤により崩壊せず形状を維持している。
B:90%未満の粒子が膨潤により崩壊せず形状を維持している
【0116】