(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157651
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】裏当て金取付け治具及び裏当て金接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 37/06 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
B23K37/06 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072122
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】323007135
【氏名又は名称】Little Power株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘幸
(57)【要約】
【課題】作業者の負担を軽減し、高い溶接品質を得ることが可能な裏当て金取付け治具、及び裏当て金接合方法を実現すること。
【解決手段】裏当て金取付け治具1は、完全溶け込み溶接によって接合する二つの接合対象母材(ダイアフラムプレート11、フランジプレート12)の間の開先部15に装着することが可能であり、頂角θ2が開先角度θ1と同じ四角柱であって、開先部15に装着したときに、裏当て金17を臨む頂部底面27に近い位置に長さ方向にわたって形成される孔35を有する治具本体18と、孔35に挿入される棒磁石26と、を有し、頂部底面27の幅L2は、開先部15のルート間隔L1と同じか、大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
完全溶け込み溶接によって接合する二つの接合対象母材の間に形成される開先部に装着することが可能であり、頂角が開先角度と同じ四角柱であって、前記開先部に装着したときに、裏当て金を臨む頂部底面に近い位置に長さ方向にわたって形成される孔を有する治具本体と、
前記孔に挿入される棒磁石と、を有し、
前記頂部底面の幅は、前記開先部のルート間隔と同じか、大きい、
ことを特徴とする裏当て金取付け治具。
【請求項2】
請求項1に記載の裏当て金取付け治具において、
前記治具本体は、非磁性金属で形成されている、
ことを特徴とする裏当て金取付け治具。
【請求項3】
請求項1に記載の裏当て金取付け治具において、
前記治具本体は、強磁性金属で形成されている、
ことを特徴とする裏当て金取付け治具。
【請求項4】
請求項1に記載の裏当て金取付け治具において、
前記棒磁石は、長さ方向に磁極を有するネオジム磁石である、
ことを特徴とする裏当て金取付け治具。
【請求項5】
請求項1に記載の裏当て金取付け治具において、
前記治具本体は、前記治具本体の長さ方向の一方の端面に開口する溝を有し、
前記溝は、前記頂部底面に平行な横溝と、前記横溝から前記頂部底面に対向する上部底面に貫通する縦溝とから構成され、前記一方の端面から前記治具本体の長さ方向に延在されている、
ことを特徴とする裏当て金取付け治具。
【請求項6】
請求項1に記載の裏当て金取付け治具において、
前記孔の一方の端部には、強磁性金属で形成される磁石固定部材が挿着されている、
ことを特徴とする裏当て金取付け治具。
【請求項7】
請求項6に記載の裏当て金取付け治具において、
前記孔の他方の端部には、蓋部材が装着されている、
ことを特徴とする裏当て金取付け治具。
【請求項8】
請求項1に記載の裏当て金取付け治具において、
前記治具本体の前記頂部底面と、前記頂部底面に平行な上部底面を挟んで対向する長さ方向の端面のうちの少なくとも一方に非磁性材料で形成される取手が配置されている、
ことを特徴とする裏当て金取付け治具。
【請求項9】
完全溶け込み溶接により接合する二つの接合対象母材をルートギャップを有して対向させ、開先部に裏当て金取付け治具を装着する工程と、
前記開先部の底部に裏当て金を配置し、前記裏当て金取付け治具に磁気吸着させる工程と、
前記裏当て金を所定位置に調整する工程と、
前記裏当て金を前記接合対象母材に組立て溶接する工程と、
前記組立て溶接する工程の後に、前記裏当て金取付け治具を取り外す工程と、
前記裏当て金を前記接合対象母材に溶接接合する工程と、を含む、
ことを特徴とする裏当て金接合方法。
【請求項10】
請求項9に記載の裏当て金接合方法において、
前記裏当て金を前記所定位置に調整する工程と、前記裏当て金を前記接合対象母材に組立溶接する工程との間に、一方の前記接合対象母材と、前記裏当て金の反り発生箇所とをバイスグリッププライヤーで挟み込み、前記裏当て金を押圧固定する工程を有する、
ことを特徴とする裏当て金接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏当て金取り付け治具及び裏当て金接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築鉄骨の組立において、例えば、鉄骨柱にH形梁の梁端部を溶接接合する場合には、H形梁のフランジプレートに形成された開先を鉄骨柱の垂直側面に所定のルート間隔で向かい合わせ、開先部と垂直側面との間を完全溶け込み溶接によって接合する。あるいは、向かい合う二つのH形梁にフランジプレートの一方又は両方に開先を形成して完全溶け込み溶接によって接合することもある。完全溶込み溶接を健全に行うためには、裏当て金が必要となる。
【0003】
柱梁接合において、鉄骨柱のダイアフラムプレートに、H形梁のフランジプレートに形成された開先を介して完全溶け込み溶接によって接合する工法がある。完全溶け込み溶接では、まず、フランジプレートの開先の底部に組立溶接によって裏当て金を固定し、その後、開先部において接合対象母材であるダイアフラムプレートとフランジプレートとを多層溶接によって接合する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、開先が形成されたフランジプレートなどの接合対象母材に裏当て金を固定するための「裏当て金取付け工具」がある。裏当て金は、いわゆるシャコ万力のような「裏当て金取付け工具」によって母材に支持固定された後、仮付け溶接によって接合対象母材に接合される(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-155511号公報
【特許文献2】実開平5-63765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の柱梁接合方法においては、まず、裏当て金をフランジプレートに組立て溶接(仮付け溶接)によって接合する。この接合作業は、例えば、左手で裏当て金とフランジプレートを強く挟み込んだ状態で、右手で溶接トーチを持って溶接することになる。したがって、溶接接合が終了するまで裏当て金を手で押さえていることになり、溶接に伴う裏当て金の温度上昇があっても手で裏当て金を押さえ続けなければならない。また、溶接時の熱気を手で遮ることもできない。さらに、溶接対象母材の形状、組み合わせが様々となることから窮屈な姿勢での作業となることが多く、作業者にとっては大きな負担となっている。また、この溶接作業の間は、手で裏当て金を押さえているだけのために、裏当て金とフランジプレートとの間に隙間ができたり、裏当て金の位置がずれたりして、接合品質の確保が困難になるという課題がある。
【0007】
また、特許文献2の「裏当て金取付け工具」を使用する裏当て金の支持固定方法によれば、裏当て金をしっかりフランジプレートに固定することが可能となる。しかし、「裏当て金取付け工具」の皿部(自在金具)が開先部の斜面内に外れる虞があり、開先角度が同じ場合、接合対象母材が厚くなれば「裏当て金取付け工具」が開先部の斜面内に外れやすくなる。また、「裏当て金取付け工具」の使用可能箇所が限定されることあることや、「裏当て金取付け工具」を使用している状態で裏当て金の溶接を行うことになるため、「裏当て金取付け工具」自体が溶接作業の妨げとなるという課題もある。
【0008】
そこで、本発明は、このような課題の少なくとも一つを解決するためになされたものであり、作業者の負担を軽減し、高い溶接品質を得ることが可能な裏当て金取付け治具、及び裏当て金接合方法を実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]本発明の裏当て金取付け治具は、完全溶け込み溶接によって接合する二つの接合対象母材の間に形成される開先部に装着することが可能であり、頂角が開先角度と同じ四角柱であって、前記開先部に装着したときに、裏当て金を臨む頂部底面に近い位置に長さ方向にわたって形成される孔を有する治具本体と、前記孔に挿入される棒磁石と、を有し、
前記頂部底面の幅は、前記開先部のルート間隔と同じか、大きい、ことを特徴とする。接合対象母材としては、例えば、鉄骨柱のダイアフラムプレート、H形梁のフランジプレートなどである。
【0010】
[2]本発明の裏当て金取付け治具においては、前記治具本体は、非磁性金属で形成されていることが好ましい。
【0011】
[3]本発明の裏当て金取付け治具においては、前記治具本体は、強磁性金属で形成されていることが好ましい。
【0012】
[4]本発明の裏当て金取付け治具においては、前記棒磁石は、長さ方向に磁極を有するネオジム磁石であることが好ましい。
【0013】
[5]本発明の裏当て金取付け治具においては、前記治具本体は、前記治具本体の長さ方向の一方の端面に開口する溝を有し、前記溝は、前記頂部底面に平行な横溝と、前記横溝から前記頂部底面に対向する上部底面に貫通する縦溝とから構成され、前記一方の端面から前記治具本体の長さ方向に延在されていることが好ましい。
【0014】
[6]本発明の裏当て金取付け治具においては、
前記孔の一方の端部には、強磁性金属で形成される磁石固定部材が挿着されていることが好ましい。
【0015】
[7]本発明の裏当て金取付け治具においては、前記孔の他方の端部には、蓋部材が装着されていることが好ましい。
【0016】
[8]本発明の裏当て金取付け治具においては、前記治具本体の前記頂部底面と、前記頂部底面に平行な上部底面を挟んで対向する長さ方向の端面のうちの少なくとも一方に非磁性材料で形成される取手が配置されていることが好ましい。
【0017】
[9]本発明の裏当て金接合方法は、完全溶け込み溶接により接合する二つの接合対象母材をルートギャップを有して対向させ、開先部に裏当て金取付け治具を装着する工程と、前記開先部の底部に裏当て金を配置し、前記裏当て金取付け治具に磁気吸着させる工程と、前記裏当て金を所定位置に調整する工程と、前記裏当て金を前記接合対象母材に組立て溶接する工程と、前記組立て溶接する工程の後に、前記裏当て金取付け治具を取り外す工程と、前記裏当て金を前記接合対象母材に溶接接合する工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0018】
[10]本発明の裏当て金接合方法においては、前記裏当て金を前記所定位置に調整する工程と、前記裏当て金を前記接合対象母材に組立溶接する工程との間に、一方の前記接合対象母材と、前記裏当て金の反り発生箇所とをバイスグリッププライヤーで挟み込み、前記裏当て金を押圧固定する工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、完全溶け込み溶接により二つの接合対象母材を接合する際に、棒磁石を備える裏当て金取付け治具を開先部に装着することによって、接合対象母材に裏当て金を磁気吸着により密着させる。このことによって、作業者は、裏当て金を手で押さえ続けなくても、例えば、トーチなどを他方の手で持って、接合対象母材に裏当て金を溶接接合することができる。また、溶接作業に伴う裏当て金の温度上昇があっても手で裏当て金を押さえなくてもよく、空いている手で溶接作業による熱気を遮ることができる。また、様々な溶接対象母材の形状、組み合わせにおいて窮屈な姿勢で接合しなければならない場合がある。しかし、裏当て金は、接合対象母材に磁気吸着されているために、溶接作業を楽にすることが可能となる。
【0020】
また、裏当て金の頂部底面の幅は、開先部のルート間隔よりも大きくしているため、裏当て金取付け治具の頂部底面が開先部から裏当て金側に突出することがなく、接合対象母材に裏当て金を密着させることができ、位置ずれを抑えることが可能であるから、特に重要な初層の溶接欠陥を防止することができる。
【0021】
以上説明した裏当て金取付け治具を使用することによって、作業者の負担を軽減し、高い溶接品質を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】裏当て金取付け治具1の1例を示す図である。
【
図2】角型鋼管の鉄骨柱10と、H形梁20との溶接接合の例を示す図である。
【
図3】定盤40を使用して溶接作業をする例を示す図である。
【
図4】角型鋼管の鉄骨柱10の内側に内ダイアフラムプレート41を溶接接合する例を示す縦断面図である。
【
図5】H形梁20にリブプレート42を溶接接合する状況を示す図である。
【
図6】建方現場における大型の鉄骨柱10とH形梁20との溶接接合を示す図である。
【
図7】建方現場において、H形梁20に複数のフランジプレートを溶接接合する例を示す図である。
【
図8】変形例1に係る裏当て金取付け治具1を示す図である。
【
図9】ダイアフラムプレート11と、フランジプレート12とを溶接接合する例の裏当て金接合方法を示す工程フロー図である。
【
図10】裏当て金接合方法の主たる工程を示す図である。
【
図11】裏当て金取付け治具2の1例を示す斜視図である。
【
図12】バイスグリッププライヤー55の1例を示す概略構成図である。
【
図13】第2の実施の形態に係る裏当て金接合方法の主たる工程フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態に係る裏当て金取付け治具1,2、及び裏当て金接合方法について図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す各図は、縮尺や形状が実際とは異なる模式図である。
【0024】
(第1の実施の形態)
(裏当て金の構成)
図1は、裏当て金取付け治具1の1例を示す図である。
図1(a)は、概観斜視図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A切断線で切断した断面図、
図1(c)は、
図1(a)のB-B切断線で切断した断面図である。なお、
図1(b)は、接合対象母材の開先部15と裏当て金取付け治具1との関係を示し、二つの接合対象母材の一方が建築用の鉄骨柱10のダイアフラムプレート11、他方がH形梁20のフランジプレート12の場合を例示している。ダイアフラムプレート11は、いわゆる「通しダイアフラムプレート」である。
【0025】
まず、
図1(b)を参照して、接合対象部材の構成例を説明する。ダイアフラムプレート11の接合面13とフランジプレート12に設けられた開先斜面14とで挟まれた空間を開先部15とし、接合面13とフランジプレート12の開先斜面14とがなす角度を開先角度θ1とする。なお、開先角度θ1は、35°又は45℃とすることが一般的である。開先部15は、フランジプレート12の全幅に亘って形成されている。開先部15は、一般に開先ということがある。開先部15において、ダイアフラムプレート11の接合面13と開先斜面14の先端との間をルートギャップ16といい、ルートギャップ16の幅をルート間隔L1で表す。
【0026】
開先部15と治具本体18との関係について
図1(b)を参照して説明する。治具本体18の頂部底面27と裏当て金17の上面17aは、密着することが最も好ましい。裏当て金17は、フランジプレート12の裏面12aと密着させる必要がある。そこで、治具本体18の頂部底面27の幅L2は、ルート間隔L1と同じか、大きくする。このようにすることにより、治具本体18の頂部底面27と裏当て金17との隙間は、「0」又は製造上で可能な限り小さくし、例えば、0.1mm程度とすることが好ましい。
【0027】
なお、
図1で示す開先部15は、ダイアフラムプレート11の接合面13とフランジプレート12の開先斜面14とで構成されており、通称レ形開先という。図示は省略するが、開先部15が、対向する二つの接合対象母材の両方に開先斜面14を有する場合もあり、この開先部15をV形開先という。V形開先に対応する治具本体18の端面形状はV字形となる。端面形状以外の構成は、
図1に示す裏当て金取付け治具1と同じ構成にすることができる。
【0028】
図1(a)及び
図1(c)に示すように、裏当て金取付け治具1は、治具本体18、治具本体18に取り付けられる略T字形の取手25、及び治具本体18に内挿される棒磁石26で構成されている。治具本体18は、開先部15に裏当て金取付け治具1を装着したときに裏当て金17に対向する頂部底面27、頂部底面27に平行な上部底面28、開先斜面14に沿う斜面29、ダイアフラムプレート11の接合面13に沿う側面30、及び長さ方向両端の互いに平行な端面31,32で構成される四角柱である。なお、裏当て金取付け治具1の形状は、斜面29と側面30とがなす角度(頂角θ2と規定する)を所定角度にすれば、四角柱に限らず変形させる形状も含まれる。治具本体18は、アルミニウムやSUS300系などの非磁性金属、又は、SUS400系などの強磁性金属で形成されており、裏当て金取付け治具1の使用場所及び使用方法によって使い分けられる。
【0029】
取手25は、裏当て金取付け治具1を開先部15に装着したり、開先部15から取り外したりするために手で握れるようなT字形の把持部25aを有し、上部底面28にネジ部25bによって固定されている(
図1(c)参照)。なお、
図1(c)に示すように、取手25は、治具本体18の端面31に取り付けるよう構成することができ、上部底面28及び端面31の両方に設けるようにしてもよい。また、端面32に取り付ける構造にすることも可能である。取手25は、熱伝導率が低く、機械的強度が高い非磁性材料の樹脂製とすることが好ましく、治具本体18に対して着脱可能とすることが好ましい。なお、把持部25aは、上部底面28の範囲内、端面31又は端面32においては、斜面29と側面30との間に納まるように取り付けられる。
【0030】
治具本体18において、頂角θ2は、開先角度θ1と同じにする。但し、頂角θ2は、裏当て金取付け治具1を開先部15に装脱することが可能であり、かつ、開先部15の中で、がたつきを小さく抑える範囲で微調整される。頂部底面27が、フランジプレート12の裏面12aから突出すると、裏当て金17とフランジプレート12との間に隙間ができる。すると、この隙間があることによって、ダイアフラムプレート11とフランジプレート12との完全溶け込み溶接に際に、溶接欠陥がでる虞がある。特に、開先部15における溶接初層の品質は、以降の多層溶接の品質を確保する上で重要である。
【0031】
治具本体18に裏当て金17を磁気吸着させるときには、頂部底面27と裏当て金17とが密着することが最もよい。但し、開先斜面14の製造上のばらつきを考慮すると、頂部底面27の幅L1は、ルート間隔L1と同じか、僅かに大きくしておくことが好ましい。なお、以降、磁気吸着を単に吸着と記載することがある。次いで、棒磁石26について説明する。
【0032】
図1(c)に示すように、棒磁石26は、治具本体18の頂部底面27側の製造上可能な限り近い位置の設けられた孔35内に挿入されている。棒磁石26は、特に限定しないが、機械的強度に優れ、磁束密度が高いネオジム磁石が適している。但し、ネオジム磁石は酸化しやすいため、表面にニッケルメッキや樹脂コーティングが施される。孔35は、棒磁石26が挿入しやすく、かつ取り出しやすい内径を有している。ここでは、棒磁石26と孔35とのクリアランスを0.1mmとしている。孔35の端面32側には、磁石固定部材としての磁石固定ピン36が挿着されている。磁石固定ピン36は、強磁性金属であって、孔35内で棒磁石26を磁気吸着する。磁石固定ピン36に代えてイモネジなどを螺着する構成でもよい。孔35の他方側の端面31には、有鍔の蓋部材37が挿着されている。蓋部材37の材質は特に限定されないが、孔35から棒磁石26を抜き出しやすくしたり、着脱作業を楽にしたりするために非磁性の樹脂製とすることが好ましい。
【0033】
棒磁石26は、孔35内で磁石固定ピン36に磁気吸着されていることから、通常の作業で抜け出すことはない。しかし、孔35の内部に鉄粉や砂鉄などが入り込み、棒磁石26の挿入、取り出しができなくなることを抑えるために蓋部材37を設けている。また、棒磁石26を治具本体18に挿入したり、治具本体18から抜き出したりする際に、蓋部材37を取り外せば、挿脱を容易に行うことができる。また、磁石固定ピン36に代えてイモネジなどを使用すれば、イモネジを取り外す際に、棒磁石26がイモネジに磁気吸着された状態で抜き出すことが可能となる。
【0034】
ネオジム磁石は磁束密度が高く、一般に、磁力の強さは、1gのネオジム磁石で1kgの磁性体を持ち上げることができるというデータがある。例として棒磁石26の直径を6mm、長さを100mm、比重を7.4g/cm3とすると、約6.7gとなる。すると、この棒磁石26は、約6.7kgの磁性体を持ち上げる吸着力を有する。一般に使用される裏当て金17の材質を建築用鋼SN490Bとすると、裏当て金17のサイズを厚み9mm、幅25mm、長さ300mm、比重7.85とすると、裏当て金17の重さは、約530gであるから、棒磁石26は、十分な吸着力を有しているといえる。
【0035】
ところで、建築材としての鉄骨柱10及びH形梁20(
図2参照)は、SN490系などの建築用鋼製である。SN490系は、強磁性体であるから、裏当て金取付け治具1を開先部15に装着すると、棒磁石26の周囲の近い位置では、ダイアフラムプレート11及びフランジプレート12は磁化して裏当て金17を磁気吸着することになる。例えば、治具本体18が非磁性金属に場合には、特に棒磁石26の周囲において、磁力が大きくなり、棒磁石26から離れるに従い磁力が弱くなる。棒磁石26との距離が近い裏当て金17は強く磁気吸着することができ、棒磁石26から離れている上部底面28付近では、磁力が弱くなるため、裏当て金取付け治具1の開先部15への装着、装着した状態でのスライド移動及び開先部15からの取り外しなどがしやすくなる。
【0036】
治具本体18が強磁性磁石の場合では、治具本体18自身も磁石の一部となるため、治具本体18は、いずれの位置においても高い磁気吸着力を有し、裏当て金17を強く吸着する。開先部15付近では、強磁性金属であるダイアフラムプレート11及びフランジプレート12も磁化し、吸着力を有することにから裏当て金17を強く吸着することになる。そのため、開先部15が、フランジプレート12の裏面12a側にある場合や、縦方向にある場合などにおいて、裏当て金取付け治具1の吸着位置及び姿勢を維持することが可能となる。
【0037】
(適用例)
続いて、裏当て金取付け治具1の適用例のいくつかをあげ説明する。
【0038】
図2は、角型鋼管の鉄骨柱10と、H形梁20との溶接接合の例を示す図である。なお、取手25の図示は省略している。
図2(a)は、側面図、
図2(b)は、上方側から見た斜視図である。この例は、鉄骨柱10及びH形梁20の上ダイアフラムプレート11Aと上フランジプレート12A、下ダイアフラムプレート11Bと下フランジプレート12Bとを溶接接合するものである。上フランジプレート12Aと下フランジプレート12Bとの間は、ウェブプレート19で接続されている。
【0039】
上ダイアフラムプレート11A側においては、裏当て金17は、上フランジプレート12Aの図示下側に配置され、図示上側の開先部15Aに裏当て金取付け治具1を装着している。下ダイアフラムプレート11B側においては、下フランジプレート12Bの図示上側に裏当て金17が配置され、図示下側の開先部15Bに裏当て金取付け治具1を装着している。図に示す矢印が組立て溶接位置でW0であって、ここでは、裏当て金取付け治具1を装着した状態で、組立て溶接(仮付け溶接ということがある)を行い、裏当て金取付け治具1を開先部15A又は開先部15Bから取外して裏当て金17の本溶接を行うことになる。
【0040】
1例として、上フランジプレート12Aの幅が300mm、裏当て金17の長さを300mmとし、裏当て金取付け治具1の長さを100mmとした場合、裏当て金取付け治具1が1個では、裏当て金17の長さ方向の全体をバランスよく吸着支持することが難しいことがある。そこで、
図2(b)に示すように、開先部15に裏当て金取付け治具1を2個配置する。すなわち、上フランジプレート12Aの幅に対応して裏当て金取付け治具1の数を適宜選択することが好ましい。図示は省略するが、下フランジプレート12B側についても上フランジプレート12A側と同じ考え方で複数の裏当て金取付け治具1を使用する。なお、
図2(b)は、裏当て金17が長い場合を説明するための1例であって、H形梁20に限らない。
【0041】
ところで、裏当て金取付け治具1は、上フランジプレート12Aの幅と同じ長さにすることが可能である。しかし、上フランジプレート12Aの幅に合わせた裏当て金取付け治具1を用意することは非効率である。例えば、上フランジプレート12Aの幅とほぼ同じ長さの裏当て金取付け治具1を使用する場合には、磁気吸引力(吸着力)が高くなりすぎ、開先部15Aに装着することも、取外すことも困難になる。また、棒磁石26は、ネオジム磁石であるから、例えば、直径6mm、長さ300mmというものを製造することは困難であり、取り扱いにくいものになる。
【0042】
図3は、定盤40を使用して溶接作業をする例を示す図である。なお、取手25の図示は省略している。
図3(a)は、裏当て金取付け治具1を定盤40上に乗せた状況を示す図、
図3(b)は、裏当て金取付け治具1を開先部15に装着した状況を示す図である。
図3(a)に示すように、定盤40を使用する場合は、裏当て金取付け治具1を開先部15の下方の定盤40上に載置して、所定の位置までスライド移動させる。したがって、上部底面28は、取手25を取り外しておく。なお、裏当て金17は、予め開先部15の上方に載置しておいてもよく、裏当て金取付け治具1を開先部15に装着した後に載置してもよい(
図3(b)参照)。なお、裏当て金取付け治具1を2個使用する場合には、フランジプレート12の幅方向の両側から1個ずつ挿入することが望ましい。
【0043】
この際、裏当て金取付け治具1は、ダイアフラムプレート11の接合面13又はフランジプレート12の開先斜面14のどちらかに磁気吸引され吸着する。このような状況においては、裏当て金取付け治具1をスライド移動しやすくするために、治具本体18は、非磁性金属であることが好ましい。また、図示は省略するが、取手25は、裏当て金取付け治具1の作業者側に配置される。すなわち、治具本体18は、治具本体18の端面31,32の両方に取手25を取り付け可能な構成とすることが好ましい。
【0044】
次いで、
図3(b)に示すように、裏当て金取付け治具1を開先部15に磁力によって吸着させる。そして、開先部15を塞ぐ所定位置に裏当て金17を載置させて組立て溶接を行う。図の矢印が組立て溶接位置W0を示している。組立て溶接の後に、裏当て金取付け治具1を開先部15から取外し、裏当て金17の本溶接を行う。
【0045】
図4は、角型鋼管の鉄骨柱10の内側に内ダイアフラムプレート41を溶接接合する例を示す図である。なお、取手25の図示は省略している。
図4は、鉄骨柱10の対向する内側面10a,10bに内ダイアフラムプレート41を溶接接合する状況を表している。しかし、鉄骨柱10は、角型鋼管であるから対向する4面で溶接接合することになる。なお、内ダイアフラムプレート41において、図示上方側を内ダイアフラムプレート41A、下方側を内ダイアフラムプレート41Bと表す。
【0046】
上方側の内ダイアフラムプレート41Aにおいては、上面側に開先部15が設けられていて、その開先部15に裏当て金取付け治具1が装着されている。そして、裏当て金17を下面側から磁気吸着させた後、組立て溶接を行う。下方側の内ダイアフラムプレート41Bにおいては、下面側に開先部15が設けられていて、その開先部15に裏当て金取付け治具1が装着されている。そして、裏当て金17を上面側で磁気吸着させた後、組立て溶接を行う。上方側の内ダイアフラムプレート41Aは、内側面10a,10bに対して垂直となるように支持しながら2か所の開先部15に裏当て金取付け治具1を装着する。裏当て金取付け治具1を所定位置に磁気吸着させておいて内ダイアフラムプレート41Aを裏当て金取付け治具1に装着するようにしてもよい。裏当て金取付け治具1を開先部15に装着してから、内側面10a,10bの罫書線に合わせて位置調整をした後、組立て溶接を行う。その後、裏当て金取付け治具1を開先部15から取外し、裏当て金17の本溶接を行う。
【0047】
下方側の内ダイアフラムプレート41Bにおいても、上方側の内ダイアフラムプレート41Aと同様な手順で組立て溶接を行うことが可能である。この際、裏当て金取付け治具1を基準にして、内ダイアフラムプレート41A,41Bの開先部15に装着する場合には、作業のやりやすさから、治具本体18(
図1参照)を強磁性金属とすることが好ましい。また、内ダイアフラムプレート41A,41B基準で裏当て金取付け治具1を装着する場合には、作業のやりやすさから治具本体18(
図1参照)を非磁性金属とすることが好ましい。いずれにしても、治具本体18を非磁性金属又は強磁性金属にするかは、作業性から選択される。
【0048】
図5は、H形梁20にリブプレート42を溶接接合する状況を示す図である。なお、取手25の図示は省略している。
図5(a)は、側面図、
図5(b)は上フランジプレート12A側から見た平面図である。なお、
図5(b)は、上フランジプレート12Aを透視して表している。リブプレート42は、上フランジプレート12Aと下フランジプレート12Bとの間のウェブプレート19の図示縦方向に溶接接合される。したがって、溶接線(図示は省略)が縦方向になる。裏当て金取付け治具1は、罫書線を目安にウェブプレート19に磁気吸着させる。そして、リブプレート42の開先部15及び裏当て金17を裏当て金取付け治具1で磁気吸着させ、組立て溶接を行う。
図5(b)に示す矢印が組立て溶接位置W0を示している。組立て溶接の後に、開先部15から裏当て金取付け治具1を取り外し、裏当て金17の本溶接を行う。このように、裏当て金取付け治具1の吸着力でウェブプレート19を支持する場面においては、治具本体18は、強磁性金属製とすることが好ましい。
【0049】
大型建築物の場合には、建方現場で溶接接合作業を行う場合がある。そこで、建方現場における接合溶接の例をあげ説明する。なお、
図2~
図5に示す適用例は、主として工場などで溶接接合する場合である。
【0050】
図6は、建方現場における大型の鉄骨柱10とH形梁20との溶接接合を示す図である。なお、取手25の図示は省略している。大型の柱梁溶接の場合、応力集中の緩和及び補強のために、鉄骨柱10とH形梁20のウェブプレート19とが、シャープレート43を使用して高力ボルト44などによって接合固定される。上ダイアフラムプレート11A側においては、上フランジプレート12Aの図示下側に裏当て金17を配置し、図示上側の開先部15に裏当て金取付け治具1を装着する。下ダイアフラムプレート11B側においては、上ダイアフラムプレート11A側と同様に、下フランジプレート12Bの図示下側に裏当て金17を配置し、図示下側の開先部15に裏当て金取付け治具1を装着する。図に示す矢印が組立て溶接位置W0であって、ここでは、裏当て金取付け治具1を装着した状態で、組立て溶接を行い、裏当て金取付け治具1を開先部15A又は開先部15Bから取外して裏当て金17の本溶接を行う。建方現場においては、裏当て金取付け治具1は、開先部15に対して上方から装着する方が作業性がよいため、このような配置が選択される。
【0051】
図7は、建方現場において、H形梁20に複数の梁を溶接接合する例を示す図である。
図7に示す構成は、建築業界において、通称「飛行機梁」といわれるものであり、H形梁20の上フランジプレート12Aの幅方向両側の各々に梁45,46、下フランジプレート12Bの幅方向両側の各々に梁47,48、ウェブプレート19に梁49が溶接接合される例である。上フランジプレート12Aにおいては、図示上方側に開口する開先部15が形成されており、上方側から、開先部15に裏当て金取付け治具1が装着され、下方側に配置される裏当て金17を吸着する。一方、下フランジプレート12Bにおいては、図示下方側に開口する開先部15が形成されており、下方側から、開先部15に裏当て金取付け治具1が装着され、上方側に配置される裏当て金17を吸着する。
【0052】
また、ウェブプレート19においては、梁49の図示下方側に開先部15が形成されており、下方側から、開先部15に裏当て金取付け治具1が装着され、上方側に配置される裏当て金17を吸着する。各位置における裏当て金17の組立て溶接及び本溶接は、
図2~
図5において説明した各手順で行うことができるため説明は省略する。開先部15を上方側に開口させるか、下方側に開口させるかは、上フランジプレート12Aと下フランジプレート12Bとの距離、溶接接合する梁構成によって、建方現場においての作業のしやすさから適宜使い分けている。
【0053】
ところで、
図1に記載の裏当て金取付け治具1は、治具本体18に設けられた孔35に棒磁石26が挿入される構成としている。しかし、治具本体18の頂部底面27の一部において、棒磁石26を露出する構成とすることが可能であり、変形例1として
図8を参照して説明する。
【0054】
図8は、変形例1に係る裏当て金取付け治具1を示す図である。
図8(a)は、孔35の孔中心を通る切断線で切断した断面図、
図8(b)は、
図8(a)のA-A切断線で切断した断面図である。
図8においては、取手25の図示を省略している。治具本体18の頂部底面27には、孔35に連通する開口部38が設けられている。開口部38は、棒磁石26の両端部を支持することが可能な長さと幅を有している。治具本体18は、この開口部38を設けること以外は、
図1で示した構成と同じであるため説明は省略する。開口部38の幅は、3mmとした。
【0055】
開口部38を設けることによって、棒磁石26と裏当て金17との間に空気層が形成される。棒磁石26はネオジム磁石であるから、既述したように、磁力が組立て溶接の際の熱の影響を受けやすい。空気層は、金属に比べて熱伝導率が低いため、開口部38の空気層によって、熱の影響を小さくすることが可能となる。
【0056】
(裏当て金接合方法)
続いて、第1の実施の形態に係る裏当て金接合方法について説明する。
【0057】
図9は、ダイアフラムプレート11とフランジプレート12とを溶接接合する裏当て金接合方法を示す工程フロー図、
図10は、裏当て金接合方法の主たる工程を示す図である。
図9に示すフローに従い、
図10を参照しながら説明する。ここでは、接合対象母材をダイアフラムプレート11及びフランジプレート12とする例で説明する。まず、
図10(a)に示すように、ダイアフラムプレート11とフランジプレート12とで形成される開先部15に裏当て金取付け治具1を図示上方から装着する(ステップS1)。この際、作業者は取手25を掴んで装着作業を行う。フランジプレート12の幅(紙面の奥行方向)が裏当て金取付け治具1の長さよりも大きい場合(例えば、2倍以上)には、裏当て金取付け治具1を2個、3個というように装着する。
【0058】
次に、開先部15の底部(フランジプレート12の裏面12a)に裏当て金17を配置する(ステップS2)。すると、裏当て金取付け治具1の磁気吸引力によって、裏当て金17はフランジプレート12に密着される。そして、10(b)に示すように、裏当て金17をフランジプレート12の裏面12a、及びダイアフラムプレート11の接合面13に沿ってスライド移動させ、位置を調整する(ステップS3)。位置調整の後に、裏当て金17を組立て溶接する(ステップS4)。
図10(b)において、溶接金属をWで表す。次いで、
図10(c)に示すように、開先部15から裏当て金取付け治具1を取り外す(ステップS5)。
【0059】
なお、裏当て金取付け治具1が内挿する棒磁石26は、ネオジム磁石である。ネオジム磁石は75℃~80℃で磁力を失うとされる。したがって、組立て溶接の際には、棒磁石26が、75℃を超えることがない時間内で終了することが求められる。組立て溶接の制限時間は、予備試験などで測定しておく。組立て溶接は、この時間内に完了するよう手順を決めておくことが重要となる。次いで、
図10(c)に示すように、裏当て金17を本溶接する(ステップS6)。裏当て金17の本溶接が終了したところで、
図91-0(d)に示すように、開先部15の多層溶接によって、ダイアフラムプレート11とフランジプレート12との溶接接合が完了する。
図10の各図において溶接金属をWで表している。
【0060】
以上説明した第1の実施の形態に係る裏当て金取付け治具1は、完全溶け込み溶接において用いられる裏当て金17の溶接接合に使用されるものである。既述した適用例を参照しながら説明する(
図1参照)。裏当て金取付け治具1は、溶接対象母材であるダイアフラムプレート11とフランジプレート12との間の開先部15に装着される。裏当て金取付け治具1は、棒磁石26が頂部底面27に近い位置の孔35に内挿されている。裏当て金取付け治具1を開先部15に装着することによって、ダイアフラムプレート11とフランジプレート12とに裏当て金17を磁気吸着することができる。このことによって、作業者は、裏当て金17を手で押さえ続けている必要がなく、組立て溶接することが可能となり、溶接作業に伴い裏当て金17の温度上昇があっても手で裏当て金17を押さえなくてもよく、空いている手で溶接に作業による熱気を遮ることもできる。また、様々な溶接対象母材の形状、組み合わせにおいて、窮屈な姿勢で接合しなければならない位置でも、接合対象母材に裏当て金17を磁気吸着しておけるために、溶接作業の負担を減らすことが可能となる。
【0061】
また、治具本体18の頂部底面27の幅L2は、開先部15のルート間隔L1よりも大きくしている。そのため、裏当て金取付け治具1の頂部底面27が開先部15から裏当て金17側に突出することがなく、接合対象母材に裏当て金17を磁気吸着力で密着させることができ、位置ずれを抑えることが可能であるから、特に重要な初層の溶接欠陥を防止することができる。このように、裏当て金17の溶接接合において、裏当て金取付け治具1を使用することによって、作業者の負担を軽減し、高い溶接品質を得ることが可能となる。
【0062】
また、裏当て金取付け治具1において、治具本体18は、アルミニウムやSUS300系などの非磁性金属である。治具本体18を非磁性金属にすると、棒磁石26の周囲は磁気吸着力(磁気吸引力も含む)が強く、棒磁石26から離れるに従い吸着力が弱くなる。そのため、裏当て金取付け治具1は、頂部底面27で裏当て金17を強力に吸着でき、開先部15には容易に装着することができ、裏当て金取付け治具1を開先部15に沿って移動させることも治具本体18を強磁性金属にする場合よりも容易となる。
【0063】
裏当て金取付け治具1において、治具本体18は、SUS400系などの非磁性金属である。治具本体18を強磁性金属にすると、棒磁石26を内挿したとき、あたかも治具本体18が磁石の性質を有するため、治具本体18の全体で強い吸着力を有することになる。そのことによって、開先部15が接合対象母材の下方向側や縦方向に形成されている場などに、裏当て金取付け治具1自身を含め、裏当て金17の姿勢及び位置を安定維持することが可能となる。
【0064】
なお、裏当て金取付け治具1において、棒磁石26は、機械的強度に優れ、磁束密度が高いネオジム磁石が最適である。ネオジム磁石にすることによって、重量が大きい裏当て金17であっても、裏当て金17の取り付け位置が、接合対象母材の上方、下方又は縦方向であっても十分な吸着力で吸着することが可能となる。
【0065】
また、治具本体18の孔35の一方の端部(端面32)には、強磁性金属で形成される磁石固定部材としての磁石固定ピン36が挿着される。磁石固定ピン36は、孔35内で棒磁石26を磁気吸着する。棒磁石26は、孔35に対して游挿されているが、磁気吸着力によって、棒磁石26を孔35に容易に挿入できるようにしている。また、棒磁石26は、磁石固定ピン36によって磁気吸着されているために、作業時に棒磁石26が孔35内で移動することを防ぐことができる。なお、棒磁石26は、治具本体18の端面31に軽い衝撃を加えることで、抜き出すことが可能である。磁石固定部材として強磁性金属のイモネジ(図示は省略)を使用すれば、イモネジを緩めて抜き出せば、棒磁石26を磁気吸着した状態で孔35から抜き出すことができる。
【0066】
また、治具本体18の孔35の一方の端部(端面31)には、蓋部材37が挿着される。棒磁石26は、孔35内で磁石固定ピン36に磁気吸着されていることから、通常の作業で抜け出すことはない。しかし、蓋部材37で孔35を塞ぐことによって、孔35内に鉄粉や砂鉄などが入り込むことによって、棒磁石26を孔35に挿入したり、孔35から抜き出たりすることが容易に行うことが可能となる。蓋部材37の材質は特に限定されないが、非磁性の樹脂製とすることによって、治具本体18の孔35以外の場所に吸着されることがないため、孔35への着脱作業を容易に行うことができる。
【0067】
(第2の実施の形態)
続いて、第2の実施の形態に係る裏当て金取付け治具2及び裏当て金接合方法について説明する。既述した第1の実施の形態に係る裏当て金取付け治具1は、裏当て金取付け治具1の磁気吸着力だけで裏当て金17を接合対象母材に密着させている。しかし、裏当て金17が長尺ものになると、反りが発生していることがある。裏当て金17に反りがあると、磁気吸着力だけでは反りを矯正することは困難となる。また、反りによって、接合対象母材と裏当て金17との間に隙間ができると、溶接欠陥が発生することがある。さらに、磁気吸着力による裏当て金17の保持が不十分となり、高所での溶接作業時において、裏当て金17の位置ずれや落下することが考えられる。そこで、第2の実施の形態においては、裏当て金取付け治具2は、裏当て金17の反りを矯正しながら、かつ、裏当て金17の落下を防止するためのバイスグリッププライヤー55などを装着することが可能な構成とするものである。
【0068】
図11は、裏当て金取付け治具2の1例を示す斜視図である。裏当て金取付け治具2においては、治具本体24が、
図1に示す治具本体18に対して一部の構成が異なるが、取手25、棒磁石26、磁石固定ピン36及び蓋部材37の構成は、裏当て金取付け治具1と共通に説明できるので、
図1と同じ符号を付し、説明を省略する。治具本体24には、端面31が開口し、端面32側の途中まで延在される略T字形の溝33が形成されている。溝33は、頂部底面27に平行な横溝33aと、横溝33aから頂部底面27に対向する上部底面28に貫通する縦溝33bとから構成され、一方の端面から前記治具本体の長さ方向に延在されている。
図11に示す例においては、溝33は、治具本体24の端面32に達する手前の位置まで形成されている。しかし、溝33は、端面31から端面32に貫通するように形成してもよい。
【0069】
横溝33aは、バイスグリッププライヤー55(
図12参照)の自在金具56a(皿ということがある)を挿入するためのものであり、縦溝33bは、上顎部57を挿入するためのものである。なお、バイスグリッププライヤー55は、溝33内をスライド移動させることが可能になっている。バイスグリッププライヤー55の構成は、
図12を参照して説明する。
【0070】
図12は、バイスグリッププライヤー55を使用している状況の例を示す図である。
図12(a)は、バイスグリッププライヤー55で裏当て金取付け治具2と裏当て金17とを挟み込んだ状況を示す断面図、
図12(b)は、
図12(a)のA-A切断線で切断した断面図である。なお、バイスグリッププライヤー55は、グリッププライヤーとも呼ばれる一種のクランプであり、周知のものを使用できるので詳しい説明は省略する。裏当て金取付け治具2と裏当て金17とを挟み込んで固定できるものであれば、バイスグリッププライヤー55以外の工具を使用することができる。裏当て金17の反りを矯正する際、バイスグリッププリヤ―55の上顎部57を治具本体24の縦溝33bに、上顎部57の自在金具56aを横溝33aにそれぞれ挿入し、下顎部58の自在金具56bを裏当て金17の下面17bに当接させる。そして、本体部59とハンドル部60からなるグリップ61を握ることによって、裏当て金17と治具本体24とを強く挟み込んで反り矯正を行う。この状態は、解放レバー(図示は省略)を操作しない限り継続する。さらに、解放レバーを元の位置に戻せば、裏当て金17と治具本体24とを解放することができる。なお、バイスグリッププライヤー55は、溝33に沿って裏当て金17の反り発生箇所まで自在に移動させることが可能であり、任意の位置で反り矯正を行うことができる。
【0071】
ところで、取手25は、治具本体24の長さ方向の中間位置に配置されている。しかし、上顎部57が、取手取り付け位置を超えて移動させることがある。その際、一旦、取手25を治具本体24から取外し、裏当て金17の組立て溶接が終了した後、バイスグリッププリヤ―55を取り外し、再度、取手25を治具本体24に取り付ける。なお、図示は省略するが、横溝33aを取手25のネジ部25bが通過できる幅とし、横溝33aに挿入可能なナットで取手25を固定するようにすれば、取手25を溝33に沿って自在に移動させることができ、作業上の適当な位置に移動させることも可能となる。
【0072】
(裏当て金接合方法)
続いて、第2の実施の形態に係る裏当て金接合方法について説明する。第2の実施の形態においては、バイスグリッププリヤ―55を使用する点が第1の実施の形態と異なる。
【0073】
図13は、第2の実施の形態に係る裏当て金接合方法の主たる工程フロー図である。第1の実施の形態で説明した接合対象母材の場合を例に上げ説明する。
図10及び
図12を参照しながら、
図13に示す工程フローに沿って説明する。
図10を参照する場合には、裏当て金取付け治具1を裏当て金取付け治具2、治具本体18を治具本体24に置き換えて説明する。
【0074】
まず、
図10(a)に示すように、ダイアフラムプレート11とフランジプレート12とで形成される開先部15に裏当て金取付け治具1を図示上方から装着する(ステップS1)。次に、
図10(b)に示すように、開先部15の底部に裏当て金17を配置する(ステップS2)。次いで、裏当て金17をフランジプレート12の裏面12a、及びダイアフラムプレート11の接合面13に沿ってスライド移動させ、位置を調整する(ステップS3)。以上、ステップS1、ステップS2、ステップS3は、既述した第1の実施の形態で説明できるので詳しい説明は省略する。
【0075】
次いで、
図12に示すように、バイスグリッププライヤー55の自在金具56a及び上顎部57を治具本体24の溝33に挿入し、裏当て金17の反り発生個所まで移動してグリップ61を握り、裏当て金17の反り矯正を行う(ステップS4)。この際、取手25が、バイスグリッププライヤー55の移動の妨げになるときには、一旦、治具本体24から取手25を取り外しておく。なお、反り矯正の際に、裏当て金17の位置ずれがある場合には、フランジプレート12に沿って裏当て金17をハンマーなどで軽く叩いて位置を調整する。そして、裏当て金17を組立て溶接する(ステップS5)。
【0076】
組立て溶接の後、
図10(c)に示すように、バイスグリッププライヤー55及び裏当て金取付け治具2を素早く取り外し(ステップS6)、裏当て金17を本溶接する(ステップS7)。裏当て金17の本溶接が終了したところで、
図10(d)に示すように、開先部15の多層溶接によって、ダイアフラムプレート11とフランジプレート12との溶接接合が完了する。
【0077】
以上説明した裏当て金取付け治具2においては、治具本体24は、治具本体24の端面31に、バイスグリッププライヤー55の一対の顎部の内の一方の上顎部57及び上顎部57の先端に連結される自在金具56aを挿入し、スライド移動させることが可能な略T字形状の溝33が形成されている。この上顎部57及び自在金具56aを治具本体24の溝33に挿入し、下顎部58の自在金具56bを裏当て金17の下面17bに当接させる。そして、バイスグリッププライヤー55のグリップ61を握ることによって、上顎部57の自在金具56aと下顎部58の自在金具56bとの間で、治具本体24を介して裏当て金17をフランジプレート12(
図12参照)に密着させることによって、裏当て金17の反り矯正をすることが可能となり、接合対象母材と裏当て金17との間に隙間をなくすことによって、溶接欠陥の発生を防止することが可能となる。
【0078】
既述した特許文献2に記載の「裏当て金取付け工具」を使用する裏当て金17の固定方法によれば、裏当て金17をしっかりフランジプレート12に固定することが可能となる。しかし、「裏当て金取付け工具」の皿部(自在金具56aに相当する)が開先部15の開先斜面14(
図1参照)からに外れる虞がある。このことに対して、本発明の裏当て金取付け治具2は、治具本体24の溝33を介してバイスグリッププライヤー55によって裏当て金17を固定している。溝33はフラットに自在金具36aで押さえているため、固定作業及び溶接作業中に外れてしまうことはない。
【0079】
また、バイスグリッププライヤー55で裏当て金17をフランジプレート12に強く固定することによって、高所での溶接作業時において、裏当て金17の位置ずれや落下を防止することが可能となる。以上説明したように、第2の実施の形態に係る裏板金取付け治具及び裏板金接合法においても、作業者の負担を軽減し、高い溶接品質を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0080】
1,2…裏当て金取付け治具、10…鉄骨柱、11…ダイアフラムプレート(接合対象母材)、12…フランジプレート(接合対象母材)、15,15A,15B…開先部、16…ルートギャップ、17…裏当て金、18,24…治具本体、19…ウェブプレート、20…H形梁、25…取手、26…棒磁石、27…頂部底面、28…上部底面、31,32…端面、33…溝、35…孔、36…磁石固定ピン(磁石固定部材)、37…蓋部材、45~49…梁、55…バイスグリッププライヤー、56a,56b…自在金具、57…上顎部、58…下顎部、61…グリップ、L1…ルート間隔、θ1…開先角度、θ2…頂角