(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015764
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】シリコーンゴム多孔質体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/26 20060101AFI20240130BHJP
【FI】
C08J9/26 102
C08J9/26 CFH
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118055
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】村井 雪乃
(72)【発明者】
【氏名】高松 成亮
(72)【発明者】
【氏名】片山 和孝
(72)【発明者】
【氏名】深川 繁
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA90
4F074CB03
4F074CB14
4F074CB34
4F074CB45
4F074DA03
4F074DA13
4F074DA32
4F074DA33
4F074DA43
(57)【要約】
【課題】 プレス成形により、スキン層の形成を抑制して通気性が良好なシリコーンゴム多孔質体の製造方法を提供する。
【解決手段】 シリコーンゴム多孔質体の製造方法は、液状シリコーンゴムと、気孔形成材料と、を混合して未架橋のシリコーンゴム組成物を製造する混合工程と、該シリコーンゴム組成物をプレス成形することにより架橋してシリコーンゴム成形体を製造する成形工程と、該シリコーンゴム成形体を水に接触させて、該シリコーンゴム成形体から該気孔形成材料を抽出する抽出工程と、を有し、該気孔形成材料は、ポリエチレングリコールおよびポリエーテル変性シリコーンオイルから選ばれる一種以上であり、HLB値が9.5以上の水溶性有機物と、水溶性無機物と、を有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状シリコーンゴムと、気孔形成材料と、を混合して未架橋のシリコーンゴム組成物を製造する混合工程と、
該シリコーンゴム組成物をプレス成形することにより架橋してシリコーンゴム成形体を製造する成形工程と、
該シリコーンゴム成形体を水に接触させて、該シリコーンゴム成形体から該気孔形成材料を抽出する抽出工程と、
を有し、
該気孔形成材料は、ポリエチレングリコールおよびポリエーテル変性シリコーンオイルから選ばれる一種以上であり、HLB値が9.5以上の水溶性有機物と、水溶性無機物と、を有することを特徴とするシリコーンゴム多孔質体の製造方法。
【請求項2】
前記水溶性有機物の融点は、10℃以下である請求項1に記載のシリコーンゴム多孔質体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコールの重量平均分子量は、400以上600以下である請求項1に記載のシリコーンゴム多孔質体の製造方法。
【請求項4】
前記水溶性無機物は粒子状を呈し、
該水溶性無機物の粒子径は、5μm以上600μm以下である請求項1に記載のシリコーンゴム多孔質体の製造方法。
【請求項5】
前記水溶性無機物は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウムから選ばれる一種以上を有する請求項1に記載のシリコーンゴム多孔質体の製造方法。
【請求項6】
前記プレス成形は、100℃以上130℃以下の温度下で行う請求項1に記載のシリコーンゴム多孔質体の製造方法。
【請求項7】
前記抽出工程の後、得られたシリコーンゴム多孔質体の表面に親水性を付与する処理を施す親水化処理工程を有する請求項1に記載のシリコーンゴム多孔質体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、連続気泡構造を有するシリコーンゴム多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子多孔質体の製造方法として、樹脂やエラストマーなどの高分子材料に気孔形成材料を配合して成形した後、溶媒を用いて成形体から気孔形成材料を除去し、気孔形成材料が存在していた部分に気孔(空隙)を形成する抽出法が知られている。例えば、特許文献1には、シリコーン原料と水溶性の気泡形成材料とを混練して混合物を得る工程と、得られた混合物を成形した後に架橋してシリコーン成形体を得る工程と、得られたシリコーン成形体を水に接触させて、気泡形成材料を抽出する工程と、を有するシリコーン多孔質体の製造方法が記載されている。特許文献1には、気泡形成材料として、化学式R1O(CH2CH2O)nR2で示されるアルキルエーテル(R1は炭化水素基、R2は水素または炭化水素基)からなる水溶性有機物と、NaCl、KClなどの水溶性無機物と、が挙げられている。そして、実施例には、シリコーン原料と気泡形成材料との混合物を、二軸ロールにより押し出して成形することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリコーンゴム多孔質体を、微細な溝や孔に試料を収容して各種操作を行うマイクロ流体デバイスなどに適用する場合、その形状および寸法には高い精度が要求される。この場合、原料のシリコーンゴム組成物の成形方法としては、成形型を使用したプレス成形が好適である。しかしながら、特許文献1に気泡形成材料の水溶性有機物として挙げられているアルキルエーテルには、蒸発しやすいものがある。このため、例えば130℃程度の比較的高温下でプレス成形すると、成形時にアルキルエーテルが蒸発して多量のガスが発生してしまう。よって、蒸発しやすいアルキルエーテルを用いた場合、成形方法としてプレス成形を採用することは難しい。また、水溶性有機物を配合すると、プレス成形時にシリコーンゴム成形体の表面にスキン層が形成されるのを抑制する効果が期待できる。しかしながら、成形時に水溶性有機物が蒸発してしまうと、当該効果を得ることができないため、仮にプレス成形することができたとしても、表面にスキン層が形成される。この場合、通気性を確保するためには、得られたシリコーンゴム多孔質体からスキン層を除去しなければならない。スキン層の除去は、多孔質体の厚さが薄い場合には極めて困難な作業になる。また、水溶性有機物は、もう一方の気孔形成材料である水溶性無機物の周りに存在し、後の抽出工程において水溶性無機物の溶出性を高める役割を果たす。よって、水溶性有機物が成形時に蒸発してしまうと、水溶性無機物がシリコーンゴム成形体中に独立して存在する状態になり、水溶性無機物の溶出率が低下して、気孔の連通性が低下する。
【0005】
本開示は、このような実状に鑑みてなされたものであり、プレス成形により、スキン層の形成を抑制して通気性が良好なシリコーンゴム多孔質体を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記課題を解決するため、本開示のシリコーンゴム多孔質体の製造方法は、液状シリコーンゴムと、気孔形成材料と、を混合して未架橋のシリコーンゴム組成物を製造する混合工程と、該シリコーンゴム組成物をプレス成形することにより架橋してシリコーンゴム成形体を製造する成形工程と、該シリコーンゴム成形体を水に接触させて、該シリコーンゴム成形体から該気孔形成材料を抽出する抽出工程と、を有し、該気孔形成材料は、ポリエチレングリコールおよびポリエーテル変性シリコーンオイルから選ばれる一種以上であり、HLB値が9.5以上の水溶性有機物と、水溶性無機物と、を有することを特徴とする。
【0007】
本開示のシリコーンゴム多孔質体の製造方法においては、気孔形成材料として、水溶性有機物と水溶性無機物とを使用する。水溶性有機物は、ポリエチレングリコールおよびポリエーテル変性シリコーンオイルから選ばれる一種以上であり、HLB値が9.5以上の化合物である。ポリエーテル変性シリコーンオイルは、直鎖状のシリコーンポリマーにポリエーテル基が導入された構造を有する。ポリエーテル基は、直鎖状ポリマーの側鎖に導入されていても片末端または両末端に導入されていてもよい。
【0008】
本発明者が検討を重ねた結果、ポリエチレングリコールおよびポリエーテル変性シリコーンオイルは、プレス成形の条件下で蒸発しにくいという知見を得た。よって、これらから選ばれる一種以上を水溶性有機物として用いれば、プレス成形した際に水溶性有機物の蒸発を抑制することができる。これにより、水溶性有機物を含むシリコーンゴム組成物をプレス成形して、形状および寸法の精度が高いシリコーンゴム多孔質体を製造することができる。そして、プレス成形時に水溶性有機物が存在することにより、シリコーンゴム成形体の表面にスキン層が形成されるのを抑制することができる。よって、別途スキン層の除去作業を行わなくても、通気性を確保することができる。また、プレス成形時に水溶性有機物の蒸発が抑制され、水溶性有機物が水溶性無機物の周りに存在することにより、抽出工程において、水溶性無機物の溶出を容易にして、連続気泡構造を有し通気性に優れたシリコーンゴム多孔質体を製造することができる。
【0009】
HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値は親水性と親油性とのバランスを示す指標であり、HLB値が大きいほど親水性が高い。水溶性有機物のHLB値を9.5以上にして親水性を高めることにより、混合工程において、液状シリコーンゴムが海相、水溶性無機物が島相の海島状態を維持することができる。結果、シリコーンゴム組成物の成形性を高めることができる。また、気孔形成材料を抽出した後、親水部を有する水溶性有機物がシリコーンゴム多孔質体中に残存することにより、シリコーンゴム多孔質体の表面の親水化を容易に行うことができる。
【0010】
(2)上記構成において、前記水溶性有機物の融点は、10℃以下である構成としてもよい。本構成によると、水溶性有機物が常温で液体であるため、混合工程において加熱しなくても、シリコーンゴム組成物の流動性を低下させることなく、水溶性無機物を分散させることができる。また、水溶性有機物は、成形工程の後で常温に戻った際にも固化しにくい。よって、架橋後のシリコーンゴム成形体において、水溶性有機物の凝集を抑制することができ、抽出工程において水溶性有機物が溶出しやすくなる。
【0011】
(3)上記いずれかの構成において、前記ポリエチレングリコール(HO[CH2-CH2-O]nH)の重量平均分子量は、400以上600以下である構成としてもよい。ポリエチレングリコールにおいて、繰り返しの単位の数nが大きいほど親水性は高くなるが、本構成によると、親水性、および常温で液体状態であることの両方を満足することができる。
【0012】
(4)上記いずれかの構成において、前記水溶性無機物は粒子状を呈し、該水溶性無機物の粒子径は、5μm以上600μm以下である構成としてもよい。本構成によると、シリコーンゴム組成物における水溶性無機物の分散性を高めて、均質なシリコーンゴム成形体を得ることができる。また、水溶性無機物を溶出した後に所望の大きさの気孔を形成することができる。
【0013】
(5)上記いずれかの構成において、前記水溶性無機物は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウムから選ばれる一種以上を有する構成としてもよい。本構成の水溶性無機物は、比較的安価で入手しやすく、安全性も高い。
【0014】
(6)上記いずれかの構成において、前記プレス成形は、100℃以上130℃以下の温度下で行う構成としてもよい。本構成によると、成形時間(架橋時間)を比較的短時間にすることができるため、生産性が高い。また、プレス成形時に水溶性有機物の蒸発が抑制される。
【0015】
(7)上記いずれかの構成において、前記抽出工程の後、得られたシリコーンゴム多孔質体の表面に親水性を付与する処理を施す親水化処理工程を有する構成としてもよい。
【0016】
シリコーンゴムは、水に対する親和性が低い。このため、シリコーンゴム多孔質体をマイクロ流体デバイスに適用する場合には、親水性の液体の流れ性を向上させるため、表面に親水性を付与する処理を施すことが望ましい。本構成によると、親水性が付与された表面を有するシリコーンゴム多孔質体を容易に製造することができる。親水性を付与する処理(親水化処理)としては、コーティング剤の塗布、プラズマなどの高いエネルギーを照射することによる改質処理などが挙げられる。例えば、抽出工程において、HLB値が大きく親水性が高い水溶性有機物を残存させると、コーティング剤を塗布せず、プラズマなどの照射のみにより親水性を付与することも可能である。
【発明の効果】
【0017】
本開示のシリコーンゴム多孔質体の製造方法によると、プレス成形により、スキン層の形成を抑制して通気性が良好なシリコーンゴム多孔質体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示のシリコーンゴム多孔質体の製造方法の実施の形態について説明する。なお、実施の形態は以下の形態に限定されるものではなく、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することができる。
【0019】
本開示のシリコーンゴム多孔質体の製造方法は、混合工程と、成形工程と、抽出工程と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0020】
<混合工程>
本工程は、液状シリコーンゴムと、気孔形成材料と、を混合して未架橋のシリコーンゴム組成物を製造する工程である。
【0021】
「液状シリコーンゴム」は、ポリマー成分(ベースポリマー)に加えて、それを架橋するための架橋剤、触媒などを含む概念である。液状シリコーンゴムのベースポリマーとしては、オルガノポリシロキサンとして広く知られているものを使用すればよい。オルガノポリシロキサンは、その架橋機構(硬化機構)に応じて、所定の反応基を有する。反応基としては、アルケニル基(ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基など)、シラノール基などが挙げられる。前者のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、有機過酸化物を架橋剤とする過酸化物架橋反応や、ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)を架橋剤とする付加反応により架橋される。付加反応には、白金触媒などのヒドロシリル化触媒を組み合わせて用いることができる。後者のシラノール基を有するオルガノポリシロキサンは、縮合反応により架橋される。縮合反応には、縮合用架橋剤を組み合わせて用いることができる。
【0022】
気孔形成材料は、水溶性有機物と、水溶性無機物と、を有する。水溶性有機物は、ポリエチレングリコールおよびポリエーテル変性シリコーンオイルから選ばれる一種以上であり、HLB値が9.5以上の化合物である。ポリエチレングリコールおよびポリエーテル変性シリコーンオイルは、比較的安価で入手しやすい。また、親水部と疎水部(親油部)とを併せ持つため、疎水性の液状シリコーンゴムと混合しやすく、シリコーンゴム多孔質体の表面の親水化にも有利である。使用する水溶性有機物は、一種でも二種以上でもよい。ポリエチレングリコールを用いる場合、常温で液体状態であり、所望の親水性を有するという観点から、重量平均分子量が400以上600以下のものを選択することが望ましい。
【0023】
HLB値の計算方法は、化合物の種類などに応じていくつか提案されており、例えば、次式(i)により算出することができる。親水性を高めて成形性を向上させ、親水性の付与を容易にするという観点においては、HLB値を12以上にするとより好適である。
HLB値=20×親水部の式量の総和/分子量 ・・・(i)
【0024】
シリコーンゴム組成物の流動性を高める、水溶性無機物の分散性を向上させるという観点においては、水溶性有機物は、常温で液体であることが望ましい。例えば、水溶性有機物の融点は、10℃以下であることが望ましい。
【0025】
水溶性有機物の配合量は、液状シリコーンゴムとの混合性、スキン層の形成抑制効果、気孔形成材料の溶出性などを考慮して、適宜調整すればよい。例えば、水溶性有機物の配合量を、液状シリコーンゴムの100質量部に対して10質量部以上360質量部以下にするとよい。シリコーンゴム組成物における分離を抑制するという観点においては、180質量部未満にするとよい。
【0026】
水溶性無機物は、形成される気孔径の制御が容易であるなどの理由から、粒子状のものが望ましい。水溶性無機物は、一種でも二種以上でもよい。例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ金属の塩が挙げられる。なかでも、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウムは、比較的安価に入手可能であるため好適である。
【0027】
水溶性無機物の粒子径は特に限定されないが、形成される気孔径などを考慮すると、5μm以上600μm以下であることが望ましい。粒子径が5μm未満の場合には、形成される気孔径が小さくなり、シリコーンゴム多孔質体の通気性が低下するおそれがある。反対に、粒子径が600μmより大きくなると、シリコーンゴム組成物における水溶性無機物の分散性が低下することに加えて、形成される気孔径が大きくなりシリコーン多孔質体の機械的強度が低下するおそれがある。本明細書においては、水溶性無機物の粒子径として、粒子をマイクロスコープで観察した場合の最大長さを採用する。
【0028】
水溶性無機物の配合量は、シリコーンゴム多孔質体の通気性、成形性などを考慮し、水溶性無機物の粒子径に応じて適宜調整すればよい。例えば、水溶性無機物の粒子径が5μm以上600μm以下の場合には、その配合量を、液状シリコーンゴムの100質量部に対して100質量部以上650質量部以下にするとよい。シリコーンゴム多孔質体の成形性を向上させるという観点においては、300質量部以下にするとよい。
【0029】
液状シリコーンゴムと気孔形成材料との混合は、プラネタリーミキサー、ホモミキサー、ホモジナイザー、ディスパーなどの混合機を用いて行えばよい。混合する際の温度は常温でよく、加熱する必要はない。但し、液状シリコーンゴムの架橋反応が進行しない範囲で加熱することを排除するものではない。混合する際には水を加えないことが望ましい。シリコーンゴム組成物に水が存在すると、次の成形工程において架橋反応を阻害するおそれがあり、水が蒸発することにより所望の気孔が形成されないおそれがある。混合は、まず、液状シリコーンゴムに水溶性無機物を加えて撹拌した後、水溶性有機物を添加して撹拌するとよい。こうすることにより、液状シリコーンゴムと水溶性有機物との分離が抑制され、水溶性無機物の周囲に水溶性有機物が配位することにより分散性が向上する。
【0030】
<成形工程>
本工程は、先の工程で製造されたシリコーンゴム組成物をプレス成形することにより架橋して、シリコーンゴム成形体を製造する工程である。プレス成形時の温度は、液状シリコーンゴムの架橋温度、生産性などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、水溶性有機物の蒸発を抑制しつつ生産性を向上させるという観点においては、100℃以上130℃以下の温度で行うことが望ましい。成形時間は、成形温度に応じて架橋反応が十分に進行する時間にすればよい。例えば、成形温度が100℃以上130℃以下の場合には、成形時間を5分以上20分以下にすることができる。
【0031】
プレス成形して製造されるシリコーンゴム成形体は、スキン層を有さないことが望ましい。シリコーンゴム成形体の大きさ、形状などは、シリコーンゴム多孔質体の用途に応じて適宜決定すればよい。例えば、マイクロ流体デバイスに用いる場合には、厚さが1μm以上、15μm以上、300μm以上などの薄膜状、1mm以上の薄板状などに成形すればよい。顕微鏡を用いた光学検査用のマイクロ流体デバイスに用いる場合には、厚さを2mm以下、1mm以下、750μm以下、500μm以下にするとよい。シリコーンゴム成形体は、シート状の他、容器、チューブなどの形状を有していてもよい。
【0032】
<抽出工程>
本工程は、先の工程で製造されたシリコーンゴム成形体を水に接触させて、シリコーンゴム成形体から気孔形成材料を抽出する工程である。シリコーンゴム成形体と水との接触方法は、特に限定されない。例えば、シリコーンゴム成形体を水中に浸漬する、あるいはシリコーンゴム成形体に水を吹き付けるなどの方法により行えばよい。水の温度は、常温でもよいが、気孔形成材料の抽出時間を短くする、溶出率を高めるなどの観点から、30~70℃程度の温水を使用してもよい。抽出時間は、気孔形成材料の溶出しやすさなどに応じて適宜決定すればよく、例えば10~48時間程度にすればよい。
【0033】
気孔形成材料を抽出した後、乾燥して水分を除去することによりシリコーンゴム多孔質体が得られる。気孔形成材料は、必ずしも全部抽出されてなくてもよい。すなわち、製造されるシリコーンゴム多孔質体には、気孔形成材料の一部が残存していてもよい。例えば、水溶性有機物の一部がシリコーンゴム多孔質体中に残存することにより、シリコーンゴム多孔質体の表面の親水化が容易になる。シリコーンゴム多孔質体は、連続気泡構造を有するが、残存する水溶性無機物を少なくするという観点においては、シリコーンゴム多孔質体の通気性(気孔率)はできるだけ高い方が望ましい。
【0034】
<親水化処理工程>
本開示のシリコーンゴム多孔質体の製造方法は、前述した三つの工程を有すればよいが、シリコーンゴム多孔質体の表面の親水性が必要な場合には、抽出工程の後、シリコーンゴム多孔質体の表面に親水性を付与する処理を施す親水化処理工程を有してもよい。親水化処理は、表面の一部のみに施してもよく、全体に施してもよい。親水化処理としては、コーティング剤を用いた成膜処理、高エネルギーを照射することによる改質処理などが挙げられる。成膜処理としては、スプレーコーティング、ディップ処理、転写法、プラズマCVD法などが挙げられる。改質処理としては、プラズマの照射、エキシマ光などの紫外線(UV)照射、コロナ放電、電子線照射、γ線照射などが挙げられる。なかでも、短時間の処理で効果が得られ、シリコーンゴム多孔質体に熱ダメージを与えにくいという理由から、プラズマ処理が好適である。プラズマ処理は、大気圧下または真空下で行えばよく、アルゴンなどの貴ガスや酸素などを含む雰囲気中にて、高周波(RF)電源を用いたRFプラズマや、マイクロ波電源を用いたマイクロ波プラズマなどを照射すればよい。先の抽出工程において、水溶性有機物の全部が抽出されず、シリコーンゴム多孔質体中にその一部が残存していると、プラズマ処理を施すだけで高い親水性を付与することができる。
【実施例0035】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。
【0036】
<サンプルの製造>
[サンプル1~6]
まず、水溶性無機物としての塩化ナトリウム粉末を、80℃のオーブン中で24時間保持することにより乾燥した。次に、液状シリコーンゴム(旭化成ワッカーシリコーン(株)製「LR3391/70」)100質量部に、乾燥した塩化ナトリウム粉末を所定量加え、常温下でプラネタリーミキサーにて撹拌した後、水溶性有機物としてのポリエチレングリコール(PEG400、重量平均分子量380~420)を所定量加え、さらに同ミキサーにて常温下で撹拌して、未架橋のシリコーンゴム組成物を製造した(混合工程)。使用した液状シリコーンゴムには、ビニル基を有するオルガノポリシロキサン、架橋剤、遅延剤および触媒が含まれている。続いて、シリコーンゴム組成物を金型入れ、130℃下で5分間プレス成形して、縦120mm、横120mm、厚さ1mmの正方形シート状のシリコーンゴム成形体を製造した(成形工程)。それから、シリコーンゴム成形体を60℃の温水に24時間浸漬し、気孔形成材料(塩化ナトリウム、PEG400)を溶出させた。そして、得られたシリコーンゴム多孔質体を、60℃のオーブン中で24時間保持することにより乾燥してサンプルとした(抽出工程)。
【0037】
塩化ナトリウム粉末としては粒子径が異なる次の三種類を使用した。PEG400のHLB値は20、沸点は250℃、融点は8℃である。各材料の配合量については、後出の表1に、評価結果と一緒に示す。
塩化ナトリウム粉末a:粒子径300μm以上600μm以下。
塩化ナトリウム粉末b:粒子径30μm以上60μm以下。
塩化ナトリウム粉末c:粒子径5μm以上10μm以下。
【0038】
[サンプル7]
水溶性有機物をポリエーテル変性シリコーンオイルa(信越化学工業(株)製「KF-6011」)に変更した点以外は、サンプル2(塩化ナトリウム粉末aを使用)と同様にしてサンプル7を製造した。ポリエーテル変性シリコーンオイルaのHLB値は12、シリコーンオイルの沸点および融点を参考にすると、沸点は200℃以上、融点は-50℃以下と推定される。サンプル1~7の製造方法は、本開示のシリコーンゴム多孔質体の製造方法の概念に含まれる。
【0039】
[サンプル8]
水溶性有機物をポリオキシエチレンドデシルエーテル(東邦化学工業(株)製「ペグノール(登録商標) L-4」)に変更し、塩化ナトリウム粉末aの配合量を325質量部に変更した点以外は、サンプル2と同様にしてサンプル8を製造した。使用したポリオキシエチレンドデシルエーテルのHLB値は9.7であり、参考値として、構造が近いポリオキシエチレンドデシルエーテル(C12EO6)の沸点は230℃、融点は26℃である。
【0040】
[サンプル9]
水溶性有機物をポリエーテル変性シリコーンオイルb(信越化学工業(株)製「KF-6015」)に変更した点以外は、サンプル2と同様にしてサンプル9を製造した。ポリエーテル変性シリコーンオイルbのHLB値は5、シリコーンオイルの沸点および融点を参考にすると、沸点は200℃以上、融点は-50℃以下と推定される。
【0041】
[サンプル10]
水溶性有機物を配合しない点以外は、サンプル3、4(塩化ナトリウム粉末bを使用)と同様にしてサンプル10を製造した。
【0042】
[サンプル11]
水溶性有機物を配合しない点以外は、サンプル5、6(塩化ナトリウム粉末cを使用)と同様にしてサンプル11を製造した。
【0043】
<評価方法>
[水溶性有機物の加熱減量率]
使用した水溶性有機物を加熱して、加熱前後の質量に基づいて加熱減量率を求めた。水溶性有機物の加熱減量率が大きいほど、加熱時に蒸発する成分が多いと考えられる。まず、水溶性有機物の5.2gを、円筒状で蓋のないアルミニウム製カップ(直径50mm、厚さ15mm)に入れ、カップを含めた全体の質量(W0)を測定した。次に、カップを130℃に保持したホットプレート上に載せ、1時間静置した。それから、カップをホットプレートから下ろし、室温になるまで放冷した後、カップを含めた全体の質量(W1)を測定した。そして、次式(ii)により加熱減量率を算出した。
加熱減量率(%)=(W0-W1)/W0×100 ・・・(ii)
[W0:加熱前質量、W1:加熱後質量]
【0044】
[シリコーンゴム組成物の状態]
混合工程において製造した未架橋のシリコーンゴム組成物を目視観察して、分離の有無を調べた。
【0045】
[成形性]
成形工程において製造したシリコーンゴム成形体の外観を目視観察して、シート形状が維持されている場合を成形性良好(後出の表1中、○印で示す)、維持されていない場合を成形性不良(同表中、×印で示す)、と評価した。
【0046】
[気孔形成材料の溶出率]
サンプルのシリコーンゴム多孔質体における気孔形成材料の溶出率を、次式(iii)により算出した。
気孔形成材料の溶出率[質量%]=(シリコーンゴム成形体の質量(抽出前の質量)[g]-シリコーンゴム多孔質体の質量(抽出、乾燥後の質量)[g])/気孔形成材料の理論配合量[g]×100 ・・・(iii)
【0047】
[スキン層の有無]
サンプルのシリコーンゴム多孔質体の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により倍率30倍または300倍で撮影し、いずれかの倍率で孔が見られればスキン層なし、いずれの倍率においても孔が見られなければスキン層あり、と評価した。
【0048】
[気孔径]
サンプルのシリコーンゴム多孔質体の厚さ方向の断面を、SEMにより倍率30倍または300倍で撮影し、気孔径を測定した。
【0049】
[通気性]
サンプルのシリコーンゴム多孔質体を、大気圧槽と真空槽(圧力1000Pa程度)との間を仕切るように配置して、60秒後の真空槽の圧力変化を測定した。そして、真空槽の圧力変化が25000Pa以上であれば、通気性が極めて高い(後出の表1中、◎印で示す)、5000Pa以上25000Pa未満であれば、通気性が良好(同表中、○印で示す)、5000Pa未満であれば、通気性に劣る(同表中、×印で示す)と評価した。
【0050】
[親水性付与性]
サンプルのシリコーンゴム多孔質体の厚さ方向の一方の表面に、プラズマ処理を施した後、成膜処理を施した。プラズマ処理は、圧力9.0Paの真空下、アルゴンガスおよび酸素ガス雰囲気でマイクロ波プラズマを照射して行った。アルゴンガスの供給速度は30cc/分、酸素ガスの供給速度は150cc/分とした。マイクロ波の周波数は2.45GHz、出力電力は0.3kW、処理時間は2秒間とした。成膜処理は、ポリエーテルシラン(信越化学工業(株)製「X-12-641」)を純水で50%に希釈したコーティング剤を用いて行った。まず、プラズマ処理後のサンプルをコーティング剤に1分間浸漬した。次に、同サンプルを純水に1分間浸漬した後、24時間自然乾燥した。そして、サンプルのプラズマおよび成膜処理面に水を2μL滴下して、水が染み込んだ場合を親水性付与可(後出の表1中、○印で示す)、水が染み込まなかった場合を親水性付与不可(同表中、×印で示す)、と評価した。
【0051】
<評価結果>
表1に、各サンプルにおける材料の配合量および評価結果をまとめて示す。
【表1】
【0052】
表1に示すように、本開示のシリコーンゴム多孔質体の製造方法により製造されたサンプル1~7においては、プレス成形してもスキン層が形成されず、通気性が良好であった。そして、いずれのサンプルにおいても、気孔形成材料の溶出率は高く、70%以上であった。ここで、サンプル1~6に用いたPEG400の加熱減量率は1.9%、サンプル7に用いたポリエーテル変性シリコーンオイルaの加熱減量率は0.0%であった。サンプル1と2、3と4、5と6を比較すると、水溶性有機物の配合量を増加することにより、気孔形成材料の溶出率が高くなることがわかる。また、いずれのサンプルにおいても、プラズマ処理および成膜処理を施すことにより、表面に親水性を付与することができた。なお、サンプル2を製造する過程において、シリコーンゴム組成物に分離が見られたが、成形性には影響がなかった。
【0053】
これに対して、水溶性有機物として、加熱減量率が5.8%と大きいポリオキシエチレンドデシルエーテルを用いたサンプル8の場合、プレス成形時に多量のガスが発生して成形することができなかった。また、HLB値が5のポリエーテル変性シリコーンオイルbを用いたサンプル9においては、混合工程において、液状シリコーンゴムが島相になり、水溶性無機物(塩化ナトリウム粉末)を十分に分散させることができなかったため、シート状に成形することができなかった。水溶性有機物を配合しなかったサンプル10、11によると、プレス成形することはできたが、得られたシリコーンゴム成形体にはスキン層が形成されたため、シリコーンゴム多孔質体の通気性は低くなった。また、気孔形成材料の溶出率も低く、表面に親水性を付与することもできなかった。