(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157644
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】画像形成方法及び画像形成システム
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20241031BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20241031BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B41M5/00 100
C09D11/322
B41M5/00 120
B41J2/01 127
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072106
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小俣 猛憲
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2C056HA44
2H186AA04
2H186AB12
2H186BA08
2H186DA09
2H186FA01
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB18
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB54
2H186FB56
2H186FB57
4J039BE01
4J039EA46
4J039EA48
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、基材や機器へのダメージがなく、かつ、インクの位置合わせが容易である画像形成方法及び画像形成システムを提供することである。
【解決手段】第1インクの塗布工程と、第1乾燥工程と、第2インクの塗布工程と、第2乾燥工程と、をこの順に有する画像形成方法であって、前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、前記第1インクの塗布工程にて、基材の上に前記第1インクを塗布し、前記第1乾燥工程にて、前記第1インクにマイクロ波又は中波長~短波長の赤外線を照射することによって乾燥させ下地層を形成し、前記第2インクの塗布工程にて、前記下地層の上に前記第2インクを塗布し、前記第2乾燥工程にて、前記第2インクを乾燥させ前記第2インクの画像層を形成することを特徴とする画像形成方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1インクの塗布工程と、第1乾燥工程と、第2インクの塗布工程と、第2乾燥工程と、をこの順に有する画像形成方法であって、
前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、
前記第1インクの塗布工程にて、基材の上に前記第1インクを塗布し、
前記第1乾燥工程にて、前記第1インクにマイクロ波又は中波長~短波長の赤外線を照射することによって乾燥させ下地層を形成し、
前記第2インクの塗布工程にて、前記下地層の上に前記第2インクを塗布し、
前記第2乾燥工程にて、前記第2インクを乾燥させ前記第2インクの画像層を形成する
ことを特徴とする画像形成方法。
【請求項2】
前記第1乾燥工程が、前記第1インクにマイクロ波を照射することによって乾燥させ下地層を形成する工程である
ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項3】
第2インクの塗布工程と、第1乾燥工程と、第1インクの塗布工程と、第2乾燥工程と、をこの順に有する画像形成方法であって、
前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、
前記第2インクの塗布工程にて、基材の上に前記第2インクを塗布し、
前記第1乾燥工程にて、前記第2インクにマイクロ波を照射することによって乾燥させ前記第2インクの画像層を形成し、
前記第1インクの塗布工程にて、前記第2インクの画像層の上に前記第1インクを塗布し、
前記第2乾燥工程にて、前記第1インクを乾燥させ第1インクの被覆層を形成する
ことを特徴とする画像形成方法。
【請求項4】
前記第1乾燥工程にて、前記第1インク又は前記第2インクに温度100℃以下の補助風を当てる
ことを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の画像形成方法。
【請求項5】
前記第2乾燥工程にて、少なくとも熱風を当てる方法及び赤外線を照射する方法の中のいずれか一つの方法によって前記第2インクを乾燥させる
ことを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の画像形成方法。
【請求項6】
前記第2乾燥工程にて、前記マイクロ波を照射する方法を行った後に前記熱風を当てる方法を行うことによって前記第1インク又は前記第2インクを乾燥させる
ことを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の画像形成方法。
【請求項7】
下地層又は被覆層が、酸化チタンを含有するホワイトインクによって形成されている
ことを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の画像形成方法。
【請求項8】
前記第2インクが、少なくともイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを二種以上含むインクセットからなり、
当該インクセットの色彩の異なる顔料を含有する二種の第2インクを、それぞれ、Aインク及びBインクとし、前記Aインク及び前記Bインクの乾燥率95%での複素誘電率を、それぞれ、ε′′A及びε′′Bとしたとき、当該ε′′A及びε′′Bが下記式(1)を満たし、
式(1): ε′′B<ε′′A
前記Aインク及び前記Bインクを80℃にて20秒間乾燥させたときの乾燥率を、それぞれ、DA及びDBとしたとき当該DA及びDBが下記式(2)を満たす
式(2): DA<DB
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の画像形成方法。
【請求項9】
前記Aインクの複素誘電率ε′′A及び前記Bインクの複素誘電率ε′′Bが、下記式(3)を満たす
式(3): (ε′′A/ε′′B)<20
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の画像形成方法。
【請求項10】
前記水溶性溶媒が、沸点が200℃以上である保湿剤を含有し、
前記保湿剤の含有量が、前記Aインク又は前記Bインクに対して3~20質量%の範囲内であり、
前記Aインク又は前記Bインクに対して、前記マイクロ波を周波数2.45GHzにて照射したときの、25℃における複素誘電率ε′′が、13~60.0の範囲内である
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の画像形成方法。
【請求項11】
第1インクの塗布手段と、第1乾燥手段と、第2インクの塗布手段と、第2乾燥手段と、をこの順に有する画像形成システムであって、
前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、
前記第1インクの塗布手段が、基材の上に前記第1インクを塗布する手段であり、
前記第1乾燥手段が、前記第1インクにマイクロ波又は中波長~短波長の赤外線を照射することによって乾燥させ下地層を形成する手段であり、
前記第2インクの塗布手段が、前記下地層の上に前記第2インクを塗布する手段であり、
前記第2乾燥手段が、前記第2インクを乾燥させ前記第2インクの画像層を形成する手段である
ことを特徴とする画像形成システム。
【請求項12】
第2インクの塗布手段と、第1乾燥手段と、第1インクの塗布手段と、第2乾燥手段と、をこの順に有する画像形成システムであって、
前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、
前記第2インクの塗布手段が、基材の上に前記第2インクを塗布する手段であり、
前記第1乾燥手段が、前記第2インクにマイクロ波を照射することによって乾燥させ第2インクの画像層を形成する手段であり、
前記第1インクの塗布手段が、前記第2インクの画像層の上に前記第1インクを塗布する手段であり、
前記第2乾燥手段が、前記第1インクを乾燥させ前記第1インクの被覆層を形成する手段である
ことを特徴とする画像形成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成方法及び画像形成システムに関する。より詳しくは、インク吐出性に不具合なくインクの位置合わせが容易であり、かつ装置が大型化することのない画像形成方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、雰囲気を温めることによってインク全体を加熱・乾燥する方法によって画像を形成していた。雰囲気を温める方法としては、例えば熱風を当てる方法や赤外線ヒーターによって加熱する方法等が挙げられるが、これらの方法等では、インクだけでなく、基材も同時に加熱されるため、当該基材にダメージを多く与えるような熱量は付与できない。
【0003】
インク全体を加熱・乾燥するその他の方法としては、例えば中波長~短波長の赤外線を照射する方法やマイクロ波を照射する方法が挙げられる。
【0004】
長波長の赤外線は雰囲気を温めてしまうが、中波長~短波長の赤外線を照射する方法は、指向性があり雰囲気を温めずにインクに直接作用して熱する方法であるため、基材や機器に対するダメージが少ない。ただし、インクの色や樹脂等の固形分の種類によって乾燥性に大きな差がでるという問題がある。
【0005】
なお、本明細書において、「長波長の赤外線」とは、「遠赤外線」ともいい、波長4μm~1mmの範囲内の赤外線をいう。「中波長の赤外線」とは、「中赤外線」ともいい、波長2~4μmの範囲内の赤外線をいう。「短波長の赤外線」とは、「近赤外線」ともいい、波長0.78~2μmの範囲内の赤外線をいう。
【0006】
一方、マイクロ波を照射する方法は、マイクロ波吸収能を有する物質のみに直接マイクロ波を作用させることにより乾燥対象物を熱する方法であるため、マイクロ波吸収能を有しない基材や機器に対するダメージがなく、当該乾燥対象物のみを乾燥することができる指向性が高い乾燥方法である。
【0007】
ただし、複数のインク同士を乾燥させる際には、中波長~短波長の赤外線を照射する方法ほどではないが、複数の種類のインクによって形成された画像のマイクロ波吸収能は、インクの色や樹脂等の固形分の種類によって大きな差がでるため、マイクロ波の照射によって乾燥させる時間が長くなると一部のインクが過剰に乾燥してしまう。これによって、インクによって形成された塗膜の表面が荒れたり、基材にダメージを与えてしまうという問題があった。
【0008】
これに対して、特許文献1では、紙基材のコックリング(cockling)の測定結果に基づいて複数のインク滴をマイクロ波による定在波のピーク位置を変更しながら乾燥させる技術が開示されている。しかしながら、上記のコックリングのように、乾燥熱により基材が縮む等の不具合に対しては別のアプローチ方法も考えられ、改善の余地が残されていた。
【0009】
例えばフィルム基材にインクを射出(又は塗布)し、その後乾燥して下地層を形成し、その後にカラーインクを印刷するケースでは、下地層形成後の乾燥熱によりフィルム基材が縮む等の不具合が生じ、その後のカラーインク印刷時の位置合わせが難しい、また、下地層乾燥ゾーンにより雰囲気が加熱され、その後のカラー印刷の射出安定性に悪影響を与えるという問題があった。
【0010】
上記問題を解決するために下地層の乾燥ゾーンとその後のカラー印刷ゾーンを物理的に距離を離したり、下地層の乾燥ゾーン通過後に加熱された基材を冷やす機構を設ける等の措置が施されるが、装置が大型化する等の不具合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、インク吐出性に不具合なく印刷の位置合わせが容易であり、かつ装置が大型化することのない画像形成方法及び画像形成システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、例えば第1インク(下地層用インク)の塗布工程、第1乾燥工程、第2インク(画像形成用インク)の塗布工程、及び第2乾燥工程を、この順に有する画像形成方法において、第1乾燥工程でマイクロ波を照射する又は中波長~短波長の赤外線を照射する構成とすることでカラー画像形成時の位置合わせや射出安定性の不具合も軽減でき、かつ装置が大型化することがないことを見いだし本発明に至った。すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0014】
1.第1インクの塗布工程と、第1乾燥工程と、第2インクの塗布工程と、第2乾燥工程と、をこの順に有する画像形成方法であって、
前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、
前記第1インクの塗布工程にて、基材の上に前記第1インクを塗布し、
前記第1乾燥工程にて、前記第1インクにマイクロ波又は中波長~短波長の赤外線を照射することによって乾燥させ下地層を形成し、
前記第2インクの塗布工程にて、前記下地層の上に前記第2インクを塗布し、
前記第2乾燥工程にて、前記第2インクを乾燥させ前記第2インクの画像層を形成する
ことを特徴とする画像形成方法。
【0015】
2.前記第1乾燥工程が、前記第1インクにマイクロ波を照射することによって乾燥させ下地層を形成する工程である
ことを特徴とする第1項に記載の画像形成方法。
【0016】
3.第2インクの塗布工程と、第1乾燥工程と、第1インクの塗布工程と、第2乾燥工程と、をこの順に有する画像形成方法であって、
前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、
前記第2インクの塗布工程にて、基材の上に前記第2インクを塗布し、
前記第1乾燥工程にて、前記第2インクにマイクロ波を照射することによって乾燥させ前記第2インクの画像層を形成し、
前記第1インクの塗布工程にて、前記第2インクの画像層の上に前記第1インクを塗布し、
前記第2乾燥工程にて、前記第1インクを乾燥させ第1インクの被覆層を形成する
ことを特徴とする画像形成方法。
【0017】
4.前記第1乾燥工程にて、前記第1インク又は前記第2インクに温度100℃以下の補助風を当てる
ことを特徴とする第1項又は第3項に記載の画像形成方法。
【0018】
5.前記第2乾燥工程にて、少なくとも熱風を当てる方法及び赤外線を照射する方法の中のいずれか一つの方法によって前記第2インクを乾燥させる
ことを特徴とする第1項又は第3項に記載の画像形成方法。
【0019】
6.前記第2乾燥工程にて、前記マイクロ波を照射する方法を行った後に前記熱風を当てる方法を行うことによって前記第1インク又は前記第2インクを乾燥させる
ことを特徴とする第1項又は第3項に記載の画像形成方法。
【0020】
7.下地層又は被覆層が、酸化チタンを含有するホワイトインクによって形成されている
ことを特徴とする第1項又は第3項に記載の画像形成方法。
【0021】
8.前記第2インクが、少なくともイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを二種以上含むインクセットからなり、
当該インクセットの色彩の異なる顔料を含有する二種の第2インクを、それぞれ、Aインク及びBインクとし、前記Aインク及び前記Bインクの乾燥率95%での複素誘電率を、それぞれ、ε′′A及びε′′Bとしたとき、当該ε′′A及びε′′Bが下記式(1)を満たし、
式(1): ε′′B<ε′′A
前記Aインク及び前記Bインクを80℃にて20秒間乾燥させたときの乾燥率を、それぞれ、DA及びDBとしたとき当該DA及びDBが下記式(2)を満たす
式(2): DA<DB
ことを特徴とする第2項又は第3項に記載の画像形成方法。
【0022】
9.前記Aインクの複素誘電率ε′′A及び前記Bインクの複素誘電率ε′′Bが、下記式(3)を満たす
式(3): (ε′′A/ε′′B)<20
ことを特徴とする第2項又は第3項に記載の画像形成方法。
【0023】
10.前記水溶性溶媒が、沸点が200℃以上である保湿剤を含有し、
前記保湿剤の含有量が、前記Aインク又は前記Bインクに対して3~20質量%の範囲内であり、
前記Aインク又は前記Bインクに対して、前記マイクロ波を周波数2.45GHzにて照射したときの、25℃における複素誘電率ε′′が、13~60.0の範囲内である
ことを特徴とする第2項又は第3項に記載の画像形成方法。
【0024】
11.第1インクの塗布手段と、第1乾燥手段と、第2インクの塗布手段と、第2乾燥手段と、をこの順に有する画像形成システムであって、
前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、
前記第1インクの塗布手段が、基材の上に前記第1インクを塗布する手段であり、
前記第1乾燥手段が、前記第1インクにマイクロ波又は中波長~短波長の赤外線を照射することによって乾燥させ下地層を形成する手段であり、
前記第2インクの塗布手段が、前記下地層の上に前記第2インクを塗布する手段であり、
前記第2乾燥手段が、前記第2インクを乾燥させ前記第2インクの画像層を形成する手段である
ことを特徴とする画像形成システム。
【0025】
12.第2インクの塗布手段と、第1乾燥手段と、第1インクの塗布手段と、第2乾燥手段と、をこの順に有する画像形成システムであって、
前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、
前記第2インクの塗布手段が、基材の上に前記第2インクを塗布する手段であり、
前記第1乾燥手段が、前記第2インクにマイクロ波を照射することによって乾燥させ第2インクの画像層を形成する手段であり、
前記第1インクの塗布手段が、前記第2インクの画像層の上に前記第1インクを塗布する手段であり、
前記第2乾燥手段が、前記第1インクを乾燥させ前記第1インクの被覆層を形成する手段である
ことを特徴とする画像形成システム。
【発明の効果】
【0026】
本発明の上記手段により、インク吐出性に不具合なくインクの位置合わせが容易であり、かつ装置が大型化することのない画像形成方法及び画像形成システムを提供することができる。
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0027】
基材に下地層を形成し、その上にインクを塗布し画像を形成する方法では、下地層形成後の乾燥熱により基材が縮む等の不具合が生じる。そして、それによりその後の画像形成時のインクの位置合わせが難しくなる。また、下地層形成時に当該下地層の乾燥を雰囲気による加熱によって行っていると、次のインクを射出するヘッドが加熱され、インクが適正の射出粘度からズレてしまい射出性が不安定化する。またヘッドが加熱され、ヘッドのノズル近傍に乾燥したインクが固着して射出性に不具合が生じる等の問題がある。
【0028】
本発明においては、2つの印刷工程と2つの乾燥工程を有する構成において、第1の乾燥工程に指向性の高いマイクロ波又は中波長~短波長の赤外線を利用するため、基材が加熱されることなく基材縮みが生じず、第2印刷工程で特段の制御をしなくても容易に位置合わせすることが可能である。また第1の乾燥工程にマイクロ波又は中波長~短波長の赤外線乾燥を適用することで、基材や雰囲気が加熱されることがなく、第2印刷工程の射出性に不具合を起こすことがない。基材や雰囲気温度を下げる機構を設ける必要がなく、装置が大型化することがない。
【0029】
中波長~短波長の赤外線乾燥は、直接乾燥対象物に作用し、その材料のみ乾燥する指向性が高い乾燥方法である。また、マイクロ波乾燥は直接乾燥対象物に作用(誘電損率の高い物質)し、その材料のみ乾燥する指向性が高い乾燥方法であり、フィルム基材はマイクロ波吸収性がなく、照射しても基材縮み加温をされることがない。
【0030】
したがって、例えば第1インク(下地層用インク)の塗布工程、第1乾燥工程、第2インク(画像形成用インク)の塗布工程、及び第2乾燥工程を、この順に有する画像形成方法において、第1乾燥工程でマイクロ波照射を行う構成とすることでカラー画像形成時の位置合わせや射出安定性の不具合も軽減でき、かつ装置が大型化することがない。
【0031】
上記例の場合、第1インクは1色であり、中波長~短波長の赤外線乾燥でもマイクロ波主体の乾燥でも乾燥の面内バラつきなく、均一に乾燥可能である。マイクロ波主体の乾燥で基材ダメージなく、また基材が加熱されず、後ろの第2インク部の雰囲気があたたまることなく、第2インク部の射出に悪影響を与えない。
【0032】
一方で第2インクは2色以上であり、色毎の乾燥バラつきがあり中波長~短波長の赤外線乾燥又はマイクロ波を主体とする乾燥を行うと基材ダメージ等の不具合がある。熱風又は熱風とマイクロ波を組合せることで色毎のバラつきを解消できる。
【0033】
第2インク乾燥後は、インクジェット印刷工程がないので位置ズレ問題や、雰囲気加熱で後のインク吐出性への影響もない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】第1インクをロールコーター方式で塗布する画像形成方法1に好ましい記録装置の一例の模式図
【
図2】第1インクをインクジェット方式で塗布する画像形成方法1に好ましい記録装置の一例の模式図
【
図3】第1インクをロールコーター方式で塗布する画像形成方法2に好ましい記録装置の一例の模式図
【
図4】第1インクをインクジェット方式で塗布する画像形成方法2に好ましい記録装置の一例の模式図
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の画像形成方法は、第1インクの塗布工程と、第1乾燥工程と、第2インクの塗布工程と、第2乾燥工程と、をこの順に有する画像形成方法であって、前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、前記第1インクの塗布工程にて、基材の上に前記第1インクを塗布し、前記第1乾燥工程にて、前記第1インクにマイクロ波又は中波長~短波長の赤外線を照射することによって乾燥させ下地層を形成し、前記第2インクの塗布工程にて、前記下地層の上に前記第2インクを塗布し、前記第2乾燥工程にて、前記第2インクを乾燥させ前記第2インクの画像層を形成することを特徴とする。この特徴は、下記各実施形態(態様)に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0036】
本発明の実施態様としては、前記第1乾燥工程が、前記第1インクにマイクロ波を照射することによって乾燥させ下地層を形成する工程であることが、本発明の効果発現の観点から好ましい。
【0037】
本発明のもう一つの画像形成方法は、第2インクの塗布工程と、第1乾燥工程と、第1インクの塗布工程と、第2乾燥工程と、をこの順に有する画像形成方法であって、前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、前記第2インクの塗布工程にて、基材の上に前記第2インクを塗布し、前記第1乾燥工程にて、前記第2インクにマイクロ波を照射することによって乾燥させ前記第2インクの画像層を形成し、前記第1インクの塗布工程にて、前記第2インクの画像層の上に前記第1インクを塗布し、前記第2乾燥工程にて、前記第1インクを乾燥させ第1インクの被覆層を形成することを特徴とする。この特徴も、下記各実施形態(態様)に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0038】
本発明の実施態様としては、前記第1乾燥工程にて、前記第1インク又は前記第2インクに温度100℃以下の補助風を当てることが、速乾性付与の観点から好ましい。
【0039】
前記第2乾燥工程にて、少なくとも熱風を当てる方法及び赤外線を照射する方法の中のいずれか一つの方法によって前記第2インクを乾燥させることが、速乾性付与及び均一な乾燥性制御の観点から好ましい。
【0040】
前記第2乾燥工程にて、前記マイクロ波を照射する方法を行った後に前記熱風を当てる方法を行うことによって前記第1インク又は前記第2インクを乾燥させることが、速乾性付与及び均一な乾燥性制御の観点から好ましい。
【0041】
下地層又は被覆層が、酸化チタンを含有するホワイトインクによって形成されていることが、速乾性付与の観点から好ましい。
【0042】
前記第2インクが、少なくともイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを二種以上含むインクセットからなり、当該インクセットの色彩の異なる顔料を含有する二種の第2インクを、それぞれ、Aインク及びBインクとし、前記Aインク及び前記Bインクの乾燥率95%での複素誘電率を、それぞれ、ε′′A及びε′′Bとしたとき、当該ε′′A及びε′′Bが前記式(1)を満たし、前記Aインク及び前記Bインクを80℃にて20秒間乾燥させたときの乾燥率を、それぞれ、DA及びDBとしたとき当該DA及びDBが前記式(2)を満たすことが、均一な乾燥性制御の観点から好ましい。
【0043】
前記Aインクの複素誘電率ε′′A及び前記Bインクの複素誘電率ε′′Bが、前記式(3)を満たすことが、均一な乾燥性制御の観点から好ましい。
【0044】
前記水溶性溶媒が、沸点が200℃以上である保湿剤を含有し、前記保湿剤の含有量が、前記Aインク又は前記Bインクに対して3~20質量%の範囲内であり、前記Aインク又は前記Bインクに対して、前記マイクロ波を周波数2.45GHzにて照射したときの、25℃における複素誘電率ε′′が、13~60.0の範囲内であることが、均一な乾燥性制御の観点から好ましい。
【0045】
本発明の画像形成システムは、第1インクの塗布手段と、第1乾燥手段と、第2インクの塗布手段と、第2乾燥手段と、をこの順に有する画像形成システムであって、前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、前記第1インクの塗布手段が、基材の上に前記第1インクを塗布する手段であり、前記第1乾燥手段が、前記第1インクにマイクロ波又は中波長~短波長の赤外線を照射することによって乾燥させ下地層を形成する手段であり、前記第2インクの塗布手段が、前記下地層の上に前記第2インクを塗布する手段であり、前記第2乾燥手段が、前記第2インクを乾燥させ前記第2インクの画像層を形成する手段であることを特徴とする。
【0046】
本発明のもう一つの画像形成システムは、第2インクの塗布手段と、第1乾燥手段と、第1インクの塗布手段と、第2乾燥手段と、をこの順に有する画像形成システムであって、前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、前記第2インクの塗布手段が、基材の上に前記第2インクを塗布する手段であり、前記第1乾燥手段が、前記第2インクにマイクロ波を照射することによって乾燥させ第2インクの画像層を形成する手段であり、前記第1インクの塗布手段が、前記第2インクの画像層の上に前記第1インクを塗布する手段であり、前記第2乾燥手段が、前記第1インクを乾燥させ前記第1インクの被覆層を形成する手段であることを特徴とする。
【0047】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0048】
[ 本発明の画像形成方法の概要 ]
(1)画像形成方法1(表刷り)
本発明の画像形成方法の一つの形態は、
第1インクの塗布工程と、第1乾燥工程と、第2インクの塗布工程と、第2乾燥工程と、をこの順に有する画像形成方法であって、
前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、
前記第1インクの塗布工程にて、基材の上に前記第1インクを塗布し、
前記第1乾燥工程にて、前記第1インクにマイクロ波又は中波長~短波長の赤外線を照射することによって乾燥させ下地層を形成し、
前記第2インクの塗布工程にて、前記下地層の上に前記第2インクを塗布し、
前記第2乾燥工程にて、前記第2インクを乾燥させ前記第2インクの画像層を形成する
ことを特徴とする。
【0049】
従来、例えばフィルム基材にインクを射出(又は塗布)し、その後乾燥して下地層を形成し、その後にカラーインクを印刷するケースでは、下地層後の乾燥熱によりフィルム基材が縮む等の不具合が生じ、その後のカラーインク印刷時の位置合わせが難しい。また、下地層乾燥ゾーンにより雰囲気が加熱され、その後のカラー印刷の射出安定性に悪影響を与えるという問題があった。
【0050】
しかしながら、本願発明においては、上記構成の画像形成方法において、第1乾燥工程でマイクロ波照射又は中波長~短波長の赤外線照射とする構成とすることでカラー画像形成時の位置合わせや射出安定性の不具合も軽減できる。特にマイクロ波乾燥は指向性が高く、基材を加熱することなく溶媒のみを乾燥できるので、第1乾燥工程にマイクロ波照射を採用することが好ましい。
【0051】
(2)画像形成方法2(裏刷り)
本発明の画像形成方法の他の一つの形態は、
第2インクの塗布工程と、第1乾燥工程と、第1インクの塗布工程と、第2乾燥工程と、をこの順に有する画像形成方法であって、
前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、
前記第2インクの塗布工程にて、基材の上に前記第2インクを塗布し、
前記第1乾燥工程にて、前記第2インクにマイクロ波を照射することによって乾燥させ前記第2インクの画像層を形成し、
前記第1インクの塗布工程にて、前記第2インクの画像層の上に前記第1インクを塗布し、
前記第2乾燥工程にて、前記第1インクを乾燥させ第1インクの被覆層を形成する
ことを特徴とする。
【0052】
上記画像形成方法1と同様に、本画像形成方法2においても、第1乾燥工程でマイクロ波照射とする構成とすることでカラー画像形成時の位置合わせや射出安定性の不具合も軽減できる。また、別の態様として、基材にカラーインクで画像を印字して乾燥させ、その後に透明な被覆層を印字して乾燥させる場合もある。
【0053】
以下において、各画像形成方法、各工程及び構成要素について順次説明をする。なお、画像形成方法1及び2の各工程、構成要素等は、共通する面が多いので、本明細書では、主に、画像形成方法1について詳細な説明をする。
【0054】
1.画像形成方法1(表刷り)
(1.1)第1インクの塗布工程
(1.1.1)インク
本発明に係るインクは、その目的に応じて、顔料、樹脂、水、水溶性溶媒及び界面活性剤の含有割合等においてその種類が異なり、画像形成方法1(表刷り)においては、下地層形成用の目的を有するインクを第1インクとし、画像形成用の目的を有するインクを第2インクとする。また、第2インクは、少なくともイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを二種以上含むインクセットからなる。
【0055】
例えばホワイトインク、クリアインク、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクの中から第1インク及び第2インクを選択すると、以下のような選択の例が挙げられるが、これに限定されることはない。
【0056】
下地層形成用の第1インクとしてホワイトインク、被覆層形成用の第1インクとしてクリアインク及びホワイトインク、画像形成用の第2インクとしてイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを選択する。
【0057】
画像形成方法1における第1インクの塗布工程においては、本発明に係るインクの中で、下地層形成用インクを第1インクとし、当該第1インクには、一色のインクのみが用いられる。なお、「一色のインク」には顔料を含有しないクリアインクを含めるものとするが、後述する画像形成方法2において当該クリアインクを被覆層形成用インクとして用いる。
【0058】
なお、第2インクは画像形成用インクであり、当該第2インクには複数色のインクが用いられる。また、第2インクは、少なくともイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを二種以上含むインクセットからなる。
【0059】
(顔料)
本発明に係るインクが含有する顔料としては、アニオン性の分散顔料、例えば表面にアニオン性基を有する自己分散性顔料や、アニオン性の高分子分散剤により分散された顔料、表面をアニオン性の樹脂で被覆されて分散された顔料を用いることが好ましい。また、前記顔料を分散させるための顔料分散剤を含有することが好ましい。特に、アニオン性高分子分散剤で分散された顔料を用いることが、分散性に優れ、プレコート液と顔料が適度に反応してピニングする点で好ましい。顔料としては、従来公知のものを特に制限なく使用でき、例えば酸化チタン等の無機粒子を含有する無機顔料及び不溶性顔料、レーキ顔料等の有機粒子を含有する有機顔料を好ましく用いることができる。
【0060】
〔不溶性顔料〕
不溶性顔料としては、特に限定するものではないが、例えばアゾ、アゾメチン、メチン、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、キナクリドン、アントラキノン、ペリレン、インジゴ、キノフタロン、イソインドリノン、イソインドリン、アジン、オキサジン、チアジン、ジオキサジン、チアゾール、フタロシアニン、ジケトピロロピロール等が好ましい。
【0061】
〔有機顔料〕
好ましく用いることのできる具体的な有機顔料としては、以下の顔料が挙げられる。
【0062】
マゼンタ又はレッド用の顔料としては、例えばC.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメント・バイオレット19等が挙げられる。
【0063】
オレンジ又はイエロー用の顔料としては、例えばC.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー15:3、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー155等が挙げられる。特に色調と耐光性のバランスにおいて、C.I.ピグメントイエロー155が好ましい。
【0064】
グリーン又はシアン用の顔料としては、例えばC.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0065】
また、ブラック用の顔料としては、例えばC.I.ピグメントブラック1、C.I.ピグメントブラック6、C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0066】
〔無機顔料〕
無機顔料としては、種々の色の無機顔料を用いることができる。特に白色顔料として、無機顔料を用いることが好ましい。そして、白色顔料は、当該白色顔料を含有するインクが硬化して形成される硬化膜を、白色に呈させる顔料であれば、特に制限されない。
【0067】
白色顔料の例としては、例えば酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、微粉ケイ酸や合成ケイ酸塩等のシリカ類、タルク、クレイ等が挙げられる。中でも、白色度(発色性)の観点から、白色金属酸化物であることが好ましく、酸化チタンであることがより好ましい。これらは、一種単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0068】
なお、インク吐出安定性と密着性の確保が一般に困難な酸化チタンにおいて、本発明により特に好適に滲みを生じにくくし、かつ、密着性を高めることができる。酸化チタンには、アナターゼ型、ルチル型及びブルーカイト型の三つの結晶形態があるが、汎用なものとしてはアナターゼ型とルチル型に大別できる。そして、特に限定するものではないが、屈折率が大きく隠蔽性が高いルチル型が好ましい。具体的には、富士チタン工業株式会社のTRシリーズ、テイカ株式会社のJRシリーズや石原産業株式会社のタイペークなどが挙げられる。
【0069】
〔顔料分散剤〕
本発明に係る顔料を分散させるための顔料分散剤は、格別限定されないがアニオン性基を有する高分子分散剤が好ましく、分子量が5000~200000の範囲内のものを好適に用いることができる。高分子分散剤としては、例えばスチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体から選ばれた二種以上の単量体に由来する構造を有するブロック共重合体、ランダム共重合体及びこれらの塩、ポリオキシアルキレン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等を挙げることができる。
【0070】
高分子分散剤は、アクリロイル基を有することが好ましく中和塩基で中和して添加することが好ましい。ここで、中和塩基は特に限定されないが、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン等の有機塩基であることが好ましい。特に、顔料が酸化チタンであるとき、酸化チタンは、アクリロイル基を有する高分子分散剤で分散されていることが好ましい。また、高分子分散剤の添加量は、顔料に対して、10~100質量%の範囲内であることが好ましく、10~40質量%の範囲内がより好ましい。そして、顔料は、顔料を上記高分子分散剤で被覆した、いわゆるカプセル顔料の形態を有することが特に好ましい。
【0071】
顔料を高分子分散剤で被覆する方法としては、公知の種々の方法を用いることができるが、例えば転相乳化法、酸析法、又は、顔料を重合性界面活性剤により分散し、そこへモノマーを供給し、重合しながら被覆する方法などを好ましく例示できる。特に好ましい方法として、水不溶性樹脂を、メチルエチルケトンなどの有機溶媒に溶解し、さらに塩基にて樹脂中の酸性基を部分的、若しくは完全に中和後、顔料及びイオン交換水を添加し、分散したのち、有機溶媒を除去し、必要に応じて加水して調製する方法を挙げることができる。
【0072】
前記インク中における顔料の分散状態の平均粒径は、50nm以上、200nm未満であることが好ましい。これにより、顔料の分散安定性を向上でき、前記インクの保存安定性を向上できる。顔料の粒子径測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができるが、動的光散乱法による測定が簡便で、かつ該粒子径領域を精度よく測定できる。
【0073】
顔料は、分散剤及びその他所望する諸目的に応じて必要な添加物とともに、分散機により分散して用いることができる。分散機としては、従来公知のボールミル、サンドミル、ラインミル、高圧ホモジナイザー等を使用できる。中でもサンドミルによって顔料を分散させると、粒度分布がシャープとなるため好ましい。また、サンドミル分散に使用するビーズの材質は、格別限定されないが、ビーズ破片の生成やイオン成分のコンタミネーションを防止する観点から、ジルコニア又はジルコンであることが好ましい。さらに、このビーズ径は、0.3~3mmの範囲内であることが好ましい。
【0074】
前記インクにおける顔料の含有量は格別限定されないが、酸化チタンについては、7~18質量%の範囲内が好ましく、有機顔料については0.5~7質量%の範囲内が好ましい範囲である。
【0075】
(樹脂)
インクに粒子状又は液状の樹脂が含有されると、当該インクの記録媒体への定着性を高めることができる。樹脂としては、例えば塩化ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。その中でも、前記インクが、イオン性を有する樹脂を含有することが、定着性、成膜性等の観点から好ましい。
【0076】
後述する乾燥工程にてマイクロ波による乾燥を行う際には、イオン性を有する樹脂がマイクロ波によって直接加熱されるため、製膜性が向上し、かつ、基材への密着性が向上する。このようなイオン性を有する樹脂は、水不溶性樹脂微粒子であることが好ましく、樹脂微粒子のガラス転移温度(Tg)が40~90℃の範囲内であることが好ましい。前記ガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量測定装置)を用いて-30~200℃の範囲内の温度域で昇温速度10℃/分の条件で昇温させたときの吸熱ピークから、ガラス転移温度(Tg)を読み取ることによって特定することができる。
【0077】
本発明で好ましく用いられる水不溶性樹脂は、インクを受容でき、当該インクに対して溶解性又は親和性を示す水不溶性樹脂である。本発明において用いられる「水不溶性樹脂微粒子」とは、本来水不溶性であるが、ミクロな微粒子として樹脂が水系媒体中に分散する形態を有するものであり、乳化剤等を用いて強制乳化させ水中に分散している非水溶性樹脂、又は、分子内に親水性の官能基を導入して、乳化剤や分散安定剤を使用することなくそれ自身で安定な水分散体を形成する自己乳化できる非水溶性樹脂である。これらの樹脂は通常、水又は水/アルコール混合溶媒中に乳化分散させた状態で用いられる。
【0078】
なお、本発明において、「水不溶性」とは、樹脂を105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下、好ましくは5g以下、さらに好ましくは1g以下である樹脂をいう。ただし、樹脂が塩生成基を有する場合、溶解量は、その種類に応じて、樹脂の塩生成基を酢酸又は水酸化ナトリウムで100%中和したときの溶解量である。
【0079】
前記ガラス転移温度(Tg)が40~90℃の範囲内の樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル又はウレタン樹脂とアクリル樹脂の複合樹脂のいずれかであることが好ましい。特に、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル又はウレタン樹脂とアクリル樹脂の複合樹脂であり、これら樹脂微粒子の平均粒径が200nm以下であることが好ましい。また、前記平均粒径は、100~150nmの範囲内であることがより好ましい。
【0080】
上記ポリエステル、ウレタン樹脂、アクリル樹脂又はウレタン樹脂とアクリル樹脂の複合樹脂微粒子は、アニオン性であることが好ましい。中でも、インクに含有される樹脂微粒子は、酸構造を有することが好ましく、界面活性剤の添加量が少なくても、水中に分散させることが可能となり、耐水性が向上する。これを、自己乳化型といい、界面活性剤を使用することなく又は使用量が少なくても分子イオン性のみで、水中に樹脂が分散安定化しうることを意味する。
【0081】
酸構造の例には、カルボキシ基(-COOH)、スルホン酸基(-SO3H)等の酸基等が含まれる。酸構造は、樹脂において側鎖に存在していてもよく、末端に存在していてもよい。本発明に係るインクは、特にスルホン酸基を有する水分散性ポリエステルを含有することが好ましく、これにより基材に対する高い密着性が得られる。
【0082】
上記酸構造の一部又は全部は、中和されていることが好ましく、酸構造を中和することにより、樹脂の水分散性を向上させることができる。酸構造を中和する中和剤としては、例えば有機アミン類が好ましく、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミンを用いることが好ましい。
【0083】
また、本発明に係るインクは、0.15質量%の酢酸カルシウム水溶液との凝集性が0.2以下である樹脂微粒子を、3~15質量%の範囲内で含有することが好ましい。このように凝集性の低い樹脂微粒子を用いることにより、基材への高い濡れ性を確保しつつ高い射出安定性を得られ、より高画質で、基材密着性に優れる。
【0084】
以下、各樹脂について説明する。
【0085】
〔ポリエステル〕
水不溶性樹脂粒子として用いられるポリエステル骨格を有するポリエステルは、多価アルコール成分と多価カルボン酸、多価カルボン酸無水物、多価カルボン酸エステル等の多価カルボン酸成分とを用いて得ることができる。
【0086】
前記多価アルコール成分としては、二価のアルコール(ジオール)、具体的には炭素数2~36の範囲内のアルキレングリコール(エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール等)、炭素数4~36の範囲内のアルキレンエーテルグリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等)、炭素数6~36の範囲内の脂環式ジオール(1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等)、前記脂環式ジオールの炭素数2~4の範囲内のアルキレンオキシド(エチレンオキシド(以下、EOと略記する。)、プロピレンオキシド(以下、POと略記する。)、ブチレンオキシド(以下、BOと略記する。))付加物(付加モル数1~30の範囲)又はビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等)の炭素数2~4の範囲内のアルキレンオキシド(EO、PO、BO等)付加物(付加モル数2~30の範囲)等が挙げられる。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0087】
前記多価カルボン酸成分としては、二価のカルボン酸(ジカルボン酸)、具体的には炭素数4~36の範囲内のアルカンジカルボン酸(コハク酸、アピジン酸、セバシン酸等)、アルケニルコハク酸(ドデセニルコハク酸等)、炭素数4~36の範囲内の脂環式ジカルボン酸(ダイマー酸(2量化リノール酸)等)、炭素数4~36の範囲内のアルケンジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸等)、又は炭素数8~36の範囲内の芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸又はこれらの誘導体、ナフタレンジカルボン酸等)等が挙げられる。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0088】
前記ポリエステルとしては、分子内にアニオン性基を有するポリエステルが好ましく、中でもスルホン酸基を含有するポリエステルが好ましい。スルホン酸基を含むポリエステルを得る公知の合成法としては、例えばスルホン酸基を有するジカルボン酸とジオールとの重縮合反応等の方法によって得ることもできる。また、ジカルボン酸とスルホン酸塩を有するジオールとの重縮合反応等の方法により得ることもできる。
【0089】
スルホン酸基を有するジカルボン酸成分としては、例えば2-スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホナフタレンイソフタル酸-2,7-ジカルボン酸及び5-(4-スルホフェノキシ)イソフタル酸、又はそれらのアルカリ金属塩等を挙げられる。
【0090】
スルホン酸基を有するジオールとしては、例えば2-スルホ-1,4-ブタンジオール、2,5-ジメチル-3-スルホ-2,5-ヘキサンジオール、又はそれらのアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0091】
前記ポリエステルの数平均分子量としては、1000~50000の範囲内が好ましく、2000~20000の範囲内がより好ましい。
【0092】
前記ポリエステルとしては、市販品を使用してもよく、スルホン酸基を有する水分散性ポリエステルの市販品としては、例えば東洋紡社製バイロナールMD-1100、MD-1200、MD-1245、MD-1480、MD-1500、MD-2000、互応化学社製プラスコートZ-221、Z-446、Z-561、Z-880、Z-3310、高松油脂社製ペスレジンA-520、A-613D、A-615GE、A-640、A-645GH、A-647GEX、A-110F、A-160Pなどが挙げられる。
【0093】
前記市販品の中でも、ガラス転移温度(Tg)が40~90℃の範囲内の樹脂が特に好ましく、例えば東洋紡社製バイロナールMD-1100、MD-1200、MD-1245、MD-1500、MD-2000、互応化学社製プラスコートZ-221、Z-446、Z-561、高松油脂社製ペスレジンA-520、A-613D、A-615GE、A-640、A-645GH、A-647GEXなどが挙げられる。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0094】
〔ウレタン樹脂〕
本発明に係る水不溶性樹脂粒子として用いられるウレタン樹脂としては、親水基を有するものを用いることができる。ウレタン樹脂は、その分子内に水溶性官能基すなわち親水基を有する自己乳化型ウレタンを分散させた水分散体、又は界面活性剤を併用して強力な機械剪断力の下で乳化した強制乳化型ウレタンの水分散体であることが好ましい。水分散体におけるウレタン樹脂は、ポリオールと有機ポリイソシアネート及び親水基含有化合物との反応により得ることができる。
【0095】
上記ウレタン樹脂の水分散体の調製に使用し得るポリオールの例には、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリオレフィン系ポリオールなどが含まれる。
【0096】
ポリエステルポリオールの例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-及び1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-及び1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール等の低分子ポリオール;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、テトラヒドロフラン酸、エンドメチンテトラヒドロフラン酸、及びヘキサヒドロフタル酸などの多価カルボン酸との縮合物が含まれる。
【0097】
ポリエーテルポリオールの例には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンポリテトレメチレングリコール、及びポリテトラメチレングリコールなどが含まれる。
【0098】
ポリカーボネートポリオールの例には、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート又はホスゲン等の炭酸誘導体と、ジオールとの反応により得ることができる。
【0099】
上記ジオールの例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-及び1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-及び1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、及びシクロヘキサンジメタノールなどが含まれる。
【0100】
また、ウレタン樹脂の水分散体の調製に使用し得る有機ポリイソシアネートの例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香族イソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)などの脂肪族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI、H12MDI)などの脂環族イソシアネートが含まれる。これらは、一種類のみを単独で使用してもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0101】
また、ウレタン樹脂の水分散体の調製に使用し得る親水基含有化合物の例には、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸、グリシンなどのカルボン酸含有化合物、及びそのナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩などの誘導体;タウリン(すなわち、アミノエチルスルホン酸)、エトキシポリエチレングリコールスルホン酸などのスルホン酸含有化合物、及びそのナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩等の誘導体が含まれる。
【0102】
ウレタン樹脂は、公知の方法により得ることができる。例えば上述したポリオールと有機ポリイソシアネートと、親水基含有化合物とを混合し、30~130℃の範囲内で30分~50時間反応させることにより、ウレタンプレポリマーを得ることができる。
【0103】
上記ウレタンプレポリマーは、鎖伸長剤により伸長してポリマー化することで、親水基を有するウレタン樹脂となる。鎖伸長剤としては、水及び/又はアミン化合物であることが好ましい。鎖伸長剤として水やアミン化合物を用いることにより、遊離イソシアネートと短時間で反応して、イソシアネート末端プレポリマーを効率よく伸長させることができる。
【0104】
鎖伸長剤としてのアミン化合物の例には、エチレンジアミン、トリエチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン;メタキシレンジアミン、トルイレンジアミンなどの芳香族ポリアミン;ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド等のポリヒドラジノ化合物等が含まれる。
【0105】
上記アミン化合物には、上記ポリアミンとともに、ポリマー化を大きく阻害しない程度で、ジブチルアミンなどの一価のアミンやメチルエチルケトオキシム等を反応停止剤として含んでいてもよい。なお、ウレタンプレポリマーの合成においては、イソシアネートと不活性であり、ウレタンプレポリマーを溶解しうる溶媒を用いてもよい。
【0106】
これらの溶媒の例には、ジオキサン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が含まれる。反応段階で使用されるこれらの親水性有機溶媒は、最終的に除去されるのが好ましい。
【0107】
また、ウレタンプレポリマーの合成においては、反応を促進させるために、アミン触媒(例えばトリエチルアミン、N-エチルモルフォリン、トリエチルジアミン等)、スズ系触媒(例えばジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、オクチル酸スズ等)、及びチタン系触媒(例えばテトラブチルチタネート等)などの触媒を添加してもよい。
【0108】
ウレタン樹脂の数平均分子量は、分岐構造や内部架橋構造を導入して可能な限り大きくすることが好ましく、数平均分子量50000~10000000の範囲内であることが好ましい。分子量を上記範囲内にすることにより、ウレタン樹脂が溶媒に溶けにくくなるので、耐候性、耐水性に優れた塗膜が得られるからである。なお、数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される値であり、例えば株式会社島津製作所製「RID-6A」(カラム:東ソー株式会社製「TSK-GEL」、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、カラム温度:40℃)を用いて、ポリスチレン標準試料で作成した検量線から求めることができる。また、上記ウレタン樹脂は市販品を用いてもよい。
【0109】
上記ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)が40~90℃の範囲内の市販品の例には、楠本化成社製のNeorez R-967、R-600、R-9671、日華化学社製のエバファノールHA-560、第一工業製薬社製のSF870などが含まれる。
【0110】
〔アクリル樹脂〕
水不溶性樹脂粒子として用いられるアクリル樹脂は、アクリル酸エステル成分、メタクリル酸エステル成分、またスチレン成分等との共重合体を用いて得ることができる。
【0111】
アクリル酸エステル成分、メタクリル酸エステル成分の例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸、ジ(メタ)アクリル酸(ジ)エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸-1,4-ブタンジオ-ル、ジ(メタ)アクリル酸-1,6-ヘキサンジオ-ル、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロ-ルプロパン、ジ(メタ)アクリル酸グリセリン、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、及びアクリルアミド等が含まれる。
【0112】
スチレン成分の例には、スチレン、4-メチルスチレン、4-ヒドロキシスチレン、4-アセトキシスチレン、4-アセチルスチレン及びスチレンスルホン酸などが含まれる。これらの成分は、一種類のみを単独で使用してもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0113】
上記アクリル樹脂の数平均分子量(Mn)は、1000~50000の範囲内であることが好ましく、2000~20000の範囲内であることがより好ましい。アクリル樹脂の数平均分子量(Mn)が1000以上であると、塗膜の凝集力が強くなり、密着性が向上し、50000以下であると、有機溶媒に対する溶解性が良く、乳化分散体の粒子径の微小化が促進されるからである。なお、数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される値であり、例えば株式会社島津製作所製「RID-6A」(カラム:東ソー株式会社製「TSK-GEL」、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、カラム温度:40℃)を用いて、ポリスチレン標準試料で作成した検量線から求めることができる。また、上記アクリル樹脂としては、市販品を用いてもよい。
【0114】
上記アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)が40~90℃の範囲内の市販品の例には、ジャパンコーティングレジン社製モビニール6899D、6969D、6800、トーヨーケム社製TOCRYL W-7146、W-7147、W-7148、W-7149、W-7150などのアクリル系エマルジョン等が含まれる。
【0115】
〔複合樹脂微粒子〕
インクに含有しうる複合樹脂微粒子は、アクリル樹脂が、ウレタン樹脂に乳化されてなる複合樹脂微粒子であることが好ましい。すなわち、アクリル樹脂から構成される内部層、及びウレタン樹脂から構成される表面層を有する複合樹脂微粒子であることが好ましい。
【0116】
ここで、上記ウレタン樹脂は、水不溶性樹脂粒子としてのアクリル樹脂と連続相である水との界面に存在して、水不溶性樹脂粒子を保護する樹脂と異なる水不溶性樹脂粒子層として機能する。このようにアクリル樹脂をウレタン樹脂により乳化させてなる複合樹脂微粒子とすることで、アクリル樹脂とウレタン樹脂とをそれぞれ乳化させて混合するのと比べて、画像(塗膜)の物性を向上させることができるとともに、複合樹脂微粒子の貯蔵安定性も改善することができる。
【0117】
上記アクリル樹脂がウレタン樹脂に乳化されてなる複合樹脂微粒子において、ウレタン樹脂(U)とアクリル樹脂(A)との質量比率の値(U/A)は、(40/60)~(95/5)の範囲内であることが好ましい。
【0118】
ウレタン樹脂(U)の存在割合が上記範囲内であると、分散剤との相溶性が向上し、耐溶媒性も向上する。また、アクリル樹脂(A)の存在割合が上記範囲であると、アクリル系フィルムに対する密着性に優れる。上記存在割合において、ウレタン樹脂(U)とアクリル樹脂(A)との質量比率の値(U/A)は、(40/60)~(80/20)の範囲内であることが好ましい。
【0119】
複合樹脂微粒子中におけるアクリル樹脂とウレタン樹脂とを合わせた合計の樹脂濃度は、特に限定されないが、5.0質量%以上であることが好ましく、10.0~70.0質量%の範囲内であることがより好ましい。上記樹脂濃度が上記範囲内であると、インクの記録媒体への定着性が良好となる。
【0120】
また、ウレタン樹脂によるアクリル樹脂の乳化においては、上記ウレタン樹脂とともに、乳化剤として作用する界面活性剤を用いることができる。ここで、乳化剤を添加することにより、複合樹脂微粒子の貯蔵安定性を向上させることができる。乳化剤としては、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤を用いることができる。
【0121】
前記複合樹脂微粒子の平均粒径は、特に限定されないが、10~500nmの範囲内であることが好ましく、10~300nmの範囲内であることがより好ましく、10~200nmの範囲内であることがさらに好ましい。平均粒径の測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができるが、動的光散乱法による測定が簡便で、かつ当該粒子径領域を精度よく測定できる。
【0122】
アクリル樹脂が、ウレタン樹脂に乳化されてなる複合樹脂微粒子を用いることにより、吸収性基材又は非吸収性基材に対する画像(塗膜)の定着性を向上させることができる。
【0123】
(無機粒子)
本発明に係るインクが含有する無機粒子は、例えば顔料に含有されることにより無機顔料として用いられる。無機粒子が含有される顔料としては、例えば軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、ケイ酸アルミニウム、ケイソウ土、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト、水酸化マグネシウム等の白色無機顔料等を挙げることができる。
【0124】
一般的に、インクに含有される無機粒子としては、酸化チタンが挙げられるが、酸化チタンは、インク吐出安定性と密着性の確保が困難であり、複素誘電率が高いことにより後述する乾燥工程におけるマイクロ波による発熱効果の影響を大きく受ける。
【0125】
本発明においては、例えば後述するプレコート液を適切な付与量にて塗布することによりマイクロ波による発熱効果を適切に制御することもできるため、上記のような酸化チタンの欠点を補うことができる。
【0126】
(有機粒子)
本発明に係るインクが含有する有機粒子は、例えば顔料に含有されることにより有機顔料として用いられる。本発明に係る有機粒子は、沸点が120℃以上の水溶性有機溶媒により溶解又は膨潤する水に不溶の有機粒子である。
【0127】
その材質は、例えばポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、エラストマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル共重合体、ポリエステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルアセタール、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオレフィン、SBR、NBR、ポリテトラフルオロエチレン、クロロプレン、タンパク質、多糖類、ロジンエステル、セラック樹脂等、従来公知のものから選ばれる。
【0128】
特に好ましい有機粒子の材質は、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂、SBR等であり、変成や共重合によって二種以上の単量体からなる樹脂も好ましく用いられる。また、樹脂に対して特定の修飾基を付加したものや脱離基を除いたものでもよく、二種以上の材質を混合して有機粒子を形成してもよく、更には二種類以上の有機粒子を混合して用いてもよい。
【0129】
本発明でいう「溶解」とは、有機粒子とインク中の水溶性有機溶媒が平衡状態で単一の相をなすことを指し、「膨潤」とは有機粒子が同水溶性有機溶媒を吸収して体積を増加させることを言う。
【0130】
有機粒子は、インクジェット記録中で溶解しないために、水に不溶でなければならない。ただし、インク吸収速度を妨げない範囲で水を吸収することは許される。有機粒子の質量に対し20質量%までの水の吸収をしてもよい。また、有機粒子には、水溶性有機溶媒に対する溶解や膨潤に支障のない範囲で架橋剤を使用してもよい。本発明において、架橋剤としては有機物・無機物を問わず、従来公知の架橋剤を適宜選択して用いることができる。また、有機粒子自体としては、親水性ではあっても水溶性ではないことが好ましいので、10質量%以上50質量%未満の範囲の含有率に調製されることが好ましい。
【0131】
通常、インクジェット記録用紙は、室温下で使用されるが、使用前の保存状態は必ずしも室温とは限らない。特に、夏場の密閉された車中では非常に高温状態となるため、そのような環境を経た後でも支障なく使用できることが望まれる。このため、前述の記載の態様の有機粒子のガラス転移温度(Tg)は70℃以上であることが必要であるが、好ましくは、80℃以上であり、更に好ましくは、90~120℃の範囲内である。有機粒子のガラス転移温度(Tg)が70℃未満の場合には、加熱による有機粒子の融着を生じやすくなり、その結果として、記録用紙表面の空隙が縮小または減少し、インク吸収速度の低減が起こりやすくなる。
【0132】
(水)
本発明に係る水は、水溶液を界面活性剤とともに構成するものであり、当該水としては、公知の水が使用可能であり、特に制限されるものではない。
【0133】
(水溶性溶媒)
本発明に係るインクが含有する水溶性溶媒としては、例えばエタノール(沸点:78℃)、エチレングリコール(沸点:198℃)、プロピレングリコール(沸点:188℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:230℃)、1,2-ヘキサンジオール(沸点:170℃)、ジプロピレングリコール(沸点:230℃)、グリセリン(沸点:290℃)、1,3-プロパンジオール(沸点:215℃)、1,2-ペンタンジオール(沸点:242℃)等の溶媒が挙げられる。水溶性溶媒は、一種単独の溶媒でも複数種の溶媒でもよく、複数種である場合、その内の一種が、沸点が150℃以上の溶媒が好ましい。これによりインクジェットヘッドのノズル近傍でインク乾燥を抑制し、固形分が析出してノズル等が詰まって射出性に不具合が出ることを防止することができる。また、さらに好ましくは水溶性溶媒の一種は保湿剤であることが好ましい。
【0134】
〔保湿剤〕
本発明に係る「保湿剤」とは、マイクロ波又は高周波電波の吸収性が高く、かつ沸点が高い溶媒をいう。そして、本発明に係るインクが含有する水溶性溶媒に含有されることによりインク組成物中の水の蒸発を抑制してインク中の顔料やポリマー粒子等の固形分の凝集を防止する作用を有する。そして、当該インクの乾燥速度を遅らせる役割を担う。
【0135】
沸点の高い保湿剤が水溶性溶媒に含有されると、当該保湿剤は蒸発にしくいが、マイクロ波を利用することにより水溶性溶媒自体を直接加熱することができる。保湿剤は、マイクロ波の照射によっては乾燥しやすい溶媒であるが、通常雰囲気下では乾燥しにくい溶媒であるため、均一な乾燥性制御に好適である。
【0136】
保湿剤としては、沸点が200℃以上であることが好ましい。高沸点かつマイクロ波又は高周波誘電波による直接加熱されやすい溶媒(複素誘電率が高い)、かつ沸点が200℃以上の溶媒を添加したインクで保湿性を付与することで射出安定化を図ることができる。そして、これをマイクロ波及び高周波誘電で乾燥することで高速に乾燥できるため、高速乾燥と射出安定を両立できる。
【0137】
上記の保湿剤がインクに含有されることにより、インクジェットヘッドからインクが吐出される場合には、当該インクジェットヘッドが備えるノズルの部分でインクが乾燥することによるノズル詰まりを防止することができるため、インクの射出安定性が向上する。
【0138】
また、保湿剤の含有量が、インクに対して3~30質量%の範囲内であり、当該インクに対して、前記マイクロ波を周波数2.45GHzにて照射したときの、25℃における複素誘電率ε′′が、13~60.0の範囲内であることが、均一な乾燥性制御の観点から好ましい。
【0139】
保湿剤としては、例えばジプロピレングリコール(沸点:230℃)、1,4ブタンジオール(沸点:230)、グリセリン(沸点:290℃)、1,2-ペンタンジオール(沸点:242℃)、1,5ペンタンジオール(沸点:242℃)及び1,3-プロパンジオール(沸点:215℃)等を挙げることができる。
【0140】
(界面活性剤)
本発明に係るインクは界面活性剤を含有しており、これによって、インクの吐出安定性の向上、及び、記録媒体に着弾したインクの液滴の広がり(ドット径)を制御することができる。
【0141】
界面活性剤は、特に制限されないが、インクの構成成分にアニオン性の化合物が含まれる場合は、界面活性剤のイオン性はアニオン性、ノニオン性(「非イオン」ともいう。)又は両性のいずれであってもよく、両性イオン界面活性剤としては、ベタイン型であることが好ましい。
【0142】
本発明では、アニオン性の界面活性剤にアルカリ成分が含まれると、定着樹脂として含まれる樹脂微粒子が凝集しやすくなり、定着性が低下するため、界面活性剤はノニオン性であることが好ましい。
【0143】
界面活性剤としては、静的な表面張力の低下能が高いフッ素系又はシリコーン系界面活性剤や、動的な表面張力の低下能が高いジオクチルスルホサクシネートなどのアニオン性界面活性剤、比較的低分子量のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アセチレングリコール類、プルロニック(登録商標)型界面活性剤、ソルビタン誘導体などのノニオン性界面活性剤であることが好ましい。
【0144】
なお、静的な表面張力の低下能が高い界面活性剤と、動的な表面張力の低下能が高い界面活性剤を併用して用いてもよい。本発明においては、界面活性剤として、例えばTEGOWET-KL245(ポリエーテル変性シロキサンコポリマー;エボニック社製)を用いることが好ましい。
【0145】
前記界面活性剤が、ヒドロキシ基を有することが、本発明に係るインクの表面張力や粘度を適切に制御し、当該インクの塗布性が向上するため好ましく、当該界面活性剤が、ジオール構造を有することがより好ましい。インクの乾燥時に最終的に残る界面活性剤がマイクロ波吸収能が高いので、乾燥性が速く、膜の均質性が向上する想定外の効果も発現する。また、乾燥後期の複素誘電率が高くなっている。そして、界面活性剤が、ジオール構造を有することでさらにその効果が大きくなる。
【0146】
(その他の成分)
本発明に係るインクは、吐出安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性等、その他の目的に応じて、公知の各種添加剤を含有してもよい。本発明に係るインクには、pH調整剤、架橋剤、防黴剤、殺菌剤等及び他の成分を適宜配合することができる。
【0147】
(1.1.2)インクの物性
(複素誘電率)
マイクロ波は、複素誘電率が高いほど発熱効果が大きいため、当該複素誘電率が高ければ速乾性が向上する。なお、「複素誘電率ε′′」とは、外部から電場が与えられたときの分子の応答(誘電分極の度合い)を示す数値であり、物質に固有で、真空での誘電率ε0(電気定数)を基準とした際の無次元量のことである。また、複素誘電率ε′′は、単位体積当たりの吸収エネルギー[W/m3]をP、周波数[Hz]をf、マイクロ波出力(電界強度[V/m])をEとしたとき、下記式に組み込まれ、マイクロ波吸収能を表す。
【0148】
(式) P=2πfε0ε′′|E|2
本発明における「複素誘電率」とは、外部から電場が与えられたときの分子の応答(誘電分極の度合い)を示す数値であり、物質に固有で、真空での誘電率ε0(電気定数)を基準とした際の無次元量のことである。
【0149】
マイクロ波は、複素誘電率が高いほど発熱効果が大きいため、複素誘電率が相対的に低いインク(Bインク)と、複素誘電率が相対的に高いインク(Aインク)とを用いて適切な処方を施すことによって乾燥性を制御することが可能となる。
【0150】
本発明に係るAインク及びBインクの複素誘電率が、後述するプレコート液の複素誘電率未満であると、後述する乾燥工程にてマイクロ波による乾燥を行う際には、前記プレコート液が前記Aインク及び前記Bインクよりマイクロ波の発熱効果の影響を強く受けることになる。
【0151】
これによって、当該プレコート液が前記Aインク及び前記Bインクと混合して、それぞれのインクの乾燥性が向上し、本発明の画像形成方法において乾燥性を上げたい箇所に速乾性を付与することができる。これにより均一な乾燥性制御をすることができると共に粒状性がなく均一なドットを形成し、光沢や色域に優れた画像を形成することができる。また、前記Aインク及び前記Bインクが塗布されていない領域に対してプレコート液を塗布すると、マイクロ波の影響を前記Aインク及び前記Bインクの塗布領域にあわせて制御することができるため好ましい。
【0152】
本発明においては、前記第2インクが、少なくともイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを二種以上含むインクセットからなり、当該インクセットの色彩の異なる顔料を含有する二種の第2インクを、それぞれ、Aインク及びBインクとし、前記Aインク及び前記Bインクの乾燥率95%での複素誘電率を、それぞれ、ε′′A及びε′′Bとしたとき、当該ε′′A及びε′′Bが下記式(1)を満たすことが、均一な乾燥性制御の観点から好ましい。
【0153】
式(1): ε′′B<ε′′A
【0154】
なお、前述のように、マイクロ波は、複素誘電率が高いほど発熱効果が大きいため、Aインクの複素誘電率ε′′AとBインクの複素誘電率ε′′Bとが下記式(3)の関係を満たすことによって発熱効果を適切な範囲内に収め、均一な乾燥性制御をするためにより好ましい。
【0155】
式(3): (ε′′A/ε′′B)<20
【0156】
絶縁性に近い複素誘電率の低いインクとしては、例えばイエローインク(Y)、マゼンタインク(M)及びシアンインク(C)が挙げられ、複素誘電率の高いインクとしては、例えばブラックインク(K)及びホワイトインク(W)が挙げられる。
【0157】
なお、本発明においてはAインク及びBインクとの関係が、前述の式(1)~(3)の関係を満たすのであれば上記のイエローインク(Y)、マゼンタインク(M)、シアンインク(C)、ブラックインク(K)及びホワイトインク(W)のいずれをAインク又はBインクとして用いても均一な乾燥性制御の観点からは好ましい。
【0158】
〔複素誘電率の測定方法〕
複素誘電率の測定は、複素誘電率測定装置(例えば東陽テクニカ製マテリアルインピーダンスアナライザ MIA-5M(SH2-Z型 4端子サンプルホルダ))を用いて測定する。
【0159】
(粘度、表面張力等)
本発明のインクの物性は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、粘度、表面張力、pH等が以下の範囲内であることが好ましい。
【0160】
25℃におけるインクの粘度は、印字濃度や文字品位が向上し、また、インクジェットヘッドのノズルからの良好な吐出安定性が得られる観点から、5~30mPa・sの範囲内であることが好ましく、5~25mPa・sの範囲内であることがより好ましい。なお、粘度は、例えば、東機産業社製、回転式粘度計「RE-80L」を使用し、測定条件を、25℃で、標準コーンローター(1°34′×R24)、サンプル液量1.2mL、回転数50rpm、3分間として、測定することができる。
【0161】
インクの表面張力は、記録媒体上で好適にインクがレベリングされ、インクの乾燥時間が短縮される点から、25℃において、1~55mN/mの範囲内であることが好ましく、1~40mN/m以下であることがより好ましく、1~35mN/mの範囲内であることが更に好ましい。なお、表面張力は、協和界面科学社製、表面張力計「CBVP-Z」等を用いて、ウィルヘルミー法で測定できる。
【0162】
インクのpH値は、本発明の効果発現の観点から、3~9の範囲内であることが好ましく、6~9範囲内であることがより好ましい。
【0163】
(1.1.3)第1インクの塗布方法
第1インクの塗布工程では、基材の上に前記第1インクを塗布する。これを基材の上に塗布する方法は、特に限定されないが、例えばインクジェット法、ローラー塗布法、カーテン塗布方法、スプレー塗布法などを好ましく挙げることができる。
【0164】
前記第1インクは下地層形成用インクとして基材の上に塗布されるため、当該第1インクをロールコーター方式で塗布することが下地層を均一に形成する観点から好ましい。
【0165】
また、前記第1インクをインクジェット方式で塗布することも好ましい。これにより、基材の種類や乾燥具合のバラつきに応じて第1インクの量や適用範囲を自在に制御できるため、マイクロ波の照射による発熱効果を基材面内で均一に制御することができ、より基材面内が均一に乾燥されるため、画像(印刷物)にヨレ等の不具合が発生しない。
【0166】
その場合、用いる基材が金属基材などの場合は、搬送ベルト上に金属基材を配置し、ベルトを搬送しながら第1インクを塗布したり、基材を固定するフラットベッドタイプのプリンターを用いて当該第1インクを塗布したりすることも好ましい。
【0167】
インクジェット法は、特に制限されず、第1インクを装填したインクジェットヘッドを備えるプリンターを用いることができる。具体的には、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドのノズルから第1インクを液滴として吐出させ、これを記録媒体上に着弾させて第1インクを塗布することができる。
【0168】
(1.2)第1乾燥工程
(1.2.1)第1乾燥工程における第1インクの乾燥方法
第1乾燥工程では、第1インクにマイクロ波又は中波長~短波長の赤外線を照射することによって乾燥させ下地層を形成する。マイクロ波による乾燥は指向性が高いため、基材自体が高いマイクロ波吸収能を有していない限り、当該基材を温めることなく前記第1インクを熱して乾燥させ下地層を形成することができる。
【0169】
また、前述の第1インクの塗布工程においては、一色のインクしか用いないため、当該第1インク塗布後の乾燥を面内バラつきなく均一に行うことが可能となる。別態様で先に複数色のインクを塗布するケースでもマイクロ波乾燥と熱風を併用する等で基材や雰囲気加熱を抑えることができ、次工程の不具合が発生しにくい。また、さらに複数色インクの乾燥性を調整して、マイクロ波乾燥の乾燥寄与を大きくすることで基材や雰囲気の加熱を抑えることができる。
【0170】
さらに、導電性を有する酸化チタンを含有するホワイトインクを第1インクとすると、マイクロ波吸収能が高く速乾性が高くなり、かつ同時に上記のように均一な乾燥性制御を行うことができるため好ましい。
【0171】
(マイクロ波、中波長~短波長の赤外線、及びその他の乾燥方法)
画像形成方法1(表刷り)におけるインク全体を加熱・乾燥する方法は、中波長~短波長の赤外線を照射する方法、又はマイクロ波を照射する方法である。
【0172】
長波長の赤外線は雰囲気を温めてしまうが、中波長~短波長の赤外線を照射する方法は、指向性があり雰囲気を温めずにインクに直接作用して熱する方法であるため、基材や機器に対するダメージが少ない。この方法は、インクの色や樹脂等の固形分の種類によって乾燥性に大きな差がでるが当該インクの種類が一色のみであれば乾燥性の差を気にする必要はなく、本発明に好適に用いることができる。
【0173】
なお、本明細書において、「長波長の赤外線」とは、「遠赤外線」ともいい、波長4μm~1mmの範囲内の赤外線をいう。「中波長の赤外線」とは、「中赤外線」ともいい、波長2~4μmの範囲内の赤外線をいう。「短波長の赤外線」とは、「近赤外線」ともいい、波長0.78~2μmの範囲内の赤外線をいう。
【0174】
マイクロ波は、指向性が高く、複素誘電率の高い材料にマイクロ波が直接作用するため、乾燥効率が高く、プラスチック基材等へダメージがない。また、乾燥性制御に雰囲気下による条件(風や温度等による条件)を加える必要性がなくなるため、インクジェット塗布時のノズルの乾燥を防止することができ、ノズル乾燥を気にせずに印字直後に乾燥させることが可能となる。
【0175】
マイクロ波照射は、複素誘電率が高いものについてはジュール熱を発生して発熱しやすいという傾向がある。したがって、インクの複素誘電率や乾燥性を制御するため、例えば顔料、樹脂、無機粒子又は有機粒子、水、水溶性溶媒及び界面活性剤等の性質や組合せ等によりマイクロ波照射による発熱効果を均一に制御することができる。
【0176】
本発明に係るマイクロ波照射では、例えば島田理化工業社製のマイクロ波発生装置を用いることができるが、山本ビニター社製のバッチ式マイクロ波乾燥機等の市販のマイクロ波乾燥機を用いてもよい。
【0177】
また、本発明には、上記のマイクロ波照射による乾燥に加えて、例えば乾燥炉、熱風送風機及び赤外線ヒーター(波長0.7~4.0μmの範囲内のものに限る)等のような非接触加熱型の乾燥装置を用いて行ってもよいし、ホットプレートや熱ローラーなどのような接触加熱型の乾燥装置を用いて行ってもよい。このような装置の基材の加熱温度は、60~120℃の範囲内であることが好ましく、当該加熱時間は、基材の種類とインクの塗布量に合わせて適宜調整される。
【0178】
乾燥温度は、(a)乾燥炉、熱風送風機及び赤外線ヒーター等のような非接触加熱型の乾燥装置を用いる場合には、炉内温度又は熱風温度などのような雰囲気温度、(b)ホットプレートや熱ローラーなどのような接触加熱型の乾燥装置を用いる場合には、接触加熱部の温度、又は、(c)被乾燥面の表面温度から選ばれるいずれか1つをインクの乾燥の全期間において測定することで得ることができ、測定場所としては(c)被乾燥面の表面温度を測定することがより好ましい。このように、前記インクが塗布された領域を加熱することにより、当該インクの溶媒成分を除去すると同時に、特に金属基材においては多価金属塩を熱分解温度以上の温度で乾燥して熱分解する。また、画像耐擦性及び基材への密着性が良好となる。
【0179】
〔風乾燥:補助風〕
前述の第1インクの塗布工程においては、一色のインクしか用いないため、当該第1インク塗布後の乾燥を面内バラつきなく均一に行うことが可能となる。よって、風による乾燥を主体として行うことは好ましくないが、速乾性を付与するためには、補助風を用いた方が効率がよい。そのため、第1乾燥工程における第1インクの乾燥方法としては、温度100℃以下の補助風を当てることが、速乾性付与の観点から好ましい。なお、本明細書において、「補助風」とは、熱風を補助的に用いるときの風をいうものとする。
【0180】
(1.2.2)乾燥率
前記Aインク及び前記Bインクを80℃にて20秒間乾燥させたときの乾燥率を、それぞれ、DA及びDBとしたとき当該DA及びDBが下記式(2)を満たすことが、均一な乾燥性制御の観点から好ましい。
【0181】
式(2): DA<DB
【0182】
例えば乾燥性を考慮しない場合、マイクロ波照射時には、乾燥が進んでいない乾燥前期ではAインクとBインクは複素誘電率に大きな差はないが、乾燥後期では本発明に係るAインクの複素誘電率がBインクより大幅に高い場合、当該Aインクの方が乾燥性が高くすばやく乾燥する。しかしながら、上記のBインクの乾燥率(DB)を、上記のAインクの乾燥率(DA)より大きくすることにより当該Aインクと当該Bインクとの乾燥性のバランスがとれるため、均一な乾燥性の制御が可能となる。
【0183】
Aインク及びBインクを80℃にて20秒間乾燥させたときの乾燥率は、以下のようにして測定し、算出する。
【0184】
10cm×10cmにカットしたPET基材の上にワイヤーバーでインクを塗布し、乾燥率測定用のサンプルを得る。その後、すぐに電子天秤でサンプルの質量を測定し、この測定値をサンプルの「乾燥前の質量」とする。当該サンプルを熱風式オーブン80℃で20秒間乾燥し、その後再度電子天秤で質量を測定し、この測定値をサンプルの「乾燥後の質量」とする。
【0185】
10cm×10cmにカットしたPET基材上に塗布されたインクの塗布量から当該インクの総質量を求める。そしてインク全体に対する溶媒の割合からインク中の溶媒の総質量を求める。
【0186】
(乾燥前の質量-乾燥後の質量)は、インクが蒸発によって失った質量と考えられるため、乾燥率は下記式で表される。
【0187】
乾燥率[%]=(乾燥前の質量-乾燥後の質量)/インク中の溶媒の総質量×100
【0188】
(1.2.3)下地層の厚さ
前述のようにして得られる前記下地層の厚さは、0.3~3.0μmの範囲内であることが好ましく、0.3~2.0μmの範囲内であることがより好ましい。
【0189】
前記下地層の厚さが0.3μm以上であると、画像の密着性や耐擦強度を高めやすい。
【0190】
また、前記下地層の厚さが3.0μm以下であると、当該下地層に与えられる変形応力を低減できるので、画像の密着性が損なわれにくい。
【0191】
(1.3)第2インクの塗布工程
(1.3.1)インク
本発明に係るインクは、その目的に応じて、顔料、樹脂、水、水溶性溶媒及び界面活性剤の含有割合等においてその種類が異なる。前述のように、本発明に係る第2インクは画像形成用インクであり、これには複数色のインクが用いられる。また、第2インクは、少なくともイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを二種以上含むインクセットからなる。インクの成分及び物性については前述のとおりである。
【0192】
(1.3.2)第2インクの塗布方法
第2インクの塗布工程では、下地層の上に前記第2インクを塗布する。前述の第1乾燥工程では、第1インクに指向性の高いマイクロ波又は中波長~短波長の赤外線を照射することによって乾燥させ下地層を形成する。よって、前記下地層の上に塗布する第2インクに前述の第1乾燥工程における第1インクの乾燥後の雰囲気による影響がでないため、当該第2インクの射出安定性を確保することができる。
【0193】
第2インクの塗布工程では、基材の上に形成された下地層の上に当該第2インクを塗布する。このような方法は、特に限定されないが、例えばインクジェット法、ローラー塗布法、カーテン塗布方法、スプレー塗布法などを好ましく挙げることができる。
【0194】
前記第2インクは画像形成用インクとして下地層の上に塗布されるため、前記第2インクをインクジェット方式で塗布することが好ましい。これにより、基材の種類や乾燥具合のバラつきに応じて第1インクの量や適用範囲を自在に制御できるため、マイクロ波の照射による発熱効果を基材面内で均一に制御することができ、より基材面内が均一に乾燥されるため、画像(印刷物)にヨレ等の不具合が発生しない。
【0195】
インクジェット法は、特に制限されず、第2インクを装填したインクジェットヘッドを備えるプリンターを用いることができる。具体的には、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドのノズルから第2インクを液滴として吐出させ、これを基材(記録媒体)上に着弾させて第2インクを塗布することができる。
【0196】
(1.4)第2乾燥工程
(第2乾燥工程における第2インクの乾燥方法)
第2乾燥工程では、第2インクを乾燥させ第2インクの画像層を形成する。このような乾燥方法としては、特に制限はない。マイクロ波による乾燥は、第1乾燥工程において用いることによって特にその効果が発揮されるが、この第2乾燥工程においても基本的にはマイクロ波乾燥が好ましい。ただし、前述の第2インクの塗布工程においては、第2インクとして複数色のインクが用いられているため基材ダメージを考慮して熱風を併用することが好ましい。
【0197】
上記のことから、赤外線(波長0.78~4.0μmの範囲内のものに限る。)を照射する方法又は前記マイクロ波を照射する方法に加えて、熱風を当てる方法等によって前記第2インクを乾燥させることによって前記第2インクを乾燥させることでより均一な乾燥性制御が可能となるため好ましい。
【0198】
なお、第2乾燥工程において第2インクを乾燥させた後、さらにインクを塗布することはないため、乾燥方法を選択する際に基材の縮みを過度に気にする必要はなくなり、インクの位置あわせや雰囲気による影響の問題は気にする必要がなくなる。よって、速乾性付与及び均一な乾燥性の付与のための乾燥方法を適宜選択すればよい。
【0199】
さらに、前記マイクロ波を照射する方法を行った後に前記熱風を当てる方法を行うことによって前記第1インク又は前記第2インクを乾燥させることが、速乾性を付与し、均一な乾燥性制御をする観点から好ましい。
【0200】
上記の理由として、まず、マイクロ波照射による乾燥効率が熱風等による乾燥効率より高いことが関係する。しかし、第2乾燥工程においては、第2インクとして複数色のインクが用いられているため、第2インクのマイクロ波による乾燥時間が経過するにつれて異なるインクの色どうしでマイクロ波吸収能の差がでてくる。よって、マイクロ波による乾燥時間が経過し、異なるインクの色どうしでマイクロ波吸収能の差により乾燥性に大きな差が出る前に熱風によって乾燥させる方法に切り替えることが均一な乾燥性制御にとって好適である。
【0201】
また、基材にダメージを与えやすい熱風による乾燥は、すでにマイクロ波の照射によってほとんど乾燥されているインクに対して行われるため当該基材への熱の影響は極めて低く抑えられる。
【0202】
マイクロ波及びその他の乾燥方法については、前述の第1乾燥工程における第1インクの乾燥方法と同様であるが、前述のように基材の縮みを過度に気にする必要がないため、補助風を用いる必要はなく、通常の熱風を用いる方が速乾性付与の観点からは好ましい。
【0203】
以上のようにして得られる前記第2インクの画像層の厚さは、0.3~3.0μmの範囲内であることが好ましく、0.3~2.0μmの範囲内であることがより好ましい。前記第2インクの画像層の厚さが0.3μm以上であると、画像の密着性や耐擦強度を高めやすい。また、前記第2インクの画像層の厚さが3.0μm以下であると、当該第2インクの画像層に与えられる変形応力を低減できるので、画像の密着性が損なわれにくい。
【0204】
(1.5)その他の工程
インクの塗布工程やインクの乾燥工程の前にプレコート液の塗布工程を有することが好ましい。本発明に係るプレコート液は、第1インク及び第2インクを記録媒体上に固定(ピニング)する役割を担う。
【0205】
上記のプレコート液は、第1インク及び第2インクが基材上に塗布される前に当該プレコート液を塗布することもできるが、当該第1インク及び第2インクが基材上に塗布された後に当該プレコート液を塗布することもできる。
【0206】
また、例えば複素誘電率が高いプレコート液をインクの吐出前に塗布することによって、当該プレコート液の塗布部分の乾燥性を向上させることができる。AインクやBインクの複素誘電率の差に応じてプレコート量を調節して乾燥性を制御することもできる。
【0207】
したがって、インクの塗布工程の前に、プレコート液の塗布工程を有することが、前記第1インク及び前記第2インクのピニング性及び均一な乾燥性制御の観点から好ましい。
【0208】
プレコート液は、通常、インクを適度に凝集させ、かつ凝集ムラ抑制及びインクのピニング性の向上等の目的・観点から用いられる。例えば前記プレコート液が、インクを記録媒体上に固定(ピニング)する役割を担う場合、当該プレコート液は、インクを塗布する前に基材上に塗布され、当該プレコート液乾燥後に、前記基材上にてインクと混ざり合うことでインク凝集層を形成する。
【0209】
本発明の画像形成方法においては、上記のプレコート液を用いなくてもよいが、プレコート液とインクの反応による凝集効果を利用し、かつ、速乾性も付与することができるため、当該プレコート液を用いることによって、より均一な乾燥性制御が可能となる。また、複素誘電率が高いプレコート液を所望の箇所に塗布することによって均一な乾燥性制御が可能となる。
【0210】
(1.5.1)プレコート液
本発明に係るプレコート液には、例えば樹脂、金属塩、有機酸、無機酸、溶媒及び界面活性剤等が含有される。この中でも、金属塩、樹脂(特にカチオン性樹脂)、又は有機酸は、インクと混ざり合った時に反応して増粘し、凝集剤としての効果をもつため、例えば非吸収性の基材上にて画像形成を行ったとしても高画質な画像が形成できる。また、これらは一種又は二種以上を組み合わせて含有することができる。
【0211】
後述する乾燥工程にてマイクロ波による乾燥を行う際には、これらの材料の組み合わせによってプレコート液の複素誘電率を変えることができるため、マイクロ波の発熱効果を制御することができ、プレコート液とインクの凝集ピニング効果に加えて、マイクロ波による乾燥ピニング効果が重畳してより粒状性がなく光沢や色域の高い画像を形成できる。
【0212】
前記プレコート液の複素誘電率が、前記第1インクや第2インクの複素誘電率以上であることが当該プレコート液と当該インクとの混合塗膜の乾燥性を上げると共に粒状性がなく均一なドットを形成し、光沢や色域の観点から好ましい。
【0213】
(樹脂)
本発明に係るプレコート液は、樹脂としては、例えば塩化ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。中でも、前記プレコート液が、イオン性を有する樹脂を含有することが定着性、成膜性等の観点から好ましい。
【0214】
本発明に係るプレコート液に含有される樹脂は、水溶性であってもよい。通常、顔料がアニオン性の成分であることから、プレコート液に含有される樹脂はカチオン性樹脂であることで、インクと混ざり合いインク凝集層を形成するため好ましい。
【0215】
(金属塩)
本発明に係るプレコート液は、金属塩としては、無機又は有機の多価金属塩を含有することが好ましく、当該多価金属塩を含有すると、基材上でプレコート液と混合されたインク中のアニオン性の成分が塩析によって凝集する。
【0216】
前記多価金属塩としては、二価以上の価数をもつ金属の塩を用いることができる。多価金属塩を構成する金属(カチオン)の種類は特に限定されないが、例えばCa2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+などの二価金属イオン、Al3+、Fe3+、Cr3+、Y3+などの三価金属イオン及びZr4+などの四価金属イオン等が挙げられる。
【0217】
多価金属塩を構成する塩の種類は特に限定されないが、例えば炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩、有機酸塩、ホウ酸塩及びリン酸塩などの公知の塩を使用できる。特に、例えば塩化カルシウムや塩化マグネシウム、硝酸カルシウムや硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウムや乳酸マグネシウム、パントテン酸カルシウムのようなカルボン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩などが好ましい。
【0218】
多価金属塩以外の金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等の一価の金属塩が、挙げられ、例えば硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等が挙げられる。
【0219】
(有機酸)
有機酸は、前記インク中に含まれうる顔料を凝集し得るものである。プレコート液に凝集剤として有機酸が含有されると、pH変動によってインク中のアニオン性の成分を凝集させることができる。
【0220】
有機酸としては、多価金属塩の凝集力を弱めることがないという観点から、一価のカルボン酸が好ましく、例えばギ酸、マロン酸、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、安息香酸等が挙げられる。
【0221】
また、有機酸を用いることでプレコート液の保存安定性を維持しやすく、プレコート液を塗布、乾燥した後にブロッキングが起きにくい。この観点から好ましい有機酸としては、ギ酸、マロン酸、酢酸、プロピオン酸及び安息香酸などが挙げられる。
【0222】
(無機酸)
有機酸以外の酸としては、無機酸が挙げられ、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等が挙げられる、これらは一種単独で用いてもよいし、二種以上併用してもよい。
【0223】
(溶媒)
本発明に係るプレコート液には、溶媒として水溶性溶媒と非水溶性溶媒の両方を用いることができる。
【0224】
〔水溶性溶媒〕
本発明に係るプレコート液は、溶媒として、沸点が150~250℃の範囲内である水溶性溶媒を含有することができる。このような沸点の高い水溶性溶媒が含有されると、プレコート液が蒸発しにくくなって乾燥性が下がるため、均一な乾燥性制御の観点から好ましい。
【0225】
よって、例えば本発明の画像形成方法において乾燥性を下げたい箇所に、上記のように高い沸点をもつ水溶性溶媒を含有するプレコート液を塗布することにより、特定の箇所の乾燥速度を遅くすることができ、均一な乾燥性制御のために好適である。
【0226】
上記の水溶性溶媒としては、例えばアルコール類、多価アルコール類、アミン類、アミド類、グリコールエーテル類、炭素数が4以上である1,2-アルカンジオール類などが挙げられる。この中でも、沸点180℃以上の水溶性溶媒を含有することが、乾燥性の制御の観点から好ましい。
【0227】
沸点が180~300℃の範囲内の水溶性溶媒としては、エチレングリコール、プロピレングリコール及びジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、グリセリン等が挙げられる。
【0228】
〔非水溶性溶媒〕
本発明に係るプレコート液は、溶媒として、沸点150~250℃の範囲内の水溶性溶媒以外の非水溶性溶媒を含有することもできる。非水溶性溶媒としては、例えばトリメチロールプロパン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等が挙げられる。
【0229】
(界面活性剤)
本発明に係るプレコート液は、界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えばポリシロキサン系界面活性剤及びアセチレングリコール系界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。
【0230】
これらの中でも、プレコート液への溶解度が大きくなりプレコート液中に異物が一層発生し難くなるため、ポリシロキサン系界面活性剤がより好ましい。
【0231】
ポリシロキサン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、TEGOWET-KL245(ポリエーテル変性シロキサンコポリマー;エボニック社製)、BYK-347(ビックケミー株式会社製)、BYK-348(ビックケミー株式会社製)、BYK-349(ビックケミー株式会社製)、BYK-3550(ビックケミー株式会社製)、BYK-UV3510(ビックケミー株式会社製)等を用いることができる。
【0232】
また、アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。
【0233】
これらは、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(エアプロダクツ社(Air Products Japan, Inc.)製)、オルフィンPD-002W、サーフィノール465やサーフィノール61(日信化学工業社(Nissin Chemical Industry CO.,Ltd.)製)等の市販品として入手可能である。
【0234】
上記の界面活性剤の含有量は、反応液の総質量100質量%に対し、0.1~10質量%の範囲内が好ましい。
【0235】
(その他の構成成分)
本発明に係るプレコート液は、本発明の効果を損なわない範囲で、水、架橋剤、防黴剤、殺菌剤及びその他の成分を適宜配合することができる。
【0236】
さらに、例えば特開昭57-74193号公報、同57-87988号公報及び同62-261476号公報に記載の紫外線吸収剤、特開昭57-74192号公報、同57-87989号公報、同60-72785号公報、同61-146591号公報、特開平1-95091号公報及び同3-13376号公報等に記載の退色防止剤、アニオン、カチオン又は非イオンの各種界面活性剤、特開昭59-42993号公報、同59-52689号公報、同62-280069号公報、同61-242871号公報及び特開平4-219266号公報等に記載の蛍光増白剤、消泡剤、ジエチレングリコール等の潤滑剤、防腐剤、増粘剤、帯電防止剤等、公知の各種添加剤を含有させることもできる。
【0237】
(1.5.2)プレコート液の物性
(複素誘電率)
本発明に係るプレコート液の複素誘電率が、第1インク及び第2インクの複素誘電率以上であることが、当該プレコート液と当該第1インク及び当該第2インクとの混合塗膜の乾燥性を上げると共に粒状性がなく均一なドットを形成し、光沢や色域の観点から好ましい。なお、複素誘電率の詳細については、インクの物性にて説明したとおりである。
【0238】
(粘度、表面張力等)
本発明に係るプレコート液の物性は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば 25℃におけるプレコート液の粘度は、インクジェットヘッドのノズルからの良好な吐出安定性が得られる観点から、5~30mPa・sの範囲内であることが好ましい。プレコート液の表面張力は、記録媒体上で好適にインクがレベリングされ、インクの乾燥時間が短縮される点から、25℃において、1~55mN/mの範囲内であることが好ましい。
【0239】
(1.5.3)プレコート液の塗布方法
プレコート液を基材上に塗布する方法は、特に限定されないが、例えばインクジェット法、ローラー塗布法、カーテン塗布方法、スプレー塗布法などを好ましく挙げることができる。
【0240】
本発明の実施態様としては、前記プレコート液をインクジェット方式で塗布することがプレコート液の量や適用範囲を自在に制御する観点から好ましい。これには、例えばプレコート液を装填したインクジェットヘッドを備えるプリンターを用いることができる。
【0241】
絶縁性に近い複素誘電率の低いインクとしては、例えばイエローインク(Y)、マゼンタインク(M)及びシアンインク(C)が挙げられ、複素誘電率の高いインクとしては、例えばブラックインク(K)及びホワイトインク(W)が挙げられる。導電性の高い金属酸化物や金属を有するインクも複素誘電率が高い。
【0242】
ここで、本発明に係るプレコート液の付与量を、絶縁性に近い複素誘電率の低いインクの付与量と複素誘電率の高いインクの付与量に応じてインクジェット等の方法により適切に制御することにより、複素誘電率の高いインクが絶縁性に近い複素誘電率の低いインクに比して過剰に乾燥されることなく、均一な乾燥性制御を行うことができ、良質な印刷物が得られる。また、AインクとBインクの付与量に応じてプレコート液の付与量を適切に制御することも均一な乾燥性制御を行う観点から好ましい。
【0243】
(1.6)基材
本発明に適用可能な基材(記録媒体)としては、特に限定されるものではなく、例えばインク非吸収性又は低吸収性の基材等を挙げることができる。本発明においては、第1インクを乾燥させる際にマイクロ波を用いているため、当該マイクロ波を吸収しない基材は発熱しない。したがって、基材へのダメージを抑制することができる。また、第1インクの乾燥をマイクロ波によって行っているため、雰囲気下による条件(風や温度等による条件)によって当該第1インクを乾燥させる必要がなくなるため、インクジェット塗布時のノズルの乾燥を防止することができる。したがって、前記基材が、熱の影響を受けやすい樹脂フィルムであったとしても基材へのダメージを与えることなく、第1インクの射出安定性を確保できる。
【0244】
インク非吸収性の基材としては、例えばインクジェット印刷用に表面処理をしていない(すなわち、インク吸収層を形成していない)樹脂フィルム、紙等の基材上に樹脂がコーティングされているものや樹脂フィルムが接着されているもの等が挙げられる。
【0245】
樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル又はポリアリレート類、アートン(商品名、JSR社製)又はアペル(商品名、三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等のフィルムが挙げられる。
【0246】
インク低吸収性の基材として、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙が挙げられる。ここで、本明細書において「インク非吸収性及び低吸収性の基材」とは、「ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2以下である記録媒体」を示す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙-液体吸収性試験方法-ブリストー法」に述べられている。
【0247】
2.画像形成方法2(裏刷り)
本発明のもう一つの画像形成方法は、第2インクの塗布工程と、第1乾燥工程と、第1インクの塗布工程と、第2乾燥工程と、をこの順に有する画像形成方法であって、前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、前記第2インクの塗布工程にて、基材の上に前記第2インクを塗布し、前記第1乾燥工程にて、前記第2インクにマイクロ波を照射することによって乾燥させ前記第2インクの画像層を形成し、前記第1インクの塗布工程にて、前記第2インクの画像層の上に前記第1インクを塗布し、前記第2乾燥工程にて、前記第1インクを乾燥させ第1インクの被覆層を形成することを特徴とする。
【0248】
(2.1)第2インクの塗布工程
(2.1.1)インク
本発明に係るインクは、その目的に応じて、顔料、樹脂、水、水溶性溶媒及び界面活性剤の含有割合等においてその種類が異なる。前述のように、本発明に係る第2インクは画像形成用インクであり、これには複数色のインクが用いられる。また、第2インクは、少なくともイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを二種以上含むインクセットからなる。インクの成分及び物性については前述のとおりである。
【0249】
(2.1.2)第2インクの塗布方法
第2インクの塗布方法としては、特に限定されないが、例えばインクジェット法、ローラー塗布法、カーテン塗布方法、スプレー塗布法などを好ましく挙げることができる。
【0250】
前記第2インクは画像形成用インクとして基材の上に塗布されるため、前記第2インクをインクジェット方式で塗布することが好ましい。これにより、基材の種類や乾燥具合のバラつきに応じて第2インクの量や適用範囲を自在に制御できるため、マイクロ波の照射による発熱効果を基材面内で均一に制御することができ、より基材面内が均一に乾燥されるため、画像(印刷物)にヨレ等の不具合が発生しない。
【0251】
インクジェット法は、特に制限されず、第2インクを装填したインクジェットヘッドを備えるプリンターを用いることができる。具体的には、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドのノズルから第2インクを液滴として吐出させ、これを基材(記録媒体)上に着弾させて第2インクを塗布することができる。
【0252】
(2.2)第1乾燥工程
(2.2.1)第1乾燥工程における第2インクの乾燥方法等
画像形成方法2における第1乾燥工程では、基材の上に塗布された第2インクにマイクロ波を照射することによって乾燥させ第2インクの画像層を形成する。このような乾燥方法としては、特に制限はないが、前期第2インクとして複数色のインクが用いられているためマイクロ波を主体とする乾燥方法を用いると、特に乾燥後期において各色ごとの乾燥性のバラつきが大きくなる。
【0253】
上記のことから、前記マイクロ波を照射する方法、熱風を当てる方法、及び赤外線(波長0.7~4.0μmの範囲内のものに限る)を照射する方法の中から、少なくとも二つ以上を組み合わせることによって前記第2インクを乾燥させることでより均一な乾燥性制御が可能となるため好ましい。
【0254】
さらに、前記マイクロ波を照射する方法を行った後に前記熱風を当てる方法を行うことによって前記第2インクを乾燥させることが、速乾性を付与し、均一な乾燥性制御をする観点から好ましい。
【0255】
上記の理由として、まず、マイクロ波照射による乾燥効率が熱風等による乾燥効率より高いことが関係する。しかし、第1乾燥工程においては、第2インクとして複数色のインクが用いられているため、第2インクのマイクロ波による乾燥時間が経過するにつれて異なるインクの色どうしでマイクロ波吸収能の差がでてくる。よって、マイクロ波による乾燥時間がある程度経過し、異なるインクの色どうしでマイクロ波吸収能の差により乾燥性に大きな差が出る前に熱風によって乾燥させる方法に切り替えることが均一な乾燥性制御にとって好適である。
【0256】
また、基材にダメージを与えやすい熱風は、すでにマイクロ波の照射によってほとんど乾燥されているインクに対して当てることから、基材にダメージを与えない程度の微風でもよく、当該基材への熱の影響は極めて低く抑えられる。
【0257】
以上のようにして得られる前記第2インクの画像層の厚さは、0.3~3.0μmの範囲内であることが好ましく、0.3~2.0μmの範囲内であることがより好ましい。
【0258】
前記第2インクの画像層の厚さが0.3μm以上であると、画像の密着性や耐擦強度を高めやすい。また、前記第2インクの画像層の厚さが3.0μm以下であると、当該第2インクの画像層に与えられる変形応力を低減できるので、画像の密着性が損なわれにくい。
【0259】
マイクロ波及びその他の乾燥方法については、画像形成方法1の第1乾燥工程における乾燥方法にて説明したとおりである。
【0260】
(2.2.2)乾燥率
前記Aインク及び前記Bインクを80℃にて20秒間乾燥させたときの乾燥率を、それぞれ、DA及びDBとしたとき当該DA及びDBが下記式(2)を満たすことが、均一な乾燥性制御の観点から好ましい。詳細については、画像形成方法1における乾燥率の詳細と同様である。
【0261】
式(2): DA<DB
【0262】
(2.2.3)第2インクの画像層の厚さ
前述のようにして得られる前記第2インクの画像層の厚さは、0.3~3.0μmの範囲内であることが好ましく、0.3~2.0μmの範囲内であることがより好ましい。前記第2インクの画像層の厚さが0.3μm以上であると、画像の密着性や耐擦強度を高めやすい。また、前記第2インクの画像層の厚さが3.0μm以下であると、当該第2インクの画像層に与えられる変形応力を低減できるので、画像の密着性が損なわれにくい。
【0263】
(2.3)第1インクの塗布工程
(2.3.1)インク
本発明に係るインクは、その目的に応じて、顔料、樹脂、水、水溶性溶媒及び界面活性剤の含有割合等においてその種類が異なる。画像形成方法2における第1インクの塗布工程においては、被覆層形成用インクを第1インクとし、当該第1インクには、一色のインクのみが用いられる。なお、「一色のインク」には顔料を含有しないクリアインクを含めるものとする。インクの成分及び物性については前述のとおりである。
【0264】
(2.3.2)第1インクの塗布方法
画像形成方法2における第1インクの塗布工程では、第2インクの画像層の上に前記第1インクを塗布する。画像形成方法2における前述の第1乾燥工程では、第1インクに指向性の高いマイクロ波を照射することによって乾燥させ第2インクの画像層を形成する。よって、前記第2インクの画像層の上に塗布する第1インクに前述の第1乾燥工程における第2インクの乾燥後の雰囲気による影響がでないため、当該第1インクの射出安定性を確保することができる。
【0265】
第1インクの塗布工程では、基材の上に形成された第2インクの画像層の上に当該第1インクを塗布する。このような方法は、特に限定されないが、例えばインクジェット法、ローラー塗布法、カーテン塗布方法、スプレー塗布法などを好ましく挙げることができる。前記第1インクは被覆層形成用インクとして第2インクの画像層の上に塗布されるため、前記第1インクをロールコーター方式で塗布することが好ましい。
【0266】
(2.4)第2乾燥工程
(第2乾燥工程における第1インクの乾燥方法)
画像形成方法2における第2乾燥工程では、第1インクを乾燥させ第1インクの被覆層を形成する。このような乾燥方法としては、特に制限はないが、画像形成方法2における第1インクの塗布工程においては、一色のインクしか用いないため、当該第1インク塗布後の乾燥を面内バラつきなく均一に行うことが可能となる。
【0267】
さらに、導電性を有する酸化チタンを含有するホワイトインクを第1インクとすると、マイクロ波吸収能が高く速乾性が高くなり、かつ同時に上記のように均一な乾燥性制御を行うことができるため好ましい。
【0268】
なお、画像形成方法2における第2乾燥工程において第1インクを乾燥させた後、さらにインクを塗布することはないため、乾燥方法を選択する際に基材の縮みを過度に気にする必要はなくなり、インクの位置あわせや雰囲気による影響の問題は気にする必要がなくなる。よって、速乾性付与及び均一な乾燥性の付与のための乾燥方法を適宜選択すればよい。
【0269】
また、画像形成方法2における第1インクの塗布工程においては、一色のインクしか用いないため、当該第1インク塗布後の乾燥を面内バラつきなく均一に行うことが可能となる。
【0270】
さらに、導電性を有する酸化チタンを含有するホワイトインクを第1インクとすると、マイクロ波吸収能が高く速乾性が高くなり、かつ同時に上記のように均一な乾燥性制御を行うことができるため好ましい。
【0271】
マイクロ波及びその他の乾燥方法や乾燥率等については、前述の画像形成方法1における乾燥工程と同様である。
【0272】
以上のようにして得られる前記第1インクの被覆層の厚さは、0.3~3.0μmの範囲内であることが好ましく、0.3~2.0μmの範囲内であることがより好ましい。前記第1インクの被覆層の厚さが0.3μm以上であると、画像の密着性や耐擦強度を高めやすい。また、前記第1インクの被覆層の厚さが3.0μm以下であると、当該第2インクの画像層に与えられる変形応力を低減できるので、画像の密着性が損なわれにくい。
【0273】
(2.5)その他
その他の工程、基材等の記載については、画像形成方法1と同様である。
【0274】
3.画像形成システム
本発明の画像形成システムは、第1インクの塗布手段と、第1乾燥手段と、第2インクの塗布手段と、第2乾燥手段と、をこの順に有する画像形成システムであって、前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、前記第1インクの塗布手段が、基材の上に前記第1インクを塗布する手段であり、前記第1乾燥手段が、前記第1インクにマイクロ波又は中波長~短波長の赤外線を照射することによって乾燥させ下地層を形成する手段であり、前記第2インクの塗布手段が、前記下地層の上に前記第2インクを塗布する手段であり、前記第2乾燥手段が、前記第2インクを乾燥させ前記第2インクの画像層を形成する手段であることを特徴とする。
【0275】
また、別の画像形成システムとしては、第2インクの塗布手段と、第1乾燥手段と、第1インクの塗布手段と、第2乾燥手段と、をこの順に有する画像形成システムであって、前記第1インク及び前記第2インクが、少なくとも樹脂、水溶性溶媒及び界面活性剤を含有し、前記第2インクの塗布手段が、基材の上に前記第2インクを塗布する手段であり、前記第1乾燥手段が、前記第2インクにマイクロ波を照射することによって乾燥させ第2インクの画像層を形成する手段であり、前記第1インクの塗布手段が、前記第2インクの画像層の上に前記第1インクを塗布する手段であり、前記第2乾燥手段が、前記第1インクを乾燥させ前記第1インクの被覆層を形成する手段であることを特徴とする。
【0276】
上記の画像形成システムのいずれにおいても、本発明に係る第1インクの塗布手段及び第2インクの塗布手段には、特に制限はなく、前述の画像形成方法1及び2にて説明した第1インク及び第2インクを塗布できるような従来公知の塗布装置を用いることができる。
【0277】
また、本発明に係るインクの第1乾燥手段及び第2乾燥手段においても、特に制限はなく、前述の画像形成方法1及び2にて説明した乾燥方法を実現できる従来公知の乾燥装置を用いることができる。
【0278】
4.記録装置
前述の画像形成方法1及び画像形成システム1に用いることのできる記録装置は、第1インクの塗布手段と、第1乾燥手段と、第2インクの塗布手段と、第2乾燥手段と、をこの順に有する記録装置である。
【0279】
(4.1)記録装置の構成1
図1は、第1インクをロールコーター方式で塗布する画像形成方法1に好ましい記録装置の一例の模式図である。また、
図2は、第1インクをインクジェット方式で塗布する画像形成方法1に好ましい記録装置の一例の模式図である。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0280】
上記の
図1と
図2は、単に、第1インクの塗布部における塗布方式による違いがあるのみでその他は同様の構成のため、以下、
図1において第1インクをロールコーター方式で塗布する記録装置のみについて説明する。
【0281】
記録装置1は、主に、第1インクの塗布部10、第1乾燥部15、第2インクの塗布部20及び第2乾燥部25から構成されている。
【0282】
(4.1.1)第1インクの塗布部
図1の記録装置1において、例えば送り出しローラー30から繰り出された基材F上に、第1インクの塗布部10にて下地層形成用インクである第1インク11をロールコーター40により塗布する。このとき第1インク11としては、一色のみが用いられる。また、導電性を有する酸化チタンを含有するホワイトインクを第1インク11とすると、マイクロ波吸収能が高く速乾性が高くなる。
【0283】
(4.1.2)第1乾燥部
次に、第1乾燥部15にて乾燥装置41内で基材Fの上に塗布された第1インク11にマイクロ波又は中波長~短波長の赤外線を照射することによって乾燥させ下地層UL1を形成する。このとき前記第1インク11は一色のみが用いられているため、中波長~短波長の赤外線による乾燥性の差、又はマイクロ波吸収能の差による乾燥性の差がでることがなく、第1インク11は均一に乾燥され、下地層UL1が形成される。また、中波長~短波長の赤外線又はマイクロ波は指向性が高いため、基材へのダメージがない。
【0284】
さらに、中波長~短波長の赤外線又はマイクロ波照射による乾燥は、雰囲気による影響を与えない乾燥方法であるため、例えば次工程の第2インク21の塗布の際に用いられるインクジェットヘッドのノズル部分を乾燥させることがなく、インク射出安定性を確保することができる。中波長~短波長の赤外線による乾燥は、インクの色や樹脂等の固形分の種類によって乾燥性に大きな差がでるが、この記録装置の構成1における第1乾燥部においては、第1インクとして一色のみを用いるため乾燥性の差は問題とならない。
【0285】
なお、乾燥装置41内には中波長~短波長の赤外線又はマイクロ波照射装置以外にも熱風を当てる装置等によって加熱する装置等が備えられ、乾燥装置41内で適宜利用される。
【0286】
(4.1.3)第2インクの塗布部
次に、前記下地層UL1上に第2インクの塗布部20にて画像形成用インクである第2インク21をインクジェットヘッド42により塗布する。このとき第2インク21としては、複数色のインクが用いられる。また、第2インクは、少なくともイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを二種以上含むインクセットからなる。
【0287】
(4.1.4)第2乾燥部
次に、第2乾燥部25にて乾燥装置41内で下地層UL1上に塗布された第2インク21を乾燥させ第2インクの画像層PL2を形成する。このとき、さらに第2インクの画像層PL2の上にインクを塗布することはないため、乾燥方法を選択する際に基材の縮みを過度に気にする必要はなくなり、インクの位置あわせや雰囲気による影響の問題は気にする必要がなくなる。よって、速乾性付与及び均一な乾燥性の付与のための乾燥方法を適宜選択すればよい。
【0288】
乾燥装置41としては、第1乾燥部と同様のものを用いる。マイクロ波による乾燥は、第1乾燥部において用いることによって特にその効果が発揮されるが、この第2乾燥部においても基本的にはマイクロ波乾燥が好ましい。ただし、前述の第2インクの塗布部においては、第2インクとして複数色のインクが用いられているため基材ダメージを考慮して熱風を併用することが好ましい。
【0289】
上記のことから、赤外線(波長0.78~4.0μmの範囲内のものに限る。)を照射する方法又は前記マイクロ波を照射する方法に加えて、熱風を当てる方法等によって前記第2インクを乾燥させることによって前記第2インクを乾燥させることでより均一な乾燥性制御が可能となるため好ましい。
【0290】
(4.2)記録装置の構成2
図3は、第1インクをロールコーター方式で塗布する画像形成方法2に好ましい記録装置の一例の模式図である。また、
図4は、第1インクをインクジェット方式で塗布する画像形成方法2に好ましい記録装置の一例の模式図である。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0291】
上記の
図3と
図4は、単に、第1インクの塗布部における塗布方式による違いがあるのみでその他は同様の構成のため、以下、
図3において第1インクをロールコーター方式で塗布する記録装置のみについて説明する。
【0292】
記録装置3は、主に、第2インクの塗布部20、第1乾燥部15、第1インクの塗布部10及び第2乾燥部25から構成されている。
【0293】
(4.2.1)第2インクの塗布部
図3の記録装置3において、例えば送り出しローラー30から繰り出された基材F上に、第2インクの塗布部20にて画像形成用である第2インク21をインクジェットヘッド42により塗布する。このとき第2インク21としては、複数色のインクが用いられる。また、第2インクは、少なくともイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを二種以上含むインクセットからなる。
【0294】
(4.2.2)第1乾燥部
次に、第1乾燥部15にて乾燥装置41内で基材Fの上に塗布された前記第2インク21にマイクロ波を照射することによって乾燥させ第2インクの画像層PL2を形成する。
【0295】
マイクロ波照射による乾燥は、雰囲気による影響を与えない乾燥方法であるため、例えば次工程の第2インク21の塗布の際に用いられるインクジェットヘッド42のノズル部分を乾燥させることがなく、インク射出安定性を確保することができる。
【0296】
なお、乾燥装置41内にはマイクロ波照射装置以外にも熱風を当てる装置及び赤外線ヒーターによって加熱する装置等が備えられ、乾燥装置41内で適宜利用される。
【0297】
第2インク21は複数色が用いられているため、特に乾燥後期においてマイクロ波吸収能の差による各色ごとの乾燥性のバラつきが大きくなる。よって、乾燥後期においては、熱風を当てたり赤外線ヒーターによって加熱して乾燥させたりすることでより均一な乾燥性制御を行うことができる。
【0298】
(4.2.3)第1インクの塗布部
次に、前記第2インクの画像層PL2上に第1インクの塗布部10にて被覆層形成用インクである第1インク11をロールコーター40により塗布する。このとき第1インク11としては、一色のインクのみが用いられる。
【0299】
(4.2.4)第2乾燥部
次に、第2乾燥部25にて乾燥装置41内で第2インクの画像層PL2上に塗布された第1インク11を乾燥させ第1インクの被覆層OL1を形成する。このとき、さらに第1インクの被覆層OL1の上にインクを塗布することはないため、乾燥方法を選択する際に基材の縮みを過度に気にする必要はなくなり、インクの位置あわせや雰囲気による影響の問題は気にする必要がなくなる。よって、速乾性付与及び均一な乾燥性の付与のための乾燥方法を適宜選択すればよい。
【0300】
乾燥装置41としては、第1乾燥部と同様のものを用いるが、第2乾燥部においてはマイクロ波による乾燥は必須ではないが、速乾性を付与するためにはマイクロ波を用いることが好ましい。また、熱風を当てる方法及び赤外線ヒーターにより加熱する方法により乾燥させることも好ましい。このとき前記第1インクは一色のみが用いられているため、マイクロ波吸収能の差による乾燥性の差がでることがなく、第1インク11は均一に乾燥される。
【実施例0301】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0302】
A.各インクに含有させる顔料分散液の調製
(A.1)ホワイト顔料分散液〔W〕の調製
顔料としてホワイト顔料(酸化チタン CR-50-2;石原産業株式会社製)40質量%に、顔料分散剤として「Joncryl 819」(アニオン性高分子分散剤、ジメチルアミノエタノール中和されたカルボキシ基を有するアクリル系分散剤、酸価75mgKOH/g、固形分20質量% BASF社製)4質量%、及び「Disperbyk-2019」(無溶剤型湿潤分散剤 ビックケミー社製)4質量%、溶媒としてプロピレングリコール(PG)20質量%、防黴剤として1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(Proxel GXL(S))0.1質量%、イオン交換水(残部;全量が100質量%となる量)を加えた混合液をプレミックスした。
【0303】
その後、0.3mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したビーズミルを用いて分散し、顔料の含有量が20質量%のホワイト顔料分散液〔W〕を調製した。この顔料分散液に含まれる顔料粒子の平均粒径は250nmであった。なお、平均粒径の測定はマルバルーン社製「ゼータサイザー Nano S-90」により行った。
【0304】
(A.2)マゼンタ顔料分散液〔M〕の調製
顔料の種類をマゼンタ顔料(ピグメント・レッド122とピグメント・バイオレット19の混晶)とし、顔料分散剤として「Joncryl 819」のみを8質量%加えたこと以外はホワイト顔料分散液〔W〕と同様の調製を行い、顔料の含有量が20質量%のマゼンタ顔料分散液〔M〕を調製した。
【0305】
この顔料分散液に含まれる顔料粒子の平均粒径は250nmであった。なお、平均粒径の測定はマルバルーン社製「ゼータサイザー Nano S-90」により行った。
【0306】
(A.3)イエロー〔Y〕、シアン〔C〕及びブラック〔K〕の顔料分散液の調製
マゼンタ顔料をそれぞれイエロー顔料(ピグメントイエロー150;ランクセス株式会社製)、シアン顔料(ピグメントブルー15;東京化成工業株式会社製)、ブラック顔料(ピグメントブラック7;三菱化学株式会社製)に変更した以外は、マゼンタ顔料分散液〔M〕の調製と同様にして顔料の含有量が20質量%のイエロー顔料分散液〔Y〕、シアン顔料分散液〔C〕及びブラック顔料分散液〔K〕の調製を行った。これらの顔料分散液に含まれる顔料粒子の平均粒径は全て250nmであった。なお、平均粒径の測定はマルバルーン社製「ゼータサイザー Nano S-90」に
より行った。
【0307】
B.インクの調製
(B.1)第1インクの調製
(B.1.1)ホワイトインク〔W1〕の調製
顔料分散液としてホワイト顔料分散液〔W〕20.00質量%に、樹脂微粒子分散液としてプラスコートZ-446(互応化学工業社製)5.00質量%(固形分換算)、水溶性溶媒としてプロピレングリコール(PG)25.00質量%、同じく水溶性溶媒としてジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGBE)1.00質量%、界面活性剤として「TEGOWET-KL245」(ポリエーテル変性シロキサンコポリマー;エボニック社製)1.00質量%、防黴剤としてProxel GXL(S)(1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン ;ダイワ化成株式会社製)0.10質量%、イオン交換水(残部;全量が100質量%なる量)を撹拌しながら添加し、得られた混合液を1μmのフィルターにより濾過してホワイトインク〔W1〕を調製した。濾過前後で実質的な組成変化はなかった。
【0308】
(B.1.2)ホワイトインク〔W2〕の調製
顔料分散液、樹脂微粒子分散液、水溶性溶媒、界面活性剤、防黴剤及び水の量を表Iのように変更した以外はホワイトインク〔W1〕と同様にしてホワイトインク〔W2〕を調製した。
【0309】
(B.1.3)クリアインク〔T1〕の調製
他の第1インクと異なり顔料分散液を入れなかった。樹脂微粒子分散液、水溶性溶媒、界面活性剤、防黴剤及び水の量を表Iのように変更したこと以外は、ホワイトインク〔W1〕と同様にしてクリアインク〔T1〕を調製した。
【0310】
(B.2)第2インクの調製
(B.2.1)イエローインク〔Y1〕の調製
顔料分散液の種類をイエロー顔料分散液〔Y〕とし、顔料分散液、樹脂微粒子分散液、水溶性溶媒、界面活性剤、防黴剤及び水の量を表IIのように変更した以外はホワイトインク〔W1〕と同様にしてイエローインク〔Y1〕を調製した。
【0311】
(B.2.2)マゼンタインク〔M1〕、シアンインク〔C1〕及びブラックインク〔K1〕の調製
顔料分散液の種類をマゼンタ顔料分散液〔M〕、シアン顔料分散液〔C〕、ブラック顔料分散液〔K〕とし、顔料分散液、樹脂微粒子分散液、水溶性溶媒、界面活性剤、防黴剤及び水の量を表IIのように変更した以外はホワイトインク〔W1〕と同様にしてマゼンタインク〔M1〕、シアンインク〔C1〕及びブラックインク〔K1〕を調製した。
【0312】
(B.2.3)ブラックインク〔K2〕の調製
顔料分散液の種類をブラック顔料分散液〔K〕とし、顔料分散液、樹脂微粒子分散液、水溶性溶媒、界面活性剤、防黴剤及び水の量を表IIのように変更し、さらに保湿剤として1,3-プロパンジオール(PDO)を加えたこと以外は、ホワイトインク〔W1〕と同様にしてブラックインク〔K2〕を調製した。
【0313】
(B.3)第1インク及び第2インクの種類まとめ
第1インク及び第2インクの顔料分散液、樹脂、水溶性溶媒、保湿剤、界面活性剤、防腐剤及び水の種類及び含有量[質量%]を表I及び表IIに示す。なお、樹脂微粒子分散液としてプラスコートZ-446(互応化学工業社製)を添加した表I及び表II中の数値は固形分換算で添加した量である。
【0314】
【0315】
【0316】
(第1インク及び第2インクの含有物における略称)
なお、表I及び表IIおける各略称は以下のとおりである。
【0317】
「Z-446」:プラスコートZ-446(互応化学工業社製)
「PG」:プロピレングリコール
「DPG」:ジプロピレングリコール
「Gly」:グリセリン
「KL245」:TEGOWET-KL245(ポリエーテル変性シロキサンコポリマー;エボニック社製)
「Proxel GXL」:Proxel GXL(S)(1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン;ダイワ化成株式会社製)
【0318】
C.水、水溶性溶媒及び保湿剤の複素誘電率及び沸点
水、水溶性溶媒及び保湿剤の複素誘電率及び沸点についての各数値は表IIIのとおりである。
【0319】
【0320】
D.各インクの複素誘電率と乾燥率
(D.1)複素誘電率
PET基材(「FE2001」フタムラ化学社製)上に第2インクを別々の箇所にワイヤーバーにて塗布量13g/m2で塗布し、熱風式オーブンにて80℃で3分間乾燥し、各インクの複素誘電率測定用のサンプルを作製した。
【0321】
上記の第2インクの乾燥率及び複素誘電率の測定についてイエローインク〔Y1〕を例に説明する。
【0322】
10cm×10cmにカットしたPET基材(質量:0.168g)の上にワイヤーバーでイエローインク〔Y1〕を塗布量13g/m2で塗布し、サンプル〔Y1〕を得た。その後、すぐに電子天秤でサンプル〔Y1〕の質量を測定したところ0.298gであり、これをサンプル〔Y1〕の「乾燥前の質量」とした。
【0323】
サンプル〔Y1〕を熱風式オーブン80℃で3分間乾燥し、その後再度電子天秤で質量を測定し、0.187gをサンプル〔Y1〕の「乾燥後の質量」とした。したがって、イエローインク〔Y1〕の乾燥によって蒸発した質量は、上記の「乾燥前の質量」-「乾燥後の質量」である。
【0324】
イエローインク〔Y1〕は、10cm×10cmにカットしたPET基材上に塗布量13g/m2で塗布されているため、当該イエローインク〔Y1〕の総質量は、13×0.01=0.130gとなる。
【0325】
イエローインク〔Y1〕の89.9%が溶媒であることから0.130×0.899=0.117gがイエローインク〔Y1〕中の溶媒の総質量となる。これを下記式に代入し、乾燥率を算出したところ95%となった。
【0326】
乾燥率[%]=(乾燥前の質量-乾燥後の質量)/インク中の溶媒の総質量×100
【0327】
上記のサンプル〔Y1〕を東陽テクニカ製マテリアルインピーダンスアナライザ MIA-5M(SH2-Z型 4端子サンプルホルダ)を用いて、イエローインク〔Y1〕の乾燥率95%での複素誘電率ε′′Y1を測定した。複素誘電率の測定結果を表IVに示す。
【0328】
(Aインク及びBインクの例示)
本発明に係る第2インクは、少なくともイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを二種以上含むインクセットからなり、当該インクセットの色彩の異なる顔料を含有する二種の第2インクをそれぞれAインク及びBインクとする。例えば当該インクセットにイエローインク〔Y1〕、マゼンタインク〔M1〕、シアンインク〔C1〕及びブラックインク〔K2〕が用いられている場合、表IVに示すとおりイエローインク〔Y1〕の複素誘電率ε′′Y1、マゼンタインク〔M1〕の複素誘電率ε′′M1及びシアンインク〔C1〕の複素誘電率ε′′C1は0.01であり、ブラックインク〔K2〕の複素誘電率ε′′K2は0.13であることから、Aインクはブラックインク〔K2〕であり、Bインクはイエローインク〔Y1〕、マゼンタインク〔M1〕及びシアンインク〔C1〕である。
【0329】
(D.2)乾燥率
PET基材(「FE2001」フタムラ化学社製)上に第2インクを別々の箇所にワイヤーバーにて塗布量13g/m2で塗布し、熱風式オーブン80℃にて20秒間乾燥し、各インクの乾燥率測定用のサンプルを作製した。乾燥率の測定結果を表IVに示す。
【0330】
なお、第2インクを80℃にて20秒間乾燥させたときの乾燥率は以下の式により算出した。
【0331】
乾燥率[%]=(乾燥前の質量-乾燥後の質量)/インク中の溶媒の総質量×100
【0332】
(Aインク及びBインクの例示)
本発明に係る第2インクは、少なくともイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを二種以上含むインクセットからなり、当該インクセットの色彩の異なる顔料を含有する二種の第2インクをそれぞれAインク及びBインクとする。例えば当該インクセットにイエローインク〔Y1〕、マゼンタインク〔M1〕、シアンインク〔C1〕及びブラックインク〔K2〕が用いられている場合、表IVに示すとおりイエローインク〔Y1〕の乾燥率DY1、マゼンタインク〔M1〕の乾燥率DM1及びシアンインク〔C1〕の乾燥率DC1は55、55、55であり、ブラックインク〔K2〕の乾燥率DK2は40であることから、Aインクはブラックインク〔K2〕であり、Bインクはイエローインク〔Y1〕、マゼンタインク〔M1〕及びシアンインク〔C1〕である。
【0333】
【0334】
F.画像形成方法1による実施例及び比較例
(F.1)画像形成準備
(実施例1~6、比較例1及び2の画像形成準備)
図2のようなシングルパスの記録装置の構成にて画像形成準備を行った。基材の搬送方向は、
図2のD方向とし、搬送速度50m/minに設定し、25℃・50%RHの環境下にて行い、記録媒体Fとしてポリプロピレン(PP)基材(「#20 FOR」フタムラ化学社製)を用いた。第1インクと第2インクの全面が触診で色移り又は塗膜が変形しない程度に乾燥するように適切な乾燥距離の乾燥機を設置した。第1乾燥部と第2乾燥部について、それぞれ乾燥方式を表Vの乾燥を行うことができるように変更した。
【0335】
第1インクの塗布部10には、特開2018-202768号公報のコニカミノルタ社製の独立駆動型インクジェットヘッド(360npi、吐出量6pL若しくは14pL、1024ノズル)1個を設けた。第2インクの塗布部20には、これと同様の独立駆動型インクジェットヘッド4個を準備した。なお、基材搬送系が蛇行せずに直線状であったと仮定し、印字部の長さは1000mmとし、各工程の間の距離は500mmとした。
【0336】
(実施例7の画像形成準備)
図1のような記録装置の構成にて画像形成準備を行った。基材の搬送方向は、
図1のD方向とし、搬送速度50m/minに設定し、25℃・50%RHの環境下にて行い、記録媒体Fとしてポリプロピレン(PP)基材(「#20 FOR」フタムラ化学社製)を用いた。第1インクと第2インクの全面が触診で色移り又は塗膜が変形しない程度に乾燥するように適切な乾燥距離の乾燥機を設置した。第1乾燥部と第2乾燥部について、それぞれ乾燥方式を表Vの乾燥を行うことができるように変更した。
【0337】
第1インクの塗布部10には、ロールコーター40を設けた。第2インクの塗布部20には、前述の独立駆動型インクジェットヘッド4個を準備した。なお、基材搬送系が蛇行せずに直線状であったと仮定し、印字部の長さは1000mmとし、各工程の間の距離は500mmとした。
【0338】
(F.2)実施例及び比較例の画像形成
(F.2.1)実施例1
(第1インクの塗布工程)
第1インクの塗布部10においてインクジェットヘッド42から、第1インクとしてホワイトインク〔W1〕を塗布量13g/m2にて吐出して、基材Fの上に塗布した。
【0339】
(第1乾燥工程)
その後、第1乾燥部15において、乾燥装置41内で一種の第1インク(ホワイトインク〔W1〕)に対してマイクロ波処理を行い乾燥させベタ状の下地層UL1を形成した。乾燥装置としては、マイクロ波発生装置(ESG-2450S-2A 島田理化工業社製)を用いた。なお、乾燥は、下地層UL1を触診しながら、当該下地層UL1の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度のマイクロ波(発振周波数:2.45GHz、出力:100W)を照射することにより行った。
【0340】
(第2インクの塗布工程)
その後、第2インクの塗布部において、上記のホワイトインク〔W1〕によって形成された下地層UL1の上に、四つのインクジェットヘッド42から第2インクとしてイエローインク〔Y1〕、マゼンタインク〔M1〕、シアンインク〔C1〕及びブラックインク〔K1〕の四種のインクを吐出して塗布した。
【0341】
(第2乾燥工程)
その後、第2乾燥部において、乾燥装置41内で四種の第2インクに対してマイクロ波処理を行い乾燥させ第2インクの画像層PL2を形成した。なお、乾燥は、第2インクの画像層PL2を触診しながら、第2インクの画像層PL2の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して行った。これにより、画像形成物No.1を作製した。
【0342】
(F.2.2)実施例2
第2乾燥工程において、乾燥装置41内で100℃の熱風処理を風速16m/secで行ったこと以外は実施例1と同様にして第2インクの画像層PL2を形成し、画像形成物No.2を作製した。なお、第1乾燥工程及び第2乾燥工程におけるマイクロ波処理と熱風処理に関しては、下地層UL1や第2インクの画像層PL2を触診しながら、下地層UL1や第2インクの画像層PL2の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して処理を行った。これにより、画像形成物No.2を作製した。
【0343】
(F.2.3)実施例3
第2インクの塗布工程において、第2インクとして吐出した四種のインクの中からブラックインク〔K1〕のみをブラックインク〔K2〕と入れ替えたこと以外は実施例2と同様にして第2インクの画像層PL2を形成した。また、第1乾燥工程及び第2乾燥工程におけるマイクロ波処理と熱風処理に関しても、実施例2と同様に、下地層UL1や第2インクの画像層PL2を触診しながら、下地層UL1や第2インクの画像層PL2の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して処理を行った。これにより、画像形成物No.3を作製した。
【0344】
(F.2.4)実施例4
第2乾燥工程において、乾燥装置41内で四種の第2インクに対してマイクロ波処理を行わず、100℃の熱風処理を風速16m/secで行ったこと以外は実施例1と同様にして第2インクの画像層PL2を形成した。また、第1乾燥工程及び第2乾燥工程におけるマイクロ波処理と熱風処理に関しても、実施例1と同様に、下地層UL1や第2インクの画像層PL2を触診しながら、下地層UL1や第2インクの画像層PL2の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して処理を行った。これにより、画像形成物No.4を作製した。
【0345】
(F.2.5)実施例5
第1乾燥工程において、乾燥装置41内で一種の第1インク(ホワイトインク〔W1〕)に対して60℃の熱風処理を風速16m/secで行ったこと以外は実施例3と同様にして第2インクの画像層PL2を形成した。また、第1乾燥工程及び第2乾燥工程におけるマイクロ波処理と熱風処理に関しても、実施例3と同様に、下地層UL1や第2インクの画像層PL2を触診しながら、下地層UL1や第2インクの画像層PL2の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して処理を行った。これにより、画像形成物No.5を作製した。
【0346】
(F.2.6)実施例6
(第1インクの塗布工程)
第1インクの塗布部10においてインクジェットヘッド42から、第1インクとしてホワイトインク〔W1〕を塗布量13g/m2にて吐出して、基材Fの上に塗布した。
【0347】
(第1乾燥工程)
その後、第1乾燥部15において、乾燥装置41内で一種の第1インク(ホワイトインク〔W1〕)に対して赤外線ヒーターによる処理のみを行い下地層UL1を形成した。乾燥装置内における赤外線ヒーターによる処理は、ヘレウス社製中波長赤外線ヒーター100KW/m2で基材とのGAPを20mmの条件にて行った。なお、乾燥は、下地層UL1を触診しながら、当該下地層UL1の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して処理を行った。
【0348】
(第2インクの塗布工程)
その後、第2インクの塗布部において、上記のホワイトインク〔W1〕によって形成された下地層UL1の上に、四つのインクジェットヘッド42から第2インクとしてイエローインク〔Y1〕、マゼンタインク〔M1〕、シアンインク〔C1〕及びブラックインク〔K1〕の四種のインクを塗布量13g/m2にて吐出して塗布した。
【0349】
(第2乾燥工程)
その後、第2乾燥部において、乾燥装置41内で四種の第2インクに対してマイクロ波処理を行わず、赤外線ヒーターによる処理と熱風処理とを行い乾燥させ第2インクの画像層PL2を形成した。乾燥装置内における赤外線ヒーターによる処理は、ヘレウス社製中波長赤外線ヒーター100KW/m2で基材とのGAPを20mmの条件にて行った。熱風処理は、100℃の熱風処理を風速16m/secで行った。なお、乾燥は、第2インクの画像層PL2を触診しながら、第2インクの画像層PL2の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して行った。これにより、画像形成物No.6を作製した
【0350】
(F.2.7)実施例7
(第1インクの塗布工程)
第1インクの塗布部10においてロールコーター40から、第1インクとしてホワイトインク〔W2〕を塗布量13g/m2にて、基材Fの上に塗布した。
【0351】
(第1乾燥工程)
その後、第1乾燥部15において、乾燥装置41内で一種の第1インク(ホワイトインク〔W2〕)に対してマイクロ波処理を行い乾燥させベタ状の下地層UL1を形成した。乾燥装置としては、マイクロ波発生装置(ESG-2450S-2A 島田理化工業社製)を用いて、マイクロ波(発振周波数:2.45GHz、出力:100W)を照射することにより処理を行い乾燥させた。また、このとき60℃の熱風処理を風速16m/secで行った。なお、乾燥は、下地層UL1を触診しながら、当該下地層UL1の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して行った。
【0352】
(第2インクの塗布工程)
その後、第2インクの塗布部において、上記のホワイトインク〔W2〕によって形成された下地層UL1の上に、四つのインクジェットヘッド42から第2インクとしてイエローインク〔Y1〕、マゼンタインク〔M1〕、シアンインク〔C1〕及びブラックインク〔K2〕の四種のインクを塗布量13g/m2にて吐出して塗布した。
【0353】
(第2乾燥工程)
その後、第2乾燥部において、乾燥装置41内で四種の第2インクに対してマイクロ波処理を行い乾燥させ第2インクの画像層PL2を形成した。なお、マイクロ波の照射については第1乾燥部15における条件と同等の条件で行った。また、このとき100℃の熱風処理を風速16m/secで行った。なお、乾燥は、第2インクの画像層PL2を触診しながら、第2インクの画像層PL2の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して行った。これにより、画像形成物No.7を作製した。
【0354】
(F.2.8)比較例1
(第1インクの塗布工程)
第1インクの塗布部10においてインクジェットヘッド42から、第1インクとしてホワイトインク〔W1〕を塗布量13g/m2にて吐出して、基材Fの上に塗布した。
【0355】
(第1乾燥工程)
その後、第1乾燥部15において、乾燥装置41内で一種の第1インク(ホワイトインク〔W1〕)に対してマイクロ波処理を行わず、100℃の熱風処理を風速16m/secで行い下地層UL1を形成した。なお、乾燥は、下地層UL1を触診しながら、当該下地層UL1の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度の熱風処理を行った。
【0356】
(第2インクの塗布工程)
その後、第2インクの塗布部において、上記のホワイトインク〔W1〕によって形成された下地層UL1の上に、四つのインクジェットヘッド42から第2インクとしてイエローインク〔Y1〕、マゼンタインク〔M1〕、シアンインク〔C1〕及びブラックインク〔K1〕の四種のインクを塗布量13g/m2にて吐出して塗布した。
【0357】
(第2乾燥工程)
その後、第2乾燥部において、乾燥装置41内で四種の第2インクに対してマイクロ波処理を行い乾燥させ第2インクの画像層PL2を形成した。マイクロ波の照射についてはマイクロ波(発振周波数:2.45GHz、出力:100W)を照射することにより行った。また、このとき100℃の熱風処理を風速16m/secで行った。なお、乾燥は、第2インクの画像層PL2を触診しながら、第2インクの画像層PL2の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して処理を行った。これにより、画像形成物No.8を作製した。
【0358】
(F.2.9)比較例2
第1乾燥工程において、100℃の熱風処理を風速16m/secで行い、赤外線ヒーターによる処理(ヘレウス社製中波長赤外線ヒーター100KW/m2で基材とのGAPを20mmの条件)を行い、第2乾燥工程においてマイクロ波処理を行わず、その代わりに赤外線ヒーターによる処理(ヘレウス社製中波長赤外線ヒーター100KW/m2で基材とのGAPを20mmの条件)を行ったこと以外は比較例1と同様にして第2インクの画像層PL2を形成した。なお、第1乾燥工程及び第2乾燥工程におけるマイクロ波処理、熱風処理、赤外線ヒーターによる処理に関しては、下地層UL1や第2インクの画像層PL2を触診しながら、下地層UL1や第2インクの画像層PL2の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して処理を行った。これにより、画像形成物No.9を作製した。
【0359】
(F.3)実施例1~7及び比較例1及び2のまとめ
実施例1~7及び比較例1及び2の各工程におけるインクの種類及び乾燥処理の方法は表Vにまとめた。
【0360】
G.画像形成方法2による実施例及び比較例
(G.1)画像形成準備
(実施例8~11、13、比較例3及び4の画像形成準備)
図4のようなシングルパスの記録装置の構成にて画像形成準備を行った。基材の搬送方向は、
図4のD方向とし、搬送速度50m/minに設定し、25℃・50%RHの環境下にて行い、記録媒体Fとしてポリプロピレン(PP)基材(「#20 FOR」フタムラ化学社製)を用いた。第1インクと第2インクの全面が触診で変形しない程度に乾燥するような乾燥距離の乾燥機を設置した。第1乾燥部と第2乾燥部について、それぞれ乾燥方式を表VIの乾燥を行うことができるように変更した。
上記と同様に修正下さい
【0361】
第2インクの塗布部20には、前述の独立駆動型インクジェットヘッド4個を設けた。第1インクの塗布部10には、前述の独立駆動型インクジェットヘッド1個を準備した。なお、基材搬送系が蛇行せずに直線状であったと仮定し、印字部の長さは1000mmとし、各工程の間の距離は500mmとした。
【0362】
(実施例12の画像形成準備)
図3のような記録装置の構成にて画像形成準備を行った。基材の搬送方向は、
図3のD方向とし、搬送速度50m/minに設定し、25℃・50%RHの環境下にて行い、記録媒体Fとしてポリプロピレン(PP)基材(「#20 FOR」フタムラ化学社製)を用いた。第1インクと第2インクの全面が触診で変形しない程度に乾燥するような乾燥距離の乾燥機を設置した。第1乾燥部と第2乾燥部について、それぞれ乾燥方式を表VIの乾燥を行うことができるように変更した。
【0363】
第2インクの塗布部20には、前述の独立駆動型インクジェットヘッド4個を設けた。第1インクの塗布部10には、ロールコーター40を設けた。なお、基材搬送系が蛇行せずに直線状であったと仮定し、印字部の長さは1000mmとし、各工程の間の距離は500mmとした。
【0364】
(G.2)実施例及び比較例の画像形成
(G.2.1)実施例8
(第2インクの塗布工程)
第2インクの塗布部20において、四つのインクジェットヘッド42から第2インクとしてイエローインク〔Y1〕、マゼンタインク〔M1〕、シアンインク〔C1〕及びブラックインク〔K1〕の四種のインクを吐出して塗布した。インクジェットヘッド42から、第2インクとしてホワイトインク〔W1〕を塗布量13g/m2にて吐出して、基材Fの上に塗布した。
【0365】
(第1乾燥工程)
その後、第1乾燥部15において、乾燥装置41内で四種の第2インクに対してマイクロ波処理を行い乾燥させ第2インクの画像層PL2を形成した。乾燥装置としては、マイクロ波発生装置(ESG-2450S-2A 島田理化工業社製)を用いて、マイクロ波(発振周波数:2.45GHz、出力:100W)を照射することにより処理を行い乾燥させた。なお、乾燥は、第2インクの画像層PL2を触診しながら、第2インクの画像層PL2の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して行った。
【0366】
(第1インクの塗布工程)
その後、第1インクの塗布部10においてインクジェットヘッド42から、第1インクとしてホワイトインク〔W1〕を塗布量13g/m2にて第2インクの画像層PL2の上に吐出し、塗布した。
【0367】
(第2乾燥工程)
その後、第2乾燥部において、乾燥装置41内で一種の第1インク(ホワイトインク〔W1〕)に対してマイクロ波処理を行い乾燥させ第1インクの被覆層OL1を形成した。マイクロ波の照射については第1乾燥部15における条件と同等の条件で行った。なお、乾燥は、第1インクの被覆層OL1を触診しながら、第1インクの被覆層OL1の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して行った。これにより、画像形成物No.1を作製した。
【0368】
(G.2.2)実施例9
第1乾燥工程において、乾燥装置41内で第1インクに対してマイクロ波処理を行うとともに60℃の熱風処理を風速16m/secで行ったこと以外は実施例8と同様にして第2インクの画像層PL2の上に第1インクの被覆層OL1を形成した。なお、第1乾燥工程及び第2乾燥工程における乾燥は、第2インクの画像層PL2及び第1インクの被覆層OL1を触診しながら、第2インクの画像層PL2及び第1インクの被覆層OL1の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して行った。これにより、画像形成物No.11を作製した。
【0369】
(G.2.3)実施例10
第2乾燥工程において、乾燥装置41内で第1インクに対してマイクロ波処理を行うとともに100℃の熱風処理を風速16m/secで行ったこと以外は実施例9と同様にして第2インクの画像層PL2の上に第1インクの被覆層OL1を形成した。なお、第1乾燥工程及び第2乾燥工程における乾燥は、第2インクの画像層PL2及び第1インクの被覆層OL1を触診しながら、第2インクの画像層PL2及び第1インクの被覆層OL1の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して行った。これにより、画像形成物No.12を作製した。
【0370】
(G.2.4)実施例11
第2インクの塗布工程において、第2インクとして吐出した四種のインクの中からブラックインク〔K1〕のみをブラックインク〔K2〕と入れ替えたこと以外は実施例10と同様にして第2インクの画像層PL2の上に第1インクの被覆層OL1を形成した。なお、第1乾燥工程及び第2乾燥工程における乾燥は、第2インクの画像層PL2及び第1インクの被覆層OL1を触診しながら、第2インクの画像層PL2及び第1インクの被覆層OL1の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して行った。これにより、画像形成物No.13を作製した。
【0371】
(G.2.5)実施例12
第1インクの塗布工程において、第1インクの塗布方式を
図3のようなロールコーター方式としたこと以外は、実施例11と同様にして第2インクの画像層P
L2の上に第1インクの被覆層O
L1を形成した。なお、第1乾燥工程及び第2乾燥工程における乾燥は、第2インクの画像層P
L2及び第1インクの被覆層O
L1を触診しながら、第2インクの画像層P
L2及び第1インクの被覆層O
L1の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して行った。これにより、画像形成物No.14を作製した。
【0372】
(G.2.6)実施例13
第2インクの塗布工程及び第1乾燥工程においては、実施例11と同様にして第2インクの画像層PL2を形成した。
【0373】
(第1インクの塗布工程)
その後、第1インクの塗布部10においてインクジェットヘッド42から、第1インクとしてクリアインク〔T1〕を塗布量13g/m2にて第2インクの画像層PL2の上に吐出し、塗布した。
【0374】
(第2乾燥工程)
その後、第2乾燥部において、乾燥装置41内で一種の第1インクであるクリアインク〔T1〕に対してマイクロ波処理を行うとともに100℃の熱風処理を風速16m/secで行い乾燥させ第1インクの被覆層OL1を形成した。なお、乾燥は、第1インクの被覆層OL1を触診しながら、第1インクの被覆層OL1の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して行った。これにより、画像形成物NO.15を作製した。
【0375】
(G.2.7)比較例3
(第2インクの塗布工程)
第2インクの塗布部20において、四つのインクジェットヘッド42から第2インクとしてイエローインク〔Y1〕、マゼンタインク〔M1〕、シアンインク〔C1〕及びブラックインク〔K1〕の四種のインクを塗布量13g/m2にて吐出して、基材Fの上に塗布した。
【0376】
(第1乾燥工程)
その後、第1乾燥部15において、乾燥装置41内で四種の第2インクに対してマイクロ波処理を行わず、100℃の熱風処理を風速16m/secで行うことで第2インクの画像層PL2を形成した。なお、乾燥は、第2インクの画像層PL2を触診しながら、第2インクの画像層PL2の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して行った。
【0377】
(第1インクの塗布工程)
この第1インクの塗布工程においても、あえて四つのインクジェットヘッド42から第2インクとしてイエローインク〔Y1〕、マゼンタインク〔M1〕、シアンインク〔C1〕及びブラックインク〔K2〕の四種のインクを塗布量13g/m2にて吐出して、第2インクの画像層PL2の上に塗布した。
【0378】
(第2乾燥工程)
その後、第2乾燥部において、乾燥装置41内で一種の第2インクであるイエローインク〔Y1〕、マゼンタインク〔M1〕、シアンインク〔C1〕及びブラックインク〔K2〕の四種のインクに対してマイクロ波処理を行うとともに100℃の熱風処理を風速16m/secで行うことで第2インクの画像層PL2をさらに形成した。なお、乾燥は、第2インクの画像層PL2を触診しながら、第2インクの画像層PL2の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して行った。これにより画像形成物No.16を作製した。
【0379】
(G.2.8)比較例4
第2インクの塗布工程においては、比較例3と同様にして基材Fの上に第2インクを塗布した。
【0380】
(第1乾燥工程)
その後、第1乾燥部15において、乾燥装置41内で四種の第2インクに対してマイクロ波処理も熱風処理も行わず、赤外線ヒーターによる処理(ヘレウス社製中波長赤外線ヒーター100KW/m2で基材とのGAPを20mmの条件)を行うことにより第2インクの画像層PL2を形成した。なお、乾燥は、第2インクの画像層PL2を触診しながら、第2インクの画像層PL2の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して行った。
【0381】
(第1インクの塗布工程)
この第1インクの塗布工程においても、あえて四つのインクジェットヘッド42から第2インクとしてイエローインク〔Y1〕、マゼンタインク〔M1〕、シアンインク〔C1〕及びブラックインク〔K1〕の四種のインクを塗布量13g/m2にて吐出して、第2インクの画像層PL2の上に塗布した。
【0382】
(第2乾燥工程)
その後、第2乾燥部において、乾燥装置41内で第2インクであるイエローインク〔Y1〕、マゼンタインク〔M1〕、シアンインク〔C1〕及びブラックインク〔K1〕の四種のインクに対してマイクロ波処理は行わず、赤外線ヒーターによる処理とを行うとともに100℃の熱風処理を風速16m/secで行うことで第2インクの画像層PL2をさらに形成した。なお、乾燥は、第2インクの画像層PL2を触診しながら、第2インクの画像層PL2の乾燥状況に合わせて変形色移りしない程度にて適宜調整して行った。これにより画像形成物No.17を作製した。
【0383】
(G.3)実施例8~13及び比較例3及び4のまとめ
実施例8~13及び比較例3及び4の各工程におけるインクの種類及び乾燥処理の方法は表VIにまとめた。
【0384】
H.評価
(H.1)位置ズレ(位置合わせ性)
(評価方法)
各画像形成物の作製時に、基材Fとして、基材幅500mmの基材を使用し、第1乾燥工程後の基材幅を金型定規で測定し乾燥後の基材幅を求め、以下の式で基材縮みを算出した。
【0385】
式 基材縮み[%]=(基材幅―乾燥後の基材幅)/基材幅×100
【0386】
例えば上記の基材幅500mmの基材Fが、第1乾燥工程後に基材幅498mmと測定された場合、上記の式にこれを代入すると、(500-498)/500=0.4%となる。
【0387】
そして、算出された基材縮み[%]を下記の評価基準にて評価し、評価基準としてはAとDのみで表し、結果がAである場合を実用性あり、Dである場合を実用上問題があるとした。評価結果は表V及び表VIに示す。
【0388】
(評価基準)
A 画像形成工程において、基材縮みが0.5%以下で、画像形成部での画像調整が不要である。
D 画像形成工程において、基材縮みが0.5%を超えており、画像形成部での画像調整が必要である。
【0389】
(H.2)基材ダメージ
(評価方法)
基材ダメージ評価用画像としては、乾燥性評価用画像と同様のものを用いた。サンプルを目視で確認し基材変形や縮みがあるかどうかを下記の評価基準にて評価し、結果がA及びBである場合を実用性あり、Cである場合を実用上問題があるとした。評価結果は表V及び表VIに示す。
【0390】
(評価基準)
A 基材ダメージなし。テーブルに平置きした際に波打ちがない。
B どちらか一方の色で基材がやや変形している。テーブルに平置きした際にやや波打っている(波打ち量が0mmを超えて、2mm以下である。)。
C どちらか一方の色で基材が変形し、テーブルに平置きした際に波打っているが実用上問題ない(波打ち量が2mmを超えて、5mm以下である。)。
D どちらか一方の色で基材が大きく変形している。テーブルに平置きした際に波打ちが大きい(波打ち量が5mmを超えている。)。
【0391】
(H.3)装置熱制御負荷
(評価方法)
第2のインクジェットヘッドが加温状態、基材の加温状態を確認し、装置で対策が必要かどうかを判断した。ヘッド加温されない、ヘッドが30℃程度まで加温される。ヘッドが35℃程度まで加温される。それ以上加温されている。基材温度が印字時に常温である。30℃以下である、35℃以下である35℃を超える等に応じ対策を施した。
【0392】
下記の評価基準にて評価し、結果がA、B及びCである場合を実用性あり、Dである場合を実用上問題があるとした。評価結果は表V及び表VIに示す。なお、下記の評価基準における「軽い断熱制御」とは、ヘッド温度が30~35℃の範囲内くらいの場合に、ヘッド温度が上昇しないようにそれに応じた熱伝導率の壁を設けることをいう。「通常の断熱制御」とは軽い断熱制御では足りず、例えばヘッド温度が35℃以上になってしまう場合にヘッド温度が上昇しないような熱伝導率が低い断熱材当で壁を設けたりすることをいう。「冷却制御」とは、例えば基材が加熱されているような場合に基材温度を冷却するチラーロールを接触させる等の設定を行うことをいう。
【0393】
(評価基準)
A 特に負荷なし。
B 画像形成工程に軽い断熱制御が必要である。
C 画像形成工程に通常の断熱制御が必要である。
D 画像形成工程に通常の断熱制御以外にも冷却制御の設備が必要である。
【0394】
(H.4)装置サイズ
(評価方法)
下地層の乾燥ゾーンとその後のカラー印刷ゾーンを物理的に距離を離したり、下地層の乾燥ゾーン通過後に加熱された基材を冷やす機構を設ける等の措置が施されていなければ装置サイズが小さく、実用性が高いと判断し、下記の評価基準にて評価し、結果がA、B及びCである場合を実用性あり、Dである場合を実用上問題があるとした。評価結果は表V及び表VIに示す。
【0395】
(評価基準)
A サイズが小さい。装置全体の長さが、7m以下である。
B サイズが概ね小さい。装置全体の長さが、7mを超えて10m以下である。
C サイズが従来と同程度。装置全体の長さが、10mを超えて20m以下である。
D サイズが大きい。20mを超える。
【0396】
I.まとめ
上記の各評価項目における評価の結果は表V及び表VIのとおりである。
【0397】
【0398】
【0399】
上記表V及び表VIからわかるように、実施例の評価には、D(実用上問題あり)の評価がなく、実施例の方が比較例より総合的に優れ、インク吐出性に不具合なくインクの位置合わせが容易であり、かつ装置が大型化することのないことが分かる。