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特開2024-157639加熱シリンダと金型の昇温方法、および射出成形機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157639
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】加熱シリンダと金型の昇温方法、および射出成形機
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/78 20060101AFI20241031BHJP
   B29C 45/27 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B29C45/78
B29C45/27
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072098
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】三隅 年男
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AM19
4F202AM23
4F202AR06
4F202AR11
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK03
4F202CN01
4F202CN30
4F206AM19
4F206AM23
4F206AR06
4F206AR11
4F206JA07
4F206JL01
4F206JL02
4F206JL09
4F206JM01
4F206JM04
4F206JN43
4F206JQ46
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】オペレータが容易に設定して、加熱シリンダと金型の昇温完了のタイミングを近づけることができる、加熱シリンダと金型の昇温方法を提供する。
【解決手段】
加熱シリンダ(16)を成形サイクルの運転時の温度である運転時温度に昇温するとき、運転時温度より規定の温度だけ低い温度に達したときから規定の時間である冷間起動防止タイマが経過するまで成形サイクルの運転が規制されるようになっている。本開示は、冷間起動防止タイマの開始から昇温遅延タイマだけ経過したときホットランナ(40、41、43、44)の昇温を開始するようにする。昇温遅延タイマは、冷間起動防止タイマからホットランナ(40、41、43、44)の昇温に要する推定時間であるホットランナ推定昇温時間を減じた時間とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットランナを備えた金型が取り付けられた射出成形機において、前記射出成形機の加熱シリンダと前記ホットランナとを昇温する昇温方法であって、
前記射出成形機は、前記加熱シリンダを成形サイクルの運転時の温度である運転時温度に昇温するとき、前記運転時温度より規定の温度だけ低い温度に達したときから規定の時間である冷間起動防止タイマが経過するまで成形サイクルの運転が規制されるようになっており、
前記冷間起動防止タイマの開始から昇温遅延タイマだけ経過したとき前記ホットランナの昇温を開始するようにし、
前記昇温遅延タイマは、前記冷間起動防止タイマから前記ホットランナの昇温に要する推定時間であるホットランナ推定昇温時間を減じた時間である、加熱シリンダと金型の昇温方法。
【請求項2】
前記ホットランナ推定昇温時間は、オペレータによって設定される時間である、請求項1に記載の加熱シリンダと金型の昇温方法。
【請求項3】
前記ホットランナ推定昇温時間は、前記金型の属性データである金型属性データと前記ホットランナの設定温度であるホットランナ設定温度とを入力データとして学習済みの機械学習モデルによって推定するようにし、
前記機械学習モデルは、複数の種類の金型について、前記金型属性データと、前記ホットランナ設定温度と、実際に前記ホットランナの昇温に要した時間であるホットランナ実績昇温時間とをデータセットとし、前記ホットランナ実績昇温時間を教師データとして学習させるようになっている、請求項1に記載の加熱シリンダと金型の昇温方法。
【請求項4】
ホットランナを備えた金型が設けられている型締装置と、
樹脂を射出する射出装置と、
コントローラと、を備え、
前記コントローラには、規定の時間である冷間起動防止タイマと、ホットランナ推定昇温時間とが設けられ、
前記コントローラは、前記射出装置の加熱シリンダを成形サイクルの運転時の温度である運転時温度に昇温するとき、前記運転時温度より規定の温度だけ低い温度に達したとき前記冷間起動防止タイマを開始し、該冷間起動防止タイマが経過するまで成形サイクルの運転を規制するようになっており、
前記コントローラは、前記冷間起動防止タイマの開始から昇温遅延タイマだけ経過したとき前記ホットランナの昇温を開始するようになっており、
前記昇温遅延タイマは、前記冷間起動防止タイマから前記ホットランナの昇温に要する推定時間であるホットランナ推定昇温時間を減じた時間である、射出成形機。
【請求項5】
前記ホットランナ推定昇温時間は、オペレータによって設定される時間である、請求項4に記載の射出成形機。
【請求項6】
前記コントローラは機械学習モデルを備え、
前記ホットランナ推定昇温時間は、前記金型の属性データである金型属性データと前記ホットランナの設定温度であるホットランナ設定温度とを入力データとして学習済みの前記機械学習モデルによって推定されるようになっており、
前記機械学習モデルは、複数の種類の金型について、前記金型属性データと、前記ホットランナ設定温度と、実際に前記ホットランナの昇温に要した時間であるホットランナ実績昇温時間とをデータセットとし、前記ホットランナ実績昇温時間を教師データとして学習させるようになっている、請求項4に記載の射出成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒータと温度センサとが設けられランナーの温度が制御されるようになっているホットランナを備えた金型と、このような金型が設けられている射出成形機の加熱シリンダとを、成形サイクルの運転が可能な状態に昇温する昇温方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、樹脂を溶融し射出する射出装置を備えている。射出装置は加熱シリンダを備えており、加熱シリンダにはヒータが設けられている。成形サイクルの運転を開始する場合、加熱シリンダを運転が可能な運転時温度に昇温する必要がある。ヒータに通電し、加熱シリンダを運転時温度に昇温するまで比較的時間を要し、例えば大型の射出成形機の場合には2時間程度、比較的小型の射出成形機の場合でも1時間程度必要になる。
【0003】
ホットランナを備えた金型は、ランナにヒータと温度センサとが設けられランナ内の樹脂の温度を制御できるようになっている。ホットランナを備えた金型を使用して成形すると、金型のキャビティ内に充填された樹脂が冷却固化されるときも、ランナ内の樹脂を溶融状態に維持することができるので、固化したランナを廃棄する必要がなく樹脂の無駄が少ない。ホットランナを備えた金型も、成形サイクルの運転開始に先立って昇温する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-117800号公報
【0005】
ホットランナを備えた金型が設けられている射出成形機において、成形サイクルを開始する場合、加熱シリンダと金型とを運転時温度まで加熱する必要がある。ところで加熱シリンダの昇温に要する時間に比して金型の昇温に要する時間は短い。もし金型が先に昇温が完了した後に、加熱シリンダの昇温まで長時間待機するとしたら金型内の樹脂が劣化してしまう。特許文献1には、加熱シリンダの昇温完了のタイミングと、ホットランナを備えた金型の昇温完了のタイミングを近づける方法が提案されている。
【0006】
特許文献1に記載の昇温方法は、加熱シリンダの昇温について第1の温度制御系で制御し、ホットランナを備えた金型の昇温について第2の温度制御系で制御し、第2の温度制御系による昇温の開始を、遅延解除条件によって遅延させるようにしている。遅延解除条件として、遅延時間または到達温度が指定できるようになっている。つまり第1の制御温度系で昇温を開始してから指定の遅延時間に到達したら第2の温度制御系で昇温を開始する。あるいは第1の制御温度系の加熱シリンダが指定の到達温度に達したら、第2の温度制御系で昇温を開始する。これによって加熱シリンダと金型の昇温完了のタイミングを近づけるようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の昇温方法では、遅延解除条件を設定する必要がある。つまりオペレータが遅延時間、あるいは到達温度を設定する必要がある。しかしながら、前述したように加熱シリンダの昇温に要する時間は射出成形機の機種によって大きく異なる。そうすると、遅延時間あるいは到達時間をどのような値で設定すれば、加熱シリンダと金型の昇温完了のタイミングを近づけることができるのか、判断が難しいという問題がある。さらには、気温の違いによっても加熱シリンダの昇温に要する時間は異なる。つまり、ある季節において適切な設定ができていたとしても他の季節で適切な設定であるかどうか保証できない。つまり、オペレータが適切に遅延解除条件を設定することが難しいという問題がある。
【0008】
本開示において、オペレータが容易に設定して、加熱シリンダと金型の昇温完了のタイミングを近づけることができる、加熱シリンダと金型の昇温方法を提供する。
【0009】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、ホットランナを備えた金型が取り付けられた射出成形機において、射出成形機の加熱シリンダとホットランナとを昇温する昇温方法を対象とする。射出成形機は、加熱シリンダを成形サイクルの運転時の温度である運転時温度に昇温するとき、運転時温度より規定の温度だけ低い温度に達したときから規定の時間である冷間起動防止タイマが経過するまで成形サイクルの運転が規制されるようになっている。本開示は、冷間起動防止タイマの開始から昇温遅延タイマだけ経過したときホットランナの昇温を開始するようにする。昇温遅延タイマは、冷間起動防止タイマからホットランナの昇温に要する推定時間であるホットランナ推定昇温時間を減じた時間とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示は、オペレータが容易に設定でき、加熱シリンダとホットランナを備えた金型の昇温完了のタイミングを近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施の形態に係る射出成形機を示す正面図である。
図2】射出装置の一部と、本実施の形態に係るホットランナ金型とを示す正面断面図である。
図3】本実施の形態に係る加熱シリンダとホットランナ金型の昇温方法を示すフローチャートである。
図4】本実施の形態に係る加熱シリンダとホットランナ金型の昇温方法における、加熱シリンダとホットランナ金型の昇温開始タイミングとを示す、タイムチャートである。
図5】本実施の形態の変形例に係る射出成形機の、コントローラにおける処理を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、以下の実施の形態に限定される訳ではない。説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。また、図面が煩雑にならないように、ハッチングが省略されている部分がある。
【0014】
<射出成形機>
本実施の形態に係る射出成形機1は、図1に示されているように、ベッドBに設けられている型締装置2と、同様にベッドBに設けられている射出装置3と、これらを制御するコントローラ4と、から概略構成されている。コントローラ4は後で説明するホットランナ金型14、15についても制御するようになっている。
【0015】
<型締装置>
型締装置2は、ベッドBに固定されている固定盤7と、ベッドB上をスライドするようになっている可動盤8と、同様にベッドB上をスライドするようになっている型締ハウジング9と、を備えている。型締ハウジング9と固定盤7は複数本のタイバー10、10、…によって連結され、型締ハウジング9と可動盤8の間にはトグル機構11が設けられている。したがって、トグル機構11を駆動すると型開閉される。固定盤7と可動盤8には本実施の形態に係るホットランナ金型14、15が設けられている。
【0016】
<射出装置>
射出装置3は、加熱シリンダ16と、この加熱シリンダ16に入れられているスクリュ17と、スクリュ17を駆動するスクリュ駆動装置19と、から構成されている。加熱シリンダ16は、その端部においてスクリュ駆動装置19に支持されており、スクリュ17はスクリュ駆動装置19によって回転方向と、軸方向とに駆動されるようになっている。加熱シリンダ16には、その先端に射出ノズル21が、そして後方寄りにホッパ22が、設けられている。そして加熱シリンダ16には複数のヒータ24、24、…が設けられ、温度センサ25が複数個埋め込まれている。なお、図1において温度センサ25は1個だけ示されている。コントローラ4は、ヒータ24、24、…と温度センサ25とによって加熱シリンダ16の温度を制御するようになっている。
【0017】
<ホットランナ金型>
本実施の形態に係るホットランナ金型14、15を説明する。ホットランナ金型14、15は、固定盤7に設けられている固定側ホットランナ金型14と、可動盤8に設けられている可動側ホットランナ金型15とからなる。固定側ホットランナ金型14には、図2に示されているように、そのパーティングラインに2個の凹部31、32が形成されている。一方、可動側ホットランナ金型15には、そのパーティングラインに2個の凸部34、35が形成されている。これら凹部31、32と凸部34、35は、それぞれ整合しており、型締めされるとそれぞれキャビティ37、38が構成されるようになっている。
【0018】
固定側ホットランナ金型14内には、射出ノズル21がタッチしているスプルブッシュ40と、マニホールド41と、マニホールド41に設けられている2本のホットランナノズル43、44とが設けられている。ホットランナノズル43、44は先端がゲートになっており、それぞれのゲートを開閉するニードル状のバルブ45、46が設けられている。これらのバルブ45、46は、それぞれシリンダユニット48、49によって駆動されるようになっている。シリンダユニット48、49を駆動してバルブ45、46を後退させ、スクリュ17(図1参照)を軸方向に駆動して樹脂を射出すると、それぞれのキャビティ37、38に樹脂が充填されるようになっている。
【0019】
スプルブッシュ40と、ホットランナノズル43、44のそれぞれには外側にヒータ51、51、…が設けられている。またマニホールド41には、複数本のヒータ52、52
…が埋め込まれている。スプルブッシュ40、マニホールド41、ホットランナノズル43、44には、それぞれ温度センサ54、54、…が埋め込まれている。コントローラ4は、ヒータ51、52、…に電力を供給し、温度センサ54、54、…から測定される温度によって、ホットランナ、つまりスプルブッシュ40とマニホールド41とホットランナノズル43、44の温度を制御するようになっている。
【0020】
<コントローラ>
本実施の形態に係る射出成形機1のコントローラ4(図1参照)は、本実施の形態に係る昇温方法を実施するための昇温処理機能59を備えている。昇温処理機能59は、昇温処理60と、昇温処理60が参照する設定データが格納されている昇温処理設定ファイル61とから構成されている。昇温処理60は1個、または複数のプログラムから構成してもよいし、昇温処理設定ファイル61も1個または複数のファイルから構成してもよいが、図1には簡略的にそれぞれ1個として示されている。
【0021】
昇温処理設定ファイル61には、以下のデータが設定されている。
・運転時温度
成形サイクルを運転するときの加熱シリンダ16の設定温度である。加熱シリンダ16は、その軸方向に複数のゾーンに分割されているが、それぞれのゾーンに対して運転時温度が設定されている。
【0022】
・冷間起動防止タイマ
樹脂温度が低く粘度が高いときに成形サイクルを実施してスクリュ17(図1参照)を駆動するとスクリュ17に負荷がかかってスクリュ17が破損する等、悪影響が出る。これを防止するために、コントローラ4は加熱シリンダ16を加熱して運転時温度まで昇温するとき、運転時温度より規定の温度だけ低い温度に達したときから所定の時間だけスクリュ17の駆動を禁止するようにしている。この所定の時間が冷間防止タイマである。
【0023】
・ホットランナ設定温度
成形サイクルを運転するときのホットランナの設定温度である。ホットランナ、つまりスプルブッシュ40、マニホールド41、ホットランナノズル43、44について同一の設定温度を設定してもよいし、異なる温度を設定してもよい。
【0024】
・ホットランナ推定昇温時間
ホットランナ金型14、15(図2参照)においてホットランナつまりスプルブッシュ40、マニホールド41、ホットランナノズル43、44をホットランナ設定温度に昇温するとき、昇温に要する推定時間である。本実施の形態において、ホットランナ推定昇温時間はオペレータが設定し、例えば、5分、15分、等のように設定する。
【0025】
<加熱シリンダとホットランナ金型の昇温方法>
本実施の形態に係る加熱シリンダ16とホットランナ金型14、15の昇温方法を説明する。コントローラ4において昇温処理60を起動する。そうすると、図3に示されているようにステップS01を実行して加熱シリンダ16の昇温を開始する。つまりヒータ24、24、…(図1参照)に通電して加熱シリンダ16を加熱する。図4には、加熱シリンダ16の昇温開始のタイミングが符号71で示されている。
【0026】
昇温処理60は、図3に示されているようにステップS02を実施して、冷間起動防止タイマの開始条件に達したか否かをチェックする。すなわち、加熱シリンダ16の温度が運転時温度より規定の温度だけ低い温度に達したか否かをチェックする。達していなければ開始条件が満たされない(NO)ので、引き続きステップS02を繰り返す。一方、加熱シリンダ16の温度が運転時温度より規定の温度だけ低い温度に達していれば、開始条件が満たされた(YES)と判断し、ステップS03に移行する。
【0027】
昇温処理60は、ステップS03において、冷間起動防止タイマを開始すると共に、昇温遅延タイマを開始する。昇温遅延タイマは、冷間起動防止タイマからホットランナ推定昇温時間を減じた時間とし、コントローラ4が計算する。冷間起動防止タイマと昇温遅延タイマとを起動したタイミングが図4において符号72で示されている。
【0028】
昇温処理60は、図3に示されているようにステップS04を実行する。すなわち昇温遅延タイマが完了したか否かをチェックする。完了していなければ(NO)、ステップS04を繰り返す。一方、昇温遅延タイマが完了していれば(YES)、ステップS05に移行する。
【0029】
昇温処理60は、図3に示されているようにステップS05を実行し、ヒータ51、52、…(図2参照)に通電してホットランナ、つまりスプルブッシュ40、マニホールド41、ホットランナノズル43、44の昇温を開始する。ホットランナの昇温を開始したタイミングが図4において符号73で示されている。
【0030】
昇温処理60は、ステップS06を実行し、冷間起動防止タイマが完了したか否かをチェックする。冷間起動防止タイマが完了していなければ(NO)、ステップS06を繰り返す。一方、冷間起動防止タイマが完了していれば(YES)、処理を完了する。すなわち、射出成形機1(図1参照)において成形サイクルを開始することができる。このタイミングが図4において符号74で示されている。
【0031】
本実施の形態に係る加熱シリンダ16とホットランナ金型14、15の昇温方法では、オペレータは、ホットランナ昇温推定時間を設定すればよい。そうすれば、昇温処理60が昇温遅延タイマを自動的に計算して、ホットランナ金型14、15の昇温開始のタイミングを決定するからである。ホットランナ昇温推定時間は、ホットランナ金型14、15の大きさによって概ね固定であり、外気温の違いによる変化、つまり季節の違いによる変化は小さい。したがってオペレータは容易にホットランナ昇温推定時間を設定することができ、加熱シリンダ16の昇温完了と、ホットランナすなわちスプルブッシュ40、マニホールド41、ホットランナノズル43、44の昇温完了とを近づけることができる。
【0032】
本実施の形態に係る加熱シリンダ16とホットランナ金型14、15の昇温方法は、さらに優れた点がある。それは、冷間起動防止タイマの完了と同時に、ホットランナすなわちスプルブッシュ40、マニホールド41、ホットランナノズル43、44の昇温が完了する点である。つまり、成形サイクルの運転の禁止が解除されたときに、ホットランナの昇温が完了する。既に説明したように、加熱シリンダ16の昇温に要する時間は、加熱シリンダ16の大きさによっても、そして季節によっても異なる。そうすると、加熱シリンダ16の昇温完了とホットランナの昇温完了を一致させることは本来困難である。しかしながら、本実施の方法は、成形サイクルの運転が可能になったタイミングで、ホットランナの昇温が完了するので、無駄な待ち時間は発生しない。つまり、樹脂が高温状態で待たされることがなく、樹脂の劣化無く安全に成形サイクルを開始することができるという効果が得られる。
【0033】
<本実施の形態の変形例>
本実施の形態は変形が可能であり、コントローラ4(図1参照)において実施される昇温処理機能59を変形することができる。図5には、本実施の形態の変形例に係る昇温処理機能59‘が示されている。これを説明する。本実施の形態に係る昇温処理機能59(図1参照)と同様の処理については同じ参照番号を付して説明を省略する。すなわち、昇温処理60については同様の処理になるので説明を省略する。変形された点について説明する。
【0034】
本実施の変形例に係る昇温処理機能59は、機械学習器80と学習データファイル81とが追加されている。機械学習器80は、いわゆる教師あり学習をする機械学習するプログラム群であり、例えばニューラルネットワークから構成することができる。次に説明する学習データファイル81に格納されている複数組のデータセットを使って機械学習するようになっている。そして、機械学習器80が学習済みになったら、後で説明するようにホットランナ推定昇温時間を出力して、昇温処理60に渡すことができるようになっている。
【0035】
学習データファイル81には、機械学習器80の学習に利用される複数組のデータセットが格納されている。射出成形機1(図1参照)に設けられるホットランナ金型14、15には、成形する対象によって、色々な大きさ、形状がある。つまり、多数の種類のホットランナ金型14、15がある。それぞれのホットランナ金型14、15に対して1組ずつデータセットがあり、学習データファイル81に格納されている。1組のデータセットは次のデータからなる。
【0036】
・金型属性データ
ホットランナ金型14、15についての、大きさ、形状、重量等のデータであり、ホットランナ金型14、15に属するデータ、つまり属性データである。ホットランナ金型14、15の3Dデータであってもよい。
【0037】
・ホットランナ設定温度
成形サイクルを運転するときのホットランナ金型14、15の設定温度である。設定温度はホットランナ金型14、15の種類によって同じ温度であってもよいし、種類毎に異なっていてもよい。
【0038】
・ホットランナ実績昇温時間
ホットランナ金型14、15の昇温を開始してからホットランナ設定温度に達するまでの昇温に要した実績の時間である。ホットランナ金型14、15においてヒータ51、52(図2参照)に通電して、ホットランナすなわちスプルブッシュ40、マニホールド41、ホットランナノズル43、44がホットランナ設定温度に達した時間を測定し、この時間を格納すればよい。
【0039】
機械学習器80は、学習データファイル81に格納されている複数の種類のホットランナ金型14、15に関するデータセットを元に学習する。具体的には、金型属性データ、ホットランナ設定温度を入力データとし、ホットランナ実績昇温時間を教師データとして学習させる。学習済みの機械学習器80に対して、昇温処理設定ファイル61‘に格納されているホットランナ設定温度と、オペレータがコントローラ4(図1参照)から入力する金型属性データ82とを与える。そうすると、ホットランナ推定昇温時間が出力され、昇温処理60に渡される。なお、オペレータが入力する金型属性データ82は、現在射出成形機1に取り付けられているホットランナ金型14、15についての属性データとする。昇温処理60は、前記したように、昇温処理設定ファイル61‘に格納されている運転時温度と冷間起動防止タイマとを参照し、加熱シリンダ16とホットランナ金型14、15とを昇温する。
【0040】
<他の変形例>
本実施の形態は他にも色々な変形が可能である。例えばホットランナ金型14、15を変形することができる。上で説明したホットランナ金型14、15は、バルブ45、46(図2参照)を備えた、いわゆるバルブゲートタイプになっている。これを、バルブを備えていないオープンゲートタイプに変形することも可能である。射出成形機1(図1)の変形も可能である。射出成形機1は横置き型になっているが、竪型であってもよい。本実施の形態の変形例についても変形が可能である。機械学習器80(図5参照)や学習データファイル81は射出成形機1(図1参照)のコントローラ4内に設けられているように説明した。しかしながら、例えば射出成形機1をLANに接続し、LAN上に計算機を設け、機械学習器80等をその計算機内に設けてもよい。計算機で計算したホットランナ推定昇温時間を、LAN経由で昇温処理60に渡すことができる。
【0041】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。以上で説明した複数の例は、適宜組み合わせて実施されることもできる。
【符号の説明】
【0042】
1 射出成形機 2 型締装置
3 射出装置 4 コントローラ
7 固定盤 8 可動盤
9 型締ハウジング
10 タイバー 11 トグル機構
14 固定側ホットランナ金型 15 可動側ホットランナ金型
16 加熱シリンダ 17 スクリュ
19 スクリュ駆動装置 21 射出ノズル
22 ホッパ 24 ヒータ
25 温度センサ 31 凹部
32 凹部 34 凸部
35 凸部 37 キャビティ
38 キャビティ 40 スプルブッシュ
41 マニホールド 43 ホットランナノズル
44 ホットランナノズル 45 バルブ
46 バルブ 48 シリンダユニット
49 シリンダユニット 51 ヒータ
52 ヒータ 54 温度センサ
59 昇温処理機能 60 昇温処理
61 昇温処理設定ファイル
80 機械学習器 81 学習データファイル
図1
図2
図3
図4
図5